特許第6720986号(P6720986)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 横浜ゴム株式会社の特許一覧

特許6720986空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法
<>
  • 特許6720986-空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法 図000004
  • 特許6720986-空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法 図000005
  • 特許6720986-空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法 図000006
  • 特許6720986-空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法 図000007
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6720986
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/03 20060101AFI20200629BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20200629BHJP
   B29D 30/04 20060101ALI20200629BHJP
【FI】
   B60C11/03 200A
   B60C11/13 C
   B29D30/04
【請求項の数】13
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2017-563808(P2017-563808)
(86)(22)【出願日】2017年1月26日
(86)【国際出願番号】JP2017002683
(87)【国際公開番号】WO2017131076
(87)【国際公開日】20170803
【審査請求日】2018年4月3日
(31)【優先権主張番号】特願2016-16406(P2016-16406)
(32)【優先日】2016年1月29日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】田内 梨沙
【審査官】 松岡 美和
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−193507(JP,A)
【文献】 特開2009−034933(JP,A)
【文献】 特開平10−305713(JP,A)
【文献】 特開2002−248908(JP,A)
【文献】 特開昭63−106114(JP,A)
【文献】 特開2013−173394(JP,A)
【文献】 特開2009−126280(JP,A)
【文献】 特開2001−163011(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 9/18
B60C 11/03
B60C 11/13
B29C 33/02
B29C 35/02
B29D 30/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気入りタイヤであって、
ベルト部と、
タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であり、前記閉塞端からタイヤ幅方向外側に直線状に延びて前記接地端に開口するショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられたトレッド部と、を備え、
前記ショルダーラグ溝は、前記トレッド部の表面から前記表面に対して垂直方向に延びる溝であって、前記トレッド部の表面から前記ショルダーラグ溝の溝底の側に延び、前記溝底に進むに連れて前記ショルダーラグ溝の溝幅中心の側に近づく傾斜壁面を前記ショルダーラグ溝の両側の溝壁それぞれに有し、
前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側の前記ショルダーラグ溝の領域において、前記ショルダーラグ溝の前記トレッド部の表面における溝幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、少なくとも前記ショルダーラグ溝の両側の傾斜壁面の、前記垂直方向に対する溝壁角度が前記タイヤ幅方向内側に向かって小さくなることにより、溝断面積を一定に維持した部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ、
前記溝断面積を一定に維持した前記部分は、前記溝断面積が前記部分の平均溝断面積に対して97〜103%の範囲内にある部分である、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記溝断面積を一定に維持した前記部分は、前記ショルダーラグ溝の溝壁角度の他に、前記ショルダーラグ溝の溝深さも変化する、請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記溝断面積を一定に維持した前記部分における前記溝壁角度は、10〜35度の範囲で変化する、請求項1または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
空気入りタイヤであって、
ベルト部と、
タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であり、前記閉塞端からタイヤ幅方向外側に直線状に延びて前記接地端に開口するショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられたトレッド部と、を備え、
