【文献】
J. Immunol.,1999年,Vol.163,pp.1246-1252
【文献】
Nat. Biotechnol.,1998年,Vol.16, No.7,pp.677-681
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及び/又はFcγIIIBのいずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域である請求項1に記載のポリペプチド会合体。
Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される349位のアミノ酸がシステイン、366位のアミノ酸がトリプトファンに、他方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される356位のアミノ酸がシステイン、366位のアミノ酸がセリンに、368位のアミノ酸がアラニンに、407位のアミノ酸がバリンに変異していることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載のポリペプチド会合体。
Fc領域を構成する二つのポリペプチドの一方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される356位のアミノ酸がリジンに、他方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される439位のアミノ酸がグルタミン酸に変異し、いずれか一方のポリペプチドのアミノ酸残基のうちEUナンバリングに従って特定される435位のアミノ酸がアルギニンに変異していることを特徴とする、請求項1から9のいずれかに記載のポリペプチド会合体。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下の定義は、本明細書において説明する本発明の理解を容易にするために提供される。
【0017】
抗体
本明細書において、抗体とは、天然のものであるかまたは部分的もしくは完全合成により製造された免疫グロブリンをいう。抗体はそれが天然に存在する血漿や血清等の天然資源や抗体を産生するハイブリドーマ細胞の培養上清から単離され得るし、または遺伝子組換え等の手法を用いることによって部分的にもしくは完全に合成され得る。抗体の例としては免疫グロブリンのアイソタイプおよびそれらのアイソタイプのサブクラスが好適に挙げられる。ヒトの免疫グロブリンとして、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgD、IgE、IgMの9種類のクラス(アイソタイプ)が知られている。本発明の抗体には、これらのアイソタイプのうちIgG1、IgG2、IgG3、IgG4が含まれ得る。
【0018】
所望の結合活性を有する抗体を作製する方法は当業者において公知である。以下に、GPIアンカー型受容体ファミリーに属する、GPC3(Int J Cancer. (2003) 103 (4), 455-65)に結合する抗体(抗GPC3抗体)を作製する方法が例示される。GPC3以外の抗原に結合する抗体も下記の例示に準じて適宜作製され得る。
【0019】
抗GPC3抗体は、公知の手段を用いてポリクローナルまたはモノクローナル抗体として取得され得る。抗GPC3抗体としては、哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好適に作製され得る。哺乳動物由来のモノクローナル抗体には、ハイブリドーマにより産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主細胞によって産生されるもの等が含まれる。
【0020】
モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、公知技術を使用することによって、例えば以下のように作製され得る。すなわち、GPC3タンパク質を感作抗原として使用して、通常の免疫方法にしたがって哺乳動物が免疫される。得られる免疫細胞が通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合される。次に、通常のスクリーニング法によって、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって抗GPC3抗体を産生するハイブリドーマが選択され得る。
【0021】
具体的には、モノクローナル抗体の作製は例えば以下に示すように行われる。まず、RefSeq登録番号NM_001164617.1(配列番号:1)にそのヌクレオチド配列が開示されたGPC3遺伝子を発現することによって、抗体取得の感作抗原として使用されるRefSeq登録番号NP_001158089.1(配列番号:2)で表されるGPC3タンパク質が取得され得る。すなわち、GPC3をコードする遺伝子配列を公知の発現ベクターに挿入することによって適当な宿主細胞が形質転換される。当該宿主細胞中または培養上清中から所望のヒトGPC3タンパク質が公知の方法で精製される。培養上清中から可溶型のGPC3を取得するためには、例えば、配列番号:2で表されるGPC3ポリペプチド配列のうち、GPC3が細胞膜上に係留されるために用いられるGPIアンカー配列に相当する疎水性領域を構成する564-580アミノ酸を欠失したタンパク質が配列番号:2で表されるGPC3タンパク質の代わりに発現される。また、精製した天然のGPC3タンパク質もまた同様に感作抗原として使用され得る。
【0022】
哺乳動物に対する免疫に使用する感作抗原として当該精製GPC3タンパク質が使用できる。GPC3の部分ペプチドもまた感作抗原として使用できる。この際、該部分ペプチドはヒトGPC3のアミノ酸配列より化学合成によっても取得され得る。また、GPC3遺伝子の一部を発現ベクターに組込んで発現させることによっても取得され得る。さらにはタンパク質分解酵素を用いてGPC3タンパク質を分解することによっても取得され得るが、部分ペプチドとして用いるGPC3ペプチドの領域および大きさは特に特別の態様に限定されない。好ましい領域は配列番号:2のアミノ酸配列において564-580アミノ酸に相当するアミノ酸配列から任意の配列が選択され得る。感作抗原とするペプチドを構成するアミノ酸の数は少なくとも5以上、例えば6以上、或いは7以上であることが好ましい。より具体的には8〜50、好ましくは10〜30残基のペプチドが感作抗原として使用され得る。
【0023】
また、GPC3タンパク質の所望の部分ポリペプチドやペプチドを異なるポリペプチドと融合した融合タンパク質が感作抗原として利用され得る。感作抗原として使用される融合タンパク質を製造するために、例えば、抗体のFc断片やペプチドタグなどが好適に利用され得る。融合タンパク質を発現するベクターは、所望の二種類又はそれ以上のポリペプチド断片をコードする遺伝子がインフレームで融合され、当該融合遺伝子が前記のように発現ベクターに挿入されることにより作製され得る。融合タンパク質の作製方法はMolecular Cloning 2nd ed. (Sambrook,J et al., Molecular Cloning 2nd ed., 9.47-9.58(1989)Cold Spring Harbor Lab. press)に記載されている。感作抗原として用いられるGPC3の取得方法及びそれを用いた免疫方法は、WO2003/000883、WO2004/022754、WO2006/006693等にも具体的に記載されている。
【0024】
該感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特定の動物に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましい。一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター、あるいはウサギ、サル等が好適に使用される。
【0025】
公知の方法にしたがって上記の動物が感作抗原により免疫される。例えば、一般的な方法として、感作抗原が哺乳動物の腹腔内または皮下に注射によって投与されることにより免疫が実施される。具体的には、PBS(Phosphate-Buffered Saline)や生理食塩水等で適当な希釈倍率で希釈された感作抗原が、所望により通常のアジュバント、例えばフロイント完全アジュバントと混合され、乳化された後に、該感作抗原が哺乳動物に4から21日毎に数回投与される。また、感作抗原の免疫時には適当な担体が使用され得る。特に分子量の小さい部分ペプチドが感作抗原として用いられる場合には、アルブミン、キーホールリンペットヘモシアニン等の担体タンパク質と結合した該感作抗原ペプチドを免疫することが望ましい場合もある。
【0026】
また、所望の抗体を産生するハイブリドーマは、DNA免疫を使用し、以下のようにしても作製され得る。DNA免疫とは、免疫動物中で抗原タンパク質をコードする遺伝子が発現され得るような態様で構築されたベクターDNAが投与された当該免疫動物中で、感作抗原が当該免疫動物の生体内で発現されることによって、免疫刺激が与えられる免疫方法である。蛋白質抗原が免疫動物に投与される一般的な免疫方法と比べて、DNA免疫には、次のような優位性が期待される。
−GPC3のような膜蛋白質の構造を維持して免疫刺激が与えられ得る
−免疫抗原を精製する必要が無い
【0027】
DNA免疫によって本発明のモノクローナル抗体を得るために、まず、GPC3タンパク質を発現するDNAが免疫動物に投与される。GPC3をコードするDNAは、PCRなどの公知の方法によって合成され得る。得られたDNAが適当な発現ベクターに挿入され、免疫動物に投与される。発現ベクターとしては、たとえばpcDNA3.1などの市販の発現ベクターが好適に利用され得る。ベクターを生体に投与する方法として、一般的に用いられている方法が利用され得る。たとえば、発現ベクターが吸着した金粒子が、gene gunで免疫動物個体の細胞内に導入されることによってDNA免疫が行われる。さらに、GPC3を認識する抗体の作製は国際公開WO2003/104453に記載された方法を用いても作製され得る。
【0028】
このように哺乳動物が免疫され、血清中におけるGPC3に結合する抗体力価の上昇が確認された後に、哺乳動物から免疫細胞が採取され、細胞融合に供される。好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が使用され得る。
【0029】
前記免疫細胞と融合される細胞として、哺乳動物のミエローマ細胞が用いられる。ミエローマ細胞は、スクリーニングのための適当な選択マーカーを備えていることが好ましい。選択マーカーとは、特定の培養条件の下で生存できる(あるいはできない)形質を指す。選択マーカーには、ヒポキサンチン−グアニン−ホスホリボシルトランスフェラーゼ欠損(以下HGPRT欠損と省略する)、あるいはチミジンキナーゼ欠損(以下TK欠損と省略する)などが公知である。HGPRTやTKの欠損を有する細胞は、ヒポキサンチン−アミノプテリン−チミジン感受性(以下HAT感受性と省略する)を有する。HAT感受性の細胞はHAT選択培地中でDNA合成を行うことができず死滅するが、正常な細胞と融合すると正常細胞のサルベージ回路を利用してDNAの合成を継続することができるためHAT選択培地中でも増殖するようになる。
【0030】
HGPRT欠損やTK欠損の細胞は、それぞれ6チオグアニン、8アザグアニン(以下8AGと省略する)、あるいは5'ブロモデオキシウリジンを含む培地で選択され得る。これらのピリミジンアナログをDNA中に取り込む正常な細胞は死滅する。他方、これらのピリミジンアナログを取り込めないこれらの酵素を欠損した細胞は、選択培地の中で生存することができる。この他G418耐性と呼ばれる選択マーカーは、ネオマイシン耐性遺伝子によって2-デオキシストレプタミン系抗生物質(ゲンタマイシン類似体)に対する耐性を与える。細胞融合に好適な種々のミエローマ細胞が公知である。
【0031】
このようなミエローマ細胞として、例えば、P3(P3x63Ag8.653)(J. Immunol.(1979)123 (4), 1548-1550)、P3x63Ag8U.1(Current Topics in Microbiology and Immunology(1978)81, 1-7)、NS-1(C. Eur. J. Immunol.(1976)6 (7), 511-519)、MPC-11(Cell(1976)8 (3), 405-415)、SP2/0(Nature(1978)276 (5685), 269-270)、FO(J. Immunol. Methods(1980)35 (1-2), 1-21)、S194/5.XX0.BU.1(J. Exp. Med.(1978)148 (1), 313-323)、R210(Nature(1979)277 (5692), 131-133)等が好適に使用され得る。
【0032】
基本的には公知の方法、たとえば、ケーラーとミルステインらの方法(Methods Enzymol.(1981)73, 3-46)等に準じて、前記免疫細胞とミエローマ細胞との細胞融合が行われる。
より具体的には、例えば細胞融合促進剤の存在下で通常の栄養培養液中で、前記細胞融合が実施され得る。融合促進剤としては、例えばポリエチレングリコール(PEG)、センダイウイルス(HVJ)等が使用され、更に融合効率を高めるために所望によりジメチルスルホキシド等の補助剤が添加されて使用される。
【0033】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は任意に設定され得る。例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1から10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用され、さらに、牛胎児血清(FCS)等の血清補液が好適に添加され得る。
【0034】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め37℃程度に加温されたPEG溶液(例えば平均分子量1000から6000程度)が通常30から60%(w/v)の濃度で添加される。混合液が緩やかに混合されることによって所望の融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。次いで、上記に挙げた適当な培養液が逐次添加され、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等が除去され得る。
【0035】
このようにして得られたハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えばHAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間(通常、係る十分な時間は数日から数週間である)上記HAT培養液を用いた培養が継続され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施される。
【0036】
このようにして得られたハイブリドーマは、細胞融合に用いられたミエローマが有する選択マーカーに応じた選択培養液を利用することによって選択され得る。例えばHGPRTやTKの欠損を有する細胞は、HAT培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択され得る。すなわち、HAT感受性のミエローマ細胞を細胞融合に用いた場合、HAT培養液中で、正常細胞との細胞融合に成功した細胞が選択的に増殖し得る。所望のハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、上記HAT培養液を用いた培養が継続される。具体的には、一般に、数日から数週間の培養によって、所望のハイブリドーマが選択され得る。次いで、通常の限界希釈法によって、所望の抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよび単一クローニングが実施され得る。
【0037】
所望の抗体のスクリーニングおよび単一クローニングが、公知の抗原抗体反応に基づくスクリーニング方法によって好適に実施され得る。例えば、GPC3に結合するモノクローナル抗体は、細胞表面に発現したGPC3に結合することができる。このようなモノクローナル抗体は、たとえば、FACS(fluorescence activated cell sorting)によってスクリーニングされ得る。FACSは、蛍光抗体と接触させた細胞をレーザー光で解析し、個々の細胞が発する蛍光を測定することによって細胞表面への抗体の結合を測定することを可能にするシステムである。
【0038】
FACSによって本発明のモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングするためには、まずGPC3を発現する細胞を調製する。スクリーニングのための好ましい細胞は、GPC3を強制発現させた哺乳動物細胞である。宿主細胞として使用した形質転換されていない哺乳動物細胞を対照として用いることによって、細胞表面のGPC3に対する抗体の結合活性が選択的に検出され得る。すなわち、宿主細胞に結合せず、GPC3強制発現細胞に結合する抗体を産生するハイブリドーマを選択することによって、GPC3モノクローナル抗体を産生するハイブリドーマが取得され得る。
【0039】
あるいは固定化したGPC3発現細胞に対する抗体の結合活性がELISAの原理に基づいて評価され得る。たとえば、ELISAプレートのウェルにGPC3発現細胞が固定化される。ハイブリドーマの培養上清をウェル内の固定化細胞に接触させ、固定化細胞に結合する抗体が検出される。モノクローナル抗体がマウス由来の場合、細胞に結合した抗体は、抗マウスイムノグロブリン抗体によって検出され得る。これらのスクリーニングによって選択された、抗原に対する結合能を有する所望の抗体を産生するハイブリドーマは、限界希釈法等によりクローニングされ得る。
【0040】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは通常の培養液中で継代培養され得る。また、該ハイブリドーマは液体窒素中で長期にわたって保存され得る。
【0041】
当該ハイブリドーマを通常の方法に従い培養し、その培養上清から所望のモノクローナル抗体が取得され得る。あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖せしめ、その腹水からモノクローナル抗体が取得され得る。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに好適なものである。
【0042】
当該ハイブリドーマ等の抗体産生細胞からクローニングされる抗体遺伝子によってコードされる抗体も好適に利用され得る。クローニングした抗体遺伝子を適当なベクターに組み込んで宿主に導入することによって、当該遺伝子によってコードされる抗体が発現する。抗体遺伝子の単離と、ベクターへの導入、そして宿主細胞の形質転換のための方法は例えば、Vandammeらによって既に確立されている(Eur.J. Biochem.(1990)192 (3), 767-775)。下記に述べるように組換え抗体の製造方法もまた公知である。
【0043】
たとえば、抗GPC3抗体を産生するハイブリドーマ細胞から、抗GPC3抗体の可変領域(V領域)をコードするcDNAが取得される。そのために、通常、まずハイブリドーマから全RNAが抽出される。細胞からmRNAを抽出するための方法として、たとえば次のような方法を利用することができる。
−グアニジン超遠心法(Biochemistry (1979) 18 (24), 5294-5299)
−AGPC法(Anal. Biochem. (1987) 162 (1), 156-159)
【0044】
抽出されたmRNAは、mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)等を使用して精製され得る。あるいは、QuickPrep mRNA Purification Kit (GEヘルスケアバイオサイエンス製)などのように、細胞から直接全mRNAを抽出するためのキットも市販されている。このようなキットを用いて、ハイブリドーマからmRNAが取得され得る。得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V領域をコードするcDNAが合成され得る。cDNAは、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit(生化学工業社製)等によって合成され得る。また、cDNAの合成および増幅のために、SMART RACE cDNA 増幅キット(Clontech製)およびPCRを用いた5’-RACE法(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85 (23), 8998-9002、Nucleic Acids Res. (1989) 17 (8), 2919-2932)が適宜利用され得る。更にこうしたcDNAの合成の過程においてcDNAの両末端に後述する適切な制限酵素サイトが導入され得る。
【0045】
得られたPCR産物から目的とするcDNA断片が精製され、次いでベクターDNAと連結される。このように組換えベクターが作製され、大腸菌等に導入されコロニーが選択された後に、該コロニーを形成した大腸菌から所望の組換えベクターが調製され得る。そして、該組換えベクターが目的とするcDNAの塩基配列を有しているか否かについて、公知の方法、例えば、ジデオキシヌクレオチドチェインターミネーション法等により確認される。
【0046】
可変領域をコードする遺伝子を取得するためには、可変領域遺伝子増幅用のプライマーを使った5’-RACE法を利用するのが簡便である。まずハイブリドーマ細胞より抽出されたRNAを鋳型としてcDNAが合成され、5’-RACE cDNAライブラリーが得られる。5’-RACE cDNAライブラリーの合成にはSMART RACE cDNA 増幅キットなど市販のキットが適宜用いられる。
【0047】
得られた5’-RACE cDNAライブラリーを鋳型として、PCR法によって抗体遺伝子が増幅される。公知の抗体遺伝子配列をもとにマウス抗体遺伝子増幅用のプライマーがデザインされ得る。これらのプライマーは、イムノグロブリンのサブクラスごとに異なる塩基配列である。したがって、サブクラスは予めIso Stripマウスモノクローナル抗体アイソタイピングキット(ロシュ・ダイアグノスティックス)などの市販キットを用いて決定しておくことが望ましい。
【0048】
具体的には、たとえばマウスIgGをコードする遺伝子の取得を目的とするときには、重鎖としてγ1、γ2a、γ2b、γ3、軽鎖としてκ鎖とλ鎖をコードする遺伝子の増幅が可能なプライマーが利用され得る。IgGの可変領域遺伝子を増幅するためには、一般に3'側のプライマーには可変領域に近い定常領域に相当する部分にアニールするプライマーが利用される。一方5'側のプライマーには、5’ RACE cDNAライブラリー作製キットに付属するプライマーが利用される。
【0049】
こうして増幅されたPCR産物を利用して、重鎖と軽鎖の組み合せからなるイムノグロブリンが再構成され得る。再構成されたイムノグロブリンの、GPC3に対する結合活性を指標として、所望の抗体がスクリーニングされ得る。たとえばGPC3に対する抗体の取得を目的とするとき、抗体のGPC3への結合は、特異的であることがさらに好ましい。GPC3に結合する抗体は、たとえば次のようにしてスクリーニングされ得る;
(1)ハイブリドーマから得られたcDNAによってコードされるV領域を含む抗体をGPC3発現細胞に接触させる工程、
(2)GPC3発現細胞と抗体との結合を検出する工程、および
(3)GPC3発現細胞に結合する抗体を選択する工程。
【0050】
抗体とGPC3発現細胞との結合を検出する方法は公知である。具体的には、先に述べたFACSなどの手法によって、抗体とGPC3発現細胞との結合が検出され得る。抗体の結合活性を評価するためにGPC3発現細胞の固定標本が適宜利用され得る。
【0051】
結合活性を指標とする抗体のスクリーニング方法として、ファージベクターを利用したパニング法も好適に用いられる。ポリクローナルな抗体発現細胞群より抗体遺伝子を重鎖と軽鎖のサブクラスのライブラリーとして取得した場合には、ファージベクターを利用したスクリーニング方法が有利である。重鎖と軽鎖の可変領域をコードする遺伝子は、適当なリンカー配列で連結することによってシングルチェインFv(scFv)を形成することができる。scFvをコードする遺伝子をファージベクターに挿入することにより、scFvを表面に発現するファージが取得され得る。このファージと所望の抗原との接触の後に、抗原に結合したファージを回収することによって、目的の結合活性を有するscFvをコードするDNAが回収され得る。この操作を必要に応じて繰り返すことにより、所望の結合活性を有するscFvが濃縮され得る。
【0052】
目的とする抗GPC3抗体のV領域をコードするcDNAが得られた後に、当該cDNAの両末端に挿入した制限酵素サイトを認識する制限酵素によって該cDNAが消化される。好ましい制限酵素は、抗体遺伝子を構成する塩基配列に出現する頻度が低い塩基配列を認識して消化する。更に1コピーの消化断片をベクターに正しい方向で挿入するためには、付着末端を与える制限酵素の挿入が好ましい。上記のように消化された抗GPC3抗体のV領域をコードするcDNAを適当な発現ベクターに挿入することによって、抗体発現ベクターが取得され得る。このとき、抗体定常領域(C領域)をコードする遺伝子と、前記V領域をコードする遺伝子とがインフレームで融合されれば、キメラ抗体が取得される。ここで、キメラ抗体とは、定常領域と可変領域の由来が異なることをいう。したがって、マウス−ヒトなどの異種キメラ抗体に加え、ヒト−ヒト同種キメラ抗体も、本発明におけるキメラ抗体に含まれる。予め定常領域を有する発現ベクターに、前記V領域遺伝子を挿入することによって、キメラ抗体発現ベクターが構築され得る。具体的には、たとえば、所望の抗体定常領域(C領域)をコードするDNAを保持した発現ベクターの5’側に、前記V領域遺伝子を消化する制限酵素の制限酵素認識配列が適宜配置され得る。同じ組み合わせの制限酵素で消化された両者がインフレームで融合されることによって、キメラ抗体発現ベクターが構築される。
【0053】
抗GPC3モノクローナル抗体を製造するために、抗体遺伝子が発現制御領域による制御の下で発現するように発現ベクターに組み込まれる。抗体を発現するための発現制御領域とは、例えば、エンハンサーやプロモーターを含む。また、発現した抗体が細胞外に分泌されるように、適切なシグナル配列がアミノ末端に付加され得る。後に記載される実施例ではシグナル配列として、アミノ酸配列MGWSCIILFLVATATGVHS(配列番号:72)を有するペプチドが使用されているが、これ以外にも適したシグナル配列が付加される。発現されたポリペプチドは上記配列のカルボキシル末端部分で切断され、切断されたポリペプチドが成熟ポリペプチドとして細胞外に分泌され得る。次いで、この発現ベクターによって適当な宿主細胞が形質転換されることによって、抗GPC3抗体をコードするDNAを発現する組換え細胞が取得され得る。
【0054】
抗体遺伝子の発現のために、抗体重鎖(H鎖)および軽鎖(L鎖)をコードするDNAは、それぞれ別の発現ベクターに組み込まれる。H鎖とL鎖が組み込まれたベクターによって、同じ宿主細胞に同時に形質転換(co-transfect)されることによって、H鎖とL鎖を備えた抗体分子が発現され得る。あるいはH鎖およびL鎖をコードするDNAが単一の発現ベクターに組み込まれることによって宿主細胞が形質転換され得る(国際公開WO 94/11523を参照のこと)。
