(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720720
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】円筒形ターゲットの製造方法及びその製造方法に用いる粉末焼結用モールド
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20200629BHJP
B28B 3/00 20060101ALI20200629BHJP
B22F 3/14 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
C23C14/34 B
C23C14/34 C
B28B3/00 C
B22F3/14 C
B22F3/14 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-123195(P2016-123195)
(22)【出願日】2016年6月22日
(65)【公開番号】特開2017-57493(P2017-57493A)
(43)【公開日】2017年3月23日
【審査請求日】2019年3月15日
(31)【優先権主張番号】特願2015-180767(P2015-180767)
(32)【優先日】2015年9月14日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】長尾 昌芳
【審査官】
有田 恭子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2015−105414(JP,A)
【文献】
特開昭62−124204(JP,A)
【文献】
実開平02−011125(JP,U)
【文献】
特開昭58−077503(JP,A)
【文献】
特開2009−197903(JP,A)
【文献】
特開2004−323923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00−14/58
B22F 1/00−8/00
B28B 3/00−5/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒状に形成されたスリーブと、該スリーブ内部の中央に配置された芯棒と、前記スリーブと前記芯棒とにより形成されるリング状の空間部に挿入可能に設けられたパンチとを備える粉末焼結用モールドを用い、原料粉末を前記空間部内に投入して前記パンチで前記スリーブの軸方向に押圧した状態で加熱することにより焼結させ、焼結後に冷却する円筒形ターゲットの製造方法であって、
前記芯棒は前記原料粉末の焼結体の熱膨張係数より小さい熱膨張係数の材料により形成されており、
前記原料粉末の焼結後に該原料粉末の焼結体への前記パンチによる押圧を解除するとともに前記芯棒を引き抜き、該芯棒が引き抜かれた状態で前記焼結体の冷却を完了させることを特徴とする円筒形ターゲットの製造方法。
【請求項2】
前記芯棒を前記焼結体の冷却開始前に引き抜くことを特徴とする請求項1に記載の円筒形ターゲットの製造方法。
【請求項3】
前記焼結体から前記芯棒を引き抜く際に、前記パンチを前記焼結体の押圧位置に保持することを特徴とする請求項1又は2に記載の円筒形ターゲットの製造方法。
【請求項4】
筒状に形成されたスリーブと、該スリーブ内部の中央に配置された芯棒と、前記スリーブと前記芯棒とにより形成されるリング状の空間部に挿入可能に設けられたパンチと、前記パンチを押圧可能に設けられたプレス手段とを備え、前記空間部内に原料粉末を投入して前記パンチを介して前記プレス手段により前記スリーブの軸方向に押圧した状態で加熱することにより焼結させ、焼結後に冷却して円筒形ターゲットを製造可能な粉末焼結用モールドであって、
前記プレス手段と前記芯棒とを係脱可能に連結し、前記原料粉末の焼結後における前記プレス手段による焼結体への押圧の解除動作に伴って、該焼結体から前記芯棒を引き抜く連結手段を有することを特徴とする粉末焼結用モールド。
【請求項5】
前記焼結体から前記芯棒を引き抜く際に、前記パンチを前記焼結体の押圧位置に保持する固定手段を有することを特徴とする請求項4に記載の粉末焼結用モールド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置に用いられる円筒形ターゲットの製造方法及びその製造に用いられる粉末焼結用モールドに関する。
