(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6720382
(24)【登録日】2020年6月19日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】エレベータシステム、これに用いる無人飛行体、およびエレベータの点検前処理方法
(51)【国際特許分類】
B66B 5/00 20060101AFI20200629BHJP
B66B 3/00 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
B66B5/00 D
B66B3/00 F
B66B3/00 L
【請求項の数】14
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2019-82846(P2019-82846)
(22)【出願日】2019年4月24日
【審査請求日】2019年4月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】木森 翔太
【審査官】
羽月 竜治
(56)【参考文献】
【文献】
特開2018−203500(JP,A)
【文献】
特開2009−161310(JP,A)
【文献】
特開2019−001573(JP,A)
【文献】
特開2018−203486(JP,A)
【文献】
特開2017−226501(JP,A)
【文献】
特開2009−051641(JP,A)
【文献】
特開2007−217136(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 3/00− 7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物内に設置されたエレベータと、前記エレベータに無線接続された無人飛行体とを備え、
前記無人飛行体は、
飛行運転機構と、
撮像装置と、
前記エレベータの定期点検の点検前処理として、前記エレベータの昇降路内で前記無人飛行体を前記飛行運転機構により飛行させ、飛行中に前記撮像装置により、予め設定された定期点検時の監視対象箇所を撮影させる飛行体運転制御部と、
前記撮像装置で撮影された撮像情報を解析することで、保守点検作業が必要な保守点検対象個所を特定する撮像情報解析部と、
前記撮像情報解析部で特定された保守点検対象箇所の情報を前記エレベータに送信する飛行体通信部と
を有し、
前記エレベータは、
前記無人飛行体から取得した情報に基づいて、前記保守点検対象箇所に対応する位置に前記エレベータの乗りかごを移動させるエレベータ制御装置
を有することを特徴とするエレベータシステム。
【請求項2】
前記無人飛行体は、前記エレベータの保守点検作業を行う作業員により携帯される作業員端末に無線接続され、
前記作業員端末は、
前記無人飛行体による点検前処理を実行させるための操作が行われると、点検前処理実行指示を前記無人飛行体に送信する操作情報処理部を有し、
前記エレベータ制御装置は、所定のタイミングで、点検前処理実行指示を前記無人飛行体に送信し、
前記無人飛行体の飛行体運転制御部は、前記作業員端末の操作情報処理部または前記エレベータ制御装置から点検前処理実行指示を取得すると、前記点検前処理を実行させる
ことを特徴とする請求項1に記載のエレベータシステム。
【請求項3】
建物内に設置されたエレベータと、前記エレベータに無線接続された無人飛行体と、前記エレベータに無線接続され、前記エレベータの保守点検作業を行う作業員により携帯される作業員端末とを備え、
前記エレベータは、
前記エレベータが緊急停止したことを検知すると、緊急停止検知情報を前記無人飛行体に送信し、送信後に前記無人飛行体から送信される保守点検対象箇所の情報を前記作業員端末に送信するエレベータ制御装置を有し、
前記無人飛行体は、
飛行運転機構と、
撮像装置と、
前記エレベータ制御装置から前記緊急停止検知情報を取得すると、緊急停止時の点検前処理として、前記エレベータの昇降路内で前記無人飛行体を前記飛行運転機構により飛行させ、飛行中に前記撮像装置により、予め設定された緊急停止時の撮影対象箇所を撮影させる飛行体運転制御部と、
前記撮像装置で撮影された撮像情報を解析することで、保守点検作業が必要な保守点検対象個所を特定する撮像情報解析部と、
前記撮像情報解析部で特定された保守点検対象箇所の情報を前記エレベータ制御装置に送信する飛行体通信部と
