特許第6719900号(P6719900)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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6719900がんに対するL−アスパラギナーゼ剤とオートファジー阻害剤の併用療法の効果の予測方法、及び、がん治療剤
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6719900
(24)【登録日】2020年6月19日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】がんに対するL−アスパラギナーゼ剤とオートファジー阻害剤の併用療法の効果の予測方法、及び、がん治療剤
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/68 20180101AFI20200629BHJP
   A61K 38/50 20060101ALI20200629BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20200629BHJP
   A61K 31/4706 20060101ALI20200629BHJP
   A61K 31/52 20060101ALI20200629BHJP
   A61K 31/351 20060101ALI20200629BHJP
   A61K 31/366 20060101ALI20200629BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200629BHJP
   A61P 35/02 20060101ALI20200629BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20200629BHJP
【FI】
   C12Q1/68ZNA
   A61K38/50
   A61K45/00
   A61K31/4706
   A61K31/52
   A61K31/351
   A61K31/366
   A61P35/00
   A61P35/02
   !C12N15/09 Z
【請求項の数】9
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2015-250112(P2015-250112)
(22)【出願日】2015年12月22日
(65)【公開番号】特開2017-114795(P2017-114795A)
(43)【公開日】2017年6月29日
【審査請求日】2018年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】591083336
【氏名又は名称】株式会社ビー・エム・エル
(73)【特許権者】
【識別番号】504179255
【氏名又は名称】国立大学法人 東京医科歯科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100103160
【弁理士】
【氏名又は名称】志村 光春
(72)【発明者】
【氏名】高橋 寛吉
(72)【発明者】
【氏名】井上 純
(72)【発明者】
【氏名】稲澤 譲治
【審査官】 西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/051606(WO,A1)
【文献】 SONG, Ping et al.,Asparaginase induces apoptosis and cytoprotective autophagy in chronic myeloid leukemia cells,Oncotarget,2015年 1月 8日,Vol. 6,pp. 3861-3873
【文献】 高橋寛吉 ほか,急性リンパ性白血病細胞においてオートファジー阻害はL-asparaginaseによるアポトーシスを増強する,日本人類遺伝学会第60回大会 プログラム・抄録集,2015年10月14日,p. 243; O-83
【文献】 TAKAHASHI, Hiroyoshi et al.,Autophagy Inhibition Sensitizes Acute Lymphoblastic Leukemia Cells to L-Asparaginase,Blood,2015年12月 3日,Vol. 126,p. 3772,URL,http://www.bloodjournal.org/content/126/23/3772
【文献】 HUTSON, Richard G. et al.,Amino acid control of asparagine synthetase: relation to asparaginase resistance in human leukemia cells,Am. J. Physiol.,1997年,Vol. 272,pp. C1691-C1699
【文献】 EHSANIPOUR, Ehsan A. et al.,Adipocytes cause leukemia cell resistance to L-asparaginase via release of glutamine,Cancer Res.,2013年,Vol. 73,pp. 2998-3006
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00−3/00
C12N 15/00−15/90
A61K 31/33−33/44
A61K 38/00−38/58
A61K 45/00
A61P 1/00−43/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
白血病、悪性リンパ腫、及び、卵巣がんからなる群から選ばれるがんのがん検体におけるp53遺伝子の機能欠失となる変異を認めた場合に、当該がんにおけるL−アスパラギナーゼ若しくはその誘導体の剤、及び、オートファジー阻害剤の併用療法の効果の否定的データとする、薬剤の効果の予測データの取得方法。
【請求項2】
p53遺伝子の機能欠失となる変異は、
(1)一方のアレルにp53遺伝子の機能欠失型の変異があり、他方のアレルで第17染色体短腕のp53遺伝子存在領域のLOH(loss of heterozygosity)が認められる変異、(2)双方のアレルにおけるp53遺伝子の機能欠失型のホモ変異もしくはコンパウンドヘテロ変異、(3)第17番染色体短腕の欠失変異、若しくは、第17番染色体の欠失変異、及び、(4)一方のアレルにp53遺伝子の機能欠失型変異のみが認められ、他方のアレルのp53遺伝子には変異は認められないが、四量体構造を取るp53分子のサブユニットとして、変異p53サブユニットがランダムに組み合わされて機能阻害が認められる変異、から選ばれる1種以上の変異である、請求項1に記載の予測データの取得方法。
【請求項3】
一方のアレルにp53遺伝子の機能欠失型の変異があり、他方のアレルで第17染色体短腕のp53遺伝子存在領域のLOH(loss of heterozygosity)が認められる変異、の検出は、LOHの検出によって行われる、請求項2に記載の予測データの取得方法。
【請求項4】
L−アスパラギナーゼ若しくはその誘導体の剤、及び、オートファジー阻害剤を含有することを特徴とする、白血病、悪性リンパ腫、及び、卵巣がんからなる群から選ばれるがんであって、かつ、p53遺伝子の機能欠失となる変異が認められない上記がん、若しくは、事後的にp53遺伝子の機能欠失となる変異の修復がなされた上記がんの治療剤。
【請求項5】
オートファジー阻害剤は、クロロキン類、3−メチルアデニン、バフィロマイシンA、又は、ウォルトマニンである、請求項に記載のがんの治療剤。
【請求項6】
クロロキン類は、クロロキン(クロロキノリン)、又は、ハイドロオキシクロロキンである、請求項に記載のがんの治療剤。
【請求項7】
L−アスパラギナーゼ若しくはその誘導体の剤、及び、オートファジー阻害剤を含有する医薬用組成物である、請求項4〜6のいずれか1項に記載のがんの治療剤。
【請求項8】
L−アスパラギナーゼ若しくはその誘導体の剤、及び、オートファジー阻害剤を別個の構成薬剤として含む薬剤のセットである、請求項4〜6のいずれか1項に記載のがんの治療剤。
【請求項9】
さらにL−アスパラギン合成酵素阻害薬を含有する、請求項4〜8のいずれか1項に記載のがんの治療剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、がんに対する薬剤療法の効果の予測手段に関する発明、及び、がん治療剤に関する発明である。
【背景技術】
【0002】
がん細胞が増殖するには、様々な物質が必要であり、蛋白質を構成するアミノ酸の一つであるアスパラギン(Asp)もその一つである。アスパラギンは、アスパラギン合成酵素によって生成され、L−アスパラギナーゼ(L-asparaginase(L−asp))によって分解される。
【0003】
がんの中には、細胞中のアスパラギン合成酵素が不足しており、アスパラギン不足になっているものがあり、さらにL−aspを与えると当該がん細胞の増殖が阻害されることが知られており(非特許文献1)、L−aspを用いた抗がん剤(L−asp剤)が、白血病や悪性リンパ腫等を対象として実用化されている。
【0004】
L−asp剤がキードラッグとなるがんの一つとして、急性リンパ性白血病(ALL)が知られている。治療手段の進歩により、治療成績は向上しているものの、小児ALLの20%、成人ALLの40%は治療不応性となり、依然として予後不良である(非特許文献2、3)。
【0005】
その中にあって、L−asp剤は単剤で60%のALLに完全寛解をもたらすことが可能であり、さらにL−aspの投与量や投与頻度を工夫することで、ALLに対する無病生存率を向上させることが可能になっている(非特許文献4)。
【0006】
しかしながら、ALL細胞のL−aspに対する感受性の低下により再発率の上昇や治療不応につながることも知られている(非特許文献5)。
【0007】
ところで、オートファジーはリソソームによる細胞内の分解系の一つであり、長く存在した蛋白質、細胞内小器官、及び、蛋白質凝集態がオートファゴソーム内に捕捉され、その後リソソームと融合して分解されるという、高度に制御されたプロセスである。特に、アミノ酸欠乏や酸化ストレスといった各種ストレスの悪条件下で細胞の生存を可能にするためのアミノ酸供給源となるものである。近年、卵巣がん細胞とALLにおいて、L−aspがオートファジーを誘導することが報告されている(非特許文献6、7)。また慢性骨髄性白血病においては、L−aspにより誘導されるオートファジーががん細胞の生存に有利に働き、L−aspとオートファジー阻害薬を併用することで、L−aspの殺細胞効果が増強されることが報告された(非特許文献8)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Oettgen, H. F.et al., Cancer research 27, 2619-2631(1967).
【非特許文献2】Curran, E. & Stock, Blood 125, 3702-3710, doi:10.1182/blood-2014-11-551481(2015).
【非特許文献3】Locatelli, F., Schrappe, M., Bernardo, M.E. & Rutella, Blood 120, 2807-2816, doi:10.1182/blood-2012-02-265884(2012).
【非特許文献4】Pieters, R. et al., Cancer 117, 238-249, doi:10.1002/cncr.25489(2011)
【非特許文献5】Hongo, T., Yajima, S., Sakurai, M., Horikoshi, Y. & Hanada, R. Blood 89, 2959-2965(1997).
【非特許文献6】Yu, M. et al., Journal of cellular and molecular medicine 16, 2369-2378, doi:10.1111/j.1582-4934.2012.01547x(2012).
【非特許文献7】Hermanova, I. et al., Leukemia, doi:10.1038/leu.2015.213(2015).
