特許第6720308号(P6720308)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6720308自転車の運動量および自転車ペダルに加えられるペダリングケイデンスを測定するための装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720308
(24)【登録日】2020年6月19日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】自転車の運動量および自転車ペダルに加えられるペダリングケイデンスを測定するための装置
(51)【国際特許分類】
   G01P 3/487 20060101AFI20200629BHJP
   B62J 99/00 20200101ALI20200629BHJP
【FI】
   G01P3/487 G
   B62J99/00
   G01P3/487 C
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2018-526798(P2018-526798)
(86)(22)【出願日】2016年6月28日
(65)【公表番号】特表2018-536857(P2018-536857A)
(43)【公表日】2018年12月13日
(86)【国際出願番号】IB2016053847
(87)【国際公開番号】WO2017089904
(87)【国際公開日】20170601
【審査請求日】2019年4月4日
(31)【優先権主張番号】UB2015A005838
(32)【優先日】2015年11月24日
(33)【優先権主張国】IT
(73)【特許権者】
【識別番号】517443129
【氏名又は名称】ブルブレーク エス.アール.エル.
【氏名又は名称原語表記】BLUBRAKE S.R.L.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100179947
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 晃太郎
(72)【発明者】
【氏名】マッテオ コルノ
(72)【発明者】
【氏名】シモーン フォルモンタン
(72)【発明者】
【氏名】ジャンマルコ ラロ
(72)【発明者】
【氏名】セルジオ マッテオ サバレージ
(72)【発明者】
【氏名】ファビオ トデスキーニ
【審査官】 森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特許第6312846(JP,B2)
【文献】 特許第2988659(JP,B2)
【文献】 特許第3601207(JP,B2)
【文献】 米国特許第6047230(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01P3
B62J99
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自転車の車輪の角速度と、自転車ペダルにユーザが加えるペダリングケイデンスとを測定するための装置(1)であって、
−前記車輪のための角速度センサであって、前記車輪に連結するように適合されており、前記車輪の角速度(ω)を検出して、前記車輪の角速度を表す信号を生成するのに適した角速度センサ(2)を備え、該角速度センサ(2)は:
(i)前記車輪と回転可能に一体化するよう適合された可動部であって、該可動部と一体である複数の基準要素が設けられた可動部と;
(ii)前記自転車のフレームに付随するよう適合された固定部であって、検出手段の近傍における前記基準要素の通過を検出するための該検出手段と、前記通過を表す信号を生成するための生成手段と、を備える固定部と;
(iii)前記通過を表す前記信号に基づいて前記車輪の角速度(ω)を測定し、該車輪角速度を表す信号を生成するよう構成された制御モジュールと;を含み、
−前記車輪のための角速度センサ()に接続されたフィルタであって、前記車輪角速度(ω)を表す信号の入力を受信し、かつ、前記車輪角速度における前記センサの構造に相関する推定誤差(θ)を、前記車輪角速度(ω)を表す前記信号から除去することによって得られる、前記車輪角速度の最適化信号(ωopt)を出力に提供するよう構成されたフィルタ(13)を備え、該フィルタ(13)は、前記角速度センサ(2)の前記可動部と一体である前記複数の基準要素の各対において、前記車輪角速度(ωi)を表す前記信号および前記基準要素の各対の前記回転時間(Δtrev)に基づいて推定される
