特許第6720227号(P6720227)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6720227癌細胞及び腫瘍関連マクロファージを同時に標的する融合ペプチドを有効成分として含む抗癌及び癌転移抑制用薬学的組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720227
(24)【登録日】2020年6月19日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】癌細胞及び腫瘍関連マクロファージを同時に標的する融合ペプチドを有効成分として含む抗癌及び癌転移抑制用薬学的組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 38/16 20060101AFI20200629BHJP
   A61K 47/64 20170101ALI20200629BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200629BHJP
   A61P 35/04 20060101ALI20200629BHJP
   A61K 31/337 20060101ALI20200629BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
   A61K38/16ZNA
   A61K47/64
   A61P35/00
   A61P35/04
   A61K31/337
   A61P43/00 121
【請求項の数】6
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-567431(P2017-567431)
(86)(22)【出願日】2015年11月12日
(65)【公表番号】特表2018-521998(P2018-521998A)
(43)【公表日】2018年8月9日
(86)【国際出願番号】KR2015012162
(87)【国際公開番号】WO2017003044
(87)【国際公開日】20170105
【審査請求日】2018年7月9日
(31)【優先権主張番号】10-2015-0093576
(32)【優先日】2015年6月30日
(33)【優先権主張国】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 2015年(平成27年)5月13日に韓国生化学分子生物学会 国際学会(KSBMB International Conference)2015、COEX(韓国ソウル特別市)にて発表 2015年(平成27年)6月14日−16日にセルシンポジア・癌,炎症及び免疫(Cell Symposia:Cancer,Inflammation,and Immunity)にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】517354917
【氏名又は名称】キョンブク ナショナル ユニバーシティ インダストリー−アカデミック コーオペレーション ファウンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】110002354
【氏名又は名称】特許業務法人平和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リ、ビョン−ホン
(72)【発明者】
【氏名】スリ ムルガン プーングカビサイ バデブー
【審査官】 高橋 樹理
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−535258(JP,A)
【文献】 Journal of Cellular and Molecular Medicine,2008年,Vol.12, No.5b,pp.2003-2014
【文献】 Journal of Controlled Release,2015年 5月12日,Vol.209, No.10,pp.327-336
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 38/16
A61K 31/337
A61K 47/64
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号3のアミノ酸配列を有する融合ペプチドを有効成分として含む、抗癌及び癌転移抑制用薬学的組成物であって、
前記組成物は、癌細胞及び腫瘍関連マクロファージを同時に標的することを特徴とする、薬学的組成物。
【請求項2】
前記癌は、IL-4受容体が過剰発現される癌であることを特徴とする請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項3】
前記IL-4受容体が過剰発現される癌は、肺癌、脳腫瘍、乳癌、肝臓癌、皮膚癌、食道癌、睾丸癌、腎臓癌、大腸癌、直腸癌、胃癌、腎臓癌、膀胱癌、卵巣癌、胆嚢癌、子宮癌、子宮頸癌、前立腺癌、頭頸部癌、膵臓癌、及び扁平上皮癌からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項2記載の薬学的組成物。
【請求項4】
前記組成物は、抗癌薬剤と併用して投与されることを特徴とする請求項1記載の薬学的組成物。
【請求項5】
前記抗薬剤はドキソルビシン、パクリタキセル、ビンクリスチン、ダウノールビシン(daunorubicin)、ビンブラスチン(vinblastine)、アクチノマイシン-D(actinomycin-D)、ドセタキセル、エトフォーサイド(etoposide)、テニポーサイド(teniposide)、ビサントレン(bisantrene)、ホモハリングトニン(homoharringtonine)、(グリーベック; Gleevec; STI-571)、シスプラチン、5-フルオロウラシル、アドリアマイシン、メトトレキサート、ブスルファン(busulfan)、クロラムブシル(chlorambucil)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、メルファラン(melphalan)、ニトロゲンムスタード(nitrogen mustard)、及びニトロソウレラ(nitrosourea)からなる群より選ばれた1種以上であることを特徴する請求項記載の薬学的組成物。
【請求項6】
抗癌及び癌転移抑制用薬剤の製造の用途のための、配列番号3のアミノ酸配列を有する融合ペプチドの使用であって、
前記融合ペプチドは、癌細胞及び腫瘍関連マクロファージを同時に標的することを特徴とする、使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2015年06月30日に出願された大韓民国特許出願第10-2015-0093576号に基づく優先権を主張し、前記明細書全体は参照により本出願に援用する。
【0002】
本発明は、癌細胞及び腫瘍関連マクロファージを同時に標的する融合ペプチドを有効成分として含む抗癌及び癌転移抑制用薬学的組成物に関する。より詳細には、IL-4受容体を特異的に標的するペプチド及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドの、癌を治療又は癌転移を抑制する方法、並びに、抗癌及び癌転移抑制用薬剤製造の用途に関するものであって、さらに詳細には、IL-4受容体を過剰発現する癌細胞及び腫瘍関連マクロファージを同時に標的することにより、優れた抗癌効果及び癌転移抑制効果を示す薬学的組成物に関する発明である。
【背景技術】
【0003】
腫瘍周辺の微小環境(microenvironment)は内皮細胞、炎症細胞及び繊維芽細胞で構成されており、1970年代に腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophage、以下TAMと称する)が腫瘍の成長において重要な役割をすることが明らかになった。TAMは癌の成長、転移など全体的な腫瘍微小環境に関連して重要な役割を果たし、腫瘍周辺に存在するTAMは、腫瘍細胞の成長、転移と密接に関連している。従って、癌患者において多数のTAMが腫瘍周辺に存在すると、患者の予後と生存率が良くないことが報告されている。マクロファージの中でもTAMはM2型マクロファージに分類され、一般的な炎症性マクロファージのM1型とは別に、M2型マクロファージは、癌の成長を促進するIL-10、TGFβ及びCCL18のようなサイトカインを生成する。また、M2型TAMの表面に存在するPDL1及びB7-1/2のような受容体は、T細胞、NK細胞の抗腫瘍活性を抑制することが報告されている。従って、M2型TAMが多量に存在する微小環境では、腫瘍の成長、分化及び転移が活発に行われる。
