(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記放気弁閉止ステップでは、前記圧縮機の駆動回転数を示す回転数情報を取得し、駆動回転数が所定値を上回っていると判断できる場合に前記放気弁を閉じる請求項1から3の何れかに記載の水添加開始方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
水を添加するとシール効果によって圧縮機の性能が向上し、吐出される圧縮空気量が多くなるため、水添加の瞬間に急激なトルクが掛かって圧縮機の駆動が不安定になるおそれがある。また、圧縮機の吐出側に配置される放気弁を閉じたときも、圧縮機に負荷が掛かって回転数を低下させる。特許文献1には、電磁放気弁及び注水制御弁が閉の状態で無注水運転を行って所定時間経過後に注水制御弁を開として注水運転に移行する制御が記載されているものの、運転開始時に電磁放気弁が閉であるため運転開始時点で圧縮機の駆動に負荷が掛かることになる。運転開始から回転数を安定的に上昇させるという点で従来の技術には改善の余地があった。
【0005】
本発明は、運転開始時に圧縮機に掛かる負荷のタイミングを調節することで、水添加式圧縮機の安定的な起動を実現する水添加開始方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水添加式の圧縮機の水添加開始方法であって、放気弁を開いて前記圧縮機の圧縮空気が吐出される吐出側を大気に開放した状態で、駆動源から伝達される駆動力により前記圧縮機の駆動を開始する駆動開始ステップと、前記駆動開始ステップの後に、前記放気弁を閉じる放気弁閉止ステップと、前記放気弁閉止ステップの後に、前記圧縮機へ添加水の供給を開始する添加水供給ステップと、を含む水添加開始方法に関する。
【0007】
添加水供給ステップでは、予め設定された設定時間経過後に、添加水の供給を開始することが好ましい。
【0008】
添加水供給ステップでは、前記圧縮機の駆動トルクを示す駆動トルク情報を取得し、駆動トルクが所定値を上回っていると判断できる場合に添加水の供給を開始することが好ましい。
【0009】
前記放気弁閉止ステップでは、前記圧縮機の駆動回転数を示す回転数情報を取得し、駆動回転数が所定値を上回っていると判断できる場合に前記放気弁を閉じることが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の圧縮機の水添加開始方法によれば、運転開始時に圧縮機に掛かる負荷のタイミングを調節することで、水添加式圧縮機の安定的な起動を実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の好ましい実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書における「ライン」とは、流路、経路、管路等の流体の流通が可能なラインの総称である。
【0013】
図1は、本発明の一実施形態に係る水添加開始方法が適用される空気圧縮システム1の概略図である。
図1に示すように、本実施形態の空気圧縮システム1は、水添加式の圧縮機2と、圧縮機2の原動機としての電気モータ20と、圧縮機2から吐出された圧縮空気の気水分離を行うセパレータタンク3と、セパレータタンク3で気水分離された圧縮空気を冷却するアフタークーラ34と、各種の制御を行う制御部90と、を主要な構成として備える。
【0014】
<圧縮機>
圧縮機2は、水添加式の空気圧縮機である。本実施形態の圧縮機2はスクロール式に構成されており、旋回スクロールを固定スクロール(何れも図示省略)に対して回転させることにより、空気を圧縮して添加水を含む圧縮空気を吐出する。本実施形態では、旋回スクロールの両側面に旋回ラップが設けられ、当該旋回スクロールを挟むように一対の固定スクロールが配置されるタイプのスクロール流体機械が用いられる。なお、圧縮機2は、スクロール式以外のもの、例えばスクリュー式圧縮機を用いることができる。
【0015】
本実施形態の圧縮機2の駆動源には電気モータ20が用いられる。電気モータ20は、その回転数がインバータ21から出力される駆動周波数によって制御される。なお、駆動源としては電気モータ20以外のもの、例えば蒸気で駆動する蒸気エンジン(例えば、スクロール式の膨張機)を用いることができる。
【0016】
