(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記セメント混和材及び前記セメントの総量に対して、前記セメント混和材の割合が5〜55質量%、前記セメントの割合が45〜95質量%であることを特徴とする請求項3に記載のセメント組成物。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のセメント混和材は、製鋼スラグから製造される。具体的には、本発明のセメント混和材は、所定の組成を有する溶融状態の製鋼スラグを冷却固化する工程と、冷却固化した製鋼スラグを粉砕、選鉱及び分級し、粒状分を分離する工程と、粒状分を比表面積が所定の範囲となるように粉砕する工程とを含む方法によって製造されたスラグ微粉末からなる。
【0011】
ここで、本明細書において「セメント混和材」とは、セメントペースト、モルタル、コンクリートなどの、セメントを含む組成物(セメント組成物)に用いられる混和材を意味する。
また、本明細書において「製鋼スラグ」とは、製鋼プロセスで生じるスラグのことを意味する。例えば、ステンレス鋼の製鋼プロセスでは、ステンレス鋼を溶製する際に発生するスラグを指す。このスラグには、電気炉で原料を溶解してステンレス鋼の溶銑を生成する溶解工程で生成した溶製スラグと、生成した溶銑から含有される硫黄を除去する脱硫処理工程で生成した脱硫スラグと、脱硫処理後の溶銑に対して転炉及び真空脱ガス処理装置で溶銑に含有される炭素を除去する精錬工程で生成した精錬スラグとが含まれる。また、このスラグには、原料内の不純物、製鋼プロセスにおける生成物、有用金属の地金も含まれる。
【0012】
なお、上記のステンレス鋼の製鋼プロセスでは、溶銑の脱硫処理方法として、機械駆動される攪拌翼で溶銑を攪拌しつつ脱硫剤を添加することにより、溶銑に含有される硫黄をスラグ化して除去するKR法を用いることができる。KR法では、攪拌することによって溶銑と脱硫剤との脱硫反応が促進されるため、CaO(生石灰、酸化カルシウム)を主成分とした脱硫剤を用いることができる。そのため、脱硫反応を促進するために有用であるとして公知のCaF
2(蛍石、フッ化カルシウム)を用いなくてもよい。
【0013】
製鋼スラグは、F、CaO、SiO
2、Al
2O
3及びMgOを含む。
製鋼スラグにおけるFの含有量は、土壌環境基準に規定される水に対するFの溶出量の基準を満足するため、2.0質量%未満、好ましくは0質量%超過1.5質量%以下、より好ましくは0質量%超過0.4質量%以下とする必要がある。本発明では、脱硫処理に蛍石を使用しなくてもよいため、製鋼スラグにおけるFの含有量を低減することができる。したがって、製鋼スラグから製造されるスラグ微粉末におけるFの含有量も低減することができ、スラグ微粉末からなるコンクリート混和材が使用される各種用途においても土壌環境基準を満たすことが可能となる。
【0014】
CaOは、脱硫剤の主成分であり且つ脱硫反応に必須の成分である。したがって、製鋼スラグにおけるCaOの含有量は、33質量%以上、好ましくは35質量%以上、より好ましくは40質量%以上とする必要がある。一方、製鋼スラグにおけるCaOの含有量が過剰になると、塩基度(CaO/SiO
2)が高くなり過ぎてスラグの流動性が低下し、脱硫反応が促進されなくなる。したがって、製鋼スラグにおけるCaOの含有量は、53質量%以下、好ましくは50質量%以下とする必要がある。
【0015】
SiO
2は、ステンレス鋼の原料から発生し、或いは還元剤による脱酸反応生成物としても発生する。製鋼スラグにおけるSiO
2の含有量は、ステンレス鋼の溶銑の脱硫処理を効率的に実施する観点から、20質量%〜35質量%、好ましくは25質量%〜30質量%とする必要がある。SiO
2の含有量が20質量%未満であると、脱硫処理時の塩基度が高くなり過ぎてしまい、脱硫反応を促進させることができない。一方、SiO
2の含有量が35質量%を超えると、脱硫処理時の塩基度が低くなり過ぎてしまい、十分な脱硫反応が得られない。
【0016】
Al
2O
3は、製鋼スラグの流動性を確保するために必須の成分である。また、Al
2O
3は、製鋼に使用する各鍋の耐火煉瓦、ステンレス鋼の原料からも混入する。製鋼スラグにおけるAl
2O
