(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720450
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物、その調製方法及びその使用
(51)【国際特許分類】
A61K 31/337 20060101AFI20200629BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20200629BHJP
A61K 47/18 20060101ALI20200629BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20200629BHJP
A61K 47/20 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
A61K31/337
A61K9/14
A61K47/18
A61P35/00
A61K47/20
【請求項の数】19
【全頁数】24
(21)【出願番号】特願2017-541854(P2017-541854)
(86)(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公表番号】特表2018-513105(P2018-513105A)
(43)【公表日】2018年5月24日
(86)【国際出願番号】CN2016077521
(87)【国際公開番号】WO2016155595
(87)【国際公開日】20161006
【審査請求日】2019年2月14日
(31)【優先権主張番号】201510157393.1
(32)【優先日】2015年4月3日
(33)【優先権主張国】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】517273294
【氏名又は名称】シチュアン ケルン ファーマシューティカル リサーチ インスティテュート カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】スー, ツェンシン
(72)【発明者】
【氏名】ヤン, リカイ
(72)【発明者】
【氏名】ツァオ, ドン
(72)【発明者】
【氏名】ツォウ, ジン
(72)【発明者】
【氏名】シャン, フォンイン
(72)【発明者】
【氏名】ワン, リチュン
(72)【発明者】
【氏名】ワン, ジンイ
【審査官】
六笠 紀子
(56)【参考文献】
【文献】
中国特許出願公開第101658516(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第101361731(CN,A)
【文献】
中国特許出願公開第101357126(CN,A)
【文献】
特表2013−501789(JP,A)
【文献】
特表2009−512682(JP,A)
【文献】
特表2009−506126(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00−33/44
A61K 9/00−9/72
A61K 47/00−47/69
WPI
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ドセタキセル、
アルブミン、及び
アミノ酸(複数可)を含み、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、20:1〜1:1であり、前記アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、1:1〜20:1であり、前記アミノ酸(複数可)が、アルギニン、リシン、プロリン、システイン、及びグルタミン酸のうちの少なくとも1つを含み、好ましくはアルギニンであることを特徴とする、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物。
【請求項2】
前記アミノ酸(複数可)が、医薬組成物における唯一の安定剤であることを特徴とする、請求項1に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物。
【請求項3】
前記アミノ酸(複数可)が、医薬組成物における7−エピ−ドセタキセル不純物の形成を阻害することを特徴とする、請求項1又は2に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物。
【請求項4】
メルカプトエタノール、グルタチオン、及びアセチルシステインのうちの1種又は複数を含むタンパク質構造アンフォールディング剤を任意選択で含み、アルブミンの前記タンパク質構造アンフォールディング剤に対する重量比が、100以下:1であり、すなわち100:1〜>0:1、好ましくは50:1〜>0:1であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物。
【請求項5】
前記医薬組成物が少なくとも1mg/mlの濃度でドセタキセルを含むナノ粒子懸濁液であり、懸濁液中の前記ナノ粒子が200nm以下の粒径を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物。
【請求項6】
前記アルブミンが、1種又は複数の組換えアルブミン及び血清アルブミン(例えば、非ヒト動物血清アルブミン及びヒト血清アルブミン)を含み、好ましくは血清アルブミンであり、より好ましくはヒト血清アルブミンであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)アミノ酸(複数可)を含有する水溶液を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンとアミノ酸(複数可)の溶液を得るステップと、
3)タンパク質構造アンフォールディング剤を、ステップ2)で得られたアルブミンとアミノ酸(複数可)の前記溶液に添加して、インキュベーション反応を実施するステップであって、前記タンパク質構造アンフォールディング剤が、メルカプトエタノール、グルタチオン、及びアセチルシステインのうちの1種又は複数を含むステップと、
4)ステップ1)で得られた前記有機相を、ステップ3)の前記インキュベーション反応後に得られた前記溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた前記溶液を限外濾過によって濃縮して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップと
を含み、
前記安定性の増強が、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物におけるアミノ酸(複数可)による7−エピ−ドセタキセル不純物の形成の阻害によって達成され、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、20:1〜1:1であり、前記アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、1:1〜20:1であり、アルブミンの前記タンパク質構造アンフォールディング剤に対する重量比が、100以下:1であり、すなわち100:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜>0:1であり、前記アミノ酸(複数可)が、アルギニン、リシン、プロリン、システイン、及びグルタミン酸のうちの少なくとも1つを含み、好ましくはアルギニンであることを特徴とする方法。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、タンパク質構造アンフォールディング剤が含まれない場合、前記方法が、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)アミノ酸(複数可)を含有する水溶液を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンとアミノ酸(複数可)の溶液を得るステップと、
3)ステップ2)で得られたアルブミンとアミノ酸(複数可)の前記溶液をインキュベーション反応に供するステップと、
4)ステップ1)で得られた前記有機相を、ステップ3)の前記インキュベーション反応後に得られた前記溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた前記溶液を限外濾過によって濃縮して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップと
を含み、
前記安定性の増強が、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物におけるアミノ酸(複数可)による7−エピ−ドセタキセル不純物の形成の阻害によって達成され、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、20:1〜1:1であり、前記アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、1:1〜20:1であり、前記アミノ酸(複数可)が、アルギニン、リシン、プロリン、システイン、及びグルタミン酸のうちの少なくとも1つを含み、好ましくはアルギニンであることを特徴とする方法。