【0004】
インターロイキン-4(interleukin-4,IL-4)は、T-ヘルパー2(T-helper2,Th2)リンパ球、好酸球、肥満細胞などから分泌される、多様な免疫調節機能を有するサイトカインである。IL-4受容体は、正常細胞のうちのTリンパ球、Bリンパ球、CD34骨髄細胞などの細胞表面に存在する(Nelms、Annu Rev Immunol、1999;17:701-738)。IL-4受容体は、IL-4受容体α鎖とIL-2受容体γc鎖が複合体を形成している1型と、IL-4受容体α鎖とIL-13受容体α1鎖が複合体を形成した2型の二つの形態がある。IL-4と受容体が結合すると、細胞内ヤヌスキナーゼ(janus kinase)を通じてSTAT6シグナルタンパク質をリン酸化及び活性化させ、活性化されたSTAT6は二量体の状態で核に移動して、IL-4と関連がある複数遺伝子の発現を調節して炎症を増加させる。また、ヤヌスキナーゼを通じてAKT/PKBを活性化させ、細胞寿命を増加させると言われている(Nelmsetal.,AnnuRevImmunol、1999;17:701-738)。IL-4は、ナイーブT-ヘルパー(naive T-helper、naiveTh)からTh2リンパ球への分化を誘導して、IL-4、IL-5、IL-9、IL-13のようなサイトカインの生産を誘導する。また、Bリンパ球によるIgE(immunoglobinE)の分泌を誘導する。
【0005】
IL-4は、腫瘍細胞及び癌幹細胞でも合成され、幹細胞表面のIL-4受容体を通じてアポトーシスに対する抵抗性を癌細胞に付与することが最近報告された(Todaro、Cell Death Differ、2008;15:762-772;Todaro、Cell Stem Cell、2007,1:389-402)。IL-4受容体は、非小細胞肺癌、脳腫瘍、乳癌、膀胱癌、膵臓癌、腎臓癌、前立腺癌及びカポジ肉腫(kaposi's sarcoma)などの多様な癌細胞において、正常細胞においてよりもはるかに多く発現される。IL-4受容体による癌細胞の抗癌剤耐性獲得及び癌細胞での高い発現レベルを考慮すると、IL-4受容体は癌標的のための有望な標的と言える。
【0006】
前記のとおり、M2型TAMは腫瘍の成長、分化及び転移において重要な役割をするので、抗癌治療において腫瘍又はM2型TAMをそれぞれ単独でターゲットにするより、両者をともに治療ターゲットにする標的治療剤の開発が必要である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Todaro、Cell Death Differ、2008;15:762-772
【非特許文献2】Todaro、Cell Stem Cell、2007,1:389-402
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
そこで、本発明者らは、癌細胞及び腫瘍関連マクロファージを同時に標的できる癌治療用組成物を研究する中で、癌細胞と腫瘍関連マクロファージの両方で広く発現されているIL-4受容体に特異的に結合するペプチド、及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドが、癌細胞だけでなく腫瘍関連マクロファージを効果的に抑制して優れた抗癌効果及び癌転移抑制効果を示すことを見出して、本発明を完成した。
【0009】
従って、本発明の目的は、配列番号1のアミノ酸配列を有する、インターロイキン-4(IL-4)受容体を特異的に標的するペプチド、及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドを有効成分として含む抗癌及び癌転移抑制用薬学的組成物を提供することである。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、配列番号1のアミノ酸配列を有する、インターロイキン-4(IL-4)受容体を特異的に標的するペプチド、及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドを、必要とする個体に有効量で投与して癌を治療する、又は、癌転移を抑制する方法を提供することである。
【0011】
本発明のさらに他の目的は、抗癌及び癌転移抑制用薬剤製造の用途のための、配列番号1のアミノ酸配列を有する、インターロイキン-4(IL-4)受容体を特異的に標的するペプチド及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
[技術的解決方法]
前記目的を達成するために本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有する、インターロイキン-4(IL-4)受容体を特異的に標的するペプチド及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドを有効成分として含む抗癌及び癌転移抑制用薬学的組成物を提供する。
【0013】
本発明の他の目的を達成するために、本発明は配列番号1のアミノ酸配列を有する、インターロイキン-4(IL-4)受容体を特異的に標的するペプチド及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドを、必要とする個体に有効量で投与して癌を治療するか又は、癌転移を抑制する方法を提供する。
【0014】
本発明のさらに他の目的を達成するために、本発明は抗がん及び癌転移抑制用薬剤製造の用途のための、配列番号1のアミノ酸配列を有する、インターロイキン-4(IL-4)受容体を特異的に標的するペプチド及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドを提供する。
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0016】
本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有する、インターロイキン-4(IL-4)受容体を特異的に標的するペプチド及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドを有効成分として含む抗癌及び癌転移抑制用薬学的組成物を提供する。
【0017】
本発明で前記配列番号1のアミノ酸配列(CRKRLDRNC)を有するペプチド(IL4RPep-1)は、IL-4受容体(IL4R)に特異的に結合するペプチドである。本発明の一実施例によれば、マウス由来の4T1細胞、ヒトの腫瘍細胞であるA549細胞株、MDA-MB231細胞株、M1型Raw 264.7マクロファージ、M2型Raw 246.7マクロファージ、マウス脾臓由来のM1型マクロファージ及びM2型マクロファージに抗-IL4R抗体を利用して免疫染色をした結果、MDA-MB231細胞株、M2型Raw 246.7マクロファージ及びマウス脾臓由来のM2型マクロファージIL-4受容体が多く発現していることを確認した。その後、本発明のIL4RPep-1が実際にIL-4受容体に特異的に結合するか否かを確認した結果、前記細胞からIL-4受容体が発現された傾向と同じ傾向で本発明のIL4RPep-1が細胞に結合することを確認して、IL4RPep-1がIL-4受容体に特異的に結合することが分かった(実施例1)。
【0018】
本発明の他の一実施例によると、本発明のIL4RPep-1がM1型マクロファージに比べてM2型マクロファージに対してはるかに強い結合親和性を示すことを確認して、IL4RPep-1がIL-4受容体に特異的に結合してM2型マクロファージに対する標的指向的薬剤送達担体として使用可能であることが分かった(実施例1)。
