(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720040
(24)【登録日】2020年6月19日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】ロールコータ
(51)【国際特許分類】
B05C 1/08 20060101AFI20200629BHJP
B05C 11/00 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
B05C1/08
B05C11/00
【請求項の数】6
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-190953(P2016-190953)
(22)【出願日】2016年9月29日
(65)【公開番号】特開2018-51482(P2018-51482A)
(43)【公開日】2018年4月5日
【審査請求日】2018年12月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】714003416
【氏名又は名称】日鉄日新製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100179914
【弁理士】
【氏名又は名称】光永 和宏
(72)【発明者】
【氏名】恒川 研吾
【審査官】
清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−149070(JP,A)
【文献】
特開平10−000403(JP,A)
【文献】
特開平07−314649(JP,A)
【文献】
特開2009−160535(JP,A)
【文献】
特開平10−272410(JP,A)
【文献】
特開平02−297443(JP,A)
【文献】
米国特許第07243600(US,B1)
【文献】
実開平01−083545(JP,U)
【文献】
特開2015−020390(JP,A)
【文献】
特開2011−050883(JP,A)
【文献】
特開2000−262957(JP,A)
【文献】
特開昭52−040618(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00−3/20
7/00−21/00
B41F 31/00−35/06
B05D 1/00−7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗料パンと、
前記塗料パンの内側に配置され、骨材が添加された塗料が内側に溜められている囲枠と、
前記囲枠の内側で外周面の一部が前記塗料に浸漬されたピックアップロールと
を備え、
前記囲枠は、前記ピックアップロールの回転により前記ピックアップロールの前記外周面が前記塗料の液面から脱出する側に配置された出側壁を有しており、
前記出側壁の下端と前記塗料パンの底面との間に流路を形成するように前記出側壁が変位可能に構成されている、
ロールコータ。
【請求項2】
前記囲枠は、前記ピックアップロールの側方に位置する一対の側壁をさらに有しており、
前記出側壁の上部は、前記一対の側壁に回動可能に支持されている
請求項1記載のロールコータ。
【請求項3】
前記ピックアップロールの回転による前記塗料の流動によって前記塗料が前記出側壁を超えて前記塗料パンに溢れ出るように、前記囲枠内への単位時間当たりの前記塗料の供給量が制御される、
請求項1又は請求項2に記載のロールコータ。
【請求項4】
前記ピックアップロールの軸方向の幅WRに対する前記軸方向についての前記囲枠の幅WSFの比率が101%以下である、
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のロールコータ。
【請求項5】
前記塗料に対する前記骨材の比重が1.15以上である、
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のロールコータ。
【請求項6】
前記囲枠は、前記ピックアップロールの側方に位置する一対の側壁を有しており、
前記出側壁は、前記側壁に対して着脱自在とされている、
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載のロールコータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗料をピックアップロールで汲み上げるロールコータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来用いられていたこの種のロールコータとしては、例えば下記の特許文献1等に示されている構成を挙げることができる。すなわち、従来のロールコータでは、塗料パンの内側に囲枠を配置し、囲枠の内側でピックアップロールの外周面の一部を塗料に浸漬している。囲枠の入側壁とピックアップロールの外周面との間に塗料を上方から供給する一方で、囲枠の出側壁が囲枠の他の壁よりも低くされ、ピックアップロールの回転により囲枠内の塗料が出側壁を超えて塗料パンに流れ出るようにしている。このように構成されることにより、囲枠の入側壁側から出側壁側に向かう塗料の流れを形成し、ピックアップロールへの泡等の付着を低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−272410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような従来のロールコータでは、囲枠の入側壁側から出側壁側に向かう塗料の流れを形成し、ピックアップロールに泡等の付着を低減している。しかしながら、例えばAl粉末や雲母等の骨材が塗料に添加されているとき、囲枠の出側壁の下部に骨材が滞留することがある。この滞留した骨材が巻き上がりピックアップロールに付着すると、塗膜欠陥の原因となる。
【0005】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、塗料に添加された骨材が滞留する可能性を低減できるロールコータを提供することである。
【発明の効果】
【0007】
本発明のロールコータによれば、出側壁の下端と塗料パンの底面との間に流路を形成するように出側壁が変位可能に構成されてい
るので、出側壁の下部に塗料の流れを形成できる。これにより、塗料に添加された骨材が滞留する可能性を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態1によるロールコータを示す斜視図である。
【
図4】本発明の実施の形態2によるロールコータの要部の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明を実施するための形態について、図面を参照して説明する。
実施の形態1.
