(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記ステップ(b)で、水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニアからなる群から選ばれる一つ以上のガス成分を前記第2のガス成分として前記チャンバー内に供給する、請求項4又は5に記載の積層造形方法。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<積層造形システム>
本実施形態に係る積層造形システム(以下「本積層造形システム」と記載する。)は、シールドガスの存在下で、エネルギー線を用いて粉体材料に熱を供給して層を造形し、層を順次積層して積層造形物を製造するシステムである。本積層造形システムは、積層造形ユニットと濃度調整ユニットを備える。
【0011】
積層造形ユニットは、シールドガスの存在下で、エネルギー線を用いて粉体材料に熱を供給して層を造形し、層を順次積層する。
積層造形ユニットは、粉体材料に照射するエネルギー線の照射源を含む照射部と、チャンバー及び造形ステージを含む造形部とを有する。チャンバーにはシールドガスが充填される。シールドガスは、エネルギー線の照射の際に、粉体材料の雰囲気の周囲の酸素濃度を低減するための不活性ガスである。
本積層造形システムにおいて、エネルギー線は特に限定されない。例えば、レーザー、電子ビーム等が挙げられる。そして、造形ステージでは、エネルギー線による層の造形、及び、造形した層の積層が行われる。
【0012】
濃度調整ユニットはシールドガス中のガス成分の濃度を調整する。濃度調整ユニットは、精製部と供給部とを有する。精製部は、シールドガス中の不純物となる第1のガス成分を、粉体材料に応じて除去する。供給部は、粉体材料に応じて選択される第2のガス成分を必要に応じてチャンバー内に供給する。
【0013】
以下、一実施形態例について図面を参照しながら詳細に説明する。ただし、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0014】
図1は、本積層造形システムの構成の一例を示す模式図である。
図1に示す積層造形システム70は、積層造形ユニット10と濃度調整ユニット30とフィルターユニット50と第1の供給ラインL1と第2の供給ラインL2と循環ラインL3と電磁バルブV1〜V3を備える。積層造形システム70は、シールドガスの存在下で、エネルギー線を用いて粉体材料に熱を供給して層を造形し、層を順次積層して積層造形物を製造するシステムである。
積層造形ユニット10は、シールドガスの存在下でエネルギー線を用いて粉体材料に熱を供給して層を造形し、造形した層を順次積層する。濃度調整ユニット30は、シールドガス中のガス成分の濃度を調整する。フィルターユニット50は、シールドガス中のフューム、スパッタ等の固体の不純物を除去する。
【0015】
第1の供給ラインL1は、後述のチャンバー3内のシールドガスの一部を濃度調整ユニット30の精製部に供給する。第1の供給ラインL1は、後述のチャンバー3と後述の第1の精製塔31とを接続する。第1の供給ラインL1には電磁バルブV1が設けられている。電磁バルブV1が開状態であるとき、第1の供給ラインL1は、チャンバー3内のシールドガスを濃度調整ユニット30の精製部に供給する。
【0016】
第2の供給ラインL2は、濃度調整ユニット30の精製部によってシールドガスから第1のガス成分が除去されたガスを、チャンバー3内に供給する。第2の供給ラインL2は後述の第4の精製塔34とチャンバー3とを接続する。第2の供給ラインL2には電磁バルブV2が設けられている。電磁バルブV2が開状態であるとき、第2の供給ラインL2は、濃度調整ユニット30の精製部によってシールドガスからシールドガス中の不純物となる第1のガス成分が除去されたガスをチャンバー3内に供給する。
【0017】
循環ラインL3は、電磁バルブV1の一次側の第1の供給ラインL1と、電磁バルブV2の二次側の第2の供給ラインL2とを接続する。ここで、第1の供給ラインL1中のガスが積層造形ユニット10から濃度調整ユニット30に流れる方向の上流側を一次側とし、下流側を二次側とする。また、第2の供給ラインL2中のガスが濃度調整ユニット30から積層造形ユニット10に流れる方向の上流側を一次側とし、下流側を二次側とする。
【0018】
循環ラインL3には電磁バルブV3が設けられている。電磁バルブV3が開状態であり、電磁バルブV1、V2がいずれも閉状態であるとき、積層造形システム70は、チャンバー3内のシールドガスの一部を第1の供給ラインL1内に導入し、第1の供給ラインL1内のシールドガスを循環ラインL3、第2の供給ラインL2をこの順に経由させてチャンバー3内に再度供給する。
電磁バルブV1、V2、V3がいずれも開状態であるとき、積層造形システム70は、チャンバー3内のシールドガスの一部を第1の供給ラインL1内に導入し、次いで、チャンバー3内の一部のシールドガスを濃度調整ユニット30に供給し、残部のシールドガスを第2の供給ラインL2を経由させてチャンバー3内に再度供給する。
積層造形システム70においては、電磁バルブV1〜V3は後述のCPU37と電気的に接続されている。各電磁バルブの開閉状態は、CPU37によって制御可能である。
【0019】
図2は、積層造形システム70が備える積層造形ユニット10の構成を示す模式図である。
図2に示すように積層造形ユニット10は、レーザー発振器1と光学系2とチャンバー3と貯蔵室4と造形室5と回収室6とリコーター7と貯蔵ステージ8と造形ステージ9と第1の濃度計C1と第2の濃度計C2を含む。積層造形ユニット10は、レーザー発振器1を用いてレーザーL(エネルギー線の一例)の照射により造形ステージ9上の粉体材料Mに熱を供給して層を造形し、造形した層を順次積層し、積層造形物Xとする。
【0020】
積層造形ユニット10は、照射部と造形部を有する。
照射部は、粉体材料Mに照射するエネルギー線の照射源を含む。積層造形ユニット10においては、レーザー発振器1と光学系2が積層造形ユニット10の照射部を構成する。
造形部は、シールドガスが充填されるチャンバー3、及び、層の造形及び積層が行われる造形ステージ9を含む。積層造形ユニット10においては、チャンバー3と造形室5と造形ステージ9が積層造形ユニット10の造形部を構成する。
【0021】
(積層造形ユニット10の照射部)
積層造形ユニット10の照射部は、エネルギー線の照射源としてレーザー発振器1を含む。レーザー発振器1は、エネルギー線の照射源の一例である。本実施形態の他の一例では、エネルギー線の照射源は、レーザー発振器以外の形態でもよい。
レーザー発振器1は、粉体材料MにレーザーLをエネルギー線として照射する。レーザー発振器1は、造形ステージ9上の粉体材料MにレーザーLを照射できる形態であれば特に限定されない。レーザー発振器1は、光学系2を経由させてレーザーLをチャンバー3内の粉体材料Mに照射する。これにより積層造形ユニット10は、レーザーLが照射された位置の粉体材料Mを焼結又は溶融固化することができる。その結果、粉体材料Mの焼結物又は粉体材料Mの溶融固化物を含む層(以下、「造形層」と記す。)が造形される。
【0022】
光学系2は、造形ステージ9上の粉体材料MにおけるレーザーLの照射位置をあらかじめ設定されたデータにしたがって制御できる形態であれば、特に限定されない。光学系2の一例としては、例えば、一以上の反射鏡を有するものが挙げられる。
積層造形ユニット10は、あらかじめ設定されたデータにしたがって光学系2を制御することで、粉体材料MへのレーザーLの照射位置を制御できる。これにより、積層造形ユニット10は、任意の形状の造形層を造形できる。
【0023】
粉体材料Mとしては、例えば、カーボン、ホウ素、マグネシウム、カルシウム、クロム、銅、鉄、マンガン、モリブテン、コバルト、ニッケル、ハフニウム、ニオブ、チタン、アルミニウム等の粉末が挙げられる。粉体材料Mとしては、クロム、銅、鉄、マンガン、モリブテン、コバルト、ニッケル、ハフニウム、ニオブ、チタン、アルミニウム等の金属及びこれらの合金の粉末が好ましい。合金としては、例えば、ステンレス合金、ニッケル合金。アルミニウム合金、チタン合金等が挙げられる。
これらの中でも本発明の効果が顕著に得られることを期待できることから、コバルト、ニッケル、ハフニウム、ニオブ、チタン、アルミニウム、ステンレス合金、ニッケル合金。アルミニウム合金、チタン合金が好ましい。
