特許第6721692号(P6721692)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6721692カーボンブラックを含有する熱伝導性ポリマー組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6721692
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】カーボンブラックを含有する熱伝導性ポリマー組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20200706BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20200706BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20200706BHJP
   C09C 1/56 20060101ALN20200706BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K3/04
   C08K3/38
   !C09C1/56
【請求項の数】19
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2018-539833(P2018-539833)
(86)(22)【出願日】2017年1月25日
(65)【公表番号】特表2019-504915(P2019-504915A)
(43)【公表日】2019年2月21日
(86)【国際出願番号】US2017014839
(87)【国際公開番号】WO2017136196
(87)【国際公開日】20170810
【審査請求日】2018年9月21日
(31)【優先権主張番号】62/289,623
(32)【優先日】2016年2月1日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】391010758
【氏名又は名称】キャボット コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】CABOT CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【識別番号】100173107
【弁理士】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100210686
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 直樹
(72)【発明者】
【氏名】フェデリコ ビラルパンド−パエツ
(72)【発明者】
【氏名】ジョージ エイド
(72)【発明者】
【氏名】アリソン エム.クリストファー
(72)【発明者】
【氏名】マーク ハンプデン−スミス
(72)【発明者】
【氏名】サンティアーク ピエール
(72)【発明者】
【氏名】アラン ティエレン
(72)【発明者】
【氏名】リメン チェン
(72)【発明者】
【氏名】アガサジェロス キルリディス
(72)【発明者】
【氏名】ブルース イー.マッケイ
【審査官】 藤本 保
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−505975(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/203669(WO,A1)
【文献】 特開2015−006980(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00−101/16
C08K3/00−13/08
C09C1/48−1/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマーマトリックスと、
前記ポリマーマトリックス中に12〜28wt%の濃度で分散した部分結晶化カーボンブラックとを含み、前記カーボンブラックが、120cm/100g超かつ200cm/100g未満のOAN構造と、8mJ/m未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(L)とを有する、複合ポリマー組成物。
【請求項2】
前記複合ポリマー組成物がプラスチック組成物である、請求項1に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項3】
前記カーボンブラックが、700℃超かつ1800℃未満の温度でファーネスブラックを熱処理することによって形成されている、請求項1に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項4】
前記ポリマーマトリックスがコポリマー又はターポリマーを含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項5】
前記ポリマーマトリックスが、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、及び/又はポリアミンを含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項6】
30W/mK超の熱伝導率を有する非炭素質粒子をさらに含む、請求項1〜5のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項7】
前記非炭素質粒子が、BN、MgO、ZnO及びAlから選択される、請求項6に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項8】
前記非炭素質粒子がBNを含み、部分結晶化カーボンブラック:BNの容量比が1:1〜1:10の範囲である、請求項7に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項9】
前記複合ポリマー組成物の熱伝導率が、前記ポリマーマトリックスの熱伝導率より少なくとも1.6倍大きい、請求項1〜8のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項10】
前記部分結晶化カーボンブラックが、未処理のカーボンブラックに対して、前記複合ポリマー組成物の熱伝導率を少なくとも10%改善している、請求項1〜9のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物を含むマスターバッチ。
【請求項12】
ポリマー化可能なモノマー又はオリゴマーを含むポリマー前駆体と、
前記モノマー又はオリゴマー中に12〜28wt%の濃度で分散した部分結晶化カーボンブラックとを含み、前記カーボンブラックが、120cm/100g超かつ200cm/100g未満のOAN構造と、8mJ/m未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(L)とを有する、ポリマー前駆体組成物。
【請求項13】
前記前駆体が、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、及び/又はポリアミンの前駆体を含む、請求項12に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項14】
30W/mK超の熱伝導率を有する非炭素質粒子をさらに含む、請求項12又は13に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項15】
前記非炭素質粒子が、BN、MgO、ZnO及びAlから選択される、請求項14に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項16】
前記非炭素質粒子がBNを含み、部分結晶化カーボンブラック:BNの容量比が1:1〜1:10の範囲である、請求項15に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項17】
ポリマー化した場合に、ポリマー化したポリマー前駆体組成物の熱伝導率が、前記ポリマー前駆体のポリマー化物の熱伝導率より少なくとも1.6倍大きい、請求項12〜16のいずれか1項に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項18】
前記部分結晶化カーボンブラックが、未処理のカーボンブラックに対して、前記ポリマー前駆体組成物のポリマー化物の熱伝導率を少なくとも10%改善している、請求項12〜16のいずれか1項に記載のポリマー前駆体組成物。
【請求項19】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の複合ポリマー組成物を含む製品であって、ワイヤ及びケーブル外被、3D印刷製品、自動車部品、並びにLEDケーシング及び固定治具から選択される、製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ポリマー組成物、特に、改善した熱伝導性及び機械特性を示すプラスチックに関する。
【背景技術】
【0002】
改善された伝熱から利益を得ることができるポリマー系は、電子、機械、自動車、航空宇宙、及び工業的用途を含む様々な分野で使用される。例えば、導電性ポリマーは、ケーブルのコアから熱を消散するためにワイヤ及びケーブル外被において使用することができる。熱伝導性ポリマーはまた、効率的な伝熱を要求する用途で典型的に使用される低熱伝導性ポリマー又は金属のような材料と置き換えることができる。
【発明の概要】
【0003】
1つの態様において、複合ポリマー組成物が提供され、その複合ポリマー組成物が、ポリマーマトリックスと、ポリマーマトリックス中に12〜28wt%の濃度で分散した部分結晶化カーボンブラックとを含み、カーボンブラックは、120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造と、8mJ/m2未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する。部分結晶化カーボンブラックは、700℃超かつ1800℃未満の温度でファーネスブラックを熱処理することで得ることができる。組成物は、コポリマー又はターポリマーを含むことができる。ポリマー組成物は、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、及び/又はポリアミンであることができる。カーボンブラックは、35Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)と、1mJ/m2超の表面エネルギーとを有することができる。ポリマーは、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、ポリエチレン(PE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、 メタロセン中密度ポリエチレン(mLLDPE)、ポリプロピレン、ポリプロピレンのコポリマー、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリロニトリルEPDMスチレン(AES)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、テトラエチレンヘキサプロピレンフッ化ビニリデンポリマー(THV)、ペルフルオロアルコキシポリマー(PFA)、ポリヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ポリケトン(PK)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、コポリエステル、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンオキシド(PPO)及びポリフェニレンエーテル(PPE)から選択することができる。組成物はマスターバッチであることができる。組成物は、30W/mK超の熱伝導率を有する非炭素質粒子、例えば、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、又はアルミナをさらに含むことができる。部分結晶化カーボンブラック:窒化ホウ素などの非炭素質粒子の容量比は、1:1〜1:10であることができる。複合ポリマー組成物は、ポリマーマトリックスの熱伝導の少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、又は2〜4倍の熱伝導率を有することができる。部分結晶化カーボンブラックは、未処理のカーボンブラックに対して、複合ポリマー組成物の熱伝導率を少なくとも10%改善することができる。
