特許第6721327号(P6721327)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6721327-青果物の保存装置及び保存方法 図000002
  • 特許6721327-青果物の保存装置及び保存方法 図000003
  • 特許6721327-青果物の保存装置及び保存方法 図000004
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6721327
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】青果物の保存装置及び保存方法
(51)【国際特許分類】
   A23B 7/144 20060101AFI20200706BHJP
   A23L 3/3409 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   A23B7/144
   A23L3/3409
【請求項の数】8
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2015-245653(P2015-245653)
(22)【出願日】2015年12月16日
(65)【公開番号】特開2017-108680(P2017-108680A)
(43)【公開日】2017年6月22日
【審査請求日】2018年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】板谷 博治
【審査官】 坂井田 京
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−356158(JP,A)
【文献】 特開平06−311843(JP,A)
【文献】 特開2011−120557(JP,A)
【文献】 特開2006−138771(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0189849(US,A1)
【文献】 特開平04−346774(JP,A)
【文献】 特開平08−000168(JP,A)
【文献】 特開2013−099319(JP,A)
【文献】 特開2013−146191(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2015/0257401(US,A1)
【文献】 特開2001−248957(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23B 7/00−9/34
A23L 3/00−3/3598
A01F 25/00−25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
青果物を収容する保存部に炭酸ガスを含むガスを供給するガス供給部と、
前記保存部からガスを排出するガス排出部と、
前記青果物の成熟度を経時的に記録する記録部と、
前記記録部により記録された、前記青果物の前記成熟度に基づいて、前記供給ガス量及び/又は前記保存部内の温度を経時的に制御する制御部と、を備え
前記記録部が、前記ガス供給部により供給した供給ガス量と前記ガス排出部により排出した排出ガス量に基づいて前記青果物が吸収又は放出したガス量を経時的に記録することにより、前記青果物の前記成熟度を経時的に記録する記録部である、
青果物の保存装置。
【請求項2】
前記記録部が、前記ガスの種類毎に、前記青果物が吸収又は放出したガス量を経時的に記録する、請求項に記載に記載の青果物の保存装置。
【請求項3】
前記記録部が、赤外光を前記青果物に照射して、赤外光吸収スペクトルを経時的に記録することにより、前記青果物の前記成熟度を経時的に記録する記録部である、請求項1又は2に記載の青果物の保存装置。
【請求項4】
前記ガス供給部に供給するガスが酸素ガス、窒素ガス、及びエチレンガスからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含む、請求項1〜のいずれか1項に記載に記載の青果物の保存装置。
【請求項5】
記録部は、前記保存部内の温度も経時的に記録するものである、請求項1〜のいずれか1項に記載の青果物の保存装置。
【請求項6】
前記制御部は、前記青果物の出荷時期までに、前記青果物が吸収又は放出した前記ガス量が所定量となるよう、前記供給ガス量及び/又は前記保存部内の温度を経時的に制御するものである、請求項1〜のいずれか1項に記載の青果物の保存装置。
【請求項7】
前記青果物を収容する前記保存部をさらに備える、請求項1〜のいずれか1項に記載の青果物の保存装置。
【請求項8】