3の含有量は、製鋼スラグの流動性を確保する観点から、3質量%〜16質量%、好ましくは5質量%〜10質量%とする必要がある。Al
2O
3の含有量が3質量%未満又は16質量%超過であると、製鋼スラグの融点が上昇し、製鋼スラグの流動性が低下する。
【0017】
MgOは、製鋼スラグの流動性を確保するための一つの成分である。MgOは、溶解炉の内壁に用いられる耐火物が損耗してスラグ中に溶解してくる成分であるため、意図的に添加しなくてもよい。通常、一般的な品質の低コストの耐火物を使用していれば、製鋼スラグにおけるMgOの含有量は、5質量%〜10質量%、好ましくは7質量%〜9質量%となる。MgOの含有量を5質量%未満に制御しようとすると、損耗の少ない高コストの耐火物の使用や補修管理が必要となってしまう。一方、MgOの含有量が10質量%を超えると、スラグの流動性が低下し、精錬機能の低下を引き起す。
【0018】
製鋼スラグは、上記成分の他に、Fe
2O
3、MnO、Cr
2O
3などの成分をさらに含むことができる。これらの成分の製鋼スラグにおける含有量は、特に限定されない。
製鋼スラグの塩基度(CaO/SiO
2)は、溶銑の脱硫反応に大きな影響を及ぼす。特に、脱硫処理方法を機械攪拌式のKR法とし、スラグの流動性を向上させるために用いられてきた蛍石を使用しない場合には、製鋼スラグの塩基度を調節して製鋼スラグの流動性を確保しなければならない。そのため、製鋼スラグの塩基度は、1.0〜2.1、好ましくは1.3〜1.6とする必要がある。製鋼スラグの塩基度が1.0未満であると、脱硫処理時に製鋼スラグに含まれるCaOと溶銑に含まれるSとの間で十分な脱硫反応が起こらない。一方、製鋼スラグの塩基度が2.1を超えると、脱硫処理時に製鋼スラグの流動性が低くなり、溶銑と製鋼スラグとの接触界面が減少して脱硫反応を促進させることができない。
【0019】
製鋼スラグの組成は、原料の配合比、及びスラグとステンレス鋼との間の元素分配比についての経験則に基づき、溶製する鋼種ごとにスラグ発生源の原料の種類及び配合比を調節することによって、組成及び塩基度を制御することができる。
【0020】
溶融状態の製鋼スラグを冷却固化する方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。例えば、溶融状態の製鋼スラグは、スラグ鍋に入れられ、大気中での自然冷却による空冷と、スラグ鍋に散水して冷却する散水冷却とを組み合わせた冷却方法により、24時間以上かけて冷却される。この製鋼スラグの冷却過程において、製鋼スラグがスラグ鍋へ投入され、固化が開始する約1100℃からγ−2CaO・SiOなどの結晶構造の変化(すなわち、相変態)がほぼ終了する約700℃に温度が低下するまでの間(すなわち、約1100℃〜約700℃の間)、1.0℃/分以下の速度で降温するように徐冷することが好ましい。製鋼スラグの温度が約700℃以上の時に、例えば、散水量を増加させる又は製鋼スラグに直接散水するなどすることにより、1.0℃/分を超える速度で製鋼スラグを降温させると、冷却固化後に内部の密度が低く脆いスラグが得られることがある。なお、次の破砕処理において十分な破砕を行うことができるように製鋼スラグを十分に冷却固化させるためには、外気温に応じて28〜30時間にわたって或いはそれよりも長時間にわたって製鋼スラグを冷却することが好ましい。
【0021】
上記のような冷却速度で製鋼スラグを冷却固化させると、製鋼スラグに含まれ且つ水和反応を起こすことが可能なフリーライム(f−CaO)、フリーマグネシア(f−MgO)、γ−2CaO・SiOなどを含む軟質な部分と、密度が高く硬質な鉱物相(SiO
2、Al
2O
3などから形成される)とが、互いに分離した異なる相が形成される。そして、冷却過程において、γ−2CaO・SiOなどを含む軟質な部分は、γ−2CaO・SiOなどの結晶構造の変化による体積膨張によって粉化する。また、冷却固化した製鋼スラグが後述する湿式での破砕処理を受けると、硬質な鉱物相の間の軟質な部分が細かく砕けることにより、硬質な鉱物相の多くが互いに分離して塊状になり、さらにこの塊状の鉱物相が破砕されると粒状になる。したがって、粉砕処理では、軟質な部分が主に粉化し、硬質な鉱物相は粉化し難いため、後述する分級処理によって軟質な部分から、γ−2CaO・SiOなどを含まない硬質な鉱物相(粒状分)を分離、回収することができる。
