特許第6719807号(P6719807)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6719807天井クレーンによる液体タンクの搬送制御システムおよび天井クレーンにより液体タンクを搬送する方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6719807
(24)【登録日】2020年6月19日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】天井クレーンによる液体タンクの搬送制御システムおよび天井クレーンにより液体タンクを搬送する方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/06 20060101AFI20200629BHJP
   G05B 11/36 20060101ALI20200629BHJP
   B22D 41/12 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
   B66C13/06 M
   G05B11/36 G
   B22D41/12 B
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-99514(P2016-99514)
(22)【出願日】2016年5月18日
(65)【公開番号】特開2017-206351(P2017-206351A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2019年2月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000191009
【氏名又は名称】新東工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504237050
【氏名又は名称】独立行政法人国立高等専門学校機構
(74)【代理人】
【識別番号】100071010
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 行造
(74)【代理人】
【識別番号】100118647
【弁理士】
【氏名又は名称】赤松 利昭
(74)【代理人】
【識別番号】100138519
【弁理士】
【氏名又は名称】奥谷 雅子
(74)【代理人】
【識別番号】100123892
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169993
【弁理士】
【氏名又は名称】今井 千裕
(74)【代理人】
【識別番号】100185535
【弁理士】
【氏名又は名称】逢坂 敦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 邦弘
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 薪雄
(72)【発明者】
【氏名】兼重 明宏
(72)【発明者】
【氏名】上木 諭
(72)【発明者】
【氏名】山内 悠
【審査官】 有賀 信
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−222392(JP,A)
【文献】 特開2008−257348(JP,A)
【文献】 特開2005−088041(JP,A)
【文献】 特開2003−065385(JP,A)
【文献】 特開2000−179615(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 13/06
B22D 41/12
G05B 11/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
天井クレーンによる液体タンクの搬送制御システムであって、
液体タンクを天井クレーン台車から吊り下げる吊下部材と前記液体タンクの揺れと、前記液体タンク中の液体の揺動とを連成系モデルとし、
前記吊下部材の揺れ角を用いてフィードバック・コントロールをし、前記天井クレーン台車の走行指令値と前記液体タンクに作用する外力とを外部入力とし、前記吊下部材の揺れ角を制御量として、混合H/H制御手法を用いて設計し、ここで、H制御の周波数重み関数では積分器またはローパスフィルタを用い、H制御の周波数重み関数は液体タンク中の液体の揺動を考慮しないノミナルモデルと前記連成系モデルとの乗法的誤差を包含するように設計し、
