(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の製造システムでは、空隙量を一定にするために、電解液の注入量を調整している。このため、電解液の注入量に応じて、電解液に含まれる添加剤の量も変更される。その結果、電極表面に形成されるSEI膜の厚さが安定しない。SEI膜の厚さが薄すぎると、電解液の分解を十分に抑えることができなくなる一方、SEI膜の厚さが厚すぎると電極間の電気抵抗が増大してしまう。本技術分野では、安全機構を正確に作動させるとともに、SEI膜の厚さを安定化させることが望まれている。
【0007】
本発明は、安全機構の作動精度を向上するとともに、電極表面に形成される被膜の厚さを安定化することが可能な蓄電装置の製造方法、及び蓄電装置の製造装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面に係る蓄電装置の製造方法は、ケースとケースに収容された電極組立体とを備える蓄電装置の製造方法である。この製造方法は、ケースの内部空間の容量を測定する測定工程と、ケースに規定量の電解液を注入する注液工程と、測定工程において測定された容量に基づいて、電解液の溶媒又は蓄電装置における電池反応に寄与しない不反応剤をケースに注入する調整工程と、を備える。電極組立体は、電極を含む。電解液は、電解液の分解を抑える被膜を、電極の表面に形成するための含有物を含む。
【0009】
本発明の別の側面に係る蓄電装置の製造装置は、ケースとケースに収容された電極組立体とを備える蓄電装置の製造装置である。この製造装置は、ケースの内部空間の容量を測定する測定部と、ケースに規定量の電解液を注入する注液部と、測定部によって測定された容量に基づいて、電解液の溶媒又は蓄電装置における電池反応に寄与しない不反応剤をケースに注入する調整部と、を備える。電極組立体は、電極を含む。電解液は、電解液の分解を抑える被膜を、電極の表面に形成するための含有物を含む。
【0010】
これらの蓄電装置の製造方法、及び製造装置では、ケースの内部空間の容量が測定され、測定された容量に基づいて、電解液の溶媒又は電池反応に寄与しない不反応剤がケースに注入される。これにより、例えば、CID及び安全弁等の安全機構を正常に作動させるように、ケースの内部空間の容量を調整することができる。また、電解液には、電解液の分解を抑える被膜を、電極の表面に形成するための含有物が含まれており、電極組立体の電極の表面に被膜が形成される。内部空間の容量の調整のために用いられる溶媒及び不反応剤は、いずれも電極の表面に形成される被膜の厚さに影響を及ぼさない。したがって、安全機構の作動精度を向上するとともに、電極に形成される被膜の厚さを安定化することが可能となる。
【0011】
上記製造方法は、電解液が注入された蓄電装置を充放電して活性化する活性化工程をさらに備えてもよい。測定工程は、活性化工程の後に行われてもよい。この場合、活性化工程において、電極組立体の体積が増加する。この電極組立体の体積増加量にはばらつきが生じる。このため、活性化工程の後にケースの内部空間の容量が測定されることによって、体積増加量のばらつきの影響を受けることなく、内部空間の容量を測定することができる。これにより、溶媒又は不反応剤の注入量の算出精度を向上することができるので、ケースの内部空間の容量の調整精度を向上することが可能となる。その結果、安全機構の作動精度をさらに向上することが可能となる。
【0012】
測定工程は、注液工程の後に行われてもよい。測定工程では、電解液の液面の高さに基づいて、容量を測定してもよい。この場合、電解液の液面の高さを測定するだけで、ケースの内部空間の容量を測定できる。これにより、測定工程を容易化することができる。
【0013】
上記製造方法は、調整シートを用いて電極組立体の厚さを調整する厚さ調整工程をさらに備えてもよい。調整シートによって電極組立体の厚さを調整した場合でも、ケースの内部空間の容量を適宜調整することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、安全機構の作動精度を向上するとともに、電極表面に形成される被膜の厚さを安定化することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。図面の説明において、同一又は同等の要素には同一符号を用い、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、一実施形態に係る蓄電装置の製造方法によって製造される蓄電装置の内部構成の一例を示す断面図である。
図2は、
