特許第6720782号(P6720782)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720782
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】混植苗の作成方法
(51)【国際特許分類】
   A01G 9/08 20060101AFI20200629BHJP
   A01G 9/029 20180101ALI20200629BHJP
【FI】
   A01G9/08 605P
   A01G9/029 C
【請求項の数】6
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2016-169830(P2016-169830)
(22)【出願日】2016年8月31日
(65)【公開番号】特開2018-33375(P2018-33375A)
(43)【公開日】2018年3月8日
【審査請求日】2019年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000125
【氏名又は名称】井関農機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】岡田 英博
(72)【発明者】
【氏名】内田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】雑賀 正人
【審査官】 大澤 元成
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−104353(JP,A)
【文献】 特開2002−027833(JP,A)
【文献】 特開2010−088364(JP,A)
【文献】 特開2000−004670(JP,A)
【文献】 特開昭63−256687(JP,A)
【文献】 特開2004−173545(JP,A)
【文献】 特開2001−095389(JP,A)
【文献】 特開平11−266709(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第01197137(EP,A1)
【文献】 特開2001−258317(JP,A)
【文献】 実開昭60−106411(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00− 9/08
A01C 7/00− 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
苗トレイ(2)の育苗セル(121)に播種機(1)で播種した種子から育苗する第1苗(P1)と、該第1苗(P1)を成長させてから同一の育苗セル(121)に第2苗(P2)を移植して混植苗を作成する際、
前記播種機(1)は、前記育苗セル(121)の中心部を避けて種子を播種し、前記育苗セル(121)の中心部、または中心部の近傍に第2苗(P2)の移植位置を確保し、
前記育苗セル(121)に第2苗(P2)を移植する際、移植補助手段(130)で第1苗(P1)を育苗セル(121)の前後方向または左右方向に押し倒し、培土(S)の第2苗(P2)の移植位置を露出させて第2苗(P2)を植え付けるものとし、
前記移植補助手段(130)は、前記苗トレイ(2)の短辺と略同じ幅である側面視で円弧状に屈曲する板体(131)の下部に、育苗セル(121)の前後一端部付近の土中に進入させる突起部(132)を所定間隔毎に形成すると共に、該板体(131)に第2苗(P2)を通過させるガイド孔(133)を形成して構成することを特徴とする混植苗の作成方法。
【請求項2】
前記播種機(1)は、前記育苗セル(121)に投入された培土(S)に種子を播種する播種繰出部材(69)を備え、該播種繰出部材(69)には前記育苗セル(121)の中心部を避けて種子が入り込む播種穴を培土(S)に形成する穴開け突起部(69a)を形成し、
該穴開け突起部(69a)は、前記育苗セル(121)の左右方向の中央部から左右どちらか一側に偏倚する位置に形成し、
該穴開け突起部(69a)が形成した播種穴に播種すると、第1苗(P1)が前記育苗セル(121)の中心部から離間する位置で生育されることを特徴とする請求項1に記載の混植苗の作成方法。
【請求項3】
前記播種機(1)は、前記育苗セル(121)に投入された培土(S)に種子を播種する播種繰出部材(69)を備え、該播種繰出部材(69)には前記育苗セル(121)の中心部を避けて種子が入り込む播種穴を培土(S)に形成する穴開け突起部(69a)を形成し、
該穴開け突起部(69a)は左右中央部に凹部を形成し、左右両側の凸部が培土(S)に播種穴を形成する構成とし、
該穴開け突起部(69a)が形成した播種穴に播種すると、第1苗(P1)が前記育苗セル(121)の中心部から離間する位置で生育されることを特徴とする請求項1に記載の混植苗の作成方法。
【請求項4】
前記培土(S)は、土(E)と植物由来の培地素材(PE)と、酸性度(pH)を弱める転炉スラグ等の調整素材(NE)を混ぜて作成し、
鉱物由来の培地素材(ME)を混ぜないことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の混植苗の作成方法。
【請求項5】
前記培土(S)は、土(E)と、植物由来の培地素材(PE)と、前記第1苗(P1)や第2苗(P2)に病気を発生させるフザリウム菌等の病原体に拮抗するバチルス菌等の菌株(BS)を混ぜて作成し、
鉱物由来の培地素材(ME)を混ぜないことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の混植苗の作成方法。
【請求項6】
前記播種機(1)に、培土(S)に肥料(F)を供給する施肥装置(140)を設け、
該施肥装置(140)が供給する肥料(F)は、施肥から一定の期間が経過したときに肥料(F)の溶出量が増大するシグモイド型のコーティング剤(C)で被覆することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の混植苗の作成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、異なる作物の苗を同一の育苗セルで育苗し、ポット苗として圃場に移植できる混植苗の作成方法の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
