特許第6721035号(P6721035)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東亞合成株式会社の特許一覧

特許6721035抗ウイルス剤、コーティング組成物、樹脂組成物及び抗ウイルス製品
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6721035
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】抗ウイルス剤、コーティング組成物、樹脂組成物及び抗ウイルス製品
(51)【国際特許分類】
   A01N 59/06 20060101AFI20200629BHJP
   A01N 59/16 20060101ALI20200629BHJP
   A01N 59/26 20060101ALI20200629BHJP
   A01N 59/20 20060101ALI20200629BHJP
   A01N 55/10 20060101ALI20200629BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20200629BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20200629BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20200629BHJP
   A61K 33/12 20060101ALI20200629BHJP
   A61K 33/34 20060101ALI20200629BHJP
   A61K 33/38 20060101ALI20200629BHJP
   C08K 3/32 20060101ALI20200629BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20200629BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20200629BHJP
【FI】
   A01N59/06 Z
   A01N59/16 Z
   A01N59/26
   A01N59/16 A
   A01N59/20
   A01N55/10
   A01P1/00
   A61P31/12
   A61K33/42
   A61K33/12
   A61K33/34
   A61K33/38
   C08K3/32
   C08K3/34
   C09D7/40
【請求項の数】7
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2018-502963(P2018-502963)
(86)(22)【出願日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】JP2017003686
(87)【国際公開番号】WO2017150063
(87)【国際公開日】20170908
【審査請求日】2018年9月12日
(31)【優先権主張番号】特願2016-39362(P2016-39362)
(32)【優先日】2016年3月1日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003034
【氏名又は名称】東亞合成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094190
【弁理士】
【氏名又は名称】小島 清路
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 晃治
【審査官】 阿久津 江梨子
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2012/050156(WO,A1)
【文献】 国際公開第2016/157942(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/141812(WO,A1)
【文献】 国際公開第2015/125367(WO,A1)
【文献】 特開2008−062237(JP,A)
【文献】 特開2007−307540(JP,A)
【文献】 特表2014−503201(JP,A)
【文献】 特開2001−233719(JP,A)
【文献】 国際公開第2005/037296(WO,A1)
【文献】 特開2006−232729(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 59/06
A01N 55/10
A01N 59/16
A01N 59/20
A01N 59/26
A01P 1/00
A61K 33/00
A61K 33/34
A61K 33/38
A61K 33/42
A61P 31/12
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸点濃度が0.005mmol/gを超え10mmol/g以下であり、酸点の酸強度(pKa)が3.3以下である無機固体酸であって、無機リン酸化合物、無機ケイ酸化合物又は無機酸化物から選択された無機固体酸のいずれか1つ以上であることを特徴とする抗ウイルス剤。
【請求項2】
上記無機固体酸の含水率が0.5質量%以上であることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス剤
【請求項3】
銀、銅、及びそれらの化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含む請求項1又は2に記載の抗ウイルス剤。
【請求項4】
上記無機固体酸が、α型リン酸ジルコニウム、α型銀リン酸ジルコニウム及びα型銅リン酸ジルコニウムから選択されたいずれか1つ以上である請求項1乃至3のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤を含むことを特徴とする抗ウイルス用コーティング組成物。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤を含むことを特徴とする抗ウイルス用樹脂組成物
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤を含むことを特徴とする抗ウイルス製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機固体酸を含む抗ウイルス剤、その抗ウイルス剤を含むコーティング組成物、樹脂組成物及び抗ウイルス製品に関するものである。本発明の抗ウイルス剤を、衣類、寝具、マスク等の繊維製品、空気清浄機やエアコン等に用いられるフィルター、カーテン、カーペット、家具等のインテリア製品、自動車内装材等に噴霧加工、塗装加工、あるいは壁紙、フローリング材等の建築材料の表面層に展着加工することで、ウイルス活性を低減する効果が付与される。
【背景技術】
【0002】
近年、MERS(中東呼吸器症候群)やインフルエンザの流行等を背景に衛生的で安全な生活環境に対する要求は高まっており、様々な抗ウイルス剤や抗ウイルス製品の開発が検討されている。
【0003】
コロナウイルスに対しては、エタノール、次亜塩素酸ソーダ、ヨードホール、過酢酸、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド及びエチレンオキサイドガスが消毒剤として効果があると報告されている。また、1−アダマンタナミン塩酸塩、チオセミカルバジド、アラビノシルヌクレオシド、ヌクレオシド、2,3−ジデオキシヌクレオシド、ピロ燐酸誘導体等が抗ウイルス剤として知られている。しかし、これら抗ウイルス性を有する薬剤は一時的な効果しかなく、耐熱性についても問題があることから、抗ウイルス製品に対して持続的な効果は望めない。