図1のII−II線に沿った断面図である。
図1及び
図2に示される蓄電装置1は、例えばリチウムイオン二次電池といった車載用の非水電解質二次電池として構成されている。
【0018】
蓄電装置1は、例えば略直方体形状をなす中空のケース2と、ケース2内に収容された電極組立体3とを備えている。ケース2は、例えばアルミニウム等の金属によって形成されている。ケース2の内壁面上には、絶縁フィルム(図示せず)が設けられる。ケース2の内部には、例えば非水系(有機溶媒系)の電解液が注液されている。この電解液は、電解質と、溶媒と、添加剤(含有物)と、を含む。電解質は、例えばリチウム塩である。溶媒は、エチレンカーボネート(Ethylene Carbonate:EC)、エチルメチルカーボネート(Ethyl MethylCarbonate:EMC)、ジメチルカーボネート(Dimethyl Carbonate:DMC)、及びジエチルカーボネート(Diethyl Carbonate:DEC)等を所定の比率で混合した混合溶媒である。添加剤は、電解液の分解を抑えるための含有物、及びガス発生剤である。添加剤の一部は、蓄電装置1の電池反応によって分解され、後述する負極12(電極)の負極活物質層18の表面にSEI膜(被膜)を形成する。このような添加剤としては、ビニレンカーボネート(VC)が挙げられる。また、ガス発生剤は、過充電添加剤とも呼ばれ、蓄電装置1が過充電状態となった場合に、ガスを発生させる。
【0019】
電極組立体3では、後述する正極11の正極活物質層15、負極12の負極活物質層18、及びセパレータ13が多孔質をなしており、その空孔内に、電解液が含浸されている。ケース2の上面部には、正極端子5と負極端子6とが互いに離間して配置されている。正極端子5は、絶縁リング7を介してケース2に固定され、負極端子6は、絶縁リング8を介してケース2に固定されている。
【0020】
電極組立体3は、正極11と、負極12と、正極11と負極12との間に配置された袋状のセパレータ13とによって構成されている。セパレータ13内には、例えば正極11が収容される。セパレータ13内に正極11が収容された状態で、正極11と負極12とがセパレータ13を介して交互に積層され、図示省略されたテープ等により固定されている。つまり、電極組立体3は、袋状のセパレータ13に正極11を収容することにより構成されるセパレータ付き正極10を有している。
【0021】
一例として、電極組立体3は、セパレータ付き正極10及び負極12の下端(正極端子5及び負極端子6と反対側の端部)がケース2の底面に接触するように、ケース2内に収容されている。ケース2の内面上には、絶縁部材(不図示)が配置されている。したがって、この場合には、セパレータ付き正極10及び負極12の下端は、絶縁部材を介してケース2の底面に当接する。ただし、セパレータ付き正極10及び負極12の下端とケース2の底面との間には、絶縁部材が占める空間以外に微小な隙間が形成されていてもよい。なお、図示していないが、ケース2内には、後述の調整部材が収容されている。
【0022】
電解液は、蓄電装置1が過充電状態となった場合に、所定のガス量Vgocのガスを発生させるガス発生剤を含む。ガス量Vgocは、ガス発生剤によって発生するガスの大気圧における体積である。このようなガス発生剤としては、ビフェニル、及びシクロへキシルベンゼン等が挙げられる。蓄電装置1は、さらに不図示のCID(電流遮断機構)を備えている。CIDは、ケース2内の気圧である圧力Pcに応じて、蓄電装置1の充電電流(電流経路)を遮断する。CIDは、例えば、ケース2内部の圧力Pcが作動圧力Pwに達した場合に作動する。ケース2内部の圧力Pcは、蓄電装置1が過充電状態となった場合に、ガス発生剤によってケース2内で発生されたガスによって、CIDが作動可能となるように設定されている。蓄電装置1は、さらに不図示の安全弁を備えている。安全弁は、ケース2内の圧力Pcが所定の圧力以上になった場合に開弁し、ケース2内のガスを外部に放出するための機構である。本実施形態におけるCID及び安全弁は、公知のものと変わらない為、詳細については省略する。
【0023】
続いて、
図3を参照して、蓄電装置1の製造方法の工程について説明する。
図3は、一実施形態に係る蓄電装置の製造方法の工程図である。
図3に示されるように、蓄電装置1の製造方法は、電極製造工程S01と、組み立て工程S02と、測定工程S03と、注液工程S04と、活性化・エージング工程S05(活性化工程)と、調整工程S06と、封止工程S07と、を備えている。測定工程S03、注液工程S04、活性化・エージング工程S05、調整工程S06、及び封止工程S07では、