から
を推定し、
から、前記車輪角速度の最適化信号(ωopt)を取得するよう構成されており;
−前記フィルタ(13)に接続され、前記車輪角速度の最適化信号(ωopt)における周波数を分析するためのモジュールであって、前記車輪速度の最適化信号(ωopt)における周波数分析に基づいて前記ペダリングケイデンスを測定し、かつ、該ペダリングケイデンス(C)を表す信号を提供するよう構成されたモジュール(15)を備える、装置(1)。
【請求項2】
前記車輪のための角速度センサ(2)が誘導性センサであり、該誘導性センサが、前記自転車の回転車輪と回転可能に一体化するよう適合されたホニック車であって、該ホニック車の外周に沿って実質的に均一に分布する複数の永久磁石(4)が設けられたホニック車(3)と、前記自転車のフレームに一体化するよう適合されたセンサ本体であって、ホール効果センサ(7)の近傍における前記永久磁石(4)の通過を検出し、かつ、該通過を表す信号を生成するよう適合されたホール効果センサ(7)を含むセンサ本体(5)と、を備える、請求項1に記載の装置(1)。
【請求項3】
前記車輪のための角速度センサ(2)が、バッテリ(11)と、少なくとも1つの補助インダクタ(12)とを備え、前記補助インダクタ(12)は、該補助インダクタ(12)に対して前記永久磁石(4)が移動することにより生成される誘導供給電流を、前記バッテリ(11)に供給するのに適している、請求項2に記載の装置(1)。
【請求項4】
前記フィルタが、前記角度誤差(θi*)を再帰的に推定するための再帰的最小二乗アルゴリズムを実行する適応フィルタ(13)である、請求項1〜3のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項5】
前記周波数を分析するための前記モジュール(15)が、前記自転車の車輪の前記角速度の前記最適化信号(ωopt)に基づいて前記ペダリングケイデンス(C)を測定するための拡張カルマンフィルタを備える、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項6】
前記周波数分析モジュール(15)が、前記車輪角速度の最適化信号(ωopt)に基づいて速度伝達比を測定するための拡張カルマンフィルタを備え、前記ペダリングケイデンス(C)が、前記拡張カルマンフィルタによって測定された速度伝達比に基づいて測定される、請求項1〜4のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項7】
前記周波数分析モジュール(15)が、前記車輪角速度の最適化信号(ωopt)を所定の周波数帯でフィルタリングするよう適合されたバンドパスフィルタ(16)を備える、請求項1〜6のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項8】
フリーホイール状態を測定するためのモジュール(17)をさらに備え、該モジュール(17)は、フリーホイール状態が存在する場合に、前記周波数分析モジュール(15)によって提供される、前記車輪角速度の最適化信号のペダリングケイデンスを表す信号に代わって、前記ペダリングケイデンスが0であることを表す信号を提供する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の装置(1)。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の装置(1)を備える自転車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自転車の車輪角速度と、自転車ペダルにユーザが加えるペダリングケイデンスとを測定するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自転車にセンサを適用して、車輪の1つ、特に駆動輪の角速度と、ペダリングケイデンス、すなわち、自転車ペダルにユーザが加えるペダリング律動数とを測定することが知られている。一般的に、駆動輪速度とペダリングケイデンスは、使用時のギア比に応じた変化率で比例する。ギア比が固定されている場合、ペダルが係合している場合(すなわち、ペダルと車輪を一時的に独立させる可能性のあるフリーホイール機構が不作動であれば)、2つの変数のうちの一方の変数を知ることは、他方の変数を知ることを意味する。これに対して、ギア比が可変である場合、一方の変数を他方の変数から知るためには、使用時の速度伝達比も既知でなければならない。
