特許第6720237号(P6720237)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720237
(24)【登録日】2020年6月19日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】絶縁電線
(51)【国際特許分類】
   H01B 7/02 20060101AFI20200629BHJP
   H01B 3/30 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
   H01B7/02 G
   H01B7/02 A
   H01B3/30 D
【請求項の数】7
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2018-40509(P2018-40509)
(22)【出願日】2018年3月7日
(62)【分割の表示】特願2016-575716(P2016-575716)の分割
【原出願日】2016年10月25日
(65)【公開番号】特開2018-133339(P2018-133339A)
(43)【公開日】2018年8月23日
【審査請求日】2019年5月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-212371(P2015-212371)
(32)【優先日】2015年10月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】309019534
【氏名又は名称】住友電工ウインテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100120329
【弁理士】
【氏名又は名称】天野 一規
(72)【発明者】
【氏名】太田 槙弥
(72)【発明者】
【氏名】前田 修平
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 秀明
(72)【発明者】
【氏名】菅原 潤
(72)【発明者】
【氏名】山内 雅晃
(72)【発明者】
【氏名】田村 康
(72)【発明者】
【氏名】吉田 健吾
(72)【発明者】
【氏名】古屋 雄大
(72)【発明者】
【氏名】畑中 悠史
【審査官】 和田 財太
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−140878(JP,A)
【文献】 特開平04−123715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 7/02
H01B 3/30
H01B 13/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
線状の導体と、上記導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、
上記1又は複数の絶縁層の少なくとも1層が複数の気孔を含有し、
上記気孔の周縁部に外殻を備え、
上記絶縁層の気孔率が5体積%以上80体積%以下である絶縁電線。
【請求項2】
上記外殻の主成分がシリコーンである請求項1に記載の絶縁電線。
【請求項3】
上記導体と上記絶縁層との間にプライマー処理層を有する請求項1又は請求項2に記載の絶縁電線。
【請求項4】
上記外殻のうち少なくとも一部が欠損を有している請求項1、請求項2又は請求項3に記載の絶縁電線。
【請求項5】
上記欠損が亀裂、割れ目又は孔である請求項4に記載の絶縁電線。
【請求項6】
上記複数の気孔が扁平球体である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の絶縁電線。
【請求項7】
上記複数の気孔の短軸が導体表面と垂直方向に配向している請求項6に記載の絶縁電線。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁電線及び絶縁層形成用ワニスに関する。
本出願は、2015年10月28日出願の日本出願第2015−212371号に基づく優先権を主張し、上記日本出願に記載された全ての記載内容を援用するものである。
【背景技術】
【0002】
適用電圧が高い電気機器、例えば高電圧で使用されるモーター等では、電気機器を構成する絶縁電線に高電圧が印加され、その絶縁被膜表面で部分放電(コロナ放電)が発生し易くなる。コロナ放電の発生により、局部的な温度上昇、オゾンの発生、イオンの発生等が引き起こされると、早期に絶縁破壊を生じ、絶縁電線ひいては電気機器の寿命が短くなる。このため、適用電圧が高い電気機器に使用される絶縁電線には、優れた絶縁性、機械的強度等に加えてコロナ放電開始電圧の向上も求められる。
【0003】
コロナ放電開始電圧を上げる工夫としては、絶縁被膜の低誘電率化が有効である。絶縁被膜の低誘電率化を実現するために、塗膜構成樹脂と、この塗膜構成樹脂の焼付温度よりも低い温度で分解する熱分解性樹脂とを含む絶縁ワニスにより加熱硬化膜(絶縁被膜)を形成する絶縁電線が提案されている(特開2012−224714号公報参照)。この絶縁電線は、上記熱分解性樹脂が塗膜構成樹脂の焼付時に熱分解してその部分が気孔となることを利用して加熱硬化膜内に気孔が形成されており、この気孔の形成により絶縁被膜の低誘電率化を実現している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2012−224714号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記公報で提案の絶縁電線では、例えば絶縁被膜中に形成される気孔が局在化する場合、又は気孔の大きさにばらつきがある場合、絶縁被膜中において熱分解性樹脂由来の気孔同士が連通し易くなり、熱分解性樹脂の粒子径よりも大きい気孔が生じるおそれがある。このような連続気孔が生じると、絶縁皮膜の強度や耐溶剤性が低下するおそれがある。
【0006】
本発明は以上のような事情に基づいてなされたものであり、誘電率を低下しつつ、絶縁層の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制できる絶縁電線及び絶縁層形成用ワニスを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る絶縁電線は、線状の導体と、この導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記1又は複数の絶縁層の少なくとも1層が複数の気孔を含有し、この気孔の周縁部に外殻を備え、上記外殻が、コアシェル構造の中空形成粒子のシェルに由来する。
【0008】