【0055】
単離された抗体遺伝子を適当な宿主に導入することによって抗体を作製するための宿主細胞と発現ベクターの多くの組み合わせが公知である。これらの発現系は、いずれも本発明の抗原結合ドメインやCD3結合ドメインを単離するのに応用され得る。真核細胞が宿主細胞として使用される場合、動物細胞、植物細胞、あるいは真菌細胞が適宜使用され得る。具体的には、動物細胞としては、次のような細胞が例示され得る。
(1)哺乳類細胞、:CHO、COS、ミエローマ、BHK(baby hamster kidney)、Hela、Veroなど
(2)両生類細胞:アフリカツメガエル卵母細胞など
(3)昆虫細胞:sf9、sf21、Tn5など
【0056】
あるいは植物細胞としては、ニコティアナ・タバカム(Nicotiana tabacum)などのニコティアナ(Nicotiana)属由来の細胞による抗体遺伝子の発現系が公知である。植物細胞の形質転換には、カルス培養した細胞が適宜利用され得る。
【0057】
更に真菌細胞としては、次のような細胞を利用することができる。
−酵母:サッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces serevisiae)などのサッカロミセス(Saccharomyces)属、メタノール資化酵母(Pichia pastoris)などのPichia属
−糸状菌:アスペスギルス・ニガー(Aspergillus niger)などのアスペルギルス(Aspergillus)属
【0058】
また、原核細胞を利用した抗体遺伝子の発現系も公知である。たとえば、細菌細胞を用いる場合、大腸菌(E. coli)、枯草菌などの細菌細胞が適宜利用され得る。これらの細胞中に、目的とする抗体遺伝子を含む発現ベクターが形質転換によって導入される。形質転換された細胞をin vitroで培養することにより、当該形質転換細胞の培養物から所望の抗体が取得され得る。
【0059】
組換え抗体の産生には、上記宿主細胞に加えて、トランスジェニック動物も利用され得る。すなわち所望の抗体をコードする遺伝子が導入された動物から、当該抗体を得ることができる。例えば、抗体遺伝子は、乳汁中に固有に産生されるタンパク質をコードする遺伝子の内部にインフレームで挿入することによって融合遺伝子として構築され得る。乳汁中に分泌されるタンパク質として、たとえば、ヤギβカゼインなどを利用され得る。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA断片はヤギの胚へ注入され、当該注入された胚が雌のヤギへ導入される。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ(またはその子孫)が産生する乳汁からは、所望の抗体が乳汁タンパク質との融合タンパク質として取得され得る。また、トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、ホルモンがトランスジェニックヤギに対して投与され得る(Bio/Technology (1994), 12 (7), 699-702)。
【0060】
本明細書において記載されるポリペプチド会合体がヒトに投与される場合、当該会合体における抗原結合ドメインとして、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体由来の抗原結合ドメインが適宜採用され得る。遺伝子組換え型抗体には、例えば、ヒト化(Humanized)抗体等が含まれる。これらの改変抗体は、公知の方法を用いて適宜製造される。
【0061】
本明細書において記載されるポリペプチド会合体における抗原結合ドメインを作製するために用いられる抗体の可変領域は、通常、4つのフレームワーク領域(FR)にはさまれた3つの相補性決定領域(complementarity-determining region ; CDR)で構成されている。CDRは、実質的に、抗体の結合特異性を決定している領域である。CDRのアミノ酸配列は多様性に富む。一方FRを構成するアミノ酸配列は、異なる結合特異性を有する抗体の間でも、高い同一性を示すことが多い。そのため、一般に、CDRの移植によって、ある抗体の結合特異性を、他の抗体に移植することができるとされている。
【0062】
ヒト化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称される。具体的には、ヒト以外の動物、たとえばマウス抗体のCDRをヒト抗体に移植したヒト化抗体などが公知である。ヒト化抗体を得るための一般的な遺伝子組換え手法も知られている。具体的には、マウスの抗体のCDRをヒトのFRに移植するための方法として、たとえばOverlap Extension PCRが公知である。Overlap Extension PCRにおいては、ヒト抗体のFRを合成するためのプライマーに、移植すべきマウス抗体のCDRをコードする塩基配列が付加される。プライマーは4つのFRのそれぞれについて用意される。一般に、マウスCDRのヒトFRへの移植においては、マウスのFRと同一性の高いヒトFRを選択するのが、CDRの機能の維持において有利であるとされている。すなわち、一般に、移植すべきマウスCDRに隣接しているFRのアミノ酸配列と同一性の高いアミノ酸配列からなるヒトFRを利用するのが好ましい。
【0063】
また連結される塩基配列は、互いにインフレームで接続されるようにデザインされる。それぞれのプライマーによってヒトFRが個別に合成される。その結果、各FRにマウスCDRをコードするDNAが付加された産物が得られる。各産物のマウスCDRをコードする塩基配列は、互いにオーバーラップするようにデザインされている。続いて、ヒト抗体遺伝子を鋳型として合成された産物のオーバーラップしたCDR部分を互いにアニールさせて相補鎖合成反応が行われる。この反応によって、ヒトFRがマウスCDRの配列を介して連結される。
【0064】
最終的に3つのCDRと4つのFRが連結されたV領域遺伝子は、その5'末端と3'末端にアニールし適当な制限酵素認識配列を付加されたプライマーによってその全長が増幅される。上記のように得られたDNAとヒト抗体C領域をコードするDNAとをインフレームで融合するように発現ベクター中に挿入することによって、ヒト型抗体発現用ベクターが作成できる。該組込みベクターを宿主に導入して組換え細胞を樹立した後に、該組換え細胞を培養し、該ヒト化抗体をコードするDNAを発現させることによって、該ヒト化抗体が該培養細胞の培養物中に産生される(欧州特許公開EP 239400、国際公開WO1996/002576参照)。
【0065】
上記のように作製されたヒト化抗体の抗原への結合活性を定性的又は定量的に測定し、評価することによって、CDRを介して連結されたときに該CDRが良好な抗原結合部位を形成するようなヒト抗体のFRが好適に選択できる。必要に応じ、再構成ヒト抗体のCDRが適切な抗原結合部位を形成するようにFRのアミノ酸残基を置換することもできる。たとえば、マウスCDRのヒトFRへの移植に用いたPCR法を応用して、FRにアミノ酸配列の変異を導入することができる。具体的には、FRにアニーリングするプライマーに部分的な塩基配列の変異を導入することができる。このようなプライマーによって合成されたFRには、塩基配列の変異が導入される。アミノ酸を置換した変異型抗体の抗原への結合活性を上記の方法で測定し評価することによって所望の性質を有する変異FR配列が選択され得る(Sato, K.et al., Cancer Res, 1993, 53, 851-856)。
【0066】
また、ヒト抗体遺伝子の全てのレパートリーを有するトランスジェニック動物(国際公開WO1993/012227、WO1992/003918、WO1994/002602、WO1994/025585、WO1996/034096、WO1996/033735参照)を免疫動物とし、DNA免疫により所望のヒト抗体が取得され得る。
【0067】
さらに、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体のV領域が一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現される。抗原に結合するscFvを発現するファージが選択され得る。選択されたファージの遺伝子を解析することにより、抗原に結合するヒト抗体のV領域をコードするDNA配列が決定できる。抗原に結合するscFvのDNA配列を決定した後、当該V領域配列を所望のヒト抗体C領域の配列とインフレームで融合させた後に適当な発現ベクターに挿入することによって発現ベクターが作製され得る。当該発現ベクターを上記に挙げたような好適な発現細胞中に導入し、該ヒト抗体をコードする遺伝子を発現させることにより当該ヒト抗体が取得される。これらの方法は既に公知である(国際公開WO1992/001047、WO1992/020791、WO1993/006213、WO1993/011236、WO1993/019172、WO1995/001438、WO1995/015388参照)。
【0068】
抗原結合ドメイン
本明細書において「抗原結合ドメイン」とは、抗原の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んで成る抗体の部分をいう。抗原の分子量が大きい場合、抗体は抗原の特定部分にのみ結合することができる。当該特定部分はエピトープと呼ばれる。抗原結合ドメインは一または複数の抗体の可変ドメインより提供され得る。好ましくは、抗原結合ドメインは抗体軽鎖可変領域(VL)と抗体重鎖可変領域(VH)とを含む。こうした抗原結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
【0069】
本発明のポリペプチド会合体における抗原結合ドメインは、同一のエピトープに結合することができる。ここで同一のエピトープは、配列番号:2あるいは配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。あるいは本発明のポリペプチド会合体における抗原結合ドメインは、互いに異なるエピトープに結合することができる。ここで異なるエピトープは、配列番号:2あるいは配列番号:4に記載のアミノ酸配列からなるタンパク質中に存在することができる。
【0070】
特異的
特異的とは、特異的に結合する分子の一方の分子がその一または複数の結合する相手方の分子以外の分子に対しては何ら有意な結合を示さない状態をいう。また、抗原結合ドメインが、ある抗原中に含まれる複数のエピトープのうち特定のエピトープに対して特異的である場合にも用いられる。また、抗原結合ドメインが結合するエピトープが複数の異なる抗原に含まれる場合には、当該抗原結合ドメインを有するポリペプチド会合体は当該エピトープを含む様々な抗原と結合することができる。
【0071】
抗原
本明細書において抗原は特に限定されず、CD3を除きどのような抗原でもよい。抗原の例としては、例えば、受容体、癌抗原、MHC抗原、分化抗原等が好適に挙げられる。受容体の例としては、例えば、造血因子受容体ファミリー、サイトカイン受容体ファミリー、チロシンキナーゼ型受容体ファミリー、セリン/スレオニンキナーゼ型受容体ファミリー、TNF受容体ファミリー、Gタンパク質共役型受容体ファミリー、GPIアンカー型受容体ファミリー、チロシンホスファターゼ型受容体ファミリー、接着因子ファミリー、ホルモン受容体ファミリー、等の受容体ファミリーに属する受容体などを挙げることができる。これら受容体ファミリーに属する受容体、及びその特徴に関しては、多数の文献、例えば、Cooke BA., King RJB., van der Molen HJ. ed. New Comprehesive Biochemistry Vol.18B "Hormones and their Actions Part II"pp.1-46 (1988) Elsevier Science Publishers BV.、又は、宮坂昌之監修, 細胞工学別冊ハンドブックシリーズ「接着因子ハンドブック」(1994) (秀潤社, 東京, 日本)等のレビューの他、Patthy(Cell (1990) 61 (1), 13-14)、Ullrichら(Cell (1990) 61 (2), 203-212)、Massague(eにはアキュート・アクセント記号が付く)(Cell (1992) 69 (6), 1067-1070)、Miyajimaら(Annu. Rev. Immunol. (1992) 10, 295-331)、Tagaら(FASEB J. (1992) 6, 3387-3396)、Fantlら(Annu. Rev. Biochem. (1993), 62, 453-481)、Smithら(Cell (1994) 76 (6) 959-962)、Flower DR. Biochim. Biophys. Acta, Flower(Biochim. Biophys. Acta (1999) 1422 (3) 207-234等に記載されている。
【0072】
上記受容体ファミリーに属する具体的な受容体としては、例えば、ヒト又はマウスエリスロポエチン(EPO)受容体(Blood (1990) 76 (1), 31-35、Cell (1989) 57 (2), 277-285)、ヒト又はマウス顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1990) 87 (22), 8702-8706、mG-CSFR、Cell (1990) 61 (2), 341-350)、ヒト又はマウストロンボポイエチン(TPO)受容体(Proc Natl Acad Sci U S A. (1992) 89 (12), 5640-5644、EMBO J. (1993) 12(7), 2645-53)、ヒト又はマウスインスリン受容体(Nature (1985) 313 (6005), 756-761)、ヒト又はマウスFlt-3リガンド受容体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1994) 91 (2), 459-463)、ヒト又はマウス血小板由来増殖因子(PDGF)受容体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA. (1988) 85 (10) 3435-3439)、ヒト又はマウスインターフェロン(IFN)-α、β受容体(Cell (1990) 60 (2), 225-234.及びCell (1994) 77 (3), 391-400)、ヒト又はマウスレプチン受容体、ヒト又はマウス成長ホルモン(GH)受容体、ヒト又はマウスインターロイキン(IL)-10受容体、ヒト又はマウスインスリン様増殖因子(IGF)-I受容体、ヒト又はマウス白血病抑制因子(LIF)受容体、ヒト又はマウス毛様体神経栄養因子(CNTF)受容体等が好適に例示される。
【0073】
癌抗原は細胞の悪性化に伴って発現する抗原であり、腫瘍特異性抗原とも呼ばれる。又、細胞が癌化した際に細胞表面やタンパク質分子上に現れる異常な糖鎖も癌抗原であり、癌糖鎖抗原とも呼ばれる。癌抗原の例としては、例えば、上記の受容体としてGPIアンカー型受容体ファミリーに属するが肝癌を初めとする幾つかの癌において発現しているGPC3(Int J Cancer. (2003) 103 (4), 455-65)、肺癌を初めとする複数の癌で発現するEpCAM(Proc Natl Acad Sci U S A. (1989) 86 (1), 27-31)(そのポリヌクレオチド配列はRefSeq登録番号NM_002354.2(配列番号:3)に、ポリペプチド配列はRefSeq登録番号NP_002345.2(配列番号:4)にそれぞれ記載されている。)、EGFR、CA19-9、CA15-3、シリアルSSEA-1(SLX)等が好適に挙げられる。
【0074】
MHC抗原は、主にMHC class I抗原とMHC class II抗原に分類され、MHC class I抗原には、HLA-A、-B、-C、-E、-F、-G、-Hが含まれ、MHC class II抗原には、HLA-DR、-DQ、-DPが含まれる。
【0075】
分化抗原には、CD1、CD2、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、CD14、CD15s、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD23、CD25、CD28、CD29、CD30、CD32、CD33、CD34、CD35、CD38、CD40、CD41a、CD41b、CD42a、CD42b、CD43、CD44、CD45、CD45RO、CD48、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、CD51、CD54、CD55、CD56、CD57、CD58、CD61、CD62E、CD62L、CD62P、CD64、CD69、CD71、CD73、CD95、CD102、CD106、CD122、CD126、CDw130が含まれ得る。
【0076】
エピトープ
抗原中に存在する抗原決定基を意味するエピトープは、本明細書において開示されるポリペプチド会合体中の抗原結合ドメインが結合する抗原上の部位を意味する。よって、例えば、エピトープは、その構造によって定義され得る。また、当該エピトープを認識するポリペプチド会合体中の抗原に対する結合活性によっても当該エピトープが定義され得る。抗原がペプチド又はポリペプチドである場合には、エピトープを構成するアミノ酸残基によってエピトープを特定することも可能である。また、エピトープが糖鎖である場合には、特定の糖鎖構造によってエピトープを特定することも可能である。
【0077】
直線状エピトープは、アミノ酸一次配列が認識されたエピトープを含むエピトープである。直線状エピトープは、典型的には、少なくとも3つ、および最も普通には少なくとも5つ、例えば約8〜約10個、6〜20個のアミノ酸が固有の配列において含まれる。
【0078】
立体構造エピトープは、直線状エピトープとは対照的に、エピトープを含むアミノ酸の一次配列が、認識されたエピトープの単一の規定成分ではないエピトープ(例えば、アミノ酸の一次配列が、必ずしもエピトープを規定する抗体により認識されないエピトープ)である。立体構造エピトープは、直線状エピトープに対して増大した数のアミノ酸を包含するかもしれない。立体構造エピトープの認識に関して、抗体は、ペプチドまたはタンパク質の三次元構造を認識する。例えば、タンパク質分子が折り畳まれて三次元構造を形成する場合には、立体構造エピトープを形成するあるアミノ酸および/またはポリペプチド主鎖は、並列となり、抗体がエピトープを認識するのを可能にする。エピトープの立体構造を決定する方法には、例えばX線結晶学、二次元核磁気共鳴分光学並びに部位特異的なスピン標識および電磁常磁性共鳴分光学が含まれるが、これらには限定されない。例えば、Epitope Mapping Protocols in Methods in Molecular Biology (1996)、第66巻、Morris(編)を参照。
【0079】
下記にGPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体によるエピトープへの結合の確認方法が例示されるが、GPC3以外の抗原に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体によるエピトープへの結合の確認方法も下記の例示に準じて適宜実施され得る。
【0080】
例えば、GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体が、GPC3分子中に存在する線状エピトープを認識することは、たとえば次のようにして確認することができる。上記の目的のためにGPC3の細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状のペプチドが合成される。当該ペプチドは、化学的に合成され得る。あるいは、GPC3のcDNA中の、細胞外ドメインに相当するアミノ酸配列をコードする領域を利用して、遺伝子工学的手法により得られる。次に、細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドと、GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体との結合活性が評価される。たとえば、固定化された線状ペプチドを抗原とするELISAによって、当該ペプチドに対する当該ポリペプチド会合体の結合活性が評価され得る。あるいは、GPC3発現細胞に対する当該ポリペプチド会合体の結合における、線状ペプチドによる阻害のレベルに基づいて、線状ペプチドに対する結合活性が明らかにされ得る。これらの試験によって、線状ペプチドに対する当該ポリペプチド会合体の結合活性が明らかにされ得る。
【0081】
また、GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体が立体構造エピトープを認識することは、次のようにして確認され得る。上記の目的のために、GPC3を発現する細胞が調製される。GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体がGPC3発現細胞に接触した際に当該細胞に強く結合する一方で、当該ポリペプチド会合体が固定化されたGPC3の細胞外ドメインを構成するアミノ酸配列からなる線状ペプチドに対して実質的に結合しないとき等が挙げられる。ここで、実質的に結合しないとは、ヒトGPC3発現細胞に対する結合活性の80%以下、通常50%以下、好ましくは30%以下、特に好ましくは15%以下の結合活性をいう。
【0082】
GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体のGPC3発現細胞に対する結合活性を測定する方法としては、例えば、Antibodies A Laboratory Manual記載の方法(Ed Harlow, David Lane, Cold Spring Harbor Laboratory (1988) 359-420)が挙げられる。即ち、GPC3発現細胞を抗原とするELISAやFACS(fluorescence activated cell sorting)の原理によって評価され得る。
【0083】
ELISAフォーマットにおいて、GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体のGPC3発現細胞に対する結合活性は、酵素反応によって生成するシグナルレベルを比較することによって定量的に評価される。すなわち、GPC3発現細胞を固定化したELISAプレートに被験ポリペプチド会合体を加え、細胞に結合した被験ポリペプチド会合体が、被験ポリペプチド会合体を認識する酵素標識抗体を利用して検出される。あるいはFACSにおいては、被験ポリペプチド会合体の希釈系列を作成し、GPC3発現細胞に対する抗体結合力価(titer)を決定することにより、GPC3発現細胞に対する被験ポリペプチド会合体の結合活性が比較され得る。
【0084】
緩衝液等に懸濁した細胞表面上に発現している抗原に対する被験ポリペプチド会合体の結合は、フローサイトメーターによって検出することができる。フローサイトメーターとしては、例えば、次のような装置が知られている。
FACSCanto
TM II
FACSAria
TM
FACSArray
TM
FACSVantage
TM SE
FACSCalibur
TM (いずれもBD Biosciences社の商品名)
EPICS ALTRA HyPerSort
Cytomics FC 500
EPICS XL-MCL ADC EPICS XL ADC
Cell Lab Quanta / Cell Lab Quanta SC(いずれもBeckman Coulter社の商品名)
【0085】
例えば、GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体の抗原に対する結合活性の好適な測定方法の一例として、次の方法が挙げられる。まず、GPC3を発現する細胞と反応させた被験ポリペプチド会合体を認識するFITC標識した二次抗体で染色する。被験ポリペプチド会合体を適宜好適な緩衝液によって希釈することによって、当該会合体が所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用され得る。次に、FACSCalibur(BD社)により蛍光強度と細胞数が測定される。当該細胞に対する抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、被験ポリペプチド会合体の結合量によって表される被験ポリペプチド会合体の結合活性が測定され得る。
【0086】
GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体が、あるポリペプチド会合体とエピトープを共有することは、両者の同じエピトープに対する競合によって確認され得る。ポリペプチド会合体間の競合は、交叉ブロッキングアッセイなどによって検出される。例えば競合ELISAアッセイは、好ましい交叉ブロッキングアッセイである。
【0087】
具体的には、交叉ブロッキングアッセイにおいては、マイクロタイタープレートのウェル上にコートしたGPC3タンパク質が、候補となる競合ポリペプチド会合体の存在下、または非存在下でプレインキュベートされた後に、被験ポリペプチド会合体が添加される。ウェル中のGPC3タンパク質に結合した被験ポリペプチド会合体の量は、同じエピトープへの結合に対して競合する候補となる競合ポリペプチド会合体の結合能に間接的に相関している。すなわち同一エピトープに対する競合ポリペプチド会合体の親和性が大きくなればなる程、被験ポリペプチド会合体のGPC3タンパク質をコートしたウェルへの結合活性は低下する。
【0088】
GPC3タンパク質を介してウェルに結合した被験ポリペプチド会合体の量は、予めポリペプチド会合体を標識しておくことによって、容易に測定され得る。たとえば、ビオチン標識されたポリペプチド会合体は、アビジンペルオキシダーゼコンジュゲートと適切な基質を使用することにより測定される。ペルオキシダーゼなどの酵素標識を利用した交叉ブロッキングアッセイは、特に競合ELISAアッセイといわれる。ポリペプチド会合体は、検出あるいは測定が可能な他の標識物質で標識され得る。具体的には、放射標識あるいは蛍光標識などが公知である。
【0089】
候補の競合ポリペプチド会合体の非存在下で実施されるコントロール試験において得られる結合活性と比較して、競合ポリペプチド会合体が、GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体の結合を少なくとも20%、好ましくは少なくとも20−50%、さらに好ましくは少なくとも50%ブロックできるならば、当該被験ポリペプチド会合体は競合ポリペプチド会合体と実質的に同じエピトープに結合するか、又は同じエピトープへの結合に対して競合するポリペプチド会合体である。
【0090】
GPC3に対する抗原結合ドメインを含む被験ポリペプチド会合体が結合するエピトープの構造が同定されている場合には、被験ポリペプチド会合体と対照ポリペプチド会合体とがエピトープを共有することは、当該エピトープを構成するペプチドにアミノ酸変異を導入したペプチドに対する両者のポリペプチド会合体の結合活性を比較することによって評価され得る。
【0091】
