(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記オーバーラップするように載置された複数のシート状の繊維の一部を前記第2の賦形面に沿って折曲げた場合に、折曲げられた前記複数のシート状の繊維の一部の隣接する縁同士が互いにフィットするように、前記オーバーラップするように載置される複数のシート状の繊維をサイジングする請求項1又は2記載のプリフォーム賦形方法。
前記オーバーラップするように載置された複数のシート状の繊維の一部が前記第2の賦形面に沿って折曲げられた場合に、残りの一部が前記第1の賦形面上に留まるように、前記オーバーラップさせて載置される複数のシート状の繊維をサイジングする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のプリフォーム賦形方法。
前記曲面と平面を連結した形状を有する前記賦形型を用いることによって、山折りされる側から見て凹んだ曲面と平面を連結した形状を有する板状のプリフォームを製作する請求項1乃至6のいずれか1項に記載のプリフォーム賦形方法。
前記曲面として第1の2次曲面又は高次曲面と、前記第1の2次曲面又は高次曲面と異なる第2の2次曲面又は高次曲面を連結した形状を有する前記賦形型を用いることによって、前記第1の2次曲面又は高次曲面と、前記第2の2次曲面又は高次曲面とを連結した形状を有する板状のプリフォームを製作する請求項1乃至6のいずれか1項に記載のプリフォーム賦形方法。
更に凸状の曲面である第3の賦形面を有する前記賦形型を用いて、前記第1の賦形面上に載置された前記複数のシート状の繊維を前記第3の賦形面に沿って折曲げることによって、山折りされる側から見て凸状の曲面を平面又は曲面と連結した形状を有する板状のプリフォームを製作する請求項1乃至8のいずれか1項に記載のプリフォーム賦形方法。
前記複合材の前記加熱硬化前又は前記加熱硬化後において、少なくとも一部の繊維の長さ方向が異なる他の複合材と組合せることによって複合材構造体を製作するステップを有する請求項11又は12記載の複合材成形方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施形態に係るプリフォーム賦形方法、複合材成形方法
及び複合材について添付図面を参照して説明する。
【0017】
(プリフォーム賦形方法)
図1は本発明の実施形態に係るプリフォーム賦形方法によって製作することが可能なプリフォームの第1の形状例を示す斜視図である。
【0018】
図1に例示されるように曲面を含む複数の賦形面を有する剛体の賦形型1を用いて、折曲げた形状を有する板状のプリフォーム2を賦形することができる。プリフォーム2は、樹脂を繊維で強化したCFRPやGFRP等の繊維強化プラスチック(FRP:fiber reinforced plastics)の素材である。FRPは複合材とも呼ばれる。
【0019】
図1に示す例では、賦形型1の形状が、平板1A上に凸部1Bを形成した形状となっており、凸部1Bの形状は、横断面が矩形であるドーナツ形状を半径方向に切断した形状となっている。そして、賦形型1の凸部1Bの上面側における平面が第1の賦形面3を、凸部1Bの内側の側面側における凹んだ曲面が第2の賦形面4を、凸部1Bの外側の側面側における凸状の曲面が第3の賦形面5を、それぞれ形成している。
【0020】
このため、賦形型1を用いれば、平面状のウェブ6の同じ面に湾曲した内側のフランジ7と、湾曲した外側のフランジ8を形成した形状を有するプリフォーム2を製作することができる。より具体的には、山折りされる側から見て凸状の曲面9及び山折りされる側から見て凹んだ曲面10を平面11と連結した表面形状を有する板状で長尺構造を有するプリフォーム2を製作することができる。
【0021】
もちろん、ウェブ6と内側のフランジ7及び外側のフランジ8との連結部分にR面取りやC面取り等の面取りが形成されるように賦形型1の凸部1BにおけるエッジにR面取りやC面取り等の面取りを施すようにしてもよい。
【0022】
製作対象となるプリフォーム2は、未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させる前における複数のシート状の繊維の積層体であっても良いし、未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させた後の複数のシート状の繊維の積層体であっても良い。未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させる前における賦形後の複数のシート状の繊維の積層体は、ドライプリフォームと呼ばれる。一方、未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させたシート状の繊維は、プリプレグと呼ばれる。
【0023】
従って、シート状のプリプレグを賦形型1に積層すれば、プリフォーム2として賦形されたプリプレグの積層体を製作することができる。一方、未硬化の熱硬化性樹脂を含浸させる前におけるシート状の繊維束を賦形型1に積層すれば、プリフォーム2としてドライプリフォームを製作することができる。
【0024】
図2(A)、(B)は、
図1に示すプリフォーム2を製作するために賦形型1の上に一層につき1枚のシート状の繊維20を積層する場合に生じる問題点を説明する図である。
【0025】
尚、
図2(A)は平面状に裁断されたシート状の繊維20の上面図であり、
図2(B)は
図2(A)に示すシート状の繊維20を賦形型1の凸部1Bに合わせて折曲げた状態を示す斜視図である。
【0026】
ドライプリフォームの素材となる樹脂を含浸させる前におけるシート状の繊維20は、繊維の長さ方向において伸縮可能な長さが短く、繊維の長さ方向に垂直な方向において伸縮可能な長さが長いという性質を有する。これは、糸状の各繊維は長さ方向には殆ど伸縮しないが繊維間の隙間は広がることができるためである。また、樹脂を含浸させた後におけるシート状の繊維20であるプリプレグの場合には樹脂に粘着力があるため、繊維の長さ方向はもちろん、繊維の長さ方向に垂直な方向においても、伸縮可能な長さが短いという性質を有する。
【0027】
従って、
図1に示すようなウェブ6に湾曲した内側のフランジ7及び外側のフランジ8を形成した形状を有するプリフォーム2を製作する場合には、内側のフランジ7の曲率が大きくなる程、シート状の繊維20を折曲げることが困難となる可能性が増加する。すなわち、内側のフランジ7を形成するために折曲げ対象となるシート状の繊維20の部分21の折曲げ方向と、折曲げ対象となる部分21における繊維の長さ方向とのなす角度が90度に近づく程、折曲げ対象となる部分21において繊維の長さ方向に引張方向の張力が生じるため繊維の折曲げが困難となる。また、プリプレグの場合には、樹脂の粘着力によって引張方向の応力も生じるため、プリプレグを折曲げることが困難となる場合がある。
