(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のポリマー二次電池は、第一電極層と、前記第一電極層の両側にポリマー電解質層を挟んで積層された第二電極層と、を有するポリマー二次電池であって、前記第一電極層と、前記第一電極層に隣接するポリマー電解質層と、を貫通する第一開口部が少なくとも1つ設けられており、且つ、前記第一開口部の内部で、前記第一電極層の両側にある前記第二電極層が接触している。
【0029】
これにより、第一電極層の両側にある第二電極層が第一開口部の内部で接触して導通することで、第二電極層の中での電子の移動距離が低減される。そのため、集電体を第二電極層に設けなくても、ポリマー二次電池の内部抵抗の増大を抑えることが可能になる。
【0030】
加えて、ポリマー二次電池を作製するにあたり、積層構造の内部に集電体を設けなくてもよくなることで、ポリマー二次電池の単位体積当たりの放電容量が高められる。従って、内部抵抗の増大を抑えながらも、単位体積当たりの放電容量の十分に高められたポリマー二次電池を提供することができる。
【0031】
以下、必要に応じて
図1等を参照しながら、本発明のポリマー二次電池及びその製造方法の実施形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。なお、説明が重複する箇所については、適宜説明を省略する場合があるが、発明の趣旨を限定するものではない。
【0032】
≪ポリマー二次電池の基本形態≫
本発明のポリマー二次電池1Aは、例えば
図1Aに示すように、第一電極層、第二電極層及びポリマー電解質層を備えた電池要素10と、電池要素10の第一電極層と導通し且つ第一電極端子を兼ねる金属製ケース2Aと、電池要素10の第二電極層と導通し且つ第二電極端子を兼ねる金属製封口板3Aと、金属製ケース2Aと金属製封口板3Aとを絶縁し且つこれらを固定するように設けられる絶縁体4と、を備える。
図1Aは、ポリマー二次電池1Aの一例を示す断面図である。
【0033】
第一実施形態では、電池要素10aとして、第一電極層111a〜113aと、第一電極層111a〜113aの両側にポリマー電解質層12を挟んで積層された第二電極層131a〜133aと、を備える。この電池要素10aは、第一電極層113aと金属製ケース2との間に介在するように第一集電体層162を備え、第二電極層131aと金属製封口板3との間に介在するように第二集電体層161を備える。
図1Bは、ポリマー二次電池1の電池要素10aの一例を示す断面図である。
【0034】
(第一電極層及び第二電極層)
第一電極層111a〜113a及び第二電極層131a〜133aは、ポリマー二次電池1の両極を構成する。ここで、第一電極層111a〜113a及び第二電極層131a〜133aのうち一方が正極活物質を含む正極層であり、他方が負極活物質を含む負極層である。このとき、第一電極層111a〜113aを正極層として第二電極層131a〜133aを負極層としてもよく、第二電極層131a〜133aを正極層として第一電極層111a〜113aを負極層としてもよい。
【0035】
本実施態様では、複数の第一電極層111a〜113aと複数の第二電極層131a〜133aが、ポリマー電解質層を挟んで交互に積層されている。これにより、他端部に形成された第二電極層131aが電池要素10aの第二電極になり、且つ、一端部に形成された第一電極層113aが電池要素10aの第一電極になる。第一電極や第二電極の集電体の構造を簡素化できるため、特別な配線構造を設けなくてもポリマー二次電池1をボタン型等の形状にすることができ、ポリマー二次電池1の小型化や薄型化を図ることができる。
【0036】
ここで、第一電極層113aは電池要素10aの積層方向の一端部に設けられ、第二電極層131aは電池要素10aの積層方向の他端部に設けられる。これにより、一端部に形成された第一電極層113aの全面が電池要素10aの第一電極になり、他端部に形成された第二電極層131aの全面が電池要素10aの第二電極になる。そのため、第一電極や第二電極の面積を大きくすることができ、且つ第一電極や第二電極に設けられる第一集電体層162や第二集電体層161の構造を簡素化できるため、ポリマー二次電池1の小型化や薄型化を図ることができる。
【0037】
第一電極層111a〜113a及び第二電極層131a〜133aの少なくともいずれかは、後述するポリマー電解質を含有することが好ましい。これにより、第一電極層111a〜113aや第二電極層131a〜133aのポリマー電解質層12に対する濡れ性が高められるため、充放電特性をより高めることができる。
特に、第一開口部141、142の内部で第二電極層131a〜133aを接触させる態様では、第二電極層131a〜133aの電解質としてポリマー電解質を含有することにより、第二電極層131a〜133aが柔軟になって第一開口部141、142に入り込み易くなるため、電極層同士の密着性を高めてこれらの間での電気抵抗を低減できる。
他方で、第二開口部151、152の内部で第一電極層111a〜113aを接触させる態様では、同様の理由により、第一電極層111a〜113aの電解質としてポリマー電解質を含有することが好ましい。
【0038】
第一電極層111a〜113aの電気伝導率は、第一電極層111a〜113aの厚さに応じて設定されるが、例えば1×10
−6S/cm以上であることが好ましい。これにより、第一電極層111aと第一電極層112aの接触する部分を流れる電流や、第一電極層112aと第一電極層113aの接触する部分を流れる電流が増加するため、ポリマー二次電池1の内部抵抗を低減できる。また、第二電極層131a〜133aの電気伝導率も、第一電極層111a〜113aと同様の理由で、1×10
−6S/cm以上の範囲であることが好ましい。従って、第一電極層111a〜113a及び第二電極層131a〜133aの電気伝導率は、好ましくは1×10
−6S/cm、より好ましくは1×10
−5S/cm、最も好ましくは1×10
−4S/cmを下限とする。
【0039】
第一電極層111a〜113aの厚さは、40μm以下であることが好ましい。特に、一端部以外に形成される第一電極層111a、112aの厚さを40μm以下にすることで、電池要素10aの厚さ方向の電気抵抗を低減できる。また、単位体積当たりの電極層の積層数の増加が可能になるため、単位体積当たりの放電容量を向上し易くできる。このうち、特に後述する第一開口部141、142が設けられる第一電極層111a、112aの厚さを40μm以下にすることで、第二電極層131aと第二電極層132aが近接し易くなり、且つ第二電極層132aと第二電極層133aが近接し易くなるため、これらの接触を図り易くできる。従って、第一電極層111a〜113aの厚さの上限は、好ましくは40μm、より好ましくは30μm、最も好ましくは20μmである。一方で、第一電極層111a〜113aの厚さを2μm以上にすることで、第一電極層111a〜113aに吸蔵できるリチウムイオンが増加するため、ポリマー二次電池1に所望の放電容量を確保できる。また、第一電極層111a〜113aの平面方向における電気伝導性を充分なものとすることができる。従って、第一電極層111a〜113aの厚さの下限は、好ましくは2μm、より好ましくは5μm、最も好ましくは10μmである。
【0040】
また、第二電極層131a〜133aの厚さの上限は、第一電極層111a〜113aと同じ理由で、好ましくは40μm、より好ましくは30μm、最も好ましくは20μmである。第二電極層131a〜133aの厚さの下限も、第一電極層111a〜113aと同じ理由で、好ましくは2μm、より好ましくは5μm、最も好ましくは10μmである。
【0041】
(ポリマー電解質層)
ポリマー電解質層12は、リチウムイオンの移動媒体となるポリマー電解質を含有し、第一電極層111a〜113aの少なくとも一方の面に隣接して積層され、且つ第二電極層131a〜133aの少なくとも一方の面に隣接して積層されるものであり、第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aとの間に挟まれるように積層される。これにより、第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aとの間でリチウムイオンの移動が行われながらも導通が抑えられるため、これらの間に二次電池を形成できる。
【0042】
ここで、ポリマー電解質層12の厚さは、1μm以上50μm以下の範囲であることが好ましい。特に、ポリマー電解質層12の厚さを50μm以下にすることで、例えば第一電極層111aの内部で、第二電極層131aと第二電極層132aが近接し易くなるため、第一電極層同士の接触や、第二電極層同士の接触を図り易くできる。また、ポリマー電解質層12のイオン伝導抵抗が減ることで、ポリマー二次電池1の内部抵抗を低減できる。また、ポリマー電解質層12が電極層よりも薄く構成されるため、単位体積当たりの電極層の積層数を増加でき、単位体積あたりの放電容量やエネルギー密度を向上できる。この場合、ポリマー電解質層12の厚さの上限は、好ましくは50μm、より好ましくは40μm、最も好ましくは30μmである。他方で、ポリマー電解質層12の厚さを1μm以上にすることで、第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aとの導通を確実に抑えられる。この場合、ポリマー電解質層12の厚さの下限は、好ましくは1μm、より好ましくは2μm、最も好ましくは3μmである。