図4に示される蓄電装置1の製造装置50が用いられる。
【0024】
ここで、
図4を参照して、製造装置50について説明する。
図4は、一実施形態に係る蓄電装置の製造装置の概略構成図である。
図4に示される製造装置50は、蓄電装置1を製造するための装置である。製造装置50は、電極製造工程S01及び組み立て工程S02によって準備された蓄電構造体20を用いて、蓄電装置1を製造する。蓄電構造体20は、ケース2と、ケース2に収容された電極組立体3と、を備える。製造装置50は、内部空間測定装置51(測定部)と、注液装置52(注液部)と、充放電装置53と、調整装置54(調整部)と、封止装置55と、制御装置56と、を備えている。
【0025】
内部空間測定装置51は、ケース2の内部空間の容量を測定するための装置である。内部空間とは、ケース2の内部に形成された空間のうち、ケース2に収容されている電極組立体3等の部品を除いた空間と、電極組立体3中の活物質層の空隙及びセパレータ13の空隙と、を含む。この内部空間のうち、活物質層の空隙及びセパレータ13の空隙が、後述の注液工程S04において注入される電解液によって充填される。本明細書において、後述の注液工程S04が実施される前のケース2の内部空間容量(空隙量)を、「注液前内部空間容量Vo」と呼び、蓄電装置1が製品として出荷される際のケース2の内部空間容量を、「製品内部空間容量Vp」と呼ぶ。これらの内部空間容量は、全ての蓄電装置1において一定ではなく、蓄電装置1ごとに異なる。これは、例えば、後述する塗工工程における目付け量のばらつきに起因する。
【0026】
内部空間測定装置51は、ケース2の内部に所定のガスを供給し、ガスの供給量及びケース2内の圧力Pcの変化に基づいて、注液前内部空間容量Voを測定する。内部空間測定装置51によって供給されるガスとしては、例えば、空気、ヘリウム(He)、アルゴン(Ar)、及び窒素(N
2)等が用いられる。電極組立体3に水分が浸入することを低減するために、水分が除去されたガスが用いられてもよい。内部空間測定装置51は、ガス供給源、圧力計、及び吸引機等を含む。
【0027】
注液装置52は、ケース2内に規定量の電解液を注入する装置である。注液装置52は、例えば、電解液を蓄積するタンク、及び電解液を送り出すポンプ等を含む。充放電装置53は、蓄電構造体20の初期充放電を行うための装置である。
【0028】
調整装置54は、内部空間測定装置51によって測定された注液前内部空間容量Voに基づいて、ケース2の内部空間容量を調整する装置である。調整装置54は、調整部材をケース2に注入することによって、ケース2の内部空間容量を調整する。調整部材は、SEI膜の形成反応に影響を及ぼさない部材である。調整部材としては、例えば、電解液の溶媒及び電池反応に寄与しない不反応剤が用いられる。電解液の溶媒は、注液装置52によって注入される電解液の溶媒と同じであってもよく、異なっていてもよい。溶媒には、ビニレンカーボネート等の添加剤は含まれていない。不反応剤としては、ポリプロピレン(Polypropylene:PP)、ポリエチレン(Polyethylene:PE)、及びポリテトラフルオロエチレン(Polytetrafluoroethylene:PFA)等の樹脂が用いられる。不反応剤は、液体でもよく、固体でもよい。不反応剤が固体である場合、不反応剤は粒子状又は粉末状であってもよい。調整装置54は、例えば、調整部材を蓄積するタンク、及び調整部材を送り出すポンプ等を含む自動スポイト機である。
【0029】
封止装置55は、ケース2の注液口を封止部材で封止するための装置である。封止装置55は、例えば、リベット機である。封止部材としては、ボルト及びリベット等が用いられる。
【0030】
制御装置56は、製造装置50の動作を制御する装置である。制御装置56は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、及びRAM(Random Access Memory)等を有するコントローラである。制御装置56は、内部空間測定装置51、注液装置52、充放電装置53、調整装置54、及び封止装置55をそれぞれ制御することによって、蓄電装置1の製造を自動化している。
【0031】
図3に戻って、蓄電装置1の製造方法の各工程を説明する。まず、電極製造工程S01が実施される。この電極製造工程S01は、以下の混練工程、塗工工程、プレス工程、外観検査工程、減圧乾燥工程、切断工程、及びセパレータ包み工程の各工程を含む。
【0032】