こうした結合活性を測定する方法としては、例えば、前記のELISAフォーマットにおいて変異を導入した線状のペプチドに対する被験ポリペプチド会合体及び対照ポリペプチド会合体の結合活性を比較することによって測定され得る。ELISA以外の方法としては、カラムに結合した当該変異ペプチドに対する結合活性を、当該カラムに被検ポリペプチド会合体と対照ポリペプチド会合体を流下させた後に溶出液中に溶出されるポリペプチド会合体を定量することによっても測定され得る。変異ペプチドを例えばGSTとの融合ペプチドとしてカラムに吸着させる方法は公知である。
【0092】
また、同定されたエピトープが立体エピトープの場合には、被験ポリペプチド会合体と対照ポリペプチド会合体とがエピトープを共有することは、次の方法で評価され得る。まず、GPC3を発現する細胞とエピトープに変異が導入されたGPC3を発現する細胞が調製される。これらの細胞がPBS等の適切な緩衝液に懸濁された細胞懸濁液に対して被験ポリペプチド会合体と対照ポリペプチド会合体が添加される。次いで、適宜緩衝液で洗浄された細胞懸濁液に対して、被験ポリペプチド会合体と対照ポリペプチド会合体を認識することができるFITC標識された抗体が添加される。標識抗体によって染色された細胞の蛍光強度と細胞数がFACSCalibur(BD社)によって測定される。被験ポリペプチド会合体と対照ポリペプチド会合体の濃度は好適な緩衝液によって適宜希釈することによって所望の濃度に調製して用いられる。例えば、10μg/mlから10 ng/mlまでの間のいずれかの濃度で使用される。当該細胞に対する標識抗体の結合量は、CELL QUEST Software(BD社)を用いて解析することにより得られた蛍光強度、すなわちGeometric Meanの値に反映される。すなわち、当該Geometric Meanの値を得ることにより、標識抗体の結合量によって表される被験ポリペプチド会合体と対照ポリペプチド会合体の結合活性を測定することができる。
【0093】
本方法において、例えば「変異GPC3発現細胞に実質的に結合しない」ことは、以下の方法によって判断することができる。まず、変異GPC3を発現する細胞に対して結合した被験ポリペプチド会合体と対照ポリペプチド会合体を、標識抗体で染色する。次いで細胞の蛍光強度を検出する。蛍光検出にフローサイトメトリーとしてFACSCaliburを用いた場合、得られた蛍光強度はCELL QUEST Softwareを用いて解析され得る。ポリペプチド会合体存在下および非存在下でのGeometric Meanの値から、この比較値(ΔGeo-Mean)を下記の計算式に基づいて算出することにより、ポリペプチド会合体の結合による蛍光強度の増加割合を求めることができる。
【0094】
ΔGeo-Mean=Geo-Mean(ポリペプチド会合体存在下)/Geo-Mean(ポリペプチド会合体非存在下)
【0095】
解析によって得られる被験ポリペプチド会合体の変異GPC3発現細胞に対する結合量が反映されたGeometric Mean比較値(変異GPC3分子ΔGeo-Mean値)を、被験ポリペプチド会合体のGPC3発現細胞に対する結合量が反映されたΔGeo-Mean比較値と比較する。この場合において、変異GPC3発現細胞及びGPC3発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値を求める際に使用する被験ポリペプチド会合体の濃度は互いに同一又は実質的に同一の濃度で調整されることが特に好ましい。予めGPC3中のエピトープを認識していることが確認されたポリペプチド会合体が、対照ポリペプチド会合体として利用される。
【0096】
被験ポリペプチド会合体の変異GPC3発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値が、被験ポリペプチド会合体のGPC3発現細胞に対するΔGeo-Mean比較値の、少なくとも80%、好ましくは50%、更に好ましくは30%、特に好ましくは15%より小さければ、「変異GPC3発現細胞に実質的に結合しない」ものとする。Geo-Mean値(Geometric Mean)を求める計算式は、CELL QUEST Software User’s Guide(BD biosciences社)に記載されている。比較値を比較することによってそれが実質的に同視し得る程度であれば、被験ポリペプチド会合体と対照ポリペプチド会合体のエピトープは同一であると評価され得る。
【0097】
Fv(variable fragment)
本明細書において、「Fv(variable fragment)」という用語は、抗体の軽鎖可変領域(VL(light chain variable region))と抗体の重鎖可変領域(VH(heavy chain variable region))とのペアからなる抗体由来の抗原結合ドメインの最小単位を意味する。1988年にSkerraとPluckthunは、バクテリアのシグナル配列の下流に抗体の遺伝子を挿入し大腸菌中で当該遺伝子の発現を誘導することによって、均一でかつ活性を保持した状態で大腸菌のペリプラズム画分から調製されることを見出した(Science (1988) 240 (4855), 1038-1041)。ペリプラズム画分から調製されたFvは、抗原に対する結合を有する態様でVHとVLが会合していた。
【0098】
本明細書において、Fvとしては、例えば以下のポリペプチド会合体;
二価のscFvのうち一価のscFvがCD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片を介してFc領域を構成する一つのポリペプチドに、他方の一価のscFvがCD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片を介してFc領域を構成する他方の一つのポリペプチドに連結された二価の抗原結合ドメインが二価のscFvである(1)二価の抗原結合ドメイン、(2)IgG1、IgG2a、IgG3又はIgG4のFc領域を構成するアミノ酸のうちFcγ受容体に対する結合活性を有しないFc領域を含むドメイン、及び、(3)少なくとも一価のCD3結合ドメイン、
を含むポリペプチド会合体等において軽鎖Fv断片及び重鎖Fv断片が、抗原であるCD3に対する結合を有する態様で会合しCD3結合ドメインを構成する一組のFvも好適に含まれる。
【0099】
scFv、単鎖抗体、またはsc(Fv)2
本明細書において、「scFv」、「単鎖抗体」、または「sc(Fv)2」という用語は、単一のポリペプチド鎖内に、重鎖および軽鎖の両方に由来する可変領域を含むが、定常領域を欠いている抗体断片を意味する。一般に、単鎖抗体は、抗原結合を可能にすると思われる所望の構造を形成するのを可能にする、VHドメインとVLドメインの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。単鎖抗体は、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies, 113巻, Rosenburg、及び、Moore編, Springer-Verlag, New York, 269〜315(1994)においてPluckthunによって詳細に考察されている。同様に、国際特許出願公開WO1988/001649および米国特許第4,946,778号および同第5,260,203号を参照。特定の態様において、単鎖抗体はまた、二重特異性であるか、かつ/またはヒト化され得る。
【0100】
scFvはFvを構成するVHとVLとがペプチドリンカーによって連結された抗原結合ドメインである(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85 (16), 5879-5883)。当該ペプチドリンカーによってVHとVLとが近接した状態に保持され得る。
【0101】
sc(Fv)2は二つのVLと二つのVHの4つの可変領域がペプチドリンカー等のリンカーによって連結され一本鎖を構成する単鎖抗体である(J Immunol. Methods (1999) 231 (1-2), 177-189)。この二つのVHとVLは異なるモノクローナル抗体から由来することもあり得る。例えば、Journal of Immunology (1994) 152 (11), 5368-5374に開示されるような同一抗原中に存在する二種類のエピトープを認識する二重特異性(bispecific sc(Fv)2)も好適に挙げられる。sc(Fv)2は、当業者に公知の方法によって作製され得る。例えば、scFvをペプチドリンカー等のリンカーで結ぶことによって作製され得る。
【0102】
本明細書におけるsc(Fv)2を構成する抗原結合ドメインの構成としては、二つのVH及び二つのVLが、一本鎖ポリペプチドのN末端側を基点としてVH、VL、VH、VL([VH]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VL])の順に並んでいることを特徴とする抗体が挙げられるが、二つのVHと2つのVLの順序は特に上記の構成に限定されず、どのような順序で並べられていてもよい。例えば以下のような、順序の構成も挙げることができる。
[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]
[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]
[VH]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VL]
[VL]リンカー[VL]リンカー[VH]リンカー[VH]
[VL]リンカー[VH]リンカー[VL]リンカー[VH]
【0103】
sc(Fv)2の分子形態についてはWO2006/132352においても詳細に記載されており、当業者であればこれらの記載に基づいて、本明細書で開示されるポリペプチド会合体の作製のために適宜所望のsc(Fv)2を作製することが可能である。
【0104】
また本発明のポリペプチド会合体は、PEG等のキャリアー高分子や抗がん剤等の有機化合物をコンジュゲートしてもよい。また糖鎖付加配列を挿入し、糖鎖が所望の効果を得ることを目的として好適に付加され得る。
【0105】
抗体の可変領域を結合するリンカーとしては、遺伝子工学により導入し得る任意のペプチドリンカー、又は合成化合物リンカー(例えば、Protein Engineering, 9 (3), 299-305, 1996参照)に開示されるリンカー等を用いることができるが、本発明においてはペプチドリンカーが好ましい。ペプチドリンカーの長さは特に限定されず、目的に応じて当業者が適宜選択することが可能であるが、好ましい長さは5アミノ酸以上(上限は特に限定されないが、通常、30アミノ酸以下、好ましくは20アミノ酸以下)であり、特に好ましくは15アミノ酸である。sc(Fv)2に3つのペプチドリンカーが含まれる場合には、全て同じ長さのペプチドリンカーを用いてもよいし、異なる長さのペプチドリンカーを用いてもよい。
【0106】
例えば、ペプチドリンカーの場合:
Ser
Gly・Ser
Gly・Gly・Ser
Ser・Gly・Gly
Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:5)
Ser・Gly・Gly・Gly(配列番号:6)
Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:8)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:9)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:10)
Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:11)
Ser・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:12)
(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7))n
(Ser・Gly・Gly・Gly・Gly(配列番号:8))n
[nは1以上の整数である]等を挙げることができる。但し、ペプチドリンカーの長さや配列は目的に応じて当業者が適宜選択することができる。
【0107】
合成化学物リンカー(化学架橋剤)は、ペプチドの架橋に通常用いられている架橋剤、例えばN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)、ジスクシンイミジルスベレート(DSS)、ビス(スルホスクシンイミジル)スベレート(BS3)、ジチオビス(スクシンイミジルプロピオネート)(DSP)、ジチオビス(スルホスクシンイミジルプロピオネート)(DTSSP)、エチレングリコールビス(スクシンイミジルスクシネート)(EGS)、エチレングリコールビス(スルホスクシンイミジルスクシネート)(スルホ−EGS)、ジスクシンイミジル酒石酸塩(DST)、ジスルホスクシンイミジル酒石酸塩(スルホ−DST)、ビス[2-(スクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(BSOCOES)、ビス[2-(スルホスクシンイミドオキシカルボニルオキシ)エチル]スルホン(スルホ-BSOCOES)などであり、これらの架橋剤は市販されている。
【0108】
4つの抗体可変領域を結合する場合には、通常、3つのリンカーが必要となるが、全て同じリンカーを用いてもよいし、異なるリンカーを用いてもよい。
【0109】
Fab、F(ab’)2、またはFab’
「Fab」は、一本の軽鎖、ならびに一本の重鎖のCH1領域および可変領域から構成される。Fab分子の重鎖は、別の重鎖分子とのジスルフィド結合を形成できない。
【0110】
「F(ab’)2」及び「Fab’」とは、イムノグロブリン(モノクローナル抗体)をタンパク質分解酵素であるペプシンあるいはパパイン等で処理することにより製造され、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の前後で消化されて生成される抗体フラグメントを意味する。例えば、IgGをパパインで処理することにより、ヒンジ領域中の2本のH鎖間に存在するジスルフィド結合の上流で切断されてVL(L鎖可変領域)とCL(L鎖定常領域)からなるL鎖、及びVH(H鎖可変領域)とCHγ1(H鎖定常領域中のγ1領域)とからなるH鎖フラグメントがC末端領域でジスルフィド結合により結合した相同な2つの抗体フラグメントが製造され得る。これら2つの相同な抗体フラグメントはそれぞれFab'といわれる。
【0111】
「F(ab’)2」は、二本の軽鎖、ならびに、鎖間のジスルフィド結合が2つの重鎖間で形成されるようにCH1ドメインおよびCH2ドメインの一部分の定常領域を含む二本の重鎖を含む。本明細書において開示されるポリペプチド会合体を構成するF(ab’)2は、所望の抗原結合ドメインを有する全長モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、Fc断片をプロテインAカラムに吸着させて除去することにより、好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としてはpH等の酵素の反応条件を適切に設定することにより制限的にF(ab’)2を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。
【0112】
Fc領域
本明細書において開示されるポリペプチド会合体を構成するFc領域はモノクローナル抗体等の抗体をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、断片をプロテインAカラム、あるいはプロテインGカラムに吸着させた後に、適切な溶出バッファー等により溶出させることにより好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としてはpH等の酵素の反応条件を適切に設定することによりモノクローナル抗体等の抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。
【0113】
本明細書に記載されるポリペプチド会合体にはIgG1、IgG2、IgG3又はIgG4のFc領域を構成するアミノ酸のうちFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域が含まれる。
【0114】
抗体のアイソタイプは、定常領域の構造によって決定される。IgG1、IgG2、IgG3、IgG4の各アイソタイプの定常領域は、それぞれ、Cγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4と呼ばれている。ヒトCγ1、Cγ2、Cγ3、Cγ4のFc領域を構成するポリペプチドのアミノ酸配列が、配列番号:23、24、25、26に例示される。各アミノ酸配列を構成するアミノ酸残基と、kabatのEUナンバリング(本明細書においてEU INDEXとも呼ばれる)との関係は
図18に示されている。
【0115】
Fc領域は、二本の軽鎖、ならびに、鎖間のジスルフィド結合が2つの重鎖間で形成されるようにCH1ドメインおよびCH2ドメイン間の定常領域の一部分を含む二本の重鎖を含むF(ab’)2を除いた領域のことをいう。本明細書において開示されるポリペプチド会合体を構成するFc領域は、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体等をペプシン等の蛋白質分解酵素にて部分消化した後に、プロテインAカラムに吸着された画分を再溶出することによって好適に取得され得る。かかる蛋白質分解酵素としてはpH等の酵素の反応条件を適切に設定することにより制限的にF(ab’)2を生じるように全長抗体を消化し得るものであれば特段の限定はされず、例えば、ペプシンやフィシン等が例示できる。
【0116】
Fcγ受容体
Fcγ受容体とは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合し得る受容体をいい、実質的にFcγ受容体遺伝子にコードされるタンパク質のファミリーのいかなるメンバーをも意味する。ヒトでは、このファミリーには、アイソフォームFcγRIa、FcγRIbおよびFcγRIcを含むFcγRI(CD64);アイソフォームFcγRIIa(アロタイプH131およびR131を含む)、FcγRIIb(FcγRIIb-1およびFcγRIIb-2を含む)およびFcγRIIcを含むFcγRII(CD32);およびアイソフォームFcγRIIIa(アロタイプV158およびF158を含む)およびFcγRIIIb(アロタイプFcγRIIIb-NA1およびFcγRIIIb-NA2を含む)を含むFcγRIII(CD16)、並びにいかなる未発見のヒトFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されるものではない。FcγRは、ヒト、マウス、ラット、ウサギおよびサルを含むが、これらに限定されるものではない、いかなる生物由来でもよい。マウスFcγR類には、FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)、FcγRIII(CD16)およびFcγRIII-2(CD16-2)、並びにいかなる未発見のマウスFcγR類またはFcγRアイソフォームまたはアロタイプも含まれるが、これらに限定されない。こうしたFcγ受容体の好適な例としてはヒトFcγI(CD64)、FcγIIA(CD32)、FcγIIB(CD32)、FcγIIIA(CD16)及び/又はFcγIIIB(CD16)が挙げられる。FcγIのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:13(NM_000566.3)及び14(NP_000557.1)に、FcγIIAのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:15(BC020823.1)及び16(AAH20823.1)に、FcγIIBのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:17(BC146678.1)及び18(AAI46679.1)に、FcγIIIAのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列はそれぞれ配列番号:19(BC033678.1)及び20(AAH33678.1)に、及びFcγIIIBのポリヌクレオチド配列及びアミノ酸配列は、それぞれ配列番号:21(BC128562.1)及び22(AAI28563.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。Fcγ受容体が、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4モノクローナル抗体のFc領域に結合活性を有するか否かは、上記に記載されるFACSやELISAフォーマットのほか、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって確認され得る(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0117】
また、「Fcリガンド」または「エフェクターリガンド」は、抗体のFc領域に結合してFc/Fcリガンド複合体を形成する、任意の生物に由来する分子、好ましくはポリペプチドを意味する。FcリガンドのFcへの結合は、好ましくは、1つまたはそれ以上のエフェクター機能を誘起する。Fcリガンドには、Fc受容体、FcγR、FcαR、FcεR、FcRn、C1q、C3、マンナン結合レクチン、マンノース受容体、スタフィロコッカスのプロテインA、スタフィロコッカスのタンパク質GおよびウイルスのFcγRが含まれるが、これらに限定されない。Fcリガンドには、FcγRに相同なFc受容体のファミリーであるFc受容体相同体(FcRH)(Davis et al.,(2002)Immunological Reviews 190, 123-136)も含まれる。Fcリガンドには、Fcに結合する未発見の分子も含まれ得る。
【0118】
Fcγ受容体に対する結合活性
Fc領域がFcγI、FcγIIA、FcγIIB、FcγIIIA及び/又はFcγIIIBのいずれかのFcγ受容体に対する結合活性が低下していることは、上記に記載されるFACSやELISAフォーマットのほか、ALPHAスクリーン(Amplified Luminescent Proximity Homogeneous Assay)や表面プラズモン共鳴(SPR)現象を利用したBIACORE法等によって確認することができる(Proc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010)。
【0119】
ALPHAスクリーンは、ドナーとアクセプターの2つのビーズを使用するALPHAテクノロジーによって下記の原理に基づいて実施される。ドナービーズに結合した分子が、アクセプタービーズに結合した分子と生物学的に相互作用し、2つのビーズが近接した状態の時にのみ、発光シグナルを検出される。レーザーによって励起されたドナービーズ内のフォトセンシタイザーは、周辺の酸素を励起状態の一重項酸素に変換する。一重項酸素はドナービーズ周辺に拡散し、近接しているアクセプタービーズに到達するとビーズ内の化学発光反応を引き起こし、最終的に光が放出される。ドナービーズに結合した分子とアクセプタービーズに結合した分子が相互作用しないときは、ドナービーズの産生する一重項酸素がアクセプタービーズに到達しないため、化学発光反応は起きない。
【0120】
例えば、ドナービーズにビオチン標識されたポリペプチド会合体が結合され、アクセプタービーズにはグルタチオンSトランスフェラーゼ(GST)でタグ化されたFcγ受容体が結合される。競合する変異Fc領域を有するポリペプチド会合体の非存在下では、野生型Fc領域を有するポリペプチド会合体とFcγ受容体とは相互作用し520-620 nmのシグナルを生ずる。タグ化されていない変異Fc領域を有するポリペプチド会合体は、野生型Fc領域を有するポリペプチド会合体とFcγ受容体間の相互作用と競合する。競合の結果表れる蛍光の減少を定量することによって相対的な結合親和性が決定され得る。抗体等のポリペプチド会合体をSulfo-NHS-ビオチン等を用いてビオチン化することは公知である。Fcγ受容体をGSTでタグ化する方法としては、Fcγ受容体をコードするポリヌクレオチドとGSTをコードするポリヌクレオチドをインフレームで融合した融合遺伝子を発現可能なベクターに保持した細胞等において発現し、グルタチオンカラムを用いて精製する方法等が適宜採用され得る。得られたシグナルは例えばGRAPHPAD PRISM(GraphPad社、San Diego)等のソフトウェアを用いて非線形回帰解析を利用する一部位競合(one-site competition)モデルに適合させることにより好適に解析される。
【0121】
相互作用を観察する物質の一方(リガンド)をセンサーチップの金薄膜上に固定し、センサーチップの裏側から金薄膜とガラスの境界面で全反射するように光を当てると、反射光の一部に反射強度が低下した部分(SPRシグナル)が形成される。相互作用を観察する物質の他方(アナライト)をセンサーチップの表面に流しリガンドとアナライトが結合すると、固定化されているリガンド分子の質量が増加し、センサーチップ表面の溶媒の屈折率が変化する。この屈折率の変化により、SPRシグナルの位置がシフトする(逆に結合が解離するとシグナルの位置は戻る)。Biacoreシステムは上記のシフトする量、すなわちセンサーチップ表面での質量変化を縦軸にとり、質量の時間変化を測定データとして表示する(センサーグラム)。センサーグラムのカーブからカイネティクス:結合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)が、当該定数の比からアフィニティー(KD)が求められる。BIACORE法では阻害測定法も好適に用いられる。阻害測定法の例はProc.Natl.Acad.Sci.USA (2006) 103 (11), 4005-4010において記載されている。
【0122】
本明細書において、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているとは、例えば、上記の解析方法に基づいて、対照とするポリペプチド会合体の競合活性に比較して被検ポリペプチド会合体の競合活性が、50%以下、好ましくは45%以下、40%以下、35%以下、30%以下、20%以下、15%以下、特に好ましくは10%以下、9%以下、8%以下、7%以下、6%以下、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、1%以下の結合活性を示すことをいう。
【0123】
対照とするポリペプチド会合体としては、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4モノクローナル抗体のFc領域を有するポリペプチド会合体が適宜使用され得る。当該Fc領域の構造は、配列番号:23(RefSeq登録番号AAC82527.1のN末にA付加)、24(RefSeq登録番号AAB59393.1のN末にA付加)、25(RefSeq登録番号CAA27268.1のN末にA付加)、26(RefSeq登録番号AAB59394.1のN末にA付加)に記載されている。また、ある特定のアイソタイプの抗体のFc領域の変異体を有するポリペプチド会合体を被検物質として使用する場合には、当該特定のアイソタイプの抗体のFc領域を有するポリペプチド会合体を対照として用いることによって、当該変異体が有する変異によるFcγ受容体への結合活性に対する効果が検証される。上記のようにして、Fcγ受容体に対する結合活性が低下していることが検証されたFc領域の変異体を有するポリペプチド会合体が適宜作製される。
【0124】