苗トレイを搬送しながら培土を敷設し、敷設した培土に播種穴を形成して種籾を播種し、灌水した後に種籾を培土で埋没させ、苗トレイを苗の育成環境とするものがある(特許文献1参照)。
【0003】
また、甘藷の蔓苗をポット苗とすべく、苗トレイの育苗セル内に播種した稲で根鉢を形成してから甘藷の蔓苗P2を挿し込み、稲と甘藷の苗からなるポット苗の育苗方法がある
(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−283940号公報
【特許文献2】特開2015−104353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
稲と甘藷の苗を同じ育苗セル内で一つのポット苗とする、所謂混植を行うとき、稲の苗で培土を固める、所謂根鉢を形成する必要がある。しかしながら、種籾の播種と甘藷の蔓苗の挿し込みと同時に行うと、稲が移植可能な段階まで成長する間に甘藷の蔓苗から根部が過度に発生し、巻かれた状態で育ち、この根部が甘藷に成長すると、収穫に適さない形状になることが多い。
【0006】
これを防止すべく、育苗セルに種籾を播種して稲の苗を先に育苗して根鉢を形成させ、ある程度の段階まで成長した段階で甘藷の蔓苗を挿し込むことで、稲と甘藷の苗がほぼ同時期に移植に適した段階に成長する育苗方法がある。
【0007】
しかしながら、種籾の播種位置が育苗セルの中央付近であると、稲の苗が甘藷の蔓苗を挿し込むべき位置を覆ってしまい、甘藷の蔓苗が差し込みにくく、作業能率が低下する問題がある。
【0008】
また、甘藷の蔓苗を挿し込む段階では、稲の苗P1はある程度成長しているので、茎葉部が培土を覆い隠してしまい、作業者が甘藷の蔓苗P2を挿し込むべき位置を見つけ辛く、作業能率が低下する問題がある。
【0009】
本発明は、混植苗を作る際、甘藷の蔓苗を挿し込みやすくすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、次のような技術的手段を講じた。
【0011】
請求項1に係る発明は、苗トレイ(2)の育苗セル(121)に播種機(1)で播種した種子から育苗する第1苗(P1)と、該第1苗(P1)を成長させてから同一の育苗セル(121)に第2苗(P2)を移植して混植苗を作成する際、前記播種機(1)は、前記育苗セル(121)の中心部を避けて種子を播種し、前記育苗セル(121)の中心部、または中心部の近傍に第2苗(P2)の移植位置を確保し、前記育苗セル(121)に第2苗(P2)を移植する際、移植補助手段(130)で第1苗(P1)を育苗セル(121)の前後方向または左右方向に押し倒し、培土(S)の第2苗(P2)の移植位置を露出させて第2苗(P2)を植え付けるものとし、前記移植補助手段(130)は、前記苗トレイ(2)の短辺と略同じ幅である側面視で円弧状に屈曲する板体(131)の下部に、育苗セル(121)の前後一端部付近の土中に進入させる突起部(132)を所定間隔毎に形成すると共に、該板体(131)に第2苗(P2)を通過させるガイド孔(133)を形成して構成することを特徴とする混植苗の作成方法とした。
【0012】
請求項2に係る発明は、前記播種機(1)は、前記育苗セル(121)に投入された培土(S)に種子を播種する播種繰出部材(69)を備え、該播種繰出部材(69)には前記育苗セル(121)の中心部を避けて種子が入り込む播種穴を培土(S)に形成する穴開け突起部(69a)を形成し、該穴開け突起部(69a)は、前記育苗セル(121)の左右方向の中央部から左右どちらか一側に偏倚する位置に形成し、該穴開け突起部(69a)が形成した播種穴に播種すると、第1苗(P1)が前記育苗セル(121)の中心部から離間する位置で生育されることを特徴とする請求項1に記載の混植苗の作成方法とした。
【0013】
請求項3に係る発明は、前記播種機(1)は、前記育苗セル(121)に投入された培土(S)に種子を播種する播種繰出部材(69)を備え、該播種繰出部材(69)には前記育苗セル(121)の中心部を避けて種子が入り込む播種穴を培土(S)に形成する穴開け突起部(69a)を形成し、該穴開け突起部(69a)は左右中央部に凹部を形成し、左右両側の凸部が培土(S)に播種穴を形成する構成とし、該穴開け突起部(69a)が形成した播種穴に播種すると、第1苗(P1)が前記育苗セル(121)の中心部から離間する位置で生育されることを特徴とする請求項1に記載の混植苗の作成方法とした。
【0014】
請求項4に係る発明は、前記培土(S)は、土(E)と植物由来の培地素材(PE)と、酸性度(pH)を弱める転炉スラグ等の調整素材(NE)を混ぜて作成し、鉱物由来の培地素材(ME)を混ぜないことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の混植苗の作成方法とした。
【0015】
請求項5に係る発明は、前記培土(S)は、土(E)と、植物由来の培地素材(PE)と、前記第1苗(P1)や第2苗(P2)に病気を発生させるフザリウム菌等の病原体に拮抗するバチルス菌等の菌株(BS)を混ぜて作成し、鉱物由来の培地素材(ME)を混ぜないことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の混植苗の作成方法とした。
【0016】
請求項6に係る発明は、前記播種機(1)に、培土(S)に肥料(F)を供給する施肥装置(140)を設け、該施肥装置(140)が供給する肥料(F)は、施肥から一定の期間が経過したときに肥料(F)の溶出量が増大するシグモイド型のコーティング剤(C)で被覆することを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載の混植苗の作成方法とした。
【発明の効果】
【0017】
