特許第6720351号(P6720351)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720351
(24)【登録日】2020年6月19日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】内燃機関用の粒子フィルタ
(51)【国際特許分類】
   F01N 3/027 20060101AFI20200629BHJP
   F01N 3/022 20060101ALI20200629BHJP
   F01N 3/10 20060101ALI20200629BHJP
   F01N 3/24 20060101ALI20200629BHJP
   F01N 3/035 20060101ALI20200629BHJP
   B01D 46/42 20060101ALN20200629BHJP
【FI】
   F01N3/027 D
   F01N3/022 C
   F01N3/10 A
   F01N3/24 E
   F01N3/035 A
   !B01D46/42 B
【請求項の数】9
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2018-564194(P2018-564194)
(86)(22)【出願日】2017年6月7日
(65)【公表番号】特表2019-523842(P2019-523842A)
(43)【公表日】2019年8月29日
(86)【国際出願番号】EP2017025162
(87)【国際公開番号】WO2017211468
(87)【国際公開日】20171214
【審査請求日】2019年2月6日
(31)【優先権主張番号】102016110527.9
(32)【優先日】2016年6月8日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】510238096
【氏名又は名称】ドクター エンジニール ハー ツェー エフ ポルシェ アクチエンゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Dr. Ing. h.c. F. Porsche Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100094525
【弁理士】
【氏名又は名称】土井 健二
(74)【代理人】
【識別番号】100094514
【弁理士】
【氏名又は名称】林 恒徳
(72)【発明者】
【氏名】クレーメンス ブリンクマイアー
【審査官】 二之湯 正俊
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−219732(JP,A)
【文献】 特開2006−207524(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/00− 3/38
F01N 9/00−11/00
B01D 53/73−53/96
B01J 21/00−37/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルタ本体(2)を有する内燃機関用の粒子フィルタであって、前記フィルタ本体(2)が、流れが通過可能なフィルタ注入口(3)と、流れが通過可能なフィルタ排出口(4)とを有し、前記フィルタ本体(2)が、流れが通過可能な少なくとも1つの第1のダクト(5)であって、前記フィルタ注入口(3)に面するように構成された第1の端部(7)と、前記フィルタ排出口(4)に面するように構成された第2の端部(8)とを有する、第1のダクト(5)と、流れが通過可能な第2のダクト(6)であって、前記フィルタ注入口(3)に面するように構成された第3の端部(9)と、前記フィルタ排出口(4)に面するように構成された第4の端部(10)とを有する、第2のダクト(6)とを備え、前記第2の端部(8)および前記第3の端部(9)が、流れが通過不能になるように構成され、前記第1のダクト(5)及び前記2のダクト(6)それぞれが、流れが通過可能なダクト部分(13)と、流れが通過不能なダクト部分(14)に分割することが可能であり、前記第1のダクト(5)から前記第2のダクト(6)に進む前記フィルタ本体(2)中を流れる排出ガスの流れ移送が、前記第1のダクト(5)と前記第2のダクト(6)との間に構成された共通のダクト壁(11)によって実行され、前記ダクト壁(11)が、排出ガスのすす粒子を分離することができるように構成される粒子フィルタにおいて、すす粒子を燃焼させるために前記粒子フィルタ(1)に存在する反応温度を上昇させるための前記第1のダクト(5)および/または前記第2のダクト(6)が、加熱要素(15)を有し、前記加熱要素(15)が、前記第1のダクト(5)及び前記2のダクト(6)それぞれの前記流れが通過不能なダクト部分(14)に配置され、酸素を蓄えると発熱の形で反応する機能材料から構成され、前記流れが通過不能なダクト部分(14)が、ストッパ(12)を有し、前記加熱要素(15)が、前記ストッパ(12)を完全にまたは部分的に置き換えるように構成されることを特徴とする、粒子フィルタ。
【請求項2】
熱の放出のための前記加熱要素(15)が、前記排出ガスの空燃比(λ)の変化によって励起可能なものであることを特徴とする、請求項1に記載の粒子フィルタ。
【請求項3】
前記熱の放出のための前記加熱要素(15)が、1未満の値を有する空燃比(λ)から1を超える値を有する空燃比(λ)への前記排出ガスの空燃比(λ)の変化によって励起可能なものであることを特徴とする、請求項2に記載の粒子フィルタ。
【請求項4】
前記加熱要素(15)が、前記第1のダクト(5)及び前記2のダクト(6)それぞれの断面(Q)と一致する要素断面(QE)を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の粒子フィルタ。
【請求項5】
前記加熱要素(15)が、少なくとも酸化セリウムおよび酸化ジルコニウムならびに/あるいはそれらの混合酸化物から構成されることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の粒子フィルタ。
【請求項6】
前記加熱要素(15)が、パラジウムおよび/またはロジウムを含むことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の粒子フィルタ。
【請求項7】
前記第1のダクト(5)の前記加熱要素(15)が、第1の材料から構成され、前記第2のダクト(6)の前記加熱要素(15)が、前記第1の材料とは異なる第2の材料から構成されることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の粒子フィルタ。
【請求項8】
前記第1の材料が、前記粒子フィルタ(1)に存在する低温および中温で反応するように構成され、前記第2の材料が、前記粒子フィルタ(1)に存在するすべての温度にわたって反応するように構成されることを特徴とする、請求項7に記載の粒子フィルタ。
【請求項9】
さらなる加熱要素(15)が、前記流れが通過可能なダクト部分に配置されることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の粒子フィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特許請求項1の序文による内燃機関用の粒子フィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
内燃機関用(具体的には、自然着火内燃機関用)の粒子フィルタが知られている。粒子フィルタは、具体的には、複数のダクトが互いのそばに(具体的には、互いに並列に)配置されるという点において区別され、ダクトは、交互に閉鎖されるようになっている。フィルタ注入口によって流れ込む排出ガスは、粒子フィルタが広がる方向に向けて粒子フィルタ中を流れ、フィルタ注入口における開放ダクトからの当該排出ガスは、2つのダクト間に配置される多孔質壁によって、フィルタ排出口における開放ダクトに入る。排出ガスの固体粒子は、壁内および/または壁上に堆積する。固体粒子は粒子フィルタの利用可能な流動断面を低減するため、および、すすの発熱燃焼の結果としての粒子フィルタにおける過度の温度上昇の可能性は負荷の増加と共に増加するため、固体粒子は、いわゆる再生によって、言い換えれば、すす粒子を変換することによって、粒子フィルタから取り除く必要がある。
【0003】