【0003】
したがって、一般に、両変数を測定するためには、車輪速度とペダリングケイデンスのそれぞれに対して個別の検出センサを設ける必要がある。2つのセンサを自転車に別々に設置する場合、該センサを共通の制御ユニットに接続するための配線が必要となる。2つのセンサが設置されると、自転車の重量が増すことに加えて、構成の複雑さと作業時間の面でコストもかかる。さらに、ケイデンスセンサは、通常、ペダルに付随する第1本体部(通常はマグネット)と、自転車フレームに付随する第2本体部とで構成されているので、目立ちやすく、故に審美的に不快である。
【0004】
特許文献1(国際公開第2015/128226号明細書)には、加速度計を備えるウェアラブルデバイスが記載されている。この技術では、測定されたフィルタリング済みの加速度に基づいてペダリングケイデンスを取得することができる。
【0005】
特許文献2(欧州特許出願公開第2 433 097号明細書)には、自転車の速度および該自転車のペダリングケイデンスを測定する、加速度計を有する自転車に適用される、加速度センサが記載されている。
【0006】
特許文献3(ドイツ特許出願公開第10 2009 000919号明細書)には、信号がフィルタリングされた速度センサを有する、ペダルアシスト自転車が記載されている。
【0007】
特許文献4(米国特許第5 789 658号明細書)には、速度センサの許容誤差を補正するためのアルゴリズムが記載されている。
【0008】
特許文献5(R. Bitmead et al.の論文 "A Kalman Filtering approach to short-time Fourier analysis"〔IEEE Trans. Vol. ASSP-34, No. 6, Dec. 1986〕)には、カルマンフィルタが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際公開第2015/128226号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第2 433 097号明細書
【特許文献3】ドイツ特許出願公開第10 2009 000919号明細書
【特許文献4】米国特許第5 789 658号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】R. Bitmead et al. "A Kalman Filtering approach to short-time Fourier analysis"(IEEE Trans. Vol. ASSP-34, No. 6, Dec. 1986)
【発明の概要】
【0011】
したがって、本発明の根底にある技術的課題は、自転車の運動量、特に自転車の車輪角速度と、ペダリングケイデンスとを測定するための装置を利用可能にすることにある。その装置は、2つのセンサに代えて1つのセンサを用いているため、全体として軽量であり、設置が容易であり、また、視覚的影響が低減される。
【0012】
このような目的およびその他の目的は、請求項1に記載される、自転車の運動量と、自転車ペダルにユーザが加えるペダリングケイデンスとを測定するための装置によって達成される。従属請求項は、本発明において可能である有利な実施形態を規定するものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明を一層明確に理解し、その利点を認識するために、図面を参照してその非限定的な例示的実施形態のいくつかを以下に説明する。
図1】本発明の一実施形態に従う装置のブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に従う装置に含まれる、自転車の車輪角速度センサの(部分的に透明な)概略図である。
図3a図2の角速度センサから出力可能なアナログ信号の傾向を示す図である。
図3b図2の角速度センサから出力可能なアナログ信号の傾向のデジタル変換結果を示す図である。
図4a】車輪角速度の測定信号と最適化信号の経時変化の比較図である。
図4b】車輪角速度の測定信号と最適化信号の周波数を示す比較図である。