【非特許文献8】Song, P. et al., Oncotarget 6, 3861-3873(2015)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記のL−aspとオートファジー阻害薬の併用療法においても、奏功する場合と、抵抗性を示す場合が認められる。本発明は、このL−aspとオートファジー阻害薬の組合せのがん細胞における作用機序を明らかにし、当該併用療法が奏功するか否かの指標を見出し、かつ、当該指標を活用し得るがん治療剤を提供することを課題としてなされた発明である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、今般下記(1)〜(6)を見出し、L−aspとオートファジー阻害薬の併用療法を行う上で、p53遺伝子が決定的な役割を果たしていることを見出した。
(1) ALL細胞においてL−aspがオートファジーを惹起すること、
(2) L−asp誘導性オートファジーはミトコンドリアの質の維持に重要であり、L−aspとオートファジー阻害薬の併用によりALL細胞内の酸化ストレスが蓄積すること、
(3) 過剰に蓄積した活性酸素(ROS)によるDNAダメージがp53遺伝子を介して更なる酸化ストレスを誘導し、ALL細胞のアポトーシス細胞死を惹起すること、
(4) p53遺伝子のノックダウンALL株と変異p53遺伝子を有するALL臨床検体においては、L−aspとオートファジー阻害剤の併用療法の効果が乏しいこと、
(5) 機能が欠失した変異p53遺伝子を有するALL臨床検体に対して正常p53遺伝子の導入処理を行うことにより、L−aspとオートファジー阻害剤の併用療法の効果が回復すること、
(6) アスパラギン合成酵素の発現上昇を示すL−asp耐性ALLにおいてもL−aspとオートファジー阻害剤の併用療法による効果が認められること。
【0011】
上記(1)〜(6)の事項は、第1に、被験者のp53遺伝子の機能欠失となる変異の有無を指標にすることにより、がん患者におけるL−aspとオートファジー阻害薬の併用療法の有効性を判断することが可能であることを示すものである。
【0012】
すなわち、本発明は、がん検体における遺伝子変異によるp53の機能欠失を認めた場合に、当該がんにおけるL−asp(L−アスパラギナーゼ)若しくはその誘導体の剤、及び、オートファジー阻害剤の併用療法の効果の否定的データとする、薬剤の効果の予測データの取得方法(以下、本発明のデータ取得方法ともいう)を提供する。本発明のデータ取得方法は、がん検体におけるp53遺伝子の機能欠失となる変異を認めた場合に、当該がんにおけるL−asp若しくはその誘導体の剤、及び、オートファジー阻害剤の併用療法の効果の否定的予測を行う、薬剤の効果の予測方法、として表現することも可能である。
【0013】
本発明において「L−asp又はL−アスパラギナーゼ」は、L−アスパラギナーゼそのものを意味するものである。また、「L−asp誘導体又はL−アスパラギナーゼ誘導体」としては、ポリエチレングリコール化アスパラギナーゼ等が例示される。「L−asp又はその誘導体の剤」とは、抗がん用途を有する剤であり、有効成分であるL−asp又はL−asp誘導体そのもの、及び、これに何らかの製剤手段を施したもの(医薬組成物)を含む概念である。さらに、以下「L−asp若しくはその誘導体の剤」を、「L−asp類」ともいう。
【0014】
また「オートファジー阻害剤」は、その有効成分であるオートファジー阻害成分と、これに何らかの製剤手段を施したもの(医薬組成物)を含む概念である。
【0015】
本発明のデータ取得方法の対象となるがん検体は、基礎的にL−asp類の投与の有効可能性が認められる、すなわち、当該がん治療の選択肢として、L−asp類の投与が選択され得るがんの検体である。この選択は、がん治療の過程として通常的に認められる場合のみならず、それ以外のチャレンジ的な選択も含まれる。具体的には、白血病、悪性リンパ腫、卵巣がん等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。上述のようにL−asp類は、急性リンパ性白血病(ALL)の第1選択薬として用いられており、本発明のデータ取得方法を行う対象として典型的ながんである。
【0016】
本発明のデータ取得方法において用いられるがん検体は、当該検体中のがん細胞のp53遺伝子の機能欠失となる変異を検出する必要性から、直接的にがん細胞が含まれるものである必要がある。よって、白血病等の血液がんであれば白血病細胞が含まれる血液検体及び/又は骨髄検体が、固形がんの場合には、当該がんの生検検体又は当該がんが含まれる体液検体が、本発明のデータ取得方法において用いられるがん検体として挙げられる。
【0017】
上記(1)〜(6)の事項は、L−asp類単独投与に対して抵抗性を有するがんに対しても、L−asp類とオートファジー阻害剤の併用投与が有効であることを示している。
【0018】
よって本発明は、第2に、L−asp類とオートファジー阻害剤を含有することを特徴とする、L−asp類単独投与に対して抵抗性を有するがんの治療剤(以下、本発明のがん治療剤ともいう)を提供する。
【0019】
オートファジー阻害剤は特に限定されず、例えば、クロロキン(クロロキノリン)、ハイドロオキシクロロキン等のクロロキン類、3−メチルアデニン、バフィロマイシンA、ウゥルトマニン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0020】
本発明のがん治療剤は、(a)L−asp類とオートファジー阻害剤を含有する医薬用組成物であっても、(b)L−asp類、及び、オートファジー阻害剤を別個の構成薬剤として含む薬剤のセットであってもよい。
【0021】
本発明のがん治療剤は、さらにL−アスパラギン合成酵素阻害剤(sulfoximine-based inhibitor、Bioorganic & Medicinal Chemistry 20 (2012) 5915-5927等)が含有されていてもよい。このL−アスパラギン合成酵素阻害剤の含有形態は、上記と同様に(a)医薬用組成物中に含有されていても、(b)L−asp類、及び、オートファジー阻害剤とは別個の構成薬剤として含有されていてもよい。
【0022】
本発明のがん治療剤の投与対象は、L−asp類単独投与に対して抵抗性を有し、かつ、p53遺伝子の機能欠失となる変異が認められない、L−asp類の投与の有効可能性が認められるがんであり、具体的ながんの種類は、本発明のデータ取得方法の対象と同じく、白血病、悪性リンパ腫、卵巣がん等、好適には急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性骨髄性白血病、NK/T細胞リンパ腫が挙げられるが、チャレンジ的なものも含み、これらに限定されるものではない。また、元々はp53遺伝子の機能欠失となる変異が認められたものであっても、事後的に当該遺伝子の修復がなされたがんであれば、本発明のがん治療剤の投与対象となる。p53遺伝子の機能欠失となる変異の修復は、いわゆる遺伝子治療によって行うことができる。
【0023】
p53遺伝子の機能欠失となる変異の有無を指標とした、本発明のがん治療剤の投与の適否については、本発明のデータ取得方法によって得られたデータに基づいて判断することが可能である。すなわち、本発明のデータ取得方法によって得られたデータが、機能欠失となるp53遺伝子の変異の存在を示していれば、本発明のがん治療剤の即時の投与は適当とはいえず、他の治療手段を選択するか、又は、p53遺伝子の機能欠失となる変異の修復を行った後に改めて本発明のがん治療剤の投与を行うスケジュールが選択され得る。なお、L−asp類投与による治療前に本発明のデータ取得方法が行われた場合には、まずはL−asp類投与による治療も選択され得る。逆に、当該データにおいてp53遺伝子の機能欠失となる変異が認められない場合には、本発明のがん治療剤の投与の対象となり得る。なお、L−asp類投与による治療前に本発明のデータ取得方法が行われた場合には、まずはL−asp類投与による治療も選択され得る。
【0024】
本発明のがん治療剤の投与対象は、少なくとも「L−asp類単独投与に対して抵抗性を有するがん」であり、当該抵抗性のがんは、事前のL−asp類の体内投与による当該がんに対する否定的な抗がん効果データ、又は、事前の当該がん細胞の体外におけるL−asp類との接触による否定的な抗がん効果データ、に基づいて規定することができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、L−asp若しくはその誘導体の剤、及び、オートファジー阻害剤の併用療法の効果の予測手段が提供され、さらに当該予測結果を活かすことが可能ながん治療剤が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明のデータ取得方法におけるp53遺伝子の機能欠失変異の検出工程の一態様をフロー化した図面である。
図2-A】3種のALL細胞株に対してL−aspとオートファジー阻害剤を、単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合のオートファジー誘導を、LC3B−IIを指標として電気泳動で検討した結果を示した図面である。
図2-B】ALL細胞株であるREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を、単独又は組み合わせて作用させた場合のオートファジー誘導を、LC3B−IIを指標として検討した組織免疫染色像を示した図面である。
図2-C】ALL細胞株であるREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を、単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合のオートファジー誘導について、電子顕微鏡像により示した図面である。
図2-D】図2−Cの電気顕微鏡像における1細胞当たりのオートファジー小胞の個数と面積を示した図面である。
図2-E】ALL細胞株であるREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合の、障害性ミトコンドリア数を蛍光色素染色に基づいて計数した結果を示した図面である。