温度調整ができる大型保存庫に、請求項1〜のいずれか1項に記載の青果物の保存装置を複数設置し、該青果物の保存装置毎に独立して供給ガス量を経時的に制御する保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、青果物の保存装置及び保存方法に関する。
【背景技術】
【0002】
青果物は収穫後、流通過程にのり、食卓へ届けられる。一般的に青果物は熟したものほど美味しく、栄養価も高い傾向にある。そこで、特許文献1には、従来から行われている青果物の流通過程における追熟処理を省略し、収穫後の新鮮な青果物をできるだけ早く購入者・消費者の手元に到達させるとともに、購入者・消費者が自らの嗜好などに合わせて簡便に熟成を行って、適宜食べ頃の青果物を入手することを可能にすることを目的として、所定のガス雰囲気下において、雰囲気温度を変化させることによって農産物を熟成させる熟成方法が開示されている。
【0003】
一方で、青果物は熟期が短いものが少なくなく、保存方法が確立されている青果物であれば、通年に亘り入手することができるが、傷みやすい青果物や、熟期が短い青果物などは保存方法が充分に確立されているとはいえず、入手時期は限られる。特に青果物は、肉や魚と比較して水分率が高く、また、細胞膜の水透過係数が動物より低いため、凍結をすると細胞が破壊されやすく、肉や魚に用いるような凍結保存に適さない。また、肉や魚と比較して収穫時期が限られるものが多く、また、収獲時期が比較的気温の高い時期に集中する傾向がある。そのため、保冷庫を用意したとしても、特定の時期に保存が集中し、通年に亘り保冷庫が満たされるように収獲と出荷のサイクルを制御することが困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−159519号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、青果物の出荷時期を任意にシフトできたり、青果物を通年に亘り出荷することができたりする青果物の保存方法が確立されれば、新たな価値を創出することができる。例えば、2か月間しか収穫できない青果物を、保存技術により6か月間出荷できるとすれば、青果物の消費が増えることが想定されるし、また、収獲時期が比較的気温の高い時期に集中する青果物をそれぞれ比較的に長い期間入手できることも、青果物の消費増大に寄与すると考えられる。また、保存技術が確立されれば、比較的に美味しいとされる日本の青果物の輸出量も増大すると考えられる。さらに、従来入手が困難な時期にも青果物が入手できるとすれば、新たな需要創出も期待できる。
【0006】
しかし、特許文献1のように、従来の保存技術では、追熟させることのみが目的とされており、任意の出荷時期に応じて青果物を熟成させつつ保存する方法は確立されていない。
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、任意の出荷時期に応じて青果物の成熟度を制御しつつ、保存することのできる青果物の保存装置及び保存方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討した。その結果、青果物の成熟度を検出、記録し、記録された青果物の成熟度に基づいて、青果物が収容される保存部に供給される供給ガス量及び/又は保存部内の温度を経時的に制御することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕
青果物を収容する保存部に炭酸ガスを含むガスを供給するガス供給部と、
前記保存部からガスを排出するガス排出部と、
前記青果物の成熟度を経時的に記録する記録部と、
前記記録部により記録された、前記青果物の前記成熟度に基づいて、前記供給ガス量及び/又は前記保存部内の温度を経時的に制御する制御部と、を備え
前記記録部が、前記ガス供給部により供給した供給ガス量と前記ガス排出部により排出した排出ガス量に基づいて前記青果物が吸収又は放出したガス量を経時的に記録することにより、前記青果物の前記成熟度を経時的に記録する記録部である、
青果物の保存装置。
〔2〕
前記記録部が、前記ガスの種類毎に、前記青果物が吸収又は放出したガス量を経時的に記録する、〔1〕に記載に記載の青果物の保存装置。
〔3〕
前記記録部が、赤外光を前記青果物に照射して、赤外光吸収スペクトルを経時的に記録することにより、前記青果物の前記成熟度を経時的に記録する記録部である、〔1〕又は〔2〕に記載の青果物の保存装置。
〔4〕
前記ガス供給部に供給するガスが酸素ガス、窒素ガス、及びエチレンガスからなる群より選ばれる少なくとも1種以上を含む、〔1〕〜〔3〕のいずれか1項に記載の青果物の保存装置。
〔5〕