【0028】
そのような場合には引張方向の張力が繊維に発生することや引張方向の応力が樹脂に発生することを抑制するために、
図2(A)に示すように、平面状のウェブ6を形成するためのシート状の繊維20の部分23を残して内側のフランジ7を形成するために折曲げ対象となるシート状の繊維20の部分21に、概ね繊維の折曲げ方向を長さ方向とする線状の切込24を設けることが必要となる。他方、外側のフランジ8を形成するために折曲げ対象となるシート状の繊維20の部分22にはV字状の切込25を設けなければシート状の繊維20の部分22に弛みや折重なりが生じる恐れがある。
【0029】
しかしながら、内側のフランジ7を形成するために線状の切込24を設けて折曲げ対象となるシート状の繊維20の部分21を折曲げると、
図2(B)に示すように、逆V字状の隙間26が生じる。繊維の隙間26は、複合材の強度低下の要因となるため、繊維に隙間26が生じないようにすることが重要である。
【0030】
図3(A)、(B)は、
図1に示すプリフォーム2を製作するために賦形型1の上に一層につき複数枚のシート状の繊維20A、20B、20Cを部分的にオーバーラップさせて積層することによって
図2(B)に示すような隙間26の発生を低減又は防止する方法を説明する図である。
【0031】
尚、
図3(A)は平面状に裁断されたシート状の繊維20A、20B、20Cの上面図であり、
図3(B)は
図3(A)に示すシート状の繊維20A、20B、20Cを賦形型1の凸部1Bに合わせて折曲げた状態を示す斜視図である。
【0032】
図3(A)に示すように、複数のシート状の繊維20A、20B、20Cを一部の部分21A、21B、21Cが互いにオーバーラップするように裁断及び配置し、賦形型1の凸部1Bに形成される第1の賦形面3又は積層方向に隣接するシート状の繊維20の上に載置することができる。
【0033】
より具体的には、平面状のウェブ6を形成するための、折曲げ対象とならないシート状の繊維20A、20B、20Cの部分23A、23B、23Cの縁同士についてはオーバーラップせず、互いに突き合わせてフィットするように配置する一方、内側のフランジ7を形成するために折曲げ対象となる繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cの縁同士については互いにオーバーラップするように配置することができる。これにより、シート状の繊維20A、20B、20Cの表面に平行な方向に隣接する2つの繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cが重なり、オーバーラップ領域27が形成される。
【0034】
尚、各シート状の繊維20A、20B、20Cは、各シート状の繊維20A、20B、20Cの縁以外の内部において1本1本の繊維が長さ方向に分断されず連続的となるように製作及び裁断される。
【0035】
そして、
図3(B)に示すように、オーバーラップするように載置された複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの、折曲げ対象となる一部の部分21A、21B、21Cを賦形型1の凸部1Bに形成される凹んだ第2の賦形面4に沿って内側のフランジ7用の折曲線28で折曲げることによってシート状の繊維20の積層体を構成する層を形成することができる。
【0036】
そうすると、
図2(B)に示すような隙間26の発生を低減又は防止することができる。すなわち、オーバーラップさせる量を十分に大きい量に決定すれば、シート状の繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cを折曲げた後も引続きオーバーラップするため、内側のフランジ7を形成する層の厚みが部分的に厚くなるものの、繊維の隙間26を完全に塞ぐことができる。逆に、オーバーラップさせる量を小さい量に決定すれば、繊維の隙間26が完全には閉塞されないが、隙間26のサイズを小さくすることができる。
【0037】
内側のフランジ7を形成する層の厚みを均一にしつつ、繊維の隙間26も閉塞することが複合材に要求される品質である場合には、オーバーラップするように載置された複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cを賦形型1の凹んだ第2の賦形面4に沿って折曲げた場合に、折曲げられた複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cの隣接する縁同士が互いにフィットするように、オーバーラップするように載置される複数のシート状の繊維20A、20B、20Cをサイジングすれば良い。
【0038】
図3(A)に示す例では、複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cを賦形型1の凹んだ第2の賦形面4に沿って折曲げた場合において、
図3(B)に示すように、折曲げられたシート状の繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cの縁同士が互いにオーバーラップせず、かつ逆V字状の隙間26が生じないように、各シート状の繊維20A、20B、20Cの形状及びサイズが決定されている。
【0039】
より具体的には、
図3(A)に示すように、曲率が小さい側となる外側のフランジ8全体、平面状のウェブ6の中央部分を含む一部及び曲率が大きい側となる内側のフランジ7の中央部分を含む一部を形成するための第1のシート状の繊維20A、ウェブ6の一方の端部を含む一部及び内側のフランジ7の一方の端部を含む一部を形成するための第2のシート状の繊維20B並びにウェブ6の他方の端部を含む一部及び内側のフランジ7の他方の端部を含む一部を形成するための第3のシート状の繊維20Cがそれぞれ素材として準備されている。
【0040】
また、第1のシート状の繊維20A、第2のシート状の繊維20B及び第3のシート状の繊維20Cは、ウェブ6の層を形成する部分23A、23B、23Cの縁同士を合わせて配置すると、内側のフランジ7の層を形成する部分21A、21B、21Cの縁同士がオーバーラップし、逆V字状のオーバーラップ領域27が生じるようにサイジングされている。
【0041】
