(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720145
(24)【登録日】2020年6月19日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】ヒドロキシル置換(パー)フルオロポリエーテル鎖を有する芳香族化合物
(51)【国際特許分類】
C07C 43/23 20060101AFI20200629BHJP
C07C 41/01 20060101ALI20200629BHJP
C10M 105/54 20060101ALI20200629BHJP
C10M 131/10 20060101ALI20200629BHJP
C08G 65/331 20060101ALI20200629BHJP
C10N 40/18 20060101ALN20200629BHJP
【FI】
C07C43/23 ECSP
C07C41/01
C10M105/54
C10M131/10
C08G65/331
C10N40:18
【請求項の数】11
【全頁数】25
(21)【出願番号】特願2017-512432(P2017-512432)
(86)(22)【出願日】2015年5月14日
(65)【公表番号】特表2017-521478(P2017-521478A)
(43)【公表日】2017年8月3日
(86)【国際出願番号】EP2015060718
(87)【国際公開番号】WO2015173374
(87)【国際公開日】20151119
【審査請求日】2018年4月13日
(31)【優先権主張番号】14168571.9
(32)【優先日】2014年5月16日
(33)【優先権主張国】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】513092877
【氏名又は名称】ソルベイ スペシャルティ ポリマーズ イタリー エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルセッキ, ロベルト
(72)【発明者】
【氏名】グアルダ, ピエール アントニオ
(72)【発明者】
【氏名】ピコッツィ, ロサルド
【審査官】
三上 晶子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−144008(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2010/0172623(US,A1)
【文献】
特開平03−007955(JP,A)
【文献】
特表2014−509677(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/136379(WO,A1)
【文献】
特開2009−270093(JP,A)
【文献】
国際公開第2009/123043(WO,A1)
【文献】
特開2013−018961(JP,A)
【文献】
特開2010−250929(JP,A)
【文献】
特開2012−184339(JP,A)
【文献】
国際公開第2011/065312(WO,A1)
【文献】
Kasai, Paul H.; Wakabayashi, A.,Disk Lubricants for Spontaneous Adsorption and Grafting to Carbon Overcoat by UV Irradiation,Tribology Letters,2010年,38(3),241-251
【文献】
Hara, Hiroki; Nishiguchi, Ikuzo; Sugi, Seiki; Yamamoto, Yoshimasa; Tsuboi, Shigeru; Itoh, Kotaro,Chemical properties of a perfluoropolyether lubricant with functional groups of pentafluorobenzyl on hard disk media,Japanese Journal of Applied Physics, Part 1: Regular Papers, Short Notes & Review Papers ,2001年,40(5A),3349-3353
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 1/00−409/44
C07B 31/00− 61/00
C08G 65/00− 67/04
C10M101/00−177/00
C10N 40/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの、ベンゼン、ビフェニル、及びナフタレンから選択される芳香族部分[部分(A*)]を含む化合物[化合物(L)]であって、
− 部分(A*)の少なくとも2つの炭素原子がフルオロポリオキシアルキレン鎖[鎖(Rf)]で置換されており、各前記鎖(Rf)は、
a)主鎖にエーテル結合を有するフルオロカーボンセグメントと、
b)少なくとも1つのヒドロキシル基と、
を含み、
前記鎖(Rf)は、前記部分(A*)のsp2炭素原子と、前記sp2炭素原子と直接結合した少なくとも1つのヘテロ原子を含む架橋基[「基(B)」]を介して、結合されており、− 部分(A*)において、前記鎖(Rf)を有していない全ての炭素原子がフッ素原子を有する、
化合物[化合物(L)]。
【請求項2】
鎖(Rf)が繰り返し単位R°を含み、前記繰り返し単位が、
(i)−CFXO−(式中、XはFまたはCF3である)、
(ii)−CFXCFXO−(式中、Xは各存在において同じまたは異なり、FまたはCF3であるが、Xのうちの少なくとも1つは−Fであることを条件とする)、
(iii)−CF2CF2CW2O−(式中、Wのそれぞれは互いに同じまたは異なり、F、Cl、Hである)、
(iv)−CF2CF2CF2CF2O−、
(v)−(CF2)j−CFZ−O−(式中、jは、0〜3の整数であり、Zは、一般式−ORf’T3の基であり、Rf’は、0〜10の数の繰り返し単位を含むフルオロポリオキシアルキレン鎖であり、前記繰り返し単位は、−CFXO−、−CF2CFXO−、−CF2CF2CF2O−、−CF2CF2CF2CF2O−(各Xそれぞれは独立にFまたはCF3であり、T3はC1〜C3パーフルオロアルキル基である)から選択される)、
からなる群から選択される、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
鎖(Rf)が、以下の式(Rf−I)を満たす請求項2に記載の化合物:
(Rf−I)
−(CFX1O)g1(CFX2CFX3O)g2(CF2CF2CF2O)g3(CF2CF2CF2CF2O)g4−
(式中、
− X1、X2、及びX3は、互いに同じまたは異なり、各存在において独立して−F、−CF3であり、
− g1、g2、g3及びg4は、互いに同じまたは異なり、独立してg1+g2+g3+g4が2〜300の範囲にあるような0以上の整数であり、g1、g2、g3及びg4のうちの少なくとも2つは0とは異なるならば、異なる繰り返し単位は鎖に沿って概して統計的に分布する)。
【請求項4】
式:
の、請求項1〜3のいずれか一項に記載の化合物
(式中、
− A
*は
請求項1で定義した通りであり;
− Bは、部分(A
*)のsp
2炭素原子に直接結合した少なくとも1つの硫黄原子または酸素原子を含むC
1〜C
20の二価のアルキレン基であって、前記基は任意選択的にはフッ素化されており任意選択的には1つ以上のヒドロキシル基を含む基、並びに、芳香族部分(A
*)と2つのヘテロ原子を有する非芳香族環状部分とを含み各ヘテロ原子が部分(A
*)のsp
2炭素原子と直接結合している縮合環[環(R)]を部分(A
*)と共に形成する基、から選択される架橋基(B)であり;
− R
fは請求項2または3で定義した二価のフルオロポリオキシアル
キレン鎖(R
f)であり;
− Yは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含む、フッ素化されていてもよい炭化水素基であり;
− Gはフッ素原子であり;
− xは少なくとも1の整数であり;
− yは、架橋基(B)が上で定義した二価のアルキレン基の場合には1からz−xの範囲の整数であってzが部分(A
*)の炭素原子の数であり、架橋基(B)が上で定義した縮合環(R)を形成する場合には、部分(A
*)が多環芳香族部分または重縮合した芳香族部分の場合に架橋炭素原子の数をzから減らすことを条件として1からz−2xの範囲の整数である)。
【請求項5】
以下の化合物(L−1)〜(L−3)から選択される、請求項4に記載の化合物:
(式中、B、R
f、Y、G、x及びyは請求項4で定義した通りである)。
【請求項6】
以下の式(L−1
*)の、請求項5に記載の化合物:
(式中、B、R
f、及びYは請求項4で定義した通りであり、xは少なくとも1の整数であり、nは6−xである)。
【請求項7】
