特許第6720912号(P6720912)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720912
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】船舶及びバラスト水処理方法
(51)【国際特許分類】
   B63B 13/00 20060101AFI20200629BHJP
   C02F 1/50 20060101ALI20200629BHJP
   C02F 1/70 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
   B63B13/00 Z
   C02F1/50 510A
   C02F1/50 550L
   C02F1/50 540B
   C02F1/50 560Z
   C02F1/50 550H
   C02F1/70 Z
   C02F1/50 520F
   C02F1/50 540C
   C02F1/50 532C
   C02F1/50 532D
   C02F1/50 532H
   C02F1/50 550C
   C02F1/50 550D
【請求項の数】18
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2017-81503(P2017-81503)
(22)【出願日】2017年4月17日
(65)【公開番号】特開2018-47886(P2018-47886A)
(43)【公開日】2018年3月29日
【審査請求日】2019年8月13日
(31)【優先権主張番号】特願2016-182896(P2016-182896)
(32)【優先日】2016年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100084180
【弁理士】
【氏名又は名称】藤岡 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100138140
【弁理士】
【氏名又は名称】藤岡 努
(72)【発明者】
【氏名】下野 勇祐
(72)【発明者】
【氏名】原 耕太
(72)【発明者】
【氏名】長藤 雅則
(72)【発明者】
【氏名】藤原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】岡本 幸彦
【審査官】 福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2008/041470(WO,A1)
【文献】 特表2015−504777(JP,A)
【文献】 特開2013−006173(JP,A)
【文献】 特開2015−160468(JP,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2015−0122465(KR,A)
【文献】 米国特許出願公開第2006/0113257(US,A1)
【文献】 特開平02−222774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63B 13/00
C02F 1/50
C02F 1/66
C02F 1/70
B63J 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶において、
上記バラストポンプは、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能となっており、
上記バラスト水処理装置は、上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に塩素系殺菌剤を供給する殺菌剤供給管を備える殺菌剤供給装置と、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤を供給する還元剤供給管を備える還元剤供給装置と、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を上記還元剤供給装置の還元剤供給管に注入するように殺菌剤供給管を還元剤供給管へ連通させる残留物注入管とを備えることを特徴とする船舶。
【請求項2】
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶において、
上記バラストポンプは、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能となっており、
上記バラスト水処理装置は、上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に塩素系殺菌剤を供給する殺菌剤供給管を備える殺菌剤供給装置と、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤を供給する還元剤供給管を備える還元剤供給装置と、殺菌剤供給管を還元剤供給管へ連通させる残留物注入管とを備え、
殺菌剤供給装置は、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を残留物注入管を経て還元剤供給管に注入し、
還元剤供給装置は、上記バラスト水漲水運転モードの終了後で殺菌剤供給装置内に残った塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部が残留物注入管を経て還元剤供給管に注入されるとき、還元剤供給管に還元剤を供給し、バラスト水排水運転モードのときバラストタンクから取水され船外に排水されるバラスト水に還元剤を供給することを特徴とする船舶。
【請求項3】
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶において、
上記バラストポンプは、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能となっており、
上記バラスト水処理装置は、上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に塩素系殺菌剤を供給する殺菌剤供給管を備える殺菌剤供給装置と、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤を供給する還元剤供給管と該還元剤供給管に設けられ還元剤を収容する混合槽とを備える還元剤供給装置と、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を上記還元剤供給装置の混合槽に注入するように殺菌剤供給管を混合槽へ連通させる残留物注入管とを備えることを特徴とする船舶。
【請求項4】
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶において、
上記バラストポンプは、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能となっており、
上記バラスト水処理装置は、上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に塩素系殺菌剤を供給する殺菌剤供給管を備える殺菌剤供給装置と、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤を供給する還元剤供給管と該還元剤供給管に設けられ還元剤を収容する混合槽とを備える還元剤供給装置と、殺菌剤供給管を混合槽へ連通させる残留物注入管とを備え、
殺菌剤供給装置は、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を残留物注入管を経て混合槽に注入し、
還元剤供給装置は、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部が残留物注入管を経て混合槽に注入されるときには、混合槽に還元剤を収容しており、バラスト水排水運転モードのときバラストタンクから取水され船外に排水されるバラスト水に還元剤を供給することを特徴とする船舶。
【請求項5】
残留物注入管と還元剤供給管の合流点とバラスト水配管との間の配管に、殺菌剤の残留物と還元剤との混合液を受け、還元剤との反応により塩素系殺菌剤から生成して固形物として析出する析出物が細かい粒子状で混合液中に分散している分散液と、分散していない析出物、還元剤とまだ反応していない塩素系殺菌剤の残留物を含む未分散液とに分離する分離装置を設け、未分散液を上記分離装置の入口側に帰還させ、分散液をバラスト水配管に供給するようになっていることとする請求項1又は請求項2に記載の船舶。