【0022】
冷却固化した製鋼スラグを粉砕する方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。例えば、冷却固化した製鋼スラグをジョークラッシャー破砕処理した後、ロッドミル破砕処理すればよい。
ジョークラッシャー破砕処理では、製鋼スラグは、気中にある状態で、ジョークラッシャーにおける固定歯と固定歯に対して接近及び離脱するように可動な可動歯との間に挟まれて押圧されることによって圧縮破砕される。製鋼スラグは、この処理によって、大まかに乾式破砕される。このとき、製鋼スラグでは、硬質な鉱物相の間にある軟質な部分が崩壊することにより、硬質な鉱物相が多数の塊状に分離する。
【0023】
ロッドミル破砕処理では、製鋼スラグは、内部に水を含むロッドミル内に投入されて水中に浸漬された状態となり、ロッドミルを回転させることにより、さらに細かく湿式破砕される。この湿式破砕の過程では、製鋼スラグに含まれる軟質な部分は、水和反応してさらに脆くなり、微小粉状に粉砕されて水中に懸濁する。このようにして微小粉状に破砕された軟質な部分を以下では「微小粉状分」という。他方、塊状の硬質な鉱物相は、ロッドミル内で粒状に破砕される。このようにして粒状に破砕された硬質な鉱物相を以下では「粒状分」という。
【0024】
また、上記の破砕処理により、製鋼スラグに含まれる地金が、軟質な部分と共に粒状分から分離される。このとき、製鋼スラグが冷却によって十分に固化していれば、破砕処理時に地金の分離が容易になる。
【0025】
粉砕処理を行った製鋼スラグを選鉱する方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。例えば、粉砕処理を行った製鋼スラグを比重選鉱処理及び磁力選鉱処理すればよい。比重選鉱処理では、製鋼スラグを処理水中に投入し、比重選別機によって鉱物の比重の違いを利用した選別を行うことができる。比重選鉱処理により、高比重であるとして選別された製鋼スラグについては、続いて磁力選鉱処理が行われる。一方、低比重であるとして選別された製鋼スラグについては、続いて分級処理が行われる。分級処理としては、特に限定されないが、篩い分級処理を用いることができる。
【0026】
磁力選鉱処理では、地金を含む高比重の製鋼スラグに対して、磁選機によって地金を分離・回収することができる。
篩い分級処理では、比重選別機から取り出されて処理水中に含まれた状態の低比重の製鋼スラグが、振動篩い機の振動するスクリーン(篩い)上に供給され、そのうちのスクリーンの目開きの大きさ(例えば、5mm)以下のものが選別される。スクリーンを通過しなかった粒径5mmを超える製鋼スラグについては、処理水と共にロッドミル破砕処理32に再び戻され、湿式破砕処理が行われる。
【0027】
スクリーンを通過した粒径5mm以下の製鋼スラグは、粒状分、微小粉状分及び処理水が混在したサンドスライム状態であり、エーキンス分級処理を行うことにより、粒状分を分離することができる。つまり、処理水に含まれた状態の製鋼スラグは、処理水と共にスパイラル型分級機であるエーキンス分級機に送られて分級されることにより、特定の粒径(0.15mm程度)以上の粒状分が水中に懸濁する微小粉状分から分離される。これにより、0.15mm以上5mm以下の粒径を有する粒状分が選別される。
【0028】
なお、粒状分が除去された後の製鋼スラグは、微小粉状分及び処理水が混在したスライム状態であり、シックナー・脱水処理を行うことにより、微小粉状分を処理水から分離することができる。この処理では、処理水に含まれた状態の製鋼スラグが、処理水と共にシックナーに送られて分級され、微小粉状分がスライムから分離される。さらに、水分を含んだ状態で分離された微小粉状分は、脱水処理が行われ、脱水ケーキ状で回収することができる。
【0029】
粒状分を粉砕する方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の方法を用いることができる。例えば、微粉砕が可能な竪型ローラーミルを用いて粉砕すればよい。また、粒状分の粉砕は、竪型ローラーミルに熱風を吹き込むことにより、粒状分を乾燥させながら行うことが好ましい。このようにして粉砕することにより、得られるスラグ微粉末の水分量が少なくなり、各種用途の原料として用いた場合に造粒性を飛躍的に向上させることができる。
