特許第6720045号(P6720045)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720045
(24)【登録日】2020年6月19日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】エンジン始動装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20200629BHJP
   F02N 11/08 20060101ALI20200629BHJP
   F02N 11/04 20060101ALI20200629BHJP
   F02P 5/15 20060101ALI20200629BHJP
   F02D 43/00 20060101ALI20200629BHJP
   F02D 41/04 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
   F02D29/02 321C
   F02N11/08 F
   F02N11/08 V
   F02N11/04 A
   F02D29/02 321B
   F02P5/15 E
   F02D43/00 301V
   F02D43/00 301A
   F02D41/04
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-200113(P2016-200113)
(22)【出願日】2016年10月11日
(65)【公開番号】特開2018-62864(P2018-62864A)
(43)【公開日】2018年4月19日
【審査請求日】2019年3月25日
(73)【特許権者】
【識別番号】000144027
【氏名又は名称】株式会社ミツバ
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100126664
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 慎吾
(74)【代理人】
【識別番号】100196689
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 康一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100094400
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 三義
(72)【発明者】
【氏名】萩村 将巳
【審査官】 丸山 裕樹
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−180380(JP,A)
【文献】 特開2005−163661(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 29/00 − 29/06
F02D 41/00 − 45/00
F02P 5/145− 5/155
F02N 1/00 − 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランク軸に連結された始動発電機と、
エンジン停止条件が成立すると、点火及び燃料噴出を停止し、前記クランク軸を慣性回転させるエンジン停止制御と、
前記慣性回転時において、ピストンが次の圧縮上死点を越えられないと判断すると、前記ピストンが所定の位置で停止するよう前記始動発電機への通電を制御する回転停止制御と、
前記エンジンの始動時に、前記クランク軸が車両前進時の駆動方向に対する逆転方向へ駆動するよう前記始動発電機への通電を制御する逆転制御と、
前記逆転制御後、点火により前記クランク軸を車両前進時の駆動方向に対する正転方向へ駆動させる点火制御と
を行う制御部と
を有するエンジン始動装置において、
前記制御部が、
前記慣性回転時において、前記クランク軸の角速度が、前記ピストンが次の次の圧縮上死点を越えられない速度未満、または、以下であると判断すると、直後の吸気行程から前記クランク軸の回転が停止するまでの各吸気行程において、燃料噴出手段が燃料を噴出する燃料噴出制御を行い、