このため、第1のシート状の繊維20A、第2のシート状の繊維20B及び第3のシート状の繊維20Cを、内側のフランジ7用の折曲線28で折曲げると、内側のフランジ7の層を形成する部分21A、21B、21Cの縁同士が合わさり、内側のフランジ7の層の厚みを増やすこと無く隙間26の発生も回避することができる。尚、各シート状の繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cのオーバーラップ部分同士を重ねる順序は任意である。
【0042】
つまり、複数のシート状の繊維20を折曲げて山折り側から見て凹んだ曲面を形成する場合において、凹んだ曲面を形成するシート状の繊維20に隙間が生じないように、平面状に展開した状態で複数のシート状の繊維20に重なり部分が生じるように、複数のシート状の繊維20をサイジング及び配置することができる。
【0043】
他方、複数のシート状の繊維20を折曲げて山折り側から見て凸状の曲面を形成する場合においても、凸状の曲面を形成する各層の厚みの均一性を向上させることを重視する場合には、シート状の繊維20に折重なりが生じないように予め隙間を形成しておくことができる。
【0044】
具体例として、
図3(A)に示すように外側のフランジ7用の折曲線29において折曲げ対象となる第1のシート状の繊維20Aの部分22Aに、V字状の切込25を設けることができる。そうすると、賦形型1の第1の賦形面3上に載置された第1のシート状の繊維20Aを凸状の曲面である第3の賦形面5に沿って折曲線29で折曲げることによって、山折りされる側から見て凸状の曲面を有する外側のフランジ7の層を、第1のシート状の繊維20Aの折重なりを発生させることなく均一な圧さで形成することができる。
【0045】
図3(A)、(B)に例示されるようにシート状の繊維20の積層体のある1つの層を、複数のシート状の繊維20を組合せて構成する場合において、シート状の繊維20の数を増やすと繊維の連続性がシート状の繊維20間において失われる。従って、共通の層内において組合せられるシート状の繊維20の数をできるだけ少なくすることが複合材の強度を向上させる観点から好ましい。
【0046】
加えて、共通の層内において組合せられるシート状の繊維20の縁の長さをできるだけ短くすることが好ましい。特に、繊維の長さ方向に平行でない縁の長さをできるだけ短くすることが複合材の強度を向上させる観点から重要である。すなわち、繊維が長さ方向に分断される原因となるシート状の繊維20の縁の長さを最小限とすることが特に重要である。
【0047】
一方、山折り側から見て凹んだ曲面を形成するシート状の繊維20の数は、曲面を形成する繊維に過剰な張力が発生しないように適切な数とすることが重要となる。すなわち、適切な間隔でシート状の繊維20を繋ぎ合せて山折り側から見て凹んだ曲面を形成することによって、繋ぎ合せられる複数のシート状の繊維20を折曲げられるようにすることが重要である。曲面を形成する各シート状の繊維20に過剰な張力が生じないようにするための、各シート状の繊維20の適切な幅は、曲面の曲率に依存して変化する。
【0048】
具体的には、曲面の曲率が大きい程、組合せられるシート状の繊維20の数を増やして各シート状の繊維20の幅を小さくすることが適切となり、逆に、曲面の曲率が小さい程、各シート状の繊維20の幅を大きくすることによって組合せられるシート状の繊維20の数を減らすことができるという関係がある。そこで、試験やシミュレーション等によって、曲面の曲率に応じた適切なシート状の繊維20の数及び幅を決定することができる。
【0049】
別の条件として、シート状の繊維20の積層体の共通の層内において組合せられる各シート状の繊維20を賦形型1に積層する際、共通の層内において組合せられる各シート状の繊維20が重力により滑って落下しないようにすることが必要である。従って、オーバーラップするように賦形型1の第1の賦形面3上に載置された複数のシート状の繊維20の一部が、賦形型1の凹んだ第2の賦形面4に沿って折曲げられた場合に、残りの一部が第1の賦形面3上に留まるように、オーバーラップさせて載置される複数のシート状の繊維20をサイジング及び配置することが必要である。換言すれば、オーバーラップさせて載置される複数のシート状の繊維20の一部が必ず第1の賦形面3の上方に配置されるように、オーバーラップさせて載置される複数のシート状の繊維20のサイジング及び配置を行うことが必要である。
【0050】
このため、共通の賦形型1を用いて
図1に例示される形状を有するプリフォーム2を賦形する場合には、平面状のウェブ6、内側のフランジ7及び外側のフランジ8を形成するためのシート状の繊維20を別々にサイジング及び配置して組合せることができない。
【0051】
以上のように、繊維の長さ方向における連続性が失われる原因となるシート状の繊維20間の縁の長さをできるだけ短くするという条件、過剰な繊維の張力を発生させずに、組合せられるシート状の繊維20を折曲げて曲面を形成できるように、曲面を形成するシート状の繊維20の、繊維の長さ方向における幅を適切な幅以下に決定するという条件並びに組合せられる複数のシート状の繊維20の一部がいずれも第1の賦形面3の上方に配置されるという条件に従って、共通の層において組合せられる複数のシート状の繊維20のサイジング及び配置を行うことが適切である。
【0052】
例えば、
図1に例示される形状を有するプリフォーム2を賦形型1を用いて製作する場合において、内側のフランジ7又は外側のフランジ8の側面に中央において接する平面に長さ方向が略平行な糸状の繊維で構成されるシート状の繊維20を積層対象とする場合には、
図3(A)に示すようにある共通の層を形成する複数のシート状の繊維20のサイジング及び配置を行うことができる。
【0053】
具体的には、繊維の不連続性の原因となる繊維の長さ方向L0に概ね垂直となるシート状の繊維20の縁の長さができるだけ短くなるように、平面状のウェブ6を形成するための、折曲げ対象とならない第2のシート状の繊維20B及び第3のシート状の繊維20Cの部分23B、23Cのサイズ及び形状が決定されている。一方、折曲げ後に山折り側から見て凹んだ曲面となる第1、第2及び第3のシート状の繊維20A、20B、20Cの部分21A、21B、21Cの、繊維の長さ方向L0における幅は、それぞれ繊維に過剰な張力が生じないように一定の幅以下となるようにサイジングされている。
【0054】
プリフォーム2は、複数のシート状の繊維20を自動積層装置又は作業者の手作業で積層方向に積層することによって構成される。従って、過剰な繊維の張力が各層において発生しないように、層ごとに複数のシート状の繊維20を組合せることが重要となる。
【0055】
プリフォーム2の各層を形成する複数のシート状の繊維20のオーバーラップ領域27を層間において同じ位置となるように決定すれば、プリフォーム2の厚さの影響を無視すれば、積層対象となるシート状の繊維20の形状及び積層位置が同一となる。このため、自動積層装置を用いたシート状の繊維20の積層の自動化が容易となる。