【0019】
本発明のインターロイキン-4受容体を特異的に標的するペプチドは、アミノ酸鎖が連結されたペプチドに対して機能的アナログでもあって、好ましくは配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドと機能的アナログを含む。前記機能的アナログとは、アミノ酸の付加、置換又は欠失の結果、配列番号1のアミノ酸配列と少なくとも60%、好ましくは70%、より好ましくは80%以上、最も好ましくは90%以上の配列相同性を有するものであって、本発明の配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドと実質的に同質の活性を示すペプチドを意味する。ここで実質的に同質の活性とは、IL-4受容体に対する結合能を意味する。前記機能的アナログには、例えば、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドのアミノ酸のうち、一部が置換された、又は、欠失又は付加されたアミノ酸配列変異体が含まれる。アミノ酸の置換は好ましくは保存的置換である。天然に存在するアミノ酸の保存的置換の例としては、脂肪族アミノ酸群(Gly、Ala、Pro)、疎水性アミノ酸群(Ile、Leu、Val)、芳香族アミノ酸群(Phe、Tyr、Trp)、酸性アミノ酸群(Asp、Glu)、塩基性アミノ酸群(His、Lys、Arg、Gln、Asn)、硫黄含有アミノ酸群の、各アミノ酸群内部の同じアミノ酸の置換が挙げられる。アミノ酸の欠失は好ましくは配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドの活性に直接関与していない部分にあるアミノ酸の欠失を意味する。アミノ酸の付加は、遺伝子操作過程で必要な制限酵素部位又はペプチド精製などのためのヒスチジンタグなどを含む、ペプチドの活性に影響を与えない範囲でアミノ酸が付加されることを意味する。
【0020】
本発明で前記アポトーシス誘導ペプチド(pro-apoptotic peptide)はアポトーシス(apoptosis)を誘導するペプチドを意味する。ほとんど全ての細胞がアポトーシス伝達に関与する機構を含む。従って、本発明は当該効果を標的細胞内部に伝達し、アポトーシス機構を通じて細胞を死滅させる、アポトーシス伝達物質である特異的アポトーシス誘導ペプチドの標的伝達に関するものである。本発明が当該技術分野に公知の方法より優れた長所としては、アポトーシス誘導ペプチドはタンパク質として伝達されて、目的とするポリペプチドを生産するように翻訳される核酸分子として伝達されるものではないことである。追加の長所としては、ヒトの配列が本発明の融合ペプチドに使用され、外来のポリペプチドによる目的としていなかった任意の免疫反応を克服することができ、標的指向的に本発明のアポトーシス誘導ペプチドを癌細胞に伝達できるので、不要な副作用を軽減できる長所がある。
【0021】
本発明で前記アポトーシス誘導ペプチドの非限定的な例としては、KLAKLAKKLAKLAK、KGGGQVGRQLAIIGDDINR(BakBH3ペプチド)、LQHRAEVQIARKLQCIADQFHRLHT(BmfBH3ペプチド)及びYGRELRRMSDEFVDS(Bad BH3ペプチド)からなる群より選ばれ得るが、これに限定されるものではなく、当業者にとって、本明細書に具体的に提示されていないものを含めて、アポトーシス誘導ペプチドは周知である。
【0022】
好ましくは、本発明のアポトーシス誘導ペプチドは、配列番号2のアミノ酸 配列(KLAKLAKKLAKLAK)を有するペプチドでもある。
【0023】
本発明で前記配列番号2のアミノ酸配列を有するアポトーシス誘導ペプチドは、体内安定性を考慮してL-型又はD-型のアミノ酸で構成することができる。
【0024】
本発明は、前記配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドを提供し、本発明のペプチドは、当該分野の熟練者が公知の方法により製造することができる。これらのペプチドは、一般的により大きいポリペプチドの一部として本発明のペプチド配列をコードするポリヌクレオチドを発現させて、原核又は真核細胞によって生産できる。
【0025】
他の方法としては、このようなペプチドは、化学的方法によって合成できる。組換え宿主内の異種タンパク質の発現、ポリペプチドの化学的合成及びin vitro転写のための方法は、当該分野において公知であり、文献(参照文献:Maniatis et.al., Molecular Cloning:A Laboratory Manual(1989)、2nd Ed.、Cold Spring Harbor、NY; Berger and Kimmel、Methods in Enzymology、Volume 152、Guide to Molecular Cloning Techniques(1987)、Academic Press、Inc.、San Diego、Calif.; Merrifield、J.(1969)J. Am. Chem. Soc. 91:501; Chaiken IM(1981)CRC Crit.Rev.Biochem.11:255;Kaiser et al.(1989)Ann. Rev. Biochem. 57:957;and Offord、RE(1980)Semisynthetic Proteins、Wiley Publishing)にも記載されている。
【0026】
本発明で前記融合ペプチドは、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドとアポトーシス誘導ペプチドがリンカーを介して連結された融合ペプチドでもある。前記リンカーは、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドのC-末端とアポトーシス誘導ペプチドのN-末端の間に存在することができる。
【0027】
前記リンカーは、本発明の融合ポリペプチドをコードするポリヌクレオチド製造過程で挿入されるものであって、その大きさや配列の種類は特に制限されない。
【0028】
前記リンカーは、二つのペプチドの潜在的干渉を最小化して融合ペプチドの活性を増加できる。リンカーは1乃至100個のアミノ酸を有することが好ましいものの、これに制限されず、二つのペプチドを連結し、分離できる、どのようなペプチドでも可能である。前記リンカーを構成するアミノ酸配列には特別な制限はないが、好ましくはアラニン、グリシン及びこれらの組合わせからなる群より選ばれる一つ以上のアミノ酸からなるペプチドリンカーでもある。つまり、アラニンからなるリンカー、グリシンからなるリンカー又はアラニン及びグリシンからなるリンカーでもある。前記のようなアミノ酸は官能基がないため、非特異的結合が起こらず、フォールディングにおいて問題のないものを選択できる。
【0029】
また、本発明のリンカーは、IL-4受容体に結合する配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドの活性及びアポトーシスを誘導するペプチドそれぞれの活性を邪魔せず、適切な配向性を維持できるようにする柔軟性を与え得る個数までのアミノ酸からなることができる。
【0030】
本発明の一実施例で、前記リンカーは、グリシン三つが連続的に組み合わせられたリンカーを使用した。
【0031】
本発明の一実施例では、IL-4受容体に結合する配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド、リンカー及びアポトーシス誘導ペプチドが順に結合された融合ペプチドを作成してその活性を評価し、前記融合ペプチドは、配列番号3(CRKRLDRNCGGGKLAKLAKKLAKLAK)のアミノ酸配列を有している。
【0032】
本発明による薬学的組成物は、前記融合ペプチドを単独で含有するか、又は薬学的に許容される担体と共に、適切な形態で製剤化することができ、賦形剤又は希釈剤を追加して含有できる。前記で“薬学的に許容される”とは生理学的に許容されて、ヒトに投与されるとき、通常的に胃腸障害、目眩などのようなアレルギー反応又はこれと類似した反応を起こさない非毒性の組成物を意味する。