前記慣性回転時において、前記クランク軸の角速度が、前記ピストンが次の圧縮上死点を越えられない速度未満、または、以下であると判断すると、その後ピストンが膨張行程下死点付近の位置で停止するよう前記始動発電機への通電を制御する前記回転停止制御を行う
ことを特徴とするエンジン始動装置。
【請求項2】
前記所定の位置は、膨張行程下死点付近の位置であって、排気弁が開いていない又は直前の吸気行程で吸気された燃料混合気体が再始動時に必要量残る程度開いている位置であること、
を特徴とする請求項1に記載のエンジン始動装置。
【請求項3】
前記制御部が、
前記点火制御後、前記クランク軸が車両前進時の駆動方向に対する正転方向へ駆動するよう前記始動発電機への通電を制御する始動補助制御と、
前記始動補助制御後において、前記クランク軸の角速度が第三の閾値(車両の要求する始動補助に応じて適宜設定できる角速度)以上であると判断すると、前記始動補助制御を停止する始動補助停止制御と、
を行うことを特徴とする請求項1に記載のエンジン始動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン始動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車載の発電機をエンジン始動用のモータとしても使用するACG(AC Generator)スタータ(始動発電機)を用いるエンジン始動装置では、スクータのようなベルト変速車において電子制御によるスイングバックを用いる場合がある(例えば特許文献1の背景技術の欄等)。電子制御によるスイングバックは、例えばエンジンの停止直後にACGスタータを逆転駆動させ、圧縮上死点までの助走距離を確保することで、始動トルクの低減を図るものである。
【0003】
一方、エンジンの始動手法の一つにダイレクトスタートと呼ばれるものがある(例えば特許文献2)。エンジン始動時に、膨張行程(燃焼行程等ともいう)にある気筒の燃焼室内に燃料を噴射して点火および燃焼させることでエンジンを始動させる技術である。特許文献2に記載されているエンジン始動装置は、エンジンの始動時にスタータでクランク軸を逆回転させることで膨張行程にある気筒の燃焼室内の空気を圧縮し、燃焼室内に燃料を直接噴射するとともに点火して燃焼を生起する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2015/050155号
【特許文献2】特開2005−299481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献2に記載されているエンジン始動装置では、膨張行程にある気筒の燃焼室内に燃料を噴射する必要がある。しかしながら、例えば特許文献1に記載されているように、吸気行程において、吸気通路内に設けられたインジェクターから燃料を噴射して外気と混合し、燃料混合気体を吸気弁を介して燃焼室内に供給する構造のエンジンでは、特許文献2に記載されている構成は使用することができない。
【0006】
本発明は、上記事象に鑑みてなされたものであり、燃焼室内に燃料を直接噴射できないエンジンを用いた場合でも、燃焼室内の燃焼を利用してエンジンを始動させることができるエンジン始動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の一態様は、クランク軸に連結された始動発電機と、エンジン停止条件が成立すると、点火及び燃料噴出を停止し、前記クランク軸を慣性回転させるエンジン停止制御と、前記慣性回転時において、ピストンが次の圧縮上死点を越えられないと判断すると、前記ピストンが所定の位置で停止するよう前記始動発電機への通電を制御する回転停止制御と、前記エンジンの始動時に、前記クランク軸が車両前進時の駆動方向に対する逆転方向へ駆動するよう前記始動発電機への通電を制御する逆転制御と、前記逆転制御後、点火により前記クランク軸を車両前進時の駆動方向に対する正転方向へ駆動させる点火制御とを行う制御部とを有するエンジン始動装置において、前記制御部が、前記慣性回転時において、前記クランク軸の角速度が、前記ピストンが次の次の圧縮上死点を越えられない速度未満、または、以下であると判断すると、直後の吸気行程から前記クランク軸の回転が停止するまでの各吸気行程において、燃料噴出手段が燃料を噴出する燃料噴出制御を行い、前記慣性回転時において、前記クランク軸の角速度が、前記ピストンが次の圧縮上死点を越えられない速度未満、または、以下であると判断すると、その後ピストンが膨張行程下死点付近の位置で停止するよう前記始動発電機への通電を制御する前記回転停止制御を行うことを特徴とするエンジン始動装置である。