電極製造工程S01では、まず、混練工程が実施される。混練工程においては、活物質層の主成分である活物質粒子と、バインダ及び導電助剤等の粒子とを混練機内の溶媒中で混練し、各粒子の分散性がよい電極合剤を製造する。バインダは、例えば、ポリフッ化ビニリデン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、ポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、ポリイミド、ポリアミドイミド等のイミド系樹脂、又はアルコキシシリル基含有樹脂であってもよい。溶媒は、例えばNMP(N−メチルピロリドン)、メタノール、メチルイソブチルケトン等の有機溶媒であってもよく、水であってもよい。導電助剤は、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック及びグラファイト等の炭素系材料である。
【0033】
次いで、塗工工程が実施される。塗工工程では、ロール状に巻かれた帯状の金属箔を繰り出し、その金属箔の表面に、電極合剤を間欠的または連続的に塗布する。電極合剤が塗布された金属箔は、電極合剤の塗布の直後に乾燥炉内を通過する。これにより、電極合剤に含まれる溶媒が乾燥されて除去されると共に、樹脂からなるバインダが活物質粒子同士を結合する。これにより、活物質粒子の間に微細な間隙(空孔)を有する活物質層が形成される。
【0034】
次いで、プレス工程が実施される。プレス工程では、帯状の金属箔の表面に形成された活物質層をロールにより所定の圧力でプレスする。これにより、活物質層が圧縮され、活物質の密度が適切な値に高められる。次いで、外観検査工程が実施される。外観検査工程では、活物質層の表面状態をカメラ等で確認し、良品及び不良品の判定を行う。
【0035】
次いで、減圧乾燥工程が実施される。ここでは、活物質層が形成された帯状の金属箔を、真空乾燥炉内に収容して減圧高温化にて乾燥する。これにより、活物質層に残留するわずかな溶媒を除去する。次いで、切断工程が実施される。切断工程では、打ち抜き機を用いて、活物質層が形成された金属箔を所定の形状に打ち抜くことで、上記の正極11及び負極12を形成する。次いで、セパレータ包み工程が実施される。セパレータ包み工程では、正極11を袋状のセパレータ13に収容し、セパレータ付き正極10を得る。
【0036】
続いて、組み立て工程S02が実施される。組み立て工程S02は、以下の積層工程、厚さ計測工程、厚さ調整工程、タブ溶接工程、収容工程、及び封缶工程の各工程を含む。
【0037】
組み立て工程S02では、まず、積層工程が実施される。積層工程では、セパレータ包み工程及び切断工程で得られたセパレータ付き正極10と負極12とを交互に順次積層し、積層電極を得る。次いで、厚さ計測工程が実施される。厚さ計測工程では、積層電極を検査装置に搬送し、所定の荷重を加えた状態で、その厚さを計測する。次いで、厚さ調整工程が実施される。厚さ調整工程では、厚さ計測工程の計測結果に応じて、樹脂製の調整シートを積層体に加えて、積層電極の厚さを調整する。
【0038】
次いで、タブ溶接工程が実施される。タブ溶接工程では、正極11と負極12とがセパレータ13を介して積層された積層電極を、テープ等で固定し、一体化する。これにより、電極組立体3を得る。そして、正極11のタブ14bに導電部材16を溶接すると共に、負極12のタブ17bに導電部材19を溶接する。次いで、収容工程が実施される。収容工程では、例えば一面側が開口する有底の電槽缶に、電極組立体3を収容する。次いで、封缶工程が実施される。封缶工程では、電槽缶の開口に蓋を溶接等で接合し、電槽缶の開口を塞ぐ。これにより、蓄電構造体20が作製(準備)される。電槽缶及び蓋によって、ケース2が構成される。
【0039】
続いて、測定工程S03が実施される。測定工程S03では、内部空間測定装置51を用いて、蓄電構造体20のケース2の内部空間容量を測定する。本実施形態では、注液前内部空間容量Voが測定される。内部空間測定装置51は、ケース2の内部に所定のガスを供給し、ガスの供給量及びケース2内の圧力Pcの変化に基づいて、注液前内部空間容量Voを測定する。
【0040】
続いて、注液工程S04が実施される。注液工程S04では、注液装置52を用いて、蓄電構造体20のケース2の内部に注液口から規定量の電解液を注入する。ケース2に注入される電解液には、上述のように、電解液の分解を抑えるための添加剤、及び過充電状態でガスを発生させる過充電添加剤(ガス発生剤)が含まれる。そして、注液口が仮封止される。
【0041】