内燃機関用の粒子フィルタは、欧州特許第2161420B1号明細書から導き出すことができ、この粒子フィルタは、固体粒子が主に堆積するダクトの領域はコーティングされない。従って、それぞれのダクトでは、一方がコーティング部分であり、もう一方が非コーティング部分であるように構成され、一方のダクトの非コーティング部分は、さらなるダクトのコーティング部分に隣接するように構成される。
【0004】
ディーゼルエンジンとして構成された内燃機関用の粒子フィルタは、最初の出願公開である欧州特許出願公開第1250952A1号明細書で開示されており、すすの酸化のための粒子フィルタはコーティングを有し、コーティングの反応温度は500℃未満である。これは、アルカリ土類金属化合物、酸素を蓄える物質、および白金、パラジウムまたはロジウムの形態の粒子フィルタの好ましい材料を用いて達成される。
【0005】
米国特許第7691339B2号明細書は、内燃機関用の粒子フィルタについて開示しており、粒子フィルタに堆積するすす粒子を低減するための粒子フィルタは、マイクロ波エネルギーを利用する。同特許では、すすフィルタで受け取られるマイクロ波吸収材料を加熱するマイクロ波生成器が提供される。
【0006】
機能材料コーティングを有する粒子フィルタは、最初の出願公開である独国特許出願公開第102006032886A1号明細書から導き出すことができる。流れを通過させる粒子フィルタのダクトは、ダクトの壁面が機能材料でコーティングされ、発熱反応において、機能材料は、第1の状態から始まり、第2の状態へと移行し、これにより、粒子フィルタの温度が上昇する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】欧州特許第2161420B1号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1250952A1号明細書
【特許文献3】米国特許第7691339B2号明細書
【特許文献4】独国特許出願公開第102006032886A1号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、内燃機関用の粒子フィルタを改善することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この目的は、本発明による、特許請求項1の特徴を有する内燃機関用の粒子フィルタに従って達成される。本発明の適切かつ重要な改善を有する有利な設計の実施形態は、それぞれの従属請求項に記載される。
【0010】
本発明による内燃機関用の粒子フィルタは、フィルタ本体を有し、フィルタ本体は、流れが通過可能なフィルタ注入口と、流れが通過可能なフィルタ排出口とを有する。フィルタ本体は、流れが通過可能な少なくとも1つの第1のダクトであって、フィルタ注入口に面するように構成された第1の端部と、フィルタ排出口に面するように構成された第2の端部とを有する、第1のダクトと、流れが通過可能な第2のダクトであって、フィルタ注入口に面するように構成された第3の端部と、フィルタ排出口に面するように構成された第4の端部とを有する、第2のダクトとを備える。第2の端部および第3の端部は、流れが通過不能になるように構成されるか、または、流れの通過が難しくなるように構成され、そのため、ダクトは、流れが通過可能なダクト部分と、流れが通過不能なまたは流れの通過が難しくなるようなダクト部分とに分割することが可能である。
【0011】
そのため、フィルタ注入口において遮断または妨げられた流れ注入口を有する第1のダクトと、フィルタ排出口において遮断または妨げられた流れ排出口を有する第2のダクトとが構成される。第1のダクトから第2のダクトに進む粒子フィルタ中を流れる排出ガスの流れ移送は、第1のダクトと第2のダクトとの間に構成された共通のダクト壁によって実行される。ダクト壁は、排出ガスのすす粒子を分離することができるように構成される。
【0012】
以下の流れが通過不能なダクト部分は、必ずしも、流れを通過させる能力に関連して閉鎖された完全に密閉されたダクト部分として理解するものとは限らず、流れの通過が難しくなるようなダクト部分(例えば、いわゆる拡散性ダクト部分)としても理解するものとし、具体的には、酸素分子は、流れの通過が難しいこのダクト部分に入り込むことができる。
【0013】
すす粒子を燃焼させるために粒子フィルタに存在する反応温度を上昇させるための第1のダクトおよび/または第2のダクトは、加熱要素を有し、加熱要素は、このダクトの流れが通過不能なダクト部分に配置される。
