(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記処理は、前記ユーザの呼吸を補助する装置を作動させる処理、前記ユーザの覚醒を促す装置を作動させる処理、及び、前記ユーザの姿勢を変える装置を作動させる処理、のうち少なくともいずれかを含む
ことを特徴とする請求項2に記載の生体情報分析装置。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下に図面を参照しつつ、本発明の好適な実施の形態を説明する。ただし、以下に記載されている各構成の説明は、発明が適用される装置の構成や各種条件により適宜変更されるべきものであり、この発明の範囲を以下の記載に限定する趣旨のものではない。
【0018】
<生体情報分析システム>
図1は、本発明の一実施形態に係る生体情報分析システム10の外観の概略構成を示す図である。
図1は生体情報分析システム10を左手首に装着した状態を示している。生体情報分析システム10は、本体部11と、本体部11に固定されたベルト12と、を備える。生体情報分析システム10は、いわゆるウェアラブル型のデバイスであり、本体部11が手首内側の皮膚に接触し、かつ、皮下に存在する橈骨動脈TDの上に本体部11が配置されるように、装着される。なお、本実施形態では橈骨動脈TD上に装置を装着する構成としたが、他の表在動脈上に装着する構成でもよい。
【0019】
図2は、生体情報分析システム10のハードウエア構成を示すブロック図である。生体情報分析システム10は、概略、測定ユニット2と生体情報分析装置1を有する。測定ユニット2は、生体情報の分析に利用する情報を測定により取得するデバイスであり、血圧測定ユニット20、体動測定ユニット21、環境測定ユニット22を含む。ただし、測定ユニット2の構成は
図2のものに限られない。例えば、血圧や体動以外の生体情報(体温、血糖、脳波など)を測定するユニットを追加してもよい。あるいは、後述する実施例で利用しないユニットは必須の構成ではないので、生体情報分析システム10に搭載しなくてもよい。生体情報分析装置1は、測定ユニット2から得られる情報を基に生体情報の分析を行うデバイスであり、制御ユニット23、入力ユニット24、出力ユニット25、通信ユニット26、記憶ユニット27を含む。各ユニット20〜27は、ローカルバスその他の信号線を介して信号がやり取りできるよう、互いに接続されている。また生体情報分析システム10は、不図示の電源(バッテリ)を有する。
【0020】
血圧測定ユニット20は、トノメトリ法により橈骨動脈TDの圧脈波を測定するユニットである。トノメトリ法は、皮膚の上から動脈を適切な圧力で押圧して動脈TDに扁平部を形成し、動脈内圧と外圧をバランスさせて、圧力センサにより非侵襲的に圧脈波を計測する方法である。
【0021】
体動測定ユニット21は、3軸加速度センサを含み、このセンサによりユーザの身体の動き(体動)を測定するユニットである。体動測定ユニット21は、当該3軸加速度センサの出力を、制御ユニット23が読み取り可能な形式に変換する回路を含んでいてもよい。
【0022】
環境測定ユニット22は、ユーザの心身の状態(特に血圧)に影響を与え得る環境情報を測定するユニットである。環境測定ユニット22は、例えば、気温センサ、湿度センサ、照度センサ、高度センサ、位置センサなどを含むことができる。環境測定ユニット22は、これらのセンサなどの出力を、制御ユニット23が読み取り可能な形式に変換する回路を含んでいてもよい。
【0023】