別の本発明の一態様に係る絶縁層形成用ワニスは、絶縁電線を構成する絶縁層の形成に用いる絶縁層形成用ワニスであって、マトリックスを形成する樹脂組成物と、この樹脂組成物中に分散するコアシェル構造の中空形成粒子とを含有し、上記中空形成粒子のコアが熱分解性樹脂を主成分とし、上記中空形成粒子のシェルの主成分の熱分解温度が上記熱分解性樹脂の熱分解温度より高い。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係る絶縁電線及び絶縁層形成用ワニスは、誘電率を低下しつつ、絶縁層の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態に係る絶縁電線の模式的断面図である。
図2図1の絶縁電線に含まれる気孔及び外殻の模式的断面図である。
図3図1の絶縁電線の形成に用いる絶縁層形成用ワニスに含まれる中空形成粒子の模式的断面図である。
図4】実施例における誘電率の測定方法を説明する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の一態様に係る絶縁電線は、線状の導体と、この導体の外周面に積層される1又は複数の絶縁層とを備える絶縁電線であって、上記1又は複数の絶縁層の少なくとも1層が複数の気孔を含有し、この気孔の周縁部に外殻を備え、上記外殻が、コアシェル構造の中空形成粒子のシェルに由来する。
【0012】
当該絶縁電線は、絶縁層に気孔とこの気孔の周縁部に形成される外殻とを備えるため、気孔同士が連通し難く、その結果、絶縁層の気孔の大きさにばらつきが生じ難い。また、当該絶縁電線は、上記外殻がコアシェル構造の中空形成粒子のシェルに由来する。つまり、当該絶縁電線は、コアシェル構造の中空形成粒子のコアの熱分解により得られる気孔及び外殻を備えるため、気孔の形成時にも気孔の連通が抑制される。このように当該絶縁電線は、単一の熱分解性樹脂で形成された気孔を有する絶縁層よりも絶縁破壊電圧を高くでき、絶縁性に優れる。従って、当該絶縁電線は、誘電率を低下しつつ、絶縁層の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制できる。なお、ここで、コアシェル構造とは、粒子のコアを形成する材料とコアの周囲を取り囲むシェルの材料が異なる構造をいう。
【0013】
上記外殻のうち少なくとも一部が欠損を有しているとよい。上記外殻のうち少なくとも一部が、コアシェル構造の中空形成粒子のコアの熱分解性樹脂がガス化してシェルの外側に飛散することにより形成される欠損を有することで、気孔の形成が担保される。
【0014】
上記欠損が亀裂、割れ目又は孔であるとよい。このように欠損が亀裂、割れ目又は孔であることにより、外殻による気孔の連通防止効果を高めることができる。
【0015】
上記複数の気孔が扁平球体であるとよい。このように、気孔の形状が扁平であることにより、気孔同士が当接し難く、独立気孔が維持され易い。その結果、絶縁層の絶縁性及び耐溶剤性がより低下し難くなる。ここで、「扁平球体」とは、重心を通る最大対角線長さを長径、重心を通る最小対角線長さを短径としたとき、短径が長径の所定割合以下の球体を意味し、例えば短径及び長径を含む断面における長径に対する短径の比が0.95以下の球体である。
【0016】
上記複数の気孔の短軸が導体表面と垂直方向に配向しているとよい。このように気孔の短軸が導体表面と垂直方向に配向することで、外力が作用し易い垂直方向の気孔の連通をより確実に防止することができる。「導体表面と垂直方向に配向する」とは、気孔の短軸と導体表面に垂直な方向との角度差が20度以下であることを意味する。
【0017】
上記外殻の主成分がシリコーンであるとよい。このように外殻の主成分がシリコーンであることで、外殻に弾性を付与すると共に絶縁性及び耐熱性を向上させ易く、その結果、外殻に囲まれた独立気孔がより維持され易い。ここで「主成分」とは、最も含有量の多い成分であり、例えば50質量%以上含有される成分である。
【0018】
本発明の一態様に係る絶縁電線形成用ワニスは、絶縁電線を構成する絶縁層の形成に用いる絶縁層形成用ワニスであって、マトリックスを形成する樹脂組成物と、この樹脂組成物中に分散するコアシェル構造の中空形成粒子とを含有し、上記中空形成粒子のコアが熱分解性樹脂を主成分とし、上記中空形成粒子のシェルの主成分の熱分解温度が上記熱分解性樹脂の熱分解温度より高い。
【0019】
当該絶縁層形成用ワニスは、熱分解性樹脂を主成分とするコアと、熱分解性樹脂より熱分解温度が高い樹脂を主成分とするシェルとを有するコアシェル構造の中空形成粒子を含有する。この中空形成粒子のコアの熱分解性樹脂は、焼付時に熱分解によりガス化し、シェルを通過して飛散するため、上記中空形成粒子は、焼付後に内部が中空となった外殻が残る。つまり、中空形成粒子は、焼付後に内部が中空となった外殻のみで構成される中空粒子となり、絶縁層内に気孔が形成される。当該絶縁層形成用ワニスで得られる絶縁層では、このように絶縁層内に形成される各気孔が外殻で囲まれているので、各中空粒子内の中空部同士が連通し難く、絶縁層に中空粒子よりも大きい気孔が生じ難いため、気孔の大きさにばらつきが生じ難い。また、中空粒子により形成された気孔を有する絶縁層は、単一の熱分解性樹脂で形成された気孔を有する絶縁層よりも絶縁破壊電圧を高くできるため、当該絶縁層形成用ワニスにより絶縁性が優れた絶縁層を形成できる。従って、当該絶縁層形成用ワニスにより、絶縁電線の誘電率を低下しつつ、絶縁層の強度、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制できる。
【0020】
上記中空形成粒子のシェルの主成分がシリコーンであるとよい。このように、中空形成粒子のシェルの主成分をシリコーンとすることにより、シェルに弾性を付与すると共に絶縁性及び耐熱性を向上させ易く、その結果、中空粒子による独立気孔がより維持され易くできる。
【0021】
上記熱分解性樹脂がポリメチルメタクリレート(PMMA)であるとよい。このように、熱分解性樹脂をPMMAとすることにより、熱分解性樹脂が焼付温度で熱分解し易くなり、残渣なく気孔が形成され易い。
【0022】
上記樹脂組成物の主成分がポリイミド前駆体であるとよい。このように、樹脂組成物の主成分をポリイミド前駆体とすることにより、塗布し易くなると共に絶縁層の強度及び耐熱性をより向上させ易い。
【0023】
上記中空形成粒子のCV値としては、30%以下が好ましい。このように、CV値が上記上限以下の中空形成粒子を用いることで、気孔サイズの違いで生じる気孔部分での電荷集中による絶縁性低下や加工応力の集中による絶縁層の強度低下を抑制できる。ここで、「CV値」とは、JIS−Z8825(2013)に規定される変動変数を意味する。
【0024】
本発明の別の一態様に係る絶縁電線形成用ワニスは、当該絶縁電線を構成する絶縁層の形成に用いる絶縁層形成用ワニスであって、マトリックスを形成する樹脂組成物と、この樹脂組成物中に分散する中空粒子とを含有し、上記中空粒子の外殻の主成分が樹脂である。