特許文献1には、無機過酸化物と、テトラアセチルエチレンジアミンと、無機酸のアルカリ金属塩及び/又は無機酸のアルカリ土類金属塩とを含有する無機系抗ウイルス剤組成物が開示されている。しかし、この無機系抗ウイルス剤は無機過酸化物系であるため、やはり持続性、加工性等に問題があった。
これら従来の抗ウイルス剤を含む製品が直接人体に接触すると、皮膚が刺激されるという問題もある。
【0004】
これに対し特許文献2には、特定の金属成分を含有する平均粒子径500nm以下の無機酸化物微粒子、特許文献3には、銅及びチタン含有組成物、特許文献4には、BET比表面積が5〜100m/gの亜酸化銅粒子とアルデヒド基を有する糖類とを含有する抗菌抗ウイルス性組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−72519号公報
【特許文献2】特開2003−221304号公報
【特許文献3】特開2010−168578号公報
【特許文献4】特開2011−153163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、これらの銅化合物は空気中で容易に二価の銅化合物に酸化され、抗ウイルス効果が低減してしまう。また、これら無機系抗ウイルス剤を単独で用いると、抗ウイルス効果が確認できるものの、樹脂に練り込み加工した際には十分な抗ウイルス効果が発現しない場合があった。更に、特許文献3及び特許文献4に挙げられている銅化合物はもともと着色しているものが多いうえ、樹脂に練り込み加工した際には銅イオンによる樹脂劣化が生じることから樹脂加工品の変色や異臭発生があり、用途や加工条件が制限されていた。
【0007】
本発明の目的は、抗ウイルス性能に優れる抗ウイルス剤を提供することであり、例えば、樹脂との溶融混練により変質等を引き起こさず、耐熱性及び効果付与性に優れ、ウイルスに対する不活性化効果を維持する抗ウイルス剤を提供することである。また、本発明の他の目的は、抗ウイルス剤が水等との接触により脱離しない皮膜等を与える抗ウイルス用コーティング組成物、抗ウイルス用樹脂組成物及び抗ウイルス製品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定の酸点濃度及び酸強度を有する特定の無機固体酸が高い抗ウイルス活性を発現することを見出し、本発明を完成した。
本発明は、酸点濃度が0.005mmol/gを超えて、10mmol/g以下であり、酸点の酸強度(pKa)が3.3以下である無機固体酸であって、無機リン酸化合物、無機ケイ酸化合物又は無機酸化物から選択された無機固体酸のいずれか1つ以上を含むことを特徴とする抗ウイルス剤、その抗ウイルス剤を含む抗ウイルス用コーティング組成物、抗ウイルス用樹脂組成物及び抗ウイルス製品である。
【発明の効果】
【0009】
本発明の抗ウイルス剤は、既存の抗ウイルス剤と比較し、高い抗ウイルス活性を示すだけでなく、無機物質であるので耐熱性を有する。また、淡色物質とすることができるので、着色や変色が少なく、加工性に優れ、水等との接触により脱離しない皮膜等を与えるコーティング組成物の製造、樹脂組成物の製造等に好適である。
更に、本発明の抗ウイルス剤を含有する本発明の抗ウイルス製品として、例えば、樹脂成形品、抗ウイルス剤を含む皮膜を備える物品等は、高い抗ウイルス活性を示すだけでなく、含まれる抗ウイルス剤が水で脱離又は流出することがないため、耐久性にも優れるものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明は、以下の通りである。
(1)酸点濃度が0.005mmol/gを超え10mmol/g以下であり、酸点の酸強度(pKa)が3.3以下である無機固体酸であって、無機リン酸化合物、無機ケイ酸化合物又は無機酸化物から選択された無機固体酸のいずれか1つ以上であることを特徴とする抗ウイルス剤。
(2)上記無機固体酸の含水率が0.5質量%以上であることを特徴とする(1)に記載の抗ウイルス剤
(3)銀、銅、及びそれらの化合物からなる群から選択される少なくとも1つを含む(1)又は(2)に記載の抗ウイルス剤。
(4)上記無機固体酸が、α型リン酸ジルコニウム、α型銀リン酸ジルコニウム及びα型銅リン酸ジルコニウムから選択されたいずれか1つ以上である(1)乃至(3)のいずれかに記載の抗ウイルス剤。
(5)上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤を含むことを特徴とする抗ウイルス用コーティング組成物
(6)上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤を含むことを特徴とする抗ウイルス用樹脂組成物
(7)上記(1)〜(4)のいずれか一項に記載の抗ウイルス剤を含むことを特徴とする抗ウイルス製品。
【0011】
本発明において、無機固体酸は、無機固体表面に酸点を有している物質である。酸点とは、塩基にプロトンを与える性質、又は、塩基から電子対を受け取る性質を示す箇所である。この酸点の数量は、酸点濃度で示すことができ、固体表面の酸点あるいは酸性中心の数量として、通常、固体の単位重量あるいは単位表面積あたりの数又はモル数として表わされる。
【0012】
本発明の抗ウイルス剤に含まれる無機固体酸において、無機固体表面の酸点の濃度(酸点濃度)は、ウイルスを不活性化する効果(以下、「抗ウイルス効果」という)を好適に発現させるべく、0.005mmol/g を超え、10mmol/g以下のものとする。
尚、酸点濃度が高いほど、抗ウイルス効果も高まるため、酸点濃度が10mmol/gを超えるものは一般的に知られていないので、上限は、通常、10mmol/g である。
本発明における好ましい酸点濃度は0.008mmol/g 以上、より好ましくは0.01mmol/g以上である。特に酸点濃度が0.01m mol/g 以上の無機固体酸による抗ウイルス効果は優れており、様々なウイルスに対して高い効果を示す。
本発明の抗ウイルス剤は、上記のように、0.005mmol/g を超える酸点濃度を有する無機固体酸の表面の酸点において、抗ウイルス効果を発現させる。
通常、ウイルスは、(1)細胞表面への吸着、(2)細胞内への侵入、(3)脱殻、(4)部品の合成、(5)部品の集合、及び(6)感染細胞からの放出、という段階を経て増殖を行う。上記無機固体酸は、無機固体表面の酸点に接触したウイルスの細胞表面への吸着を不活性化することにより、抗ウイルス効果を発現させると推察される。
【0013】
酸点濃度は、粉体(無機固体酸)と反応する塩基の量を測定することで求めることが可能である。
酸点濃度は、液相又は気相で測定することができる。液相で測定する方法としては、滴定法が知られている。また、気相で測定する方法としては、Heガスや水素ガスの吸脱着量と塩基性ガスの吸脱着量との差を測定する気体化学吸着法が知られている。
本発明における抗ウイルス剤とウイルスとの反応は、液体を媒介とした反応であるため、酸点濃度の測定は、液相での滴定法が適している。
【0014】
液相での滴定法による無機固体酸の酸点濃度の具体的な測定方法は、以下の通りである。
無極性溶媒中に分散した無機固体酸をn−ブチルアミンで滴定し、滴定の終点を酸塩基変換指示薬の変色で確認する。反応前の指示薬は塩基型の色を呈しているが、無機固体酸に吸着するとその共役酸型の色を呈する。共役酸型の色から塩基型の色に戻るまでに要したn−ブチルアミンの滴定量よりその酸点濃度を決定する。固体の酸点一個とn−ブチルアミン一分子とが対応する。滴定用塩基は、固体の酸点と反応した指示薬を置換しなければならないため、その塩基性は指示薬の塩基性よりも強いものとなる。
通常の滴定方法は、無機固体酸/ベンゼン分散液に指示薬を加えると、固体酸性により指示薬は酸性色を示すが、反応が完結するまで十分な時間をおくことが好ましい。次に、n−ブチルアミンを滴下していき、指示薬の色が元の色である塩基性色に戻ったときのn−ブチルアミンの量から酸点濃度を計算する。