【0008】
また、本発明の一態様は、上記エンジン始動装置であって、前記所定の位置は、膨張行程下死点付近の位置であって、排気弁が開いていない又は直前の吸気行程で吸気された燃料混合気体が再始動時に必要量残る程度開いている位置であること、を特徴とする。
【0009】
また、本発明の一態様は、上記エンジン始動装置であって、前記制御部が、前記点火制御後、前記クランク軸が車両前進時の駆動方向に対する正転方向へ駆動するよう前記始動発電機への通電を制御する始動補助制御と、前記始動補助制御後において、前記クランク軸の角速度が第三の閾値(車両の要求する始動補助に応じて適宜設定できる角速度)以上であると判断すると、前記始動補助制御を停止する始動補助停止制御と、を行うことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、燃焼室内に燃料を直接噴射できないエンジンを用いた場合でも、燃焼室内の燃焼を利用してエンジンを始動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係るエンジン始動装置1の主要部の構成を示したブロック図である。
図2図1に示すエンジン始動装置1の動作例を説明するためのフローチャートである。
図3図1に示すエンジン始動装置1の動作例を説明するためのフローチャートである。
図4図1に示すエンジン始動装置1の動作例を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係るエンジン始動装置1の主要部の構成を示したブロック図である。図1に示すエンジン始動装置1は、始動発電機2と、ECU(Electronic Control Unit)200とを備える。図1は、エンジン始動装置1が、スクータ等の自動二輪車に搭載されている例を示している。この場合、自動二輪車には、図示していないエンジン、バッテリ10、イグニッション12、燃料噴出手段13、エンジン制御部14、スロットルセンサ15等を備えている。
【0013】
また、図示していないエンジンは、4サイクル単気筒エンジンであり、吸気行程において、吸気通路内に設けられた燃料噴出手段13から燃料を噴射して外気と混合し、燃料混合気体を図示していない吸気弁を介して燃焼室内に供給する構造を有する。イグニッション12は、燃焼室内にその点火部を突出させた状態で設けられていて、エンジン制御部14の指示に応じて火花を発生させ、燃焼室内の混合気体に点火する。燃料噴出手段13は、エンジン制御部14の指示に応じて吸気通路内に燃料を噴出する。スロットルセンサ15は、吸気通路から燃焼室内へ吸気される空気量を制御するスロットル弁の開閉量を検知する。エンジン制御部14は、例えばアイドリングストップ状態からのエンジン始動時に、スロットルセンサ15等の複数のセンサから検出信号を入力するとともに、ECU200(比較部203)から制御信号を入力し、それらの入力信号に基づいてイグニッション12、燃料噴出手段13等を制御する。その際、エンジン制御部14は、例えば、エンジン停止条件成立の信号(例えばアクセル開度信号)や比較部203の信号を受けて、イグニッション12による点火や燃料噴出手段13による燃料の噴出を制御する。
【0014】
始動発電機2は、エンジンの始動時においてはモータとして機能し、エンジンの始動後においては発電機として機能するアウターロータ型のブラシレス回転電機である。始動発電機2は、ロータ21とステータ22とセンサ3とを備える。ロータ21は、永久磁石を有し、不図示のエンジンのクランク軸に連結され、クランク軸と一体回転する。ステータ22は、ステータ鉄心とステータ鉄心に巻回される3相コイル25とを有し、不図示のエンジンブロックに固定されている。センサ3は、ホール素子等を用いた磁気センサであり、ロータ21の磁極の変化に基づいてロータ21の回転角を検出する。センサ3は、ロータ21を構成する複数の磁極の位置を検出する3個のホール素子と、ロータ21の特定の位置を検出する1個のホール素子とを備える。本実施形態ではセンサ3が検知するロータ21の特定の位置がエンジン内のピストンの上死点に対応する位置に設定されているものとする。ロータ21はクランク軸に直結固定されているので、センサ3の出力信号に基づいて、ECU200はロータ21およびクランク軸の回転位置、回転速度、エンジンの気筒内のピストンの位置等を検出することができる。