【0004】
別の態様において、ポリマー前駆体組成物が提供され、その組成物が、ポリマー化可能なモノマー又はオリゴマーを含むポリマー前駆体と、モノマー又はオリゴマー中に12〜28wt%の濃度で分散した部分結晶化カーボンブラックとを含み、カーボンブラックは、120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満のOAN構造と、8mJ/m2未満の表面エネルギーと、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)とを有する。ポリマー前駆体は、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、及び/又はポリアミンから選択されるポリマーの前駆体であることができる。ポリマー前駆体は、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、ポリエチレン(PE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、 メタロセン中密度ポリエチレン(mLLDPE)、ポリプロピレン、ポリプロピレンのコポリマー、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリロニトリルEPDMスチレン(AES)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、テトラエチレンヘキサプロピレンフッ化ビニリデンポリマー(THV)、ペルフルオロアルコキシポリマー(PFA)、ポリヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ポリケトン(PK)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、コポリエステル、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンオキシド(PPO)及びポリフェニレンエーテル(PPE)から選択されるポリマーの前駆体であることができる。ポリマー前駆体は、アクリル、エポキシ、シリコーン、フェノール、ポリイミド、プラスチゾル、及びポリ酢酸ビニルからなる群より選択されるポリマーの前駆体であることができる。ポリマー前駆体は、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、及び/又はポリアミンの前駆体を含むことができる。組成物は、30W/mK超の熱伝導率を有する非炭素質粒子、例えば、窒化ホウ素、酸化マグネシウム、酸化亜鉛、又はアルミナをさらに含むことができる。部分結晶化カーボンブラック:窒化ホウ素などの非炭素質粒子の容量比は、1:1〜1:10であることができる。ポリマー化した場合、ポリマー前駆体組成物は、ポリマー前駆体のポリマー化物の熱伝導率より少なくとも1.6倍、少なくとも1.7倍、又は2〜4倍の熱伝導率を有することができる。部分結晶化カーボンブラックは、未処理のカーボンブラックに対して、ポリマー前駆体組成物のポリマー化物の熱伝導率を少なくとも10%改善することができる。
【0005】
別の態様において、複合ポリマー組成物又はポリマー前駆体組成物は、29Å、30Å、31Å若しくは35Å超、及び/又は、65Å、60Å、55Å、50Å若しくは45Å未満のラマン微結晶平面寸法(La)を有するカーボンブラックを含む。カーボンブラックの表面エネルギーは、4mJ/m2未満、3mJ/m2未満若しくは2mJ/m2未満、及び/又は0mJ/m2超であることができる。カーボンブラックは、35%以上、40%以上、45%以上、50%以上、55%以上又は60%以上の比結晶化度を有することができる。カーボンブラックのBET表面積は、425±25m2/g未満、300m2/g未満、250m2/g未満、40〜400m2/g、46〜400m2/g、40〜300m2/g、又は40〜200m2/gであることができる。複合ポリマー組成物又はポリマー前駆体組成物は、ワイヤ及びケーブル外被、3D印刷製品、自動車部品、並びにLEDケーシング及び固定冶具のような製品を作るために使用することができる。カーボンブラックは、実質的に多面体の一次粒子形状を示すことができ、425mg/g未満、350mg/g未満、300mg/g未満、250mg/g未満、又は200mg/g未満のヨウ素価を有することができる。カーボンブラックは、未修飾のカーボンブラックであることができる。複合ポリマー組成物又はポリマー前駆体組成物は、部分的に結晶化していてもよいか又はしていなくてもよい第2のカーボンブラックを含むことができる。部分結晶化カーボンブラックは、ベースカーボンブラックのラマン微結晶平面寸法(La)を5Å超、10Å超、15Å超、又は20Å超増加することによって作ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0006】
図1】ベースカーボンブラックの熱伝導率を部分結晶化カーボンブラック誘導体の2つの実施形態と比較した棒グラフである。
図2】第2のベースカーボンブラックの熱伝導率を部分結晶化カーボンブラック誘導体の3つの実施形態と比較した棒グラフである。
図3】第3のベースカーボンブラックの熱伝導率を部分結晶化カーボンブラック誘導体の実施形態と比較した棒グラフである。
図4】第4のベースカーボンブラックの熱伝導率を部分結晶化カーボンブラック誘導体の実施形態と比較した棒グラフである。
図5】第5のベースカーボンブラックの熱伝導率を部分結晶化カーボンブラック誘導体の実施形態と比較した棒グラフである。
図6】それぞれが異なる充填材を含む3つのポリマー複合体の熱伝導率を図示したグラフを提供する。
図7図6のポリマー複合体、並びに、両方が窒化ホウ素及びカーボンブラック粒子を含む2つの比較例の熱伝導率を図示したグラフを提供する。
図8図7のポリマー複合体、並びに、高熱伝導性粒子及び部分結晶化カーボンブラック粒子を含むポリマー複合体の第3の実施形態の熱伝導率を図示したグラフを提供する。
【発明を実施するための形態】
【0007】
1つの態様において、少なくとも1つのポリマーと、少なくとも1つの部分結晶化カーボンブラックとを含むポリマー系が提供される。部分的に結晶化した(部分的に黒鉛化した)カーボンブラックは、それらの対応するベースカーボンブラックより高い結晶化度及び低い表面エネルギーを有し、以下で説明するように、低結晶形態のカーボンブラックに比べ、改善した伝熱能力を提供することができる。本明細書で示されるように、部分結晶化カーボンブラックはまた、従来のカーボンブラックを使用する同様の系と比べた場合、それらを分散したポリマー前駆体のレオロジーを改善することができる。本明細書で説明されるポリマー系は、部分結晶化カーボンブラックが伝熱効率を改善するために分散することができる任意の合成ポリマーであることができる。また、本発明者らは、過剰に結晶化されたカーボンブラックは、低結晶カーボンブラックにより示される促進した熱伝導特性を提供しないことを発見した。すなわち、不十分な黒鉛化及び過剰な黒鉛化の両方は、本明細書に開示される実施形態に係るカーボンブラックにより示される熱伝導率の利益を提供しない。
【0008】
ポリマー組成物は、硬化ポリマー及びプレポリマー組成物の両方を含む。本明細書で使用される場合、「ポリマー」又は「ポリマーマトリックス」は、ポリマー化された後はポリマー組成物の形態であり、そして、物品、例えばプラスチック品を製造するためのマスターバッチ、化合物又はその他のものとして使用するのに適することができる。本明細書で使用される場合、「プレポリマー」は、まだポリマー化していないモノマー又はオリゴマーからなるポリマー組成物である。ポリマーは、当業者に公知な方法、例えば、熱、放射線、溶媒蒸発、化学触媒作用又は加硫により硬化するポリマーであることができる。ポリマーは、1つ、2つ、3つ又は複数成分のプレポリマー系に基づくことができる。「ポリマー複合体(polymer composite)」又は「ポリマー複合体(polymeric composite)」は、少なくとも1つのポリマーと、第2の異なる成分とを含む材料である。複合体の第2の成分は、粒子、繊維、顔料又は第2のポリマーであることができ、第2のポリマーは第1のポリマーと異なり、均一に混合されない。
【0009】
幾つかの実施形態において、1つ又は複数のポリマーは、熱可塑性ポリマー又は熱硬化性ポリマーであることができる。ポリマー系はプラスチックであることができる。これらのプラスチック系は、成形、押出、コーティング、圧延、又は他の方法でポリマー成分にされたものから選択することができる。さらに、ポリマー群は、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマー、及び/又は1つ、2つ、3つ若しくはそれ以上の異なる繰り返し単位を含有するポリマーであることができる。さらに、ポリマー群は、任意のタイプのポリマー群、例えば、ランダムポリマー、交互ポリマー、グラフトポリマー、ブロックポリマー、星形ポリマー、及び/又はくし形ポリマーであることができる。ポリマー群は、1つ又は複数のポリブレンドであることができる。ポリマー群は、相互貫入ポリマーネットワーク(IPN)、同時相互貫入ポリマーネットワーク(SIN)、又は相互貫入エラストマーネットワーク(IEN)であることができる。
【0010】
ポリマーの具体例としては、限定されないが、直鎖状高分子、例えば、ポリエチレン、ポリ(塩化ビニル)、ポリイソブチレン、ポリスチレン、ポリカプロラクタム(ナイロン)、ポリイソプレンなどが挙げられる。使用するのに適したポリマーの他の一般的な分類としては、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリ電解質、ポリエステル、ポリエーテル、エポキシ、ポリ無水物、(ポリヒドロキシ)ベンゼン、ポリイミド、硫黄含有ポリマー(例えば、ポリスルフィド、(ポリフェニレン)スルフィド、及びポリスルホン)、ポリオレフィン、ポリメチルベンゼン、ポリスチレン及びスチレンコポリマー(ABS含有)、アセタールポリマー、アクリルポリマー、アクリロニトリルポリマー及びコポリマー、ハロゲン含有ポリオレフィン(例えば、ポリ塩化ビニル及びポリ塩化ビニリデン)、フルオロポリマー、アイオノマーポリマー、1つ又は複数のケトン基を含有するポリマー、液晶ポリマー、ポリアミドイミド、1つ又は複数のオレフィン二重結合を含有するポリマー(例えば、ポリブタジエン及びポリジシクロペンタジエン)、ポリオレフィンコポリマー、ポリフェニレンオキシド、ポリシロキサン、ポリ(ビニルアルコール)、ポリウレタン、熱可塑性エラストマーなどが挙げられる。幾つかの実施形態において、ポリマーは、ポリオレフィン、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリアクリレート、ポリアミド、ポリエステル、又はそれらの混合物である。特に適切なポリマーとしては、ポリオレフィン及びポリアミドが挙げられる。