前記天井クレーンによる前記液体タンクの搬送の際の前記液体タンクの揺れを抑制するように前記天井クレーン台車を制御する、
搬送制御システム。
【請求項2】
前記液体タンク中の液体の一次振動モードを制振するように設計される、
請求項1に記載の搬送制御システム。
【請求項3】
前記天井クレーン台車の走行指令値は、前記天井クレーン台車の速度指令値であって、レバーの角度操作により入力され、
前記液体タンクの揺れに基づき、前記レバーに角度を変更するような力を生じさせる、
請求項1または2に記載の搬送制御システム。
【請求項4】
前記天井クレーンと前記レバーとの間の信号伝達の遅れをスキャッタリング変換で処理する、
請求項1ないし3のいずれか1項に記載の搬送制御システム。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の搬送制御システムを用いて、天井クレーンにより液体タンクを搬送する方法。
【請求項6】
前記液体タンクが、溶湯を収容する取鍋である、
請求項5に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天井クレーンによる液体タンク、すなわち液体の入ったタンク、の搬送制御システムおよび天井クレーンにより液体タンクを搬送する方法に関する。特に液体タンクの搬送効率と搬送時の安全性を高める液体タンクの搬送制御システムおよび液体タンクを搬送する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋳造工場では、溶解炉で溶解した高温の溶湯を、注湯機を用いて鋳型に注湯する。鋳造工場は広大で、溶解炉等と注湯機とが離れた場所に設置されているのが一般的である。また、鋳造工場内には、鋳型を製造する造型機や、造型機で造型した鋳型を注湯機に搬送するライン、注湯機で溶湯が注湯された鋳型を冷却するライン等が敷設され、溶解炉から注湯機への溶湯搬送ラインを確保するのも難しいことが多い。そこで、溶湯を取鍋に収容し、取鍋を天井クレーンで搬送することが行われている。
【0003】
溶湯を収容する取鍋は重量も大きくなり、また、高温の溶湯を収容しているため、大きく揺れると危険であり、また、揺れが止まるまでの時間が長く掛かり、かつ、内容物である溶湯が溢流するようなことがあると、大きな事故を引き起こしかねない。取鍋と天井クレーンから取鍋を吊り下げる吊下部材とを一緒に揺らすと、溶湯は吊下部材が揺れることにより生ずる遠心力により取鍋の壁面に張り付いて、見掛け上液面揺動が生じにくい。しかし、天井クレーンの走行を止める際あるいは走行速度を変更する際に、吊下部材と取鍋が振動し、この振動が止まるまでの時間のために作業効率が低下する。また、吊下部材が揺れる周期(周波数)と異なる周波数で天井クレーンを走行する場合や吊下部材および取鍋が天井クレーンから揺れないように固定すると、取鍋内の溶湯が揺動し、溢流を起こす危険がある。天井クレーンを振動させないようにするためには、速度フィードバック制御を用いる天井クレーンの振動抑制方法が提案されている(特許文献1)。
【0004】
また、このような天井クレーンの操作は、危険な天井クレーンから離れたオペレータ室等から行うことが多い。そこで、操作器具を工夫して天井クレーンを円滑に制御する方法が提案されている(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−336394号公報
【特許文献2】特開平9−104587号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし特許文献1に記載された天井クレーンの振動抑制方法では、吊り荷を剛体としており、溶湯を収容する取鍋における溶湯の揺動、すなわちスロッシングを考慮してはいない。
【0007】
また、特許文献2に記載された操作器具では、一人の操作において誤操作をなくして遠隔操作をすることは可能になるが、揺れを生ずることなく速く天井クレーンを目的地に搬送するための操作については言及されていない。
【0008】
