【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例を開示する。
【0071】
1.
L−aspによって誘導されるオートファジーの検討
遺伝的な背景の異なる3種のALL細胞株である、(a)REH(ETV6−RUNX1転座陽性)(Venuat, A. M., Testu, M. J., and Rosenfeld, C. (1981). Cytogenetic abnormalities in a human null cell leukemia line (REH). Cancer Genet Cytogenet 3, 327-334.)、(b)697(TCF3−PBX1転座陽性)(Findley, H. W., Jr., Cooper, M. D., Kim, T. H., Alvarado, C., and Ragab, A. H. (1982). Two new acute lymphoblastic leukemia cell lines with early B-cell phenotypes. Blood 60, 1305-1309.)、(c)TS2(MEF2D−DAZAP1転座陽性)(Yoshinari, M., Imaizumi, M., Eguchi, M., Ogasawara, M., Saito, T., Suzuki, H., Koizumi, Y., Cui, Y., Sato, A., Saisho, T., et al. (1998). Establishment of a novel cell line (TS-2) of pre-B acute lymphoblastic leukemia with a t(1;19) not involving the E2A gene. Cancer Genet Cytogenet 101, 95-102.)において、L−asp(大腸菌由来L−aspロイナーゼ(登録商標)、協和発酵キリン社)のオートファジー活性の検討を行った。オートファジーの評価のためにオートファジー阻害剤であるクロロキノン(Chloroquine(CQ):Sigma−Aldrich Co., カタログ番号C6628)及びバフィロマイシン(Bafilomycin A(Baf):Sigma−Aldrich Co., カタログ番号B1793)を用いた。培地はRPMI1640(和光純薬工業社、カタログ番号189−02025)500mlに胎児ウシ血清(和光純薬工業社、カタログ番号35−010−CV、添加濃度10%)と抗生物質Penicillin−Streptomycin(ThermoFisher Scientific Inc., カタログ番号15140−122、添加濃度0.5%)を加えたものを用いた。
【0072】
6ウェルプレートの1ウェルにそれぞれ1×10
6個/上記培地2mlの細胞を播種した。L−asp 1U/mlを添加し、45時間後にさらにCQ 10μMないしBafilomycin A1 100nMを添加し、その3時間後に細胞を回収したのちにウェスタンブロッティング法、蛍光免疫染色、電子顕微鏡による解析を行った。
【0073】
ウェスタンブロッティング法では細胞溶解液を用いてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。スキムミルクを用いてブロッキングを行った後に一次抗体としてLC3B抗体、β-actin抗体(いずれもSigma−Aldrich社)を反応させ、その後二次抗体としてSuperSignal West Dura(ThermoFisher Scientific Inc.)を反応させた。その後LAS−3000(GEヘルスケア社)にて検出を行った。
【0074】
蛍光免疫染色による解析では、細胞を回収後CytoSpin3(ThermoFisher Scientific Inc.)でスライドグラスに密着させ、メタノールで固定後胎児ウシ血清1%とTriton X−100 0.01%を含んだリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でブロッキングを行った。その後LC3B抗体(Sigma−Aldrich社)およびVECTASHIELD with DAPI(Vector Laboratories社)を反応させ、蛍光顕微鏡で観察を行った。
【0075】
電子顕微鏡解析ではパラホルムアルデヒドで固定後、エタノールによる脱水および乾燥を行う。エポキシ樹脂に包埋しミクロトームで薄切して試料台に貼付後、酢酸ウランおよびクエン酸鉛で電子染色を行い透過型電子顕微鏡で観察を行った。
【0076】
