(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6719914
(24)【登録日】2020年6月19日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】パネル塀の製造方法およびパネル塀
(51)【国際特許分類】
E04F 13/02 20060101AFI20200629BHJP
【FI】
E04F13/02 E
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2016-18634(P2016-18634)
(22)【出願日】2016年2月3日
(65)【公開番号】特開2017-137673(P2017-137673A)
(43)【公開日】2017年8月10日
【審査請求日】2017年12月1日
【審判番号】不服2019-9306(P2019-9306/J1)
【審判請求日】2019年7月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000180302
【氏名又は名称】四国化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001704
【氏名又は名称】特許業務法人山内特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒井 隆志
【合議体】
【審判長】
秋田 将行
【審判官】
森次 顕
【審判官】
土屋 真理子
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭60−175657(JP,A)
【文献】
特開2005−246319(JP,A)
【文献】
特開2011−38373(JP,A)
【文献】
特開2013−117152(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04F 13/02-13/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属パネルと支柱とを含む壁構成部材を隣接して配置し前記金属パネルを前記支柱に連結したパネル塀において、
前記壁構成部材の外表面に下地調整材を塗布して下地調整材層を形成する下地調整材塗布工程と、
前記下地調整材が未硬化の間に、前記金属パネルと前記支柱の間の目地においてビニロン繊維を交差させて網状に仕上げたメッシュシートを押さえ付けて下地調整材層の内部にもぐり込ませるメッシュシート伏せ込み工程と、
前記下地調整材層が硬化した後に、前記下地調整材層の上面に上塗材を塗布する上塗材塗布工程とを、その順に実行するものであり、
前記下地調整材が、エポキシ樹脂とシリコーン樹脂を含有する樹脂組成物である
ことを特徴とするパネル塀の製造方法。
【請求項2】
金属パネルと支柱とを含む壁構成部材を隣接して配置し前記金属パネルを前記支柱に連結したパネル塀において、
前記壁構成部材の外表面に形成された下地調整材層と、前記金属パネルと前記支柱の間の目地において前記下地調整材層の内部にもぐり込むように伏せ込まれたビニロン繊維を交差させて網状に仕上げたメッシュシートと、前記下地調整材層の表面に形成された上塗材層とを備えるパネル塀であって、
前記下地調整材層が、エポキシ樹脂とシリコーン樹脂を含有する下地調整材を塗布して形成されたものである
ことを特徴とするパネル塀。
【請求項3】
前記下地調整材が、エポキシ樹脂が20〜40重量%とシリコーン樹脂が80〜60重量%の割合で混合した樹脂組成物である
ことを特徴とする請求項2記載のパネル塀。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、
パネル塀の製造方法および
パネル塀に関する。さらに詳しくは、建築物を構成する壁や、その外周りの塀を含む
パネル塀の製造方法および
パネル塀に関する。
【背景技術】
【0002】
石膏ボードやアルミニウム複合板を用いて構成される壁状構造物においては、エポキシ樹脂等の合成樹脂系や石膏系の塗材(下塗材や上塗材)が塗装に使用されている。ところが、これらの塗材は、弾力性に劣るため、振動等の外力によりヒビ割れ(クラック)が発生しやすかった。そこで、このようなクラックの発生を防止する技術として、特許文献1や特許文献2が提案されている。
【0003】
特許文献1では、石膏ボードを用いて構成される壁状構造物の全面に下塗材を塗装し、この下塗材に網状シートを伏せ込むことにより、クラックの発生防止が図られている。しかしながら、壁状構造物の全面に網状シートを伏せ込むためには、下塗材が硬化する前に、伏せ込みを完了させなくてはならず、短時間で多くの工数を要することになって、作業の困難性が高かった。