【0043】
(第一開口部)
第一開口部141は、第一電極層111aと、第一電極層111aに隣接するポリマー電解質層12を貫通するように設けられる。これにより、第一電極層111aの両側に設けられた第二電極層131aと第二電極層132aが第一開口部141の内部に入り込んで接触することで、第二電極層131aと第二電極層132aの間が導通し、これらの層の厚さ方向(積層方向)に電流が生じる。そのため、第二電極層131a、132aの面方向の端部に端部電極を設けなくても、積層方向に複数形成された二次電池セルの各々との電子のやりとりが可能になるため、第二電極層131a、132aの内部における電子の移動距離を低減できる。従って、第二電極層131aや第二電極層132aの中に集電体を設けなくても、ポリマー二次電池1の内部抵抗の増大を抑えることが可能になる。
【0044】
特に、本実施形態のように、複数の第一電極層111a〜113aと複数の第二電極層131a〜133aがポリマー電解質層12を挟んで交互に積層されている態様では、第一開口部141、142は、一端部以外に設けられた複数の第一電極層111a、112aの各々と、それらに隣接するポリマー電解質層12と、を貫通するように設けられることが好ましい。これにより、第一開口部141、142の各々において、第一開口部141、142に隣接する第二電極層131a〜133aが接触することで、他端部に形成されていない第二電極層132a〜133aの各々から、他端部に形成された第二電極層131aまで、第一開口部141、142の内部を通じて積層方向に電流が生じる。すなわち、他端部にある第二電極層131aに第二集電体層161を形成したときに、第二集電体層161と各々の第二電極層131a〜133aとが導通するため、第二電極層131a〜133aの面方向の端部に端部電極を設けなくてもポリマー二次電池1を構成できる。また、電池要素10aにおける、第二電極層131a〜133aから第二集電体層161までの電子の移動距離の総和が小さくなることで、ポリマー二次電池1の内部抵抗の増大を抑えられる。
【0045】
第一開口部141、142の周縁に形成される開口は、円形が好ましい。これにより、第二電極層131a〜133aが第一開口部141、142に入り込み易くなることで、第二電極層131aと第二電極層132aとを接触させ易くでき、且つ第二電極層132aと第二電極層133aとを接触させ易くできる。
【0046】
第一開口部141の開口の面積は、第一電極層111aやポリマー電解質層12の厚さ、後述する島状部の有無に応じて設定されるが、第一電極層111aやポリマー電解質層12を平面視した場合における、当該第一電極層111aやポリマー電解質層12の面積に対する開口の合計面積の割合は、好ましくは1%、より好ましくは3%、さらに好ましくは4%を下限とする。これにより、第二電極層131aと第二電極層132aとを接触し易くできるため、第二電極層131aと第二電極層132aとの接触部分における電気抵抗を低減できる。一方で、第一開口部141の開口の面積割合の上限は、好ましくは10%、より好ましくは8%、さらに好ましくは5%とする。これにより、第一電極層111aやポリマー電解質層12の有効面積が確保されるため、ポリマー二次電池1の放電容量の低減を抑えられる。他の第一開口部142も、第一開口部141と同様の面積割合を有する。
ここで、上述の合計面積の割合は、下記式で表される。
面積割合(%)=[第一開口部141の開口の合計面積]/[第一開口部141の開口の面積を含んだ、第一電極層111aやポリマー電解質層12の面積]×100
【0047】
(内壁導通防止層)
第一開口部141、142の内壁は、公知の固体電解質、ポリマー電解質及び絶縁材のうち1種以上からなる、内壁導通防止層18によって覆われている。これにより、第一開口部141、142の内壁に第二電極層131a〜133aが接触しても、第一電極層111a、112aと第二電極層131a〜133aとの短絡を防ぐことができる。
【0048】
内壁導通防止層18は、固体電解質又はポリマー電解質からなることがより好ましく、ポリマー電解質層12と同じ組成のポリマー電解質からなることがさらに好ましい。内壁導通防止層18が固体電解質又はポリマー電解質からなることにより、ポリマー電解質層12のみならず内壁導通防止層18を介してもリチウムイオンが移動することになるため、ポリマー二次電池1の内部抵抗の増大をより抑えられる。特に、内壁導通防止層18がポリマー電解質層12と同じ組成のポリマー電解質からなることにより、積層されたポリマー電解質シートと電極シートをプレスしてポリマー電解質層及び電極層を作製する際に、ポリマー電解質シートの一部を回りこませて第一開口部141、142の内壁を覆うことで内壁導通防止層18を作製できるため、ポリマー二次電池1の作製をより効率的に行うことができる。
【0049】
ここで、内壁導通防止層18の厚さは、第一電極層111a、112aと第二電極層131a〜133aとの導通を確実に抑える観点から、好ましくは0.1μm、より好ましくは1μm、さらに好ましくは5μmを下限とする。一方で、内壁導通防止層18の厚さは、内壁導通防止層18の形成による単位体積当たりの放電容量の低下を抑える観点から、好ましくは50μm、より好ましくは20μm、さらに好ましくは10μmを上限とする。
【0050】
(第二開口部)
第二開口部151、152は、第二電極層132a、133aと、第二電極層132a、133aに隣接するポリマー電解質層12を貫通するように設けられる。このとき、第二電極層132aの両側に設けられた第一電極層111a、112aが第二開口部151の内部に入り込んで接触し、且つ、第二電極層133aの両側に設けられた第一電極層112a、113aが第二開口部152の内部に入り込んで接触する。これにより、第一電極層111aと第一電極層112aの間、及び、第一電極層112aと第一電極層113aが導通し、積層方向に電流が生じる。そのため、第一電極層111a〜113aの面方向の端部に端部電極を設けなくても、積層方向に複数形成された二次電池セルの各々との電子のやりとりが可能になるため、第一電極層111a〜113aの内部における電子の移動距離を低減できる。
【0051】
第二開口部151、152の内壁は、第一開口部141、142と同様に、公知の固体電解質、ポリマー電解質及び絶縁材のうち1種以上からなる、内壁導通防止層18によって覆われている。これにより、第二開口部151、152の内壁に第一電極層111a〜113aが接触しても、第二電極層131a〜133aと第一電極層111a〜113aとの短絡を防ぐことができる。
【0052】
第二開口部151、152の周縁に形成される開口の形状や、第二開口部151、152の開口の面積、内壁導通防止層18の厚さは、第一開口部141、142と同様である。
【0053】
また、複数の第一電極層111a〜113aと複数の第二電極層131a〜133aがポリマー電解質層12を挟んで交互に積層されている態様では、第二開口部151、152は、他端部以外に設けられた複数の第二電極層132a、133aの各々と、それらに隣接するポリマー電解質層12と、を貫通するように設けられるようにしてもよい。
【0054】
≪第一電極層や第二電極層が島状部を有する態様≫
第二実施形態では、電池要素10bとして、第一電極層111b、112bや第二電極層132b、133bが、周囲を第一開口部141、142や第二開口部151、152に囲まれた島状部171〜174を有する。
図2は、電池要素10bの一例を示す要部断面図を示す。
【0055】
(島状部)
第一電極層111bに形成される島状部173は、周囲が第一開口部141に囲まれるように構成される。これにより、第一電極層111bの両側にある第二電極層131bと第二電極層132bが島状部173を介して間接的に接触することで、第二電極層131bと第二電極層132bの導通が島状部173によって確保されながらも、第二電極層131b、132bが第一開口部141に入り込むことによって生じる第二電極層131b、132bの変形が低減される。そのため、第二電極層131bと第二電極層132bをより接触し易くしてポリマー二次電池1の内部抵抗を低減することができる。また、特に電池要素10bを作製する際の、プレス前のシート積層体の表面において、第一開口部141による凹凸を低減でき、この凹凸によって厚みの少ないポリマー電解質シートが破断することを低減できる。
【0056】
第二電極層132bに形成される島状部171は、島状部173と同様の理由により、周囲が第二開口部151に囲まれるように構成される。
【0057】