このような変異体の例としては、EUナンバリングに従って特定されるアミノ酸である231A-238Sの欠失(WO 2009/011941)、C226S, C229S, P238S, (C220S)(J.Rheumatol (2007) 34, 11)、C226S, C229S(Hum.Antibod.Hybridomas (1990) 1(1), 47-54)、C226S, C229S, E233P, L234V, L235A(Blood (2007) 109, 1185-1192)等の変異体が公知である。
【0125】
すなわち、特定のアイソタイプの抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;220位、226位、229位、231位、232位、233位、234位、235位、236位、237位、238位、239位、240位、264位、265位、266位、267位、269位、270位、295位、296位、297位、298位、299位、300位、325位、327位、328位、329位、330位、331位、332位が置換されているFc領域を有するポリペプチド会合体が好適に挙げられる。Fc領域の起源である抗体のアイソタイプとしては特に限定されず、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4モノクローナル抗体を起源とするFc領域が適宜利用され得るが、IgG1抗体を起源とするFc領域が好適に利用される。
【0126】
例えば、IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(a)L234F、L235E、P331S、
(b)C226S、C229S、P238S、
(c)C226S、C229S、
(d)C226S、C229S、E233P、L234V、L235A
が施されているFc領域、又は、231位から238位のアミノ酸配列が欠失したFc領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。
【0127】
また、IgG2抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(e)H268Q、V309L、A330S、P331S
(f)V234A
(g)G237A
(h)V234A、G237A
(i)A235E、G237A
(j)V234A、A235E、G237A
が施されているFc領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。
【0128】
また、IgG3抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(k)F241A
(l)D265A
(m)V264A
が施されているFc領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。
【0129】
また、IgG4抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかの置換(数字がEUナンバリングに従って特定されるアミノ酸残基の位置、数字の前に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基、数字の後に位置する一文字のアミノ酸記号が置換前のアミノ酸残基をそれぞれ表す);
(n)L235A、G237A、E318A
(o)L235E
(p)F234A、L235A
が施されているFc領域を有するポリペプチド会合体も適宜使用され得る。
【0130】
その他の好ましい例として、IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;233位、234位、235位、236位、237位、327位、330位、331位が、対応するIgG2またはIgG4においてそのEUナンバリングが対応するアミノ酸に置換されているFc領域を有するポリペプチド会合体が挙げられる。
【0131】
その他の好ましい例として、IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれか一つ又はそれ以上のアミノ酸;234位、235位、297位が他のアミノ酸によって置換されているFc領域を有するポリペプチド会合体が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、234位、235位、297位のいずれか一つ又はそれ以上のアミノ酸がアラニンに置換されているFc領域を有するポリペプチド会合体が特に好ましい。
【0132】
その他の好ましい例として、IgG1抗体のFc領域を構成するアミノ酸のうち、EUナンバリングに従って特定される下記のいずれかのアミノ酸;265位が他のアミノ酸によって置換されているFc領域を有するポリペプチド会合体が好適に挙げられる。置換後に存在するアミノ酸の種類は特に限定されないが、265位のアミノ酸がアラニンに置換されているFc領域を有するポリペプチド会合体が特に好ましい。
【0133】
二重特異性抗体を起源とするFc領域
本明細書において、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域としては、二重特異性抗体(bispecific抗体)を起源とするFc領域も適宜使用される。二重特異性抗体とは、二つの異なる特異性を有する抗体である。IgG型の二重特異性抗体はIgG抗体を産生するハイブリドーマ二種を融合することによって生じるhybrid hybridoma(quadroma)によって分泌させることが出来る(Milstein C et al.Nature (1983) 305, 537-540)。
【0134】
また、IgG型の二重特異性抗体は目的の二種のIgGを構成するL鎖及びH鎖の遺伝子、合計四種の遺伝子を細胞に導入しそれらを共発現させることによって分泌される。しかし、これらの方法で産生されるIgGのH鎖とL鎖の組合せは理論上10通りにもなる。10種類のIgGから目的の組み合わせのH鎖L鎖からなるIgGを精製することは困難である。さらに目的の組み合わせのものの分泌量も理論上著しく低下するため、大きな培養規模が必要になり、製造上のコストはさらに増大する。
【0135】
この際H鎖のFc領域を構成するCH3領域に適当なアミノ酸置換を施すことによってH鎖についてヘテロな組合せのIgGが優先的に分泌され得る。具体的には、一方のH鎖のCH3領域に存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob(「突起」の意))に置換し、もう一方のH鎖のCH3領域に存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole(「空隙」の意))に置換することにより突起が空隙内に配置され得るようにして異種H鎖形成の促進および同種H鎖形成の阻害を引き起こす方法である(WO1996/027011、Ridgway JB et al., Protein Engineering (1996) 9, 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology (1998) 16, 677-681)。
【0136】
また、L鎖に関しては、H鎖可変領域に比べてL鎖可変領域の多様性が低いことから、両H鎖に結合能を与え得る共通のL鎖が得られることが期待される。この共通L鎖と両H鎖遺伝子を細胞に導入することによってIgGを発現させることで効率の良い二重特異性IgGの発現が可能となる(Nature Biotechnology (1998) 16, 677-681)。しかし任意に二種の抗体を選んだ場合、同じL鎖を含む可能性は低く上記のアイデアを実行することは困難であり、任意の異なるH鎖に対応し高い結合能を示す共通L鎖を選択する方法も提案されている(WO2004/065611)。
【0137】
また、ポリペプチドの会合、またはポリペプチドによって構成される異種多量体の会合の制御方法を、Fc領域を構成する二つのポリペプチドの会合に利用することによって二重特異性抗体を作製する技術も知られている。即ち、Fc領域を構成する二つのポリペプチド内の界面を形成するアミノ酸残基を改変することによって、同一配列を有するFc領域を構成するポリペプチドの会合が阻害され、配列の異なる二つのFc領域を構成するポリペプチド会合体が形成されるように制御する方法が二重特異性抗体の作製に採用され得る(WO2006/106905)。
【0138】
本発明にかかるFc領域を含むドメインとしては、上記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を構成する二つのポリペプチドが適宜使用され得る。より具体的には、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される349位のアミノ酸がシステイン、366位のアミノ酸がトリプトファンであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される356位のアミノ酸がシステイン、366位のアミノ酸がセリンに、368位のアミノ酸がアラニンに、407位のアミノ酸がバリンであることを特徴とする、二つのポリペプチドが好適に用いられる。
【0139】
もう一つの態様において、本発明にかかるFc領域を含むドメインとしては、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される409位のアミノ酸がアスパラギン酸であり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される399位のアミノ酸がリジンであることを特徴とする、二つのポリペプチドが好適に用いられる。上記態様では、409位のアミノ酸はアスパラギン酸に代えてグルタミン酸、399位のアミノ酸はリジンに代えてアルギニンであってもよい。また、399位のリジンに加えて360位のアスパラギン酸又は392位のアスパラギン酸も好適に追加されうる。
【0140】
別の態様において、本発明にかかるFc領域を含むドメインとしては、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される370位のアミノ酸がグルタミン酸であり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される357位のアミノ酸がリジンであることを特徴とする、二つのポリペプチドが好適に用いられる。
【0141】
更に別の態様において、本発明にかかるFc領域を含むドメインとしては、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される439位のアミノ酸がグルタミン酸であり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される356位のアミノ酸がリジンであることを特徴とする、二つのポリペプチドが好適に用いられる。
【0142】
さらには本発明にかかるFc領域を含むドメインとしては、これらが組み合わされた態様;
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される409位のアミノ酸がアスパラギン酸、370位のアミノ酸がグルタミン酸であり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される399位のアミノ酸がリジン、357位のアミノ酸がリジンであることを特徴とする、二つのポリペプチド(本態様では、370位のグルタミン酸に代えてアスパラギン酸であってもよく、370位のグルタミン酸に代えて392位のアスパラギン酸であってもよい)、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される409位のアミノ酸がアスパラギン酸、439位のアミノ酸がグルタミン酸であり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される399位のアミノ酸がリジン、356位のアミノ酸がリジンであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、439位のグルタミン酸に代えて360位のアスパラギン酸、392位のアスパラギン酸又は439位のアスパラギン酸であってもよい)、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される370位のアミノ酸がグルタミン酸、439位のアミノ酸がグルタミン酸であり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される357位のアミノ酸がリジン、356位のアミノ酸がリジンであることを特徴とする二つのポリペプチド、または、
Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される409位のアミノ酸がアスパラギン酸、370位のアミノ酸がグルタミン酸、439位のアミノ酸がグルタミン酸であり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される399位のアミノ酸がリジン、357位のアミノ酸がリジン、356位のアミノ酸がリジンであることを特徴とする二つのポリペプチド(本態様では、370位のアミノ酸をグルタミン酸に置換しなくてもよく、更に、370位のアミノ酸をグルタミン酸に置換しない上で、439位のグルタミン酸に代えてアスパラギン酸又は439位のグルタミン酸に代えて392位のアスパラギン酸であってもよい)、
が好適に用いられる。
【0143】
さらに、別の態様において、本発明にかかるFc領域を含むドメインとしては、Fc領域を構成する二つのポリペプチドであって、その一方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される356位のアミノ酸がリジンであり、他方のポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される435位のアミノ酸がアルギニン、439位のアミノ酸がグルタミン酸であることを特徴とする二つのポリペプチドも好適に用いられる。
【0144】
本発明に係るFc領域を含むドメインとして上記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を構成する二つのポリペプチドを使用することによって、本発明に係る抗原結合ドメイン及び/又はCD3結合ドメインを所望の組合せで配置することが可能となる。
【0145】
C末端のヘテロジェニティーが改善されたFc領域
本明細書において、Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域として、上記の特徴に加えてFc領域のC末端のヘテロジェニティーが改善されたFc領域が適宜使用され得る。より具体的には、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4を起源とするFc領域を構成する二つのポリペプチドのアミノ酸配列のうちEUナンバリングに従って特定される446位のグリシン、及び447位のリジンが欠失したFc領域が提供される。
【0146】
T細胞受容体複合体結合ドメイン
本明細書において、「T細胞受容体複合体結合ドメイン」とは、T細胞受容体複合体の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んで成るT細胞受容体複合体抗体の部分をいう。T細胞受容体複合体は、T細胞受容体自身でもよいし、T細胞受容体とともにT細胞受容体複合体を構成するアダプター分子でもよい。アダプターとして好適なものはCD3である。
【0147】
T細胞受容体結合ドメイン
本明細書において、「T細胞受容体結合ドメイン」とは、T細胞受容体の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んでなるT細胞受容体抗体の部分をいう。
【0148】
T細胞受容体としては、可変領域でもよいし、定常領域でもよいが、好ましいCD3結合ドメインが結合するエピトープは定常領域に存在するエピトープである。定常領域の配列として、例えばRefSeq登録番号CAA26636.1のT細胞受容体α鎖(配列番号:67)、RefSeq登録番号C25777のT細胞受容体β鎖(配列番号:68)、RefSeq登録番号A26659のT細胞受容体γ1鎖(配列番号:69)、RefSeq登録番号AAB63312.1のT細胞受容体γ2鎖(配列番号:70)、RefSeq登録番号AAA61033.1のT細胞受容体δ鎖(配列番号:71)の配列を挙げることができる。
【0149】
CD3結合ドメイン
本明細書において「CD3結合ドメイン」とは、CD3の一部または全部に特異的に結合し且つ相補的である領域を含んで成るCD3抗体の部分をいう。CD3結合ドメインは一または複数の抗体の可変ドメインより提供され得る。好ましくは、CD3結合ドメインはCD3抗体の軽鎖可変領域(VL)とCD3抗体の重鎖可変領域(VH)とを含む。こうしたCD3結合ドメインの例としては、「scFv(single chain Fv)」、「単鎖抗体(single chain antibody)」、「Fv」、「scFv2(single chain Fv 2)」、「Fab」または「F(ab')2」等が好適に挙げられる。
【0150】
本発明に係るCD3結合ドメインは、ヒトCD3を構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖配列に存在するエピトープであればいずれのエピトープに結合するものであり得る。本発明において、好ましくはヒトCD3複合体のε鎖の細胞外領域に存在するエピトープに結合するCD3抗体の軽鎖可変領域(VL)とCD3抗体の重鎖可変領域(VH)とを含むCD3結合ドメインが好適に用いられる。こうしたCD3結合ドメインとしては、OKT3抗体(Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4914-4917)や種々の公知のCD3抗体の軽鎖可変領域(VL)とCD3抗体の重鎖可変領域(VH)とを含むCD3結合ドメインが好適に用いられる。また、ヒトCD3を構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖を前記の方法によって所望の動物に免疫することによって取得された所望の性質を有するCD3抗体を起源とするCD3結合ドメインが適宜使用され得る。CD3結合ドメインの起源となるCD3抗体は前記のとおり適宜ヒト化された抗体やヒト抗体が適宜用いられる。CD3を構成するγ鎖、δ鎖又はε鎖の構造は、そのポリヌクレオチド配列が、配列番号:27(NM_000073.2)、29(NM_000732.4)及び31(NM_000733.3)に、そのポリペプチド配列が、配列番号:28(NP_000064.1)、30(NP_000723.1)及び32(NP_000724.1)に記載されている(カッコ内はRefSeq登録番号を示す)。
【0151】
ポリペプチド会合体
本発明に係るポリペプチド会合体は前記の、
(1)抗原結合ドメイン、
(2)Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメイン、及び、
(3)T細胞受容体複合体結合ドメイン、
を含むものであればよく、その構造は限定されない。本発明においては、T細胞受容体複合体結合ドメインは、好ましくはT細胞受容体結合ドメインあるいはCD3結合ドメインである。上記の各ドメインはペプチド結合で直接連結することができる。例えば、(1)抗原結合ドメインとしてF(ab')2を用い、(2)Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメインとしてこれらのFc領域を用いた場合に(1)に記載された抗原結合ドメインと(2)に記載されたFc領域を含むドメインとをペプチド結合で連結したときは、連結されたポリペプチドは抗体の構造を形成する。そのような抗体を作製するためには前述のハイブリドーマの培養液から精製する他、当該抗体を構成するポリペプチドをコードするポリヌクレオチドが安定に保持された所望の宿主細胞の培養液から当該抗体を精製することもできる。
【0152】
当該抗体構造に(3)CD3結合ドメインを結合する場合、当該CD3結合ドメインが当該抗体構造の定常領域のC末端にペプチド結合を介して結合され得る。別の態様としては、当該CD3結合ドメインは、当該抗体構造の重鎖可変領域又は軽鎖可変領域のN末端にペプチド結合を介して結合され得る。その他の態様としては、当該CD3結合ドメインは、当該抗体構造の軽鎖定常領域のC末端にペプチド結合を介して結合され得る。結合するCD3結合ドメインは所望の構造を有するCD3結合ドメインが採用され得るが、好ましくはFv、より好ましくはscFvが適宜使用される。当該抗体構造に結合するCD3結合ドメインの価数は限定されない。当該抗体構造に二価のCD3結合ドメインを結合するためには、当該抗体構造の定常領域を構成する二つのFc領域の各C末端にペプチド結合を介して各々一価のCD3結合ドメインが結合され得る。また、当該抗体構造に二価のCD3結合ドメインを結合するためには、二つのFc領域のうち一つのFc領域のC末端にペプチド結合を介して二価のscFv即ちsc(Fv)2が結合され得る。この場合において、前記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を用いることによって、当該抗体構造の定常領域を構成する二つのFc領域のうち一つのFc領域のC末端にのみ二価のscFv即ちsc(Fv)2が結合するポリペプチド会合体が効率的に取得される。また、当該抗体構造に一価のCD3結合ドメインを結合するためには、二つのFc領域のうち一つのFc領域のC末端にペプチド結合を介して一価のscFvが結合され得る。この場合において、前記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を用いることによって、当該抗体構造の定常領域を構成する二つのFc領域のうち一つのFc領域のC末端にのみ一価のscFvが結合する本発明に係るポリペプチド会合体が効率的に取得される。
【0153】
また、(3)CD3結合ドメインが当該抗体構造の定常領域のC末端にペプチド結合を介して結合され得る場合に、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構成する一方の定常領域のC末端(CH3ドメイン)に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構成するもう一方の定常領域のC末端(CH3ドメイン)に連結されたポリペプチド会合体も適宜使用される。この場合において、重鎖Fv断片又は軽鎖Fv断片を定常領域のC末端(CH3ドメイン)に連結する際にGly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7)等のリンカーが適挿入される。リンカーの繰返しの数は限定されず、1〜10、好ましくは2〜8、さらには2〜6数から選択される、すなわち1,2,3,4,5,6,7,8,9又は10の繰返しからなるGly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7)等のリンカーが適宜挿入されうる。
【0154】
さらに、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構成する一方の定常領域のC末端(CH3ドメイン)に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構成するもう一方の定常領域のC末端(CH3ドメイン)に連結されたポリペプチド会合体が作製される場合には、当該重鎖Fv断片と軽鎖Fv断片との会合を強化するために当該重鎖Fv断片と軽鎖Fv断片間にジスルフィド結合を形成させるようなアミノ酸残基の改変も適宜実施されうる。
【0155】
別の態様において、CD3結合ドメインを構成する重鎖Fv断片がFc領域を構成する一方の定常領域のC末端(CH3ドメイン)に連結され、CD3結合ドメインを構成する軽鎖Fv断片がFc領域を構成するもう一方の定常領域のC末端(CH3ドメイン)に連結されたポリペプチド会合体が作製される場合には、当該重鎖Fv断片と軽鎖Fv断片との会合を強化するために当該重鎖Fv断片と軽鎖Fv断片のそれぞれに抗体のCH1ドメイン及びCLドメインが連結され得る。
【0156】
更に別の態様において、当該抗体構造に二価のCD3結合ドメインを結合するためには、当該抗体構造の二つの軽鎖定常領域の各C末端又は軽鎖可変領域の各N末端にペプチド結合を介して各々一価のCD3結合ドメインが結合され得る。また、当該抗体構造に二価のCD3結合ドメインを結合するためには、二つの軽鎖定常領域の各C末端又は軽鎖可変領域の各N末端にペプチド結合を介して二価のscFv即ちsc(Fv)2が結合され得る。この場合において、前記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を用いることによって、当該抗体構造の二つの軽鎖可変領域のうち一つの軽鎖可変領域のC末端又はN末端に二価のscFv即ちsc(Fv)2が結合するポリペプチド会合体が効率的に取得される。また、当該抗体構造に一価のCD3結合ドメインを結合するためには、二つの軽鎖可変領域のうち一つの軽鎖可変領域のC末端又はN末端にペプチド結合を介して一価のscFvが結合され得る。この場合において、前記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を用いることによって、当該抗体構造の二つの軽鎖可変領域のうち一つの軽鎖可変領域のN末端又はC末端に一価のscFvが結合する本発明に係るポリペプチド会合体が効率的に取得される。
【0157】
別の態様において、当該抗体構造に二価のCD3結合ドメインを結合するためには、当該抗体構造の二つの重鎖可変領域の各N末端にペプチド結合を介して各々一価のCD3結合ドメインが結合され得る。また、当該抗体構造に二価のCD3結合ドメインを結合するためには、二つの重鎖可変領域のうち一つの重鎖可変領域のN末端にペプチド結合を介して二価のscFv即ちsc(Fv)2が結合され得る。この場合において、前記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を用いることによって、当該抗体構造の二つの重鎖可変領域のうち一つの重鎖可変領域のN末端にのみ二価のscFv即ちsc(Fv)2が結合するポリペプチド会合体が効率的に取得される。また、当該抗体構造に一価のCD3結合ドメインを結合するためには、二つの重鎖可変領域のうち一つの重鎖可変領域のN末端にペプチド結合を介して一価のscFvが結合され得る。この場合において、前記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を用いることによって、当該抗体構造の二つの重鎖可変領域のうち一つの重鎖可変領域のN末端に一価のscFvが結合する本発明に係るポリペプチド会合体が効率的に取得される。
【0158】
また、上記のポリペプチド会合体を作製するに際して、各ドメインは直接ペプチド結合で結合される他、各ドメインはペプチドリンカーを介したペプチド結合で結合され得る。この場合において、採用されるリンカーとしては上記記載で例示されるリンカーの他、例えばHisタグ、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ等のペプチドタグを有するリンカーも適宜使用され得る。また、水素結合、ジスルフィド結合、共有結合、イオン性相互作用またはこれらの結合の組合せにより互いに結合する性質もまた好適に利用され得る。例えば、抗体のCH1とCL間の親和性が利用されたり、ヘテロFc領域の会合に際して前述の二重特異性抗体を起源とするFc領域が用いられたりする。さらに、実施例で記載されるように、ドメイン間に形成されるジスルフィド結合もまた好適に利用され得る。