記録部は、前記保存部内の温度も経時的に記録するものである、〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の青果物の保存装置。
〔6〕
前記制御部は、前記青果物の出荷時期までに、前記青果物が吸収又は放出した前記ガス量が所定量となるよう、前記供給ガス量及び/又は前記保存部内の温度を経時的に制御するものである、〔1〕〜〔5〕のいずれか1項に記載の青果物の保存装置。
〔7〕
前記青果物を収容する前記保存部をさらに備える、〔1〕〜〔6〕のいずれか1項に記載の青果物の保存装置。
〔8〕
温度調整ができる大型保存庫に、〔1〕〜〔7〕のいずれか1項に記載の青果物の保存装置を複数設置し、該青果物の保存装置毎に独立して供給ガス量を経時的に制御する保存方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、任意の出荷時期に応じて青果物の成熟度を制御しつつ、保存することのできる青果物の保存装置及び保存方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】成熟度と呼吸量の関係を示す概略図である。
図2】第1実施形態の青果物の保存装置の概略図である。
図3】第2実施形態の青果物の保存装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0013】
なお、本明細書における用語の定義を以下に示す。
「青果物」とは、野菜と果物の総称である。
「完熟」とは、食味及び/又は栄養価が最も優れる青果物の状態をいう。
「未熟」とは、完熟前の青果物の状態をいう。
「追熟」とは、未熟な状態で収穫された青果物が、保存期間中に成熟することをいう。
「富化」とは、青果物が成熟し栄養価が増大することをいう。
「成熟度」とは、未熟から完熟までの青果物の成熟の度合いを示す指標をいう。
「保存」とは、青果物を収穫してから青果物が小売店において顧客に提供されるまで、又は、青果物を収穫してから青果物が飲食店において顧客に提供されるまでの間において、青果物が所定の容器内に収容されている状態をいい、流通過程も保存に含まれる。
【0014】
〔青果物の保存装置〕
本実施形態の青果物の保存装置は、青果物を収容する保存部にガスを供給するガス供給部と、保存部からガスを排出するガス排出部と、青果物の成熟度を経時的に記録する記録部と、記録部により記録された、青果物の成熟度に基づいて、供給ガス量及び/又は保存部内の温度を経時的に制御する制御部と、を備える。これにより、目的とする青果物の種類及び収穫時期に応じて、青果物の呼吸量(吸収又は排出するガス量)を制御することができる。図1に、成熟度と呼吸量の関係を示す概略図を示す。例えば、青果物の呼吸量が低い状態で保存することにより、成熟度の上昇が遅くなり、青果物の出荷時期を調整することができる。青果物の呼吸量は、保存温度及び/又は保存雰囲気(青果物が吸収又は放出するガスの制御)により制御することができる。
【0015】
青果物の成熟度は、ガス供給部により供給した供給ガス量とガス排出部により排出した排出ガス量に基づいて青果物が吸収又は放出したガス量を経時的に記録する方法A;青果物が放出する特定のガスと反応する指示薬を用いて青果物が放出するガス種及び/又はガス量を検出し、それを経時的に記録する方法B;赤外光を青果物に照射して、赤外光吸収スペクトルを経時的に記録することにより、青果物の糖度を検出し、それを経時的に記録する方法C;青果物の可視光透過光量で成熟度を検出し、それを経時的に記録する方法D;青果物の外観上の色の変化を色差計やカメラを用いて検出し、それを経時的に記録する方法Eなどにより、検出し、記録することができる。
【0016】
本実施形態における青果物の成熟度は、上記方法により検出し、記録部に記録することができる。青果物の成熟度を検出する検出部、及び青果物の成熟度を記録する記録部は、上記各方法によりそれぞれ異なる。
【0017】
例えば、方法Aにおいては、ガス供給部により供給した供給ガス量とガス排出部により排出した排出ガス量の両方を検出する検出部と、ガス供給部により供給した供給ガス量とガス排出部により排出した排出ガス量に基づいて青果物が吸収又は放出したガス量を経時的に記録することにより、青果物の成熟度を経時的に記録する記録部とが用いられる。
【0018】
また、方法Bにおいては、指示薬を用いて青果物が放出するガス種及び/又はガス量を検出する検出部と、これらを記録する記録部とが用いられる。
【0019】
さらに、方法Cにおいては、赤外光を青果物に照射し、その赤外光吸収スペクトルを検出する検出部と、赤外光を青果物に照射して得られる赤外光吸収スペクトルを経時的に記録することにより、青果物の成熟度を経時的に記録する記録部とが用いられる。