粉体材料Mが粒子状である場合、粉体材料Mの粒子は特に限定されないが、例えば10〜200μm程度とすることができる。
【0024】
(積層造形ユニット10の造形部)
積層造形ユニット10の造形部は、チャンバー3と造形室5と造形ステージ9とを含む。チャンバー3、造形室5、造形ステージ9に加えて、貯蔵室4、回収室6、リコーター7、貯蔵ステージ8も、積層造形ユニット10の造形部の構成とみなしてもよい。
チャンバー3は、シールドガスが充填される容器である。チャンバー3には、第1の供給ラインL1の一次側の端部、第2の供給ラインL2の二次側の端部、シールドガス供給ラインL4の二次側の端部がそれぞれ接続されている。シールドガス供給ラインL4の図示略の一次側の端部は、図示略のシールドガスの供給源と接続されている。シールドガス供給ラインL4を介して、チャンバー3内の空間には、シールドガスが充填される。
加えて、チャンバー3には図示略のパージラインの端部が接続されている。図示略のパージラインは、シールドガスの充填の際(後述のステップ(c)に相当する。)に、チャンバー3内のガスをチャンバー3外に排出する。
【0025】
シールドガスは、チャンバー3内の空間の酸素を低減するためのガスである。シールドガスとしては、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガス及びこれらの任意の組み合わせを含む混合ガス等が挙げられる。
シールドガスの組成は、通常、一定の組成成分で構成される。よって、チャンバー3内の空間にシールドガスを供給することで、必要量のエネルギーのレーザーLを粉体材料Mに安定して照射でき、一定の性質の造形層を確実に造形でき、積層造形物の品質が向上する。
加えて、チャンバー3内の空間へのシールドガスの供給により、造形層の造形及び積層の際に粉体材料Mの周囲の雰囲気中の酸素濃度をできる限り低減できる。そのため、積層造形物の機械的物性等を高め、形状の劣化を低減でき、積層造形物の品質が向上する。
【0026】
チャンバー3の底面Bには、貯蔵室4と造形室5と回収室6とが形成されている。貯蔵室4、造形室5、回収室6は、例えば、柱状の空間を有する。柱状の空間の形状は、特に限定されない。その形状は、例えば、円柱状でもよく、多角柱状等でもよい。
積層造形ユニット10においては、チャンバー3の底面Bの下方に貯蔵室4、造形室5、回収室6が形成されている形態であるが、本実施形態の他の一例では、チャンバー3の底面Bに設けられた台座の上面に貯蔵室、造形室、回収室をそれぞれ設けてもよい。ここで当該台座は、粉体材料Mの貯蔵、供給、回収、粉体材料Mへの熱の供給による造形、造形層の積層等の操作を行うためのものである。他にも、本実施形態の他の一例では、チャンバー3内の空間とそれぞれ連通するように貯蔵室、造形室、回収室をチャンバー3外に設けてもよい。
【0027】
貯蔵室4は、チャンバー3の底面Bから下方に形成された空間を有する。貯蔵室4内には貯蔵ステージ8が配置されている。貯蔵ステージ8の上側には造形層の造形を行う前の粉体材料Mが載置される。このように、貯蔵室4は、貯蔵ステージ8の上側の空間に未使用の粉体材料Mを貯蔵している。
貯蔵ステージ8は、上下動可能な可動棒8aに支持されている。可動棒8aの上下動により、貯蔵ステージ8は貯蔵室4の内壁に沿って貯蔵室4内の空間を上下方向に移動する。貯蔵ステージ8が上方向に移動することで、貯蔵ステージ8の上面に載置された粉体材料Mがチャンバー3の底面Bより上側にはみ出すことになる。積層造形ユニット10においては、チャンバー3の底面Bより上側にはみ出した分の貯蔵ステージ8上の粉体材料Mを、リコーター7の左右方向の移動によって造形ステージ9の上側に搬送する。
【0028】
造形室5は、チャンバー3の底面Bから下方に形成された空間を有する。造形室5内には造形ステージ9が配置されている。造形ステージ9は、上下動可能な可動棒9aに支持されている。可動棒9aの上下動により、造形ステージ9は造形室5の内壁に沿って造形室5内の空間を上下方向に移動する。
造形ステージ9の上側にはレーザーLが照射される粉体材料Mが載置される。通常、造形ステージ9上の粉体材料Mは、貯蔵ステージ8からリコーター7によって搬送されたものである。
【0029】
積層造形ユニット10においては、造形ステージ9上の粉体材料MにレーザーLが照射されることで、造形層が形成される。そして、積層造形ユニット10においては、造形ステージ9上で造形層の造形及び積層を繰り返す。例えば、造形ステージ9上の粉体材料MにレーザーLが照射され、ある一つの任意の形状の造形層が造形された状態を一例に、造形ステージ9上における造形層の造形及び積層を説明する。
ある一つの任意の形状の造形層が造形された後、可動棒9aが下方向に移動して造形ステージ9が下方向に移動すると、新たな粉体材料Mがリコーター7によって貯蔵ステージ8上から一つの任意の形状の造形層の上側に供給されて敷き詰められる。この状態で、レーザーLの照射による新たな造形層(形状は任意である。)の造形をさらに行うと、すでに造形された一つの任意の形状の造形層の上側に新たな造形層がさらに設けられる。その後、造形ステージ9がさらに下方向に移動し、新たな粉体材料Mが貯蔵ステージ8上からさらに供給される。次いで、レーザーLがさらに照射されると、新たな造形層がすでに積層された造形層の上側にさらに設けられ、積層される。このようにして、造形ステージ9上では造形層の造形及び造形層の積層が順次行われる。
【0030】
積層造形ユニット10はレーザー発振器1と貯蔵ステージ8と造形ステージ9を含むため、レーザーLの照射、造形ステージ9の下降、新たな粉体材料Mの供給を繰り返すことができ、造形層を順次積層して積層造形物Xを製造できる。そして積層造形物Xが完成する頃には、積層造形物Xの上端の位置がチャンバー3の底面Bと同じ高さとなるような位置まで、造形ステージ9が下降する。
【0031】
回収室6は、チャンバー3の底面Bから下方に形成された空間を有する。
造形層の造形を行った後の粉体材料は、造形ステージ9上でレーザーLの照射がされなかった部分に残った粉体材料である。造形ステージ9上でレーザーLが照射された粉体材料Mの周囲の粉体材料は、レーザーLが直接照射されていないとしても、レーザーLが照射された部位から伝導する高熱によって変質していることがある。そのため、レーザーLが照射された粉体材料Mの周囲の粉体材料を、造形層の造形を行った後の粉体材料として、回収室6に搬送する。このように回収室6は、使用後の粉体材料を回収するためのものである。
【0032】
第1の濃度計C1は、チャンバー3内の酸素濃度を測定する。第1の濃度計C1は後述のCPU37と電気的に接続されている。第2の濃度計C2は、チャンバー3内の水分濃度を測定する。第2の濃度計C2は後述のCPU37と電気的に接続されている。
積層造形システム70においては、第1の濃度計C1、第2の濃度計C2はチャンバー3内に配置されているが、第1の濃度計C1、第2の濃度計C2は、チャンバー3内に供給される第2の供給ラインL2内のガス中の酸素濃度、水分濃度を測定可能な位置に配置されていれば特に限定されない。
【0033】
図3は、積層造形システム70が備える濃度調整ユニット30の構成を示す模式図である。
図3に示すように濃度調整ユニット30は、第1の精製塔31と第2の精製塔32と第3の精製塔33と第4の精製塔34とブロワー35と第2のガス成分の供給源36とCPU37と第1の接続ラインL5と第2の接続ラインL6と第3の接続ラインL7と第1のバイパスラインL8と第2のバイパスラインL9と第3のバイパスラインL10と第4のバイパスラインL11と第3の供給ラインL12と電磁バルブV4〜V16を含む。
【0034】
濃度調整ユニット30は、精製部と供給部と制御部を有する。
精製部は、チャンバー3内のシールドガス中の不純物となる第1のガス成分を、粉体材料Mに応じて除去する。濃度調整ユニット30においては、第1の精製塔31、第2の精製塔32、第3の精製塔33、第4の精製塔34、ブロワー35、第1の接続ラインL5、第2の接続ラインL6、第3の接続ラインL7、第1のバイパスラインL8、第2のバイパスラインL9、第3のバイパスラインL10、第4のバイパスラインL11、電磁バルブV4〜V15が精製部を構成する。
供給部は、粉体材料Mに応じて選択される第2のガス成分を必要に応じてチャンバー3内に供給する。濃度調整ユニット30においては、第2のガス成分の供給源36、第3の供給ラインL12、電磁バルブV16が供給部を構成する。