【0159】
本発明に係るポリペプチド会合体の別の構造としては、例えば、(1)抗原結合ドメインとして一価のFv及び一価のFabである構造もまた好適に使用される。この場合において、本発明に係るポリペプチド会合体を構成する(2)Fcγ受容体に対する結合活性が低下している二つのFc領域の内一つのFc領域にペプチド結合を介して連結された重鎖CH1領域に一価のFvのうちの重鎖Fv断片(VH)又は軽鎖Fv断片(VL)がペプチド結合を介して連結し、当該重鎖CH1領域にジスルフィド結合を介して結合した軽鎖CH領域に一価のFvのうちのもう一方のVL又はVH断片がペプチド結合を介して連結することにより、重鎖CH1領域及び軽鎖CL領域の末端に結合したVH及びVLが抗体結合ドメインを形成する構造が使用される。二つのFc領域のうち上記の異なるもう一方のFc領域のN末端には(1)抗体結合ドメイン、及び、(3)CD3結合ドメインを形成するsc(Fv)2がペプチド結合を介して連結され得る。この場合において、前記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を用いることによって、当該ポリペプチド会合体を構成する二つのFc領域のうち一方ののFc領域に重鎖CH1領域が、もう一方のFc領域にsc(Fv)2がそれぞれペプチド結合を介して連結した構造を有するポリペプチド会合体が作製され得る。上記のポリペプチド会合体を作製するに際して、各ドメインは直接ペプチド結合で結合される他、各ドメインはペプチドリンカーを介したペプチド結合で結合され得る。この場合において、採用されるリンカーとしては上記記載で例示されるリンカーの他、例えばHisタグ、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ等のペプチドタグを有するリンカーも適宜使用され得る。
【0160】
本発明に係るポリペプチド会合体の別の構造としては、例えば、(1)抗原結合ドメインとして二価のscFvである構造もまた好適に使用される。こうした構造の態様として、二価のscFvの内の一方が(3)CD3結合ドメインを構成するVHを介して(2)Fcγ受容体に対する結合活性が低下している二つのFc領域の内一つのFc領域にペプチド結合により連結され、二価のscFvの内のもう一方が(3)CD3結合ドメインを構成するVLを介して(2)Fcγ受容体に対する結合活性が低下している二つのFc領域の内のもう一方のFc領域にペプチド結合により連結された構造を有するポリペプチド会合体が作製され得る。この場合において、前記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を用いることも可能である。上記のポリペプチド会合体を作製するに際して、各ドメインは直接ペプチド結合で結合される他、各ドメインはペプチドリンカーを介したペプチド結合で結合され得る。この場合において、採用されるリンカーとしては上記記載で例示されるリンカーの他、例えばHisタグ、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ等のペプチドタグを有するリンカーも適宜使用され得る。
【0161】
(1)抗原結合ドメインとして二価のscFvが用いられる構造のもう一つの態様として、二価のscFvの内一方が(3)CD3結合ドメインを構成するscFvを介して(2)Fcγ受容体に対する結合活性が低下している二つのFc領域の内一つのFc領域にペプチド結合により連結され、二価のscFvの内のもう一方が(2)Fcγ受容体に対する結合活性が低下している二つのFc領域の内のもう一方のFc領域にペプチド結合により連結された構造を有するポリペプチド会合体が作製され得る。この場合において、前記の二重特異性抗体を起源とするFc領域を用いることによって、当該ポリペプチド会合体を構成する二つのFc領域のうち一方ののFc領域にCD3結合ドメインを構成するscFvを介して抗原結合ドメインを構成するscFvが、もう一方のFc領域に抗原結合ドメインを構成するscFvがそれぞれペプチド結合を介して連結した構造を有するポリペプチド会合体が作製され得る。上記のポリペプチド会合体を作製するに際して、各ドメインは直接ペプチド結合で結合される他、各ドメインはペプチドリンカーを介したペプチド結合で結合され得る。この場合において、採用されるリンカーとしては上記で例示されるリンカーの他、例えばHisタグ、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ等のペプチドタグを有するリンカーも適宜使用され得る。
【0162】
本発明に係るポリペプチド会合体の別の構造としては、例えば、抗原結合ドメインおよびT細胞受容体複合体結合ドメインが各々一価のFabである構造も、また好適に使用される。こうした構造の態様として、抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結された構造を有するポリペプチド会合体が作製され得る。
【0163】
こうした構造の別の態様として、抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された構造を有するポリペプチド会合体が作製され得る。また、T細胞受容体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、抗原結合ドメインを構成するFabの軽鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの重鎖Fv断片がCL領域と連結された構造を有するポリペプチド会合体もまた作製され得る。
【0164】
さらにこうした構造の別の態様として、抗原結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、T細胞受容体結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された構造を有するポリペプチド会合体が作製され得る。また、T細胞受容体結合ドメインを構成する一価のFabの重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCL領域と連結され、抗原結合ドメインを構成するFabの重鎖Fv断片がCL領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fabの軽鎖Fv断片がCH1領域と連結された構造を有するポリペプチド会合体が作製され得る。
【0165】
本発明に係るポリペプチド会合体の別の構造である、抗原結合ドメインおよびT細胞受容体複合体結合ドメインが各々一価のFabである構造の一態様として、
(1)抗原に結合する一価のFab構造の重鎖Fv断片がCH1領域を介して前記Fc領域を構成する一方のポリペプチドに連結され、当該Fab構造の軽鎖Fv断片がCL領域と連結された抗原結合ドメイン、及び、
(2)T細胞受容体複合体に結合する一価のFab構造の重鎖Fv断片がCH1領域を介してFc領域を構成する他方のポリペプチドに連結され、当該Fab構造の軽鎖Fv断片がCL領域と連結されたT細胞受容体複合体結合ドメイン、
を含み、抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片と抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片またはT細胞受容体結合ドメイン中の重鎖Fv断片とT細胞受容体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片が会合するようにCH1領域とCL領域の電荷が制御されているポリペプチドが好適に挙げられる。本態様においては、抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片と抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片またはT細胞受容体結合ドメイン中の重鎖Fv断片とT細胞受容体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片が会合するようにCH1領域とCL領域の電荷が制御されていればよく、そのポリペプチド会合体の構造(会合制御構造)は特定の一構造に限定されない。
【0166】
当該会合制御構造の一態様として、当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有するポリペプチド会合体が作成され得る。
【0167】
当該会合制御構造の別の一態様として、当該抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基およびT細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有するポリペプチド会合体が作成され得る。
【0168】
当該会合制御構造のさらなる一態様として、当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有し、抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基およびT細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有するポリペプチド会合体が作成され得る。
【0169】
また、当該会合制御構造の一態様として、当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有し、当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該T細胞受容体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有するポリペプチド会合体が作成され得る。
【0170】
また、当該会合制御構造の別の一態様として、当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有し、当該抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有し、当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該T細胞受容体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有するポリペプチド会合体が作製され得る。
【0171】
さらに、当該会合制御構造の一態様として、当該抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有し、当該抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基がともに異種の電荷を有するポリペプチド会合体が作製され得る。
【0172】
さらに、当該会合制御構造の別の一態様として、当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有し、当該抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有し、当該抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基がともに異種の電荷を有するポリペプチド会合体が作製され得る。
【0173】
加えて、当該会合制御構造の異なる一態様として、当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有し、当該抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに同種の電荷を有し、当該T細胞受容体複合体結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および当該T細胞受容体結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有し、抗原結合ドメイン中の重鎖Fv断片に連結されたCH1領域のアミノ酸残基および抗原結合ドメイン中の軽鎖Fv断片に連結されたCL領域のアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有するポリペプチド会合体が作製され得る。
【0174】
CH1領域とCL領域の電荷の制御
T細胞受容体結合ドメインの重鎖と軽鎖によりT細胞受容体結合ドメインのエピトープを認識し、また、抗原結合ドメインの重鎖と軽鎖により抗原のエピトープを認識するような二重特異性ポリペプチド会合体を取得したい場合、当該ポリペプチド会合体の生産に際して4種のそれぞれの鎖を発現させると理論上10種類のポリペプチド会合体分子が生産される可能性がある。
【0175】
この場合、例えば、T細胞受容体結合ドメインの重鎖と抗原結合ドメインの軽鎖および/または抗原結合ドメインの重鎖とT細胞受容体結合ドメインの軽鎖の間の会合を阻害するように制御すれば、所望のポリペプチド会合体分子を優先的に取得することが可能である。
【0176】
例えば、T細胞受容体結合ドメインの重鎖CH1と抗原結合ドメインの軽鎖CL間の界面を形成するアミノ酸残基を正の電荷を有するアミノ酸残基に改変し、抗原結合ドメインの重鎖CH1とT細胞受容体結合ドメインの軽鎖CL間の界面を形成するアミノ酸残基を負の電荷を有するアミノ酸残基に改変する例を挙げることができる。この改変により、目的としないT細胞受容体結合ドメインの重鎖CH1と抗原結合ドメインの軽鎖CLとの会合は界面を形成するアミノ酸残基がどちらも正電荷であるため阻害され、目的としない抗原結合ドメインの重鎖CH1とT細胞受容体結合ドメインの軽鎖CLとの会合は界面を形成するアミノ酸残基がどちらも負電荷であるため阻害される。その結果、目的とするT細胞受容体結合ドメインの重鎖CH1とT細胞受容体結合ドメインの軽鎖CLとの会合及び目的とする抗原結合ドメインの重鎖CH1と抗原結合ドメインの軽鎖CLとの会合が生じた本発明のポリペプチド会合体が効率的に取得され得る。また、好適には、目的とするT細胞受容体結合ドメインの重鎖とT細胞受容体結合ドメインの軽鎖との会合は、界面を形成するアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有するために促進され、目的とする抗原結合ドメインの重鎖と抗原結合ドメインの軽鎖との会合も界面を形成するアミノ酸残基が互いに異種の電荷を有するため促進される。その結果、目的とする会合が生じた本発明のポリペプチド会合体が効率的に取得され得る。
【0177】
また、本発明の会合制御を利用することにより、CH1同士(T細胞受容体結合ドメインの重鎖と抗原結合ドメインの重鎖)、あるいは、CL同士(T細胞受容体結合ドメインの軽鎖と抗原結合ドメインの軽鎖)の会合を抑制することも可能である。
【0178】
当業者であれば、本発明によって会合を制御したい所望のポリペプチド会合体について、会合した際のCH1とCLの界面において接近するアミノ酸残基の種類を適宜知ることが可能である。
【0179】
また、ヒト、サル、マウス及びウサギ等の生物において、抗体のCH1又はCLとして利用可能な配列を、当業者は、公共のデータベース等を利用して適宜取得することができる。より具体的には、後述の実施例に記載の手段にて、CH1又はCLのアミノ酸配列情報が取得され得る。
【0180】
例えば、後述の実施例で示されるように、T細胞受容体結合ドメインまたは抗原結合ドメインを構成するVHおよびVLにそれぞれ連結するCH1とCLが会合する際のCH1とCLの界面において接近(相対または接触)するアミノ酸残基の具体例として、以下の組合せが挙げられる。
・CH1のEUナンバリング147位(例えば、配列番号:1に記載のアミノ酸配列における147位)のリジン(K)と、相対(接触)するCLのEUナンバリング180位のスレオニン(T)
・CH1のEUナンバリング147位のリジン(K)と、相対(接触)するCLのEUナンバリング131位のセリン(S)
・CH1のEUナンバリング147位のリジン(K)と、相対(接触)するCLのEUナンバリング164位のスレオニン(T)
・CH1のEUナンバリング147位のリジン(K)と、相対(接触)するCLのEUナンバリング138位のアスパラギン(N)
・CH1のEUナンバリング147位のリジン(K)と、相対(接触)するCLのEUナンバリング123位のグルタミン酸(E)
・CH1のEUナンバリング175位のグルタミン(Q)と、相対(接触)するCLのEUナンバリング160位のグルタミン(Q)
・CH1のEUナンバリング213位のリジン(K)と、相対(接触)するCLのEUナンバリング123位のグルタミン酸(E)
なお、これら部位のナンバリングについては、Kabatらの文献(Kabat EA et al. 1991. Sequence of Proteins of Immunological Interest. NIH)を参考にしている。
また、本発明におけるEUナンバリングとして記載された番号は、EU numbering(Sequences of proteins of immunological interest, NIH Publication No.91-3242)にしたがって記載した ものである。なお本発明において、「EUナンバリングX位のアミノ酸残基」、「EUナンバリングX位のアミノ酸」(Xは任意の数)は、「EUナンバリングX位に相当するアミノ酸残基」、「EUナンバリングX位に相当するアミノ酸」と読みかえることも可能である。
【0181】
後述の実施例で示すように、これらアミノ酸残基を改変し、本発明の方法を実施することにより、所望のポリペプチド会合体が優先的に取得され得る。
【0182】
これらアミノ酸残基は、ヒトおよびマウスにおいて高度に保存されていることが知られている(J. Mol. Recognit. (2003) 16, 113-120)ことから、実施例に示すポリペプチド会合体以外のCH1とCLの会合についても、上記アミノ酸残基に対応するアミノ酸残基を改変することによって、本発明のポリペプチド会合体の定常領域の会合が制御され得る。
【0183】
即ち、本発明は、重鎖と軽鎖の会合が制御されたポリペプチド会合体であって、以下の(a)〜(f)に示すアミノ酸残基の組からなる群より選択される1組または2組以上のアミノ酸残基が同種の電荷を有するポリペプチド会合体を提供する;
(a)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング180位のアミノ酸残基、
(b)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング131位のアミノ酸残基、
(c)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング164位のアミノ酸残基、
(d)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング138位のアミノ酸残基、
(e)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング147位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基、
(f)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング175位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング160位のアミノ酸残基。
【0184】
本発明の別の態様として、さらに、以下の(g)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が同種の電荷である抗体を提供する;
(g)CH1に含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング213位のアミノ酸残基、及びCLに含まれるアミノ酸残基であってEUナンバリング123位のアミノ酸残基。
【0185】
上記組合せに記載のそれぞれのアミノ酸残基は、後述の実施例に示すように、会合した際に互いに接近している。当業者は、所望のCH1またはCLについて、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(a)〜(g)に記載のアミノ酸残基に対応する部位を見出すことができ、適宜、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
【0186】
上記抗体において、「電荷を有するアミノ酸残基」は、例えば、以下の(X)または(Y)のいずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択されることが好ましい;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。
【0187】
上記ポリペプチド会合体において、「同種の電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のいずれもが、上記(X)または(Y)のいずれか1の群に含まれるアミノ酸残基を有することを意味する。「反対の電荷を有する」とは、例えば、2つ以上のアミノ酸残基のなかの少なくとも1つのアミノ酸残基が、上記(X)または(Y)のいずれか1の群に含まれるアミノ酸残基を有する場合に、残りのアミノ酸残基が異なる群に含まれるアミノ酸残基を有することを意味する。
【0188】
また、上述のポリペプチド会合体の製造方法、および、上記(a)〜(g)に示すアミノ酸残基の組のアミノ酸残基が同種の電荷を有するアミノ酸残基となるように改変する本発明の会合制御方法もまた、本発明の好ましい態様である。
【0189】
本発明において「改変」に供するアミノ酸残基としては、上述した定常領域のアミノ酸残基に限られない。当業者であれば、ポリペプチド変異体または異種多量体について、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、界面を形成するアミノ酸残基を見出すことができ、会合を制御するように、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
【0190】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面に電荷的な反発を導入して目的としない重鎖と軽鎖の会合を抑制させる技術において、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の界面で接触するアミノ酸残基としては、例えば、重鎖可変領域FR2の39位(例えば、WO2006/106905において配列番号:6として記載されたアミノ酸配列における39番目)のグルタミン(Q)と、相対(接触)する軽鎖可変領域FR2の38位(例えば、WO2006/106905において配列番号:8として記載されたアミノ酸配列における44番目)のグルタミン(Q)が挙げられ得る。さらに、重鎖可変領域FR2の45位(例えば、WO2006/106905において配列番号:6として記載されたアミノ酸配列における45番目)のロイシン(L)と、相対する軽鎖可変領域FR2の44位(例えば、WO2006/106905において配列番号:8に記載のアミノ酸配列における50番目)のプロリン(P)が好適に例示され得る。なお、これら部位のナンバリングについては、Kabatらの文献(Kabat EA et al. 1991. Sequence of Proteins of Immunological Interest. NIH)を参考にしている。
【0191】
これらアミノ酸残基は、ヒトおよびマウスにおいて高度に保存されていることが知られている(J. Mol. Recognit. (2003) 16, 113-120)ことから、実施例に示すポリペプチド会合体以外のVHとVLの会合についても、上記アミノ酸残基に対応するアミノ酸残基を改変することによって、抗体の可変領域の会合が制御され得る。
【0192】
より具体的には、重鎖可変領域および軽鎖可変領域を含む抗体においては、以下の(1)と(2)、または、(3)と(4)のアミノ酸残基が同種の電荷を有するアミノ酸残基である抗体とすることが挙げられ得る;
(1)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング39位に相当するアミノ酸残基、
(2)軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング38位に相当するアミノ酸残基、
(3)重鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング45位に相当するアミノ酸残基、
(4)軽鎖可変領域に含まれるアミノ酸残基であって、EUナンバリング44位に相当するアミノ酸残基。
【0193】
上記(1)と(2)、(3)と(4)に記載のそれぞれのアミノ酸残基は、会合した際に互いに接近している。当業者は、所望の重鎖可変領域または軽鎖可変領域について、市販のソフトウェアを用いたホモロジーモデリング等により、上記(1)〜(4)に記載のアミノ酸残基に対応する部位を見出すことができ、適宜、該部位のアミノ酸残基を改変に供することが可能である。
【0194】
上記抗体において、「電荷を有するアミノ酸残基」は、例えば、以下の(X)または(Y)のいずれかの群に含まれるアミノ酸残基から選択されることが好ましい;
(X)グルタミン酸(E)、アスパラギン酸(D)、
(Y)リジン(K)、アルギニン(R)、ヒスチジン(H)。
【0195】
上記(1)〜(4)に記載のアミノ酸残基は、通常、ヒトおよびマウスにおいてはそれぞれ
(1)グルタミン(Q)、
(2)グルタミン(Q)、
(3)ロイシン(L)、
(4)プロリン(P)
である。従って本発明の好ましい態様においては、これらアミノ酸残基が改変(例えば、電荷アミノ酸への置換)に供される。なお、上記(1)〜(4)のアミノ酸残基の種類は、必ずしも上記のアミノ酸残基に限定されず、該アミノ酸に相当する他のアミノ酸であってもよい。例えば、軽鎖可変領域上のEUナンバリング38位に相当するアミノ酸として、ヒトの場合、例えば、ヒスチジン(H)であってもよい。当業者は、公知文献等(例えば、J. Mol. Recognit. (2003) 16, 113-120)を参照することにより、軽鎖の任意の位置について、その位置に相当するアミノ酸残基の種類を知ることが可能であり、適宜、当該アミノ酸残基について改変(例えば、電荷アミノ酸へ置換)することができる。
【0196】
重鎖可変領域と軽鎖可変領域の界面に存在する疎水性コアを形成するアミノ酸残基を電荷を有する極性アミノ酸へ改変して、目的としない重鎖と軽鎖の会合を抑制する技術において、重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)の界面で疎水性コアを形成し得るアミノ酸残基としては、例えば、重鎖可変領域上の45位のロイシン(L)と、相対する軽鎖可変領域上の44位のプロリン(P)を好適に例示することができる。
【0197】