粒状分の粉砕は、セメント混和材としての使用を考慮し、比表面積が4800cm
2/g〜8000cm
2/g、好ましくは4800cm
2/g〜5800cm
2/gとなるまで行う。比表面積が4800cm
2/g未満であると、セメント硬化体の緻密化が不十分となり、中性化抑制効果が十分に得られない。一方、比表面積が8000cm
2/gを超えると、粉砕コストが著しく上昇してしまう。
【0030】
上記のようにして製造されるスラグ微粉末は、原料に用いた製鋼スラグとほぼ同じ組成及び塩基度を有する。すなわち、スラグ微粉末は、2.0質量%未満のF、33〜53質量%のCaO、20〜35質量%のSiO
2、3〜16質量%のAl
2O
3及び5〜10質量%のMgOを含み、塩基度(CaO/SiO
2)が1.0〜2.1である。
また、スラグ微粉末は、微小粉状分から分離させた粒状分から形成されているため、γ−2CaO・SiO
2を含まない。ここで、本明細書において「γ−2CaO・SiO
2を含まない」とは、γ−2CaO・SiO
2が全く含まれないことを意味するわけではなく、不純物として混入する程度のγ−2CaO・SiO
2が含まれていてもよいことを意味する。
本発明のセメント混和材は、スラグ微粉末からなるため、粒状スラグの再資源化を高めることができ、しかも優れた中性化抑制効果を有する。
【0031】
本発明のセメント混和材は、セメントに添加して用いられる。すなわち、本発明のセメント混和材は、セメント組成物に用いることができる。
セメント組成物は、セメント混和材とセメントと水とを一般に含む。
セメントとしては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。セメントの例としては、普通、早強、超早強、低熱、中庸熱などの各種ポルトランドセメント、混合セメント、エコセメントなどを用いることができる。
【0032】
セメント混和材及びセメントの総量に対するセメント混和材の割合は、特に限定されないが、一般的には5質量%〜55質量%、好ましくは25質量%〜40質量%である。
また、セメント混和材及びセメントの総量に対するセメントの割合は、特に限定されないが、一般的には45質量%〜95質量%、好ましくは60質量%〜75質量%である。
セメント混和材の割合が5質量%未満及びセメントの割合が95質量%超過であると、セメント混和材の量が少なすぎてしまい、セメント混和材による効果が十分に得られないことがある。一方、セメント混和材の割合が55質量%超過及びセメントの割合が45質量%未満であると、セメント組成物から得られるセメント硬化体の強度が十分に確保されないことがある。
【0033】
セメント混和材及びセメントの総量に対する水の割合は、セメント組成物の種類に応じて適宜設定すればよく、特に限定されない。例えば、水の割合は一般に25質量%〜65質量%である。特に、耐久性に優れたセメント硬化体を与えるセメント組成物を得る観点からは、セメント混和材及びセメントの総量に対する水の割合を25質量%〜55質量%とすることが好ましい。この水の割合が25質量%未満になると、水和熱が高くなり、乾燥収縮ひずみが大きくなって経済性も低下し易い。一方、この水の割合が65質量%を超えると、ブリーディング量が多くなり、コンクリート混和材による効果が十分に得られないことがある。
【0034】
セメント組成物は、強度を向上させる観点から、細骨材及び粗骨材の少なくとも1種をさらに含むことができる。細骨材及び粗骨材としては、特に限定されず、当該技術分野において公知のものを用いることができる。細骨材の例としては、川砂、山砂、海砂、天然軽量細骨材(例えば、パーライト、ヒル石)などの天然細骨材、砕砂、人工軽量細骨材、高炉スラグ細骨材などの人工細骨材、副産軽量細骨材などが挙げられる。粗骨材の例としては、砕石、川砂利、天然軽量粗骨材(例えば、パーライト、ヒル石)、副産軽量粗骨材、人工軽量粗骨材、再生骨材などが挙げられる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0035】
セメント組成物における細骨材の配合量は、特に限定されないが、セメント100質量部に対して、好ましくは100質量部〜500質量部である。
