特許第6721103号(P6721103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社IHIの特許一覧

<>
  • 特許6721103-線形摩擦接合装置及び線形摩擦接合方法 図000002
  • 特許6721103-線形摩擦接合装置及び線形摩擦接合方法 図000003
  • 特許6721103-線形摩擦接合装置及び線形摩擦接合方法 図000004
  • 特許6721103-線形摩擦接合装置及び線形摩擦接合方法 図000005
  • 特許6721103-線形摩擦接合装置及び線形摩擦接合方法 図000006
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6721103
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月8日
(54)【発明の名称】線形摩擦接合装置及び線形摩擦接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/12 20060101AFI20200629BHJP
【FI】
   B23K20/12 A
   B23K20/12 D
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2019-501270(P2019-501270)
(86)(22)【出願日】2018年2月15日
(86)【国際出願番号】JP2018005319
(87)【国際公開番号】WO2018155307
(87)【国際公開日】20180830
【審査請求日】2019年2月13日
(31)【優先権主張番号】特願2017-29646(P2017-29646)
(32)【優先日】2017年2月21日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】藤田 昂史
(72)【発明者】
【氏名】百々 泰
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼江 和典
【審査官】 奥隅 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−087986(JP,A)
【文献】 特開2015−164738(JP,A)
【文献】 特開2009−277962(JP,A)
【文献】 特開2011−110574(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一方の部材に他方の部材を押し付け方向に押し付ける押付装置と、前記一方の部材と前記他方の部材とを相対的に加振させる加振装置と、を有する線形摩擦接合装置であって、
前記押し付け方向における前記他方の部材の変位量を検出する位置センサと、
前記一方の部材に前記他方の部材を押し付ける押し付け荷重を検出する荷重センサと、 前記位置センサの検出結果に基づく位置制御により、前記一方の部材に前記他方の部材を接触させた後、前記荷重センサの検出結果に基づく荷重制御に切り替えて、前記押し付け荷重を接合荷重に向かって上昇させるように構成されている制御装置と、を有しており、
前記位置制御から前記荷重制御に切り替わった時から、前記押し付け荷重が前記接合荷重に到達するまでの接合荷重到達時間の長さを調整する接合荷重到達時間調整部を有し、
前記接合荷重到達時間調整部は、前記位置制御の際に前記他方の部材に作用する慣性力の大きさに基づいて、前記接合荷重到達時間の長さを調整する前記制御装置である線形摩擦接合装置。
【請求項2】
前記接合荷重到達時間調整部は、前記荷重制御において、前記接合荷重よりも低い目標荷重を前記接合荷重に到達するよりも前に設定し、前記押し付け荷重を前記接合荷重に向かって段階的に上昇させる前記制御装置である請求項1に記載の線形摩擦接合装置。
【請求項3】
前記接合荷重到達時間調整部は、前記荷重制御において、前記押し付け荷重の単位時間当たりの上昇速度を漸次増加させる前記制御装置である請求項1に記載の線形摩擦接合装置。
【請求項4】
前記押付装置は、前記他方の部材を搭載する治具と、前記治具を移動させるシリンダ装置と、を有し、
前記接合荷重到達時間調整部は、前記治具と前記シリンダ装置との間に介在するバネ部材である請求項1に記載の線形摩擦接合装置。