【0014】
流れが通過不能なダクト部分への加熱要素の配置は、複数の利点を有する。従って、粒子フィルタを通過する流れは、例えば、流れ抵抗を有する加熱要素によって妨げられない。さらなる利点は、流れを通過させるという観点から利用されない粒子フィルタのそれらの領域の利用において見られる。すす粒子を燃焼させるための反応温度の上昇は、粒子フィルタのオリジナルサイズを維持しながら達成することができる。言い換えれば、これは、粒子フィルタの提供される設置空間が維持され、設置空間の観点から構築上の修正手段を実行する必要がないことを意味する。粒子フィルタのダクトがコーティングされる限り、例えば、コーティングによって、非コーティングダクトと比べて、ダクトのダクト断面を低減することができる。しかし、コーティングを有する粒子フィルタによって、非コーティング粒子フィルタに相当する流れ状態を達成できるようにするため、粒子フィルタのダクト断面は、増加すべきであり、そのため、コーティングを有する粒子フィルタの必要な設置空間も同様に増大する。
【0015】
本発明による粒子フィルタの設計の一実施形態では、加熱要素は、酸素を蓄えると発熱の形で反応する機能材料から構成される。言い換えれば、これは、準自然着火するように加熱要素が構成されることを意味する。その利点は、加熱要素自体だけでよいという点において見られ、例えば、先行技術で知られているマイクロ波生成器などの着火デバイスの形態の、例えば、補助手段を提供する必要はない。内燃機関の運転は、機能材料の発熱反応が排出ガスの対応する温度および/または排出ガスの対応する組成によって始まるように適応させるだけでよい。
【0016】
熱の放出のための加熱要素は、好ましくは、空燃比の変化によって励起可能なものである。この目的のため、排出ガスの空燃比は、燃料または空気を追加または低減することによって変化させることができる。従って、具体的には、1未満の値を有する空燃比に相当するいわゆる準化学量論的組成(sub-stoichiometric composition)または1を超える値を有する空燃比に相当する超化学量論的組成(super-stoichiometric composition)は、いわゆる内燃機関のリッチ運転または内燃機関のリーン運転によって達成可能である。
【0017】
熱の放出のための加熱要素は、好ましくは、1未満の値を有する空燃比から1を超える値を有する空燃比への排出ガスの空燃比の変化によって励起可能なものである。この空燃比の変化は、例えば、単なる準化学量論運転(例えば、およそ0.98の空燃比の値)における内燃機関の負荷運転からそれに続く内燃機関のオーバーラン(惰性)運転において、特に、燃料カットによって達成することができる。
【0018】
この種の内燃機関の運転は、例えば、内燃機関による自動車の下り坂走行または減速によって既に得ることができる。そのため、例えば、特に燃料カットによる下り坂走行または減速によって、実現できる短時間のオーバーラン運転の場合に、粒子フィルタの加熱要素による熱の放出による温度上昇がもたらされる。言い換えれば、加熱要素は、例えば、燃料カットによって、内燃機関の短時間のリーン運転に対して、激しい温度上昇を伴う。その利点は、エンジン制御ユニットがある場合は、それを内燃機関の運転にわずかに適応させるだけでよいことである。
【0019】
本発明による粒子フィルタのさらなる設計の一実施形態では、加熱要素は、ダクトの断面と一致する要素断面を有する。加熱要素は、その温度上昇機能は別として、ダクトを一方的に密閉するために利用することができる。
【0020】
加熱要素は、好ましくは、酸化セリウムおよび/またはセリウムジルコニウム混合酸化物に少なくとも基づくように構成される。対応する品質および濃度が与えられている前記酸化物は、顕著な酸素貯蔵能力を有し、それにより、発熱反応による高い温度上昇の実装が可能になる。
【0021】
加熱要素が貴金属(例えば、パラジウムおよび/またはロジウムなど)を含む限り、貴金属によって、少なくとも特定の温度範囲において直接酸素貯蔵能力を提供することもできる。
【0022】
本発明による粒子フィルタのさらなる好ましい設計の一実施形態では、第1のダクトの加熱要素は、第1の材料から構成され、第2のダクトの加熱要素は、第1の材料とは異なる第2の材料から構成される。その利点は、粒子フィルタの異なる高い温度上昇の構成である。