制御部は、粉体材料Mに応じて第1のガス成分及び第2のガス成分の供給の有無を粉体材料Mに応じて決定する。制御部は、第2のガス成分の供給を実行すると決定した場合に、第2のガス成分を粉体材料Mに応じてさらに決定する。濃度調整ユニット30においては、CPU37が制御部を構成する。
【0035】
図3に示すように、ブロワー35は第1の供給ラインL1に設けられている。ブロワー35は第1の供給ラインL1内のシールドガスを吸引することで、チャンバー3内のシールドガスの一部を第1の精製塔31、第2の精製塔32、第3の精製塔33、第4の精製塔34に供給する。
【0036】
CPU37は、第1のガス成分及び第2のガス成分の供給の有無を粉体材料Mに応じて決定し、電磁バルブV4〜V16に指示する。第2のガス成分の供給を実行する場合、CPU37は、第2のガス成分を粉体材料Mに応じてさらに決定し、第2のガス成分の供給源36に指示する。
CPU37は、第1のガス成分、第2のガス成分に関する指示内容を粉体材料Mに応じて自動的に決定できるプログラムを有してもよく、積層造形システム70の使用者が粉体材料Mに応じて第1のガス成分、第2のガス成分に関する指示内容を手動で決定できるスイッチボタンを有してもよい。
【0037】
CPU37は、粉体材料Mの種類に関する情報を外部シグナルとして受信する。CPU37は、粉体材料Mの材質等の情報(外部シグナル)に基づいて、精製部における第1のガス成分のガス種を決定する。加えて、CPU37は、粉体材料Mの材質の情報の他、第1の濃度計C1、第2の濃度計C2から送信されるチャンバー3内の酸素濃度、水分濃度の測定値に基づいて、第1のガス成分を決定してもよい。
CPU37は、粉体材料Mの材質等の情報(外部シグナル)に基づいて、第2のガス成分の供給の有無を決定する。そして、CPU37は、第2のガス成分の供給を実行すると決定したときに、第2のガス成分のガス種を決定する。例えば、CPU37は、粉体材料Mの材質等の情報を外部シグナルとして与えられ、第2のガス成分の供給により積層造形物Xの品質の向上を期待できるとき、第2のガス成分の供給の実行を決定し、粉体材料Mに応じて第2のガス成分のガス種を決定する。
【0038】
CPU37は、電磁バルブV1〜V3、第1の濃度計C1、第2の濃度計C2に加えて、第2のガス成分の供給源36、電磁バルブV4〜V16のそれぞれと電気的に接続されている。これにより、CPU37は、決定した第1のガス成分のガス種に関する指示信号として、電磁バルブV4〜V16の開閉状態を指示できる。そのため、CPU37は、濃度調整ユニット30の精製部において、第1の精製塔31、第2の精製塔32、第3の精製塔33、第4の精製塔34のうち、いずれの精製塔をチャンバー3内のシールドガス中の不純物の除去に使用するかを指示できる。
【0039】
CPU37が第2のガス成分の供給の有無を決定したとき、CPU37は、第2のガス成分の供給の有無に関する指示信号として、電磁バルブV16の開閉状態を指示できる。
第2のガス成分の供給を実行する場合、CPU37は、電磁バルブV16を開状態とするよう指示する。第2のガス成分の供給を実行する場合、CPU37は、第2のガス成分を決定し、決定した第2のガス成分のガス種に関する指示信号を供給源36に送信して、第2のガス成分のガス種を供給源36に指示する。
第2のガス成分の供給を実行しない場合、CPU37は、電磁バルブV16を閉状態とするよう指示する。
【0040】
制御部としてCPU37を有する濃度調整ユニット30により、第1の精製塔31、第2の精製塔32、第3の精製塔33、第4の精製塔34のうち、いずれの精製塔をシールドガスの精製に使用するかを決定でき、第2のガス成分の供給の有無を決定し、必要に応じて第2のガス成分のガス種を決定できる。
積層造形システム70においては、CPU37を濃度調整ユニット30が備える構成として開示されているが、他の実施形態例においては、CPU37を積層造形システム70が備える構成とし、濃度調整ユニット30とは独立した構成としてもよい。
【0041】
(濃度調整ユニット30の精製部)
濃度調整ユニット30の精製部は、シールドガス中の不純物となる第1のガス成分を、粉体材料Mに応じて除去する。濃度調整ユニット30においては、CPU37によって、第1の精製塔31、第2の精製塔32、第3の精製塔33、第4の精製塔34のうち、いずれの精製塔をシールドガスの精製に使用するかを決定し、第1のガス成分が決定される。
【0042】
濃度調整ユニット30においては、第1のガス成分は、酸素、水分、窒素である。ただし、他の実施形態例においては、第1のガス成分として、これらの化学種のガス成分に加えて、他の化学種のガス成分を採用してもよい。
【0043】
第1のガス成分は、例えば、粉体材料Mの材質に応じて選択できる。第1のガス成分は、一種でもよく、複数種のガス成分の組み合わせでもよい。
その一例としては、粉体材料Mがステンレス合金、ニッケル合金である場合、積層造形物Xの機械的特性が優れることから、第1のガス成分は、酸素、水分の2種のガス成分の組み合わせが好ましい。
粉体材料Mがアルミニウム合金である場合、積層造形物Xの空孔が低減し、機械的特性が優れることから、第1のガス成分は、水分の1種のガス成分のみが好ましい。
粉体材料Mがチタン合金である場合、積層造形物Xの空孔が低減し、機械的特性が優れることから、第1のガス成分は、酸素、水分及び窒素の3種のガス成分の組み合わせが好ましい。
【0044】
第1の精製塔31は、シールドガスから酸素を第1のガス成分として除去する精製塔である。第1の精製塔31には、例えば、ニッケル系触媒、亜鉛系触媒等の酸素を吸着可能な吸着剤が充填されている。第1の精製塔31に充填される吸着剤は、第1の精製塔31内に導入されるガス中の酸素の濃度に対して、99.99%以上の酸素を除去可能であるものが好ましい。第1の精製塔31は、粉体材料Mの材質を考慮し、チャンバー3内のシールドガスから酸素を除去することで、積層造形物の品質の向上を期待できるときに使用する。
【0045】
第1の精製塔31は、第1の供給ラインL1の二次側の端部と接続されている。第1の供給ラインL1の二次側の端部の付近には電磁バルブV4が設けられている。電磁バルブV4が開状態であるとき、第1の精製塔31には第1の供給ラインL1を介してチャンバー3内のシールドガスの一部が供給される。この場合、第1の精製塔31は内部に供給されたシールドガスから酸素を第1の成分として除去する。
【0046】
第1の接続ラインL5は、第1の精製塔31の二次側の端部と第2の精製塔32の一次側の端部とを接続する。第1の接続ラインL5の一次側の端部の付近には電磁バルブV5が設けられている。電磁バルブV5が開状態であるとき、第1の接続ラインL5は、第1の精製塔31内のガスを第2の精製塔32等の濃度調整ユニット30の二次側の各構成に供給可能である。ここで、濃度調整ユニット30においては、チャンバー3内のガスが第1の供給ラインL1、各接続ラインL5〜L7を経由して第2の供給ラインL2に流れる方向の上流側を一次側とし、下流側を二次側とする。
【0047】
第1のバイパスラインL8は、電磁バルブV4の一次側の第1の供給ラインL1と、電磁バルブV5の二次側の第1の接続ラインL5とを接続する。また、第1のバイパスラインL8には電磁バルブV6が設けられている。
電磁バルブV4、V5がいずれも閉状態であり、電磁バルブV6が開状態であるとき、第1のバイパスラインL8は、第1の精製塔31に供給せずに、第1の供給ラインL1内のシールドガスを第1の精製塔31の二次側の第2の精製塔32に供給できる。
一方、電磁バルブV6が閉状態であり、電磁バルブV4、V5がいずれも開状態であるとき、濃度調整ユニット30は、第1の供給ラインL1内のシールドガスを第1の精製塔31に供給し、第1の精製塔31内で酸素が除去されたガスを第2の精製塔32に供給できる。
【0048】
第2の精製塔32は、シールドガスから水分を第1のガス成分として除去する精製塔である。第2の精製塔32には、例えば、ニッケル系触媒とゼオライトの混合物等の水分を吸着可能な吸着剤が充填されている。第2の精製塔32に充填される吸着剤は、第2の精製塔32内に導入されるガス中の水分の濃度に対して、99.99%以上の水分を除去可能であるものが好ましい。第2の精製塔32は、粉体材料Mの材質を考慮し、チャンバー3内のシールドガスから水分を除去することで、積層造形物の品質の向上を期待できるときに使用する。
【0049】