【請求項5】
一方の部材に他方の部材を押し付け方向に押し付け、前記一方の部材と前記他方の部材とを相対的に加振させる線形摩擦接合方法であって、
前記押し付け方向における前記他方の部材の変位量を検出し、
前記一方の部材に前記他方の部材を押し付ける押し付け荷重を検出し、
前記変位量に基づく位置制御により、前記一方の部材に前記他方の部材を接触させた後、前記押し付け荷重の検出結果に基づく荷重制御に切り替えて、前記押し付け荷重を接合荷重に向かって上昇させる工程を有しており、
前記位置制御から前記荷重制御に切り替わった時から、前記押し付け荷重が前記接合荷重に到達するまでの接合荷重到達時間の長さを調整し、
前記位置制御の際に前記他方の部材に作用する慣性力の大きさに基づいて、前記接合荷重到達時間の長さを調整する線形摩擦接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、線形摩擦接合装置及び線形摩擦接合方法に関する。
本願は、2017年2月21日に日本国に出願された特願2017−29646号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、航空機エンジンの分野においては、機械的強度及び軽量性の向上を図るために、圧縮機又はタービンのロータとして一体型翼車(ブリスク)が用いられる。一体型翼車とは、ディスクと翼の一体型構造である。一体型翼車は、素材を削り出して形成するのが通常である。しかし、大量の切り粉が発生するなど素材の利用効率が悪い。そこで、別々に形成したディスクと翼を線形摩擦接合(Linear Friction Welding:LFW)で一体化することで素材の利用効率を高めることが望まれている。このような線形摩擦接合を行う線形摩擦接合装置として、例えば、特許文献1に記載された摩擦接合装置が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】日本国特開2015−164738号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
線形摩擦接合装置は、ワークA(一方の部材)を加振させながら、ワークB(他方の部材)を一定の荷重(接合荷重)で押し付けることで、ワークA,Bを接合させる。ワークA,Bは、線形摩擦接合の接合シーケンスの前は、互いに離間した状態とされており、ワークAから離れた位置より、治具に搭載されたワークBが、油圧シリンダ(押付装置)の位置制御により接近、衝突する。この衝突後、押し付け荷重が所定の閾値を超えると荷重制御に切り替わり、即座に接合荷重に到達させ、接合を行う。
【0005】
ワークBは、重量のある治具に搭載されており、衝突後、位置制御から荷重制御に切り替わり、接合荷重に達するまでは、ワークBに作用する慣性力(治具の慣性力を含む)が働き、押し付け荷重の急激な上昇によって接合荷重をオーバーシュートする場合がある。この過大なオーバーシュート荷重が発生すると、ワークが損傷する可能性がある。また、衝突時の急激なシリンダ変位の停止により、流れていた流体が急に停止し、その流体の慣性力で経路内の圧力が急上昇する所謂ウォーターハンマー現象によりサージ圧が発生すると、精密機器であるサーボ弁等が故障する可能性がある。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされ、ワーク同士の衝突の際の慣性力による押し付け荷重のオーバーシュート及びサージ圧の発生を防止することができる線形摩擦接合装置及び線形摩擦接合方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様は、一方の部材に他方の部材を押し付け方向に押し付ける押付装置と、一方の部材と他方の部材とを相対的に加振させる加振装置と、を有する線形摩擦接合装置であって、押し付け方向における他方の部材の変位量を検出する位置センサと、一方の部材に他方の部材を押し付ける押し付け荷重を検出する荷重センサと、位置センサの検出結果に基づく位置制御により、一方の部材に他方の部材を接触させた後、荷重センサの検出結果に基づく荷重制御に切り替えて、押し付け荷重を接合荷重に向かって上昇させるように構成されている制御装置と、を有しており、位置制御から荷重制御に切り替わった時から、押し付け荷重が接合荷重に到達するまでの接合荷重到達時間の長さを調整する接合荷重到達時間調整部を有する。
