(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記Pol IIプロモーターが、CAG、EF1A、CAGGS、PGK、UbiC、CMV、B29、デスミン、エンドグリン、FLT−1、GFPA、及びSYN1プロモーターからなる群から選択される、請求項5に記載のDNA分子。
Csy4切断部位に連結したガイドRNA(gRNA)をコードする配列を含む1つ、2つ、3つ又はそれ以上のカセットと連結したプロモーター配列を含むDNA分子であって、前記Csy4切断部位は、配列GTTCACTGCCGTATAGGCAG(配列番号1)からなる、DNA分子。
Csy4切断部位に連結した第3のガイドRNAをコードする第3の配列に連結した、Csy4切断部位に連結した第2のガイドRNAをコードする第2の配列に連結した、Csy4切断部位に連結した第1のガイドRNAをコードする第1の配列に作動可能に連結したPol IIプロモーターを含む、請求項7に記載のDNA分子。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、少なくとも一部には、ショートRNAヘアピン配列を認識するエンドリボヌクレアーゼであるCsy4を使用して、個々のgRNAがCsy4切断部位によって分かれている単一の長鎖RNA転写物(RNA pol II又はIIIプロモーターから産生される)にコードされた複数の機能性gRNAを切り出すことができるという発見に基づく。
【0006】
従って、第1の態様において本発明は、ガイドRNA(gRNA)をコードする複数の配列を含むデオキシリボ核酸(DNA)分子を提供し、ここで各gRNAには、配列GTTCACTGCCGTATAGGCAG(配列番号1)又はGTTCACTGCCGTATAGGCAGCTAAGAAA(配列番号2)を含むか又はそれからなる少なくとも1つのCsy4切断配列が隣接する。
【0007】
一部の実施形態において、DNA分子はプロモーター配列に作動可能に連結されている。
【0008】
一部の実施形態において、DNA分子は、各々少なくとも1つのCsy4切断配列が隣接する2つ、3つ、又はそれ以上のgRNA配列を含む。
【0009】
一部の実施形態において、プロモーター配列はRNAポリメラーゼII(Pol II)プロモーター又はPol IIIプロモーター、好ましくはRNA Pol IIプロモーターである。一部の実施形態において、Pol IIプロモーターは、CAG、EF1A、CAGGS、PGK、UbiC、CMV、B29、デスミン、エンドグリン、FLT−1、GFPA、及びSYN1プロモーターからなる群から選択される。
【0010】
別の態様において、本発明は、Csy4切断部位、例えば配列番号1又は2に連結した、ガイドRNAをコードする配列、即ち、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)ベースのシステムについて約100nt、例えば、95〜300nt、例えば、95〜105ntの配列を含む1つ、2つ、3つ又はそれ以上のカセットと連結したプロモーター配列を含むDNA分子を提供する。
【0011】
一部の実施形態において、DNA分子は、Csy4切断部位に連結した第3のガイドRNAをコードする第3の配列に連結した、Csy4切断部位に連結した第2のガイドRNAをコードする第2の配列に連結した、Csy4切断部位に連結した第1のガイドRNAをコードする第1の配列に作動可能に連結したPol IIプロモーターを含む。一部の実施形態において、Csy4切断部位に連結したさらなるガイドRNAが含まれる。例えば、DNA分子は、以下の構造:
プロモーター−C4−gRNA−C4−gRNA−C4−gRNA−C4
プロモーター−C4−gRNA−C4−gRNA−C4−gRNA−C4−gRNA−C4
プロモーター−C4−gRNA−C4−gRNA−C4−gRNA−C4−gRNA−C4−gRNA C4
などを有し得る。この例において、C4は、Csy4 RNA切断部位をコードする配列であり、及びgRNAは、ガイドRNAをコードする配列である。
【0012】
一部の実施形態において、Cas9 sgRNAは以下の配列を含む:
【化1】
(式中、X
17−20は、標的配列、好ましくはプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の直ちに5’側の標的配列の17〜20個の連続ヌクレオチドの相補鎖に相補的な配列であり、及びX
Nは、リボ核酸とCas9との結合を妨げない任意の配列である)。X
17−20の配列は、本明細書では化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9システムで例示されるが、例えば他のシステムに応じて適切に、より長い配列もまた使用することができる。
【0013】
一部の実施形態において、DNA分子はまた、機能性Csy4酵素をコードする配列も含む。
【0014】
また、本明細書には、例えば機能性Csy4酵素をコードする配列を任意選択で含む、本明細書に記載されるDNA分子を含むベクターも提供される。また、本明細書には、DNA分子によって産生される多重転写物、例えば、未だCsy4で切断されていないインタクトなRNAも提供される。
【0015】
さらに別の態様において、本明細書には、細胞において複数のガイドRNAを産生させる方法が提供される。本方法は、細胞において本明細書に記載されるDNA分子を発現させるステップを含む。
【0016】
一部の実施形態において、細胞は哺乳類細胞であり、この細胞はまた、外因性機能性Csy4酵素配列も発現し、又は本方法は、機能性Csy4酵素又は機能性Csy4酵素をコードする核酸を投与するステップをさらに含む。
【0017】
別の態様において、本発明は、細胞において1つ又は複数の標的遺伝子の発現を改変する方法を提供する。本方法は、本明細書に記載されるとおりのDNA分子、例えば、ガイドRNA(gRNA)をコードする複数の配列を含むDNA分子を発現させるステップを含み、ここで各gRNAは、1つ以上の標的遺伝子の少なくとも17〜20ntに相補的な可変配列を含み、及び各gRNAには、配列GTTCACTGCCGTATAGGCAG(配列番号1)又はGTTCACTGCCGTATAGGCAGCTAAGAAA(配列番号2)を含むか又はそれからなる少なくとも1つのCsy4切断配列が隣接する。
【0018】
本方法及び組成物において、gRNAは、本明細書に記載されるとおり、融合したtracrRNA及びcrRNAを含む単一ガイドRNAであってもよく、或いはcrRNAだけを含んでもよく、tracrRNAは同じ又は異なるDNA分子から発現してもよい。従って一部の実施形態において、本明細書に記載されるDNA分子はまた、tracrRNAをコードする配列も含む。一部の実施形態において、本方法は、細胞において別個のtracrRNAを発現させるステップ、例えば、tracrRNAを発現するベクター又はDNA分子と細胞を接触させるステップを含む。