【0011】
幾つかの実施形態において、ポリマーは、例えば、ポリオレフィン、ビニルハライドポリマー、ビニリデンハライドポリマー、ペルフルオロ化ポリマー、スチレンポリマー、アミドポリマー、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリフェニレンオキシド、ポリフェニレンエーテル、ポリケトン、ポリアセタール、ビニルアルコールポリマー、又はポリウレタンであることができる。有用なポリマー又は樹脂としては、PET又はポリエチレンテレフタレート、ポリスチレン、PBT又はポリブチレンテレフタレート及びPBT合金、ポリプロピレン、ポリウレタン、スチレン−アクリロニトリルコポリマー、ABS又はアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンターポリマー、PVC又はポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリカーボネート、PP/PS又はポリプロピレンポリスチレン合金、ナイロン、ポリアセタール、SAN又はスチレンアクリロニトリル、アクリル、セルロース、ポリカーボネート合金、並びにPP又はポリプロピレン合金が挙げられる。これらの材料の他の組み合わせを使用することができる。
【0012】
様々なポリマーを部分結晶化カーボンブラックと組み合わせて複合ポリマーを形成することができる。複合ポリマーとしては、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、ポリエチレン(PE、例えば、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、メタロセン中密度ポリエチレン(mLLDPE))、ポリプロピレン、ポリプロピレンのコポリマー、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエンターポリマー(例えばEPDM)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリロニトリルEPDMスチレン(AES)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA、例えば、PA6、PA66、PA11、PA12及びPA46)、ポリ塩化ビニル(PVC)、テトラエチレンヘキサプロピレンフッ化ビニリデンポリマー(THV)、ペルフルオロアルコキシポリマー(PFA)、ポリヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ポリケトン(PK)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、コポリエステル、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、及びポリフェニレンエーテル(PPE)を挙げることができる。具体的な配合物としては、PC/ABS、PC/PBT、PP/EPDM、PP/EPR、PP/PE、PA/PPO、及びPPO/PEが挙げられる。ポリマー組成物は、所望の全体の特性、例えば、漆黒性、伝導率、硬さ、剛性、平滑性、及び引張特性を得るために最適化することができる。上述のリストは、排他的であることを意味するのではなく、使用することができる様々な材料の単なる例示を意味するものである。これらのポリマー材料のうち1つ又は複数を含有するポリマーの配合物であって、説明したポリマーが主成分又は微量成分のいずれかとして存在する配合物をまた使用することができる。ポリマーの具体的なタイプは、所望の用途に依存する場合がある。ポリマーの具体例は、以下でより詳細に説明される。
【0013】
一般的に、the Encyclopedia of Chemical Technology,KIRK−OTHMER(1982)のVolume18の328〜887頁、Modern Plastics Encyclopedia’98のB−3〜B−210頁、及び、C.A.Daniels,Technomic Publishing Co.,Lancaster,Pa.による“Polymers:Structure and Properties,”(1989)に記載されるポリマー群は、全てが参照することにより本明細書に全体として組み込まれ、1つ又は複数のポリマーとして使用することができる。ポリマーは、多くの方法で調製することができ、そのような方法は当業者に公知である。上記のKIRK−OTHMERセクション、Modern Plastics Encyclopedia,及びC.A.Danielsの文献は、これらのポリマーを調製することができる方法を提供している。
【0014】
本開示のポリマー組成物はまた、それらの公知の目的及び量のために、適切な添加剤を含むことができる。例えば、組成物はまた、架橋剤、加硫剤、安定剤、顔料、染料、着色剤、金属不活性剤、油増量剤、潤滑剤、及び/又は無機充填材などの添加剤と、本明細書の他の箇所で議論した他の添加剤とを含むことができる。幾つかの実施形態において、複合体はまた、熱伝導率を増加するための追加の粒状物を含むことができる。多くの実施形態において、カーボンブラックは粒状物のみであり、ポリマー複合体は他の粒状物を含まないことができる。幾つかの実施形態において、カーボンブラックは、ポリマー複合体中で50wt%超、75wt%超、又は95wt%超の粒状材料を含むことができる。
【0015】
商業的に利用可能な混合機を使用する、様々な成分を共に混合するような従来技術を使用して、ポリマー組成物を調製することができる。組成物は、当技術分野で周知のプロセスのようなバッチ式又は連続式混合プロセスにより調製することができる。例えば、不連続密閉式混合機、連続密閉式混合機、往復単一スクリュー押出機、ツイン及びシングルスクリュー押出機などの設備を使用して、配合物の成分を混合することができる。カーボンブラックは、多成分ポリマー系の成分の1つ又は複数に加えることができ、成分のそれぞれにおいて同一又は異なる濃度で組み込むことができる。例えば、2成分エポキシ系において、カーボンブラックをエポキシ樹脂、架橋剤、又はその両方の中に混合することができる。コポリマー及びターポリマーについては、部分結晶化カーボンブラックは、プレポリマー成分の1つ、複数又は全ての中に組み込むことができる。幾つかの例において、各成分中の部分結晶化カーボンブラックの濃度を変更して、様々な成分の粘度に適合することを補助することができ、又は他の方法で成分の混合を改善することができる。部分結晶化カーボンブラックはまた、ポリマー配合物中で使用することができる。本明細書で使用される場合、ポリマー配合物は、2つ以上の異なるポリマーの均一な混合物であり、コポリマー又はターポリマーとは異なる。部分結晶化カーボンブラックは、硬化の前にポリマー配合物中に直接導入することができ、第2のポリマー前駆体との配合の前にポリマー前駆体の1つ又は複数に導入することができる。部分結晶化カーボンブラックはまた、硬化の前に同様又は異なるポリマー系の中にその後混合するためのキャリアとして使用されるマスターバッチの中に組み込むことができる。マスターバッチ中で、部分結晶化カーボンブラックの濃度は、得られる複合ポリマー組成物より極めて多い(例えば、2倍以上、3倍以上、4倍以上、又は2〜10倍、例えば3〜8倍又は2〜6倍)ことができる。自動車用途についての物品としてそのような材料を製造する将来の使用のために、部分結晶化カーボンブラックを含む複合ポリマー組成物を混合して、ペレット状に形成することができる。
【0016】
部分結晶化カーボンブラックは、粒子を完全に結晶化させることなく、(例えば、炉、熱、ランプ、プラズマ又はアセチレン分解プロセスで作られる)ベース(未処理)カーボンブラックの結晶化度を増加させることで形成することができる。ベースファーネスブラックは、16〜21Åの範囲の典型的なラマン微結晶平面寸法(La)を有する天然結晶化度を示す。ある実施形態において、ベースカーボンブラックは、ベースカーボンブラックの制御された熱処理により部分的に結晶化される。カーボンブラックは、それがカーボンブラック粒子の形態、表面エネルギー、及び結晶化度を変える二次(一次粒子の製造後)熱処理にさらされる場合に、「熱処理又は熱加工される」、又は「熱的に処理又は加工される」。カーボンブラック粒子の結晶化はまた、一次粒子の形状を変えることができ、例えば、実質的に球状から、より(しかし必ずしも完全でない)多面体形状に変えることができる。
【0017】
部分結晶化カーボンブラックは、容易に利用可能なベースカーボンブラックから形成することができる。用いることができる適切なベースカーボンブラックとしては、VULCAN(登録商標)XC72、VULCAN(登録商標)XC72R、及びVULCAN(登録商標)XC500のカーボンブラック、並びに、キャボットコーポレーションから全て利用可能なRegal(登録商標)、Black Pearls(登録商標)、Spheron(登録商標)、CSX(商標)、Vulcan(登録商標)及びSterling(登録商標)の名の下で販売される他のカーボンブラックが挙げられる。他のカーボンブラック、例えば、AkzoNobelにより供給されるKETJEN(登録商標)EC300及びKETJEN(登録商標)EC600のカーボンブラック;Evonikにより供給されるPRINTEX(登録商標)XEカーボンブラック;TIMCALにより供給されるEnsaco(登録商標)350カーボンブラック;Birla Carbonから入手可能なRaven(登録商標)、XT Technology、Ultra(登録商標)、他のカーボンブラック;Orion Engineered Carbons;S.Aから入所可能なCorax(登録商標)、Durex(登録商標)、Ecorax(登録商標)、Sable(商標)及びPurex(登録商標)商標及びCKライン;Unipetrol RPA(Unipetrol Group)により供給されるS.A.,及びChezacarb(登録商標)Bカーボンブラックをまた、ベースカーボンブラックとして利用することができる。
【0018】
結晶化度の1つの測定は、ラマン微結晶平面寸法である。La(結晶平面寸法)のラマン測定は、Gruberらの「Raman Studies of Heat−Treated Carbon Blacks,”Carbon Vol.32(7),pp.1377 1382,1994」に基づき、これは参照することにより本明細書に組み込まれる。カーボンのラマンスペクトルは、それぞれ「D」バンド及び「G」バンドとして示される約1340cm-1及び1580cm-1での2つの主要な「共鳴」バンドを含む。一般的に、Dバンドは不規則sp2カーボンに起因し、Gバンドは黒鉛又は「規則」sp2カーボンに起因すると考えられる。経験的なアプローチを使用して、X線回折(XRD)により測定されるLa及びG/Dバンド比は高く相関しており、回帰分析により経験的関係:La=43.5×(Gバンド領域/Dバンド領域)が与えられ、Laはオングストロームで計算される。したがって、より高いLa値は、より規則的な結晶構造に対応する。結晶化度はまた、X線回折(XRD)により測定することができる。