図1は本発明の実施の形態1によるロールコータを示す斜視図であり、
図2は
図1のロールコータを示す平面図であり、
図3は
図2の線II−IIに沿う断面図である。本実施の形態のロールコータは、図示しない塗装対象に塗料1aを塗りつけるための装置である。塗装対象としては、例えば鋼帯等の金属板を挙げることができる。ロールコータには、塗料ドラム1、塗料パン3、囲枠5、ピックアップロール6及び仕切板7が設けられている。
【0010】
塗料ドラム1には、塗装対象に塗りつける塗料1aが溜められている。本実施の形態の塗料1aは、例えばAl粉末や雲母等の骨材が添加されたものである。塗料ドラム1内の塗料1aは、図示しない供給手段によって囲枠5の内側に上方から供給される。
【0011】
塗料パン3は、塗料1aを受けるための受け皿である。本実施の形態のロールコータでは、囲枠5から流れ出た塗料1aを塗料パン3が受ける。塗料パン3の底面3aには囲枠5の外側に位置するように排出口3bが設けられており、塗料パン3が受けた塗料1aは排出口3bから排出されて、塗料ドラム1に戻される。
【0012】
囲枠5は、塗料パン3の内側に配置された平面視矩形の枠体である。塗料パン3の内側には、塗料ドラム1から供給された塗料1aが溜められている。
【0013】
ピックアップロール6は、外周面の一部が囲枠5の内側で塗料1aに浸漬されたロールである。ピックアップロール6の回転により、ピックアップロール6の外周面に付着した塗料1aが囲枠5から汲み上げられる。図示はしないが、ピックアップロール6の上方にはアプリケータロールが配置されている。アプリケータロールはその外周面がピックアップロール6の外周面に接するように配置されており、ピックアップロール6の外周面に付着した塗料1aがアプリケータロールの外周面に転写されて、アプリケータロールを介して塗装対象に塗料1aが塗りつけられる。なお、ピックアップロール6とアプリケータロールとの間に中間ロールが介在されていてもよい。
【0014】
図3に示すように、ピックアップロール6の回転方向は、塗料ドラム1から囲枠5に塗料1aが供給される側において囲枠5内の塗料1aの液面に外周面が進入する方向とされている。囲枠5には、ピックアップロール6の外周面が塗料1aの液面に進入する側に配置された入側壁50、ピックアップロール6の外周面が塗料1aの液面から脱出する側に配置された出側壁51、及び入側壁50と出側壁51との間を接続する一対の側壁52が設けられている。上述の回転方向にピックアップロール6が回転されることで、囲枠5内には入側壁50側から出側壁51側への塗料1aの流れが形成される。
【0015】
仕切板7は、囲枠5の入側壁50とピックアップロール6との間に配置された板体である。仕切板7は、その下端7aと塗料パン3の底面3aとの間に空隙が形成されるように配置されている。また、仕切板7は、空隙の幅を調整することができるように上下動可能に構成されている。塗料ドラム1からの塗料1aは、入側壁50と仕切板7との間に上方から供給され、仕切板7の下方の空隙を通ってピックアップロール6側に向かう。これにより、入側壁50と仕切板7との間で塗料1aに泡が生じていたとしても、その泡がピックアップロール6側に向かうことを抑制できる。
【0016】
ここで、囲枠5の出側壁51は、出側壁51の下端51aと塗料パン3の底面3aとの間に流路を形成するように変位可能に構成されている。出側壁51の全体が上下動して流路を形成してもよいが、本実施の形態のロールコータでは、出側壁51の上部が側壁52に回動可能に支持されており、出側壁51の上部を中心に出側壁51が回動されることで、出側壁51の下端51aと塗料パン3の底面3aとの間に流路が形成される。この流路が形成されることで、出側壁51の下部から塗料パン3への塗料1aの流れを形成でき、出側壁51の下部に塗料1aの骨材が滞留する可能性を低減できる。出側壁51の下端51aと塗料パン3の底面3aとの間に流路が形成されない場合、塗料1aに対する骨材の比重が1.15以上であるときに出側壁51の下部に塗料1aの骨材が滞留しやすいという問題が生じていた。すなわち、塗料1aに対する骨材の比重が1.15以上のとき、上述のように流路を形成することが特に有用である。