【背景技術】
【0002】
円筒形のターゲット材を回転させながらスパッタを行うスパッタリング装置が知られている。このスパッタリング装置においては、バッキングチューブの外周に円筒形ターゲットを形成し、バッキングチューブの内側に磁石を配置するとともに、冷却水を流すことにより、円筒形ターゲットを冷却しつつ、回転させながらスパッタを行うことができ、ターゲット材の使用効率を高めることができる。
【0003】
このような円筒形ターゲットの製造方法としては、例えば、特許文献1に記載されるように、バッキングチューブ(円筒状ターゲットホルダー)の表面に、アンダーコートを形成した後、その外表面周囲にターゲットの金属粉末を充填し、圧力をかけてプレスしながら焼成する方法が知られている。しかし、特許文献1に記載の方法では、バッキングチューブと焼結体との剥離が行えず、バッキングチューブの再利用が難しい。
【0004】
一方、特許文献2に記載されるように、ターゲットの金属粉末を円筒形に成形し、その得られた成形体を焼成することにより焼結体を得る方法が知られている。ところが、このように成形工程と焼結工程とを別々に行うと作業性が悪くなることから、特許文献3に記載されるように、ターゲットの金属粉末をホットプレス用モールドに入れて加圧と加熱を同時に行うことにより焼結体を得るホットプレス法が活用されている。
この特許文献3に記載の方法では、円柱状の焼結体が得られることから、この焼結体の中心部分をくり抜く等の切削加工を施すことにより、所定形状の円筒形ターゲットに形成することができる。また、予めプレスモールド内の中心部分にモールド芯棒を配置しておくことにより、後加工を施すことなく円筒形ターゲットを形成することもできる。
そして、このようにして形成された円筒形ターゲットは、バッキングチューブに接合され、その状態でスパッタリング装置において使用される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平5‐156431号公報
【特許文献2】特開2012‐126587号公報
【特許文献3】特開2013‐49883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、円筒形ターゲットをホットプレス法で製造する場合、特に、熱膨張係数の大きいターゲット材を製造する場合には、焼結後の冷却時においてターゲット材と中央部のモールド芯棒との体積変化の差が大きくなって、ターゲット材がモールド芯棒から離型できなくなることがあり、円筒形ターゲットに割れやクラック等が発生することがある。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、焼結後の冷却時における円筒形ターゲットの割れやクラック等の発生を防止することができる円筒形ターゲットの製造方法及びその製造に用いる粉末焼結用モールドを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、筒状に形成されたスリーブと、該スリーブ内部の中央に配置された芯棒と、前記スリーブと前記芯棒とにより形成されるリング状の空間部に挿入可能に設けられたパンチとを備える粉末焼結用モールドを用い、原料粉末を前記空間部内に投入して前記パンチで前記スリーブの軸方向に押圧した状態で加熱することにより焼結させ、焼結後に冷却する円筒形ターゲットの製造方法であって、
前記芯棒は前記原料粉末の熱膨張係数より小さい熱膨張係数の材料により形成されており、前記原料粉末の焼結後に該原料粉末の焼結体への前記パンチによる押圧を解除するとともに前記芯棒を引き抜き、該芯棒が引き抜かれた状態で前記焼結体の冷却を完了させることを特徴とする。
【0009】
原料粉末の焼結時においては、芯棒がスリーブ内部に配置されており、パンチにより原料粉末を軸方向に押圧することで、原料粉末をスリーブと芯棒との間で強固に押圧することができる。このため、密度の高い円筒形ターゲットを製造することができる。
一方、原料粉末の焼結後から冷却完了前までの間に、すなわち、焼結体が冷却に伴って収縮することで焼結体から芯棒を引き抜き難くなる前に、焼結体から芯棒を引き抜き、その芯棒が引き抜かれた状態で焼結体の冷却を完了させることで、円筒形ターゲットに割れやクラック等を発生させることなく円筒形ターゲットを製造することができる。