第2の精製塔32は、第1の接続ラインL5の二次側の端部と接続されている。第1の接続ラインL5の二次側の端部の付近には電磁バルブV7が設けられている。電磁バルブV7が開状態であるとき、第2の精製塔32には第1の接続ラインL5内からガスが供給される。この場合、第2の精製塔32は内部に供給されたシールドガスから水分を第1の成分として除去する。
【0050】
第2の接続ラインL6は、第2の精製塔32の二次側の端部と第3の精製塔33の一次側の端部とを接続する。第2の接続ラインL6の一次側の端部の付近には電磁バルブV8が設けられている。電磁バルブV8が開状態であるとき、第2の接続ラインL6は、第2の精製塔32内のガスを、第3の精製塔33等の濃度調整ユニット30の二次側の各構成に供給可能である。
【0051】
第2のバイパスラインL9は、電磁バルブV7の一次側の第1の接続ラインL5と、電磁バルブV8の二次側の第2の接続ラインL6とを接続する。また、第2のバイパスラインL9には電磁バルブV9が設けられている。
電磁バルブV7、V8がいずれも閉状態であり、電磁バルブV9が開状態であるとき、第2のバイパスラインL9は、第1の接続ラインL5内のシールドガスを第2の精製塔32に供給せずに、第2の精製塔32の二次側の第3の精製塔33に供給できる。
一方、電磁バルブV9が閉状態であり、電磁バルブV7、V8がいずれも開状態であるとき、濃度調整ユニット30は、第1の接続ラインL5内のガスを第2の精製塔32に供給でき、第2の精製塔32内で水分が除去されたガスを第3の精製塔33に供給できる。
【0052】
第3の精製塔33は、シールドガスから窒素を第1のガス成分として除去する精製塔である。第3の精製塔33には、例えば、シリカゲル等の窒素を吸着可能な吸着剤が充填されている。第3の精製塔33に充填される吸着剤は、第3の精製塔33内に導入されるガス中の窒素濃度に対して、99.99%以上の窒素を除去可能であるものが好ましい。第3の精製塔33は、粉体材料Mの材質を考慮し、チャンバー3内のシールドガスから窒素を除去することで、積層造形物の品質の向上を期待できるときに使用する。
【0053】
第3の精製塔33は、第2の接続ラインL6の二次側の端部と接続されている。第2の接続ラインL6の二次側の端部の付近には電磁バルブV10が設けられている。電磁バルブV10が開状態であるとき、第3の精製塔33には第2の接続ラインL6内からガスが供給される。この場合、第3の精製塔33は内部に供給されたシールドガスから窒素を第1の成分として除去する。
【0054】
第3の接続ラインL7は、第3の精製塔33の二次側の端部と第4の精製塔34の一次側の端部とを接続する。第3の接続ラインL7の一次側の端部の付近には電磁バルブV11が設けられている。電磁バルブV11が開状態であるとき、第3の接続ラインL7は、第3の精製塔33内のガスを、第4の精製塔34等の濃度調整ユニット30の二次側の各構成に供給可能である。
【0055】
第3のバイパスラインL10は、電磁バルブV10の一次側の第2の接続ラインL6と、電磁バルブV11の二次側の第3の接続ラインL7とを接続する。また、第3のバイパスラインL10には電磁バルブV12が設けられている。
電磁バルブV10、V11がいずれも閉状態であり、電磁バルブV12が開状態であるとき、濃度調整ユニット30は、第2の接続ラインL6内のシールドガスを第3の精製塔33に供給せずに、第3の精製塔33の二次側の第4の精製塔34に供給できる。
一方、電磁バルブV12が閉状態であり、電磁バルブV10、V11がいずれも開状態であるとき、濃度調整ユニット30は、第2の接続ラインL6内のシールドガスを第3の精製塔33に供給でき、第3の精製塔33内で窒素が除去されたガスを第4の精製塔34に供給できる。
【0056】
第4の精製塔34は、シールドガスから水分を第1のガス成分として除去し、酸素を除去しない精製塔である。第4の精製塔34には、例えば、ゼオライト等の水分を吸着可能であり、かつ、酸素を吸着しない吸着剤が充填されている。第4の精製塔34に充填される吸着剤は、第4の精製塔34内に導入されるガス中の水分の濃度に対して、99.99%以上の水分を除去可能であるものが好ましい。第4の精製塔34は、粉体材料Mの材質を考慮し、チャンバー3内のシールドガスから水分を除去し、かつ、第2の成分として酸素を供給することで、積層造形物の品質の向上を期待できるときに使用する。
【0057】
第4の精製塔34は、第3の接続ラインL7の二次側の端部と接続されている。第3の接続ラインL7の二次側の端部の付近には電磁バルブV13が設けられている。電磁バルブV13が開状態であるとき、第4の精製塔34には第3の接続ラインL7内からガスが供給される。この場合、第4の精製塔34が内部に供給されたシールドガスから水分を第1の成分として除去する。第4の精製塔34には酸素を吸着しない吸着剤が充填されているため、第4の精製塔34は内部に供給されたシールドガスから酸素を除去しない。
【0058】
第4の精製塔34の二次側の端部は、第2の供給ラインL2の一次側の端部と接続されている。第2の供給ラインL2の一次側の端部の付近には電磁バルブV14が設けられている。電磁バルブV14が開状態であるとき、濃度調整ユニット30は、第4の精製塔34内のガスを、第2の供給ラインL2に供給可能である。
【0059】
第4のバイパスラインL11は、電磁バルブV13の一次側の第3の接続ラインL7と、電磁バルブV14の二次側の第2の供給ラインL2とを接続する。また、第4のバイパスラインL11には電磁バルブV15が設けられている。
電磁バルブV13、V14がいずれも閉状態であり、電磁バルブV15が開状態であるとき、第4のバイパスラインL11は、第3の接続ラインL7内のシールドガスを第4の精製塔34に供給せずに、第4の精製塔34の二次側の第2の供給ラインL2に供給できる。
一方、電磁バルブV15が閉状態であり、電磁バルブV13、V14がいずれも開状態であるとき、濃度調整ユニット30は、第3の接続ラインL7内のガスを第4の精製塔34に供給でき、第4の精製塔34で水分のみ除去されたガスを第2の供給ラインL2に供給できる。
【0060】
(濃度調整ユニット30の供給部)
濃度調整ユニット30の供給部は、粉体材料Mに応じて選択される第2のガス成分を必要に応じてチャンバー3内に供給する。濃度調整ユニット30においては、CPU37によって、第2のガス成分の供給の実行の有無を決定し、必要に応じて第2のガス成分のガス種を決定する。第2のガス成分の供給を実行する場合、第2のガス成分は、例えば、粉体材料Mの材質に応じて選択できる。
【0061】
第2のガス成分としては、水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、ヘリウム等が挙げられる。第2のガス成分は、一種単独でもよく、複数種のガス成分の組み合わせでもよい。
例えば、粉体材料Mがアルミニウム合金である場合、積層造形物Xの空孔が低減し、機械的特性の向上が期待できることから、第2のガス成分は酸素が好ましい。粉体材料Mがチタン系合金である場合、造形速度の向上が期待できることから、第2のガス成分はヘリウムが好ましい。
【0062】
第2のガス成分の供給源36は、水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニア、ヘリウムからなる群から選ばれる一つ以上の供給源である。第2のガス成分の供給源36は、第2のガス成分のガス種の数に応じた複数の供給源を有する形態でもよく、供給対象となる第2のガス成分を複数のガス種の内から選択して切り替えることできる一つの供給源を有する形態でもよい。
供給源36の形態は、PSA方式のガス発生装置でもよく、ガスボンベの形態でもよい。例えば、第2のガス成分が酸素である場合、供給源36としては、PSA方式の酸素発生器、酸素ボンベ等が挙げられる。第2のガス成分の供給源36は、第3の供給ラインL12を介して第2の供給ラインL2と接続されている。
【0063】
第3の供給ラインL12は、第2の供給ラインL2中のガスに第2のガス成分を必要に応じて供給する。第3の供給ラインL12には電磁バルブV16が設けられている。電磁バルブV16が開状態であるとき、第3の供給ラインL12は、供給源36で選択された第2のガス成分を第2の供給ラインL2中のガスに供給可能である。
以上説明した構成を備える濃度調整ユニット30の供給部は、第3の供給ラインL12、第2の供給ラインL2をこの順に経由して、第2のガス成分を必要に応じてチャンバー3内に供給する。