【0019】
特に定義しない限り、本明細書で使用される全ての科学技術用語は、本発明が属する技術分野の当業者が一般に理解するのと同じ意味を有する。本明細書には、本発明に使用される方法及び材料が記載される;当該技術分野において公知の他の好適な方法及び材料もまた使用することができる。材料、方法、及び例は例示に過ぎず、限定することを意図するものではない。本明細書で言及される全ての刊行物、特許出願、特許、配列、データベースエントリ、及び他の参照文献は、全体として参照により援用される。矛盾が生じる場合、定義を含め、本明細書が優先するものとする。
【0020】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な説明及び図、並びに特許請求の範囲から明らかとなるであろう。
【発明を実施するための形態】
【0022】
Cas9システムの潜在的利点の一つは、細胞においてヌクレアーゼ活性或いは異種エフェクタードメインを2つ以上のゲノム遺伝子座又は標的部位に動員する能力である。しかしながら、かかる多重的適用のためには、細胞において2つ以上のgRNAが効率的に発現可能である必要がある。哺乳類細胞に関しては、RNAポリメラーゼIIIプロモーター(例えば、U6プロモーター)が、単一のショートgRNAの発現に用いられている。ヒト細胞において単一の転写物から複数のgRNA構成要素を発現させる先行の試みは、効率的でないことが分かっている。
【0023】
Cas9システムのさらなる望ましい能力は、誘導性バージョンの構成要素を作り出し、且つそれらの構成要素の組織特異的発現を可能にすることであろう。誘導性の及び/又は組織特異的なRNAポリメラーゼIIプロモーターについては、これまでに記載がなされている。しかしながら、かかるRNA pol IIプロモーターからCas9又はdCas9タンパク質は発現し得るものの、短い定義付けられたgRNAは、RNA pol IIからの転写の開始及び終結部位が不正確であるため、このようにして発現させることができない。実際、これまで全てのgRNAがRNAポリメラーゼIIIプロモーター(理想的にはショートRNAの発現に適している)から発現されている。
【0024】
本明細書において実証するとおり、ショートRNAヘアピン配列を認識するエンドリボヌクレアーゼであるCsy4を使用して、個々のgRNAがCsy4切断部位によって分かれている単一長鎖RNA転写物(RNA pol IIIプロモーターから産生される)カセットにコードされた複数の機能性gRNAを切り出すことができる。機能性gRNAは、RNA pol IIプロモーターから発現する長鎖RNA転写物から成功裏に切断されることができる。
【0025】
gRNA/Csy4多量体カセット
従って、本明細書には、本明細書において多量体カセットと称される、2つ以上のgRNA配列を含む長鎖RNA転写物をコードするDNA分子が記載され、ここで各gRNAにはCsy4切断配列が隣接している。このDNA分子はまたプロモーターも含むことができ、及び任意選択で、1つ以上の他の転写調節配列、例えば、エンハンサー、サイレンサー、インスレーター、及びポリA配列を含むことができる。例えば、Xu et al.,Gene.2001 Jul 11;272(1−2):149−56を参照のこと。
【0026】
プロモーター
本方法で使用することのできる幾つものプロモーターが、当該技術分野において公知である。一部の実施形態において、プロモーターはPolII又はPol IIIプロモーター、好ましくはPol IIプロモーターである。CAGプロモーターを含め、様々なPol IIプロモーターが記載されており、本組成物及び方法に使用することができる(例えば、Alexopoulou et al.,BMC Cell Biology 9:2,2008;Miyazaki et al.,Gene 79(2):269−77(1989);Niwa et al.,Gene 108(2):193−9(1991)を参照のこと;さらなるプロモーターとしては、EF1A、CAGGS、PGK、UbiC及びCMVプロモーター、並びに組織特異的プロモーター、例えば、とりわけ、B29、デスミン、エンドグリン、FLT−1、GFPA、SYN1が挙げられる;多数のプロモーターの配列が当該技術分野において公知である。例えば、CMV及びPGKプロモーターは、それぞれpSicoR及びpSicoR PGKから増幅することができ(Ventura et al.,Proc Natl Acad Sci U S A 101:10380−10385(2004))、UbiCプロモーターはpDSL_hpUGIH(ATCC)から増幅することができ、CAGGSプロモーターはpCAGGS(BCCM)から増幅することができ、及びEF1AプロモーターはpEF6ベクター(Invitrogen)から増幅することができる。Pol IIコアプロモーターは、Butler and Kadonaga,Genes & Dev.16:2583−2592(2002)に記載されている。Pol II発現によって駆動される大型転写物からのgRNAの切断は、最も5’側の位置に任意のヌクレオチドを有するgRNAの産生を可能にする(U6又は他のRNAポリメラーゼIIIプロモーターからの標準発現は、このヌクレオチドのアイデンティティに制約を加える)。
【0027】
一部の実施形態において、組織特異的プロモーターが使用され、及び短い定義付けられたgRNA配列がRNA−Pol II転写物からプロセシングされ得る。
【0028】
U6核内低分子(sn)RNAプロモーター、7SKプロモーター、及びH1プロモーターを含め、幾つものPol IIIプロモーターが当該技術分野において公知である。例えば、Ro et al.,BioTechniques,38(4):625−627(2005)を参照のこと。
【0029】
ガイドRNA
Cas9ヌクレアーゼは、その5’末端にゲノムDNA標的部位に相補的な少なくとも17〜20ntを有する単一gRNAを使用することによって、配列NGGのさらなる近位プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)を有する少なくとも17〜20ntの特定のゲノム標的にガイドすることができる。
【0030】
従って、本明細書に記載される組成物は、プロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)、例えば、NGG、NAG、又はNNGGの直ちに5’側の標的配列の17〜20ヌクレオチド(nt)に相補的な配列を5’末端に有する、通常トランスにコードされたtracrRNAに融合したcrRNAを含む単一ガイドRNA(sgR
NA)、例えばMali et al.,Science 2013 Feb 15;339(6121):823−6に記載されるとおりの単一Cas9ガイドRNAをコードする配列を含むことができる。
【0031】