ここで、第一電極層111bの面方向についての、第一電極層111bの面積に対する島状部173の面積割合は、島状部173による電気抵抗を低く抑え、ひいてはポリマー二次電池1の内部抵抗を低減する観点から、好ましくは0.5%、より好ましくは2.5%、さらに好ましくは3.5%を下限とする。一方で、島状部173によって第一電極層111bの体積が減少することによって生じる、ポリマー二次電池1の電池容量の低減を抑える観点から、第一電極層111bの面方向に関する、第一電極層111bの面積に対する島状部173の面積割合は、好ましくは9.5%、より好ましくは7.5%、さらに好ましくは4.5%を上限とする。他の島状部171、172、174も、島状部173と同様の面積割合を有する。
ここで、上述の面積割合は、下記式で表される。
面積割合(%)=[島状部173の面積]/[第一開口部141の開口の面積と、島状部173の面積を含んだ、第一電極層111aやポリマー電解質層12の面積]×100
【0058】
島状部173を形成する手段としては、例えば第一電極層111bにレーザを照射し、第一電極層111bに形成される開口と島状部173との間に空隙を形成する手段を用いることができる。このとき、第一電極層111bに隣接するようにポリマー電解質層12を形成する一方で、島状部173の厚さ方向の表面にはポリマー電解質層12を形成しないことで、島状部173と第二電極層131b、132bとの導通を確保する一方で、島状部173と第一電極層111bとの導通を抑えることができる。
【0059】
≪短絡防止材を設けた態様≫
第三実施形態では、電池要素10cとして、第一電極層111a〜113aとポリマー電解質層12、第二電極層131a〜133aが積層している積層体の表面にある、第一電極層111a〜113aの少なくとも一部と、第二電極層131a〜133aの少なくとも一部とを跨ぐように設けられた短絡防止材19を有する。
図3は、電池要素10cの一例を示す要部断面図を示す。
【0060】
このように、第一電極層111a〜113aのうち積層体の表面にある部分と、第二電極層131a〜133aのうち積層体の表面にある部分とが短絡防止材19によって覆われることで、第一電極層111a〜113aやポリマー電解質層12、第二電極層131a〜133aがポリマー電解質を含有して柔軟性を有する場合であっても、積層体の表面での第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aの変形による導通が短絡防止材19によって抑えられるため、ポリマー二次電池1の内部における短絡を低減できる。
【0061】
ここで、ポリマー電解質層及び電極層の積層体の表面を、積層方向の一端部及び他端部に設けられた第一集電体層162及び第二集電体層161と、短絡防止材19とで覆うことがより好ましい。これにより、積層体の表面にある第一電極層111a〜113aや第二電極層131a〜133aが、第一集電体層162及び第二集電体層161を除いて短絡防止材19によって覆われるため、第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aの導通をより確実に抑えられる。
【0062】
短絡防止材19は、ポリマー電解質又は絶縁材からなることがより好ましく、ポリマー電解質層12と同じ組成のポリマー電解質からなることがさらに好ましい。短絡防止材19がポリマー電解質又は絶縁材からなることにより、第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aとの間における導通を低減できる。特に、短絡防止材19がポリマー電解質層12と同じ組成のポリマー電解質からなることにより、ポリマー電解質層12との接触性を高められるため、短絡防止材19の剥離等による短絡防止材19の劣化を低減できる。
【0063】
≪ポリマー二次電池のパッケージ≫
電池要素10を、外気との接触や電池外部との意図しない導通から保護するためのパッケージの態様としては、種々の態様を用いることができる。
例えば、
図4(a)と(b)に示すように、アルミラミネート等のラミネート部材51、52によって電池要素10が真空パックされた態様が好ましい。第一集電体層162及び第二集電体層161と電極との接触が真空パックによって高められ、電池要素10と外気との接触が低減され、且つ、第一電極層及び第二電極層に変形が生じても第一電極層と第二電極層の導通や電池要素10への損傷が真空パックによって抑えられるため、長期間の使用に耐えうるポリマー二次電池を得られる。
【0064】
より具体的には、
図4(b)に示すように、ポリマー二次電池1Cの電池要素10の第一集電体層162と金属箔2Cの一方とが導通するように接触し、金属箔2Cの他方とタブ線62とが導通するように接触する。また、電池要素10の第二集電体層161と金属箔3Cの一方とが導通するように接触し、金属箔3Cの他方とタブ線61とが導通するように接触する。これにより、真空パックからの電流の取り出し口になる部分(
図4(b)におけるラミネート部材51、52の接合部)の電極の機械的強度が増加するため、電極の折れ曲がりによる破損を低減できる。
【0065】
金属箔2C、3Cの組合せとしては、第一集電体層162及び第二集電体層161との間における接合強度を高め、且つ、接合部分における腐食等を低減させる観点から、金属箔2Cが銅箔であり、且つ、金属箔3Cがアルミ箔であることが好ましい。また、タブ線61、62の組合せとしては、金属箔2C、3Cとの間における接合強度を高め、且つ、接合部分における腐食等を低減させる観点から、タブ線61がニッケルタブであり、且つ、タブ線62がアルミタブであることが好ましい。このとき、金属箔2Cと第一集電体層162とが一体的に形成され、又は、金属箔3Cと第二集電体層161とが一体的に形成されてもよい。
【0066】
ここで、ラミネート部材51、52の接合部のうち、少なくともタブ線61、62が引き出される部分に、タブ線61、62のうち少なくとも一方を囲うように、熱融着性樹脂等の接着性樹脂からなるタブフィルム71、72が設けられていることが好ましい。これにより、ラミネート部材51、52の接合部におけるタブ線61、62の損傷を低減できる。特に、ラミネート部材51、52がアルミラミネートフィルムである場合には、ラミネート部材51、52の端部とタブ線61、62との短絡を防止できる。
【0067】
なお、例えば
図4(a)に示すように、タブ線61、62を有さず、アルミ箔3B及び銅箔2Bの一部がラミネート部材51〜52の外部に露出しているポリマー二次電池1Bであってもよい。
また、例えば
図1に示すように、電池要素10が、金属製ケース2A及び金属製封口板3Aによってパッケージングされたポリマー二次電池1Aであってもよい。
【0068】
≪ポリマー二次電池のその他の態様≫
第一開口部141、142は、第一電極層111a、112a(又は第一電極層111b、112b)の1層当たり1箇所設けられていてもよいが、1層当たり2箇所以上設けられていてもよい。特に、第一開口部141、142が1層当たり2箇所以上設けられることにより、電池要素10における、第二電極層131a〜133a(又は第二電極層131b〜133b)から第二集電体層161までの電子の移動距離の総和がより短くなり易くなるため、ポリマー二次電池1の内部抵抗をより低くし易くできる。
【0069】
第一開口部141、142の周縁に形成される開口の形状は、円形に限られず、内部に第二電極層131a〜133a(又は第二電極層131b〜133b)が入りこみ得る形状であればよい。
【0070】
また、本発明において、「開口部」とは、電極層やポリマー電解質層12の厚さ方向に形成された孔であり、電極層やポリマー電解質層12を平面視した場合に、その外周形状が閉じられたものを意味するが、これに限らず、電極層やポリマー電解質層12の端部に形成された切欠きであって、その外周形状が閉じられていないものも含まれる。但し、電極層内の電子伝導経路の総和を短くする観点からは、第一開口部141、142や第二開口部151、152は厚さ方向に貫通する孔であることが好ましい。
【0071】
上述の実施形態では、第一開口部141、142や第二開口部151、152が積層方向について互いに重なるように設けられているが、積層方向について互いに重ならないように設けてもよい。
【0072】
ここで、例えば第一開口部141、142を積層方向について互いに重なるように設けた場合、最も一端側に形成された第二電極層133から他端側にある第二集電体層161までの電流が流れる際の電子の移動距離が小さくなるため、ポリマー二次電池1の内部抵抗をより小さくできる。
【0073】
一方で、図示しないが、第一開口部を積層方向について互いに重ならないように設けた場合、特に電池要素10を作製する際の、プレス前のシート積層体の表面において、第一開口部141、142による凹凸を低減でき、この凹凸によって厚みの少ないポリマー電解質シートが破断することを低減できる。積層方向について互いに重ならないように設ける手段としては、円形に切り取られた第一電極層の中心を重ねながら、第一電極層を回転方向に少しずつずらして積層する手段を用いることができる。
【0074】