【0064】
(フィルターユニット50)
図1に示すように、フィルターユニット50は、フィルター51とベンチレーター52とを含む。フィルターユニット50は、ベンチレーター52によって後述のチャンバー3内のシールドガスの一部を取り出し、シールドガス中のフューム、スパッタ等の固体の不純物をフィルター51で除去する。チャンバー3内のシールドガス中のフューム、スパッタ等の固体の不純物を除去することで、積層造形物Xの品質をさらに高めることができる。
【0065】
(作用効果)
以上説明した積層造形システム70にあっては、濃度調整ユニット30を備える。濃度調整ユニット30は、シールドガス中の不純物となる第1のガス成分を、粉体材料に応じて除去する精製部を有する。そのため、粉体材料の材質等に応じてシールドガス中の不純物となるガス成分を第1の精製塔、第2の精製塔、第3の精製塔、第4の精製塔のうちから選択して除去できる。よって、チャンバー内のシールドガス中の金属造形物の製造に不要なガス成分、金属造形物の機械的特性の低下の原因となるガス成分の濃度を粉体材料に応じて低減でき、金属造形物の品質を粉体材料に応じてさらに高めることができる。
加えて、濃度調整ユニット30は、粉体材料に応じて選択される第2のガス成分を必要に応じてチャンバー内に供給する供給部を有する。そのため、粉体材料の材質等に応じて積層造形物Xの品質の向上に寄与すると期待されるガス成分をチャンバー内に供給し、その濃度を一定に保持できる。その結果、チャンバー内のシールドガス中の第2のガス成分の濃度が粉体材料に応じて最適化され、金属造形物の品質を粉体材料に応じてさらに高めることができる。
【0066】
本積層造形システムは、濃度調整ユニットと循環ラインL3を備え、濃度調整ユニットは所定の精製部と供給部とを有する。そのため、本積層造形システムによればチャンバー3内のシールドガスに一部を取り出し、濃度調整ユニットによってシールドガスの濃度を調整しながら、かつ、ヒューム、スパッタ等の固体の不純物を除去できる。その結果、チャンバー3内のシールドガス中のガス成分の組成を金属造形物の品質の向上のために最適化された濃度(目標値)に、きわめて短時間で低減でき、必要に応じてチャンバー3内の第2のガス成分の濃度を目標値に調整し、目標値を安定的に維持できる。
【0067】
本積層造形システムは、濃度調整ユニット30と第1の供給ラインと第2の供給ラインL2を備える。そのため、チャンバー3内にシールドガスを充填する際に、シールドガスの一部を第1の供給ラインによって取り出し、濃度調整ユニットの精製部で酸素を除去したあとに、第2の供給ラインL2によってチャンバー3内に再供給しながら、酸素をチャンバー内からパージできる。その結果、シールドガスの供給のみによってチャンバー内の酸素のパージを行う場合と比較して、きわめて短時間で酸素濃度を低減でき、かつ、シールドガスの消費量を削減できる。したがって、従来の積層造形装置より、短時間で効率よく、品質がさらに向上した積層造形物を製造できる。
【0068】
本積層造形システムは、濃度調整ユニット30及びフィルターユニット50が、積層造形ユニット10と別個の構成である。そのため、一般的に市販されている3Dプリンターに濃度調整ユニット30、フィルターユニット50に相当する構成を付加することで、種々の積層造形物の品質をさらに高めることができる。
【0069】
<積層造形方法>
以下、
図1〜3を参照しながら本実施形態例に係る積層造形方法について具体的に説明する。
本実施形態例に係る積層造形方法(以下、「本積層造形方法」と記載する。)は、シールドガスの存在下で、エネルギー線を用いて粉体材料に熱を供給して層を造形し、前記層を順次積層して積層造形物を製造する積層造形方法である。以下の説明においては、上述の積層造形システム70を用いる場合を一例として本積層造形方法について説明するが、本発明は以下の記載に限定されない。
【0070】
本積層造形方法は、下記のステップ(a)とステップ(b)とを有する。本積層造形方法は、下記のステップ(c)をさらに有してもよい。
ステップ(a):造形層を造形し、造形層を順次積層するステップ。
ステップ(b):シールドガス中のガス成分の濃度を調整するステップ。
ステップ(c):チャンバー内にシールドガスを充填することで、チャンバー内の酸素をチャンバー内からパージするステップ。
【0071】
本積層造形方法においては、ステップ(a)とステップ(b)を行う順序は特に限定されない。また、ステップ(a)とステップ(b)とを同時並行で実施してもよい。
例えば、積層造形物の製造に際して、チャンバー3内のシールドガス中のガス成分の組成が積層造形物の品質を高めるためにすでに十分に最適化されている場合には、ステップ(a)から開始できる。この場合、ステップ(a)の最中にチャンバー3内のシールドガス中のガス成分の組成が変化し、第1のガス成分、第2のガス成分の濃度が目標値から変動することがある。その後、ガス成分の組成の変化によって、積層造形物の品質を高めることができなくなるおそれが生じたとき、ステップ(a)を行いながら、または、ステップ(a)を一度中止してから、ステップ(b)を開始する。
一方、積層造形物の製造に際して、チャンバー3内のシールドガス中のガス成分の組成が積層造形物の品質を高めるために十分に最適化されていない場合には、ステップ(b)から開始できる。この場合、ステップ(b)の最中にチャンバー3内のシールドガス中のガス成分の組成が変化し、第1のガス成分、第2のガス成分の濃度が目標値から変動することがある。その後、ガス成分の組成の最適化によって、積層造形物の品質を高めることができると期待できるとき、ステップ(b)を行いながら、または、ステップ(b)を一度中止してから、ステップ(a)を開始する。
【0072】
例えば、ステップ(a)の最中にレーザーLを粉体材料Mに照射すると、粉体材料の表面に付着していたきわめて微量の水分(液体状態)が蒸発して水蒸気となり、チャンバー3内の水分濃度が高くなってしまうことがある。金属材料の粉体を使用する場合、水分の存在は、積層造形物の機械強度の低下の原因となる。そのため、第2の精製塔32と必要に応じて第4の精製塔34を使用することで、チャンバー3内の水分濃度を低減させる。ただし、粉体材料Mの種類との関係からチャンバー3内の水分の存在が金属造形物Xの品質の向上のために好ましい場合には、チャンバー3内の水分濃度を低減させなくてもよい。
【0073】
(ステップ(c))
本積層造形方法の一例では、まず、ステップ(c)を実施し、次いで、ステップ(b)を実施する。例えば、未使用の粉体材料Mの貯蔵室4への供給の際や積層造形物の回収の際に、チャンバー3内が大気開放される場合がある。このとき、チャンバー3内の酸素濃度が上昇するため、ステップ(c)を実施する。ただし、チャンバー3内の酸素濃度がすでに十分に低い場合には、ステップ(c)を省略できる。
【0074】
ステップ(c)では、レーザーLの照射の前にチャンバー3内にシールドガスを充填することで、チャンバー3内の酸素をチャンバー3内からパージ(排出)する。これにより、チャンバー3内のガスをシールドガスに置換でき、チャンバー3内の酸素濃度を低減できる。そのため、ステップ(a)の実施の際に、酸素濃度が十分に低減された雰囲気下で造形層の造形及び造形層の積層が行われ、積層造形物の機械的強度が向上し、品質がよくなる。
ステップ(c)では、例えば、
図1に示す電磁バルブV1、V2を閉状態とし、シールドガス供給ラインL4からチャンバー3内にシールドガスを供給し、図示略のパージラインを開放する。これにより、チャンバー3内のガスをシールドガスに置換し、チャンバー3内の酸素濃度を低減できる。
【0075】
本積層造形方法においては、ステップ(c)とステップ(b)を同時並行で実施してもよい。例えば、
図1に示す電磁バルブV1、V2、V3を開状態とし、
図3に示す電磁バルブV4、V5を開状態とし、シールドガス供給ラインL4からチャンバー3内にシールドガスを供給し、図示略のパージラインを開放する。これにより、チャンバー3内のガスをシールドガスに置換しながら、第1の精製塔31で酸素を除去できるため、短時間でチャンバー3内の酸素濃度を低減できる。酸素以外のその他の第1のガス成分についても同様に除去しながら、ステップ(c)とステップ(b)を同時並行で実施してもよい。
【0076】
(ステップ(a))