を有することを特徴とするエレベータシステム。
【請求項4】
前記エレベータの乗りかご上部には開口部が設けられ、
前記無人飛行体の飛行体運転制御部は、前記緊急停止時の撮影対象箇所として、前記昇降路内のロープおよび、前記開口部からの前記乗りかご内を撮影させ、
前記無人飛行体の撮像情報解析部は、前記保守点検対象箇所を特定するための監視対象として、昇降路内のロープの引っ掛かりの有無および前記乗りかご内の利用者の有無を監視する
ことを特徴とする請求項3に記載のエレベータシステム。
【請求項5】
前記エレベータを含む複数のエレベータに接続された中央監視装置と、
前記エレベータの乗りかごにかかる荷重量を検知する荷重検知装置とをさらに備え、
前記無人飛行体の撮像情報解析部は、前記撮像装置で撮影された前記乗りかご内の撮像情報を解析することで、前記乗りかご内の利用者の人数を算出し、
前記無人飛行体の飛行体通信部は、前記保守点検対象箇所の情報に前記乗りかご内の利用者の人数の情報を含めて前記エレベータ制御装置に送信し、
前記エレベータ制御装置は、前記荷重検知装置で検知される荷重量と、前記無人飛行体から取得される保守点検対象箇所の情報との少なくともいずれかを用いて前記乗りかご内の利用者数を認識して前記中央監視装置に送信し、
前記中央監視装置は、
前記エレベータ制御装置から送信された前記乗りかご内の利用者数の情報に基づいて、前記複数のエレベータの中における当該エレベータの保守点検作業の優先順位を決定する作業優先順位決定部と、
前記作業優先順位決定部で決定した優先順位の情報を、前記作業員端末に送信する監視装置通信部とを有する
ことを特徴とする請求項4に記載のエレベータシステム。
【請求項6】
前記エレベータの乗りかご内に設置されたかご内表示装置およびかご内スピーカと、
前記無人飛行体に設置された飛行体スピーカとをさらに備え、
前記エレベータ制御装置は、前記乗りかご内に利用者がいると判断した後、作業員が当該建物に到着したことを検知すると、当該作業員が到着したことを前記乗りかご内の利用者に報知するための報知情報を、前記かご内表示装置、かご内スピーカ、および飛行体スピーカの少なくともいずれかに送信し、
前記かご内表示装置、かご内スピーカ、および飛行体スピーカは、前記エレベータ制御装置から取得した報知情報を出力する
ことを特徴とする請求項4または5に記載のエレベータシステム。
【請求項7】
前記無人飛行体は、前記撮像装置による撮影対象箇所を照明する照明装置をさらに有する
ことを特徴とする請求項1〜6いずれか1項に記載のエレベータシステム。
【請求項8】
前記無人飛行体の撮像情報解析部は、正常時に前記昇降路内を撮影した正常時撮像情報を保持し、前記撮像装置で撮影された撮像情報と、前記正常時撮像情報とを比較することで、前記保守点検対象個所を特定する
ことを特徴とする請求項1〜7いずれか1項に記載のエレベータシステム。
【請求項9】
前記エレベータ制御装置に接続されるとともに前記無人飛行体に無線接続されて当該エレベータの昇降路上部に設置された無人飛行体保持装置をさらに備え、
前記無人飛行体保持装置は、
前記無人飛行体を保持可能な飛行体保持機構と、
前記飛行体保持機構で前記無人飛行体が保持されているときに、前記無人飛行体に電力を供給する充電処理部と、
を有し、
前記無人飛行体の飛行体運転制御部は、前記点検前処理のための撮影が終了すると、前記無人飛行体を前記飛行運転機構で移動させることにより前記無人飛行体保持装置の飛行体保持機構に保持させる
ことを特徴とする請求項1〜8いずれか1項に記載のエレベータシステム。
【請求項10】
前記昇降路内の各階床に対応する所定位置にそれぞれ設置され、対応する階床情報を表示した階床識別体をさらに備え、
前記無人飛行体の撮像情報解析部は、前記撮像装置で撮影された撮像情報を解析することで、最寄の階床識別体の設置位置情報と、自飛行体から当該階床識別体の相対位置情報と、当該階床識別体に表示された階床情報とを取得し、取得した情報に基づいて自飛行体の位置情報を算出し、算出した位置情報を用いて前記保守点検対象箇所を特定する
ことを特徴とする請求項1〜9いずれか1項に記載のエレベータシステム。
【請求項11】
建物内に設置されたエレベータに通信接続され、
飛行運転機構と、
撮像装置と、