前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側の前記ショルダーラグ溝の領域において、前記ショルダーラグ溝の、前記トレッド部の表面における溝幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、少なくとも前記ショルダーラグ溝の溝深さが変化することにより、溝断面積を一定に維持した部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ
前記溝断面積を一定に維持した前記部分は、前記溝断面積が前記部分の平均溝断面積に対して97〜103%の範囲内にある部分である、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記空気入りタイヤのタイヤセンターラインから前記タイヤ展開幅の4分の1、離れた位置から前記接地端までの、前記ショルダーラグ溝の領域における最大溝深さに対する最小溝深さの比は、0.8以上である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記比は、0.85以上0.95以下であり、
前記溝壁角度は、前記部分において15度〜25度の範囲で変化する、請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
空気入りタイヤであって、
ベルト部と、
タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であるショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられたトレッド部と、を備え、
前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側の前記ショルダーラグ溝の領域において、前記ショルダーラグ溝の、前記トレッド部の表面における溝幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、前記ショルダーラグ溝の溝壁角度及び溝深さの少なくともいずれか一方が変化することにより、溝断面積を一定に維持した部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ、
前記ショルダーラグ溝は、前記閉塞端に近づくにつれて前記ショルダーラグ溝の溝深さが徐々に浅くなるように傾斜した溝底傾斜面を備え、
前記空気入りタイヤのタイヤ径方向に沿ったプロファイル断面において、前記閉塞端における前記トレッド部の表面の法線に対する前記溝底傾斜面の傾斜角度は、20度以上45度以下である、ことを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記溝断面積を一定に維持した前記部分は、前記空気入りタイヤのタイヤセンターラインから距離L1離れた位置から距離L2離れた位置にあり、
前記距離L1は、前記タイヤ展開幅の半分の40〜60%に相当する距離であり、
前記距離L2は、前記タイヤ展開幅の半分の70〜90%に相当する距離である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記溝断面積を一定に維持した前記部分のタイヤ幅方向の長さは、前記タイヤ展開幅の半分の35%の長さ以下である、請求項1〜8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
空気入りタイヤの製造方法であって、
ベルト部を備えた加硫前の生タイヤを成形するステップと、
前記生タイヤを金型で囲み加熱するステップと、を備え、
空気入りタイヤのトレッド部に、タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であり、前記閉塞端からタイヤ幅方向外側に直線状に延びて前記接地端に開口するショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられるように、前記金型は、ショルダーラグ溝形成用の一方向に直線状に延在した複数の凸部を備え、
前記凸部は、前記トレッド部の表面に対応する金型表面から前記金型表面に対して垂直方向に延びる突出部であって前記金型表面から突出側に進むに連れて前記凸部の突出幅中心の側に近づく傾斜壁面を前記凸部の両側の側壁それぞれに有し、
前記凸部のそれぞれは、前記生タイヤの前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側に対応する前記凸部それぞれの領域において、前記凸部それぞれの突出基部における幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、少なくとも前記凸部それぞれの両側の側壁の、前記垂直方向に対する壁傾斜角度がタイヤ幅方向内側に向かって小さくなることにより、前記凸部それぞれの断面積を一定に維持する部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ、
前記断面積を一定に維持する前記部分は、前記凸部の前記断面積が前記部分の平均凸部断面積に対して97〜103%の範囲内にある部分である、ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項11】
前記断面積を一定に維持する前記部分は、前記壁傾斜角度の変化の他に、前記凸部それぞれの突出高さも変化する、請求項10に記載の空気入りタイヤの製造方法。
【請求項12】
空気入りタイヤの製造方法であって、
ベルト部を備えた加硫前の生タイヤを成形するステップと、
前記生タイヤを金型で囲み加熱するステップと、を備え、
空気入りタイヤのトレッド部に、タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であり、前記閉塞端からタイヤ幅方向外側に直線状に延びて前記接地端に開口し、タイヤ径方向を溝深さ方向とするショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられるように、前記金型は、ショルダーラグ溝形成用の一方向に直線状に延在した複数の凸部を備え、