【0056】
但し、シート状の繊維20のオーバーラップ領域27を層間において同じ位置となるように決定すると、繊維が長さ方向に分断される面が生じる。すなわち、折曲げ後に組合される複数のシート状の繊維20の縁がプリフォーム2の厚さ方向に平行な面上に配置されることになる。その結果、多数の糸状の繊維の端部が、プリフォーム2の厚さ方向に平行な面上に配置され、複合材の強度低下に繋がる。
【0057】
そこで、複合材の強度低下を低減する観点から、プリフォーム2を構成するシート状の繊維20の積層体の層間においてオーバーラップ領域27の位置を変えることが望ましい。
【0058】
図4(A)、(B)、(C)はプリフォーム2を構成するシート状の繊維20の積層体の層間においてオーバーラップ領域27の位置を変えてシート状の繊維20を積層する例を示す図である。
【0059】
図4(A)に示すn−1層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cのオーバーラップ領域27n−1と、
図4(B)に示すn層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cのオーバーラップ領域27nが、互いにずれるように、n−1層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20C及びn層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cのサイジング及び配置を行うことができる。但し、nは2以上の整数である。
【0060】
そうすると、n−1層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの折曲げられた部分21A、21B、21Cの縁と、n層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの折曲げられた部分21A、21B、21Cの縁が、同一平面上に並ぶことを回避することができる。
【0061】
同様に、
図4(B)に示すn層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cのオーバーラップ領域27nと、
図4(C)に示すn+1層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cのオーバーラップ領域27n+1が、互いにずれるように、n層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20C及びn+1層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cのサイジング及び配置を行うことができる。
【0062】
そうすると、n層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの折曲げられた部分21A、21B、21Cの縁と、n+1層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの折曲げられた部分21A、21B、21Cの縁が、同一平面上に並ぶことを回避することができる。
【0063】
その結果、多数の糸状の繊維の端部がプリフォーム2の厚さ方向に平行な面上に配置されることを回避し、複合材の強度低下を防止することができる。すなわち、プリフォーム2の内部に、繊維が分断された面が形成されることを回避することができる。
【0064】
尚、複合材の強度が確保できれば、オーバーラップ領域27を1層おきに変えずに、複数層ごとに変えるようにしてもよい。また、全ての層におけるオーバーラップ領域27を互いにシフトさせずに、一部の層間においてオーバーラップ領域27を互いにシフトさせるようにしても良い。
【0065】
具体的として一層おき又は複数層おきに交互にオーバーラップ領域27の位置を変えるようにしても良い。或いは、隣接する層間において一定のシフト量でオーバーラップ領域27を順次シフトさせるようにしても良い。オーバーラップ領域27の層間における変化のパターンを規則的にすれば、自動積層装置を用いたシート状の繊維20の積層が容易となる。例えば、自動積層装置又は賦形型1をスライドさせるスライド機構を設けたり、複数の自動積層装置を交互に使用することによって、複数のシート状の繊維20の一部をオーバーラップさせて自動積層すること可能となる。
【0066】
また、プリフォーム2の厚さが厚い場合には、シート状の繊維20が積層される度に曲面の曲率が変化する。このため、曲率が大きい一部の層のみを、複数のシート状の繊維20で形成するようにしても良い。また、層間においてシート状の繊維20の数や繊維の長さ方向における最大幅を変えても良い。
【0067】
従って、プリフォーム2を構成するシート状の繊維20の積層体の少なくとも一部の層を、複数のシート状の繊維20を、シート状の繊維20に平行な方向に配置することによって形成することができる。その場合においても、シート状の繊維20の積層体の少なくとも一部の層間において、複数のシート状の繊維20の一部が互いにオーバーラップする位置を変えることが、複合材の強度低下の抑制に繋がる。
【0068】
図4(A)、(B)、(C)は繊維の長さ方向が同一である一方向材としてプリフォーム2及び複合材を製作する場合の例を示しているが、シート状の繊維20の層間において、繊維の長さ方向を変えることもできる。繊維の長さ方向は標準化されており、繊維の配向角が0度、45度及び90度であるプリプレグのシート及び繊維のシートが市販されている。このため、異なる配向角を有するシート状の繊維20を組合せてプリフォーム2及び複合材を製作することができる。
【0069】
図5(A)、(B)、(C)はプリフォーム2を構成するシート状の繊維20の積層体の層間においてオーバーラップ領域27の位置及び繊維の長さ方向の向きの双方を変えてシート状の繊維20を積層する例を示す図である。
【0070】
図5(A)に示すようにn−1層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの配向角を0度とし、繊維の長さ方向L0を内側のフランジ7又は外側のフランジ8の側面に中央において接する平面に概ね平行となるようにすることができる。そして、展開された状態において複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの一部の部分21A、21B、21Cがオーバーラップするように各シート状の繊維20A、20B、20Cのサイジング及び配置を行うことができる。
【0071】
この場合、
