特許第6721605号(P6721605)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6721605
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】有機金属化合物
(51)【国際特許分類】
   C07C 309/30 20060101AFI20200706BHJP
   G01N 1/00 20060101ALI20200706BHJP
   C07F 15/00 20060101ALN20200706BHJP
【FI】
   C07C309/30CSP
   G01N1/00 102B
   !C07F15/00 F
【請求項の数】15
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-546831(P2017-546831)
(86)(22)【出願日】2016年2月29日
(65)【公表番号】特表2018-508536(P2018-508536A)
(43)【公表日】2018年3月29日
(86)【国際出願番号】EP2016054234
(87)【国際公開番号】WO2016142199
(87)【国際公開日】20160915
【審査請求日】2019年2月18日
(31)【優先権主張番号】15158004.0
(32)【優先日】2015年3月6日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501399500
【氏名又は名称】ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】アイリーン・ヴェルナー
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ・カルヒ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレアス・リヴァス−ナス
(72)【発明者】
【氏名】アンゲリーノ・ドッピウ
(72)【発明者】
【氏名】アンニカ・フレイ
【審査官】 松澤 優子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−114286(JP,A)
【文献】 特開昭56−054233(JP,A)
【文献】 ALDERDEN,R.A. et al.,Journal of Chemical Education,2006年,Vol.83, No.5,p.728-734
【文献】 WILSON,J.J. et al.,CHEMICAL REVIEWS,2014年,Vol.114,p.4470-4495
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
G01N
C07F
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式で表される、単離された化合物シス−[(NHPt(HO)](O−Tos)、シス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)、
【化1】
【請求項2】
以下の工程、
a)特定量のシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体の水溶液中での用意、
b)100℃未満の温度で、撹拌しながらの1.8〜2.2倍のモル量(前記シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体に対して)の銀−p−トルエンスルホネートによるこのシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体の変換、
c)過剰の銀イオンを沈殿させるためのアルカリ又はアルカリ土類ハライドの任意の添加、
d)不溶性銀ハライドの分離のための単純又は多重濾過、
e)反応生成物の沈殿、
f)固体反応生成物及び濾液を得るための前記反応生成物の濾過、並びに前記反応生成物の任意の洗浄、を特徴とする、請求項1に記載の化合物の調製方法。
【請求項3】
前記工程e)における前記沈殿が、沈殿剤又はそれらの組み合わせの添加により50℃未満の温度で減圧下で水を留去することによって達成される、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
5%〜65%の前記水が留去される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記沈殿剤が有機溶媒である、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記有機溶媒がエタノール又はアセトンである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