【請求項9】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)注射用の水を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンの溶液を得るステップと、
3)タンパク質構造アンフォールディング剤を、ステップ2)で得られたアルブミンの前記溶液に添加して、インキュベーション反応を実施するステップであって、前記タンパク質構造アンフォールディング剤が、メルカプトエタノール、グルタチオン、及びアセチルシステインのうちの1種又は複数を含むステップと、
4)ステップ1)で得られた前記有機相を、ステップ3)の前記インキュベーション反応後に得られた前記溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた前記溶液を限外濾過によって濃縮して、アミノ酸(複数可)を前記濃縮物に添加して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップであり、前記アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、1:1〜20:1であるステップと
を含み、
前記安定性の増強が、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物におけるアミノ酸(複数可)による7−エピ−ドセタキセル不純物の形成の阻害によって達成され、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、20:1〜1:1であり、アルブミンの前記タンパク質構造アンフォールディング剤に対する重量比が、100以下:1であり、すなわち100:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜>0:1であり、前記アミノ酸(複数可)が、アルギニン、リシン、プロリン、システイン、及びグルタミン酸のうちの少なくとも1つを含み、好ましくはアルギニンであることを特徴とする方法。
【請求項10】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、前記方法が、タンパク質構造アンフォールディング剤が含まれない場合、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)注射用の水を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンの溶液を得るステップと、
3)ステップ2)で得られたアルブミンの前記溶液をインキュベーション反応に供するステップと、
4)ステップ1)で得られた前記有機相を、ステップ3)の前記インキュベーション反応後に得られた前記溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた前記溶液を限外濾過によって濃縮して、アミノ酸(複数可)を前記濃縮物に添加して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップであって、前記アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、1:1〜20:1であるステップと
を含み、
前記安定性の増強が、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物におけるアミノ酸(複数可)による7−エピ−ドセタキセル不純物の形成の阻害によって達成され、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、20:1〜1:1であり、前記アミノ酸(複数可)が、アルギニン、リシン、プロリン、システイン、及びグルタミン酸のうちの少なくとも1つを含み、好ましくはアルギニンであることを特徴とする方法。
【請求項11】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)注射用の水を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンの溶液を得るステップと、
3)アミノ酸(複数可)及びタンパク質構造アンフォールディング剤を、ステップ2)で得られたアルブミンの前記溶液に添加して、インキュベーション反応を実施するステップであって、前記タンパク質構造アンフォールディング剤が、メルカプトエタノール、グルタチオン、及びアセチルシステインのうちの1種又は複数を含むステップと、
4)ステップ1)で得られた前記有機相を、ステップ3)の前記インキュベーション反応後に得られた前記溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた前記溶液を限外濾過によって濃縮して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップと
を含み、
前記安定性の増強が、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物におけるアミノ酸(複数可)による7−エピ−ドセタキセル不純物の形成の阻害によって達成され、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、20:1〜1:1であり、前記アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、1:1〜20:1であり、アルブミンの前記タンパク質構造アンフォールディング剤に対する重量比が、100以下:1であり、すなわち100:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜>0:1であり、前記アミノ酸(複数可)が、アルギニン、リシン、プロリン、システイン、及びグルタミン酸のうちの少なくとも1つを含み、好ましくはアルギニンであることを特徴とする方法。
【請求項12】
請求項1〜6のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、タンパク質構造アンフォールディング剤が含まれない場合、前記方法が、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)注射用の水を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンの溶液を得て、次いでアミノ酸(複数可)を添加するステップと、
3)ステップ2)で得られたアルブミンの前記溶液をインキュベーション反応に供するステップと、
4)ステップ1)で得られた前記有機相を、ステップ3)の前記インキュベーション反応後に得られた前記溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた前記溶液を限外濾過によって濃縮して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップと
を含み、
前記安定性の増強が、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物におけるアミノ酸(複数可)による7−エピ−ドセタキセル不純物の形成の阻害によって達成され、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、20:1〜1:1であり、前記アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、1:1〜20:1であり、前記アミノ酸(複数可)が、アルギニン、リシン、プロリン、システイン、及びグルタミン酸のうちの少なくとも1つを含み、好ましくはアルギニンであることを特徴とする方法。
【請求項13】
薬学的に許容される担体及び/又は佐剤材料をさらに含むことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を含む製剤。
【請求項14】
注射用溶液製剤、注射用懸濁製剤、注射用乳濁製剤、又は凍結乾燥粉末製剤であり、好ましくは凍結乾燥粉末製剤であることを特徴とする、請求項13に記載の製剤。
【請求項15】
異常な細胞増殖性疾患又は障害の処置又は予防のための医薬品の製造における、請求項1〜6のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物又は請求項13若しくは14に記載の製剤の使用。
【請求項16】
がんが、前立腺がん、胃がん、結腸がん、乳がん、頭頸部がん、膵臓がん、肺がん及び卵巣がんを含むことを特徴とする、前記がんの処置又は予防のための医薬の製造における、請求項1〜6のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物又は請求項13若しくは14に記載の製剤の使用。
【請求項17】
ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物における7−エピ−ドセタキセル不純物の形成を阻害するためのアミノ酸(複数可)の使用であって、前記アミノ酸(複数可)が、アルギニン、リシン、プロリン、システイン、及びグルタミン酸のうちの少なくとも1つを含み、好ましくはアルギニンである、使用。
【請求項18】
ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物の安定性を改善するためのアミノ酸(複数可)の使用であって、前記安定性がドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物におけるアミノ酸(複数可)による7−エピ−ドセタキセル不純物の形成の阻害によって改善され、前記アミノ酸(複数可)が、アルギニン、リシン、プロリン、システイン、及びグルタミン酸のうちの少なくとも1つを含み、好ましくはアルギニンであることを特徴とする、使用。
【請求項19】
前記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物が、請求項1〜6のいずれか一項に記載のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物である、請求項17又18に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、ドセタキセル(ドセタキソール)の医薬組成物の分野に関し、詳細には、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物、その調製方法及びその使用に関し、特に、安定性が改善されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物、その調製方法及びその使用に関する。
【0002】
ドセタキセルは、タキサン薬物に属する。ドセタキセルの主な作用機序は、有糸分裂を妨害し、微小管の集合を促進し、微小管の脱集合を妨げて、腫瘍細胞の分化を阻害し、最終的に腫瘍細胞を死滅させることを伴う。現在、世界中の多数の国で、ドセタキセルは、種々の適応症、例えば乳がん、非小細胞肺がん、前立腺がんなどの処置に対して承認されており、これらのがんの処置に対して、最も一般的に使用されるか又は標準の療法を構成している。さらに、続く臨床研究では、ドセタキセルは、胃がん、頭頸部腫瘍、食道がん、卵巣がんなどの処置のためにも広範に調査されている。ドセタキセルを用いるこれらの適応症の処置は、欧州及び米国で後に承認されることが期待されている。
【0003】
ドセタキセルは、水溶性に乏しい。現在、市販されているドセタキセルの製剤は、濃縮形態で注入するための液体剤形であり、通常推奨される投薬レジメンは、3週間に1回、1時間以内に75mg/m
2の静脈内注入である。ドセタキセル注射剤には、ドセタキセルを、13%のエタノールを含有する希釈剤と共に、溶媒であるツイーン80(TWEEN−80)に溶解させることによって形成した薬物濃縮物が含まれる。しかし、ドセタキセル注射剤が静脈内に注射される場合、呼吸困難、低血圧、血管浮腫、風疹、ショックなどのアレルギー反応を引き起こす傾向にある、ツイーン80の溶血特性により、臨床投与中は、抗アレルギー薬の事前適用が必要である。さらに、ツイーン80が高粘度であることも、臨床適用において、多大な不便をもたらす。
【0004】
ドセタキセル注射剤の欠点、例えば毒性副作用などを克服するために、中国特許出願公開第103830181号には、シクロデキストリンを用いたドセタキセルの包接体を含む凍結乾燥リポソームであって、シクロデキストリンを用いた包接によってドセタキセルの安定性が改善され、標的性の改善及び毒性副作用の低減がリポソーム粒子系を用いて達成される凍結乾燥リポソームが開示されている。しかし、シクロデキストリン自体の毒性が、その適用を制限する。中国特許出願公開第101773465号には、アミノ酸によって安定化された重合ミセル系、及びドセタキセルを含む重合ミセルが開発されていることが開示されている。アミノ酸を用いる重合ミセルの外観は5日超の間安定でありうるが、アミノ酸を用いない重合ミセルは30分間しか安定でありえないことが示されている。しかし、身体に注射された後の重合ミセルに用いられる高分子重合体(例えば、mPEG−PLAなど)の分解には非常に時間がかかり、1年超続く場合さえある。このような潜在的な安全性の問題を鑑みて、ドセタキセルの重合ミセル製品は、米国のFDAによって市場取引を承認されていない。このように、標的性の改善及び毒性副作用の低減はこれらの粒子系を用いて達成されるが、これらの粒子系の適用はその欠点によって制限されている。
【0005】
中国特許出願公開第103054798号には、クエン酸(又はその塩)がドセタキセルとアルブミンの組成物に添加され、その結果、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の溶液の物理的安定性が増大し、沈殿又は沈降現象が復元又は水戻し後少なくとも8時間観察されない、ドセタキセルアルブミンナノ粒子(ABI−008)が開示されている。
【0006】
しかし、ドセタキセルの安定性を改善するためには、溶液中の粒子の物理的安定性を制御することに加えて、ドセタキセルの化学分解を低減させることがより重要である。現在、ドセタキセルの化学分解を低減させることに焦点を置いた研究は、先行技術において非常に限られており、このような分解を改善する方法はまだ利用可能ではない。
【0007】
ドセタキセル自体は、種々の条件下で、様々な分解経路を経る場合があり、それらの分解経路から生じた分解産物は、ドセタキセルの活性及び/又は毒性に対応する変化をもたらし、ドセタキセルの活性及び/又は毒性に顕著な影響を与える場合さえある。ドセタキセルの分解に影響を与える主要な因子として、温度、酸性及び塩基性溶媒、酸化剤、還元剤並びに光などが挙げられる。
【0008】
塩基性、中性又は強酸性媒体において、ドセタキセルの主要な分解経路の1つは、7位水酸基のエピマー化であり、逆アルドール反応を介して7−エピ−ドセタキセルを生じる。
【0009】
Borniqueら(Drug Metabolism and Disposition、第30巻、第11号、1149〜1152頁、2002)は、組換えヒトチトクロームP4501B1(hCYP1B1)を用いて、ドセタキセルと7−エピ−ドセタキセルの間の相互作用を調査している。hCYP1B1は、ヒト腫瘍細胞において共通のチトクロームであり、化学療法薬(ドセタキセルを含む)の薬物耐性に主に関連する。7−エピ−ドセタキセルによってhCYP1B1の活性を7倍超増大させうることがインビトロ試験によって示され、したがって、ドセタキセルの分解産物である7−エピ−ドセタキセルが、ドセタキセルの活性を低減させることが確認される。
【0010】
中国特許出願公開第101415416号には、ドセタキセルとポリソルベート80の医薬組成物において、ドセタキセル分解阻害剤としてpKa値2.5〜4.5を有する有機酸を加えることによって、7−エピ−ドセタキセルの生成を阻害することが開示されている。
【0011】
しかし、本発明の発明者らは、ドセタキセルとアルブミンの組成物に、薬剤、例えばpKa値2.5〜4.5を有する酒石酸、クエン酸、アスコルビン酸又は別の有機酸などを添加しても、7−エピ−ドセタキセルの生成を有効に阻害することはできず、それどころか、増大させる場合もあることを、実験を通して実証した。このことは、上記薬剤によって組成物の化学的安定性が低下し、最終製剤の安全性に影響を与えることを示す。
【0012】
中国特許出願公開第103054798号には、安定剤、例えばクエン酸(又はその塩)などを、ドセタキセルとアルブミンの組成物に添加することが開示されている。安定剤は、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の溶液の物理的安定性を増強するが、7−エピ−ドセタキセルの生成についてのその阻害効果については言及されていない。
【0013】
従来の安定剤、例えばクエン酸(又はその塩)などは、7−エピ−ドセタキセルの生成を常に有効に阻害しうる訳ではなく、その生成が加速される場合もあることが、実験を通して実証されている。保存中、生成された7−エピ−ドセタキセルの量は2.0%をはるかに超え、その結果、臨床薬における潜在的な安全性の問題を生じる。
【0014】
7−エピ−ドセタキセルの生成を阻害する方法の探索における課題の1つは、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の保存中に、アルブミンのポリペプチド構造に多量の水素結合が存在することが、ドセタキセルの安定性に対して好ましくなく、逆アルドール反応を加速させ、その結果、7位水酸基のエピマー化が生じ、7−エピ−ドセタキセル不純物の形成及び恒常的な増加をもたらすということである。
【0015】
このように、ドセタキセルの医薬組成物において、7−エピ−ドセタキセルの生成を阻害する方法を見出すことは、当技術分野で解決されるべき緊急の課題である。
【発明の概要】
【0016】
先行技術の欠点に鑑みて、本発明の態様によれば、安定性の増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物であって、
ドセタキセル、
アルブミン、及び
アミノ酸(複数可)を含み、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、50以下であり、すなわち50:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜1:1であり、より好ましくは20:1〜1:1である、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物が提供される。