【0033】
薬学的に許容される担体には、例えば、経口投与用担体又は非経口投与用担体をさらに含め得る。経口投与用担体は、ラクトース、デンプン、セルロース誘導体、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸などを含む。ペプチド製剤に対する経口投与用に使用される多様な薬剤伝達物質も含む。また、非経口投与用担体は、水、適切なオイル、生理食塩水、水性グルコース及びグリコールなどを含むことができ、安定化剤及び保存剤をさらに含むことができる。適切な安定化剤には、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム又はアスコルビン酸のような抗酸化剤がある。適切な保存剤としては、塩化ベンザルコニウム、メチル又はプロピルパラベン及びクロロブタノールがある。本発明の薬学的組成物は、前記成分以外に潤滑剤、湿潤剤、甘味料、香味剤、乳化剤、懸濁剤などを追加して含み得る。その他の薬学的に許容される担体及び製剤は、次の文献に記載されていることを参考にできる(Remington's Pharmaceutical Sciences、19thed.、Mack Publishing Company、Easton、PA、1995)。
【0034】
本発明の組成物は、ヒトを含めた哺乳動物にどのような方法でも投与することができる。例えば、経口又は非経口的に投与することができる。非経口的な投与方法には、これに限定はされないが、静脈内、筋肉内、動脈内、骨髄内、境膜内、心臓内、経皮、皮下、腹腔内、鼻腔内、腸管、局所、舌下又は直腸内投与でもある。
【0035】
本発明の薬学的組成物は、上述した投与経路により、経口投与用又は非経口投与用製剤として製剤化することができる。
【0036】
経口投与用製剤の場合に、本発明の組成物は、粉末、顆粒、錠剤、丸剤、糖衣錠剤、カプセル剤、液剤、ゲル剤、シロップ剤、スラリー剤、懸濁液などで、当業界に公知の方法を利用して剤形化できる。例えば、経口用製剤は、活性成分を固体賦形剤と配合してこれを粉砕して適切な補助剤を添加した後、顆粒混合物に加工することにより、錠剤又は糖衣錠剤が得られる。適切な賦形剤の例としては、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール及びマルチトールなどを含む糖類とトウモロコシ澱粉、小麦澱粉、米澱粉及びジャガイモ澱粉などを含む澱粉類、セルロース、メチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロースなどを含むセルロース類、ゼラチン、ポリビニルピロリドンなどのような充填剤が含まれる。また、場合により、架橋結合ポリビニルピロリドン、寒天、アルギン酸又はアルギン酸ナトリウムなどを崩壊剤として添加することができる。さらに、本発明の薬学的組成物は、抗凝集剤、潤滑剤、湿潤剤、香料、乳化剤及び防腐剤などをさらに含むことができる。
【0037】
非経口投与用製剤の場合には、注射剤、クリーム剤、ローション剤、外用軟膏剤、オイル剤、保湿剤、ゲル剤、エアロゾル及び鼻腔吸込み剤の形態で、当業界に公知の方法で剤形化することができる。これらの剤形は、すべて製薬化学に一般的に公知された処方書である文献(Remington's Pharmaceutical Science、19thed.,Mack Publishing Company、Easton、PA、1995)に記載されている。
【0038】
本発明の組成物の総有効量は、単一投与量で患者に投与することができ、多重投与量で長期間投与される分割治療方法により投与することもできる。本発明の薬学的組成物は、疾患の程度により有効成分の含量を異にすることができる。好ましく本発明の薬学的組成物の望ましい全体容量は1日当たり患者体重1kg当り約0.01μg乃至10,000mg、最も好ましくは0.1mg乃至500mgでもある。しかし前記薬学的組成物の容量は、製剤化方法、投与経路及び治療回数だけなく患者の年齢、体重、健康状態、性別、疾患の重症度、食餌及び排泄率など様々な要因等を考慮して患者に対する有効投与量が決定されるので、このような点を考慮するして、当分野の通常の知識を有する者であれば、本発明の組成物の適切な有効投与量を決定できる。本発明による薬学的組成物は、本発明の効果を示す限りその剤形、投与経路及び投与方法に特に制限はされない。
【0039】
本発明の前記融合ペプチドを有効成分として含む組成物は、優れた抗癌効果及び癌転移抑制効果を示す。具体的に本発明の一実施例では、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチド及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドをマウス4T1腫瘍細胞及び前記細胞が移植されたマウス腫瘍モデルにそれぞれ処理した結果、in vitro及びin vivoで極めて優れたアポトーシス及び癌成長抑制効果を示して、抗癌効能が極めて優れていることを確認した(実施例5)。
【0040】
さらに、in vivoマウス腫瘍モデルから、IL4RPep-1-KLAペプチドの投与が終了した後、動物の肺と肝臓を切除して腫瘍の転移の可否を観察した結果、PBS投与対照群では、肺と肝臓から腫瘍の転移がかなりの程度で観察されたのに対し、IL4RPep-1-KLAペプチドが投与されたマウス群では、腫瘍の転移が全く観察されず、本発明の融合ペプチドが癌転移抑制効果も極めて優れていることが分かった(実施例5)。
【0041】
本発明の融合ペプチドが優れた抗癌及び癌転移抑制効果を示すのは、癌細胞の表面及び腫瘍関連マクロファージ(tumor associate macrophage)の表面に過剰発現されているIL-4受容体を標的としてアポトーシス誘導ペプチドを伝達できるからである。つまり、腫瘍細胞だけをターゲットにして腫瘍細胞の死滅を誘導していた従来の抗がん標的治療剤とは異なり、本発明の融合ペプチドは、腫瘍の成長、分化及び転移において極めて重要な役割を担う腫瘍関連マクロファージ(tumor associate macrophage)までも標的して死滅できる効果を示すため(実施例5)、優れた抗癌効果だけでなく、癌転移抑制効果もまた、極めて優れていることが示された。
【0042】
このように、腫瘍細胞及び腫瘍関連マクロファージを同時に標的として、優れた抗癌効果及び癌転移抑制効果を示す薬学的組成物は、従来報告された例の無い、新たな標的治療剤と言える。
【0043】
本発明の一実施例では、本発明の融合ペプチドにおいて薬剤の標的伝達体としての役割を担う、配列番号1のアミノ酸配列を有するペプチドが、in vitro及びin vivoの全てにおいて、IL-4受容体に極めて特異的に高い結合親和性を示すことを確認した(実施例1及び2)
【0044】
従って、本発明は、前記癌はIL-4受容体が過剰発現される癌であることを特徴とする薬学的組成物を提供する。
【0045】
より具体的には、前記IL-4受容体が過剰発現されている癌は、肺癌、脳腫瘍、乳癌、肝臓癌、皮膚癌、食道癌、睾丸癌、腎臓癌、大腸癌、直腸癌、胃癌、腎臓癌、膀胱癌、卵巣癌、胆管癌、胆嚢癌、子宮癌、子宮頸癌、前立腺癌、頭頸部癌、膵臓癌及び扁平上皮癌などからなる群より選ばれるものの、これに限定されるものではない。
【0046】
本発明はさらに、前記組成物は抗癌薬剤と併用して投与されることを特徴とする薬学的組成物を提供する。
【0047】
より具体的には、前記抗癌薬剤は、ドキソルビシン、パクリタキセル、ビンクリスチン、ダウノールビシン(daunorubicin)、ビンブラスチン(vinblastine)、アクチノマイシン-D(actinomycin-D)、ドセタキセル、エトポーサイド(etoposide)、テニポーサイド(teniposide)、ビサントレン(bisantrene)、ホモハリングトニン(homoharringtonine)、(グリーベック;Gleevec;STI-571)、シスプラチン、5-フルオロウラシル、アドリアマイシン、メトトレキサート、ブシルファン(busulfan)、クロラムブシル(chlorambucil)、シクロホスファミド(cyclophosphamide)、メルファラン(melphalan)、ニトロゲンムスタッド(nitrogen mustard)及びニトロソウレア(nitrosourea)からなる群より選ばれるが、これに限定されるものではない。