図2−Aは、上記3種のALL細胞株に対してL−aspとオートファジー阻害剤を、単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合のオートファジー誘導を、オートファゴソームの存在を示すLC3B−IIを指標として電気泳動で検討した結果を示している。これにより3株いずれにおいても、CQもしくはBaf単剤投与時に比べ、L−aspとCQもしくはBafの併用投与時において、LC3B−IIの発現が上昇していた。このことは、定常状態に比べL−aspがオートファジーを誘導していることを示している。
【0077】
図2−Bは、上記3種のうち、REH細胞に対して、L−aspとChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合のオートファジー誘導を、LC3B−IIを指標として、上記
図2−Aの場合と同条件下で検討した組織免疫染色像である。これにより、CQ単剤投与、L−asp単剤投与に比べ、L−aspとCQの併用投与においてLC3Bの蛋白発現が上昇していることが確認され、L−aspによりオートファジーが誘導されていることが示された。
【0078】
図2−Cは、上記
図2−Bの系におけるオートファジー誘導についての電子顕微鏡像であり、
図2−Dは、当該電気顕微鏡像における1細胞当たりのオートファジー小胞の個数と面積を示している。L−aspとCQの併用時には多数のオートリソソーム(
図2−C矢頭)に交じってミトコンドリアを含むオートファゴソームも観察された(
図2−C 三角)。1細胞あたりのオートファジー小胞の個数および面積において、いずれもL−aspとCQの併用時に有意に多く観察された。
【0079】
図2−Eは、上記
図2−Bの系、すなわちALL細胞株であるREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合の、障害性ミトコンドリア数をミトコンドリア用の染色蛍光色素であるMitoTracker(登録商標)Redの発色に基づいて計数した結果を示している。ここに示すように、L−aspとCQの併用時にピークが右に移行しており障害性ミトコンドリアが顕著に観察された。
【0080】
図2−Fは、上記
図2−Eの系において、細胞内ミトコンドリアの膜電位を、TMRE(tetramethlrhodamine methyl ester)を用いて検討した結果を示している。ここに示すように、L−aspとCQの併用時に、膜電位の低下したミトコンドリア、すなわち障害性ミトコンドリアを有する細胞の割合が有意に増えていた。
【0081】
図2−Gは、上記
図2−Eの系において、DCFDAを用いた細胞内活性酸素種(ROS)(左図)と、MitoSox(登録商標)−Redを用いたミトコンドリアROSの評価を行った結果を示している。ここに示すように、L−aspとCQの併用時に有意にROSが蓄積していることが明らかになった。
【0082】
この
図2−A〜Gにより、ALL細胞株に対するL−asp投与により、オートファジーの誘導が促進され、かつこのオートファジーはがん細胞において障害性ミトコンドリアと活性酸素種の除去において非常に重要であることが明らかになった。
【0083】
2.
L−aspとオートファジー阻害剤の併用による細胞死誘導の検討
6ウェルプレートの1ウェルにREH細胞1×10
6個/培地2mlの細胞を播種した。同時にL−aspおよびCQを図に示す濃度(記載がない場合はL−asp 1U/ml、CQ 10μM)で添加し、48時間後に細胞を回収した。
【0084】
ウェスタンブロッティング法は
図2と同様に行い、一次抗体はcPARP抗体、cCASP3抗体、CASP3抗体、CHOP抗体はcell Signaling社,ASNSはSigma−Aldrich社、ATF4抗体はSanta Cruz Biotechnology社のものを用いた。
【0085】
死細胞数はMEBCYTO−Apoptosis Kit(MBL社)によるAnnexin V染色後にフローサイトメーターAccuri C6(Becton,Dickinson and Company)を用いて解析した。
【0086】
汎アポトーシス因子阻害薬zVAD−fmv(ペプチド株式会社)による死細胞数評価は、L−aspおよびCQを添加した後24時間目で培地に添加し、さらに24時間後に死細胞数を評価した。コントロールとして、zVAD−fmvの溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた。
【0087】
L−aspに対する耐性株(697−R)の樹立にあたっては、既報(Hutson RG, et al. Am J Physiol 1997;272:c1691-1699)のとおり行った。すなわち697細胞において培地中にL−aspを加えて培養し、L−aspに対する耐性を獲得して増殖する細胞を回収した。加えるL−aspは0.1U/mlから開始し、6か月以上かけて徐々に増やしつつ最終的に1U/mlまで増加した。