制御ユニット23は、生体情報分析システム10の各部の制御、測定ユニット2からのデータの取り込み、取り込んだデータの記録ユニット27への格納、データの処理・分析、データの入出力などの各種処理を担うユニットである。制御ユニット23は、ハードウェアプロセッサ(以下、CPUと呼ぶ)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、などを含む。後述する制御ユニット23の処理は、CPUがROM又は記憶ユニット27に記憶されているプログラムを読み込み実行することにより実現される。RAMは、制御ユニット23が各種処理を行う際のワークメモリとして機能する。なお、本実施形態では、測定ユニット2からのデータの取り込み、及び、記憶ユニット27へのデータの格納を制御ユニット23が実行する構成としたが、測定ユニット2から記憶ユニット27へ直接データが格納(書き込み)されるように構成してもよい。
【0024】
実施形態の各構成要素、例えば、測定ユニット、指標抽出部、処理部、判断部、リスクデータベース、入力ユニット、出力ユニット及び、症例データベース等は、生体情報分析システム10にハードウエアで実装されてもよい。指標抽出部、処理部、及び判断部は、記憶ユニット27に格納された実行可能なプログラムを受信して実行してもよい。指標抽出部、処理部、及び判断部は、必要に応じて血圧測定ユニット20、体動測定ユニット21、環境測定ユニット22、入力ユニット24、出力ユニット25、通信ユニット26、記憶ユニット27等からデータを受信してもよい。リスクデータベース及び症例データベース等のデータベースは、記憶ユニット27等で実装され、データを検索や蓄積が容易にできるよう整理された情報を格納してもよい。ここで、例えば、生体情報分析システム10の構造や動作等については、特願2016−082069号に開示される。その内容は、引用により本明細書に組み込まれる。また、血圧測定ユニットの構造や動作等については、特開2016−087003号公報に開示される。その内容は、引用により本明細書に組み込まれる。
【0025】
入力ユニット24は、ユーザに対し操作インタフェースを提供するユニットである。例えば、操作ボタン、スイッチ、タッチパネルなどを用いることができる。
【0026】
出力ユニット25は、ユーザに対し情報出力を行うインタフェースを提供するユニットである。例えば、画像により情報を出力する表示装置(液晶ディスプレイなど)、音声により情報を出力する音声出力装置やブザー、光の明滅により情報を出力するLED、振動により情報を出力する振動装置などを用いることができる。
【0027】
通信ユニット26は、他のデバイスとの間でデータ通信を行うユニットである。データ通信方式は、無線LAN、Bluetooth(登録商標)などどのような方式でもよい。
【0028】
記憶ユニット27は、データの記憶及び読み出しが可能な記憶媒体であり、制御ユニット23で実行されるプログラム、各測定ユニットから得られた測定データ、測定データを処理することで得られた各種のデータなどを記憶する。記憶ユニット27は、記憶対象となる情報を、電気的、磁気的、光学的、機械的又は化学的作用によって蓄積する媒体である。例えばフラッシュメモリが用いられる。記憶ユニット27は、メモリカード等の可搬型のものであってもよいし、生体情報分析システム10に内蔵されていてもよい。
【0029】
体動測定ユニット21、環境測定ユニット22、制御ユニット23、入力ユニット24、出力ユニット25、記憶ユニット27の一部又は全部を、本体部11とは別のデバイスで構成してもよい。すなわち、血圧測定ユニット20とその制御を行う回路を内蔵する本体部11が手首に装着可能な形態であれば、それ以外のユニットの構造については自由に設計できる。この場合、本体部11は通信ユニット26を介して別のユニットと連携する。例えば、制御ユニット23や入力ユニット24や出力ユニット25の機能をスマートフォンのアプリで構成したり、体動測定ユニット21や環境測定ユニット22の機能を有する活動量計から必要なデータを取得する等、さまざまな構成が考えられる。また、血圧以外の生体情報を測定するセンサを設けてもよい。例えば、睡眠センサ、パルスオキシメーター(SpO2センサ)、呼吸センサ(フローセンサ)、血糖値センサなどを組み合わせてもよい。
【0030】