続いて、活性化・エージング工程S05が実施される。活性化・エージング工程S05では、蓄電構造体20に充放電装置53を用いて初期充電を行い、電池として活性な状態にするとともに、負極12では負極活物質層18の表面にSEI膜を形成する。その後、蓄電構造体20を所定時間及び所定温度で保持するエージングを行い、SEI膜を安定させる。
【0042】
続いて、調整工程S06が実施される。調整工程S06では、調整装置54を用いて、CID及び安全弁を正常に作動させるために、ケース2の内部空間容量を調整する。CIDは、ケース2内部の圧力Pcが作動圧力Pwになった場合に作動する。安全弁も同様に、ケース2内部の圧力Pcが所定の圧力になった場合に作動する。なお、一般的に、安全弁が作動を開始する圧力は、CIDが作動を開始する作動圧力Pwよりも高いので、ここでは、作動圧力Pwに対して、ケース2の内部空間容量を調整する構成を説明する。
【0043】
蓄電装置1が過充電状態となった場合に、ガス発生剤によって発生するガス量Vgocは予め定められている。また、蓄電装置1が通常使用状態で使用される場合に、蓄電装置1の使用期間全体に亘ってケース2内で発生するガスの大気圧における体積であるガス量Vgnは予め定められている。蓄電装置1の使用期間とは、蓄電装置1を通常使用状態で使用した場合に、蓄電装置1の使用開始から蓄電装置1が寿命に達するまでの期間を意味する。また、蓄電装置1が出荷される際の未使用の状態(初期状態)である蓄電装置1において、ケース2内部の圧力Pcは初期圧力P0に設定されるとする。
【0044】
ここで、式(1)に示されるように、過充電状態において、CIDを正常に作動させるためには、ガス量Vgocによるケース2内部の圧力Pcの増加分ΔPpを初期圧力P0に加算した値が、作動圧力Pw以上である必要がある。なお、増加分ΔPpは、式(1)の左辺第2項に示されるように、製品内部空間容量Vpでガス量Vgocを除算し、その除算結果に大気圧P
atm(0.1MPa)を乗算することによって得られる。
【数1】
【0045】
さらに、式(2)に示されるように、通常使用状態において、CIDを作動させないためには、ガス量Vgnによるケース2内部の圧力Pcの増加分ΔPpnを初期圧力P0に加算した値が、作動圧力Pwを超えない必要がある。なお、増加分ΔPpnは、式(2)の左辺第2項に示されるように、製品内部空間容量Vpでガス量Vgnを除算し、その除算結果に大気圧P
atmを乗算することによって得られる。
【数2】
【0046】
例えば、ケース2の製品内部空間容量Vpが目標容量Vtである場合に、上記式(1)及び式(2)を満たすとする。つまり、ケース2の製品内部空間容量Vpが目標容量Vtである場合に、過充電状態である蓄電装置1においてケース2内部の圧力Pcが作動圧力Pw以上となり、通常動作状態の蓄電装置1においてケース2内部の圧力Pcが作動圧力Pwに達しないとする。調整工程S06では、製品内部空間容量Vpを目標容量Vtとすることによって、CID及び安全弁を正常に作動させるように調整する。
【0047】
製品内部空間容量Vpは、注液前内部空間容量Voに基づいて算出され得る。具体的には、式(3)に示されるように、製品内部空間容量Vpは、注液前内部空間容量Voから、注液工程S04において注入される電解液の注液量Viと活性化・エージング工程S05における電極組立体3の体積増加量Veと調整工程S06において注入される調整部材の注入量Vaとを減算することによって算出される。
【数3】
【0048】
したがって、調整工程S06では、調整装置54は、注液前内部空間容量Voに基づいて、調整部材の注入量Vaを決定する。具体的には、調整装置54は、式(4)に示されるように、目標容量Vt、注液量Vi及び体積増加量Veの和を注液前内部空間容量Voから減算することによって注入量Vaを算出する。そして、調整装置54は、注入量Vaの調整部材をケース2内に加えることによって、製品内部空間容量Vpを目標容量Vtとする。なお、注液量Vi及び体積増加量Veは、調整装置54に予め設定されている。
【数4】
【0049】
例えば、目標容量Vtが30cc、注液量Viが130cc、体積増加量Veが5cc、及び注液前内部空間容量Voが170ccであるとすると、注入量Vaは5cc(=170−(30+130+5))となる。このため、5ccの調整部材を加える。
【0050】
続いて、封止工程S07が実施される。封止工程S07では、封止装置55を用いて、仮封止を解除し、注液口を封止部材で本封止する。この後、電池としての検査工程等を経て出荷されるが、ここでは省略する。以上のようにして、蓄電装置1が製造される。
【0051】