前記凸部のそれぞれは、前記生タイヤの前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側に対応する前記凸部それぞれの領域において、前記凸部それぞれの突出基部における幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、少なくとも前記ショルダーラグ溝の溝壁に対応する前記凸部それぞれの突出高さが変化することにより、前記凸部それぞれの断面積を一定に維持する部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ
前記断面積を一定に維持する前記部分は、前記凸部の前記断面積が前記部分の平均凸部断面積に対して97〜103%の範囲内にある部分である、ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【請求項13】
空気入りタイヤの製造方法であって、
ベルト部を備えた加硫前の生タイヤを成形するステップと、
前記生タイヤを金型で囲み加熱するステップと、を備え、
空気入りタイヤのトレッド部に、タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であるショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられるように、前記金型は、ショルダーラグ溝形成用の一方向に延在した複数の凸部を備え、
前記凸部のそれぞれは、前記生タイヤの前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側に対応する前記凸部それぞれの領域において、前記凸部それぞれの突出基部における幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、前記ショルダーラグ溝の溝壁に対応する前記凸部それぞれの突出高さ及び側壁の壁傾斜角度の少なくともいずれか一方が変化することにより、前記凸部それぞれの断面積を一定に維持する部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ、
前記金型は、前記生タイヤの前記トレッド部にトレッドパターンを形成するための2つの部分金型を備え、
前記部分金型のそれぞれは、前記凸部を備え、
前記金型が前記生タイヤを囲むとき、前記凸部のそれぞれが、前記生タイヤのトレッド部内をタイヤ幅方向外側から内側に向かって入り込む、ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ショルダーラグ溝を備える空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建設車両用タイヤあるいは産業車両用タイヤは、その使用状況から、高荷重の負荷を受けるため優れた耐久性を備え、かつタイヤ寿命が長いことが望まれている。耐久性を劣化させるタイヤ構造上の要因として、ベルト部の端近傍のカーカスコードの乱れやカーカスコード間の間隔が変動すること(波うち)が挙げられる。タイヤを製造する際、タイヤにトレッドパターンとしてラグ溝を形成するとき、ラグ溝に対応する加硫用金型の凸部が加硫成形前の生タイヤのトレッド部内でトレッド部のトレッドゴムをタイヤ周方向に押し分けながらタイヤ幅方向内側に向かって進むことによりラグ溝を形成するので、カーカスプライ中のカーカスコードがトレッドゴムの流れに引きずられることによってベルト部の端近傍のカーカスコードの乱れや波うちが発生する。
【0003】
これに対して、ベルト端の波打ちを防止することができる、重荷重用空気入りラジアルタイヤの製造方法が知られている(特許文献1)。
当該製造方法では、加硫成形前の生タイヤ(グリーンタイヤ)の、ラグ溝を設ける領域に、タイヤ幅方向成分を有するサイプを、タイヤ周方向に複数設けた後、その生タイヤ(グリーンタイヤ)を加硫金型内で加硫成形して製品タイヤとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−193525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記製造方法では、加硫成形前の生タイヤ(グリーンタイヤ)の、ラグ溝を設ける領域に、タイヤ幅方向成分を有するサイプを、タイヤ周方向に複数設けることにより、加硫成形時には、拡径された生タイヤ(グリーンタイヤ)のサイプは開くことになり、加硫金型のラグ溝を形成する凸部が、生タイヤ(グリーンタイヤ)の外周面に設けたサイプに食い込み易くなる。これにより、凸部の食い込みにより発生する、タイヤ半径方向内方へ向かう力を周方向に分散して、ベルト層端のタイヤ半径方向内方および外方への移動を抑制して、ベルト層の端の波打ちを抑制することができる。
【0006】
しかし、上記製造方法では、ベルト層端の波うちを抑制の対象としており、プライコードの乱れや波うちではなく、しかも、ベルト層端の波うちはタイヤ半径方向内方および外方への移動による波うちである。しかも、加硫前の生タイヤ(グリーンタイヤ)の表面にサイプを設ける処理を行う必要があるため、生産効率が悪い。一方、タイヤに設けられるラグ溝の溝深さを浅くして、金型の凸部がタイヤ周方向に押し分ける生タイヤのトレッドゴム量を抑えることにより、ベルト部の端近傍のカーカスコードの乱れや波うちを小さくする対策も考えられるが、ラグ溝の溝深さが浅くなるため、タイヤ寿命が短くなる。
【0007】
本発明は、タイヤ寿命を延ばしつつ、ベルト部の端近傍のカーカスコードの乱れや波うちを抑制することにより耐久性を向上させる空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、空気入りタイヤであって、
ベルト部と、
タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であり、前記閉塞端からタイヤ幅方向外側に直線状に延びて前記接地端に開口するショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられたトレッド部と、を備え、