圧縮機2には給気ラインL1から圧縮対象の流体として空気が供給される。給気ラインL1にはエアフィルタ22が配置されており、エアフィルタ22を通った清浄な空気が圧縮機2に供給される。
【0017】
給気ラインL1のエアフィルタ22の下流側には給水ラインL2及び戻しラインL3が接続される。給水ラインL2及び戻しラインL3は、何れも圧縮機2に添加水を供給するためのラインである。
【0018】
給水ラインL2は、その上流側の端部が給水源(図示省略)に接続されており、給水源から補給用の添加水を給気ラインL1に供給する。給水ラインL2には給水弁24が配置されている。給水弁24は、制御部90からの指令で動作する電磁弁であり、給水ラインL2を通じた圧縮機2への添加水の供給、停止及び流量を制御する。
【0019】
戻しラインL3は、セパレータタンク3の液相部に接続されており、セパレータタンク3の気水分離で生じた分離水が、戻しラインL3を通じて給気ラインL1に供給され、添加水として圧縮機2で再利用される。戻しラインL3には、上流側から順に、水クーラ25、水フィルタ23、添加水弁30が配置されている。セパレータタンク3から出て戻しラインL3を流通する水は、水クーラ25で冷却された後、水フィルタ23で濾過されて給気ラインL1に送られる。添加水弁30は、制御部90からの指令で動作する電磁弁であり、戻しラインL3を通じた圧縮機2への添加水の供給、停止及び流量を制御する。
【0020】
添加水弁30は圧縮機2の運転中に開放され、給水弁24は圧縮機2の運転中にセパレータタンク3内の減水が検出された場合に開放される。そして、戻しラインL3(又は戻しラインL3と給水ラインL2の両方)から供給される水が添加された空気が給気ラインL1を通じて圧縮機2の空気の吸込口に供給され、圧縮室に送り込まれる。なお、水添加式の圧縮機2は、水潤滑式又は水噴射式等ということもでき、これらの圧縮機2も含まれるものとする。
【0021】
<セパレータタンク>
セパレータタンク3は、圧縮空気から水を分離する気水分離器である。セパレータタンク3には逆止弁31が配置される吐出ラインL4を通じて圧縮機2から水を含んだ圧縮空気が送られ、セパレータタンク3で圧縮空気と水に分離される。セパレータタンク3の内部は、気水分離によって上方の気相部と下方の液相部に分かれる。なお、本実施形態の吐出ラインL4は、圧縮機2の両側スクロール機構のそれぞれから圧縮空気を取り出して合流させた後、セパレータタンク3に送る経路となっており、逆止弁31は合流する部分の下流側に配置される。
【0022】
セパレータタンク3で気水分離された後、圧縮空気はセパレータタンク3の気相部に接続される圧縮空気送出ラインL5を通じて圧縮空気使用機器(図示省略)側に送られる。圧縮空気送出ラインL5には、上流側から順に、一次圧調整弁33、アフタークーラ34、圧力センサ37が配置されている。一次圧調整弁33により、セパレータタンク3の内部圧力が設定圧力以上に保持される。圧縮空気送出ラインL5を流通する圧縮空気はアフタークーラ34で冷却された後、圧縮空気使用機器に送られる。圧力センサ37は、圧縮空気の吐出圧を検出し、制御部90に吐出圧情報を送信する。
【0023】
セパレータタンク3の気相部には放気ラインL6が接続される。放気ライン6にはセパレータタンク3の内部を大気(外部)に開放する放気弁40が配置される。放気弁40は制御部90からの指令で動作する電磁弁であり、放気弁40が開くとセパレータタンク3の内部が大気に開放される。即ち、セパレータタンク3及び吐出ラインL4を通じて圧縮機2の吐出側が大気に開放される。圧縮機2の運転中(定常状態移行後)は、放気弁40は閉状態に制御される。
【0024】
本実施形態の放気ラインL6には、セパレータタンク3の内部の圧力を検出する圧力検出部としての圧力センサ41とセパレータタンク3の内部圧力が所定以上になると作動する安全弁42が配置される。圧力センサ41が検出した圧力情報は制御部90に送信される。
【0025】
セパレータタンク3には、内部の水位を検出する水位検出器32が配置される。水位検出器32は、セパレータタンク3の内部の水位を検出し、水位情報を制御部90に送信する。水位検出器32としては、その構成が特に限定されるものではなく、フロート式や電極式のレベルスイッチ、静電容量式のレベルセンサ等が用いられる。本実施形態では、低水位、中水位、高水位が検出可能な水位検出器32が用いられる。
【0026】