図5】使用中の車速および異なるギア比の関数としてのペダリングケイデンスに関連する、振動数の可能な傾向を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図1の概略図を参照して、参照番号1は、自転車の運動量と、自転車ペダルにユーザが加えるペダリングケイデンスとを測定するための装置全体を示す。ここでは、自転車の車輪、特に、駆動輪の1つにおける角速度を例として説明する。しかしながら、本発明に従う装置は、代替的に、例えば、前後方向加速度または横方向加速度のような、異なる運動量を測定するように構成すること、あるいは対応するセンサによって利用可能となる異なる運動量を表す信号からペダリングケイデンスを外挿するように構成することができる。
【0015】
装置1は、角速度センサ2を備える。角速度センサ2は、自転車の車輪、特に、駆動輪に付随するよう適合されている。駆動輪は、一般に後輪であり、変速機を介してペダルに接続されており、例えば、伝動チェーン機構を備え、好ましくはフリーホイール機構が設けられている。特に、変速機はギア比が可変である。従って、サイクリストは、ペダルと駆動輪の速度伝達比を変化させることができる。速度センサ2は、速度センサ2が付随する車輪角速度ωの測定、および、角速度を表す信号の生成に適している。
【0016】
速度センサ2は、様々な態様で構成することができる。図2に示す実施形態において、速度センサ2は誘導センサであり、自転車の回転車輪に連結するホニック車3を備える。ホニック車3は、例えば、車輪のブレーキディスクに固定し、あるいは、適用可能であれば車輪のブレーキディスクのスポークに固定することができる。ホニック車3は、好ましくは、交互極性である(すなわち、北極と南極が交互に配置された)一連の永久磁石4を順次に備える。永久磁石4のセットは、ホニック車3の外周に沿って実質的に均一に分布し、例えば、ホニック車のスロットまたは溝内に固定されている。ホニック車3は、自転車のフレーム、特に、例えば、回転駆動輪に固定されたフォークに連結するよう意図された、センサ本体5をさらに備える。センサ5には、ホール効果センサ7が設けられている。ホール効果センサ7は、これに近接する各永久磁石4の通過を検出し、その通過を表す信号、特に電気信号を生成するのに適している。永久磁石4の極性を交互に配置すると、使用時に、ホール効果センサ7によって、車輪の2つの可能な回転方向(前後方向)を区別することが可能になる。図3aは、ホール効果センサ7によって生成された出力電圧信号(アナログ)の可能な傾向を時間領域において示している。有利には、速度センサ5は、ホール効果センサ7によって生成されたアナログ信号をデジタル信号に変換するためのアナログ/デジタル変換モジュール8をさらに備える。アナログ/デジタル変換モジュール8は、図3bに示すように、論理値1および0を時間的に取り込むことができる。アナログ信号が所定の閾値(図3aにおける点線)を下回る場合にデジタル信号は0(ゼロ)であり、アナログ信号が閾値を超える場合にはデジタル信号は1である。デジタル信号が1である時間間隔Δt(および、同様にデジタル信号が0である時間間隔Δt)は、2つの連続する磁石がホール効果センサ7上を通過している間の経過時間を示している。図2の速度センサは、速度センサ2が付随する車輪の角速度ωを次式(1)に基づいて測定するように構成された制御モジュール6をさらに備える。
【数1】
ω:車輪角速度(rad/s)
αnom:連続する永久磁石間の公称角距離(想定される定数)
永久磁石の数がLに等しい場合(なお且つ、上述した好適な実施形態に従えば、永久磁石の極性が交互に配置されており、以上に定義した時間間隔Δtが、デジタル信号が1である場合はもちろんデジタル信号が0である場合にも得られる場合)、上記の公称角距離(単位:rad)は、式(2)により得られる。
【数2】
【0017】
したがって、速度センサ2の制御モジュール6は、上述の方法によって測定された車輪角速度ωを表す出力信号を提供する。
【0018】
可能な一実施形態によれば、速度センサ2は、永久磁石4の1つの通過を検出してその結果として誘導電流を生成するのに適した、インダクタ9と、所定数の永久磁石がインダクタ9の近傍を通過したら速度センサ2を起動するように構成された、スイッチオンモジュール10と、を備える。
【0019】