【0015】
無機固体酸の酸点濃度の測定の具体的手順は、以下の通りである。
(1)ベンゼン10mL及び無機固体酸0.5gを20mLのサンプル瓶に入れて撹拌し、無機固体酸を分散させる。この混合分散液を、例えば、20個準備する。
(2)各サンプル瓶に添加量を変えて規定度0.1Nのn−ブチルアミンを加え、振とう機で攪拌し、20種の混合液を調製する。
(3)24時間後、各混合液に0.1%指示薬メチルレッド溶液を0.5mL加え、指示薬の変色を観察する。
(4)指示薬の変色が確認されないn−ブチルアミンの添加量が最も多い系のn−ブチルアミンの添加量を酸点と反応した塩基量とし、酸点濃度(mmol/g)として表す。
【0016】
上記無機固体酸は、ウイルスが接触する表面にプロトン供与性あるいはプロトン受容性を有する置換基が配された構造の無機化合物である。上記無機固体酸の具体例としては、無機リン酸化合物、無機ケイ酸化合物又は無機酸化物から選択された無機固体酸のいずれかであり、リン酸ジルコニウム、リン酸ハフニウム、リン酸チタニウム等のチタン族元素のリン酸化合物、リン酸アルミニウム、ヒドロキシアパタイト(リン酸塩鉱物)等の無機リン酸化合物; ケイ酸マグネシウム、シリカゲル、アルミノケイ酸塩、セピオライト(含水ケイ酸マグネシウム)、モンモリロナイト(ケイ酸塩鉱物)、ゼオライト(アルミノケイ酸塩)等の無機ケイ酸化合物;アルミナ、チタニア、含水酸化チタン等であって、酸点濃度が0 .005mmol/g を超え10mmol/g以下であり、且つ酸強度(pKa)が3.3以下の無機酸化物が挙げられる。これらの中でも、α型リン酸ジルコニウムが本発明の抗ウイルス剤に含まれる無機固体酸として好ましい
【0017】
無機固体酸において、無機固体表面の酸点には強度がある。つまり、無機固体酸自体の酸点濃度が高いことに加え、各酸点の強度が高ければ、より高度な抗ウイルス効果を得ることができる。よって、本発明の抗ウイルス剤に含まれる無機固体酸は、酸点の強度が高いことが好ましい。この酸点の強度は、酸強度としてpKaで表すことができる。
【0018】
本発明における無機固体酸の酸強度としては、pKaが3.3 以下である。好ましくはpKa1.5以下であり、更に好ましくは0.8以下である。
酸点の酸強度が小さい、即ち、pKaが高い場合には、ウイルスを不活性化する能力が低下する傾向にあり、pKaが0.8以下の場合に特に優れた抗ウイルス性能が得られる。
尚、pKaが低いほど塩基にプロトンを与える性質、又は、塩基から電子対を受け取る性質の強さ、即ち、酸強度が強くなり、酸強度が強いほどウイルスを不活性化する能力が高くなる。
【0019】
本発明における無機固体酸の酸強度は、無機固体酸表面の酸点が塩基にプロトンを与える能力あるいは塩基から電子対を受け取る能力である。上記無機固体酸の酸強度(pKa)は、pKaが判明している種々の酸塩基変換指示薬を用い、塩基型をその共役酸型に変える能力として、測定することが可能である。塩基型が共役酸型に変わった際には、酸塩基変換指示薬が変色することで判別が可能である。
酸強度の測定に用いることができる酸塩基変換指示薬(pKa値)としては、メチルレッド(+4.8)、4−フェニルアゾ−1−ナフチルアミン(+4.0)、ジメチルイエロー(+3.3)、2−アミノ−5−アゾトルエン(+2.0)、4−フェニルアゾ−ジフェニルアミン(+1.5)、4−ジメチルアミノアゾ−1−ナフタレン(+1.2)、クリスタルバイオレット(+0.8)、p−ニトロベンゼンアゾ−p’−ニトロ−ジフェニルアミン(+0.43)、ジシンナミルアセトン(−3.0)、ベンザルアセトフェノン(−5.6)、アントラキノン(−8.2)等が例示できる。
【0020】
上記の酸塩基変換指示薬を用いて無機固体酸の酸強度(pKa)を測定する方法の例を以下に示す。
(1)ベンゼン2mL及び無機固体酸0.1gを試験管に入れて撹拌し、無機固体酸を分散させる。この分散液を、試験する酸塩基変換指示薬の種類の分だけ用意する。
(2)各種酸塩基変換指示薬の0.1%ベンゼン溶液(クリスタルバイオレットはベンゼン溶液でなく、0.1%エタノール溶液とする)の約2滴を、分散液に添加し軽く振り混ぜ、色の変化を観察する。
(3)無機固体酸の酸強度(pKa)は、指示薬の変色が確認された最も強い酸強度(即ち、最も低いpKa値)以下であり、指示薬の変色が確認されない最も弱い酸強度(即ち、最も高いpKa値)より大きいことになる。従って、無機固体酸のpKa値は(変色の確認されない最も高いpKa値)〜(変色の確認された最も低いpKa値)として表記する。また、下限を示す適当な指示薬がない場合は「変色の確認された最も低いpKa値以下」とし、上限を示す適当な指示薬がない場合は「変色の確認されない最も高いpKa値より大きい」とする。
【0021】
本発明の抗ウイルス剤は、銀又は銅、あるいはそれらの両方を含有することができる。本発明の抗ウイルス剤は、銀イオン(銀原子)又は銅イオン(銅原子)を構造中に有する無機固体酸を含有するものであってもよく、銀又は銅、あるいはそれらの化合物と、銀及び銅を含まない無機固体酸との混合物であってもよい。銀又は銅を含有する抗ウイルス剤は、抗ウイルス効果が優れる。このような抗ウイルス剤中の銀又は銅、あるいはそれらの化合物の含有率は、合計で好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上、更に好ましくは1質量%以上である。尚、銀イオン(銀原子)又は銅イオン(銅原子)を構造中に有する無機固体酸としては、α型銀リン酸ジルコニウム、又はα型銅リン酸ジルコニウムが好適に使用される。
【0022】
本発明の抗ウイルス剤は、様々な材質や形態への加工に適用させるために、粉末状であることが好ましい。粉末状の抗ウイルス剤は、この抗ウイルス剤及びバインダーを含有し、分散性に優れたコーティング組成物の調製、抗ウイルス剤及び成形用樹脂を含有し、分散性に優れた樹脂成形品を与える樹脂組成物の調製等に好適である。
粉末状の抗ウイルス剤の平均粒径は、好ましくは0.01〜50μmであり、より好ましくは0.1〜20μmである。平均粒径が0.01μm以上の粉末は凝集し難いため取り扱い易いという長所がある。また、平均粒径が50μm以下の粉末を含有するコーティング組成物は、分散性が良好であるために繊維の表面に塗布した場合、皮膜付き繊維の風合いを損ねることがなく、また、樹脂組成物から紡糸して繊維を作製した場合に糸切れを起こし難くすることができる。
上記平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器等で測定することができ、体積基準で解析したメジアン径である。
【0023】
本発明の抗ウイルス剤の色調に制限はないが、様々な材質や形態への加工に適用させるために白色又は明度の高い淡色が好ましい。明度は、色彩色差計で測定した際のL値で好ましくは80以上であり、より好ましくは85以上、更に好ましくは95以上である。
【0024】
本発明の抗ウイルス剤は、一定の水分量を持つことで抗ウイルス効果が発現しやすくなる。
抗ウイルス剤中の含水率は、0.5質量%以上が好ましい。含水率がこれ以上である場合に、良好な抗ウイルス活性を有する抗ウイルス剤が得られる。なお、より好ましくは1質量%以上、更に好ましくは3質量%以上である。また、吸湿性を有する上記無機固体酸は、他の材料と混合しても、あるいは大気の湿度が変化しても、水分を無機固体酸中に保つことができるから、ウイルスの不活性化に必要な水分を抗ウイルス剤自体が有している点で優れている。
【0025】
一般に、抗ウイルス効果の測定には、ウイルスに感染した細胞の形状が変化する細胞変性の現象を利用してウイルス量(感染価)を測定する方法が用いられる。
感染価の測定方法としては、プラック数測定法、50%組織培養感染量(TCID50)測定法及び50%ウイルス力価(EID50)測定法が挙げられる。