前記ショルダーラグ溝は、前記トレッド部の表面から前記表面に対して垂直方向に延びる溝であって、前記トレッド部の表面から前記ショルダーラグ溝の溝底の側に延び、前記溝底に進むに連れて前記ショルダーラグ溝の溝幅中心の側に近づく傾斜壁面を前記ショルダーラグ溝の両側の溝壁それぞれに有し、
前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側の前記ショルダーラグ溝の領域において、前記ショルダーラグ溝の前記トレッド部の表面における溝幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、少なくとも前記ショルダーラグ溝の両側の傾斜壁面の、前記垂直方向に対する溝壁角度が前記タイヤ幅方向内側に向かって小さくなることにより、溝断面積を一定に維持した部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ、
前記溝断面積を一定に維持した前記部分は、前記溝断面積が前記部分の平均溝断面積に対して97〜103%の範囲内にある部分である、ことを特徴とする空気リタイヤである。
【0009】
前記部分における前記溝壁角度は、10〜35度の範囲で変化する、ことが好ましい。
【0010】
本発明の他の一態様は、空気入りタイヤであって、
ベルト部と、
タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であり、前記閉塞端からタイヤ幅方向外側に直線状に延びて前記接地端に開口するショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられたトレッド部と、を備え、
前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側の前記ショルダーラグ溝の領域において、前記ショルダーラグ溝の、前記トレッド部の表面における溝幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、少なくとも前記ショルダーラグ溝の溝深さが変化することにより、溝断面積を一定に維持した部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ
前記溝断面積を一定に維持した前記部分は、前記溝断面積が前記部分の平均溝断面積に対して97〜103%の範囲内にある部分である、ことを特徴とする空気入りタイヤである。
その際、前記空気入りタイヤのタイヤセンターラインから前記タイヤ展開幅の4分の1、離れた位置から前記接地端までの、前記ショルダーラグ溝の領域における最大溝深さに対する最小溝深さの比は、0.8以上である、ことが好ましい。
【0011】
その際、前記比は、0.85以上0.95以下であり、
前記溝壁角度は、前記部分において15度〜25度の範囲で変化する、ことが好ましい。
【0012】
本発明の他の一態様は、空気入りタイヤであって、
ベルト部と、
タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であるショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられたトレッド部と、を備え、
前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側の前記ショルダーラグ溝の領域において、前記ショルダーラグ溝の、前記トレッド部の表面における溝幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、前記ショルダーラグ溝の溝壁角度及び溝深さの少なくともいずれか一方が変化することにより、溝断面積を一定に維持した部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ、
前記ショルダーラグ溝は、前記閉塞端に近づくにつれて前記ショルダーラグ溝の溝深さが徐々に浅くなるように傾斜した溝底傾斜面を備え、
前記空気入りタイヤのタイヤ径方向に沿ったプロファイル断面において、前記閉塞端における前記トレッド部の表面の法線に対する前記溝底傾斜面の傾斜角度は、20度以上45度以下である、ことを特徴とする空気入りタイヤである
【0013】
前記溝断面積を一定に維持した前記部分は、前記空気入りタイヤのタイヤセンターラインから距離L1離れた位置から距離L2離れた位置にあり、
前記距離L1は、前記タイヤ展開幅の半分の40〜60%に相当する距離であり、
前記距離L2は、前記タイヤ展開幅の半分の70〜90%に相当する距離である、ことが好ましい。
【0014】
前記溝断面積を一定に維持した前記部分のタイヤ幅方向の長さは、前記タイヤ展開幅の半分の35%の長さ以下である、ことが好ましい。
【0015】
また、本発明の他の一態様は、空気入りタイヤの製造方法であって、
ベルト部を備えた加硫前の生タイヤを成形するステップと、
前記生タイヤを金型で囲み加熱するステップと、を備え、
空気入りタイヤのトレッド部に、タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であり、前記閉塞端からタイヤ幅方向外側に直線状に延びて前記接地端に開口するショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられるように、前記金型は、ショルダーラグ溝形成用の一方向に直線状に延在した複数の凸部を備え、
前記凸部は、前記トレッド部の表面に対応する金型表面から前記金型表面に対して垂直方向に延びる突出部であって前記金型表面から突出側に進むに連れて前記凸部の突出幅中心の側に近づく傾斜壁面を前記凸部の両側の側壁それぞれに有し、
前記凸部のそれぞれは、前記生タイヤの前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側に対応する前記凸部それぞれの領域において、前記凸部それぞれの突出基部における幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、少なくとも前記凸部それぞれの両側の側壁の、前記垂直方向に対する壁傾斜角度がタイヤ幅方向内側に向かって小さくなることにより、前記凸部それぞれの断面積を一定に維持する部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ、