xが2〜4の範囲の整数である、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
以下から選択される、請求項7に記載の化合物:
− Bが−OCH2CF2O−であり、Yが−CF2CH2OHである、化合物(L−1*a);
− Bが−OCH2CH(OH)CH2OCH2CF2O−であり、Yが−CF2CH2OCH2CHOHCH2OHである、化合物(L−1*b);
− Bが−OCH2CF2O−であり、Yが−CF2CH2OCH2CHOHCH2OHである、化合物(L−1*c);
− Bが−OCH2CH(OH)CH2OCH2CF2O−であり、Yが−CF2CH2OHである、化合物(L−1*d);
(これらにおいて、
− 鎖(Rf)は以下の式(Rf−III):
(Rf−III)−O(CF2CF2O)a1(CF2O)a2−
を満たし、
− a1及びa2は、数平均分子量が400〜10,000の間であるような0より大きい整数であり、比a2/a1は概して0.1〜10の間に含まれ、
および
− xは2〜4の範囲であり、nは6−xである)。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の化合物の製造方法であって、パーフルオロ化単環式の、多環式の、または重縮合した芳香族化合物[化合物(A)]を、(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)ポリオール[PFPE(Ppol)]と反応させることを含む、方法。
【請求項10】
磁気記録媒体(MRM)用の潤滑剤組成物であって、請求項1〜8のいずれか一項で定義された1種以上の化合物(L)を、追加的な成分との混合物として含有する、潤滑剤組成物。
【請求項11】
請求項1〜8のいずれか一項で定義された1種以上の化合物(L)を使用することを含む、磁気記録媒体(MRM)を潤滑する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2014年5月16日に出願された欧州特許出願公開第14168571.9号の優先権を主張するものであり、この出願の全ての内容は、あらゆる目的のため参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本発明は、ヒドロキシル置換(パー)フルオロポリエーテル鎖を有する芳香族化合物、その製造方法、及びこれらの潤滑剤中での、特には磁気記録媒体(以降「MRM」)の部品の滑りまたは動きを潤滑するための潤滑剤中での、使用に関する。
【背景技術】
【0003】
(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)及びその誘導体は、MRMの部品の滑りまたは動きの潤滑で現在使用されている。特に、末端及び/または非末端極性官能基を有するPFPE鎖を含むある特定のPFPE誘導体は、最良の性能を示しており;事実、PFPE鎖の高い化学的安定性及び極性官能基の存在のために、このような誘導体は、MRMの可動部の表面上に均一な、薄い、長持ちする潤滑剤膜を形成することができる。特に、磁気ディスク表面は、通常は極性官能基によってしっかり接着されている炭素オーバーコートで被覆されており、それにより潤滑剤膜がディスクの回転中に振り落とされることが防止されている。例えば、米国特許出願公開第2007060487号明細書(HITACHI GLOBAL STORAGE TECHNOLOGIES)2007年3月15日には、末端または非末端ヒドロキシル基を有するPFPE鎖からなる潤滑剤が開示されている。
【0004】
MRMの潤滑のために好適なPFPE誘導体の中でも、少なくとも1つの中心ホスファゼン環を含み、前記環が1つ以上のヒドロキシル基を有する少なくとも1つのPFPE鎖で置換されている化合物を挙げることができる。ホスファゼン環は、熱的観点から非常に安定であり、PFPE鎖の安定性をさらに増加させる;理論に拘束されないが、ホスファゼン環は、典型的にはMRM中の不純物として存在するルイス酸によるPFPEの熱分解に対する触媒作用を弱めるルイス塩基として作用すると考えられる。そのような誘導体の例は、例えば米国特許出願公開第2002183211A号明細書(AKADA TAMIO ET AL)2002年5月12日、米国特許出願公開第2008020171A号明細書(MATSUMURA OIL RES CORP[JP])2006年1月26日、米国特許出願公開第2008305975号明細書(SEAGATE TECHNOLOGY LLC[US])2008年11月12日、国際公開第2007/043440A号パンフレット(MATSUMURA OIL RES CORP[JP])2007年4月19日、米国特許出願公開第2012276417A号明細書(WD MEDIA SINGAPORE PTE LTD)2007年4月19日、及び米国特許出願公開第2012251843A号明細書(SEAGATE TECHNOLOGY LLC[US])2012年10月4日の中に開示されている。
【0005】
MRMの潤滑のために開示されているPFPE誘導体の中でも、少なくとも1つのトリアジン中心環を含み、前記環が1つ以上のヒドロキシル基を有する少なくとも1つのPFPE鎖で置換されている化合物も挙げることができる。そのような誘導体の例は、例えば国際公開第2012/072532号パンフレット(SOLVAY SPECIALTY POLYMERS ITALY S.P.A.)2012年6月7日の中に開示されている。
【0006】
HARA,Hirokiらの、Chemical properties of Fomblin(R)perfluoropolyether lubricants with arylalkyl groups on hard−disk media.Tribology Letters.2001,vol.11,no.1,p.7−13には、式:−CF
2(OCF
2CF
2)
m(OCF
2)
nOCF
2−
(式中、鎖の各末端は以下に報告されている式を満たすものから選択される末端部分を有する)
のPFPE鎖を含むMRM用の潤滑剤が開示されている。この論文にはヒドロキシル基を有する潤滑剤について開示も示唆もなされていない。
【0007】
HARA,Hirokiらの、Chemical properties of a perfluoropolyether lubricant with functional groups of pentafluorobenzyl on hard disk media. Jpn.j.appl.phys.. 2001,vol.40,p.3349−3353には、ペンタフルオロベンジル官能基を主鎖の両端に有する、MRM用のパーフルオロポリエーテル潤滑剤(LUB−B)が開示されている。この論文にはヒドロキシル基を有する潤滑剤について開示も示唆もなされていない。
【0008】
KASAI,Paul Hらの、Disk lubricants for spontaneous Adsorption and Grafting to carbon Overcoat by UV Irradiation. Tribol Letter. 2010,no.38,p.241−251には、ヒドロキシル基を含むPFPE鎖を有するホスファゼン環を含むMRM用の潤滑剤と、式:
を満たす末端部分を含むパーフルオロポリエーテル鎖を含む潤滑剤の両方が開示されている。
【0009】
特開2009−270093号公報(MORESCO CORP)には、式(1)の化合物を含有する潤滑剤が開示されている
[HO−(CH
2−R
2−CH
2−O−A−O)
n−CH
2−R
2−CH
2−O−CH
2]
p−R
1(1)
(式中、nは0〜6であり、Aは−CH
2CH(OH)CH
2−によって表される基であり、R
1は式C
6H
6−p、C
6H
5−q−O−C
6H
5−r、及びC
10H
8−pの芳香族基であり、pは3〜6の整数であり、q及びrはそれぞれ0以上の整数かつp+q=rであり、R
2は−CF
2O(CF
2CF
2O)
x(CF
2O)
yCF
2−または−CF
2CF
2O(CF
2CF
2CF
2O)
zCF
2CF
2−であり、x及びyはそれぞれ0〜30の実数であり、zは1〜30の実数である)。しかし、この特許出願は、鎖R
2が−CH
2−基を介して前記芳香族部分に結合している芳香族部分を含む化合物を開示している。
【0010】
MRM技術(熱アシスト磁気記録方式、HAMR等)の持続的な発展の観点からは、潤滑するべき支持層との高い接着性及び優れた潤滑作用に加えて、炭素オーバーコート上に均一で薄い膜を形成することが可能であり、高い熱−酸化安定性も有する、MRM潤滑剤が未だ求められている。また、工業的スケールでこのような潤滑剤を製造するための便利な方法が提供されることも望まれるであろう。
【0011】