請求項1の発明により、育苗セル(121)の中央部を避けて第1苗(P1)の種子を播種することにより、第1苗(P1)は育苗セル(121)の外周部で生育するので、育苗セル(121)の中央部、または中央部の近傍に第2苗(P2)を移植することができ、手作業である第2苗(P2)の移植作業の能率が向上する。
また、移植補助手段(130)で第1苗(P1)を押し倒すことにより、培土(S)の第2苗(P2)の移植位置を露出させることができるので、手作業である第2苗(P2)の移植作業の能率が向上する。
【0018】
請求項2の発明により、請求項1に記載の発明の効果に加えて、育苗セル(121)の左右方向の中央部から左右どちらか一側に偏倚する位置に播種穴を開ける穴開け突起部(69a)を、播種繰出部材(69)に形成したことにより、播種機(1)で自動的に播種される種子は、育苗セル(121)の中央部から離れた位置に播種され、育苗セル(121)に第2苗(P2)の移植位置が自動的に形成され、作業能率が向上する。
【0019】
請求項3の発明により、請求項1に記載の発明の効果に加えて、左右両側の凸部が培土(S)に播種穴を開ける穴開け突起部(69a)を、播種繰出部材(69)に形成したことにより、播種機(1)で自動的に播種される種子は、育苗セル(121)の中央部から離れた位置に播種され、育苗セル(121)に第2苗(P2)の移植位置が自動的に形成され、作業能率が向上する
【0020】
請求項4の発明により、請求項1から3のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、培土(S)に鉱物由来の培地素材(ME)を混ぜないことにより、植物由来の培地素材(PE)よりも粒の大きい鉱物由来の培地素材(ME)が、育苗セル(121)に移植する第2苗(P2)の挿し込みの抵抗になることを防止できるので、第2苗(P2)の移植作業の能率が向上する。
【0021】
また、第2苗(P2)を育苗セル(121)に深く挿し込むことができるので、移植した第2苗(P2)が倒れることが防止され、第2苗(P2)の生育が安定する。
また、転炉スラグ等の調整素材(NE)を混ぜて培土(S)の酸性度(pH)を弱めることにより、酸性土壌で増殖しやすい第1苗(P1)や第2苗(P2)を病気に罹らせる病原体の増殖を抑制することができるので、第1苗(P1)や第2苗(P2)が枯れることが防止される。
また、収穫物の収量の減少や品質の低下が防止される。
【0022】
請求項5の発明により、請求項1から3のいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、培土(S)に鉱物由来の培地素材(ME)を混ぜないことにより、植物由来の培地素材(PE)よりも粒の大きい鉱物由来の培地素材(ME)が、育苗セル(121)に移植する第2苗(P2)の挿し込みの抵抗になることを防止できるので、第2苗(P2)の移植作業の能率が向上する
【0023】
また、第2苗(P2)を育苗セル(121)に深く挿し込むことができるので、移植した第2苗(P2)が倒れることが防止され、第2苗(P2)の生育が安定する。
培土(S)に第1苗(P1)や第2苗(P2)を病気に罹らせるフザリウム菌等の病原体に拮抗するバチルス菌等の菌株(BS)を混ぜることにより、病原体の増殖を抑制することができるので、第1苗(P1)や第2苗(P2)が枯れることが防止される。
また、病原体を殺菌する薬剤を土壌に散布する必要がなくなるので、第1苗(P1)と第2苗(P2)、ならびに土壌が汚染されることが防止される。
【0024】
請求項6の発明により、請求項1からのいずれか1項に記載の発明の効果に加えて、施肥装置(140)が供給する肥料(F)をシグモイド型のコーティング剤(C)で被覆したものとすることにより、第1苗(P1)や第2苗(P2)の生育期間が長くなっても、培土(S)中の肥料成分が不足することを防止できるので、第1苗(P1)や第2苗(P2)の生育が安定すると共に、収穫物の品質の向上が図られる
【0025】
(削除)
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】播種機を示す側面図
図2】播種機を示す平面図
図3】育苗箱供給装置の要部を示す平面図
図4】育苗箱供給装置の要部を示す側面図
図5】下受板、上受板及び落とし板を示す斜視図
図6】播種装置の穴開け突起部を備える播種繰出ローラを示す要部側面図
図7】別構成例の播種装置の穴開け突起部を備える播種繰出ローラを示す要部側面図
図8】施肥装置を備える播種機を示す斜視図
図9】(a)育苗セルの中央部から離れた位置に播種穴を開ける穴開け突起を示す要部正面図、(b)育苗セルの中央部の左右位置に播種穴を開ける穴開け突起を示す要部正面図、(c)従来構成である、育苗セルの中央部に播種穴を開ける穴開け突起を示す要部正面図
図10】稲の苗と甘藷の蔓苗が混植されたポット苗を示す移植ポットの要部断面図
図11】(a)育苗中の稲の苗の根部を示す移植ポットの要部断面図、(b)移植前に灌水量を減らして乾燥気味にした稲の苗の根部を示す移植ポットの要部断面図
図12】挿し込み補助具を用いて甘藷の蔓苗を挿し込む作業を示す移植ポットの要部断面図
図13】挿し込み補助具を示す平面図
図14】(a)土に鉱物由来の培地素材と植物由来の培地素材を混ぜて作る従来の培土を示す模式図、(b)土に植物由来の培地素材を混ぜると共に、調整素材や菌株を混ぜて作る培土を示す模式図
図15】シグモイド型の肥料を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0027】
この発明の実施の一形態を、以下に説明する。尚、以下の実施の形態は、あくまで実施の一形態であって、特許請求の範囲を拘束するものではない。
【0028】
まず、図1から図5を用いて、床土詰め、播種及び覆土の作業を行う播種機1について説明する。
【0029】
播種機1は、育苗箱2を一方向に搬送する搬送経路3を備え、該搬送経路3上に支持され該搬送経路3に沿って該搬送経路3の上手側から順に、上下に複数枚に積み重ねられた育苗箱2を下側から順に繰り出して搬送経路3上に供給する育苗箱供給装置4と、育苗箱2に床土を詰める床土詰装置6と、床土を詰めた育苗箱2に灌水する灌水装置29と、育苗箱2に播種する播種装置7と、育苗箱2に覆土する覆土装置8を設けている。