【請求項6】
さらに、残留物注入管と還元剤供給管との合流点で、還元剤供給管に注入された塩素系殺菌剤の残留物が還元剤供給管内の還元剤と合流して、生成される混合液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計を、上記合流点よりバラスト水配管側となる下流側の位置に備え、該酸化還元電位計により測定された混合液の酸化還元電位測定値に基づき、残留物注入管に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御する制御装置を備えることとする請求項1又は請求項2に記載の船舶。
【請求項7】
残留物注入管と還元剤供給管との合流点で、還元剤供給管に注入された塩素系殺菌剤の残留物が還元剤供給管内の還元剤と合流して、生成される混合液のpHを測定するpH計を、上記合流点よりバラスト水配管側となる下流側の位置に備え、該pH計により測定された混合液のpH測定値に基づき、残留物注入管に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御する制御装置を備えることとする請求項1又は請求項2に記載の船舶。
【請求項8】
還元剤供給装置は、塩素系殺菌剤の残留物が混合槽内の還元剤と反応して生成される混合液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計を混合槽又は混合槽よりバラスト水配管側となる下流側の位置に備え、該酸化還元電位計により測定された混合液の酸化還元電位測定値に基づき、混合槽に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から混合槽に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御する制御装置を備えることとする請求項3又は請求項4に記載の船舶。
【請求項9】
還元剤供給装置は、塩素系殺菌剤の残留物が混合槽内の還元剤と反応して生成される混合液のpHを測定するpH計を混合槽又は混合槽よりバラスト水配管側となる下流側の位置に備え、該pH計により測定された混合液のpH測定値に基づき、混合槽に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から混合槽に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御する制御装置を備えることとする請求項3又は請求項4に記載の船舶。
【請求項10】
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶でのバラスト水処理方法において、
上記バラストポンプを、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードとに切替え可能とし、
バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤供給装置から還元剤供給管を経て還元剤を供給可能とし、
上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に殺菌剤供給装置から殺菌剤供給管を経て塩素系殺菌剤を供給し、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を、殺菌剤供給管を還元剤供給管へ連通させる残留物注入管を経て上記還元剤供給装置の還元剤供給管に注入することを特徴とするバラスト水の処理方法。
【請求項11】
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶でのバラスト水処理方法において、
上記バラストポンプを、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードとに切替え可能とし、
バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤供給装置から還元剤供給管を経て還元剤を供給可能とし、
上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に殺菌剤供給装置から殺菌剤供給管を経て塩素系殺菌剤を供給し、
上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を、殺菌剤供給管を還元剤供給管へ連通させる残留物注入管を経て還元剤供給管に注入し、
上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部が残留物注入管を経て還元剤供給管に注入されるとき、還元剤供給管に還元剤を供給し、バラスト水排水運転モードのとき、バラストタンクから取水され船外に排水されるバラスト水に還元剤を供給することを特徴とするバラスト水処理方法。
【請求項12】
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶でのバラスト水処理方法において、
上記バラストポンプを、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードとに切替え可能とし、
上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に殺菌剤供給装置から殺菌剤供給管を経て塩素系殺菌剤を供給し、
上記バラスト水漲水運転モードの終了後に、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤供給装置から還元剤を供給する還元剤供給管に設けられ還元剤を収容する混合槽へ、殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を、殺菌剤供給管を混合槽へ連通させる残留物注入管を経て注入することを特徴とするバラスト水処理方法。
【請求項13】
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶でのバラスト水処理方法において、
上記バラストポンプを、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能とし、
上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に殺菌剤供給装置から殺菌剤供給管を経て塩素系殺菌剤を供給し、
上記バラスト水漲水運転モードの終了後に、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤供給装置から還元剤を供給する還元剤供給管に設けられ還元剤を収容する混合槽へ、殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を、殺菌剤供給管を混合槽へ連通させる残留物注入管を経て注入し、
上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部が残留物注入管を経て混合槽に注入されるときには、混合槽に還元剤を収容していて、バラスト水排水運転モードのとき、バラストタンクから取水され船外に排水されるバラスト水に還元剤を供給することを特徴とするバラスト水処理方法。
【請求項14】
残留物注入管と還元剤供給管の合流点とバラスト水配管との間の配管に設ける分離装置により、殺菌剤の残留物と還元剤との混合液を受け、還元剤との反応により塩素系殺菌剤から生成して固形物として析出する析出物が細かい粒子状で混合液中に分散している分散液と、分散していない析出物、還元剤とまだ反応していない塩素系殺菌剤の残留物を含む未分散液とに分離し、未分散液を上記分離装置の入口側に帰還させ、分散液をバラスト水配管に供給することとする請求項10又は請求項11に記載のバラスト水処理方法。
【請求項15】
残留物注入管と還元剤供給管との合流点で、還元剤供給管に注入された塩素系殺菌剤の残留物が還元剤供給管内の還元剤と合流して、生成される混合液の酸化還元電位を、上記合流点よりバラスト水配管側となる下流側の位置に設けられた酸化還元電位計により測定し、混合液の酸化還元電位測定値に基づき、残留物注入管に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御装置により制御することとする請求項10又は請求項11に記載のバラスト水処理方法。