【0020】
また、方法Dにおいては、可視光を青果物に照射し、その透過光量を検出する検出部と、可視光を青果物に照射して得られる透過光量を経時的に記録することにより、青果物の成熟度を経時的に記録する記録部とが用いられる。
【0021】
さらに、方法Eにおいては、青果物の外観上の色の変化を検出する色差計やカメラ等の検出部と、それを経時的に記録する記録部が用いられる。
【0022】
以下、具体的な装置構成について図2乃至3を参照してさらに説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図2は、第1実施形態による青果物の保存装置の概略構成を示す模式図である。青果物の保存装置100は、青果物を収容する保存部10にガスを供給するガス供給部20と、保存部10からガスを排出するガス排出部30と、ガス供給部20により供給した供給ガス量とガス排出部30により排出した排出ガス量に基づいて青果物が吸収又は放出したガス量を経時的に記録する記録部40と、記録部40により記録された、青果物が吸収又は放出したガス量に基づいて、供給ガス量及び/又は保存部内の温度を経時的に制御する制御部50と、を備える。これにより、青果物を保存し、任意の出荷時期に応じて追熟及び富化を制御することが可能となる。
【0024】
保存部10は、1又は複数の青果物を収容するためのものであり、青果物は保存部10の中で、任意の出荷時期に応じて成熟度が制御されつつ保存される。保存部10は、青果物を収容するのに適した構成とすることができ、例えば、保存部10の中には、青果物と共に青果物を保護する目的で公知の緩衝材が収容されていてもよい。また、保存部10は、青果物を出し入れするための蓋部や、保存部10内の温度を測定するための温度計、保存部10内のガスを冷却可能なクーラー及び/又は加温可能なヒーターを有していてもよい。また、保存部10はガス組成が重要であることから、バリア機能を有している方がより好ましい。好ましいバリア特性の指標としては、高湿度下(20℃、90RH%)の酸素バリア性は、好ましくは5000(cc/m2・day・atm)以下、より好ましくは100(cc/m2・day・atm)以下であり、水蒸気透過性は、好ましくは50(g/m2・day)以下、より好ましくは10(g/m2・day)である。
【0025】
保存部10には、保存部10内にガスを供給するガス供給部20と、保存部10からガスを排出するガス排出部30が接続されており、保存部10の中の雰囲気は、ガス供給部20及びガス排出部30により制御される。その種類により異なるが、青果物は所定のガスを吸収したり排出したりする。そのため、青果物の保存時に保存部10内の雰囲気を調製したとしても、保存部10内の雰囲気は経時的に変化し得る。ここにおいて、ガス供給部20及びガス排出部30を用いて、継続的又は断続的に保存部10内の雰囲気を循環させることにより、保存部10内の雰囲気を所望の範囲に制御することができる。なお、保存部10におけるガス供給部20及びガス排出部30の設置位置は特に制限されないが、保存部10内の雰囲気を制御するという観点からは、ガス供給部20及びガス排出部30が共に近接する位置にないほうが好ましい。例えば、直方体の保存部10においては、ガス供給部20及びガス排出部30の一方を底面に設け、もう一方を頂面に設けてもよいし、ガス供給部20及びガス排出部30の一方を側面に設け、もう一方を別の側面に設けてもよいし、ガス供給部20及びガス排出部30の一方を頂面又は底面に設け、もう一方を側面に設けてもよいし、ガス供給部20及びガス排出部30の両方を頂面、底面、又は側面に設けてもよい。
【0026】
ガス供給部20及び/又はガス排出部30には、供給ガス量及び排出ガス量を調整するためのバルブが設けられていてもよい。供給ガス量及び排出ガス量の調整は、バルブのようにガス供給部20及びガス排出部30のガス供給路の径を制御して行ってもよいし、ガス供給部20の上流に設けられる送風機や、ガス排出部30の下流に設けられる俳風機の風量を制御することにより行ってもよい。また、ガス供給部20及び/又はガス排出部30は、供給ガス及び/又は排出ガスの組成(ガス種及びその割合)を検出するための検出器を有していてもよい。
【0027】
ガス供給部20は、ガス供給部20の上流に設けられた、供給ガスを貯留するタンクに接続されていてもよいし、外気を供給ガスとして取り込むことができるように構成されていてもよい。ガス供給部20が保存部10とタンクを接続するように構成されている場合には、タンクは供給ガスの供給元となる。また、ガス排出部30は、ガス排出部30の下流に設けられた、排出ガスを貯留するタンクに接続されていてもよいし、排出ガスを外気に放出することができるように構成されていてもよい。なお、供給ガスを貯留するタンク及び/又は排出ガスを貯留するタンク内には、供給ガス及び/又は排出ガスの組成(ガス種及びその割合)を検出するための検出器が設けられていてもよい。