【0010】
本発明の円筒形ターゲットの製造方法において、前記芯棒を前記焼結体の冷却開始前に引き抜くとよい。
焼結体の冷却開始前、すなわち焼結体の収縮開始前に芯棒を引き抜くことで、芯棒を容易に引き抜くことができる。したがって、円筒形ターゲットの割れやクラック等の発生を確実に防止できる。
【0011】
本発明の円筒形ターゲットの製造方法において、前記焼結体から前記芯棒を引き抜く際に、前記パンチを前記焼結体の押圧位置に保持するとよい。
焼結体から芯棒を引き抜く際に、パンチを焼結体の押圧位置に保持しておくことで、焼結体が芯棒の引き抜き動作に伴って持ち上げられることがなく、焼結体と芯棒とを容易に離型させることができる。
【0012】
本発明は、筒状に形成されたスリーブと、該スリーブ内部の中央に配置された芯棒と、前記スリーブと前記芯棒とにより形成されるリング状の空間部に挿入可能に設けられたパンチと、前記パンチを押圧可能に設けられたプレス手段とを備え、前記空間部内に原料粉末を投入して前記パンチを介して前記プレス手段により前記スリーブの軸方向に押圧した状態で加熱することにより焼結させ、焼結後に冷却して円筒形ターゲットを製造可能な粉末焼結用モールドであって、前記プレス手段と前記芯棒とを係脱可能に連結し、前記原料粉末の焼結後における前記プレス手段による焼結体への押圧の解除動作に伴って、該焼結体から前記芯棒を引き抜く連結手段を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の粉末焼結用モールドにおいて、前記焼結体から前記芯棒を引き抜く際に、前記パンチを前記焼結体の押圧位置に保持する固定手段を有するとよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、焼結後の冷却時における円筒形ターゲットの割れやクラック等の発生を防止することができるとともに、密度の高い円筒形ターゲットを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明に係る円筒形ターゲットの製造に用いる粉末焼結用モールドの第1実施形態を示す断面図である。
【
図2】
図1に示す粉末焼結用モールドの上面図である。
【
図3】
図1に示す粉末焼結用モールドにおいて、原料粉末の押圧を説明する図である。
【
図4】
図1に示す粉末焼結用モールドにおいて、焼結時を説明する図である。
【
図5】
図1に示す粉末焼結用モールドにおいて、焼結後の芯棒の引き抜きを説明する図である。
【
図6】本発明に係る円筒形ターゲットの製造に用いる粉末焼結用モールドの第2実施形態を示す断面図であり、固定手段を説明するものである。
【
図7】
図6に示す粉末焼結用モールドにおいて、焼結後の芯棒の引き抜きを説明する図である。
【
図8】本発明に係る円筒形ターゲットの製造に用いる粉末焼結用モールドの第3実施形態を示す要部図であり、芯棒の抜き勾配を説明するものである。
【
図9】本発明に係る円筒形ターゲットの製造に用いる粉末焼結用モールドの第4実施形態を示す要部図であり、連結手段の動きを説明するものである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る円筒形ターゲットの製造方法及びその製造に用いる粉末焼結用モールドの実施形態について説明する。
第1実施形態の粉末焼結用モールド100は、
図1から
図5に示すように、筒状のスリーブ1と、スリーブ1の外側に配置されてスリーブ1を保持する外枠2と、スリーブ1内部の中央に配置された円柱状の芯棒3と、これらスリーブ1と芯棒3との底面を支えるベースプレート4と、ベースプレート4とスペーサ51との間に原料粉末7aを挟んでパンチ52を介して押圧するプレス手段53と、このプレス手段53と芯棒3とを係脱可能に連結する連結手段30とを備える。
【0017】
スリーブ1は、
図2に示すように、垂直方向に沿う筒状に形成されている。
スリーブ1の内周面11aは、
図1に示すように、作製する焼結体の大きさに合わせて設けられており、外周面11bは、内周面11aを拡径した円周面に設けられている。
また、スリーブ1の外側に配置される外枠2の内周面21aは、スリーブ1の外周面11bと係合可能に設けられている。