また、上述の実施形態では、第一電極層及び第二電極層はそれぞれ3層ずつ用いられているが、それに限定されない。特に、単位体積当たりの放電容量を高めつつ、出力電流をより大きくする観点では、第一電極層及び第二電極層は、それぞれ10層ずつ以上あることが好ましく、30層ずつ以上あることがより好ましく、50層ずつ以上あることが最も好ましい。
【0075】
≪ポリマー二次電池の作製≫
以下、本発明のポリマー二次電池1に用いられる電池要素10aを作製する方法について、
図1A及び
図1Bを基に説明する。
電池要素10aは、例えば、第一電極層111a〜113aの原料組成物からなる第一電極シートと、ポリマー電解質層12の原料組成物からなるポリマー電解質シートと、第二電極層131a〜133aの原料組成物をからなる第二電極シートを形成し、ポリマー電解質層12及び電極層のうち第一開口部141、142及び第二開口部151、152を形成する部分に開口部を形成するシート作製工程と、第一電極層111a〜113a及びこれに隣接するポリマー電解質層12の開口部と、第二電極層131a〜133aの一部領域とが重なり、且つ第二電極層131a〜133a及びこれに隣接するポリマー電解質層12の開口部と第一電極層111a〜113aの一部領域とが重なるようにポリマー電解質層12及び電極層を積層してシート積層体を作製する積層工程と、シート積層体を加圧するプレス工程と、を経て作製される。なお、本明細書では、第一電極層111a〜113a及び第二電極層131a〜133aを電極層と総称し、正極活物質及び負極活物質を電極活物質と総称する。
【0076】
本発明における「シート」は、薄板状に成形されたガラス粉末、結晶(セラミックス又はガラスセラミックス)粉末を指す。具体的には、ポリマー電解質と、フィラー、溶剤等からなる原料組成物を薄板状に成形したものをいう。また、「シート」には、他のシートに原料組成物が塗布されたものも包含される。
【0077】
[原料組成物]
ポリマー二次電池1の作製に用いられる原料組成物は、電解質と、電極活物質や導電助剤を含有し、スラリーやペーストの態様をなす。これにより、原料組成物が所望の粘性や硬さを有するため、このような原料組成物を用いて電極層やポリマー電解質層12を作製することで、第一開口部141、142や第二開口部151、152の内部で電極層同士を接触させることができる。
【0078】
ここで、ポリマー電解質層12は、ポリマー電解質と無機フィラーを含有する。他方で、正極層となる電極層は、正極活物質と、電解質と、無機フィラーと、導電助剤を含有する。また、負極層となる電極層は、負極活物質と、電解質と、無機フィラーと、導電助剤を含有する。
【0079】
(ポリマー電解質)
ポリマー電解質層12は、電解質としてポリマー電解質を含有する。他方で、第一電極層111a〜113a及び第二電極層131a〜133aの少なくともいずれかが、電解質としてポリマー電解質を含有することが好ましく、これらの両方が電解質としてポリマー電解質を含有することがより好ましい。
これにより、ポリマー電解質や電極層が柔軟性を有することで、ポリマー二次電池1の作製時のプレスによるポリマー電解質層12や電極層の損傷が低減されるため、ポリマー二次電池1の内部抵抗の上昇を抑えられる。特に、ポリマー電解質層12の電解質としてポリマー電解質を含有することで、ポリマー電解質層12の損傷による第一電極層111a〜113aと第二電極層131a〜133aとの導通を抑えられる。
【0080】
ポリマー電解質は、ドライ系ポリマー電解質及びゲル系ポリマー電解質に大別されるが、いずれの場合も、有機系ポリマーと、無機又は有機系のアルカリ金属塩を少なくとも含有する。
このうち、有機系ポリマーとしては、ガラス転移点が0℃以下のものを用いることが好ましい。このような柔軟性のある有機系ポリマーを用いることで、ポリマー電解質にリチウムイオン伝導性が与えられる。また、ポリマー電解質層12が柔軟性を有することで、電池作製時のプレス等によるポリマー電解質層12の損傷を抑えることができる。ここで、ポリマー電解質のガラス転移点は、好ましくは0℃、より好ましくは−10℃、さらに好ましくは−15℃を上限とする。
【0081】
また、有機系ポリマーとしては、極性を有するポリマーが用いられる。特に、ドライ系ポリマー電解質を構成する有機系ポリマーとしては、例えばポリエーテル、ポリエステル、ポリアミン及びポリスルフィド、並びに、これらから選択される1種以上の共重合体が挙げられる。また、これらから選択される1種以上とポリエチレンとの共重合体であってもよい。その中でも特に、P(EO/PO)[エチレンオキシド/プロピレンオキシド共重合体]、PEO−PMA[ポリエチレンオキシド−ポリメタクリレート架橋体]、P(EO/MEEP)[エチレンオキシド/ビス(メトキシ−エトキシ−エトキシド)−ホスファゼン共重合体]、P(EO/MEEGE)[エチレンオキシド/メトキシエトキシエチルグリシジルエーテル共重合体]、PAN[ポリアクリロニトリル]、PMMA[ポリメタクリル酸メチル]、PVdF[ポリフッ化ビニリデン]、PVdF−HFP[ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体]、ボロキシンポリマーが好ましい。
【0082】
他方で、無機又は有機系のアルカリ金属塩としては、LiClO
4、LiBF
4、LiPF
6、LiAsF
6、LiCF
3SO
3、LiTFSI(リチウムビストリフルオロメタンスルホニルイミド)、LiTFSA(リチウムトリフルオロメタンスルホニルアミド)等が挙げられる。
【0083】
ポリマー電解質層12に含まれるポリマー電解質の含有率の下限は、ポリマー電解質層12の柔軟性を確保する観点から、好ましくは10質量%、より好ましくは12質量%、さらに好ましくは14質量%とする。他方で、ポリマー電解質層12に含まれるポリマー電解質の含有率の上限は、ポリマー電解質層12の形状を保持し易くする観点から、好ましくは50質量%、より好ましくは40質量%、さらに好ましくは30質量%とする。
【0084】
また、第一電極層111a〜113aや第二電極層131a〜133aに含まれるポリマー電解質の含有率の下限は、これら電極層の内部におけるリチウムイオン伝導性を確保する観点から、好ましくは10質量%、より好ましくは15質量%、さらに好ましくは20質量%とする。他方で、これら電極層に含まれるポリマー電解質の含有率の上限は、これら電極層における電池容量や導電性を確保する観点から、好ましくは60質量%、より好ましくは50質量%、さらに好ましくは45質量%とする。
【0085】
なお、ポリマー二次電池1に含まれるポリマー電解質、フィラー、電極活物質及び導電助剤の含有量とこれらの組成は、ポリマー二次電池1を構成するポリマー電解質層12及び/又は電極層を削り出して、電界放出形透過電子顕微鏡(FE−TEM)に搭載されたエネルギー損出分析装置若しくはX線分析装置、又は電界放出形走査顕微鏡(FE−SEM)に搭載されたX線分析装置を用いて特定することが可能である。このような定量分析や点分析を用いることで、例えばポリマー電解質の存在の有無やその組成比がわかる。X線分析装置を用いた場合、Li
2Oは直接分析できないため、他の構成成分から電荷を算出することで、Li
2O含有量を推定する。
【0086】
他方で、ポリマー電解質層12の組成は、ポリマー電解質層12の原料組成物となるポリマー電解質スラリーが化学反応を起こさずにポリマー電解質層12を形成する場合、ポリマー電解質スラリーから溶剤を除いた組成とほぼ等しくなる。また、第一電極層111a〜113a及び第二電極層131a〜133aの組成は、電極層の原料組成物となる正極スラリー及び負極スラリーが化学反応を起こさずに電極層を形成する場合、正極スラリー又は負極スラリーから溶剤を除いた組成とほぼ等しくなる。
【0087】
(フィラー)
他方で、第一電極層111a〜113aや第二電極層131a〜133aに含まれる電解質としてフィラーを用いることが好ましい。これにより、第一電極層111a〜113aや第二電極層131a〜133aの内部抵抗を小さくできる。また、第一電極層111a〜113aや第二電極層131a〜133aの内部におけるリチウムイオン伝導度が高められるため、ポリマー二次電池1の充放電効率をより高められる。
【0088】
フィラーとしては、例えばAl
2O
3、TiO
2、ZrO
2、BaTiO
3等の無機フィラーや、リチウムイオン伝導性の結晶及びガラスが挙げられる。このうち、イオン伝導性を有する物質を用いることが好ましく、リチウムイオン伝導性を有する物質を用いることがより好ましい。イオン伝導性を有する物質、特にリチウムイオン伝導性を有する物質を用いることで、電極層の内部抵抗を小さくでき、且つ放電容量を高められる。
【0089】
イオン伝導性を有する物質としては、リチウムイオン伝導性、酸素イオン伝導性、又は水素イオン伝導性を有する結晶やガラスを含む物質が挙げられる。
【0090】
このうち、リチウムイオン伝導性の結晶としては、例えばNASICON型、β−Fe
2(SO
4)
3型、及びペロブスカイト型から選ばれる酸化物の結晶が挙げられる。より具体的には、例えばLi
7La
3Zr
2O
12[以下、「LLZ」という。]、LiZr(PO
4)
3[以下、「LLZ」という。]、Li
1.3Al
0.3Ti
1.7(PO
4)
3[以下、「LLZ」という。]、Li