【0030】
なお、育苗箱供給装置4及び床土詰装置6及び播種装置7及び覆土装置8の各々の装置は、他の装置と独立して単独で設置できるように前後左右計4本の脚部9,10で支持されている。
【0031】
また、覆土装置8の前側の左右の脚部10には上下に回動するアーム11を介して該脚部10の下端より下方に突出させることができる車輪12を各々取り付けており、該車輪12を下方に突出させ播種機1を持ち上げて他の脚部9を地面から浮かせることにより、播種機1を容易に移動させることができる。
【0032】
搬送経路3は、左右の搬送ガイド15で構成され、この左右の搬送ガイド15の間で長手方向を前後に向けた育苗箱2を搬送する構成となっている。搬送経路3には、駆動するコンベアとして、ベルト式の育苗箱搬送コンベアである育苗箱供給部搬送コンベア16及び床土詰部搬送コンベア17と、ローラ式の育苗箱搬送コンベアである播種部搬送コンベア18及び覆土部搬送コンベア28を備えている。
【0033】
そして、非駆動でフリーで回転するローラ式のコンベアとして、育苗箱供給部搬送コンベア16と床土詰部搬送コンベア17の間に床土詰前コンベア62を設け、床土詰部搬送コンベア17と播種部搬送コンベア18の間に灌水部コンベア63を設け、播種部搬送コンベア18と覆土部搬送コンベア28の間に覆土前コンベア64を設け、覆土部搬送コンベア28の後側に育苗箱取出コンベア75を設けている。
【0034】
育苗箱供給装置4は、上下に複数枚に積み重ねられた育苗箱群を下側から受ける下受板34と、前記育苗箱群の下から2枚目の育苗箱2を下側から受ける上受板35と、育苗箱群の最下位の育苗箱2を強制的に下方へ落とす落とし板36を備え、人手等により上受板35上に供給された育苗箱群を先ず下受板34上に引き継ぎ、上受板35で育苗箱群の下から2枚目の育苗箱2から上側の育苗箱2を支持した状態で下受板34による育苗箱群の最下位の育苗箱2の支持を解除し、その状態で落とし板36が最下位の育苗箱2を上側から下方に押して育苗箱群から分離して落下させて繰り出して育苗箱供給部搬送コンベア16上に供給し、以下この作動工程を繰り返すことにより育苗箱群の下側の育苗箱2から順に育苗箱供給部搬送コンベア16上に供給する構成としている。
【0035】
なお、下受板34、上受板35及び落とし板36は、育苗箱群に作用する各々の部分が前後方向で重複しないように各々育苗箱群の前後左右4箇所に設けられ、育苗箱群の左右外側から作用し、育苗箱供給部搬送コンベア16の作動に連動し、育苗箱供給部搬送コンベア16上において先に供給した育苗箱2と次に供給する育苗箱2との間に隙間が生じないように作動する。
【0036】
前記伝動構成について説明すると、育苗箱供給モータ94に設けた出力スプロケット95から搬送伝動チェーン96及び駆動スプロケット38へ伝動し、該駆動スプロケット38と一体回転する搬送上手側のローラ37を介して育苗箱供給部搬送コンベア16を駆動する。
【0037】
そして、駆動スプロケット38からチェーン39及び従動スプロケット40を介して第一のカウンタ軸41へ伝動し、該第一のカウンタ軸41と一体回転する駆動スプロケット42からチェーン43、従動スプロケット44及び一方向クラッチを介して第二のカウンタ軸45へ伝動し、該第二のカウンタ軸45の左右両端部に設けた駆動ベベルギヤ46から従動ベベルギヤ47を介して左右各々の落とし用軸48を互いに反対側に駆動回転させる。この落とし用軸48と落とし板36とが一体回転し、落とし板36が左右内側で下側に移行する方向に回転する。
【0038】
また、落とし用軸48の他端部からアーム49,51及びリンク50等を介して落とし用軸48の上方に位置する各々の受板用軸52を所定角度範囲内で揺動させ、該受板用軸52と一体回転する下受板34及び上受板35を揺動させ、下受板34と上受板35とを育苗箱群に交互に作用させて、育苗箱群を順次下降させる。
【0039】
また、第二のカウンタ軸45を手動で回転させるための手動供給操作具となる手動供給レバー53を設けており、該手動供給レバー53により作業者が任意に育苗箱供給部搬送コンベア16上に育苗箱2を落下させて供給することができる。
【0040】
床土詰装置6は、床土となる培土Sを貯留する床土タンク54と、該床土タンク54内の床土を所定量ずつ繰り出して育苗箱2へ落下させて供給する床土繰出具となる床土繰出ベルト55と、育苗箱2上で溢れる床土を均す均平具となる均平ブラシ19と、育苗箱2内に突入して床土を鎮圧する床土鎮圧具となる床土鎮圧ローラ57と、床土繰出ベルト55上の隙間を調節して床土の繰出量を変更調節する床土量調節具となる床土量調節レバーを備え、床土繰出ベルト55が床土を供給する搬送経路3上の床土詰位置の搬送下手側に均平ブラシ19が位置し、均平ブラシ19の搬送下手側に床土鎮圧ローラ57が位置する。
【0041】
床土詰装置6の伝動構成について説明すると、床土繰出モータ20により床土繰出ベルト55が駆動し、該床土繰出ベルト55から歯車伝動機構を介して均平ブラシ19が駆動する。また、床土詰搬送モータ21に設けた出力スプロケット97から搬送伝動チェーン59を介して駆動スプロケット60へ伝動し、該駆動スプロケット60と一体回転する搬送下手側のローラ61により床土詰部搬送コンベア17を駆動する。なお、均平ブラシ19と床土繰出ベルト55とが互いに逆方向に回転する構成としている。
【0042】
なお、床土繰出モータ20又は床土詰搬送モータ21の一方の駆動で、床土繰出ベルト55と均平ブラシ19と床土詰部搬送コンベア17へ伝動する構成としてもよい。
【0043】
播種装置7は、図6に示すとおり、種子タンク68の下部に調節板68bを設けて、種子を所定量ずつ流下口に繰り出し、反時計方向に回転する播種繰出ローラ69の凹溝に種子を取り込み、播種繰出ローラ69の表面に付着した余分の種子を第1ブラシ68dにより落下させる構成とする。該播種繰出ローラ69の外周縁部には、苗トレイ2の床土に接触して種子が入り込む穴開け突起部69a…が、左右方向の所定間隔毎で、且つ円周方向の所定間隔毎に形成される。左右方向の所定間隔、及び円周方向の所定間隔は、苗トレイ2を構成する複数の育苗セル121の左右方向の所定間隔、及び円周方向の所定間隔に対応するものとする。