工程c)が、過剰のアルカリ土類イオンの沈殿のための沈殿工程を含む、請求項2〜6のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記銀−p−トルエンスルホネートが、前記シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体に対して2倍のモル量で使用される、請求項2〜7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記濾液が0℃〜10℃の温度に冷却され、かつ沈殿した前記反応生成物が濾去される、追加の工程g)を含む、請求項2〜8のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
工程e)において、前記沈殿の前に酸を添加することによってpH値が1.5以下のpH値に調整される、請求項2〜9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記pH値が1以下である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記方法は、光の不在下、酸素の不在下、又はそれらの組み合わせで実施される、請求項2〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
水、シス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)、及び任意に場合によっては更なる物質を含有する組成物の製造方法であって、請求項2〜12のいずれか一項に記載のシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)が製造され、水又は水溶液中に溶解させられる、製造方法。
【請求項14】
分析用標準物質としての請求項1に記載のシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ビス−(p−トルエンスルホネート)又はその調製物の使用。
【請求項15】
請求項1に記載のシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)又はその調製物を含有する分析キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機金属化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
癌性疾患のための化学療法では、とりわけ、シスプラチン、カルボプラチン又はオキサリプラチンなどの貴金属白金の錯体化合物を有効成分(API)として使用する細胞増殖抑制剤が使用される。
【0003】
例えばカルボプラチンの製造工程における、可能な中間段階は、シス−ジアンミン−ジアクア白金錯体シス−[(NHPt(HO)2+である。この錯体は、カルボプラチン生成物中の不完全な反応における不純物として生じ得るので、この錯体は生成物中において上限を指定される。
【0004】
HPLC(高性能液体クロマトグラフィー)を用いて品質管理の間に活性成分を分析するためには、分析用標準物質が必要である。
【0005】
シス−ジアンミンジニトラト白金シス−[(NHPt(NO]、CAS 41575−87−5)は、カルボプラチン中のシス−ジアンミン−ジアクア白金錯体のためのこれまでに一般的な前駆体である。
【0006】
一般的な標準物質シス−[(NHPt(NO]は塩であり、これは水に溶解させると、二価の正に荷電したシス−ジアンミン−ジアクア白金錯体シス−[(NHPt(HO)2+及び2つの硝酸陰イオンNOに解離する。
【0007】
化合物シス−[(NHPt(NO]は、乾燥固体である。アンモニア及び硝酸塩の乾燥化合物は、特にショック又は衝撃などによりエネルギーが供給された際に、自発的な発熱分解又は更には爆発に向かう傾向があり得ることが知られている。したがって、この標準物質は、安全性に関して疑義があり、徹底した安全措置なしには取り扱うべきではない。
【0008】
EP−A−2740737は、1,2−シクロヘキサンジアミン白金(cyclohexandiaminplatinum)(II)ビス−(4−メチルベンゾールスルホネート)の二水和物及びその製造方法を記載している。
【0009】
Bartocci et al.,Inorganica Chimica Acta 53,(1981),L157〜L159は、化合物シス−[Pt(NH(HO)]SO、その製造、及び重合体を示す。一般に、これらの重合体は、Pt−ブルーとして記載され、シス−[Pt(NH(HO)]2+錯体の二量体又は重合体として常に記載されている。
【0010】
これらは、以下の式を用いて、Bartocciらに記載されている。
【0011】
【化1】
【0012】
Appleton et al.,Inorganica Chimica Acta 64,(1982),L229〜L233,Appleton et al.,Inorganic Chemistry Vol.23,no.22,(1984),3514〜3521,Flynn et al.,J.Inorg.Nucl.Chem.39,(1977),437〜439,and Lippert et al.,Inorganic Chemistry Vol.16,no.6,(1977),1525〜1529は、いくつかのジアンミン−ジアクア錯体並びにそれらの重合を記載し、同文献では、その構造が部分的に説明されているが、完全に説明されていない「白金ブルー」と記載されるいくつかの未定義の重合体がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】欧州特許出願公開第2740737号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】Bartocci et al.,Inorganica Chimica Acta 53,(1981),L157〜L159
【非特許文献2】Appleton et al.,Inorganica Chimica Acta 64,(1982),L229〜L233
【非特許文献3】Appleton et al.,Inorganic Chemistry Vol.23,no.22,(1984),3514〜3521
【非特許文献4】Flynn et al.,J.Inorg.Nucl.Chem.39,(1977),437〜439
【非特許文献5】Lippert et al.,Inorganic Chemistry Vol.16,no.6,(1977),1525〜1529
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
それゆえ、当時の標準物質として水溶液中で同じシス−ジアンミン−ジアクア白金錯体シス−[(NHPt(HO)2+錯体を生み出し、固体として単離され得、かつより長い時間にわたって安定な、新規化合物を調製することが目的であった。更に、この化合物は、確実に分析されることが可能であり、水に溶解しやすく、分解反応が起こりにくいものでなければならない。
【課題を解決するための手段】
【0016】
この目的は、下記式の化合物シス−[(NHPt(HO)](O−Tos)、シス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)
【0017】
【化2】
及びその重合体によって達成された。この化合物は、高純度かつ3〜70ppmの低銀含有量で得ることができる。重合体は、Bartocci et al.,Inorganica Chimica Acta 53(1981),L157〜L159(上記参照)によって説明されたものと同じ構造を有することが予想される。陽イオンの立体化学はまた、この形態でより明確に表すことができる:
【0018】
【化3】
【0019】
この生成物は、以下の工程を有するこの化合物を製造する方法によって得ることができる:
a)特定量のシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体の水溶液又は懸濁液中での用意、
b)100℃未満の温度で、撹拌しながらの1.8〜2.2倍のモル量(該シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体に対して)の銀−p−トルエンスルホネートによるこのシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体の変換、
c)過剰の銀イオンを沈殿させるためのアルカリ又はアルカリ土類ハライドの任意の添加、
d)不溶性銀ハライドの分離のための単純又は多重濾過、
e)反応生成物の沈殿、
f)固体反応生成物及び濾液を得るための該反応生成物の濾過、並びに該反応生成物の任意の洗浄。
【0020】
発明の簡単な説明
1.下記式の化合物シス−[(NHPt(HO)](O−Tos)、シス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)、
【0021】
【化4】
及びその重合体。
2.以下の工程、
a)特定量のシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体の水溶液中での用意、
b)100℃未満の温度で、撹拌しながらの1.8〜2.2倍のモル量(該シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体に対して)の銀−p−トルエンスルホネートによるこのシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体の変換、
c)場合により、過剰の銀イオンを沈殿させるためのアルカリ又はアルカリ土類ハライドの任意の添加、
d)不溶性銀ハライドの分離のための単純又は多重濾過、
e)反応生成物の沈殿、
f)固体反応生成物及び濾液を得るための該反応生成物の濾過、並びに該反応生成物の任意の洗浄、を特徴とする、要点1に記載の化合物の調製方法。
3.該工程e)における該沈殿が、沈殿剤又はそれらの組み合わせの添加により50℃未満の温度で減圧下で水を留去することによって達成される、要点2に記載の方法。
4.約75%〜約65%の該水が留去される、要点3に記載の方法。
5.該沈殿剤が有機溶媒、特にエタノール又はアセトンである、要点3に記載の方法。
6.該工程c)が、過剰のアルカリ土類イオンの沈殿のための沈殿工程を含む、要点2〜5の1つ以上に記載の方法。
7.該銀−p−トルエンスルホネートが、該シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体に対して2倍のモル量で使用される、要点2〜6の1つ以上に記載の方法。