【0048】
本発明の一実施例では、抗癌剤として広く使用されているパクリタキセル(paclitaxel)を、その単独投与によっては治療効果が十分に示されない容量であっても、IL4RPep-1-KLA融合ペプチドと併用処理した結果、抗癌効果が著しく優れることを確認し、これらの結果を通じて、IL4RPep-1-KLA融合ペプチドを従来の抗がん薬剤と共に投与してその治療効果を最大化できる併用薬剤として選択できることが分かった(実施例5)。
【0049】
“併用”して投与するとは、2種以上の薬剤が実際にこれらを何時又は如何に投与するかに関係なく、同じ時間に患者の血流から発見されることを意味する。前記併用投与は本発明の融合ペプチドと抗癌薬剤を共に投与し、又は順序に関係無く順次的に投与して実施できる。また、前記併用投与は本発明の融合ペプチドの薬学的有効量と抗癌薬剤の薬学的有効量を混合した混合剤を投与することにより実行できる。他の具体例では、前記併用投与は本発明の融合ペプチドの薬学的有効量を投与する第1段階及び抗癌薬剤の薬学的有効量を投与する第2段階を同時に又は順次実行するものでもある。順次投与する場合、その順序は互いに変えても問題はない。他の具体例では、融合ペプチドと抗癌薬剤は経口投与、静脈投与などのように同じ経路を通じて投与するか、一つは経口投与、他の一つは静脈投与するように異なる経路を通じて投与できる。
【0050】
本発明は、配列番号1のアミノ酸配列を有する、インターロイキン-4(IL-4)受容体を特異的に標的するペプチド及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドを、必要とする個体に有効量で投与して癌を治療し、又は癌転移を抑制する方法を提供する。
【0051】
本発明は、抗癌及び癌転移抑制用薬剤製造の用途のための配列番号1のアミノ酸配列を有する、インターロイキン-4(IL-4)受容体を特異的に標的するペプチド及びアポトーシス誘導ペプチドが結合された融合ペプチドを提供する。
【0052】
本発明の前記“有効量”とは患者に投与したとき、癌の治療及び予防効果又は癌転移抑制効果を示す量を意味し、前記“個体”とは動物、好ましくは哺乳動物、特にヒトを含む動物でもあって、動物から由来した細胞、組織、器官等でもある。前記個体は治療が必要な患者でもある。
【発明の効果】
【0053】
[有利な効果]
前記で記載したとおり、本発明の融合ペプチドを有効成分として含む薬学的組成物は、腫瘍細胞及び腫瘍関連マクロファージを同時に標的して死滅させる効果があって、優れた抗癌効果及び癌転移抑制効果を示し、従来の抗癌薬剤と併用投与して従来の抗癌効果の副作用を減少させながら抗癌及び癌転移抑制効果を示した。
【図面の簡単な説明】
【0054】
図1図1は、腫瘍細胞(4T1、A549、MDA MB231)及びRaw 264.7マクロファージ(M1型、M2型)を抗-IL4Rα、抗-IL13Rα、抗-IL2γCで免疫染色して各受容体の発現程度を観察して、各細胞に対するIL4RPep-1の結合度を免疫蛍光染色法を通じて観察した結果である。
図2図2Aは、マウス脾臓由来のマクロファージをM1型及びM2型にそれぞれ分化させた後、免疫蛍光染色法を通じてIL-4受容体の発現度及び各細胞に対するIL4RPep-1の結合度を観察した結果である。図2Bは、M1型マクロファージ及びM2型マクロファージに対するIL4RPep-1の結合親和性をGraph Pad Prism 6ソフトウェアを利用して計算した結果である。
図3図3は、4T1腫瘍細胞が移植された野生型Balb/cマウスとIL-4受容体が欠損したBalb/cマウスにFlamma 675で標識された対照群ペプチド(NSSSVDK)又はIL4RPep-1ペプチドを静脈投与した後、1時間及び2時間後にマウス体内蛍光イメージを検出し、実験終了後マウスから切除した各臓器での蛍光イメージを検出した結果である(A:対照群ペプチドを投与したマウス群、B:IL4RPep-1ペプチドを投与したマウス群)。
図4図4は、4T1腫瘍細胞が移植された野生型Balb/cマウスとIL-4受容体が欠損したBalb/cマウスにIL4RPep-1ペプチドを静脈投与した後、マウスの腫瘍組織を切除して切片化した後、IL-4受容体、F4/80(腫瘍関連マクロファージマーカー)、E-cadherin(上皮細胞マーカー)及びN-cadherin(間葉マーカー)の発現を、免疫蛍光染色法を通じて観察した結果である(A:野生型Balb/cマウスの腫瘍、B:IL-4受容体欠損マウスの腫瘍)
図5図5は、4T1腫瘍細胞のIL-4受容体、E-cadherin(上皮細胞マーカー)及びN-cadherin(間葉マーカー)の発現を、免疫蛍光染色法を通じて観察した結果である。
図6図6は、4T1腫瘍細胞が移植されたマウスから切除した腫瘍の単細胞浮遊液で細胞表面に発現されたN-cadherin、F4/80、及びE-cadherinを蛍光活性化セルソーター(FACS)で分析した結果である(Ncad:N-cadherin、Ecad:E-cadherin)。
図7図7は、4T1腫瘍細胞を腫瘍関連マクロファージ条件培地、TGFβ、IL10及びIL4で処理した後、N-cadherin及びIL-4受容体の発現度を、免疫蛍光染色法を通じて観察した結果である(TAMCM:腫瘍関連マクロファージ条件培地、Ncad:N-cadherin) 。
図8図8は、マウス脾臓由来のM1型マクロファージ又はM2型マクロファージをそれぞれの条件に応じて処理した後、IL-10の分泌度をIL-10 ELISAキットを利用して測定した結果である。
図9図9Aは、野生型の4T1細胞及びIL-10により処理された4T1細胞に対するIL4RPep1ペプチドの結合親和性を測定した結果である。図9Bは、M2型マクロファージエキソソームによって処理された4T1細胞から、IL-4受容体、IL-13受容体及びIL-2受容体の発現度、並びに対照群ペプチド及びIL4RPep-1ペプチドの結合度を、免疫蛍光染色法を通じて観察した結果である。
図10図10は、IL4RPep-1-KLA融合ペプチドの細胞試験の結果を示したものである(A:野生型4T1細胞に対する細胞毒性の結果、B:IL-10処理された4T1細胞に対する細胞毒性の結果、C:M1型マクロファージに対する細胞毒性の結果、D:M2型マクロファージに対する細胞毒性の結果)。
図11図11は、4T1腫瘍細胞が移植されたマウス動物モデルからIL4RPep-1-KLAの抗癌効果及びパクリタキセルとの併用投与効果を評価した実験結果である(IL4RPep-1,KLA:IL4RPep-1ペプチドとKLAペプチドそれぞれを投与した動物群、IL4R-Pep-KLA:融合ペプチド投与群、PTX:パクリタキセル投与群、IL4RPep-1,KLA+PTX:IL4RPep-1ペプチド、KLAペプチド及びパクリタキセルそれぞれを投与した動物群、IL4R-Pep-KLA+PTX:融合ペプチド及びパクリタキセル併用投与群)。
図12図12は、4T1腫瘍細胞を移植されたマウス動物モデルの各薬剤投与群の投与が終了した後、マウスの肺及び肝臓での転移性腫瘍結節の個数をカウントした結果である(IL4RPep-1,KLA:IL4RPep-1ペプチドとKLAペプチドそれぞれを投与した動物群、IL4R-Pep-KLA:融合ペプチド投与群、PTX:パクリタキセル投与群、IL4RPep-1,KLA+PTX:IL4RPep-1ペプチド、KLAペプチド及びパクリタキセルそれぞれを投与した動物群、IL4R-Pep-KLA+PTX:融合ペプチド及びパクリタキセル併用投与群)。
図13図13は、4T1腫瘍細胞を移植されたマウス動物モデルの各薬剤投与群の投与が終了した後、マウスの腫瘍組織の凍結切片を準備してそれぞれの抗体(E-cadherin、N-cadherin、F4/80、CD80、CD8 T cellとCD4 T cell)で染色した後、顕微鏡で観察した結果である(IL4RPep-1+KLA:IL4RPep-1ペプチドとKLAペプチドそれぞれを投与した動物群、IL4R-Pep-KLA:融合ペプチド投与群、PTX:パクリタキクセル投与群、IL4RPep-1+KLA+PTX:IL4RPep-1ペプチド、KLAペプチド及びパクリタキセルそれぞれを投与した動物群、IL4R-Pep-KLA+PTX:融合ペプチド及びパクリタキセル併用投与群)。