セパレータタンク3の液相部には排水ラインL7が接続される。排水ラインL7には排水弁50が配置されている。排水弁50は制御部90からの指令で動作する電磁弁であり、排水弁50が開くとセパレータタンク3の内部の水が排水ラインL7を通じて外部に排出される。
【0027】
<アフタークーラ;水クーラ>
アフタークーラ34は、圧縮空気送出ラインL5に配置されており、圧縮空気送出ラインL5を通過する圧縮空気の冷却を行う熱交換器である。アフタークーラ34には冷却水ラインL8を通じて冷却水が冷却媒体として供給されている。冷却水ラインL8にはモータバルブ35が配置されており、このモータバルブ35により冷却水の供給制御が行われる。アフタークーラ34の内部の冷却水の流路と圧縮空気の流路は別々になっており、冷却水と圧縮空気が混ざり合うことなく熱交換が行われる。熱交換によって圧縮空気が冷却されるとともに冷却水が加温される。
【0028】
冷却水ラインL8を通じて送られる冷却水は、アフタークーラ34を出た後、水クーラ25に送られる。水クーラ25の内部の冷却水の流路と戻しラインL3から戻される水の流路は別々になっており、冷却水と戻しラインL3を流通する水が混ざり合うことなく熱交換が行われる。これによって戻しラインL6を流通する添加水は冷却水によって冷却され、冷却水は温水となる。この温水は、例えば蒸気ボイラ(図示省略)の給水として利用されたり、各種温水使用機器(図示省略)で使用されたりする。
【0029】
<制御部>
制御部90は、各センサや各電磁弁等に電気的に接続されており、センサ等の情報や使用者等によって入力された指令信号に基づいて空気圧縮システム1の各種の制御を行う。
【0030】
本実施形態の空気圧縮システム1の主要な構成は以上の通りである。圧縮機2の運転中、制御部90は、インバータ21を介して電気モータ20を駆動し、圧縮機2によって戻しラインL3(又は戻しラインL3と給水ラインL2の両方)を通じて水が添加された空気を圧縮する。圧縮機2から吐出された水を含んだ圧縮空気はセパレータタンク3で圧縮空気と水に分離される。セパレータタンク3で分離された圧縮空気はアフタークーラ34で冷却された後、圧縮空気使用機器に送られる。制御部90は、圧力センサ37の検出圧力を監視しながら電気モータ20の駆動制御を行う。また、セパレータタンク3で分離された水は戻しラインL3で水クーラ25によって冷却され、水フィルタ23で濾過された後、給気ラインL1を通じて圧縮機2で再利用される。
【0031】
<水添加開始制御>
次に、圧縮機2の起動時の制御について説明する。本実施形態では圧縮機2の起動時に、駆動開始ステップ、放気弁閉止ステップ、添加水供給ステップの手順を踏んで圧縮機2への水添加が開始される。
【0032】
制御部90が圧縮機2の運転開始指令を受信すると、放気弁40を開状態に制御するとともにインバータ21に指令信号を送信し、インバータ21は指令信号に基づいて周波数制御によって電気モータ20を駆動させる駆動開始ステップに移行する。
【0033】
駆動開始ステップでは、セパレータタンク3(吐出側)が大気に開放された状態で電気モータ20の駆動が開始される。これにより、放気弁40が閉状態となって圧縮機2の吐出側の圧力が高くなっている状態で電気モータ20(原動機)が駆動される場合に比べ、圧縮機2の回転に掛かる負荷が少なくなり、回転数をスムーズに上昇させることができる。この駆動開始ステップの後、放気弁閉止ステップに移行する。
【0034】
放気弁閉止ステップでは、制御部90は、圧縮機2の駆動回転数を示す駆動回転数情報としてインバータ21の駆動周波数を監視する。駆動周波数に基づいて圧縮機2の駆動回転数が予め設定される所定回転数を上回ったと判断した後、制御部90は放気弁40を閉状態に制御する。所定回転数は、放気弁40を閉じても、その負荷によって駆動が停止しない程度の回転数が理論的又は経験的に設定される。この放気弁閉止ステップの後、水添加供給ステップに移行する。なお、圧縮機2に回転数計を配置して回転数計の検出回転数を駆動回転数情報としても用いることもできる。
【0035】
水添加供給ステップでは、制御部90は、放気弁40を閉じてから設定時間を経過した後に、添加水弁30を開状態に制御して戻しラインL3の経路を開く。これによって、セパレータタンク3内の貯留水が添加水として圧縮機2に導入される。
【0036】