前記エレベータの定期点検の点検前処理として、前記エレベータの昇降路内で自無人飛行体を前記飛行運転機構により飛行させ、飛行中に前記撮像装置により、予め設定された定期点検時の監視対象箇所を撮影させる飛行体運転制御部と、
前記撮像装置で撮影された撮像情報を解析することで、保守点検作業が必要な保守点検対象個所を特定する撮像情報解析部と、
前記撮像情報解析部で特定された保守点検対象箇所に対応する位置に前記エレベータの乗りかごを移動させるために、前記保守点検対象箇所の情報を前記エレベータに送信する飛行体通信部と
を備えることを特徴とする無人飛行体。
【請求項12】
建物内に設置されたエレベータに通信接続され、
飛行運転機構と、
撮像装置と、
前記エレベータが緊急停止したことを示す緊急停止検知情報を取得すると、緊急停止時の点検前処理として、前記エレベータの昇降路内で自無人飛行体を前記飛行運転機構により飛行させ、飛行中に前記撮像装置により、予め設定された緊急停止時の撮影対象箇所を撮影させる飛行体運転制御部と、
前記撮像装置で撮影された撮像情報を解析することで、保守点検作業が必要な保守点検対象個所を特定する撮像情報解析部と、
前記撮像情報解析部で特定された保守点検対象箇所の情報を、前記エレベータの保守点検作業を行う作業員の作業員端末に送信させるために前記エレベータに送信する飛行体通信部と
を備えることを特徴とする無人飛行体。
【請求項13】
建物内に設置されたエレベータに通信接続され、飛行運転機構および撮像装置を有する無人飛行体が、
前記エレベータの定期点検の点検前処理として、前記エレベータの昇降路内を飛行し、飛行中に前記撮像装置により、予め設定された定期点検時の監視対象箇所を撮影し、
前記撮像装置で撮影された撮像情報を解析することで保守点検作業が必要な保守点検対象個所を特定し、
特定した保守点検対象箇所に対応する位置に前記エレベータの乗りかごを移動させるために、前記保守点検対象箇所の情報を前記エレベータに送信する
ことを特徴とするエレベータの点検前処理方法。
【請求項14】
建物内に設置されたエレベータに通信接続され、飛行運転機構および撮像装置を有する無人飛行体が、
前記エレベータが緊急停止したことを示す緊急停止検知情報を取得すると、緊急停止時の点検前処理として、前記エレベータの昇降路内を飛行し、飛行中に前記撮像装置により、予め設定された緊急停止時の撮影対象箇所を撮影し、
前記撮像装置で撮影された撮像情報を解析することで、保守点検作業が必要な保守点検対象個所を特定し、
特定した保守点検対象箇所の情報を、前記エレベータの保守点検作業を行う作業員の作業員端末に送信させるために前記エレベータに送信する
ことを特徴とするエレベータの点検前処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータシステム、これに用いる無人飛行体、およびエレベータの点検前処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、建物が高層化しエレベータのサービス階床数が増えたことにより、昇降路内の部品や機器の数が増えたため、これらの保守点検作業に長時間を要するようになってきている。保守点検作業には、定期的に実行される定期点検作業と、地震等の災害が発生したときに実行される緊急時点検作業とがある。定期点検作業が長時間化すると、利用者がエレベータを利用できない時間が長くなりサービスが低下するとともに、保守作業員の負担が大きくなるという問題がある。また、緊急時点検作業が長時間化すると、利用者がエレベータを利用できない時間が長くなるとともに、乗りかご内への利用者の閉じ込めが発生する可能性があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−128440号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した問題を解決するため、保守点検前に、自律飛行可能なロボット装置を昇降路内で飛行させて昇降路内の部品や機器の状態をセンサで検出することで、保守点検作業を軽減させて作業時間を短縮させる技術がある。しかし、この技術を用いてもやはり、検出された情報を保守員が確認して保守点検が必要な個所を判断しなければならないため保守作業員にかかる負担が大きく、保守点検作業に長時間を要してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、エレベータの保守点検作業を効率良く行うためのエレベータシステム、これに用いる無人飛行体、およびエレベータの点検前処理方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための実施形態によればエレベータシステムは建物内に設置されたエレベータと無人飛行体とを備える。