前記断面積を一定に維持する前記部分は、前記凸部の前記断面積が前記部分の平均凸部断面積に対して97〜103%の範囲内にある部分である、ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法である。
その際、前記断面積を一定に維持する部分は、前記壁傾斜角度の変化の他に、前記凸部それぞれの突出高さも変化する、ことが好ましい。
【0016】
本発明の他の一態様は、空気入りタイヤの製造方法であって、
ベルト部を備えた加硫前の生タイヤを成形するステップと、
前記生タイヤを金型で囲み加熱するステップと、を備え、
空気入りタイヤのトレッド部に、タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であり、前記閉塞端からタイヤ幅方向外側に直線状に延びて前記接地端に開口し、タイヤ径方向を溝深さ方向とするショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられるように、前記金型は、ショルダーラグ溝形成用の一方向に直線状に延在した複数の凸部を備え、
前記凸部のそれぞれは、前記生タイヤの前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側に対応する前記凸部それぞれの領域において、前記凸部それぞれの突出基部における幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、少なくとも前記ショルダーラグ溝の溝壁に対応する前記凸部それぞれの突出高さが変化することにより、前記凸部それぞれの断面積を一定に維持する部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ
前記断面積を一定に維持する前記部分は、前記凸部の前記断面積が前記部分の平均凸部断面積に対して97〜103%の範囲内にある部分である、ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法である。
また、本発明の他の一態様は、空気入りタイヤの製造方法であって、
ベルト部を備えた加硫前の生タイヤを成形するステップと、
前記生タイヤを金型で囲み加熱するステップと、を備え、
空気入りタイヤのトレッド部に、タイヤ幅方向外側に延びて接地端に開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であるショルダーラグ溝がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられるように、前記金型は、ショルダーラグ溝形成用の一方向に延在した複数の凸部を備え、
前記凸部のそれぞれは、前記生タイヤの前記ベルト部の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側に対応する前記凸部それぞれの領域において、前記凸部それぞれの突出基部における幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、前記ショルダーラグ溝の溝壁に対応する前記凸部それぞれの突出高さ及び側壁の壁傾斜角度の少なくともいずれか一方が変化することにより、前記凸部それぞれの断面積を一定に維持する部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられ、
前記金型は、前記生タイヤの前記トレッド部にトレッドパターンを形成するための2つの部分金型を備え、
前記部分金型のそれぞれは、前記凸部を備え、
前記金型が前記生タイヤを囲むとき、前記凸部のそれぞれが、前記生タイヤのトレッド部内をタイヤ幅方向外側から内側に向かって入り込む、ことを特徴とする空気入りタイヤの製造方法である。
【発明の効果】
【0017】
上述の空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法によれば、タイヤ寿命を延ばしつつ、ベルト部の端近傍のカーカスコードの乱れや波うちを抑制することにより耐久性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本実施形態の空気入りタイヤのプロファイル断面の一例を示す図である。
図2】(a)は、本実施形態のタイヤのトレッドパターンの例を示す図であり、(b)は(a)に示すショルダーラグ溝の溝深さが変化する例を示す図であり、(c)及び(d)は、(a)に示すショルダーラグ溝の溝形状が変化する例を示す図である。
図3】本実施形態のタイヤの製造過程における加硫時の金型と生タイヤを説明する図である。
図4】(a)〜(c)は、タイヤの製造過程における加硫で用いる下型の凸部の動きを説明する図であり、(d)は、従来のタイヤにおける、ベルト部の端近傍のカーカスコードの乱れ、波うちを示すX線撮影画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の空気入りタイヤを詳細に説明する。
図1は、本実施形態の空気入りタイヤ(以降、タイヤともいう)1のタイヤ回転軸を含み、タイヤ径方向に沿った平面でタイヤ1を切断したときのタイヤ1のプロファイル断面の一例を示す図である。タイヤ1は、重荷重用空気入りタイヤである。図1では、ショルダーラグ溝の図示は省略されている。
【0020】
本明細書でいう重荷重用空気入りタイヤとは、JATMA(日本自動車タイヤ協会規格) YEAR BOOK 2014のC章に記載されるタイヤの他に、D章に記載される1種(ダンプトラック、スクレーバ)用タイヤ、2種(グレーダ)用タイヤ、3種(ショベルローダ等)用タイヤ、4種(タイヤローラ)用タイヤ、モビールクレーン(トラッククレーン、ホイールクレーン)用タイヤ、あるいはTRA 2013 YEAR BOOKのSECTION 4 あるいは、SECTION 6に記載される車両用タイヤをいう。
【0021】
本明細書では、各方向及び側を以下のように定義する。