なお、本実施形態では、血圧を測定するセンサ(血圧測定ユニット20)と血圧波形データの分析処理を行う構成(制御ユニット23等)を1つの装置内に設けたが、それらを別体の構成としてもよい。本実施形態では、生体情報の分析処理を行う構成(制御ユニット23等)を生体情報分析装置と呼び、測定ユニットと生体情報分析装置の組み合わせで構成される装置を生体情報分析システムと呼ぶ。しかし、名称は便宜的なものであり、測定ユニットと生体情報の分析処理を行う構成の全体を生体情報分析装置と呼んでもよいし、他の名称を用いてもよい。
【0031】
<血圧波形の測定>
図3は血圧測定ユニット20の構造と測定時の状態を模式的に示す断面図である。血圧測定ユニット20は、圧力センサ30と、圧力センサ30を手首に対して押圧するための押圧機構31と、を備える。圧力センサ30は、複数の圧力検出素子300を有している。圧力検出素子300は、圧力を検出して電気信号に変換する素子であり、例えばピエゾ抵抗効果を利用した素子などを好ましく用いることができる。押圧機構31は、例えば、空気袋とこの空気袋の内圧を調整するポンプとにより構成される。制御ユニット23がポンプを制御し空気袋の内圧を高めると、空気袋の膨張により圧力センサ30が皮膚表面に押し当てられる。なお、押圧機構31は、圧力センサ30の皮膚表面に対する押圧力を調整可能であれば何でもよく、空気袋を用いたものに限定されない。
【0032】
生体情報分析システム10を手首に装着し起動すると、制御ユニット23が血圧測定ユニット20の押圧機構31を制御し、圧力センサ30の押圧力を適切な状態(トノメトリ状態)に維持する。そして、圧力センサ30で検知された圧力信号が制御ユニット23に順次取り込まれる。圧力センサ30より得られる圧力信号は、圧力検出素子300が出力するアナログの物理量(例えば電圧値)を、公知の技術のA/D変換回路等を通してデジタル化して生成される。当該アナログの物理量は、圧力検出素子300の種類に応じて、電流値や抵抗値など好適なアナログ値が採用されてよい。当該A/D変換等の信号処理は、血圧測定ユニット20の中に所定の回路を設けて行ってもよいし、血圧測定ユニット20と制御ユニット23の間に設けたその他のユニット(図示せず)で行ってもよい。制御ユニット23に取り込まれた当該圧力信号は、橈骨動脈TDの内圧の瞬時値に相当する。したがって、1心拍の血圧波形を把握することが可能な時間粒度及び連続性で圧力信号を取り込むことにより、血圧波形の時系列データを取得することができる。制御ユニット23は、圧力センサ30より順次取り込んだ圧力信号をその測定時刻の情報とともに記憶ユニット27に格納する。制御ユニット23は、取り込んだ圧力信号をそのまま記憶ユニット27に格納してもよいし、当該圧力信号に対して必要な信号処理を施した後で記憶ユニット27に格納してもよい。必要な信号処理は、例えば、圧力信号の振幅が血圧値(例えば上腕血圧)と一致するように圧力信号を較正する処理、圧力信号のノイズを低減ないし除去する処理などを含んでもよい。
【0033】
図4は、血圧測定ユニット20で測定される血圧波形を示す。横軸が時間、縦軸が血圧である。サンプリング周波数は任意に設定できるが、1心拍の波形の形状的な特徴を再現するため、100Hz以上に設定することが好ましい。1心拍の周期は概ね1秒程度であるから、1心拍の波形について約100点以上のデータ点が取得されることとなる。
【0034】
本実施形態の血圧測定ユニット20は以下のような利点を有する。
【0035】
1心拍ごとの血圧波形を計測することができる。これにより例えば、血圧波形の形状的な特徴に基づき、血圧や心臓の状態、心血管リスクなどに関連する様々な指標を得ることができる。また、血圧の瞬時値を監視することができるため、血圧サージ(血圧値の急激な上昇)を即座に検出したり、極めて短い時間(1〜数回の心拍)だけに現れる血圧変動や血圧波形の乱れでも漏れなく検出することが可能となる。
【0036】