ガイドRNAを設計し及び発現させる方法は当該技術分野において公知である。ガイドRNAは、一般的に言えば、2つの異なるシステムとして提供される:1)システム1は、一緒になってCas9による切断をガイドする働きをする別個のcrRNA及びtracrRNAを使用し;及び2)システム2は、2つの別個のガイドRNAを組み合わせて単一のシステムにしたキメラcrRNA−tracrRNAハイブリッドを使用する(Jinek et al.2012)。tracr−RNAは可変的にトランケートされることができ、別個のシステム(システム1)及びキメラgRNAシステム(システム2)の両方で様々な長さが機能することが示されている。例えば、Jinek et al.,Science 2012;337:816−821;Mali et al.,Science.2013 Feb 15;339(6121):823−6;Cong et al.,Science.2013 Feb 15;339(6121):819−23;及びHwang and Fu et al.,Nat Biotechnol.2013 Mar;31(3):227−9;Jinek et al.,Elife 2,e00471(2013))を参照のこと。システム2については、概して長さが長いキメラgRNAほど高いオンターゲット活性を示しているが、しかし種々の長さのgRNAの相対的特異性は今のところ不明確のままであり、従って場合によっては短いgRNAの使用が望ましい可能性もある。一部の実施形態において、gRNAは、転写開始部位の上流約100〜800bpの範囲内、例えば、転写開始部位の上流約500bpの範囲内の領域、転写開始部位を含む領域、又は転写開始部位の下流約100〜800bpの範囲内、例えば約500bpの範囲内の領域に相補的である。一部の実施形態において、2つ以上のgRNAをコードするベクター(例えばプラスミド)、例えば、標的遺伝子の同じ領域内の異なる部位に向けた2つ、3つ、4つ、5つ、又はそれ以上のgRNAをコードするプラスミドが使用される。さらなるガイドRNA、及びゲノム編集の特異性を高める方法が、「INCREASING SPECIFICITY FOR RNA−GUIDED GENOME EDITING」と題される米国仮特許出願第61/838,178号明細書に記載される。
【0032】
一部の実施形態において、gRNAは以下の配列を含むか又はそれからなる:
【化2】
(式中、X
17−20は、標的配列、好ましくはプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)、例えば、NGG、NAG、又はNNGGの直ちに5’側の標的配列の少なくとも17〜20個の連続ヌクレオチドの相補鎖に相補的な配列である(しかしながら一部の実施形態では、この相補性領域は20ntより長く、例えば、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30nt又はそれ以上、例えば、17〜30ntであってもよい))。X
Nは、任意の配列であり、ここでNは(RNAにおいては)、リボ核酸とCas9との結合を妨げない0〜300又は0〜200、例えば、0〜100、0〜50、又は0〜20であり得る。一部の実施形態において、RNAは、RNA PolIII転写を終結するための終結シグナルとして使用される1つ以上のTが任意選択で存在する結果として、分子の3’末端に1つ以上のU、例えば1〜8個又はそれ以上のU(例えば、U、UU、UUU、UUUU、UUUUU、UUUUUU、UUUUUUU、UUUUUUUU)を含む。一部の実施形態において、RNAは、そのRNA分子の5’末端に、標的配列に相補的でない1つ以上、例えば最大3つ、例えば、1つ、2つ、又は3つ、又はそれ以上のさらなるヌクレオチドを含む。任意選択で、RNAヌクレオチドの1つ以上、例えば、配列X
17−20内のヌクレオチドの1つ以上、配列X
N内のヌクレオチドの1つ以上、又はgRNAの任意の配列内のヌクレオチドの1つ以上は修飾されており、例えばロックされている(2’−O−4’−Cメチレン架橋)、5’−メチルシチジンであるか、2’−O−メチル−プソイドウリジンであるか、又はそこでリボースリン酸骨格がポリアミド鎖によって置換されている。
【0033】
例えば、一部の実施形態では、Jinek et al.(Science.337(6096):816−21(2012))に記載されるキメラガイドRNA、例えば、
(X
17−20)GUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCG(配列番号8);(X
17−20)GUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGG(配列番号9)を使用することができ;一部の実施形態では、標的DNA配列に相補的な5’末端17〜20ヌクレオチド配列、及びJinek et al.,Elife.2:e00471(2013)に記載されるCas9結合に必要な42ヌクレオチド3’末端ステムループ構造を有するsgRNA、例えば、(X
17−20)GUUUUAGAGCUAGAAAUAGCAAGUUAAAAUAAGGCUAGUCCG(配列番号8)が使用される。
【0034】
一部の実施形態において、ガイドRNAは、3’末端に1つ以上のアデニン(A)又はウラシル(U)ヌクレオチドを含む。
【0035】
本明細書に記載される例は単一gRNAを利用するが、本方法はまた、二重gRNA(例えば、天然に存在するシステムに見られるcrRNA及びtracrRNA)で用いることもできる。この場合、単一のtracrRNAを、本システムを使用して発現する複数の異なるcrRNAと併せて、例えば、以下(RNAについては、Tは本明細書ではUであると理解されることに留意されたい):
crRNA配列:X
17−20−GTTTTAGAGCTAGAAA(配列番号15)
tracrRNA配列:TAGCAAGTTAAAATAAGGCTAGTCCGTTATCAACTTGAAAAAGTGGCACCGAGTCGGTGC(配列番号16)を使用することになる。この場合、crRNAが本明細書に記載される方法及び分子におけるガイドRNAとして使用され、及びtracrRNAは同じ又は異なるDNA分子から発現し得る。
【0036】
さらに、相補性の17〜20ヌクレオチドの配列を有するガイドRNAが本明細書に例示されるが、一部の実施形態では、17〜20ntの代わりにより長い配列、例えば、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30nt又はそれ以上、例えば17〜30ntを使用することができる。
【0037】
Csy4切断配列
本明細書に記載される方法及び組成物においては、各ガイドRNAに切断配列が隣接することで1つ又は少なくとも1つの切断配列が各ガイドRNAの間にあるように、DNA分子にCsy4切断配列が挿入される。例示的C
