(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720874
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】タイヤ加硫ブラダーの使用方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/22 20060101AFI20200629BHJP
C08L 9/00 20060101ALI20200629BHJP
C08L 61/04 20060101ALI20200629BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20200629BHJP
B29C 33/40 20060101ALI20200629BHJP
B29C 35/02 20060101ALI20200629BHJP
B29D 30/26 20060101ALI20200629BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
C08L23/22
C08L9/00
C08L61/04
C08K3/04
B29C33/40
B29C35/02
B29D30/26
B60C1/00 Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2016-562664(P2016-562664)
(86)(22)【出願日】2015年12月3日
(86)【国際出願番号】JP2015083943
(87)【国際公開番号】WO2016088817
(87)【国際公開日】20160609
【審査請求日】2018年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2014-245656(P2014-245656)
(32)【優先日】2014年12月4日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100089875
【弁理士】
【氏名又は名称】野田 茂
(72)【発明者】
【氏名】土谷 修司
【審査官】
中川 裕文
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−285525(JP,A)
【文献】
特開2012−092243(JP,A)
【文献】
特開昭61−185548(JP,A)
【文献】
特開昭62−068838(JP,A)
【文献】
特開平10−086156(JP,A)
【文献】
特開2014−184579(JP,A)
【文献】
特開平10−130441(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
B29C 33/40
B29C 35/02− 35/14
B29D 30/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記タイヤ加硫ブラダー用ゴム組成物を用いて成形したタイヤ加硫ブラダーを使用する方法であって、
前記タイヤ加硫ブラダーの、下記式1で定義される複合伸び率が15〜50%となるように、前記タイヤ加硫ブラダーを用いてタイヤ成形が行われることを特徴とするタイヤ加硫ブラダーの使用方法。
式1:複合伸び率=縦方向伸び率*周方向伸び率
縦方向伸び率=タイヤペリフェリ/ブラダーペリフェリ
周方向伸び率=(タイヤ外径−ブラダー外径)/ブラダー外径
タイヤ加硫ブラダー用ゴム組成物: ブチルゴムを含むゴム成分を含有し、前記ブチルゴムは、前記ゴム成分全体を100質量部としたときに92質量部以上を占め、前記ブチルゴムが、0.6〜1.1%の不飽和度を有するブチルゴム(1)30〜100質量%および1.5〜2.0%の不飽和度を有するブチルゴム(2)0〜70質量%から構成される。
【請求項2】
前記ブチルゴム(1)の不飽和度が、0.6〜1.0%であることを特徴とする請求項1に記載の使用方法。
【請求項3】
前記ゴム成分が、ブチルゴム92〜97質量部およびクロロプレンゴム3〜8質量部からなることを特徴とする請求項1に記載の使用方法。
【請求項4】
前記ゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積(N2SA)が70〜120m2/gのカーボンブラックを20〜80質量部およびフェノール系樹脂を1〜15質量部配合することを特徴とする請求項1に記載の使用方法。
【請求項5】
前記タイヤ加硫ブラダーの複合伸び率が30〜40%となるように、前記タイヤ加硫ブラダーを用いてタイヤ成形が行われることを特徴とする請求項1に記載の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加硫ブラダーの製造に用いるゴム組成物およびそれを用いたタイヤ加硫ブラダーに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に空気入りタイヤは、未加硫タイヤを加硫金型に装入し、その未加硫タイヤの内腔にゴム袋状の加硫ブラダーを挿入し、該加硫ブラダー内にスチーム等の加熱加圧媒体を圧入して膨張させ、未加硫タイヤの外面を加硫金型の内面に押圧しながら加硫を行なう工程を経て製造される。