【0015】
ECU200は、例えばマイクロコンピュータ等を含む電子回路であり、3相インバータ201と、通電制御部202と、比較部203と、算出部204と、検出部205とを含む。3相インバータ201は、ブリッジ接続された6個のMOSFET(Metal Oxide Semiconductor Field Effect Transistor)を有し、直流入出力端子をバッテリ10の正極および負極(接地端子)に接続し、3相交流入出力端子の各相を3相コイル25の各端子に接続している。3相インバータ201は、各MOSFETの各ゲートが通電制御部202によって制御され、バッテリ10を直流電源として3相交流を発生させて3相コイル25に通電することで始動発電機2をモータとして機能させたり、エンジンの始動後に始動発電機2が発電した3相交流電力を制御することでバッテリ10を充電したり、他の電気負荷に直流電力を供給したりする。
【0016】
検出部205は、センサ3からの出力を受けてクランク軸のクランク角等を検出し、検出結果を出力する。その際、検出部205は、センサ3からの出力信号に基づき、例えば、クランク軸の角加速度を求めることで、圧縮上死点と排気上死点とを判別する。算出部204は、検出部205からの出力を受けて、クランク軸の回転情報(回転角、角速度等)を算出し、算出結果を出力する。比較部203は、算出部204から出力された算出結果を基に、算出結果を所定の閾値と比較した比較結果を出力する。通電制御部202は、比較部203からの出力およびスロットルセンサ15や図示していないアクセルポジションセンサからの出力を受けて、バッテリ10から始動発電機2への通電や始動発電機2の発電出力を制御する。
【0017】
なお、エンジン始動装置1の構成は、図1に示すものに限定されず、例えば、エンジン制御部14をECU200内に設けたり、3相インバータ201を始動発電機2と一体的に構成したりしてもよい。また、センサ3とは別にクランク角を検出するセンサを設けてもよい。
【0018】
次に図2図4を参照して、アイドリングストップからのエンジン再始動の際の図1に示すエンジン始動装置1の動作例について説明する。図2および図3は、エンジン始動装置1の動作例を説明するためのフローチャートであり、図2図3は結合子Aで連結されている。図4は本実施形態におけるアイドリングストップ時のクランク角に対応するピストンの位置を示す図である。図4に示すようにエンジンは吸気、圧縮、膨張、排気の4つの行程を繰り返し行う。上死点は、ピストンが一番上の位置、つまり、気筒の内部空間の体積が最も小さくなるピストンの位置を表す。下死点は、ピストンが一番下の位置、つまり、気筒の内部空間の体積が最も大きくなるピストンの位置を表す。エンジンの基本的な動作において、吸気行程では、ピストンが下がることで、吸気弁から混合気体を吸い込む。次の圧縮行程では、吸気行程で吸入した混合気体を、ピストンが上昇することによって圧縮する。圧縮行程で圧縮した混合気体にイグニッション12が点火し、混合気体は爆発する。この爆発によって、爆圧で膨張してピストンを押し下げることで、ピストンは圧縮上死点から下死点に移行する。ピストンが下死点に近づくと、排気弁が開き始め、排気ガスを排気弁から排出する。これよりクランク軸の2回転つまり4行程で1サイクルが構成される。
【0019】
次に、エンジン始動装置1の動作例について説明する。ECU200(比較部203)が予め設定されたエンジンの停止条件を満たしたと判断すると(図2のステップS101でYes)、比較部203はエンジン制御部14に対してエンジンの停止を指示する信号を出力する(ステップS102)。予め設定されたエンジンの停止条件とは、アイドリングストップの停止条件に対応し、例えば、スロットルセンサ15や図示していないアクセルポジションセンサの出力がスロットルやアクセルの開度が所定の閾値以下になったことを示した場合に対応する。ただし、例えば、「エンジン始動時にアクセル開度をあけた後、アクセル開度を閉めるとエンジンが停止してしまった」といった事態を防ぐため、「エンジンが駆動状態である」、「エンジンの温度が閾値以上」等の何らかの前提条件を付加することもできる。
【0020】