【発明を実施するための形態】
【0055】
以下本発明を詳細に説明する。
【0056】
但し、下記実施例は、本発明を例示するのみであり、本発明の内容が下記実施例に限定されるものではない。
【0057】
<実験方法>
1,細胞株及び培養
マウス腫瘍細胞である4T1、マウスマクロファージのRaw 264.7、ヒトの腫瘍細胞であるA549及びMDA MB 231細胞株は、Dulbeccos modified Eagles medium(Gibco、USA)又はRPMI培地にATCCの指示に応じて培養した。
【0058】
脾臓由来のマクロファージはAlateryの方法により抽出した(Journal of immunological methods、2008 338(1):p.47-57)。
【0059】
2.マクロファージのM1型及びM2型への分化方法
腫瘍関連マクロファージのM2型マクロファージは、Raw 264.7細胞及び/又はマウス脾臓由来のマクロファージを、10IU/mlのマウス組換えIL-4(R and D system、US)で処理して得ることができ、M1型マクロファージは、100IU/mlのIFN-γ(R and D system、US)及び10ng/mlのLPS(sigma-aldrich)を処理して得られた。
【0060】
正常的に分化が完了したか否かは、M2マクロファージの場合は抗-F4/80及び/又は抗CD-163抗体を利用して確認し、M1マクロファージの場合は抗CD80抗体を利用して確認した。
【0061】
3.融合ペプチドの作成
IL-4受容体に特異的に結合する配列番号1のアミノ酸配列を有する、IL4RPep-1ペプチドのN末端に、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)又はビオチンを結合して、in vitroの実験に使用した。Flamma675に結合されたIL4RPep-1ペプチドをin vivo光学イメージ実験に使用した。NSSSVDKアミノ酸配列を有するペプチドを対照群ペプチドに利用した。
【0062】
L4RPep-1-KLA融合タンパク質は、IL4RPep-1ペプチドにアポトーシス誘導ペプチドであるKLAKLAKKLAKLAK(配列番号2、以下KLAと称す)ペプチドを三連グリシンリンカーを使用して融合した。
【0063】
全てのペプチドはPeptron Inc.(大田、韓国)で合成して高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製され、90%以上の純度を示した。ペプチドは凍結乾燥後、使用前にPBSに溶解して使用した。
【0064】
4.IL-4受容体及び細胞に結合したIL4RPep-1の免疫蛍光染色法
細胞にペプチドが結合するか否かをテストするために腫瘍細胞は、最初に1%BSA溶液でブロッキングされ、その後、10のFITC標識されたIL4R0Pep1ペプチドを4℃で1時間インキュベーションした。細胞を洗浄した後、4%PFAで固定してDAPIで核を染色した。
【0065】
細胞及び腫瘍組織からIL-4受容体の発現度を測定するために、凍結された組織切片又は固定されたマウスの腫瘍細胞株を抗-IL4R抗体、抗-IL13Rα1及び抗-IL2RγC抗体を利用して免疫染色を行った。
【0066】
PBSで細胞を洗浄した後、細胞を2回抗体と共に1時間常温でインキュベーションした。最終的に細胞はDAPIで核を染色し、蛍光顕微鏡で観察した。
【0067】
5.IL4RPep-1結合親和性アッセイ
腫瘍細胞を、1%BSAで30分間、室温でブロッキングして、多様な濃度(1〜80)のビオチンラベルされたIL4RPep-1ペプチドを1時間インキュベーションした。PBSで洗浄した後、細胞をNeutravidin HRP(1:10000)と共に常温で30分間インキュベーションした。HRP活性はTMB基質を利用して測定し、反応は2M硫酸を利用して中断された。吸光度は、TECANマイクロプレートリーダーを用いて450nmで測定した。Kd値は、Graph Pad Prism 6ソフトウェアを利用して計算した。
【0068】
6.in vivo光学イメージング及び免疫組織学的分析
6−1.動物モデル
雌の野生型Balb/cマウスをオリエントバイオから購入してIL-4受容体欠損マウスを作製した。マウスの腫瘍モデルは1X106個の4T1腫瘍細胞を野生型及びIL-4受容体欠損マウスの脇腹上部皮下に注射して作成し、同所移植動物モデルは、1X106個の4T1細胞をマウス乳房脂肪組織に注入して作成した。
【0069】
6−2.in vivoイメージング及び組織学的分析
Flamma 675で標識されたIL4RPep-1ペプチドとNSSSVDK対照群ペプチドを4T1腫瘍細胞が移植された野生型マウス及びIL-4受容体欠損マウスの尻尾の静脈を通じて投与した。in vivoイメージングは、Optiximaging system(ARTInc.,Canad)を利用して1時間及び2時間循環後測定した。マウスはイメージング後、最後に犠牲にして腫瘍及び臓器を切除してex vivoイメージングを行った。
【0070】
免疫組織学的分析のために、切除された腫瘍を4%PFAで固定して30%スクロースを利用して脱水した。8の厚さの腫瘍切片が準備され、DAPI染色を通じて組織学的構造を確認した。
【0071】
さらに腫瘍組織内ペプチド及び受容体の偏在化傾向を分析するために、腫瘍サンプルは抗-IL4Rα抗体、F4/80抗体で免疫染色してAlexa-488/594標識2次IgG抗体(invitrogen)を利用して検出した。
【0072】
E. cadherin及びN.cadherinは4T1腫瘍細胞のマーカーとして使用した。腫瘍切片は抗-E.cadherin抗体及び抗-N.cadherin抗体で免疫染色した後、2次抗体及びDAPIで染色した。細胞は共焦点顕微鏡を利用して観察した。
【0073】
7.蛍光活性化セルソーター(FACS)を利用したマウス腫瘍組織の単細胞浮遊液内IL-4受容体発現分析
【0074】
切除された4T1マウスの腫瘍は手術ハサミを利用して機械的に粉砕し、Liberase(商標)を利用して分離した。酵素的に分離した後、サンプルは氷に移されて反応を中断した。その後、腫瘍細胞は細胞染色液を利用して染色され、FACSバッファーで洗浄された。RBC lysisバッファー(sigma)を利用してRBCを除去した後、得られた細胞沈殿物を1次抗体(抗-IL4Rα、抗-F4/80、抗-E.cadherin及び抗-N.cadherin)を利用して染色し、引き続き2次抗体を結合させた。染色された細胞は、BD FACS Caliburを利用して分析した。
【0075】
8.4T1腫瘍細胞の上皮間葉移行誘導(epithelial mesenchymal transition)
4T1細胞は、M2型マクロファージに分化されたマウス脾臓由来のマクロファージが50%含まれたDMEM培地を利用して培養した。TAMが含有された培養培地は、使用する前に遠心分離及びストレーナーを利用して残渣を除去した。サイトカインに誘導された上皮間葉移行は、細胞をマウスIL-10及びマウスIL-4で24時間培養するか、又はマウスTFGβが含まれた培養培地で48時間培養して実施した。その後、細胞は間葉マーカーであるN.cadherinで染色してIL-4受容体の発現度を評価した。
【0076】
9.IL-10の分泌アッセイ
M2型マクロファージから分泌されるIL-10サイトカイン又はエキソソーム形態は、マウスIL-10 ELISAキットを製造者の指示に応じて評価した。吸光度を450nmで測定し、IL-10の濃度は得られた標準曲線に代入して換算した。
【0077】
10.エキソソームによる4T1細胞の上皮間葉移行誘導及びIL-4受容体の発現評価