【0008】
本開示の第2の態様では、第1の態様において、接合荷重到達時間調整部は、位置制御の際に他方の部材に作用する慣性力の大きさに基づいて、接合荷重到達時間の長さを調整する制御装置である。
【0009】
本開示の第3の態様では、第1または第2の態様において、接合荷重到達時間調整部は、荷重制御において、接合荷重よりも低い目標荷重を前記接合荷重に到達するよりも前に設定し、押し付け荷重を接合荷重に向かって段階的に上昇させる制御装置である。
【0010】
本開示の第4の態様では、第1または第2の態様において、接合荷重到達時間調整部は、荷重制御において、押し付け荷重の単位時間当たりの上昇速度を漸次増加させる制御装置である。
【0011】
本開示の第5の態様では、第1の態様において、押付装置は、他方の部材を搭載する治具と、治具を移動させるシリンダ装置と、を有し、接合荷重到達時間調整部は、治具とシリンダ装置との間に介在するバネ部材である。
【0012】
本開示の第6の態様では、一方の部材に他方の部材を押し付け方向に押し付け、一方の部材と他方の部材とを相対的に加振させる線形摩擦接合方法であって、押し付け方向における他方の部材の変位量を検出し、一方の部材に他方の部材を押し付ける押し付け荷重を検出し、変位量に基づく位置制御により、一方の部材に他方の部材を接触させた後、押し付け荷重の検出結果に基づく荷重制御に切り替えて、押し付け荷重を接合荷重に向かって上昇させる工程を有しており、位置制御から荷重制御に切り替わった時から、押し付け荷重が接合荷重に到達するまでの接合荷重到達時間の長さを調整する。
【発明の効果】
【0013】
本開示によれば、線形摩擦接合装置において、押し付け方向における他方の部材の変位量に基づく位置制御から、一方の部材に他方の部材を押し付ける押し付け荷重に基づく荷重制御に切り替わった時から、押し付け荷重が接合荷重に到達するまでの接合荷重到達時間の長さを調整する。そのため、他方の部材に作用する慣性力が一方の部材に衝突した際に、制御による押し付け荷重の上昇に重畳しないようにすることで、押し付け荷重の急激な上昇を防止することができる。
したがって、本開示では、線形摩擦接合装置において、ワーク同士の衝突の際の慣性力による押し付け荷重のオーバーシュート及びサージ圧の発生を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の実施形態及び変形例における線形摩擦接合装置の構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態における線形摩擦接合装置の動作を示すタイムチャートである。
図3】比較例として従来の線形摩擦接合装置の動作を示すタイムチャートである。
図4】本発明の実施形態の変形例における線形摩擦接合装置の構成を示すブロック図である。
図5】本発明の変形例における線形摩擦接合装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本開示の実施形態における線形摩擦接合装置1の構成を示すブロック図である。
線形摩擦接合装置1は、ワークA(一方の部材)と、ワークB(他方の部材)とを接合させるための装置であって、フォージ装置10(押付装置)と、加振装置20と、位置センサ30,31及び荷重センサ32と、フォージ制御装置40(制御装置)と、加振制御装置50と、を有する。
【0017】
フォージ装置10は、フォージ治具11と、フォージシリンダ12と、動力源13と、を有し、ワークAにワークBを押し付ける。フォージ治具11は、ワークBを保持するチャック機構などを有し、ワークAに対して近接または離間する方向に移動可能な構成を有する。フォージシリンダ12は、油圧シリンダなどからなり、フォージ治具11に荷重を与える。この荷重方向は、ワークAとワークBの接合面2に対して垂直な方向であって、ワークBの押し付け方向となる。
【0018】
動力源13は、フォージ制御装置40の制御の下、フォージシリンダ12に動力(例えば作動油)を供給する。フォージ制御装置40は、位置センサ30及び荷重センサ32の検出結果に基づいて、動力源13に動力供給指令を出す。位置センサ30は、フォージシリンダ12の位置すなわち押し付け方向におけるワークBの変位量を検出する。荷重センサ32は、フォージ治具11とフォージシリンダ12との間に介在し、ワークBの押し付け荷重を検出する。