【0019】
1つの製造方法において、熱処理されたカーボンブラックは、管炉中で又は他の適切なヒーター中で調製することができる。炉は、電気的に又は化石燃料の燃焼により加熱することができる。カーボンブラック層(bed)の温度は、カーボンブラックの全てが同一の反応条件にさらされることを保証するように、全体を通じて一貫している場合がある。カーボンブラック層は静止していることがあり又は流動層であることがある。試料は、例えば以下で提供されるように、所望の部分結晶化度に達するがそれを超えないのに十分な時間の間、特定の温度にさらすことができる。試料は、不活性環境において熱的に処理することができ、窒素のような不活性ガスは、カーボンブラックを通じて又はカーボンブラック上を通り、カーボンブラックから失われる任意の揮発物の除去を助けることができる。様々な時間間隔を試すことにより、オペレータは、試料を分析することができ、カーボンブラックの結晶化度レベルを正確に決定することができる。当業者は、そのような処理の後にカーボンブラックをサンプリングすることができ、ラマン微結晶化度を分析し、それに応じて、例えば標的レベルの結晶化度又は表面エネルギーを達成するためのプロセスを調整する。特定のベースカーボンブラックについて時間温度プロファイルが決定された後、その特定のベースカーボンブラック上で、そのプロファイルを繰り返して、例えば、所望の結晶化度、表面エネルギー、表面積及びOAN構造を有する部分結晶化カーボンブラックを複製することができる。熱処理の他の方法は当業者に公知であり、そして、同様に較正することができる。
【0020】
様々な実施形態において、カーボンブラック粒子は、600℃以上、700℃以上、800℃以上、1000℃以上、1100℃以上、1200℃以上、1300℃以上、1400℃以上、1500℃以上、又は1600℃以上の温度にさらすことができる。他の実施形態において、カーボンブラック粒子は、600℃未満、800℃未満、1000℃未満、1100℃未満、1200℃未満、1300℃未満、1400℃未満、1500℃未満、1600℃未満、1700℃未満、又は1800℃未満の温度にさらすことができる。処理のための具体的な温度範囲としては、1000〜1800℃、1100〜1700℃、1100〜1600℃、1100〜1500℃、1100〜1400℃、及び1100〜1300℃が挙げられる。その処理は、窒素のような不活性中で行うことができる。選択した温度での材料の滞留時間は、ミリ秒程度に短いか、又は30分間以上、1時間、2時間又は2時間超であることができる。幾つかの実施形態において、滞留時間は、10時間未満、3時間未満、2時間未満、90分間未満、1時間未満、又は30分間未満に制限することができる。温度を一定に保つことができ、又は代替的な実施形態において、滞留時間の間に温度を上下に傾斜をつけることができる。
【0021】
幾つかの実施形態において、部分結晶化カーボンブラックは、20Å以上、23Å以上、24Å以上、25Å以上、26Å以上、27Å以上、28Å以上、29Å以上、30Å以上、35Å以上、又は40Å以上のラマン微結晶平面寸法(La)を有することができる。幾つかの場合において、部分結晶化カーボンブラックは、100Å以下、75Å以下、50Å以下、40Å以下、35Å以下、又は30Å以下のラマン微結晶平面寸法(La)を有する。ラマン分光法により測定される結晶化度はまた、粒子の比結晶化度を使用して表すことができ、幾つかの場合において、比結晶化度は、25超、30超、35超、37超、40超、42超、又は50超であることができる。同一又は異なる例では、65未満、60未満、55未満、50未満、45未満、42未満、40未満、38未満、35未満、32未満、又は27未満の比結晶化度を示すことができる。
【0022】
部分結晶化は、ベースカーボンブラックの天然ラマン微結晶平面寸法を、2Å以上、4Å以上、6Å以上、8Å以上、10Å以上、12Å以上、14Å以上、16Å以上、18Å以上、20Å以上、22Å以上又は24Å以上増加させること、及び/又は天然ラマン微結晶平面寸法を、35Å以下、30Å以下、25Å以下、20Å以下、15Å以下又は10Å以下増加させることを含むことができる。同様に、ベースカーボンブラックの天然ラマン微結晶平面寸法を、10%超、20%超、30%超、50%超、75%超、100%超、120%超又は150%超増加させることができる。幾つかの実施形態において、ベースカーボンブラックのラマン微結晶平面寸法の増加は、10%未満、20%未満、30%未満、50%未満、75%未満、100%未満、120%未満又は150%未満に限定されることができる。結晶化の量は、様々な時間間隔においてカーボンブラックの試料を取り出し、ラマン微結晶平面寸法を測定することで確認することができる。
【0023】
ベースカーボンブラックの処理により、ラマン微結晶平面寸法(La)を、5Å超、10Å超、15Å超、20Å超又は25Å超増加させることができ、表面エネルギーを減少させ、一方で、ブルナウアー−エメット−テラー(BET)表面積の減少を25%以下、例えば10%以下限定することができ、又はベースカーボンブラックのBET表面積に対して1〜25%、5〜25%、10〜25%、1〜10%又は5〜10%減少させることができる。同様に、ベースカーボンブラックと比較した場合に部分結晶化カーボンブラックが5%未満、10%未満又は25%未満減少したOAN構造を有するように、OAN構造を保つことができる。
【0024】
カーボンブラック粒子の表面エネルギー(SE)は、重量計器を使用して水蒸気吸着を測定することで決定することができる。カーボンブラックの試料は、湿気のあるチャンバー中の微量てんびん上に乗せられ、一連の相対湿度のステップ変化で平衡させる。質量変化を記録する。相対湿度の関数とした平衡質量の増加を使用して、蒸気吸着等温線がもたらされる。試料のための拡散圧力(mJ/m2)は、πe/BETとして計算され、式中において、
【数1】
であって、Rは理想気体定数、Tは温度、Γは吸着した水のモル数、p0は蒸気圧、pは各増加ステップにおける蒸気の部分圧力である、拡散圧力は、固形物の表面エネルギーに関連し、固形物の疎水/親水特性の指標であり、より低い表面エネルギー(SE)はより高い疎水性に対応している。
【0025】
幾つかの実施形態において、部分結晶化カーボンブラックは、10mJ/m2以下、9mJ/m2以下、8mJ/m2以下、7mJ/m2以下、6mJ/m2以下、5mJ/m2以下、又は3mJ/m2以下の表面エネルギー(SE)を有する。同一及び他の実施形態において、部分結晶化カーボンブラックは、0mJ/m2超、1mJ/m2超、2mJ/m2超、3mJ/m2超、4mJ/m2超、5mJ/m2超、6mJ/m2超、7mJ/m2超、mJ/m2超8、又は9mJ/m2超の表面エネルギー(SE)を有する。
【0026】
カーボンブラックの表面積を測定する1つの方法は、ブルナウアー−エメット−テラー(ASTM6556によるBET)法である。本明細書で使用される部分結晶化カーボンブラックの異なる実施形態では、100m2/g以上、例えば100〜600m2/gの範囲のBET表面積を有することができる。他の場合において、部分結晶化カーボンブラックは、200m2/g以上、300m2/g以上、400m2/g以上、500m2/g以上又は600m2/g以上のBETを有する。幾つかの実施形態において、部分結晶化カーボンブラックのBETは、1200m2/g未満、1000m2/g未満、800m2/g未満、700m2/g未満、600m2/g未満、又は500m2/g未満である。特定のある実施形態において、BET表面積は、40〜400m2/g、46〜350m2/g、40〜300m2/g、又は40〜200m2/gの範囲であることができる。別の実施形態において、BET表面積は425±25m2/g未満である。
【0027】
カーボンブラックの表面積を特徴づける他の方法は、統計的厚さ比表面積(ASTM D6556に従ったSTSA)を使用することである。本明細書で説明するカーボンブラックの多くのSTSAは、100m2/g以上、例えば、100〜600m2/gの範囲であることができる。他の場合において、部分結晶化カーボンブラックは、200m2/g以上、300m2/g以上、400m2/g以上、500m2/g以上、又は600m2/g以上のSTSAを有する。幾つかの実施形態において、部分結晶化カーボンブラックのSTSAは、1200m2/g未満、1000m2/g未満、800m2/g未満、700m2/g未満、600m2/g未満、又は500m2/g未満である。
【0028】
熱処理は、部分結晶化を提供する1つの方法ではあるが、具体的な温度、滞留時間、及び炉形状は、所望のレベルの結晶化度、構造、表面積及び表面エネルギーに達するように調整されることが必要である場合がある。例えば、制限された時間(例えば、10時間未満、2時間未満又は1時間未満)で、1100〜1800℃の範囲の温度においてベースカーボンブラックを加熱することで調製される部分結晶化カーボンブラックは、100〜1100m2/gの範囲のBET表面積(ASTM6556)と、1つ又は複数の他の特性、例えば、10mJ/m2以下(例えば、9mJ/m2以下、6mJ/m2以下、又は3mJ/m2以下)の表面エネルギー(SE)、22Å以上かつ60Å未満の(例えば、22〜60Å、25Å以上、又は25〜50Åなど)のラマン微結晶平面寸法(La)、又はそれらの組み合わせとを有する熱的に処理されたカーボンブラックを作り出すことができる。
【0029】
多くの実施形態において、部分結晶化カーボンブラックの構造は、特定の範囲内で制御することができる。構造は、当業者に公知であり、ASTM D2414に記載される吸油価(OAN)を使用して測定することができる。例えば、OANは、120cm3/100g超、140cm3/100g超、又は160cm3/100g超であることができる。他の実施形態において、200cm3/100g未満、180cm3/100g未満、又は160cm3/100g未満であることができる。ある実施形態において、OANは、120cm3/100g超かつ200cm3/100g未満であることができる。実験データは、ベースカーボンブラックのOANが低すぎると、部分的な結晶化が熱伝導率に改善を提供しないことを示している。
【0030】
1つの熱処理の実施形態において、部分結晶化の前のカーボンブラック(ベースカーボンブラック)は、10mJ/m2超の表面エネルギー及び50m2/g以上のBET表面積(ASTM6556)を有する。例えば、BET表面積は、100m2/g以上、200m2/g以上、300m2/g以上、500m2/g以上、1000m2/g以上、1200m2/g以上、1300m2/g以上、1400m2/g以上、又は1500m2/g以上であることができる。同一又は異なる実施形態において、BET表面積は、150m2/g以下、300m2/g以下、500m2/g以下、1000m2/g以下、1500m2/g以下、又は2100m2/g以下であることができる。ベースカーボンブラックは、幾つかの場合において、10mJ/m2超の表面エネルギー及び200〜1500m2/gのBET表面積、例えば、300〜1500m2/g、500〜1500m2/g、1000〜1500m2/g、300〜1000m2/g、500〜1000m2/g、300〜500m2/g、又は200〜500m2/gを有する。BET表面積の同一の範囲は、これらのベースカーボンブラックから作られた部分結晶化カーボンブラックにおいて維持することができるが、表面エネルギーは、典型的に、ベースカーボンブラックより低い。ベースカーボンブラックはファーネスブラックであることができる。