加硫ブラダーを繰り返し使用すると、コンパウンドの熱老化やタイヤから移行してくる硫黄によりゴム同士が架橋して硬くなり、クラックを生じさせ、ブラダーライフ(ブラダーの使用寿命)が終了する。
そこでブラダーライフを延長させるために、当業界では様々な試みがなされている。
例えば下記特許文献1には、複数層からなるタイヤ製造用ブラダーであって、シリコーンゴム組成物を含む最外層と、ブチルゴム組成物を含むブチルゴム層と、を有し、前記最外層と前記ブチルゴム層との間に、シリコーンゴム組成物と樹脂化合物とを含む中間層を有するタイヤ製造用ブラダーが開示されている。
しかし、前記のような従来技術では多層構成であるためにその製造に手間がかかるとともに所望のブラダーライフを得るには至らなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−161766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
したがって本発明の目的は、従来技術よりも簡単な方法で、タイヤ加硫ブラダーに求められる物性を損なうことなく、ブラダーライフを大幅に延長することのできる、タイヤ加硫ブラダー用ゴム組成物およびそれを用いたタイヤ加硫ブラダーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の不飽和度を有するブチルゴムを特定量で配合することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成することができた。
【0006】
すなわち本発明は以下の通りである。
1.ブチルゴムを92質量部以上含むゴム成分100質量部に対し、前記ブチルゴムが、0.6〜1.1%の不飽和度を有するブチルゴム(1)30〜100質量%および1.5〜2.0%の不飽和度を有するブチルゴム(2)0〜70質量%から構成されることを特徴とするタイヤ加硫ブラダー用ゴム組成物。
2.前記ブチルゴム(1)の不飽和度が、0.6〜1.0%であることを特徴とする前記1に記載のタイヤ加硫ブラダー用ゴム組成物。
3.前記ゴム成分が、ブチルゴム92〜97質量部およびクロロプレンゴム3〜8質量部からなることを特徴とする前記1に記載のタイヤ加硫ブラダー用ゴム組成物。
4.前記ゴム成分100質量部に対し、窒素吸着比表面積(N
2SA)が70〜120m
2/gのカーボンブラックを20〜80質量部およびフェノール系樹脂を1〜15質量部配合することを特徴とする前記1に記載のタイヤ加硫ブラダー用ゴム組成物。
5.前記1〜4のいずれかに記載のタイヤ加硫ブラダー用ゴム組成物を用いて成形したタイヤ加硫ブラダー。
6.前記タイヤ加硫ブラダーの複合伸び率が15〜50%となるように、前記タイヤ加硫ブラダーを用いてタイヤ成形が行われることを特徴とする前記4に記載のタイヤ加硫ブラダーを使用する方法。
7.前記タイヤ加硫ブラダーの複合伸び率が30〜40%となるように、前記タイヤ加硫ブラダーを用いてタイヤ成形が行われることを特徴とする前記6に記載のタイヤ加硫ブラダーを使用する方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特定の不飽和度を有するブチルゴムを特定量で配合したので、従来技術よりも簡単な方法で、タイヤ加硫ブラダーに求められる物性を損なうことなく、ブラダーライフを大幅に延長することのできる、タイヤ加硫ブラダー用ゴム組成物およびそれを用いたタイヤ加硫ブラダーを提供することができる。
本発明で使用するブチルゴム(1)は、0.6〜1.1%という低い不飽和度を有している。このように分子中の二重結合量が少ないことから、タイヤから移行してくる硫黄によりゴム同士が架橋する現象が抑制される。また、低い不飽和度を有するブチルゴム(1)は、これよりも高い不飽和度を有するブチルゴムに比べ、良好な破断伸びを有する。したがって、熱老化によるゴムの硬化をも抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
(ゴム成分)
本発明の加硫ブラダー用ゴム組成物は、ゴム成分全体を100質量部としたときに、ブチルゴム(IIR)を92質量部以上含む。そしてこのブチルゴムは、0.6〜1.1%の不飽和度を有するブチルゴム(1)30〜100質量%および1.5〜2.0%の不飽和度を有するブチルゴム(2)0〜70質量%から構成される。
前記ブチルゴム(1)の配合量は、本発明の効果が向上するという観点から、40〜80質量%が好ましく、50〜60質量%がさらに好ましい。
また前記ブチルゴム(2)が配合される場合、その配合量は、ブチルゴム全体に対し、30〜70質量%が好ましい。
【0009】
ここで本発明でいう不飽和度は、
1H−NMRを用いて求めることができる。
本発明の効果が向上するという観点から、ブチルゴム(1)の不飽和度は、0.6〜1.0%が好ましい。また、ブチルゴム(2)の不飽和度は、1.6〜1.8%が好ましい。
【0010】
また本発明におけるゴム成分は、前記のブチルゴム以外に、他のゴム成分を配合することもできる。