【請求項16】
残留物注入管と還元剤供給管との合流点で、還元剤供給管に注入された塩素系殺菌剤の残留物が還元剤供給管内の還元剤と合流して、生成される混合液のpHを、上記合流点よりバラスト水配管側となる下流側の位置に設けられたpH計により測定し、混合液のpH測定値に基づき、残留物注入管に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御装置により制御することとする請求項10又は請求項11に記載のバラスト水処理方法。
【請求項17】
塩素系殺菌剤の残留物が混合槽内の還元剤と反応して生成される混合液の酸化還元電位を、混合槽又は混合槽よりバラスト水配管側となる下流側の位置に設けられた酸化還元電位計により測定し、混合液の酸化還元電位測定値に基づき、混合槽に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から混合槽に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御装置により制御することとする請求項12又は請求項13に記載のバラスト水処理方法。
【請求項18】
塩素系殺菌剤の残留物が混合槽内の還元剤と反応して生成される混合液のpHを、混合槽又は混合槽よりバラスト水配管側となる下流側の位置に設けられたpH計により測定し、混合液のpH測定値に基づき、混合槽に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から混合槽に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御装置により制御することとする請求項12又は請求項13に記載のバラスト水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船舶のバラストタンクに収容されるバラスト水を、塩素系薬剤の水溶液を殺菌剤として使用して殺菌するバラスト水処理装置を船内に搭載する船舶に関し、より詳しくは、該殺菌剤の残留物による問題を防止する機能を有する船舶に関する。また、本発明は、船舶のバラストタンクに収容されるバラスト水を、塩素系薬剤の水溶液を殺菌剤として使用して殺菌するバラスト水処理方法に関し、より詳しくは、該殺菌剤の残留物による問題を防止する工程を有するバラスト水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
船舶のバラスト水を殺菌剤により殺菌するバラスト水処理の代表例は、船外から取水したバラスト水を濾過した後、濾過後のバラスト水に酸化性物質を含有する殺菌剤を注入し、殺菌剤注入後のバラスト水をバラストタンクに収容又は漲水する殺菌処理と、バラストタンクから取水した殺菌剤注入済みのバラスト水に還元性物質を含有する還元剤を注入し、還元剤注入後のバラスト水を船外へ排水する還元処理とに大別できる。殺菌処理としては、酸化性を有する遊離有効塩素を含有する塩素系薬剤の水溶液を殺菌剤として使用することが知られている(特許文献1〜3)。該塩素系薬剤の水溶液は、固形の塩素系薬剤を水に溶解させることで用意することができる(特許文献4、5)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2011−092899
【特許文献2】特開2013−075250
【特許文献3】特開2011−092898
【特許文献4】特開2013−056296
【特許文献5】国際公開2014/007171
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
塩素系薬剤の水溶液を用意し、その水溶液を用いてバラストタンクに収容すべきバラスト水を殺菌する場合、通常、該バラスト水を殺菌するために本来必要な量よりも多目に、該水溶液を用意する。なぜなら、塩素系薬剤の水溶液を殺菌剤としてバラスト水に注入するためには、少なくとも、該水溶液を該バラスト水まで流通させるための配管が必要であり、本来バラスト水の殺菌に供される量に加え、その配管内に行き渡る量の該水溶液が余分に必要になるからである。
【0005】
しかし、塩素系薬剤の水溶液を本来必要な量よりも多目に用意すると、余分な該水溶液がバラスト水処理に使用されることなく上記配管内と塩素系薬剤を水に溶解して塩素系薬剤の水溶液を塩素系殺菌剤として生成しバラスト水に供給する殺菌剤供給装置内に残留することになる。
【0006】
バラスト水処理に使用されることなく残留する塩素系薬剤の水溶液及び/又は該塩素系薬剤の成分(以下、まとめて又は個別に「殺菌剤残留物」という)が、配管内と殺菌剤供給装置内で、溶媒である水の蒸発により濃化すると、あるいは、殺菌剤残留物の水温低下に伴い、塩素系薬剤の水に対する溶解度が低下すると、塩素系薬剤の成分の析出物が殺菌剤残留物中や、殺菌剤残留物と配管等との接液領域に発生し、堆積し、場合によっては、該析出物が配管内と殺菌剤供給装置内で固化するおそれがある。そのおそれは、塩素系殺菌剤の原料が固形の塩素系薬剤である場合、特に大きくなる。原料が固形であると、水に対する原料の溶解度の低下は、該原料の成分の析出物の発生に直結するからである。
【0007】
上記析出物の発生・堆積・固化は、配管の閉塞、圧損増加その他の流通障害、配管と殺菌剤供給装置に備えてあるミキサー、センサ、バルブ、ポンプ等の機器の機能不全などの不具合(以下、まとめて、殺菌剤残留物に起因する「動作不具合」という)の原因となり、ひいてはバラスト水処理の正常な実行の阻害要因となる。
【0008】
バラスト水処理装置の船内設置場所、船舶の行先、航路、航海時間等によっては、殺菌剤残留物の少なくとも一部の濃化が進行し、また殺菌剤残留物の水温低下により水に対する塩素系薬剤の溶解度が低下する。例えば、赤道直下を航行する船舶の機関室の空調及び通風の機能が不十分であると、機関室の温度は50℃近く(場合によっては50℃超)になることがあるので、そのような機関室内に設置してあるバラスト水処理装置では、水分の著しい蒸発により殺菌剤残留物の少なくとも一部の濃化が短時間で進行する。また、水分の蒸発が緩慢に進む場合であっても、バラスト水をバラスト水としてバラストタンクへ収容しそして該バラスト水をバラストタンクから船外へ排水することを繰り返すバラスト水処理装置が一回目の運転から二回目の運転までの間、長時間活動停止状態に置かれる場合には、少しずつであっても確実に殺菌剤残留物の濃化は進行する。他方、中高緯度の低温海域を航行する船舶の機関室の空調及び通風の機能が不十分であると、機関室内は30℃未満になるので、そのような機関室内に設置してあるバラスト水処理装置では、殺菌剤残留物の水温低下に伴い、水に対する塩素系薬剤の溶解度が低下する。
【0009】
殺菌剤残留物の少なくとも一部の濃化や水に対する塩素系薬剤の溶解度の低下が進行すると、塩素系薬剤の成分の析出物が、殺菌剤残留物中や、殺菌剤残留物とバラスト水処理装置の構成要素(容器、配管系統等)との接液領域に発生し、堆積し、場合によっては固化するので、殺菌剤残留物に起因する動作不具合が起こり、バラスト水処理の正常な実行の阻害要因となる。
【0010】
塩素系薬剤の中には、塩素系薬剤の水溶液から塩素含有ガスを発生させるものがある。例えば、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの場合、その水溶液から塩素含有ガスが発生する。塩素含有ガスはたとえ少量であっても刺激臭を伴う場合が多いので、塩素含有ガスの発生源の周囲の船内作業環境を悪化させる。
【0011】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、塩素系薬剤を水に溶解して得た水溶液を殺菌剤として使用するバラスト水処理の正常な実行の阻害要因の発生を抑制又は防止することができるバラスト水処理装置を搭載する船舶及びバラスト水処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、上述の課題は、次の船舶に関しては、次の第一ないし第九発明、そしてバラスト水処理方法に関しては第十発明ないし第十八発明によって解決される。
【0013】
[船舶]
<第一発明>
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶において、
上記バラストポンプは、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能となっており、