1.5Al
0.5Zr
1.5(PO
4)
3[以下、「LLZ」という。]、Li
6BaLa
2Ta
2O
12、LiN、La
0.55Li
0.35TiO
3、Li
1+XAl
x(Ti,Ge)
2-X(PO
4)
3、LiTi
2P
3O
12、Li
1.5Al
0.5Ge
1.5(PO
4)
3、Li
1+x+yZr
2−x(Al,Y)
xSi
yP
3−yO
12(但し、0.05≦x≦0.3、0.05≦y≦0.3)、Li
1+x+zE
yG
2−jSi
zP
3−yO
12(但し、j、x、y、zは0≦x≦0.8、0≦z≦0.6、yは0≦y≦0.6、jは0≦j≦0.6を満たし、EはAl、Ga、Y、Sc、Ge、Mg、Ca、Ce、Smから選ばれる1種以上、GはTi、Zrから選ばれる1種類以上)を挙げることができる。その中でも特に、LLZ、LZP、LATP及びLAZPが好ましい。
【0091】
他方で、リチウムイオン伝導性のガラスとしては、例えばLi
2O−P
2O
5−M’
2O
3(PがSiに置換されたものも含む。M’はAl、Bである。)、LiPO
3、70LiPO
3−30Li
3PO
4、Li
2O−SiO
2、Li
2O−SiO
2−P
2O
5−B
2O
5−BaO系から選択される1種以上の、非晶質又は多晶質のガラスが挙げられる。その中でも特に、Li
2O−P
2O
5−Al
2O
3系ガラスが好ましい。
【0092】
また、酸素イオン伝導性の物質としては、ジルコニア(ZrO
2)やセリア(CeO
2)に他の金属酸化物が添加された結晶やガラスを含む物質が挙げられる。より具体的には、例えばジルコニア(ZrO
2)にY、Ca、Scが添加(固溶)されてなる物質や、セリア(CeO
2)にY、Sm、Gd、Ndが添加(固溶)されてなる物質が挙げられる。その中でも特に、8YSZ、Ce
0.8Sm
0.2O
2が好ましい。
【0093】
また、水素イオン伝導性の物質としては、β―アルミナ(H
2O・11Al
2O
3)、三酸化ストロンチウムセリウム(SrCe
0.95Yb
0.05O
3−α)、水酸化カルシウムが挙げられる。特にβ―アルミナが好ましい。
【0094】
ポリマー電解質層12に含まれるフィラーの含有率の下限は、ポリマー電解質層12の形状を保持し易くする観点から、好ましくは50質量%、より好ましくは60質量%、さらに好ましくは70質量%とする。他方で、ポリマー電解質層12に含まれるフィラーの含有率の上限は、ポリマー電解質層12の柔軟性を確保する観点から、好ましくは90質量%、より好ましくは85質量%、さらに好ましくは82質量%とする。
なお、ポリマー電解質層12については、ポリマー電解質を除いた残部をフィラーからなるように構成してもよい。
【0095】
他方で、第一電極層111a〜113aや第二電極層131a〜133aに含まれるフィラーの含有率の下限は、これら電極層の内部におけるリチウムイオン伝導性を確保する観点から、好ましくは1質量%、より好ましくは5質量%、さらに好ましくは10質量%とする。他方で、これら電極層に含まれるフィラーの含有率の上限は、これら電極層における電池容量や導電性を確保する観点から、好ましくは40質量%、より好ましくは35質量%、さらに好ましくは30質量%とする。
【0096】
(電極活物質)
電極活物質のうち正極活物質は、例えばNASICON型のLiV
2(PO
4)
3、オリビン型のLi
xJ
yMtPO
4(但し、JはAl、Mg、Wから選ばれる少なくとも1種以上であり、MtはNi、Co、Fe、Mnから選ばれる1種以上、0.9≦x≦1.5、0≦y≦0.2)、層状酸化物、又はスピネル型酸化物であることが好ましい。その中でも特に、LiMtO
2及び/又はLiMt
2O
4(但し、MtはFe、Ni、Co及びMnの中から選ばれる1種以上)からなることがより好ましい。これにより、正極活物質がリチウムイオンを吸蔵し易くなるため、ポリマー二次電池の放電容量をより高めることができる。正極活物質の具体例としては、例えばLiFePO
4、LiCoPO
4、LiCoO
2、LiMn
2O
4、LNCMO(リチウム−ニッケル−コバルト−マンガン−酸化物)を用いることができる。
【0097】
一方で、負極活物質は、NASICON型、オリビン型、スピネル型の結晶を含む酸化物、ルチル型酸化物、アナターゼ型酸化物、若しくは非晶質金属酸化物、又は金属合金等から選ばれる少なくとも1種以上であることが好ましい。その中でも特に、Li
1+x+zAl
yTi
2Si
zP
3−zO
12(但しx、y、zは0≦x≦0.8、0≦z≦0.6、yは0≦y≦0.6を満たす)、Li
4Ti
5O
12、TiO
2からなることがより好ましい。これにより、負極活物質がリチウムイオンを吸蔵し易くなるため、ポリマー二次電池の放電容量をより高めることができる。負極活物質の具体例としては、例えばLi
2V
2(PO
4)
3、Li
2Fe
2(PO
4)
3、LiFePO
4、Li
4Ti
5O
12、SiOx(0.25≦x≦2)、Cu
6Sn
5を用いることができる。
【0098】
電極層の原料組成物に含まれる正極活物質と負極活物質の含有量は、原料組成物の全体に対して、10質量%以上60質量%以下であることが好ましい。特に、この含有量を10質量%以上にすることで、リチウムイオンの吸蔵量を高められるため、ポリマー二次電池1の放電容量を高めることができる。そのため、正極活物質と負極活物質の含有量は、好ましくは10質量%、より好ましくは20質量%、さらに好ましくは30質量%を下限とする。一方で、この含有量を60質量%以下にすることで、電解質や以下に述べる導電助剤をより多く含有できることで、電極層のリチウムイオン伝導性や電子伝導性が高められるため、ポリマー二次電池1の内部抵抗を低減できる。そのため、正極活物質及び負極活物質の含有量は、好ましくは60質量%、より好ましくは50質量%、さらに好ましくは45質量%を上限とする。
【0099】
(導電助剤)
導電助剤は、炭素、並びにNi、Fe、Mn、Co、Mo、Cr、Ag及びCuの少なくとも1種以上からなる金属及びこれらの合金を用いることできる。また、チタンやステンレス、アルミニウム等の金属や、白金、銀、金、ロジウム等の貴金属を用いてもよい。このような電子伝導性の高い材料を導電助剤として用いることで、電極層中に形成された狭い電子伝導経路を通じて伝導できる電流量が増大するため、集電体を用いなくても内部抵抗の小さいポリマー二次電池1を形成できる。
【0100】
導電助剤の含有率は、放電容量と電極層の抵抗率とのバランスを考慮し、電極層の原料組成物の全体に対し、1.0質量%以上15.0質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上12.0質量%以下であることがより好ましく、5.0質量%以上10.0質量%以下であることが最も好ましい。
【0101】
(溶剤)
原料組成物には、塗布を容易にするために溶剤が用いられる。溶剤としては、PVA、1−プロパノール、IPA、ブタノール等の公知の材料を用いることができるが、環境負荷を軽減できる点でアルコール又は水を用いることが好ましい。また、より均質で緻密なポリマー電解質や電極層を得るために、適量の分散剤を併用してもよく、乾燥する際の泡抜き効率を向上するために、適量の界面活性剤を併用してもよい。
【0102】
また、原料組成物には、ポリマー電解質層12と電極層との接触性を高めるために、有機電解液を溶剤として含有させてもよい。有機電解液としては、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)から選択される1種以上が挙げられる。
【0103】
[シート作製工程]
シート作製工程では、第一電極層111a〜113aの原料組成物を塗布して第一電極シートを形成し、第二電極層131a〜133aの原料組成物を塗布して第二電極シートを形成し、ポリマー電解質層12の原料組成物であるポリマー電解質スラリーを塗布してポリマー電解質シートを形成する。第一電極層111a〜113aの原料組成物と第二電極層131a〜133aの原料組成物のうち一方は正極スラリーであり、他方は負極スラリーである。そして、一端部以外の第一電極層111a、112aになる第一電極シートのうち第一開口部141、142を形成する部分と、他端部以外の第二電極層132a、133aになる第二電極シートのうち第二開口部151、152を形成する部分と、ポリマー電解質シートのうち第一開口部141、142及び第二開口部151、152を形成する部分に、それぞれ開口部を形成する。
【0104】
正極スラリー、負極スラリー及びポリマー電解質スラリーを塗布する基材には、離型処理が施されたPET等の基材を用いることができる。また、正極スラリー、負極スラリー及びポリマー電解質スラリーの塗布は、例えばドクターブレードやカレンダ法、スピンコートやディップコーティング等の塗布法、印刷法、ダイコーター法、スプレー法を用いることができる。
【0105】
第一電極シート、第二電極シート及びポリマー電解質シートに開口部を形成する手段としては、例えばレーザ照射等の手段を用いることができる。
【0106】