【0017】
本発明の別の態様によれば、アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、0.5以上であり、すなわち≧0.5:1であり、好ましくは0.5:1〜80:1であり、より好ましくは1以上であり、すなわち≧1:1であり、好ましくは1:1〜20:1である、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物が提供される。
【0018】
本発明の別の態様によれば、タンパク質構造アンフォールディング剤をさらに含む、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物が提供される。
【0019】
本発明の別の態様によれば、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法が提供される。
【0020】
本発明の別の態様によれば、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を含む製剤であって、薬学的に許容される担体及び/又は佐剤材料をさらに含む、製剤が提供される。
【0021】
本発明の別の態様によれば、がんの処置のための医薬の製造における、上記医薬組成物又は上記製剤の使用が提供される。
【0022】
本発明の別の態様によれば、がんを処置する方法であって、有効量の上記医薬組成物又は上記製剤をそれを必要とする対象に投与することを含む方法が提供される。
【0023】
本発明の別の態様によれば、がんの処置のための上記医薬組成物又は上記製剤が提供される。
【0024】
アミノ酸(複数可)の添加により、長期間安定で、医薬組成物における7−エピ−ドセタキセルの生成を顕著に阻害することができるドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得ることができることを見出したのは驚くべきことである。本発明の実施形態によれば、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物へのアミノ酸(複数可)の添加により、24時間保存された後に(例えば、2〜8℃で)、7−エピ−ドセタキセルの含有量が1%未満である組成物を生じることができる。特に、用いられるアミノ酸がアルギニンである場合、7−エピ−ドセタキセルの含有量は、30カ月の保存後に(例えば、2〜8℃で)、好ましくは1%未満、例えば約0.98%、約0.83%、約0.75%、約0.72%であるか又はさらに低い。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】BALB/cヌードマウスの腫瘍モデルにおいて、ヒト非小細胞肺がん細胞A549の皮下異種移植片の処置における実施例1−cの組成物の薬理学的有効性の結果を示す図である。
【0026】
医薬組成物及びその調製方法
本発明の実施形態は、
ドセタキセル、
アルブミン、及び
アミノ酸(複数可)を含み、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、50以下であり、すなわち50:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜1:1であり、より好ましくは20:1〜1:1である、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を提供する。
【0027】
本発明のさらなる実施形態は、アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、0.5以上であり、すなわち≧0.5:1であり、好ましくは0.5:1〜80:1であり、より好ましくは1以上であり、すなわち≧1:1であり、好ましくは1:1〜20:1である、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を提供する。
【0028】
本発明のさらなる実施形態は、例えば、メルカプトエタノール、グルタチオン、アセチルシステイン、及びジチオトレイトールのうちの1種又は複数を含むタンパク質構造アンフォールディング剤をさらに含み、アルブミンのタンパク質構造アンフォールディング剤に対する重量比が、100以下:1であり、すなわち100:1〜>0:1、例えば90:1〜>0:1、80:1〜>0:1、70:1〜>0:1、60:1〜>0:1、50:1〜>0:1、40:1〜>0:1、30:1〜>0:1、20:1〜>0:1又は10:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜>0:1である、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を提供する。
【0029】
本発明のさらなる実施形態は、医薬組成物が少なくとも1mg/mlの濃度でドセタキセルを含むナノ粒子懸濁液であり、懸濁液中のナノ粒子が200nm以下の粒径を有する、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を提供する。
【0030】
本発明の別の実施形態は、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)アミノ酸(複数可)を含有する水溶液を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンとアミノ酸(複数可)の溶液を得るステップと、
3)タンパク質構造アンフォールディング剤を、ステップ2)で得られたアルブミンとアミノ酸(複数可)の溶液に添加して、インキュベーション反応を実施するステップであり、タンパク質構造アンフォールディング剤が、メルカプトエタノール、グルタチオン、アセチルシステイン、及びジチオトレイトールのうちの1種又は複数を含むステップと、
4)ステップ1)で得られた有機相を、ステップ3)のインキュベーション反応後に得られた溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた溶液を限外濾過によって濃縮して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップと
を含み、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、50以下であり、すなわち50:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜1:1であり、より好ましくは20:1〜1:1であり、アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、0.5以上であり、すなわち≧0.5:1であり、好ましくは0.5:1〜80:1であり、より好ましくは1以上であり、すなわち≧1:1であり、好ましくは1:1〜20:1であり、アルブミンのタンパク質構造アンフォールディング剤に対する重量比が、100以下:1であり、すなわち100:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜>0:1である、方法を提供する。
【0031】
本発明の別の実施形態は、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)アミノ酸(複数可)を含有する水溶液を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンとアミノ酸(複数可)の溶液を得るステップと、
3)ステップ2)で得られたアルブミンとアミノ酸(複数可)の溶液をインキュベーション反応に供するステップと、
4)ステップ1)で得られた有機相を、ステップ3)のインキュベーション反応後に得られた溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた溶液を限外濾過によって濃縮して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップと
を含み、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、50以下であり、すなわち50:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜1:1であり、より好ましくは20:1〜1:1であり、アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、0.5以上であり、すなわち≧0.5:1であり、好ましくは0.5:1〜80:1であり、より好ましくは1以上であり、すなわち≧1:1であり、好ましくは1:1〜20:1である、方法を提供する。
【0032】
本発明の別の実施形態は、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)注射用の水を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンの溶液を得るステップと、