図2-F】ALL細胞株であるREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合の、細胞内ミトコンドリアの膜電位を、TMRE(tetramethlrhodamine methyl ester)を用いて検討した結果を示した図面である。
図2-G】ALL細胞株であるREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合の、DCFDA(5−(and−6)−carboxy−2′,7′−dichlorofluorescein diacetate)を用いた細胞内活性酸素種(ROS)(左図)と、MitoSox(登録商標)−Redを用いたミトコンドリアROSの評価を行った結果を示した図面である。
図3-A】3種のALL細胞株に対してL−aspとオートファジー阻害剤を、単独又は組み合わせて作用させた場合の細胞死の度合いを、フローサイトメトリーとウェスタンブロッティング解析で検討した結果を示した図面である。
図3-B】ALL細胞株であるREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を作用させることにより惹起される細胞死に対する、汎アポトーシス関連分子阻害薬であるz−VADによる抑制作用を検討した結果を示した図面である。
図3-C】L−asp耐性株697−Rの、L−asp添加量増加に対する生細胞率を検討した結果を示す図面である。
図3-D】L−asp耐性株697−Rにおける、L−aspと、オートファジー阻害剤CQの組合せ添加の生細胞率に与える影響を検討した結果を示す図面である。
図3-E】L−asp耐性株697−Rにおけるアスパラギン合成酵素(ASNS)の蛋白発現レベルを、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合について、ウェスタンブロッティング解析を行った結果を示す図面である。
図3-F】ALL細胞株であるREH細胞のASNS遺伝子を異なる部位においてノックダウンを行った「sh-ASNS1」と「sh-ASNS2」における、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合について検討した結果を示す図面である。
図3-G】L−aspとオートファジー阻害剤の併用により誘導されるアポトーシス細胞死の原因となる機構を検討したウェスタンブロッティング解析の結果を示す図面である。
図3-H】図3−Gの細胞培養系にROSの阻害薬であるアセチルシステイン(NAC)を添加した場合の殺細胞効果に対する影響を検討した結果を示す図面である。
図3-I】Propidium Iodide染色を用いたフローサイトメトリーにより、細胞周期評価を行った結果を示す図面である。
図3-J】日単位の継続的薬剤接触による影響を、生細胞数をカウントすることにより検討した結果を示す図面である。
図3-K】in vivoでの治療評価を行うため、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したREH/Luc2細胞を、免疫不全マウスに対して経尾静脈移植を行い、その経過を蛍光分布検出により検討した結果を示す図面である。
図3-L】in vivoでの治療評価を行うため、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したREH/Luc2細胞を、免疫不全マウスに対して経尾静脈移植を行い、その経過を蛍光の光子フラックス率を基に検討した結果を示す図面である。
図3-M】図3−Kと図3−LにおけるREH/Luc2細胞を移植した免疫不全マウスの経時的な生存率を日単位で検討した全生存解析結果を示す図面である。
図4-A】ALL細胞株であるREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合の経時的なDNAダメージをウェスタンブロッティング解析により検討した結果を示す図面である。
図4-B】ALL細胞株であるREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させ、さらにこれにROS抑制薬であるアセチルシステイン(NAC)を作用させた場合の、DNAダメージの指標であるγH2AXと共に、p53蛋白の増減をウェスタンブロッティング解析により検討した結果を示す図面である。
図4-C】sh(short hairpin)RNAによりp53遺伝子をノックダウンしたREH細胞株(sh-p53)における、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を組み合わせて作用させた場合のDNAダメージを、ウェスタンブロッティング解析により検討した結果を示す図面である。
図4-D】図4−Cと同じくp53ノックダウンREH細胞株(sh-p53)における、細胞内ROSの蓄積を検討した結果を示す図面である。
図4-E】図4−Cと同じくp53ノックダウンREH細胞株(sh-p53)における細胞死の抑制について、Annexin Vの取り込み(左のグラフ)と、ウェスタンブロッティング解析(右の電気泳動図)により検討した結果を示す図面である。
図5-A】ALLの臨床血液検体(初発例12例と再発例2例の計14例)における、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)の組み合わせ投与の効果を、p53遺伝子の機能欠失となる変異の有無と併せて検討した結果を示した図面である。
図5-B】図5−Aにおいて、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)の組み合わせ投与の効果が認められたALLの臨床血液検体3例におけるオートファジー活性評価の結果をウェスタンブロッティング解析により示した図面である。
図5-C】図5−Aにおいて、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)の組み合わせ投与の効果が認められなかった、遺伝子変異によりp53が機能欠失したALLの臨床血液検体(症例14)に対して、アデノウイルスによる正常p53遺伝子の導入を行った場合の効果を、ウェスタンブロッティング解析により示した図面である。
図5-D】図5−Aにおいて、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)の組み合わせ投与の効果が認められなかった、遺伝子変異によりp53が機能欠失したALLの臨床血液検体(症例14)に対して、アデノウイルスによる正常p53遺伝子の導入を行った場合の効果を、生細胞数で検討した結果を示した図面である。
図5-E】sh(short hairpin)RNAによりp53遺伝子をノックダウンしたREH細胞株(sh-p53)を、免疫不全マウスに経尾静脈移植した場合の投薬の効果を検討した結果を示した図面である。
図5-F】L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)の組み合わせ投与による、ALL細胞のアポトーシス誘導の仕組みをチャート化して示した図面である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
1.本発明のデータ取得方法
本発明のデータ取得方法の基礎データは、p53遺伝子の機能欠失となる変異の検出データであり、がん検体におけるp53遺伝子の機能欠失となる変異の検出を行うことが前提となる。
【0028】
p53遺伝子は進化的に保存されており、ヒト以外の種にも認められる。ヒトp53遺伝子は、第17番染色体短腕上(17p13.1)に存在する。p53遺伝子は、がん抑制遺伝子として知られており、細胞内の恒常性の維持や代謝調節、細胞内ROS産生の調節、アポトーシスの誘導等の細胞増殖を制御する働きを担っていることが知られている。p53の機能欠失となる変異は、染色体上の両アレルにおけるp53遺伝子が失活するものである。この機能欠失変異の基本的類型として下記4種が挙げられる。
(1) 一方のアレルにp53遺伝子の機能欠失型の変異があり、他方のアレルで第17染色体短腕のp53遺伝子存在領域のLOH(loss of heterozygosity)が認められる類型(以下、第1類型ともいう)。がん細胞に生じる第1類型の機能欠失型変異は、p53遺伝子のLOHに先だって機能欠失型のミスセンス変異(R175HやR248Q等)、ナンセンス変異、フレームシフト変異等が生じたものである。
(2) 一方のアレルのp53遺伝子に上記のような機能欠失型の変異が生じ、他方のアレルのp53遺伝子にも同じく機能欠失型の変異が生じ、ホモ変異、又は、コンパウンドヘテロ変異となっている類型(以下、第2類型ともいう)。
(3) 第17番染色体短腕の欠失変異、若しくは、第17番染色体の欠失変異(以下、第3類型ともいう)
(4) 一方のアレルにp53遺伝子の機能欠失型変異のみが認められ、他方のアレルのp53遺伝子には変異は認められないが、ドミナント・ネガティブ作用によって、四量体構造を取るp53分子のサブユニットとして、変異p53サブユニットがランダムに組み合わされて機能阻害を及ぼし、全体としてのがん抑制作用(アポトーシス誘導作用)の効率を低下させる類型(以下、第4類型ともいう)。
【0029】
これらの4種類のp53遺伝子の機能欠失となる変異の類型のうち、第1類型が最も高頻度である。第1類型のp53遺伝子の機能欠失となる変異は、高度にp53遺伝子の変異が進行したがん細胞におけるものであるから、LOHのみを検出することによって、併せて存在する他アレルの機能欠失型変異を含めての検出とすることができる。無論のこと、例えば、LOHの検出とダイレクトシークエンス解析を併せて行うことも可能である。
【0030】
第1類型のLOHの検出は、例えば、マイクロサテライトマーカーを用いたゲノム不安定性試験(マイクロサテライト不安定性検査)、FISH法、特開2000−93185号に記載の方法、サザンブロット法等が挙げられる。
【0031】
マイクロサテライト不安定性検査においては、標的がん細胞の遺伝子における「ゲノムの不安定状態」を、マイクロサテライト(ゲノム中における(A)n、(CA)n等の単塩基から数塩基単位の反復配列(数回から数十回の反復)であって、10〜10個存在する)のうち、特定のものをマーカーとして用いて、第1類型のLOHの検出を行うことができる(Vita Vol.15 NO.3 1998 / 7.8.9)。
【0032】