上記バラスト水処理装置は、上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に塩素系殺菌剤を供給する殺菌剤供給管を備える殺菌剤供給装置と、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤を供給する還元剤供給管を備える還元剤供給装置と、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を上記還元剤供給装置の還元剤供給管に注入するように殺菌剤供給管を還元剤供給管へ連通させる残留物注入管とを備えることを特徴とする船舶。
【0014】
<第二発明>
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶において、
上記バラストポンプは、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能となっており、
上記バラスト水処理装置は、上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に塩素系殺菌剤を供給する殺菌剤供給管を備える殺菌剤供給装置と、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤を供給する還元剤供給管を備える還元剤供給装置と、殺菌剤供給管を還元剤供給管へ連通させる残留物注入管とを備え、
殺菌剤供給装置は、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を残留物注入管を経て還元剤供給管に注入し、
還元剤供給装置は、上記バラスト水漲水運転モードの終了後で殺菌剤供給装置内に残った塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部が残留物注入管を経て還元剤供給管に注入されるとき、還元剤供給管に還元剤を供給し、バラスト水排水運転モードのときバラストタンクから取水され船外に排水されるバラスト水に還元剤を供給することを特徴とする船舶。
【0015】
<第三発明>
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶において、
上記バラストポンプは、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能となっており、
上記バラスト水処理装置は、上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に塩素系殺菌剤を供給する殺菌剤供給管を備える殺菌剤供給装置と、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤を供給する還元剤供給管と該還元剤供給管に設けられ還元剤を収容する混合槽とを備える還元剤供給装置と、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を上記還元剤供給装置の混合槽に注入するように殺菌剤供給管を混合槽へ連通させる残留物注入管とを備えることを特徴とする船舶。
【0016】
<第四発明>
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶において、
上記バラストポンプは、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能となっており、
上記バラスト水処理装置は、上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に塩素系殺菌剤を供給する殺菌剤供給管を備える殺菌剤供給装置と、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤を供給する還元剤供給管と該還元剤供給管に設けられ還元剤を収容する混合槽とを備える還元剤供給装置と、殺菌剤供給管を混合槽へ連通させる残留物注入管とを備え、
殺菌剤供給装置は、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を残留物注入管を経て混合槽に注入し、
還元剤供給装置は、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部が残留物注入管を経て混合槽に注入されるときには、混合槽に還元剤を収容しており、バラスト水排水運転モードのときバラストタンクから取水され船外に排水されるバラスト水に還元剤を供給することを特徴とする船舶。
【0017】
<第五発明>
第一発明又は第二発明において、残留物注入管と還元剤供給管の合流点と、バラスト水配管の間の配管に、殺菌剤の残留物と還元剤との混合液を受け、還元剤との反応により塩素系殺菌剤から生成して固形物として析出する析出物が細かい粒子状で混合液中に分散している分散液と、分散していない析出物、還元剤とまだ反応していない塩素系殺菌剤の残留物を含む未分散液とに分離する分離装置を設け、未分散液を上記分離装置の入口側に帰還させ、分散液をバラスト水配管に供給するようになっていることとする船舶。
【0018】
<第六発明>
第一発明又は第二発明において、さらに、残留物注入管と還元剤供給管との合流点で、還元剤供給管に注入された塩素系殺菌剤の残留物が還元剤供給管内の還元剤と合流して生成される混合液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計を、上記合流点よりバラスト水配管側となる下流側の位置に備え、該酸化還元電位計により測定された混合液の酸化還元電位測定値に基づき、残留物注入管に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御する制御装置を備えることとする船舶。
【0019】
<第七発明>
第一発明又は第二発明において、さらに、残留物注入管と還元剤供給管との合流点で、還元剤供給管に注入された塩素系殺菌剤の残留物が還元剤供給管内の還元剤と合流して生成される混合液のpHを測定するpH計を、上記合流点よりバラスト水配管側となる下流側の位置に備え、該pH計により測定された混合液のpH測定値に基づき、残留物注入管に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御する制御装置を備えることとする船舶。
【0020】
<第八発明>
第三又は第四発明において、さらに、還元剤供給装置は、塩素系殺菌剤の残留物が混合槽内の還元剤と反応して生成される混合液の酸化還元電位を測定する酸化還元電位計を混合槽又は混合槽よりバラスト水配管側となる下流側の位置に備え、該酸化還元電位計により測定された混合液の酸化還元電位測定値に基づき、混合槽に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から混合槽に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御する制御装置を備えることとする船舶。
【0021】
<第九発明>
第三又は第四発明において、さらに、還元剤供給装置は、塩素系殺菌剤の残留物が混合槽内の還元剤と反応して生成される混合液のpHを測定するpH計を混合槽又は混合槽よりバラスト水配管側となる下流側の位置に備え、該pH計により測定された混合液のpH測定値に基づき、混合槽に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から混合槽に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御する制御装置を備えることとする船舶。
【0022】
[バラスト水処理方法]
<第十発明>
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶でのバラスト水処理方法において、
上記バラストポンプを、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードとに切替え可能とし、
バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤供給装置から還元剤供給管を経て還元剤を供給可能とし、