次にエンジン制御部14がイグニッション12および燃料噴出手段13を停止する(ステップS103)。ここでクランク軸の慣性回転が開始する(ステップS104)。次に、比較部203が圧縮上死点でのクランク軸(あるいはロータ21)の角速度が所定の閾値1未満か(あるいか以下か)否かを判定する(ステップS105)。圧縮上死点での角速度とは、センサ3の出力信号に基づいてピストンの位置が圧縮上死点に位置していると検出されたときの角速度である。ただし、この比較対象とする角速度は、圧縮上死点での角速度に限らず、他の行程や位置で検出された角速度を用いてもよい。ただし、閾値1は位置に応じて変化させる必要がある。閾値1は、ピストンが次の次の圧縮上死点を越えられないであろう角速度である。すなわち、閾値1は、角速度が閾値1以上の場合にはピストンが次の圧縮上死点を余裕を持って越えることはできるが、次の次の圧縮上死点は越えることができないか、あるいは次の次の圧縮上死点は越えることができるか否かが不確かとなるような値に設定される。あるいは、閾値1は、角速度が閾値1以上の場合にはピストンが次の次の圧縮上死点をぎりぎり越えられることができるような値に設定される。エンジン停止後、角速度が徐々に低下し、角速度が初めて閾値1未満となった場合にはピストンは次の圧縮上死点を越えることはできるが、次の次の圧縮上死点は越えることができないという可能性が高いことになる。
【0021】
比較部203は圧縮上死点での角速度が所定の閾値1未満(あるいか以下)となるまで圧縮上死点に到達する度にステップS105の判定を実行する(ステップS105でNoの繰り返し)。比較部203は、ステップS105で圧縮上死点での角速度が所定の閾値1未満(あるいか以下)であると判定すると(ステップS105でYes)、エンジン制御部14に対して以後の吸気行程で燃料を噴出するよう指示する信号を出力する(ステップS106)。エンジン制御部14は、クランク軸の回転停止までの各吸気行程で燃料を噴出する制御を行う(ステップS107)。
【0022】
図4に示す例において、例えば、位置p1で、慣性回転における圧縮上死点での角速度が初めて閾値1未満になったと比較部203によって判断されたとすると(ステップS105でYes)、エンジン制御部14によって次の吸気行程において燃料が噴出される(位置p2)(ステップS106〜S107)。位置p1の圧縮上死点での角速度が閾値1未満ということは、クランク軸の回転は、次の圧縮上死点(位置p3)は越えられるものの、次の次の圧縮上死点(位置p5)は越えられず、位置p3から位置p5までのどこかで停止する可能性が高いことを意味する。
【0023】
次に、比較部203は、圧縮上死点での角速度が所定の閾値2未満か(あるいは以下か)否かを判定する(ステップS108)。閾値2は閾値1と同様のクランク軸の角速度に関する閾値であるが次の点が異なる。すなわち、閾値2は、次の圧縮上死点を越えることができない角速度に対応する。角速度が閾値2未満の場合にはピストンが次の圧縮上死点を越えられない可能性が高いという値となるように閾値2は設定される。
【0024】
比較部203は圧縮上死点での角速度が所定の閾値2未満(あるいか以下)となるまで圧縮上死点に到達する度にステップS108の判定を実行する(ステップS108でNoの繰り返し)。比較部203は、ステップS108で圧縮上死点での角速度が所定の閾値2未満(あるいか以下)であると判定すると(ステップS108でYes)、通電制御部202に対してピストンが所定位置で停止するよう始動発電機2に対する通電を制御するよう指示する信号を出力する(ステップS109)。所定位置とは、クランク軸の停止前、最後の圧縮行程の次の膨張行程下死点付近の位置であって、排気弁が開いていない又は直前の吸気行程で吸気された燃料混合気体が再始動時に必要量残る程度開いている位置である。なお、所定位置は、排気弁が開いていない位置としているが、直前の吸気行程で吸気された燃料混合気体が漏れ、再始動に支障をきたすことを防ぐのが目的であり、再始動時に必要量残る程度開いている位置であればよい。また、所定位置は、ピストンが摩擦や気圧差によって自然に(すなわち始動発電機2を非通電とした状態で)停止する位置とすることが望ましい。
【0025】