8.該工程a)において、該シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体の用意は、ヨウ化カリウム及びアンモニアとのKPtClの反応により実施される、要点2〜7の1つ以上に記載の方法。
9.該濾液が0℃〜10℃の温度に冷却され、沈殿した該反応生成物が濾去される、追加の工程g)を含む、要点2〜8の1つ以上に記載の方法。
10.該工程f)又はg)に続いて、最終生成物を再結晶するための追加の工程、特に再結晶、該工程f)及びg)の繰返し、並びにそれらの組み合わせからなる群から選択される少なくとも1つの工程が行われる、要点2〜9の1つ以上に記載の方法。
11.該工程e)において、沈殿の前に酸を添加することによってpH値が1.5以下、有利には1以下のpH値に調整される、要点2〜10の1つ以上に記載の方法。
12.有機酸又は無機酸が使用される、要点11に記載の方法。
13.該無機酸は、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、又は硝酸(HNO)から選択される、要点11〜12の1つ以上に記載の方法。
14.該有機酸は、ギ酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸一水和物、酒石酸、クエン酸、又はシクロブタンジカルボン酸から選択される、要点11〜12の1つ以上に記載の方法。
15.工程f)又はg)からの濾去された該反応生成物が酸素の不在下で乾燥させられる、要点2〜14の1つ以上に記載の方法。
16.該方法は、光の不在下、酸素の不在下、又はそれらの組み合わせで実施される、要点2〜15の1つ以上に記載の方法。
17.シス−ジアンミンジヨードPt(II)錯体、シス−ジアンミンジクロライドPt(II)錯体、又はシス−ジアンミンジブロミドPt(II)錯体、特にシス−ジアンミンジヨージドPt(II)錯体、特に、白金シス−ジアンミンジヨージドが、シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体として使用される、要点2〜16の1つ以上に記載の方法。
18.水、シス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)、及び任意に更なる物質を含有する組成物の製造方法であって、請求項2〜17の1つ以上に記載のシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)が製造され、水又は水溶液中に溶解させられる、製造方法。
19.3〜70ppmの銀含有量を有する、要点1に記載の化合物シス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)。
20.要点2〜17の1つ以上の記載の方法により得ることができる、要点1に記載のシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)。
21.分析用標準物質としての要点1に記載のシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ビス−(p−トルエンスルホネート)又はその調製物の使用。
22.要点1に記載のシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)若しくは要点2〜17の1つ以上に記載の方法により得ることができるシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ビス−(p−トルエンスルホネート)又はその調製物を含有する分析キット。
23.細胞増殖抑制活性白金錯体の合成のための前駆体としての要点1に記載の化合物の使用。
24.細胞増殖抑制剤における活性物質としての要点1に記載の化合物の使用。
【発明を実施するための形態】
【0022】
シス−ジアンミンジヨードPt(II)錯体、シス−ジアンミンジクロライドPt(II)錯体、又はシス−ジアンミンジブロミドPt(II)錯体、特に、シス−ジアンミンジヨージドPt(II)錯体は、シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体として有利に使用され得る。KPtClのヨウ化カリウム及びアンモニアとの反応により得られ得る(Inorganic Syntheses(1989),25,98〜100)白金シス−ジアンミンジヨージドは特に安定である。生成物は、特に、1.8〜2.2倍のモル量(シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体又はシス−ジアンミンジヨードPt(II)錯体に対して)、又は1.9〜2.1倍のモル量、特に水溶液中の銀−p−トルエンスルホネートの2倍のモル量のシス−ジアンミンジヨードPt(II)錯体の反応により得られる。
【0023】
反応は、シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体、特にシス−ジアンミンジヨードPt(II)錯体、特に白金−シス−ジアンミンジヨージドの水溶液又は懸濁液が生成されかつ固体銀−p−トルエンスルホネートと合わされるように達成され得る。
【0024】