抗ウイルス効果は、下記式(1)により得られる抗ウイルス活性値として評価することが可能である。式(1)中で初期ウイルス感染価とは、評価に用いた接種直後のウイルス液のウイルス量を意味し、残存ウイルス感染価とは、抗ウイルス試料と接触し一定時間経過後のウイルス量を意味する。抗ウイルス活性値は、数値が高いほど抗ウイルス効果が高く、好ましくは2以上、より好ましくは3以上である。
抗ウイルス活性値=Log(初期ウイルス感染価)−Log(残存ウイルス感染価) (1)
【0026】
本発明の抗ウイルス剤の使用形態は、特に制限がなく、抗ウイルス剤を単独で使用することもでき、用途に応じて、適宜、他の成分と混合したり、他の材料と複合化させたりすることができる。
粉末状の抗ウイルス剤は、例えば、粉末含有分散液、粉末含有粒子、粉末含有塗料、粉末含有繊維、粉末含有紙、粉末含有プラスチック、粉末含有フィルム、粉末含有エアゾール等の種々の使用形態とすることができる。更に、必要に応じて、消臭剤、抗菌剤、抗カビ剤、防炎剤、防食、肥料等の各種の添加剤;建材等の材料等と併用することもできる。
また、本発明の抗ウイルス剤を、人が接触する可能性のある材料である、樹脂、紙、プラスチック、ゴム、ガラス、金属、コンクリート、木材、塗料、繊維、革、石等に添加することによって生活空間におけるウイルスを不活性化させることが可能である。
【0027】
本発明の抗ウイルス剤の使用形態の中でも好ましいのは、抗ウイルス剤を含有する抗ウイルス用コーティング組成物である。本発明のコーティング組成物は、上記本発明の抗ウイルス剤を含み、必要に応じて、バインダー、分散剤等を含む組成物である。本発明のコーティング組成物は、更に、添加剤を含有してもよい。本発明のコーティング組成物を使用する場合には、各種形状の物品に塗布する前に溶剤や水で希釈することもできる。
コーティング組成物中における抗ウイルス剤の濃度は、分散が容易で保存性が良いことから、好ましくは0.5〜50質量%、更に好ましくは1〜30質量%である。通常、抗ウイルス効果は、各種形状の抗ウイルス製品の表面で抗ウイルス剤とウイルスとが接触することによって発現するので、本発明のコーティング組成物で抗ウイルス製品の表面に抗ウイルス剤を固定することは、より少ない量の抗ウイルス剤で大きな効果を得ることができるので好ましい。
【0028】
本発明のコーティング組成物に使用可能なバインダーとしては、天然樹脂、天然樹脂誘導体、フェノール樹脂、キシレン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、ケトン樹脂、クマロン・インデン樹脂、石油樹脂、テルペン樹脂、環化ゴム、塩素化ゴム、アルキド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリ塩化ビニル、アクリル樹脂、塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリビニルプラチラール、塩素化ポリプロピレン、スチレン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロース誘導体等が挙げられる。これらのうち、好ましいものはウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリ塩化ビニル及び塩化ビニル・酢酸ビニル共重合樹脂であり、中でもエマルション型の樹脂は、低公害で取り扱い易いので好ましい。
【0029】
本発明のコーティング組成物に使用可能な分散剤は、本発明の抗ウイルス剤をコーティング組成物中に均一に分散させることが可能なものであれば、特に限定されない。分散剤としては、ポリカルボン酸系、ポリエチレングリコール、ポリエーテル系、ポリアルキレンポリアミン系等の高分子型分散剤;アルキルスルホン酸系、四級アンモニウム系、高級アルコールアルキレンオキサイド系、多価アルコールエステル系、アルキルポリアミン系等の界面活性剤型分散剤;ポリリン酸塩系等の無機型分散剤;水、アルコール溶液、石灰、ソーダ灰、ケイ酸ソーダ、デンプン、ニカワ、ゼラチン、タンニン等が挙げられる。
【0030】
本発明のコーティング組成物に使用可能な添加剤としては、酸化亜鉛や酸化チタン等の顔料、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、金属石鹸等の滑剤、増粘剤、防湿剤及び増量剤、カップリング剤、核剤、流動性改良剤、消臭剤、木粉、防黴剤、抗菌剤、防汚剤、防錆剤、金属粉、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤等が例示される。また、有機系抗ウイルス剤等を併用することで、抗ウイルス効果を向上させることも可能である。
【0031】
本発明のコーティング組成物は、無機材料又は有機材料を含む物品の表面への、抗ウイルス効果を有する皮膜形成に有用である。
本発明のコーティング組成物の主な使用用途は、繊維又は繊維製品(織布、不織布、編物等)への加工である。
繊維又は繊維製品に塗布する方法としては、コーティング組成物をそのまま、あるいは、溶剤等で希釈した液体を、繊維又は繊維製品に塗布、浸漬又は吹き付ける方法が例示される。上記繊維には制限はなく、綿、絹、羊毛等の天然繊維;ポリエステル、ナイロン(ポリアミド系合成繊維)、アクリルニトリル等の合成繊維;トリアセテート、ジアセテート等の半合成繊維;ビスコースレーヨン等の再生繊維等が挙げられる。また、これらの繊維を2種類以上含む複合繊維でもよい。不織布の場合、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維等を含むものとすることが可能である。
尚、コーティング組成物による抗ウイルス製品の製造方法は、特に限定されるものではないが、浸漬処理、プリント処理、吹き付け処理等の何れの塗布方法を採用した場合であっても、コーティング組成物の塗布後には、塗膜の乾燥を要する。乾燥方法は、自然乾燥、熱風乾燥、真空乾燥等いずれも用いることができるが、好ましくは熱による方法である。乾燥条件は、好ましくは40℃〜250℃、より好ましくは50℃〜180℃で好ましくは1分〜5時間、より好ましくは5分〜3時間である。これによって抗ウイルス剤を繊維又は繊維製品に定着させることができる。
【0032】
本発明のコーティング組成物を用いる場合、抗ウイルス剤の繊維又は繊維製品に対する展着量は、抗ウイルス効果を好適に発現できるという観点から、繊維又は繊維製品の表面積1mに対して好ましくは0.05g以上である。尚、得られる抗ウイルス製品の物性や風合い等が損なわれることを抑制するという観点から、展着量は、好ましくは10g/m以下、より好ましくは0.3〜5g/mである。
【0033】
本発明のコーティング組成物を繊維、繊維製品等の物品に塗布する場合、コーティング組成物が強酸性であると、生産機械の金属を腐食させたり、処理液の劣化や安定性の低下を引き起こしたりする可能性がある。一方、強アルカリ性であると、無機固体酸が中和されて抗ウイルス効果が低下する場合がある。そのため、本発明のコーティング組成物のpHは、好ましくは3以上9以下、更に好ましくは5以上8以下である。
コーティング組成物のpHを決める要因は、無機固体酸のpKaが大きく効くが、その他にも酸点濃度や、抗ウイルス剤が媒体に溶解する場合の溶解性、親水性等が影響を与える。
【0034】
本発明のコーティング組成物は、塗料として使用することもできる。
塗料用樹脂成分としては、大豆油、あまに油、サフラワー油、ひまし油等の油脂類、ロジン、コパール、セラック等の天然樹脂、クロマン樹脂、石油樹脂等の加工樹脂、アルキド樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂等の合成樹脂、塩素化ゴム、環化ゴム等のゴム誘導体、硝化綿(ラッカー)、アセチルセルロース等のセルロース誘導体等が例示される。
上記塗料は、従来、公知の塗料に含有されている顔料、UV硬化剤、可塑剤、分散剤、沈降防止剤、乳化剤、増粘剤、消泡剤、防カビ剤、防腐剤、皮張り防止剤、乾燥剤、たれ防止剤、つや消し剤、帯電防止剤、導電剤、難燃剤、落書き防止剤等の添加剤;溶剤を含有してもよい。