【0004】
特許文献2では、アルミニウム複合板を用いて構成される壁状構造物の目地部分にアルミテープを貼付したうえで塗装しており、貼付したアルミテープによりクラックの発生防止が図られている。しかしながら、アルミテープとアルミニウム複合板の間に空気が入ってしまうと、塗材乾燥後にアルミテープが剥離してしまい、クラック等が発生してしまう。
そのため、アルミテープとアルミニウム複合板との間に空気が入らないように、正確にアルミテープを貼付しようとすると、正確な作業が求められ、作業の難易度が高くなっていた。
【0005】
以上のように、これらの壁状構造物のクラック防止には、更なる改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011−140862号公報
【特許文献2】特開2013−117152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑み、
パネル塀に塗布された塗膜層のヒビ割れが生じにくく、かつ塗付作業が容易となる
パネル塀の製造方法およびそれにより得られた
パネル塀を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1発明のパネル塀の製造方法は、金属パネルと支柱とを含む壁構成部材を隣接して配置し前記金属パネルを前記支柱に連結したパネル塀において、前記壁構成部材の外表面に下地調整材を塗布して下地調整材層を形成する下地調整材塗布工程と、前記下地調整材が未硬化の間に、前記金属パネルと前記支柱の間の目地に
おいてビニロン繊維を交差させて網状に仕上げたメッシュシートを
押さえ付けて下地調整材層の内部にもぐり込ませるメッシュシート伏せ込み工程と、前記下地調整材層が硬化した後に、前記下地調整材層の上面に上塗材を塗布する上塗材塗布工程とを、その順に実行するものであり、前記下地調整材が、エポキシ樹脂とシリコーン樹脂を含有する樹脂組成物であることを特徴とする。
第2発明のパネル塀は、金属パネルと支柱とを含む壁構成部材を隣接して配置し前記金属パネルを前記支柱に連結したパネル塀において、前記壁構成部材の外表面に形成された下地調整材層と、前記金属パネルと前記支柱の間の目地において前記下地調整材層
の内部にもぐり込むように伏せ込まれたビニロン繊維を交差させて網状に仕上げたメッシュシートと、前記下地調整材層の表面に形成された上塗材層とを備えるパネル塀であって、前記下地調整材層が、エポキシ樹脂とシリコーン樹脂を含有する下地調整材を塗布して形成されたものであることを特徴とする。
第3発明のパネル塀は、第2発明において、前記下地調整材が、エポキシ樹脂が20〜40重量%とシリコーン樹脂が80〜60重量%の割合で混合した樹脂組成物であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
第1発明によれば、つぎの効果を奏する。
a)下地調整材がシリコーン樹脂を含有し弾力性を有するので、施工後の下地調整材層も弾力を有することとなり、外部から振動が加わってもヒビ割れ等が生じにくくなる。また、下地調整材が硬化するとメッシュシートが補強材として働いて、下地調整材層の強度を高くすることができ、振動による目地の開きに強い抵抗を与えるので、ヒビ割れ等が生じにくいパネル塀が得られる。
b)メッシュシートがビニロン繊維を用いているので強靭であり振動による目地の開きに強い抵抗を与える。
c)
下地調整材層に伏せ込まれたメッシュシートのメッシュの目を介してパネル塀の表面に下地調整材が直接接合するので、塗膜層(下地調整材層および上塗材層)の剥離等が生じにくい。
第2発明によれば、つぎの効果を奏する。
a)下地調整材が弾力性を有するシリコーン樹脂を含有するので、施工後の下地調整材層もそれ自体が弾力を有することと、下地調整材が硬化するとメッシュシートが補強材として働いて、下地調整材層の強度を高くすることができ、振動による目地の開きに抵抗を与えて、外部から振動が加わってもヒビ割れ等が生じにくくなる。
b)メッシュシートがビニロン繊維を用いているので強靭であり振動による目地の開きに強い抵抗を与える。
c)
下地調整材層に伏せ込まれたメッシュシートのメッシュの目を介してパネル塀の表面に下地調整材が直接接合するので、塗膜層(下地調整材層および上塗材層)の剥離等が生じにくい。
第3発明によれば、エポキシ樹脂とシリコーン樹脂の配合割合が弾力性を充分に持たせる配合割合となっているので、壁状構造物の塗面のヒビ割れ等を効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る
パネル塀およびその製造方法の説明図である。
【
図2】本発明に係る
パネル塀の製造方法の説明図である