可能な一実施形態によれば、角速度センサ2は、該センサに供給するためのバッテリ11を備える。有利には、速度センサ2は、永久磁石4が近傍を通過することに起因して誘導電流を生成するのに適した、1つ以上の補助インダクタ12をさらに備える。補助インダクタ12は、バッテリ11の再充電に利用することができる。上述したインダクタ9は、バッテリを再充電するための補助インダクタとして使用することもできる。補助インダクタ12とバッテリ11との間においては、適切な電子回路18を使用することができ、これにより、補助インダクタ12に誘導される電流を処理してバッテリ11の供給に適したものにする。この電子回路は、特に、整流器および電力変換器を含むことができる。記載された電力貯蔵システムは、当然ながら、車輪自体に小さな抵抗トルクを生じさせるが、それは実質的には取るに足らない量であり、サイクリストには殆ど感知されない。
【0020】
なお、ホニック車式の速度センサおよびホール効果センサに代わって、一般に以下の構成を備える異なる速度センサを使用することができる。その構成とは、自転車の車輪に回転可能に固定された可動部であって、該可動部に連結された一連の基準要素を備える可動部と、自転車のフレームに付随する固定部であって、該固定部の近傍にある基準要素の通過を検出し、該通過を表す信号を生成するための要素、および、車輪角速度を測定し、通過を表す信号に基づいて車輪の角速度を表す信号を生成するよう構成された制御モジュールを同様に含む固定部と、を備える。たとえば、このタイプの速度センサ(不図示)は、所定数のノッチを含む移動体を有して車輪に付随するエンコーダと、光学システムの近傍を通過するノッチを検出してカウントするための光学システムと、を備えることができる。
【0021】
なお、例えば、タコメータダイナモ等の異なる種類の速度センサも使用可能である点にも留意されたい。
【0022】
図1を再び参照すると、装置1は、速度センサ2によって提供される、車輪角速度ωを表す入力信号を受信するフィルタ13を備える。後述するように、フィルタ13は、入力信号を処理して自転車の車輪角速度の出力最適化信号ωoptを提供する。具体的に、有利には、フィルタ13は、適応フィルタ、すなわち、最適化アルゴリズムに従って調整される可変パラメータを有する、伝達関数を有するシステムである。文献的には、適応フィルタの様々な最適化アルゴリズムが知られているが、特に、ノイズまたは誤差を除去するための最適化アルゴリズムは、後述するように、本発明が目的とする用途である。車輪速度ωを表す信号においては、多くの原因により誤差が生じる。そのような原因の一つには、上述した速度センサがホニック車輪およびホール効果センサ(または、エンコーダセンサもしくは一般に離散要素のセットを有する可動部分を伴うセンサ)である場合、永久磁石4の分布がホニック車輪3の周方向に沿って不均一であることが挙げられる。換言すれば、連続する永久磁石4間の公称角距離αnomが、実際には一定でなく、連続的に配置された磁石の対の間で変化している、ということである。別の原因として、例えば、車輪の回転軸に対するホニック車輪の回転軸の寸法誤差、摩耗、偏心を含む様々な原因が見出され得る。この誤差は、経時的にも変化し得る。さらに、各磁石は、異なる強度を有する磁界を生成する場合がある。その結果、上述した磁石の不均一な空間分布による幾何学的誤差と完全に等価なセンサ誤差が生じる可能性がある。したがって、1番目の連続する磁石対における、2つの連続する磁石間の有効な角距離αは、以下のように表すことができる。
【数3】

は、i番目の連続する磁石対における公称角距離αnomに関する誤差である。式(3)より、連続する磁石の各対から測定される、車輪の有効速度ωoptは、次式(4)のように表すことができる。
【数4】

Δtは、例えば、ホール効果センサ7の近傍の第iの連続する磁石の対における、第1の永久磁石が通過してから第2の永久磁石が通過するまでの間の経過時間である。
【0023】
従って、回転の有効角速度を測定するためには、連続する磁石の各対において、誤差値θを推定する必要がある。この機能は、フィルタ13によって実行される。
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
なお、当業者であれば明確に理解できるように、上述のReLSアルゴリズムは、多くの変形例を有することができ、あるいは実質的に同じ結果につながる代替的なアルゴリズムに置換可能であることに留意されたい。
【0030】