設定時間は、水添加に起因する負荷が掛かってもその負荷に耐え得るトルクを確保できる時間として設定されており、装置構成や仕様等によって算出又は実測値によって決められる。設定時間が経過することによって水添加に起因する負荷に十分耐え得る値までトルクが上昇した状態になる。水添加供給ステップにより、水添加が開始された後、圧縮機2は定常状態に移行する。圧縮機2で添加水とともに圧縮された空気は、セパレータタンク3で気水分離された後、アフタークーラ34で冷却されて圧縮空気使用機器(図示省略)に送られる。
【0037】
以上説明した本実施形態によれば、以下のような効果を奏する。
本実施形態の水添加式の圧縮機2の水添加開始方法は、放気弁40を開いて圧縮機2の圧縮空気が吐出される吐出側を大気に開放した状態で、駆動源としての電気モータ20から伝達される駆動力により圧縮機2の駆動を開始する駆動開始ステップと、駆動開始ステップの後に、放気弁40を閉じる放気弁閉止ステップと、放気弁閉止ステップの後に、圧縮機2へ添加水の供給を開始する添加水供給ステップと、を含む。
【0038】
これにより、起動初期には放気弁40が閉じられることに起因する負荷の影響を受けずに圧縮機2の回転数をスムーズに上昇させることができる。また、圧縮機2の回転に負荷を掛ける放気弁40の閉止と水添加開始が同時に行われないので、回転数が大きく失速し不安定になる事態を防止することができる。本実施形態では、負荷が大きい水添加が放気弁40の閉止の後に行われるので、水添加開始時点では十分な値までトルクが上昇しており、水添加の負荷によって回転数が急激に落ちる事態を確実に避けることができる。駆動源としての電気モータ20(又は蒸気エンジン)の駆動初期は無負荷状態で回転数を上昇させるとともに、トルクに掛かるブレーキとなる放気弁40の閉止と水添加を段階的に行ってタイミングをずらすことで、水添加式の圧縮機2の安定的かつ効率的な起動が実現される。
【0039】
また、本実施形態の添加水供給ステップでは、予め設定された設定時間経過後に、添加水の供給を開始する。
【0040】
これにより、装置仕様等に基づいて設定時間を設定することで、複雑な制御を行うことなく、シンプルな処理で圧縮機2の起動の安定化を実現できる。
【0041】
また、本実施形態の放気弁閉止ステップでは、圧縮機2の駆動回転数を示す回転数情報としてインバータ21の周波数情報を取得し、周波数情報から駆動回転数が所定値を上回っていると判断できる場合に放気弁40を閉じる。
【0042】
これにより、放気弁40を閉じる前段階で圧縮機2の回転数を目標値まで確実に上昇させることができ、圧縮機2の起動をより一層安定化することができる。
【0043】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は、上述の実施形態に制限されるものではなく、適宜変更が可能である。
【0044】
上記実施形態の添加水供給ステップでは、放気弁40を閉じてから設定時間経過後に添加水を圧縮機2に供給する方法を採用しているが、水添加を開始するトリガは、これに限定されない。次に、添加水供給ステップにおける添加水の供給を開始するタイミングが上記実施形態と異なる変形例について説明する。なお、システム構成自体は上記実施形態と同様である。
【0045】
変形例の添加水供給ステップでは、圧縮機2の駆動トルクを示す駆動トルク情報を取得し、駆動トルクが所定値を上回っていると判断できる場合に添加水の供給を開始する。
【0046】
これにより、実際に稼動している圧縮機2の駆動トルクが反映されるので、水添加の供給を開始するタイミングをより正確なものにすることができる。
【0047】
駆動トルク情報としては、例えば以下のものを用いることができる。即ち、インバータ21の駆動周波数や回転数計等による圧縮機2の回転数情報と圧力センサ41の検出圧力に基づいてトルク情報を算出してもよい。また、トルクセンサを配置して直接的にトルクを検出してもよい。また、電気モータ20の電流値の変化を回転数やトルクの算出に利用してもよいし、更に、蒸気をエネルギー源とする蒸気エンジンを圧縮機2の駆動源として用いる場合は蒸気の差圧情報等を利用してトルクを算出する方法としてもよい。
【0048】
このように、圧縮機2の駆動回転数や駆動トルクは、事情に応じて適宜の方法で算出、取得することができる。
【0049】
また、本発明は、上記実施形態で説明した空気圧縮システム1の構成に限定されず、種々の水添加式の圧縮機に適用することができる。例えば、セパレータタンクの前にプレセパレータタンクを配置し、セパレータタンクとプレセパレータタンクの間に熱交換器を配置したようなシステムにも本発明を適用することができる。