欧州特許出願公開第2100909A号明細書(SOLVAY SOLEXIS S.P.A)2009年9月16日には、特にはパーフルオロ化流体及び潤滑剤用の添加剤として好適な化合物が開示されている。化合物はパー(ハロ)フルオロ化芳香族化合物へのPFPEペルオキシドの付加生成物であり、PFPE鎖を含む少なくとも2つの置換基及び任意選択的には共役または非共役の二重結合を有する、少なくとも1つのパーフルオロ化非芳香族環状部分を含んでいる。しかしながら、PFPE鎖はヒドロキシル基を有しておらず、MRMの潤滑での使用は開示も示唆もなされていない。
【0012】
国際公開第2012/007374号パンフレット(SOLVAY SOLEXIS S.P.A.)2012年1月19日には、エラストマー組成物中で使用されるブロックコポリマーが開示されており、前記ポリマーは、1種以上のポリアルキレンセグメントと、1種以上のPFPEセグメントと、少なくとも2つのsp
3混成炭素原子でPFPE鎖と化学的に結合しており任意選択的には共役または非共役の二重結合も有する少なくとも1種のパー(ハロ)フッ化非芳香族環状部と、を含む。欧州特許出願公開第2100909号明細書と同様に、この出願にはヒドロキシル基を含むPFPEセグメントについて開示も示唆もなされておらず、またMRMの潤滑についての言及もなされていない。
【0013】
欧州特許出願第1354932A号明細書(SOLVAY SOLEXIS SPA)2003年10月22日には、2つの鎖末端を有し、各鎖末端がフェニル環を有し、前記フェニル環がニトロ基などのX基及びY基で置換されているPFPE鎖を含む、高温でのPFPEオイルのための安定剤が開示されている。この文献も、MRMの潤滑に関するものではなく、ヒドロキシル基を含むPFPE鎖についての教示も示唆もなされていない。
【0014】
欧州特許出願第1659165A(SOLVAY SOLEXIS S.P.A.)には、フッ化潤滑油及びグリース用の熱酸化に対する安定化剤として使用されるフッ化添加剤が開示されている。特に、本特許出願には、ニトロ基で置換された1つのピリジン環を鎖の中に含み、各末端基に2つのニトロ基で置換された1つの芳香環を含む(パー)フルオロポリエーテル誘導体が例示されている。しかし、芳香環が鎖の末端であり、(パー)フルオロポリエーテル鎖はヒドロキシル基を全く有していない。
【0015】
米国特許出願公開第2012/0190603号明細書(ASAHI GLASS COMPANY,LIMITED)には、1つのフッ化エーテル鎖で置換された芳香族部分を含むエーテル化合物が開示されている。しかし、芳香環が鎖の末端であり、フッ化エーテル鎖はヒドロキシル基を全く有していない。
【0016】
米国特許出願公開第2010/0261039号明細書(HOYA CORPORATION)には、基板と、少なくとも1つの磁気層と、炭素を主体とする保護層と、その構造中にパーフルオロポリエーテル主鎖を有し分子の末端に芳香族基を有する化合物を含む潤滑層と、を含む磁気ディスクが開示されている。しかしながら、芳香環は電子吸引性基で置換されていない。
【発明の概要】
【0017】
本出願人は、今回、
− 少なくとも1つのハロゲンと少なくとも1つの電子吸引性基を有する少なくとも1種の芳香族化合物[化合物(A)]を、
− 少なくとも1種の(パー)フルオロポリエーテル(PFPE)ポリオール[PFPE(P
pol)]と、
反応させることによって得られる化合物が、有利なことにはMRMのドメイン中で、特には炭素オーバーコートに対する接着性の点で、向上した潤滑作用を与え得ること、潤滑膜の厚さを薄くし得ること、及び熱酸化安定性を与え得ることを見出した。前記化合物(L)は、これらが工業的スケールで簡便に製造し得る点でも有利である。
【0018】
かくして、第1の態様では、本発明は、少なくとも1つの芳香族部分[部分(A
*)]を含む化合物[化合物(L)]であって、
− 部分(A
*)の少なくとも1つの炭素原子はフルオロポリオキシアルケン鎖[鎖(R
f)]で置換されており、前記鎖(R
f)は
a)主鎖中にエーテル結合を有するフルオロカーボンセグメントと、
b)少なくとも1つのヒドロキシル基とを有しており、
− 部分(A
*)の少なくとも他の1つの炭素原子は電子吸引性基で置換されている、
化合物(L)、並びに化合物(L)の混合物に関する。
【0019】
第2の態様では、本発明は化合物(L)の製造方法に関する。
【0020】
第3の態様では、本発明は化合物(L)の使用を含むMRMを潤滑する方法に関する。
【0021】
第4の態様では、本発明は1種以上の化合物(L)を他の成分との混合物として含む潤滑剤組成物[組成物(C)]に関する。
【0022】
第5の態様では、本発明は組成物(C)の製造方法に関する。
【0023】
第6の態様では、本発明は化合物(L)または組成物(C)を含むMRM(HAMR用のMRMを含む)に関する。
【0024】
一般的定義
本明細書の記述において、不定冠詞「a」は特段の指示がない限り「1つ以上」を意味することが意図されている。
【0025】
範囲が示されている場合、特段の指示がない限り範囲の両端は含まれる。
【0026】
「部分(A
*)の少なくとも1つの炭素原子がフルオロポリオキシアルケン鎖で置換されている」という表現は、以降で詳細に説明するように、部分(A
*)の少なくとも1つのsp
2炭素原子がこれに共有結合的に結合した鎖(R
f)を有することを意味する。
【0027】
「部分(A
*)の少なくとも1つの他の炭素原子が電子吸引正規で置換されている」という表現は、部分(A
*)の、鎖(R
f)と結合していない少なくとも1つのsp
2炭素原子がこれに共有結合的に結合している電子吸引性基を有することを意味する。
【0028】
用語「ハロゲン」はフッ素、塩素、臭素、またはヨウ素を意味し、好ましくはフッ素である。
【0029】
用語「電子吸引性基」は、メソメリー効果または誘起効果によって芳香族部分(A
*)から電子密度を引き寄せる原子または原子の基を意味することが意図されている。好ましくは、化合物(L)において、電子吸引性基は、ハロゲン、パーハロアルキル、またはニトロから独立に選択され、ハロゲンは上述の通りであり、「パーハロアルキル」は任意選択的に分岐していてもよい完全にハロゲン化された(ここでのハロゲン原子は上で定義した通りである)C
1〜C
6のアルキル基を意味する。好ましくは、「パーハロアルキル」はトリフルオロメチルである。
【0030】
用語「プロセス」及び「方法」は同義語とみなされる。
【0031】
頭字語「PFPE」は、(パー)フルオロポリエーエルを表し、名詞として使用される場合、文脈によって、単数形または複数形のいずれかを意味することが意図される。用語「(パー)フルオロポリエーテル」中の接頭辞「(パー)」は、フルオロポリエーテル中のポリオキシアルキレン鎖(R
f)が、完全にまたは部分的にフッ素化されていてもよいことを意味する。
【0032】
鎖(R
f)
本発明にかかる化合物(L)のフルオロポリオキシアルキレン鎖[鎖(R
f)]は、繰り返し単位R°を含み、前記繰り返し単位は以下からなる群から独立に選択される:
(i)−CFXO−(式中、XはFまたはCF
3である)、
(ii)−CFXCFXO−(式中、Xは各存在において同じまたは異なり、FまたはCF
3であるが、Xのうちの少なくとも1つは−Fであることを条件とする)、
(iii)−CF
2CF
2CW
2O−(式中、Wのそれぞれは互いに同じまたは異なり、F、Cl、Hである)、
(iv)−CF
2CF
2CF
2CF
2O−、
(v)−(CF
2)
j−CFZ−O−(式中、jは0〜3の整数であり、Zは一般式−OR
f’T
3の基であり、R
f’は、0〜10の数の繰り返し単位を含むフルオロポリオキシアルケン鎖であり、前記繰り返し単位は、−CFXO−、−CF
2CFXO−、−CF
2CF
2CF
2O−、−CF
2CF
2CF
2CF
2O−(各Xそれぞれは独立にFまたはCF
3であり、T
3はC
1〜C
3パーフルオロアルキル基である))。
【0033】
典型的には、鎖(R
f)は2つの鎖末端を有しており、これらのうちの1つは、以下で詳細に説明する、部分(A
*)のsp
2炭素原子に鎖(R
f)を結合させる架橋基[基(B)]を含み、他方は少なくとも1つのヒドロキシル基を含む末端基[基(Y)]を含む。少なくとも1つのヒドロキシル基は、部分(A
*)と鎖(R
f)を互いに結合する架橋基[基(B)]の中に含まれていてもよい。
【0034】
あるいは、更に、少なくとも1つのヒドロキシル基は鎖(R
f)に沿って存在し得る1つ以上の単位の中に含まれていてもよい。これらの中でも、特に以下の式(vi)〜(vii):
(vi)−CH(OH)−CH
2−OCH
2CF
2−;
(vii)−CH(OH)CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OCH
2CF
2−;
の単位を挙げることができる。
【0035】
好ましくは、鎖(R
f)は次式を満たす:
(R
f−I)
−(CFX
1O)
g1(CFX
2CFX
3O)
g2(CF
2CF
2CF
2O)
g3(CF
2CF
2CF
2CF
2O)
g4−
(式中、
−X
1、X
2、X
3は、互いに同じまたは異なり、及び各存在において独立して−F、−CF
3であり;