顔料としては、(白)チタン、(黒)カーボン、(茶)べんがら、(朱)クロムバーミリオン、(青)紺青、(黄)黄鉛、(赤)酸化鉄等の着色含量、炭酸カルシウム、タルク、バライト粉等の体質顔料、鉛丹、亜酸化鉛、シアミド鉛等の防錆顔料、アルミニウム粉、硫化亜鉛(蛍光顔料)等の機能性顔料等が例示される。
また、溶剤としては、水、アルコール、塗料用シンナー、ラッカーシンナー、ポリウレタン樹脂用シンナー等のシンナー等が例示される。
【0035】
本発明のコーティング組成物である塗料を用いて抗ウイルス製品を製造する場合には、塗料をそのまま、あるいは、溶剤等で希釈した液体塗料を、基材等に刷毛塗り工法、ローラー工法、吹付け(スプレー)工法、コテ塗り工法等で塗工し、必要により、乾燥する。塗膜に含まれる抗ウイルス剤の含有量は、基材の表面積1mに対して好ましくは0.05g以上である。また、塗工後、得られた塗膜をUV等の放射線を照射することにより硬化させてもよい。
基材としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ABS樹脂、MBS樹脂、ポリアミド樹脂、セロファン等のプラスチック成形品、変性シリコーンやウレタン等の目地剤、金属、合金、窯業サイディング、磁器、石器、陶器、施釉タイル、大理石、御影石、ガラス等である。
【0036】
本発明のコーティング組成物である塗料において、抗ウイルス剤の含有割合の下限は、抗ウイルス剤を含む皮膜による抗ウイルス効果を好適に発現することができるという観点から、抗ウイルス剤と、樹脂成分等の固形分との合計を100質量%とした場合に、好ましくは10質量%である。また、上限は、経済的理由、塗工する基材の物性、得られる抗ウイルス製品の風合い等を損なわない点、塗料の物性、機能等を著しく損なわない点で、好ましくは50質量%である。特に好ましい抗ウイルス剤の含有割合は、20〜40質量%である。
【0037】
本発明の抗ウイルス用樹脂組成物は、樹脂と、上記本発明の抗ウイルス剤とを含むものである。
樹脂組成物に用いることができる樹脂の種類に制限はなく、天然樹脂、合成樹脂及び半合成樹脂のいずれであってもよく、また、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。
具体的な樹脂としては、例えば、オレフィン樹脂(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、塩化ビニル、ABS樹脂、AS樹脂、MBS樹脂、ナイロン樹脂(ポリアミド系合成樹脂)、ポリエステル(PET、PBT等)、ポリ塩化ビニリデン、ポリスチレン、ポリアセタール、ポリカーボネート、アクリル樹脂、フッ素樹脂、ポリウレタンエラストマー、ポリエステルエラストマー、メラミン、ユリア樹脂、四フッ化エチレン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、レーヨン、アセテート、ポリビニルアルコール、キュプラ、トリアセテート、ビニリデン等の成形用又は繊維用樹脂、天然ゴム、シリコーンゴム、スチレンブタジエンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ素ゴム、ニトリルゴム、クロルスルホン化ポリエチレンゴム、ブタジエンゴム、合成天然ゴム、ブチルゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム等のゴム状樹脂が挙げられる。
また、本発明の樹脂組成物は、添加剤を含有することもできる。添加剤としては、酸化亜鉛や酸化チタン等の顔料、染料、酸化防止剤、耐光安定剤、難燃剤、帯電防止剤、発泡剤、耐衝撃強化剤、ガラス繊維、金属石鹸等の滑剤、防湿剤、増量剤、カップリング剤、核剤、流動性改良剤、消臭剤、木粉、防黴剤、防汚剤、防錆剤、金属粉、紫外線吸収剤、紫外線遮蔽剤等が挙げられる。これらは、いずれも好ましく用いることができる。
【0038】
本発明の樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されず、従来、公知の方法を採用することができ、例えば、熱可塑性樹脂組成物の場合、樹脂及び抗ウイルス剤を含む原料混合物を混練することにより製造することができる。変性された樹脂や、表面に特殊な官能基等を有する抗ウイルス剤を用いる場合には、例えば、(1)抗ウイルス剤と樹脂とを付着しやすくするための添着剤や抗ウイルス剤の分散性を向上させるための分散剤を使用し、ペレット状樹脂又はパウダー状樹脂をミキサーで直接混合する方法、(2)前記(1)のようにして混合して、押し出し成形機にてペレット状に成形した後、その成形物をペレット状樹脂に配合する方法、(3)抗ウイルス剤を、ワックス等に分散混合させて、ペレット状に成形後、そのペレット状成形物をペレット状樹脂に配合する方法、(4)抗ウイルス剤をポリオール等の高粘度の液状物に分散混合させてペースト状組成物を調製後、このペースト状組成物をペレット状樹脂に配合する方法等がある。
【0039】
本発明の抗ウイルス製品は、上記本発明の抗ウイルス剤を含む物品である。
本発明の抗ウイルス製品は、例えば、本発明の樹脂組成物を所定の形状に成形して得られたもの、本発明のコーティング組成物を基材の所定部分に塗布した後、塗膜を乾燥して皮膜化させたもの等が挙げられる。
【0040】
上記本発明の樹脂組成物を用いて成形加工する場合には、樹脂の特性に合わせて、公知の成形加工技術と機械装置が適用可能である。成形品の形状は、塊状、スポンジ状、フィルム状、シート状、糸状、パイプ状或いはこれらの複合体等とすることができる。
【0041】
上記本発明のコーティング組成物の塗布により得られた抗ウイルス製品は、繊維、繊維製品(織布、不織布、編物等)、フィルム等の基材の表面の少なくとも一部に抗ウイルス剤を含む皮膜を有する物品が挙げられる。
【0042】
ウイルス低減化が必要とされる抗ウイルス製品の用途として、室内用品、寝具類、フィルター類、家具類、車内用品、繊維製品、住宅建材製品、紙製品、玩具、皮革製品、トイレタリー製品等が例示される。より具体的には、カーペット、カーテン、壁紙、畳、障子紙、床用ワックス、カレンダー等の室内用品、ふとん、ベッド、シーツ、枕、枕カバー等の寝具類、空気清浄機、エアコン等のフィルター類、ソファー、椅子等の家具類、チャイルドシート、座席シート等の車内用品、電気掃除機の集塵袋、衣料品、マスク、ぬいぐるみ、キッチン用品等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
【0043】
上記本発明の抗ウイルス剤を、非水系のコーティング組成物、樹脂組成物等に含有させて抗ウイルス製品とした場合、抗ウイルス製品に含まれる抗ウイルス剤が他の物品と接触して他の物品における金属部分を腐食させたり、樹脂部分を変色させたりすることがある。例えば、コーティング組成物のpHを所定の範囲とすることで、こうした不具合を抑制できることを、本発明者らは水分散系の試験で確認している。
水分散系の試験としては、抗ウイルス剤を水分散してそのpHを測定するのが簡易な方法である。例えば、抗ウイルス剤が5質量%となるように脱イオン交換水中に分散させ、25℃で攪拌機により5分間攪拌した後のpHを、ガラス電極式pHメーターを用いて測定する。その時のpHは、好ましくは3以上9以下であり、更に好ましくは5以上8以下である。水分散液のpHが上記範囲にある抗ウイルス剤を含む抗ウイルス製品は、金属の腐食や樹脂の変色を起こしにくいので、コーティング組成物、塗料、樹脂組成物等に用いるものとして好ましい。
【実施例】
【0044】
以下、本発明を、実施例により更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。尚、「%」は質量%である。