【0044】
そして、播種繰出ローラ69の上部には回転ブラシ68eをバネにより弾圧的に圧接し、播種繰出ローラ69の凹溝から溢れた種子を除去して種子収容タンク68fに回収し、播種繰出ローラ69の下方に回転した凹溝から搬送中の苗トレイ2の床土に播種する構成としている。
【0045】
また、播種繰出ローラ69の播種位置から種子取り込み位置までの間に固定状の落下ブラシ70を設け、播種できなかった種子を苗トレイ2の床土上に掻き落とし、播種精度の向上と湿った種子の播種精度の向上を図る。
【0046】
また、図7に示すとおり、播種繰出ローラ69の播種位置から種子取り込み位置までの間に回転する第2落下ブラシ68gを設け、播種繰出ローラ69の外周部に第2落下ブラシ68gの外周部を接触させて、播種繰出ローラ69により第2落下ブラシ68gを回転させながら播種残りの種子を落下するように構成してもよい。
【0047】
また、播種装置7は、播種繰出ローラ69に臨む種子タンク68の出口の隙間を調節して播種繰出ローラ69への種子の供給状態を変更調節する種子供給調節具となる種子供給調節ハンドル72を備える。
【0048】
よって、該種子供給調節ハンドル72で調節される種子タンク68の出口から播種繰出ローラ69の繰出溝に種子が供給され、播種繰出ローラ69の回転により該繰出溝が上方へ移動することにより該繰出溝で所定量の種子を移送し、芒、枝梗が付いた種子や芽の伸び過ぎた種子等の播種に不適な種子を繰出溝から除去し、該繰出溝は播種繰出ローラ69の回転により下方へ移動してその下死点位置(播種位置H)で育苗箱2に種子を落下供給する構成となっている。
【0049】
なお、一般的に播種繰出ローラ69の繰出溝は、左右方向(播種繰出ローラ69の回転軸心方向)に長い溝で播種繰出ローラ69の外周に複数配列された構成となっている。種籾の長手方向(長径部)が育苗箱2の長手方向に向くべく、種籾の向きを揃えて育苗箱2へ播種する際は、播種繰出ローラ69の繰出溝を、前後方向(播種繰出ローラ69の回転外周方向)に長い溝で左右に複数配列した構成とすれば、種籾の長手方向(長径部)が繰出溝の方向(前後方向)に沿い、所望の向きで種籾を播種できる。
【0050】
また、播種直後に種籾を床土に軽く押し付ける際は、押付ローラを播種位置Hの直後に設け、押付ローラにより種籾を押し付ける構成とすればよい。
【0051】
播種装置7の伝動構成について説明すると、播種モータ65に設けた出力スプロケット66から繰出伝動チェーン67を介して播種繰出ローラ69へ伝動され、前記出力スプロケット66から第一除去チェーン73及び第二除去チェーン74を介して除去ブラシ70へ伝動され、前記出力スプロケット66から搬送伝動チェーン71を介して播種部搬送コンベア18の搬送下手側のローラ75へ伝動し、該搬送下手側のローラ75からチェーン77を介して搬送上手側のローラ76へ伝動する。尚、搬送上手側のローラ76と搬送下手側のローラ75の間に、播種繰出ローラ69が種子を繰り出して供給する播種位置Hがある。尚、除去ブラシ70及び播種部搬送コンベア18と播種繰出ローラ69とが互いに逆方向に回転するべく、第一除去チェーン73と搬送伝動チェーン71を側面視で交差するように巻き掛けている。尚、播種繰出ローラ69の外周部において除去ブラシ70の位置と播種位置との間には、繰出溝から種子が脱落しないように該繰出溝を覆うガイド体を設けている。
【0052】
覆土装置8は、覆土となる培土Sを貯留する覆土タンク84と、該覆土タンク84内の覆土を所定量ずつ繰り出して育苗箱2へ落下させて覆土位置で供給する覆土繰出具となる覆土繰出ベルト85と、育苗箱2上で溢れる覆土を均す均平具となる均平板86と、覆土繰出ベルト85上の隙間を調節して覆土の繰出量を変更調節する覆土量調節具となる覆土量調節レバーとを備え、覆土繰出ベルト85が覆土を供給する搬送経路3上の覆土位置の搬送下手側に均平板86が位置する。覆土装置8の伝動構成について説明すると、覆土モータ78により覆土繰出ベルト85が駆動し、覆土モータ78に設けた出力スプロケット79から搬送伝動チェーン80を介して覆土部搬送コンベア28の搬送下手側のローラ81へ伝動し、該搬送下手側のローラ81からチェーン98を介して搬送上手側のローラ82へ伝動する。尚、搬送上手側のローラ82と搬送下手側のローラ81の間に、覆土位置がある。尚、覆土繰出ベルト85と覆土部搬送コンベア28とが互いに逆方向に回転するべく、搬送伝動チェーン80を側面視で交差するように巻き掛けている。
【0053】
覆土装置8の前側の脚部10には、育苗箱搬送コンベアを手動で回転させるための操作具となる手動搬送ハンドル92をフック93を介して保持している。この手動搬送ハンドル92により、播種装置7で播種をしている途中で故障で播種機1が停止したときや播種作業を終了するために播種機1を停止させたとき、手動で育苗箱2を搬送して該育苗箱2を播種機1から容易に取り出すことができる。
【0054】
灌水装置29は、灌水部コンベア63の上側に設けられ、灌水部コンベア63の左右の搬送ガイド15から各々立ち上がる左右の支持フレーム100を設け、左右に配列される複数のノズルを備える左右に延びる灌水パイプ99を、左右の支持フレーム100で両持ち支持している。該灌水パイプ99すなわち灌水位置は、灌水部コンベア63の搬送上手寄りの位置に配置されている。
【0055】
床土詰前コンベア62及び灌水部コンベア63及び覆土前コンベア64及び育苗箱取出コンベア75の各々のコンベアは、左右の搬送ガイド15の前後端部で搬送上手側及び搬送下手側の装置に嵌る嵌合部材101により、播種機1本体に対して独立して個別に着脱可能に設けられている。従って、灌水部コンベア63を播種装置7と覆土装置8の間に組み付けることにより、播種装置7と覆土装置8の間に灌水装置29を配置することができる。あるいは、灌水部コンベア63を覆土装置8の後側に組み付けることにより、覆土後に灌水する構成とすることもできる。
【0056】