sy4切断配列としては、GTTCACTGCCGTATAGGCAG(トランケート型20nt)(配列番号1)及びGTTCACTGCCGTATAGGCAGCTAAGAAA(完全28nt)(配列番号2)が挙げられる。本明細書において実証されるとおり、トランケート型Csy4切断部位(配列番号1)の使用は、標準的な部位を使用するよりヒト細胞において効率が高い。本発明者らの知る限りでは、これは、ヒト細胞におけるCsy4活性の利用を初めて実証するものである。
【0038】
機能性Csy4酵素配列
本明細書に記載される方法においては、Csy4切断部位で転写物を切断する能力を有する機能性Csy4酵素もまた細胞で発現する。
【0039】
緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)UCBPP−PA14(Pa14)、エルシニア・ペスチス(Yersinia pestis)AAM85295(Yp)、大腸菌(Escherichia coli)UTI89(Ec89)、ディケロバクター・ノドーサス(Dichelobacter nodosus)VCS1703A(Dn)、アシネトバクター・バウマンニ(Acinetobacter baumannii)AB0057(Ab)、モリテーラ属種(Moritella sp.)PE36(MP1、MP01)、シュワネラ属種(Shewanella sp.)W3−18−1(SW)、パスツレラ・ムルトシダ亜種ムルトシダ(Pasteurella multocida subsp.multocida)Pm70(Pm)、ペクトバクテリウム・ワサビエ(Pectobacterium wasabiae)(Pw)、及びディケヤ・ダダンティイ(Dickeya dadantii)Ech703(Dd)由来のCsy4ホモログの例示的Csy4配列が、Haurwitz et al.,Science 329(5997):1355−1358(2010)の
図S6に示される。好ましい実施形態において、Csy4は緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)由来である。
【0040】
一部の実施形態において、Csy4は、異種エフェクタードメインをgRNAに共有結合的に連結するためにも使用される。Csy4は、シングルターンオーバー酵素であり、切断後もその標的ヘアピン配列に結合したままであると考えられる(Sternberg et al.,RNA.2012 Apr;18(4):661−72)。従ってCsy4は、切断された各gRNAの3’末端に結合したままであると予想される。本明細書において実証されるとおり、切断されたgRNAはヒト細胞において機能性であると思われるため、gRNAの3’末端におけるこのCsy4タンパク質の存在は、gRNAがCas9と複合体を形成してその活性を誘導する能力に影響を及ぼさないものと思われる。従って、これらのgRNA−Csy4融合物はまた、その触媒ヌクレアーゼ活性を不活性化する突然変異を有するCas9突然変異体(dCas9タンパク質)も誘導可能であろうと考えられる。従って、異種機能ドメイン(HFD)をCsy4と融合することができ(Csy4−HFD)、次にはdCas9:sgRNA:Csy4−HFD複合体がかかるドメインを特定のゲノム遺伝子座に誘導し得る。かかるHFDの例には、他のヌクレアーゼドメイン、例えばFokI由来のもの、転写活性化因子若しくはリプレッサードメイン、又はヒストン若しくはDNAメチル化状態を修飾する他のドメインが含まれ得る。
【0041】
Csy4−HFDは、異種機能ドメイン(例えば、転写活性化ドメイン、例えばVP64又はNF−κB p65由来)を、介在リンカー、例えば約5〜20又は13〜18ヌクレオチドのリンカーを伴い又は伴わずCsy4タンパク質のN末端又はC末端に融合することによって作り出される。転写活性化ドメインはCsy4のN末端又はC末端に融合することができる。転写活性化ドメインに加えて、当該技術分野において公知のとおりの他の異種機能ドメイン(例えば、転写リプレッサー(例えば、KRAB、SIDなど)又はサイレンサー、例えばヘテロクロマチンタンパク質1(HP1、別名swi6)、例えばHP1α又はHP1β;MS2コートタンパク質、エンドリボヌクレアーゼCsy4、又はλNタンパク質が結合するものなどの固定的なRNA結合配列に融合したロング非コードRNA(lncRNA)を動員することのできるタンパク質又はペプチド;DNAのメチル化状態を修飾する酵素(例えば、DNAメチルトランスフェラーゼ(DNMT)又はTETタンパク質);又はヒストンサブユニットを修飾する酵素(例えば、ヒストンアセチルトランスフェラーゼ(HAT)、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)、ヒストンメチルトランスフェラーゼ(例えば、リジン又はアルギニン残基のメチル化について)又はヒストンデメチラーゼ(例えば、リジン又はアルギニン残基の脱メチル化について))もまた使用することができる。かかるドメインの幾つもの配列、例えばDNAにおけるメチル化シトシンのヒドロキシル化を触媒するドメインが当該技術分野において公知である。例示的タンパク質としては、DNAにおいて5−メチルシトシン(5−mC)を5−ヒドロキシメチルシトシン(5−hmC)に変換する酵素である10−11転座(TET)1〜3ファミリーが挙げられる。例えば、国際公開第2014/144761号パンフレットを参照のこと。
【0042】
ヒトTET1〜3の配列は当該技術分野において公知であり、以下の表に示す:
【0044】
一部の実施形態において、触媒ドメインの完全長配列の全て又は一部、例えば、7つの高度に保存されたエクソンによってコードされるシステインリッチ伸長部及び2OGFeDOドメインを含む触媒モジュール、例えばアミノ酸1580〜2052を含むTet1触媒ドメイン、アミノ酸1290〜1905を含むTet2及びアミノ酸966〜1678を含むTet3が含まれ得る。例えば、3つ全てのTetタンパク質における主要な触媒残基を示すアラインメントについては、Iyer et al.,Cell Cycle.2009 Jun 1;8(11):1698−710.Epub 2009 Jun 27の
図1、及び完全長配列についてはその補助資料(ftpサイトftp.ncbi.nih.gov/pub/aravind/DONS/supplementary_material_DONS.htmlで利用可能)(例えばseq 2cを参照)を参照のこと;一部の実施形態において、配列はTet1のアミノ酸1418〜2136又はTet2/3における対応する領域を含む。
【0045】
他の触媒モジュールは、例えば、Iyer et al.,2009に同定されるタンパク質由来であり得る。
【0046】