一般的に、「疎水性コア(hydrophobic core)」とは、会合したポリペプチドの内側に疎水性アミノ酸の側鎖が集合して形成する部分を指す。疎水性アミノ酸には、例えばアラニン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、トリプトファン、バリンなどが含まれる。また、疎水コアの形成には、疎水性アミノ酸以外のアミノ酸残基(例えばチロシン)が関わることもある。この疎水性コアは、親水性アミノ酸の側鎖が外側に露出する親水性表面とともに、水溶性のポリペプチドの会合を進める駆動力となる。異なる2つのドメインの疎水性アミノ酸が分子表面に存在し、水分子に暴露されるとエントロピーが増大し自由エネルギーが増大してしまう。よって、2つのドメインは自由エネルギーを減少させ、安定化するために、互いに会合し、界面の疎水性アミノ酸は分子内部に埋もれ、疎水コアを形成することになる。
【0198】
ポリペプチドの会合が起こる際に、疎水性コアを形成する疎水性アミノ酸からを電荷を持つ極性アミノ酸へ改変することにより、疎水性コアの形成が阻害され、その結果、ポリペプチドの会合が阻害されるものと考えられる。
【0199】
本発明のポリペプチド会合体には、さらに他の公知技術を適用することができる。例えば、第一のVH(VH1)と第一のVL(VL1)、および/または第二のVH(VH2)と第二のVL(VL2)の会合が促進されるように、本発明の「改変」に加えて、一方のH鎖の可変領域に存在するアミノ酸側鎖をより大きい側鎖(knob; 突起)に置換し、もう一方のH鎖の相対する可変領域に存在するアミノ酸側鎖をより小さい側鎖(hole; 空隙)に置換することによって、突起が空隙に配置され得るようにしてVH1とVL1、および/またはVH2とVL2の会合を促進させ、結果的にVH1とVL2、および/またはVH2とVL1のポリペプチド間の会合をさらに抑制することが可能である(WO1996/027011、Ridgway JB et al., Protein Engineering (1996) 9, 617-621、Merchant AM et al. Nature Biotechnology (1998) 16, 677-681)。
【0200】
上記のポリペプチド会合体を作製するに際して、各ドメインは直接ペプチド結合で結合される他、各ドメインはペプチドリンカーを介したペプチド結合で結合され得る。この場合において、採用されるリンカーとしては上記で例示されるリンカーの他、例えばHisタグ、HAタグ、mycタグ、FLAGタグ等のペプチドタグを有するリンカーも適宜使用され得る。また、水素結合、ジスルフィド結合、共有結合、イオン性相互作用またはこれらの結合の組合せにより互いに結合する性質もまた好適に利用され得る。例えば、抗体のCH1とCL間の親和性が利用されたり、ヘテロFc領域の会合に際して前述の二重特異性抗体を起源とするFc領域が用いられたりする。さらに、実施例で記載されるように、ドメイン間に形成されるジスルフィド結合もまた好適に利用され得る。
【0201】
本発明に係るポリペプチド会合体として、例えば
図17、
図19および
図24に記載される態様が挙げられる。
【0202】
本発明に係るポリペプチド会合体は前記組換え抗体の製造方法と同じ手法により作製される。
【0203】
また本発明は、本発明のポリペプチド会合体をコードするポリヌクレオチドに関する。本発明のポリペプチド会合体は、任意の発現ベクターに組み込むことができる。発現ベクターで適当な宿主を形質転換し、ポリペプチド会合体の発現細胞とすることができる。ポリペプチド会合体の発現細胞を培養し、培養上清から発現産物を回収すれば、当該ポリヌクレオチドによってコードされるポリペプチド会合体を取得することができる。即ち本発明は、本発明のポリペプチド会合体をコードするポリヌクレオチドを含むベクター、当該ベクターを保持する細胞、および当該細胞を培養し培養上清からポリペプチド会合体を回収することを含むポリペプチド会合体の製造方法に関する。これらは例えば、前記組換え抗体と同様の手法により得ることができる。
【0204】
医薬組成物
別の観点においては、本発明は、(1)抗原結合ドメイン(2)Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメイン、及び(3)CD3結合ドメイン、を含むポリペプチド会合体を有効成分として含有する医薬組成物を提供する。又、本発明は当該会合体を有効成分として含有する細胞傷害を誘導する治療剤(細胞傷害誘導治療剤)、細胞増殖抑制剤および抗癌剤に関する。本発明の医薬組成物は、癌治療剤あるいは癌予防剤として用いることもできる。本発明の細胞傷害誘導治療剤、細胞増殖抑制剤および抗癌剤は、癌を罹患している対象または再発する可能性がある対象に投与されることが好ましい。
【0205】
また、本発明において、
(1)抗原結合ドメイン、
(2)Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメイン、及び
(3)CD3結合ドメイン、
を含むポリペプチド会合体を有効成分として含有する、細胞傷害誘導治療剤、細胞増殖抑制剤および抗癌剤は、当該ポリペプチド会合体を対象に投与する工程を含む癌を予防または治療する方法、または、細胞傷害誘導治療剤、細胞増殖抑制剤および抗癌剤の製造における当該ポリペプチド会合体の使用と表現することもできる。
【0206】
本発明において、「(1)抗原結合ドメイン、(2)Fcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域を含むドメイン、及び(3)CD3結合ドメイン、を含むポリペプチド会合体を有効成分として含有する」とは、当該ポリペプチド会合体を主要な活性成分として含むという意味であり、当該ポリペプチド会合体の含有率を制限するものではない。
【0207】
更に本発明における医薬組成物、あるいは細胞傷害誘導治療剤、細胞増殖抑制剤および抗癌剤には、必要に応じて複数種類のポリペプチド会合体が配合され得る。たとえば、同一の抗原に結合する複数の本発明のポリペプチド会合体のカクテルとすることによって、当該抗原を発現する細胞に対する細胞傷害作用を強化できる可能性がある。あるいは、一つの抗原に対する抗原結合ドメインを含む本発明のポリペプチド会合体に加えて、他の癌抗原に結合する抗原結合ドメインを含む本発明のポリペプチド会合体を配合することにより、治療効果が高められる。
【0208】
また、必要に応じ本発明のポリペプチド会合体はマイクロカプセル(ヒドロキシメチルセルロース、ゼラチン、ポリ[メチルメタクリル酸]等のマイクロカプセル)に封入され、コロイドドラッグデリバリーシステム(リポソーム、アルブミンミクロスフェア、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル等)とされ得る("Remington’s Pharmaceutical Science 16
th edition", Oslo Ed. (1980)等参照)。さらに、薬剤を徐放性の薬剤とする方法も公知であり、当該方法は本発明のポリペプチド会合体に適用され得る(J.Biomed.Mater.Res. (1981) 15, 267-277、Chemtech. (1982) 12, 98-105、米国特許第3773719号、欧州特許公開公報EP58481号・EP133988号、Biopolymers (1983) 22, 547-556)。
【0209】
本発明の医薬組成物、あるいは細胞増殖抑制剤および抗癌剤は、経口、非経口投与のいずれかによって患者に投与することができる。好ましくは非経口投与である。係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられる。例えば注射投与によって本発明の医薬組成物、あるいは細胞傷害誘導治療剤、細胞増殖抑制剤および抗癌剤が全身または局部的に投与できる。また、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001 mg/bodyから100000 mg/bodyの範囲で投与量が選択され得る。しかしながら、本発明の医薬組成物はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0210】
本発明の医薬組成物は、常法に従って製剤化することができ(例えば、Remington's Pharmaceutical Science, latest edition, Mark Publishing Company, Easton, U.S.A)、医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。例えば界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等が挙げられる。更にこれらに制限されず、その他常用の担体が適宜使用できる。具体的には、軽質無水ケイ酸、乳糖、結晶セルロース、マンニトール、デンプン、カルメロースカルシウム、カルメロースナトリウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリビニルアセタールジエチルアミノアセテート、ポリビニルピロリドン、ゼラチン、中鎖脂肪酸トリグリセライド、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油60、白糖、カルボキシメチルセルロース、コーンスターチ、無機塩類等を担体として挙げることができる。
【0211】
また、本発明は、ある癌抗原を発現細胞と当該癌抗原に結合する本発明のポリペプチド会合体とを接触させることにより当該癌抗原の発現細胞に傷害を引き起こす方法、又は細胞の増殖を抑制する方法を提供する。当該癌抗原に結合するモノクローナル抗体は、本発明の細胞傷害誘導治療剤、細胞増殖抑制剤および抗癌剤に含有される当該癌抗原に結合する本発明のポリペプチド会合体として上述したとおりである。当該癌抗原に結合する本発明のポリペプチド会合体が結合する細胞は、当該癌抗原が発現している細胞であれば特に限定されない。本発明における好ましい当該癌抗原の発現細胞は、具体的には、卵巣癌、前立腺癌、乳癌、子宮癌、肝癌、肺癌、膵臓癌、胃癌、膀胱癌、及び大腸癌細胞等が好適に挙げられる。癌抗原がGPC3である場合には、GPC3を発現している癌細胞であれば限定はされないが、肝細胞癌、肺癌、卵巣癌、等が好適な癌細胞として挙げられる。
【0212】
本発明において「接触」は、例えば、試験管内で培養している癌抗原発現細胞の培養液に、当該癌抗原に結合する本発明のポリペプチド会合体を添加することにより行われる。この場合において、添加されるポリペプチド会合体の形状としては、溶液又は凍結乾燥等により得られる固体等の形状が適宜使用され得る。水溶液として添加される場合にあっては純粋に本発明のポリペプチド会合体のみを含有する水溶液であり得るし、例えば上記記載の界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含む溶液でもあり得る。添加する濃度は特に限定されないが、培養液中の最終濃度として、好ましくは1 pg/mlから1 g/mlの範囲であり、より好ましくは1 ng/mlから1 mg/mlであり、更に好ましくは1μg/mlから1 mg/mlが好適に使用され得る。
【0213】
また本発明において「接触」は更に、別の態様では、癌抗原の発現細胞を体内に移植した非ヒト動物や、内在的に当該癌抗原を発現する癌細胞を有する動物に投与することによっても行われる。投与方法は経口、非経口投与のいずれかによって実施できる。特に好ましくは非経口投与による投与方法であり、係る投与方法としては具体的には、注射投与、経鼻投与、経肺投与、経皮投与などが挙げられる。注射投与としては、例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などが挙げられる。例えば注射投与によって本発明の医薬組成物、あるいは細胞傷害誘導治療剤、細胞増殖阻害剤および抗癌剤が全身または局部的に投与できる。また、被験動物の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。水溶液として投与される場合にあっては純粋に本発明のポリペプチド会合体のみを含有する水溶液であってもよいし、例えば上記記載の界面活性剤、賦形剤、着色料、着香料、保存料、安定剤、緩衝剤、懸濁剤、等張化剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、流動性促進剤、矯味剤等を含む溶液であってもよい。投与量としては、例えば、一回の投与につき体重1 kgあたり0.0001 mgから1000 mgの範囲で投与量が選択できる。あるいは、例えば、患者あたり0.001から100000 mg/bodyの範囲で投与量が選択できる。しかしながら、本発明のポリペプチド会合体投与量はこれらの投与量に制限されるものではない。
【0214】
本発明のポリペプチド会合体の接触によって当該ポリペプチド会合体を構成する抗原結合ドメインが結合する抗原を発現する細胞に引き起こされた細胞傷害を評価又は測定する方法として、以下の方法が好適に使用される。試験管内において該細胞傷害活性を評価又は測定する方法としては、細胞傷害性T細胞活性などの測定法を挙げることができる。本発明のポリペプチド会合体がT細胞性傷害活性を有するか否か、公知の方法により測定することができる(例えば、Current protocols in Immunology, Chapter 7. Immunologic studies in humans, Editor, John E, Coligan et al., John Wiley & Sons, Inc.,(1993)等)。活性の測定に際しては、本発明とはその抗原結合ドメインが結合する抗原が異なる抗原であって試験に使用する細胞が発現していない抗原に結合するポリペプチド会合体を、本発明のポリペプチド会合体と同様に対照として使用して、本発明のポリペプチド会合体が対照として使用されたポリペプチド会合体よりも強い細胞傷害活性を示すことにより活性が判定され得る。
【0215】
また、生体内で細胞傷害活性を評価又は測定するために、例えば本発明のポリペプチド会合体を構成する抗原結合ドメインが結合する抗原を発現する細胞を、非ヒト被験動物の皮内又は皮下に移植後、当日又は翌日から毎日又は数日間隔で被験ポリペプチド会合体を静脈又は腹腔内に投与される。腫瘍の大きさを経日的に測定することにより当該腫瘍の大きさの変化の差異が細胞傷害活性と規定され得る。試験管内での評価と同様に対照となるポリペプチド会合体が投与され、本発明のポリペプチド会合体の投与群における腫瘍の大きさが対照ポリペプチド会合体の投与群における腫瘍の大きさよりも有意に小さいことが細胞傷害活性を有すると判定され得る。
【0216】
本発明のポリペプチド会合体の接触による当該ポリペプチド会合体を構成する抗原結合ドメインが結合する抗原を発現する細胞の増殖に対する抑制効果を評価又は測定する方法としては、アイソトープラベルしたthymidineの細胞へ取込み測定やMTT法が好適に用いられる。また、生体内で細胞増殖抑制活性を評価又は測定する方法として、上記記載の生体内において細胞傷害活性を評価又は測定する方法と同じ方法を好適に用いることができる。
【0217】
また本発明は、本発明のポリペプチド会合体または本発明の製造方法により製造されたポリペプチド会合体を含む、本発明の方法に用いるためのキットを提供する。該キットには、その他、薬学的に許容される担体、媒体、使用方法を記載した指示書等をパッケージしておくことができる。
また本発明は、本発明の方法に使用するための、本発明のポリペプチド会合体または本発明の製造方法により製造されたポリペプチド会合体に関する。
【0218】
なお、本明細書において引用された全ての先行技術文献は、参照として本明細書に組み入れられる。
【実施例】
【0219】
以下に実施例により本発明をより詳細に説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を制限するものではない。
【0220】
〔実施例1〕GPC3 ERY2の作製と検討
(1)概容
生体内に投与されたタンパク質の血中半減期を延ばす方法としては、目的タンパク質に抗体のFcドメインを付加し、FcRnを介したリサイクリング機能を利用する方法が良く知られている。しかしこの際、天然型のFcをBiTEに付加すると、一つの分子がBiTE部分の抗CD3 scFvを介してT細胞と結合すると同時に、Fc部分を介してNK細胞、マクロファージなどの細胞膜上のFcgR(Fcγ受容体)と結合することにより、癌抗原非依存的にこれらの細胞を架橋することによって活性化させ、各種サイトカインの誘導につながる可能性があるものと考えられた。そこで、BiTEにポリペプチドリンカーを介してFcγ受容体に対する結合活性が低下しているFc領域(サイレント型Fc)を連結させた分子、ERY2が作製され、この活性をBiTEと比較する検証が行われた。肝臓癌細胞において高発現していることが知られているGPIアンカータンパクであるGlypican 3(GPC3)に対する抗体のscFvとCD3 epsilonに対する抗体のscFvを短いペプチドリンカーで連結することによって、GPC3に対するBiTE(GPC3 BiTE)が作製された(
図17A)。ついで、これにサイレント型Fcを連結したGPC3に対するERY2(GPC3 ERY2)が作製された(
図17C)。また、比較として通常のIgG型抗GPC3抗体が作製された。この際、IgG型抗GPC3抗体は、ADCC活性がより増強することが知られている、糖鎖部分においてフコース含量を低減させた抗体、すなわち低フコース型抗体として調製された。
【0221】
(2)GPC3 BiTEの作製
抗GPC3抗体の発現ベクターを鋳型として用いることによって、PCR法により増幅されたH鎖可変領域(anti-GPC3 VH)、L鎖可変領域(anti-GPC3 VL)をコードするcDNAがそれぞれ取得された。適切な配列を付加したプライマー及び当該cDNAを鋳型として用いたPCR法により、anti-GPC3 VHとanti-GPC3 VLとがGly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7)を3回繰り返す配列からなるリンカーによって連結されたアミノ酸配列を有するanti-GPC3 scFvをコードするcDNA断片が作製された。
【0222】
また、抗CD3抗体(M12)のH鎖可変領域(M12 VH)、及びL鎖可変領域(M12 VL)の部分配列をコードする塩基配列を有し、その末端配列が相補的配列を有する一連のオリゴヌクレオチドが作製された。ポリメラーゼ反応によってこれら一連のオリゴヌクレオチドがその相補的配列部分を介して連結され当該H鎖可変領域(M12 VH)、及びL鎖可変領域(M12 VL)に相当するポリヌクレオチドが合成されるように設計された。当該オリゴヌクレオチドが混合された後、PCR法によってこれらのオリゴヌクレオチドが連結され、各可変領域のアミノ酸配列をコードする2つのcDNAが取得された。適切な配列を付加したプライマー及びこれらのcDNAを鋳型として用いたPCR法により、M12 VLとM12 VHとがGly・Gly・Gly・Gly・Ser(配列番号:7)を3回繰り返す配列からなるリンカーによって連結されたアミノ酸配列を有するM12 scFvをコードするcDNA断片が作製された。
【0223】
次に、適切な配列を付加したプライマー及びanti-GPC3 scFvとM12 scFvをそれぞれコードするcDNA断片を鋳型として用いたPCR法により、anti-GPC3 scFvとM12 scFvとがGly・Gly・Gly・Gly・Ser配列(配列番号:7)からなるリンカーによって連結され、かつそのC末端にHisタグ(8個のHis)が付加された(配列番号:33で記載されるアミノ末端の19アミノ酸を除く)アミノ酸配列をコードするcDNA断片が作製された。
【0224】
適切な配列を付加したプライマー及び配列番号:33で記載されるアミノ末端の19アミノ酸を除くアミノ酸配列をコードするcDNA断片を鋳型として用いたPCR法により、当該cDNA断片の5’側にEcoRI切断配列、kozac配列、及び分泌シグナル配列をコードする塩基配列が付加され、またその3’側にNot I切断配列が付加されたcDNA断片が作製された。このcDNA断片を、EcoRI、NotIで切断し、哺乳動物細胞用発現ベクターに組み込むことによって、GPC3 BiTE(配列番号:33、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)の発現ベクターを取得した。
【0225】
当該ベクターがエレクトロポレーション法によってCHO細胞DG44株へ遺伝子導入された。限界希釈後に1 mg/mL Geneticine存在下で遺伝子導入された細胞を培養することによって薬剤耐性細胞株が単離された。Hisタグに対する抗体を用いて、得られた細胞株の培養上清に対するウエスタンブロット解析を行なうことにより、GPC3 BiTEを発現する細胞株が選択された。
【0226】
前記細胞株を大量に培養することによって得られた培養上清がSP Sepharose FFカラム(GE Healthcare社)に添加された。当該カラムの洗浄後、GPC3 BiTEを含む画分がNaClの濃度勾配によって溶出された。さらに当該画分がHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に添加された。当該カラムの洗浄後、GPC3 BiTEを含む画分がイミダゾールの濃度勾配によって溶出された。当該画分が限外ろ過膜で濃縮された後に、濃縮液がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加された。単量体のGPC3 BiTE画分のみを回収することにより精製GPC3 BiTEが得られた。
【0227】
(3)GPC3 ERY2の作製
上記した方法と同様の適切な配列が付加されたプライマーを用いたPCR法、およびQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)を用いた方法等の当業者において公知の方法によって、GPC3 ERY2_Hk(配列番号:34、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、およびGPC3 ERY2_Hh(配列番号:35、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された発現ベクターが作製された。
【0228】
これらの発現ベクターがFreeStyle293-F細胞(Invitrogen社)に共に導入され、一過性にGPC3 ERY2が発現させた。得られた培養上清がAnti FLAG M2カラム(Sigma社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAGペプチド(Sigma社)による溶出が実施された。GPC3 ERY2を含む画分がHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。GPC3 ERY2を含む画分が限外ろ過膜で濃縮された後、濃縮液がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加され、その溶出液の単量体のGPC3 ERY2画分のみを回収することにより精製GPC3 ERY2が得られた。
【0229】
(4)低フコース型抗GPC3抗体の作製
抗GPC3抗体(WO2006/006693においてヒト化GC33抗体として記載されている)の発現ベクターがエレクトロポレーション法によってGDPフコースノックアウトCHO細胞DXB11株(Cancer Sci. (2010) 101(10), 2227-33)に遺伝子導入された。限界希釈後に0.5 mg/mL Geneticine存在下で培養することにより薬剤耐性株が選択され、低フコース型抗GPC3抗体発現株が得られた。この細胞を培養して調製した培養上清より、Hitrap
(R) ProteinA(Pharmacia社)を用いた通常のアフィニティー精製により抗体画分が調製された。次に当該抗体画分がSuperdex 20026/60(Pharmacia社)を用いたゲルろ過精製に供され、溶出液のモノマー画分を分取することによって低フコース型GPC3抗体が得られた。
【0230】
(5)ヒト末梢血単核球を用いた細胞傷害活性の測定
(5−1)ヒト末梢血単核球(PBMC)溶液の調製
1,000単位/mLのヘパリン溶液(ノボ・ヘパリン注5千単位,ノボ・ノルディスク社)をあらかじめ100μL注入した注射器を用い、健常人ボランティア(成人)より末梢血50 mLが採取された。PBS(-)で2倍希釈した後に4等分された末梢血が、15 mLのFicoll-Paque PLUSをあらかじめ注入して遠心操作が行なわれたLeucosepリンパ球分離管(Cat. No. 227290、Greiner bio-one社)に加えられた。当該分離管の遠心分離(2,150 rpm、10分間、室温)の後、単核球画分層が分取された。10%FBSを含むDulbecco’s Modified Eagle’s Medium(SIGMA社、以下10%FBS/D-MEM)で1回単核球画分の細胞が洗浄された後、当該細胞は10%FBS/D-MEMを用いてその細胞密度が4×10
6 /mLに調製された。このように調製された細胞溶液がヒトPBMC溶液として以後の試験に用いられた。
【0231】
(5−2)細胞傷害活性の測定
細胞傷害活性はxCELLigenceリアルタイムセルアナライザー(ロシュ・ダイアグノスティックス社)を用いた細胞増殖抑制率で評価された。標的細胞にはSK-HEP-1細胞株にヒトGPC3を強制発現させて樹立したSK-pca13a細胞株が用いられた。SK-pca13aをディッシュから剥離し、1×10
4 cells/wellとなるようにE-Plate 96(ロシュ・ダイアグノスティックス社)プレートに100μL/wellで播き、xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーを用いて生細胞の測定が開始された。翌日xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーからプレートを取り出し、当該プレートに各濃度(0.004、0.04、0.4、4 nM)に調製した各抗体50μLが添加された。室温にて15分間反応させた後に(5−1)で調製されたヒトPBMC溶液50μL(2×10
5 cells/well)が加えられ、xCELLigenceリアルタイムセルアナライザーに当該プレートを再セットすることによって、生細胞の測定が開始された。反応は5%炭酸ガス、37℃条件下にて行われ、ヒトPBMC添加72時間後のCell Index値から、下式により細胞増殖抑制率(%)が求められた。なお計算に用いたCell Index値は、抗体添加直前のCell Index値が1となるようにノーマライズした後の数値が用いられた。
【0232】
細胞増殖抑制率(%)=(A-B)×100/(A-1)
【0233】
Aは抗体を添加していないウェルにおけるCell Index値の平均値(標的細胞とヒトPBMCのみ)、Bは各ウェルにおけるCell Index値の平均値を示す。試験はtriplicateにて行なわれた。
【0234】
ヒト血液より調製したPBMC(Peripheral Blood Mononuclear Cell)をエフェクター細胞としてGPC3 BiTE、GPC3 ERY2、およびIgG型GPC3抗体の細胞傷害活性を測定したところ、GPC3 BiTEには極めて強い活性が認められた(
図1)。この活性は低フコース型抗GPC3抗体よりもはるかに強いものであり、GPC3 BiTEはIgG型抗体を凌駕する優れた癌治療薬となり得るものと考えられた。一方、GPC3 ERY2にはIgG型抗GPC3抗体を上回る活性が見られたものの、GPC3 BiTEの活性には及ばなかった。このことより、単にFcをBiTEに付加するだけでは目的とする分子を創製することができないものと考えられた。
【0235】
〔実施例2〕GPC3 ERY5、GPC3 ERY6、GPC3 ERY7の作製と検討