3)タンパク質構造アンフォールディング剤を、ステップ2)で得られたアルブミンの溶液に添加して、インキュベーション反応を実施するステップであり、タンパク質構造アンフォールディング剤が、メルカプトエタノール、グルタチオン、アセチルシステイン、及びジチオトレイトールのうちの1種又は複数を含むステップと、
4)ステップ1)で得られた有機相を、ステップ3)のインキュベーション反応後に得られた溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた溶液を限外濾過によって濃縮して、アミノ酸(複数可)を濃縮物に添加して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップであり、アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、0.5以上であり、すなわち≧0.5:1であり、好ましくは0.5:1〜80:1であり、より好ましくは1以上であり、すなわち≧1:1であり、好ましくは1:1〜20:1であるステップと
を含み、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、50以下であり、すなわち50:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜1:1であり、より好ましくは20:1〜1:1であり、アルブミンのタンパク質構造アンフォールディング剤に対する重量比が、100以下:1であり、すなわち100:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜>0:1である、方法を提供する。
【0033】
本発明の別の実施形態は、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)注射用の水を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンの溶液を得るステップと、
3)ステップ2)で得られたアルブミンの溶液をインキュベーション反応に供するステップと、
4)ステップ1)で得られた有機相を、ステップ3)のインキュベーション反応後に得られた溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた溶液を限外濾過によって濃縮して、アミノ酸(複数可)を濃縮物に添加して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップであり、アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、0.5以上であり、すなわち≧0.5:1であり、好ましくは0.5:1〜80:1であり、より好ましくは1以上であり、すなわち≧1:1であり、好ましくは1:1〜20:1であるステップと
を含み、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、50以下であり、すなわち50:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜1:1であり、より好ましくは20:1〜1:1である、方法を提供する。
【0034】
本発明の別の実施形態は、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)注射用の水を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンの溶液を得るステップと、
3)アミノ酸(複数可)及びタンパク質構造アンフォールディング剤を、ステップ2)で得られたアルブミンの溶液に添加して、インキュベーション反応を実施するステップであり、タンパク質構造アンフォールディング剤が、メルカプトエタノール、グルタチオン、アセチルシステイン、及びジチオトレイトールのうちの1種又は複数を含むステップと、
4)ステップ1)で得られた有機相を、ステップ3)のインキュベーション反応後に得られた溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた溶液を限外濾過によって濃縮して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップと
を含み、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、50以下であり、すなわち50:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜1:1であり、より好ましくは20:1〜1:1であり、アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、0.5以上であり、すなわち≧0.5:1であり、好ましくは0.5:1〜80:1であり、より好ましくは1以上であり、すなわち≧1:1であり、好ましくは1:1〜20:1であり、アルブミンのタンパク質構造アンフォールディング剤に対する重量比が、100以下:1であり、すなわち100:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜>0:1である、方法を提供する。
【0035】
本発明の別の実施形態は、上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を調製する方法であって、前記方法が、以下のステップ:
1)ドセタキセルを、エタノール、tert−ブチルアルコール、及びアセトンのうちの1種又は複数から好ましくは選択される有機溶媒に溶解させて有機相を得るステップと、
2)注射用の水を使用し、アルブミンを溶解させるか又はアルブミンの溶液を希釈して、アルブミンの溶液を得て、次いでアミノ酸(複数可)を添加するステップと、
3)ステップ2)で得られたアルブミンの溶液をインキュベーション反応に供するステップと、
4)ステップ1)で得られた有機相を、ステップ3)のインキュベーション反応後に得られた溶液にせん断下で添加して、ドセタキセルアルブミンナノ粒子の希釈溶液を得るステップと、
5)ステップ4)で得られた溶液を限外濾過によって濃縮して、安定性が増強されたドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を得るステップと
を含み、
アルブミンのドセタキセルに対する重量比が、50以下であり、すなわち50:1〜>0:1であり、好ましくは50:1〜1:1であり、より好ましくは20:1〜1:1であり、アミノ酸(複数可)のドセタキセルに対する重量比が、0.5以上であり、すなわち≧0.5:1であり、好ましくは0.5:1〜80:1であり、より好ましくは1以上であり、すなわち≧1:1であり、好ましくは1:1〜20:1である、方法を提供する。
【0036】
上記実施形態によれば、アミノ酸(複数可)は、本発明のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物の調製中に、ナノ粒子の形成前又は形成後に添加することができる。本発明の組成物の調製中に、ドセタキセルアルブミンナノ粒子をアミノ酸(複数可)と混合することができる限り、任意の方法によって本発明の効果を達成することができる。上記列挙された方法は、単に主要なものであり、本発明の意図を逸脱しなければ、上記方法への合理的な修正を通して得られた他の方法も本発明によって網羅される。
【0037】
文脈において他様に定義しない限り、本明細書において使用する技術的及び科学的用語は全て、当業者が一般的に理解する意味と同じ意味を有することが意図されている。本明細書において採用される技法への言及は、当業者には明らかなそれらの技法の変形又は同等の技法の代替法を含む、本技術分野で一般的に理解される技法を意味することが意図されている。以下の用語のほとんどは、当業者によって容易に理解されると考えられるが、本発明をより十分に説明するため、以下の定義を提示する。
【0038】
本明細書で使用される「含有する(contain)」、「含む(include)」、「含む(comprise)」、「有する(have)」、又は「伴う(involve)」という用語、及び他の変形は、包括的又はオープンエンドなものであり、その他の引用されていない要素又は方法ステップを排除するものではない。
【0039】
本明細書において使用される、「ドセタキセル」という用語は、当技術分野において、「タキソテール」又は「ドセタキソール」とも称され、本出願において称される「ドセタキセル」は、ドセタキセル化合物自体及びその誘導体又は類似体を含む。ドセタキセルの誘導体又は類似体は、これらに限定されないが、ドセタキセルと構造が類似する化合物、又はドセタキセルと同一の一般化学種に属する化合物、例えばタキサンを含む。一部の実施形態では、ドセタキセルの誘導体又は類似体は、ドセタキセルと類似する生物学的、薬理学的、化学的及び/又は物理的特性(例えば、機能性を含む)を所有する。ドセタキセルの誘導体又は類似体の例として、パクリタキセル及びカバジタキセルが挙げられる。さらに、本明細書で使用される、用語「ドセタキセル」は、その結晶形態及び非晶形態、並びに無水物形態、水和物形態(例えば、半水和物、二水和物、三水和物など)及び溶媒和物形態(例えば、アルコレート)も含む。
【0040】