そこで、本発明は、液体タンクの揺れを抑制すると共にタンク内の液体の揺動を抑制することができる天井クレーンによる液体タンクの搬送制御システムおよび天井クレーンにより液体タンクを搬送する方法を提供することを目的とする。また、遠隔操作において天井クレーンを用いて液体タンクを速く目的地に搬送することができる天井クレーンによる液体タンクの搬送制御システムおよび天井クレーンにより液体タンクを搬送する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明の第1の態様に係る搬送制御システムは、たとえば図1〜3に示すように、天井クレーン10による液体タンク30の搬送制御システムであって、液体タンク30を天井クレーン台車14から吊り下げる吊下部材16と液体タンク30の揺れと、液体タンク30中の液体34の揺動とを連成系モデルとし、吊下部材16の揺れ角θを用いてフィードバック・コントロールをし、天井クレーン台車14の走行指令値wと液体タンク30に作用する外力wとを外部入力とし、吊下部材の揺れ角θを制御量として、混合H/H制御手法を用いて設計し、ここで、H制御の周波数重み関数Wでは積分器またはローパスフィルタを用い、H制御の周波数重み関数Wは液体タンク30中の液体34の揺動を考慮しないノミナルモデルと前記連成系モデルとの乗法的誤差を包含するように設計し、天井クレーン10による液体タンク30の搬送の際の液体タンク30の揺れを抑制するように天井クレーン台車14を制御する。
【0010】
このように構成すると、液体タンクの揺れを抑制するように天井クレーン台車を制御することができ、かつ、液体タンク内の液体の揺動、すなわち液面揺動を抑制することができる。そのために、速く目的地に到達させ、作業効率を高めることも可能となる。
【0011】
また、本発明の第2の態様に係る搬送制御システムは、第1の態様に係る搬送制御システムにおいて、たとえば図2に示すように、液体タンク30中の液体34の一次振動モード36を制振するように設計される。このように構成すると、液体タンク中の液体は一次振動モードが抑制され、高次の振動も起きることなく液体がこぼれず、所期の目的を達成することができる。
【0012】
また、本発明の第3の態様に係る搬送制御システムは、第1または第2の態様に係る搬送制御システムにおいて、たとえば図1〜3に示すように、天井クレーン台車14の走行指令値wは、天井クレーン台車14の速度指令値であって、レバー110の角度操作により入力され、液体タンク30の揺れに基づき、レバー110に角度を変更するような力を生じさせる。このように構成すると、レバーを通じて操作者に加速すべきか減速すべきかの情報が伝達されるので、遠隔操作においても、天井クレーンによる液体タンクの搬送を確実に行うことが可能になる。そのために、速く目的地に到達させることも可能となる。
【0013】
また、本発明の第4の態様に係る搬送制御システムは、第1ないし第3のいずれかの態様に係る搬送制御システムにおいて、たとえば図1および図6に示すように、天井クレーン10とレバー110との間の信号伝達の遅れをスキャッタリング変換で処理する。このように構成すると、信号伝達の遅れをスキャッタリング変換で処理するので、天井クレーンから離れた場所からでも安定して天井クレーン台車を操作することができる。
【0014】
上記課題を解決するための本発明の第5の態様に係る天井クレーンにより液体タンクを搬送する方法は、第1ないし第4のいずれかの態様に係る搬送制御システムを用いて、天井クレーンにより液体タンクを搬送する。このように構成すると、液体タンクの揺れや液体タンク内の液体の揺動を抑制するように天井クレーン台車を制御して、液体タンクを天井クレーンにより搬送することができる。
【0015】
また、本発明の第6の態様に係る天井クレーンにより液体タンクを搬送する方法は、第5の態様に係る天井クレーンにより液体タンクを搬送する方法において、液体タンク30が、溶湯を収容する取鍋である。このように構成すると、取鍋の揺れや取鍋内の溶湯の揺動を抑制するように天井クレーン台車を制御して、天井クレーンにより取鍋を搬送することができるので、鋳造工場においても安全に効率よく溶湯を搬送することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の搬送制御システムによれば、天井クレーンによる液体タンクの搬送制御システムであって、液体タンクを天井クレーン台車から吊り下げる吊下部材と液体タンクの揺れと、液体タンク中の液体の揺動とを連成系モデルとし、吊下部材の揺れ角を用いてフィードバック・コントロールをし、天井クレーン台車の走行指令値と液体タンクに作用する外力とを入力とし、吊下部材の揺れ角を制御量として、混合H/H制御手法を用いて設計し、ここで、H制御の周波数重み関数では積分器またはローパスフィルタを用い、H制御の周波数重み関数は液体タンク中の液体の揺動を考慮しないノミナルモデルと前記連成系モデルとの乗法的誤差を包含するように設計し、天井クレーンによる液体タンクの搬送の際の液体タンクの揺れを抑制するように天井クレーン台車を制御するので、液体タンクの揺れや液体タンク内の液体の揺動を抑制することができ、速く目的地に到達させ、搬送効率を高めることも可能となる。