【0031】
特定のある例において、部分結晶化カーボンブラックは、125〜175m2/g、例えば、約138〜169m2/gの範囲内、例えば130m2/g、135m2/g、138m2/g、142m2/g、147m2/g、150m2/g、155m2/g、160m2/g、165m2/g又は169m2/gのBET表面積;135〜142m2/gの範囲内、例えば、136m2/g、137m2/g、138m2/g、139m2/g、140m2/g又は141m2/gの外面積(STSA);0.44〜0.49ml/g、例えば、0.45ml/g、0.46ml/g、0.47ml/g又は0.48ml/gの全体孔体積;28.4〜34.6Å、例えば、29.0Å、29.5Å、30.0Å、30.5Å、31.0Å、31.5Å、32.0Å、32.5Å、33.0Å、33.5Å又は34.0Åのラマン結晶度(La);並びに、4.9〜6.3mJ/m2、例えば、5.2mJ/m2、5.5mJ/m2、5.8mJ/m2又は6.1mJ/m2の表面エネルギー(SE)を有する。
【0032】
部分結晶化カーボンブラックのASTM D1510に係るヨウ素価は、例えば、450mg/g未満、425mg/g未満、400mg/g未満、350mg/g未満、300mg/g未満、250mg/g未満、200mg/g未満であることができる。同一又は他の実施形態において、ヨウ素価は、50mg/g超、100mg/g超、150mg/g超、200mg/g超、250mg/g超又は300mg/g超であることができる。
【0033】
本明細書で説明する部分結晶化カーボンブラックは、典型的に未修飾であり、これは、これらが有機処理を含まないことを意味する。本明細書で使用される場合、未修飾のカーボンブラックは、それに化学的に結合した有機基を有さないカーボンブラックである。
【0034】
利用するポリマー系、特定の最終用途、混合技術、発生した粘度、最終製品の所望の特性、及び他の事項に適した任意の量でカーボンブラックを提供することができる。部分結晶化カーボンブラックは、全体濃度中で、約12〜約28wt%、好ましくは15〜25wt%、例えば、12〜20wt%、15〜23wt%、又は17〜28wt%の一般的な範囲内で、系中に存在することができる。日常の実験により決定する場合、他の充填レベルを使用することができる。充填レベルが極めて高いと、得られるポリマー組成物が物品を形成するには極めて高い粘度になり、充填レベルが低いと、十分な熱伝導率が提供されない。カーボンブラックの全体量を1つの成分のみに加えることができ、又は、用いるポリマー系を作り上げる複数又は全ての成分の間に分割することができる。2つの、3つ又は4つ以上の異なるカーボンブラックの混合物をまた使用することができる。
【0035】
本明細書で説明する部分結晶化カーボンブラックは、同一のポリマー系において、対応するベースカーボンブラックと比べた場合、改善した熱伝導率、並びに改善したレオロジーを提供することができる。例えば、ポリマー前駆体中での部分結晶化カーボンブラックの使用は、粘度の増加なく高い充填量を可能とし、又は代替的に、同様の充填量及びより低い粘度を可能とすることができる。例えば12〜28wt%の濃度でポリマー系中において使用される場合、21Å未満のラマン微結晶化度(La)を示す対応するベースカーボンブラックと比較すると、部分結晶化カーボンブラックは、対応するベースブラックに比べて熱伝導率を5%超、10%超、15%超又は20%超改善することができる。同一の濃度において、バージンポリマーに対して1.6倍超、例えば、バージンポリマーに対して1.7〜3倍、又は2〜4倍、熱伝導率を改善することができる。同一の濃度において、ポリマー前駆体のメルトフローインデックス(MFI)を、50%超、100%超又は150%超改善することができる。熱伝導率及び粘度のこれらの改善は、独立して又は連動して得ることができる。例えば、1対1対応でベースカーボンブラックを部分結晶化カーボンブラックに置換すると、改善した粘度及び改善した熱伝導率の両方を示すポリマー組成物を提供することができる。代替的に、ベースカーボンブラックを部分結晶化カーボンブラックに置換することは、ポリマー組成物に加えられるカーボンブラックの量が、カーボンブラックのより効率的なグラムあたりの伝熱と、組成物中のカーボンブラックのより高い充填量とに起因して、流れ特性の損失はないが、熱伝導率の実質的利得を含み増加させることができることを意味する。別の態様において、ポリマー組成物中での部分結晶化カーボンブラックの使用は、ポリマー組成物中での熱伝導率の損失なく、低減した量のカーボンブラックの使用を可能とする。
【0036】
幾つかの実施形態において、ポリマー系は、ポリマーと、部分結晶化カーボンブラックとからなるか、又はそれらから本質的になる。他の実施形態において、複合ポリマー組成物のポリマー成分は、ポリマー系の50wt%超、75wt%超、又は85wt%超を占める。別の実施形態において、ポリマー系は、ポリマーと、部分結晶化カーボンブラックと、窒化ホウ素(BN)とからなるか、又はそれらから本質的になる。
【0037】
カーボンブラック及びポリマー成分以外の成分は、本明細書で説明するポリマー中に存在することができ、及び/又はその調製において利用することができる。これらの成分(「添加剤」とも称される)の性質、量及び/又は割合は、典型的に、利用するポリマー系、最終用途、処理条件、特性、例えば、前駆体配合物の粘度、及び他の事項に依存する。多くの場合において、利用するポリマー系の一部として添加剤が提供され、及び/又は、配合プロセス中、硬化の前若しくは間、又は別の適切な時間に、適切な位置において添加剤を追加することができる。量は、しばしば、選択するポリマー系により事前に決められる。これは、特に棚システムで当てはまる。他の場合において、適切な添加剤量は、経験に基づいて及び/又は日常の実験により決定することができる。追加の成分の例としては、限定されないが、硬化剤、レオロジー改質剤、ワックス、反応性希釈剤、増量剤、顔料、充填材、触媒、UV及び熱安定剤、接着促進剤、例えば、シラン、界面活性剤、粘着付与剤、溶媒、及びその他が挙げられ、本明細書の他の箇所で議論した他の添加剤を含む。
【0038】
幾つかの実施形態において、組成物は、伝熱を促進するための第2種の粒子を含むことができる。例えば、部分結晶化カーボンブラックに加えて、組成物は、高熱伝導性(HTC)粒子を含むことができる。HTC粒子は、セラミックスのような非導電材料、例えば、窒化アルミニウム(AlN)、酸化ベリリウム、炭化ケイ素、及び窒化ホウ素(BN)を含む。導電性HTC粒子としては、元素表からの金属、例えば、モリブデン、アルミニウム、銅、タングステン、銀及び金が挙げられる。他のHTC粒子は、鉱物、例えば、ダイヤモンド、コランダム、ヘマタイト、スピネル、及び黄鉄鉱を含むことができる。HTC粒子の特定の形状は、伝熱を改善することができ、粒子は、球、円筒(ロッド)、立方体、刃形、又はプレートレットの形態であることができる。HTC粒子はまた、不規則な形状であることができる。幾つかの実施形態において、これらのHTC粒子は、30W/mK超の熱伝導率を示す非炭素質粒子を含む。部分結晶化カーボンブラックと併用することができるHTC粒子の具体例としては、BN、MgO、ZnO及びAl32が挙げられる。幾つかの場合において、BNのようなHTC粒子と部分結晶化カーボンブラックとの組み合わせは、全体が等量の充填量(質量又は容量)のBNのみより効率的な伝熱を提供することを示している。例えば、BNのようなHTC粒子と部分結晶化カーボンブラックとの組み合わせは、BN及び部分結晶化カーボンブラックがない同一のポリマー組成物に比べて、ポリマー組成物の熱伝導率を1.5倍、2倍、3倍、4倍以上、例えば、1.5〜6倍又は2〜4倍増加させることができる。
【0039】
本明細書で説明され複合ポリマー及びポリマー前駆体を形成するために、適切な順序で、初期材料の複数又は全ての同時混合を含む適切な混合技術を使用して成分が混合される。
【0040】
本明細書で使用される場合、ポリマー前駆体は、まだポリマー化していないが、架橋又は他のポリマー化プロセスを通じてポリマーにすることができるモノマー又はオリゴマーである。本明細書において、カーボンブラック複合体を形成するために使用されるポリマー前駆体は、カーボンブラックが前駆体全体にわたって均一に分散することができるのに十分に流体である。1つの例において、部分結晶化カーボンブラックは、熱硬化性のポリマー前駆体のようなポリマー前駆体と組み合わせられる。当技術分野で知られているように、適切な条件下(例えば、特定の温度、圧力、硬化時間、硬化剤の存在、及び/又は他のパラメータ)において、ポリマー前駆体が硬化される(ポリマー化される)。前駆体は、本明細書で説明される導電性材料又はそれらの成分を形成するために用いられる完全なポリマー系であることができる。様々な実施形態において、部分結晶化カーボンブラックは、集合体又は凝集体の形態で分散することができる。
【0041】
多成分系(すなわち、2つ以上の成分で作られた系)において、カーボンブラックの全体量は、成分の複数又は全ての間で分割することができる。各成分の量の比は、例えば、成分の相対容量によって決めることができる。幾つかの多成分系において、しばしば、処理、例えば混合を容易にするために成分の粘度を適合することが試みられる。そのような場合において、カーボンブラックを、同様の粘度をもたらすために選択された量の2つ以上の前駆体成分に加えることができる。そのような量は、日常の実験で決定されるか又は配合する者の経験に基づいて決定することができる。
【0042】
各ポリマー前駆体成分中のカーボンブラックの比はまた、当技術分野で知られているように、使用される硬化剤の性質、所望の硬化時間、最終製品の特性などの因子によって決定することができる。カーボンブラック:ポリマー前駆体の重量比は、例えば、1:1〜1:10、例えば1:2〜1:8又は1:4〜1:6であることができる。他の適切な比を選択することができる。例示の2つの2成分の配合物において、典型的に架橋剤に加えられるより少ない(50wt%未満、例えば40wt%未満、30wt%未満、又は25wt%未満、例えば、約45〜約15wt%、40〜約20wt%、又は35〜約25wt%の範囲の)量で、カーボンブラックが両成分に加えられる。
【0043】
固体の成分をポリマー前駆体と混合することについて、様々な混合技術が公知である。例えば、乾燥粉末混合を、固体形状のポリマー前駆体と共に用いることができる。最終用途に応じて、得られる混合物を液体と組み合わせてスラリー又はペーストを形成することができる。
【0044】
しかしながら、十分に低い粘度を示す前駆体を用いて、前駆体中にカーボンブラックと、任意選択で他の添加剤とを分散させることで、好適に混合を得ることができる。多くの場合において、カーボンブラックと、任意選択で他の添加剤とは、当技術分野で知られているように、適切な混合設備、例えば、3ロールミル、シグマブレード混合機、高せん断混合機、又は他の物を使用して分散させることができる。混合操作は、手動又は機械によって行うことができる。