【0025】
当該絶縁層形成用ワニスは、樹脂を主成分とする外殻を有する中空粒子を含有するため、上述の当該絶縁電線の絶縁層を容易かつ確実に形成できる。
【0026】
上記中空粒子の外殻の主成分がシリコーンであるとよい。このように、中空粒子の外殻の主成分をシリコーンとすることにより、外殻に弾性を付与すると共に絶縁性及び耐熱性を向上させ易く、その結果、中空粒子による独立気孔がより維持され易い。
【0027】
[本発明の実施形態の詳細]
以下、図面を参照しつつ、本発明の実施形態に係る絶縁電線及び絶縁層形成用ワニスを説明する。
【0028】
[絶縁電線]
図1の当該絶縁電線は、線状の導体1と、この導体1の外周面に積層される1層の絶縁層2とを備える。この絶縁層2は、複数の気孔3を含有する。また、当該絶縁電線は、気孔3の周縁部に外殻4を備える。
【0029】
<導体>
上記導体1は、例えば断面が円形状の丸線とされるが、断面が方形状の角線や、複数の素線を撚り合わせた撚り線であってもよい。
【0030】
導体1の材質としては、導電率が高くかつ機械的強度が大きい金属が好ましい。このような金属としては、例えば銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金、ニッケル、銀、軟鉄、鋼、ステンレス鋼等が挙げられる。導体1は、これらの金属を線状に形成した材料や、このような線状の材料にさらに別の金属を被覆した多層構造のもの、例えばニッケル被覆銅線、銀被覆銅線、銅被覆アルミニウム線、銅被覆鋼線等を用いることができる。
【0031】
導体1の平均断面積の下限としては、0.01mmが好ましく、0.1mmがより好ましい。一方、導体1の平均断面積の上限としては、20mmが好ましく、10mmがより好ましい。導体1の平均断面積が上記下限に満たないと、導体1に対する絶縁層2の体積が大きくなり、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。逆に、導体1の平均断面積が上記上限を超えると、誘電率を十分に低下させるために絶縁層2を厚く形成しなければならず、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【0032】
<絶縁層>
上記絶縁層2は、図1に示すように、後述するコアシェル構造の中空形成粒子に由来する複数の気孔3を含有する。
【0033】
絶縁層2は、絶縁性を有する樹脂組成物、この樹脂組成物中に散在する気孔3、及び気孔3の周縁部の外殻4で形成される。この絶縁層2は、後述する絶縁層形成用ワニスの導体1外周面への塗布及び焼付により形成される。
【0034】
複数の気孔3は、図2に示すようにそれぞれ外殻4で被覆され、この外殻4は図3に示すコアシェル構造の中空形成粒子5のコア6が除去されて中空となった焼付後のシェル7で構成される。つまり、外殻4はコアシェル構造の中空形成粒子5のシェル7に由来する。また、複数の外殻4のうち少なくとも一部は、欠損を有している。
【0035】
複数の気孔3は、図1に示すように扁平球体である。また、気孔3の短軸が導体1表面と垂直方向に配向していると、外力が作用し易い上記垂直方向に気孔同士が当接し難くなるため、独立気孔がより維持され易い。そのため、短軸が導体1表面と垂直方向に配向している気孔3の割合が大きいほど好ましい。全気孔3の数に対する短軸が導体1表面と垂直方向に配向している気孔3の数の割合の下限としては、60%が好ましく、80%がより好ましい。短軸が導体1表面と垂直方向に配向している気孔3の割合が上記下限に満たないと、気孔同士で当接する気孔3が増加し、連続気孔の発生を十分に抑制できないおそれがある。
【0036】
気孔3の短径及び長径を含む断面における長径に対する短径の長さの比の平均の下限としては、0.2が好ましく、0.3がより好ましい。一方、上記比の平均の上限としては、0.95が好ましく、0.9がより好ましい。上記比の平均が上記下限に満たないと、ワニス焼付時の厚さ方向の収縮量を大きくする必要があるため、絶縁電線2の可撓性が低下するおそれがある。逆に、上記比の平均が上記上限を超えると、気孔率を高くする場合に、外力が作用し易い絶縁層2の厚さ方向に気孔同士が当接し易くなり、気孔3の連通抑制効果が十分に得られないおそれがある。なお、上記比は、絶縁層形成用ワニスに含まれる樹脂組成物の焼付時の収縮により中空形成粒子5に加わる圧力を変化させることで調節できる。この中空形成粒子5に加わる圧力は、例えば上記樹脂組成物の主成分となる材料の種類、絶縁層2の厚さ、中空形成粒子5の材料、焼付条件等により変化させることができる。
【0037】
気孔3の長径の平均の下限としては、特に限定されないが、例えば0.1μmが好ましく、1μmがより好ましい。一方、上記長径の平均の上限としては、10μmが好ましく、8μmがより好ましい。上記長径の平均が上記下限に満たないと、絶縁層2に所望の気孔率が得られないおそれがある。逆に、上記長径の平均が上記上限を超えると、絶縁層2内における気孔3の分布を均一にし難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。
【0038】
複数の気孔3の周縁部に存在する複数の外殻4は、少なくとも一部が欠損を有する。気孔3及び外殻4は、図3に示すような熱分解性樹脂を主成分とするコア6と、この熱分解性樹脂より熱分解温度が高いシェル7とを有する中空形成粒子5に由来する。つまり、この中空形成粒子5を含むワニスの焼付時にコア6の主成分である熱分解性樹脂が熱分解によりガス化し、シェル7を通過して飛散することにより気孔3及び外殻4が形成される。このとき、シェル7における熱分解性樹脂の通過路が欠損として外殻4に存在する。この欠損の形状は、シェル7の材質や形状によって変化するが、外殻4による気孔3の連通防止効果を高める観点から、亀裂、割れ目及び孔が好ましい。
【0039】
なお、絶縁層2は、欠損のない外殻4を含んでいてもよい。コア6の熱分解性樹脂のシェル7外部への流出条件によっては外殻4に欠損が形成されない場合もある。また、絶縁層2は、外殻4に被覆されない気孔3を含んでいてもよい。
【0040】
絶縁層2の平均厚さの下限としては、5μmが好ましく、10μmがより好ましい。一方、絶縁層2の平均厚さの上限としては、200μmが好ましく、100μmがより好ましい。絶縁層2の平均厚さが上記下限に満たないと、絶縁層2に破れが生じ、導体1の絶縁が不十分となるおそれがある。逆に、絶縁層2の平均厚さが上記上限を超えると、当該絶縁電線を用いて形成されるコイル等の体積効率が低くなるおそれがある。
【0041】