【0088】
抗ROS薬NAC(Sigma−Aldrich社)は、2mMをL−aspおよびCQと同時に投与し、48時間後にAnnexin V染色を用いた死細胞数をフローサイトメーターで評価した。
【0089】
細胞周期解析は、L−aspおよびCQを添加し48時間後に細胞を回収し、PBSで洗浄後70%エタノール・‐20℃で固定した。8時間後、PBSで洗浄しRNaseを加えて38度、30分静置し、propidium iodide(Thermo Fisher Scientific社)で染色した後にAccuri C6フローサイトメーターで測定した。
【0090】
下記ASNSに対するsh(short hairpin)−ASNS1(標的配列:5'-GCTGTATGTTCAGAAGCTAAA-3'(配列番号1))あるいはsh−ASNS2(標的配列:5'-CGTCAAGTCTTTGAACGCCAT-3'(配列番号2))を発現するレンチウイルスを作成した。まずKOD−Plus−Mutagenesis Kit(TOYOBO CO.,LTD.)を用いてプロトコールに従いInverse PCR法を行った。すなわち環状DNA(プラスミド)を鋳型として下記のプライマーを用いてPCRを行い、プラスミド全周の増幅を行った。次にレンチウイルスベクターpGreenPuro shRNA Cloning and Expression Lentivector(System Biosciences)のBamHI−EcoRI領域にPCR産物をクローニングし、組み換えベクターを作成した。その後直鎖状プラスミドであるPCR産物をライゲーションすることにより環状化した。次に大腸菌への形質転換を行い、プラスミドを抽出後HEK293TN細胞に導入し、sh−ASNS1発現レンチウイルス、sh−ASNS2発現レンチウイルスを作成した。こうして得られた各組換えレンチウイルスについて、Global UltraRapid Lentiviral Titer Kit(System Biosciences)を用いてタイターを測定した。MOI(multiplicity of infection)を添付マニュアルに従って決定し、5MOIとなるようウイルス量を調節しREH細胞にトランスフェクトした。
【0091】
sh−ASNS1−sense:
5'-GATCCGCTGTATGTTCAGAAGCTAAACTTCCTGTCAGATTTAGCTTCTGAACATACAGCTTTTTG-3'(配列番号3)
sh−ASNS1−antisense:
5'-AATTCAAAAAGCTGTATGTTCAGAAGCTAAATCTGACAGGAAGTTTAGCTTCTGAACATACAGCG-3'(配列番号4)
sh−ASNS2−sense:
5'-GATCCCGTCAAGTCTTTGAACGCCATCTTCCTGTCAGAATGGCGTTCAAAGACTTGACGTTTTTG-3'(配列番号5)
sh−ASNS2−antisense:
5'-AATTCAAAAACGTCAAGTCTTTGAACGCCATTCTGACAGGAAGATGGCGTTCAAAGACTTGACGG-3'(配列番号6)
【0092】
REH/Luc2細胞は、ルシフェラーゼ遺伝子Luc2を組み込んだレンチウイルスベクターで大腸菌を形質転換し、当該組み換え大腸菌を増幅後、プラスミドを生成した。このプラスミドをHEK293TN細胞に導入し、Luc2発現レンチウイルスを作成した。こうして得られた各組換えレンチウイルスについて、Global UltraRapid Lentiviral Titer Kit(System Biosciences社)を用いてタイターを測定した。MOIを添付マニュアルに従って決定し、5MOIとなるようウイルス量を調節しREH細胞にトランスフェクトし、REH/Luc2細胞を樹立した。このREH/Luc2細胞を5×10
6/PBS100μlの濃度および量で免疫不全マウス(NOD/SCIDマウス)の尾静脈から注入した。注入7日後よりL−asp 6000U/マウス体重kgおよびCQ 50mg/マウス体重kgを1日1回、毎日腹腔内投与し生体内白血病増殖量および生存期間を解析した。マウス生体内腫瘍増殖量の測定にあたってはD−ルシフェリン(Synchem社)150mg/マウス体重kgを腹腔内投与し、Photon Imager(Biospace Lab社)を用いて生物発光イメージング解析を行った。
図3−Aは、上記3種のALL細胞株に対してL−aspとオートファジー阻害剤を、単独又は組み合わせて作用させた場合の細胞死の度合いを、フローサイトメトリーとウェスタンブロッティング解析で検討した結果を示している。L−aspとオートファジー阻害薬CQの併用群(L−asp+CQ群、いずれも48時間投与)は、CQ単剤投与群(CQ群)およびL−asp単剤投与群(L−asp群)に比べ有意に細胞死を誘導した。