あるいは、銀−p−トルエンスルホネートはまた、その場で、例えば、酸化銀及びトルエンスルホン酸の反応により、反応混合物中に生成され得る。これは反応容器内で行うことができ、次いでシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体は、例えば、固体、溶液、又は懸濁液として添加される。しかし、その場での銀−p−トルエンスルホネートの生成は、第2の反応容器中で行われ、次いで生成されたシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体に添加され得る。
【0025】
懸濁液の場合、溶解していないシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体又はシス−ジアンミンジヨードPt(II)錯体は、反応の過程で徐々に溶解する。
【0026】
シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体若しくはシス−ジアンミンジヨードPt(II)錯体の濃度又はそれらの溶媒水に対する関係は概して無批判であり(uncritical)、既存の製造設備による。迅速な反応のために過度に多量の溶媒を選択してはならないが、この試薬の水溶解度が限定的であることから、少なすぎる量であってもならない。水に対するシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体又はシス−ジアンミンジヨードPt(II)錯体の重量比は、1:100〜100:1、又は5:100〜20:100、又は8:100〜10:100の範囲が有効であることが判明している。
【0027】
反応は、撹拌しながら100℃未満で達成される。温度は、40℃〜90℃、又は50℃〜80℃、又は60℃〜75℃が有効であることが判明している。反応時間は、通常は約2〜24時間、特に約4〜16時間又は約6〜12時間である。
【0028】
銀−p−トルエンスルホネートが、2倍のモル量(シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体又はシス−ジアンミンジヨードPt(II)錯体に対して)未満の量で使用される場合、十分多い量の水が水溶液中の未反応のシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体を維持するために使用されなければならず、あるいは、反応生成物が十分長い時間洗浄されるか又は再結晶されなければならない。これは、銀−p−トルエンスルホネートの量が増加するにつれて重要ではなくなる。2倍のモル量の銀−p−トルエンスルホネートで出発し、本質的に定量的な反応が概して起こり、その結果、反応手順における未反応のシス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体の量をもはや考慮する必要がなくなる。
【0029】
2倍のモル量(シス−ジアンミンジハライドPt(II)錯体に対して)を超える量の銀−p−トルエンスルホネートが使用される場合、銀ハライドの形態で過剰の銀を沈殿させるために、アルカリ又はアルカリ土類ハライドの添加が推奨される。
【0030】
アルカリ又はアルカリ土類ハライドは、ナトリウム、カリウム、リチウム、ルビジウム、セシウム、ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、及びそれらの混合物の塩化物、臭化物、ヨウ化物又はフッ化物からなる群から選択され得る。このようにして、できるだけ多くのアルカリ又はアルカリ土類ハライドを可能な限り少量の水に溶解させることができるので、十分に水溶性の化合物を選択することが推奨される。これらは、例えばナトリウム又はカリウムの塩化物又は臭化物、特に塩化ナトリウム又は塩化カリウムである。
【0031】
アルカリ土類ハライドが使用される場合、過剰のアルカリ土類金属イオンは、適切な沈殿剤を添加することによって、例えば過剰の塩化カルシウムを炭酸カルシウムとして沈殿させるために炭酸を添加することによって、又は過剰のバリウム若しくはストロンチウムを沈殿させるために硫酸を添加することによって、再び沈殿させることもできる。しかしながら、アルカリ金属ハライド、特にナトリウム又はカリウムの塩化物又は臭化物、特に塩化ナトリウム又は塩化カリウムが概して好ましい。
【0032】
次いで反応混合物は、透明な溶液が得られるまで濾過される。必要に応じて、ガラスフリット、具体的にはG4ガラスフリットを介した繰り返しの濾過が効果的であることが判明している。
【0033】
次いで、この透明な溶液から反応生成物が沈殿させられる。本発明の一実施形態では、これは沈殿剤の添加によって達成することができる。これに特に適しているのは、反応生成物が不溶性又は難溶性である極性有機溶媒である。これらは、例えばリガンド交換を受けて反応生成物と反応してはならず、また、十分に水溶性でなければならない。例えば、アセトン及びエタノールが非常に適している。
【0034】
あるいは、還元生成物が沈殿するまで、水を反応混合物から除去することができ、特に、留去することができる。特に、これは50℃未満の温度で減圧下で行われ、標準的なロータリーエバポレーターで簡便に実施することができる。水の約75%〜約65%を除去することによって良い結果を達成することができる。その後、反応生成物を濾去し、任意に洗浄することができ、水、冷水、及びエタノール又はアセトンなどの有機溶媒が洗浄媒体としての使用に適している。