次に、通電制御部202が、ピストンが所定位置で停止するよう通電制御を開始する(ステップS110)。この通電制御では、例えば、通電制御部202が、ピストンの位置と角速度とに対応づけて始動発電機2を逆回転させる通電パターンに対応する逆転通電進角値を複数組予め定めたマップ使い、現在の位置と角速度に応じて選択した逆転通電進角値を用いて3相インバータ201を制御する。始動発電機2は、クランク軸の回転方向と逆方向に駆動トルクを発生し、クランク軸の角速度が低下する。
【0026】
次に比較部203は、クランク軸の回転が通電停止条件1を満たしたか否かを判定する(ステップS111)。クランク軸の回転が通電停止条件1を満たすとは、ピストンが所定位置で停止すると予想されるクランク角およびクランク角速度の範囲内にクランク角およびクランク角速度の値があるということである。クランク軸の回転が通電停止条件1を満たした場合(ステップS111でYesの場合)、比較部203は、通電制御部202が始動発電機2への通電を停止するよう制御する(ステップS112)。例えば、比較部203は、クランク角と通電停止角速度を複数組対応づけたマップを使用して、検出されたクランク角において当該クランク角に対応するマップ内の通電停止角速度と検出された角速度とを比較することで通電停止条件1の成否を判定することができる。次に、通電制御部202が始動発電機2への通電を停止する(ステップS113)。ここで、ピストンが所定位置で停止する(ステップS114)。
【0027】
図4に示す例において、例えば、位置p3で、慣性回転における圧縮上死点での角速度が閾値2未満になったと比較部203によって判断されたとすると(ステップS108でYes)、通電制御部202によって始動発電機2に対して逆転通電による通電制御が行われて(ステップS109〜S113)、ピストンが所定位置で停止する(ステップS114)(位置p4)。図4に示す例では、所定位置は、ピストンが膨張行程下死点付近の位置であって、排気弁が開いていない又は直前の吸気行程で吸気された燃料混合気体が再始動時に必要量残る程度開いている位置であるものとする(位置p4)。
【0028】
次に、エンジン始動条件が成立すると(図3のステップS115でYes)、例えばスロットルセンサ15から所定の信号が通電制御部202へ出力される(ステップS116)。エンジン始動条件は、アイドリングストップの再始動条件に対応し、例えば、スロットルセンサ15や図示していないアクセルポジションセンサの出力がスロットルやアクセルの開度が所定の閾値以上になったことを示した場合に対応する。ステップS116では、例えば、スロットルセンサ15が、スロットルの開度が所定の閾値以上になったことを示す信号を通電制御部202へ出力する。
【0029】
次に、通電制御部202がクランク軸が逆転するように始動発電機2へ通電制御する(ステップS117)。ここでクランク軸が逆転する(ステップS118)。次に、比較部203が(あるいは通電制御部202が(以下、同じ))、逆転通電制御を開始してから逆転通電時間t1が経過したか否かを判定する(ステップ119)。逆転通電時間t1が経過した場合(ステップ119でYesの場合)、通電制御部202が始動発電機2への通電を停止するよう制御する(ステップS120)。ここで、3相インバータ201から始動発電機2への逆転通電が停止する。また、クランク軸が惰性回転を開始する(ステップS121)。次に比較部203が、ステップS120で逆転通電を停止してから惰性回転時間t2が経過したか否かを判定する(ステップS122)。惰性回転時間t2が経過した場合(ステップS122でYesの場合)、比較部203がエンジン制御部14に対してイグニッション12によって燃焼室内の混合気体に点火するよう指示する信号を出力する(ステップS123)。
【0030】
ここで、逆転通電時間t1は、逆転通電を開始してから逆転通電を停止するまでの時間である。また、惰性回転時間t2は、逆転通電停止による惰性回転開始から点火までの時間である。逆転通電時間t1および惰性回転時間t2は、逆転通電停止による惰性回転停止の位置が、ピストンによって混合気体が十分に圧縮される位置となるように設定される。また、逆転通電時間t1および惰性回転時間t2は、クランク角、角速度および角加速度を基に決定される。さらに、逆転通電時間t1および惰性回転時間t2は、始動発電機2の温度やバッテリ電圧等の他のパラメータを加味して決定することができる。
【0031】