FISH法[蛍光in situ ハイブリダイゼーション(FISH:Fluorescence in situ hybridization):Yasui,K., Imoto,I., Fukuda,Y., Pimkhaokham,A., Yang,Z.Q., Naruto,T., Shimada,Y., Nakamura,Y., and Inazawa,J: Identification of target genes within an amplicon at 14q12-q13 in esophageal squamous cell carcinoma. Genes Chromosomes Cancer, 32, 112-118, 2001]では、核酸のハイブリダイゼーションによるシグナルを基に、第1類型のLOHを検出することができる。この場合、p53遺伝子領域のFISHプローブを作成し、がん検体における染色体とハイブリダイゼーションを行い、シグナル数の変化を観察することで、p53遺伝子のLOHを検出することができる。
【0033】
特開2000−93185号に記載の方法は、がん検体の遺伝子のp53遺伝子の下流域に存在する、Na/K−ATPase beta2 subunit遺伝子内の遺伝子多型マーカーにおけるヘテロ接合性の消失を特定する方法であり、この方法によってもp53遺伝子のLOHを検出することができる。
【0034】
サザンブロット法を用いる場合、がん検体から得られるゲノムDNAを制限酵素消化し、それをゲル電気泳動後、ニトロセルロース膜上に固定し、これと、標識したp53遺伝子領域のDNAとハイブリダイゼーションを行い検出することにより、検体中のp53遺伝子のLOHの存在を検出する。正常由来の検体から得られる検出量(バンドの濃さ)に対し、がん検体から得られる検出量が少ないことと共に、異なるバンドの出現が認められることにより、検体中のp53遺伝子のLOHの存在を検出することができる。
【0035】
第2類型の機能欠失型のp53遺伝子変異は、例えば、ダイレクトシークエンス解析により検出することができる。さらに具体的には、サンガー法や、いわゆる次世代シークエンス法により検出することができる。後述する実施例で検出されたp53遺伝子変異は、この第2類型である。ただし、第2類型は、上述の第1類型に比べると低頻度である。
【0036】
サンガー法は、i)p53遺伝子の一本鎖DNAに相補的なオリゴヌクレオチドをアニールさせ、これをプライマーとして相補鎖をDNAポリメラーゼによって合成させ、ii)基質として4種のデオキシヌクレオチド三リン酸およびジデオキシヌクレオチド三リン酸を加え、相補鎖を合成させ、iii)さらに化学発光物質で標識したプライマーやdNTPを加えることにより、合成されるDNAを標識し、塩基配列を決定する。この配列とリファレンス配列を比較することで第2類型のp53遺伝子の機能欠失となる変異を検出することが可能である。
【0037】
次世代シークエンス法では、ランダムに切断された数千万のDNA断片の塩基配列を同時並行的に決定することができる。PCR産物のプールシークエンスにより、高効率にp53の遺伝子領域のディープシークエンスを行うことができる。これにより低頻度でも第2類型のp53遺伝子の機能欠失となる変異を検出することができる。
【0038】
第3類型の第17番染色体短腕の欠失変異、又は、第17番染色体の欠失変異は、上記のFISH法又は染色体検査で検出することができる。染色体検査は、典型的にはG分染法等の染色体検査である。とはギムザ(Giemsa)の略で、トリプシン処理後ギムザ染色を行うものである。これにより、p53遺伝子が座位する第17番染色体短腕の欠失や、第17番染色体そのものの欠失(モノソミー)の有無を確認することができる。
【0039】
第4類型のp53蛋白のサブユニットの立体構造による機能欠失型のp53遺伝子変異は、上記のサンガーシークエンス法の他、変異を有するp53蛋白については半減期が延長して細胞内(特に核内)に蓄積することを利用したp53蛋白の免疫組織化学染色、さらに変異を有するp53蛋白に対する、ELISAキットによる自己抗体の検出等を行うことができる。
【0040】
上記のように、p53遺伝子の機能欠失となる変異についてのがん検体からのデータを取得することができる。上記の検出手法を組み合わせて、第1類型、第2類型、第3類型、及び、第4類型、全てのp53遺伝子の機能欠失となる遺伝子変異についての検出を行うことができるが、これらを類型毎に個別の検出を行うことも可能である。この場合、頻度の高い第1類型を優先させて行うことが好ましい。
【0041】
図1は、本発明のデータ取得方法におけるp53遺伝子の機能欠失変異の検出工程の一態様をフロー化した図面である。
【0042】
ボックスA1は、がん検体が「固形がんの組織検体」である場合の検出工程開始を示す。組織検体とは、内臓組織、骨組織、筋肉組織、皮膚組織、神経組織等である。ボックスA2は、がん検体が「固形がんの液性検体」である場合の検出工程開始を示す。液性検体とは、胸水、腹水、尿残渣等である。ボックスA3は、がん検体が「白血病又は悪性リンパ腫」である場合の検出工程開始を示す。
【0043】
固形がんの組織検体(A1)の検出工程の第1段階は、「マイクロサテライトマーカーによるLOH解析」である(ボックスB1)。固形がんの液性検体(A2)の検出工程の第1段階は、「マイクロサテライトマーカーによるLOH解析」(B1)又は「FISH解析」(ボックスB2)である。また、白血病又は悪性リンパ腫のがん検体(A3)の検出工程の第1段階は、「マイクロサテライトマーカーによるLOH解析」(B1)、「FISH解析」(B2)又は「染色体検査」である。
【0044】
マイクロサテライトマーカーによるLOH解析(B1)の結果、「LOH陽性」(R1/1)である場合は、がん検体の種類によらず「機能欠失変異陽性」(J1/1)として検出が行われる。当該LOH解析(B1)の結果、「正常」(R1/0)である場合は、第2段階の検出工程である「ダイレクトシークエンス解析」(ボックスC1)がさらに行われる。ダイレクトシークエンス解析は、サンガー法又はNGS法等が用いられる。
【0045】
「FISH解析」(B2)又は「染色体検査」(B3)の結果、「正常」(R2/0)である場合には、初発のがん検体の種類によらずに前記「ダイレクトシークエンス解析」(C1)がさらに行われる。「FISH解析」(B2)又は「染色体検査」(B3)の結果、「第17番染色体短腕の欠失(17p−)又は第17番染色体そのものの欠失(−17)」(R2/0)である場合には、初発のがん検体の種類によらずに「機能欠失変異陽性」(J1/2)として検出が行われる。
【0046】
ダイレクトシークエンス解析(C1)の結果、既知のホモ又はコンパウンドへテロの機能欠失変異(R3/1)が認められた場合には、初発のがん検体の種類によらずに「機能欠失変異陽性」(J1/1)として検出が行われる。ダイレクトシークエンス解析(C1)の結果、「正常」(R3/0)と認められた場合には、初発のがん検体の種類によらずに「機能欠失変異陰性」(J0)として検出が行われる。ダイレクトシークエンス解析(C1)の結果、「未知のミスセンス変異」(R3/2)が検出された場合には、初発のがん検体の種類によらずに、第3段階の検出工程である「免疫組織化学染色」(ボックスD1)が行われ、その結果「核淡染」(R4/0)の場合には。「「機能欠失変異陰性」(J0)として検出が行われ、「核濃染」(R4/1)の場合には、「機能欠失変異陽性」(J1/2)として検出が行われる。
【0047】
また、p53遺伝子の機能欠失変異の検出手段として、ファンクショナルアッセイ(Kato, Ishioka et al., PNAS, vol. 100, no. 13, pp. 8424-8429 (2003)、Shimada, Kato, Ishioka et al., Cancer Res. 59, 2781-2786 (1999)、Ishioka et al., NATURE GENETICS (Oct;5(2): 124-129) (1993))を行うことも可能である。この方法によれば、新規のp53遺伝子の変異が認められた場合においても、その機能欠失評価を行うことが可能である。
【0048】
なお、上記の機能欠失型p53遺伝子変異を検出する際に行われるがん検体核酸の精製は、バックグランドノイズの低減、ハイブリダイゼーション性能の確保、効率の良い標識等を行う上で好ましい場合が多い。「精製」とは、抽出、分離、分取と同義語の意味で使用される。また、そのための手段として、シリカやセルロース誘導体などの核酸吸着性膜を担持したカートリッジを用いた方法、エタノール沈殿やイソプロパノール沈殿、フェノール−クロロホルム抽出、イオン交換樹脂やオクタデシル基などの疎水性置換基を結合したシリカ担体やサイズ排除効果を示す樹脂を使用した固相抽出カートリッジ、クロマトグラフィーなどによる方法を含むことができる。さらに、電気泳動法による精製も含めることができる。また、溶媒置換も広い意味で精製である。精製工程は、単回又は複数回を必要に応じて行うことができる。
【0049】
上記の検出工程により特定された、がん検体におけるp53遺伝子の機能欠失となる変異の有無は、本発明のデータ取得方法の基礎データとなる。すなわち、がん検体におけるp53遺伝子の機能欠失となる変異が認められる場合(陽性)は、L−asp類とオートファジー阻害剤の併用療法に対して抵抗性を有することが予測されるために、当該併用療法を、少なくとも当初のがん治療のスケジュールから除外することが好ましいと判断することができる。この場合は、当該併用療法以外の治療手段を選択することの他に、事前にp53遺伝子の修復治療を行ってから当該併用療法を行うスケジュールとすることも可能である。
【0050】
p53遺伝子の修復治療は、いわゆる遺伝子治療であり、正常のp53遺伝子を少なくともがん細胞に導入することにより行われる。例えば、マウス白血病ウイルスベクター、レンチウイルスベクター等のレトロウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、単純ヘルペスI型ベクター、HVJ−リポソーム等の改変ウイルス性ベクターを用いて正常のp53遺伝子をがん細胞に導入することができる。
【0051】
例としてアデノウイルスベクターによる導入を説明する。p53遺伝子の組み込まれたアデノウイルスベクターを腫瘍内注射すると、腫瘍細胞上のレセプターと結合し、アデノウイルスベクターは腫瘍細胞内に取り込まれエンコードされた外来性p53遺伝子が発現される。そののちにL−asp類とオートファジー阻害剤の併用療法の効果が有効となることが予想される。