【0017】
また、本発明の天井クレーンにより液体タンクを搬送する方法によれば、液体タンクの揺れや液体タンク内の液体の揺動を抑制するように天井クレーン台車を制御して、液体タンクを天井クレーンにより搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】遠隔操作を用いて天井クレーンにより液体タンクを搬送する構造を説明する概略図である。
図2図1の構造から数学的モデルを導くための構成を示す説明図である。
図3】一般化プラントのブロック線図である。
図4】周波数重み関数Wの一例を示すボード線図である。
図5】天井クレーンの走行指令値を入力して液体タンクを搬送する制御システムのブロック線図である。
図6】通信遅れを考慮して天井クレーンの走行を入力して液体タンクを搬送する制御システムのブロック線図である。
図7】実施例1で用いた周波数重み関数Wを示すボード線図である。
図8】実施例1における天井クレーン台車の走行速度を示す図である。
図9】実施例1のケース1における制御をした場合の効果を示すグラフで、(a)は天井クレーン台車の走行速度であって、大きな値を示すきれいな台形は入力指令値で、その下が実際の走行速度、(b)は液体タンクの揺れ角、(c)は液体の揺動を示し、(a1)、(b1)、(c1)は制御をした場合、(a2)、(b2)、(c2)は制御なしの場合である。
図10】実施例1のケース2における制御をした場合の効果を示すグラフで、(a)は天井クレーン台車の走行速度であって、大きな値を示すきれいな台形は入力指令値で、その下が実際の走行速度、(b)は液体タンクの揺れ角、(c)は液体の揺動を示し、(a1)、(b1)、(c1)は制御をした場合、(a2)、(b2)、(c2)は制御なしの場合である。
図11】実施例2における測定結果を示すグラフであり、(a)はレバーの入力角、(b)は台車速度、(c)は台車位置、(d)は揺れ角、(e)は液体の揺動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について説明する。なお、各図において、互いに同一または相当する装置には同一符号を付し、重複した説明は省略する。
【0020】
図1は、遠隔操作を用いて天井クレーン10により液体タンク30を搬送する装置を説明する概略図である。天井クレーン10は、たとえば鋳造工場内の設備の上方に架設された、レール12と、レール12を走行する天井クレーン台車14とを備える。天井クレーン10は公知の装置であるので、詳細な説明は省略する。天井クレーン台車14から吊下部材16が垂下され、液体タンク30を懸吊する。吊下部材16は、本実施の形態ではロッドであるが、特にその構造は限定されない。
【0021】
液体タンク30は、液体34を収容して天井クレーン10にて搬送される容器32であり、たとえば溶湯を収容する取鍋である。容器32の形状は、直方体、円筒など任意である。収容される液体も、溶湯に限られず、水、その他の液体でよい。
【0022】
本実施の形態では、吊下部材16がロッドである。すなわち曲げ剛性が高いので、天井クレーン台車14との接合部をピン接合(回転自在な接合)とする。液体タンク30が溶湯を収容する取鍋のような重量の大きなものである場合、天井クレーン台車14との接合部を剛接合とすると大きなモーメントを受けることになり、破損し易く、あるいは、堅牢な構造が必要になるので、ピン接合とするのがよい。また、吊下部材16の揺れ角θを計測する角度変位計130を備える。
【0023】
入力装置100は、レバー110の傾斜角により天井クレーン台車14への速度指令値を変化させる。ここで、速度指令値とは、操作者が入力装置100により入力した天井クレーン台車14の走行を速度で指令する値である。なお、入力装置100では、速度指令値に代えて、加速度指令値や位置指令値で入力してもよい。制御装置120でレバー110の傾斜角から速度指令値を演算して天井クレーン台車14へ信号を送る。なお、搬送制御システムは制御装置120および/または天井クレーン10に内蔵される。後述するように、搬送制御システムからの出力に応じて、制御装置120から入力装置100に信号が送られてもよい。
【0024】
鋳造工場においては、入力装置100や制御装置120は運転室に置かれるのが一般的である。そのために、天井クレーン10や液体タンク30から離れており、遠隔操作を行っている。運転室、すなわち、入力装置100の近くには、天井クレーン10や液体タンク30の動作を映し出すモニター(不図示)等が置かれてもよい。また、天井クレーン10や液体タンク30と入力装置100や制御装置120との距離が長いときには、イーサネット等の有線回線あるいは無線回線を経由して通信が行われてもよい。