【0018】
スペーサ51は、リング状の平板に形成されている。また、パンチ52は、円筒状に形成されている。プレス手段53は、油圧等により構成され、パンチ52を押圧可能に設けられている。そして、スペーサ51が芯棒3に係合しており、スペーサ51及びパンチ52は、スリーブ1の内周面11aと芯棒3とにより形成されるリング状の空間部6に挿入可能に設けられ、空間部6内に投入した原料粉末7aを、スペーサ51及びパンチ52を介してプレス手段53によってスリーブ1の軸方向(垂直方向)に押圧することができるようになっている。
【0019】
スリーブ1内部の中央に配置される芯棒3は、
図1に示すように、円柱状に形成されている。また、芯棒3は、ベースプレート4上に立設され、適宜の芯合わせ機構によりスリーブ1の内部中央に位置決めされる。
【0020】
また、粉末焼結用モールド100には、
図5に示すように、プレス手段53を原料粉末7aの押圧位置まで下降させた際に、プレス手段53と芯棒3とを係脱可能に連結する連結手段30が設けられている。連結手段30は、例えば、プレス手段53に取り付けられたレバー31と、芯棒3に取り付けられたU字状の係合部34とにより構成される。レバー31は、その一端が支持部32に揺動可能に支持される一方で、他端が外れ止め部33により下方への移動が制限されており、その自重によって支持部32と外れ止め部33との間に架け渡された状態に保持される。そして、このレバー31を係合部34のU字枠内に通すことによりレバー31と係合部34とが連結されるようになっている。具体的には、
図3に示すように、プレス手段53が下降してレバー31が係合部34に近づくと、係合部34の上部によりレバー31が徐々に持ち上げられる。そして、プレス手段53をさらに原料粉末7aの押圧位置まで下降させると、
図4に示すように、係合部34の上部からレバー31の他端が外れて係合部34の枠内に通され、レバー31が支持部32と外れ止め部33との間に架け渡されることで、レバー31と係合部34とが連結されるようになっている。なお、レバー31は、プレス手段53の押圧面にパンチ52との接触位置を避けて、芯棒3の上面と対向する位置に設置される。
【0021】
そして、粉末焼結用モールド100を構成する芯棒3、スリーブ1、外枠2、スペーサ51、パンチ52及びベースプレート4は、カーボン又はセラミックスにより形成される。また、連結手段30及びプレス手段53は、カーボン、セラミックス又はSUS等の金属により形成される。そして、プレス手段53の押圧面には、カーボンが積層されている。本実施形態の粉末焼結用モールド100においては、例えば、1000℃以上の高温領域においても十分な機械強度を有する耐熱材料からなるカーボングラファイト(熱膨張係数4×10
−6/K)により形成されている。
【0022】
次に、上記の粉末焼結用モールド100を用いて、原料粉末から円筒形ターゲットを製造する方法について説明する。
本実施形態においては、原料粉末7aとして、TiO
2粉(焼結体の熱膨張係数9.0×10
−6/K)を用いる。
まず、
図1に示すように、原料粉末7aをスリーブ1と芯棒3との間に形成される空間部6内に投入し、原料粉末7aを充填した状態でスペーサ51により空間部6の上部を閉鎖し、スペーサ51上にパンチ52を載置する。
次に、プレス手段53によってパンチ52に押圧力を加え、真空容器(図示略)内で加熱する。なお、図示は省略するが、加熱は、粉末焼結用モールド100の周囲に配置された加熱用のヒーターにより行われる。
【0023】
そして、原料粉末7aの焼結温度(1000〜1300℃)となった状態で、
図4に白抜き矢印で示すように、パンチ52で垂直方向に所定圧力(10〜20MPa)をかけて加圧し、所定時間(1〜5h)保持することによって、原料粉末7aを焼結させる。
この際、プレス手段53を最も下降させた位置において、そのプレス手段53の下降移動に伴い連結手段30のレバー31と係合部34とが自動的に連結される。
【0024】
焼結後に、