【0093】
フローサイトメトリーによる死細胞の評価は、Annexin V染色陽性細胞の割合で明らかにした。またウェスタンブロッティング解析により、L−asp群に比較し、L−asp+CQ群において、アポトーシス関連蛋白であるcCASP3やcPARPの発現の増加が認められた。
【0094】
図3−Bは、上記3種のうちREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を作用させることにより惹起される細胞死に対する、汎アポトーシス関連分子阻害薬であるz−VADによる抑制作用を検討した結果を示している。ここに示すように、z−VADは当該細胞死を抑制した。
【0095】
図3−Aと
図3−Bにより、L−aspとオートファジー阻害剤の併用により誘導される細胞死は、アポトーシスを介すことが示された。
【0096】
図3−Cは、確立されたL−asp耐性株697−Rの、L−asp添加量増加に対する生細胞率を検討した結果を示している。当該耐性株は、L−aspに対する一定の耐性を有していることが確認できる。
【0097】
図3−Dは、上記L−asp耐性株697−Rにおける、L−aspと、オートファジー阻害剤(CQ)の組合せ添加の生細胞率に与える影響を検討した結果を示している。ここに示すように、L−asp耐性株であってもL−aspと、オートファジー阻害剤の組合せ添加により、用量依存的に死細胞率が上昇した。
【0098】
図3−Eは、同じくL−asp耐性株697−Rにおけるアスパラギン合成酵素(ASNS)の蛋白発現レベルを、L−aspとオートファジー阻害剤を単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合について、ウェスタンブロッティング解析を行った結果を示している。ここに示すように、当該耐性株においては、いずれの薬剤投与環境においても、ASNS発現レベルが697株に比べて増加していた。上記の
図3−Cに示す結果は、このようなASNSレベルの増加にも係わらず、L−aspと、オートファジー阻害剤の組合せ添加により、用量依存的にL−asp耐性株の死細胞率が上昇したことになる。
【0099】
図3−Fは、ALL細胞株であるREH細胞のASNS遺伝子を異なる部位においてノックダウンを行った「sh-ASNS1」と「sh-ASNS2」における、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合について検討した結果を示している。ここに示すように、ASNS遺伝子のノックダウンにより、L−aspとオートファジー阻害剤の組合せ添加による殺細胞効果が増強されることが明らかになった。
【0100】
上記
図3−A〜
図3−Fに示す結果から、L−aspとオートファジー阻害剤の併用療法はL−asp耐性ALL細胞においても有効であることが示された。また、ASNS阻害薬、L−asp、オートファジー阻害剤の3剤併用は、ALL治療において非常に有用であることが示された。
【0101】
図3−Gのウェスタンブロッティング解析結果は、REH細胞株に対するL−aspとオートファジー阻害剤の併用により誘導されるアポトーシス細胞死の原因となる機構を検討した結果を示している。L−aspにおいてはATF4−CHOP pathwayによりアポトーシス細胞死が誘導されることが報告されているが(Ye, J. et al., The EMBO journal 29, 2082-2096, doi:10.1038/emboj.2010.81 (2010))、L−asp群とL−asp+CQ群ではATF4およびCHOPの発現に明らかな差を認めず、L−asp+CQ群では他の原因によるアポトーシス細胞死が誘導されていることが示唆された。またATF4の下流にあるASNSの発現もL−asp群とL−asp+CQ群で明らかな差を認めなかった。
【0102】
図3−Hでは、
図3−Gの細胞培養系にROSの阻害薬であるアセチルシステイン(NAC)を添加した場合の殺細胞効果に対する影響を検討した結果を示している。ここに示したように、NACの添加によりL−asp+CQ群における殺細胞効果は減弱した。このことからL−aspとオートファジー阻害剤の併用効果の発揮には、標的細胞におけるROSの蓄積が重要な要素であることが明らかになった。
【0103】