無人飛行体は、飛行運転機構と、撮像装置と、エレベータの定期点検の点検前処理として、昇降路内で無人飛行体を飛行させ、飛行中に撮像装置により、予め設定された定期点検時の監視対象箇所を撮影させる飛行体運転制御部と、撮影された撮像情報を解析することで、保守点検作業が必要な保守点検対象個所を特定する撮像情報解析部と、特定された保守点検対象箇所の情報をエレベータに送信する飛行体通信部とを有する。エレベータは、無人飛行体から取得した情報に基づいて、保守点検対象箇所に対応する位置にエレベータの乗りかごを移動させるエレベータ制御装置を有する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態によるエレベータシステムの構成を示す全体図。
【
図2】第1および第2実施形態によるエレベータシステムの構成を示すブロック図。
【
図3】第1実施形態によるエレベータシステムで用いる無人飛行体およびエレベータ制御装置の動作を示すフローチャート。
【
図4】第2実施形態によるエレベータシステムの構成を示す全体図。
【
図5】第2実施形態によるエレベータシステムで用いる無人飛行体およびエレベータ制御装置の動作を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0008】
《第1実施形態》
〈第1実施形態によるエレベータシステムの構成〉
本発明の第1実施形態によるエレベータシステムの構成について、
図1を参照して説明する。本実施形態によるエレベータシステム1Aは、4階建ての建物に搭載され、昇降路2上部に設置された巻上げ機3と、巻上げ機3に掛け渡されたロープ4に吊り下げられた乗りかご5と、昇降路2上部に設置されたエレベータ制御装置6Aと、昇降路2内の各階(1階〜4階)の乗場7−1〜7−4の床面に対応する位置に設置された階床識別体8−1〜8−4と、無人飛行体9Aと、昇降路2上部に設置された無人飛行体保持装置10と、保守作業員により携帯される作業員端末11とを備える。階床識別体8−1〜8−4は例えば着検板に設置され、それぞれバーコード等で示された、対応する階床情報の表示情報を有する。
【0009】
エレベータ制御装置6A、無人飛行体9A、および無人飛行体保持装置10の詳細な構成について、
図2を参照して説明する。エレベータ制御装置6Aは、当該エレベータ内の各機器の動作を制御するエレベータ運転制御部61と、無人飛行体保持装置10との通信を行う制御装置通信部62とを有する。
【0010】
無人飛行体9Aは自律飛行可能なロボット装置であり、飛行運転機構91と、撮像装置92と、照明装置93と、飛行体制御装置94と、飛行体通信部95とを有する。飛行運転機構91は、自無人飛行体9Aを飛行により移動させる。飛行体制御装置94は、飛行体運転制御部941と撮像情報解析部942とを有する。飛行体運転制御部941は、当該エレベータの定期点検の点検前処理として、昇降路2内で無人飛行体9Aを飛行運転機構91により飛行させ、予め設定された定期点検時の監視対象箇所を撮影対象箇所として照明装置93で照明させつつ、撮像装置92で撮影させる。撮像情報解析部942は、撮像装置92で撮影された撮像情報を解析することで、予め設定された定期点検時の監視対象箇所の状況を監視し、監視結果に基づいて保守点検作業が必要な保守点検対象個所を特定する。飛行体通信部95は、無人飛行体保持装置10および作業員端末11と無線通信を行う。
【0011】
無人飛行体保持装置10は、飛行体保持機構101と、充電処理部102と、保持装置通信部103とを有する。飛行体保持機構101は、無人飛行体を保持可能な機構である。充電処理部102は、飛行体保持機構101で無人飛行体9Aが保持されているときに、無人飛行体9Aに電力を供給する。保持装置通信部103は、エレベータ制御装置6Aおよび無人飛行体9Aとの通信を行う。
【0012】
〈第1実施形態によるエレベータシステムの動作〉
次に、本実施形態によるエレベータシステム1Aで、定期点検の前処理を実行する際の動作について、
図3を参照して説明する。