図5に示すように、プレス手段53を上昇させ、焼結体への押圧を解除する。この際、芯棒3が連結手段30によりプレス手段53に連結されているので、プレス手段53の上昇に伴い、プレス手段53と連動して芯棒3が吊り上げられて、芯棒3が焼結体から引き抜かれる。すなわち、焼結体へのプレス手段53による押圧を解除するとともに芯棒3が引き抜かれる。そして、プレス手段53による押圧が解除され、芯棒3が引き抜かれた状態で、焼結体の冷却を完了することにより、円筒形ターゲット7bが製造される。なお、円筒形ターゲット7bは、冷却完了後に、各モールド部材を順次分解することにより、容易に取り出すことができる。
【0025】
このように、焼結体の焼結時においては、芯棒3がスリーブ1の内部に配置されているので、プレス手段53により原料粉末7aを軸方向に押圧することで、原料粉末7aをスリーブ1と芯棒3との間で強固に押圧することができ、密度の高い円筒形ターゲット7bを製造することができる。
【0026】
一方、原料粉末7aの焼結後から冷却完了前までの間に、すなわち、焼結体が冷却に伴って収縮することで焼結体から芯棒3を引き抜き難くなる前に、焼結体から芯棒3を引き抜き、その芯棒3が引き抜かれた状態で焼結体の冷却を完了させることで、円筒形ターゲット7bに割れやクラック等を発生させることなく、円筒形ターゲット7bを製造することができる。
【0027】
また、本実施形態では、芯棒3とプレス手段53とを連結する連結手段30により、プレス手段53による焼結体への押圧の解除動作に伴って、芯棒3を焼結体から引き抜くこととしているので、芯棒3を焼結体の冷却開始前に確実に引き抜くことができる。すなわち、焼結体の収縮開始前に芯棒3を引き抜くことで、芯棒3を焼結体から容易に引き抜くことができる。したがって、円筒形ターゲット7bの割れやクラック等の発生を確実に防止できる。
【0028】
なお、上述の説明では、原料粉末の焼結温度で焼結後、焼結体への押圧を解除し、プレス手段を上昇させることで芯棒を離型しているが、焼結体は芯棒に係合して焼結しているため、焼結体の内径と芯棒の外径とは同径であり、そのためプレス手段の上昇時には、焼結体の内径と芯棒の外径との間には高い摺動抵抗がかかる場合がある。これを避けるため、原料粉末の焼結温度で焼結後、さらに温度を上昇させてから押圧を解除してプレス手段を上昇させても良い。すなわち、原料粉末の焼結温度で焼結後さらに温度を上昇させることによって、芯棒より高い熱膨張係数(熱膨張率)をもつ焼結体は、芯棒より僅かに拡径する。この状態で押圧を解除してプレス手段を上昇すれば、摺動抵抗はより低くなった状態になっているので、容易に焼結体から芯棒を抜くことができる。
【0029】
図6〜
図9は、本発明のその他の粉末焼結用モールドを示している。これらの
図6〜
図9において、第1実施形態の粉末焼結用モールド100と共通要素には同一符号を付して説明を簡略化する。
図6及び
図7に示す第2実施形態の粉末焼結用モールド200は、筒状のスリーブ1と、スリーブ1の外側に配置されてスリーブ1を保持する外枠2と、スリーブ1内部の中央に配置された円柱状の芯棒3と、これらスリーブ1と芯棒3との底面を支えるベースプレート4と、ベースプレート4とスペーサ51との間に原料粉末7aを挟んでスペーサ51及びパンチ52を介して押圧するプレス手段53と、このプレス手段53と芯棒3とを係脱可能に連結する連結手段30とを備える構成とされている点は、第1実施形態の粉末焼結用モールド100と同様である。しかし、第2実施形態の粉末焼結用モールド200には、焼結体と芯棒3との離型をスムーズに行うために、焼結体から芯棒3を引き抜く際に、パンチ52を焼結体の押圧位置に保持する固定手段70が設けられており、この点で第1実施形態の粉末焼結用モールド100と異なる。
【0030】
図6及び
図7に示すように、スリーブ1内部の中央に配置される芯棒3は、円柱状に形成されていることから、原料粉末7aの焼結後から冷却完了前までの間に、焼結体から芯棒3を引き抜く際に生じる抵抗が大きく、焼結体と芯棒3とが外れにくい構成となっている。そこで、第2実施形態の粉末焼結用モールド200においては、焼結体から芯棒3を引き抜く際に、パンチ52を焼結体の押圧位置に保持することで、焼結体が芯棒3の引き抜き動作に伴って持ち上げられることを回避し、焼結体と芯棒3とを容易に離型できるようにしている。具体的には、プレス手段53を原料粉末7aの押圧位置まで下降させた際に、スリーブ1、ベースプレート4及び外枠2等のモールド部材の一部とパンチ52とを固定手段70により連結させることとし、焼結体から芯棒3を引き抜く際に、パンチ52が焼結体の押圧位置で保持されるようにしている。なお、