図2に示すようにステップ(a)では、チャンバー3内の粉体材料Mにエネルギー線としてレーザーLを照射し、チャンバー3内で造形層を造形し、造形した造形層を順次積層する。ステップ(a)の実施は、チャンバー3内のシールドガス中のガス成分の組成が、粉体材料Mに応じて積層造形物の品質を高めるために十分に最適化されているときに開始するとよい。
【0077】
ステップ(a)では、例えば、積層造形ユニット10を使用して、チャンバー3内の造形ステージ9上で造形層の造形及び積層を繰り返す。例えば、造形ステージ9の上側の粉体材料MにレーザーLが照射され、一つの造形層が造形された状態を一例に説明する。
一つの造形層が造形された後、通常は造形ステージ9が下方向に移動する。次いで、新たな粉体材料Mが一つの造形層の上側に貯蔵ステージ8上からリコーター7によって供給されて敷き詰められる。この状態で、レーザーLの照射による新たな造形層の造形をさらに行うと、すでに造形された一つの造形層の上側に新たな造形層が設けられる。その後、造形ステージ9がさらに下方向に移動し、貯蔵ステージ8上から新たな粉体材料Mがさらに供給される。次いで、レーザーLがさらに照射されると、新たな造形層がすでに積層された造形層の上側にさらに設けられる。
このようにして、ステップ(a)では、造形ステージ9上で造形層の造形及び造形層の積層が順次行われる。
【0078】
ステップ(a)では、積層造形ユニット10において、あらかじめ入力されたデータに基づくレーザーLの照射が終わり、積層造形物Xが完成したら、積層造形物Xを回収する。積層造形物Xの回収後には、造形ステージ9がチャンバー3の底面Bと同じ高さまで上昇し、造形層の造形を行った後の粉体材料をリコーター7によって回収室6に搬送する。回収室6で回収した使用後の粉体材料は、還元等の処理を行った後に再利用してもよい。
【0079】
(ステップ(b))
ステップ(b)では、チャンバー3内のシールドガス中の不純物となる第1のガス成分を粉体材料Mに応じて除去し、粉体材料Mに応じて選択される第2のガス成分を必要に応じてチャンバー3内に供給する。
ステップ(b)の実施は、チャンバー3内のシールドガス中のガス成分の組成が積層造形物の品質を高めるために最適化されていないときに開始するとよい。
【0080】
本積層造形方法に係るステップ(b)では、第1のガス成分として、酸素、水分及び窒素からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上のガス成分をチャンバー3内のシールドガスから除去できる。例えば、
図3に示す第1の精製塔31、第2の精製塔32、第3の精製塔33、第4の精製塔34からなる群から選ばれる少なくとも一つを使用することで、第1のガス成分をチャンバー3内のシールドガスから除去できる。
本積層造形方法に係るステップ(b)では、CPU37によって、粉体材料Mの材質等の情報(外部シグナル)に基づいて、精製部における第1のガス成分のガス種を決定する。ステップ(b)に際しては、例えば、粉体材料Mの材質を考慮し、第1の濃度計C1、第2の濃度計C2から送信されるチャンバー3内の酸素濃度、水分濃度に基づいて、第1のガス成分を決定してもよい。
【0081】
第1のガス成分の一例としては、下記の(X1)〜(X7)が挙げられる。
(X1):酸素の一種類のガス成分のみ。
(X2):水分の一種類のガス成分のみ。
(X3):窒素の一種類のガス成分のみ。
(X4):酸素、水分の二種類のガス成分の組み合わせ。
(X5):水分、窒素の二種類のガス成分の組み合わせ。
(X6):窒素、酸素の二種類のガス成分の組み合わせ。
(X7):酸素、水分、窒素の三種類のガス成分の組み合わせ。
ただし、これらの組み合わせ(X1)〜(X7)は、濃度調整ユニット30の精製塔の構成に基づいて想定されるものであり、本発明において第1のガス成分はこれらの組み合わせに限定されない。本発明の他の実施形態例においては、精製塔の数及び各精製塔内の吸着剤等を変更することで、第1のガス成分を適宜変更でき、これらの例示したガス成分に加えて、他のガス成分を第1のガス成分として除去してもよい。
【0082】
本積層造形方法に係るステップ(b)では、粉体材料Mの種類に応じて第1のガス成分を切り替えることができる。
例えば、第1のガス成分が上記の(X1)である場合、
図3に示す濃度調整ユニット30において、第1の精製塔31を使用する。具体的には、電磁バルブV4、V5、V9、V12、V15を開状態とし、電磁バルブV6、V7、V8、V10、V11、V13、V14を閉状態とする。これにより、チャンバー3内のシールドガス中から、第1のガス成分として、酸素を第1の精製塔31で除去できる。
同様に、第1のガス成分が上記の(X2)である場合、
図3に示す濃度調整ユニット30において、第2の精製塔32を使用する。具体的には、電磁バルブV6、V7、V8、V12、V15を開状態とし、電磁バルブV4、V5、V9、V10、V11、V13、V14を閉状態とする。これにより、チャンバー3内のシールドガス中から、第1のガス成分として、水分を第2の精製塔32で除去できる。
第1のガス成分が上記の(X3)である場合、
図3に示す濃度調整ユニット30において、第3の精製塔33を使用する。具体的には、電磁バルブV6、V9、V10、V11、V15を開状態とし、電磁バルブV4、V5、V7、V8、V12、V13、V14を閉状態とする。これにより、チャンバー3内のシールドガス中から、第1のガス成分として、窒素を第3の精製塔33で除去できる。
第1のガス成分が上記の(X4)である場合、
図3に示す濃度調整ユニット30において、第1の精製塔31と第2の精製塔32を組み合わせて使用する。具体的には、電磁バルブV4、V5、V7、V8、V12、V15を開状態とし、電磁バルブV6、V9、V10、V11、V13、V14を閉状態とする。これにより、チャンバー3内のシールドガス中から、第1のガス成分として、酸素、水分を第1の精製塔31、第2の精製塔32でそれぞれ除去できる。
第1のガス成分が上記の(X5)である場合、
図3に示す濃度調整ユニット30において、第2の精製塔32と第3の精製塔33を組み合わせて使用する。具体的には、電磁バルブV6、V7、V8、V10、V11、V15を開状態とし、電磁バルブV4、V5、V9、V12、V13、V14を閉状態とする。これにより、チャンバー3内のシールドガス中から、第1のガス成分として、水分、窒素を第2の精製塔32、第3の精製塔33でそれぞれ除去できる。
第1のガス成分が上記の(X6)である場合、
図3に示す濃度調整ユニット30において、第1の精製塔31と第3の精製塔33を組み合わせて使用する。具体的には、電磁バルブV4、V5、V9、V10、V11、V15を開状態とし、電磁バルブV6、V7、V8、V12、V13、V14を閉状態とする。これにより、チャンバー3内のシールドガス中から、第1のガス成分として、窒素、酸素を第1の精製塔31、第3の精製塔33でそれぞれ除去できる。
第1のガス成分が上記の(X7)である場合、
図3に示す濃度調整ユニット30において、第1の精製塔31と第2の精製塔32と第3の精製塔33を組み合わせて使用する。具体的には、電磁バルブV4、V5、V7、V8、V10、V11、V13、V14を開状態とし、電磁バルブV6、V9、V12、V15を閉状態とする。これにより、チャンバー3内のシールドガス中から、第1のガス成分として、酸素、水分、窒素を第1の精製塔31、第2の精製塔32、第3の精製塔33でそれぞれ除去できる。
【0083】
本積層造形方法に係るステップ(b)では、チャンバー3内に、水素、酸素、一酸化炭素、二酸化炭素、アンモニアからなる群から選ばれる一つ以上のガス成分をチャンバー3内に供給できる。
本積層造形方法に係るステップ(b)では、CPU37によって、粉体材料Mの材質等の情報(外部シグナル)に基づいて、第2のガス成分の供給の有無を決定し、第2のガス成分のガス種を決定する。ステップ(b)に際しては、例えば、粉体材料Mの材質を考慮し、第2のガス成分を供給することで積層造形物Xの品質を高めることができると期待できるときに、第2のガス成分を第2の供給ラインL2に供給することを決定し、粉体材料Mに応じて第2のガス成分のガス種を決定する。
【0084】
第2のガス成分の供給の実行の決定、及び、第2のガス成分の種類は、粉体材料Mの材質に応じて決定できる。また、粉体材料Mに関する情報に加えて、粉体材料Mに応じて決定された第1のガス成分のガス種、第1の濃度計C1、第2の濃度計C2によって測定されたチャンバー3内の酸素濃度、水素濃度に応じて決定することも可能である。