とくに本発明においては、クロロプレンゴム(CR)を配合するのが好ましく、その配合量は、ゴム成分全体を100質量部としたときに、ブチルゴム92〜97質量部およびクロロプレンゴム3〜8質量部からなることが好ましい。
【0011】
(カーボンブラック)
本発明では、熱伝導性をさらに高めるために、カーボンブラックを配合することができる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積(N
2SA)は、70〜120m
2/gであることが本発明の効果の観点から好ましい。
カーボンブラックの配合量は、ゴム成分100質量部に対し、例えば20〜80質量部であり、好ましくは40〜70質量部である。
なお窒素吸着比表面積(N
2SA)は、JIS K6217−2に準拠して求めるものとする。
【0012】
(フェノール系樹脂)
本発明では、不飽和度の低いブチルゴム(1)を配合することから、架橋剤としてフェノール系樹脂を配合するのが好ましい。
フェノール系樹脂としては、ノボラック型フェノール樹脂、ノボラック型クレゾール樹脂、ノボラック型レゾルシン樹脂等が挙げられる。
フェノール系樹脂の配合量は、ゴム成分100質量部に対し、例えば1〜15質量部であり、好ましくは5〜10質量部である。
【0013】
本発明に係る加硫ブラダー用ゴム組成物には、前記した成分に加えて、加硫又は架橋剤、加硫又は架橋促進剤、老化防止剤、可塑剤などのゴム組成物に一般的に配合されている各種添加剤を配合することができ、かかる添加剤は一般的な方法で混練して組成物とすることができる。これらの添加剤の配合量も、本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。また本発明の加硫ブラダー用ゴム組成物は従来のタイヤ加硫ブラダーの製造方法に従ってタイヤ加硫ブラダーを製造することができる。
【0014】
なお本発明のタイヤ加硫ブラダーは、下記の式1により算出される複合伸び率が15〜50%となるように、タイヤ成形を行うことが好ましい。
式1: 複合伸び率=縦方向伸び率*周方向伸び率
縦方向伸び率=タイヤペリフェリ/ブラダーペリフェリ
周方向伸び率=(タイヤ外径−ブラダー外径)/ブラダー外径
複合伸び率が上記範囲にあることにより、不飽和度の低いブチルゴム(1)の配合により生じる経時によるモジュラス低下を抑制することができる。これにより、経時によるタイヤ加硫ブラダー表面のシワ発生を防止でき、好ましい。
さらに好ましい前記複合伸び率は、30〜40%である。
【実施例】
【0015】
以下、本発明を実施例および比較例によりさらに説明するが、本発明は下記例に制限されるものではない。
【0016】
実施例1〜8および比較例1〜5
サンプルの調製
表1に示す配合(質量部)において、90リットルの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、180℃でミキサー外に放出させて室温冷却した後、さらにオープンロールにて混練し、ゴム組成物を得た。次に得られたゴム組成物を所定の金型中で190℃、20分間プレス加硫し、タイヤ加硫ブラダーを得た。得られたタイヤ加硫ブラダーについて、以下の試験を行った。なお、タイヤ加硫ブラダーは、タイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤの製造する際に、前記の式1に基づいて求めた複合伸び率が15%(実施例1)、50%(実施例2)または30%(その他の実施例および比較例)となるサイズに調整した。
【0017】
ブラダー使用回数:タイヤサイズ195/65R15の空気入りタイヤを製造し、ブラダーの表面荒れが発生するまでのタイヤ加硫本数を調べた。結果は比較例1の値を100として指数表示した。この指数が高いほどブラダーライフが延長されていることを示す。
破断伸び:JIS K6251に準拠して引張試験にて評価した。結果は比較例1の値を100として指数表示した。この指数が高いほど破断伸びが高いことを示す。
結果を併せて表1に示す。
【0018】
【表1】
【0019】
*1:ブチルゴム(1)(ランクセスラバー社製BUTYL100シリーズ。0.6%または1.1%の不飽和度を有する。)
*2:ブチルゴム(2)(ランクセスラバー社製BUTYL301シリーズ。1.5%または2.0%の不飽和度を有する。)
*3:クロロプレンゴム(昭和電工(株)製ショウプレンW)
*4:カーボンブラック(キャボットジャパン(株)製ショウブラックN220、N
2SA=111m
2/g)
*5:オイル(昭和シェル石油(株)製エキストラクト4号S)
*6:酸化亜鉛(正同化学工業(株)製酸化亜鉛3種)
*7:フェノール系樹脂(日立化成(株)製ヒタノール)
【0020】
前記の表1から明らかなように、実施例1〜8で調製されたゴム組成物は、特定の不飽和度を有するブチルゴム(1)を特定量で配合したので、従来の代表的な比較例1に比べて、破断伸びを悪化させることなく、ブラダーライフが顕著に改善されている。
これに対し、比較例2〜5は、ブチルゴム(1)の配合量が本発明で規定する下限未満であるので、ブラダーライフの改善効果が僅かな範囲に留まっていることが判明した。