絶縁層2の気孔率の下限としては、5体積%が好ましく、10体積%がより好ましい。一方、絶縁層2の気孔率の上限としては、80体積%が好ましく、50体積%がより好ましい。絶縁層2の気孔率が上記下限に満たないと、絶縁層2の誘電率が十分に低下せず、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。逆に、絶縁層2の気孔率が上記上限を超えると、絶縁層2の機械的強度を維持できないおそれがある。ここで、「気孔率」とは、気孔を含む絶縁層の体積に対する気孔の容積の百分率を意味する。
【0042】
絶縁層2と材質が同一でかつ気孔を含有しない層の誘電率に対する絶縁層2の誘電率の比の上限としては、95%であり、90%が好ましく、80%がより好ましい。上記誘電率の比が上記上限を超えると、コロナ放電開始電圧を十分に向上できないおそれがある。
【0043】
当該絶縁電線は、このように、絶縁層2に含まれる気孔3が外殻4で囲まれており、外殻4が当接しても気孔3同士が連通し難いため、粗大な気孔が生じ難い。これにより、当該絶縁電線は、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制しつつ絶縁層2の気孔率を高められる。
【0044】
また、当該絶縁電線は、複数の気孔3が扁平球体であるので、気孔3同士が当接し難く、気孔3による独立気孔が維持され易い。
【0045】
[絶縁層形成用ワニス]
<第一実施形態>
当該絶縁層形成用ワニスは、上記絶縁電線の絶縁層2の形成に用いるワニスである。第一の実施形態に係る当該絶縁層形成用ワニスは、マトリックスを形成する樹脂組成物と、この樹脂組成物中に分散するコアシェル構造の中空形成粒子5とを含有し、中空形成粒子5のコア6が熱分解性樹脂を主成分とし、中空形成粒子5のシェル7の主成分の熱分解温度が上記熱分解性樹脂の熱分解温度より高い。
【0046】
(樹脂組成物)
上記樹脂組成物は、主ポリマーと、希釈用溶剤、硬化剤等とを含む組成物である。上記主ポリマーとしては、特に限定されないが、熱硬化性樹脂を使用する場合、例えばポリビニールホルマール前駆体、熱硬化ポリウレタン前駆体、熱硬化アクリル樹脂前駆体、エポキシ樹脂前駆体、フェノキシ樹脂前駆体、熱硬化ポリエステル前駆体、熱硬化ポリエステルイミド前駆体、熱硬化ポリエステルアミドイミド前駆体、熱硬化ポリアミドイミド前駆体、ポリイミド前駆体等が使用できる。また、主ポリマーとして熱可塑性樹脂を使用する場合、例えばポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド等が使用できる。これらの中でも、絶縁層形成用ワニスを塗布し易くできると共に絶縁層2の強度及び耐熱性を向上させ易い点において、ポリイミド前駆体が好ましい。
【0047】
希釈用溶剤としては、絶縁ワニスに従来より用いられている公知の有機溶剤を用いることができる。具体的には、例えばN−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、テトラメチル尿素、ヘキサエチルリン酸トリアミド、γ−ブチロラクトンなどの極性有機溶媒をはじめ、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、シュウ酸ジエチルなどのエステル類;ジエチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル類;ヘキサン、ヘプタン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの炭化水素類;ジクロロメタン、クロロベンゼンなどのハロゲン化炭化水素類;クレゾール、クロルフェノールなどのフェノール類;ピリジンなどの第三級アミン類等が挙げられ、これらの有機溶媒はそれぞれ単独であるいは2種以上を混合して用いられる。
【0048】
また、上記樹脂組成物に、硬化剤を含有させてもよい。硬化剤としては、チタン系硬化剤、イソシアネート系化合物、ブロックイソシアネート、尿素やメラミン化合物、アミノ樹脂、アセチレン誘導体、メチルテトラヒドロ無水フタル酸などの脂環式酸無水物、脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物等が例示される。これらの硬化剤は、使用する樹脂組成物が含有する主ポリマーの種類に応じて、適宜選択される。例えば、ポリアミドイミド系の場合、硬化剤として、イミダゾール、トリエチルアミン等が好ましく用いられる。
【0049】
なお、上記チタン系硬化剤としては、テトラプロピルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラメチルチタネート、テトラブチルチタネート、テトラヘキシルチタネート等が例示される。
上記イソシアネート系化合物としては、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、p−フェニレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族ジイソシアネート;ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)、2,2,4−トリメチルヘキサンジイソシアネート、リジンジイソシアネートなどの炭素数3〜12の脂肪族ジイソシアネート;1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(水添MDI)、メチルシクロヘキサンジイソシアネート、イソプロピリデンジシクロヘキシル−4,4’−ジイソシアネート、1,3−ジイソシアナトメチルシクロヘキサン(水添XDI)、水添TDI、2,5−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタン、2,6−ビス(イソシアナートメチル)−ビシクロ[2,2,1]ヘプタンなどの炭素数5〜18の脂環式イソシアネート;キシリレインジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)などの芳香環を有する脂肪族ジイソシアネート;これらの変性物等が例示される。
上記ブロックイソシアネートとしては、ジフェニルメタン−4,4’−ジイソシアネート(MDI)、ジフェニルメタン−3,3’−ジイソシアネート、ジフェニルメタン−3,4’−ジイソシアネート、ジフェニルエーテル−4,4’−ジイソシアネート、ベンゾフェノン−4,4’−ジイソシアネート、ジフェニルスルホン−4,4’−ジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネート、トリレン−2,6−ジイソシアネート、ナフチレン−1,5−ジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート等が例示される。
上記メラミン化合物としては、メチル化メラミン、ブチル化メラミン、メチロール化メラミン、ブチロール化メラミン等が例示される。上記アセチレン誘導体としては、エチニルアニリン、エチニルフタル酸無水物等が例示される。