なお、携帯型血圧計としては、手首や上腕に装着しオシロメトリック法により血圧を測定するタイプの血圧計が実用化されている。しかし、従来の携帯型血圧計では、数秒から十数秒間の複数心拍分のカフ内圧の変動から血圧の平均値を測定することしかできず、本実施形態の血圧測定ユニット20のように1心拍ごとの血圧波形の時系列データを得ることはできない。
【0037】
血圧波形の時系列データを記録可能である。血圧波形の時系列データを取得することにより、例えば、血圧波形の時間的な変化に関わる特徴を捉えたり、時系列データを周波数解析して特定の周波数成分を抽出したりすることで、血圧や心臓の状態、心血管リスクなどに関連する様々な指標を得ることができる。
【0038】
携帯型(ウェアラブル型)の装置構成としたので、ユーザに与える測定負担が小さく、長時間の連続的な測定や、さらには24時間の血圧の監視なども比較的容易である。また、携帯型のため、安静時の血圧だけでなく、自由行動下(例えば日常生活や運動中)の血圧変化も測定可能である。これにより例えば、日常生活における行動(睡眠、食事、通勤、仕事、服薬など)や運動が血圧に与える影響を把握することが可能となる。
【0039】
従来製品は、血圧測定ユニットに対し腕及び手首を固定し、安静状態にて計測するタイプの装置であり、本実施形態の生体情報分析システム10のように日常生活や運動中の血圧変化を測定することはできない。
【0040】
他のセンサとの組み合わせや連携が容易である。例えば、他のセンサにより得られる情報(体動、気温等の環境情報、SpO2や呼吸等の他の生体情報など)との因果関係の評価や複合的な評価を行うことができる。
【0041】
<生体情報分析装置>
図5は、生体情報分析装置1の処理を説明するブロック図である。
図5に示すように、生体情報分析装置1は、指標抽出部50と処理部51を有している。本実施形態では、制御ユニット23が必要なプログラムを実行することによって、指標抽出部50及び処理部51の処理が実現されてもよい。当該プログラムは、記憶ユニット27に記憶されていてもよい。制御ユニット23が必要なプログラムを実行する際は、ROM又は記憶ユニット27に記憶された、対象となるプログラムをRAMに展開する。そして、制御ユニット23は、RAMに展開された当該プログラムをCPUにより解釈及び実行して、各構成要素を制御する。ただし、指標抽出部50及び処理部51の処理の一部又は全部をASICやFPGAなどの回路で構成してもよい。あるいは、指標抽出部50及び処理部51の処理の一部又は全部を、本体部11とは別体のコンピュータ(例えば、スマートフォン、タブレット端末、パーソナルコンピュータ、クラウドサーバなど)で実現してもよい。
【0042】
指標抽出部50は、血圧測定ユニット20により連続的に計測される血圧波形の時系列データを記憶ユニット27から取得する。指標抽出部50は、取得した血圧波形の時系列データから血圧波形の特徴に関わる指標を抽出する。ここで、血圧波形の特徴とは、1心拍の血圧波形の形状的な特徴、血圧波形の時間的な変化、血圧波形の周波数成分などを含む。しかし、血圧波形の特徴はこれらには限られない。抽出された指標は、処理部51へ出力される。血圧波形の特徴及び指標については様々なものがあり、処理部51による処理の目的に応じて、抽出する特徴及び指標は適宜設計ないし選択することができる。本実施形態の血圧波形の測定データから抽出可能な特徴及び指標については後ほど詳しく説明する。
【0043】
指標抽出部50は、指標を求める際に、血圧波形の測定データに加えて、体動測定ユニット21の測定データ及び/又は環境測定ユニット22の測定データを用いることもできる。また、図示しないが、睡眠センサ、SpO2センサ、呼吸センサ(フローセンサ)、血糖値センサなどの測定データを組み合わせてもよい。複数種類のセンサにより得られる複数種類の測定データを複合的に分析することによって、血圧波形のより高度な情報分析が可能となる。例えば、体動、活動量や活動強度、気温の変化などが血圧に与える影響を抽出するなど、各測定データの因果関係や相関などを評価することもできる。
【0044】