上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に殺菌剤供給装置から殺菌剤供給管を経て塩素系殺菌剤を供給し、上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を、殺菌剤供給管を還元剤供給管へ連通させる残留物注入管を経て上記還元剤供給装置の還元剤供給管に注入することを特徴とするバラスト水の処理方法。
【0023】
<第十一発明>
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶でのバラスト水処理方法において、
上記バラストポンプを、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能とし、
バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤供給装置から還元剤供給管を経て還元剤を供給可能とし、
上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に殺菌剤供給装置から殺菌剤供給管を経て塩素系殺菌剤を供給し、
上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を、殺菌剤供給管を還元剤供給管へ連通させる残留物注入管を経て還元剤供給管に注入し、
上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部が残留物注入管を経て還元剤供給管に注入されるとき、還元剤供給管に還元剤を供給し、バラスト水排水運転モードのとき、バラストタンクから取水され船外に排水されるバラスト水に還元剤を供給することを特徴とするバラスト水処理方法。
【0024】
<第十二発明>
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶でのバラスト水処理方法において、
上記バラストポンプを、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能とし、
上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に殺菌剤供給装置から殺菌剤供給管を経て塩素系殺菌剤を供給し、
上記バラスト水漲水運転モードの終了後に、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤供給装置から還元剤を供給する還元剤供給管に設けられ還元剤を収容する混合槽へ、殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を、殺菌剤供給管を混合槽へ連通させる残留物注入管を経て注入することを特徴とするバラスト水処理方法。
【0025】
<第十三発明>
船外から取水したバラスト水を収容するバラストタンクと、バラストタンクへ向け又はバラストタンクからバラスト水を流通させるバラスト水配管と、バラスト水配管にバラスト水を流通させるバラストポンプと、該バラストタンクに収容される前にバラスト水を殺菌するバラスト水処理装置とを具備する船舶でのバラスト水処理方法において、
上記バラストポンプを、船外から取水したバラスト水を上記バラストタンクに向かって流通させて該バラストタンクに収容又は漲水するバラスト水漲水運転モードと、上記バラストタンクから取水されたバラスト水を船外に排水するバラスト水排水運転モードに切替え可能とし、
上記バラスト水漲水運転モードのとき、上記バラストタンクに向かって流通するバラスト水に殺菌剤供給装置から殺菌剤供給管を経て塩素系殺菌剤を供給し、
上記バラスト水漲水運転モードの終了後に、バラスト水配管内を流通するバラスト水に還元剤供給装置から還元剤を供給する還元剤供給管に設けられ還元剤を収容する混合槽へ、殺菌剤供給装置内に残った上記塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部を、殺菌剤供給管を混合槽へ連通させる残留物注入管を経て注入し、
上記バラスト水漲水運転モードの終了後に殺菌剤供給装置内に残った塩素系殺菌剤の残留物の少なくとも一部が残留物注入管を経て混合槽に注入されるときには、混合槽に還元剤を収容していて、バラスト水排水運転モードのとき、バラストタンクから取水され船外に排水されるバラスト水に還元剤を供給することを特徴とするバラスト水処理方法。
【0026】
<第十四発明>
第十発明又は第十一発明において、残留物注入管と還元剤供給管の合流点とバラスト水配管との間の配管に設ける分離装置により、殺菌剤の残留物と還元剤との混合液を受け、還元剤との反応により塩素系殺菌剤から生成して固形物として析出する析出物が細かい粒子状で混合液中に分散している分散液と、分散していない析出物、還元剤とまだ反応していない塩素系殺菌剤の残留物を含む未分散液とに分離し、未分散液を上記分離装置の入口側に帰還させ、分散液をバラスト水配管に供給することとするバラスト水処理方法。
【0027】
<第十五発明>
第十又は第十一発明において、さらに、残留物注入管と還元剤供給管との合流点で、還元剤供給管に注入された塩素系殺菌剤の残留物が還元剤供給管内の還元剤と合流して生成される混合液の酸化還元電位を、上記合流点よりバラスト水配管側となる下流側の位置に設けられた酸化還元電位計により測定し、混合液の酸化還元電位測定値に基づき、残留物注入管に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御装置により制御することとするバラスト水処理方法。
【0028】
<第十六発明>
第十又は第十一発明において、さらに、残留物注入管と還元剤供給管との合流点で、還元剤供給管に注入された塩素系殺菌剤の残留物が還元剤供給管内の還元剤と合流して生成される混合液のpHを、上記合流点よりバラスト水配管側となる下流側の位置に設けられたpH計により測定し、該混合液のpH測定値に基づき、残留物注入管に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御装置により制御することとするバラスト水処理方法。
【0029】
<第十七発明>
第十二発明又は第十三発明において、さらに、塩素系殺菌剤の残留物が混合槽内の還元剤と反応して生成される混合液の酸化還元電位を、混合槽又は混合槽よりバラスト水配管側となる下流側の位置に設けられた酸化還元電位計により測定し、混合液の酸化還元電位測定値に基づき、混合槽に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から混合槽に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御装置により制御することとするバラスト水処理方法。
【0030】
<第十八発明>
第十二発明又は第十三発明において、さらに、塩素系殺菌剤の残留物が混合槽内の還元剤と反応して生成される混合液のpHを、混合槽又は混合槽よりバラスト水配管側となる下流側の位置に設けられたpH計により測定し、混合液のpH測定値に基づき、混合槽に供給する塩素系殺菌剤の残留物の流量及び還元剤供給源から混合槽に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御装置により制御することとするバラスト水処理方法。
【0031】
<本発明による作動原理>
このように構成される本発明による船舶そしてバラスト水処理方法にあっては、船外から取水されたバラスト水をバラストタンクへ収容又は漲水するとき、バラスト水は塩素系殺菌剤により殺菌される。そして、バラストタンクからバラスト水を船外へ排水するとき、バラスト水に含まれる殺菌剤が還元剤により還元される。しかしながら、バラスト水のバラストタンクへの収容又は漲水終了時には、塩素系殺菌剤がバラスト水の殺菌に供されることなく、塩素系殺菌剤を上記バラスト水へ供給するための殺菌剤供給装置内に残留物(以下「殺菌剤残留物」)として留まることになる。このままの状態で、殺菌剤供給装置内に殺菌剤残留物が残留すると、塩素系殺菌剤の成分が析出し析出物の発生、堆積、固化により殺菌剤残留物に起因する動作不具合が生じ、バラスト水処理の正常な実行の阻害要因となる。そこで、本発明の第一、二発明そして第十、十一発明では、バラスト水の漲水運転終了後に、上記殺菌剤供給装置内の殺菌剤残留物を還元剤供給管へ注入して殺菌剤残留物と還元剤とを合流させることで、塩素系殺菌剤を還元して殺菌剤残留物に起因する動作不具合の発生を防止する。
【0032】
第三、四発明そして第十二、十三発明では、上記殺菌剤残留物の少なくとも一部が還元剤を収容する混合槽へ注入され、該混合槽で還元剤により還元される。