図3は、定期点検の前処理において、無人飛行体9Aおよびエレベータ制御装置6Aで実行される処理を示す。
【0013】
当該エレベータの通常運転時は、無人飛行体9Aは無人飛行体保持装置10の飛行体保持機構101により保持され、充電処理部102により充電処理が行われている。そして、予め設定されたタイミングでエレベータ制御装置6Aから点検前処理実行指示が送出される(S1の「YES」、S2)かまたは、保守作業員により作業員端末11で、無人飛行体9Aによる点検前処理を実行させるための操作が行われて点検前処理実行指示が送出されると、当該点検前処理実行指示が無人飛行体9Aで取得される。
【0014】
無人飛行体9Aでは、点検前処理実行指示が取得されると(S3の「YES」)、飛行体制御装置94の飛行体運転制御部941の制御により、定期点検処理のために予め設定された経路で無人飛行体9Aが飛行するように飛行運転機構91が駆動される。そして、無人飛行体9Aの飛行中、飛行体運転制御部941の制御により、予め設定された定期点検時の監視対象箇所を撮影対象箇所を照明装置93で照明させつつ、撮像装置92による撮影が開始される(S4)。
【0015】
撮像装置92で撮影された撮像情報は撮像情報解析部942により逐次解析され、異常発生箇所等の保守点検作業が必要な保守点検対象個所が特定される(S5)。ここで、撮像情報解析部942には、正常時に昇降路2内を撮影した正常時撮像情報が予め保持されており、撮像装置92で撮影された撮像情報と、保持された正常時撮像情報とを比較することで、保守点検対象個所が特定される。また、撮像情報解析部942には、階床識別体8−1〜8−4それぞれの設置位置情報が予め保持されており、撮像情報を解析することで取得される最寄の階床識別体の設置位置情報と、無人飛行体9Aから当該階床識別体の相対位置情報と、当該階床識別体に表示された階床情報とに基づいて無人飛行体9Aの位置情報が算出され、算出された位置情報を用いて保守点検対象箇所が特定される。これらの点検前処理における撮影等が行われている間に、保守作業員は乗りかご5の中または乗りかご5上部に移動する。
【0016】
点検前処理における撮影が終了すると(S6の「YES」)、飛行体運転制御部941の制御で飛行運転機構91により無人飛行体9Aが無人飛行体保持装置10に移動されて、保持される(S7)。無人飛行体9Aが無人飛行体保持装置10に保持されると、特定された保守点検対象箇所の情報が、飛行体通信部95、無人飛行体保持装置10の保持装置通信部103を介してエレベータ制御装置6Aに送信される(S8)。
【0017】
エレベータ制御装置6Aでは、無人飛行体9Aから送信された保守点検対象箇所の情報が制御装置通信部62を介してエレベータ運転制御部61で取得され、取得した情報に基づいて、保守点検対象箇所に対応する位置に乗りかご5が移動される(S9)。
【0018】
以上の第1実施形態によれば、エレベータの定期点検の点検前に実行した前処理で無人飛行体により特定された保守点検対象箇所に乗りかごが自動で移動されることにより、乗りかご5内または乗りかご5上部にいる保守作業員が保守点検対象箇所の点検を速やかに開始することができる。
【0019】
《第2実施形態》
〈第2実施形態によるエレベータシステムの構成〉
本発明の第2実施形態によるエレベータシステムの構成について、
図4を参照して説明する。本実施形態によるエレベータシステム1Bは、乗りかご5の上部に開口部51が設けられ、乗りかご5内にかご内表示装置52およびかご内スピーカ53が設置され、乗りかご5下部に荷重検知装置54が設置され、また、無人飛行体9Bに飛行体スピーカ96が設置され、無人飛行体保持装置10にトスランダー12が接続され、エレベータ制御装置6Bが通信ネットワーク13を介して外部の中央監視装置14に接続されている他は、第1実施形態で説明したエレベータシステム1Aの構成と同様であるため、同一機能を有する部分の詳細な説明は省略する。中央監視装置14は、当該エレベータ以外の他のエレベータにも接続されている。
【0020】
本実施形態においてトスランダー12は、建物内で停電が発生した際に、専用バッテリー(図示せず)から無人飛行体保持装置10に電力を供給させる。無人飛行体9Bの飛行体運転制御部941は、緊急停止時の点検前処理として、無人飛行体9Bを飛行運転機構91により飛行させ、飛行中に撮像装置92により、昇降路2内のロープおよび開口部51からの乗りかご5内を含む、予め設定された緊急停止時の撮影対象箇所を撮影させる。撮像情報解析部942は、撮像装置92で撮影された撮像情報を解析することで、緊急停止時の監視対象として、昇降路2内のロープの引っ掛かり箇所の有無および乗りかご5内の利用者数を監視する。そして、監視結果に基づいて保守点検作業が必要な保守点検対象個所を特定する。