処理部51は、指標抽出部50によって抽出された指標を受信する。処理部51は、受信した指標に基づく処理を行う。指標に基づく処理には、様々なものが想定できる。例えば、処理部51は、抽出された指標の値や変化などをユーザや医師、保健師などに提示し、健康管理や治療や保健指導などへの活用を促してもよい。あるいは、処理部51は、抽出された指標から呼吸器系リスクを推測したり、健康維持あるいはリスク改善のための指針を提示したりしてもよい。さらには、処理部51は、ユーザや担当医などに報知したり、他の装置を作動させる制御を行ってもよい。
【0045】
<血圧波形から取得される情報>
図6は1心拍の橈骨動脈の圧脈波の波形(血圧波形)を示している。横軸は時間t[msec]であり、縦軸は血圧BP[mmHg]である。
【0046】
血圧波形は、心臓が収縮し血液を送り出すことで発生する「駆出波」と、駆出波が末梢血管や動脈の分岐部で反射することにより発生する「反射波」との合成波となる。1心拍の血圧波形から抽出可能な特徴点の一例を以下に示す。
【0047】
・点F1は、圧脈波の立ち上がり点である。点F1は、心臓の駆出開始点、つまり大動脈弁の開放点に対応する。
・点F2は、駆出波の振幅(圧力)が最大となる点(第1ピーク)である。
・点F3は、反射波の重畳により、駆出波の立下りの途中で現れる変曲点である。
・点F4は、駆出波と反射波の間に現れる極小点であり、切痕とも呼ばれる。これは大動脈弁の閉鎖点に対応する。
・点F5は、点F4の後に現れる反射波のピーク(第2ピーク)である。
・点F6は、1心拍の終点であり、次の心拍の駆出開始点つまり次の心拍の始点に対応する。
【0048】
指標抽出部50は、上記特徴点の検出にどのようなアルゴリズムを用いてもよい。例えば、指標抽出部50が演算して、血圧波形のn次微分波形を求め、そのゼロクロス点を検出することにより、血圧波形の特徴点(変曲点)を抽出してもよい(点F1、F2、F4、F5、F6については1次微分波形から、点F3については2次微分波形又は4次微分波形から検出可能である。)。あるいは、指標抽出部50は、特徴点が予め配置された波形パターンを記憶ユニット27から読み出し、当該波形パターンを対象となる血圧波形にフィッティングすることにより、各特徴点の位置を特定してもよい。
【0049】
上記特徴点F1〜F6の時刻t及び圧力BPに基づき、指標抽出部50が演算して、1心拍の血圧波形から様々な情報(値、特徴量、指標など)を得ることができる。以下、血圧波形から取得可能な情報の代表的なものを例示する。ただし、txとBPxはそれぞれ特徴点Fxの時刻と血圧を表す。
【0050】
・脈波間隔(心拍周期)TA=t6−t1
・心拍数PR=1/TA
・脈波立上り時間UT=t2−t1
・収縮期TS=t4−t1
・拡張期TD=t6−t4
・反射波遅延時間=t3−t1
・最高血圧(収縮期血圧)SBP=BP2
・最低血圧(拡張期血圧)DBP=BP1
・平均血圧MAP=t1〜t6の血圧波形の面積/心拍周期TA
・収縮期の平均血圧=t1〜t4の血圧波形の面積/収縮期TS
・拡張期の平均血圧=t4〜t6の血圧波形の面積/拡張期TD
・脈圧PP=最高血圧SBP−最低血圧DBP
・収縮後期圧SBP2=BP3
・AI(Augmentation Index)=(収縮後期圧SBP2−最低血圧DBP)/脈圧PP
【0051】
これらの情報(値、特徴量、指標)の基本統計量も指標として用いることができる。基本統計量は、例えば、代表値(平均値、中央値、最頻値、最大値、最小値など)、散布度(分散、標準偏差、変動係数など)を含む。また、これらの情報(値、特徴値、指標)の時間的な変化も指標として用いることができる。
【0052】
また、指標抽出部50は、複数の拍情報を演算することでBRS(血圧調整能)という指標を得ることもできる。これは、血圧を一定に調整しようとする能力を表す指標である。算出方法は例えばSpontaneous sequence法などがある。これは、連続して3拍以上にわたり最高血圧SBPと脈波間隔TAとが同期して上昇、または下降するシーケンスのみを抽出し、最高血圧SBPと脈波間隔TAを2次元平面上にプロットし、回帰直線を最小二乗法により求めたときの傾きをBRSとして定義する方法である。