【0023】
原理上の先行技術の粒子フィルタは、すす粒子の燃焼において、比較的遅い反応速度を有する。これにより、例えば、すべてのフィルタ領域においてほぼ同時に始まる粒子フィルタのすべての場所で同一のすす負荷の燃焼によって、非常に高い温度(粒子フィルタのフィルタ注入口からフィルタ排出口の方向に進む粒子フィルタの領域に存在する可能性がある)がもたらされ、ある状況下では、粒子フィルタおよび/または任意選択により存在するコーティングの損傷を招き得る。そのような事例の温度は、粒子フィルタのフィルタ排出口の近くで最も高いものであり得る。燃焼は、例えば、800℃でさえも比較的緩慢なものであり、フィルタ注入口の領域で放出された燃焼の熱は、下流領域ひいては同様にフィルタ排出口の前の領域に蓄積し、フィルタ排出口の前の領域に放出された熱が組み合わさって蓄積すると想定される。
【0024】
従って、この設計の実施形態には、フィルタ排出口の領域における温度上昇とは異なるフィルタ注入口の領域における温度上昇を開始するという利点が提供される。フィルタ注入口の領域における加熱要素が、粒子フィルタに低温および中温(例えば、最大でおよそ800℃)が存在する場合にのみ熱を放出する第1の材料(例えば、パラジウム)から構成されること、ならびに、フィルタ排出口の領域における加熱要素が、例えば、粒子フィルタにさらに高い温度が存在する場合でも熱を放出する第2の材料(現代の三元触媒の標準貯蔵材料の高い比率を有する)から構成されることは有利である。
【0025】
従って、高負荷の粒子フィルタ、特に、大量のすす粒子を有する粒子フィルタでは、例えば、フィルタ排出口から加熱を進めなければならないことになる。仮にフィルタ排出口で燃焼または再生をそれぞれ開始するとすれば、そこで放出される熱は、まさに放出され、上流領域の「熱負荷」としては課されない。ある周辺条件の下では、具体的には、流速が過度でない限り、いわゆるすす燃焼フロントラインは、フィルタ注入口の方向の流速に逆らい、中に構成された粒子フィルタの領域に入り込むことになる。従って、中温範囲で反応するように第1の材料を構成すること、および、さらなる温度範囲にわたって反応するように第2の材料を構成することが有利であり得る。
【0026】
効率的な再生のさらなる向上は、流れが通過可能なダクト部分にさらなる加熱要素が配置される際に、さらなる加熱要素を用いてもたらすことができる。
【0027】
本発明のさらなる設計の一実施形態では、流れが通過不能なダクト部分は、ストッパを有し、加熱要素は、ストッパを完全にまたは部分的に置き換えるように構成される。先行技術による粒子フィルタは、密閉するようにダクトを閉鎖する目的のみを果たすストッパを有する。前記ストッパは、固体であり、比較的大きな長さを有するように構成される。例えば、およそ7mmのストッパ長は、ガソリンエンジンセクタで使用されるかまたは提供される粒子フィルタのそれぞれにとって通常のことである。閉塞フィルタ注入口またはフィルタ排出口領域のストッパの質量に関する比率はそれぞれ、およそ60〜70%である。従って、高い酸化熱を有する大きな比率の貯蔵成分を有する材料から生産された加熱要素と前記ストッパを完全にまたは部分的に置き換えることにより、例えば、燃料カットと併せて、内燃機関の運転がリッチ運転からリーン運転に変化する場合において、激しい温度上昇に至る。従って、特に効率的な粒子フィルタが実装される。
【0028】
本発明のさらなる利点、特徴および詳細は、以下の好ましい例示的な実施形態の説明からおよび図面によって、導き出される。上記の説明で言及される特徴および特徴の組合せ、ならびに、図の説明で言及されるおよび/または以下の図のみに示される特徴および特徴の組合せは、本発明の範囲から逸脱することなく、記載されるそれぞれの組合せばかりでなく、他の組合せまたは個別でも使用することが可能である。同一のまたは機能的に同等の要素は、同一の参照記号が割り当てられる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】t−λ図における排出ガスの空燃比λのプロファイルならびに対応するt−T図における先行技術による粒子フィルタおよび本発明による粒子フィルタの温度(計算のシミュレーションを用いて決定された、粒子フィルタの様々な位置における温度プロファイル)を示す。