【0025】
次に図2を参照して、図1に示す装置から数学的モデルを導くための構成を説明する。図2において、天井クレーン台車14は左右方向に移動する。吊下部材16は剛なロッドとする。天井クレーン台車14と吊下部材16とはピン接合、吊下部材16と容器32とは剛接合されているものとする。容器32内の液面36は、一次モードで振動するものとする。これは、通常、天井クレーンで搬送する液体タンクの大きさの範囲では、高次の液面振動は生じにくく、生じたとしても大きくはならないためである。なお、容器32内の液面36が高次モードで振動する場合や吊下部材16と容器32とを剛接合ではなくピン接合とした場合についても、同様の方法で解析し制御系を設計することにより、液体タンク30の揺れや液面36の揺動を抑制するように天井クレーン台車14を制御することができる。
【0026】
吊下部材16と容器32とを合わせた(「ロッド・タンク連成系」ともいう)質量をm1、天井クレーン台車14との接合点から質量mの重心までの長さをlとする。容器32内の液体34の質量をmとし、液体34の揺動は重心からの腕の長さlの単振子にモデル化する(「等価振子」ともいう)。等価粘性cは、液体34自身の粘性と液体34と容器32の壁面との摩擦とを考慮して求める。ロッド・タンク連成系の揺れに液体34の揺動を合わせた振動モデルを、連成系モデルという。
【0027】
ロッド・タンク連成系の接合点からの揺れ、すなわち揺れ角をθ、等価振子の傾斜角をθとする。天井クレーン台車14が
で走行すると、運動方程式は式(1)で表わされる。
【数1】
・・・(1)
ここで、
=(m+m)l+i
=m+i
:ロッド・タンク連成系の重心回りの慣性モーメント
:液体34の重心回りの慣性モーメント
:ロッド・タンク連成系の重心までのまでの距離
:等価振子長さ
:ロッド・タンク連成系の質量
:液体34の質量
c: 液体34自身の粘性と液体34と容器32の壁面との摩擦とを考慮した等価粘性
D: 回転支点部(吊下部材16の天井クレーン台車14との接合点)の粘性係数
【0028】
図1および図2に示す天井クレーンにより液体タンクを搬送する構成を制御する一般化プラントを図3に示す。以下、図3に示す一般化プラントの制御系の設計を説明する。ここでは、混合H/H制御理論を用いる。ここで、混合H/H制御理論とは、一般化制御対象に対して、閉ループシステムを安定化し、かつ、
を満足するという制約のもとで、
を最小化する線形時不変制御器を設計する理論である。また、一般化プラントでは、ロッド・タンク連成系に及ぼす等価振子の影響、すなわち乗法的誤差を、後述の周波数重み関数Wにより覆うようにすることにより、1質点系モデルとなっている。
【0029】
レバー110からの入力操作量wと容器32に作用する外力wを外部入力とし、定常状態における容器32の変位に周波数重み関数Wを通した制御量zと、入力操作量wに対する容器32の変位に周波数重み関数Wを通した制御量zを用いる。ここで、外力wは、たとえば容器32に物が衝突して作用する外力であり、あるいは、風力などである。外力wは、通常はゼロである。P(s)200は、後述の運動方程式である。ls210は、角度変位計130で計測した吊下部材16の揺れ角θを容器32の変位に変換する関数である。k/mg220は、外力wを容器32の変位に変換する関数である。なお、mは、ロッド・タンク連成系の質量、すなわち(1)式のm、gは重力加速度である。W230およびW240は、周波数重み関数であり、後述する。K(s)250は、角度変位計130で計測した揺れ角θから入力操作量の補正量を算定する関数であり、制御システムのコントローラである。すなわち、揺れ角θに基づきフィードバック・コントロールを行っている。K(s)250は、容器32の揺れを小さくするように制御するための天井クレーン台車14への速度入力値の補正量を算定する。なお、sは、ラプラス演算子である。
【0030】
図3に示すノミナルモデルの運動方程式P(s)200は、(2)式で表わされる。
【数2】
ここで、
u:天井クレーン台車への速度指令値,
T:時定数、なお、
l:ロッド・タンク連成系の重心までのまでの距離、すなわち、(1)式のl
f:外力。
ここで、天井クレーン台車の位置xは重要ではないので、(2)式では省略している。
【0031】
(2)式を、(3)式のように置き換える。
【数3】
出力方程式を(4)式とする。
【数4】
なお、
【数5】
【数6】
【数7】
である。また、
【数8】
である。yは、出力変数ベクトルである。