【0053】
以上述べたように、本実施形態の生体情報分析システム10を利用すれば血圧波形のデータから様々な情報を取得することができる。ただし、生体情報分析システム10に対し上述した全ての情報を取得する機能を実装する必要はない。生体情報分析システム10の構成、利用者、利用目的、利用場所などに応じて、必要な情報を取得する機能のみを実装すればよい。また、各機能をプログラムモジュール(アプリケーションソフト)として提供し、生体情報分析システム10に必要なプログラムモジュールをインストールすることで、機能追加を行えるような仕組みにしてもよい。
【0054】
以下、生体情報分析システム10の具体的な応用としての実施例を例示的に説明する。
【0055】
<実施例1>
本発明者らが、被検者実験において、無呼吸状態に相当するバルサルバ試験を実施したところ、
図7のような血圧波形データが観測された。左側が平常状態の血圧波形データであり、右側が息こらえ区間(無呼吸状態に相当)の血圧波形データである。平常状態と無呼吸状態との間で血圧波形に有意に違いがあることが認められる。このような知見に基づき、本実施例では、睡眠中のユーザの血圧波形をモニタリングし、血圧波形の形状的な特徴に基づき無呼吸の発生を簡便に且つリアルタイムに検知可能なアルゴリズムを提案する。
【0056】
図8に、無呼吸状態で観測される血圧波形と、平常状態で観測される血圧波形の例を示す。図中に示す特徴点は
図6で定義したものと同じである。すなわち、点F1は圧脈波の立ち上がり点、点F2は駆出波の振幅が最大となる点(第1ピーク)、点F3は反射波の重畳により駆出波の立下りの途中で現れる変曲点、点F4は駆出波と反射波の間に現れる極小値(切痕)、点F5は点F4の後に現れる反射波のピーク(第2ピーク)、点F6は1心拍の終点である。
【0057】
2つの血圧波形を比較すると、形状的な特徴の違いとして例えば次の2つが顕著である。(1)無呼吸状態では、平常状態に比べて脈圧(収縮期血圧と拡張期血圧の差)が有意に小さくなる。(2)無呼吸状態では、駆出波と反射波の重なりが小さくなり、点F4に大きな谷が現れる。
【0058】
そこで本実施例では、無呼吸状態の血圧波形と平常状態の血圧波形を峻別するために、以下の3つの特徴量h1〜h3を用いる。
【0059】
第1の特徴量h1は、脈圧PPを表す指標であり、以下のように定義する。ただし、BPxは特徴点Fxの振幅値(血圧値)を示す。
h1=収縮期血圧SBP−拡張期血圧DBP=BP2−BP1
【0060】
第2の特徴量h2と第3の特徴量h3はともに駆出波と反射波の重なり度合を評価する特徴量であり、以下のように定義する。
h2=点F4の振幅−拡張期血圧DBP=BP4−BP1
h3=h2/(点F5の振幅−拡張期血圧DBP)=(BP4−BP1)/(BP5−BP1)
【0061】
これらの特徴量h1〜h3はいずれも、平常状態の場合に比べ無呼吸状態の場合に有意に小さくなる。したがって、各特徴量h1〜h3について、平常状態か無呼吸状態かを判定する閾値Th1〜Th3をあらかじめ設定しておき、血圧波形が取り込まれるたびに各特徴量h1〜h3による閾値判定を行うことで、閉塞性無呼吸の発生を簡易的に検知することができる。
【0062】
図9に、本実施例の無呼吸判定処理のフローチャートの一例を示す。この処理はユーザの睡眠中に繰り返し(例えば1心拍に1回)実行される。ユーザが睡眠中であるか否かの判定は、例えば、体動測定ユニット21による体動検知結果を用いて自動判定してもよいし、ユーザが自ら睡眠の開始時刻(就寝時刻)と終了時刻(起床時刻)を設定してもよい。
【0063】
指標抽出部50は、血圧測定ユニット20から血圧波形のデータを取り込み(ステップ3400)、特徴点検出処理によって1心拍の血圧波形の特徴点F1〜F6を検出する(ステップ3401)。特徴点検出処理の具体的な方法は