【0052】
本発明のデータ取得方法において、がん検体におけるp53遺伝子の機能欠失となる変異が認められない場合(陰性)は、L−asp類とオートファジー阻害剤の併用療法が有効であることが予測されるために、当該療法を積極的に治療スケジュールに組み込むことが可能となる。
【0053】
2.本発明のがん治療剤
本発明のがん治療剤は、L−asp類とオートファジー阻害剤を有効成分とするものである。
【0054】
(1)L−asp類(L−アスパラギナーゼ類)
上述のようにL−aspは、蛋白質を構成するアミノ酸の一つであるアスパラギン(Asn)を分解する酵素であり、アスパラギン合成酵素の不足により慢性的なアスパラギン不足となっているがんに対して投与を行うことにより、当該がんの増殖を阻害するがん治療剤として既に急性リンパ性白血病等に対して用いられている。
【0055】
がん細胞が増殖するには、様々な物質が必要であり、蛋白質を構成するアミノ酸の一つであるアスパラギン(Asn)もその一つである。アスパラギンは、アスパラギン合成酵素によって生成され、L−アスパラギナーゼ(L−asparaginase(L−asp))によって分解される。
【0056】
がんの中には、細胞中のアスパラギン合成酵素が不足しており、アスパラギン不足になっているものがあり、さらにL−aspを与えると当該がん細胞の増殖が阻害されることが知られており(非特許文献1)、L−aspを用いた抗がん剤が、白血病や悪性リンパ腫等を対象として実用化されている。L−asp自体は、L−aspをコードする遺伝子で形質転換を行った微生物(大腸菌やジャガイモ黒あし病菌において実用化)を宿主として、公知の方法により製造することが可能であり、市販品を用いることも可能である。また上述したように、L−aspに化学的な修飾を施したL−aspの誘導体も、上記のような抗がん効果が認められる限りにおいて、L−asp類に含まれる。当該誘導体としては、例えば、ポリエチレングリコール化アスパラギナーゼ等が挙げられる。またL−asp類は、何らかの製剤処理を施した形態であっても良く、例えば、赤血球内封入アスパラギナーゼ等が挙げられる。
【0057】
本発明のがん治療剤によるL−asp類(有効成分)の投与量は、1日成人1人当たり50〜200単位/体重kg程度であり、効果に応じて増減することが可能である。投与間隔は、1日1回、さらに連日ないし数日おきに行うことも可能である。
【0058】
(2)オートファジー阻害剤
前述の通りにオートファジーは、リソソームによる細胞内の分解系の一つであり、長く存在した蛋白質、細胞内小器官、及び、蛋白質凝集態がオートファゴソーム内に捕捉され、その後リソソームと融合して分解されるという、高度に制御されたプロセスであり、特に、酸化ストレスなどの種々のストレスの悪条件下で細胞の生存を可能にすることが知られている。この現象により、L−asp類によって障害を受けたミトコンドリアが産生する細胞内ROSが貯留したがんが、その生存を確保しているものと考えられている。
【0059】
オートファジー阻害剤の有効成分は、このオートファジーを阻害する機能を有する成分であり、具体的には、クロロキン(クロロキノリン)、ハイドロオキシクロロキン等のクロロキン類、3−メチルアデニン、バフィロマイシンA等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。これらのオートファジー阻害成分は、公知の方法により製造が可能であり、市販品を用いることが可能である。
【0060】
本発明のがん治療剤によるオートファジー阻害剤の投与量(有効成分)は、当該薬剤の種類や投与間隔によっても異なるが、例えば、クロロキン類の場合は1日成人1人当たり200〜400mg程度であり、効果に応じて増減することが可能である。投与間隔は、1日1回、さらに連日ないし数日おきに行うことも可能である。
【0061】
(3)がん治療剤の効果
本発明のがん治療剤を投与することにより、L−asp類の作用により、標的のがん細胞はL−アスパラギンが枯渇状態となると同時に、緊急的生命維持のためにオートファジーが誘導される。特に、本発明のがん治療剤の標的のがん細胞である「L−asp類単独投与に対して抵抗性を有するがん」においては、アスパラギン合成酵素の増強が認められる。しかしながら、本発明のがん治療剤におけるオートファジー阻害剤により、上記のオートファジーが阻害されて、その際にがん細胞内に多量の活性酸素が蓄積し、次いでp53蛋白質の作用により当該がん細胞はアポトーシスへと誘導される。このがん細胞内における活性酸素の蓄積とアポトーシスのサイクルの繰り返しにより、本発明のがん治療剤においては非常に優れたがん治療効果が発揮される。これは、上記の「L−asp類単独投与に対する抵抗性」の有無に係わらない有効性である。しかしながら、p53遺伝子の機能欠失となる変異が認められるがん細胞に対しては、上記のアポトーシスに至る過程が損なわれてしまい、本発明のがん治療剤をそのまま投与してもがん治療効果を期待することはできない。
【0062】
(4)がん治療剤の態様
本発明のがん治療剤は、(a)L−asp類とオートファジー阻害剤が単一の医薬組成物中に含有されている形態、(b)L−asp類とオートファジー阻害剤が、互いに別個の医薬組成物として組み合わさったセットの形態、の2通りの形態に大別される。
【0063】
単一形態(a)は、投与が一剤で済むという利点があるが、その反面で性質の異なる薬剤を組み合わせるために、薬剤量と投与間隔の細かな調節が難しい欠点がある。
【0064】
セット形態(b)は、二剤投与になるものの、薬剤量と投与間隔等の細かな調節が容易である。
【0065】
前述のように、本発明のがん治療剤には、L−asp類とオートファジー阻害剤に加えて、さらにL−アスパラギン合成酵素阻害剤を含有させることができる。これは、「L−asp類単独投与に対して抵抗性を有するがん」において増強されるL−アスパラギン合成酵素を阻害することで、当該がん細胞におけるL−アスパラギンの枯渇を促進させることで、がん治療効果を向上させることが可能であることに基づいている。
【0066】
L−アスパラギン合成酵素阻害剤は、上記の(a)単剤型、(b)セット型、いずれの態様においても、本発明のがん治療剤に含有させることが可能である。セット型の場合は、3剤共に異なる組成物である場合以外に、いずれか2剤が組み合わさった医薬組成物である場合も有り得る形態である。特に、L−asp類とL−アスパラギン合成酵素阻害剤の組合せ組成物は、その作用機序から好ましい組合せである。
【0067】
本発明のがん治療剤は、両者とも「医薬組成物」として人体に投与される。当該がん治療剤の有効成分の直接投与の場合も、例えば、注射剤等を用時混合することになるので、これも医薬組成物に含められる。
【0068】
本発明のがん治療剤として用いられる医薬組成物は、上記の有効成分と共に適切な医薬製剤担体を配合して製剤組成物の形態に調製される。当該製剤担体としては、使用形態に応じた担体を選択することが可能であり、充填剤、増量剤、結合剤、付湿剤、崩壊剤、界面活性剤等の賦形剤ないし希釈剤を使用することができる。組成物の形態は、本発明のがん治療剤を効果的に含有可能な形態であれば特に限定されるものではなく、錠剤、粉末剤、顆粒剤、丸剤等の固剤であってもよいが、通常は、液剤、懸濁剤、乳剤等の注射剤形態とするのが好適である。また、本発明のがん治療剤を適切な担体の添加によって使用時に液状となし得る乾燥品とすることも可能である。さらに本発明の医薬品組成物において、シクロデキストリン含有ポリマーで構成されたナノ粒子、高分子ミセル、赤血球、安定核酸脂質粒子(SNALP)、多機能エンベローブ型ナノ構造体(MEND)等のドラッグデリバリーシステムを活用して、本発明のがん治療剤の効果をより向上させることが可能である。
【0069】
得られた医薬品組成物は、その形態に応じた適切な投与経路、例えば、注射剤形態の医薬品組成物は、静脈内、筋肉内、皮下、皮内、腹腔内投与等により、固剤形態の医薬品組成物は、経口ないし経腸にて投与される。医薬品組成物中の本発明のがん治療剤の量は、当該組成物の投与方法、投与形態、使用目的、患者の症状等に応じて適宜選択され一定ではないが、通常、本発明のがん治療剤を、0.1〜95質量%程度含有する組成物形態に調製して、上述した投与形態にて投与を行うことが好ましい。
【実施例】
【0070】
以下、本発明の実施例を開示する。
【0071】
1.L−aspによって誘導されるオートファジーの検討
遺伝的な背景の異なる3種のALL細胞株である、(a)REH(ETV6−RUNX1転座陽性)(Venuat, A. M., Testu, M. J., and Rosenfeld, C. (1981). Cytogenetic abnormalities in a human null cell leukemia line (REH). Cancer Genet Cytogenet 3, 327-334.)、(b)697(TCF3−PBX1転座陽性)(Findley, H. W., Jr., Cooper, M. D., Kim, T. H., Alvarado, C., and Ragab, A. H. (1982). Two new acute lymphoblastic leukemia cell lines with early B-cell phenotypes. Blood 60, 1305-1309.)、(c)TS2(MEF2D−DAZAP1転座陽性)(Yoshinari, M., Imaizumi, M., Eguchi, M., Ogasawara, M., Saito, T., Suzuki, H., Koizumi, Y., Cui, Y., Sato, A., Saisho, T., et al. (1998). Establishment of a novel cell line (TS-2) of pre-B acute lymphoblastic leukemia with a t(1;19) not involving the E2A gene. Cancer Genet Cytogenet 101, 95-102.)において、L−asp(大腸菌由来L−aspロイナーゼ(登録商標)、協和発酵キリン社)のオートファジー活性の検討を行った。オートファジーの評価のためにオートファジー阻害剤であるクロロキノン(Chloroquine(CQ):Sigma−Aldrich Co., カタログ番号C6628)及びバフィロマイシン(Bafilomycin A(Baf):Sigma−Aldrich Co., カタログ番号B1793)を用いた。培地はRPMI1640(和光純薬工業社、カタログ番号189−02025)500mlに胎児ウシ血清(和光純薬工業社、カタログ番号35−010−CV、添加濃度10%)と抗生物質Penicillin−Streptomycin(ThermoFisher Scientific Inc., カタログ番号15140−122、添加濃度0.5%)を加えたものを用いた。