【0021】
エレベータ制御装置6Bは、当該エレベータが緊急停止したことを検知すると、緊急停止検知情報を無人飛行体9Bに送信し、送信後に無人飛行体9Bから送信される保守点検対象箇所の情報を作業員端末11に送信する。またエレベータ制御装置6Bは、荷重検知装置で検知される荷重量と、無人飛行体で取得された乗りかご5内の利用者数の情報との少なくともいずれかを用いて乗りかご5内の利用者数を認識して中央監視装置14に送信する。またエレベータ制御装置6Bは、無人飛行体9Bで乗りかご5内に利用者がいると判断された情報を取得した後、保守作業員が当該建物に到着したことを検知すると、当該保守作業員が到着したことを乗りかご5内の利用者に報知するための報知情報を、かご内表示装置52、かご内スピーカ53、および飛行体スピーカ96の少なくともいずれかから出力させる。
【0022】
中央監視装置14は、エレベータ制御装置6Bを含む複数のエレベータの制御装置から送信された乗りかご内の利用者数の情報に基づいて、複数のエレベータの中における当該エレベータの保守点検作業の優先順位を決定し、作業員端末11に送信する。
【0023】
〈第2実施形態によるエレベータシステムの動作〉
次に、本実施形態によるエレベータシステム1Bで、当該エレベータの緊急停止時の点検の前処理を実行する際の動作について、
図5を参照して説明する。
図5は、緊急停止時の点検前処理において、無人飛行体9Bおよびエレベータ制御装置6Bで実行される処理を示す。
【0024】
当該エレベータの通常運転時は、無人飛行体9Aは無人飛行体保持装置10の飛行体保持機構101により保持され、充電処理部102により充電処理が行われている。そして、地震や火災の発生等により、当該エレベータが緊急停止すると(S11の「YES」)、エレベータ制御装置6Bから緊急停止検知情報が送出される(S12)。送出された緊急停止検知情報は、無人飛行体保持装置10の保持装置通信部103を介して無人飛行体9Bで取得される。無人飛行体保持装置10では、緊急停止検知情報が取得されると、充電処理部102によりトスランダー12を介して無人飛行体9Aに電力が供給される。
【0025】
無人飛行体9Bでは、緊急停止検知情報が取得されると、飛行体制御装置94の飛行体運転制御部941の制御により、緊急停止時の処理のために予め設定された経路で無人飛行体9Bが飛行するように飛行運転機構91が駆動される。そして、無人飛行体9Bの飛行中、飛行体運転制御部941の制御により、予め設定された緊急停止時の点検における監視対象箇所を撮影対象箇所を照明装置93で照明させつつ、撮像装置92による撮影が開始される(S13)。ここでは、緊急停止時の撮影対象箇所として、昇降路2内のロープおよび乗りかご5上部の開口部51からの乗りかご5内が撮影される。
【0026】
撮像装置92で撮影された撮像情報は撮像情報解析部942により逐次解析され、保守点検作業が必要な保守点検対象個所、例えば、昇降路内のロープの引っ掛かり箇所が特定されるとともに、撮像情報の解析により乗りかご5内の利用者数が算出される(S14)。
【0027】
点検前処理における撮影が終了すると(S15の「YES」)、飛行体運転制御部941の制御で飛行運転機構91により無人飛行体9Bが無人飛行体保持装置10に移動されて、保持される(S16)。無人飛行体9Bが無人飛行体保持装置10に保持されると、特定された保守点検対象箇所の情報および乗りかご5内の利用者数の情報が、飛行体通信部95、無人飛行体保持装置10の保持装置通信部103を介してエレベータ制御装置6Bに送信される(S17)。
【0028】