なお、第一電極層111a〜113aの原料組成物及びポリマー電解質スラリーを塗布する際、基材に第一電極層111a〜113aの原料組成物を塗布した後、塗布された第一電極シートの上にポリマー電解質スラリーを塗布してもよい。このとき、一端部以外の第一電極層111a、112aになる第一電極シートについて、第一開口部141、142を形成する部分に開口部を形成するとともに、第二開口部151、152になる領域にマスクを形成し、この領域を除いてポリマー電解質スラリーを塗布してもよい。これにより、ポリマー電解質シートと第一電極シートとが一体的に取り扱えるため、ポリマー電解質層12をより薄くすることができ、ポリマー二次電池1の単位体積あたりの放電容量を高めることができる。また、第一電極シートの開口部の内壁に沿ってポリマー電解質スラリーを付着させることで、ポリマー電解質層12と内壁導通防止層18の形成を同時に行うこともできる。
このとき、第二電極シートについても、同様にしてポリマー電解質スラリーを塗布してもよい。
【0107】
[内壁導通防止層の形成]
第一電極シート及び第二電極シートの開口部の内壁にポリマー電解質スラリーを付着させない場合、第一電極シート及び第二電極シートの開口部の内壁に固体電解質、ポリマー電解質あるいは絶縁材を付着させ、内壁導通防止層18を形成することが好ましい。
【0108】
[積層工程]
積層工程では、第一電極シート及びポリマー電解質シートの第一開口部141、142になる領域の開口部が重なり、且つ第二電極シート及びポリマー電解質シートの第二開口部151、152になる領域とポリマー電解質層12になる領域の開口部が重なるように、第一電極シート、第二電極シート及びポリマー電解質シートを積層してシート積層体を作製する。これにより、第一電極シート及びポリマー電解質シートの開口部が貫通して第一開口部141、142を形成でき、且つ、第二電極シート及びポリマー電解質シートの開口部が貫通して第二開口部151、152を形成できる。
【0109】
積層工程の態様としては、例えば、基材に形成された第一電極シート、第二電極シート及びポリマー電解質シートを用い、一方の基材上のシートに他方の基材上のシートを積層して所定のプレス圧を掛けた後、他方のシートが積層されていた基材を剥離する態様が挙げられる。
なお、第一電極シート、第二電極シート及びポリマー電解質シートのうち同種のシートを、複数枚繰り返し積層してもよい。
【0110】
[乾燥工程]
乾燥工程では、各シート又はシート積層体に含まれる溶剤を加熱し、溶剤を蒸発させて除去する。この工程により、加熱プレス後の積層体に含まれる溶剤が低減するため、積層体からの気泡の除去を行い易くできる。
乾燥工程は、各シートの塗布と同時に行ってもよく、塗布された各シートに対して行ってもよく、積層工程後のシート積層体に行ってもよい。
乾燥工程における加熱温度は、溶剤を蒸発させ易くする観点から、好ましくは50℃、より好ましくは80℃、さらに好ましくは100℃を下限とし、ポリマー電解質等の熱分解を低減させる観点から、好ましくは300℃、より好ましくは200℃、さらに好ましくは150℃を上限とする。
【0111】
[プレス工程]
プレス工程は、シート積層体を加圧してポリマー電解質層12や電極層を形成する工程である。これにより、第一開口部141の内部に第二電極層131a及び132aとなる電極シートが入り込み、第二電極層131aと第二電極層132aとなる電極シートが接触する。特に、加圧によって第一開口部141の内部に第二電極層131a、132aが入り込み易くなることで、第二電極層131aと第二電極層132aの接触面積が増加し易くなり、接触部分における電気抵抗が低減される。すなわち、第一開口部141を貫通するような電子の流通経路を確保し易くできるため、ポリマー二次電池の内部抵抗をより低減できる。
また、柔軟性のあるポリマー電解質シートがプレスされることで、ポリマー電解質シートと電極シートとがより接触し易くなるため、ポリマー二次電池1の内部抵抗をより低減し易くできる。
このことは、他の第一開口部142や第二開口部151、152でも同様である。
【0112】
プレス工程でシート積層体を加圧する圧力の下限は、このような効果を得易くできる観点で、好ましくは10MPa、より好ましくは20MPa、最も好ましくは40MPaを下限とする。また、この圧力の上限は、成形型やシート積層体の破損を低減する観点で、好ましくは300MPa、より好ましくは200MPa、最も好ましくは150MPaを上限とする。シート積層体の加圧は、例えばシート積層体を成形する成形型に上型を載せて油圧プレス等で加圧することで行うことができる。
なお、シート積層体の破損をより低減させる観点から、シート積層体への加圧を複数回に分けて行ってもよい。
【0113】
プレス工程を行った後のシート積層体に対し、ポリマー電解質層12と電極層との接触性を高めてポリマー二次電池の内部抵抗を小さくするために、有機電解液をシート積層体に含ませてもよい。有機電解液としては、例えばプロピレンカーボネート(PC)、エチレンカーボネート(EC)及びジメチルカーボネート(DMC)から選択される1種以上が挙げられる。ここで、シート積層体の全質量に対する有機電解液の含有量は、内部抵抗を小さくする観点で、好ましくは1%、より好ましくは2%、さらに好ましくは3%を下限とする。他方で、この有機電解液の含有量は、漏液等による悪影響を低減する観点で、好ましくは15%、より好ましくは10%、さらに好ましくは7%を上限とする。
【0114】
(集電体の形成)
次いで、一端部にある第一電極層113aに導通するように第一集電体層162を形成し、他端部にある第二電極層131aに導通するように第二集電体層161を形成する。これにより、集電体を通じて電気を取り出せるため、ポリマー二次電池1への充電や、ポリマー二次電池1からの放電を行うことができる。集電体を積層する具体的態様としては、プレス工程後の第一電極層113aや第二電極層131aに薄膜状の金属層を積層又は接合してもよく、シート積層体に金属層や導電体の前駆体を積層した後で上述のプレス工程を行ってもよい。
【実施例】
【0115】
以下、本発明について、具体的な実施例を挙げて説明する。
【0116】
[実施例1]
(ポリマー電解質スラリー・正極スラリー・負極スラリーの作製)
有機系ポリマーとしてP(EO/PO)(日本ゼオン株式会社製、ZEOSPAN8100(商品名))を、アルカリ金属塩としてLiTFSI(森田化学工業株式会社製)、第1溶剤として1−プロパノールを用い、これらを表1に示す割合で混合し、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、泡とり錬太郎AR−200(商品名))を用いて1000rpm5分間の混練を3回行って混合させることで、正極スラリー・負極スラリー・ポリマー電解質スラリーの第1液を作製した。
【0117】
ポリマー電解質スラリーの第2液は、フィラーとしてAl
2O
3(和光純薬工業株式会社製)、第2溶剤として1−プロパノールを用い、これらを表1に示す割合で調合した。
正極スラリーの第2液は、フィラーとしてAl
2O
3(和光純薬工業株式会社製)、正極活物質としてLiCoO
2(日本化学工業株式会社製)、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック(商品名))、第2溶剤として1−プロパノールを用い、これらを表1に示す割合で調合した。
負極スラリーの第2液は、フィラーとしてAl
2O
3(和光純薬工業株式会社製)、負極活物質としてグラファイト(東海カーボン株式会社製)、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック(商品名))、第2溶剤として1−プロパノールを用い、これらを表1に示す割合で調合した。
調合した各液を、φ10mmのYTZボールで4時間混合して粒子を分散させることで、正極スラリー・負極スラリー・ポリマー電解質スラリーの第2液をそれぞれ作製した。
【0118】
得られた第1液に第2液を混合し、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、泡とり錬太郎AR−200(商品名))を用いて1000rpm5分間の混練を2回行った後、自転・公転ミキサーを100Torrに減圧させて1000rpm5分間の脱気処理を行うことで、正極スラリー、負極スラリー及びポリマー電解質スラリーをそれぞれ作製した。
【0119】
【表1】
【0120】
得られた正極スラリー、負極スラリー及びポリマー電解質スラリーを、離型処理が施されたPETからなる基材に、それぞれ塗工機を用いてギャップ400μmで塗布するのと同時に乾燥温度110℃で乾燥させ、厚さ40μm、幅19cm、長さ5mのシートを得た。このシートを19cm×20cm角に裁断することで、正極シート、負極シート及びポリマー電解質シートを作製した。
【0121】
このうち、正極シート及び負極シートに、レーザ加工機(パナソニック電工SUNX社製、型番LPV−15U)を用いてレーザを照射し、直径1mmの円形の開口を有する開口部を形成した。
図5(c)に示すように開口部を形成した正極シートをシートCとして14枚準備し、