【0032】
図3に示す一般化プラントの周波数重み関数W240は、ノミナルモデルとロッド・タンク連成系に等価振子を加えた連成系モデルとの乗法的誤差を覆うように設計する。一例として、(9)式で表わされる。このように、周波数重み関数W240を乗法的誤差を覆うように設計するために、ロバスト性の高い制御システムを設計することができる。
【数9】
周波数重み関数W240を状態方程式として(10)式、(11)式に示す。
【数10】
【数11】
ここで、
:H制御における制御量
:H制御における状態変数であって、ノミナルモデルの位置
u: H制御における制御入力
、B、C、D:H制御における状態方程式の係数
一例として数値計算で求めた周波数重み関数W240のボード線図を図4に示す。
【0033】
図3に示す一般化プラントの周波数重み関数W230は、低周波での収束を速くするために、ローパスフィルタまたは積分器を用いる。一例として、(12)式で表わされる時定数を0.2としたローパスフィルタとする。
【数12】
周波数重み関数W230を状態方程式として(13)式、(14)式に示す。
【数13】
【数14】
ここで、
:H制御における制御量
、B、C:H制御における状態方程式の係数
【数15】
である。
【0034】
状態変数xを(16)式とする。
【数16】
その結果、上述の状態方程式を統合して(17)〜(20)式が得られる。
【数17】
【数18】
【数19】
【数20】
【0035】
上記(17)〜(20)式より、
が1以下を満たすと共に、
ができるだけ小さくなるコントローラK(S)250を数値解析により算定する。ここで、
は、全ての領域におけるz/wの上限値であり、1以下にするということは、入力wに対して出力zが大きくなることがないことを意味する。
は、z/wの二乗面積の平方根であり、
が小さいということは、wが入力された場合にzが速く0(ゼロ)になることを意味する。
【0036】
数値解析は、たとえば、MATLAB(登録商標)、Scilab(登録商標)などの市販のソフトウェアを用いて行うことができる。本制御システムによれば、レバー110からの入力操作量wに対して、
を1以下とする制御を行うので、容器32の変位、すなわち揺れを小さくすることができる。さらに
を速く小さくするように制御システムが設計されるので、容器32の揺れを速く小さくすることができる。よって、液体タンク30の揺れおよび液体タンク30内の液体34の揺動を防止できると共に、操作者の速度指令値に応じて天井クレーン台車14を目的地に速く移動させることができる。
【0037】
次に、図5に示すブロック線図を参照して、図1に示す装置に上記の制御系を用いて、液体タンク30の揺れを防止する搬送方法について説明する。先ず操作者が所望の速度指令値となるようにレバー110を傾ける。すなわち、レバー110に所定のトルクを付加するための力fをかける。このとき、操作者は、所期の搬送時間に適合するような速度指令値を入力しようとする。なお、l300はレバー110に対応する。すると入力装置100に対応するPm(S)310でレバー110の操作角度θが算定され、出力される。Kθv320でレバー110の操作角度θに応じた天井クレーン台車14の
を算定する。天井クレーン10に対応するPs(S)330では、
と後述の
を合算した
が入力され、天井クレーン台車14を
で動かす。天井クレーン台車14から吊り下げられる吊下部材16の揺れ角θを角度変位計130で測定し、コントローラKs(S)340に送る。Ks(S)340では、前述のように容器32の揺れを小さくするための
を算出し、出力する。よって、前述の通り、天井クレーン台車14は液体タンク30の揺れを小さくする
で動かされる。
【0038】
Ps(S)330からは、測定した吊下部材16の揺れ角θに基づき、天井クレーン台車14に対する液体タンク30の速度である荷物速度Vが出力される。Kvf350では、荷物速度Vに比例するようにレバー110を傾けるためのトルクτを算定する。すなわち、レバー110で荷物速度値Vを指定するトルクに所定の係数を乗じた値で方向(すなわち正負)を逆にしたトルクτを算定する。また、Pm(S)310から出力された操作角度θに基づき、モーメントを測定する力センサに代わり、反力オブザーバ(Reaction force observer)360でレバー110に付加されたモーメントτを推定する。また、Km(S)370では、レバー110の操作角度θの変化に対する抵抗、すなわちレバー110の角速度の変化に対する摩擦から、摩擦により生ずるトルクτを推定する。このトルクτは、レバー110を操作する際の抵抗を減じ、すなわち操作するための力を軽減する。これら、Kvf350、反力オブザーバ360およびKm(S)370からのトルクτ、τ、τを統合し(τからτ、τを減じ)、トルクτをPm(S)310に入力する。そのために、操作者はレバー110を通じて力あるいはトルクτを知覚することにより、液体タンク30の揺れを小さくするには加速した方がいいのか減速した方がいいのか、またその大きさを、レバー110からの力として知覚することができる。すなわち、天井クレーン10や液体タンク30の動作を映し出すモニターで観察しながら加速した方がいいのか減速した方がいいのかを判断するのではなく、レバー110から直接的に感じることができる。