図2】x−T図における、先行技術による粒子フィルタおよび本発明による粒子フィルタの様々な時点における温度プロファイルを示す。
図3】概略図における、本発明による粒子フィルタを示す。
図4】パラジウム、ロジウムおよびその酸化物の要素のエリンガムダイアグラムを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明による粒子フィルタ1の急激な温度上昇は、詳細には示されていない負荷運転からオーバーラン運転への内燃機関の運転の切り換え中に高い酸素貯蔵割合を有する材料の発熱反応によって引き起こされることがある。この場合、内燃機関に供給される混合気(空気/燃料混合物)の割合が変化する。好ましくは、1よりも小さい値の混合気の燃焼空気比λを有する所謂リッチ運転から出発して、1よりも大きい値の混合気の燃焼空気比λを有するリーン運転に変化する。その結果、粒子フィルタ1を通過する内燃機関の排気ガス中の酸素の割合が増加し、これが発熱反応を引き起こす。同時の燃料カットは酸素含有量を著しく増加させ、それはまた粒子フィルタ1内の温度の大幅な上昇を達成することができる。
【0031】
図1は、公知の粒子フィルタの前の時間tにわたる空燃比λのプロファイルL1をt−λ線図の下方部に示す。ここでの約0.95の値から1を大幅に上回る値への燃焼空気比λの急激な変化は、内燃機関が燃料カットにより負荷運転からオーバーラン(惰性)運転に切り換わる時点を示す。
【0032】
図1の上方および中央の部分には、粒子フィルタの流れ軸に沿った様々な位置に対する、運転上の切り替えに応じて計算された温度プロファイルT1、T2およびT3が示されている。先行技術による粒子フィルタ1の温度プロファイルは、上方の部分に示されており、本発明による粒子フィルタ1の温度プロファイルは、図1の中央の部分に示されている。温度プロファイルT0は、いわゆる入口温度、すなわちOPFの前のガス温度に相当する。
【0033】
図3に従って概略的に構成された本発明による粒子フィルタ1は、流れが通過可能なダクト部分13および流れが通過不能なダクト部分14を有する。温度プロファイルT1およびT3は、粒子フィルタ1のフィルタ注入口3に近い面またはフィルタ排出口4に近い面、すなわち流れが通過不能なダクト部分14と交差する面における粒子フィルタ1の熱挙動を示す。温度プロファイルT2は、フィルタ注入口3とフィルタ排出口4の面との中間に形成された、粒子フィルタ1の中央の面付近の粒子フィルタ1の熱挙動を示す。
【0034】
粒子フィルタ1自体の熱容量により、先行技術による粒子フィルタ1の温度T1、T2、T3は、低温の入口温度T0のために時間遅れを伴う。本発明による粒子フィルタ1の温度T1、T2、T3は、異なるプロファイルを示す。(わずかに)リッチな混合気からリーン混合気に変化直後に、流れが通過不能なダクト部分14を有する面の温度T1、T3は、この例ではおよそ75℃だけ上昇し、あまり目立たない遅延の形で下降する。流れが通過不能なダクト部分14の酸素貯蔵部の発熱充填が完了するとすぐ、これらの温度T1、T3も定常低温の入口温度T0に遅延する形で従う。
【0035】
計算は、すす燃焼を考慮せずに実行された。詳細に示されない測定は、すす燃焼が、およそ700℃の粒子フィルタ1では非常にゆっくりとしか進行しないことを示す。堆積すすの再生は、およそ850℃で明確に識別可能である。ここでは、負荷の事例に対してすすなしの粒子フィルタ1がほとんど再生されなかったことを示す。しかし、流れが通過不能なダクト部分14を有する本発明による粒子フィルタ1は、再生の大部分が完了するまですす燃焼が自己加速的または自己保存的に進行するように、すす燃焼を着火する。
【0036】
図2は、x−T図における、粒子フィルタ1の流れ軸の方向における燃料カットによる内燃機関の(わずかに)リッチな負荷運転からオーバーラン(惰性)運転への切り替え前後の様々な時点における温度プロファイルt0、t1、t2、t3、t4を示す。先行技術による粒子フィルタ1の温度プロファイルt0、t1、t2、t3、t4は、図2の上方の部分に示され、本発明による粒子フィルタ1の温度プロファイルt0、t1、t2、t3、t4は、図2の下方の部分に示されている。
【0037】
温度プロファイルt0は、運転上の切り替えの前のプロファイルに相当する。温度プロファイルt1、t2、t3、t4は、運転上の切り替えの後の温度プロファイルであり、温度プロファイルt1(20.2秒)、温度プロファイルt2(21.2秒)、温度プロファイルt3(22.2秒)および温度プロファイルt4(23.2秒)は、運転上の切り替えの後の流れ軸にわたる温度プロファイルに相当する。