【0033】
本発明における好ましい形態としての第五発明そして第十四発明では、殺菌剤残留物と還元剤との混合液が分離装置により、還元剤との反応により塩素系殺菌剤から生成して固形物として析出する析出物が細かい粒子状で混合液中に分散している分散液と、分散していない析出物、還元剤とまだ反応していない塩素系殺菌剤の残留物を含む未分散液とに分離されて、未分散液が分離装置の入口側に帰還されるので、未分散液がバラスト水配管に供給されるということはなく、確実に分散液のみがバラスト水配管に供給される。
【0034】
本発明の好ましい形態としての第六発明そして第十五発明では、還元剤供給管内の殺菌剤残留物と還元剤との混合液の酸化還元電位の測定を行い、酸化還元電位測定値に基づき還元剤供給管に供給する殺菌剤残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御する。このようにすれば、殺菌剤残留物と還元剤との適正な供給のもとで殺菌剤残留物の還元がなされる。
【0035】
さらには、本発明での好ましい形態としての第七発明そして第十六発明では、還元剤供給管内の殺菌剤残留物と還元剤との混合液のpHの測定を行い、pH測定値に基づき還元剤供給管に供給する殺菌剤残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御することが好ましい。このようにすれば、殺菌剤残留物と還元剤との適正な供給のもとで殺菌剤残留物の還元がなされる。
【0036】
さらに、本発明での好ましい形態としての第八発明そして第十七発明では、殺菌剤残留物と還元剤との混合液の酸化還元電位の測定が混合槽又は混合槽よりバラスト水配管側となる下流側の位置で行われ、そして第九発明そして第十八発明では、殺菌剤残留物と還元剤との混合液のpHの測定が混合槽又は混合槽よりバラスト水配管側となる下流側の位置で行われるので、殺菌剤残留物と還元剤とが十分に混合された状態で良好な測定がなされる。酸化還元電位測定値又はpH測定値に基づき還元剤供給管に供給する殺菌剤残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御することが好ましい。このようにすれば、殺菌剤残留物と還元剤との適正な供給のもとで殺菌剤残留物の還元がなされる。
【0037】
なお、本発明において、次に掲げる用語の意味又は解釈は、区別して別段の説明を行う場合を除き、以下のとおりとする。
【0038】
(1)「塩素系薬剤」とは、溶媒である水に溶解したとき、水溶液中での不均化により、殺菌作用を有する遊離有効塩素を放出する薬剤又はその遊離有効塩素を放出し得る物質を生成する薬剤であり、本発明において「固形」、「液状」の場合がある。「固形」とは、常温において粉末、顆粒又は錠剤の状態にあることであり、本発明では、「塩素系薬剤」は「固形」である必要はない。
【0039】
「固形の塩素系薬剤」の代表例は、トリクロロイソシアヌル酸、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム及びその水和物、ジクロロイソシアヌル酸カリウム等である。「塩素系殺菌剤」とは、遊離有効塩素が有する殺菌作用を利用して殺菌を行う薬剤であり、その代表例は、塩素系薬剤の水溶液である。
【0040】
(2)「還元剤」とは、固形であると否と問わず、他の物質から電子を受け取るために用いる薬剤をいい、塩素系殺菌剤との関係では、塩素系殺菌剤に由来する遊離有効塩素を還元するために用いる物質である。還元剤の代表例は、亜硫酸ナトリウム又はその水和物、チオ硫酸ナトリウム又はその水和物、あるいは、それらの水溶液である。
【発明の効果】
【0041】
本発明によれば、第一ないし第四発明そして第十ないし第十三発明は、殺菌剤供給装置に残留する殺菌剤残留物の少なくとも一部を還元剤供給配管に注入し殺菌剤残留物を還元剤と反応させ、遊離有効塩素を還元して消失させるので、特に第三又は第四発明そして第十二又は第十三発明では、混合槽にて殺菌剤残留物を還元剤と十分に混合した状態で反応させることとしたので、その殺菌剤残留物に起因する、容器や配管経路の閉塞、圧損増加その他の流通障害、殺菌剤供給装置と配管経路に備えられた機器の機能不全などの動作不具合の発生を抑制又は防止することができる。
【0042】
また、本発明によれば、殺菌剤残留物の塩素系薬剤の水溶液から塩素含有ガスが発生し、その塩素含有ガスにより船内作業環境の悪化が懸念される場合であっても、還元剤に接触させることにより塩素系薬剤の水溶液(塩素系殺菌剤)中の遊離有効塩素を還元するため、塩素含有ガスの発生は起らないか、抑制される。
【0043】
総じて、本発明によれば、バラスト水処理を正常に実行することができる船舶及びバラスト水処理方法を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明の一実施形態を示す基本構成図である。
図2図1装置に用いられる殺菌剤溶解装置の構成図である。
図3図1装置のバラスト水漲水運転モードを示す説明図である。
図4図1装置の残留物還元処理運転モードを示す説明図である。
図5図1装置のバラスト水排水運転モードを示す説明図である。
図6】本発明の他の形態について示す要部構成図である。
図7】本発明のさらに他の形態について示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
以下、添付図面にもとづき、本発明の実施形態を詳細に説明する。その際、必要に応じて各図を参照しつつ説明するが、各図において共通部分にはこれと同じ符号を付し、その繰り返しの説明は省略する。いうまでもなく、本発明は、図示された実施の形態に限定されない。
【0046】
図1は、本発明に係る船舶が有するバラスト水処理装置の概要構成図である。
【0047】
図1において、本発明に係る船舶は、バラスト水を船外から取水する取水口又はシーチェスト1と、このバラスト水をバラスト水として収容あるいは漲水するバラストタンク2と、該バラストタンク2からバラスト水を取り出してこれを船外へ排水する排水口3とを有し、シーチェスト1とバラストタンク2とをバラスト水配管4で接続している。
【0048】
上記バラスト水配管4には、シーチェスト1から取水されたバラスト水をバラストタンク2へ向け送水するためのバラストポンプ5、バラスト水中の異物やプランクトンを濾過除去するための濾過装置6、濾過後のバラスト水に後述の殺菌剤供給装置20から供給された殺菌剤を混合するための混合器7が設けられている。上記バラスト水配管4には、シーチェスト1とバラストポンプ5との間に第一弁V1、バラストポンプ5と濾過装置6との間に第二弁V2、濾過装置6と混合器7との間に第三弁V3、混合器7とバラストタンク2との間に第四弁V4の諸開閉弁が設けられている。
【0049】
上記バラストタンク2には、バラスト水配管4に加え、バラスト水排水用の第一排水管8が接続されており、該バラストタンク2とバラスト水配管4とを上記第一弁V1とバラストポンプ5との間の位置で接続している。該第一排水管8には第五弁V5が設けられている。また、上記バラスト水配管4からは、上記第四弁V4の直上流位置で、第二排水管9が延びていて排水口3に至っている。該第二排水管9には、第六弁V6が設けられている。
【0050】
また、上記バラスト水配管4には、濾過装置6を通らずに、第二弁V2とバラストポンプ5の間の位置と第三弁V3と混合器7の間の位置を結ぶバイパス管10が設けられている。該バイパス管10には、第七弁V7が設けられている。
【0051】
本実施形態では、かかるバラスト水配管4内を流通するバラスト水に対して、殺菌剤を供給する殺菌剤供給装置20、還元剤を供給する還元剤供給装置30が設けられている。
【0052】
殺菌剤供給装置20は、本実施形態では、固形の塩素系薬剤を水に溶解して水溶液を塩素系殺菌剤として生成する殺菌剤溶解装置21を備え、該殺菌剤溶解装置21で生成された塩素系殺菌剤を、殺菌剤供給管22に設けられた殺菌剤ポンプ23により、第八弁V8を経て、濾過装置6と混合器7との間でバラスト水配管4に設けられた殺菌剤注入口4Aから該バラスト水配管4内を流通するバラスト水へ注入するようになっている。
【0053】
また、還元剤供給装置30は、還元剤を収容する還元剤タンク31を備え、還元剤供給管32に設けられた還元剤ポンプ33により、第九弁V9を経て、混合器7の入口側位置でバラスト水配管4に設けられた還元剤注入口4Bから還元剤をバラスト水配管4内を流通するバラスト水へ注入するようになっている。