【0039】
このように本方法によれば、液体タンク30の揺れを抑え、液体34がこぼれることを防止するように天井クレーン台車14を制御することができる。そのために、液体タンク30を速く目的地に搬送することができる。さらに、液体タンク30の揺れを小さくする天井クレーン10の操作が入力装置100から操作者に直接的に伝達されるので、未熟練者であっても、液体タンク30の揺れを確実に抑えた操作をすることが可能になる。
【0040】
次に、図6に示すブロック線図を参照して、天井クレーン10と入力装置30とが遠く離れた場所にある場合について説明する。図6に示すブロック線図では、基本的には図5に示すブロック線図と同じ制御を行っている。しかし、天井クレーン10および液体タンク30と入力装置100とが遠く離れた場所にあるため、その間での通信遅れが無視できないレベルとなる。図6では、天井クレーン10と入力装置100との間の通信をWs(S)420とWm(S)430とで示す。ここでいう通信は、専用回線による通信でもイーサネット等の公衆回線による通信でもよく、あるいは無線回線を経由した通信であってもよい。通信距離が長いので、送信信号をb400で増幅し、受信した後に1/b410で減衰し、雑音の混入を防止するのがよい。なお、図6ではWs(S)420の前後に増幅器であるb400と減衰器である1/b410を示しているが、Wm(S)430の前後でも増幅・減衰をしてもよい。あるいは、増幅・減衰をしなくてもよい。また、
のbを含め、bは特性インピーダンスと呼ばれている任意の正数である。
【0041】
通信遅れのある制御系の安定性については、制御系が安定することが知られているスキャッタリング変換を用いる。スキャッタリング変換を用いることにより、天井クレーン10と入力装置100とが遠く離れた場所にある場合についても、液体タンク30の揺れを抑え、液体34がこぼれることを防止して天井クレーン10で液体タンク30を搬送することができる。さらに、液体タンク30の揺れを小さくする天井クレーン10の加速と減速に関する情報を入力装置100から操作者に直接的に、かつ、適正に伝達することが可能になる。
【実施例1】
【0042】
本発明による制御システムの有効性を確認するために、実験装置を用いて天井クレーンにより液体タンクを搬送した場合の液体タンクの揺れと液体の液面揺動を測定した。天井クレーンは、一方向に走行するクレーンである。天井クレーンからピン接合で金属ロッドを走行方向と直交する方向に2本吊り下げた。2本のロッドで液体タンクを懸架し、ロッドと液体タンクとは剛接合とした。液体タンクとしては 幅200mm×長さ200mm×高さ300mmのアクリル製直方体容器を用いた。液体タンクには水を入れた。
【0043】
ロッドの長さを0.4mとして液体の深さを0.05mとしたケース1と、ロッドの長さを0.8mとして液体の深さを0.15mとしたケース2で実験を行い、制御系のロバスト性も確認した。実験で用いた制御系の周波数重み関数Wは、ケース1とケース2における乗法的誤差を覆うように図7に示す通りとした。天井クレーン台車を走行させ、液体タンクの揺れ、すなわちロッドの揺れ角を測定し、液面揺動を液体タンクの進行方向の壁面の揺動の高さで測定した。具体的には、天井クレーン台車に取り付けたレーザーサンサ(株式会社キーエンス製VG−035)で、吊下部材の支持点から所定の長さ下がった位置での変位を測定して揺れ角とした。また、液体タンクの壁面から10mm離れた位置に取り付けた超音波センサ(オムロン株式会社製E4C−DS30)で、液面までの位置を測定し、静止時の高さとの差を液面揺動とした。
【0044】
天井クレーン台車には、図8で示すように台形状の速度変化を与えた。速度指令値に対し若干の遅れがあるものの、ケース1、ケース2共にほぼ同等の動きをした。
【0045】