【0028】
さらに、ガス供給部20内には、保存部10に供給される前の供給ガスを冷却可能なクーラー及び/又は加温可能なヒーターが設けられていてもよい。このような温度調節手段を有することにより、保存部10に供給される供給ガスの温度を調整することができ、結果として、保存部10内の温度を制御することが可能となる。さらに、ガス供給部20の上流側に、例えばガスボンベのような各種ガスの供給源、各組成に応じた流量制御器、ガス混合器を用いることもできる。この際、ガス混合精度を高めるために、上流側を部分的に、温度調整をすることができる。
【0029】
ガス供給部20から供給されるガスとしては、特に限定されないが、例えば、炭酸ガス、酸素ガス、窒素ガス、及びエチレンガスからなる群より選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。ガスは1種単独のガスであっても、2種以上の混合ガスであってもよい。ガス供給部20から供給されるガスは、保存する青果物の種類に応じて適宜変更することができる。また、青果物を保存するため、供給部20から水蒸気も供給することができる。
【0030】
記録部40は、ガス供給部20により供給した供給ガス量とガス排出部30により排出した排出ガス量に基づいて青果物が吸収又は放出したガス量を経時的に記録する。記録部40に記録されるデータは、特に限定されないが、例えば、青果物が吸収又は放出したガスの経時的な量、青果物が吸収又は放出したガスの総量、青果物が吸収又は放出したガスの種類毎の経時的な量、青果物が吸収又は放出したガスの種類ごとの総量である。また、記録部40は、保存部10内の温度を経時的に記録することもできる。具体的には、記録部40は、ガス供給部20及び/又はガス排出部30に設けられた検出器や、ガス供給部20の上流に設けられた供給ガスを貯留するタンク内に設けられた検出器により検出された、供給ガス及び/又は排出ガスの組成(ガス種及びその割合)及びガス量を記録するように構成することができる。また、記録部40は、保存部10内に設けられた温度計により測定された温度を記録するように構成することもできる。
【0031】
制御部50は、記録部40により記録された、青果物が吸収又は放出したガス量に基づいて、供給ガス量及び/又は保存部内の温度を経時的に制御する。制御部50が行う制御は、任意の出荷時期に応じて青果物の成熟度を制御しつつ、保存するために行うものであり、例えば、出荷時期がまだ先の場合には、青果物が熟速度を遅らせ、目的とする出荷時期にちょうど青果物の成熟度が高くなるように制御をし、出荷時期が近い場合には、その時期にちょうど青果物の成熟度が高くなるように制御をすることである。
【0032】
青果物の成熟度は、出荷時期までの保存部10内の温度の調整や、出荷時期までに青果物が吸収するガス量又は出荷時期までに青果物が放出するガス量を調整することにより制御することができる。例えば、低温で、かつ、青果物が吸収するガス量又は青果物が放出するガス量が少なくなるような状態で、青果物を保存することにより、青果物の成熟を遅らせることができる。これにより、任意の出荷時期前に青果物が成熟しきってしまうことを抑えることが可能となる。一方、比較的高い温度で、青果物が吸収するガス量又は青果物が放出するガス量が多くなる状態で、青果物を保存することにより、青果物の成熟を早めることができる。これにより、任意の出荷時期まで、成熟させないで眠らせていた青果物を、出荷時期に向けて成熟させることができる。青果物の成熟に関する温度及び青果物が吸収するガス量又は青果物が放出するガス量は、青果物の種類に応じて異なり、適宜調整することができる。
【0033】
青果物の成熟度の具体的な制御方法の例として、制御部50は、青果物の出荷時期までに、青果物が吸収又は放出したガス量が所定量となるよう、供給ガス量及び/又は保存部内の温度を経時的に制御することができる。青果物の種類にもよるが、青果物が成熟するまでには、青果物は一定量のガスを吸収又は放出する。このガスの吸収又は放出は、青果物の保存温度に依存して、上下し得る。そこで、出荷時期に、ちょうど青果物が成熟するのに十分なガスを吸収又は放出するよう、保存部10内の温度、及び/又は、供給ガスの組成を制御してもよい。
【0034】