−g1、g2、g3及びg4は、互いに同じまたは異なり、独立してg1+g2+g3+g4が2〜300、好ましくは2〜100の範囲にあるような、0以上の整数であり;g1、g2、g3及びg4のうちの少なくとも2つが0と異なるならば、異なる繰り返し単位は鎖に沿って概して統計的に分布する)。
【0036】
より好ましくは、鎖(R
f)は、下記式の鎖から選択される:
(R
f−IIA)−(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2−
(式中、
− a1及びa2は、独立して、数平均分子量が400〜10,000の間、好ましくは400〜5,000の間であるような0以上の整数であり;a1とa2の両方が好ましくはゼロではなく、比a1/a2は好ましくは0.1〜10の間に含まれる);
(R
f−IIB)−(CF
2CF
2O)
b1(CF
2O)
b2(CF(CF
3)O)
b3(CF
2CF(CF
3)O)
b4−
(式中、
b1、b2、b3、b4は独立して、数平均分子量が400〜10,000の間、好ましくは400〜5,000の間であるような0以上の整数であり;好ましくは、b1は0であり、b2、b3、b4は0より大きく、比b4/(b2+b3)は1以上である);
(R
f−IIC)−(CF
2CF
2O)
c1(CF
2O)
c2(CF
2(CF
2)
cwCF
2O)
c3−
(式中、
cw=1または2であり、
c1、c2及びc3は、数平均分子量が400〜10,000の間、好ましくは400〜5,000の間であるように選択される0以上の整数であり;好ましくは、c1、c2及びc3は全て0より大きく、比c3/(c1+c2)は概して0.2より小さい);
(R
f−IID)−(CF
2CF(CF
3)O)
d−
(式中、
dは、数平均分子量が400〜10,000の間、好ましくは400〜5,000の間であるような0より大きい整数である);
(R
f−IIE)−(CF
2CF
2C(Hal)
2O)
e1−(CF
2CF
2CH
2O)
e2−(CF
2CF
2CH(Hal)O)
e3−
(式中、
− Halは、各存在において同じまたは異なり、フッ素原子及び塩素原子から選択されるハロゲンであり、好ましくはフッ素原子であり;
− e1、e2、及びe3は、互いに同じまたは異なり、独立して(e1+e2+e3)の和が2〜300の範囲に含まれるような0以上の整数である)。
【0037】
更に好ましくは、鎖(R
f)は下記式(R
f−III)を満たす:
(R
f−III)−(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2−
(式中、
− a1、及びa2は、数平均分子量が400〜10,000、好ましくは400〜5,000であるような、0より大きい整数であり、比a2/a1は概して0.1〜10、より好ましくは0.2〜5に含まれる)。
【0038】
化合物(L)
本発明にかかる化合物(L)は、好ましくは1つの芳香族部分(A
*)を含み、
− 部分(A
*)の少なくとも1つの炭素原子は
a)主鎖にエーテル結合を有するフルオロカーボンセグメントと、
b)少なくとも1つのヒドロキシル基と、
を含む鎖(R
f)で置換されており、
− 部分(A
*)の少なくとも1つの他の炭素原子は、好ましくはハロゲン、パーハロアルキル、またはニトロから独立に選択される電子吸引性基で置換されている。
【0039】
好ましくは、化合物(L)は少なくとも2つの鎖(R
f)を含む。
【0040】
より好ましくは、部分(A
*)中の鎖(R
f)を有さない全ての炭素原子[部分(A
*)が多環または多環縮合の芳香族部分である場合の架橋炭素原子は除く]がハロゲン原子を有する。ハロゲン原子は、好ましくはフッ素、塩素、及び臭素から独立に選択され、好ましくは全てのハロゲン原子はフッ素原子である。
【0041】
部分(A
*)は単環式であっても多環式であっても重縮合されていてもよい。好ましい部分(A
*)はベンゼン、ビフェニル、及びナフタレン部分である。より好ましくは、部分(A
*)はベンゼン部分である。更に好ましくは、部分(A
*)は、少なくとも1つのハロゲン原子、好ましくはフッ素原子を更に含むベンゼン部分である。最も好ましくは、部分(A
*)は、鎖(R
f)を有さない全ての炭素原子がフッ素原子を有するベンゼン部分である。
【0042】
化合物(L)において、各鎖(R
f)は、部分(A
*)のsp
2炭素原子と、前記sp
2炭素原子に直接結合した少なくとも1つのヘテロ原子を含む架橋基[「基(B)」]を介して結合している。典型的には、基(B)は、部分(A
*)のsp
2炭素原子に直接結合した少なくとも1つの硫黄原子または酸素原子を含むC
1〜C
20の二価のアルキレン基であって、前記基は任意選択的にはフッ素化されており、任意選択的には1つ以上のヒドロキシル基を含む、アルキレン基である。架橋基(B)は、芳香族部分(A
*)と2つのヘテロ原子を有する非芳香族環状部分とを含み各ヘテロ原子が部分(A
*)のsp
2炭素原子と直接結合している縮合環[環(R)]を、部分(A
*)と共に形成することもできる。環(R)の好ましい例は、下記式(R−1)及び(R−2)を満たす:
(式中、Gは上で定義した電子吸引性基である)。
【0043】
本発明にかかる化合物(L)は、次の一般式で表すことができる:
(式中、
− A
*は上で定義した芳香族部分[部分(A
*)]であり、
− Bは上で定義した架橋基(B)であり、
− R
fは上で定義した二価のフルオロポリオキシアルケン鎖(R
f)であり、
− Yは、少なくとも1つのヒドロキシル基を含む、フッ素化されていてもよい炭化水素基であり、
− Gは上で定義した電子吸引性基であり、
− xは少なくとも1の整数であり、
− yは、架橋基(B)が上で定義した二価のアルキレン基の場合には1からz−xの範囲の整数であってzが部分(A
*)の炭素原子の数であり、架橋基(B)が上で定義した縮合環(R)を形成する場合には、部分(A
*)が多環芳香族部分または重縮合した芳香族部分の場合に架橋炭素原子の数がzから減らされることを条件として1からz−2xの範囲の整数である)。
【0044】
好ましくは、Gはハロゲン原子、好ましくはフッ素であり、yは上で定義したようにz−xまたはz−2x、より好ましくはz−xである。
【0045】
本発明にかかる好ましい化合物(L)は下記一般式(L−1)〜(L−3)を満たす:
(式中、B、R
f、Y、G、x及びyは上で定義した通りであり、化合物(L−2)及び(L−3)において、基G及びB−R
f−Yは同じまたは異なるベンゼン環と結合していてもよいことが理解される)。
【0046】
好ましい化合物(L)は式(L−1)のものである。
【0047】
好ましくは、化合物(L−1)〜(L−3)において、Gはハロゲン原子であり、好ましくはフッ素原子である。好ましくは、化合物(L−1)〜(L−3)は少なくとも2つのB−R
f−Y基を有しており、これらはパーフルオロ化されている。すなわち、B−R
f−Yを有していない全ての炭素原子[(L−2)及び(L−3)中の架橋炭素原子を除く]がフッ素原子を有する。
【0048】
好ましくは、化合物(L−1)〜(L−3)において、鎖(R
f)は上で定義した式(R
f−IIA)〜(R
f−IIE)を満たす鎖(R
f)から選択され、より好ましくは、鎖(R
f)は上で定義した式(R
f−III)を満たす。
【0049】
架橋基Bの好ましい例は、下記式(viii)〜(xiv)を満たすものから選択される:
(viii)−(OCH
2CH
2)
nOCH
2XFCO−;
(ix)−(OCHCH
3CH
2)
nOCH
2XFCO−;
(x)−(OCH
2CH
2)
nOCH
2CF
2CF
2O−;
(xi)−(OCH
2CHOHCH
2)
n’OCH
2XFCO−;
(xii)−[OCH(CH
2OH)CH
2]
n’OCH
2XFCO−;
(xiii)−(OCH
2CHOHCH
2)
n’OCH
2CF
2CF
2O−;及び
(xiv)−[OCH(CH
2OH)CH
2]
n’OCH
2CF
2CF
2O−
(式中、XはFまたはCF
3であり、nは0〜5の範囲であり、n’は1〜3の範囲であり、
式(viii)〜(xiv)の左側の酸素原子は芳香族部分(A
*)のsp
2炭素原子と結合しており、右側の−CFXO−基または−CF
2O−基はフルオロポリオキシアルケン鎖と結合していることが理解される)。
【0050】
好ましくは、化合物(L−1)〜(L−3)において、架橋基(B)は、
− 式(viii)(式中、XはFであり、nは0、1及び2から選択され、より好ましくはnは0である)、または
− 式(xi)(式中、XはFであり、n’は1である)
を満たす。
【0051】
基Yの好ましい例は、次式(xv)〜(xix)を満たすものから独立に選択される:
(xv)−CFXCH
2O(CH
2CH
2O)
nH;
(xvi)−CFXCH
2O(CH
2CHCH
3O)
nH;
(xvii)−CF
2CF
2CH
2O(CH
2CH
2O)
nH;
(xviii)−CFXCH
2O(CH
2CHOHCH