【0054】
本実施形態では、取水したバラスト水を濾過し、そして殺菌剤を供給してバラストタンク2へ漲水した後、殺菌剤供給装置20に残留する塩素系殺菌剤の残留物(以下、殺菌剤残留物)を還元剤供給管32へ注入するために、殺菌剤供給管22と還元剤供給管32とが、殺菌剤ポンプ23と第八弁V8の間の位置と、還元剤ポンプ33と第九弁V9の間の位置とを結ぶ残留物注入管40により接続されている。該残留物注入管40と還元剤供給管32とはそれらの接続位置で、殺菌剤残留物と還元剤の流れの合流点Jを形成する。上記残留物注入管40には第十弁V10が設けられている。
【0055】
ここで、殺菌剤残留物とは、殺菌剤供給装置が具備する混合槽21C(図2参照)や殺菌剤供給管22に残留している、未使用の塩素系殺菌剤であり、その少なくとも一部が濃化してできる物質、塩素系殺菌剤の原料である塩素系薬剤と水とを混合してできる水溶液、混合物の少なくとも一つを含んでいる。また、未使用の塩素系殺菌剤の液状物にさらに水が混合された混合物も殺菌剤残留物に含まれる。
【0056】
本実施形態では、上記残留物注入管40からの殺菌剤残留物の流量あるいは還元剤タンク31から還元剤供給管32への還元剤の供給量を制御する制御装置50を有している。該制御装置50は、上記合流点Jと第九弁V9との間で還元剤供給管32に設けられた酸化還元電位計34で得られる酸化還元電位測定値にもとづき、上記殺菌剤の殺菌剤残留物の流量及び還元剤供給量のうち少なくとも一つを調整できるように、殺菌剤ポンプ23及び還元剤ポンプ33又は第十弁V10の開度を制御する。
【0057】
上記殺菌剤供給装置20の殺菌剤溶解装置21は、図2に見られるごとく、固形殺菌剤を受けるホッパ21Aと、該ホッパ21Aの下端に設けられていてホッパ21A内の固形殺菌剤を切り出し供給するフィーダ21Bと、切り出された固形殺菌剤と清水とを受けてこれらを混合して混合液を生成する混合槽21Cと、混合液を送出するポンプ21Dと、この混合液を受けて殺菌剤溶解液と殺菌剤未溶解液とに分離する分離装置としてのサイクロン21Eとを有している。サイクロン21Eは、殺菌剤溶解液を殺菌剤溶解液排出口21E−1から排出し殺菌剤未溶解液を殺菌剤未溶解液排出口21E−2から循環ライン21Hを経てポンプ21Dへ帰還して再度混合液へ合流する。サイクロン21Eの殺菌剤溶解液排出口21E−1には弁21Fが設けられ、混合槽21Cの清水の注入口には弁21Gが設けられている。
【0058】
このような構成の本実施形態装置は、第一弁V1ないし第九弁V9の開閉切り替えにより、その運転モードを、バラスト水漲水運転モード、残留物還元処理運転モード、バラスト水排水モードのいずれかに設定される。
【0059】
次に、本実施形態について、各モード別にその運転要領を説明するが、それに先立ち、殺菌剤供給装置20における殺菌剤溶解装置21の作動を説明する。
【0060】
<殺菌剤溶解装置>
殺菌剤溶解装置21では、先ず、混合槽21Cへ清水を供給するとともに、ホッパ21A内の固形塩素系薬剤をフィーダ21Bで所定量だけ切り出して混合槽21Cへ供給して上記清水と混合することで混合液を生成する。次に、混合槽21Cから混合液をポンプ21Dによりサイクロン21Eへ送る。しかる後、サイクロン21Eで混合液を固形塩素系薬剤が水に溶解した殺菌剤溶解液と未溶解の固形塩素系薬剤を含む殺菌剤未溶解液とに分離し、殺菌剤未溶解液を循環ライン21Hを介してポンプ21Dへ帰還する。かくして、殺菌剤未溶解液を混合槽21Cから供給される混合液に混入させて混合液として再びサイクロン21Eへ送る。殺菌剤溶解液の濃度が所定濃度に達するまで弁V21Fを閉じておき、上記殺菌剤未溶解液は、循環ライン21Hを循環する間に、未溶解の固形塩素系薬剤が溶解して所定濃度の殺菌剤溶解液を得る。バラスト水漲水運転時に所定濃度の殺菌剤溶解液は、殺菌剤として殺菌剤ポンプ23により殺菌剤供給管22を通り殺菌剤注入口4Aに送られ、バラスト水配管4内を流通するバラスト水に供給される。
【0061】
殺菌剤供給装置20では、バラスト水への殺菌剤の供給を停止したときには、混合槽21C、ポンプ21D、サイクロン21E、循環ライン21H、殺菌剤供給管22、殺菌剤ポンプ23に殺菌剤(固形塩素系薬剤の溶解液)の殺菌剤残留物が残留している。この殺菌剤残留物には塩素系殺菌剤が存在しており、何ら処理しないと、配管の腐食、水分蒸発により生じる析出物の配管内への固着、閉塞、塩素ガスの発生等の問題が生じる。この問題の対処要領については、残留物還元処理運転の項で説明する。
【0062】
<バラスト水漲水運転>
バラスト水をバラストタンク2へ漲水するには、先ず、第一排水管8の第五弁V5、バイパス管10の第七弁V7、還元剤供給管32の第九弁V9、第二排水管9の第六弁V6を閉とし、バラスト水配管4の第一弁V1、第二弁V2、第三弁V3、第四弁V4そして殺菌剤供給管22の第八弁V8を開とする。このように弁の開閉切替えを行うと、図3に見られるように配管のうち太線で示される配管が流通状態となり、他の細線で示される配管では非流通状態となり、バラスト水漲水運転モードとなる。
【0063】
このバラスト水漲水運転モードでは、図3に示されるように、バラスト水配管4のうち、シーチェスト1から殺菌剤注入口4Aまでのバラスト水取水ラインL1、殺菌剤注入口4Aからバラストタンク2までのバラスト水漲水ラインL2がそれぞれ形成される。
【0064】
このバラスト水漲水運転モードのもとで、バラストポンプ5を運転すると、シーチェスト1を経て船外からバラスト水が取水されてバラスト水取水ラインL1を流れ、該バラスト水は、濾過装置6へもたらされ、ここでバラスト水中の異物やプランクトンが濾過除去される。濾過後のバラスト水は混合器7へ向う。
【0065】
上記バラストポンプの運転と同時あるいはその後に、殺菌剤ポンプ23を運転し、殺菌剤供給管22を介して殺菌剤注入口4Aからバラスト水漲水ラインL1を流通するバラスト水に殺菌剤(図2に示された殺菌剤溶解装置21で固形塩素系薬剤を溶解して得られた殺菌剤溶解液)を供給して、バラスト水中の細菌を殺菌する。殺菌剤溶解液は混合器7にてバラスト水に混合されて、殺菌が良好に行われる。かくして、殺菌済のバラスト水がバラスト水漲水ラインL2を経てバラストタンク2へ送られここに漲水される。
【0066】
<残留物還元処理運転>
本発明では、バラスト水の殺菌に供されることなく殺菌剤供給装置20、殺菌剤供給管22等内に残留した残留物に含まれる塩素系殺菌剤を還元することとしており、残留物還元処理運転について説明する。
【0067】
先ず、バラスト水配管4の第一弁V1,第二弁V2、第三弁V3そして第四弁V4のすべての弁を閉としてシーチェスト1からのバラスト水の取水を停止し、これとともに、殺菌剤供給管22の第八弁V8も閉じ、一方、残留物注入管40の第十弁V10と還元剤供給管32の第九弁V9を開としておく。かくして、図4で太線で示されるごとく、殺菌剤溶解装置21から残留物注入管40を経て合流点Jに至るまでのラインが、還元剤供給管32から還元剤注入口4Bを経てバラスト水配管4の第四弁V4に至るラインと接続するようになる。
【0068】
バラスト水としてバラスト水を船外から取水する運転を停止し、取水したバラスト水への殺菌剤を供給する操作(殺菌剤ポンプ23の運転)を停止した時点で、殺菌剤供給装置20には、殺菌剤を含む殺菌剤残留物が残留している。そこで、上述のように、上記第九弁V9、第十弁V10を開として、図4で太線で示されるラインを流通状態として、還元剤ポンプ33を運転し還元剤供給管32へ還元剤を流送するとともに、殺菌剤溶解装置21へ清水を供給し殺菌剤ポンプ23を運転することで殺菌剤溶解装置21から装置内の殺菌剤残留物を残留物注入管40を経て還元剤供給管32へ流送する。殺菌剤溶解装置21へ清水を供給することなく殺菌剤残留物を残留物注入管40を介して還元剤供給管32へ流送するようにしてもよい。
【0069】
還元剤供給管32の殺菌剤残留物と還元剤との合流点Jより下流側では、殺菌剤残留物と還元剤とが合流、混合され、殺菌剤残留物に含まれる塩素系殺菌剤中の遊離有効塩素が還元剤と反応して、遊離有効塩素が消失される還元処理がなされる。
【0070】
かくして、還元処理された殺菌剤残留物と還元剤との混合液は、還元剤注入口4Bと第四弁V4との間でバラスト水配管4内に貯留される。殺菌剤残留物と還元剤との合流点Jと酸化還元電位計34との間に混合槽を設けることとするならば、混合液は、その混合状態をさらに良好とすることができる。このバラスト水配管4内に貯留される混合液は、後述のバラスト水排水運転時に船外へ排出される。また、還元処理された殺菌剤残留物と還元剤との混合液は、バラスト水配管4内に送出された後、バラストタンク2に送水されてもよい。