本明細書において使用される、「アルブミン」という用語は、1種又は複数の組換えアルブミン及び血清アルブミンを含み、血清アルブミンは、非ヒト動物(例えば、ウシ)血清アルブミン及びヒト血清アルブミン、好ましくはヒト血清アルブミンを含む。
【0041】
本明細書において使用される、「アミノ酸(複数可)」という用語は、塩基性極性アミノ酸(例えば、アルギニン又はリシン)、非極性アミノ酸(例えば、プロリン)、中性極性アミノ酸(例えば、システイン)及び酸性極性アミノ酸(例えば、アスパラギン酸又はグルタミン酸)のうちの少なくとも1種、好ましくはアルギニンを含む。
【0042】
本明細書において使用される、「タンパク質構造アンフォールディング剤」という用語は、アルブミンの疎水結合領域をアンフォールドして、ドセタキセルとアルブミンの結合を容易にすることができる物質を指す。このような効果を有する全ての物質が、本発明の目的を達成することができる。タンパク質構造アンフォールディング剤として、これらに限定されないが、メルカプトエタノール、グルタチオン、アセチルシステイン及びジチオトレイトールのうちの1種又は複数が挙げられる。
【0043】
好ましい実施形態では、医薬組成物は、少なくとも1mg/ml、例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、20、25、30、35、40又は50mg/mlの濃度でドセタキセルを含むナノ粒子懸濁液であり、懸濁液中のナノ粒子は、200nm以下、例えば、150、100、95、90、85、80、75、70、65、60、55又は50nmの粒径を有する。ナノ粒子の粒径及びドセタキセルの濃度は、上記粒径又は濃度の値を含む任意の範囲であってよい。
【0044】
本発明の医薬組成物は、長期にわたる保存、高温又は非経口投与のための希釈など、ある種の条件にさらされた場合に、所望の治療効果を保持し、物理的及び/又は化学的に安定なままである。
【0045】
「物理的に安定な」という用語は、本発明の医薬組成物の凍結乾燥粉末製剤を復元又は再水和した後、少なくとも約8時間、好ましくは約24時間以内、より好ましくは48時間以内、特に好ましくは96時間以内に、実質的な沈殿又は沈降現象が観察されないことを意味する。
【0046】
「化学的に安定な」という用語は、本発明の医薬組成物が従来の条件下で保存される場合に、医薬組成物又は活性化合物の化学構造又は組成が安定であることを意味する。好ましくは、2〜8℃で少なくとも24カ月又はさらに最大30カ月保存後、7−エピ−ドセタキセルの含有率は1.0%以下である。
【0047】
医薬製剤及び治療方法
本発明の別の実施形態は、治療有効量の上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物並びに薬学的に許容される担体及び/又は佐剤材料を含む製剤を提供する。製剤は、好ましくは、凍結乾燥粉末製剤である。
【0048】
本発明の別の実施形態は、異常な細胞増殖性疾患又は障害の処置又は予防のための医薬の製造における、本発明の医薬組成物又は製剤の使用を提供する。異常な細胞増殖性疾患又は障害は、好ましくは、前立腺がん、結腸がん、乳がん、頭頸部がん、膵臓がん、肺がん及び卵巣がんを含むがんである。
【0049】
本発明の別の実施形態は、前立腺がん、結腸がん、乳がん、頭頸部がん、膵臓がん、肺がん及び卵巣がんを含むがんの処置又は予防のための医薬の製造における本発明の医薬組成物又は製剤の使用を提供する。
【0050】
本発明の別の実施形態は、異常な細胞増殖性疾患又は障害を処置又は予防する方法であって、治療有効量の本発明の医薬組成物又は製剤をそれを必要とする対象に投与することを含む方法を提供する。異常な細胞増殖性疾患又は障害は、好ましくはがんであり、がんは好ましくは上に列挙した特定のがんである。
【0051】
「薬学的に許容される担体」という用語は、それを用いて治療が施される希釈剤、佐剤材料、賦形剤、又はビヒクルを指し、正常な医学的判断の範囲内で、過剰な毒性、刺激、アレルギー反応、又は合理的ベネフィット/リスク比に見合った他の問題若しくは合併症を有さずに、ヒト及び動物の組織に接触するのに適している。
【0052】
本発明の製剤において用いることのできる薬学的に許容される担体として、これらに限定されないが、例えばピーナッツ油、ダイズ油、鉱油、ゴマ油などの石油、動物、植物又は合成起源のものを含む、水及び油などの無菌液が挙げられる。水は、製剤が静脈内に投与される場合に代表的な担体である。生理食塩水並びに水性デキストロース及びグリセリン溶液も、特に注射剤用の、液体担体として用いることができる。適切な医薬賦形剤としては、デンプン、グルコース、ラクトース、ショ糖、ゼラチン、マルトース、チョーク、シリカゲル、ステアリン酸ナトリウム、グリセロールモノステアレート、タルク、塩化ナトリウム、脱脂粉乳、グリセリン、プロピレングリコール、水、エタノールなどが挙げられる。製剤は、所望の場合、少量の湿潤剤若しくは乳化剤、又はpH緩衝剤を含有してもよい。経口製剤は、医薬品グレードのマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、セルロース、炭酸マグネシウムなどの標準の担体を含んでもよい。適切な医薬担体の例は、例えば、Remington’s Pharmaceutical Sciences(1990)に記載されている。
【0053】
製剤は、全身的及び/又は局所的に作用しうる。この目標を達成するために、製剤は、注射、静脈内、動脈内、皮下、腹腔内、筋肉内、若しくは経皮の投与を介するなど、適切な経路を介して投与されるか、又は経口、バッカル、経鼻、経粘膜、局所、及び眼科用の製剤を介して、若しくは吸入を介して投与されうる。
【0054】
これらの投与経路に対して、製剤は、適切な剤形で投与されうる。
【0055】
このような剤形として、これらに限定されないが、スプレー製剤、ローション製剤、軟膏製剤、懸濁製剤、注射用溶液製剤、懸濁注射製剤、乳濁性注射製剤、エリキシル製剤、シロップ製剤又は凍結乾燥粉末製剤が挙げられる。
【0056】
本明細書において使用される、「治療有効量」という用語は、処置される障害の症状のうちの1つ又は複数をある程度まで軽減する、投与される医薬組成物/製剤の量を指す。
【0057】
最適な所望の反応をもたらすために、投薬レジメンが調整されてもよい。例えば、単回のボーラスが投与されてもよく、数回の分割用量が経時的に投与されてもよく、又は、治療状況の緊急性に示されるように、用量が比例的に低減又は増加されてもよい。投薬値は、緩和される状態の種類及び重症度に応じて変化してもよく、単回用量又は複数回用量を含んでもよいことに留意されたい。任意の特定の対象に対して、個々の必要性及び組成物を投与する又は組成物の投与を管理する人の専門的判断に従って、特定の投薬レジメンが経時的に調整されるべきであることもさらに理解されるべきである。
【0058】
投与される本発明の医薬組成物/製剤の量は、処置される対象、障害又は病状の重症度、投与速度、医薬組成物/製剤の消長及び処方医師の裁量に応じて変わる。有効投薬量は、単回用量又は分割用量で、1日当たり、体重1kg当たり約0.0001〜約50mg、例えば、約0.01〜約10mg/kg/日の範囲であることが一般的である。70kgのヒトに対して、有効投薬量は、約0.007mg〜約3500mg/日、例えば約0.7mg〜約700mg/日の量となる。一部の例では、前述の範囲の下限を下回る投薬レベルが十分量を超える場合もあるが、他の場合には、さらに多量の用量が何れの有害な副作用も引き起こさずに用いられる場合もあり、但し、このような多量の用量は、1日を通した投与のために数回の少量の用量にまず分割される。
【0059】
別段の指示がない限り、本明細書において使用される、「処置する」という用語は、このような用語が適用される障害若しくは病状、又はこのような障害若しくは病状のうちの1つ若しくは複数の症状の進行を逆転させること、緩和させること、阻害すること、或いはこのような用語が適用される障害若しくは病状、又はこのような障害若しくは病状のうちの1つ若しくは複数の症状を予防することを意味する。
【0060】
本明細書において使用される、「対象」という用語は、ヒト又はヒト以外の動物を含む。典型的なヒト対象は、疾患(例えば本明細書において記載したもの)を有するヒト対象(患者と称される)、又は正常な対象を含む。本明細書において使用される「ヒト以外の動物」という用語は、非哺乳動物(例えば、鳥類、両生類、爬虫類)などの全ての脊椎動物、並びにヒト以外の霊長類、家畜、及び/又は飼育動物(例えば、ヒツジ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタなど)などの哺乳動物を含む。
【0061】
本発明の医薬組成物の有利な効果
1.添加されるアミノ酸(複数可)は、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物における7−エピ−ドセタキセル不純物の形成を顕著に阻害し、ドセタキセルナノ粒子医薬組成物の安定性、特に化学的安定性を増強させ、ドセタキセルナノ粒子医薬組成物の貯蔵寿命を延長させ、投与の際の副作用又は毒性を低減させ、生物への刺激を減少させ、臨床耐性を改善する。
2.本発明の医薬組成物を調製する方法は簡単である。