タイヤ幅方向は、空気入りタイヤの回転軸と平行な方向である。タイヤ幅方向外側は、タイヤ幅方向において、比較する位置に対して、タイヤ赤道面を表すタイヤセンターラインCLから離れる側である。また、タイヤ幅方向内側は、比較する位置に対して、タイヤ幅方向において、タイヤセンターラインCLに近づく側である。タイヤ周方向は、空気入りタイヤの回転軸を回転の中心として空気入りタイヤが回転する方向である。タイヤ径方向は、空気入りタイヤの回転軸に直交する方向である。タイヤ径方向外側は、比較する位置に対して、タイヤ径方向に沿って前記回転軸から離れる側をいう。また、タイヤ径方向内側は、比較する位置に対して、タイヤ径方向に沿って前記回転軸に近づく側をいう。
【0022】
(タイヤ構造)
タイヤ1は、カーカスプライ3と、ベルト部4と、一対のビードコア5とを有し、これらの周りに、トレッド部6、サイド部7、ビードフィラー8、インナーライナ9等の各ゴム層を有する。トレッド部6は、トレッドゴムを有する。
【0023】
カーカスプライ3は少なくとも1層(図1では1層)設けられ、一対のビードコア5間に装架されている。このカーカスプライ3は、タイヤ径方向に延びる複数本のカーカスコードを含み、ビードコア5の廻りにタイヤ幅方向内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5のタイヤ径方向外側にはビードフィラー8が配置され、このビードフィラー8がカーカスプライ3の本体部分と折り返し部分により包み込まれている。
トレッド部6のタイヤ径方向内側で、カーカスプライ3のタイヤ径方向外側には、複数のベルトで構成されたベルト部4が設けられている。
【0024】
ベルト部4は、5枚のベルトを備える。5枚のベルトは、タイヤ径方向の最も内側にある1枚の強化ベルト4aと、強化ベルト4aのタイヤ径方向外側にある2枚の交差ベルト4b,4cと、交差ベルト4cのタイヤ径方向外側にある、保護ベルト4d,4eと、を含む。
【0025】
強化ベルト4aは、中抜き構造になっており、交差ベルト4b,4c及び保護ベルト4d,4eに比べて、ベルトを構成するスチールコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度が大きい。これにより、強化ベルト4aは、タイヤ幅方向のベルト剛性を高める機能を発揮する。交差ベルト4b,4cを構成するスチールコードは、タイヤ周方向に対してタイヤ幅方向の互いに異なる側に傾斜している。このため、交差ベルト4b,4cは、内圧充填により拡張しようとするタイヤに対してタガ効果を発揮する。
保護ベルト4d,4eのスチールコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は、交差ベルト4b,4cのスチールコードのタイヤ周方向に対する傾斜角度に比べて大きい。保護ベルト4dのタイヤ幅方向に沿ったベルト幅は、保護ベルト4e、強化ベルト4a、及び交差ベルト4b,4cのいずれのベルト幅よりも広い。
【0026】
タイヤ1は、上記タイヤ構造を有するが、これに限定されず、公知のタイヤ構造であってもよいし、新規なタイヤ構造であってもよい。
【0027】
(トレッドパターン)
図2(a)は、タイヤ1のトレッドパターンの例を示す図である。タイヤ1のトレッドパターンには、タイヤ幅方向外側に延びて接地端EA,EBに開口し、タイヤ幅方向内側の端が閉塞端であるショルダーラグ溝10がタイヤ周方向に間隔をあけて複数設けられている。ショルダーラグ溝10は、タイヤ幅方向外側から内側に向かうに従がって溝幅が狭くなる部分を備える。ショルダーラグ溝10は、タイヤセンターラインCLを境にして、タイヤ幅方向の両側の半トレッド領域のそれぞれに設けられている。一方の半トレッド領域に設けられたショルダーラグ溝10のタイヤ周方向の位置は、他方の半トレッド領域に設けられたタイヤ周方向に隣り合うショルダーラグ溝10のタイヤ周方向位置の間にある。ショルダーラグ溝10のタイヤ幅方向内側の閉塞端のタイヤ幅方向の位置は、タイヤ展開幅の半分(タイヤセンターラインCLから接地端EA,EBまでのペリフェリ長さT)の5〜35%の距離、タイヤセンターラインCLから離れた位置にある。
【0028】
また、ショルダーラグ溝10の溝形状は、以下のように設定されている。すなわち、ショルダーラグ溝10のうち、ベルト部4の最大幅ベルトである保護ベルト4dの端からタイヤ幅方向内側の領域において、ショルダーラグ溝10の溝幅がタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、ショルダーラグ溝10の溝壁角度及び溝深さの少なくともいずれか一方が変化することにより、溝断面積を一定に維持した部分が、タイヤ展開幅の半分(ペリフェリ長さT)の少なくとも20%の長さ(タイヤ幅方向の長さ)、タイヤ幅方向に設けられている。例えば、タイヤセンターラインCLから距離L1離れた位置から距離L2離れた位置までの部分Aにおいて、ショルダーラグ溝10の溝幅がタイヤ幅方向外側からタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、ショルダーラグ溝10の溝壁角度及び溝深さの少なくともいずれか一方が変化することにより溝断面積を一定に維持している。ここで、距離L1は、ペリフェリ長さTの40〜60%であることが好ましく、距離L2は、ペリフェリ長さTの70〜90%であることが好ましい。また、溝断面積を一定に維持した部分のタイヤ幅方向の長さの上限は、好ましくは、タイヤ展開幅の半分(ペリフェリ長さT)の35%以下である。
【0029】
図2(b)は、ショルダーラグ溝10の溝深さがタイヤ幅方向で変化する例を示す図である。図2(c),(d)は、ショルダーラグ溝10の溝形状が変化する例を示す図である。
図2(b)に示すように、タイヤ幅方向内側の閉塞部から徐々に深くなる溝底傾斜面10aを除く、溝底傾斜面10aのタイヤ幅方向外側の領域において、あるいは、タイヤセンターラインCLからタイヤ展開幅の半分(ペリフェリ長さT)の50%、すなわち、タイヤ展開幅の4分の1、離れた位置から接地端EA,EBまでの、ショルダーラグ溝10の領域において、ショルダーラグ溝10の溝深さは、最大溝深さDmaxとなった後、徐々に浅くなり、最小溝深さDminになり、その後、再度深くなり、接地端EA,EBに至る。