また、上記のアルゴリズムは、例えば、センサの摩耗に起因して角度誤差θが経時的に変化したとしても、上述したように、アルゴリズムReLSの再帰性および推定適応の恩恵により、角度誤差θを求めるのに適している。
【0031】
図4aは、ある条件下で速度センサ2によって生成された速度ωを表す信号と、上述の方法を用い、適応フィルタ13によって、速度ωを表す当該信号から得られた、速度ωoptを表す最適化信号の時間tにおける比較を示している。速度ωoptを表す最適化信号においては、一般に、フィルタ13でフィルタリングされていない速度ωを表す信号よりもノイズの影響が小さいことは明らかである。このことは、図4bに示す、2つの信号の周波数分析(周波数f−振幅A平面)によっても確認することができる。明らかなとおり、速度ωを表す信号は、速度ωoptを表す最適化信号には存在しない、測定された角速度ではなく、主に外乱に関係する周波数を有し、これらはすべて車輪速度の基本周波数(ドットで示される)の倍である。
【0032】
前述の周波数を除去すれば、信頼度の高い方法により、速度ωoptを表す最適化信号からペダリングケイデンスを推定することができる。図4aをさらに参照すると、速度ωoptを表す最適化信号は、周期的なピークを有する振動傾向を有していることが分かる。これは、ペダル機構に起因してペダリングによるトルクが連続的に加えられないという事実によるものである。実際に、サイクリストは、2つのペダルに対して360°に満たない角度に亘って踏力を交互に加える。図4bを再び参照すると、上記の説明に従えば、参照番号14で示すピークに対応する周波数fは、サーチされたペダリングケイデンスのちょうど2倍である。
【0033】
図1を再び参照すると、そのようなペダリングケイデンス(図1に、参照番号Cで示す)を測定するために、装置1は、車輪角速度ωoptの最適化信号の周波数を分析するためのモジュール15をさらに備える。可能な一実施形態に従うと、上述のモジュール15は、サーチされた周波数を取得するのに適した拡張カルマンフィルタを含む。
【0034】
拡張カルマンフィルタは、カルマンフィルタの非線形システムへの拡張である。カルマンフィルタは、再帰的アルゴリズムを実装するフィルタであり、該フィルタによって、状態および出力値に作用する、加算性白色ガウス雑音を伴う離散時間線形システムの最適状態推定の問題を解決する。
【0035】
一般に、カルマンフィルタは、システムの線形状態表示を使用する。
【数5】
‐k:考慮される離散時点;
‐x:システムの状態;
‐u:考慮される入力;
‐y:システムの出力;
‐w:状態の乱れ;
‐v:測定の乱れ
【0036】
カルマンフィルタは、実際の入力u、実際の出力y、および、それ以前における状態xの推定値の情報に基づいて、現時点kにおいて状態xにより推定される値を、再帰的アルゴリズムによって測定するのに適している。出力yは、システムの記述的な数学モデルによって入力uと紐づいている。したがって、対象となる量xの推定を再帰的に実行することができる。
【0037】
拡張カルマンフィルタは、既に述べたように、カルマンフィルタを非線形システムへ拡張したものであり、一般に、システムを非拡張カルマンフィルタの状態に戻すためには、システムを線形化する必要がある。この場合、例えば、以下のように対象のシステムを記述することができる。
【数6】
‐k:考慮される時点;
‐x:測定する周波数、すなわち、各時点k,k+1・・・において再帰的にペダリングケイデンスCの2倍周波数;
‐v(k):測定ノイズ、本例では車輪角速度ωopt表す最適化信号に作用するノイズであり、当該ノイズは、分散rを有するゼロ平均ガウス雑音と仮定され、フィルタの較正段階において定義される。
‐w(k):時点kにおける周波数x(k)に作用するノイズであり、分散qを有するゼロ平均ガウス雑音と仮定され、同様に、フィルタの較正段階において定義される。
‐ε:追加のフィルタパラメータであり、同様に、フィルタの較正段階において定義され、例えばゼロに設定することができる。
【0038】
拡張カルマンフィルタは、出力yから始まる状態x,x1,x2およびx3による推定値を、再帰的アルゴリズムによって測定するのに適している。
【0039】
この方法に代わって、システムを以下のように定義し、記述することができる。
【数7】
【0040】