図3(A)に示す例と同様に、互いに突き合わせられるシート状の繊維20A、20B、20Cの縁のうち、繊維の長さ方向L0に平行でない方向、特に繊維の長さ方向L0に対して鈍角、すなわち45度以上135度以下の角度で傾斜する方向の縁の長さをできるだけ短くすることが複合材の強度低下を抑制する観点から好ましい。このため、
図3(A)に例示されるように、互いに突き合わせられるシート状の繊維20A、20B、20Cの縁のうち、繊維の長さ方向L0に平行でない方向における縁の長さができるだけ短くなるように、各シート状の繊維20A、20B、20Cのサイジング及び配置を行うことができる。
【0072】
次に、
図5(B)に示すようにn層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの配向角を45度とし、繊維の長さ方向L45を、内側のフランジ7又は外側のフランジ8の側面に中央において接する平面に概ね45度の角度で傾斜する方向とすることができる。この場合、配向角が45度である繊維の長さ方向L45に平行でない方向は、配向角が0度である繊維の長さ方向L0に平行でない方向に対して45度傾斜している。
【0073】
そこで、例えば、
図5(B)に示すように、各シート状の繊維20A、20B、20Cに、できるだけ繊維の長さ方向L45に平行な方向の縁や繊維の長さ方向L45に対して鋭角で傾斜する方向の縁が形成されるように、各シート状の繊維20A、20B、20Cの形状を決定し、裁断することができる。
【0074】
その結果、繊維が長さ方向に分断される箇所を少なくし、かつn−1層目における繊維の不連続部分と、n層目における繊維の不連続部分が重ならないようにすることができる。
【0075】
次に、
図5(C)に示すようにn+1層目における複数のシート状の繊維20A、20B、20Cの配向角を90度とし、繊維の長さ方向L90を、内側のフランジ7又は外側のフランジ8の側面に中央において接する平面に概ね垂直となるようにすることができる。この場合、内側のフランジ7の曲率が極端に大きくなければ、各シート状の繊維20A、20B、20Cの折り曲げ方向が、繊維の長さ方向L90と略同じ方向となるか、繊維の長さ方向L90に対して鋭角で傾斜する方向となる。
【0076】
このため、樹脂を含浸させる前のシート状の繊維20を積層することによってドライプリフォームを賦形する場合には、糸状の繊維の間隔がある程度広がることから、内側のフランジ7の曲率が極端に大きくなければ、繊維に過剰な長さ方向の張力を発生させることなくシート状の繊維20を内側のフランジ7用の折曲線28で折曲げることができる。換言すれば、内側のフランジ7の曲率が極端に大きくなければ、シート状の繊維20を構成する複数の糸状の繊維をばらけさせることによって、局所的な隙間26を発生させることなくシート状の繊維20を内側のフランジ7用の折曲線28で折曲げることができる。
【0077】
そこで、
図5(C)に示すようにn+1層については複数のシート状の繊維20に分割せずに、1枚のシート状の繊維20で形成することができる。これにより、繊維の連続性の低下を必要最小限に留め、複合材の強度を向上させることができる。
【0078】
但し、シート状の繊維20に樹脂を含浸させた後のシート状のプリプレグを積層することによってプリプレグの積層体を賦形する場合には、樹脂に粘着力があることから、樹脂を含浸させる前のシート状の繊維20に比べて、糸状の繊維の間隔が広がり難い。このため、プリプレグの積層体を賦形する場合には、繊維の長さ方向L90の縁及び繊維の長さ方向L90に対して鋭角で傾斜する縁を有する複数のシート状の繊維20を突き合わせてn+1層を形成するようにしてもよい。この場合、1枚のプリプレグがウェブ6、内側のフランジ7及び外側のフランジ8の各一部のn+1層を形成し、ウェブ6、内側のフランジ7及び外側のフランジ8のn+1層が複数のプリプレグで形成されることになる。
【0079】
繊維の配向角についても複合材に要求される強度に応じて一層ごとに変えずに、複数層ごとに変えることができる。すなわち、複数のシート状の繊維20の積層体の少なくとも一部の層間において、繊維の長さ方向の向きを変えることができる。また、繊維の長さ方向における連続性ができるだけ維持されるように、繊維の長さ方向の向きに応じて、単一の層を形成するシート状の繊維20の数及び形状並びにシート状の繊維20の数を複数とする場合におけるオーバーラップ領域27の形状及び位置を決定することができる。
【0080】
特に、シート状の繊維20を折曲げても繊維に過剰な張力が生じない層については、1枚のシート状の繊維20で形成することが好ましい。従って、プリフォーム2を構成するシート状の繊維20の積層体の少なくとも一部の層を、複数のシート状の繊維20を、シート状の繊維20に平行な方向に配置することによって形成することができる。
【0081】
プリフォーム2としてドライプリフォームを製作する場合には、複数のシート状の繊維20を賦形型1の凸部1Bの上に積層するのみでは十分に賦形できない場合が多い。そのような場合には、剛体の上型をシート状の繊維20の積層体に押し付けて加圧するか、シート状の繊維20の積層体をバギングすることによって大気圧を利用して加圧することが適切である。
【0082】
また、シート状の繊維20の積層体の内部にシート状又は粉末状のバインダを入れてドライプリフォームを賦形するようにしても良い。熱可塑性のバインダを使用してドライプリフォームの賦形を行う場合には、シート状の繊維20の積層体が加熱装置によって加熱される。
【0083】
一方、賦形されたプリプレグの積層体をプリフォーム2として製作する場合には、シート状のプリプレグを賦形型1の凸部1Bの上に積層するのみでも、単純な形状であれば未硬化の樹脂の粘着力と自重によってある程度賦形することが可能である。但し、複雑な形状に賦形する場合など、シート状のプリプレグを賦形型1の凸部1Bの上に積層するのみでは十分に賦形できない場合には、ドライプリフォームを製作する場合と同様に、上型による加圧又はバギングを行うことができる。
【0084】
図6は
図1に示す賦形型1を用いてシート状の繊維20の積層体30のバギングを伴ってプリフォーム2を製作する例を示す賦形型1の横断面図である。
【0085】
樹脂を含浸させる前又は樹脂を含浸させた後のシート状の繊維20の積層体30のバギングを行う場合には、
図6に示すように賦形型1の凸部1Bの上に積層されたシート状の繊維20の積層体30をバギングフィルム31で覆い、バギングフィルム31の縁をシーラント32で賦形型1の平板1Aに貼付けることによって、シート状の繊維20の積層体30を密閉することができる。
【0086】