図6で述べた通りである。次に、指標抽出部50は、特徴点F1,F2,F4,F5の血圧値BP1,BP2,BP4,BP5を用いて、特徴量h1〜h3の値を計算する(ステップ3402)。そして、指標抽出部50は、特徴量h1〜h3の値に基づき、当該血圧波形が平常状態の血圧波形か無呼吸状態の血圧波形かを判定し、平常状態か無呼吸状態かを表す指標(例えば、平常状態のときに1となり、無呼吸状態のときに0となる二値の指標)を、処理部51に出力する(ステップ3403)。無呼吸状態と判定された場合(ステップ3404のYES)、処理部51は、ユーザの無呼吸状態の解消のために必要な処理を実行する(ステップ3405)。処理部51は、血圧の計測値と無呼吸状態の判定指標を時間情報とともに記憶ユニット27に記録する(ステップ3406)。この記録は、睡眠中の無呼吸の発生の有無や頻度を把握するための情報や、睡眠時無呼吸症候群(SAS)の検査ないし治療のための参考情報として、利用することができる。
【0064】
図10に、ステップ3403の判定ロジックの詳細を示す。
【0065】
まず、指標抽出部50は、判定に用いる閾値Th1〜Th3を設定する(ステップ3500)。閾値Th1〜Th3は固定値でもよいし、ユーザの属性に応じて変えてもよい。例えば、属性(性別、年代、身長、体重、SASのレベル)ごとにあらかじめ閾値を用意しておき、ユーザの属性に該当する閾値を用いるとよい。あるいは、ユーザから計測された平常状態の血圧波形データに基づき適切な閾値を設定してもよい(例えば、就床直後に計測された血圧波形データから求めた各特徴量h1〜h3を基準にして、各閾値Th1〜Th3を決定するなど)。指標抽出部50は、閾値Th1〜Th3を記憶ユニット27から読み込んでもよいし、クラウドサーバのような他のストレージから読み込んでもよい。
【0066】
そして、指標抽出部50は、特徴量h1〜h3と閾値Th1〜Th3をそれぞれ比較し(ステップ3501〜3503)、3つの特徴量h1〜h3の全てについて肯定判定が得られたら「平常」と判定し(ステップ3504)、いずれかの特徴量で否定判定が得られたら「無呼吸」と判定する(ステップ3505)。
【0067】
なお、本実施例ではh1、h2、h3を判定に用いる特徴量としたが、AIや、反射波のピークにおける値(点F5の振幅−拡張期血圧DBP)、あるいはこれらを四則演算によって組み合わせた特徴量を判定に用いても良い。さらに、時間方向の特徴量、例えば点F2から点F3にいたるまでの時間(点F3の時刻t3−点F2の時刻t2)などを用いて判定しても良い。また、本実施例では、全ての特徴量で肯定判定が得られたときのみ「平常」と判定したが、いずれかの特徴量で肯定判定が得られたとき、あるいは、少なくとも2つ以上の特徴量で肯定判定が得られたときに「平常」と判定するようにしてもよい。あるいは、3つの特徴量h1〜h3の関数で定義される統合スコアf(h1,h2,h3)を定義し、統合スコアfの値により無呼吸判定を行ってもよい。
【0068】
また、平常→無呼吸→平常→・・・というように判定結果が拍毎に頻繁に変化してしまうことを防ぐため、複数拍分の判定結果を考慮して最終判定を行ってもよい。例えば、指標抽出部50又は処理部51が、直前のn拍分(nは2以上の整数)の判定結果を保持しておき、そのn拍の判定結果と今回の判定結果が全て「無呼吸」であった場合に、n拍前にさかのぼって「無呼吸」状態の開始と判断してもよい。あるいは、平常状態や無呼吸状態が2,3拍で切り替わることは想定しにくいため、m拍分(mは5以上の整数であり、例えばm=10程度)の区間単位で「平常」区間か「無呼吸」区間かの判定を行ってもよい。例えば、m拍のうち「平常」と判定された数の方が多ければ当該区間を「平常」区間とし、「無呼吸」と判定された数の方が多ければ当該区間を「無呼吸」区間と判定すればよい。
【0069】