【0038】
図示されない内燃機関用の本発明による粒子フィルタ1は、図3による概略図で構成される。直接噴射式ガソリンエンジンの形態で具体化される燃焼機関の運転では、すす粒子を含む排出ガスは、混合気の燃焼によって生み出される。
【0039】
粒子フィルタ1は、フィルタ本体2を有し、フィルタ本体2は、流れが通過可能なフィルタ注入口3および流れが通過可能なフィルタ排出口4を有する。フィルタ本体2には、流れが通過可能な複数のダクト5、6が構成される。ダクト5、6は、縦軸Lに沿って互いのそばに延在するように構成され、縦軸Lに沿った流れが起こる。
【0040】
ダクト5、6は、フィルタ注入口3およびフィルタ排出口4にそれぞれ交互に閉鎖端部を有する。粒子フィルタ1の複数のダクトおよび動作モードを、第1のダクト5および第2のダクト6によってさらに説明する。
【0041】
第1のダクト5は、フィルタ注入口3に面するように構成された第1の端部7と、フィルタ排出口4に面するように構成された第2の端部8とを有する。第2のダクト6は、フィルタ注入口3に面するように構成された第3の端部9と、フィルタ排出口4に面するように構成された第4の端部10とを有する。第2の端部8および第3の端部9は、流れが通過不能になるように構成される。第1のダクト5から第2のダクト6への排出ガスの流れ移送は、第1のダクト5と第2のダクト6との間に構成された共通のダクト壁11によって実行される。
【0042】
ダクト壁11は、流れに対して透過性を有するように多孔性に構成され、ダクト壁11を通じて流れる排出ガスのすす粒子はそれぞれ、ダクト壁11上に蓄積するかまたはダクト壁11上に堆積する。排出ガスは、プロットされた矢印の方向に、粒子フィルタ1中を流れる。
【0043】
ダクト5、6は、流れが通過不能なその端部8、9では、ストッパ12を用いて閉鎖される。言い換えれば、これは、ダクト5、6がそれぞれ、流れが自由に通過可能な1つのダクト部分13と、流れが通過不能な1つのダクト部分14とを有することを意味する。
【0044】
ストッパ12は、ダクト5、6の断面Qと一致する要素断面QEを有する。示される例示的な実施形態のダクト5、6は同一の断面を有するため、要素断面QEは、同様に、第2のダクト6の断面Qと一致する。図示されない例示的な実施形態のダクト5、6は、異なる断面Qを有する。これは、ストッパ12が、それぞれのダクト5、6の断面Qに適応するように構成された要素断面QEを有することを意味する。
【0045】
図示される例示的な実施形態のストッパ12の要素断面QEは、ストッパ12の長さLにわたって一貫している。同様に、要素断面QEは、その長さLにわたって変化するものでもあり得る。例えば、図示されない例示的な実施形態のストッパ12は、ダクト5、6が円錐形状を有する限り、長さLEにわたって変化する要素断面QEを有する円錐台形状を有する。
【0046】
内燃機関の運転では、すす粒子は、粒子フィルタ1に蓄積し、粒子フィルタ1の有効流路断面積経時的に低減する。有効流路断面積の低減は、内燃機関の排気背圧の増加をもたらし、この排気背圧は、潜在的に、負荷サイクル損失の増加をもたらす。これは、言い換えると、内燃機関の燃料消費量の増加をもたらし、または同じ燃料消費量では、内燃機関の出力の低減をもたらすことになる。従って、粒子フィルタ1の再生は、粒子フィルタ1のいわゆる負荷に応じて実行される。
【0047】
粒子フィルタ1を再生するため、前記粒子フィルタ1は、少なくとも1つの加熱要素15を有し、少なくとも1つの加熱要素15は、流れが通過不能なダクト部分14に配置される。加熱要素15は、機能材料から構成され、機能材料は、過剰な空気の状態では、発熱の形で反応し、言い換えれば、熱を放出し、従って、粒子フィルタ1の温度上昇をもたらす。
【0048】
加熱要素15は、ストッパ12という形態で構成され、ストッパ12の代わりに置き換えられる。同様に、加熱要素15は、ストッパ12の一部として構成することもできる。加熱要素15は、酸素を蓄えると発熱反応をトリガするように構成された材料から構成される。言い換えれば、これは、加熱要素15が、その分子構造により、酸素の貯蔵が構成される限り、自動で熱を放出することを意味する。これは、反応熱の放出が実行されることを意味する。