図6及び
図7では、スリーブ1とパンチ52とを固定手段70により連結可能に設けている。さらに、スリーブ1が芯棒3の引き抜き動作に伴って持ち上げられることがないように、
図6及び
図7に二点鎖線で示すように、スリーブ1と外枠2とを機械的に連結させるとともに、ベースプレート4と外枠2とを機械的に連結させることで、焼結体の周囲のモールド部材を一体に保持することとしている。
【0031】
固定手段70は、例えば、
図6及び
図7に示すように、パンチ52の外周面に形成された係止溝部52aと、この係止溝部52aに係合する鉤部72aを有するアーム部72とにより構成することができる。図示例では、アーム部72が、支持部71に揺動可能に支持されており、この支持部71を介してアーム部72がスリーブ1に固定されている。この場合、プレス手段53を、
図6に示す位置から原料粉末7aの押圧位置まで下降させると、アーム部72がその自重により揺動し、鉤部72aが自動的に係止溝部52aに入り込み、アーム部72がパンチ52を抱え込むようにして連結される。このため、
図7に示すように、プレス手段53の上昇移動に伴い芯棒3が吊り上げられて焼結体から引き抜かれる際に、スペーサ51及びパンチ52とともに、スリーブ1を押圧位置に留めておくことができる。したがって、芯棒3のみをプレス手段53に追従させて吊り上げることができ、焼結体と芯棒3とを容易に離型させることができる。
【0032】
なお、第1実施形態の粉末焼結用モールド100及び第2実施形態の粉末焼結用モールド200においては、芯棒3を円柱状に形成していたが、
図8に示す第3実施形態の粉末焼結用モールド300のように、芯棒8の外周面に、下方に向かうにしたがって徐々に縮径する抜き勾配81を設けることとしてもよい。この場合、
図8(a)に示すように、焼結体の焼結時において原料粉末7aと接する芯棒8の外周面の部分に抜き勾配81が設けられているので、
図8(b)に示すように、焼結後に芯棒8を焼結体から引き抜く際に、焼結体と芯棒8とを容易に離型させることができる。
【0033】
なお、上記第1〜第3実施形態の粉末焼結用モールド100〜300では、連結手段30をレバー31と係合部34とにより構成したが、連結手段はこれに限定されるものではなく、他の連結手段を用いることが可能である。
例えば、
図9に示す第4実施形態の粉末焼結用モールドのように、係止溝部36aを有する吊り部36と、この係止溝部36aに係合する鉤部37aを有するアーム部37とにより連結手段35を構成することもできる。この場合、アーム部37が、支持部38に揺動可能に支持されており、
図9(a)に示す位置から
図9(b)に示す下端位置までプレス手段53を下降させると、アーム部37がその自重により揺動し、鉤部37aが自動的に係止溝部36aに入り込み、アーム部37が吊り部36を抱え込むようにして連結される。したがって、
図9(c)に示すように、プレス手段53の上昇移動に伴い芯棒3を吊り上げることができ、プレス手段53と連動して焼結体から芯棒3を引き抜くことができる。
【0034】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上記実施形態では、円筒形ターゲット7bを製造する原料粉末7aとして、TiO
2粉を例示して説明を行ったが、本発明の円筒形ターゲットの製造方法及びその製造方法に用いる粉末焼結用モールドはTiO
2粉から円筒形ターゲットを製造する場合に限定して適用されるものではなく、例えばCuGa、AZO等のその他の原料粉末から円筒形ターゲットを製造する場合にも適用可能である。
また、このような粉末焼結用モールドとプレス手段を用いた焼結法であれば、寸法精度の高いモールド形状に沿って焼結体(円筒形ターゲット)が形成されるため、常圧焼結法等のモールドを伴わない焼結法や、HIP法等の原料粉末を充填した容器が収縮変形する焼結法に比べ、格段に高い円筒寸法精度をもつ焼結体が得られる。
【符号の説明】
【0035】
1 スリーブ
2 外枠
3,8 芯棒
4 ベースプレート
6 空間部
7a 原料粉末
7b 円筒形ターゲット
31 レバー
34 係合部
30,35 連結手段
36 吊り部
37 アーム部
51 スペーサ
52 パンチ
53 プレス手段
70 固定手段
72 アーム部
100,200,300 粉末焼結用モールド