ここで、フォージ制御装置40は、上記のような制御を実施できるようなCPU,RAM,ROM等を含む公知の計算機でもよい。フォージ制御装置40による制御の詳細は、ユーザーが任意に変更または更新可能なソフトウェアにより定義されても良い。図1や後述の図5に示すように、フォージ制御装置40は、電気的あるいは電子的に接続された荷重センサ32、320,321および位置センサ30からの荷重のフィードバックと計測された変位量の入力を基に、フォージ制御装置40による動力源13の制御に必要な信号(動力供給指令)を送信可能なように、動力源13と電気的あるいは電子的に接続されている。
【0019】
加振装置20は、加振治具21と、加振シリンダ22と、動力源23と、を有し、ワークAをワークBに対して相対的に加振させる。加振治具21は、ワークAを保持するチャック機構などを有し、ワークBの押し付け方向に対して直交する方向に移動可能な構成を有する。加振シリンダ22は、油圧シリンダなどからなり、加振治具21を加振させる。この加振方向は、ワークAとワークBの接合面2に対して平行な方向であって、ワークBの押し付け方向(荷重方向)に対して直交する方向となる。
【0020】
動力源23は、加振制御装置50の制御の下、加振シリンダ22に動力(例えば作動油)を供給する。この動力源23は、サーボ弁などを有し、加振シリンダ22を高速で加振させる。加振制御装置50は、位置センサ30,31の検出結果に基づいて、動力源23に動力供給指令を出す。位置センサ31は、加振方向における加振シリンダ22の位置を検出する。
加振制御装置50は、フォージ制御装置40と同様に、上記のような制御を実施できるようなCPU,RAM,ROM等を含む公知の計算機でもよい。加振制御装置50による制御の詳細は、ユーザーが任意に変更または更新可能なソフトウェアにより定義されても良い。図1や後述の図5に示すように、加振制御装置50は、電気的あるいは電子的に接続された位置センサ30、31からの計測された変位量と位置のフィードバックの入力を基に、加振制御装置50による動力源23の制御に必要な信号(動力供給指令)を送信可能なように、動力源23と電気的あるいは電子的に接続されている。
【0021】
本実施形態のフォージ制御装置40は、位置センサ30の検出結果に基づく位置制御により、ワークAにワークBを接触させた後、荷重センサ32の検出結果に基づく荷重制御に切り替えて、押し付け荷重を接合荷重に向かって上昇させるようにフォージシリンダ12(動力源13)を制御する。このフォージ制御装置40は、位置制御から荷重制御に切り替わった時から、押し付け荷重が接合荷重に到達するまでの接合荷重到達時間の長さを調整する接合荷重到達時間調整部である。
【0022】
以下、上記構成の線形摩擦接合装置1による具体的な動作(線形摩擦接合方法、以下、本手法と称する)について、図2及び図3を参照して説明する。
図2は、本発明の実施形態における線形摩擦接合装置1の動作を示すタイムチャートである。図3は、比較例として従来の線形摩擦接合装置1の動作を示すタイムチャートである。
【0023】
なお、図2の(a)及び図3の(a)に示す「フォージ位置」は、位置センサ30の検出結果に相当する。また、図2の(b)及び図3の(b)に示す「目標荷重」は、フォージ制御装置40の制御指令値に相当する。また、図2の(c)及び図3の(c)に示す「計測荷重」は、荷重センサ32の検出結果に相当する。また、図2の(d)及び図3の(d)に示す「供給圧」は、フォージシリンダ12と動力源13との経路内に設けられた図示しない圧力センサの検出結果に相当する。
【0024】
ワークA,Bは、線形摩擦接合の接合シーケンスの前は、互いに離間した状態とされている。この状態で、加振制御装置50は、予め設定された定常加振振幅で加振するように加振シリンダ22を駆動させる。具体的に、加振制御装置50は、位置目標値(定常加振振幅)と、位置センサ31が検出した位置のフィードバックとを比較し、動力源23に制御指令を与える。加振装置20の駆動が開始したら、フォージ制御装置40は、位置センサ30の検出結果に基づく位置制御によって、ワークAにワークBを定速で近接させるようにフォージシリンダ12を駆動させる(ステップS1)。