【0050】
(中空形成粒子)
上記中空形成粒子5は、図3に示すように、熱分解性樹脂を主成分とするコア6と、この熱分解性樹脂より熱分解温度が高いシェル7とを有する。
【0051】
(コア)
コア6の主成分に用いる熱分解性樹脂としては、例えば上記主ポリマーの焼付温度よりも低い温度で熱分解する樹脂粒子が用いられる。上記主ポリマーの焼付温度は、樹脂の種類に応じて適宜設定されるが、通常200℃以上600℃以下程度である。従って、中空形成粒子5のコア6に用いる熱分解性樹脂の熱分解温度の下限としては200℃が好ましく、上限としては400℃が好ましい。ここで、熱分解温度とは、空気雰囲気下で室温から10℃/分で昇温し、質量減少率が50%となるときの温度を意味する。熱分解温度は、例えば熱重量測定−示差熱分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社の「TG/DTA」)を用いて熱重量を測定することにより測定できる。
【0052】
上記中空形成粒子5のコア6に用いる熱分解性樹脂としては、特に限定されないが、例えばポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコールなどの片方、両方の末端又は一部をアルキル化、(メタ)アクリレート化又はエポキシ化した化合物;ポリ(メタ)アクリル酸メチル、ポリ(メタ)アクリル酸エチル、ポリ(メタ)アクリル酸プロピル、ポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどの炭素数1以上6以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体;ウレタンオリゴマー、ウレタンポリマー、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ε―カプロラクトン(メタ)アクリレートなどの変性(メタ)アクリレートの重合物;ポリ(メタ)アクリル酸;これらの架橋物;ポリスチレン、架橋ポリスチレン等が挙げられる。これらの中でも、主ポリマーの焼付温度で熱分解し易く絶縁層2に気孔3を形成させ易い点において、炭素数1以上6以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸エステルの重合体が好ましい。このような(メタ)アクリル酸エステルの重合体として、例えばポリメチルメタクリレート(PMMA)が挙げられる。
【0053】
コア6の形状は、球状が好ましい。コア6の形状を球状とするために、例えば球状の熱分解性樹脂粒子をコア6として用いるとよい。球状の熱分解性樹脂粒子を用いる場合、この樹脂粒子の平均粒子径の下限としては、特に制限はないが、例えば0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。一方、上記樹脂粒子の平均粒子径の上限としては、15μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記樹脂粒子の平均粒子径が上記下限に満たないと、この樹脂粒子をコア6とする中空形成粒子5が作製し難くなるおそれがある。逆に、上記樹脂粒子の平均粒子径が上記上限を超えると、この樹脂粒子をコア6とする中空形成粒子5が大きくなり過ぎるため、絶縁層2内における気孔3の分布が均一になり難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。ここで、上記樹脂粒子の平均粒子径とは、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した粒度分布において、最も高い体積の含有割合を示す粒径を意味する。
【0054】
シェル7の主成分として、上記熱分解性樹脂より熱分解温度が高い材料が用いられる。また、シェル7の主成分として、誘電率が低く、耐熱性が高いものが好ましい。シェル7の主成分として用いられるこのような材料としては、例えばポリスチレン、シリコーン、フッ素樹脂、ポリイミド等の樹脂が挙げられる。これらの中でも、シェル7に弾性を付与すると共に絶縁性及び耐熱性を向上させ易い点において、シリコーンが好ましい。ここで、「フッ素樹脂」とは、高分子鎖の繰り返し単位を構成する炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、フッ素原子又はフッ素原子を有する有機基(以下「フッ素原子含有基」ともいう)で置換されたものをいう。フッ素原子含有基は、直鎖状又は分岐状の有機基中の水素原子の少なくとも1つがフッ素原子で置換されたものであり、例えばフルオロアルキル基、フルオロアルコキシ基、フルオロポリエーテル基等を挙げることができる。なお、絶縁性を損なわない範囲でシェル7に金属が含まれてもよい。
【0055】
なお、シェル7の主成分の樹脂は、上記絶縁層形成用ワニスに含有させる樹脂組成物の主ポリマーと同種のものを用いてもよく、異なるものを用いてもよい。例えばシェル7の主成分の樹脂として、上記樹脂組成物の主ポリマーと同種のものを用いた場合でも、熱分解性樹脂より熱分解温度が高いので、熱分解性樹脂がガス化してもシェル7の主成分の樹脂は熱分解し難いため、気孔3の連通抑制効果が得られる。このような絶縁層形成用ワニスで形成された当該絶縁電線は、電子顕微鏡で観察してもシェル7の存在を確認できない場合がある。一方、シェル7の主成分の樹脂として上記樹脂組成物の主ポリマーと異なるものを用いることにより、シェル7を上記樹脂組成物と一体化され難くできるので、上記樹脂組成物の主ポリマーと同種の樹脂を用いる場合に比べて、気孔3の連通抑制効果が得易くなる。
【0056】
シェル7の平均厚さの下限としては、特に制限はないが、例えば0.01μmが好ましく、0.02μmがより好ましい。一方、シェル7の平均厚さの上限としては、0.5μmが好ましく、0.4μmがより好ましい。シェル7の平均厚さが上記下限に満たないと、気孔3の連通抑制効果が十分に得られないおそれがある。逆に、シェル7の平均厚さが上記上限を超えると、気孔3の体積が小さくなり過ぎるため、絶縁層2の気孔率を所定以上に高められないおそれがある。なお、シェル7は、1層で形成されてもよいし、複数の層で形成されてもよい。シェル7が複数の層で形成される場合、複数の層の合計厚さの平均が、上記厚さの範囲内であればよい。
【0057】
中空形成粒子5のCV値の上限としては、30%が好ましく、20%がより好ましい。中空形成粒子5のCV値が上記上限を超えると、絶縁層2にサイズが異なる複数の気孔3が含まれるようになるため、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。なお、中空形成粒子5のCV値の下限としては、特に制限はないが、例えば1%が好ましい。中空形成粒子5のCV値が上記下限に満たないと、中空形成粒子5のコストが高くなり過ぎるおそれがある。