【0072】
6ウェルプレートの1ウェルにそれぞれ1×10個/上記培地2mlの細胞を播種した。L−asp 1U/mlを添加し、45時間後にさらにCQ 10μMないしBafilomycin A1 100nMを添加し、その3時間後に細胞を回収したのちにウェスタンブロッティング法、蛍光免疫染色、電子顕微鏡による解析を行った。
【0073】
ウェスタンブロッティング法では細胞溶解液を用いてポリアクリルアミドゲル電気泳動を行い、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)膜に転写した。スキムミルクを用いてブロッキングを行った後に一次抗体としてLC3B抗体、β-actin抗体(いずれもSigma−Aldrich社)を反応させ、その後二次抗体としてSuperSignal West Dura(ThermoFisher Scientific Inc.)を反応させた。その後LAS−3000(GEヘルスケア社)にて検出を行った。
【0074】
蛍光免疫染色による解析では、細胞を回収後CytoSpin3(ThermoFisher Scientific Inc.)でスライドグラスに密着させ、メタノールで固定後胎児ウシ血清1%とTriton X−100 0.01%を含んだリン酸緩衝生理食塩水(PBS)でブロッキングを行った。その後LC3B抗体(Sigma−Aldrich社)およびVECTASHIELD with DAPI(Vector Laboratories社)を反応させ、蛍光顕微鏡で観察を行った。
【0075】
電子顕微鏡解析ではパラホルムアルデヒドで固定後、エタノールによる脱水および乾燥を行う。エポキシ樹脂に包埋しミクロトームで薄切して試料台に貼付後、酢酸ウランおよびクエン酸鉛で電子染色を行い透過型電子顕微鏡で観察を行った。
【0076】
図2−Aは、上記3種のALL細胞株に対してL−aspとオートファジー阻害剤を、単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合のオートファジー誘導を、オートファゴソームの存在を示すLC3B−IIを指標として電気泳動で検討した結果を示している。これにより3株いずれにおいても、CQもしくはBaf単剤投与時に比べ、L−aspとCQもしくはBafの併用投与時において、LC3B−IIの発現が上昇していた。このことは、定常状態に比べL−aspがオートファジーを誘導していることを示している。
【0077】
図2−Bは、上記3種のうち、REH細胞に対して、L−aspとChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合のオートファジー誘導を、LC3B−IIを指標として、上記図2−Aの場合と同条件下で検討した組織免疫染色像である。これにより、CQ単剤投与、L−asp単剤投与に比べ、L−aspとCQの併用投与においてLC3Bの蛋白発現が上昇していることが確認され、L−aspによりオートファジーが誘導されていることが示された。
【0078】
図2−Cは、上記図2−Bの系におけるオートファジー誘導についての電子顕微鏡像であり、図2−Dは、当該電気顕微鏡像における1細胞当たりのオートファジー小胞の個数と面積を示している。L−aspとCQの併用時には多数のオートリソソーム(図2−C矢頭)に交じってミトコンドリアを含むオートファゴソームも観察された(図2−C 三角)。1細胞あたりのオートファジー小胞の個数および面積において、いずれもL−aspとCQの併用時に有意に多く観察された。
【0079】
図2−Eは、上記図2−Bの系、すなわちALL細胞株であるREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合の、障害性ミトコンドリア数をミトコンドリア用の染色蛍光色素であるMitoTracker(登録商標)Redの発色に基づいて計数した結果を示している。ここに示すように、L−aspとCQの併用時にピークが右に移行しており障害性ミトコンドリアが顕著に観察された。
【0080】
図2−Fは、上記図2−Eの系において、細胞内ミトコンドリアの膜電位を、TMRE(tetramethlrhodamine methyl ester)を用いて検討した結果を示している。ここに示すように、L−aspとCQの併用時に、膜電位の低下したミトコンドリア、すなわち障害性ミトコンドリアを有する細胞の割合が有意に増えていた。
【0081】
図2−Gは、上記図2−Eの系において、DCFDAを用いた細胞内活性酸素種(ROS)(左図)と、MitoSox(登録商標)−Redを用いたミトコンドリアROSの評価を行った結果を示している。ここに示すように、L−aspとCQの併用時に有意にROSが蓄積していることが明らかになった。
【0082】
この図2−A〜Gにより、ALL細胞株に対するL−asp投与により、オートファジーの誘導が促進され、かつこのオートファジーはがん細胞において障害性ミトコンドリアと活性酸素種の除去において非常に重要であることが明らかになった。
【0083】
2.L−aspとオートファジー阻害剤の併用による細胞死誘導の検討
6ウェルプレートの1ウェルにREH細胞1×10個/培地2mlの細胞を播種した。同時にL−aspおよびCQを図に示す濃度(記載がない場合はL−asp 1U/ml、CQ 10μM)で添加し、48時間後に細胞を回収した。
【0084】
ウェスタンブロッティング法は図2と同様に行い、一次抗体はcPARP抗体、cCASP3抗体、CASP3抗体、CHOP抗体はcell Signaling社,ASNSはSigma−Aldrich社、ATF4抗体はSanta Cruz Biotechnology社のものを用いた。
【0085】
死細胞数はMEBCYTO−Apoptosis Kit(MBL社)によるAnnexin V染色後にフローサイトメーターAccuri C6(Becton,Dickinson and Company)を用いて解析した。
【0086】
汎アポトーシス因子阻害薬zVAD−fmv(ペプチド株式会社)による死細胞数評価は、L−aspおよびCQを添加した後24時間目で培地に添加し、さらに24時間後に死細胞数を評価した。コントロールとして、zVAD−fmvの溶媒であるジメチルスルホキシド(DMSO)を用いた。
【0087】
L−aspに対する耐性株(697−R)の樹立にあたっては、既報(Hutson RG, et al. Am J Physiol 1997;272:c1691-1699)のとおり行った。すなわち697細胞において培地中にL−aspを加えて培養し、L−aspに対する耐性を獲得して増殖する細胞を回収した。加えるL−aspは0.1U/mlから開始し、6か月以上かけて徐々に増やしつつ最終的に1U/mlまで増加した。
【0088】
抗ROS薬NAC(Sigma−Aldrich社)は、2mMをL−aspおよびCQと同時に投与し、48時間後にAnnexin V染色を用いた死細胞数をフローサイトメーターで評価した。
【0089】
細胞周期解析は、L−aspおよびCQを添加し48時間後に細胞を回収し、PBSで洗浄後70%エタノール・‐20℃で固定した。8時間後、PBSで洗浄しRNaseを加えて38度、30分静置し、propidium iodide(Thermo Fisher Scientific社)で染色した後にAccuri C6フローサイトメーターで測定した。
【0090】
下記ASNSに対するsh(short hairpin)−ASNS1(標的配列:5'-GCTGTATGTTCAGAAGCTAAA-3'(配列番号1))あるいはsh−ASNS2(標的配列:5'-CGTCAAGTCTTTGAACGCCAT-3'(配列番号2))を発現するレンチウイルスを作成した。まずKOD−Plus−Mutagenesis Kit(TOYOBO CO.,LTD.)を用いてプロトコールに従いInverse PCR法を行った。すなわち環状DNA(プラスミド)を鋳型として下記のプライマーを用いてPCRを行い、プラスミド全周の増幅を行った。次にレンチウイルスベクターpGreenPuro shRNA Cloning and Expression Lentivector(System Biosciences)のBamHI−EcoRI領域にPCR産物をクローニングし、組み換えベクターを作成した。その後直鎖状プラスミドであるPCR産物をライゲーションすることにより環状化した。次に大腸菌への形質転換を行い、プラスミドを抽出後HEK293TN細胞に導入し、sh−ASNS1発現レンチウイルス、sh−ASNS2発現レンチウイルスを作成した。こうして得られた各組換えレンチウイルスについて、Global UltraRapid Lentiviral Titer Kit(System Biosciences)を用いてタイターを測定した。MOI(multiplicity of infection)を添付マニュアルに従って決定し、5MOIとなるようウイルス量を調節しREH細胞にトランスフェクトした。
【0091】
sh−ASNS1−sense:
5'-GATCCGCTGTATGTTCAGAAGCTAAACTTCCTGTCAGATTTAGCTTCTGAACATACAGCTTTTTG-3'(配列番号3)
sh−ASNS1−antisense:
5'-AATTCAAAAAGCTGTATGTTCAGAAGCTAAATCTGACAGGAAGTTTAGCTTCTGAACATACAGCG-3'(配列番号4)
sh−ASNS2−sense:
5'-GATCCCGTCAAGTCTTTGAACGCCATCTTCCTGTCAGAATGGCGTTCAAAGACTTGACGTTTTTG-3'(配列番号5)
sh−ASNS2−antisense:
5'-AATTCAAAAACGTCAAGTCTTTGAACGCCATTCTGACAGGAAGATGGCGTTCAAAGACTTGACGG-3'(配列番号6)
【0092】