細骨材の配合量が100質量部未満であると、細骨材を配合することによる効果が十分に得られないことがある。また、水和熱が高くなり、乾燥収縮ひずみが大きくなって経済性が低下することもある。一方、細骨材の配合量が500質量部を超えると、セメント組成物から得られるセメント硬化体の強度が低下することがある。
セメント組成物における粗骨材の配合量は、特に限定されず、細骨材の使用量に応じて適宜設定すればよい。
【0036】
また、細骨材の少なくとも一部として、製鋼スラグ由来の粗粒スラグを用いてもよい。特に、本発明のセメント混和材(スラグ微粉末)を製造する際に途中で得られる粒状スラグ(粒状分)を細骨材の少なくとも一部として用いることにより、製鋼スラグから得られる粗粒スラグの再資源化をより一層高めることが可能になる。また、この粗粒スラグは、セメント混和材と同じ組成及び塩基度を有する(すなわち、2.0質量%未満のF、33〜53質量%のCaO、20〜35質量%のSiO
2、3〜16質量%のAl
2O
3及び5〜10質量%のMgOを含み、塩基度(CaO/SiO
2)が1.0〜2.1である)ため、セメント混和材との相性も良好である。
【0037】
セメント組成物における粗粒スラグの配合量は、特に限定されないが、セメント混和材及びセメントの総量100質量部に対して、好ましくは30質量部〜80質量部、より好ましくは30質量部〜60質量部である。粗粒スラグの配合量が30質量部未満であると、単位水量が増大したり、ブリーディング量が多くなったりすることがある。一方、粗粒スラグの配合量が80質量部を超えると、セメント混和材による効果が低下することがある。
【0038】
セメント組成物は、上記の成分の他に、本発明の効果を阻害しない範囲において、公知の添加材をさらに含むことができる。公知の添加材の例としては、粗骨材、減水剤、消泡剤、増粘剤、防錆剤、低収縮剤、膨張材、分散剤などが挙げられる。また、凍結の恐れがある場所でセメント組成物を用いる場合は、市販のAE剤をセメント組成物に配合して空気量を調整してもよい。
【0039】
セメント組成物は、当該技術分野において公知の方法に準じて製造することができる。具体的には、セメントにセメント混和材を加え、これに水及び細骨材を加えて混合すればよい。混合方法としては、特に限定されず、当該技術分野において公知の混合装置を用いて混合すればよい。
【0040】
セメント組成物は、当該技術分野において公知の方法によって硬化させることにより、セメント硬化体となる。このセメント硬化体は、優れた中性化抑制効果を与えるセメント混和材を用いたセメント組成物から形成されているため、優れた中性化抑制効果を有する。これにより、鉄筋の腐食によるセメント硬化体のひび割れ、剥離などを軽減することができるため、鉄筋に対するセメント硬化体のかぶり厚さを薄くすることが可能になる。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、これらによって本発明が限定されるものではない。
(実施例1:セメント混和材)
ステンレス鋼の製鋼プロセスにおいて、CaOを主成分とした脱硫剤を用いたKR法により、溶銑の脱硫処理を行った。この製鋼プロセスにおいて発生した溶融状態の製鋼スラグをスラグ鍋に収集した。溶融状態の製鋼スラグは、1.1質量%のF、38.7質量%のCaO、25.8質量%のSiO
2、8.7質量%のAl
2O
3及び9.4質量%%のMgO、3.4質量%のFe
2O
3、2.3質量%のMnO、3.3質量%のCr
2O
3を含み、塩基度(CaO/SiO
2)が1.5であった。次に、スラグ鍋に入れられた溶融状態の製鋼スラグを、大気中での自然冷却による空冷と、スラグ鍋に散水して冷却する散水冷却とを組み合わせた冷却方法により、約1100℃〜約700℃の間を0.8℃/分以下の速度で7.8時間かけて冷却した。
【0042】
次に、冷却固化した製鋼スラグをジョークラッシャー破砕処理した後、ロッドミル破砕処理した。次に、粉砕処理を行った製鋼スラグを比重選鉱処理した後、高比重であるとして選別された製鋼スラグについては、磁力選鉱処理を行って地金を分離・回収すると共に、低比重であるとして選別された製鋼スラグについては、目開きの大きさが5mmのスクリーンを用いて篩い分級処理を行った。次に、スクリーンを通過した粒径5mm以下の製鋼スラグをエーキンス分級処理して0.15mm以上5mm以下の粒径を有する粒状分を選別した。なお、粒状分が除去された後の製鋼スラグは、シックナー・脱水処理を行うことにより、微小粉状分を脱水ケーキ状で回収した。次に、選別された粒状分(粗粒スラグ)を、竪型ローラーミルを用いて比表面積が4950cm