次に、癌抗原(GPC3)への結合ドメインを2価にすることにより、より癌細胞に対する結合活性を高めることで比活性を向上させることを試みた。GPC3 ERY2にさらにGPC3に対するscFvをもう一つ付加した形のGPC3 ERY5(
図17D)、付加するGPC3に対する結合ドメインをscFvではなくFabの形にしたGPC3 ERY7(
図17F)がそれぞれ作製された。また、GPC3 ERY5のCD3 epsilonに対するscFvを両腕に分離した形のGPC3 ERY6(
図17E)も作製された。
【0236】
すなわち、上記した方法と同様の適切な配列が付加されたプライマーを用いたPCR法等の当業者において公知の方法により、GPC3 ERY5_Hh、GPC3 ERY6_Hk、GPC3 ERY6_Hh、GPC3 ERY7_Hh、GPC3 ERY7_Lをそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。
【0237】
以下に示す組み合わせの発現ベクターがFreeStyle293-F細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。
【0238】
A.目的分子:GPC3 ERY5
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY5_Hh(配列番号:36、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY2_Hk
【0239】
B.目的分子:GPC3 ERY6
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY6_Hk(配列番号:37、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY6_Hh(配列番号:38、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0240】
C.目的分子:GPC3 ERY7
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY7_Hh(配列番号:39、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY7_L(配列番号:40、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY2_Hk
【0241】
得られた培養上清がAnti FLAG M2カラム(Sigma社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAGペプチド(Sigma社)による溶出が行われた。目的分子を含む画分がHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過膜で濃縮された後、当該画分がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。
【0242】
これらのポリペプチド会合体とGPC3 BiTEとの細胞傷害活性の比較が行なわれた。その結果、これらのポリペプチド会合体の細胞傷害活性はいずれもGPC3 BiTEの活性に及ばないことが明らかとなった(
図2〜4)。このことから、BiTEの構造、あるいはそれを模倣した構造にFcを付加し、さらに癌抗原に対して2価で結合する構成のみでは目的とする分子を創製することができないものと考えられた。
【0243】
〔実施例3〕GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1の作製と検討
(1)GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1の作製
次に、BiTEの構造を持たずに目的の活性を持つ分子の創製が試みられた。癌抗原(GPC3)に対するIgGを基本骨格とし、これにCD3 epsilonに対するscFvを付加した形の分子が作製された。この際、基本骨格とするIgGのFcとしては、上述した場合と同様に、FcgR(Fcγ受容体)への結合性が減弱されたサイレント型Fcが用いられた。CD3 epsilonに対するscFvが抗GPC3抗体IgGのH鎖のN末に付加されたGPC3 ERY8-2(
図17G)、H鎖のC末に付加されたGPC3 ERY10-1(
図17I)、L鎖のC末に付加されたGPC3 ERY9-1(
図17H)がそれぞれ作製された。
【0244】
すなわち、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いたPCR法等の当業者において公知の方法により、GPC3 ERY8-2_Hk(配列番号:41、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY8-2_Hh(配列番号:42、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_H(配列番号:43、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_ L-His(配列番号:44、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_ L-FLAG(配列番号:45、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY10-1_Hh(配列番号:46、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。
【0245】
以下に示す組み合わせの発現ベクターがFreeStyle293-F細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。
【0246】
D.目的分子:GPC3 ERY8-2
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY8-2_Hk(配列番号:41、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY8-2_Hh(配列番号:42、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY7_L
【0247】
E.目的分子:GPC3 ERY9-1
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY9-1_H(配列番号:43、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_L-His(配列番号:44、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY9-1_L-FLAG(配列番号:45、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0248】
F.目的分子:GPC3 ERY10-1
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY10-1_Hh(配列番号:46、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY8-2_Hk、GPC3 ERY7_L
【0249】
得られた培養上清がAnti FLAG M2カラム(Sigma社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAGペプチド(Sigma社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。
【0250】
これらの分子についてin vitroの細胞傷害活性を調べたところ、いずれの分子もGPC3 BiTEと同等以上の細胞傷害活性を示すことが明らかとなった(
図5)。特に、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1は、明らかにGPC3 BiTEを上回る細胞傷害活性が認められた。本発明において、癌抗原に対するIgGにCD3 epsilonに対するscFvを付加する分子においてもBiTEと同等以上の細胞傷害活性を持つことが初めて明らかとなった。特に、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1のように癌抗原に対する結合ドメインとCD3 epsilonに対する結合ドメインの距離が大きい分子において、BiTEよりも明らかに強い細胞傷害活性が見られたことは予想外の結果であった。
【0251】
(2)GPC3 ERY8-2、及び、GPC3 ERY10-1の in vivo薬効の評価:
(1)で記載されたin vitroのアッセイでGPC3 BiTEと同等以上の細胞傷害活性が認められたGPC3 ERY8-2、及び、GPC3 ERY10-1のin vivoの薬効の評価が行なわれた。GPC3を発現するヒト肺癌細胞株であるPC-10がヒトPBMCと混合されNOD scidマウスに移植された。当該マウスに対してGPC3 ERY8-2、あるいはGPC3 ERY10-1の投与による治療が行なわれた(pre-mixモデルと指称される)。
【0252】
すなわち、GPC3 ERY8-2のPC-10 pre-mixモデルによる薬効試験においては、下記のような試験が実施された。健常人ボランティアより採取した血液から分離されたPBMCから、CD56 MicroBeads, human (MCAS Miltenyi biotec社)を用いてNK細胞が除去された。ヒト肺扁平上皮がん細胞株PC-10(免疫生物研究所)5×10
6細胞と、NK細胞が除去されたヒトPBMC 4.5×10
6細胞、およびマトリゲル基底膜マトリックス(BD社)が混和され、NOD scidマウス(日本クレア、雌、7W)のそけい部皮下に移植された。移植の日をday 0とした。マウスには移植前日に抗アシアロGM1抗体(和光純薬)が0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植2時間後にGPC ERY8-2が30μg/匹で腹腔内投与された。GPC ERY8-2の投与がday 0〜4までの間、計5回行われた。
【0253】
また、GPC3 ERY10-1のPC-10 pre-mixモデルによる薬効試験においては、下記のような試験が実施された。健常人ボランティアより採取した血液から分離されたPBMCから、CD56 MicroBeads, human (MACS Miltenyi biotec社)を用いてNK細胞が除去された。ヒト肺扁平上皮がん細胞株PC-10(免疫生物研究所) 5×10
6細胞と、NK細胞が除去されたヒトPBMC 4.5×10
6細胞、およびマトリゲル基底膜マトリックス(BD社)が混和され、NOD scidマウス(日本クレア、雌、7W)のそけい部皮下に移植された。移植の日をday 0とした。マウスには移植前日に抗アシアロGM1抗体(和光純薬)が0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植2時間後にGPC ERY10-1が30μg/匹で腹腔内投与された。GPC ERY10-1の投与がday 0〜4、day 7〜11、day 14〜16の間、計13回行われた。
【0254】
その結果、GPC3 ERY8-2、あるいはGPC3 ERY10-1投与群においては、コントロールである溶媒(PBS)投与群と比べて明らかに腫瘍の増殖が抑制されることが明らかとなった(
図6および7)。
【0255】
また、別のモデルにおいてもGPC3 ERY10-1によるin vivo薬効の評価が行なわれた。すなわち、移植されたPC-10による腫瘍の形成が確認されたNOD scidマウスに、in vitroでヒトPBMCを培養することにより増殖させたT細胞が移入された。当該マウスに対してGPC3 ERY10-1を投与することによる治療が行なわれた(T細胞移入モデルと指称される)。
【0256】
すなわち、GPC3 ERY10-1のPC-10 T細胞移入モデルによる薬効試験においては、下記のような試験が行われた。健常人ボランティアより採取した血液から分離されたPBMC及びT cell activation/ expansion kit/ human(MACS Miltenyi biotec社)を用いてT細胞の拡大培養が行なわれた。ヒト肺扁平上皮がん細胞株PC-10(免疫生物研究所) 1×10
7細胞と、マトリゲル基底膜マトリックス(BD社)が混和され、NOD scidマウス(日本クレア、雌、7W)のそけい部皮下に移植された。移植の日をday 0とした。マウスには移植前日、およびday 6、8、12、16、20に抗アシアロGM1抗体(和光純薬)が0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植後6日目に腫瘍サイズと体重に応じて群分けが行なわれた後、前記拡大培養によって得られたT細胞が1×10
7細胞/匹で腹腔内に移植された。その2時間後から、GPC ERY10-1が30 μg/匹で腹腔内投与された。GPC ERY10-1の投与はday 7、8、12、16、17に、計5回行われた。
【0257】
その結果、このモデルにおいても、GPC3 ERY10-1投与群においては溶媒投与群に比較して明らかな抗腫瘍作用が認められた(
図8)。
【0258】
以上のことから、サイレント型Fcを持つIgGを基本骨格とし、これにCD3 epsilonに対する抗体のscFvを一つ付加した形の一連の分子は明らかなin vivoにおける抗腫瘍効果を奏することが示された。
【0259】
(3)血漿中滞留性の評価
GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1等の一連の分子が、GPC3 BiTEに比較して顕著に長い血漿中半減期を有するか否かを検証するために、癌細胞が移植されていないNOD scidマウスに対して30μg/匹で投与された、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1の血漿中濃度が経時的に測定された。
【0260】
すなわち、下記のようなPK解析試験が実施された。NOD scidマウス(日本クレア、雌、8W)の腹腔内にGPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1が30μg/匹で投与された。投与後、15min、2時間、1日、2日、7日の各ポイントでマウスの頬静脈よりヘマトクリット毛細管(テルモ)を用いて採血が行われ、その血漿が調製された。
【0261】
GPC3を発現させたBa/F3細胞(GPC3/BaF)およびヒトCD3 epsilonを発現させたBa/F3細胞(CD3/BaF)に適宜希釈したGPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1が加えられ、GPC3 ERY9-1、又は、GPC3 ERY10-1とGPC3/BaF又はCD3/BaFと反応させた。これらの細胞の洗浄の後、FITC標識された2次抗体が加えられ、当該二次抗体をさらに反応させた。当該細胞の洗浄の後、Epics XLフローサイトメーター(Beckman coulter社)により当該細胞に標識された蛍光強度が測定され、各抗体についての標準曲線が作成された。
【0262】
GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1が投与されたマウスより継時的に採取された血液から調製された血漿が適宜希釈された。上記の標準曲線の作成の場合と同様に当該血漿とGPC3/BaF、CD3/BaFとを反応させ、血漿中に存在するGPC3 ERY9-1及びGPC3 ERY10-1の各細胞への結合量が測定された。測定された値と前記の標準曲線を用いて、血漿中の各抗体濃度が算出された。
【0263】
その結果、GPC3 ERY9-1及びGPC3 ERY10-1はともに、投与後2日後において10 nM以上の血中濃度を維持していることが明らかとなった(
図9および10)。この結果から、GPC3 ERY9-1及びGPC3 ERY10-1等の一連の分子の血漿中半減期はBiTEに比べて著しく改善されていることが示された。
【0264】
(4)癌抗原非依存的サイトカイン誘導におけるサイレントFcの効果
(4−1)FcgR結合型Fcを持つGPC3 ERY15-1の作製
GPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1等の一連の分子が癌抗原非依存的なサイトカインの誘導を起こすか否かを検証するために、FcgR結合型Fcを持つGPC3 ERY15-1(
図17J)を作製した。
【0265】
すなわち、上記の方法と同様に、適切な配列を付加したプライマーを用いたPCR法、およびQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)を用いた方法等の当業者にとって公知の方法により、GPC3 ERY15-1_Hh(配列番号:47、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY15-1_Hk(配列番号:48、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された発現ベクターが作製された。
【0266】
GPC3 ERY15-1_Hh(配列番号:47、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY15-1_Hk(配列番号:48、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、およびGPC3 ERY7_Lの発現ベクターが共にFreeStyle293-F細胞に導入され、GPC3 ERY15-1を一過性に発現させた。得られた培養上清がAnti FLAG M2カラム(Sigma社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAGペプチド(Sigma社)による溶出が実施された。GPC3 ERY15-1を含む画分がHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。GPC3 ERY15-1を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加され、溶出液の単量体のGPC3 ERY15-1画分のみを回収することにより精製GPC3 ERY15-1が得られた。
【0267】
(4−2)癌抗原非依存的なサイトカイン誘導能の測定
GPC3 ERY15-1の癌抗原非依存的なサイトカイン誘導能が、GPC3 BiTE、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1、及びcatumaxomabのそれと比較された。健常人ボランティアから採取した血液より上記の方法によりPBMCが調製された。ヒトPBMC溶液50 μL(2×10
5 細胞/ウェル)に、40 nMに調製された各抗体50μLが添加され、更に100μLの10%FBS/D-MEMが加えられた。反応液は5%炭酸ガス、37℃条件下にて培養された。72時間の培養の後に、培養上清が回収され、Human Th1/Th2/Th17 Kit(BD社)を用いたCytometric Beads Array(CBA)法にて培養上清中に分泌されたサイトカインが定量された。添付プロトコールに従った測定方法による試験はtriplicateにて行われた。
【0268】
その結果、FcgR結合型Fcを持つGPC3 ERY15-1、catumaxomabには明らかなサイトカイン誘導が認められたのに対して、Fcを持たないGPC3 BiTE、及びサイレント型Fcを持つGPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1ではサイトカイン誘導が認められなかった(
図11)。よって、サイレント型Fcを持つGPC3 ERY8-2、GPC3 ERY9-1、GPC3 ERY10-1等の一連の分子は癌抗原非依存的なサイトカイン誘導を起こさず、非常に高い安全性を持つ分子であるものと考えられた。
【0269】
〔実施例4〕GPC3 ERY18 L1、L2、L3、L4、S1の作製と検討
scFv構造と異なるCD3結合ドメインを持つ分子の検討が行われた。癌抗原(GPC3)に対するIgGの2本のH鎖のC末端にそれぞれCD3抗体のVH領域、VL領域を結合した分子型であるGPC3 ERY18(
図17K)が作製された。この際、間のリンカー(Gly・Gly・Gly・Gly・Ser)の個数を1個〜4個に変えた一連の分子(GPC3 ERY18 L1〜L4)が作製された。また、適切な部位のアミノ酸をCysに置換してジスルフィド結合を導入することを可能とする分子(GPC3 ERY18 S1)も同時に作製された。
【0270】
すなわち、上記の方法と同様に適切な配列を付加したプライマーを用いたPCR法等の当業者にとって公知の方法により、GPC3 ERY18 L1_Hh(配列番号:49、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L1_Hk(配列番号:50、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L2_Hh(配列番号:51、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L2_Hk(配列番号:52、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L3_Hh(配列番号:53、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L3_Hk(配列番号:54、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L4_Hh(配列番号:55、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L4_Hk(配列番号:56、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 S1_Hh(配列番号:57、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 S1_Hk(配列番号:58、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。
【0271】
以下に示す組み合わせの発現ベクターがFreeStyle293-F細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。
【0272】
G.目的分子:GPC3 ERY18 L1
発現ベクター:GPC3 ERY18 L1_Hh(配列番号:49、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L1_Hk(配列番号:50、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及びGPC3 ERY7 L
【0273】
H.目的分子:GPC3 ERY18 L2
発現ベクター:GPC3 ERY18 L2_Hh(配列番号:51、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L2_Hk(配列番号:52、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及びGPC3 ERY7 L
【0274】
I.目的分子:GPC3 ERY18 L3
発現ベクター:GPC3 ERY18 L3_Hh(配列番号:53、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L3_Hk(配列番号:54、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及びGPC3 ERY7 L
【0275】
J.目的分子:GPC3 ERY18 L4
発現ベクター:GPC3 ERY18 L4_Hh(配列番号:55、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 L4_Hk(配列番号:56、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及びGPC3 ERY7 L
【0276】
K.目的分子:GPC3 ERY18 S1
発現ベクター:GPC3 ERY18 S1_Hh(配列番号:57、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY18 S1_Hk(配列番号:58、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、及びGPC3 ERY7 L
【0277】
得られた培養上清がAnti FLAG M2カラム(Sigma社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAGペプチド(Sigma社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。
【0278】
GPC3 ERY18 L1、GPC3 ERY18L2、GPC3 ERY18L3、GPC3 ERY18L4、GPC3 ERY18S1の各分子のin vitroの細胞傷害活性が評価された(
図12および13)。その結果、GPC3 ERY18 L1を除くいずれの分子もGPC3 ERY10-1と同等の活性を有することが見出された。scFvではない構造を有する分子が同等の細胞傷害活性を有することが示された。癌抗原(GPC3)に対するIgGの2本のH鎖のC末端にそれぞれCD3抗体のVH領域、VL領域を結合した構造による、本願発明に係るポリペプチド会合体分子の安定化への貢献が期待される。
【0279】
〔実施例5〕GPC3 ERY19-3の作製と検討
次に、CD3結合ドメインがFab様構造である分子の検討が行われた。癌抗原(GPC3)に対するIgG抗体の2本のH鎖のC末端にそれぞれCD3抗体のVH領域とCH1領域、およびVL領域とCL領域が結合した分子型であるGPC3 ERY19-3が作製された(
図17L)。すなわち、上記の方法と同様に適切な配列を付加したプライマーを用いたPCR法等の当業者にとって公知の方法により、GPC3 ERY19-3_Hh(配列番号:59、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY19-3_Hk(配列番号:60、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された発現ベクターが作製された。
【0280】
GPC3 ERY19-3_Hh(配列番号:59、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、GPC3 ERY19-3_Hk(配列番号:60、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、およびGPC3 ERY7_Lの発現ベクターが共にFreeStyle293-F細胞に導入され、一過性にGPC3 ERY19-3を発現させた。得られた培養上清がHiTrap rProtein A FFカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、酸による溶出が実施された。GPC3 ERY19-3を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加され、溶出液の単量体のGPC3 ERY19-3画分のみを回収することにより精製GPC3 ERY19-3が得られた。