【0025】
フォージシリンダ12の駆動によってワークBがワークAに接触すると、図2の(c)及び図3の(c)に示すように、この接触により荷重が立ち始める(ステップS2)。フォージ制御装置40は、荷重センサ32が検出した押し付け荷重のフィードバックが、予め設定された切替荷重に到達したら、位置制御から、荷重センサ32の検出結果に基づく荷重制御に切り替える(ステップS3)。ここまでは、本手法と、従来手法は同じである。
【0026】
図3に示す従来手法では、図3の(b)に示すように、荷重制御の目標荷重が、最初から接合荷重に設定されている。なお、接合荷重とは、ワークA,Bを接合するために、摩擦時に保つべき定荷重(摩擦荷重)である。このため、従来手法のフォージ制御装置40は、荷重制御に切り替えた直後から、接合荷重で押し付けるようにフォージシリンダ12を駆動させる。具体的に、フォージ制御装置40は、接合荷重と、荷重センサ32が検出した押し付け荷重のフィードバックとを比較し、動力源13に動力供給指令を与える。
【0027】
ここで、ワークBは、重量のあるフォージ治具11(例えば1トン程)に搭載されており、位置制御の定速運動からワークAに衝突し、荷重制御の目標荷重(接合荷重)に到達するまでは、ワークBに作用する慣性力が働いている場合がある。位置制御から荷重制御に切り替わったときの押し付け荷重の急激な上昇(制御上昇)に、位置制御(定速運動)の際にワークBに作用する慣性力が重畳すると、図3の(c)に示すように、押し付け荷重が接合荷重をオーバーシュート(符号aで示す)する。また、ワークBの衝突時の急激なフォージシリンダ12の変位停止により、流れていた流体が急に停止し、その流体の慣性力で経路内の圧力が急上昇し、図3の(d)に示すように、サージ圧(符号bで示す)が発生する。
【0028】
このため、本実施形態の線形摩擦接合装置1は、図2の(b)に示すように、位置制御から荷重制御に切り替わった時から、押し付け荷重が接合荷重に到達するまでの接合荷重到達時間tの長さを調整する接合荷重到達時間調整部(フォージ制御装置40)を有している。フォージ制御装置40は、制御パラメータとして接合荷重到達時間tを設定可能である。接合荷重到達時間tとは、切替荷重から接合荷重に達するまでの時間であり、フォージ制御装置40は、接合荷重到達時間tを設定すると、切替荷重と接合荷重との間に、接合荷重到達時間tに応じた傾きを持った線Lを自動的に引くようにプログラムされている。
【0029】
したがって、接合荷重到達時間tを大きく設定すると、フォージ制御装置40からの指令値の傾きが緩くなる。そうすると、フォージシリンダ12の減速時間が長くなり、ワークBの減速加速度が小さくなるため、ワークBに作用する慣性力による上述した悪影響を低減することができる。なお、オーバーシュート荷重の有無の判別は、荷重センサ32のログを記録しておき、衝突試験の後に、記録したログに接合荷重よりも大きい値が出ていないか確認することにより行う。また、サージ圧についても、記録した圧力センサのログから、同様にサージ圧の有無を判断する。オーバーシュート荷重、サージ圧があるようであれば、接合荷重到達時間tを長くして、再度試験を行うことで、最適な接合荷重到達時間tを設定することができる。
ここで、荷重センサ32のログを記録するとは、荷重センサ32が感知した荷重を時系列に並べてデータとして保存することを指す。圧力センサのログを記録することも同様である。
【0030】
このように、本実施形態によれば、押し付け方向におけるワークBの変位量に基づく位置制御から、ワークAにワークBを押し付ける押し付け荷重に基づく荷重制御に切り替わった時から、押し付け荷重が接合荷重に到達するまでの接合荷重到達時間tの長さを調整する。そのため、ワークBに作用する慣性力がワークAに衝突した際に、制御による押し付け荷重の上昇に重畳しないように接合荷重到達時間tを管理することで、押し付け荷重の急激な上昇を防止することができる。したがって、本実施形態では、ワークA,B同士の衝突の際の慣性力による押し付け荷重のオーバーシュート及びサージ圧の発生を防止することができる。
【0031】