次に、バギングフィルム31で密閉された領域を、真空装置33で減圧することができる。尚、真空装置33は真空ホースでバギングフィルム31と連結しても良いし、賦形型1と連結しても良い。真空装置33による真空引きを行うと、シート状の繊維20の積層体30には、大気圧と、バギングフィルム31で密閉された領域内における圧力との差圧を負荷することができる。すなわち、シート状の繊維20の積層体30をバギングフィルム31でバギングすることによって、シート状の繊維20の積層体30を加圧することができる。これにより、賦形されたプリフォーム2を取得することができる。
【0087】
また、熱可塑性のバインダを用いてドライプリフォームの賦形を行う場合には、シート状の繊維20の積層体30をバインダが溶融する温度まで加熱することが必要である。そこで、例えば、加熱装置34を賦形型1に内蔵し、熱可塑性のバインダを溶融するようにしてもよい。もちろん、バギング済みのシート状の繊維20の積層体30を賦形型1とともにオーブン等の独立した加熱装置34に搬入するようにしてもよい。
【0088】
図7は
図1に示す賦形型1と上型40でシート状の繊維20の積層体30を挟み込むことによってプリフォーム2を製作する例を示す賦形型1及び上型40の横断面図である。
【0089】
図7に示すように賦形後のプリフォーム2の形状にフィットする凹部を形成した上型40と、下型として機能する賦形型1でシート状の繊維20の積層体30を挟み込むことができる。これにより、賦形されたプリフォーム2を取得することができる。
【0090】
賦形型1と上型40でシート状の繊維20の積層体30を挟み込む場合においても、熱可塑性のバインダを用いてドライプリフォームの賦形を行う場合には、シート状の繊維20の積層体30をバインダが溶融する温度まで加熱することが必要である。そこで、例えば、加熱装置34を賦形型1及び上型40の少なくとも一方に内蔵し、熱可塑性のバインダを溶融するようにしてもよい。もちろん、シート状の繊維20の積層体30を賦形型1及び上型40とともにオーブン等の独立した加熱装置34に搬入するようにしてもよい。
【0091】
次に、上述したプリフォーム賦形方法によって製作することが可能なプリフォーム2の他の形状例について説明する。
【0092】
図8は本発明の実施形態に係るプリフォーム賦形方法によって製作することが可能なプリフォーム2の第2の形状例を示す斜視図である。
【0093】
図8に示すように、平面状のウェブ6の一方の面に湾曲した内側のフランジ7を形成する一方、他方の面に湾曲した外側のフランジ8を形成した形状を有するプリフォーム2を製作することもできる。換言すれば、横断面が概ねZ字型である湾曲した長尺構造を有するプリフォーム2を製作することもできる。このような形状を有するプリフォーム2も、山折りされる側から見て凸状の曲面9及び山折りされる側から見て凹んだ曲面10を平面11と連結した表面形状を有する。
【0094】
この場合、剛体の賦形型1の凸部1Bには、ウェブ6を賦形するための平面を形成する第1の賦形面3と、内側のフランジ7及び外側のフランジ8をそれぞれ賦形するための凸状の曲面を形成する第2の賦形面4及び第3の賦形面5を形成することができる。また、シート状の繊維20を凸部1Bの上に折曲げながら積層できるように、第1の賦形面3、第2の賦形面4及び第3の賦形面5の各法線方向を、鉛直方向及び水平方向に対して傾けることができる。
【0095】
図8に示す形状を有するプリフォーム2を製作する場合においても、内側のフランジ7を形成するために1枚のシート状の繊維20を折り曲げると、繊維の配向角によっては繊維に過剰な張力が発生する場合がある。そこで、繊維の配向角に応じて少なくとも一部の層を、複数のシート状の繊維20で形成し、かつ平面状に展開した状態で複数のシート状の繊維20にオーバーラップ領域27が形成されるように複数のシート状の繊維20のサイジング及び配置を行うことができる。
【0096】
これにより、繊維の長さ方向における連続性が失われる原因となる局所的な隙間及び繊維の長さ方向に作用する過剰な張力を繊維に発生させることなくプリフォーム2を製作することができる。
【0097】
図9は本発明の実施形態に係るプリフォーム賦形方法によって製作することが可能なプリフォーム2の第3の形状例を示す側面図であり、
図10は
図9に示すプリフォーム2及び賦形型1の位置A−Aにおける横断面図である。
【0098】
図9及び
図10に示すように、山折り側から見て凹んだ曲面状のウェブ6の一方の面に2つの平面状のフランジ50を形成した形状を有するプリフォーム2を製作することもできる。この場合も、プリフォーム2は、湾曲した長尺構造となる。
【0099】
これに対し、剛体の賦形型1の凸部1Bには、ウェブ6を内側から賦形するための凹んだ曲面を形成する第1の賦形面3と、両側の2つのフランジ50を内側から賦形するための平面を形成する第2の賦形面4及び第3の賦形面5を形成することができる。そして、凹んだ曲面を形成する第1の賦形面3上にシート状の繊維20を積層し、両側に折曲げることによって、シート状の繊維20を第2の賦形面4及び第3の賦形面5に沿わせることができる。
【0100】
図9及び
図10に示す形状を有するプリフォーム2を製作する場合においても、両側の2つのフランジ50を形成するために1枚のシート状の繊維20を折り曲げると、繊維の配向角によっては繊維に過剰な張力が発生する場合がある。そこで、繊維の配向角に応じて少なくとも一部の層を、複数のシート状の繊維20で形成し、かつ第1の賦形面3に沿った曲面状に展開した状態で複数のシート状の繊維20にオーバーラップ領域27が形成されるように複数のシート状の繊維20のサイジング及び配置を行うことができる。
【0101】
これにより、繊維の長さ方向における連続性が失われる原因となる局所的な隙間及び繊維の長さ方向に作用する過剰な張力を繊維に発生させることなくプリフォーム2を製作することができる。
【0102】
図11は本発明の実施形態に係るプリフォーム賦形方法によって製作することが可能なプリフォーム2の第4の形状例を示す側面図であり、
図12は
図11に示すプリフォーム2及び賦形型1の位置B−Bにおける縦断面図である。
【0103】
図11及び
図12に示すように、山折り側から見て凹んだ曲面状の第1のパネル60と山折り側から見て凹んだ曲面状の第2のパネル61とを連結した形状を有するプリフォーム2を製作することもできる。
【0104】
これに対し、剛体の賦形型1の凸部1Bには、第1のパネル60を賦形するための凹んだ曲面を形成する第1の賦形面62と、第2のパネル61を賦形するための凹んだ曲面を形成する第2の賦形面63を形成することができる。そして、凹んだ曲面を形成する第1の賦形面62上にシート状の繊維20を積層し、第2の賦形面63側に折曲げることによって、シート状の繊維20を第2の賦形面63に沿わせることができる。