2O)
n’H
及び
(xix)−CF
2CF
2CH
2O(CH
2CHOHCH
2O)
n’H
(式中、XはFまたはCF
3であり、n及びn’は上で定義した通りである)。
【0052】
好ましくは基Yは、
− 式(xv)(式中、XはFであり、nは0、1、及び2から選択され、より好ましくはnは0である)、または、
− 式(xviii)(式中、XはFであり、n’は1である)
を満たす。
【0053】
本発明にかかる最も好ましい化合物は、下記式(L−1
*)を満たす:
(式中、B、R
f及びYは上で定義した通りであり、xは少なくとも1、好ましくは2〜4の範囲の整数であり、nは6−xである)。
【0054】
特に好ましい化合物(L−1
*)は:
− 化合物(L−1
*a)(式中、Bは−OCH
2CF
2O−であり、鎖(R
f)は上で定義した式(R
f−III)を満たし、Yは−CF
2CH
2OHであり、xは2〜4の範囲であり、nは6−xである);
− 化合物(L−1
*b)(式中、Bは−OCH
2CH(OH)CH
2OCH
2CF
2O−であり、鎖(R
f)は上で定義した式R
f−III)を満たし、Yは−CF
2CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OHであり、xは2〜4の範囲であり、nは6−xである);
− 化合物(L−1
*c)(式中、Bは−OCH
2CF
2O−であり、鎖(R
f)は上で定義した式(R
f−III)を満たし、Yは−CF
2CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OHであり、xは2〜4の範囲であり、nは6−xである);
− 化合物(L−1
*d)(式中、Bは−OCH
2CH(OH)CH
2OCH
2CF
2O−であり、鎖(R
f)は上で定義した式(R
f−III)を満たし、Yは−CF
2CH
2OHであり、xは2〜4の範囲であり、nは6−xである);
として以降言及されるものである。
【0055】
化合物(L)の製造方法
本発明にかかる化合物(L)は、上で定義した少なくとも1つのハロゲン及び上で定義した少なくとも1つの電子吸引性基を有する芳香族化合物[化合物(A)]を、PFPEポリオール[PFPE(P
pol)]と反応させることによって簡便に製造することができる。
【0056】
好ましくは、化合物(A)において、ハロゲンはフッ素であり、電子吸引性基もハロゲン、好ましくはフッ素である。より好ましくは、化合物(A)はパーハロゲン化されており、より好ましくはパーフルオロ化されている。
【0057】
芳香族化合物(A)は、単環式、多環式、または重縮合環式であってもよい。好ましい化合物(A)は、パーハロゲン化されたベンゼン、ビフェニル及びナフタレンであり、最も好ましい化合物(A)はパーフルオロベンゼン、パーフルオロビフェニル及びパーフルオロナフタレンである。更に好ましくは、化合物(A)はパーフルオロベンゼンである。
【0058】
本明細書の記載においては、(PFPE)ポリオール[PFPE(P
pol)]は、フルオロポリオキシアルキレン鎖(R
f)と少なくとも2つのヒドロキシル基を含む化合物を意味する。好ましくは、PFPE(P
pol)は、2つの鎖末端を有し各鎖末端が少なくとも1つのヒドロキシル基を含むフルオロポリオキシアルキレン鎖(R
f)を含む。少なくとも1つのヒドロキシル基を含む鎖末端の好ましい例は、上で定義した式(xv)〜(xix)を満たすものである。好ましいPFPE(P
pol)には、各鎖末端が少なくとも1つのヒドロキシル基を含み、鎖(R
f)に沿っても1つ以上のヒドロキシル基を含むものも含まれる。ヒドロキシル基が鎖(R
f)に沿って含まれる場合、それらは好ましくは上で定義した式(vi)または(vii)のうちの1つ以上を満たす単位の部分である。
【0059】
好ましいPFPE(P
pol)は、以下の式(II)を満たす:
Y−O−R
f−Y (II)
(式中、R
fは上で定義したフルオロポリオキシアルキレン鎖であり、各Yは独立に少なくとも1つのヒドロキシル基を含む炭化水素基を表し、前記炭化水素基は任意選択的にはフッ素化されている、及び/または、任意選択的に1つ以上のヘテロ原子を含む)。
【0060】
上で示されている鎖(R
f)の好ましい定義は、好ましい(P
pol)の式(II)に適用される。
【0061】
式(II)において、好ましい基Yは上で定義した式(xv)〜(xix)を満たすものから選択される。
【0062】
好ましくは、基Yは、互いに同じまたは異なり、以下のいずれか1つから選択される:
−CFXCH
2O(CH
2CH
2O)
nH及び−CF
2CF
2CH
2O(CH
2CH
2O)
nH(式中、Xは、FまたはCF
3であり、nは、0〜5の範囲である);
−CFXCH
2O(CH
2CHOHCH
2O)
n’H及び−CF
2CF
2CH
2O(CH
2CHOHCH
2O)
n’H(式中、XはFまたはCF
3であり、n’は、1〜3の範囲である)。
【0063】
より好ましくは、基Yは、互いに同じまたは異なり、−CF
2CH
2O(CH
2CH
2O)
nH(式中、nは、0〜2の範囲である)、及び−CF
2CH
2OCH
2CHOHCH
2OHから選択される。
【0064】
式(II)の特に好ましいPFPE(P
pol)は、鎖(R
f)が上で定義した通りの式(R
f−III)の鎖であり、基Yは互いに同じまたは異なり、−CF
2CH
2O(CH
2CH
2O)
nH(nは0〜2の範囲である)及び−CF
2CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OHから選択されるものである。式(II)の特に好ましいPFPE(P
pol)のこの基のうちで、400〜3,000の範囲の分子量を有するものが特に好ましい。
【0065】
更に好ましいのは、以下のPFPE(P
pol)である:
1)PFPE(P
pol)−(IIA)(式中、(R
f)は、上で定義した通りの式(R
f−III)の鎖であり、両方の基Yは、式−CF
2CH
2O(CH
2CH
2O)
nHを満たし、nは上で定義した通りであり、好ましくはnは0、すなわちYが−CF
2CH
2OH基である[以下において、(P
pol−IIA)は「PFPEジオールIIA」または「(P
diol−IIA)」とも呼ばれる]);
2)PFPE(P
pol)−(IIB)(式中、(R
f)は上で定義した通りの式(R
f−III)の鎖であり、両方の基Yは、式−CF
2CH
2OCH
2CHOHCH
2OHを満たす(以下において、「PFPEテトラオール(IIB)」または「(P
tetraol−IIB)」とも呼ばれる));
3)PFPE(P
pol−IIC)(式中、(R
f)は上で定義した通りの式(R
f−III)の鎖であり、Yの1つは−CF
2CH
2OH基であり、もう1つは式−CF
2CH
2OCH
2CHOHCH
2OHの基である(以下において、「PFPEトリオールIIC」または「(P
triol−IIC)」とも呼ばれる))。
【0066】
本発明の方法においては、1種以上のPFPE(P
pol)、好ましくは1種以上の式(II)のPFPE(P
pol)を使用することができる。好ましくは、式(P
pol−IIA)〜(P
pol−IIC)のPFPE(P
pol)の混合物を使用することができる。
【0067】
PFPEジオール(IIA)は、Solvay Specialty Polymers Italyから購入可能であり、あるいは適切にこれらの−OH官能化度を上げるため及び望ましい平均分子量周辺にこれらの分子量分布を狭める(すなわちこれらの多分散指数M
w/M
nを下げる)ために、このような製品を複数回蒸留及び精製することによって得ることができる。PFPE(P
tetraols−IIB)は、欧州特許出願公開第2197939A号明細書(SOLVAY SOLEXIS S.P.A.)2010年6月23日(参照により本明細書に援用される)に開示されているように、(P
diol−IIA)を、活性化された及び保護された形態(以降「APG」という)の式:
のグリセリンと反応させ、次いで保護基を外すことを含む方法によって簡便に合成することができる。欧州特許出願公開第2197939号明細書に開示されている保護基及び活性化基は、本発明の目的にとって好ましい。
【0068】
欧州特許出願公開第2197939号明細書に開示されている手順は、(P
diol−IIA)とAPGとの反応によって(P
diol−IIA)のヒドロキシル末端基が対応する保護されたジオール末端基に100%変換されない場合には、本発明で使用されるPFPE(P
pol−IIA)〜(P
pol−IIC)の混合物を簡便に製造することもできる。特に、Solketal[(2,2−ジメチル−1,3−ジオキソラン−4−イル)メタノール]のメシル誘導体とPFPE(P
diol)−(IIA)との反応を含む欧州特許出願公開第2197939号明細書の実施例1の手順に従うことで、及び100%より低い変換まで反応を進行させることによって、混合物は、
− 未反応(P