3.本発明は、例えば、前立腺がん、結腸がん、乳がん、頭頸部がん、膵臓がん、肺がん(特に非小細胞肺がん)及び卵巣がんなどの種々のがんの処置に対して用いることができ、したがって、市場での広範な適用の期待を有する。さらに、本発明のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物は、市販のドセタキセル注射剤よりも良好な治療効果を有する。
【実施例】
【0062】
以下の実施例は、本発明をさらに説明するために提供される。以下の実施例は、本発明の保護範囲を制限するものとして解釈されるべきではなく、上に記載された内容に従って、当業者が本発明の技術的解決手段に対してある種の非実質的な改良及び修正を行うことによって得られる技術的解決手段は、依然として本発明によって網羅されていることを指摘する必要がある。
【0063】
本出願の実施例で用いられる市販のドセタキセル注射剤の濃度は、40mg/mlであった。実施例における「ドセタキセル」という用語は、ドセタキセル(すなわち、ドセタキソール)化合物自体である。
【0064】
実施例1
100mlのエタノールを1500mgのドセタキセルに添加することによって有機相を得て、次いで、超音波処理によって溶解させた。ヒト血清アルブミンを注射用の水で希釈して、ヒト血清アルブミンの6mg/ml溶液を製剤化した。500mgのグルタチオンを1250mlのヒト血清アルブミンの6mg/ml溶液に添加し、溶液を約70℃の水浴で6分間インキュベートして水相を得た。有機相を、高速せん断(1,000毎分回転数(rpm))で水相に均一に分散させ、得られた系を限外濾過(PALL、100kD膜)による濃縮のための機器に移した。系を限外濾過によって濃縮して、ドセタキセルの6mg/ml濃縮物を得、ここでドセタキセルアルブミンナノ粒子の平均粒径は103nmであった(Malvern Nano−ZS90)。
【0065】
上記ドセタキセルアルブミンナノ粒子濃縮物を3つの部分に分割し、アルギニンを以下の比で添加した:
1−a.アルギニンのドセタキセルに対する重量比が0.5:1であり;
1−b.アルギニンのドセタキセルに対する重量比が1:1であり;
1−c.アルギニンのドセタキセルに対する重量比が20:1であった。
【0066】
次いで、アルギニンを含有する混合溶液を、0.22μmの滅菌濾過水頭を通して濾過することによってそれぞれ滅菌し、凍結乾燥機において48時間凍結乾燥した。
【0067】
凍結乾燥したサンプルを生理食塩水で復元し、復元したサンプルを室温で8時間静置したところ、沈殿は観察されず、このことは、本発明のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物が物理的に安定であることを示していた。粒径を測定し(サンプル1−aの平均粒径は103nmであり、サンプル1−bの平均粒径は102nmであり、サンプル1−cの平均粒径は104nmであった)、ドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物における7−エピ−ドセタキセル不純物の増加傾向を決定した。
【0068】
実施例2
10mlのエタノールを150mgのドセタキセルに添加することによって有機相を得て、次いで、超音波処理によって溶解させた。ウシ血清アルブミン固体を注射用の水で溶解させて、ウシ血清アルブミンの6mg/ml溶液を製剤化した。200mgのグルタチオン及び3750mgのプロリンを1250mlのウシ血清アルブミンの6mg/ml溶液に添加し、溶液を約60℃の水浴で6分間インキュベートして水相を得た。有機相を、高速せん断(1,000毎分回転数(rpm))で水相に均一に分散させ、得られた系を限外濾過(PALL、100kD膜)による濃縮のための機器に移した。系を限外濾過によって濃縮して、ドセタキセルの6mg/ml濃縮物を得、ここでプロリンの最終濃度は3mg/mlであり、プロリンのドセタキセルに対する重量比は約0.5:1であった。
【0069】
ドセタキセルアルブミンナノ粒子の平均粒径は113nmであった(Malvern Nano−ZS90)。得られた濃縮物を、0.22μmの滅菌濾過水頭を通して濾過することによって滅菌し、凍結乾燥機において48時間凍結乾燥した。凍結乾燥したサンプルを生理食塩水で復元し、復元したサンプルを室温で8時間静置したところ、沈殿は観察されず、このことは、本発明のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物が物理的に安定であることを示していた。
【0070】
実施例3
10mlのエタノールを150mgのドセタキセルに添加することによって有機相を得て、次いで、超音波処理によって溶解させた。組換えヒト血清アルブミン及びウシ血清アルブミン固体(1:1 w/w)を注射用の水で溶解させて、組換えヒト血清アルブミン及びウシ血清アルブミンの10mg/ml溶液を製剤化した。50mgのグルタチオンを450mlの組換えヒト血清アルブミン及びウシ血清アルブミンの10mg/ml溶液に添加し、溶液を60℃の水浴で6分間インキュベートして水相を得た。有機相を、高速せん断(1,000毎分回転数(rpm))で水相に均一に分散させ、得られた系を限外濾過(PALL、100kD膜)による濃縮のための機器に移した。系を限外濾過によって濃縮して、ドセタキセルの6mg/ml濃縮物を得た。次いで、プロリンのドセタキセルに対する重量比が1:1になるように、プロリンを濃縮物に添加した。ドセタキセルアルブミンナノ粒子の平均粒径は110nmであった(Malvern Nano−ZS90)。得られた濃縮物を、0.22μmの滅菌濾過水頭を通して濾過することによって滅菌し、凍結乾燥機において48時間凍結乾燥した。凍結乾燥したサンプルを生理食塩水で復元し、復元したサンプルを室温で8時間静置したところ、沈殿は観察されず、このことは、本発明のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物が物理的に安定であることを示していた。
【0071】
実施例4
エタノールをtert−ブチルアルコールで置き換え、グルタチオンをアセチルシステインで置き換え、アルギニンをリシンで置き換えた(リシンのドセタキセルに対する重量比は1であり、すなわち1:1であった)ことを除いて、実施例1のプロセスに従って生成物を調製した。ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒径は124nmであった。
【0072】
実施例5
エタノールをアセトンとtert−ブチルアルコールの混合物(1:1 v/v)で置き換え、グルタチオンをメルカプトエタノールで置き換え、アルギニンをシステインで置き換えた(システインのドセタキセルに対する重量比は1であり、すなわち1:1であった)ことを除いて、実施例1のプロセスに従って生成物を調製した。ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒径は132nmであった。
【0073】
実施例6
グルタチオンをジチオトレイトールとメルカプトエタノールの混合物(1:1 w/w)で置き換え、アルギニンをアルギニンとプロリンの混合物で置き換え(アルギニンとプロリンの重量比は1:1であり、アミノ酸の混合物のドセタキセルに対する重量比は1であり、すなわち1:1であった)、濃縮後のドセタキセルの濃度が1mg/mlであったことを除いて、実施例1のプロセスに従って生成物を調製した。ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒径は200nmであった。
【0074】
実施例7
グルタチオンを添加せず、アルギニンをグルタミン酸で置き換えた(グルタミン酸のドセタキセルに対する重量比は1:1であった)ことを除いて、実施例1のプロセスに従って生成物を調製した。ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒径は183nmであった。
【0075】
実施例8
グルタチオンを添加せず、プロリンをグルタミン酸で置き換えた(グルタミン酸のドセタキセルに対する重量比は1:1であった)ことを除いて、実施例2のプロセスに従って生成物を調製した。ドセタキセルアルブミンナノ粒子の粒径は196nmであった。
【0076】
比較例1
150mgのドセタキセルを50mlのバイアルに添加し、続いて、10mlのエタノールを添加することによって有機相を得て、ドセタキセルを超音波処理によって溶解させた。ヒト血清アルブミンの濃縮溶液(200mg/ml)を注射用の水で希釈し、6mg/mlの溶液を製剤化した。50mgのグルタチオンを125mlのヒト血清アルブミンの6mg/ml溶液に添加し、溶液を80℃の水浴で6分間インキュベートした。次いで、有機相を、高速せん断(1,000毎分回転数(rpm))で水相に均一に分散させ、得られた系を限外濾過(PALL、100kD膜)による濃縮のための機器に移した。系を限外濾過によって濃縮して、ドセタキセルの10mg/ml濃縮物を得た。次いで、最終溶液のpHが7.0であり、ドセタキセルを6mg/mlの濃度で、酒石酸(塩)を100mMの濃度で含有するように、酒石酸(塩)を添加した(参照:中国特許出願公開第103054798号の好ましい比)。最終溶液のサンプルを、0.22μmの滅菌濾過水頭を通して濾過することによって滅菌し、凍結乾燥機において48時間凍結乾燥した。
【0077】
比較例2
酒石酸をクエン酸で置き換え、最終濃度が100mMであった(参照:中国特許出願公開第103054798号の好ましい比)ことを除いて、比較例1のプロセスに従って生成物を調製した。