REH/Luc2細胞は、ルシフェラーゼ遺伝子Luc2を組み込んだレンチウイルスベクターで大腸菌を形質転換し、当該組み換え大腸菌を増幅後、プラスミドを生成した。このプラスミドをHEK293TN細胞に導入し、Luc2発現レンチウイルスを作成した。こうして得られた各組換えレンチウイルスについて、Global UltraRapid Lentiviral Titer Kit(System Biosciences社)を用いてタイターを測定した。MOIを添付マニュアルに従って決定し、5MOIとなるようウイルス量を調節しREH細胞にトランスフェクトし、REH/Luc2細胞を樹立した。このREH/Luc2細胞を5×10/PBS100μlの濃度および量で免疫不全マウス(NOD/SCIDマウス)の尾静脈から注入した。注入7日後よりL−asp 6000U/マウス体重kgおよびCQ 50mg/マウス体重kgを1日1回、毎日腹腔内投与し生体内白血病増殖量および生存期間を解析した。マウス生体内腫瘍増殖量の測定にあたってはD−ルシフェリン(Synchem社)150mg/マウス体重kgを腹腔内投与し、Photon Imager(Biospace Lab社)を用いて生物発光イメージング解析を行った。図3−Aは、上記3種のALL細胞株に対してL−aspとオートファジー阻害剤を、単独又は組み合わせて作用させた場合の細胞死の度合いを、フローサイトメトリーとウェスタンブロッティング解析で検討した結果を示している。L−aspとオートファジー阻害薬CQの併用群(L−asp+CQ群、いずれも48時間投与)は、CQ単剤投与群(CQ群)およびL−asp単剤投与群(L−asp群)に比べ有意に細胞死を誘導した。
【0093】
フローサイトメトリーによる死細胞の評価は、Annexin V染色陽性細胞の割合で明らかにした。またウェスタンブロッティング解析により、L−asp群に比較し、L−asp+CQ群において、アポトーシス関連蛋白であるcCASP3やcPARPの発現の増加が認められた。
【0094】
図3−Bは、上記3種のうちREH細胞に対して、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を作用させることにより惹起される細胞死に対する、汎アポトーシス関連分子阻害薬であるz−VADによる抑制作用を検討した結果を示している。ここに示すように、z−VADは当該細胞死を抑制した。
【0095】
図3−Aと図3−Bにより、L−aspとオートファジー阻害剤の併用により誘導される細胞死は、アポトーシスを介すことが示された。
【0096】
図3−Cは、確立されたL−asp耐性株697−Rの、L−asp添加量増加に対する生細胞率を検討した結果を示している。当該耐性株は、L−aspに対する一定の耐性を有していることが確認できる。
【0097】
図3−Dは、上記L−asp耐性株697−Rにおける、L−aspと、オートファジー阻害剤(CQ)の組合せ添加の生細胞率に与える影響を検討した結果を示している。ここに示すように、L−asp耐性株であってもL−aspと、オートファジー阻害剤の組合せ添加により、用量依存的に死細胞率が上昇した。
【0098】
図3−Eは、同じくL−asp耐性株697−Rにおけるアスパラギン合成酵素(ASNS)の蛋白発現レベルを、L−aspとオートファジー阻害剤を単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合について、ウェスタンブロッティング解析を行った結果を示している。ここに示すように、当該耐性株においては、いずれの薬剤投与環境においても、ASNS発現レベルが697株に比べて増加していた。上記の図3−Cに示す結果は、このようなASNSレベルの増加にも係わらず、L−aspと、オートファジー阻害剤の組合せ添加により、用量依存的にL−asp耐性株の死細胞率が上昇したことになる。
【0099】
図3−Fは、ALL細胞株であるREH細胞のASNS遺伝子を異なる部位においてノックダウンを行った「sh-ASNS1」と「sh-ASNS2」における、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)を単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合について検討した結果を示している。ここに示すように、ASNS遺伝子のノックダウンにより、L−aspとオートファジー阻害剤の組合せ添加による殺細胞効果が増強されることが明らかになった。
【0100】
上記図3−A〜図3−Fに示す結果から、L−aspとオートファジー阻害剤の併用療法はL−asp耐性ALL細胞においても有効であることが示された。また、ASNS阻害薬、L−asp、オートファジー阻害剤の3剤併用は、ALL治療において非常に有用であることが示された。
【0101】
図3−Gのウェスタンブロッティング解析結果は、REH細胞株に対するL−aspとオートファジー阻害剤の併用により誘導されるアポトーシス細胞死の原因となる機構を検討した結果を示している。L−aspにおいてはATF4−CHOP pathwayによりアポトーシス細胞死が誘導されることが報告されているが(Ye, J. et al., The EMBO journal 29, 2082-2096, doi:10.1038/emboj.2010.81 (2010))、L−asp群とL−asp+CQ群ではATF4およびCHOPの発現に明らかな差を認めず、L−asp+CQ群では他の原因によるアポトーシス細胞死が誘導されていることが示唆された。またATF4の下流にあるASNSの発現もL−asp群とL−asp+CQ群で明らかな差を認めなかった。
【0102】
図3−Hでは、図3−Gの細胞培養系にROSの阻害薬であるアセチルシステイン(NAC)を添加した場合の殺細胞効果に対する影響を検討した結果を示している。ここに示したように、NACの添加によりL−asp+CQ群における殺細胞効果は減弱した。このことからL−aspとオートファジー阻害剤の併用効果の発揮には、標的細胞におけるROSの蓄積が重要な要素であることが明らかになった。
【0103】
図3−Iは、Propidium Iodide染色によるフローサイトメトリーを用いた細胞周期の評価を、L−aspとオートファジー阻害剤を、単独又は組み合わせて作用させた場合、あるいは両者共に作用させない場合において行った結果を示している。ここに示すように、L−asp単独群ではG0/G1期が増加したが、L−asp+CQ群では逆にG0/G1期が減少し、sub−G1期が増加していた。このことから、L−asp単剤添加時には細胞周期をG0/G1期で停止させ細胞死から逃れているが、これに抗オートファジー阻害薬を併用することにより、細胞周期を停止することが困難になり、細胞死を逃れられずアポトーシスが誘導されることが示された。
【0104】
図3−Jは、9日間の継続的薬剤接触による影響を、生細胞数をカウントすることにより検討したものである。このカウントは、Trypan blue染色を用いたTC20自動細胞カウンターにより調べた。細胞培地を72時間毎に交換する際に各薬剤を添加し、生細胞数を測定した。その結果、CQ群およびL−asp群では緩やかな細胞増加を認めたが、L−asp+CQ群では時間経過とともに生細胞数の割合が減少していた。
【0105】
図3−Kと図3−Lは、in vivoでの治療評価を行うため、ルシフェラーゼ遺伝子を導入したREH/Luc2細胞を樹立し、免疫不全マウス(NOD/SCIDマウス(Charles River Laboratories Japan社))に対して経尾静脈移植を行い、その経過を検討した結果を示した。図3−Kは、その増殖度合いをREH/LUC2細胞の移植7、16、22日後の蛍光分布により検討した結果を示し、図3−Lでは、経時的なREH/Luc2細胞の増殖度合いを蛍光の光子フラックス率により検討した。両図共に、移植されたREH/Luc2細胞はcontrol群および単独投与群のマウス体内で速やかに増殖したが、L−asp+CQ群では増殖が有意に抑制されたことを示している。
【0106】
図3−Mは、上記のREH/Luc2細胞を移植した免疫不全マウスの経時的な生存率を日単位で検討した全生存解析結果である。ここに示すように、control群、CQ群、L−asp群に比較し、L−asp+CQ群で有意な生存期間の延長を認めた。
【0107】
このように、ALLにおけるL−aspと抗オートファジー阻害薬との併用療法はin vitroおよびin vivoで有効であることが示された。
【0108】
3.L−aspとオートファジー阻害剤の併用と活性酸素種の関係
6ウェルプレートに、1ウェルあたりREH細胞1×10個/培地2mlを播種した。L−asp 1U/mlおよびCQ 10μMを添加し、継時的もしくは48時間後に観察した。
【0109】
ウェスタンブロッティング法は図2と同様に行い、一次抗体は、γHAX抗体はAbcam社から、PUMA抗体はSanta Cruz Biotechnology社から購入した。
【0110】
sh(short hairpin)RNAによるp53のノックダウンは、上記図3と同様に行いsh-p53(標的配列:5'-GACTCCAGTGGTAATCTAC-3'(配列番号7))を発現するレンチウイルスを作成した。下記のプライマーを用いて組み換えベクターを作成し、大腸菌を形質転換した。当該組み換え大腸菌を増幅後、プラスミドを生成した。このプラスミドをHEK293TN細胞に導入し、Luc2発現レンチウイルスを作成した。こうして得られた各組換えレンチウイルスについて、Global UltraRapid Lentiviral Titer Kit(System Biosciences社)を用いてタイターを測定した。MOIを添付マニュアルに従って決定し、5MOIとなるようウイルス量を調節しREH細胞にトランスフェクトした。
【0111】
sh−p53−sense:
5'- GATCCGACTCCAGTGGTAATCTACCTTCCTGTCAGAGTAGATTACCACTGGAGTCTTTTTG-3'(配列番号8)
sh−p53−antisense:
5'-AATTCAAAAAGACTCCAGTGGTAATCTACTCTGACACAGGAAGGTAGATTACCACTGGAGTCG-3'(配列番号9)
【0112】