【0071】
殺菌剤残留物と還元剤とを十分に混合して殺菌剤残留物中の遊離有効塩素を消失させる還元処理を促進させるとともに、還元剤との反応により塩素系殺菌剤から生成して固形物として析出する成分(析出物という)が結晶化して装置や配管内面に固着することを防ぐように、析出物を細かい粒子状で混合液中に分散させる分散手段を設けることが好ましい。固形塩素系薬剤がジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの場合は、イソシアヌル酸が固形物として析出する。
【0072】
上記分散手段としては、例えば、図6に見られるようなサイクロン35と循環ライン36とポンプ37を設けることができる。図6に見られるように、残留物注入管40と還元剤供給管32との合流点Jと、バラスト水配管4の還元剤注入口4Bとを結ぶ管路にサイクロン35を配する。該サイクロン35にて、殺菌剤残留物と還元剤との還元剤との混合液を受け、還元剤との反応により塩素系殺菌剤から生成して固形物として析出する析出物が細かい粒子状で混合液中に分散している分散液と、分散していない析出物、還元剤とまだ反応していない殺菌剤残留物を含む未分散液とに分離し、未分散液をサイクロン35の下部出口35Aから循環ライン36を経て入口35B側に帰還させて、溶解液をサイクロン35の出口35Cから上記還元剤注入口4Bを経てバラスト水配管4に注入することとしている。
【0073】
上記サイクロン35の入口側にはポンプ37が設けられており、該ポンプ37により、殺菌剤残留物と還元剤との混合液をサイクロン35へ送入し、分散していない析出物を含む未分散液を上記循環ライン36を経て上記ポンプ37の上流側へ帰還して混合液へ合流させ再びサイクロン35へ送入する循環を繰り返して析出物の分散が促進される。かくして、十分に析出物が細かい粒子状で混合液中に分散した分散液を還元剤注入口4Bを経てバラスト水配管4へ注入するようになる。
【0074】
このようにして未溶解液をサイクロンにより分離し循環ライン36を循環することで、塩素系殺菌剤の殺菌剤残留物中の遊離有効塩素を消失させる還元処理を促進させるとともに、還元剤との反応により塩素系殺菌剤から生成して固形物として析出する析出物を細かい粒子状で混合液中に分散させ、この分散液をバラスト水配管4へ注入することとするため、析出物が結晶化して装置や配管内面に固着することを防ぐので好ましい。
【0075】
殺菌剤残留物と還元剤との合流点Jは、図1の形態では、残留物注入管40と還元剤供給管32の両管の単なる管接合部位として形成されていたが、図7に示される他の形態では、両管は混合槽38に接続されていて、この混合槽38で殺菌剤残留物と還元剤とを合流させてそして混合させることで十分に殺菌剤残留物と還元剤とを反応させる状態とすることができる。
【0076】
さらには、混合槽38は、攪拌部材(図示せず)を有しており、塩素系殺菌剤の殺菌剤残留物と還元剤との混合液を攪拌するようになっていることが好ましい。
【0077】
上記混合槽38では、殺菌剤残留物と還元剤とが混合攪拌され、殺菌剤残留物中の遊離有効塩素を消失させる還元処理が行われるとともに、還元剤との反応により塩素系殺菌剤から生成して固形物として析出する析出物が細かい粒子状で混合液中に分散され、十分に分散した分散液を還元剤注入口4Bからバラスト水配管4内へ注入する。
【0078】
このように、図6に示されたサイクロン35と循環ライン36を設けることにより、あるいは図7に示された混合槽38を設けることにより、殺菌剤残留物と還元剤とが混合され殺菌剤残留物中の遊離有効塩素を消失させる還元処理が行われるとともに、還元剤との反応により塩素系殺菌剤から生成して固形物として析出する析出物が細かい粒子状で混合液中に分散されるので、析出物が結晶化して配管内に固着して閉塞等の不具合が生じることを防止できる。
【0079】
この残留物還元処理運転においては、残留物注入管40と還元剤供給管32との合流点Jよりも下流側、混合槽38を設ける際には混合槽38又は混合槽38の下流側に設けられた酸化還元電位計(ORP計)34により、還元処理された残留物と還元剤との混合液の酸化還元電位を測定している。その際、混合液の酸化還元電位を、還元処理が十分に行われ殺菌剤残留物の遊離有効塩素が存在しないことを示す500mV以上とするように、残留物注入管40に供給する殺菌剤残留物の流量及び還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御する。詳しくは、還元剤流量計(図示せず)による還元剤流量測定値を参照して還元剤ポンプ33による還元剤供給量を制御すること、第十弁V10の開度制御又は殺菌剤ポンプ23の吐出量制御による殺菌剤残留物の流量を制御することのうち少なくとも一つを行う。
【0080】
殺菌剤残留物に含まれる殺菌剤成分(遊離有効塩素)量に対して還元処理に必要な還元剤の当量の1.6倍程度の還元剤を供給して還元剤過剰とすることにより残留殺菌剤成分を確実に消失させることができる。
【0081】
かくして、殺菌剤残留物は、適正量の還元剤の供給により残留殺菌剤成分が完全に還元される。
【0082】
さらには、本発明においては、図示の装置の酸化還元電位計に代えて、混合液のpHを測定するpH計を残留物注入管40と還元剤供給管32との合流点Jよりも下流側、混合槽38を設ける際には混合槽38又は混合槽38の下流側に設け、pH計により測定された混合液のpH測定値に基づき、残留物注入管40に供給する殺菌剤残留物の流量、還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御するようにすると、pH測定により還元処理の状況を把握し適切に処理を進めることができるので好ましい。混合液のpH値を、還元処理が十分に行われ殺菌剤残留物の遊離有効塩素が存在しないことを示す5以上とするように、残留物注入管40に供給する殺菌剤残留物の流量、還元剤供給源から還元剤供給管に供給する還元剤供給量のうち少なくとも一つを制御する。還元剤流量計(図示せず)による還元剤流量測定値を参照して還元剤ポンプ33による還元剤供給量を制御すること、第十弁V10の開度制御又は殺菌剤ポンプ23の吐出量制御による殺菌剤残留物の流量を制御することのうち少なくとも一つを行う。
【0083】
<バラスト水排水運転>
次に、バラストタンク2に貯留されているバラスト水を船外へ排出するバラスト水排水運転について説明する。バラスト水配管4の第一弁V1、第二弁V2、第三弁V3のすべての弁を閉とし、第一排水管8の第五弁V5と第二排水管9の第六弁V6を開とするとともに、殺菌剤供給管22の第八弁V8を閉そして還元剤供給管32の第九弁V9を開とする。かくして、図5の太線で示されるごとく、第一排水管8がバイパス管10を経て第二排水管9に接続するようになり、バラスト水排水ラインL3を形成する。また、還元剤供給管32がバラスト水配管4と接続するようになる。この状態で、バラストポンプ5と還元剤ポンプ33を運転することで、バラスト水排水運転モードとなる。
【0084】
このバラスト水排水運転モードでは、バラストポンプ5を運転することで、バラストタンク2に貯留されているバラスト水がバラスト水排出ラインL3を経て船外へ排出される。その際、バラスト水は、濾過装置6を経ずにバイパス管10を経て還元剤注入口4Bに至る。一方、還元剤ポンプ33を運転して還元剤タンク31から還元剤が還元剤供給管32を介して還元剤注入口4Bからバラスト水排水ラインL3を流通するバラスト水に供給され、バラスト水中に残留する殺菌剤の遊離有効塩素が消失されて、排水に際し環境衛生上問題ない状態でバラスト水が排水口3から船外へ排出される。
【0085】
残留物還元処理運転時に還元処理された殺菌剤残留物と還元剤との混合液はバラスト水配管4内に貯留されているが、この貯留されていた混合液は、バラスト水排水運転時に第二排水管9を流通して船外へ排出される。
【符号の説明】
【0086】
2 バラストタンク
5 バラストポンプ
20 殺菌剤供給装置
22 殺菌剤供給管
30 還元剤供給装置
32 還元剤供給管
34 酸化還元電位計
38 混合槽
40 残留物注入管
50 制御装置
J 合流点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7