【0058】
なお、上記中空形成粒子5は、図3に示すように、コア6を1個の熱分解性樹脂粒子で形成する構成としてもよいし、コア6を複数の熱分解性樹脂粒子で形成し、シェル7の樹脂がこれらの複数の熱分解性樹脂粒子を被覆する構成としてもよい。
【0059】
また、上記中空形成粒子5の表面は、図3に示すように凹凸がなく滑らかであってもよいし、凹凸が形成されてもよい。
【0060】
また、上記有機溶剤により希釈し、中空形成粒子5を分散させることにより調製した当該絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度の下限としては、15質量%が好ましく、20質量%がより好ましい。一方、当該絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度の上限としては、50質量%が好ましく、30質量%がより好ましい。当該絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度が上記下限に満たないと、1回のワニスの塗布で形成できる厚さが小さくなるため、所望の厚さの絶縁層2を形成するためのワニス塗布工程の繰り返し回数が多くなり、ワニス塗布工程の時間が長くなるおそれがある。逆に、当該絶縁層形成用ワニスの樹脂固形分濃度が上記上限を超えると、ワニスが増粘することにより、ワニスの保存安定性が悪化するおそれがある。
【0061】
また、当該絶縁層形成用ワニスに、中空形成粒子5に加えて、気孔形成のために熱分解性粒子等の気孔形成剤を混合してもよい。また、気孔形成のために、沸点の異なる希釈溶剤を組合せて上記絶縁層形成用ワニスを調製してもよい。気孔形成剤により形成された気孔や沸点の異なる希釈溶剤の組合せにより形成される気孔は、中空形成粒子5に由来する気孔とは連通し難い。従って、このように外殻4に被覆されない気孔を含む場合でも、外殻4に被覆される気孔の存在により、絶縁層2に粗大な気孔が生じ難い。
【0062】
<第二実施形態>
第二の実施形態に係る当該絶縁層形成用ワニスは、第一実施形態の絶縁層形成用ワニスと同様、上記絶縁電線の絶縁層の形成に用いるワニスである。第二実施形態の絶縁層形成用ワニスは、マトリックスを形成する樹脂組成物と、この樹脂組成物中に分散する中空粒子とを含有し、上記中空粒子の外殻の主成分が樹脂である。
【0063】
当該絶縁層形成用ワニスの樹脂組成物は、第一実施形態の絶縁層形成用ワニスと同様とすることができる。
【0064】
中空粒子の主成分の樹脂としては、例えばポリスチレン、シリコーン、フッ素樹脂、ポリイミド等が挙げられる。これらの中でも、外殻に弾性を付与すると共に絶縁性及び耐熱性を向上させ易い点において、シリコーンが好ましい。
【0065】
中空粒子の平均内径の下限としては、特に制限はないが、例えば0.1μmが好ましく、0.5μmがより好ましく、1μmがさらに好ましい。一方、中空粒子の平均内径の上限としては、15μmが好ましく、10μmがより好ましい。上記中空粒子の平均内径が上記下限に満たないと、所望の気孔率の絶縁層が得られないおそれがある。逆に、中空粒子の平均内径が上記上限を超えると、絶縁層内における気孔の分布が均一になり難くなり、誘電率の分布に偏りが生じ易くなるおそれがある。
【0066】
中空粒子の外殻の平均厚さの下限としては、特に制限はないが、例えば0.01μmが好ましく、0.02μmがより好ましい。一方、外殻の平均厚さの上限としては、0.5μmが好ましく、0.4μmがより好ましい。外殻の平均厚さが上記下限に満たないと、気孔の連通抑制効果が十分に得られないおそれがある。逆に、外殻の平均厚さが上記上限を超えると、気孔の体積が小さくなり過ぎるため、絶縁層の気孔率を所定以上に高められないおそれがある。なお、外殻は、1層で形成されてもよいし、複数の層で形成されてもよい。外殻が複数の層で形成される場合、複数の層の合計厚さの平均が、上記厚さの範囲内であればよい。
【0067】
中空粒子のCV値は、上記第一実施形態の絶縁層形成用ワニスの中空形成粒子と同様とすることができる。
【0068】
なお、当該絶縁層形成用ワニスは、上記第一実施形態の絶縁層形成用ワニスを加熱することにより得られる。つまり、第一実施形態の絶縁層形成用ワニスの加熱により、中空形成粒子のコアの熱分解性樹脂をガス化し除去することで、本実施形態の中空粒子が得られる。
【0069】
[絶縁電線の製造方法]
次に、当該絶縁電線の製造方法について説明する。当該絶縁電線の製造方法は、上記絶縁層2を形成するための主ポリマーを溶剤で希釈した樹脂組成物に、コアシェル構造の中空形成粒子5を分散させることで絶縁層形成用ワニスを調製する工程(ワニス調製工程)、上記絶縁層形成用ワニスを上記導体1の外周面に塗布する工程(ワニス塗布工程)、及び加熱により上記中空形成粒子5のコア6を除去する工程(加熱工程)を備える。
【0070】
<ワニス調製工程>
上記ワニス調製工程において、まず、絶縁層2を形成する主ポリマーを溶剤で希釈することにより、絶縁層2のマトリックスを形成する樹脂組成物を作成する。次に、この樹脂組成物に中空形成粒子5を分散させて絶縁層形成用ワニスを調製する。なお、樹脂組成物に中空形成粒子5を分散させるのではなく、主ポリマーを溶剤で希釈する際、同時に中空形成粒子5を混合することにより上記絶縁層形成用ワニスを調製してもよい。
【0071】
<ワニス塗布工程>
上記ワニス塗布工程において、上記ワニス調製工程で調製した絶縁層形成用ワニスを導体1の外周面に塗布した後、塗布ダイスにより導体1のワニスの塗布量の調節及び塗布されたワニス面の平滑化を行う。
【0072】
上記塗布ダイスは開口部を有し、絶縁層形成用ワニスを塗布した導体1がこの開口部を通過することで余分なワニスが除去され、ワニスの塗布量が調整される。これにより、当該絶縁電線は、絶縁層2の厚さが均一になり、均一な電気絶縁性が得られる。
【0073】
<加熱工程>
次に、上記加熱工程において、絶縁層形成用ワニスが塗布された導体1を焼付炉に通して絶縁層形成用ワニスを焼付けることで、導体1表面に絶縁層2を形成する。焼付の際、絶縁層形成用ワニスに含まれる中空形成粒子5のコア6の熱分解性樹脂が熱分解によりガス化し、このガス化した熱分解性樹脂がシェル7を通過して飛散する。このように、焼付時の加熱により、中空形成粒子5のコア6が除去される。その結果、絶縁層2中に中空形成粒子5に由来する中空粒子(外殻のみの粒子)が形成され、この中空粒子による気孔3が絶縁層2内に形成される。このように、上記加熱工程は、絶縁層形成用ワニスの焼付工程を兼ねる。
【0074】
導体1表面に積層される絶縁層2が所定の厚さとなるまで、上記ワニス塗布工程及び加熱工程を繰り返すことにより、当該絶縁電線が得られる。
【0075】