実施例及び比較例では、抗ウイルス剤の物性測定及び耐熱性評価と、抗ウイルス剤を含むコーティング組成物の製造及びその評価と、抗ウイルス剤を含む樹脂組成物の製造及びその評価とを行った。
【0045】
抗ウイルス剤を構成する無機固体酸粉体の酸点濃度の測定方法は、以下の通りである。無機固体酸粉体0.5gを20mLのサンプル瓶20個のそれぞれに入れ、それらにベンゼン10mLを添加し軽く振り混ぜる。次いで、各サンプル瓶に添加量を変えて0.1Nのn−ブチルアミンを加えて20種の混合液とし、振とう機で攪拌する。24時間後、各混合液にベンゼンで希釈した0.1%メチルレッド溶液を0.5mL加え、メチルレッドの変色を目視で観察する。メチルレッドの変色が確認されないn−ブチルアミンの添加量が最も多いn−ブチルアミンの添加量を、酸点と反応した塩基量とし、酸点濃度(mmol/g)とする。
【0046】
抗ウイルス剤を構成する無機固体酸粉体の酸強度の測定方法は、以下の通りである。試験管に試料を0.1g採取し、ベンゼン2mLと、下記指示薬の0.1%ベンゼン溶液2滴とを添加し、軽く振り混ぜ、色の変化を観察する。尚、クリスタルバイオレットの場合、0.1%エタノール溶液を用いる。酸強度は、指示薬の変色が確認された最も強い酸強度(最も低いpKa値)以下であり、指示薬が変色しなかった最も弱い酸強度(最も高いpKa)より大きいと考えられるのでその範囲をpKa値として記録する。指示薬は、メチルレッド(pKa=4.8)、4−フェニルアゾ−1−ナフチルアミン(pKa=4.0)、ジメチルイエロー(pKa=3.3)、4−フェニルアゾ−ジフェニルアミン(pKa=1.5)、クリスタルバイオレット(pKa=0.8)、ジシンナミルアセトン(pKa=−3.0)、ベンザルアセトフェノン(pKa=−5.6)及びアントラキノン(pKa=−8.2)である。
【0047】
抗ウイルス剤を構成する無機固体酸粉体の平均粒径は、レーザー回折式粒度分布測定器で測定して得られた体積基準のメジアン径(μm)である。
【0048】
抗ウイルス剤を構成する無機固体酸粉体の含水率の測定方法は、以下の通りである。乾燥機中250℃で1時間恒量したアルミカップに試料約5gを秤量し、250℃で2時間乾燥後、再度秤量し、乾燥減分を乾燥前の質量で除したものを%表示として無機固体酸粉体の含水率とした。
【0049】
抗ウイルス剤の抗ウイルス効果の評価方法は、以下の通りである。抗ウイルス剤に精製水を加えて、無機固体酸粉体の濃度を0.5mg/mLに調整し、この液体900μLに対して、ウイルス感染価が2×10PFU/mLのA型インフルエンザウイルス液を100μL加え、25℃で2時間静置する。その後、混合液を回収し、この回収液をプラック数測定法に供し、ウイルス感染価を計測する。また、2時間静置前の混合液に対しても、ウイルス感染価を計測する。
抗ウイルス効果は、これらのウイルス感染価で判定し、2時間静置後のウイルス感染価が検出限界以下であった場合を「++」、2時間静置後の抗ウイルス活性値、即ち、Log(接種直後のウイルス感染価)−Log(2時間後のウイルス感染価)の計算値が1以上低下していた場合を「+」、2時間静置後に「++」及び「+」以外の場合を「−」とした。
【0050】
コーティング組成物の1の評価は、この組成物をポリエステル生地にディップコーティングして得られた抗ウイルス製品(抗ウイルス加工生地)の抗ウイルス効果を評価することにより行った。洗濯前又は洗濯後の抗ウイルス加工生地0.4gに、ウイルス感染価が2×10PFU/mLのA型インフルエンザウイルス液0.2mLを浸透接種し、25℃で2時間静置する。その後、ウイルス液を回収し、この回収液をプラック数測定法に供し、ウイルス感染価を計測する。また、2時間静置前の接触液に対しても、ウイルス感染価を計測する。
抗ウイルス効果は、下記式で得られる抗ウイルス活性値で評価した。
抗ウイルス活性値=Log(接種直後のウイルス感染価)−Log(2時間後のウイルス感染価)
【0051】
コーティング組成物の他の評価は、この組成物をポリエステルフィルムに塗布して得られた抗ウイルス製品(抗ウイルス加工フィルム)の抗ウイルス効果を評価することにより行った。サイズが5cm×5cmの抗ウイルス加工フィルム表面に、ウイルス感染価が2×10PFU/mLのA型インフルエンザウイルス液0.4mLを滴下し、その後、液部分を、サイズが4cm×4cmのポリエチレンフィルムで被覆する。25℃で2時間静置後に、抗ウイルス加工フィルム表面に滴下されたウイルス液を回収し、この回収液をプラック数測定法に供し、ウイルス感染価を計測する。また、2時間静置前の接触液に対しても、ウイルス感染価を計測する。
抗ウイルス効果は、下記式で得られる抗ウイルス活性値で評価した。
抗ウイルス活性値=Log(接種直後のウイルス感染価)−Log(2時間後のウイルス感染価)
【0052】
抗ウイルス剤を含む樹脂組成物の評価は、この組成物を紡糸することにより得られた抗ウイルス繊維の抗ウイルス効果を評価することにより行った。抗ウイルス繊維0.4gに、ウイルス感染価が2×10PFU/mLのA型インフルエンザウイルス液0.2mLを浸透接種し、25℃で2時間静置する。その後、ウイルス液を回収し、この回収液をプラック数測定法に供し、ウイルス感染価を計測する。また、2時間静置前の接触液に対しても、ウイルス感染価を計測する。
抗ウイルス効果は、下記式で得られる抗ウイルス活性値で評価した。
抗ウイルス活性値=Log(接種直後のウイルス感染価)−Log(2時間後のウイルス感染価)
【0053】
1.抗ウイルス剤の製造及び評価
実施例1(非晶質ケイ酸マグネシウム)
原料として、硫酸、硫酸マグネシウム及び水ガラスを用い、これらを混合・反応させた。次いで、得られた沈殿物をろ過、水洗、乾燥及び粉砕することで、白色の、非晶質ケイ酸マグネシウム(SiO/MgO=1.3)粉末を得た。得られた非晶質ケイ酸マグネシウム粉末を抗ウイルス剤(V1)として、色彩L値、平均粒径、含水率、酸強度及び酸点濃度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0054】
実施例2(α型リン酸ジルコニウム)
75%リン酸水溶液に15%オキシ塩化ジルコニウム水溶液を添加し、100℃で12時間熟成させた。その後、得られた沈殿物をろ過、水洗、乾燥及び解砕することで、白色のα型リン酸ジルコニウム粉末を得た。得られたα型リン酸ジルコニウム粉末を抗ウイルス剤(V2)として、色彩L値、平均粒径、含水率、酸強度及び酸点濃度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0055】
実施例3(α型銀リン酸ジルコニウム)
75%リン酸水溶液に15%オキシ塩化ジルコニウム水溶液を添加し、100℃で12時間熟成させた。その後、得られた沈殿物を水洗し、回収した。次いで、この沈殿物を硝酸銀水溶液中にて100℃で2時間撹拌した。その後、得られた沈殿物をろ過、水洗、乾燥及び解砕することで、白色の、銀を4.2%含有するα型銀リン酸ジルコニウム粉末を得た。得られたα型銀リン酸ジルコニウム粉末を抗ウイルス剤(V3)として、色彩L値、平均粒径、含水率、酸強度及び酸点濃度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0056】
実施例4(α型銅リン酸ジルコニウム)
75%リン酸水溶液に15%オキシ塩化ジルコニウム水溶液を添加し、100℃で12時間熟成させた。その後、得られた沈殿物を水洗し、回収した。次いで、この沈殿物を硫酸銅水溶液中にて100℃で2時間撹拌した。その後、得られた沈殿物をろ過、水洗、乾燥及び解砕することで、水色の、銅を2.8%含有するα型銅リン酸ジルコニウム粉末を得た。得られたα型銅リン酸ジルコニウム粉末を抗ウイルス剤(V4)として、色彩L値、平均粒径、含水率、酸強度及び酸点濃度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0057】
実施例5(γ型リン酸ジルコニウム)