。
【
図3】金属パネルの説明図であって、(A)は正面図、(B)は平面図、(C)は側面図である。
【
図4】金属パネルを用いた
パネル塀の説明図であって、(1)は立設工程、(2)は下地調整材塗布工程、(3)は上塗材塗布工程を示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
つぎに、本発明の実施形態を図面に基づき説明する。
本明細書において、「壁状構造物」とは、壁構成部材であるアルミニウム板等を用いた金属パネル製の構造物(たとえば、パネル塀)を含む概念である。また、「壁状」とは、建築物自体を構成する壁の外、建築物の外周りに設置される塀も含む概念である。
【0012】
まず、本発明で用いる壁構成部材である金属パネルの基本構造を図
3に基づき説明する。
図示の金属パネル1は、四角形の枠体11と、その表裏両面に貼付した2枚の外板12とからなる。
枠体11は左右の縦桟11aと上下の横桟11bを個別に製作した後で互いに結合したものでもよく、初めから一体に製作したものでもよい。枠体11の大きさに併せて、補強用の桟13を用いることは任意である。
外板12は、枠体11の縦横寸法と同じ板材であり、枠体11への取付けは、ビス止めや溶接など任意の手段をとりうる。
枠体11の左右の縦桟11aには、支柱に結合するための連結部14が形成されている。
本発明が適用される金属パネルは、概ねこのような基本構成をもつが、これに限定されるものではない。
【0013】
上記金属パネル1の構成素材には、とくに制限がなく、金属や合成樹脂などを利用できる。金属には、アルミニウム、鉄、銅、マグネシウムなどが利用可能であり、合成樹脂には、ポリエチレン、ポリプロピレンなどが利用可能である。
金属パネル1の材料として、地震等による耐倒壊性を高めるためには、軽量素材を用いるのが好ましく、強度と軽量性を共に満足するためには、軽金属、とくにアルミニウムが好ましい。枠体11はアルミニウムの押出形材であると、製造が容易であり、任意の断面形状が可能であって、かつ連結部14も同時に成形できる。
外板12は、アルミニウム板、もしくはアルミニウム複合板(例えば、アルミニウム板に合成樹脂層を積層したものや、2枚のアルミニウム板の間に合成樹脂層を設けたもの等)が好適である。なお、アルミニウム材料は、軽量性と耐腐食性を兼ね備えている。
また、支柱20も金属パネルと同様の種々の材料を用いることができるが、強度と軽量性を共に満足するには軽金属、とくにアルミニウムの押出形材が好ましい。
【0014】
つぎに、上記の金属パネルを用いて構築した壁状構造物であるパネル塀の一例を図
4に基づき説明する。
(1)図に示すように、地中に基礎60を構築して、支柱20を必要本数だけ立設する。
2本の支柱20、20の間に、金属パネル1を適数枚挿入し、各金属パネルを支柱20、20に連結する。この連結方法は連結部14をビス止めすることにより行われる。
【0015】
(2)図に示すように、連結された各金属パネル1、1および支柱20の表面に下地調整材3を塗布する。この下地調整材3は、次工程で行う上塗材が確実に付着し、剥落等が生じないようにするため行われる。ついで、支柱20と各金属パネル1間の目地処理が行われる。
【0016】
(3)図に示すように、下地調整材層3Aの表面に上塗材4を塗布する。上塗材4の代表的なものは、バインダーとしての合成樹脂と砂とパルプを主成分とするものなどが用いられ、鏝塗り作業やローラー塗布等の手法で塗布される。なお、完成したパネル塀に後付け型の郵便ポストを取付けたり、更にはデザイン仕上げを目的とした表面塗装を行ってもよい。
【0017】
(第1実施形態に係る
パネル塀およびその製造方法)
第1実施形態に係る
パネル塀は上記した金属パネル1を用いたものであって、その製造方法は、下地調整材塗布工程と、メッシュシート伏せ込み工程と、上塗材塗布工程とをその順に実行するものである。以下、
図1および
図2を併せ参照しながら、順に説明する。
【0018】
(下地調整材塗布工程)
まず、
図1に示すように、各金属パネル1、1および支柱20の表面に下地調整材3(未硬化の状態の塗材をいう。以下同じ)を塗布して下地調整材層3A(塗材が硬化して層状の形で固化したものをいう。以下同じ)を形成する下地調整材塗布工程が実行される。この作業は、
図2(I)に示すように、鏝塗り作業やローラー塗布によって実施される。
下地調整材層3Aは、メッシュシートの伏せ込みが可能となる程度の厚み(0.2mm程度)で塗布されている。
【0019】
本発明の製造方法に用いる下地調整材3は、エポキシ樹脂とシリコーン樹脂を含有する樹脂組成物である。エポキシ樹脂とシリコーン樹脂の配合割合は、エポキシ樹脂が25〜41重量%とシリコーン樹脂が75〜59重量%が好ましく、さらに好ましい配合割合は、エポキシ樹脂が30〜34重量%とシリコーン樹脂が70〜66重量%であり、最も好ましい配合割合は、エポキシ樹脂が33重量%とシリコーン樹脂が67重量%である。