さらに、同一状態が継続する時間に応じて、閾値を動的に変化させるようにしてもよい。例えば、無呼吸状態が続くほど平常状態に戻りやすくなると考えられるため、無呼吸状態が継続する時間が長くなるにしたがい連続的ないし段階的に閾値を小さくしていくとよい。
【0070】
ステップ3405における無呼吸状態を解消するための処理は、どのような処理でもよい。例えば、出力ユニット25から音・光・振動などを発して、ユーザに覚醒を促してもよい。
図11に示すように、生体情報分析装置1を、ユーザの呼吸状態に作用を与える補助装置3に接続し、生体情報分析装置1から補助装置3に対し作動信号を送出してもよい。補助装置3としては、例えば、ユーザの呼吸を補助する装置(CPAP(Continuous Positive Airway Pressure)に用いられる人工呼吸器など)、ユーザの姿勢を変えることで気道確保を行う装置(ベッドのリクライニングや枕の高さを調整することで、上体の角度、首や顎の位置などを変える装置など)などを用いることができる。
【0071】
以上述べた本実施例の構成によれば、血圧波形のモニタリングだけで睡眠中の無呼吸の発生を簡易に且つリアルタイムに検知することができる。しかも、生体情報分析システム10を手首に装着するだけでよいので簡易であり、ユーザの身体への負担や心理的負担も小さい。そして、無呼吸の発生を検知した場合に必要な処理を行うことで、無呼吸状態の解消を図ることができる。
【0072】
なお、上述した実施形態及び実施例の構成は本発明の一具体例を示したものにすぎず、本発明の範囲を限定する趣旨のものではない。本発明はその技術思想を逸脱しない範囲において、種々の具体的構成を採り得るものである。例えば、上記実施例では、無呼吸状態(無呼吸の発生)をリアルタイムで検知する例を示したが、上記実施例の無呼吸判定アルゴリズムをオフラインの無呼吸判定処理に応用してもよい。すなわち、一晩分の血圧波形の測定データを記憶ユニット27に蓄積した後、指標抽出部50が、記憶ユニット27から一波形ずつ血圧波形のデータを読み込み、順次、無呼吸判定を行うのである。これにより、一晩の睡眠期間における、無呼吸の発生時刻、発生回数、発生頻度の時間的な分布などの情報を得ることができる。
【0073】
本明細書に開示された技術思想は以下のような発明として特定することもできる。
【0074】
(付記1)
生体情報分析装置であって、
ハードウェアプロセッサと、プログラムを記憶するメモリとを有し、
前記ハードウェアプロセッサは、前記プログラムにより、
睡眠中のユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測された血圧波形のデータから、血圧波形の特徴に基づいて前記ユーザの呼吸器の機能に関連する指標を抽出し、
抽出された前記指標に基づく処理を行う
ことを特徴とする生体情報分析装置。
【0075】
(付記2)
生体情報分析システムであって、
ユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサと、ハードウェアプロセッサと、プログラムを記憶するメモリと、を有し、
前記ハードウェアプロセッサは、前記プログラムにより、
睡眠中のユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測された血圧波形のデータから、血圧波形の特徴に基づいて前記ユーザの呼吸器の機能に関連する指標を抽出し、
抽出された前記指標に基づく処理を行う
ことを特徴とする生体情報分析システム。
【0076】
(付記3)
生体情報分析方法であって、
少なくとも1つのハードウェアプロセッサによって、睡眠中のユーザの身体に装着され、1心拍ごとの血圧波形を非侵襲的に計測可能なセンサにより連続的に計測された血圧波形のデータから、血圧波形の特徴に基づいて前記ユーザの呼吸器の機能に関連する指標を抽出するステップと、
少なくとも1つのハードウェアプロセッサによって、抽出された前記指標に基づく処理を行うステップと、
を含むことを特徴とする生体情報分析方法。