第1実施形態の青果物の保存装置100は、保存部10を有することは必須としておらず、保存部10を有していてもよい。即ち、保存部10を有しない青果物の保存装置100は、ガス供給部20と、ガス排出部30と、記録部40と、制御部50と、を備える保存装置であればよく、当該装置は、一般に青果物を保存するために用いられる箱に取り付けて用いることができる。この場合、一般に青果物を保存するために用いられる箱が保存部10となる。一方、これに対して、保存部10を有する青果物の保存装置100は、独自の保存部10を有するものである。
【0035】
一般に青果物を保存するために用いられる箱を保存部10として用いることができるという点において、保存部10を有しない青果物の保存装置はより汎用性の高い装置となり得る。また、独自の保存部10を有する青果物の保存装置は、より精密に青果物の成熟に関する温度及び青果物が吸収するガス量又は青果物が放出するガス量を制御することが可能となる点において、有利となる。
【0036】
(第2実施形態)
図3は、第2実施形態による青果物の保存装置の概略構成を示す模式図である。第2実施形態は、温度調整ができる大型保存庫X内に、第1実施形態の青果物の保存装置100を複数設置し、青果物の保存装置100毎に独立して供給ガス量を経時的に制御する態様である。これにより、温度制御は、大型保存庫Xで一括して管理しつつ、青果物の保存装置100毎に保存された青果物の追熟及び富化を制御することができる。そのため、一つの大型保存庫X内で異なる種類の青果物を保存し、任意の出荷時期に応じて追熟及び富化を制御することや、一つの大型保存庫X内で異なる収穫時期に収穫された同種の青果物を保存し、任意の出荷時期に応じて追熟及び富化を制御することが可能となる。
【0037】
〔青果物の前処理方法〕
本実施形態を用いて保存する青果物は、保存処理を行う前に、殺菌等の前処理を行うことができる。殺菌方法としては、液体、気体、または、光や熱を用いて殺菌することができる。
【0038】
前処理においては、殺菌剤、防カビ剤、天然系抽出物、合成保存料等を用いてもよい。殺菌剤としては、特に限定されないが、例えば、次亜塩素酸水、次亜塩素酸Na、次亜塩素酸Ca、電解次亜水、二酸化塩素、O3等を用いることができる。また、防カビ剤としては、特に限定されないが、例えば、アゾキシストロビン、イマサザル、オルトフェニルフェノール、オルトフェニルフェノールナトリウム、ジフェニル、チアベンダゾール、フルジオキソニル等を用いることができる。さらに、天然系抽出物としては、特に限定されないが、例えば、カワラヨモギ抽出物(カピリン)、カラシ抽出物(イシチオシアヌレート)、ヒノキチオール抽出物(β―ツヤプリシン)等を用いることができる。また、合成保存料としては、特に限定されないが、例えば、パラオキシ安息香酸エステル類、亜硫酸Na、次亜硫酸Na、二酸化硫黄、ピロ亜硫酸K、ピロ亜硫酸Na等を用いることができる。
【0039】
光を用いる殺菌方法として、赤外線や紫外線を用いる方法、特に、UV−C波長帯と言われる、波長200−300nmの紫外線、好ましくは、250−280nmの紫外線によって、殺菌処理を行うことができる。この際、光源としては水銀灯や放電光源、LEDを用いることができ、さらに、必要に応じて、パルス照射や連続照射を行うことができる。上記添加剤による殺菌よりも、照射による上記殺菌方法の方が好ましく、殺菌効果の点からUV−C波長帯を有する紫外線による殺菌がより好ましい。具体的には、青果物をトレーに載せ、照射しながら、殺菌することができる。なお、青果物を保存するために用いられる箱を保存部10が、光を用いる殺菌を備えていてもよい。
【0040】
〔青果物の保存方法〕
本実施形態の青果物の保存方法は、青果物が吸収又は放出したガス量を経時的に記録する記録工程と、記録された、青果物が吸収又は放出したガス量に基づいて、青果物を収容する保存部に供給する供給ガス量及び/又は保存部内の温度を経時的に制御する制御工程と、を有する。
【0041】
この際、上記、殺菌、防カビ剤を一緒に供給することもできる。さらに、青果物の褐変を抑制する、抗酸化剤や水素等の気体を供給することもできる。
【0042】
青果物が吸収又は放出したガスとしては、特に限定されないが、例えば、炭酸ガス、酸素ガス、窒素ガス、エチレンガス、エタノールガス、酢酸エチルガス、水蒸気からなる群より選ばれる少なくとも1種以上が挙げられる。ガスは1種単独のガスであっても、2種以上の混合ガスであってもよい。記録工程においては、ガスの種類毎に、青果物が吸収又は放出したガス量を経時的に記録してもよい。また、記録工程において、保存部内の温度も経時的に記録してもよい。
【0043】
制御工程においては、青果物を収容する保存部に供給する供給ガス量及び/又は保存部内の温度を経時的に制御する。この際に、青果物の出荷時期までに、青果物が吸収又は放出したガス量が所定量となるよう、供給ガス量及び/又は保存部内の温度を経時的に制御することが望ましい。