このとき、ショルダーラグ溝10の溝形状も変化している。図2(c)に示す溝形状は、タイヤセンターラインCLから距離L1離れた位置における溝形状であり、図2(d)に示す溝形状は、タイヤセンターラインCLから距離L2(L2>L1)離れた位置における溝形状である。このとき、図2(c)に示す溝形状における溝壁角度はθ1であり、図2(d)に示す溝形状における溝壁角度はθ2(θ2>θ1)である。このとき、溝幅はW1からW2(W2>W1)に変化し、溝壁角度がθ1からθ2に変化し、さらに、溝深さもD1からD2(D2<D1)に変化することにより、溝断面積は一定になっている。溝断面積が一定であるとは、上述の部分Aにおける平均溝断面積に対して、部分Aのいずれの位置の溝断面積の値も95〜105%であること、好ましくは97〜103%であることをいう。図2(c),(d)に示す溝形状の溝断面積S1,S2も、平均溝断面積の95〜105%の範囲内にある。平均溝断面積は、部分Aにおける溝体積を部分Aの溝長さで割った値である。溝断面積が一定である部分Aでは、溝壁角度は2度以上変化し、溝深さは、3mm以上変化することが好ましい。
【0030】
このように、ショルダーラグ溝10において、溝断面積を一定に維持する部分Aを設ける意義を以下説明する。
図3に示すように、上型12及び下型14を有する2つ割り金型を用いて生タイヤの加硫を行うとき、生タイヤ18をタイヤ幅方向の両側(図3の上側及び下側)から挟むように上型12及び下型14が接近して生タイヤ18を金型内に閉じ込めて、加硫を行う。図3は、タイヤの製造過程の加硫時の金型に囲まれた生タイヤ18(斜線の領域)を説明する図である。このとき、上型12及び下型14に設けられる、ショルダーラグ溝10を形成するための凸部16が生タイヤ18のトレッド部内に食い込みながらトレッドゴムをタイヤ周方向に押しのけてショルダーラグ溝10を形成する。
【0031】
図4(a)〜(c)は、生タイヤ18のトレッド部6内に食い込みながらトレッドゴムを押しのける下型14の凸部16の動きを説明する図である。凸部16がトレッド部6内に食い込むことにより、トレッドゴムがタイヤ周方向に押しのけられて流動する。このため、タイヤ周方向に隣り合う凸部16の間にトレッドゴムが流動し、この流動に引きずられるように、図4(a)〜(c)に示すように、ベルト部4と接してなくトレッドゴムと接するカーカスプライ3の領域において、カーカスコードがうねり、ベルト部の端近傍のカーカスコードの乱れや波うちが生じる。図4(d)は、従来のタイヤにおける、カーカスプライ3中のベルト部の端近傍のカーカスコードの乱れ、波うちを示すX線撮影画像を示す図である。図4(d)に示すように、カーカスコードに粗密ができる乱れ、波うちが生じる。
【0032】
本実施形態では、このようなカーカスプライ3中のカーカスコードの乱れや波うちを抑制するために、ショルダーラグ溝10のうち、ベルト部4の最大幅ベルトである保護ベルト4dの端からタイヤ幅方向内側の領域において、ショルダーラグ溝10の溝幅がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、ショルダーラグ溝10の溝壁角度及び溝深さの少なくともいずれか一方が変化することにより、溝断面積を一定に維持した部分Aが、タイヤ展開幅の半分(ペリフェリ長さT)の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられている。本実施形態では、最小溝深さDminが80mm以上である場合に、カーカスコードの乱れや波うちをより効果的に抑制することができる。
【0033】
このとき、部分Aにおける溝壁角度は、10〜35度の範囲で変化することが、ベルト部4の端近傍のカーカスコードの乱れや波うちを抑制して耐久性を向上させることができる点から好ましい。溝壁角度が10度未満の場合、上型12及び下型14の凸部16が生タイヤ18のトレッド部6内に食い込む際の抵抗が大きくなり、トレッドゴムのタイヤ周方向への流動が激しくなり、カーカスプライ3中のベルト部4の端近傍のカーカスコードの乱れや波うちが大きくなる。一方、溝壁角度が35度を越える場合、上型12及び下型14の凸部16の先端が尖るため、上型12及び下型14の凸部16が生タイヤ18のトレッド部6内に食い込み易くなり、カーカスプライ3中のベルト部4の端近傍のカーカスコードの乱れや波うちを抑制できるが、ショルダーラグ溝10の溝底にクラックが発生し易くなる。なお、ショルダーラグ溝10の両側の溝壁の溝壁角度は必ずしも同じでなくてもよい。
【0034】
また、タイヤセンターラインCLからタイヤ展開幅の半分(タイヤセンターラインCLから接地端EAあるいは接地端EBまでのペリフェリ長さT)の50%、すなわち、タイヤ展開幅の4分の1、離れた位置から接地端EA,EBまでの、ショルダーラグ溝10の領域における、ショルダーラグ溝10の最大溝深さDmaxに対する最小溝深さDminの比は、0.8以上であることが、タイヤの寿命を短くすることなく、ベルト部4の端近傍のカーカスコードの乱れや波うちを抑制して耐久性を向上させることができる点から好ましい。このとき、最小溝深さDminの範囲は、80〜100mmであることが好ましい。
【0035】
特に、溝壁角度と溝深さを変化させる場合、最大溝深さDmaxに対する最小溝深さDminの比は、0.85以上0.95以下であり、溝壁角度は、部分Aにおいて15度〜25度の範囲で変化することが、タイヤの寿命を短くすることなく、カーカスプライ3中のベルト部の端近傍のカーカスコードの乱れや波うちを抑制して耐久性を向上させることができる点から実用上好ましい。
【0036】
また、図2(b)に示すように、ショルダーラグ溝10は、ショルダーラグ溝10のタイヤ幅方向内側の閉塞端に近づくにつれて溝深さが徐々に浅くなるように傾斜した溝底傾斜面10aを備え、タイヤプロファイル断面において、閉塞端におけるトレッド部の表面の法線に対する溝底傾斜面10aの傾斜角度θ0は、20度以上45度以下であることが、上型12及び下型14の凸部16が生タイヤ18のトレッド部内に食い込む時の抵抗を小さくしてトレッドゴムの流動を抑制することできる点から、好ましい。