播種装置7と覆土装置8の間に灌水装置29を配置する際は、灌水装置29と覆土装置8の間隔が十分に得られるように、覆土前コンベア64を灌水部コンベア63の後側に組み付けたり、灌水装置29の後側に組み付けられる覆土前コンベア64を長いコンベアに交換したりすることが望ましい。これにより、床土に吸水性の悪い田土を使用しても、灌水装置29の灌水を床土に浸透させることができ、床土の上面の水がひいた状態で覆土できるので、播種した種籾が酸素欠乏状態になりにくく、安定した発芽率が得られる。また、覆土前コンベア64を非駆動のローラで構成し、この非駆動のローラを任意の位置に組み付けできる構成とすることにより、覆土前コンベア64を伸縮できる構成としてもよい。尚、床土詰装置6と播種装置7の間に灌水装置29を配置する際は、上述と同様の理由から、灌水装置29と播種装置7の間のコンベアを長くすることが望ましい。
【0057】
なお、種子タンク68の上端の開口より覆土タンク84の上端の開口を低位に設け、覆土タンク84の上端の開口より床土タンク54の上端の開口を低位に設けている。これにより、使用量が多いため作業者が頻繁に床土タンク54へスコップで床土を供給しなければならないが、この床土供給作業を低位で容易に行え、次いで供給頻度が高い覆土タンク84への覆土供給作業を容易に行える。しかも、種子タンク68の上端の開口が高位となるので、床土供給作業又は覆土供給作業を行うとき、誤って種子タンク68へ床土又は覆土を供給するようなことを防止でき、土が供給されることで播種装置7が故障するようなことを防止できる。
【0058】
床土タンク54は変形可能なゴム製の弾性体113を介して支持されており、作業者が床土を供給する度にその重みで揺れる構成となっている。これにより、床土タンク54内での床土のブリッジ現象を防止でき、特に水田の土壌等、ブリッジ現象を生じ易い土壌を床土として使用するとき、床土の繰り出しを適正に行える。尚、作業者がスコップ等で床土タンク54に触れることで、床土タンク54を揺らすこともできる。
【0059】
また、左右幅がコンベアの左右幅より小さい(30cm未満の)育苗箱110に播種作業を行うときは、図2に示すように、コンベアの左右一方側にコンベア搬送方向の適宜間隔で複数の規制ガイド112を取り付け、コンベア上の育苗箱110の左右位置を規制するようにすればよい。このとき、播種装置7で繰り出される種子が前記左右一方側の部分で無駄になるので、この種子を受ける受け容器111を播種装置7下方で前記左右一方側の位置に配置すればよい。
【0060】
次に、複数の作物の苗を同一の苗トレイ2で栽培する際、苗の生育の安定や、苗の作成作業を容易にする方法について説明する。
【0061】
苗トレイ2で作物の苗を育成する際、育苗コストの低減を図るべく、複数の作物を同一の苗トレイ2の各育苗セル121で栽培する、いわゆる混植育苗を行うことがある。なお、苗トレイ2は、複数の楔形の育苗セル121…が縦横に並んで形成されるものとする。
【0062】
混植育苗の一例として、図10に示すとおり、先に稲の苗P1、特に飼料米等の品質が重視されにくいものを苗トレイ2の各育苗セル121…で栽培し、稲の根を土中に張らせて根鉢を形成した上で、甘藷等の芋類の苗を植え付け、移植用の苗を育てることがある。
移植に適した段階まで甘藷の蔓苗P2と稲の苗P1が成長すると、甘藷の蔓苗P2と稲の苗P1は培土Sごとポット苗として取り出され、ポット苗に対応する田植機や野菜移植機を用いて、圃場に一緒に植え付けられる。
【0063】
その後、稲は主に地上側が成長して実を付け、稲となる。一方、甘藷は地上側では茎葉部が成長すると共に、地下の根部が実となる。
【0064】
稲が飼料用米であるとき、地表の稲穂はそのまま刈り取られ、牛馬等の家畜の飼料となる。稲穂の収穫後は、地表の甘藷の茎葉部を刈り取り、その後残った蔓を挟持して、土中の甘藷を収穫する。刈り取られた茎葉部は稲穂と共に家畜の飼料となり、甘藷は生食、あるいは焼酎等の加工に用いられる。
【0065】
従来、甘藷の蔓苗P2は、苗床に切り分けた甘藷の蔓を埋設し、約30cm程に伸びるまで育てていたが、生育に要する時間が長く、また、苗床から苗を取るときに作業者が腰を屈める必要があり、余分な労力を費やさせる問題があった。
【0066】
移植に適した苗の長さは、実際は15cm程度でも問題が無く、生育に要する時間については、この段階で移植作業を行うことで解消し得る。しかしながら、この段階の苗は十分に発根しておらず、給水力が弱いので、移植後に水が不足すると生育不良を起こし、甘藷の収量が減少したり、品質が低下する問題が生じる。この問題を解消するには、移植後の灌水作業が必要になり、作業工数が増加すると共に、甘藷の生育に要する水の量が増大し、作業コストが増加する問題が別に生じる。
【0067】
苗トレイ2に苗を挿してポット苗を形成すれば、栽培棚や机の上等の比較的高所で苗の生育を行うことができるので、作業者が腰を屈める必要が無く、苗の回収作業を容易にすることができる。しかしながら、苗トレイ2の育苗セル121内で苗を育てると、培土S内で根部が巻いた状態で成長することがある。甘藷は、根部から実るものであるので、根部が巻かれた状態で生育すると、小さく、且つ収穫作物として適さない変形したものとなってしまう問題がある。この問題は、甘藷の蔓苗P2の育苗と、根鉢を形成する稲の苗P1の育苗を同時に開始し、飼料米の苗を苗トレイ2の育苗セル121から取り出すことが可能になるまで育成したときに生じやすい。
【0068】
上述のとおり、先に稲を苗トレイ2の各育苗セル121に播種して稲の苗P1を育て、根鉢がある程度形成される段階で甘藷の蔓苗P2を植え付けることで、上記の問題が解消される。
【0069】
しかしながら、先に育成する稲の苗P1が育苗セル121の中央付近にあると、甘藷の蔓苗P2を挿し込みにくく、作業能率が低下する問題が残る。これは、苗トレイ2に培土Sと種子を供給し、育苗環境を作成する播種機において、培土Sの表面に播種穴を形成する播種繰出ローラ69に形成する複数の穴開け突起部69a…が、図9(c)に示すとおり、育苗セル121の左右方向の略中央部に接触する構成であることによる。また、種籾は一つの育苗セル121に一粒供給することが確定しているものではなく、二粒以上供給されることもあり、種籾が多く中央部に集まるほど、甘藷の蔓苗P2を挿し込みにくくなる。