【0045】
プロセスを容易にするために、共溶媒及び/又は分散剤を加えることができる。特定の実施形態において、分散体は、更なる共溶媒及び/又は分散財の非存在下で、すなわち、初期の配合レシピの一部でない共溶媒及び/又は分散剤を加えることなく形成される。他の場合において、本明細書で説明されるようなカーボンブラックを使用することで、元のレシピ(例えば、未処理のカーボンブラックを使用する配合のためのレシピ)で要求される溶媒及び/又は分散剤の量が低減される。
【0046】
混合物中で達成されるカーボンブラックの分布は、目視により又は適切な量的若しくは質的分析技術により評価することができる。均一又は実質的に均一な分布は、最終製品の導電率、熱伝導率、機械的強度、及び/又は他の特性を促進すると考えられる。
【0047】
多くの場合において、カーボンブラック及びポリマー前駆体を含む組成物は粘弾性であり、すなわち、変形を受けた際に粘性及び弾性の両方の特性を示す。適用された応力の下で粘性材料はせん断流に耐え、時間と共に線形にひずむのに対して、弾性材料は、引き延ばされ応力が取り除かれた後に元の状態に即座に戻る際にひずむ。粘弾性材料は、両方の特性の要素を有し、時間依存性ひずみを示す。
【0048】
粘弾性は、典型的に、動的機械分析を使用し、小さい振動応力を適用し、得られるひずみを測定することで調べられる。純弾性材料を用いると、一方によりもたらされる他方の反応が即座であるように、応力及びひずみが対応しているが、純粘性材料においては、ひずみが応力に対して90°位相が遅れる。粘弾性材料は、中間の挙動を示し、ひずみの幾らかの遅れを示すと考えられる。
【0049】
複素動的弾性率Gは、一般的に、振動応力とひずみの間の関係:G=G’+iG”(複素動的弾性率の実数部G’は貯蔵弾性率であり、虚数部のG”は損失弾性率であり、i2=−1である)を示すために使用される。
【0050】
σ0及びε0がそれぞれ応力及びひずみの振幅である場合、δはその2つの間の位相シフトであり、G’=(σ0/ε0)cosδ、G”=(σ0/ε0)sinδである。
【0051】
動的機械分析(DMA)を行い、弾性率(又は貯蔵弾性率G’)と、粘性弾性率(又は損失弾性率G”)と、温度、周波数又は時間の関数とした減衰係数(tanδ)とを決定することに関する技術は、例えば、ASTM D4065、D4440及びD5279において説明される。
【0052】
多くの場合において、カーボンブラック又は他の固体成分を粘弾性組成物と組み合わせることは、その貯蔵弾性率を増加させる傾向にある。しかしながら、過剰な増加は、組成物の混合及び/又は操作、例えば、その適用を、難しくさせるか又は不可能にさせる場合がある。実際に、これは、加えることができるカーボンブラックの量を制限し、したがって、熱伝導率及び/又は第1の場所でカーボンブラックを加えることで求められる他の効果を抑制する。しかしながら、本明細書で説明されるカーボンブラック、例えば部分結晶化カーボンブラックは、貯蔵弾性率の増加を緩和することができることを発見した。例えば、2成分エポキシ系の成分に加えられる部分結晶化カーボンブラックは、ベースカーボンブラックであるカーボンブラックについて以外は組成物と同一(同一の成分及び量)である比較の配合物に比べて、組成物の貯蔵弾性率を約1桁分下げることができる。部分結晶化カーボンブラックを使用して達成可能なより低い粘度によって、配合物のレオロジー的柔軟性(rheological flexibility)が促進される。
【0053】
如何なる特定の解釈によって束縛されることを望むわけではないが、粒子−ポリマー適合性及び粒子−粒子結合力は、両方ともポリマー前駆体中のカーボンブラックの分散に影響を与えることができると考えられる。ベースカーボンブラック粒子の下地の構造及び形態は、その部分的に結晶化した形態と比較して本質的に変化しないが、未処理のカーボンブラックと部分結晶化カーボンブラックとは、分散させた場合に異なって挙動すると考えられる。したがって、部分結晶化カーボン粒子の表面は(未処理のカーボンブラックに対して)ポリマーにより適合し、分散を容易にすることができる。粒子−粒子の結合力の減少はまた、分散の促進をもたらす。その結果、部分結晶化カーボンブラックを含有するポリマー組成物を、未処理のカーボンブラックを含有するものより極めて低い粘度に配合することができる。次いで、配合する者は、カーボンブラックの充填及び/又は他の添加剤の充填を増加するための柔軟性を有することができる。別のアプローチにおいて、(変化のない充填量において)より低い粘性の組成物の混合、操作及び/又は適用により、その使用を容易にすることができる。
【0054】
粘弾性組成物は、当技術分野で公知の技術を用いて、所望の最終用途、例えば基材に適用することができる。粘弾性組成物の適用は、手動又は自動であることができ、押出、塗装、スプレー、ブラッシング、浸漬、又は別の適切な方法により行うことができる。他の場合において、組成物は成形されるか又は押し出される。
【0055】
熱伝導性ポリマーを製造するために、カーボンブラックを含有する組成物は、当技術分野で知られているように、又は、日常の実験及び/若しくは同様の配合物での経験により決定されるように、適切な条件(温度、傾斜及び浸漬手順、時間、圧力、放射、特定の硬化剤、必要に応じて特殊な特定の雰囲気など)下で硬化される。商業的な系を用いると、例えば、硬化は典型的に製造者により提供される指示に従って行われる。当技術分野で知られているように、硬化条件は、用いる特定のポリマー系に大きく依存し、熱硬化は共通の要求である。
【0056】
ポリマー系において1つ又は複数のポリマーを硬化することで、ポリマー−カーボンブラック複合体として考えることができる熱伝導性材料が製造される。多くの実施形態において、材料は、良好な熱伝導率並びに良好な機械的及びレオロジー特性を示す。
【実施例】
【0057】
例1:粘度
ポリマー前駆体中で部分結晶化カーボンブラックを使用するレオロジー効果を評価するために、複数のポリマー前駆体の試料を、ベースカーボンブラック及び部分結晶化カーボンブラックの両方を使用して調製した。これらは、高密度ポリエチレン(HDPE)、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)及びポリアミド−6(PA)を含んでいた。カーボンブラックのそれぞれを表1に特定した。カーボンブラックが表2において特定されるラマンLaを得るまで、表中に示される温度で不活性雰囲気においてカーボンブラックを熱処理した。カーボンブラックのそれぞれについて分析した特性を表2に示した。「NA」という文字は、値が測定されなかったことを意味し、「ND」は、値が検出限界未満であったことを意味する。ASTM D1510に従ってヨウ素価を決定し、ASTM D6556に従ってBET表面積を決定し、ASTM 2414に従ってOAN構造を決定し、表面エネルギー(SE)、ラマン結晶度(La)及び比結晶化度を、上述した方法に従って決定した。ポリマー複合体のメルトフローインデックスを、ISO1133に従って、示した荷重及び温度で測定した。
【0058】
HDPE樹脂は、LyondellBasell製のLupolen(商標)4261A IM樹脂であり、190℃の温度及び2.16kgの荷重で15g/10分間のMFIを示す。複合HDPE試料についてのメルト・フロー・インデックス(MFI)を、190℃及び21.6kgで10分間測定した。1.664Lのバッチ式バンバリー混合機を使用して、以下の条件の下においてカーボンブラックを混合した。
チャンバー冷却温度:40℃
ロータ冷却温度:40℃
混合時間ポストフラックス:90秒間
ラム圧力:4.2bars
ロータ速度:180RPM
【0059】
ポリスチレン(PS)樹脂は、Polimeri製のEdistir(商標)N1840樹脂であった。それは、200℃で5kgの荷重において10g/10分間のMFIを有していた。複合PS試料についてメルトフローインデックス(MFI)を、10kg及び200℃において10分間測定した。1.664Lのバッチ式バンバリー混合機を使用して、以下の条件の下においてカーボンブラックを混合した。
チャンバー冷却温度:20℃
ロータ冷却温度:20℃
混合時間ポストフラックス:90秒間
ラム圧力:4.2bars
ロータ速度:180RPM
【0060】
ポリカーボネート(PC)樹脂は、Chimei Asahi製のWonderlite(商標)PC−122樹脂であった。それは、300℃で1.2kgの荷重において22g/10分間のMFIを有していた。複合PC試料についてのメルトフローインデックスを、10kg及び260℃で10分間測定した。ポリカーボネートポリマーを、以下の条件で中程度のせん断スクリュープロファイルでAPVツインスクリュー押出機において調製した。
スクリュー速度:300RPM
出力:12kg/時間
ホッパーから型までの温度(℃):175−230−230−260−260−260−260−240
【0061】
ポリアミド−6(PA)は、Dupont製のZytel(商標)ST7301NC樹脂であった。複合PA試料についてのメルトフローインデックス(MFI)を、10kg及び275℃で10分間測定した。PAポリマーを、以下の条件で中程度のせん断スクリュープロファイルでAPVツインスクリュー押出機において調製した。
スクリュー速度:300RPM
出力:12kg/時間
ホッパーから型までの温度(℃):175−230−230−260−260−260−260−240
【0062】
ポリマー複合体のそれぞれについてのメルトフローインデックスの結果を表3に提供し、その結果は、同一の充填量において、部分結晶化カーボンブラックを含む複合体試料は、試料を形成するものである親又はベースカーボンブラックより、極めて有意に高いMFIを提供したことを示している。これらの改善がカーボンブラックの構造又は表面積を大きく変えることなく得られたことに注目すべきである。
【0063】
【表1】
【0064】
【表2】
【0065】
【表3】
【0066】
例2:熱伝導率の測定
部分結晶化カーボンブラックを含有する複合ポリマーの熱伝導率(TC)を評価するために、一連のHDPE複合体試料を、25℃においてNETZSCH(登録商標)LFA467光フラッシュ装置を使用して試験した。試料は、ベースカーボンブラックと、部分結晶化カーボンブラックとの両方を含んでおり、複合ポリマーを表1において上で説明したように製造した。熱伝導率の測定のための試験試料を、電気加熱プレスを使用して押出して、2.54cmのディスクを作った。型は316ステンレス鋼プレートで作られ、4つの1インチ穴と、316ステンレス鋼のカバープレートとを備えていた。各試料の1gを測って各円形の穴中に配置した。KEVLAR(登録商標)パラアラミドシートを各型の頂部及び底部上に配置した。プレスを365°Fに設定し、型を5分間加温するためにプレス上に配置し、次いで、閉鎖して、5分間23psiに加圧した。プレスを開けることで圧力を解放し、熱型を取り除き、10分間水冷プレス上に配置した。
【0067】