このように、当該絶縁層形成用ワニスを用いて作成した絶縁層2には、中空形成粒子5に由来する気孔3が含まれる。この気孔3は外殻4で囲まれているので、気孔同士が連通し難く、絶縁層2の気孔率が高くなるよう気孔を増やしても粗大な気孔が生じ難い。また、外殻4で囲まれた気孔3を有する絶縁層2は、単一の熱分解性樹脂で形成された気孔を有する絶縁層よりも絶縁破壊電圧を高くできるため、当該絶縁層形成用ワニスにより絶縁性の低下を抑制できる。このように、当該絶縁層形成用ワニスにより、絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制しつつ絶縁層2の気孔率を高めることができる。
【0076】
なお、上記加熱工程は、ワニス調製工程の前に行ってもよい。この場合、例えば恒温槽などを用いて上記中空形成粒子5を加熱することにより、コア6の熱分解性樹脂を熱分解によりガス化させ、コア6が除去された中空粒子を得る。上記ワニス調製工程では、絶縁層2のマトリックスを形成する上記樹脂組成物に、中空粒子を分散させて絶縁層形成用ワニスを調製する。この絶縁層形成用ワニスの塗布及び焼付後も、上記コア6が除去された中空粒子の中空構造が維持されるので、この絶縁層形成用ワニスの塗布及び焼付により、中空粒子による気孔3を含む絶縁層2を形成できる。ただし、このようにワニス調製工程の前に加熱工程を行う場合、加熱工程とは別に絶縁層形成用ワニスを焼付ける工程をワニス塗布工程の後に行う。
【0077】
このように、ワニス調製工程の前に加熱工程を行う場合、焼付時の加熱により中空形成粒子5のコア6を消失させる場合に比べて、より確実にコア6を消失させ易い。そのため、より確実に絶縁層2に気孔を形成できると共に、熱分解性樹脂の分解ガスによる絶縁層2の発泡を抑制できる。
【0078】
[その他の実施形態]
今回開示された実施の形態は全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記実施形態の構成に限定されるものではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【0079】
上記実施形態においては、1層の絶縁層が導体の外周面に積層される絶縁電線について説明したが、複数の絶縁層が導体の外周面に積層される絶縁電線としてもよい。つまり、図1の導体1と気孔3を含む絶縁層2との間に1又は複数の絶縁層が積層されてもよいし、図1の気孔3を含む絶縁層2の外周面に1又は複数の絶縁層が積層されてもよいし、図1の気孔3を含む絶縁層2の外周面及び内周面の両方に1又は複数の絶縁層が積層されてもよい。このように複数の絶縁層が積層される絶縁電線において、少なくとも1の絶縁層に外殻に囲まれる気孔(中空粒子による気孔)が含まれればよい。つまり、2以上の絶縁層に中空粒子による気孔が含まれてもよい。2以上の絶縁層に中空粒子による気孔が含まれる場合、これらのそれぞれの絶縁層が低誘電率化に寄与する。このように複数の絶縁層のうち少なくとも1層が当該絶縁層形成用ワニスで形成される絶縁電線も、本発明の意図する範囲内である。また、このように導体の外周面に複数の絶縁層を積層することにより、絶縁電線の機械的強度を向上できる。なお、これらの複数の絶縁層を形成する樹脂組成物として同種のものを用いてもよく、互いに異なるものを用いてもよい。
【0080】
また、上記実施形態では、絶縁層に含まれる気孔が扁平球体である絶縁電線について説明したが、気孔が扁平球体でなくてもよい。例えば、外殻に囲まれる気孔が扁平ではない多角体や球体であってもよい。気孔がこのような形状であっても、外殻により気孔同士が連通し難いので、絶縁層に粗大な気孔が生じ難い。従って、このような形状の気孔であっても、絶縁電線の絶縁性及び耐溶剤性の低下を抑制しつつ絶縁層の気孔率を高められる。
【0081】
また、例えば当該絶縁電線において、導体と絶縁層との間にプライマー処理層等のさらなる層が設けられてもよい。プライマー処理層は、層間の密着性を高めるために設けられる層であり、例えば公知の樹脂組成物により形成することができる。
【0082】
導体と絶縁層との間にプライマー処理層を設ける場合、このプライマー処理層を形成する樹脂組成物は、例えばポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステルイミド、ポリエステル及びフェノキシ樹脂の中の一種又は複数種の樹脂を含むとよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、密着向上剤等の添加剤を含んでもよい。このような樹脂組成物によって導体と絶縁層との間にプライマー処理層を形成することで、導体と絶縁層との間の密着性を向上することが可能であり、その結果、当該絶縁電線の可撓性や耐摩耗性、耐傷性、耐加工性などの特性を効果的に高めることができる。
【0083】
また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物は、上記樹脂と共に他の樹脂、例えばエポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、メラミン樹脂等を含んでもよい。また、プライマー処理層を形成する樹脂組成物に含まれる各樹脂として、市販の液状組成物(絶縁ワニス)を使用してもよい。
【0084】
プライマー処理層の平均厚さの下限としては、1μmが好ましく、2μmがより好ましい。一方、プライマー処理層の平均厚さの上限としては、30μmが好ましく、20μmがより好ましい。プライマー処理層の平均厚さが上記下限に満たないと、導体との十分な密着性を発揮できないおそれがある。逆に、プライマー処理層の平均厚さが上記上限を超えると、当該絶縁電線が不必要に大径化するおそれがある。
【実施例】
【0085】
以下、実施例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
[実施例]
実施例として、表1のNo.1に示す絶縁電線を以下のようにして製造した。まず、銅を鋳造、延伸、伸線及び軟化し、断面が円形で平均径1mmの導体を得た。一方、主ポリマーとしてポリイミドを用い、溶剤としてN−メチル−2−ピロリドンを用いて、主ポリマーをこの溶剤で希釈した樹脂組成物を作成した。次に、中空形成粒子としてコアがPMMA粒子でシェルがシリコーンの平均粒子径3μmのコアシェル型複合粒子を用い、上記樹脂組成物に、計算値で絶縁層の気孔率が20体積%となる量の上記中空形成粒子を分散させて絶縁層形成用ワニスを得た。この絶縁層形成用ワニスを上記導体の外周面に塗布し、線速2.5m/min、加熱炉入口温度350℃、加熱炉出口温度450℃の条件で焼き付けることによって絶縁層を積層し、No.1の絶縁電線を得た。なお、絶縁層は単層で、その平均厚さは30μmとした。この絶縁電線の絶縁層は、欠損(亀裂)を有する外殻で囲まれた気孔を含んでいた。
【0087】