エキソソーム(exosome)はExoquick TC kit(SBI Bioscience)を用いて条件培地から分離された。エキソソームが欠乏したFBSが含まれたDMEM培地で培養された4T1腫瘍細胞は、50/mlの分離されたエキソソームと共に24時間培養された。その後、細胞はIL-4受容体及びEMTマーカーであるN.cadherinを観察するために染色され、蛍光顕微鏡を通じて観察された。
【0078】
11.IL4RPep-1-KLAの細胞毒性評価
IL4RPep-1-KLAの細胞毒性は、CCK8キットを利用して製造社の指示に応じて評価した。簡潔に説明すると、IL-4受容体を発現するA549細胞を多様な濃度(0〜160)のIL4RPep-1-KLAと共に1時間培養した後、CCK溶液を添加して、1〜4時間培養した。450nmで吸光度を測定して細胞毒性は以下の式で計算した。
【0079】
細胞生存率 =(A sample A blank)/(A control A blank)X 100
A blank =試験物質は含まれているが、細胞が含まれていないwellの吸光度値
A control =細胞及びCCK8溶液のみが含まれているwellの吸光度値
【0080】
12.in vivo抗癌活性評価
Orthotropic 4T1腫瘍モデルは1X106個の4T1細胞を野生型Balb/cマウスの左側の乳房脂肪体に移植することにより作成した。腫瘍は約100mm3の大きさに成長するまで放置され、その後、ランダムに群を分離して投与を行った。マウスは、各群当たり5匹ずつ、合計6個の群に分離した。ペプチド(KLA + IL4RPep-1及びIL4RPep-1-KLA融合ペプチド)は、同じモル濃度(1mMペプチド200/20g-マウス体重、週に3回ずつ、合計4週間投与)で尻尾静脈を通じて投与された。他の三グループのマウス群は、ペプチド投与に追加的に8mg/kg濃度のパクリタキセル(paclitaxel)を週に一回ずつ腹腔投与した。二つの対照群のマウス群は、PBS又はパクリタキセルをそれぞれ投与した。
【0081】
投与後、マウスの体重と腫瘍の大きさを観察した。腫瘍の大きさはデジタルキャリパーを利用して測定し、腫瘍の体積は次のような式により計算した:
【0082】
V =(L x W x H)/ 2(L:最長の長さ、W:短い長さ、H:高さ)
【0083】
最後の投与後にマウスを犠牲にし、肺と肝臓に腫瘍の転移の有無を判断し、切除された腫瘍及び臓器は4%PFAに固定して追加的な免疫組織学的分析に利用した。
【0084】
13.腫瘍組織の免疫組織学的染色法
冷凍保管された腫瘍組織を1gのBSA、0.2gのゼラチン及び0.05gのサポニンがPBSに溶解されたブロッキング溶液でブロッキングした後、1次抗体を利用して1時間30分インキュベーションした。その後、HRP標識された2次抗体を利用して、45分間室温で染色した。前記染色された組織を、DABを利用して露出した後、ヘマトキシリンで対比染色を5分間室温で行った。各段階は10%ブロッキング溶液を含むPBSで洗浄した後、次の段階を行った。最後に、組織を明視野顕微鏡で観察した。
【0085】
<実験結果(実施例)>
<実施例1>
IL4RPep-1ペプチドがIL-4受容体に結合するかどうかについてのin vitro実験結果
【0086】
マウス4T1細胞、ヒトの腫瘍細胞であるA549、MDA-MB 231、M1型Raw 264.7細胞、M23受容体及びIL-2受容体が、それぞれどの程度の発現がなされているかを確認後、配列番号1のアミノ酸配列を有する本発明のペプチド(IL4RPep-1)が、どのような受容体にどの程度特異的に結合するかを免疫染色法を通じて評価した。
【0087】
これに対する結果を図1に示した。
【0088】
図1に示したとおり、マウス4T1細胞、ヒトの腫瘍細胞であるA549、MDA-MB 231、M1型Raw 264.7細胞及びM2型Raw 246.7細胞のIL-4受容体、IL-13受容体及びIL-2受容体のうちIL-4受容体のみが蛍光で強く染色されることを確認し、これらの細胞株にIL-4受容体が過剰発現されていることが分かった。
【0089】
その後、前記細胞と同じ細胞に、配列番号1のアミノ酸配列を有する本発明のペプチドを処理した結果、IL-4受容体の発現の傾向と同様に、それぞれの細胞でIL4RPep-1ペプチドが結合することを確認し、IL4RPep-1ペプチドがIL-4受容体に特異的に結合することが分かった。
【0090】
追加的に、マウス脾臓由来のM1型マクロファージ及びM2型マクロファージからIL-4受容体の発現傾向及びIL4RPep-1ペプチドが結合する傾向を、免疫染色を通じて比較して、それぞれの細胞に対するIL4RPep-1ペプチドの結合親和性を測定した。
【0091】
これに対する結果を図2に示した。
【0092】
図2Aに示したとおり、マウス脾臓由来のマクロファージのうち、M1型とは異なり、M2型マクロファージからIL-4受容体が多く発現されていることを確認し、IL4RPep-1ペプチドが細胞に結合する傾向もやはり前記IL-4受容体の発現傾向と一致する様相を示した。一方、図2Bに示したとおり、IL4RPep-1ペプチドは、M1型マクロファージに比べてIL-4受容体が過剰発現されているM2型マクロファージにより強い結合親和性を示した(M1型マクロファージ:Kd75.8、M2型マクロファージ:Kd6.3)。
【0093】
前記の結果を通じて、配列番号1のアミノ酸配列を有するIL4RPep-1ペプチドがIL-4受容体に特異的に結合するので、IL-4受容体を標的とする薬剤伝達体として有用に使用される点と、M1型マクロファージに比べてM2型マクロファージでIL-4受容体が過剰発現されていることを確認できた。
【0094】
<実施例2>
IL4RPep-1ペプチドがIL-4受容体に結合するかどうかについてのin vivo実験結果
【0095】
配列番号1のアミノ酸配列を有するIL4RPep-1ペプチドがIL-4受容体に特異的に結合するかどうかを、4T1腫瘍細胞が移植されたBalb/c野生型マウス及びBalb/c IL-4受容体欠損マウスで評価した。つまり、Flamma675で標識されたIL4RPep-1ペプチド及びFlamma675で標識された対照群ペプチドを、マウスの尻尾静脈に投与した後、蛍光強度をリアルタイムで観察した。
【0096】
これに対する結果を図3に示した。
【0097】
図3に示したとおり、マウス体内及びマウスから切除した組織内で蛍光強度を比較した結果、IL-4が正常的に発現される野生型マウスの腫瘍組織からIL4RPep-1ペプチドの蛍光が強く検出されることを確認できたが、IL-4受容体が欠損しているマウスの腫瘍組織及び対照群ペプチドを投与したマウスの腫瘍組織では、蛍光が観察されないことが確認できた。つまり、配列番号1のアミノ酸配列を有するIL4RPep-1ペプチドは、in vivoでもIL-4受容体が発現されているマウスの腫瘍組織に特異的に結合することを確認できた。
【0098】
一方、追加的に前記実験を終えたマウスの腫瘍組織を切除した後、切片化して免疫染色をした結果、図4に示したとおり、野生型マウスの腫瘍組織では、IL-4受容体が強く染色されていて、IL4RPep-1ペプチドがIL-4受容体の染色傾向と同じ傾向でマウスの腫瘍組織に染色されることを確認できた(図4A)。一方、IL-4受容体が欠損しているマウス腫瘍組織では、IL-4受容体が全く観察されず、IL4RPep-1ペプチドも全く結合しないことを確認できた(図4B)。
【0099】
<実施例3>
腫瘍関連マクロファージが4T1腫瘍細胞の上皮間葉移行を誘導するかどうか
【0100】
前記実施例2の実験を終えたBalb/c野生型マウス及びBalb/c IL-4受容体欠損マウスの腫瘍を切除した後、IL-4受容体に対する抗体及び腫瘍関連マクロファージのマーカーとして知られているF4/80抗体で染色して、その結果を観察した。
【0101】
これに対する結果を図4に示した。
【0102】
図4に示したとおり、IL-4受容体が発現されているTAMに対するIL4RPep-1ペプチドの特異性にもかかわらず、IL-4受容体抗体で染色された腫瘍組織の一部では、TAMのマーカーであるF40/80と比較したとき、非偏在化されていることを確認することができた。つまりTAMが腫瘍微小環境でIL-4を過剰発現する唯一の細胞でないことがわかる部分である。