【0049】
材料は、少なくとも2つの変形状態で存在し得る固体材料である。内燃機関のリッチ運転における固体材料は、第1の変形である還元状態で少なくとも部分的に存在し、内燃機関変化のリーン運転では、第2の変形である酸化状態に変化する。この固体材料(機能材料とも呼ばれる)は、好ましくは、酸化セリウムおよび酸化ジルコニウムからの混合酸化物であり、任意選択により、例えば、金属および/または土類金属、ランタン、プラセオジム、イッテルビウムならびに酸化アルミニウムなどのさらなる物質を伴う。
【0050】
また、酸素貯蔵能力を直接有する「それほど貴重ではない」貴金属パラジウムおよびロジウムも適している。それらは、比較的高い温度(例えば、およそ900℃)では酸化せず、従って、酸素を蓄えず、従って、その貴金属状態を維持する。本明細書では、これが、リッチ運転に相当するリッチ組成を有する排出ガスかまたは内燃機関のリーン運転に相当するリーン組成を有する排出ガスかは重要ではない。図4によれば、ロジウムは、最大でおよそ880℃まで酸化ロジウムとならず、従って、最大でこの温度まで、貴金属状態で挙動することができる。
【0051】
その組成による機能材料は、異なる温度範囲の発熱反応のために構成することができる。例えば、第1の材料(例えば、パラジウム)は、最大でおよそ700℃の低温および中温範囲における還元/酸化能力を有する組成を有する。第2の材料(例えば、TWC(三元触媒)標準貯蔵材料など)は、高温範囲における発熱反応を追加で有する組成を有する。言い換えれば、これは、第1の材料が、粒子フィルタ1に存在する低温および中温で反応するように構成され、第2の材料が、粒子フィルタ1に存在するすべての温度にわたって反応するように構成されることを意味する。
【0052】
すべてのストッパ12は、それぞれ1つの加熱要素15と置き換えることができ、そのため、再生が改善されることは言うまでもない。
【0053】
単一の材料および/または材料混合物から構成された複数の加熱要素15を有する粒子フィルタ1も同様に好都合である。注入口側または排出口側における1つまたは複数の加熱要素15の配置は、エンジンの近くにあるあるいはエンジンから離れた粒子フィルタ1の設置状況に応じて選ぶこともできる。
【0054】
図示されない好ましい例示的な一実施形態では、粒子フィルタ1のすべてのストッパ12は、それぞれ1つの加熱要素15と置き換えることができる。図示されない本発明による粒子フィルタ1のさらなる例示的な実施形態では、第1の材料から構成された加熱要素15を第2の端部8に有し、第2の材料から構成された加熱要素15を第3の端部9に有する。
【0055】
本発明による粒子フィルタの図示されないさらなる例示的な実施形態は、長手方向中心軸からより遠い位置にある第2の端部および第3の端部に、第1の材料からの加熱要素を有する。この例示的な実施形態は、長手方向中心軸により近い第2の端部および第3の端部に、第2の材料からの加熱要素を有するかまたは加熱要素を全く有さない。
【0056】
また、さらなる加熱要素15を流れが通過可能なダクト部分13に配置することもできる。前記加熱要素15は、第1の材料および第2の材料とは異なるさらなる材料から構成することができる。言い換えれば、これは、前記加熱要素15が、第1の材料のものおよび第2の材料のものとは異なる酸素貯蔵能力を有するさらなる材料から構成されることを意味する。
【符号の説明】
【0057】
1 粒子フィルタ
2 フィルタ本体
3 フィルタ注入口
4 フィルタ排出口
5 第1のダクト
6 第2のダクト
7 第1の端部
8 第2の端部
9 第3の端部
10 第4の端部
11 ダクト壁
12 ストッパ
13 流れが通過可能なダクト部分
14 流れが通過不能なダクト部分
15 加熱要素
L 縦軸
LE 長さ
L1 プロファイル
Q ダクト断面
QE 要素断面
T 温度
T0 注入口温度
T1 第1の温度プロファイル
T2 第2の温度プロファイル
T3 第3の温度プロファイル
t 時間
t0 運転上の切り替えの前の温度プロファイル
t1 運転上の切り替えの後の温度プロファイル
t2 運転上の切り替えの後の温度プロファイル
t3 運転上の切り替えの後の温度プロファイル
t4 運転上の切り替えの後の温度プロファイル
λ 空燃比
図1
図2
図3
図4