【0037】
このような空気入りタイヤは、以下の製造方法により作製される。
まず、ベルト部4を備えた加硫前の生タイヤ18を成形する。次に、この生タイヤ18を、図3に示すように、金型で囲み加熱する(加硫する)。このとき、金型は、製造するタイヤのトレッド部6に設けられる一方向に延在した複数のショルダーラグ溝10に対応したショルダーラグ溝形成用の複数の凸部16を備える。このショルダーラグ溝10は、タイヤ周方向に間隔をあけて設けられ、タイヤ幅方向外側に延びて接地端EA,EBに開口し、タイヤ幅方向内側の端で閉塞する。このようなショルダーラグ溝10に対応した凸部16のそれぞれは、生タイヤ18のベルト部4の最大幅ベルトの端からタイヤ幅方向内側に対応する凸部16それぞれの領域において、凸部16それぞれの幅(凸部16の延在方向と直交する方向の長さ)がタイヤ幅方向内側に向かって減少するが、凸部16それぞれの突出高さ、及びショルダーラグ溝10の溝壁に対応する凸部16の側壁の壁傾斜角度の少なくともいずれか一方が変化することにより、凸部16それぞれの断面積を一定に維持する部分が、タイヤ展開幅の半分の少なくとも20%の長さ、タイヤ幅方向に設けられている。ここで、断面積が一定であるとは、上述の部分Aに対応する凸部16の部分の平均断面積に対して、部分Aに対応する凸部16の部分のいずれの位置の断面積の値が95〜105%であること、好ましくは97〜103%であることをいう。
また、金型は、生タイヤ18のトレッド部にトレッドパターンを形成するための2つの部分金型である上型12及び下型14を備える。すなわち、金型は、2つ割り金型である。このとき、上型12及び下型14のそれぞれは、凸部16を備える。上型12及び下型14が、図3に示すように、生タイヤ18を囲むとき、凸部16のそれぞれが、生タイヤ18のトレッド部内をタイヤ幅方向外側から内側に向かって入り込むようにして、ショルダーラグ溝10を形成する。このような2つ割り金型を用いる場合、カーカスプライ3中のベルト部の端近傍のカーカスコードの乱れや波うちの抑制の効果が顕著に発揮できる。
【0038】
本実施形態では、タイヤ幅方向内側に向かって溝幅が減少するショルダーラグ溝10において、ショルダーラグ溝10の溝深さ及び溝壁角度を変化させて、部分Aにおける溝断面積を一定にするが、ショルダーラグ溝10の溝深さのみを変化させて部分Aにおける溝断面積を一定にしてもよく、また、ショルダーラグ溝10の溝壁角度のみを変化させて部分Aにおける溝断面積を一定にしてもよい。
【0039】
(従来例、比較例、実施例)
本実施形態の空気入りタイヤの効果を調べるために、ショルダーラグ溝の断面形状を種々変更した、図1に示すタイヤを作製し、タイヤの耐久性及びタイヤ寿命を調べた。試作したタイヤのサイズは、26.5R25L−5である。このタイヤに、リムサイズ25×22.00−3.0のリム(TRA規定リム)を装着した。空気圧は、500kPa(TRA規定空気圧)とした。
耐久性及びタイヤ寿命については、重量23トンのローダーを用いて、悪路(オフロード)路面の走行を速度5km/時で3000時間行なった後、タイヤを解体して、ショルダー部の亀裂の伸展を測定し、測定結果の逆数を、従来例の測定結果の逆数を基準(指数100)として指数化した。指数が高いほど、耐久性が高いことを意味する。また、上記走行後のタイヤのショルダーラグ溝の溝深さを測定し、測定結果からショルダーラグ溝がラグ溝として機能しなくなるまでの時間をタイヤ寿命として評価した。タイヤ寿命は、従来例のタイヤ寿命を基準(指数100)として指数化した。指数が高いほど、タイヤ寿命が長いことを意味する。
【0040】
表1、2に各ショルダーラグ溝の仕様とその評価結果を示す。
従来例の、溝断面積一定の部分A(距離L1=0.5×T、距離L2=0.8×T)におけるショルダーラグ溝10の最大溝断面積を、平均溝断面積に対して105%超、具体的には107%とした。一方、実施例1,3〜7では、溝断面積一定の部分A(距離L1=0.5×T、距離L2=0.8×T)におけるショルダーラグ溝10の溝断面積を一定(溝断面積の、平均溝断面積に対する比は95〜105%)とし、溝断面積一定の部分の長さ(表1では、「ショルダーラグ溝の断面積一定の部分の長さ」と記載)を0.3×Tとした。実施例2では、距離L1=0.55×T、距離L2=0.75×Tとし、ショルダーラグ溝10の溝断面積を一定(溝断面積の、平均溝断面積に対する比は95〜105%)とし、溝断面積一定の部分の長さを0.2×Tとした。比較例では、距離L1=0.6×T、距離L2=0.75×Tとし、溝断面積一定の部分の長さを0.15×Tとした。
【0041】
【表1】

【0042】
【表2】
【0043】
表1、2の従来例、比較例、及び実施例1〜4より、ショルダーラグ溝10の溝深さ及び溝壁角度の少なくとも一方を変化させて、溝断面積を一定にし、かつ、溝断面積を一定にするショルダーラグ溝の部分の長さを少なくとも0.2×Tにすることにより、タイヤ寿命を向上させつつ、耐久性を向上させることができることわかる。また、実施例1〜7のベルト部4の端近傍のカーカスコードの乱れ及び波うちの程度は、従来例対比小さかった。
また、表1の実施例4〜7よりわかるように、ショルダーラグ溝10の溝底傾斜面10aの傾斜角度θ0は、20度以上45以下であるとき、耐久性が向上する。
【0044】
以上、本発明の空気入りタイヤ及び空気入りタイヤの製造方法について詳細に説明したが、本発明の空気入りタイヤは上記実施形態あるいは実施例に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【符号の説明】
【0045】
1 空気入りタイヤ
3 カーカスプライ
4 ベルト部
4a 強化ベルト
4b,4c 交差ベルト
4d 保護ベルト
5 ビードコア
6 トレッド部
7 サイド部
8 ビードフィラー
9 インナーライナ
10 ショルダーラグ溝
10a 溝底傾斜面
12 上型
14 下型
16 凸部
18 生タイヤ
図1
図2
図3
図4