図4−Aは、ALL細胞株であるREH細胞株に対して、L−aspとオートファジー阻害剤を単独又は組み合わせて作用させた場合の、経時的なDNAダメージをウェスタンブロッティング解析により検討した結果を示している。ROSの蓄積はDNAダメージを惹起することが知られている(Kruiswijk, F., Labuschagne, C. F. & Vousden, Nature reviews. Molecular cell biology 16, 393-405, doi:10.1038/nrm4007 (2015))。ここに示すように、REH細胞株において、L−asp+CQ群ではDNAダメージの指標であるγH2AXの蛋白発現が上昇し、それとともにP53およびPUMA (P53 upregulated modulator of apoptosis)も上昇した。
【0113】
図4−Bは、図4−Aの試験系において、さらにこれにROS抑制薬であるアセチルシステイン(NAC)を作用させた場合の、DNAダメージの指標であるγH2AXと共に、p53蛋白の増減をウェスタンブロッティング解析により検討した結果を示している。ここに示すように、ROS抑制薬を添加すると、DNAダメージおよびP53活性が抑制された。
【0114】
図4−Aと図4−Bから、ALL細胞において、L−aspとオートファジー阻害剤の併用により、過剰なROSが当該細胞内に蓄積することによるDNAダメージにより、P53誘導性アポトーシスが惹起されることが示された。
【0115】
図4−Cは、sh(short hairpin)RNAによりp53遺伝子をノックダウンしたALL細胞株であるREH細胞株(sh-p53)における、L−aspとCQを組み合わせて作用させた場合のDNAダメージを、ウェスタンブロッティング解析により検討した結果である。ここに示すように、sh-p53では、p53遺伝子の下流にあるPUMAのみならず、DNAダメージも誘導されていなかった。
【0116】
図4−Dは、sh-p53における、細胞内ROCの蓄積を検討した結果である。ここに示すようにsh-p53では、L−asp+CQ群における細胞内ROSの蓄積が、有意に抑制されていた。
【0117】
図4−Eは、sh-p53における細胞死の抑制について、Annexin Vの取り込み(左のグラフ)と、ウェスタンブロッティング解析(右の電気泳動図)により検討した結果である。ここに示すようにsh-p53では、L−asp+CQ群における細胞死が有意に抑制され、p53の発現も強く抑制されていた。
【0118】
図4−A〜図4−Eに示した結果により、L−aspと抗オートファジー阻害薬の併用療法は、(a)ROSの蓄積、(b)DNAへのダメージ、(c)p53の活性化、(d)更なる過剰なROSの蓄積、という「ROS−DNAダメージ−p53ループ」を形成し、細胞死を誘導すること、及び、p53のノックダウン株ではこのループが絶たれるために、細胞死が抑制されることが示された。
【0119】
4.臨床検体とマウス生体を用いた検討
臨床検体は、9割以上がALL白血病細胞で占められる患者の骨髄検体から、Ficollによる密度勾配遠心分離法を用いて分離した白血病細胞を使用した。採取に当たっては倫理委員会の承認ののち両親から書面にて同意を得た。 生細胞数の解析にあたっては、L−asp 1U/mlおよびCQ 10μMを加え、48時間後にトリパンブルー染色を用い自動細胞カウンターTC20(Bio−Rad社)を使って調べた。
【0120】
ウェスタンブロッティング法は図2と同様に行った。
【0121】
p53の機能欠失となる変異の検出は、Sanger法によるダイレクトシークエンス解析を行った。回収した細胞にPUREGENE Cell Lysis SolutionおよびProtein Precipitation Solution(いずれもQIAGEN社)を添加後、DNAをエタノールで沈殿させTris−EDTA Bufferで溶解した。エキソン部(exon 2−11)を下記のプライマーを用いて逆転写ポリメラーゼ連鎖反応で増幅した。この増幅産物についてダイレクトシークエンス(両鎖解析)をApplied Biosystems 3130xl Genetic Analyzer(サーモフィッシャー社)により行った。得られた解析波形チャートからソフトウェアGENETYX(ゼネティックス株式会社)を用いて変異解析を行った。
【0122】
exon2−3 sense: 5'-tctcatgctggatccccact-3'(配列番号10)
exon2−3 antisense: 5'-agtcagaggaccaggtcctc-3'(配列番号11)
exon4 sense: 5'-tgaggacctggtcctctgac-3'(配列番号12)
exon4 antisense: 5'-agaggaatcccaaagttcca-3'(配列番号13)
exon5−6 sense: 5'-tgttcacttgtgccctgact-3'(配列番号14)
exon5−6 antisense: 5'-ttaacccctcctcccagaga-3'(配列番号15)
exon7 sense: 5'-cttgccacaggtctccccaa-3'(配列番号16)
exon7 antisense: 5'-aggggtcagaggcaagcaga-3'(配列番号17)
exon8−9 sense: 5'-ttgggagtagatggagcct-3'(配列番号18)
exon8−9 antisense: 5'-agtgttagactggaaacttt-3'(配列番号19)
exon10 sense: 5'-caattgtaacttgaaccatc-3'(配列番号20)
exon10 antisense: 5'-ggatgagaatggaatcctat-3'(配列番号21)
exon11 sense: 5'-agaccctctcactcatgtga-3'(配列番号22)
exon11 antisense: 5'-tgacgcacacctattgcaag-3'(配列番号23)
【0123】
p53の遺伝子導入は組み換えアデノウイルスを用いた。組み換えアデノウイルスはAdenovirus Expression Vector Kit (Takara社)を用いて作成した。具体的には野生型p53を挿入したコスミドベクター(pAxCAwtit−p53)を作成し、p53遺伝子を含む組み換えアデノウイルスゲノムを切り出してHEK293TN細胞に導入し、p53組み換えアデノウイルスを作成した。こうして得られた各組換えアデノウイルスについて、Global UltraRapid Lentiviral Titer Kit(System Biosciences社)を用いてタイターを測定した。MOIを添付マニュアルに従って決定し、5MOIとなるようウイルス量を調節し目的細胞にトランスフェクトした。
【0124】
p53のノックダウンは図4と同様の方法でshRNA(sh−p53)を用いてREH細胞に対し行った。このp53ノックダウンREH細胞を5×10/PBS100μlの濃度および量で免疫不全マウス(NOD/SCIDマウス)の尾静脈から注入した。注入7日後より、L−asp 6000U/マウス体重kgおよびCQ 50mg/マウス体重kgを1日1回、毎日腹腔内投与し生存期間を解析した。
【0125】
図5−Aは、ALLの臨床血液検体(初発例12例と再発例2例の計14例)における、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)の組み合わせ投与の効果を、p53遺伝子の機能欠失となる変異の有無と併せて検討した結果を示している。これらの検体14例のうち、保存検体量が十分であった7例でSanger法によるp53解析を行い、1例(症例14)でp53遺伝子のホモ変異(R248Q)を認めた。L−asp群とL−asp+CQ群の比較では、p53の機能欠失となる変異を有さない13例においてL−asp+CQ群で有意に生存細胞数が低下していたが、p53遺伝子の機能欠失となる変異を有する1例(症例14)では、L−aspとオートファジー阻害剤の併用効果を認めなかった。
【0126】
図5−Bは、前記した14症例のうち、L−aspとCQの組み合わせ投与の効果が認められたALLの臨床血液検体3例(症例4、5、7)におけるオートファジー活性評価の結果を、ウェスタンブロッティング解析により示した。図の最下段の数字は、LC3B−II/ACTBについて、コントロールを1とした場合の相対比を示す。いずれの症例の検体も、L-aspとCQの併用時にLC3B−IIの蛋白発現が上昇していた。これはL−asp投与時にオートファジー活性が亢進することを示しており、これは前述したin vitroにおける知見と一致している。
【0127】
図5−Cと図5−Dでは、前記した14症例のうち、L−aspとCQの組み合わせ投与の効果が認められなかったALLの臨床血液検体(症例14)に対して、アデノウイルスによる正常p53遺伝子の導入を行った場合の効果を、ウェスタンブロッティング解析(図5−C)と生細胞数(図5−D)により示した。これらに示したように、アデノウイルスによる正常p53遺伝子の導入を行うと、L−asp+CQ群においてp53の蛋白発現が亢進し細胞死が惹起された。
【0128】
図5−Eは、前述したp53遺伝子をノックダウンしたREH細胞株(sh-p53)を、免疫不全マウスに経尾静脈移植した場合の投薬の効果を検討した結果を示している。具体的には、shRNAによるp53ノックダウンREH細胞にルシフェラーゼ遺伝子を導入し、NOD/SCIDマウスに経尾静脈移植して治療実験を行った。その結果、本図に示したように、p53ノックダウン株であるsh-p53では、L−aspとCQの併用でも生存期間の延長を認めなかった。
【0129】
本実施例により、p53遺伝子は、L−aspと抗オートファジー阻害薬の併用療法において本質的な役割を果たしており、ALL等の治療の層別化を行う上で極めて重要であることが示された。図5−Fにおいて、L−aspとオートファジー阻害剤であるChloroquine(CQ)の組み合わせ投与による、ALL細胞のアポトーシス誘導の仕組みをチャート化して示した。
図1
図2-A】
図2-B】
図2-C】
図2-D】
図2-E】
図2-F】
図2-G】
図3-A】
図3-B】
図3-C】
図3-D】
図3-E】
図3-F】
図3-G】
図3-H】
図3-I】
図3-J】
図3-K】
図3-L】
図3-M】
図4-A】
図4-B】
図4-C】
図4-D】
図4-E】
図5-A】
図5-B】
図5-C】
図5-D】
図5-E】
図5-F】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]