【0070】
この問題を防止すべく、図9(a)に示すとおり、前記播種繰出ローラ69に形成する穴開け突起部69a…を、育苗セル121の左右方向の中央部から左右どちらか一側に偏倚する位置に形成する。あるいは、図9(b)に示すとおり、該穴開け突起部69aの左右方向の中央部を凹形状とし、左右両側の凸部が培土Sに播種穴を形成する構成としてもよい。
【0071】
これにより、育苗セル121の左右方向の中央部から離れた位置に播種穴を形成することができるので、育苗セル121の中央部に後から甘藷の蔓苗P2を挿し込みやすくなり、作業能率が向上する。
【0072】
あるいは、前記播種繰出ローラ69に穴開け突起部69aを形成せず、播種後の苗トレイ2の上面に接触して表面を鎮圧する鎮圧ローラ120で種籾を培土Sに押し込む方式としてもよい。該鎮圧ローラ120の表面は凹凸の無い平坦なものとし、種籾を抵抗なく土中に押し込める構成とする。
【0073】
播種穴を形成しないことにより、播種機の播種部分から供給される種子は各育苗セル121の培土S上にランダムに落ちる。種籾の一部は中央部に寄る可能性はあり、甘藷の蔓苗P2を挿し込みにくい育苗セル121が生じる可能性はあるが、上記の穴開け突起部69aを有する形状に成形する必要があり、部品当たりのコストが比較的高価な播種繰出ローラ69を装着する必要が無くなり、播種機1のコストダウンが図られる。
【0074】
甘藷と稲の苗P1を混植して形成するポット苗は、基本的に畑に移植されるが、苗トレイ2で栽培する稲の根部は、図11(a)に示すとおり、灌水条件にもよるが水田圃場に移植する水稲のように水生根(ひげ根)R1が下方に集中的に伸びる傾向にある。このため、畑地に移植した際、周囲に根部が伸びにくく、稲及び甘藷の蔓苗P2が活着しにくくなる問題がある。
【0075】
この問題を解消すべく、畑地への植付作業予定日の数日前、例えば2〜3日前から苗トレイ2への灌水量を減らし、育苗セル121内の培土Sを乾燥気味にする。培土Sが乾燥状態になると、図11(b)に示すとおり、稲の苗P1は陸稲のように外周方向に根部R2を伸ばし始める。これにより、畑地に移植した苗が周囲に根を伸ばしやすく、稲及び甘藷の蔓苗P2が活着しやすくなり、苗の生育が安定すると共に、風等によって植え付けた苗が飛ばされることが防止される。
【0076】
前記苗トレイ2に敷設する培土Sは、従来、図14(a)に示すとおり、土Eにピートモスやヤシ殻等の植物由来の培地素材PEに加えて、バーミキュライト(蛭石)、パーライト(黒曜石、真珠石)やゼオライト(沸石類)等の天然鉱物由来の培地素材MEを混ぜたものが一般的である。上記の天然鉱物を混ぜることにより、保水性の高いピートモスやヤシ殻が過度に水分を保持ことを防止できるので、水分過多による病気の発生や生育不良が防止される。
【0077】
しかしながら、上記の天然鉱物は粒が大きく、後から育苗セル121に甘藷の蔓苗P2を挿し込む際、苗の進入を妨げ、苗の挿し込み作業が妨害され、作業能率が低下する問題がある。
【0078】
よって、混植を行う苗トレイ2に敷設する培土Sは、図14(b)に示すとおり、土Eとピートモスやヤシ殻等の植物由来の培地素材PEを混ぜて作り、天然鉱物由来の培地素材MEを添加しないものとすると、甘藷の蔓苗P2の挿し込み作業の能率が向上すると共に、挿し込む苗の姿勢が生育に適したものとなる。なお、この培土Sは保水性が高く、従来と同様の灌水を行うと水分過多になりやすいので、灌水量を減らしたり、灌水期間を長くあけたりして、培土S中の水分量が稲の苗P1や甘藷の蔓苗P2の生育に適した量となるよう調整する。
【0079】
上記のとおり育苗セル121の中央部分を避けて播種しても、稲の苗P1が根鉢を形成するまで成長させると、稲の茎葉部が培土Sの上方を覆い隠するので、甘藷の蔓苗P2を挿し込む穴を形成する位置が判別しにくい問題がある。
【0080】
この問題を解消しつつ、甘藷の蔓苗P2を挿し込む姿勢を調えるべく、挿し込み補助具130を甘藷の蔓苗P2の挿し込み作業に用いる。
【0081】
該挿し込み補助具130は、図12及び図13に示すとおり、苗トレイ2の短辺と略同じ左右幅を有し、側面視で円弧状に屈曲する板体131の下部に、セルトレイ121の前後一端部付近の土中に進入させることで挿し込み作業の姿勢で挿し込み補助具130を安定させる突起部132…を、左右方向に所定の間隔を空けて形成する。そして、該挿し込み補助具130には、甘藷の蔓苗P2を通過させるガイド孔133を左右方向に所定間隔を空けて形成する。
【0082】
なお、一般的な苗トレイ2は、128個の育苗セル121を有しており、左右方向(短辺)には8個の育苗セル121が並び、前後方向には16個の育苗セル121が並ぶものとする。
【0083】
前記挿し込み補助具130は、左右方向の複数の育苗セル121…の前後一端側に突起部132…を接触させ、挿し込み補助具130の円弧部で上方に伸びる稲の苗P1の茎葉部を押し倒して育苗セル121…の前後他端側に傾け、左右方向に並ぶ複数の育苗セル121…の培土Sに甘藷の蔓苗P2を挿し込む位置を露出させ、前記ガイド孔133…を通じて甘藷の蔓苗P2の植付を補助するものとする。
【0084】
なお、前記挿し込み補助具130を育苗セル121…の前後他端側に接触させ、前後一端側に向けて稲の苗P1の茎葉部を押し倒してもよい。また、挿し込み補助具130を育苗セル121…の前後一端側、または前後他端側のどちらかに接触させると、稲の苗P1の茎葉部が育苗セル121…の左右方向に押し倒されてもよい。
【0085】
前記挿し込み補助具130を用いて甘藷の蔓苗P2の植付位置を露出させたとき、苗の挿し込み作業を行うときは、作業者は挿し込み補助具130から手を離した方が作業を行いやすい。しかしながら、根鉢を形成するまで成長した稲の苗P1は、挿し込み補助具130による押し倒しに抵抗して直立しようとする。一つの育苗セル121の稲の苗P1だけであれば問題は無いが、複数の、例えば8つの育苗セル121…の稲の苗P1が一斉に挿し込み補助具130の押し倒しに抵抗すると、挿し込み補助具130の重さによっては押し返されてしまい、甘藷の蔓苗P2を植え付ける位置が見えなくなってしまう。