【0017】
ピックアップロール6の回転による塗料1aの流動によって塗料1aが出側壁51を超えて塗料パン3に溢れ出るように、囲枠5内への単位時間当たりの塗料1aの供給量を制御することが好ましい。また、出側壁51の高さを囲枠5の他の壁(入側壁50及び側壁52)よりも低くして、より確実に塗料1aが出側壁51を超えて塗料パン3へ溢れ出るようにすることがさらに好ましい。これらの構成を採ることで、囲枠5の入側壁50側から出側壁51側に向かった塗料1aが入側壁50側に戻ることを抑制できる。これにより、囲枠5内での塗料1aの滞留を抑え、ピックアップロール6への泡等の付着を低減できる。
【0018】
ピックアップロール6の側面と囲枠5の側壁52との間の隙間は小さい方が好ましい。より具体的には、ピックアップロール6の軸方向の幅W
Rに対するピックアップロール6の軸方向についての囲枠5の幅W
SFの比率(=W
SF/W
R)が101%以下であることが好ましい。このような比率を採ることで、囲枠5の入側壁50側から出側壁51側に向かった塗料1aがピックアップロール6の側面と囲枠5の側壁52との間の隙間を通って入側壁50側に戻ることをより確実に抑制でき、ピックアップロール6への泡等の付着をさらに低減できる。
【0019】
上述のように出側壁51の下端51aと塗料パン3の底面3aとの間に流路が形成されることで、塗料1aが入側壁50側に戻ることをより確実に抑えることができる。特に、上述のように出側壁51の上部を中心に出側壁51が回動可能とされることで、出側壁51の上端位置を実質的に変更せずに、出側壁51の下部における流路の開度を調整できる。このように出側壁51の上端位置が実質的に変更されないことで、より容易に囲枠5内の塗料1aの液面レベルを保つことができる。ここで、塗料1aへのピックアップロール6の浸漬深さは、ピックアップロール6への塗料1aの付着量に関係するものであり、操業を安定させる観点から一定に保つことが好ましい。仮に塗料1aの液面レベルが変わるとしたら、ピックアップロール6の浸漬深さを一定に保つためには、ピックアップロール6と塗料パン3とを相対的に変位させる必要がある。この相対的な変位により、ピックアップロール6と塗料パン3の底面3aとの間の隙間が広がると、囲枠5の入側壁50側から出側壁51側に向かう塗料1aの流れが弱まり、塗料1aの滞留が生じる可能性が生じる。すなわち、本実施の形態の構成のように出側壁51の上部を中心に出側壁51が回動可能とされていることは、このような塗料1aの滞留が生じる可能性を回避できることにも寄与する。
【0020】
出側壁51の上部を中心とする出側壁51の回動は、出側壁51の下端51aが入側壁50から離れる方向への回動であってもよいが、
図3において二点鎖線で示すように出側壁51の下端51aが入側壁50に近づく方向への回動が好ましい。換言すると、出側壁51の回動は、囲枠5の内側における出側壁51の延長面と塗料パン3の底面3aと間の角度が90°よりも大きくされる方向への回動が好ましい。この方向に回動されることで、出側壁51の高さ方向の中間位置から上部への塗料1aの流れを形成するように出側壁51を傾斜させることができ、より確実に塗料1aが出側壁51を超えて塗料パン3へ溢れ出るようにすることができる。
【0021】
なお、出側壁51は、側壁52に対して着脱自在とされている。製造条件によっては、側壁52の間から出側壁51を取り外した状態でロールコータを稼働させてもよい。
【0022】