図3−Iは、Propidium Iodide染色によるフローサイトメトリーを用いた細胞周期の評価を、L−aspとオートファジー阻害剤を、単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合において行った結果を示している。ここに示すように、L−asp単独群ではG0/G1期が増加したが、L−asp+CQ群では逆にG0/G1期が減少し、sub−G1期が増加していた。このことから、L−asp単剤添加時には細胞周期をG0/G1期で停止させ細胞死から逃れているが、これに抗オートファジー阻害薬を併用することにより、細胞周期を停止することが困難になり、細胞死を逃れられずアポトーシスが誘導されることが示された。
【0104】
図3−Jは、9日間の継続的薬剤接触による影響を、生細胞数をカウントすることにより検討したものである。このカウントは、Trypan blue染色を用いたTC20自動細胞カウンターにより調べた。細胞培地を72時間毎に交換する際に各薬剤を添加し、生細胞数を測定した。その結果、CQ群およびL−asp群では緩やかな細胞増加を認めたが、L−asp+CQ群では時間経過とともに生細胞数の割合が減少していた。
【0105】
図3−Kと
図3−Lは、in vivoでの治療評価を行うため、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したREH/Luc2細胞を樹立し、免疫不全マウス(NOD/SCIDマウス(Charles River Laboratories Japan社))に対して経尾静脈移植を行い、その経過を検討した結果を示した。
図3−Kは、その増殖度合いをREH/LUC2細胞の移植7、16、22日後の蛍光分布により検討した結果を示し、
図3−Lでは、経時的なREH/Luc2細胞の増殖度合いを蛍光の光子フラックス率により検討した。両図共に、移植されたREH/Luc2細胞はcontrol群および単独投与群のマウス体内で速やかに増殖したが、L−asp+CQ群では増殖が有意に抑制されたことを示している。
【0106】
図3−Mは、上記のREH/Luc2細胞を移植した免疫不全マウスの経時的な生存率を日単位で検討した全生存解析結果である。ここに示すように、control群、CQ群、L−asp群に比較し、L−asp+CQ群で有意な生存期間の延長を認めた。
【0107】
このように、ALLにおけるL−aspと抗オートファジー阻害薬との併用療法はin vitroおよびin vivoで有効であることが示された。
【0108】
3.
L−aspとオートファジー阻害剤の併用と活性酸素種の関係
6ウェルプレートに、1ウェルあたりREH細胞1×10
6個/培地2mlを播種した。L−asp 1U/mlおよびCQ 10μMを添加し、継時的もしくは48時間後に観察した。
【0109】
ウェスタンブロッティング法は
図2と同様に行い、一次抗体は、γH
2AX抗体はAbcam社から、PUMA抗体はSanta Cruz Biotechnology社から購入した。
【0110】
sh(short hairpin)RNAによるp53のノックダウンは、上記
図3と同様に行いsh-p53(標的配列:5'-GACTCCAGTGGTAATCTAC-3'(配列番号7))を発現するレンチウイルスを作成した。下記のプライマーを用いて組み換えベクターを作成し、大腸菌を形質転換した。当該組み換え大腸菌を増幅後、プラスミドを生成した。このプラスミドをHEK293TN細胞に導入し、Luc2発現レンチウイルスを作成した。こうして得られた各組換えレンチウイルスについて、Global UltraRapid Lentiviral Titer Kit(System Biosciences社)を用いてタイターを測定した。MOIを添付マニュアルに従って決定し、5MOIとなるようウイルス量を調節しREH細胞にトランスフェクトした。
【0111】
sh−p53−sense:
5'- GATCCGACTCCAGTGGTAATCTACCTTCCTGTCAGAGTAGATTACCACTGGAGTCTTTTTG-3'(配列番号8)
sh−p53−antisense:
5'-AATTCAAAAAGACTCCAGTGGTAATCTACTCTGACACAGGAAGGTAGATTACCACTGGAGTCG-3'(配列番号9)
【0112】
図4−Aは、ALL細胞株であるREH細胞株に対して、L−aspとオートファジー阻害剤を単独又は組み合わせて作用させた場合の、経時的なDNAダメージをウェスタンブロッティング解析により検討した結果を示している。ROSの蓄積はDNAダメージを惹起することが知られている(Kruiswijk, F., Labuschagne, C. F. & Vousden, Nature reviews. Molecular cell biology 16, 393-405, doi:10.1038/nrm4007 (2015))。ここに示すように、REH細胞株において、L−asp+CQ群ではDNAダメージの指標であるγH2AXの蛋白発現が上昇し、それとともにP53およびPUMA (P53 upregulated modulator of apoptosis)も上昇した。