2/gとなるまで粉砕することにより、スラグ微粉末からなるセメント混和材Aを得た。また、選別された粒状分を、竪型ローラーミルを用いて比表面積が5010cm
2/gとなるまで粉砕することにより、スラグ微粉末からなるセメント混和材Bを得た。
【0043】
(実施例2:セメント組成物)
普通ポルトランドセメントに実施例1で得られたセメント混和材A又はBを加え、これに水、粗骨材及び細骨材を加えて混合することにより、サンプルNo.1及び2のセメント組成物を作製した。粗骨材としては砕石を用い、細骨材としては砕砂を用いた。また、サンプルNo.2のセメント組成物では、砕砂の一部を、実施例1のセメント混和材の製造において途中で得られた粒状分(粗粒スラグ)に代えた。各成分の配合量及び割合、水セメント比については表1に示す。
【0044】
(比較例1)
普通ポルトランドセメントに石灰石微粉末(比表面積4850cm
2/g)を加え、これに水、粗骨材及び細骨材を加えて混合することにより、サンプルNo.3のセメント組成物を作製した。粗骨材としては砕石を用い、細骨材としては砕砂を用いた。各成分の配合量及び割合、水セメント比については表1に示す。
【0045】
(比較例2)
普通ポルトランドセメントに水、粗骨材及び細骨材を加えて混合することにより、サンプルNo.4のセメント組成物を作製した。粗骨材としては砕石を用い、細骨材としては砕砂を用いた。各成分の配合量及び割合、水セメント比については表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
上記で得られたセメント組成物について、促進中性化試験、材齢28日の圧縮強度試験、及び乾燥収縮ひずみを評価した。
促進中性化試験を行った。試験方法は、JIS A1153に準じて行った。具体的には、各セメント組成物について、10cm×10cm×40cmの角柱供試体を3本ずつ作製し、材齢1日で脱型後、材齢28日(4週)まで水中養生を行い、材齢56日(8週)まで室温20℃、湿度60%の恒温高湿室にて静置した後、促進中性化試験機にて促進中性化を行った。試験機内温度は20℃±2度、湿度60℃±5%、二酸化炭素濃度は5±0.2%とした。中性化深さの測定日に供試体を切断し、その断面にフェノールフタレイン溶液を塗布した後、断面の端面から赤紫色に呈色している部分までの距離を中性化深さとして測定した。測定日は、促進中性化試験機に供試体を静置した後、1週、4週、8週、13週、26週とした。中性化深さは、1.0mm以下を合格とした。
【0048】
材齢28日の圧縮強度試験は、JIS A1108に準じて測定した。具体的には、各セメント組成物について、材齢28日まで水中養生して試験用供試体を作製し、圧縮強度測定装置によって圧縮強度を測定した。圧縮強度は、40N/mm
2以上を合格とした。
乾燥収縮ひずみは、JIS A1129に準じて測定した。乾燥収縮ひずみは、800×10
−6以下を合格とした。
上記の各評価結果を表2に示す。なお、表2では、促進中性化試験、材齢28日の圧縮強度試験、及び乾燥収縮ひずみの結果が全て合格であったものを○、促進中性化試験、材齢28日の圧縮強度試験、及び乾燥収縮ひずみのいずれかの結果が不合格であったものを×とした総合評価も示す。
【0049】
【表2】
【0050】
表2に示されているように、サンプルNo.1及び2のセメント組成物(実施例)は、サンプルNo.3及び4(比較例)のセメント組成物に比べて、中性化抑制効果に優れており、28日圧縮強度が高く、乾燥収縮ひずみも小さかった。
【0051】
以上の結果からわかるように、本発明によれば、セメント混和材としての機能に優れ特に、中性化及び自己収縮を抑制し且つ強度を高め)、粒状スラグの再資源化を高めることが可能なセメント混和材を提供することができる。また、本発明によれば、中性化及び自己収縮を抑制し且つ強度を高めることが可能なセメント組成物及びセメント硬化体を提供することができる。