次に、エンジン制御部14がイグニッション12によって燃焼室内の混合気体に点火する(ステップS124)。次に、クランク軸が正転し、エンジンが始動する(ステップS125)。
【0032】
図4に示す例において、位置p4でピストンが停止している状態で、エンジン始動条件が成立すると(ステップS115でYes)、通電制御部202が始動発電機2を逆転通電して、ピストンが直前に通過した圧縮上死点より近い位置p3aに戻される(ステップS116〜S122でYes)。この状態でイグニッション12によって燃焼室内の混合気体に点火して燃焼させることで、エンジンが始動する。
【0033】
以上のように、エンジン始動装置1は、クランク軸に連結された始動発電機2と、次の制御を行うECU200(制御部)とを備える。すなわち、ECU200は、エンジン停止条件が成立すると、点火及び燃料噴出を停止し、クランク軸を慣性回転させるエンジン停止制御を行う。また、ECU200は、慣性回転時において、ピストンが次の圧縮上死点を越えられないと判断すると、ピストンが所定の位置で停止するよう始動発電機2への通電を制御する回転停止制御を行う。また、ECU200は、エンジンの始動時に、クランク軸が車両前進時の駆動方向に対する逆転方向へ駆動するよう始動発電機2への通電を制御する逆転制御を行う。また、ECU200は、逆転制御後、点火によりクランク軸を車両前進時の駆動方向に対する正転方向へ駆動させる点火制御を行う。ここで、ECU200は、慣性回転時において、クランク軸の角速度が閾値1(第一の閾値)(ピストンが次の次の圧縮上死点を越えられないであろう角速度)以下であると判断すると、直後の吸気行程からクランク軸の回転が停止するまでの各吸気行程において、燃料噴出手段13が燃料を噴出する燃料噴出制御を行う。また、ECU200は、慣性回転時において、クランク軸の角速度が閾値2(第二の閾値)(ピストンが次の圧縮上死点を越えられないであろう角速度)以下であると判断すると、その後ピストンが所定の位置で停止するよう始動発電機2への通電を制御する回転停止制御を行う。
【0034】
本実施形態によれば次の効果を奏する。すなわち、特許文献2に記載されている従来技術では燃焼室内に直接燃料を噴射できるため、始動時に燃料噴出できる。しかし、燃焼室内に直接燃料を噴射できない始動装置においては、燃料噴出停止後から始動時の点火までの間に気筒内の燃料が希薄になってしまう。このため、膨張行程内でクランク軸を逆転させ、点火によりクランク軸を正転させることはできなかった。これに対し、本実施形態によれば、燃焼室内に直接燃料を噴射できないエンジン始動装置を用いる場合であっても、点火による正転駆動を用いた逆転始動ができる。
【0035】
また、本実施形態においては、回転停止制御において始動発電機2への通電制御によってピストンを停止させる所定の位置は、膨張行程であり、例えば、膨張行程下死点付近とすることができる。始動時間を短縮するのであれば、膨張行程の上死点付近でピストンを停止させるのがよい。この場合、気筒内の燃料に点火し燃料を燃焼させる行程を行うのみで、即座に駆動に必要な駆動力を得られる。しかし、膨張行程の上死点付近でピストンを停止させると、気筒内の圧力は大気圧よりも高い。このため、気筒内の気体がシリンダとピストンの間から漏れ出てしまう虞がある。その場合、長い停車を経てエンジンを始動しようとした際に、気筒内に燃焼に必要な量の気体が残っておらず、始動不良に繋がる虞もある。また、単気筒のエンジンに限れば、ピストンを膨張行程の上死点付近で停止させ続けるためには、気筒内の気体を圧縮した状態で維持するために始動発電機2へ通電し続ける必要があり、電力の消費が激しくなってしまう。これに対し、本実施形態では、燃焼行程の下死点寄りを所定の位置とすることで、気筒内の圧力が低い状態で停車でき、気筒内の気体の漏れによる始動不良を防止できる。
【0036】