図5(a)に示すように開口部を形成した負極シートをシートAとして7枚準備した。このとき、正極シートと負極シートで、異なる位置に開口部を形成するようにした。また、
図5(d)に示すように開口部を形成しない正極シートをシートDとして2枚準備し、
図5(b)に示すように開口部を形成しない負極シートをシートBとして1枚準備した。
他方で、ポリマー電解質シートにも、レーザ加工機を用いてレーザを照射し、正極シート及び負極シートのうち少なくとも一方の開口部の中心と重なる位置に、直径0.8mmの円形の開口を有する開口部を形成した。このとき、
図5(g)に示すように正極シートの開口部の中心と重なる位置のみに開口部を形成したポリマー電解質シートをシートGとして1枚準備し、
図5(f)に示すように負極シートの開口部の中心と重なる位置のみに開口部を形成したポリマー電解質シートをシートFとして1枚準備し、
図5(e)に示すように両方の位置に開口部を形成したポリマー電解質シートをシートEとして13枚準備した。
シートA〜Gに形成する開口部の模式図を
図5に示す。
【0122】
次いで、枚葉式積層機(アルファーシステム株式会社製)を用いて、正極シート、正極シート、ポリマー電解質シート、負極シート及びポリマー電解質シートの順で交互に積層した。より具体的には、シートD、シートD、シートF、シートA、シートE、シートC及びシートCを順に積層した後、シートE、シートA、シートE、シートC及びシートCの順で6回繰り返して積層し、その後シートG及びシートBを順に積層した。このとき、2枚の正極シートの共通する位置にある開口部と、その開口部に隣接するポリマー電解質シートにある開口部を重ね合せるとともに、負極シートの開口部とそれに隣接するポリマー電解質シートにある開口部を重ね合せた。
このとき、離形処理後のシート外寸は15cm角になるようにし、各層を積層するごとに仮積層を行い、最後に本積層として2段階のプレスを行った。仮積層は常圧で行い、100kPaのプレス圧で行った。次いで、真空脱気を行い、シート中の気泡を取り除いた。その後に行われる本積層は250kPaのプレス圧で行った。
【0123】
積層により得られたシート積層体に対し、真空パックを行って静水圧プレスで加圧するプレス工程を行った。このときの加圧は、室温下で49MPa(0.5ton/cm
2)の圧力で行った。
【0124】
プレス後のシート積層体を14cm角でくり抜き、外周を短絡しないように2000番の研磨紙で研磨処理を行った後、恒温槽に入れて60℃で15時間乾燥させた。
乾燥後のシート積層体の負極側に銅箔の集電体を、正極側をアルミ箔の集電体をそれぞれ配置し、積層体の表面のうち集電体の形成されていない部分を覆うようにくり抜いたポリマー電解質のシートを張り付けて、短絡防止材を形成した。短絡防止材の形成されたシート積層体をアルミラミネートパッケージで上下を挟んで真空パックすることで、ポリマー二次電池を得た。得られたポリマー二次電池では、正極層の両側にある負極層が接触しており、且つ、負極層の両側にある正極層が接触していることが、SEM(走査型電子顕微鏡)や実体顕微鏡によって確かめられた。
【0125】
(充放電試験)
作製したポリマー二次電池を1/20Cで定電流充電し、3.3Vとなったところで充電を停止し、1/100Cで定電流放電をして、0.1Vとなるまでの放電容量を計測し、正極活物質の重量当たりの放電容量を算出した。その結果、充電容量は125mAh/g、放電容量は120mAh/gとなった。
【0126】
[実施例2]
(ポリマー電解質スラリー・正極スラリー・負極スラリーの作製)
有機系ポリマーとしてP(EO/PO)(日本ゼオン株式会社製、ZEOSPAN8100(商品名))を、アルカリ金属塩としてLiTFSI(森田化学工業株式会社製)、第1溶剤として1−プロパノールを用い、これらを表2に示す割合で混合し、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、泡とり錬太郎AR−200(商品名))を用いて1000rpm5分間の混練を3回行って混合させることで、正極スラリー・負極スラリー・ポリマー電解質スラリーの第1液を作製した。
【0127】
ポリマー電解質スラリーの第2液は、フィラーとしてAl
2O
3(和光純薬工業株式会社製)、第2溶剤として1−プロパノールを用い、これらを表2に示す割合で調合した。
正極スラリーの第2液は、フィラーとしてAl
2O
3(和光純薬工業株式会社製)、正極活物質としてLiFePO
4(三井造船株式会社製)、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック(商品名))、第2溶剤として1−プロパノールを用い、これらを表2に示す割合で調合した。
負極スラリーの第2液は、フィラーとしてAl
2O
3(和光純薬工業株式会社製)、負極活物質としてLi
4Ti
5O
12(石原産業株式会社製)、導電助剤としてアセチレンブラック(電気化学工業株式会社製、デンカブラック(商品名))、第2溶剤として1−プロパノールを用い、これらを表2に示す割合で調合した。
調合した各液を、φ10mmのYTZボールで4時間混合して粒子を分散させることで、正極スラリー・負極スラリー・ポリマー電解質スラリーの第2液を作製した。
【0128】
得られた第1液に第2液を混合し、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製、泡とり錬太郎AR−200(商品名))を用いて1000rpm5分間の混練を2回行った後、自転・公転ミキサーを100Torrに減圧させて1000rpm5分間の脱気処理を行うことで、正極スラリー、負極スラリー及びポリマー電解質スラリーを作製した。
【0129】
【表2】
【0130】
得られた正極スラリー、負極スラリー及びポリマー電解質スラリーを、離型処理が施されたPETからなる基材に、それぞれ塗工機を用いてギャップ600μmで塗布するのと同時に乾燥温度110℃で乾燥させ、厚さ50μm、幅19cm、長さ5mのシートを得た。このシートを19cm×20cm角に裁断することで、正極シート、負極シート及びポリマー電解質シートを作製した。
【0131】
得られた正極シート、負極シート及びポリマー電解質シートを用いて、実施例1と同じようにシートA〜Gを作製した。ここで、開口部を形成した負極シートであるシートAを14枚、開口部を形成しない負極シートであるシートBを2枚準備した。また、枚葉式積層機を用いた積層は、シートD、シートD、シートF、シートA、シートA、シートE、シートC及びシートCを順に積層した後、シートE、シートA、シートA、シートE、シートC及びシートCの順で6回繰り返して積層し、その後シートG、シートB及びシートBを順に積層することにより行った。
【0132】
積層されたシート積層体に対し、真空パックを行って静水圧プレスで加圧するプレス工程を行った。このときの加圧は、室温下で98MPa(1ton/cm
2)の圧力で行った。
【0133】
プレス後のシート積層体を14cm角でくり抜き、外周を短絡しないように2000番の研磨紙で研磨処理を行った後、恒温槽に入れて60℃で15時間乾燥させた。
乾燥後のシート積層体の負極側に銅箔の集電体を、正極側をアルミ箔の集電体をそれぞれ配置し、積層体の表面のうち集電体の形成されていない部分を覆うようにくり抜いたポリマー電解質のシートを張り付けて、短絡防止材を形成した。短絡防止材の形成されたシート積層体をアルミラミネートパッケージで上下を挟んで真空パックすることで、ポリマー二次電池を得た。
【0134】
図6に、得られたポリマー二次電池の、内部で正極層が接触している開口部の断面についての実体顕微鏡像の写真を示す。また、
図7に、得られたポリマー二次電池の、内部で負極層が接触している開口部の断面についての実体顕微鏡像の写真を示す。これらの実体顕微鏡像から、本発明の実施例のポリマー二次電池では、正極層の両側にある負極層が接触しており、且つ、負極層の両側にある正極層が接触していることが明らかになった。
なお、
図6や
図7の下に示す目盛りは、1目盛0.5mmであることを示す。
【0135】
(内部抵抗の測定)
作製したポリマー二次電池について、LCRメーター(日置電機製、3522−50)を用いて、交流の電流に対する内部抵抗を測定した。このとき、測定時の電圧を1Vとし、周波数を1kHzとした。その結果、ポリマー二次電池における内部抵抗は、800Ω/cm
2となった。
【0136】
(充放電試験)
作製したポリマー二次電池を1/20Cで定電流充電し、3.3Vとなったところで充電を停止し、1/100Cで定電流放電をして、0.1Vとなるまでの放電容量を計測し、正極活物質の重量当たりの放電容量を算出した。その結果、電圧と充放電容量との関係は
図8のようになり、充電容量は140mAh/g、放電容量は120mAh/gとなった。なお、
図8の実線は充電時の電圧と充放電容量との関係を示すものであり、破線は放電時の電圧と充放電容量との関係を示すものである。
【0137】
[実施例3〜6]
正極スラリー、負極スラリー及びポリマー電解質スラリーに含まれるフィラーとして、表3に示すようなフィラーを実施例2のAl
2O
3の代わりに用い、実施例2のAl
2O