なお、その後の線形摩擦接合プロセスは、次のように進んでいく。先ず、荷重制御によるワークA,Bの接合プロセスが進んでいくと、両者の側方(加振方向)にバリが排出され、押し付け方向においてワーク長さが減少する(所謂バーンオフ)。加振制御装置50は、バーンオフ量が所定の閾値に到達したとき、ワークAの加振を停止させるように加振装置20を制御する。ワークAの加振が停止したら、フォージ制御装置40は、接合荷重よりも大きい荷重で押し付けるようにフォージシリンダ12を駆動させる。この荷重は、ワークA,Bの摩擦後に両者の接合を安定させるための荷重(フォージ荷重)である。
【0032】
ワークA,Bを一定時間押し付けたら、フォージ制御装置40は、フォージシリンダ12による押し付けを停止させる。具体的に、フォージ制御装置40は、動力源13からフォージシリンダ12への動力供給を停止するように制御指令を出し、フォージシリンダ12の駆動を停止させる。
以上により、線形摩擦接合装置1による線形摩擦接合プロセスが終了する。
【0033】
このように、上述の本実施形態では、ワークAにワークBを押し付けるフォージシリンダ12と、ワークAをワークBに対して相対的に加振させる加振シリンダ22と、を有する線形摩擦接合装置1が開示されている。この線形摩擦接合装置1は、押し付け方向におけるワークBの変位量を検出する位置センサ30と、ワークAにワークBを押し付ける押し付け荷重を検出する荷重センサ32と、位置センサ30の検出結果に基づく位置制御により、ワークAにワークBを接触させた後、荷重センサ32の検出結果に基づく荷重制御に切り替えて、押し付け荷重を接合荷重に向かって上昇させるフォージ制御装置40と、を有する。さらに、この線形摩擦接合装置1は、位置制御から荷重制御に切り替わった時から、押し付け荷重が接合荷重に到達するまでの接合荷重到達時間tの長さを調整する接合荷重到達時間調整部を有する。このような構成を採用することによって、ワークA,B同士の衝突の際の慣性力による押し付け荷重のオーバーシュート及びサージ圧の発生を防止することができる。
【0034】
以上、図面を参照しながら本開示の実施形態について説明したが、本開示は上記実施形態に限定されない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、請求項に記載される本開示の範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0035】
例えば、図5に示す本開示の第1の変形例におけるフォージ制御装置41(制御装置)は、位置制御の際にワークBに作用する慣性力の大きさに基づいて、接合荷重到達時間tの長さを調整するように構成される接合荷重到達時間調整部であってもよい。位置制御の際にワークBに作用する慣性力の大きさは、ワークB及びフォージ治具11の重さに依存する。例えば、フォージ治具11の重さが一定であって、ワークBの重さが線形摩擦接合の対象によって変動し得る場合を考える。この場合、フォージ治具11に、搭載したワークBの重さを計測する第2の荷重センサ320を設けて、この第2の荷重センサ320の検出結果に応じて接合荷重到達時間tの長さを自動的に調整するようにプログラムしてもよい。また、ワークBに作用する慣性力の大きさは、位置制御の際の定速運転から速度ゼロまでの減速加速度に依存するため、フォージ制御装置41は、位置制御の際の速度に基づいて、接合荷重到達時間tの長さを調整するように構成される接合荷重到達時間調整部であってもよい。この場合、例えば、位置センサ30の検出結果に基づいて、フォージ制御装置41がワークBの速度を計算しても良い。なお、ワークBの形状に応じてフォージ治具11を取り替えた結果、フォージ治具11の重さが変わる場合、例えば、フォージシリンダ12に第3の荷重センサ321を設けて、フォージ治具11の重さを検出し、フォージ制御装置41は、この第3の荷重センサ321の検出結果に応じて接合荷重到達時間tの長さを調整するように構成される接合荷重到達時間調整部であってもよい。
【0036】