図9にケース1、すなわち、ロッドの長さ0.4m、液体の深さ0.05mとしたケースの実測結果を示す。図9中、(a)は天井クレーン台車の速度、(b)は液体タンクの揺れ角、(c)は液面揺動を示す。図9の左側、すなわち(a1)、(b1)、(c1)が制御システムを用いた場合、右側、すなわち(a2)、(b2)、(c2)が制御システムを用いない場合を示す。制御がない場合に比べ、本実施例による制御システムを用いることにより、液体タンクの揺れの最大値が0.03rad(1.7°)から0.02rad(1.1°)に抑えられ、液面揺動も最大値が0.55mmから0.25mmに小さくなったことが分かる。
【0046】
図10にケース2、すなわち、ロッドの長さ0.8m、液体の深さ0.15mとしたケースの実測結果を示す。図10中、(a)は天井クレーン台車の速度、(b)は液体タンクの揺れ角、(c)は液面揺動を示す。図10の左側、すなわち(a1)、(b1)、(c1)が制御システムを用いた場合、右側、すなわち(a2)、(b2)、(c2)が制御システムを用いない場合を示す。制御がない場合に比べ、本実施例による制御システムを用いることにより、液体タンクの揺れの最大値が0.055rad(3.2°)から0.02rad(1.1°)に抑えられ、液面揺動も最大値が0.3mmから0.2mmに小さくなったことが分かる。また、本実施例による制御システムを用いた場合、ケース1およびケース2において揺れ角も液面揺動も共に低く抑えられ、本実施例による制御システムのロバスト性が確認できた。
【実施例2】
【0047】
本発明による制御システムの遠隔操作での有効性を確認するために、入力装置と天井クレーンとの間に50msの通信遅延を発生させて、実施例1と同様の実験を行った。なお、幅200mm×長さ200mm×高さ300mmのアクリル製容器を液体タンクとして用い、ロッドの長さを0.6m、液体の深さを0.15mとした。用いた制御システムは、実施例1で用いたものと同様でスキャッタリング変換を用いたものである。操作者は、天井クレーン台車が0.6m付近まで移動し、そこで一旦停止後、1.6mの位置まで移動するように入力装置のレバーを操作した。本実施例の制御システムを用いた場合と用いなかった場合の結果を対比して図11に示す。
【0048】
図11(a)は、入力装置のレバーの角度を示す。本実施例の制御システムを用いて、レバーを通じて液体タンクの揺れを小さくする減速・加速情報をレバーの力(トルク)で知覚して操作することにより、レバー角度がスムースになり、操作し易くなっていることが確認された。また、図11(b)は天井クレーン台車の走行速度、図11(c)は天井クレーン台車の位置を示すが、本実施例の制御システムを用いることにより、走行速度が安定していることが分かる。
【0049】
図11(d)は揺れ角、図11(e)は液面揺動を示すが、本実施例の制御システムを用いることにより、揺れ角も液面揺動も顕著に小さくなり、本発明の効果が確認された。
【産業上の利用の可能性】
【0050】
これまで説明した通り、本発明の制御システムまたは該制御システムを用いた搬送方法を用いることにより、天井クレーンで搬送する液体タンクの揺れを抑制し、液面揺動も小さく抑えられる。さらに、入力装置のレバーの角度操作により速度指令値を入力し、制御系から液体タンクの揺れを抑制するようにレバーに力(トルク)を生じさせることにより、操作者の操作が容易になる。さらに、天井クレーンと入力装置が通信遅れを無視できない程度に離れた位置にあっても、安定した制御を行うことができる。
【0051】
これまでは、天井クレーンによる液体タンクの搬送制御について説明したが、本発明の技術思想は、2質点系の制御一般に広く適用できるものである。
【0052】
本発明を鋳造工場の溶湯搬送に適用すると、取鍋の揺れと取鍋内の溶湯の揺動を抑制することができるので、溶湯の溢流による危険性を低下し、ノロの巻き込みによる製品劣化を防止することでき、さらに、溶湯を効率的に搬送することができる。また、未熟練者でも確実な天井クレーン搬送操作が可能になる。さらに、操作者が天井クレーンから離れていても、確実な操作ができるので、安全性が高くなる。
【符号の説明】
【0053】
10 天井クレーン
12 レール
14 天井クレーン台車
16 吊下部材
30 液体タンク
32 容器
34 液体
36 液面
100 入力装置
110 レバー
120 制御装置
130 角度変位計
c 等価粘性
接合点から重心までの長さ
液体の揺動を単振子でモデル化するときの腕の長さ
吊下部材と容器の質量
液体の質量
、W 周波数重み関数
外乱
操作量
、z 制御量
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11ABC
図11DE