測定のための試料サイズは、25mm直径、約1mm厚の円形ディスクであった。キャリパー測定ツールを使用して3つの厚さの値の平均を取ることで、標本の厚さを測定した。試料を薄層のグラファイトスプレー潤滑剤でコーティングして、測定前に乾燥させた。試料を試料ホルダー中に設置して、25℃で4分間平衡化した。平衡化時間の後、各試料を、キセノンランプから生じる高強度かつ短時間の放射エネルギーでパルス化した。パルスのエネルギーを標本の前面で吸収し、IR検出器によって標本の後面上の温度上昇を測定した。測定した試料の厚さと、最小値に達するために温度について要求される時間とから、熱拡散率値を計算した。事前に決定した比熱テーブル(Pyroceram9XX)で標準的な参照材料を測定して、実験値を計算するためのProteus62 LFA分析ソフトウェアを使用することで、各試料の比熱を計算した。熱伝導率は以下の式1.0:k=ρ*cp*α(式中、kは熱伝導率(W/mK)、ρは試料の密度(g/m3)、cpは試料の比熱容量(J/g/K)、αは試料の熱拡散率(m2/秒))を使用して計算した。
【0068】
熱伝導率の結果を表4及び図1〜5に示した。図1は、VULCAN XC500タイプのカーボンブラック(CB1)と、2つのその部分結晶化誘導体CB2及びCB13とにより与えられた相対的な熱伝導率を示す棒グラフである。CB2についての結果は、ベースカーボンブラックより有意に高い熱伝導率を示している。CB2より高温で熱処理した試料CB13についての結果は、ベースカーボンブラックCB1と同一の熱伝導率を示している。この劣化した熱伝導率は、CB13は95ÅのラマンLa及び68の比結晶化度を有するようにカーボンブラックを過剰に結晶化したことによる、低下した粒子分散の結果であると考えられる。
【0069】
図2は、VULCAN XC72タイプのカーボンブラック(CB3)と、3つのその部分結晶化誘導体とにより与えられた相対的な熱伝導率を示す棒グラフである。部分結晶化誘導体CB4、CB14及びCB15のそれぞれは、ベースカーボンブラックより有意に高い熱伝導率を示した。これらの3つの部分結晶化カーボンブラックは、それぞれ39.5Å、39.5Å及び41.6ÅのラマンLa測定値を有していたことに注目すべきである。
【0070】
図3は、VULCAN XC200タイプのカーボンブラック(CB5)と、その部分結晶化誘導体CB6とにより与えられた相対的な熱伝導率を示す棒グラフである。CB6は、そのベースカーボンブラック(CB5)に比べて大きく改善した熱伝導率を提供し、29Å(11Åの増加)のラマンLaを有していた。
【0071】
図4は、REGAL85タイプのカーボンブラック(CB9)と、その部分結晶化誘導体CB10とにより与えられた相対的な熱伝導率を示す棒グラフである。部分結晶化誘導体は、そのベースカーボンブラックCB9と同一の熱伝導率を示した。部分結晶化しているが、ベースカーボンブラック(CB9)及び部分結晶化カーボンブラック(CB10)の両方の低構造(36cm3/100gのOAN)のため、熱伝導率がベースカーボンブラックに対して改善されなかったと考えられる。
【0072】
図5は、CSX99タイプのカーボンブラック(CB11)と、その部分結晶化誘導体CB12とにより与えられた相対的な熱伝導率を示す棒グラフである。部分結晶化カーボンブラックの熱伝導率は、それを誘導することで得られるベースカーボンブラック(CB11)の熱伝導率よりわずかに低かった。CB12は部分的に結晶化したが、その劣化した熱伝導率分布は、24Åの比較的低いラマンLaの結果であったと考えられる。
【0073】
全体として、これらの結果は、ベースカーボンブラックに代わり部分結晶化カーボンブラックを用いることでポリマー複合体の熱伝導率が有意に改善できることを示している。これらのデータはまた、ラマンLaが24Å超かつ95Å未満である場合、及び部分結晶化カーボンブラックのOAN構造が36cm3/100gより大きい場合に、最適な熱伝導率の結果が得られることを示している。
【0074】
上述したように、部分結晶化カーボンブラックはまた、ポリマー前駆体のレオロジーに悪影響を与えることなく、ベースカーボンブラックより高い充填量であることができる。これらのより高い充填量は、より高い熱伝導率と組み合わさって、レオロジー特性の損失なく、有意により高い熱伝導率を有するポリマー複合体を提供することができる。代替的に、(ベースカーボンブラックに比べ)より低いカーボンブラック充填量を、ポリマー複合体の熱伝導率の損失なく使用することができる。
【0075】
【表4】
【0076】
例3:熱伝導率の測定
別の一連の実験において、2つの異なるタイプの充填材を含んで製造された複合体試料において熱伝導率を測定した。結果を以下の表5に提供する。充填材濃度を容量パーセントとして与えた。Lyondell Basell Industriesから入手可能な同一なポリオレフィン樹脂Lupolen4261A IM HDPEと、全ての試料を組み合わせた。このポリオレフィンは15g/10分間(@190℃及び21.6kg)のメルトフローインデックスを有する。試料「BNI」は、Saint−Gobainから入手可能なPCTP30Dグレードの窒化ホウ素の高熱伝導率(HTC)粒子である。これらのBN粒子は、180μmのD50を有するプレートレットであり、熱処理はされていなく、30〜130の熱伝導率(W/mK)と、1.74の反射率と、3〜4の誘電率とを有する。各複合体は、以下で説明するように複合した。
【0077】
成形実験手順
35rpmで15分間170℃の温度で、粒子及びポリマー樹脂を60ccのBrabender混合機(0.7充填比)で混合することで各複合体を複合した。次いで、各バッチを混合チャンバーから取り除き、室温に冷却した。混合物が室温に到達した後、800rpmで駆動しポリマー複合体を粉砕して粉末にするRetsch SM300グラインダー中に混合物を導入した。得られたポリマー複合体粉末を収集して、365°Fで5分間、加熱したプレスで圧縮体を成形した。型解放工程を容易にするために、Kevlarシートをステンレス鋼型とポリマー複合体との間に配置した。次いで、得られたポリマー複合体成形体を水冷プレスに10分間配置した。最終的に得られたのは、熱伝導率測定に適した1組の25mm(直径)/1mm(厚さ)のディスクであった。
【0078】
熱伝導率実験手順
25℃でNETZSCH LFA467熱伝導率メータで、熱伝導率について全ての試料を測定した。測定のための試料サイズは、25mm直径、約1mm厚さの円形ディスクであった。キャリパー測定ツールから3つの厚さの値の平均を取ることで標本の厚さを測定した。試料を薄層のグラファイトスプレー潤滑剤でコーティングして、測定前に乾燥させた。次いで、試料を設備の試料ホルダー中に設置して25℃で4分間平衡化した。平衡化時間の後、各試料を、キセノンランプから生じる高強度かつ短時間の放射エネルギーでパルス化した。パルスのエネルギーを各標本の前面で吸収し、IR検出器によって標本の後面上の温度上昇を測定した。測定した試料の厚さと、最小値に達するために温度について要求される時間とから、熱拡散率値を計算した。事前に決定した比熱テーブル(Pyroceram9)で標準的な参照材料を測定して、実験値を計算するためのProteus62 LFA分析ソフトウェアを使用することで、各試料の比熱を計算した。熱伝導率は以下の式:k=ρ*cp*α(式中、kは熱伝導率(W/mK)。ρは試料の密度(g/m3)、cpは試料の比熱容量(J/g/K)、αは試料の熱拡散率(m2/秒))を使用して計算した。結果は以下の表5に提供される。
【0079】
【表5】
【0080】
図6は、BNのみ、熱処理カーボンブラックのみ、又は未処理のカーボンブラックのみのいずれかを含む複合体の熱伝導率の図示的表示を提供している。結果は、BNの優れた伝熱特性を示しているだけでなく、部分結晶化カーボンブラック(CB2)はその親材料CB1より有意に良好に機能することも示している。
【0081】
図7は、2つの異なる粒子タイプを含む複合体の幾つかを追加している。CB1及びBN1の組み合わせ並びにCB16及びBN1の組み合わせをプロットした。そのプロットから、これらのカーボンブラック及び窒化ホウ素の組み合わせが、BN自体と比較した際に熱伝導率を実際に低減したことを理解することができる。試された粒子比のそれぞれ(20+2.5、20+5、及び20+10)は、ただの20容量%のBNより低い熱伝導率を提供した。これは、窒化ホウ素と組み合わせると、これらのカーボンブラックが、窒化ホウ素のみを含みカーボンブラックを含まない複合体と比較して、複合体の熱伝導率を低減することを意味する。
【0082】
図8は、BN及び部分結晶化カーボンブラックの混合物を含むポリマー複合体を加えたものである。この場合において、カーボンブラックCB2の追加により、BNのみのものに対して熱伝導率が改善された。BN1−CB2の組み合わせは、各成分の粒子が自然に提供する熱伝導率の寄与を加算することで期待される熱伝導率よりも、ポリマー複合体において良好な熱伝導率を提供する。BN1−CB2の組み合わせは、等量の容量パーセントの純BNに寄与するのに比べ、大きく熱伝導率に寄与する。例えば、25%超の全体粒状物容量において、傾向線は、BN1−CB2の組み合わせが等量のBN1のみより良好な熱伝導率を提供することを示している。したがって、複合体中のBNの一部を部分結晶化カーボンブラックで置き換えることで、熱伝導率を実際に増加させつつコストを低減することができる。これは、30容量%、25容量%及び22.5容量%の全体粒状物充填量において2:1、4:1及び8:1のBN:CBの比(容量)について示される。
【0083】
例4
ポリマーとしてDupont製のZytel ST7301NCポリアミド−6を使用して、以下の表6に挙げた組成に従って、複合体を調製した。BN2は、3Mから入手可能なプレートレット15/400窒化ホウ素である。27mmのスクリュー直径及び40.5の長さ/直径比を有し、水浴で冷却された、Baker PerkinsによりサポートされるAPVツインスクリュー押出機において複合体を混合した。#2スクリューを使用し、押出機を300rpmで、2つのストランドについて8kg/時間の出力率で操作した。領域2、3及び9を250℃、領域4を260℃、そして領域5〜8を270℃で維持した。溶融ダイを260〜272℃の範囲にした。ベントポート1を大気圧に開けて、ベントポート2を閉じ、ベントポート3を真空下で維持した。トルクが安定しなかった30容量%のBN1を用いた試料を除き、トルクを33〜40%の範囲にした。熱伝導率及び体積抵抗率を例3で説明したように測定し、また、それらを以下の表6に示した。ASTM D1238(275℃/2.16kgのニートポリマーを除き、全ての試料について275℃/5kg)に従ってメルトフローインデックス(MFI)を測定した。
【0084】
【表6】
【0085】
また、20容量%のBN1及び5容量%のCB2を使用して、例3のHDPEと例4の混合方法を使用して、複合体を製造し、1.116±0.030W/mKの熱伝導率を達成した。これは、例3の方法を使用して製造された同一の複合体の熱伝導率より低かった。如何なる特定の理論に束縛されるわけではないが、例4においてツインスクリュー押出機により付加されたより高いせん断が窒化ホウ素プレートレットの幾らかを砕くことができ、例3においてより低いせん断のBrabender混合機を使用して製造された複合体と比較して熱伝導率を低減したと考えられる。
【0086】