【0113】
図4−Bは、
図4−Aの試験系において、さらにこれにROS抑制薬であるアセチルシステイン(NAC)を作用させた場合の、DNAダメージの指標であるγH2AXと共に、p53蛋白の増減をウェスタンブロッティング解析により検討した結果を示している。ここに示すように、ROS抑制薬を添加すると、DNAダメージおよびP53活性が抑制された。
【0114】
図4−Aと
図4−Bから、ALL細胞において、L−aspとオートファジー阻害剤の併用により、過剰なROSが当該細胞内に蓄積することによるDNAダメージにより、P53誘導性アポトーシスが惹起されることが示された。
【0115】
図4−Cは、sh(short hairpin)RNAによりp53遺伝子をノックダウンしたALL細胞株であるREH細胞株(sh-p53)における、L−aspとCQを組み合わせて作用させた場合のDNAダメージを、ウェスタンブロッティング解析により検討した結果である。ここに示すように、sh-p53では、p53遺伝子の下流にあるPUMAのみならず、DNAダメージも誘導されていなかった。
【0116】
図4−Dは、sh-p53における、細胞内ROCの蓄積を検討した結果である。ここに示すようにsh-p53では、L−asp+CQ群における細胞内ROSの蓄積が、有意に抑制されていた。
【0117】
図4−Eは、sh-p53における細胞死の抑制について、Annexin Vの取り込み(左のグラフ)と、ウェスタンブロッティング解析(右の電気泳動図)により検討した結果である。ここに示すようにsh-p53では、L−asp+CQ群における細胞死が有意に抑制され、p53の発現も強く抑制されていた。
【0118】
図4−A〜
図4−Eに示した結果により、L−aspと抗オートファジー阻害薬の併用療法は、(a)ROSの蓄積、(b)DNAへのダメージ、(c)p53の活性化、(d)更なる過剰なROSの蓄積、という「ROS−DNAダメージ−p53ループ」を形成し、細胞死を誘導すること、及び、p53のノックダウン株ではこのループが絶たれるために、細胞死が抑制されることが示された。
【0119】
4.
臨床検体とマウス生体を用いた検討
臨床検体は、9割以上がALL白血病細胞で占められる患者の骨髄検体から、Ficollによる密度勾配遠心分離法を用いて分離した白血病細胞を使用した。採取に当たっては倫理委員会の承認ののち両親から書面にて同意を得た。 生細胞数の解析にあたっては、L−asp 1U/mlおよびCQ 10μMを加え、48時間後にトリパンブルー染色を用い自動細胞カウンターTC20(Bio−Rad社)を使って調べた。
【0120】
ウェスタンブロッティング法は
図2と同様に行った。
【0121】
p53の機能欠失となる変異の検出は、Sanger法によるダイレクトシークエンス解析を行った。回収した細胞にPUREGENE Cell Lysis SolutionおよびProtein Precipitation Solution(いずれもQIAGEN社)を添加後、DNAをエタノールで沈殿させTris−EDTA Bufferで溶解した。エキソン部(exon 2−11)を下記のプライマーを用いて逆転写ポリメラーゼ連鎖反応で増幅した。この増幅産物についてダイレクトシークエンス(両鎖解析)をApplied Biosystems 3130xl Genetic Analyzer(サーモフィッシャー社)により行った。得られた解析波形チャートからソフトウェアGENETYX(ゼネティックス株式会社)を用いて変異解析を行った。
【0122】
exon2−3 sense: 5'-tctcatgctggatccccact-3'(配列番号10)
exon2−3 antisense: 5'-agtcagaggaccaggtcctc-3'(配列番号11)
exon4 sense: 5'-tgaggacctggtcctctgac-3'(配列番号12)
exon4 antisense: 5'-agaggaatcccaaagttcca-3'(配列番号13)
exon5−6 sense: 5'-tgttcacttgtgccctgact-3'(配列番号14)
exon5−6 antisense: 5'-ttaacccctcctcccagaga-3'(配列番号15)
exon7 sense: 5'-cttgccacaggtctccccaa-3'(配列番号16)
exon7 antisense: 5'-aggggtcagaggcaagcaga-3'(配列番号17)
exon8−9 sense: 5'-ttgggagtagatggagcct-3'(配列番号18)