絶縁層形成用ワニスとして、上記樹脂組成物に計算値で絶縁層の気孔率が40体積%となる量の上記中空形成粒子を分散させたものを用いた以外は、上述のNo.1に示す絶縁電線と同様の方法により、実施例としてNo.2の絶縁電線を得た。この絶縁電線の絶縁層は、欠損(亀裂)を有する外殻で囲まれた気孔を含んでいた。
【0088】
絶縁層形成用ワニスとして、上記樹脂組成物に計算値で絶縁層の気孔率が50体積%となる量の上記中空形成粒子を分散させたものを用いた以外は、上述のNo.1に示す絶縁電線と同様の方法により、実施例としてNo.3の絶縁電線を得た。この絶縁電線の絶縁層は、欠損(亀裂)を有する外殻で囲まれた気孔を含んでいた。
【0089】
[比較例]
絶縁層を形成するワニスとして、中空形成粒子を含有しない上記樹脂組成物を用いた。このワニスを上記導体の外周面に塗布し、焼き付けることによって絶縁層を積層し、比較例として絶縁層が気孔を含まないNo.4の絶縁電線を得た。
【0090】
絶縁層形成用ワニスとして、上記樹脂組成物に計算値で絶縁層の気孔率が10体積%となる量のPMMA粒子を分散させたものを用いた以外は、上述のNo.1に示す絶縁電線と同様の方法により、比較例としてNo.5の絶縁電線を得た。ここで用いた絶縁層形成用ワニスは、上記樹脂組成物に分散させる粒子として、No.1で用いた中空形成粒子に代えて熱分解性樹脂粒子を用いて調製した。具体的には、この熱分解性樹脂粒子として、平均粒子径2.5μmのPMMA粒子を用いた。
【0091】
絶縁層形成用ワニスとして、上記樹脂組成物に計算値で絶縁層の気孔率が20体積%となる量の上記PMMA粒子を分散させたものを用いた以外は、上述のNo.5に示す絶縁電線と同様の方法により、比較例としてNo.6の絶縁電線を得た。
【0092】
絶縁層形成用ワニスとして、上記樹脂組成物に計算値で絶縁層の気孔率が30体積%となる量の上記PMMA粒子を分散させたものを用いた以外は、上述のNo.5に示す絶縁電線と同様の方法により、比較例としてNo.7の絶縁電線を得た。
【0093】
絶縁層形成用ワニスとして、上記樹脂組成物に計算値で絶縁層の気孔率が40体積%となる量の上記PMMA粒子を分散させたものを用いた以外は、上述のNo.5に示す絶縁電線と同様の方法により、比較例としてNo.8の絶縁電線を得た。
【0094】
絶縁層形成用ワニスとして、上記樹脂組成物に計算値で絶縁層の気孔率が50体積%となる量の上記PMMA粒子を分散させたものを用いた以外は、上述のNo.5に示す絶縁電線と同様の方法により、比較例としてNo.9の絶縁電線を得た。
【0095】
<誘電率の測定>
No.1〜No.9の絶縁電線について、絶縁層2の誘電率εを測定した。図4は、誘電率の測定方法を説明する模式図である。図4では、絶縁電線に図1と同じ符号を付している。まず、絶縁電線の表面3カ所に銀ペーストPを塗布すると共に、絶縁電線の一端側の絶縁層2を剥離して導体1を露出させた測定用のサンプルを作製した。ここで、絶縁電線の表面3カ所に塗布した銀ペーストPの絶縁電線長手方向の塗布長さは、長手方向に沿って順に10mm、100m、10mmとした。長さ10mmで塗布した2カ所の銀ペーストPを接地し、これらの2カ所の銀ペーストの間に塗布した長さ100mmの銀ペーストPと上記露出させた導体1との間の静電容量をLCRメータMで測定した。この測定した静電容量及び絶縁層2の厚さ30μmから絶縁層2の誘電率εを算出した。なお、上記誘電率εの測定は、105℃で1時間加熱した後にn=3で実施し、その平均値を求めた。誘電率εの測定結果を表1に示す。
【0096】
<皮膜特性評価>
No.1〜No.9の絶縁電線について、絶縁層を導体から筒状に剥離し、この筒状の絶縁層の破断時の皮膜の引張強さ[N/mm]を引張試験機で測定した。なお、引張強さの測定は、n=5で実施し、それぞれの平均値を求めた。皮膜の引張強さの測定結果を表1に示す。
【0097】
<絶縁性評価>
No.1〜No.9の絶縁電線について、絶縁破壊電圧を測定した。具体的には、JIS−C3216−5(2011)に従い、2個より線の線間に交流電圧を加え500V/秒で昇圧し、絶縁破壊したときの電圧を測定した。なお、絶縁破壊電圧の測定は、n=5で実施し、その平均値を求めた。絶縁破壊電圧の測定結果を表1に示す。
【0098】
<溶剤浸漬試験>
絶縁電線は、高電圧が印加されるような使用では高温となるため、このような場合には、絶縁電線を冷却するために、例えば絶縁電線が溶剤中に浸漬して使用されることがある。このように絶縁電線が溶剤中に浸漬されて使用される場合でも、所望の特性が得られることを確認するため、溶剤浸漬試験を行った。具体的には、No.1〜No.9の絶縁電線を試験用油IRM903に150℃で72時間浸漬させた後、各電線の誘電率εを測定した。この溶剤浸漬試験は、n=3で実施し、その平均値を求めて、溶剤への浸漬前の誘電率εと比較した。具体的には、溶剤浸漬試験前後の誘電率εの差が0.05未満のものを誘電率の上昇が認められなかったものとして評価結果Aとした。また、溶剤浸漬試験前よりも溶剤浸漬試験後の誘電率εの方が0.05以上0.2未満大きいものを誘電率が少し上昇したものとして評価結果Bとし、溶剤浸漬試験後の誘電率εの方が0.2以上大きいものを誘電率が大幅に上昇したものとして評価結果Cとした。これらの誘電率εの変化の評価結果を表1に示す。
【0099】
<部分放電開始電圧の測定>
No.1〜No.9の絶縁電線について、部分放電開始電圧(PDIV)を測定した。具体的には、電線2本を撚り合わせ、2本の絶縁電線の両端に交流電圧を加え10V/秒で昇圧し、50pC以上の放電が3秒間続いたときの電圧を部分放電開始電圧とした。部分放電開始電圧の測定結果を表1に示す。
【0100】
【表1】
【0101】
[評価結果]
表1の結果より、目標気孔率が40体積%以上では、PMMA粒子を含有するワニスにより絶縁層を形成したNo.8〜No.9の溶剤浸漬試験前後の誘電率εの差が、目標気孔率が大きくなると共に増加していることがわかる。これは、No.8〜No.9の絶縁電線では、目標気孔率が大きくなるほど連通する気孔が多くなり、この連通した気孔内に溶剤が浸透したためと考えられる。一方、中空形成粒子を含有するワニスにより絶縁層を形成したNo.1〜No.3の誘電率εは、溶剤浸漬試験実施前からの上昇が認められず、溶剤に浸漬しても誘電率εが変化し難いことがわかる。また、表1の結果から、No.1〜No.3の絶縁電線では、絶縁層の強度及び絶縁性の低下も十分抑制できていることがわかる。従って、中空形成粒子を含有するワニスにより絶縁層を形成した絶縁電線は、耐溶剤性に優れるので、溶剤に浸漬させて使用する絶縁電線として好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0102】
1 導体
2 絶縁層
3 気孔
4 外殻
5 中空形成粒子
6 コア
7 シェル
M LCRメータ
P 銀ペースト

図1
図2
図3
図4