一部の実施形態において、融合タンパク質は、Csy4と異種機能ドメインとの間にリンカーを含む。これらの融合タンパク質に(又はコンカテネート構造の融合タンパク質間に)使用することのできるリンカーには、融合タンパク質の機能を妨げない任意の配列が含まれ得る。好ましい実施形態において、リンカーは短く、例えば2〜20アミノ酸であり、典型的には可動性である(即ち、グリシン、アラニン、及びセリンなど、高い自由度のアミノ酸を含む)。一部の実施形態において、リンカーは、GGGS(配列番号3)又はGGGGS(配列番号17)からなる1つ以上のユニット、例えば、GGGS(配列番号3)又はGGGGS(配列番号17)ユニットの2つ、3つ、4つ、又はそれ以上のリピートを含む。他のリンカー配列、例えば、GGS、GGSG(配列番号22)、SGSETPGTSESA(配列番号23)、SGSETPGTSESATPES(配列番号24)、又はSGSETPGTSESATPEGGSGGS(配列番号25)もまた使用することができる。
【0047】
Cas9
本明細書に記載される方法においては、Cas9もまた細胞において発現する。幾つもの細菌がCas9タンパク質変異体を発現する。化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)由来のCas9が、現在最も一般的に用いられている;他のCas9タンパク質の幾つかは化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9と高い配列同一性レベルを有し、同じガイドRNAを使用する。他はさらに多様で、異なるgRNAを使用し、その上認識するPAM配列(RNAによって指定される配列に隣接するタンパク質によって指定される2〜5ヌクレオチド配列)も異なる。Chylinski et al.が大規模な細菌群からCas9タンパク質を分類しており(RNA Biology 10:5,1−12;2013)、参照によって本明細書に援用されるその補
図1及び補表1に多数のCas9タンパク質が掲載されている。本明細書に記載されるコンストラクト及び方法は、それらのCas9タンパク質の任意のもの、及びそれらの対応するガイドRNA又は適合性のある他のガイドRNAの使用を含み得る。ストレプトコッカス・サーモフィルス(Streptococcus thermophilus)LMD−9 CRISPR1システム由来のCas9もまた、Cong et al(Science 339,819(2013))の中でヒト細胞において機能することが示されている。加えて、Jinek et al.は、インビトロで、S.サーモフィルス(S.thermophilus)及びL.イノキュア(L.innocua)由来のCas9オルソログ(但し髄膜炎菌(N.meningitidis)又はC.ジェジュニ(C.jejuni)由来のものではない、これらは異なるガイドRNAを使用するものと思われる)が、二重化膿レンサ球菌(S.pyogenes)gRNAによってガイドされることで、効率はやや低いが、標的プラスミドDNAを切断し得ることを示した。
【0048】
一部の実施形態において、本システムは、細菌にコードされたものとしての、又は哺乳類細胞における発現にコドンが最適化されたものとしての、化膿レンサ球菌(S.pyogenes)由来のCas9タンパク質を利用する。HAエピトープ(アミノ酸配列DAYPYDVPDYASL(配列番号18))及び核局在化シグナル(アミノ酸配列PKKKRKVEDPKKKRKVD(配列番号19))に融合した化膿レンサ球菌(Streptococcus pyogenes)Cas9(残基1〜1368)の例示的配列は、以下のとおりである:
【化3】
Jinek et al,2013、前掲を参照のこと。
【0049】
一部の実施形態において、ヌクレアーゼをニッカーゼにするためD10A及びH840Aのいずれかの突然変異を含むか、又はタンパク質のヌクレアーゼ部分を触媒的に不活性にするためD10A及びH840Aの両方の突然変異を含むCas9配列が使用される。本明細書に記載される方法及び組成物で使用し得る触媒的に不活性の化膿レンサ球菌(S.pyogenes)Cas9(dCas9)の配列は、以下のとおりである;突然変異は太字及び下線で示す。
【化4】
【化5】
例えば、Mali et al.,2013、前掲;及びJinek et al.,2012、前掲を参照のこと。或いは、Cas9は、2013年6月21日に出願され、且つ通し番号61/838,148が割り当てられた、「RNA−GUIDED TARGETING OF GENETIC AND EPIGENOMIC REGULATORY PROTEINS TO SPECIFIC GENOMIC LOCI」と題される米国仮特許出願、及びPCT/US2014/027335号明細書に記載されるとおりのdCas9−ヘテロ機能ドメイン融合物(dCas9−HFD)であってもよい。
【0050】
Cas9は、本明細書に記載されるとおりの発現ベクター、例えば、Cas9をコードする配列、例えばCas9 cDNA又は遺伝子を含む染色体外プラスミド又はウイルスベクターから発現させてもよく;細胞のゲノムに組み込まれた外因性Cas9 cDNA又は遺伝子から発現させてもよく;Cas9をコードするmRNA;実際のCas9タンパク質それ自体;又は、非哺乳類細胞の場合、外因性Cas9であってもよい。
【0051】
発現系
例えば、本明細書に記載されるCsy4/ガイドRNAコンストラクトのインビボ又はインビトロ発現に、発現ベクターを含む核酸分子を使用することができる。複数のgRNAを(潜在的に誘導性の又は組織型/細胞型特異的な形で)発現するベクターは、研究及び治療用途に使用することができる。
【0052】
本明細書に記載される融合タンパク質及び多量体ガイドRNAカセットを使用するためには、それらをコードする核酸からそれらを発現させることが望ましい場合もあり得る。これは種々の方法で実施することができる。例えば、ガイドRNAカセット又はCsy4又はCas9タンパク質をコードする核酸を、複製及び/又は発現用の原核細胞又は真核細胞に形質転換される中間ベクターにクローニングすることができる。中間ベクターは、典型的には、融合タンパク質をコードする核酸の保存若しくは操作用又は融合タンパク質の産生用の原核生物ベクター、例えば、プラスミド、又はシャトルベクター、又は昆虫ベクターである。ガイドRNA又は融合タンパク質をコードする核酸はまた、植物細胞、動物細胞、好ましくは哺乳類細胞又はヒト細胞、真菌細胞、細菌細胞、又は原虫細胞への投与用の発現ベクターにクローニングすることもできる。
【0053】