【0035】
反応生成物を沈殿させる前に、沈殿の前に酸を添加することによってpH値が1.5以下、有利には1以下に調整されると、単量体反応生成物であるシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンホルネート)が得られる。pH値の調整を省略すると、重合体シス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンホルネート)も得られる。pH値を調整するために使用される酸は、所望の生成物が得られなくなるので、反応生成物の白金原子とのリガンド交換を受けてはならない。このために有機又は無機酸が使用され、例えば、塩酸(HCl)、硫酸(HSO)、硝酸(HNO)、ギ酸、酢酸、p−トルエンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸一水和物、酒石酸、クエン酸、シクロブタンジカルボン酸、又はそれらの組み合わせを含む。
【0036】
収率を最適化するために、濾液は0℃〜10℃の温度に冷却されてもよく、その場合、追加の反応生成物が沈殿し、濾去され得る。G4ガラスフリットによる濾過も有効であることがここで判明している。
【0037】
ここでは、最終生成物の結晶化などの追加の工程を行うことができる。このために、濾液から水を除去し、濾過し、及び/又は冷却し、必要に応じて再度濾過することができる。
【0038】
水からの再結晶も可能であり、その場合、新たに溶解させた後、反応生成物は、溶液を濃縮すること、溶液を冷却すること、又はそれらの組み合わせによって再び沈殿させなければならず、沈殿した反応生成物は該当する場合、再び濾去され、上記のように洗浄される。
【0039】
このようにして得られたシス−(ジアンミン−ジアクア−白金)ジ−(p−トルエンホルネート)は、濾過後に乾燥させることができる。これは、有利には、不活性ガスを用いて減圧下で行われる。
【0040】
可能な限り、反応の過程で酸素が排除される場合が特に有利であり、そのために、例えば製造に使用される装置が排気され、不活性ガスで再充填され、溶媒及び前駆物質が脱ガスされ、不活性ガス中に貯蔵される。窒素及びアルゴンは、特に、不活性ガスに適している。光の排除も望ましい。
【0041】
上記の方法に従って得られる化合物シス−(ジアンミン−ジアクア−白金)ビス−(p−トルエンホルネート)は、シスプラチン、カルボプラチン又はオキサリプラチンなどの白金含有細胞増殖抑制剤の製造又は分析及び品質管理における分析用標準物質としての使用に適切である。したがって、本特許出願は、分析用標準物質としてのシス−(ジアンミン−ジアクア−白金)ビス−(p−トルエンルホネート)及びその調製物の使用にも関する。
【0042】
分析は、一般に、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて行われる。したがって、シス−(ジアンミン−ジアクア−白金)ビス−(p−トルエンルホネート)は、使用前に溶媒、特に水に溶解すべきである。したがって、本特許出願は、水、シス−(ジアンミン−ジアクア−白金)ジ−(p−トルエンオキシホネート)及び場合によっては任意の更なる物質を含有する組成物の製造方法にも関し、ここで、シス−(ジアンミン−ジアクア−白金)ジ−(p−トルエンホルネート)を水又は水溶液に溶解させる。
【0043】
補助材料、安定剤、又は既知の副生成物若しくは反応物を追加の物質として使用することができ、カルボプラチン又はオキサリプラチンなどの白金含有細胞増殖抑制剤の製造に使用され、例えば、シクロブタンジカルボン酸、シクロヘキサンジアミン、又は同様にエタン二酸がある。
【0044】
化合物シス−(ジアンミン−ジアクア−白金)ジ−(p−トルエンルホネート)、並びにその調製物は、白金含有細胞増殖抑制剤の分析又は決定のための分析キットで生産、流通、及び使用され得る。したがって、本特許出願は、シス−(ジアンミン−ジアクア−白金)ジ−(p−トルエンルホネート)を含有する白金含有細胞増殖抑制剤、並びにこの化合物を含有する調製物を分析するための分析キットにも関する。
【0045】
シス−ジアンミン−ジアクア白金錯体シス−[(NHPt(HO)2+は、多くの白金含有細胞増殖抑制活性白金錯体(カルボプラチン又はシス−白金など)の製造における中間生成物として生じ、ここで、シス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)、(シス−[(NHPt(HO)](O−Tos))及びその重合体は、シス−ジアンミン−ジアクア白金錯体シス−[NHPt(HO)2+のソースとしての役目を果たし得る。本特許出願はまた、細胞増殖抑制的に活性な白金錯体の合成の前駆体としての(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)、(シス−[(NHPt(HO)](O−Tos))及びその重合体に関する。
【0046】