図1に示す本開示の第2の変形例におけるフォージ制御装置42(制御装置)は、荷重制御において、接合荷重よりも低い目標荷重を接合荷重よりも前に設定し、押し付け荷重を接合荷重に向かって段階的に上昇させるように構成される接合荷重到達時間調整部であってもよい。すなわち、図2の(b)に示す接合荷重到達時間tに応じた傾きを持った線Lが、階段状となるようにプログラムしてもよい。この構成によれば、位置制御から荷重制御に切り替えた直後は、接合荷重よりも低い目標荷重で押し付けるように制御するため、切替直後の押し付け荷重の急激な上昇を防止することができる。したがって、本実施形態では、ワークA,B同士の衝突の際の慣性力による押し付け荷重のオーバーシュート及びサージ圧の発生を防止することができる。
【0037】
図1に示す本開示の第3の変形例におけるフォージ制御装置43(制御装置)は、荷重制御において、押し付け荷重の単位時間当たりの上昇速度を漸次増加させるように構成される接合荷重到達時間調整部であってもよい。すなわち、図2の(b)に示す接合荷重到達時間tに応じた傾きを持った線Lが、二次関数やサインカーブ、対数関数、三次関数等となるようにプログラムしてもよい。この構成によれば、位置制御から荷重制御に切り替えた直後は、押し付け荷重の上昇は殆ど無く、その後、徐々に押し付け荷重の上昇速度が上昇していくため、切替直後の押し付け荷重の急激な上昇を防止することができる。したがって、本実施形態では、ワークA,B同士の衝突の際の慣性力による押し付け荷重のオーバーシュート及びサージ圧の発生を防止することができる。
【0038】
図4に示す本開示の第4の変形例のように、機械的に接合荷重到達時間調整部を構成してもよい。図4は、本開示の第4の変形例における線形摩擦接合装置1Aの構成を示すブロック図である。図4に示すように、フォージ装置10は、ワークBを搭載するフォージ治具11と、フォージ治具11を移動させるフォージシリンダ12と、を有し、接合荷重到達時間調整部は、フォージ治具11とフォージシリンダ12との間に介在するバネ部材60である。図4の(a)は位置制御の様子、図4の(b)はワークA,Bが接触した様子、図4の(c)は荷重制御の様子を示す。フォージ治具11とフォージシリンダ12との間にバネ部材60を介在させることによって、徐々に押し付け荷重を上昇させることができるため、位置制御から荷重制御に切り替えた直後の押し付け荷重の急激な上昇を防止することができる。したがって、この形態では、図3に示す従来手法を用いても、ワークA,B同士の衝突の際の慣性力による押し付け荷重のオーバーシュート及びサージ圧の発生を機械的に防止することができる。即ち、本開示の接合荷重到達時間調整部は、フォージ制御装置40、41、42,43と別の構成であっても良い。
なお、図4は、図1との差異のみを表示する目的の図であるため、図1にも示されている、フォージ装置10に含まれるフォージ制御装置40、動力源13、加振装置20に含まれる加振制御装置50、動力源23、位置センサ31、および、フォージ冶具に設けられた位置センサ30が省略されている。
即ち、第4の変形例では、フォージ制御装置40は、位置センサ30の検出結果に基づく位置制御により、ワークAにワークBを接触させた後、荷重センサ32の検出結果に基づく荷重制御に切り替えて、押し付け荷重を接合荷重に向かって上昇させるようにフォージシリンダ12(動力源13)を制御する。また、第4の変形例では、接合荷重到達時間調整部は、バネ部材60である。
【0039】
また、例えば、上記実施形態及び変形例では、ワークAにワークBを押し付け、ワークAをワークBに対して相対的に加振させる構成について例示したが、例えば、ワークAが固定で、ワークBを押し付け及び加振させる構成であってもよい。
【0040】
また、例えば、本発明は、動翼や静翼のディスクと翼とを線形摩擦接合する場合に限らず、ワークAとワークBとを摩擦接合する場合に広く適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本開示によれば、線形摩擦接合装置において、ワーク同士の衝突の際の慣性力による押し付け荷重のオーバーシュート及びサージ圧の発生を防止することができる。
【符号の説明】
【0042】
1, 1A 線形摩擦接合装置
11 フォージ治具(冶具)
12 フォージシリンダ(シリンダ装置)
30、31 位置センサ
32、320、321 荷重センサ
40、41、42、43 フォージ制御装置(制御装置、接合荷重到達時間調整部)
60 バネ部材(接合荷重到達時間調整部)
A ワーク(一方の部材)
B ワーク(他方の部材)
t 接合荷重到達時間
図1
図2
図3
図4
図5