以上説明したように、蓄電装置1の製造方法、製造装置50、及び蓄電装置1では、ケース2の注液前内部空間容量Voが測定され、注液前内部空間容量Voに基づいて、調整部材がケース2に注入される。これにより、CID及び安全弁等の安全機構を正常に作動させるように、ケース2の製品内部空間容量Vpを調整することができる。つまり、蓄電装置1の初期状態から蓄電装置1が寿命に達するまでに亘って、蓄電装置1の通常使用状態におけるケース2内部の圧力Pcが、CIDの作動圧力Pwよりも小さく、かつ、蓄電装置1の過充電状態におけるケース2内部の圧力Pcが作動圧力Pw以上とすることができる。また、蓄電装置1の通常使用状態において、安全弁が作動すること、及び、ケース2が膨張し、他の部品に干渉することを抑制することができる。また、電解液には、電解液の分解を抑えるSEI膜を、負極12の表面に形成するための添加剤が含まれており、負極12の表面にSEI膜が形成される。ケース2の内部空間容量の調整のために用いられる調整部材は、負極12の表面に形成されるSEI膜の膜厚に影響を及ぼさない。したがって、安全機構の作動精度を向上するするとともに、負極12に形成されるSEI膜の厚さを安定化することが可能となる。
【0052】
また、厚さ調整工程において、調整シートによって積層電極の厚さを調整している。調整シートは樹脂フィルムであるので、正極11の正極活物質層15、負極12の負極活物質層18、及びセパレータ13と比較して、空孔率が小さい。このように、厚さ調整工程が実施されることによって、ケース2の内部空間容量にばらつきが生じやすい。このような場合でも、ケース2の製品内部空間容量Vpを適宜調整することによって、安全機構の作動精度を向上することが可能となる。
【0053】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限られない。例えば、蓄電装置1は、CID及び安全弁のいずれかを備えていればよい。
【0054】
また、注入量Vaは、上記式(4)によって正確に算出されなくてもよく、測定工程S03において測定されたケース2の内部空間容量に応じて適宜決定されてもよい。例えば、測定工程S03において測定された注液前内部空間容量Voが所定の範囲内であれば、注入量Vaは第1注入量とされ、他の範囲内であれば、注入量Vaは第2注入量とされてもよい。このような場合でも、上述の範囲を適切に設定することによって、CID及び安全弁を正常に作動させるように、ケース2の製品内部空間容量Vpを調整することができる。また、負極12に形成されるSEI膜の厚さを、安定化することが可能となる。
【0055】
また、上記実施形態では、電極製造工程S01及び組み立て工程S02によって、蓄電構造体20が準備されるが、これに限られない。他の工程によって、蓄電構造体20が準備されてもよい。
【0056】
また、上記実施形態では、測定工程S03は、注液工程S04の前に実施されるが、組み立て工程S02の後で、かつ、調整工程S06の前に実施されればよい。いずれの場合でも、調整工程S06では、測定工程S03において測定されたケース2の内部空間容量に基づいて、注入量Vaが算出される。例えば、測定工程S03は、注液工程S04の後に実施されてもよい。この場合、内部空間測定装置51は、注液前内部空間容量Voから注液量Viを減算した内部空間容量を測定することができる。さらに、測定工程S03が注液工程S04の後に実施される場合、測定工程S03では、内部空間測定装置51は、ケース2内における電解液の液面の高さを測定し、測定した液面の高さに基づいて、ケース2の内部空間容量を算出してもよい。この場合、電解液の液面の高さを測定するだけで、ケース2の内部空間容量を測定できる。これにより、測定工程S03を容易化することができる。
【0057】
また、測定工程S03は、活性化・エージング工程S05の後に実施されてもよい。この場合、内部空間測定装置51は、注液前内部空間容量Voから注液量Vi及び体積増加量Veを減算した内部空間容量を測定することができる。活性化・エージング工程S05において、電極組立体3の体積は増加するが、この電極組立体3の体積増加量Veにはばらつきが生じる。このため、測定工程S03が活性化・エージング工程S05の後に実施されることによって、体積増加量Veのばらつきの影響を受けることなく、ケース2の内部空間容量を測定することができる。これにより、注入量Vaの算出精度を向上することができるので、ケース2の製品内部空間容量Vpの調整精度が向上し、安全機構の作動精度をさらに向上することが可能となる。
【0058】
また、上記実施形態では、調整工程S06は、活性化工程S05の後に実施されるが、測定工程S03の後で、かつ、封止工程S07の前に実施されればよい。