例えば、粉体材料Mがアルミニウム合金である場合、金属造形物の断面の空孔が低減され、金属造形物の品質のさらなる向上が可能となることから、第2のガス成分として酸素をチャンバー3内に供給することが好ましい。粉体材料Mがアルミニウム合金である場合、CPU37によって、第2のガス成分の供給が決定され、電磁バルブV16を開状態となる。加えて、CPU37によって第2のガス成分のガス種が酸素に決定され、供給源36として、酸素の供給源が選択される。
【0085】
粉体材料Mがアルミニウム合金である場合のように、第2のガス成分として酸素をチャンバー3内に供給する場合、第4の精製塔34を使用することが好ましい。例えば、第1の濃度計C1から送信されるチャンバー3内の酸素濃度が最適化のための目標濃度より低い場合には、第1の精製塔31を使用せず、かつ、第4の精製塔34を使用できる。この場合、バルブV6、V13、V14を開状態とし、バルブV4、V5、V15を閉状態とする。これにより、チャンバー3内のシールドガスの水分濃度のみが低下し、必要量の酸素を供給源36から第3の供給ラインL12を介して第2の供給ラインL2に供給でき、チャンバー3内の酸素濃度を一定に保持できる。
このように、本積層造形方法に係るステップ(b)では、濃度調整ユニット30の精製部で第1のガス成分が除去されたガスに第2のガス成分を必要に応じて供給できる。そのため、チャンバー3内の第2のガス成分の濃度を一定に保持することができ、粉体材料Mに応じて積層造形物の品質をさらに高めることが可能となる。
【0086】
例えば、粉体材料Mがアルミニウム合金である場合のように、第2のガス成分として酸素をチャンバー3内に供給する場合、ステップ(c)では、第1の精製塔31、第2の精製塔32を使用し、チャンバー3内の酸素、水分をともに除去し、次いで、ステップ(a)、ステップ(b)を同時に行うことも想定される。この場合、ステップ(a)では、チャンバー3内の水分濃度が上昇することも想定されるため、ステップ(b)の実施により第2の精製塔32で水分をシールドガスから除去する。また、粉体材料Mがアルミニウム合金である場合、金属造形物の断面の空孔が低減され、金属造形物の品質のさらなる向上が可能となることから、ステップ(b)では供給源36から酸素をチャンバー3内に供給する。
他にも、粉体材料Mがステンレス合金、ニッケル合金である場合、積層造形物Xの機械的特性が優れることから、ステップ(c)では酸素、水分を第1の精製塔31、第2の精製塔32で除去しながら、チャンバー3からパージし、ステップ(b)では、第1のガス成分として、酸素、水分の2種のガス成分の組み合わせを第1のガス成分として除去することが好ましい。
また、粉体材料Mがチタン合金である場合、積層造形物Xの空孔が低減し、機械的特性が優れることから、ステップ(c)では酸素、水分及び窒素の3種のガス成分を第1の精製塔31、第2の精製塔32、第3の精製塔33で除去しながら、これらの3種のガス成分をチャンバー3からパージし、ステップ(b)では、これらの3種のガス成分を第1のガス成分として除去することが好ましい。
このように本実施形態に係る積層造形システム70又は積層造形方法によれば、粉体材料Mに応じて、ステップ(b)における第1のガス成分、第2のガス成分の選択により、金属造形物の品質をさらに高めることができる。
【0087】
本積層造形方法に係るステップ(b)においては、
図1に示すフィルターユニット50によって、シールドガス中のフューム、スパッタ等の固体の不純物をフィルター51で除去してもよい。特に、ステップ(a)では、造形層の造形及び積層の際にフューム、スパッタ等の固体の不純物が生ずることがある。そのため、これらのフューム、スパッタ等の固体の不純物を積層造形物Xの品質をさらに高めることができる。
【0088】
(作用効果)
以上説明した本積層造形方法にあっては、ステップ(b)を有する。ステップ(b)では、シールドガス中の不純物となる第1のガス成分を、粉体材料に応じて除去する。そのため、粉体材料の材質等に応じてシールドガス中の不純物となるガス成分を第1の精製塔、第2の精製塔、第3の精製塔、第4の精製塔のうちから選択して除去できる。よって、チャンバー内のシールドガス中の金属造形物の製造に不要なガス成分、金属造形物の機械的特性の低下の原因となるガス成分の濃度を粉体材料に応じて低減でき、金属造形物の品質を粉体材料に応じてさらに高めることができる。
加えて、本積層造形方法に係るステップ(b)では、粉体材料に応じて選択される第2のガス成分を必要に応じてチャンバー内に供給する。そのため、粉体材料の材質等に応じて積層造形物Xの品質の向上に寄与すると期待されるガス成分をチャンバー内に供給し、その濃度を一定に保持できる。その結果、チャンバー内のシールドガス中の第2のガス成分の濃度が粉体材料に応じて最適化され、金属造形物の品質を粉体材料に応じてさらに高めることができる。
【0089】
本積層造形方法によればチャンバー3内のシールドガスに一部を取り出し、濃度調整ユニットによってシールドガスの濃度を調整しながら、かつ、ヒューム、スパッタ等の固体の不純物を除去できる。その結果、チャンバー3内のシールドガス中のガス成分の組成を金属造形物の品質の向上のために最適化された濃度(目標値)に、きわめて短時間で低減でき、必要に応じてチャンバー3内の第2のガス成分の濃度を目標値に調整し、目標値を安定的に維持できる。
例えば、本積層造形方法において、第1のガス成分として、酸素、水分をチャンバー内のシールドガスから除去することで、チャンバー3内のシールドガス中の酸素濃度、水分濃度をきわめて低濃度に短時間で調整できる。そして、必要に応じて酸素を第2のガス成分として供給源36から第3の供給ラインL12、第2の供給ラインL2を介してチャンバー3内に供給することで、酸素濃度を最適化された濃度に調整し、最適化した成分組成を維持できる。
【0090】
本積層造形方法によれば、チャンバー3内にシールドガスを充填する際に、シールドガスの一部を第1の供給ラインによって取り出し、濃度調整ユニットの精製部で酸素を除去したあとに、第2の供給ラインL2によってチャンバー3内に再供給しながら、酸素をチャンバー内からパージできる。その結果、シールドガスの供給のみによってチャンバー内の酸素のパージを行う場合と比較して、きわめて短時間で酸素濃度を低減でき、かつ、シールドガスの消費量を削減できる。したがって、従来の積層造形方法より、短時間で効率よく、品質がさらに向上した積層造形物を製造できる。
【0091】
本積層造形方法に係るステップ(c)では、チャンバー3内のシールドガスの一部を第1の供給ラインL1によって取り出し、当該シールドガスから酸素を第1の精製塔31によって除去できる。次いで、第2の供給ラインL2を介してチャンバー3内に再供給できる。このように、チャンバー3内と第1の精製塔31内との間でチャンバー3内のシールドガスの一部を循環させることができるため、短時間でチャンバー3内のシールドガス中の酸素濃度を低減できる。
加えて、チャンバー3内と第1の精製塔31内との間でチャンバー3内のシールドガスの一部を循環させる間は、シールドガス供給ラインL4によりシールドガスを新たにチャンバー3内に供給しなくてもよい。そのため、本実施形態によれば、相対的に少量のシールドガスの供給量で、従来大量のシールドガスをチャンバー3内に供給しなければ達成できなかったような低水準にまで酸素濃度を低減できる。また、シールドガスの供給量が大幅に減ることから、チャンバー3内の酸素濃度をきわめて短時間で低下させることができる。
【0092】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されない。また、本発明は特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、構成の付加、省略、置換及びその他の変更が加えられてよい。
例えば、上述の実施形態例においては精製塔の数が4つであるが、本発明は精製塔の数が4つである形態に限定されない。本実施形態において、精製塔の数は除去対象となる第1のガス成分の数に応じて変更可能である。
また、上述の実施形態例においては、精製部が、酸素、水分及び窒素からなる群から選ばれる少なくとも一つ以上のガス成分を除去する形態であるが、除去対象となる第1のガス成分は、これらの酸素、水分、窒素に加えて、その他のガス成分をさらに含んでもよい。そのため、他の実施形態例においては、粉体材料Mに応じて精製塔内の吸着剤、精製塔の数を変更可能である。