式(10)に記載のモデルによれば、ペダリングケイデンスCにリンクする測定すべき周波数はもはや状態変数でない。この場合、実際には、測定する状態xが、自転車ギアの速度伝達比の2倍に対応しており、[数9]のシステムでは欠如していた入力uが車輪角速度(rad/s)を表している。
【0041】
次いで、対象の周波数は、入力uによる状態xの積として測定される。さらに、このモデルによれば、周波数が測定されなければならない信号振幅を表す、さらなる状態変数xが導入されている。zは、上述の状態変数に作用するノイズであり、一方で、εおよびεは、フィルタの較正パラメータである。x,xは、式(9)のモデルの場合のように、周波数を推定しなければならない信号の位相成分および直交成分を表す。
【0042】
確かに、例として用いた上述のモデルに関して、カルマンフィルタを基にシステムを記述するための可能なモデルは他にも存在する。
【0043】
好ましくは、周波数を分析するためのモジュール15は、バンドパスフィルタ16をさらに備える。バンドパスフィルタ16は、検出された自転車の車輪の速度に依存する所定の周波数帯域で、車輪角速度の最適化信号をフィルタリングするのに適している。 図5に示すように、実施に、自転車の速度に応じて、ペダリングケイデンスCの2倍であるサーチされた周波数fは、上述したように、所定の範囲に含まれている。図示の直線は、設定された速度伝達比の関数としての自転車の速度v(車輪角速度および該車輪の半径から得られる)とペダリングケイデンスCをリンクしているが、これは未知である。図5は、自転車の車輪の基本周波数の倍数を破線で示しているが、これは、フィルタ13により除去することができる。
【0044】
図1を再び参照すると、可能な一実施形態によれば、装置1は、自転車のフリーホイール状態を検出するためのモジュール17を備える。自転車において、通常、駆動輪に付随する一連のスプロケットは、フリーホイール機構によって駆動輪に付随しており、ペダルによって駆動されるチェーンの運動を駆動輪それ自体に伝達する。この機構は、ペダルが静止している(例えば、自転車が下り坂を走行しているときなど)、または、逆回転しているときであっても、駆動輪を回転させることができる。この状態では、もちろん、車輪速度はペダリングケイデンスとは関係しない。モジュール17は、フリーホイール状態を判定し、ペダリングケイデンスの出力ヌル値を提供するように構成されている。モジュール17は、このようなフリーホイール状態において、モジュール15により通常通りに測定された値を置き換える。反対に、自転車のペダルがペダリングされている場合には、ペダリングケイデンスがそのような方法により測定される。
【0045】
フリーホイール状態は、様々な方法を用いて判定することができる。可能な一実施形態によれば、ペダリングケイデンスまたは速度伝達比は、上記の式(9)および式(10)を参照して説明した態様で測定される。これらは、フリーホイール状態ではゼロに向かう。ペダリングケイデンスまたは速度伝達比の量(またはそれらの変化量)に関し所定の閾値を設定することにより、フリーホイール状態とペダリング状態との境界線を引くことができる。
【0046】
以上の説明から、当業者は、本発明に従う装置においては、単一のセンサ、すなわち速度センサのみを用いて、速度およびペダリングケイデンスを測定できることが理解できよう。これにより、2つの個別のセンサを要する既存の解決手段と比較して、構成要素をより軽量化し、組み立てをより簡易化することができる。
【0047】
なお、本発明に従う装置1の動作については、自転車の駆動輪の角速度を検出するためのセンサを参照して説明してきたが、装置1は、代替的に、自転車に固定するよう適用されており、車輪角速度に関する特性とは本質的に異なる自転車の運動量を検出し、それを表す信号を提供するよう構成されていてもよい。例えば、装置1は、縦方向または横方向の加速度を生成するのに適した、縦方向または横方向の加速度センサを備えることができる。この信号は、生じ得る誤差を識別するのに適したフィルタ13で処理することができるため、最適化信号を取得することが可能となる。後者は、車輪角速度を参照して説明した方法に従って、ペダリングケイデンスの推定につながる周波数解析を実行する、モジュール15の入力として使用することができる。
【0048】
当業者であれば、特定の偶発的要件を満たすために、添付の特許請求の範囲から逸脱することなく、以上に説明した装置の実施形態と機能的に等価ないくつかの他の要素を追加、変更または置換することができる。
図1
図2
図3a
図3b
図4a-4b】
図5