【0078】
比較例3
酒石酸をクエン酸ナトリウムで置き換え、最終濃度が100mMであった(参照:中国特許出願公開第103054798号の好ましい比)ことを除いて、比較例1のプロセスに従って生成物を調製した。
【0079】
比較例4
アミノ酸を添加しなかったことを除いて、実施例1のプロセスに従って生成物を調製した。
【0080】
実験例1:保存安定性
種々の期間(表1を参照)2〜8℃で静置した後、実施例1〜8及び比較例1〜4の生成物に適当量の0.9%塩化ナトリウム溶液を添加した。生成物を均一に分散させた後、各サンプル約300μlを正確に秤量し、2mlの遠心管に入れ、600μlのアセトニトリルを正確に添加した。30秒間ボルテックスした後、サンプルを固相抽出に供し、得られた抽出溶液を濾過して、7−エピ−ドセタキセルの含有量の検出を容易にした。
7−エピ−ドセタキセルの含有率をHPLCによって決定し、クロマトグラフィーの条件は以下の通りであった:カラム:Spherisorb RP18 4.6×250nm、粒径:5μm;移動相:溶液A=アセトニトリル:水(2:3、V/V)、及び溶液B=アセトニトリル;溶出を溶液Aで最初の70分間、次いで、溶液A10%及び溶液B90%で20分間実行した;流速:1ml/分;検出波長:227nm;及び注入体積:20μl。
2〜8℃で保存後のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物における7−エピ−ドセタキセルの増加量(HPLCクロマトグラムにおけるピーク面積百分率によって表される)を表1に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
実験の結果により、本出願の実施例で調製されたドセタキセルアルブミンナノ粒子組成物に、アルギニン、リシン、プロリン、システイン、グルタミン酸又はこれらの組み合わせを添加することにより、ドセタキセルの分解が有効に阻害され、エピマーである7−エピ−ドセタキセルの含有量の増加を低減させることができることが示された。pKa2.5〜4.5を有する有機酸(又はその塩)の添加により、エピマーである7−エピ−ドセタキセルの含有量の増加を阻害することができないことも、表1で示された。
【0083】
上の試験では、アルギニンが不純物阻害剤として用いられた、本発明の実施例の1−a、1−b及び1−cの生成物は、最良の効果を達成し、2〜8℃で少なくとも24カ月、又はさらに30カ月まで保存されうる。
【0084】
実験例2:保存安定性
アルギニンを含まない、又はアルギニンとドセタキセルを80:1の重量比で含むドセタキセルアルブミン組成物を調製し、7−エピ−ドセタキセルの含有率を実験例1に従って決定した。HPLCクロマトグラムにおける、経時的なピーク面積百分率が表2に示される。表2から理解することができるように、アルギニンのドセタキセルに対する比が80である場合、組成物中の7−エピ−ドセタキセルの含有量の増加は、2〜8℃で30カ月の保存の間阻害された。
【0085】
【表2】
【0086】
実験例1及び2から理解することができるように、本出願の実施例で調製されたドセタキセルアルブミンナノ粒子は、良好な物理的及び化学的安定性を有し、分解されにくく、従来の保存及び輸送後にも不純物をほとんど有さず、確かに不純物によって引き起こされる毒性及び副作用をほとんど有さない。
【0087】
実験例3:抗腫瘍活性
がんの処置のための本出願において調製された組成物の使用を、ヒト非小細胞肺がん細胞A549の皮下異種移植片を有するBALB/cヌードマウスの腫瘍モデルにおいて薬理学的有効性評価試験によって実証した。
【0088】
A549細胞の腫瘍を有する30匹の限定されたBALB/c動物を選択し、無作為に3つの群に分割し(1群当たり10匹のマウス)、これらはそれぞれ、生理食塩水を投与された群(ブランク対照)、市販のドセタキセル注射剤(20mg/kg)を投与された群及び本発明の実施例1−cによるドセタキセルアルブミンナノ粒子(20mg/kg)を投与された群であった。投与は、尾静脈を介する静脈内注射により、4週間実施した。投与の間、動物の一般的臨床症状を1日に2回観察し、体重及び腫瘍径を1週間に2回測定し、腫瘍重量を最後に測定した。腫瘍サイズを時間に対してプロットし、薬理学的有効性の評価に対する曲線を得た。
【0089】
薬理学的有効性の結果を
図1に示す。
図1に示されるように、本発明の実施例1−cによるドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物は、非小細胞肺がん細胞A549の皮下異種移植片を有するBALB/cヌードマウスの腫瘍モデルの腫瘍増殖に関して顕著な阻害効果を達成し、本発明の実施例1−cによるドセタキセルアルブミンナノ粒子組成物の効果は、市販のドセタキセル注射剤の効果より良好であった。
【0090】
実験例4:抗腫瘍活性
がんの処置のための本出願において調製された組成物の使用を、ヒト非小細胞肺がん細胞A549の皮下異種移植片を有するBALB/cヌードマウスの腫瘍モデルにおいて、本発明の実施例7のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を用いた薬理学的有効性評価試験によって実証した。
【0091】
A549細胞の腫瘍を有する30匹の限定されたBALB/c動物を選択し、無作為に3つの群に分割し(1群当たり10匹のマウス)、これらはそれぞれ、生理食塩水を投与された群(ブランク対照)、市販のドセタキセル注射剤(16mg/kg)を投与された群及び本発明の実施例7によるドセタキセルアルブミンナノ粒子(13.6mg/kg)を投与された群であった。投与は、尾静脈を介する静脈内注射により、4週間実施した。投与の間、動物の一般的臨床症状を1日に2回観察し、体重及び腫瘍径を1週間に2回測定した。
【0092】
薬理学的有効性の結果を表3に示す。本発明の実施例7によるドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物は、非小細胞肺がん細胞A549の皮下異種移植片を有するBALB/cヌードマウスの腫瘍モデルの腫瘍増殖に関して顕著な阻害効果を達成した。21日間投与した後、実施例7のドセタキセルアルブミンナノ粒子組成物(投与用量:13.6mg/kg)によって達成された腫瘍の阻害率は112%であったが、市販のドセタキセル注射剤(投与用量:16mg/kg)によって達成された腫瘍の阻害率は99%であった。本発明のドセタキセルアルブミンナノ粒子は、低用量で高い腫瘍阻害率を達成し、市販のドセタキセル注射剤よりも顕著に良好な治療効果を有し、ヒト非小細胞肺がんに優れた治療効果を有したことが理解されうる。
【0093】
【表3】
【0094】
実験例5:抗腫瘍活性
がんの処置のための本出願において調製された組成物の使用を、ヒト卵巣がん細胞SK−OV−3の皮下異種移植片を有するBALB/cヌードマウスの腫瘍モデルにおいて、本発明の実施例7のドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物を用いた薬理学的有効性評価試験によって実証した。
【0095】
SK−OV−3細胞の腫瘍を有する50匹の限定されたBALB/c動物を選択し、無作為に5つの群に分割し(1群当たり10匹のマウス)、これらはそれぞれ、生理食塩水を投与された群(ブランク対照)、市販のドセタキセル注射剤(9.9mg/kg)を投与された群1、市販のドセタキセル注射剤(16mg/kg)を投与された群2、本発明の実施例7によるドセタキセルアルブミンナノ粒子(8.5mg/kg)を投与された群1、及び本発明の実施例7によるドセタキセルアルブミンナノ粒子(13.6mg/kg)を投与された群2であった。投与は、尾静脈を介する静脈内注射により、4週間実施した。投与の間、動物の一般的臨床症状を1日に2回観察し、体重及び腫瘍径を1週間に2回測定した。
【0096】
薬理学的有効性の結果を表4に示す。本発明の実施例7によるドセタキセルアルブミンナノ粒子医薬組成物は、卵巣がん細胞SK−OV−3の皮下異種移植片を有するBALB/cヌードマウスの腫瘍モデルの腫瘍増殖に関して顕著な阻害効果を達成した。18日間投与した後、実施例7のドセタキセルアルブミンナノ粒子組成物(投与用量:8.5mg/kg)によって達成された腫瘍の阻害率は65%であったが、市販のドセタキセル注射剤(投与用量:9.9mg/kg)によって達成された腫瘍の阻害率は55%であった。本発明の実施例7の医薬組成物を13.6mg/kgの用量で投与し、市販のドセタキセル注射剤を16mg/kgの用量で投与した場合、18日間の投与後の腫瘍阻害率は共に87%であった。上記実験結果によれば、市販のドセタキセル注射剤と比較して、本発明の組成物は、低用量で良好又は同等の腫瘍阻害効果を達成し、本発明のドセタキセルアルブミンナノ粒子がヒト卵巣がんに優れた治療効果を有することが実証された。
【0097】
【表4】
【0098】
本発明は、上記特定の実施例を通してさらに説明されたが、本発明がそれによって制限されないことが理解されるべきである。本発明は、上記開示の一般的態様を包含し、当業者は、本発明の意図及び範囲を逸脱することなく、本発明の種々の詳細を様々に修正又は変化させることができる。したがって、本記載は説明のみのために表され、限定のためのものではない。