diol−IIA)、
− PFPE(P
triol−IIC)(式−CF
2CH
2OCH
2CHOHCH
2OHのY基中の2個のヒドロキシ基は、イソプロピリデンケタールで保護されている)、及び
− PFPEポリオール[PFPE(P
tetraol−IIB)](式−CF
2CH
2OCH
2CHOHCH
2OHの両方のY基中の2個のヒドロキシル基は、イソプロピリデンケタールで保護されている)
を含有する。
【0069】
本発明にかかる方法は、PFPE(P
pol)による化合物(A)の求核芳香族置換によって進行する。反応を生じさせるために、(P
pol)を炭酸塩、ter−ブチラート、または水酸化物などの塩基で処理することで、少なくとも1つのヒドロキシル基が塩の形態された対応するPFPE(P
pol)が得られる[以降「塩形態のPFPE(P
pol)」という]。好ましい塩基としては、Na
2CO
3及びK
2CO
3、Kter−ブチラート、NaOH及びKOHが挙げられる。1つの部分(A
*)を含む化合物(L)の合成に関し、塩の形成は1つの−OH基のみが塩を形成している塩形態のPFPE(P
pol)が最大となるように、限定的に行われる。そのような過剰のPFPE(P
pol)での合成を行うことは、2つ以上の芳香族部分(A
*)を含む化合物(L)の生成を最小限にすることに役立つ。
【0070】
逆に、2つ以上の芳香族部分(A
*)を含む化合物(L)を得ることが望ましい場合、塩の形成は2つ以上の−OH基が塩の形態にされたPFPE(P
pol)が最大になるような方法で行われる。
【0071】
化合物(A)とPFPE(P
pol)の相互の量は、選択した化合物(A)及びPFPE(P
pol)によって、当業者により選択されるであろう。特に上で定義した好ましい化合物(L−1
*)の製造に関しては、方法は、相互の量がモル基準で少なくとも2で、塩形態のPFPE(P
pol)とヘキサフルオロベンゼン(HFB)を用いて行われる。
【0072】
反応は、典型的にはフッ素化された溶媒、部分的にフッ素化された溶媒、または非プロトン性極性水素化溶媒から選択される溶媒中で、好ましくはアセトニトリル、ヘキサフルオロキシレン[1,3−ビス−(トリフルオロメチル)ベンゼン;以降「HFX]及びテトラエチレングリコールジメチルエーテル(テトラグリム)から選択される溶媒中で、40℃〜120℃の温度で、典型的には4時間〜16時間の反応時間で行われる。
【0073】
反応終了時、化合物(L)を含み任意選択的には未反応の塩形態のPFPE(P
pol)も含む混合物(M
reac)が得られる。典型的には、混合物は多くの混合物(L)、すなわちベンゼン部分の中の少なくとも1つのヒドロキシル基を含む鎖(R
f)で置換されたsp
2炭素原子の数が互いに異なる化合物を含む。典型的には、化合物(L−1
*)の製造においては、混合物は少なくとも1つのヒドロキシル基を含む鎖(R
f)で2、3または4個の炭素原子が置換されている化合物を含む。
【0074】
PFPE(P
pol)の混合物が反応で使用される場合、(M
reac)は異なる未反応の塩形態のポリオール(P
pol)を含む場合があり、また少なくとも1つのヒドロキシル基を含む鎖(R
f)であって同じベンゼン環の異なる炭素原子に結合している鎖が異なる化合物(L)も含む場合がある。更に、芳香族部分(A
*)を1つだけ含む化合物(L)の合成においては、混合物(M
reac)は、一定量のより多い部分(A
*)を含む化合物(L)も含む場合がある。これは同じ(R
f)鎖中に含まれる塩形態にされた2つのヒドロキシル基と2つの化合物(A)との反応によって生じる。
【0075】
反応の完結後、塩形態のOH基を中和するために混合物(M
reac)に対して酸処理が行われ(必要な場合)、全ての保護基が外され、その後、あらゆる未反応のPFPE(P
pol)を取り除いて混合物中に含まれる化合物(L)または化合物群(L)を回収するために分別される。
【0076】
典型的には、中和された混合物(M
reac)の分別は、当該技術分野で公知の手順に従って、薄層蒸留及び/または超臨界CO
2(scCO
2)を用いた分別及び/またはクロマトグラフ法によって行われる。典型的には、分別技術によって化合物(L)の混合物[(混合物(M)]を含有するフラクションを回収することができる。それぞれの望ましい化合物(L)の量を増加させるために、このような混合物に対して分別サイクルを追加的に行うこともできる。特に、scCO
2を用いた分別は、二置換された種の量が低減された混合物(M)を得るために、xが2より大きい化合物(L)の製造において都合よく利用することができる。
【0077】
化合物(L)と混合物(M)は、熱アシスト磁気記録方式で使用される媒体を含む、MRM用の潤滑剤として使用することができる。
【0078】
したがって、本発明の更なる目的は、化合物(L)を使用することを含むMRM(熱アシスト記録媒体を含む)の潤滑方法である。
【0079】
化合物(L)またはその混合物は、そのままで使用することもでき、MRMの潤滑のための組成物中で典型的に使用されている追加的な成分との混合物として使用することもできる。そのような追加的な成分の例は、Fomblin(登録商標)Z DOL PFPE、Fomblin(登録商標)Z Tetraol 2000S PFPE、Fomblin(登録商標)Z Tetraol GT PFPEなどの潤滑剤、及び当該技術分野で公知の他のMRM用潤滑剤である。
【0080】
したがって、本発明は、1種以上の化合物(L)と追加的な潤滑剤もしくは成分との混合物を含有する潤滑剤組成物[組成物(C)]、及び、1種以上の化合物(L)と追加的な潤滑剤もしくは成分とを混合することを含む組成物(C)の製造方法に関する。
【0081】
本発明の更なる目的は、1種以上の化合物(L)または組成物(C)を含む、HAMR用のMRMを含むMRMである。
【0082】
参照により本明細書に援用される特許、特許出願、及び刊行物のいずれかの開示が用語を不明瞭にさせ得る程度まで本出願の記載と矛盾する場合、本記載を優先するものとする。
【0083】
本発明は、以下の実験項に含まれる実施例によって、以降でより詳しく説明される。実施例は例示に過ぎず、本発明の範囲を限定するものとして解釈すべきではない。
【実施例】
【0084】
原料及び方法
原材料
実施例1及び2で使用したPFPE(P
pol)−(IIA)は、式:
HO−CH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2CF
2CH
2−OH
を満たし、EW=515であり、f=1.994であり、a1/a2=0.95であり、多分散指数M
w/M
n=1.08である。
【0085】
実施例3で使用したPFPE(P
pol)−(IIA)は、式:
H(OCH
2CH
2)
nOCH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2CF
2CH
2O(CH
2CH
2O)
nH
を満たし、EW=621であり、n=1.5であり、a1/a2=0.9であり、a1及びa2はM
n=1224になるように選択され、多分散指数M
w/M
n=1.10である。
【0086】
実施例4で使用したPFPE(P
pol)−(IIA)は、式:
HO−CH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2CF
2CH
2−OH
を満たし、EW=541であり、f=1.956であり、a1/a2=1.0であり、多分散指数M
w/M
n=1.10である。
【0087】
これらのPFPE(P
pol)は、Solvay Specialty Polymers Italyから商業的に入手可能な製品を多段階蒸留及び精製することによって得ることができる。
【0088】
Solketalのメシル誘導体は欧州特許出願第2197939号明細書の実施例1の手順(工程1)に従って合成され、これにはSolketalのメタンスルホニルクロリドとの反応が含まれる。
【0089】
ヘキサフルオロベンゼン(HFB)は、Sigma−Aldrich(登録商標)から入手してそのまま使用した。
【0090】
1,3−ヘキサフルオロキシレン(HFX)は、Miteni S.p.A.から入手してそのまま使用した。
【0091】
HCl、KOH、イソブタノール及びメタノールは、Sigma−Aldrich(登録商標)から入手した。
【0092】
方法
NMR分光法
19F及び
13C NMRスペクトルは、
13Cに関しては125.70MHzで作動し、
19Fに関しては470.30MHzで作動するAgilent(登録商標)System 500を用いて、無溶媒の試料について60℃で記録した。
【0093】
超臨界CO
2(scCO
2)を用いた分取
scCO
2を用いた分取は、300mlのSFT−150超臨界CO
2抽出システムを用いて行った。
【0094】
実施例1
工程1−Solketalのメシル誘導体とPFPE(P
pol)−(IIA)との反応