【0044】
本実施形態の青果物の保存方法の一態様として、温度調整ができる大型保存庫に、上記青果物の保存装置を複数設置し、青果物の保存装置毎に独立して供給ガス量を経時的に制御する方法が挙げられる。
【0045】
なお、上述したとおり、本発明は、上記の実施の形態、及び、既に述べた変形例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において様々な変形が可能である。すなわち、上記実施形態はあらゆる点で単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。
【0046】
例えば、上記第1実施形態及び第2実施形態における記録部40は、ガス供給部により供給した供給ガス量とガス排出部により排出した排出ガス量に基づいて青果物が吸収又は放出したガス量を経時的に記録するものの他、指示薬を用いて検出された青果物が放出するガス種及び/又はガス量を記録する記録部であってもよいし、赤外光を青果物に照射して得られる赤外光吸収スペクトルを経時的に記録することにより、青果物の成熟度を経時的に記録する記録部であってもよいし、可視光を青果物に照射して得られる透過光量を経時的に記録することにより、青果物の成熟度を経時的に記録する記録部であってもよいし、色差計やカメラ等により検出された青果物の外観上の色の変化を記録することにより、青果物の成熟度を経時的に記録する記録部であってもよい。
【0047】
さらに、上記第1実施形態及び第2実施形態における検出器は、ガス供給部により供給した供給ガス量とガス排出部により排出した排出ガス量の両方を検出する検出器の他、指示薬を用いて青果物が放出するガス種及び/又はガス量を検出する検出器であってもよいし、赤外光を青果物に照射し、その赤外光吸収スペクトルを検出する検出器であってもよいし、可視光を青果物に照射し、その透過光量を検出する検出器であってもよいし、青果物の外観上の色の変化を検出する色差計やカメラ等の検出器であってもよい。
【0048】
これら検出器の設置位置は、特に制限されず、各検出器の検出方法に適するように設けることができ、各検出器の検出方法に応じて保存部10に保存された青果物の成熟度を検出できるように設けられていればよい。具体的には、指示薬を用いて青果物が放出するガス種及び/又はガス量を検出する検出器は、保存部10及び/又はガス排出部30に設置することができ、赤外光を青果物に照射しその赤外光吸収スペクトルを検出する検出器、可視光を青果物に照射しその透過光量を検出する検出器、及び青果物の外観上の色の変化を検出する色差計やカメラ等の検出器は、保存部10に設置することができる。
【0049】
各種検出器の構成は、特に制限されず、各検出器の検出方法に適するように構成することができる。具体的には、指示薬を用いて青果物が放出するガス種及び/又はガス量を検出する検出器は、指示薬を保持する指示薬保持部と、当該指示薬の変化を検知する検知部を有することができる。また、赤外光を青果物に照射しその赤外光吸収スペクトルを検出する検出器は、赤外光照射部と、赤外光検出部とを有することができる。さらに、可視光を青果物に照射しその透過光量を検出する検出器は、可視光照射部と、可視光検出部とを有することができる。また、青果物の外観上の色の変化を検出する検出器は、色差計やカメラ等のを備えることができる。
【0050】
各種検出器は、それぞれ検出した青果物の成熟度に関するデータを記録部に記録できるよう記録部と接続されており、また、青果物の成熟度に関するデータを記録する記録部は、供給ガス量及び/又は保存部内の温度を経時的に制御する制御部と接続される。制御部においては、青果物の成熟度に関するデータに基づいて、供給ガス量及び/又は保存部内の温度を経時的に制御し、これにより、任意の出荷時期に応じて青果物の成熟度を制御しつつ、保存することが可能となる。
【0051】
各種検出器が検出するデータは、青果物の成熟度に関するデータという点で共通しており、本実施形態においては、1種の検出器及びそれに相応する記録部を有していてもよいし、2種以上の検出器及びそれに相応する記録部を有していてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の青果物の保存装置及び保存方法は、任意の出荷時期に応じて青果物の成熟度を制御しつつ、保存する技術として産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0053】
10…保存部
20…ガス供給部
30…ガス排出部
40…記録部
50…制御部
100…青果物の保存装置
図1
図2
図3