75%リン酸水溶液に炭酸ジルコニウム水溶液を添加し、98℃で24時間加熱還流させた。その後、得られた沈殿物をろ過、水洗、乾燥及び解砕することで、白色のγ型リン酸ジルコニウム粉末を得た。得られたγ型リン酸ジルコニウム粉末を抗ウイルス剤(V5)として、色彩L値、平均粒径、含水率、酸強度及び酸点濃度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0058】
実施例6(活性酸化チタン)
原料として、硫酸チタニル及びシュウ酸を用い、これらを混合・反応させた。次いで、得られた沈殿物をろ過及び乾燥し、500℃で焼成処理した。その後、粉砕することで、白色の活性酸化チタン粉末を得た。得られた酸化チタン粉末を抗ウイルス剤(V6)として、色彩L値、平均粒径、含水率、酸強度及び酸点濃度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0059】
比較例1(結晶質ケイ酸マグネシウム)
原料として、硫酸、硫酸マグネシウム及び水ガラスを用い、これらを混合・反応させた。次いで、得られた沈殿物をろ過、水洗、水熱処理、乾燥及び粉砕することで、結晶質ケイ酸マグネシウム(SiO/MgO=1.3)粉末を得た。得られた結晶質ケイ酸マグネシウム粉末を抗ウイルス剤(V7)として、色彩L値、平均粒径、含水率、酸強度及び酸点濃度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0060】
比較例2(結晶質銀銅ケイ酸アルミニウム)
水酸化アルミニウムに、水酸化ナトリウム及び珪酸ソーダを加えて、100℃で6時間熟成した。その後、得られた沈殿物を水洗し、回収した。次いで、この沈殿物を、硝酸銀及び硝酸銅の水溶液に入れ、100℃で2時間撹拌した。その後、得られた沈殿物をろ過、水洗、乾燥及び解砕することで、銀を2.2%、銅を6.2%含有する結晶質銀銅ケイ酸アルミニウム粉末を得た。得られた結晶質銀銅ケイ酸アルミニウム粉末を抗ウイルス剤(V8)として、平均粒径、含水率、酸強度及び酸点濃度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0061】
比較例3(NASICON型リン酸ジルコニウム)
オキシ塩化ジルコニウム水溶液にシュウ酸及び75%リン酸水溶液を添加した。次いで、苛性ソーダで混合液のpHを2.7に調整し、98℃で12時間加熱還流した。その後、得られた沈殿物をろ過、水洗、乾燥及び解砕することで、NASICON型リン酸ジルコニウム粉末を得た。得られたNASICON型リン酸ジルコニウム粉末を抗ウイルス剤(V9)として、平均粒径、含水率、酸強度及び酸点濃度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0062】
比較例4(酸化チタン)
石原産業社製酸化チタン「MC−50」(商品名)の粉末を抗ウイルス剤(V10)として用いた。この粉末の平均粒径及び酸強度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0063】
比較例5(活性アルミナ)
水澤化学工業社製活性アルミナ「GNDY−2」(商品名)の粉末を抗ウイルス剤(V11)として用いた。この粉末の平均粒径及び酸強度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表1に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
表1から、酸点濃度が0.005mmol/gを超える無機固体酸からなる抗ウイルス剤(V1)〜(V6)を用いた実施例1〜6は、優れた抗ウイルス活性を示した。
一方、酸点濃度が0.005mmol/g以下の無機固体酸からなる抗ウイルス剤を用いた比較例1〜5は、抗ウイルス活性を示さなかった。
以上から、酸点濃度が0.005mmol/gを超える無機固体酸を含む抗ウイルス剤が有用であることが示された。
【0066】
2.コーティング組成物の製造及び評価(1)
実施例7
実施例1の非晶質ケイ酸マグネシウムからなる抗ウイルス剤(V1)と、不揮発分が30%(以下、「NV30」という)のウレタンエマルションバインダーとを、固形分質量比で1:1になるように混合し、コーティング組成物(C1)を製造した。
次いで、このコーティング組成物(C1)に、185g/mのポリエステル生地を、抗ウイルス剤(V1)の展着量が3g/mとなるように浸漬し、105℃で乾燥して、抗ウイルス加工生地を製造した。
この抗ウイルス加工生地、及び、JIS L0217 103法による洗濯3回後の抗ウイルス加工生地について、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表2に示した。
【0067】
実施例8
抗ウイルス剤(V1)に代えて、実施例2のα型リン酸ジルコニウムからなる抗ウイルス剤(V2)を用いた以外は、実施例7と同様にしてコーティング組成物(C2)を製造した。その後、コーティング組成物(C2)を用いて抗ウイルス加工生地を製造し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表2に示した。
【0068】
実施例9
抗ウイルス剤(V1)に代えて、実施例3のα型銀リン酸ジルコニウムからなる抗ウイルス剤(V3)を用いた以外は、実施例7と同様にしてコーティング組成物(C3)を製造した。その後、コーティング組成物(C3)を用いて抗ウイルス加工生地を製造し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表2に示した。
【0069】
実施例10
抗ウイルス剤(V1)に代えて、実施例4のα型銅リン酸ジルコニウムからなる抗ウイルス剤(V4)を用いた以外は、実施例7と同様にしてコーティング組成物(C4)を製造した。その後、コーティング組成物(C4)を用いて抗ウイルス加工生地を製造し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表2に示した。
【0070】
実施例11
抗ウイルス剤(V1)に代えて、実施例5のγ型リン酸ジルコニウムからなる抗ウイルス剤(V5)を用いた以外は、実施例7と同様にしてコーティング組成物(C5)を製造した。その後、コーティング組成物(C5)を用いて抗ウイルス加工生地を製造し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表2に示した。
【0071】
実施例12
抗ウイルス剤(V1)に代えて、実施例6の活性酸化チタンからなる抗ウイルス剤(V6)を用いた以外は、実施例7と同様にしてコーティング組成物(C6)を製造した。その後、コーティング組成物(C6)を用いて抗ウイルス加工生地を製造し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表2に示した。
【0072】
比較例6
抗ウイルス剤(V1)に代えて、比較例1の結晶質ケイ酸マグネシウムからなる抗ウイルス剤(V7)を用いた以外は、実施例7と同様にしてコーティング組成物(C7)を製造した。その後、コーティング組成物(C7)を用いて抗ウイルス加工生地を製造し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表2に示した。
【0073】
比較例7
抗ウイルス剤(V1)に代えて、比較例2の結晶質銀銅ケイ酸アルミニウムからなる抗ウイルス剤(V8)を用いた以外は、実施例7と同様にしてコーティング組成物(C8)を製造した。その後、コーティング組成物(C8)を用いて抗ウイルス加工生地を製造し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表2に示した。
【0074】
比較例8