発現を得るため、ガイドRNA又は融合タンパク質をコードする配列は、典型的には、転写を誘導するプロモーターを含む発現ベクターにサブクローニングされる。好適な細菌及び真核生物プロモーターは当該技術分野において周知されており、例えば、Sambrook et al.,Molecular Cloning,A Laboratory Manual(3d ed.2001);Kriegler,Gene Transfer and Expression:A Laboratory Manual(1990);及びCurrent Protocols in Molecular Biology(Ausubel et al.,eds.,2010)に記載されている。操作されたタンパク質を発現させるための細菌発現系は、例えば、大腸菌(E.coli)、バチルス属種(Bacillus sp.)、及びサルモネラ属(Salmonella)において利用可能である(Palva et al.,1983,Gene 22:229−235)。かかる発現系のキットが市販されている。哺乳類細胞、酵母、及び昆虫細胞用の真核生物発現系は当該技術分野において周知されており、同様に市販されている。
【0054】
幾つもの好適なベクター、例えば、ウイルスベクター、例えば、組換えレトロウイルス、レンチウイルス、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、及び単純ヘルペスウイルス1型、アデノウイルス由来ベクター、又は組換え細菌若しくは真核生物プラスミドが、当該技術分野において公知である。例えば、発現コンストラクトは以下を含み得る:コード領域;プロモーター配列、例えば、発現を選択の細胞型に制限するプロモーター配列、条件的プロモーター、又は強力な汎用プロモーター;エンハンサー配列;非翻訳調節配列、例えば、5’非翻訳領域(UTR)、3’UTR;ポリアデニル化部位;及び/又はインスレーター配列。かかる配列は当該技術分野において公知であり、当業者であれば好適な配列を選択することが可能である。例えば、Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel,F.M.et al.(eds.)Greene Publishing Associates,(1989),Sections 9.10−9.14及び他の標準実験マニュアルを参照のこと。一部の実施形態では、当該技術分野において公知のとおりの組織特異的プロモーターを使用して、発現を特定の細胞型に限定することができる。
【0055】
上記に記載したとおり、ガイドRNAを発現させるベクターは、ガイドRNAの発現を駆動するためRNA Pol II又はPol IIIプロモーターを含み得る。これらのヒトプロモーターは、プラスミドトランスフェクション後の哺乳類細胞におけるgRNAの発現を可能にする。或いは、例えばインビトロ転写のため、T7プロモーターを使用してもよく、RNAをインビトロで転写して精製することができる。核酸の発現を誘導するために使用されるプロモーターは、特定の適用に依存する。例えば、融合タンパク質の発現及び精製には、典型的には強力な構成的プロモーターが使用される。対照的に、遺伝子調節のため融合タンパク質がインビボ投与される場合、融合タンパク質の詳細な用途に応じて構成的プロモーター又は誘導性プロモーターのいずれかが使用され得る。加えて、融合タンパク質の投与に好ましいプロモーターは、HSV TKなどの弱いプロモーター、又は同様の活性を有するプロモーターであり得る。プロモーターにはまた、トランス活性化に応答するエレメント、例えば、低酸素応答エレメント、Gal4応答エレメント、lacリプレッサー応答エレメント、及びテトラサイクリン調節系及びRU−486系などの小分子制御系も含まれ得る(例えば、Gossen & Bujard,1992,Proc.Natl.Acad.Sci.USA,89:5547;Oligino et al.,1998,Gene Ther.,5:491−496;Wang et al.,1997,Gene Ther.,4:432−441;Neering et al.,1996,Blood,88:1147−55;及びRendahl et al.,1998,Nat.Biotechnol.,16:757−761を参照のこと)。
【0056】
プロモーターに加えて、発現ベクターは典型的には、原核生物又は真核生物のいずれであれ、宿主細胞での核酸の発現に必要なあらゆる追加的なエレメントを含む転写ユニット又は発現カセットを含む。従って典型的な発現カセットは、例えば融合タンパク質をコードする核酸配列に作動可能に連結されたプロモーター、及び例えば転写物の効率的なポリアデニル化、転写終結、リボソーム結合部位、又は翻訳終結に必要な任意のシグナルを含む。カセットの追加的なエレメントには、例えば、エンハンサー、及び異種スプライシングイントロンシグナルが含まれ得る。
【0057】
遺伝情報を細胞に運び込むために使用される詳細な発現ベクターは、融合タンパク質の目的の用途、例えば、植物、動物、細菌、真菌、原虫等における発現に関連して選択される。標準的な細菌発現ベクターは、プラスミド、例えば、pBR322ベースのプラスミド、pSKF、pET23D、及び市販のタグ融合発現系、例えばGST及びLacZを含む。好ましいタグ融合タンパク質は、マルトース結合タンパク質(MBP)である。かかるタグ融合タンパク質は、操作されたTALEリピートタンパク質の精製に使用することができる。組換えタンパク質にエピトープタグ、例えば、c−myc又はFLAGもまた付加することができ、それにより単離、発現のモニタリング、並びに細胞及び細胞内局在性のモニタリングに好都合な方法がもたらされる。
【0058】
真核細胞発現ベクター、例えば、SV40ベクター、パピローマウイルスベクター、及びエプスタイン・バーウイルス由来のベクターにおいては、多くの場合に真核生物ウイルス由来の調節エレメントを含む発現ベクターが用いられる。他の例示的真核生物ベクターとしては、pMSG、pAV009/A+、pMTO10/A+、pMAMneo−5、バキュロウイルスpDSVE、及び任意の他の、SV40初期プロモーター、SV40後期プロモーター、メタロチオネインプロモーター、マウス乳腺腫瘍ウイルスプロモーター、ラウス肉腫ウイルスプロモーター、ポリヘドリンプロモーター、又は真核細胞における発現に有効であることが示される他のプロモーターの誘導下でタンパク質の発現を可能にするベクターが挙げられる。
【0059】
一部の発現系は、チミジンキナーゼ、ハイグロマイシンBホスホトランスフェラーゼ、及びジヒドロ葉酸レダクターゼなどの、安定にトランスフェクトされた細胞株を選択するためのマーカーを有する。昆虫細胞においてバキュロウイルスベクターを使用するなど、高収率発現系もまた好適であり、ここで融合タンパク質コード配列はポリヘドリンプロモーター又は他の強力なバキュロウイルスプロモーターの誘導下にある。
【0060】
発現ベクターに典型的に含まれるエレメントとしてはまた、大腸菌(E.coli)で機能するレプリコン、組換えプラスミドを有する細菌の選択を可能にするための抗生物質耐性をコードする遺伝子、及び組換え配列の挿入を可能にするプラスミドの非必須領域におけるユニークな制限部位も挙げられる。
【0061】