ジ−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)、(シス−[(NHPt(HO)](O−Tos))及びその重合体の使用のための更なる可能性は、有効成分、つまり、活性医薬成分(API)として、したがって細胞増殖抑制効果を有する医薬品(医薬)の成分としての使用であり、いわゆる細胞増殖抑制剤として使用することができる。したがって、本特許出願は、細胞増殖抑制剤中の活性物質としてのシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)、(シス−[(NHPt(HO)](O−Tos))及びその重合体の使用、並びにシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)、(シス−[(NHPt(HO)](O−Tos))及びその重合体を活性医薬成分(API)として含有する医薬品にも関する。
【実施例】
【0047】
実施例:
実施例1
0.01m/時(10L/時)のアルゴン流で250mLの3つ口フラスコを15分間フラッシュし、それによって不活性にした。次いで、流れを0.005m/h(5L/h)に低減し、7.5gのシス−Pt(NHを提示し、100mL脱気蒸留水に加え、撹拌した。攪拌しながら、8.67gのトシル酸銀を粉末漏斗を介してアルゴン向流において添加し、計量トレー及び粉末漏斗を50mLの脱気蒸留水ですすいだ。反応混合物を70℃に加熱し、70℃で6時間撹拌した。次いで熱供給を停止し、混合物を攪拌しながら室温まで約16時間冷却させた。濾過はG4逆フリットを介してアルゴン雰囲気中で行われ、フィルターケーキは5mLの脱気蒸留水を用いて2回洗浄した。
【0048】
約3mLのp−トルエンスルホン酸一水和物の添加によりpH値を1に調整し、115mLの水を28℃の温度及び約3kPa(30mbar)の圧力で留去したところ、結晶沈殿物が沈殿した。これをアルゴン雰囲気中でG4逆フリットを介して濾去し、アルゴン気流中で乾燥させた。濾液を冷蔵庫で約16時間、7℃に冷却したところ、再び結晶質沈殿物が沈殿した。これをまた濾去し、乾燥させた。
【0049】
元素分析:Pt 31.77%、C 27.3%、H 4.4%、N 5%、S 11.20%、Ag 10ppm、I 25ppm。(理論値:Pt 32.11%、C 27.68%、H 3.98%、N 4.61%、S 10.56%、Ag 0ppm、I 0ppm)
NMR(195Pt):δ=−1573.47(s)
【0050】
図1は、195Pt−NMRスペクトルの図式表現である。
【0051】
図2は、単結晶X線分析によって決定された化合物の構造を示す。
【0052】
単結晶X線分析からの構造データ:
【表1】
【0053】
収率は約62%である(用いた白金に対して)。
【0054】
実施例2
アルゴンを用いて不活性化した250mLの3つ口フラスコに、11.1gのシス−Pt(NHを入れ、120mLの脱気蒸留水を添加し、撹拌した。この混合物を攪拌しながら12.85gのトシル酸銀を添加し、計量トレー及び粉末漏斗を20mLの蒸留水で洗浄した。反応混合物を70℃に加熱し、70℃で6時間撹拌した。次いで熱供給を停止し、混合物を攪拌しながら室温まで約16時間冷却させた。濾過はG4逆フリットを介してアルゴン雰囲気中で行われ、フィルターケーキは5mLの脱気蒸留水を用いて2回洗浄した。
【0055】
得られた溶液から、31℃の温度及び1.5kPa(15mbar)の圧力で、乾燥するまで水を蒸留したところ、結晶沈殿物が沈殿した。これを再び減圧下でアルゴン流中で乾燥させた。
【0056】
生成物は、灰青色を有し、これは、文献(とりわけ、Bartocciら;上記参照)による重合体種を示す。
【0057】
収率は95.1%である。
【0058】
元素分析:Pt 31.96%、C 27.3%、H 4.3%、N 4.7%、S 11.85%、Ag 8ppm、I 15ppm)(理論値:単量体:Pt 32.11%、C 27.68%、H 3.98%、N 4.61%、S 10.56%、Ag 0ppm、I 0ppm)
【0059】
分析用標準物質としてのシス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)の使用
図3は、シス−ジアンミンジニトレート白金シス−−[(NHPt(NO]、CAS 41575−87−5)のHPLCクロマトグラムを示す。容易に認識できるのは、ニトロ化の結果として得られる1.553分の保持時間における強いピークであり、4.904分の保持時間における弱いピークは、シス−ジアンミン−PT−ジアコ錯体の存在を示す。
【0060】
図4は、シス−(ジアンミン−ジアクア)白金ジ−(p−トルエンスルホネート)、シス−[(NHPt(HO)](O−Tos)のHPLCクロマトグラフを示す。1.553分の保持時間における硝酸塩ピークは、ほとんど認識できない。シス−ジアンミン−PT−ジアコ錯体のより弱いピークも4.903分の保持時間で低下する。1.941分の保持時間におけるより強いピークは、トシラートイオンによって引き起こされる。
【0061】
したがって、所望のシス−ジアンミン−Pt−ジアコ錯体がもたらされるので、本発明の化合物は、分析用標準物質として好適であるということができる。
図1
図2
図3
図4