窒素雰囲気下、600gの式HO−CH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2CF
2CH
2−OHの(P
pol)−(IIA)
(EW=515、f=1.994、a1/a2=0.95 1165meq)と、367gのSolketalメシル誘導体(1748meq)と、600gのHFXを、メカニカルスターラー、温度計及び冷却剤を備えた2リットルの四口丸底フラスコの中に入れた。その後、室温で撹拌しながら100gのKOH粉末(85重量%、1518meq)を添加し、この混合物を、撹拌した状態のまま外浴で70℃まで加熱し、室温まで冷却した後に
19F−NMRを用いて変換率を随時管理した。7時間後、変換率は78%であり、反応を停止した。得られた混合物を蒸留水(500g)及びイソブタノール(100g)で2回洗浄することで2つの相を得、相の分離後、下の有機層を集め、減圧下で蒸留することによって溶媒を除去した。メタノール(158g)と蒸留水(10g)を用いた追加的な水性アルコール洗浄、相の分離、及び溶媒の除去の後、677gのPFPEポリオール混合物を得た。この混合物は、次の化学構造によって概略的に表すことができる:
(M1) EO−CH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2CF
2CH
2−OE
(式中、22モル%の基Eが水素を表し、残りの78モル%の基Eが次式を満たす)。
【0095】
工程2−工程1の混合物とヘキサフルオロベンゼンとの反応
窒素雰囲気下、2.83gのHFB(C
6F
6、15.2mmol、91.3meq)、230gのアセトニトリル(CH
3CN)及び463gの工程1の混合物(等価ヒドロキシル重量EW=2644g/eq、175.1meq)を、メカニカルスターラー、温度計、及び冷却剤を備えた1リットルの四口丸底フラスコの中に入れた。その後、室温で撹拌しながら6.6gのKOH粉末(85重量%、100.2meq)を添加し、得られた混合物を撹拌した状態のまま外浴で80℃まで加熱した。8時間反応させた後(その間にKFの析出が生じた)、反応混合物を室温まで冷却し、撹拌下、更に6.6gのKOH粉末(85重量%)を添加した。更に8時間80℃に加熱した後、反応混合物を室温まで冷却し、撹拌下、更に6.6gのKOH粉末(85重量%)を添加した。8時間80℃に加熱した後、反応を停止して得られた混合物を室温まで冷却した。
【0096】
工程3−工程2で得られた混合物の加水分解及び脱保護
工程2の終わりに得られた混合物に最初に272gの蒸留水を添加し、次いで212gの2重量%HCl水溶液を添加した。2つの相の形成が観察された。毎回2つの相を激しく振とうし、分離後、下の有機層を集めた。次いで、粗生成物に120gのメタノール及び75gの7.5重量%HCl水溶液を添加し、その後、70℃に加熱し、3時間撹拌し、保護基を完全に除去した。相の分離後、下の有機層を集め、減圧下、80℃で蒸留することによって溶媒を除去することで粗生成物(423g)を得た。これは
19F−NMR及び
13C−NMRによってキャラクタリゼーションされた。残留物のモル組成は次の通りである:
−36.7%の式:
のパラ−二置換生成物、及び
−56.1%の式:
の三置換生成物、
−及び7.2%の次の構造:
の四置換生成物
(式中、R
f=(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2である)。
【0097】
パラ−二置換生成物の
19F−NMRスペクトル(無溶媒試料)δ(ppm):−CF
2CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OH−78.0及び−80.0;−CF
2CH
2OC
Ar−78.9及び−80.9;C
Ar−F−158.1。
【0098】
三置換生成物の
19F−NMRスペクトル(無溶媒試料)δ(ppm):CF
2CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OH−78.0及び−80.0;−CF
2CH
2OC
Ar−78.9及び−80.9;C
Ar−F−150.6,−156.4及び−157.7。
【0099】
四置換生成物の
19F−NMRスペクトル(無溶媒試料)δ(ppm):CF
2CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OH−78.0及び−80.0;−CF
2CH
2OC
Ar−78.9及び−80.9;C
Ar−F−150.3。
【0100】
工程4−工程3で得られた残留物の薄層蒸留
工程3で得られた残留物に対してそれぞれ200℃/2.2Pa及び250℃/1.3Paでの2つの経路の薄層蒸留を行い、全ての未反応のPFPEポリオールを除去した。89.3重量%に相当する2つのフラクションが取り除かれ、45gの高沸点の低揮発性残留物が残った。これは
19F−NMR及び
13C−NMRによってキャラクタリゼーションされた。残留物のモル組成は次の通りである:
− 22.9%のパラ−二置換生成物;
− 63.7%の三置換生成物;
− 及び13.4%の四置換生成物。
これは、三置換生成物及び四置換生成物の割合が増加する一方で、真空蒸留の際にパラ−二置換生成物が減少することを示している。
【0101】
工程5−超臨界二酸化炭素(scCO
2)を用いた工程4の残留物の分取
工程4で得られた残留物を、4Nl/分のCO
2流速で作動する300mlのSFT−150超臨界CO
2抽出システムの中に入れ、100℃で加熱し、段階的に圧力を上げることによって(19〜35MPa)分取した。より多くの(フルオロ)ベンゼン部分を含む化合物が高圧で選択的に集められた一方で、全ての残留未反応PFPE(P
pol)は低圧のscCO
2で容易に除去された。各フラクションは
19F−NMR及び
13C−NMRでキャラクタリゼーションされた。特に、全ての残留未反応PFPE(P
pol)が除去されて1つの芳香族部分のみを含むフラクションは、−CF
2CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OHのシグナル(−78.0及び−80.0ppm)と−CF
2CH
2OC
Arのシグナル(−78.9及び−80.9ppm)の比が1であることから、
19F−NMRで容易に同定される。分別時、パラ−二置換、三置換及び四置換の生成物に関する混合物の組成は、scCO
2中での異なる化合物の溶解性によって変化した。具体的には、最初のフラクションではごく少量であった四置換生成物の割合が最後のフラクションでは25%まで増加する一方で、パラ−二置換生成物の割合は61.6%から8.5%へと減少し、三置換生成物の割合は38.4%から77.2%へと増加した。例えば、分取が行われる残留物の14重量%に相当するフラクション7は、次のモル組成:
− 10.5%のパラ−二置換生成物、
− 78.3%の三置換生成物、及び
− 11.2%の四置換生成物
を有しており、これは6.0の平均−OH官能化度に相当する。
【0102】
実施例2
工程1−PFPE(P
pol)−(IIA)の塩形成
822.3gの式:HO−CH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2CF
2CH
2−OH
(EW=515、f=1.994、a1/a2=0.95、1596.7meq)のPFPE(Ppol)−(IIA)を、
メカニカルスターラー、滴下漏斗、温度計及び冷却剤を備えた1リットルの丸底フラスコの中に入れ、次いで23.8gのKOH(212.1meq;50%水溶液)を添加する。混合物を撹拌下、加熱して80℃に維持し、その後水の脱離が完結するまで、塩形態の(P
pol)−(IIA)の透明な溶液が得られるまで、メカニカルポンプで真空にする。
【0103】
工程2−塩形態の(P
pol)−(IIA)とヘキサフルオロベンゼンとの反応
別のフラスコに、窒素雰囲気下、3.0gのHFB(C
6F
6、16.1mmol、96.7meq)を135gのアセトニトリルに溶解させ、得られた溶液を滴下漏斗に入れ、撹拌した状態の工程1からの溶液に80℃で5時間かけてゆっくり添加する。8時間後(その間にKFの析出が生じた)、反応を停止し、得られた混合物を室温まで冷却する。
【0104】
工程3−工程2で得られた混合物の加水分解
工程2で得られた混合物に214gの蒸留水、24gの37重量%HCl水溶液及び35gのイソブチルアルコールを添加する。得られた2相を50℃で30分間激しく撹拌し、分離後、下側の有機層を集める。その後、減圧下、80℃で蒸留することによって溶媒を除去し、大量の未反応PFPE(P
pol)−(IIA)を含有する860gの粗生成物を得る。
【0105】
工程4−工程3の粗生成物の薄層蒸留
薄層蒸留によって2つの経路でほとんどの未反応PFPE(P
pol)−(IIA)が取り除かれ、120gの高沸点の低揮発性残留物が残る。これは
19F−NMR及び
1H−NMRによってキャラクタリゼーションされる。そのモル組成は次の通りである:
−29%の式:
のパラ−二置換生成物;
− 59%の式:
の三置換生成物;
− 及び12%の式:
の四置換生成物
(式中R
f=(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2である)。
【0106】
工程5−超臨界二酸化炭素(scCO
2)を用いた工程4の粗生成物の分取
実施例4の粗生成物を、4Nl/分のCO
2流速で作動する300mlのSFT−150超臨界CO
2抽出システムの中に入れ、100℃で加熱し、段階的に圧力を上げることによって(10〜35MPa)分取する。より多くの(フルオロ)ベンゼン部分を含む化合物が高圧で選択的に集められる一方で、全ての残留未反応PFPE(P
pol)−(IIA)は低圧のscCO
2で除去される。各フラクションは
19F−NMR及び
13C−NMRでキャラクタリゼーションされる。分別時、パラ−二置換、三置換、及び四置換の生成物に関しての組成は、scCO
2中での異なる化合物の溶解性によって変化する。具体的には、最初のフラクションではごく少量である四置換生成物の割合が最後のフラクションでは18%まで増加する一方で、パラ−二置換生成物の割合は65からごく少量まで減少し、三置換生成物の割合は35から82%へと増加する。したがって、scCO
2によるポリオール混合物の分別によって、二置換、三置換、及び四置換の環に関して異なる組成を有するフラクションを分離することが可能である。この実施例は、二置換種の量を減らして混合物の平均アルコール官能化度を上げるためにこの手法を適用できることを示している。
【0107】
実施例3
工程1−PFPE(P
pol)−(IIA)の塩形成
925.3gの式:
H(OCH
2CH
2)
nOCH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2CF
2CH
2O(CH
2CH
2O)
nH
(EW=621、1490.0meq、n=1.5、a1/a2=0.9であり、a1及びa2はM
n=1224となるように選択される)
のPFPE(Ppol)−(IIA)を、メカニカルスターラー、滴下漏斗、温度計、及び冷却剤を備えた1リットルの丸底フラスコの中に入れ、次いで22.3gのKOH(198.7meq;50%水溶液)を添加する。混合物を撹拌下、加熱して80℃に維持し、その後水の脱離が完結するまで、及びPFPE(P
pol)−(IIA)のカリウム塩を含む透明な溶液が得られるまで、メカニカルポンプで真空にする。
【0108】
工程2−PFPE(P
pol)−(IIA)のカリウム塩とHFBとの反応
別のフラスコの中で、窒素雰囲気下、2.8gのHFB(15.0mmol、90.3meq)を126gのアセトニトリルに溶解させ、この溶液を滴下漏斗に注入し、撹拌した状態の工程1からの溶液に80℃で5時間かけてゆっくり添加する。8時間反応させた後(その間にKFの析出が生じる)、反応を停止し、混合物を室温まで冷却する。
【0109】
工程3−工程2で得られた混合物の加水分解
工程1で得られた混合物に241gの蒸留水、27gの37重量%HCl水溶液及び39gのイソブチルアルコールを添加する。得られた2相を50℃で30分間激しく撹拌し、分離後、下側の有機層を集める。その後、減圧下、80℃で蒸留することによって溶媒を除去し、大量の未反応PFPE(P
pol)−(IIA)を含む968gの粗生成物を得る。
【0110】
工程4−工程3の粗生成物の薄層蒸留
薄層蒸留によって2つの経路でほとんどのPFPE(P
pol)−(IIA)が取り除かれ、135gの高沸点の低揮発性残留物が残る。これは
19F−NMR及び
1H−NMRによってキャラクタリゼーションされる。そのモル組成は次の通りである:
− 30%の式:
のパラ−二置換生成物;
− 60%の式:
の三置換生成物;
及び
−10%の式:
の四置換生成物
(式中、R
f=(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2であり、n=1.5である)。
【0111】
工程5−scCO
2を用いた工程4の残留物の分取
混合物(M3)を、4Nl/分のCO
2流速で作動する300mlのSFT−150超臨界CO
2抽出システムの中に入れ、100℃で加熱し、段階的に圧力を上げることによって(10〜35MPa)分取する。より多くの(フルオロ)ベンゼン部分を含む化合物が高圧で選択的に集められる一方で、全ての残留未反応PFPE(P
pol)−(IIA)は低圧のscCO
2で除去される。各フラクションは
19F−NMR及び
13C−NMRによってキャラクタリゼーションされる。分取時、パラ−二置換、三置換及び四置換の生成物に関しての混合物組成は、scCO
2中での異なる種の溶解性によって変化する。具体的には、最初のフラクションではごく少量であった四置換生成物の割合が最後のフラクションでは15%まで増加する一方で、パラ−二置換生成物の割合は70からごく少量まで減少し、三置換生成物の割合は30から85%へと増加する。したがって、scCO
2を用いた分別によって、二置換、三置換、及び四置換の環に関して異なる組成を有するフラクションを分離することが可能である。
【0112】
実施例4
工程1−(P
pol)−(IIA)〜(P
pol)−(IIC)の混合物を得るための、Solketalのメシル誘導体とPFPE(P
pol)−(IIA)との反応
窒素雰囲気下、メカニカルスターラー、温度計及び冷却剤を備えた2リットルの四口丸底フラスコの中に、600gの式HO−CH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2CF
2CH
2−OH
(EW=541、f=1.956、a1/a2=1.0、1109meq)
の(Ppol)−(IIA)、100gのSolketalメシル誘導体(476meq)、及び600gの1,3−ヘキサフルオロキシレン(HFX)を入れる。次いで、30gのKOH粉末(85重量%、454meq)を室温で撹拌しながら添加し、この混合物を撹拌したまま外浴で70℃まで加熱する。変換率は、取り出した試料を室温まで冷却した後に
19F−NMRによって随時管理する。5時間後の反応変換率は30%であり、反応を停止する。得られた混合物を蒸留水(それぞれ200及び120g)で2回洗浄し、相の分離後、下の有機層を集める。減圧下で蒸留することによって溶媒を除去した後、647gのケタールで保護されたPFPE(P
pol)(IIA)〜(IIC)の混合物が得られる。この混合物は、次の化学構造によって概略的に表すことができる:
XO−CH
2CF
2O(CF
2CF
2O)
a1(CF
2O)
a2CF
2CH
2−OX
(式中、X=−H(モル基準で全末端基の66.8%)または次の基である)。
【0113】
工程2−工程2からの混合物の塩形成
工程1からのケタールで保護されたPFPE(P
pol)−(IIA)〜(P
pol)−(IIC)の混合物635g(ヒドロキシルEW=843、753.3meq)を、メカニカルスターラー、滴下漏斗、温度計及び冷却剤を備えた1リットルの丸底フラスコの中に入れ、次いで22.4gのKOH(199.6meq;50%水溶液)を添加する。混合物を撹拌下、加熱して80℃に維持し、その後水の脱離が完結するまでメカニカルポンプで真空にし、それによって透明な溶液を得る。
【0114】
工程3−工程3からの塩形態の混合物とHFBとの反応
別のフラスコに、窒素雰囲気下、2.8gのHFB(15.0mmol、90.3meq)を126gのアセトニトリルに溶解させ、この溶液を滴下漏斗に注入し、工程2からの撹拌した状態の溶液に80℃で5時間かけて徐々に添加する。8時間後(その間にKFの析出が生じた)、反応を停止し、混合物を室温まで冷却する。
【0115】
工程4−工程3からの混合物の加水分解
工程3で得られた混合物に、78gの蒸留水、200gのメタノール及び37gの37重量%HCl水溶液を添加する。その後、粗生成物を70℃で加熱し、3時間撹拌して保護基を完全に外す。相が分離した後、下の有機層を集め、減圧下、80℃で蒸留することによって溶媒を除去することで603gの粗生成物を得る。
【0116】
工程5−工程3からの粗生成物の薄層蒸留
薄層蒸留によって2つの経路でほとんどの未反応PFPE(P
pol)−(IIA)〜(P
pol)−(IIC)が取り除かれ、85gの高沸点の低揮発性残留物が残る。
【0117】
工程6−工程3からの残留物のscCO
2を用いた分取
工程5から得た残留物を、4Nl/分のCO
2流速で作動する300mlのSFT−150超臨界CO
2抽出システムの中に入れ、100℃で加熱し、段階的に圧力を上げることによって(10〜35MPa)精製する。目的生成物が高圧で分離される一方で、全ての残留未反応PFPEポリオール(P
pol)−(IIA)〜(P
pol)−(IIC)は低圧のscCO
2で除去される。分析により、生成物が、−CF
2CH
2OHと、−CF
2CH
2OCH
2CH(OH)CH
2OH末端基の両方を含むHFBのパラ−二置換、三置換、及び四置換の誘導体の混合物であることが示される。