標準的なトランスフェクション方法を用いて、多量のタンパク質を発現する細菌、哺乳類、酵母又は昆虫細胞株が作製され、次にはそれが標準的な技法を用いて精製される(例えば、Colley et al.,1989,J.Biol.Chem.,264:17619−22;Guide to Protein Purification,in Methods in Enzymology,vol.182(Deutscher,ed.,1990)を参照のこと)。真核及び原核細胞の形質転換は、標準的な技法に従い実施される(例えば、Morrison,1977,J.Bacteriol.132:349−351;Clark−Curtiss & Curtiss,Methods in Enzymology 101:347−362(Wu et al.,eds,1983を参照のこと)。
【0062】
宿主細胞への外来性ヌクレオチド配列の導入には、公知の手順のいずれを用いてもよい。それらの手順は、リン酸カルシウムトランスフェクション、ポリブレン、プロトプラスト融合、電気穿孔、ヌクレオフェクション、リポソーム、マイクロインジェクション、ネイキッドDNA、プラスミドベクター、ウイルスベクター(エピソーム及び組込みの両方)、及びクローニングされたゲノムDNA、cDNA、合成DNA又は他の外来性遺伝物質を宿主細胞に導入するための他の周知の方法のいずれかの使用を含む(例えば、Sambrook et al.、前掲を参照のこと)。用いられる特定の遺伝子操作手順が選択のタンパク質の発現能を有する宿主細胞への少なくとも1つの遺伝子の導入を成功させることが可能であれば、十分である。
【0063】
一部の実施形態において、Cas9又はCsy4タンパク質は、タンパク質の核移行をもたらす核局在ドメインを含む。幾つかの核局在配列(NLS)が知られており、任意の好適なNLSを使用することができる。例えば、多くのNLSは、二分塩基性リピート(bipartite basic repeat)と称される複数の塩基性アミノ酸を有する(Garcia−Bustos et al,1991,Biochim.Biophys.Acta,1071:83−101にレビューされる)。二分塩基性リピートを含むNLSは、キメラタンパク質の任意の部分に置くことができ、核内に局在化するキメラタンパク質をもたらす。好ましい実施形態において、本明細書に記載される融合タンパク質の究極的な機能は典型的にはタンパク質の核局在を必要とするため、最終的な融合タンパク質に核局在ドメインが取り込まれる。しかしながら、タンパク質が内因性の核局在機能を有する場合には、別個の核局在ドメインを加える必要はないこともある。
【0064】
本発明は、ベクター及びベクターを含む細胞を含む。
【0065】
ライブラリ
また、本明細書には、研究用途、例えば潜在的な薬物標的のスクリーニング又は遺伝子レベルの相互作用の定義付けのための、例えば、誘導性の、組織型又は細胞型特異的多重ベクターにおけるgRNAのコンビナトリアルライブラリも提供される。
【0066】
使用方法
記載される本方法は、本明細書に記載されるとおりの多量体カセットと、加えて短縮型gRNAによってガイドされ得るヌクレアーゼ、例えば、上記に記載したとおりのCas9ヌクレアーゼ、及び上記に記載したとおり、Csy4ヌクレアーゼを、細胞において発現させるステップ、又は細胞と接触させるステップを含み得る。
【0067】
記載されるシステムは、複数の内因性遺伝子の発現の同時修飾、又は単一遺伝子の複数の部分の標的化に有用且つ万能なツールである。現行の方法でこれを実現するには、標的化する部位毎に別個のgRNAコード転写物を使用する必要がある。別個のgRNAは、各細胞が各gRNAを発現することを保証できないため、細胞集団の多重ゲノム編集には最適でない;複数の転写物では、細胞は、複雑で均一でないランダムなgRNA混合物を受け取る。しかしながら、本システムは、単一の転写物からの複数のgRNAの発現を可能にし、これにより複数のgRNAの発現によってゲノムにおける複数の部位を標的化することが可能になる。さらに、単一転写物システムでは、各細胞が全てのgRNAを同様の化学量論で発現するはずである。従ってこのシステムを、多数の遺伝子の発現の同時改変又は単一遺伝子、プロモーター、若しくはエンハンサーへの複数のCas9若しくはHFDの動員に容易に使用し得る。この能力は、例えば基礎生物学研究に(遺伝子機能を調べ、単一経路内の複数の遺伝子の発現を操作するために用いることができる)、及び合成生物学において(研究者は細胞内に複数の入力シグナルに応答する回路を作成することが可能になる)、幅広い有用性を有するであろう。この技術を実施すること及び多重化に適合させることは比較的容易であるため、これは多くの多岐にわたる適用性を有する幅広く有用な技術となる。
【0068】
本明細書に記載される方法は、1つ以上の遺伝子に向けられた本明細書に記載される多量体gRNAカセットをコードする核酸、及びCsy4及びCas9をコードする核酸と細胞を接触させて、それにより1つ以上の遺伝子の発現を調節するステップを含む。
【実施例】
【0069】
以下の例に本発明がさらに説明され、これらの例は、特許請求の範囲に記載される本発明の範囲を限定するものではない。
【0070】
実施例1.CRISPR/Cas9による多重編集
以下のとおりの、単一転写物から発現するcrRNA又はsgRNAのいずれかのアレイからCRISPR/Cas9によって多重編集を行う目的で3つの戦略を試みた:
1.別個のtracrRNAを伴う、ダイレクトリピート隣接crRNAアレイ及びCas9
2.Csy4、Cas9、及び別個のtracrRNAと共に発現する、Csy4部位によって分かれるショートcrRNAアレイ
3.Csy4部位によって分かれる完全長単一ガイドRNA(sgRNA)
コンストラクトの各セットについて(
図1に示される)、U2OS−EGFP破壊アッセイにおいてEGFPを効率的に破壊する能力を試験した。結果は
図2に示す。戦略1及び2を用いて設計したコンストラクトは、単一の標的であっても、EGFP破壊アッセイにおいて最も低い活性を呈した;従ってさらなる実験(以下に記載する)は、戦略3の最適化に重点を置いた。
【0071】
実施例2.哺乳類細胞におけるRNAポリメラーゼII及びIIIプロモーターからの高活性CRISPRガイドRNAの多重発現
長鎖転写物からCsy4ヌクレアーゼを使用してgRNAを切り出す例示的戦略の概略図を
図3に示す。概念実証を行う初期実験では、ヒト細胞における切断について、2つのバージョンのCsy4切断RNAヘアピン部位を試験した。これを行うため、2つのCsy4切断部位のうちの一方が隣接するgRNAを発現させた:
1.GTTCACTGCCGTATAGGCAGCTAAGAAA(完全28nt)(配列番号2)
2.GTTCACTGCCGTATAGGCAG(トランケート型20nt)(配列番号1)
この結果、その5’末端及び3’末端にトランケート型20nt配列が隣接したgRNAは、より長い28nt配列が隣接するものと比べて哺乳類細胞において活性がより高いことが示された(