なお、図4に示した例では、逆転通電してピストンを所定位置(位置p3a)で停止させた後、イグニッション12による点火後に、始動発電機2に対して正転通電して始動発電機2を正転回転させることで、混合気体を燃焼させることによるエンジン始動を、アシストする制御を行っている。すなわち、エンジン始動装置1では、ECU200によって、点火制御後、クランク軸が車両前進時の駆動方向に対する正転方向へ駆動するよう始動発電機2への通電を制御する始動補助制御を行うことができる。この場合、例えば、始動補助制御後における圧縮上死点(ただし、圧縮上死点に限定されない)において、ECU200は、クランク軸の角速度が閾値3(第三の閾値)(車両の要求する始動補助に応じて適宜設定できる角速度、例えば始動発電機2がクラッチミートできる角速度)以上であると判断したときに、始動補助制御を停止する始動補助停止制御を行うことができる。この始動時における始動発電機2を正転回転に係る制御は必須ではないものの次の効果を奏する。すなわち、逆転駆動時に点火される気体は、上述のとおりエンジン停止から再始動に至るまでの間に気筒内から漏れ出てしまい、始動に必要なトルクを逆転後すぐに確保できない虞がある。これに対し、逆転始動後クランク軸の角速度が所定の値を超えるまで始動発電機2へ通電することで、エンジン始動時に始動発電機2を正転回転させることで、クランク軸の回転をアシストすることで、点火による始動トルク不足を原因とした始動の遅れを防止できる。
【0037】
なお、図4に示した例では、角速度が閾値1未満となる圧縮上死点(位置p1)と角速度が閾値2未満となる圧縮上死点(位置p3)が2つの圧縮上死点が隣接関係を有し、2つの圧縮上死点間には1つの吸気行程のみが存在する。ただし、図4は一動作例を示すものであり、2つの圧縮上死点が隣接関係を有さず、閾値1未満となる圧縮上死点と閾値2未満となる圧縮上死点間に、他の圧縮上死点や2以上の吸気行程を含む場合もあり得る。この場合、燃料噴出制御では各吸気行程で燃料を噴出するようにしている。
【0038】
以上のように本実施形態のエンジン始動装置1では、圧縮行程を乗り越えた場所で静止し、待機する。そして、再始動指令が出たときに、逆転通電して、膨張行程の途中で点火しエンジンを始動する。さらに、そのまま正転通電して、クラッチミートまでの時間を短縮することができる。また本実施形態における燃料噴出タイミングについては、この角速度があればピストンが次の次の圧縮上死点を越えられないであろう角速度を閾値1とし、圧縮上死点での角速度がその閾値1を下回ったら、その直後の吸気行程からクランク軸の回転停止までにおける各吸気行程にて燃料を噴出している。
【0039】
また、本実施形態のエンジン始動装置1によれば助走距離を大幅に短縮することができる。従来のACGスタータは、モータトルクが小さい為、乗り越し直前の回転数をなるべく高くする必要があり、その為に、助走距離を長くとる必要があった。助走距離が長くなると、始動時間が余計にかかる。さらに、助走距離を稼ぐ為に、スイングバック制御等を取り入れるとさらに時間がかかる。時間がかかると、アイドリングストップからの再発進にもたつきが生じ、違和感を感じる。さらに、走行中にエンジンを止める制御を想定した場合、必要なときにすぐエンジンが再始動しないと、転倒のおそれもあり、二輪車の場合は、速度がゼロにならなければアイドリングストップすることが出来なかった。従来は例えば膨張行程終わりから圧縮行程終わりまでの540°助走しているが、これに対し、本実施形態のエンジン始動装置1では、膨張行程内で終了するので、180°以内で済む。時間にして、1/3で済む見込みがある。
【0040】
なお、本発明の実施形態は上記のものに限定されない。例えば、始動発電機2を、アウターロータ型のブラシレス回転電機としているが、インナーロータ型のブラシレス回転電機としたり、永久磁石を用いず、界磁巻線を巻回したロータコアを用いてロータを構成したりしてもよい。また、例えば、エンジンは単気筒に限定されず多気筒であってもよく、車両は4輪車等であってもおい。また、実施形態では、エンジンを4サイクルエンジンであるものとして記載したが、エンジンは、例えば2サイクルエンジンであってもよい。また、3相コイル25は、スター結線に限らずデルタ結線であってもよい。また、図2および図3に示すクランク角や角速度に基づく判定処理については、クランク角に基づく判断に対して角速度や角加速度に基づく判断を加えたり、角速度に基づく判断に対してクランク角や角加速度に基づく判断を加えたりすることができる。
【符号の説明】
【0041】
2 始動発電機
3 センサ
10 バッテリ
12 イグニッション
13 燃料噴出手段
14 エンジン制御部
15 スロットルセンサ
21 ロータ
22 ステータ
25 3相コイル
200 ECU
201 3相インバータ
202 通電制御部
203 比較部
204 算出部
205 検出部
図1
図2
図3
図4