【0105】
図11及び
図12に示す形状を有するプリフォーム2を製作する場合においても、第2のパネル61を形成するために1枚のシート状の繊維20を折り曲げると、繊維の配向角によっては繊維に過剰な張力が発生する場合がある。そこで、繊維の配向角に応じて少なくとも一部の層を、複数のシート状の繊維20で形成し、かつ第1の賦形面62に沿った曲面状に展開した状態で複数のシート状の繊維20にオーバーラップ領域27が形成されるように複数のシート状の繊維20のサイジング及び配置を行うことができる。
【0106】
これにより、繊維の長さ方向における連続性が失われる原因となる局所的な隙間及び繊維の長さ方向に作用する過剰な張力を繊維に発生させることなくプリフォーム2を製作することができる。
【0107】
以上の形状例のように、平面状の賦形面上に積層されたシート状の繊維20を折り曲げて曲面状の賦形面に沿わせる場合、曲面状の賦形面上に積層されたシート状の繊維20を折り曲げて平面状の賦形面に沿わせる場合、曲面状の賦形面上に積層されたシート状の繊維20を折り曲げて曲面状の賦形面に沿わせる場合のいずれにおいても、少なくとも一部の層を形成するために、複数のシート状の繊維20にオーバーラップ領域27が形成されるように複数のシート状の繊維20のサイジング及び配置を行って折り曲げる賦形方法を採用することができる。
【0108】
また、プリフォーム2の形状がウェブにフランジを形成した形状である場合に限らず、プリフォーム2がパネル同士を連結した形状を有する場合や横断面がL字型である長尺構造を有する場合であっても、上述した賦形方法を採用することができる。
【0109】
すなわち、複数のシート状の繊維20を、少なくとも一方が曲面である第1の賦形面及び第2の賦形面を有する賦形型1の上に載置して積層する積層工程と、第1の賦形面上に載置された複数のシート状の繊維20を第2の賦形面に沿って折曲げる折曲げ工程によって、複数の層を有する複数のシート状の繊維20の積層体30として賦形型1の曲面に対応する曲面を有する複合材用のプリフォーム2を製作することができる。そして、複数のシート状の繊維20を一部が互いにオーバーラップするように第1の賦形面又は積層方向に隣接するシート状の繊維20上に載置し、オーバーラップするように載置された複数のシート状の繊維20の一部を第2の賦形面に沿って折曲げることによって複数のシート状の繊維20の積層体30を構成する少なくとも一部の層を形成することができる。これにより、繊維の長さ方向における連続性が失われる原因となる局所的な隙間及び繊維の長さ方向に作用する過剰な張力を繊維に発生させることなくプリフォーム2を製作することができる。
【0110】
例えば、凹んだ曲面と平面を連結した形状を有する賦形型1を用いることによって、山折りされる側から見て凹んだ曲面と平面を連結した形状を有する板状のプリフォーム2を製作することができる。或いは、凹んだ曲面として第1の2次曲面又は高次曲面と、第1の2次曲面又は高次曲面と異なる第2の2次曲面又は高次曲面を連結した形状を有する賦形型1を用いれば、第1の2次曲面又は高次曲面と、第2の2次曲面又は高次曲面とを連結した形状を有する板状のプリフォーム2を製作することができる。また、第1の賦形面上に載置された複数のシート状の繊維20を更に凸状の曲面である第3の賦形面に沿って折曲線で折曲げれば、山折りされる側から見て凸状の曲面を平面又は曲面と連結した形状を有する板状のプリフォーム2を製作することもできる。
【0111】
(複合材成形方法)
次に上述した賦形方法で製作されたプリフォーム2を素材とする複合材の成形方法について説明する。以降では、上述した賦形方法で製作されたプリフォーム2を用いて
図1に例示される形状を有する複合材を成形する場合を例に説明する。
【0112】
プリフォーム2として、賦形されたプリプレグの積層体を製作する場合には、単独で加熱硬化しても良いし、他のプリフォームと組合せて一体的に加熱硬化するようにしてもよい。プリフォーム2として、ドライプリフォームを製作する場合においても、単独で樹脂を含浸させた後、加熱硬化しても良いし、他のプリフォームと組合せて樹脂を含浸させた後、加熱硬化しても良い。また、上述した賦形方法で製作されたプリフォーム2を他のプリフォームと組合せる場合には、必要な中間硬化を行うようにしても良い。
【0113】
上述した賦形方法で製作されたプリプレグの積層体を単独で加熱硬化する場合には、
図7又は
図8に示すように上型40の押し当て又はバギングによって加圧された状態のプリプレグの積層体をオーブンやオートクレーブ装置等の加熱装置34で加熱硬化することによって複合材を成形することができる。
【0114】
一方、上述した賦形方法で製作されたドライプリフォームに単独で樹脂を含浸させた後、加熱硬化する場合には、
図7又は
図8に示すように上型40と賦形型1とによって挟まれた状態のドライプリフォーム又はバギングされた状態のドライプリフォームに樹脂を含浸させる工程が実施される。
【0115】
図13は、
図1に示す賦形型1でプリフォーム2として賦形されたドライプリフォーム70を用いてVaRTM法により複合材を成形する場合の例を示す賦形型1の横断面図である。
【0116】
ドライプリフォーム70を素材としてVaRTM法により複合材を成形する場合には、バギングフィルム31、シーラント32及び真空装置33でバギングされた状態のドライプリフォーム70に樹脂を含浸させることができる。
【0117】
具体的には、樹脂注入装置71でバギングフィルム31で密閉された領域に未硬化の熱硬化性樹脂を注入させることができる。これにより、ドライプリフォーム70に熱硬化性樹脂を含浸させることができる。
【0118】
そして、ドライプリフォーム70に含浸させた樹脂を、バギングによる加圧下において加熱装置34で加熱硬化することによって、複合材を成形することができる。尚、通常、樹脂注入装置71から吐出される樹脂は、流動性を付与するために加熱される。従って、樹脂の加熱硬化時には、樹脂の流動性を維持するための温度から、樹脂が硬化する温度まで加熱装置34で昇温されることになる。
【0119】
図14は、
図1に示す賦形型1でプリフォーム2として賦形されたドライプリフォーム70を用いて上型40を用いたRTM法により複合材を成形する場合の例を示す賦形型1の横断面図である。
【0120】
ドライプリフォーム70を素材として上型40を用いたRTM法により複合材を成形する場合には、上型40と賦形型1との間に形成される空間に配置されたドライプリフォーム70に樹脂を含浸させることができる。具体的には、真空装置33を作動させて上型40と賦形型1との間に形成される領域の真空引きを行いながら、樹脂注入装置71で上型40と賦形型1との間に形成される領域に未硬化の熱硬化性樹脂を注入させることができる。これにより、ドライプリフォーム70に熱硬化性樹脂を含浸させることができる。そして、ドライプリフォーム70に含浸させた樹脂を、加熱装置34で加熱硬化することによって、複合材を成形することができる。