エレベータ制御装置6Bでは、無人飛行体9Bから送信された保守点検対象箇所の情報が制御装置通信部62を介してエレベータ運転制御部61で取得され、また、荷重検知装置54で検知された乗りかご5内の荷重量情報が取得され、これらの少なくともいずれかの情報を用いて乗りかご5内の利用者数が認識される。このように構成することにより、通信媒体やいずれかの機器で何等かの障害が発生して、無人飛行体9Bから送信される利用者数情報と荷重量情報とのいずれか一方の情報しか取得できない場合にも、エレベータ制御装置6Bで利用者数情報を認識することができる。また、双方の情報が取得可能なときに、無人飛行体9Bから取得された利用者数の情報を荷重量情報に基づいて補正して、利用者数情報の精度を向上させるようにしてもよい。認識された乗りかご5内の利用者数の情報は、エレベータ制御装置6Bから通信ネットワーク13を介して中央監視装置14に送信される(S18)。中央監視装置14では、エレベータ制御装置6Bから送信された乗りかご5内の利用者数の情報と、他のエレベータの制御装置から送信される各エレベータの乗りかご内の利用者数の情報に基づいて、複数のエレベータの中における当該エレベータの復旧のための保守点検作業の優先順位が決定され、作業員端末11に送信される。
【0029】
またエレベータ制御装置6Bでは、無人飛行体9Bで乗りかご5内に利用者がいる(利用者数が1以上である)ことが検知された情報を取得した後(S19の「YES」)、保守作業員が当該建物に到着したことが検知されると(S20の「YES」)、当該保守作業員が到着したことを乗りかご5内の利用者に報知するための報知情報が、かご内表示装置52、かご内スピーカ53、および飛行体スピーカ96の少なくともいずれかに送信され、出力される(S21)。このように構成することで、緊急停止時に当該エレベータの電源が遮断されてかご内表示装置52やかご内スピーカ53が使用できない状況であっても、無人飛行体9Bを乗りかごに近接させて飛行体スピーカ96から乗りかご5内の利用者に報知情報を報知することができる。
【0030】
以上の第2実施形態によれば、エレベータが緊急停止したときに、無人飛行体により点検前処理を実行して特定した保守点検個所の情報を作業員に報知することにより、作業員の作業負荷を軽減させることができる。また、地震により該当する地域の複数のエレベータが緊急停止したときに、当該前処理で認識した乗りかご内の利用者人数に基づいて当該地域内における当該エレベータの復旧作業の優先順位を決定することで、乗りかご内の利用者をなるべく迅速に救出するができる。また、エレベータが緊急停止した後、保守作業員が当該建物に到着したときに乗りかご内の利用者にこれを報知することで、利用者に安心感を与えることができる。
【0031】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これらの新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これらの実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0032】
1A,1B…エレベータシステム、2…昇降路、3…巻上げ機、4…ロープ、5…乗りかご、6A,6B…エレベータ制御装置、7−1〜7−4…乗場、8−1〜8−4…階床識別体、9A…無人飛行体、9A,9B…無人飛行体、10…無人飛行体保持装置、11…作業員端末、12…トスランダー、13…通信ネットワーク、14…中央監視装置、51…開口部、52…かご内表示装置、53…かご内スピーカ、54…荷重検知装置、61…エレベータ運転制御部、62…制御装置通信部、91…飛行運転機構、92…撮像装置、93…照明装置、94…飛行体制御装置、95…飛行体通信部、96…飛行体スピーカ、101…飛行体保持機構、102…充電処理部、103…保持装置通信部、941…飛行体運転制御部、942…撮像情報解析部
【要約】
【課題】 エレベータの保守点検作業を効率良く行うためのエレベータシステム、これに用いる無人飛行体、およびエレベータの点検前処理方法を提供する。
【解決手段】 実施形態によればエレベータシステムは建物内に設置されたエレベータと無人飛行体とを備える。無人飛行体は、飛行運転機構と、撮像装置と、エレベータの定期点検の点検前処理として、昇降路内で無人飛行体を飛行させ、飛行中に撮像装置により、予め設定された定期点検時の監視対象箇所を撮影させる飛行体運転制御部と、撮影された撮像情報を解析することで、保守点検作業が必要な保守点検対象個所を特定する撮像情報解析部と、特定された保守点検対象箇所の情報をエレベータに送信する飛行体通信部とを有する。エレベータは、無人飛行体から取得した情報に基づいて、保守点検対象箇所に対応する位置にエレベータの乗りかごを移動させるエレベータ制御装置を有する。
【選択図】
図2