また、上述の実施形態例においては、濃度調整ユニットの制御部を、濃度調整ユニットの精製部及び供給部とは別個の構成として説明したが、制御部は、精製部及び供給部の各構成に含まれてもよい。また、上述の実施形態例においては、制御部が濃度調整ユニットの構成として開示されているが、他の実施形態例においては、制御部を積層造形ユニットの構成としてもよく、積層造形ユニット及び濃度調整ユニットとは別個の積層造形システムの構成としてもよい。
【0093】
<実施例>
以下、実施例によって本発明を具体的に説明する。ただし、本発明は以下の記載によって限定されない。
【0094】
[実施例1]
図1に示す積層造形システム70において、ステップ(c)を2時間行った。具体的には、電磁バルブV3を開状態とし、電磁バルブV1、V2を閉状態とし、図示略のパージラインを開放することで、チャンバー3内のガスをシールドガスに置換した。ステップ(c)の開始後2時間が経過したとき、バルブV1、V2を開状態とし、電磁バルブV3を閉状態とし、ステップ(c)の実施を終了し、図示略のパージラインによるシールドガスの供給を停止した。次いで、ステップ(b)の実施を開始した。ステップ(b)では、
図3に示す電磁バルブV4、V5、V9、V12、V15を開状態とし、電磁バルブV6、V7、V8、V10、V11、V13、V14を閉状態とした。これにより、チャンバー3内のシールドガス中から、第1のガス成分として、酸素を第1の精製塔31で除去した。その後、ステップ(b)の実施による効果を検証するために、チャンバー3内の酸素濃度の測定値の時間経過を観察した。
【0095】
[比較例1]
ステップ(c)の開始後2時間が経過したとき、ステップ(c)を終了せず、図示略のパージラインを開放し続けた以外は、実施例1と同様にしてチャンバー3内の酸素濃度の測定値の時間経過を観察した。
【0096】
[実施例2]
ステップ(c)の開始後2時間が経過したとき、電磁バルブV6、V7、V8、V12、V15を開状態とし、電磁バルブV4、V5、V9、V10、V11、V13、V14を閉状態とし、第2の精製塔32で水分を除去した以外は、実施例1と同様にステップ(c)の実施を終了し、図示略のパージラインによるシールドガスの供給を停止し、ステップ(b)の実施を開始した。その後、ステップ(b)の実施による効果を検証するために、チャンバー3内の水分濃度の測定値の時間経過を観察した。
【0097】
[比較例2]
ステップ(c)の開始後2時間が経過したとき、ステップ(c)を終了せず、図示略のパージラインを開放し続けた以外は、実施例2と同様にしてチャンバー3内の水分濃度の測定値の時間経過を観察した。
【0098】
[実施例3]
積層造形システム70において、粉体材料としてチタン合金を使用した。実施例3では、(X7):酸素、水分、窒素の三種類のガス成分の組み合わせを第1のガス成分としてステップ(b)で除去することをCPU37によって決定した。また、供給源36で第2のガス成分の供給を実行しないことをCPU37によって決定した。
まず、電磁バルブV3を開状態とし、電磁バルブV1、V2を閉状態とし、図示略のパージラインを開放することで、チャンバー3内のガスをシールドガスに置換し、ステップ(c)を2時間行った。ステップ(c)の開始後2時間が経過したとき、電磁バルブV4、V5、V7、V8、V10、V11、V15を開状態とし、電磁バルブV6、V9、V12、V13、V14、V16を閉状態とし、図示略のパージラインによるシールドガスの供給を停止した。その後、チャンバー3内のシールドガス中から、第1のガス成分として、酸素、水分、窒素を第1の精製塔31、第2の精製塔32、第3の精製塔33で除去するステップ(b)を実施しながら、ステップ(a)を実施して、ステンレス合金製の積層造形物を製造した。
【0099】
[比較例3]
ステップ(c)の開始後2時間が経過したとき、ステップ(b)を実施せずに、ステップ(a)を実施した以外は、実施例3と同様にしてステンレス合金製の積層造形物を製造した。
【0100】
[実施例4]
積層造形システム70において、粉体材料としてアルミ合金を使用した。実施例4ではX(2):水分の一種類のガス成分を第1のガス成分としてステップ(b)で除去することをCPU37によって決定した。また、供給源36で酸素の供給をするようCPU37によって決定した。
まず、電磁バルブV3を開状態とし、電磁バルブV1、V2を閉状態とし、図示略のパージラインを開放することで、チャンバー3内のガスをシールドガスに置換し、ステップ(c)を2時間行った。ステップ(c)の開始後2時間が経過したとき、電磁バルブV6、V7、V8、V12、V13、V14、V16を開状態とし、電磁バルブV4、V5、V9、V10、V11、V15を閉状態とし、図示略のパージラインによるシールドガスの供給を停止した。その後、チャンバー3内のシールドガス中から、第1のガス成分として、水分のみを第2の精製塔32、第4の精製塔34で除去し、供給源36から第2のガス成分として酸素をチャンバー3内に供給するステップ(b)を実施しながら、ステップ(a)を実施して、ステンレス合金製の積層造形物を製造した。
【0101】
[比較例4]
ステップ(c)の開始後2時間が経過したとき、ステップ(b)を実施せずに、ステップ(a)を実施した以外は、実施例4と同様にしてステンレス合金製の積層造形物を製造した。
【0102】
図4は、実施例1におけるチャンバー内の酸素濃度の時間経過と比較例1におけるチャンバー内の酸素濃度の時間経過を比較して示すグラフである。
図4に示すように、ステップ(c)の開始後2時間が経過したとき、ステップ(b)の実施を開始した実施例1では、チャンバー3内の酸素濃度が比較例1と比較して急激に低下した。この結果から、積層造形システム70によれば、チャンバー3内の酸素濃度を低水準(1ppm程度)にきわめて短時間で低減できることを確認した。このように実施例1では、パージに使用するシールドガスの使用量が相対的に少なくても、チャンバー3内の酸素濃度を低水準まで低減できた。そのため、酸素原子の積層造形物の混入が少なく、機械的特性に優れ、品質のよい積層造形物を短時間で効率よく、低コストで製造できると考えられる。
【0103】
図5は、実施例2におけるチャンバー内の水分濃度の時間経過と比較例2におけるチャンバー内の水分濃度を比較して示すグラフである。
図5に示すように、ステップ(c)の開始後2時間が経過したとき、ステップ(b)の実施を開始した実施例2では、チャンバー3内の水分濃度が比較例2と比較して急激に低下した。この結果から、積層造形システム70によれば、チャンバー3内の水分濃度を低水準(5ppm程度)にきわめて短時間で低減できることを確認した。このように実施例2では、パージに使用するシールドガスの使用量が相対的に少なくても、チャンバー3内の水分濃度を低水準まで低減できた。そのため、水素原子の積層造形物の混入が少なく、機械的特性に優れ、品質のよい積層造形物を短時間で効率よく、低コストで製造できると考えられる。
【0104】
図6は、実施例3のチタン合金製の金属造形物の断面の拡大写真と比較例3のチタン合金製の金属造形物の断面の拡大写真を比較して示す図である。実施例3の積層造形物では空孔率が0.00%であったのに対し、比較例3の積層造形物では空孔率が0.20%であった。このように、粉体材料Mの材質に応じてチャンバー3内のガス成分の組成を調整することで、積層造形物の空孔を減らし、品質をさらに高めることができた。
【0105】
図7は、実施例4のアルミニウム合金製の金属造形物の断面の拡大写真と比較例4のアルミニウム合金製の金属造形物の断面の拡大写真を比較して示す図である実施例4の積層造形物では空孔率が0.12%であったのに対し、比較例4の積層造形物では空孔率が0.20%であった。このように、粉体材料Mの材質に応じてチャンバー3内のガス成分の組成を調整することで、積層造形物の空孔を減らし、品質をさらに高めることができた。
【解決手段】シールドガスの存在下で、エネルギー線を用いて粉体材料に熱を供給して層を造形し、造形した層を順次積層する積層造形ユニット10と、シールドガス中のガス成分の濃度を調整する濃度調整ユニット30を備え、積層造形ユニット10は、粉体材料に照射するエネルギー線の照射源を含む照射部と、シールドガスが充填されるチャンバー、及び、層の造形及び積層が行われる造形ステージを含む造形部を有し、濃度調整ユニット30は、シールドガス中の不純物となる第1のガス成分を、粉体材料に応じて除去する精製部と、粉体材料に応じて選択される第2のガス成分を必要に応じてチャンバー内に供給する供給部を有する、積層造形システム70。