【0281】
GPC3 ERY19-3分子によるin vitroの細胞傷害活性が評価された。その結果、GPC3 BiTEと同等の活性を有することが示された(
図14)。Fab様構造を有するCD3結合ドメインによる、本願発明に係るポリペプチド会合体分子の安定化への貢献が期待される。
【0282】
〔実施例6〕GPC3 ERY 10-1のCH3ドメインへの変異導入によるプロテインA精製工程のみを用いたポリペプチド会合体の調製
(1)概要
実施例3で調製されたGPC3 ERY10-1では、CH3ドメインの構造としてknobs-into-holeが用いられている。それぞれのH鎖のC末端にはHisタグとFLAGタグが付加されており、これらのタグを用いた2種類のアフィニティー精製を行うことにより、目的としている2種類のH鎖がヘテロ会合化したGPC3 ERY10-1分子が精製された。GPC3 ERY10-1分子を医薬品として製造する場合、GPC3 ERY10-1を発現する細胞の培養上精からプロテインAクロマトグラフィーを用いてFcドメインを有するポリペプチド会合体がまず精製される。さらに、HisタグアフィニティークロマトグラフィーとFLAGタグアフィニティークロマトグラフィーの2種類のクロマトグラムを用いた精製工程が必要となり、精製工程のコストが高くなるという課題がある。そこで本実施例では、HisタグとFLAGタグを用いることなく、プロテインAクロマトグラフィーのみを用いることによって目的とする2種類のH鎖がヘテロ会合化したGPC3 ERY10-1分子を精製することを可能とする分子改変の検討が行われた。
【0283】
具体的には、2種類のH鎖のうち、一方のH鎖のプロテインAへの結合を無くす改変の検討が行なわれた。この改変により、プロテインAへの結合を無くしたH鎖がホモ会合化した分子は、プロテインAに結合することができないためプロテインAクロマトグラフィーをパスする。一方、プロテインAへの結合を無くしたH鎖とプロテインAへの結合を保持しているH鎖がヘテロ会合化した分子と、プロテインAへの結合を保持しているH鎖がホモ会合化した分子との、プロテインAへの結合性の相違を利用することによって、プロテインAクロマトグラフィーによりこれらの分子の分離が可能であると考えられた。この際、抗体のFcドメインにおいて、プロテインAと抗体の血漿中滞留性に重要なFcRnが結合する箇所は重複していることから、FcRnへの結合性を維持したまま、プロテインAへの結合性のみを選択的に低減する必要がある。そのような改変として、EUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異が見出された。この変異に加えて、2種類のH鎖のヘテロ会合化を促進する改変として WO2006/106905に記載された変異(一方のH鎖のEUナンバリング356番目のAspをLysに置換し、もう一方のH鎖のEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する)を組み合わせることにより、プロテインAクロマトグラフィーのみでGPC3 ERY10-1等のポリペプチド会合体分子を精製することが可能かどうかが検証された。
【0284】
(2)抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現
抗体H鎖可変領域として、GC33(2)H(抗ヒトGlypican-3抗体 H鎖可変領域、配列番号:61、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をコードする遺伝子が当業者にとって公知の方法により作製された。同様に、抗体L鎖として、GC33-k0(抗ヒトGlypican-3抗体L鎖、配列番号:62、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をコードする遺伝子が当業者にとって公知の方法により作製された。次に、抗体H鎖定常領域として、以下に示す遺伝子が当業者にとって公知の方法により作製された。
【0285】
L.目的分子:LALA-G1d
IgG1の配列中のEUナンバリング234番目および235番目のLeuがAlaに置換され、297番目のAsnがAlaに置換された変異が導入され、C末端のGly及びLysが除去されたLALA-G1d(配列番号:63、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0286】
M.目的分子:LALA-G1d-CD3
LALA -G1d(配列番号:63、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)にCD3のscFv(抗ヒトCD3抗体H鎖可変領域及び抗ヒトCD3抗体L鎖可変領域がポリペプチドリンカーを介して結合されたもの)がC末端に結合されたLALA-G1d-CD3(配列番号:64、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0287】
N.目的分子:LALA-G3S3E-G1d
LALA-G1d(配列番号:63、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)の配列中のEUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異及びEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異が導入されたLALA-G3S3E-G1d(配列番号:65、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0288】
O.目的分子:LALA-S3K-G1d-CD3
LALA-G1d-CD3(配列番号:64、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)の配列中のEUナンバリング356番目のAspをLysに置換する変異が導入されたLALA-S3K-G1d-CD3(配列番号:66、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)。
【0289】
GC33(2) Hの下流にLALA-G1d-CD3あるいはLALA-G1dを連結することで、抗ヒトGPC3抗体H鎖遺伝子NTA1LあるいはNTA1Rが作製された。GC33(2) Hの下流にLALA-S3K-G1d-CD3あるいはLALA-G3S3E-G1dを連結することで、抗ヒトGPC3抗体H鎖遺伝子NTA2LあるいはNTA2Rが作製された。
【0290】
NTA1L, NTA1R, NTA2L, NTA2R(H鎖)及びGC33-k0(L鎖)の各遺伝子を、動物細胞発現ベクターに組み込むことによって当該遺伝子の発現ベクターが作製された。以下に示す組み合わせにより、これらのベクターが当業者公知の方法でFreeStyle293細胞(invitrogen社)へ導入されることによって、下記に示す各ポリペプチド会合体を一過性に発現させた。以下に示すように、導入した遺伝子の組み合わせを第一のH鎖/第二のH鎖/L鎖の順番で示すことによってポリペプチド会合体の名前として表記されている。
NTA1L/NTA1R/GC33-k0
NTA2L/NTA2R/GC33-k0
【0291】
(3)発現サンプルの精製とヘテロ会合体形成の評価
下記に示すポリペプチド会合体を含むFreeStyle293細胞の培養上清(以下CMと指称される)が試料として用いられた。
NTA1L/NTA1R/GC33-k0
NTA2L/NTA2R/GC33-k0
【0292】
D-PBSで平衡化したrProtein A Sepharose Fast Flowカラム(GE Healthcare)にφ0.22μmフィルターで濾過したCMが負荷され、表1に示すバッファーにより洗浄1、2、および溶出1の各ステップが実施された。負荷される抗体量が20 mg/mL resineになるようにCMの負荷量が調節された。分取された溶出画分のサイズ排除クロマトグラフィー分析により、溶出画分に含まれている成分が同定された。
【0293】
【表1】
【0294】
各溶出画分のサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を
図15及び表2に示した。値は溶出ピークの面積がパーセントで表記されている。NTA1L/NTA1R/GC33-k0及びNTA2L/NTA2R/GC33-k0を発現させたCM中には、共にCD3に対するホモ抗体(NTA1L/GC33-k0, NTA2L/GC33-k0)がほとんど検出されなかった。GPC3に対するホモ抗体(NTA2R/GC33-k0)に関しては、NTA1L/NTA1R/GC33-k0を発現させたCM中では76%程度検出されたのに対して、NTA2L/NTA2R/GC33-k0をを発現させたCM中では2%程度しか検出されなかった。すなわち、EUナンバリング435番目のHisをArgに置換する変異に加えて、各H鎖のヘテロ分子を効率的に形成させるために、一方のH鎖のポリペプチド配列中のEUナンバリング356番目のAspをLysに置換する変異およびもう一方のH鎖のポリペプチド配列中のEUナンバリング439番目のLysをGluに置換する変異を導入することによって、プロテインAを用いた精製工程のみにより、目的のGPC3 ERY10-1と同様の分子形からなるヘテロで会合するポリペプチド会合体を98%以上の純度で効率的に精製することが可能であることが明らかになった。
【0295】
【表2】
【0296】
〔実施例7〕GPC3 ERY 17-2及びGPC3 ERY 17-3の作製と検討
(1)GPC3 ERY 17-2及びGPC3 ERY 17-3の作製
次に、癌抗原(GPC3)に対するIgGを基本骨格とし、片方のFabをCD3 epsilonに対する結合ドメインに置き換えた形の分子が作製された。この際、基本骨格とするIgGのFcとしては、上述した場合と同様に、FcgR(Fcγ受容体)への結合性が減弱されたサイレント型Fcが用いられた。CD3 epsilonに対する結合ドメインとして、CD3 epsilonに対するFabのVHドメインとVLドメインを置き換えたGPC3 ERY17-2(
図19A)と、CH1ドメインとCLドメインを置き換えたGPC3 ERY17-3(
図19B)がそれぞれ作製された。
【0297】
すなわち、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いたPCR法等の当業者において公知の方法により、ERY17-2_Hh(配列番号:73、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2_L(配列番号:74、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-3_Hh(配列番号:75、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-3_L(配列番号:76、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。
【0298】
以下に示す組み合わせの発現ベクターがFreeStyle293-F細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。
【0299】
P.目的分子:GPC3 ERY17-2
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY8-2_Hk、GPC3 ERY7_L、ERY17-2_Hh(配列番号:73、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2_L(配列番号:74、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0300】
Q.目的分子:GPC3 ERY17-3
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:GPC3 ERY8-2_Hk、GPC3 ERY7_L、ERY17-3_Hh(配列番号:75、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-3_L(配列番号:76、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)
【0301】
(2)GPC3 ERY 17-2及びGPC3 ERY 17-3の精製
得られた培養上清がAnti FLAG M2カラム(Sigma社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAGペプチド(Sigma社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。
【0302】
(3)GPC3 ERY 17-2及びGPC3 ERY 17-3の細胞傷害活性
GPC3 ERY 17-2及びGPC3 ERY 17-3についてin vitroの細胞傷害活性が調べられた(
図20)。その結果、いずれの分子も明らかにGPC3 BiTEを上回る細胞傷害活性を奏することが認められた。本発明において、癌抗原に対するIgGを基本骨格とし、片側のFabをCD3 epsilonに対する結合ドメインに置き換えた分子もBiTEと同等以上の細胞傷害活性を奏することが初めて明らかとなった。
【0303】
(4)PC-10 T細胞移入モデルを用いたGPC3 ERY17-2の薬効試験
in vitroのアッセイでGPC3 BiTEと同等以上の細胞傷害活性が認められたGPC3 ERY17-2のin vivoの薬効の評価がPC-10 T細胞移入モデルを用いて行なわれた。すなわち、GPC3 ERY17-2のPC-10 T細胞移入モデルによる薬効試験においては、下記のような試験が行われた。健常人ボランティアより採取した血液から分離されたPBMC及びT cell activation/ expansion kit/ human(MACS Miltenyi biotec社)を用いてT細胞の拡大培養が行なわれた。ヒト肺扁平上皮がん細胞株PC-10(免疫生物研究所) 1×10
7細胞と、マトリゲル基底膜マトリックス(BD社)が混和され、NOD scidマウス(日本クレア、雌、7W)のそけい部皮下に移植された。移植の日をday 0とした。マウスには移植前日、およびday 13、17、21、25に抗アシアロGM1抗体(和光純薬)が0.2 mg/匹で腹腔内に投与された。移植後13日目に腫瘍サイズと体重に応じて群分けが行なわれ、移植後14日目に前記拡大培養によって得られたT細胞が3×10
7細胞/匹で腹腔内に移植された。その2時間後から、GPC ERY17-2が30 μg/匹で静脈内投与された。GPC ERY17-2の投与はday 14、15、16、17、18に、計5回行われた。
【0304】
その結果、このモデルにおいても、GPC3 ERY17-2投与群においては溶媒投与群に比較して明らかな抗腫瘍作用が認められた(
図21)。
【0305】
以上のことから、癌抗原に対するIgGを基本骨格とし、片側のFabをCD3 epsilonに対する結合ドメインに置き換えた分子は明らかなin vivoにおける抗腫瘍効果を奏することが示された。
【0306】
〔実施例8〕GPC3 ERY17-2-M20の作製と検討
(1)GPC3 ERY17-2-M20の作製
次に、CD3 epsilonに対する結合ドメインの配列が変わっても目的の活性を持つ分子の創製が試みられた。GPC3 ERY17-2のCD3 epsilonに対する結合ドメインの配列を変えたGPC3 ERY17-2-M20(
図19A)が作製された。すなわち、CD3抗体(M20)の発現ベクターが鋳型として用いられ、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いたPCR法等の当業者において公知の方法により、ERY17-2-M20_Hh(配列番号:77、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2-M20_L(配列番号:78、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。
【0307】
(2)GPC3 ERY17-2-M20の精製
GPC3 ERY8-2_Hk、GPC3 ERY7_L、ERY17-2-M20_Hh(配列番号:77)、およびERY17-2-M20 _L(配列番号:78)の発現ベクターが共にFreeStyle293-F細胞に導入され、一過性にGPC3 ERY17-2-M20を発現させた。得られた培養上清が、φ0.22μmフィルターで濾過された後、平衡化したrProtein A Sepharose Fast Flowカラム(GE Healthcare)に負荷された。表3に示すバッファーにより洗浄1、2、および溶出1の各ステップが実施されることにより精製GPC3 ERY17-2-M20が得られた。
【0308】
【表3】
【0309】
(3)GPC3 ERY17-2-M20の細胞傷害活性
GPC3 ERY17-2-M20のin vitroの細胞傷害活性を調べたところ、GPC3 ERY17-2とほぼ同等の細胞傷害活性が認められた(
図22)。このことからCD3 epsilonに対する結合ドメインの配列が変わった分子においても同等の細胞傷害活性を持つことが明らかとなった。
【0310】
〔実施例9〕EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3の作製と検討
(1)EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3の作製
次に、標的とする癌抗原が変わっても目的の活性を持つ分子の創製が試みられた。GPC3 ERY17-2のGPC3に対するFabをEpCAMに対するFabに変えたEpCAM ERY17-2(
図19A)と、GPC3 ERY17-3のGPC3に対するFabをEpCAMに対するFabに変えたEpCAM ERY17-3(
図19B)がそれぞれ作製された。すなわち、EpCAM抗体の発現ベクターが鋳型として用いられ、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いたPCR法等の当業者において公知の方法により、EpCAM ERY17_Hk(配列番号:79、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、EpCAM ERY17_L(配列番号:80、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。
【0311】
以下に示す組み合わせの発現ベクターがFreeStyle293-F細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。
【0312】
R.目的分子:EpCAM ERY17-2
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:EpCAM ERY17_Hk(配列番号:79、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、EpCAM ERY17_L(配列番号:80、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2_Hh、ERY17-2_L
【0313】
S.目的分子:EpCAM ERY17-3
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:EpCAM ERY17_Hk、EpCAM ERY17_L、ERY17-3_Hh、ERY17-3_L
【0314】
(2)EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3の精製
得られた培養上清がAnti FLAG M2カラム(Sigma社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAGペプチド(Sigma社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。
【0315】
(3)EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3の細胞傷害活性
EpCAM ERY17-2、EpCAM ERY17-3のin vitroの細胞傷害活性を調べたところ、いずれの分子においても強い細胞傷害活性が認められた(
図23)。本発明において、癌抗原に対するIgGを基本骨格とし、片側のFabをCD3 epsilonに対する結合ドメインに置き換えた分子において、癌抗原の種類を変えても細胞傷害活性を持つことが明らかとなった。
【0316】
〔実施例10〕CH1/CL界面会合制御が導入された二重特異性抗体の作製と検討
(1)二重特異性抗体の設計
二重特異性抗体のそれぞれのCH1とCLドメインに変異を導入し、CH1/CLの界面の電荷的な反発を利用し、CH1/CLの界面会合を制御することによって、GPC3に対するH鎖とL鎖のみが会合し、CD3に対するH鎖とL鎖のみがそれぞれ特異的に会合させることが可能であると考えられた。電荷的な反発を利用してCH1/CL界面会合の制御を行うために、H鎖のCH1、またはL鎖のCL中のアミノ酸残基が、正電荷であるLys、または負電荷であるGluに置換された。
【0317】
(2)抗体遺伝子発現ベクターの作製と各抗体の発現
Anti-CD3抗体であるM12 (H鎖、配列番号:81およびL鎖、配列番号:82)と、Anti-GPC3抗体であるGC33(2)(H鎖、配列番号:83およびL鎖、配列番号:84)にCH1/CL界面会合制御が導入され、さらにH鎖同士の会合を避けるため、Knob into Hole(KiH)(WO1996/027011、Ridgway JB ら(Protein Engineering (1996) 9, 617-621)、Merchant AM ら (Nat. Biotechnol. (1998) 16, 677-681))の改変が導入された二重特異性抗体が作製された(
図24A)。対照として、CH1/CL界面会合制御もKnob into Hole(KiH)改変も導入されていない二重特異性抗体も作製された(
図24B)。具体的には、M12のH鎖(配列番号:81)のCH1の数アミノ酸がLysに置換されたM12_TH2h(配列番号:85)、L鎖(配列番号:82)のCLの数アミノ酸がGluに置換されたM12_TL17(配列番号:86)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された発現ベクターが当業者にとって公知の方法により作製された。同様に、GC33(2)のH鎖(配列番号:83)のCH1の数アミノ酸がGluに置換されたGC33(2)_TH13k(配列番号:87)、GC33(2)_TH15k(配列番号:88)、L鎖(配列番号:84)のCLの数アミノ酸がLysに置換されたGC33(2)_TL16(配列番号:89)、GC33(2)_TL19(配列番号:90)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された発現ベクターが当業者にとって公知の方法により作製された。
【0318】
以下に示す配列をコードする発現ベクターの組み合わせがFreeStyle293-F細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。
【0319】
T.目的分子:GM1
発現ベクター:M12_TH2h(配列番号:85)、M12_TL17(配列番号:86)、GC33(2)_TH13k(配列番号:87)、及びGC33(2)_TL16(配列番号:89)
【0320】
U.目的分子:GM2
発現ベクター:M12_TH2h(配列番号:85)、M12_TL17(配列番号:86)、GC33(2)_TH15k(配列番号:88)、及びGC33(2)_TL19(配列番号:90)
【0321】
V.目的分子:GM0
発現ベクター:M12のH鎖(配列番号:81)、M12のL鎖(配列番号:82)、GC33(2) のH鎖(配列番号:83)、及びGC33(2) のL鎖(配列番号:84)
【0322】
得られた培養上清から、rProtein A SepharoseTM Fast Flow(GE Healthcare社)を用いた当業者公知の方法で、抗体が精製された。
【0323】
(3)GM1、GM2、GM0細胞傷害活性
GM1、GM2、GM0の各ポリペプチド会合体のin vitroの細胞傷害活性を調べたところ、GM1およびGM2は同等の細胞傷害活性を示すことが認められ、またその活性は明らかにGM0の活性を上回る細胞傷害活性であった(
図25)。本発明において、CH1/CL界面制御の導入とKiHの改変を組み合わせることによって効率よく二重特異性抗体が作製されることが明らかとなった。
【0324】
〔実施例11〕EGFR ERY17-2の作製と検討
(1)EGFR ERY17-2の作製
さらに他の癌抗原を標的とした目的の活性を持つ分子の創製が試みられた。GPC3 ERY17-2のGPC3に対するFabをEGFRに対するFabに変えたEGFR ERY17-2(
図19A)が作製された。すなわち、EGFR抗体の発現ベクターが鋳型として用いられ、上記した方法と同様の適切な配列を付加したプライマーを用いたPCR法等の当業者において公知の方法により、EGFR ERY17_Hk(配列番号:91、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、EGFR ERY17_L(配列番号:92、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)をそれぞれコードするポリヌクレオチドが挿入された一連の発現ベクターが作製された。
【0325】
以下に示す組み合わせの発現ベクターがFreeStyle293-F細胞に導入され、各目的分子を一過性に発現させた。
【0326】
W.目的分子:EGFR ERY17-2
発現ベクターに挿入されたポリヌクレオチドによりコードされるポリペプチド:EGFR ERY17_Hk(配列番号:91、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、EGFR ERY17_L(配列番号:92、シグナル配列であるアミノ末端19アミノ酸は成熟配列には含まれない)、ERY17-2_Hh、ERY17-2_L
【0327】
(2)EGFR ERY17-2の精製
得られた培養上清がAnti FLAG M2カラム(Sigma社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、0.1 mg/mL FLAGペプチド(Sigma社)による溶出が実施された。目的分子を含む画分がHisTrap HPカラム(GE Healthcare社)に添加され、当該カラムの洗浄の後、イミダゾールの濃度勾配による溶出が実施された。目的分子を含む画分が限外ろ過によって濃縮された後、当該画分がSuperdex 200カラム(GE Healthcare社)に添加され、溶出液の単量体画分のみを回収することにより精製された各目的分子が得られた。
【0328】
(3)EGFR ERY17-2の細胞傷害活性
EGFR ERY17-2のin vitroの細胞傷害活性を調べたところ、強い細胞傷害活性が認められた(
図26)。本発明において、癌抗原に対するIgGを基本骨格とし、片側のFabをCD3 epsilonに対する結合ドメインに置き換えた分子において、GPC3、EpCAMのみならず、癌抗原の種類をさらに変えても細胞傷害活性を持つことが明らかとなった。