図4)。本発明者らの知る限りでは、これは、ヒト生細胞においてCsy4ヌクレアーゼを使用してRNA転写物をプロセシングし得ることを初めて実証するものである。20ntトランケート部位の一つの重要なさらなる利点は、より長い28nt配列と異なり、長鎖転写物からプロセシングされたgRNAの5’末端に追加のヌクレオチドが残らないことである(
図4)。これにより、最も5’側の位置にいかなる所望のヌクレオチドを有するgRNAの発現も可能になる。これは、最も5’側の位置に特定の1つ又は複数のヌクレオチドを必要とするRNAポリメラーゼIIIプロモーターからのgRNAの発現と比べて改善である。
【0072】
このCsy4ベースのシステムを使用して、2つ及び3つの異なるgRNAの効率的な発現(
図5及び
図6)が実証された。この手法を用いて同時に発現させたgRNAは、ヒト細胞において予想された部位に改変を誘導した。
【0073】
これらの結果はまた、このCsy4ベースの戦略を、RNA Pol IIプロモーターによって産生される長鎖mRNAにコードされるgRNAで用い得ることも実証した(
図7)。これらの実験では、トランケート型Csy4部位が隣接する3つの異なる単一gRNAの1つが、CAGプロモーターによって産生されるmRNA(RNA Pol IIプロモーター)にコードされた。
図7に示すとおり、これらのコンストラクトの3つ全てが、ヒト細胞においてCas9ヌクレアーゼを誘導し得る機能性gRNAを産生することができたが、但しCsy4の存在下に限られた。観察された標的化Cas9活性のレベルは、これらのgRNAが標準的なRNA Pol IIIプロモーターを単独で使用して又はRNA Pol IIIプロモーターからのCsy4が隣接する転写物として発現するときに観察されるレベルと(やや低かったものの)同等であった(
図7)。
【0074】
要約すれば、これらの結果から以下のことが実証された:1)Csy4切断部位によって分けたとき、且つCsy4の存在下では、ヒト細胞において単一のRNA pol III転写物から最大3つの機能性gRNAを産生させることができる、2)複数のCsy4によってプロセシングされたgRNAを使用してCas9ヌクレアーゼを誘導し、単一のヒト細胞に多重変化を導入することができる、及び3)Csy4切断部位が隣接する機能性gRNAを、RNAポリメラーゼIIプロモーターから作られる長鎖mRNA転写物からCsy4ヌクレアーゼによって切断することができる。
【0075】
他の実施形態
本発明はその詳細な説明と併せて説明されているが、前述の説明は、添付の特許請求の範囲によって定義される本発明の範囲を限定するのでなく、例示するよう意図されることが理解されるべきである。他の態様、利点、及び変形例が以下の特許請求の範囲内にある。
本発明は、以下の態様を包含し得る。
[1]
ガイドRNA(gRNA)をコードする複数の配列
を含むデオキシリボ核酸(DNA)分子であって、各gRNAには、配列GTTCACTGCCGTATAGGCAG(配列番号1)又はGTTCACTGCCGTATAGGCAGCTAAGAAA(配列番号2)を含むか又はそれからなる少なくとも1つのCsy4切断配列が隣接する、DNA分子。
[2]
プロモーター配列に作動可能に連結されている、上記[1]に記載のDNA分子。
[3]
2つ、3つ、又はそれ以上のgRNA配列を含む、上記[1]に記載のDNA分子。
[4]
前記プロモーター配列がRNAポリメラーゼII(Pol II)プロモーター又はPol IIIプロモーターである、上記[1]に記載のDNA分子。
[5]
前記プロモーター配列がRNA Pol IIプロモーターである、上記[1]に記載のDNA分子。
[6]
前記Pol IIプロモーターが、CAG、EF1A、CAGGS、PGK、UbiC、CMV、B29、デスミン、エンドグリン、FLT−1、GFPA、及びSYN1プロモーターからなる群から選択される、上記[5]に記載のDNA分子。
[7]
Csy4切断部位に連結したガイドRNA(gRNA)をコードする配列を含む1つ、2つ、3つ又はそれ以上のカセットと連結したプロモーター配列を含むDNA分子。
[8]
Csy4切断部位に連結した第3のガイドRNAをコードする第3の配列に連結した、Csy4切断部位に連結した第2のガイドRNAをコードする第2の配列に連結した、Csy4切断部位に連結した第1のガイドRNAをコードする第1の配列に作動可能に連結したPol IIプロモーターを含む、上記[7]に記載のDNA分子。
[9]
約100ntのガイドRNA配列を含む、上記[7]に記載のDNA分子。
[10]
配列番号1又は2のCsy4切断部位を含む、上記[7]に記載のDNA分子。
[11]
機能性Csy4酵素をコードする配列をさらに含む、上記[1]又は[7]に記載のDNA分子。
[12]
前記gRNAが配列:
【化6】
(式中、X17−20は、標的配列、好ましくはプロトスペーサー隣接モチーフ(PAM)の直ちに5’側の標的配列の17〜20個の連続ヌクレオチドの相補鎖に相補的な配列であり、及びXNは、リボ核酸とCas9との結合を妨げない任意の配列である)を含む、上記[1]又は[7]に記載のDNA分子。
[13]
前記分子の3’末端に1つ以上のUを含む、上記[1]又は[7]に記載のDNA分子。
[14]
上記[1]〜[13]のいずれか一項に記載のDNA分子によってコードされるRNA分子。
[15]
上記[1]〜[13]のいずれか一項に記載のDNA分子を含むベクター。
[16]
機能性Csy4酵素をコードする配列をさらに含む、上記[15]に記載のベクター。
[17]
細胞において複数のガイドRNAを産生させる方法であって、前記細胞において上記[1]〜[13]のいずれか一項に記載のDNA分子を発現させるステップ、又は上記[14]に記載のRNA分子と前記細胞を接触させるステップを含む方法。
[18]
前記細胞が哺乳類細胞であり、及び前記細胞がまた外因性機能性Csy4酵素配列も発現し、又は前記方法が、機能性Csy4酵素又は機能性Csy4酵素をコードする核酸を投与するステップをさらに含む、上記[17]に記載の方法。
[19]
細胞における複数の標的遺伝子の発現を改変する方法であって、前記方法が、ガイドRNA(gRNA)をコードする複数の配列を含むDNA分子を発現させるステップを含み、各gRNAが、標的遺伝子の少なくとも17〜20ntに相補的な配列を含み、及び各gRNAには、配列GTTCACTGCCGTATAGGCAG(配列番号1)又はGTTCACTGCCGTATAGGCAGCTAAGAAA(配列番号2)を含むか又はそれからなる少なくとも1つのCsy4切断配列が隣接する、方法。
[20]
細胞における標的遺伝子の発現を改変する方法であって、前記方法が、ガイドRNA(gRNA)をコードする複数の配列を含むDNA分子を発現させるステップを含み、各gRNAが、前記標的遺伝子の少なくとも17〜20ntに相補的な配列を含み、及び各gRNAには、配列GTTCACTGCCGTATAGGCAG(配列番号1)又はGTTCACTGCCGTATAGGCAGCTAAGAAA(配列番号2)を含むか又はそれからなる少なくとも1つのCsy4切断配列が隣接する、方法。