【0086】
前記挿し込み補助具130の重量を重くし、複数の苗の押し返す力に負けないものとすることはできるが、苗に加重を掛け過ぎると苗が折れて枯れてしまう。また、たとえ折れなくても、曲がった状態から直立姿勢に戻るまでに時間を要してしまい、直立姿勢に復帰するまでの間に甘藷の蔓苗P2が成長すると、稲の苗P1の姿勢を甘藷の蔓苗P2が乱してしまい、畑に植え付けた後の稲が生育不良を起こす問題がある。
【0087】
所定数の稲の苗P1を押し倒し、且つ挿し込み補助具130を取り除いた後はなるべく速やかに直立姿勢に戻すための挿し込み補助具130の適正重量は、一例ではあるが、最低150gであり、最大で300gとするとよいことが把握されている。但し、苗トレイ2の短辺の育苗セル121…の数や、稲の苗P1の品種によっては、挿し込み補助具130の最低重量を更に軽くすることや、最大重量を更に重くすることも考えられる。
【0088】
上記の挿し込み補助具130を用いることにより、稲の苗P1を傾けて甘藷の蔓苗P2を挿し込むべき位置を視認しやすくすると共に、甘藷の蔓苗P2の挿し込みを補助することができるので、作業能率が向上すると共に、甘藷の蔓苗P2と稲の苗P1が相互に生育しやすい位置に植生するので、植付後の生育が良好になる。これにより、収穫される米や甘藷の品質や収量の向上が図られる。
【0089】
なお、稲の苗P1が植生する育苗セル121に甘藷の蔓苗P2を挿し込む適期は、稲の苗P1の丈が挿し込む甘藷の蔓苗P2の長さと同じ、あるいは甘藷の蔓苗P2よりも長くなったときとする。挿し込む甘藷の蔓苗P2の平均的な長さを15cmとすると、稲の苗P1が平均15cm以上になったときとなる。
【0090】
上記の長さまで稲が成長する頃には、培土S内に稲の苗P1の根部がある程度行き渡っているので、根鉢の強度が甘藷の蔓苗P2の挿し込みに堪え得るものとなっている。また、稲の苗P1がある程度の柔軟性と強度を備えるので、挿し込み補助具130を接触させて押し倒しても、稲の苗P1が直立姿勢に戻る復元性が確保されている。
【0091】
上記により、挿し込んだ甘藷の蔓苗P2、及び稲の苗P1が安定して生育する。
【0092】
なお、挿し込む甘藷の蔓苗P2にカビやフザリウム菌等の病原菌が付着していると、つる割れ病等の病気に罹り、甘藷の蔓や葉が枯れてしまうことがある。
【0093】
カビや病原菌を殺菌すべく、甘藷の蔓苗P2は、圃場に移植する前に殺菌剤を用いて消毒する。しかしながら、甘藷の蔓苗P2自体は殺菌剤の保持力に乏しいので、圃場に移植した後に殺菌剤の効力が切れると、カビや菌類に冒されて病気に罹ることがある。
【0094】
一方、苗トレイ2は培土Sを有するので、移植前に殺菌剤を溶かした水を灌水して殺菌剤を培土Sに含ませる、所謂灌注処理を行うことにより、甘藷の蔓苗P2の周囲に十分な量の殺菌剤を長期間留まらせることができるので、カビや菌類により病気に罹ることが防止される。
【0095】
また、上記のフザリウム菌等は、酸性土壌で繁殖しやすい一方、中性土壌やアルカリ性土壌では繁殖しにくい傾向にあるので、図14(b)に示すとおり、苗トレイ2に投入する培土Sに酸性度を弱める調整素材NE、例えば、転炉スラグ(てんろ灰石)等のアルカリ性物質を加えての酸性度(pH)を7付近に調整する、あるいは調整素材NEを水溶させてアルカリ性にした水を育苗中に灌水して培土Sの酸性度(pH)を7付近に調整することで、菌類の発生を抑制することができる。
【0096】
あるいは、図14(b)に示すとおり、培土S中にフザリウム菌に拮抗作用を有する、例えばバチルス菌(納豆菌)等の菌株BSを混入させてもよい。これにより、フザリウム菌の繁殖が抑えられる。
【0097】
これにより、甘藷の蔓苗P2が育苗中や移植後にカビや菌類による病気に罹りにくくなるので、生育が安定すると共に、収穫される甘藷の収量や品質が向上する。
【0098】
また、殺菌剤や土質を変える調整素材NEを供給する必要がなく、稲の苗P1や甘藷の蔓苗P2、ならびに土壌の汚染が防止される。
【0099】
上記では甘藷の生育を良好にする方法について述べてきたが、次においては、稲の生育を良好にする方方について説明する。
【0100】
播種機1で苗トレイ2を作成した後、稲の苗P1が圃場に移植可能になるまでには時間がかかるので、培土Sには稲を生育させる肥料成分を混入させている。しかしながら、苗の品種、あるいは寒冷地では、苗が圃場に移植可能になるまでの生育期間が長くなるので、生育が完了する前に肥料成分を使い切ってしまい、苗の生育が遅くなることや、肥料不足による品質の低下が生じる問題がある。
【0101】
上記の問題を防止すべく、図8に示すとおり、播種装置7と覆土装置8の間に、播種後の培土Sに肥料Fを供給する施肥装置140を設ける。
【0102】
該施肥装置140に貯留する肥料Fは、図15に示すとおり、培土Sに含まれる肥料Fが尽きる時期まで土中に流出しないよう、ウレタン樹脂等のコーティング剤Cで覆われたコート肥料を用いる。コート肥料のコーティング剤Cが減少して肥料Fが溶出する時期を適正化すべく、コート肥料は施肥から15〜20日後に溶出量が急激に増加する、所謂シグモイド型のものを用いる。
【0103】
上記により、苗の生育期間が長くなっても、培土S中の肥料成分が不足することを防止できるので、苗の生育が安定すると共に、収穫物の品質の向上が図られる。
【符号の説明】
【0104】
1 播種機
2 苗トレイ
69 播種繰出ローラ(播種繰出部材)
69a 穴開け突起部
121 育苗セル
130 挿し込み補助具(移植補助手段)
131 板体
132 突起部
133 ガイド孔
140 施肥装置
BS 病原体に拮抗するバチルス菌等の菌株
シグモイド型のコーディング剤
E 土
肥料
ME 鉱物由来の培地素材
NE 転炉スラグ等の調整素材
P1 稲の苗(第1苗)
P2 甘藷の蔓苗(第2苗)
PE 植物由来の培地素材
pH 酸性度
S 培土
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図8
図9
図10
図11
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図15