抗ウイルス剤(V1)に代えて、ドデシルベンジルジメチルアンモニウムクロライド(第4アンモニウム塩)を用いた以外は、実施例7と同様にしてコーティング組成物(C9)を製造した。その後、コーティング組成物(C9)を用いて抗ウイルス加工生地を製造し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表2に示した。
【0075】
比較例9
未加工のポリエステル生地に対し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表2に示した。
【0076】
【表2】
【0077】
表2から、実施例7〜12の抗ウイルス加工生地は、比較例9のポリエステル生地に比べて高い抗ウイルス活性値を示すことから、コーティング組成物が有用であることが分かる。また、これらの生地の洗濯を3回行った後の抗ウイルス加工生地も高い抗ウイルス活性値を示すことから、皮膜中の抗ウイルス剤が水で流出し難いものであることが示された。
一方、比較例6及び7の抗ウイルス加工生地は、未洗濯及び洗濯3回後の双方で抗ウイルス活性値が低く、形成された皮膜が抗ウイルス効果を発現していなかった。また、比較例8は、未洗濯で抗ウイルス活性値を示したので、形成された皮膜が抗ウイルス効果を発現しているものの、洗濯3回後の抗ウイルス活性値が非常に小さくなることから、コーティング組成物中の抗ウイルス剤が水で流出したものと思われる。
【0078】
3.コーティング組成物の製造及び評価(2)
実施例13
実施例3のα型銀リン酸ジルコニウムからなる抗ウイルス剤(V3)と、NV30の上記ウレタンエマルションバインダーとを固形分質量比で1:1になるように混合し、コーティング組成物(C11)を製造した。次いで、このコーティング組成物(C11)を、ポリエステルフィルムに、抗ウイルス剤(V3)の展着量が0.5g/mとなるように塗工し、風乾することで抗ウイルス加工フィルムを得た。そして、この抗ウイルス加工フィルムの抗ウイルス活性値を測定した。その結果を表3に示した。
【0079】
比較例10
抗ウイルス剤(V3)に代えて、比較例2の結晶質銀銅ケイ酸アルミニウムからなる抗ウイルス剤(V8)を用いた以外は、実施例13と同様にして、コーティング組成物(C12)を得た。次いで、このコーティング組成物(C12)を用いて抗ウイルス加工フィルムを製造した。そして、この抗ウイルス加工フィルムの抗ウイルス活性値を測定した。その結果を表3に示した。
【0080】
比較例11
抗ウイルス剤(V3)に代えて、比較例4の酸化チタンからなる抗ウイルス剤(V10)を用いた以外は、実施例13と同様にして、コーティング組成物(C13)を得た。次いで、このコーティング組成物(C13)を用いて抗ウイルス加工フィルムを製造した。そして、この抗ウイルス加工フィルムの抗ウイルス活性値を測定した。その結果を表3に示した。
【0081】
比較例12
抗ウイルス剤(V3)に代えて、比較例5の活性アルミナからなる抗ウイルス剤(V11)を用いた以外は、実施例13と同様にして、コーティング組成物(C14)を得た。次いで、このコーティング組成物(C14)を用いて抗ウイルス加工フィルムを製造した。そして、この抗ウイルス加工フィルムの抗ウイルス活性値を測定した。その結果を表3に示した。
【0082】
比較例13
上記ウレタンエマルションバインダーを、ウレタン樹脂の展着量が1g/mとなるようにポリエステルフィルムに塗工し、風乾することで、ウレタン樹脂からなる皮膜を有するフィルムを製造した。そして、抗ウイルス活性値を測定した。その結果を表3に示した。
【0083】
【表3】
【0084】
表3から、実施例13の抗ウイルス加工フィルムは、抗ウイルス活性値が4.4を超える値を示しており、本発明の抗ウイルス剤を含有するコーティング組成物が抗ウイルス効果を発現するす皮膜を好適に形成することが分かった。
一方、比較例10〜12の抗ウイルス加工フィルムの抗ウイルス活性値は0.3未満であり、抗ウイルス効果が不十分であることが分かった。
【0085】
4.樹脂組成物の製造及び評価
実施例14
実施例2のα型リン酸ジルコニウムからなる抗ウイルス剤(V2)を、三菱レイヨン社製ポリエステル樹脂「MA2101」に20%の割合で配合し、2軸押出成形機を用いて、温度290℃で混練し、ペレット状のマスターバッチを作製した。次いで、このマスターバッチと、上記ポリエステル樹脂とを混合し、α型リン酸ジルコニウムを3%含有する樹脂組成物(R1)を製造した。その後、得られた樹脂組成物(R1)を溶融紡糸して、290℃で36fマルチフィラメントを製造した。更に、このフィラメントを延伸し、抗ウイルス製品として、2デニールの抗ウイルス加工繊維を製造した。そして、この抗ウイルス加工繊維の抗ウイルス活性値を測定した。その結果を表4に示した。
【0086】
実施例15
抗ウイルス剤(V2)に代えて、実施例3のα型銀リン酸ジルコニウムからなる抗ウイルス剤(V3)を用いた以外は、実施例14と同様にして、マスターバッチを製造した。次いで、同様にして、抗ウイルス剤(V3)を2%含有する樹脂組成物(R2)を得た。その後、この樹脂組成物(R2)を用いて、抗ウイルス製品として、2デニールの抗ウイルス加工繊維を製造した。そして、この抗ウイルス加工繊維の抗ウイルス活性値を測定した。その結果を表4に示した。
【0087】
比較例14
抗ウイルス剤(V2)に代えて、比較例3のNASICON型銀リン酸ジルコニウムからなる抗ウイルス剤(V9)を用いた以外は、実施例14と同様にしてマスターバッチを製造した。次いで、同様にして、抗ウイルス剤(V9)を3%含有する樹脂組成物(R3)を得た。その後、この樹脂組成物(R3)を用いて、2デニールの加工繊維を製造した。そして、この加工繊維の抗ウイルス活性値を測定した。その結果を表4に示した。
【0088】
比較例15
上記ポリエステル樹脂のみを用いて紡糸し2デニールの繊維を得た。その後、この繊維の抗ウイルス活性値を測定した。その結果を表4に示した。
【0089】
【表4】
【0090】
表4から、実施例14及び15の抗ウイルス加工繊維は、3.0以上の優れた抗ウイルス活性値を有していることから、本発明の樹脂組成物が抗ウイルス効果を発現する抗ウイルス製品を与えることが分かる。また、樹脂組成物を溶融紡糸していることから、本発明の抗ウイルス剤が耐熱性や加工性に優れることが分かる。
【0091】
5.抗ウイルス剤の耐熱性試験
実施例16
実施例2のα型リン酸ジルコニウム粉末からなる抗ウイルス剤(V2)を、電気炉を用いて350℃で1時間加熱後に室温まで冷却した。この熱処理物について、色彩L値、平均粒径、含水率、酸強度及び酸点濃度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表5に示した。
【0092】
実施例17
実施例3のα型銀リン酸ジルコニウム粉末からなる抗ウイルス剤(V3)を、電気炉を用いて350℃で1時間加熱後に室温まで冷却した。この熱処理物について、色彩L値、平均粒径、含水率、酸強度及び酸点濃度を測定し、抗ウイルス効果を評価した。その結果を表5に示した。
【0093】
【表5】
【0094】
表5から、α型リン酸ジルコニウム及びα型銀リン酸ジルコニウムは、350℃で加熱しても含水率以外には殆ど物性等の変化はなく、抗ウイルス活性も有することから、耐熱性に優れることが分かる。
【0095】
上記実施例から明らかなように、本発明の抗ウイルス剤、コーティング組成物及び樹脂組成物は、優れた抗ウイルス効果を発現する。また、本発明の抗ウイルス剤は、加工性に優れており、耐熱性を有していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の抗ウイルス剤を、繊維製品や住宅建材等の人間の生活空間に関係する材料に用いることにより、インフルエンザウイルス等を不活性化することができる。そして、本発明の抗ウイルス剤を含有するコーティング組成物又は樹脂組成物は、衣類、寝具、マスク等の繊維製品;空気清浄機、エアコン等に用いられるフィルター;壁紙、カーテン、カーペット、家具等のインテリア製品;自動車の内装材;建材等の抗ウイルス製品の製造に好適である。