exon8−9 antisense: 5'-agtgttagactggaaacttt-3'(配列番号19)
exon10 sense: 5'-caattgtaacttgaaccatc-3'(配列番号20)
exon10 antisense: 5'-ggatgagaatggaatcctat-3'(配列番号21)
exon11 sense: 5'-agaccctctcactcatgtga-3'(配列番号22)
exon11 antisense: 5'-tgacgcacacctattgcaag-3'(配列番号23)
【0123】
p53の遺伝子導入は組み換えアデノウイルスを用いた。組み換えアデノウイルスはAdenovirus Expression Vector Kit (Takara社)を用いて作成した。具体的には野生型p53を挿入したコスミドベクター(pAxCAwtit−p53)を作成し、p53遺伝子を含む組み換えアデノウイルスゲノムを切り出してHEK293TN細胞に導入し、p53組み換えアデノウイルスを作成した。こうして得られた各組換えアデノウイルスについて、Global UltraRapid Lentiviral Titer Kit(System Biosciences社)を用いてタイターを測定した。MOIを添付マニュアルに従って決定し、5MOIとなるようウイルス量を調節し目的細胞にトランスフェクトした。
【0124】
p53のノックダウンは
図4と同様の方法でshRNA(sh−p53)を用いてREH細胞に対し行った。このp53ノックダウンREH細胞を5×10
6/PBS100μlの濃度および量で免疫不全マウス(NOD/SCIDマウス)の尾静脈から注入した。注入7日後より、L−asp 6000U/マウス体重kgおよびCQ 50mg/マウス体重kgを1日1回、毎日腹腔内投与し生存期間を解析した。
【0125】
図5−Aは、ALLの臨床血液検体(初発例12例と再発例2例の計14例)における、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)の組み合わせ投与の効果を、p53遺伝子の機能欠失となる変異の有無と併せて検討した結果を示している。これらの検体14例のうち、保存検体量が十分であった7例でSanger法によるp53解析を行い、1例(症例14)でp53遺伝子のホモ変異(R248Q)を認めた。L−asp群とL−asp+CQ群の比較では、p53の機能欠失となる変異を有さない13例においてL−asp+CQ群で有意に生存細胞数が低下していたが、p53遺伝子の機能欠失となる変異を有する1例(症例14)では、L−aspとオートファジー阻害剤の併用効果を認めなかった。
【0126】
図5−Bは、前記した14症例のうち、L−aspとCQの組み合わせ投与の効果が認められたALLの臨床血液検体3例(症例4、5、7)におけるオートファジー活性評価の結果を、ウェスタンブロッティング解析により示した。図の最下段の数字は、LC3B−II/ACTBについて、コントロールを1とした場合の相対比を示す。いずれの症例の検体も、L-aspとCQの併用時にLC3B−IIの蛋白発現が上昇していた。これはL−asp投与時にオートファジー活性が亢進することを示しており、これは前述したin vitroにおける知見と一致している。
【0127】
図5−Cと
図5−Dでは、前記した14症例のうち、L−aspとCQの組み合わせ投与の効果が認められなかったALLの臨床血液検体(症例14)に対して、アデノウイルスによる正常p53遺伝子の導入を行った場合の効果を、ウェスタンブロッティング解析(
図5−C)と生細胞数(
図5−D)により示した。これらに示したように、アデノウイルスによる正常p53遺伝子の導入を行うと、L−asp+CQ群においてp53の蛋白発現が亢進し細胞死が惹起された。
【0128】
図5−Eは、前述したp53遺伝子をノックダウンしたREH細胞株(sh-p53)を、免疫不全マウスに経尾静脈移植した場合の投薬の効果を検討した結果を示している。具体的には、shRNAによるp53ノックダウンREH細胞にルシフェラーゼ遺伝子を導入し、NOD/SCIDマウスに経尾静脈移植して治療実験を行った。その結果、本図に示したように、p53ノックダウン株であるsh-p53では、L−aspとCQの併用でも生存期間の延長を認めなかった。
【0129】
本実施例により、p53遺伝子は、L−aspと抗オートファジー阻害薬の併用療法において本質的な役割を果たしており、ALL等の治療の層別化を行う上で極めて重要であることが示された。
図5−Fにおいて、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)の組み合わせ投与による、ALL細胞のアポトーシス誘導の仕組みをチャート化して示した。