このようなロールコータでは、出側壁51の下端51aと塗料パン3の底面3aとの間に流路を形成するように出側壁51が変位可能に構成されているので、出側壁51の下部に塗料1aの流れを形成できる。これにより、塗料1aに添加された骨材が滞留する可能性を低減できる。この構成は、塗料に対する骨材の比重が1.15以上であるときに特に有用である。
【0023】
また、出側壁51の上部が側壁52に回動可能に支持されており、出側壁51の上部を中心に出側壁51が回動されることで、出側壁51の下端51aと塗料パン3の底面3aとの間に流路が形成されるので、塗料1aに添加された骨材が滞留する可能性をより確実に低減できる。また、出側壁51の上部を中心に出側壁51が回動されることで、出側壁51の上端位置が実質的に変更されず、より容易に囲枠5内の塗料1aの液面レベルを保つことができる。
【0024】
さらに、ピックアップロール6の回転による塗料1aの流動によって塗料1aが出側壁51を超えて塗料パン3に溢れ出るように、囲枠5内への単位時間当たりの塗料1aの供給量が制御されるので、囲枠5内での塗料1aの滞留を抑え、ピックアップロール6への泡等の付着を低減できる。
【0025】
さらにまた、ピックアップロール6の軸方向の幅W
Rに対する軸方向についての囲枠5の幅W
SFの比率が101%以下であるので、囲枠5の入側壁50側から出側壁51側に向かった塗料1aがピックアップロール6の側面と囲枠5の側壁52との間の隙間を通って入側壁50側に戻ることをより確実に抑制でき、ピックアップロール6への泡等の付着をさらに低減できる。
【0026】
また、出側壁51が側壁52に対して着脱自在とされているので、側壁52の間から出側壁51を取り外した状態でロールコータを稼働させることができる。
【0027】
実施の形態2.
図4は、本発明の実施の形態2によるロールコータの要部の断面図である。実施の形態1では、囲枠5の出側壁51を変位可能に構成し出側壁51の下端51aと塗料パン3の底面3aとの間に流路を形成することによって、出側壁51の下部に塗料1aの骨材が滞留する可能性を低減するように説明した。しかしながら、
図4に示すように、出側壁51の下部に貫通孔51bを形成し、貫通孔51bを通して出側壁51の下部から塗料パン3への塗料1aの流れを形成することによっても、出側壁51の下部に塗料1aの骨材が滞留する可能性を低減することができる。
【0028】
本実施の形態の出側壁51は、側壁52に回動自在に取り付けられているか、側壁52に回動不可能に取り付けられているか、又は側壁52に固定されている。出側壁51が側壁52に固定されていない場合、出側壁51が側壁52に対して着脱自在とされていてよい。出側壁51の回動が不可能な場合、囲枠5の内側における出側壁51と塗料パン3の底面3aと間の角度は任意であるが、囲枠5の内側における出側壁51と塗料パン3の底面3aと間の角度が90°よりも大きくされていることが好ましい。このような角度とされることで、出側壁51の高さ方向の中間位置から上部への塗料1aの流れを形成することができ、より確実に塗料1aが出側壁51を超えて塗料パン3へ溢れ出るようにすることができる。その他の構成は、実施の形態1と同じである。
【0029】
このようなロールコータでは、出側壁51の下部に貫通孔51bが形成されているので、実施の形態1の態様と同様に、出側壁51の下部に塗料1aの骨材が滞留する可能性を低減することができる。
【0030】
また、囲枠5の内側における出側壁51と塗料パン3の底面3aと間の角度が90°よりも大きくなるように塗料パン3の底面3aに対して出側壁51が固定されているので、より確実に塗料1aが出側壁51を超えて塗料パン3へ溢れ出るようにすることができる。
【符号の説明】
【0031】
1a 塗料
3 塗料パン
3a 底面
5 囲枠
51 出側壁
51a 下端
51b 貫通孔
52 側壁