3と同じ体積になるように第2液に調合し、実施例2と同じ手順でポリマー二次電池を作製し、内部抵抗と放電容量を測定した。内部抵抗と放電容量の測定も、実施例2と同じ条件で行った。
実施例3〜6で作製されるポリマー二次電池の内部抵抗と放電容量を表3に示す。
【0138】
(LATP粉末の作製)
このうち、実施例6でフィラーとして用いられるLATP(LATPの粉末)は、次のように作製した。
Li
2CO
3、LiPO
3、H
3P
2O
5及びTiO
2の紛体を量論比で混合した後、白金板上にて1100℃で1時間焼成して、LATPを得た。得られたLATPをスタンプミルで840μm以下に粉砕後、φ10mmのYTZボールとポットミルで平均粒子径100μm以下に粉砕した。さらに、φ2mmのYTZボールと変性エタノールを加え、遊星ボールミルで粉砕した。得られた粉末をドライヤーにて乾燥し、平均粒子径1μm(D50)のLATP粉末を得た。
【0139】
【表3】
【0140】
表3に示されるように、ポリマー二次電池の内部抵抗は、2000Ω/cm
2以下、より具体的には1200Ω/cm
2以下であり、所望の小さい値を有していた。また、ポリマー二次電池の放電容量は、80mAh/g以上、より具体的には110mAh/g以上であり、所望の大きい放電容量を有していた。
【0141】
特に、フィラーとして酸素イオン伝導体である8YSZを用いた場合、絶縁体であるAl
2O
3、ZrO
2又はSiO
2を用いた場合に比べて内部抵抗を小さくでき、且つ放電容量を高められた。より具体的には、内部抵抗を800Ω/cm
2未満、より具体的には750Ω/cm
2以下にすることができ、且つ、放電容量を120mAh/g超、より具体的には125mAh/g以上にすることができた。
【0142】
さらに、フィラーとしてリチウムイオン伝導体であるLATPを用いた場合、8YSZを用いた場合に比べてさらに内部抵抗を小さくでき、且つ放電容量を高められた。より具体的には、内部抵抗を700Ω/cm
2未満、より具体的には500Ω/cm
2以下にすることができ、且つ、放電容量を125mAh/g超、より具体的には130mAh/g以上にすることができた。
【0143】
このことから、フィラーとしてイオン伝導性を有する物質を用いることで内部抵抗を小さくでき且つ放電容量を高められ、特にリチウムイオン伝導性を有する物質を用いることで、より一層内部抵抗を小さくでき且つ放電容量を高められるものと推察される。
【0144】
[実施例7〜12]
正極スラリー、負極スラリー及びポリマー電解質スラリーに含まれる有機系ポリマー及びアルカリ金属塩として、表4に示す有機系ポリマー及びアルカリ金属塩の組合せを実施例2のP(EO/PO)及びLiTFSIの組合せの代わりに用い、実施例2のP(EO/PO)及びLiTFSIと同じ質量になるように第1液に調合し、実施例2と同じ手順でポリマー二次電池を作製し、内部抵抗と放電容量を測定した。内部抵抗と放電容量の測定も、実施例2と同じ条件で行った。ここで、有機電解液の欄が「あり」の例については、プレス後のシート積層体に、有機電解液であるソルライト(三井化学株式会社製)を、シート積層体の全質量に対して5重量%含ませたものについて、集電体の形成とアルミラミネートパッケージによる真空パックを行った。
なお、有機系ポリマーであるPEO−PMMAとしては直鎖状ポリエチレンオキシドPEO(アルコックスL8(商品名)、明成化学工業株式会社製)とポリメチルメタクリレートPMMA(住友化学工業製)とを共重合させたものを、PVdF−HFPとしてはKYNAR FLEX 3120−50(東京材料株式会社製)を、ボロキシンポリマーとしてはB
2O
3(アルドリッチ社)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(三洋化成品株式会社)及びトリエチレングリコール(三菱化学株式会社製)を加熱することで合成させたものを用いた。また、アルカリ金属塩であるLiBF
4(ホウフッ化リチウム)及びLiCF
3SO
4(トリフルオロメタンスルホン酸リチウム)としては森田化学工業株式会社製のものを、LiClO
4(過塩素酸リチウム)としてはナカライテスク株式会社製のものを用いた。
実施例7〜12で作製されるポリマー二次電池の内部抵抗と放電容量を表4に示す。
【0145】
【表4】
【0146】
表4に示されるように、有機系ポリマーとしてPEO−PMMA、PVdF−HFP、ボロキシンポリマーのいずれを用いた場合も、所望の小さい内部抵抗と高い放電容量を得ることができた。また、アルカリ金属塩としてLiTFSI、LiBF
4、LiCF
3SO
4、LiClO
4のいずれを用いた場合も、所望の小さい内部抵抗と高い放電容量を得ることができた。
【0147】
他方で、プレス後のシート積層体に有機電解液を含ませた場合、ポリマー二次電池の内部抵抗を700Ω/cm
2未満、より具体的には300Ω/cm
2未満、さらに具体的には100Ω/cm
2以下にまで低下させることができた。これにより、有機電解液をシート積層体に含ませることで、有機電解液を含まない場合に比べて、ポリマー二次電池の内部抵抗を大幅に低下できることが明らかになった。
【0148】
[実施例13〜18]
正極スラリー及び負極スラリーに含まれる正極活物質及び負極活物質として、表5に示すような正極活物質及び負極活物質の組合せを実施例2のLFP及びLTOの代わりに用い、実施例2のLFP及びLTOと同じ質量になるように第2液に調合し、実施例2と同じ手順でポリマー二次電池を作製した。このとき、正極及び負極の放電容量の比率を調整するため、負極層の放電容量が正極層の放電容量と等しくなるように負極層の厚みを調整した。得られたポリマー二次電池について、実施例2と同じ条件で内部抵抗と放電容量を測定した。また、充電及び放電を1サイクルとして10サイクル繰り返し、10サイクル後の放電容量の維持率を測定した。他方で、得られたポリマー二次電池を即時露点−50℃以下のドライルームに入れて質量を測定し、この質量の値と放電容量の値から、電池のエネルギー密度を算出した。
【0149】
なお、負極活物質であるグラファイトとしてはSGP3(SECカーボン株式会社製)を、SiO
xとしてはSiO(株式会社大阪チタニウムテクノロジーズ社製)を、ハードカーボンとしては難黒鉛化製炭素カーボトロンP(株式会社クレハ・バッテリー・マテリアルズ・ジャパン社製)を用いた。また、正極活物質であるLiCoO
2としてはセルシードC−8G2(日本化学工業株式会社製)を、LNCMOとしてはLiNi
0.33Co
0.33Mn
0.33O
2(日本化学工業株式会社製)を、LiNiO
2としては住友金属鉱山株式会社製のものを、LiMn
2O
4としてはLMO(日亜化学工業株式会社製)を用いた。
【0150】
実施例13〜18で作製されるポリマー二次電池の内部抵抗とエネルギー密度を表5に示す。また、充電及び放電を10サイクル繰り返した後の放電容量の維持率を表5に示す。
【0151】
【表5】
【0152】
表5に示されるように、ポリマー二次電池の内部抵抗は2000Ω/cm
2以下であり、所望の小さい値を有していた。このうち、負極活物質としてLi
4Ti
5O
12又はグラファイトを用いた場合、内部抵抗を1200Ω/cm
2未満、より具体的には800Ω/cm
2以下にすることができ、内部抵抗をより小さくできた。特に、負極活物質としてグラファイトを用いた場合には、Li
4Ti
5O
12を用いた場合に比べて内部抵抗をより小さくできた。より具体的には、内部抵抗を700Ω/cm
2以下、より具体的には500Ω/cm
2以下にすることができた。
他方で、負極活物質としてLi
4Ti
5O
12を用いた場合、10サイクル後の容量維持率を90%超、より具体的には98%以上にすることができ、グラファイトを用いた場合よりもサイクル特性を高められることが明らかになった。
なお、実施例2でサイクル維持率が100%を超えている理由は、Li
4Ti
5O
12の放電容量が充放電のサイクルを繰り返すごとに高められることによるものと推察される。
【0153】
また、得られたポリマー二次電池のエネルギー密度は20Wh/kg以上、より具体的には40Wh/kg以上であり、所望の高い値であった。特に、負極活物質としてグラファイト、SiO
x又はハードカーボンを用いた場合には、ポリマー二次電池のエネルギー密度を80Wh/kg以上、より具体的には100Wh/kg以上にまで高められることが明らかになった。
【0154】
以上の実験結果から、本発明の実施例1〜18で得られるポリマー二次電池は、第一開口部の内部で、第一電極層の両側にある第二電極層を接触させることが可能であり、且つ、このような積層構造であっても二次電池として動作できることが明らかになった。
また、実施例1〜18で得られるポリマー二次電池は、本発明が課題としているような、内部抵抗の増大を抑えられ、且つ単位体積当たりの放電容量が十分に高いものであることが明らかになった。
【0155】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはない。当業者は本発明の思想及び範囲を逸脱することなく多くの改変を成し得、それらも本発明の範囲内に含まれる。