【0020】
本発明の下地調整材3はエポキシ樹脂とシリコーン樹脂の配合割合が弾力性を充分に持たせる配合割合となっているので、硬化後、強靭なゴム状弾性体となり被着材の膨張・収縮の応力を緩和する。この性質によって、外的な振動や衝撃を吸収することができるという特徴がある。そのため、この下地調整材3を用いると支柱20および金属パネル1、1の塗面のヒビ割れ等を効果的に防止できる。
【0021】
(メッシュシート伏せ込み工程)
前記下地調整材3が未硬化であって固化した下地調整材層3Aとなるまでの間に、金属パネル1、1同士の間の目地および金属パネル1と支柱20の間の目地にメッシュシートを伏せ込むメッシュシート伏せ込み工程が実行される。伏せ込みは、
図2の(II)〜(III)に示すように未硬化の下地調整材3の上
にメッシュシート2を置き、鏝またはローラーで上から押さえ付けてメッシュシート2を下地調整材層3Aの内部にもぐり込ませることにより行う。
【0022】
メッシュシート2は、ビニロン繊維を交差させて網状に仕上げたものであり、ビニロン繊維は引張抗力が高いのでメッシュシート2も丈夫である。
メッシュシート2は、通常は厚さが0.10mm〜0.16mm、好ましくは0.12mm〜0.14mm、最も好ましくは0.13mmのものが用いられ、また幅は40mm〜80mm、好ましくは50mm〜70mm、最も好ましくは60mmのものが用いられる。
【0023】
メッシュシート2のマス目の大きさは、1mm×1mm〜5mm×5mm、好ましくは2mm×2mm〜4mm×4mm、最も好ましくは3mm×3mmであり、この範囲の網目であると、メッシュシート2自体の強度も確保でき、下地調整材層3Aをからめて、その補強効果を高めることができる。
そして、下地調整材3が硬化するとメッシュシート2が補強材として働いて、下地調整材層3Aの強度を高くすることができる。
【0024】
(上塗材塗布工程)
ついで、
図1に示すように、硬化した下地調整材層3Aの表面に上塗材4(未硬化の状態の塗材をいう。以下同じ)を塗布して上塗材層4A(塗材が硬化して層状の形で固化したものをいう。以下同じ)を形成する上塗材塗布工程を実行する。この作業も、
図2(IV)に示すように、鏝塗り作業またはローラー塗布作業によって実施される。
【0025】
上塗材4としては、公知のものの中から任意に選して用いることができるが、代表的なものには、バインダーとしての合成樹脂と砂とパルプを主成分とするものがある。この上塗材は砂とパルプを含むことから自然の風合いと嵩高感を有する点に特徴がある。さらに、完成し
たパネル塀
に後付け型の郵便ポストを取付けたり、更にはデザイン仕上げを目的とした表面塗装を行ってもよい。
【0026】
上記各工程を実行することによって、第1実施形態の
パネル塀が完成する
。
【0034】
上記した本発明に係る
パネル塀の製造方法は、つぎの効果を奏する。
下地調整材がシリコーン樹脂を含有し弾力性を有するので、施工後の下地調整材層も弾力を有することとなり、外部から振動が加わってもヒビ割れ等が生じにくくなる。また、メッシュシートの伏せ込みは目地部分だけでよいので、全面にメッシュシートを伏せ込む従来例に比べ作業は容易となる。
【0035】
(
パネル塀)
上記各製造方法により、つぎの構成の
パネル塀が得られる。
図
1に示す
パネル塀は、隣接して配置された壁構成部材(金属パネル、支柱等)により構成されている。かかる
パネル塀は、その表面に形成された下地調整材層3Aと、下地調整材層3A内に伏せ込まれたメッシュシート2と、下地調整材層3Aの上面に形成された上塗材層4Aとを備えており、下地調整材層3Aが、エポキシ樹脂とシリコーン樹脂を含有する下地調整材3を塗布して形成されたものである。
【0036】
上記
パネル塀において、下地調整材3は、弾力性を有するシリコーン樹脂を含有するので、施工後の
パネル塀における下地調整材層3Aもそれ自体が弾力を有することとなり、外部から振動が加わってもヒビ割れ等が生じにくくなる。
また、この下地調整材3は、アルミニウム等の金属表面への付着性が高く、かつ上塗材が確実に付着し、剥落等が生じない等の利点もある。
さらに、メッシュシート2がビニロン繊維を用いているので強靭であり、振動による目地の開きに強い抵抗を与える。さらに、メッシュシート2の目を介して壁構成部材の表面に下地調整材3が直接接合するので、塗膜層の剥離等が生じにくいという利点もある。
【符号の説明】
【0037】
1 金属パネル
2 メッシュシート
3 下地調整材
4 上塗材
5 石膏ボード
3A 下地調整材層
4A 上塗材層