【0121】
(複合材)
次に上述した成形方法で製作される複合材の構造について説明する。
【0122】
上述した成形方法で製作される複合材は、繊維で強化された樹脂層の積層体からなり、かつ折曲げられた形状を有する板状の複合材となる。例えば、複合材の形状は、
図1及び
図8乃至
図10を参照して説明した第1、第2及び第3の形状例のように、平板状の第1の板状部分と、山折り側から見て凹んだ曲面状の第2の板状部分を連結した形状となる。或いは、
図11及び
図12を参照して説明した第4の形状例のように、山折り側から見て凹んだ曲面状の第1の板状部分と、山折り側から見て凹んだ曲面状の第2の板状部分を連結した形状となる場合もある。
【0123】
また、第1の板状部分及び第2の板状部分の一方を構成する複数の樹脂層のうちの少なくとも一部の樹脂層は、シート状の繊維20の縁を突き合わせることによって製作されている。従って、繊維の配向角によっては、第1の板状部分及び第2の板状部分の一方を構成する複数の樹脂層のうちの少なくとも一部の樹脂層を強化する複数の糸状の繊維であって共通の第1の樹脂層に含まれる全ての複数の糸状の繊維が第1の直線又は曲線に沿って長さ方向に分断されている複合材となる場合がある。
【0124】
一方、第1の板状部分及び第2の板状部分の他方を構成する複数の樹脂層のうちの少なくとも一部の樹脂層についても、シート状の繊維20の縁を突き合わせることによって製作されている。従って、繊維の配向角によっては、第1の板状部分及び第2の板状部分の他方を構成する複数の樹脂層のうちの少なくとも一部の樹脂層を強化する複数の糸状の繊維であって、第1の樹脂層と縁がフィットしている共通の第2の樹脂層に含まれる複数の繊維が部分的に、第1の直線又は曲線と端部において連結する第2の直線又は曲線に沿って長さ方向に分断されている複合材となる場合がある。
【0125】
(航空機構造体)
次に上述した複合材で構成される航空機構造体の例について説明する。
【0126】
図15は、
図1に示す賦形型1で製作されたプリフォーム2を用いて製作することが可能な複合材構造体の一例を示す側面図であり、
図16は
図15に示す複合材構造体の位置C−Cにおける横断面図である。
【0127】
図15及び
図16に示すように
図1に示す形状を有する複合材80と、
図1に示す形状を有する複合材80と面対称な形状を有する複合材81を、ウェブ6同士を貼り合せた状態で2枚の湾曲した板状の複合材82、83の間に配置することができる。また、平板状の複合材82、83と、互いに面対称な2つの複合材80、81との間に形成される2個所の隙間を複合材で構成されるフィラー84で充填することができる。
【0128】
そうすると、横断面がI字型であり、長さ方向に湾曲したフレーム、桁(スパー)、小骨(リブ)又は縦通材(ストリンガ)等の補強材85を航空機構造体として製作することができる。もちろん、横断面がI字型以外の湾曲した補強材についても同様に航空機構造体として製作することができる。すなわち、上述した成形方法で製作された複合材を用いて航空機用の複合材構造体を製作することができる。
【0129】
また、
図15及び
図16に示す例において、板状の複合材82、83を上面パネル及び下面パネルに代えれば、上面パネルと下面パネルを補強材で連結した複合材構造体を、航空機構造体として製作することもできる。
【0130】
別の例として、上述した成形方法で製作される複合材が、横断面の形状がL字型の湾曲した長尺構造を有する複合材や、横断面の形状がZ型の湾曲した長尺構造を有する複合材であれば、他の複合材と組合せることなく湾曲した補強材として用いることもできる。また、横断面の形状がL字型の湾曲した長尺構造を有する互いに面対称な2つの複合材を突き合わせれば、横断面の形状が逆T字型の湾曲した長尺構造を有する補強材を製作することもできる。
【0131】
更に、補強材に限らず、
図11及び
図12に例示されるように湾曲した第1のパネル60と湾曲した第2のパネル61とを連結した形状を有するプリフォーム2を加熱硬化すれば、航空機構造体として段付パネルや部分的にテーパするパネルを製作することもできる。
【0132】
尚、上述した成形方法で製作される複合材を他の複合材と組合せることによって複合材構造体を製作する場合には、上述した成形方法で製作される複合材の加熱硬化前又は加熱硬化後において他の複合材と組合せることができる。すなわち、複数の複合材をそれぞれ加熱硬化して成形した後に複数の複合材を接着剤で接着するようにしても良いし、加熱硬化前における複合材を組合せて接着と硬化を同時に行うコキュアを実施するようにしても良い。
【0133】
また、上述した成形方法で製作される複合材を他の複合材と組合せることによって複合材構造体を製作する場合には、少なくとも一部の繊維の長さ方向が異なる他の複合材と組合せることによって、上述した成形方法で製作される複合材の強度を補強することができる。この場合、多数の糸状の繊維の端部が同一面上に配置され、複合材の強度が低下したとしても、組合せられる他の複合材によって強度を補うことができる。このため、上述した成形方法で繊維の長さ方向を一様とする一方向材として複合材を成形する場合において、シート状の繊維20のオーバーラップ領域27を層間において同じ位置に配置しても他の複合材によって強度を確保することが可能となる。この場合、自動積層装置によるシート状の繊維20の積層の自動化も容易となる。
【0134】
(効果)
以上のようなプリフォーム賦形方法及び複合材成形方法によれば、少なくとも一方が大きな曲率で湾曲している板状の部分を連結した形状を有するプリフォーム2及び複合材であっても、繊維に過剰な張力や局所的な隙間を発生させることなく賦形及び成形することができる。その結果、複合材の強度低下を軽減させることができる。逆に、従来は強度が確保できないことから製作が困難であった、大きな曲率で湾曲する複合材であっても製作することが可能となる。
【0135】
(他の実施形態)
以上、特定の実施形態について記載したが、記載された実施形態は一例に過ぎず、発明の範囲を限定するものではない。ここに記載された新規な方法及び装置は、様々な他の様式で具現化することができる。また、ここに記載された方法及び装置の様式において、発明の要旨から逸脱しない範囲で、種々の省略、置換及び変更を行うことができる。添付された請求の範囲及びその均等物は、発明の範囲及び要旨に包含されているものとして、そのような種々の様式及び変形例を含んでいる。