【0103】
従って、TAMと4T1細胞を区別するために、4T1細胞の上皮細胞マーカーであるE-Cadherinで腫瘍切片を染色した。驚くべきことに、図5の4T1のin vitroの結果とは対照的に図4Aのin vivoの結果では、4T1細胞からE-Cadherin発現量が極めて低く観察された。
【0104】
これらの結果をより具体的に確認するために、マウスの腫瘍組織内4T1細胞でN.Cadherinの発現量を評価した。N.Cadherinは上皮間葉移行状態にある腫瘍細胞から過剰発現されるものと知られているマーカーである。図4Aに示したとおり、in vitroの結果とは対照的に、野生型マウスの腫瘍組織内4T1細胞ではN.Cadherinが過剰発現されていることを確認できた。これらのin vivo及びin vitroの結果の差は、in vivoで4T1細胞の上皮間葉移行との関連があり得ることを示し、これに対する結果により4T1細胞のN.Cadherin及びIL-4受容体の発現が増加されてE.Cadherinの発現が減少したものと考えられた。
【0105】
前記結果をより具体的に観察するため、マウスの腫瘍組織内4T1単一細胞を蛍光活性化セルソーター(FACS)を介して分析した結果、図6に示したとおり、IL-4受容体を発現する4T1細胞は、N.cadherin及びF4/80発現細胞と共に偏在化しており、このような結果は、in vivoでIL-4受容体が少なく発現される4T1細胞が、in vivoでは上皮間葉移行マーカーの発現増加と共にIL-4受容体の発現もやはり増加を示したものである。
【0106】
つまり、腫瘍関連マクロファージが4T1腫瘍細胞でIL-4受容体の発現を誘導したものと判断することができた。
【0107】
<実施例4>
腫瘍関連マクロファージが4T1腫瘍細胞の上皮間葉移行及びIL-4受容体の発現誘導をしているかどうか
【0108】
4T1腫瘍細胞のIL-4受容体の発現様相がin vitroとin vivoで一致していない点に対する疑問点をより確かに解決して、このような差を誘発する因子として腫瘍関連マクロファージが密接に関連している事実を確認するために、4T1腫瘍細胞株をTAM条件の培地、rmIL-10含有培地、rmTGFβ含有培地及びrmIL-4含有培地でそれぞれ培養した。
【0109】
これに対する結果を図7に示した。
図7に示したとおり、TAM条件の培地及びrmIL-10含有培地で培養された4T1細胞において、IL-4受容体だけでなく、間葉マーカーであるN.Cadherinの発現が増加した。
【0110】
前記結果を基に、TAM及びTAMが分泌するIL-10が、腫瘍細胞においてIL-4受容体の発現を調節する重要因子である点、及び腫瘍が転移段階に発展する状態と言える上皮間葉移行を誘導する因子であることが分かった。
【0111】
前記の結果をより具体的に証明するために、M2型マクロファージであるTAMのIL-10の生成量をM1型マクロファージと比較して、IL-10処理された4T1細胞からIL-4受容体の発現度及びIL4RPep-1ペプチドの結合様相を、免疫染色を通じて確認した。
【0112】
これに対する結果を図8及び図9に示した。
【0113】
図8に示したとおり、M2型マクロファージは、可溶性サイトカインの形態及びエキソソームの形態でIL-10を多量分泌することが確認され、対照的にM1型マクロファージでは、IL-10の分泌が殆ど示されていないことが確認された。
【0114】
図9Aに示したとおり、野生型の4T1細胞と比較して、IL-10で処理された4T1細胞はIL4RPep-1ペプチドの結合親和性が著しく優れていることが確認されており、図9Bに示したとおり、M2型マクロファージのエキソソームで処理された4T1細胞においても、TAMにより分泌されたIL-10の影響により、IL-4受容体が多く発現することを確認できた。
【0115】
前記の結果をもとに、腫瘍関連マクロファージのM2型マクロファージにおいて、より具体的には、TAMにより分泌されるIL-10により、腫瘍細胞においてIL-4受容体の発現及び上皮間葉移行が誘導される事実を確認することができ、このような結果は腫瘍が転移段階に進行するにおいて、TAMが重要な役割を担っていることを示していると言える。
【0116】
<実施例5>
IL4RPep-1-KLA融合ペプチドの抗癌及び癌転移抑制活性評価
【0117】
<5−1> in vitro細胞毒性試験
配列番号1のアミノ酸配列を有するIL4RPep-1ペプチドとアポトーシス誘導ペプチドである(KLAKLAK)2が結合された融合ペプチドの細胞毒性を評価した。
【0118】
これに対する結果を図10に示した。
【0119】
図10に示したとおり、IL4RPep-1-KLAはIL-10で処理された4T1腫瘍細胞及び腫瘍関連のM2型マクロファージにおいて優れた細胞毒性を示した。これに対して、IL-4受容体の発現が殆ど観察されない野生型の4T1細胞及びM1型マクロファージに対してはIL4RPep-1-KLA融合ペプチドの細胞毒性は優れていなかった。
【0120】
すなわち、前記の結果は、IL4RPep-1-KLA融合ペプチドがIL-4受容体を過剰発現する癌細胞及びM2型マクロファージを効果的に標的して死滅させることにより、優れた抗癌効果及び癌転移抑制効果を示すことを意味するものと言える。
【0121】
<5−2> IL4RPep-1-KLA融合ペプチドのin vivo抗癌及び癌転移抑制活性評価及び併用投与効能評価
【0122】
IL4RPep-1-KLA融合ペプチドの抗癌及び癌転移抑制活性を4T1細胞が移植されたBalb/c野生型雌マウスで評価した。
【0123】
これに対する結果を図11乃至図13に示した。
【0124】
図11に示したとおり、IL4RPep-1-KLA融合ペプチドを処理したマウス群では、融合ペプチド投与直後から実験終了時まで腫瘍の成長が顕著に抑制されることが示された。一方、このような結果は、IL4RPep-1ペプチド及びKLAそれぞれを単独で投与した群と比べて顕著に優れたものであり、IL4RPep-1ペプチドが、アポトーシスを誘導するアポトーシス誘導ペプチドであるKLAを腫瘍細胞に効果的に伝達して、腫瘍細胞及び腫瘍関連マクロファージを標的することにより表われる効果と考えられる。
【0125】
一方、抗癌剤として広く使用されているパクリタキセルを、その単独投与によっては治療効果が十分表われない容量でIL4RPep-1-KLA融合ペプチドと併用処理した結果、その抗癌効果が顕著に優れる点で、IL4RPep-1-KLA融合ペプチドを、従来の抗癌薬剤と共に投与してその治療効果を最大化することができる併用薬剤として選択できることが分かった。
【0126】
図12に示したとおり、すべての薬剤の投与が終了した後、マウスの肝臓と肺を切除し、癌の転移の有無を観察した。その結果、IL4RPep-1-KLA融合ペプチドを処理したマウス群及びIL4RPep-1-KLA融合ペプチドとパクリタキセルを併用処理したマウス群では、肺と肝臓での癌の転移が全く観察されず、L4R-Pep1-KLA融合ペプチドが優れた癌転移抑制活性及び従来の抗癌薬剤と優れた併用効果を示したことを確認できた。
【0127】
図13に示したとおり、すべての薬剤の投与が終了した後、マウスの腫瘍組織の凍結切片を準備して、それぞれの抗体で染色して顕微鏡で観察した結果、IL4RPep-1-KLA融合ペプチドを処理したマウス群及びIL4RPep-1-KLA融合ペプチドとパクリタキセルを併用処理したマウス群では、対照群に比べてN-cadherinの減少、F4/80(+)腫瘍関連マクロファージの減少、CD80(+)マクロファージの増加、CD8(+)T細胞の増加、及びCD4(+)T細胞の減少を確認することができた。
【産業上の利用可能性】
【0128】
本発明の融合ペプチドを有効成分として含む薬学的組成物は、腫瘍細胞及び腫瘍関連マクロファージを同時に標的して死滅させる効果があって、優れた抗癌効果及び癌転移抑制効果を示し、従来の抗癌薬剤と併用投与することで、従来の抗がん効果の副作用を減少させながら、抗癌及び癌転移抑制効果を示し、産業上の利用可能性が非常に高い。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]