本発明の幾つかの実施形態が説明され、本明細書内で示されてきたが、当業者は、機能を発揮させる及び/若しくは結果を得るための様々な他の手段及び/若しくは構造、並びに/又は、本明細書で説明される利点の1つ又は複数を容易に想定することができ、そのような変更及び/又は変形のそれぞれは、本発明の範囲内にあると認められる。より一般的には、当業者は、本明細書で説明した全てのパラメータ、寸法、材料、及び構成が例示であることと、実際のパラメータ、寸法、材料、及び/又は構成が、本発明の教示を使用する具体的な1つ又は複数の用途に依存することとを容易に認識することができる。当業者は、ただの日常の実験を使用して、本明細書で説明した本発明の具体的な実施形態に対して多くの同等な実施形態を認識するか又は解明することができる。したがって、前述した実施形態は例のみを目的として示されていることと、添付の特許請求の範囲及びその同等物の範囲内で、具体的に説明され、特許請求の範囲に記載されたものと別の方法で本発明を実施することができることとが理解されるべきである。本発明は、本明細書で説明したそれぞれの個々の特徴、系、物品、材料、キット、及び/又は方法を対象としている。また、そのような特徴、系、物品、材料、キット、及び/又は方法が相互に矛盾しない場合、2つ以上のそのような特徴、系、物品、材料、キット、及び/又は方法の任意の組み合わせを、本発明の範囲内に含めることができる。
【0087】
辞書の規定、参照することにより組み込まれた文献での規定、及び/又は規定した用語の通常の意味を管理するために、本明細書で規定されそして使用されたような全ての規定が理解されるべきである。
【0088】
反対のことが明確に示唆されていない限り、規定されていない「1つの(a)」及び「1つの(an)」という冠詞は、本明細書で使用される場合、本明細書及び請求項において「少なくとも1つの」を意味することが理解されるべきである。
【0089】
「及び/又は」という語句は、本明細書で使用される場合、結合した要素の「いずれか又は両方」を意味し、すなわち、ある場合では結合して示される要素と、別の場合では結合せずに示される要素とを意味することが理解されるべきである。反対のことが明確に示唆されていない限り、具体的に特定された要素に関連するか又は関連しないかにかかわらず、「及び/又は」節により具体的に特定された要素以外の他の要素を任意選択で存在させることができる。
【0090】
本出願で引用されるか又は参照された全ての参照、特許及び特許出願、並びに文献は参照することにより、その全体が本明細書内に組み込まれる。
本発明の実施形態としては、以下の実施形態を挙げることができる。
(付記1)
ポリマーマトリックスと、
前記ポリマーマトリックス中に12〜28wt%の濃度で分散した部分結晶化カーボンブラックとを含み、前記カーボンブラックが、120cm/100g超かつ200cm/100g未満のOAN構造と、8mJ/m未満の表面エネルギーと、65%未満の比結晶化度と、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(L)とを有する、複合ポリマー組成物。
(付記2)
前記複合ポリマー組成物がプラスチック組成物である、付記1に記載の複合ポリマー組成物。
(付記3)
前記カーボンブラックが、700℃超かつ1800℃未満の温度でファーネスブラックを熱処理することによって形成されている、付記1に記載の複合ポリマー組成物。
(付記4)
前記ポリマーマトリックスがコポリマー又はターポリマーを含む、付記1〜3のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記5)
前記ポリマーマトリックスが、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、及び/又はポリアミンを含む、付記1〜4のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記6)
前記部分結晶化カーボンブラックが、35Å以上のラマン微結晶平面寸法(L)と、1mJ/m超の表面エネルギーとを有する、付記1〜5のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記7)
前記ポリマーマトリックスが、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、ポリエチレン(PE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、 メタロセン中密度ポリエチレン(mLLDPE)、ポリプロピレン、ポリプロピレンのコポリマー、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリロニトリルEPDMスチレン(AES)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、テトラエチレンヘキサプロピレンフッ化ビニリデンポリマー(THV)、ペルフルオロアルコキシポリマー(PFA)、ポリヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ポリケトン(PK)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、コポリエステル、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、アクリル、エポキシ、シリコーン、フェノール樹脂、ポリイミド、プラスチゾル、及びポリ酢酸ビニルから選択される、付記1〜6のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記8)
30W/mK超の熱伝導率を有する非炭素質粒子をさらに含む、付記1〜7のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記9)
前記非炭素質粒子が、BN、MgO、ZnO及びAlから選択される、付記8に記載の複合ポリマー組成物。
(付記10)
前記非炭素質粒子がBNを含む、付記9に記載の複合ポリマー組成物。
(付記11)
部分結晶化カーボンブラック:BNの容量比が1:1〜1:10の範囲である、付記10に記載の複合ポリマー組成物。
(付記12)
前記複合ポリマー組成物の熱伝導率が、前記ポリマーマトリックスの熱伝導率より少なくとも1.6倍大きい、付記1〜11のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記13)
前記複合ポリマー組成物の熱伝導率が、前記ポリマーマトリックスの熱伝導率より少なくとも1.7倍大きい、付記1〜12のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記14)
前記複合ポリマー組成物の熱伝導率が、前記ポリマーマトリックスの熱伝導率より2〜4倍大きい、付記1〜13のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記15)
前記部分結晶化カーボンブラックが、未処理のカーボンブラックに対して、前記複合ポリマー組成物の熱伝導率を少なくとも10%改善している、付記1〜14のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記16)
付記1〜15のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物を含むマスターバッチ。
(付記17)
ポリマー化可能なモノマー又はオリゴマーを含むポリマー前駆体と、
前記モノマー又はオリゴマー中に12〜28wt%の濃度で分散した部分結晶化カーボンブラックとを含み、前記カーボンブラックが、120cm/100g超かつ200cm/100g未満のOAN構造と、8mJ/m未満の表面エネルギーと、28Å以上のラマン微結晶平面寸法(L)とを有する、ポリマー前駆体組成物。
(付記18)
前記ポリマー前駆体が、熱可塑性ポリオレフィン(TPO)、ポリエチレン(PE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、超低密度ポリエチレン(VLDPE)、 メタロセン中密度ポリエチレン(mLLDPE)、ポリプロピレン、ポリプロピレンのコポリマー、エチレンプロピレンゴム(EPR)、エチレンプロピレンジエンターポリマー(EPDM)、アクリロニトリルブタジエンスチレン(ABS)、アクリロニトリルEPDMスチレン(AES)、スチレン−ブタジエン−スチレン(SBS)、ポリオキシメチレン(POM)、ポリアミド(PA)、ポリ塩化ビニル(PVC)、テトラエチレンヘキサプロピレンフッ化ビニリデンポリマー(THV)、ペルフルオロアルコキシポリマー(PFA)、ポリヘキサフルオロプロピレン(HFP)、ポリケトン(PK)、エチレンビニルアルコール(EVOH)、コポリエステル、ポリウレタン(PU)、熱可塑性ポリウレタン、ポリスチレン(PS)、ポリカーボネート(PC)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリフェニレンオキシド(PPO)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、アクリル、エポキシ、シリコーン、フェノール樹脂、ポリイミド、プラスチゾル、及びポリ酢酸ビニルから選択されるポリマーの前駆体を含む、付記17に記載のポリマー前駆体組成物。
(付記19)
前記前駆体が、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアミド、及び/又はポリアミンの前駆体を含む、付記17又は18に記載のポリマー前駆体組成物。
(付記20)
30W/mK超の熱伝導率を有する非炭素質粒子をさらに含む、付記17〜19のいずれか1つに記載のポリマー前駆体組成物。
(付記21)
前記非炭素質粒子が、BN、MgO、ZnO及びAlから選択される、付記20に記載のポリマー前駆体組成物。
(付記22)
前記非炭素質粒子がBNを含む、付記21に記載のポリマー前駆体組成物。
(付記23)
部分結晶化カーボンブラック:BNの容量比が1:1〜1:10の範囲である、付記21に記載のポリマー前駆体組成物。
(付記24)
ポリマー化した場合に、ポリマー化したポリマー前駆体組成物の熱伝導率が、前記ポリマー前駆体のポリマー化物の熱伝導率より少なくとも1.6倍大きい、付記17〜23のいずれか1つに記載のポリマー前駆体組成物。
(付記25)
ポリマー化した場合に、ポリマー化したポリマー前駆体組成物の熱伝導率が、前記ポリマー前駆体のポリマー化物の熱伝導率より少なくとも1.7倍大きい、付記17〜23のいずれか1つに記載のポリマー前駆体組成物。
(付記26)
ポリマー化した場合に、ポリマー化したポリマー前駆体組成物の熱伝導率が、前記ポリマー前駆体のポリマー化物の熱伝導率より2〜4倍大きい、付記17〜23のいずれか1つに記載のポリマー前駆体組成物。
(付記27)
前記部分結晶化カーボンブラックが、未処理のカーボンブラックに対して、前記ポリマー前駆体組成物のポリマー化物の熱伝導率を少なくとも10%改善している、付記17〜23のいずれか1つに記載のポリマー前駆体組成物。
(付記28)
付記1〜15のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物を含む製品であって、ワイヤ及びケーブル外被、3D印刷製品、自動車部品、並びにLEDケーシング及び固定治具から選択される、製品。
(付記29)
前記カーボンブラックの比結晶化度が35%以上である、付記1〜15のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記30)
前記カーボンブラックの比結晶化度が35%以上である、付記17〜23のいずれか1つに記載のポリマー前駆体組成物。
(付記31)
前記カーボンブラックが、425m/g未満のBET表面積を有する、付記1〜15のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記32)
前記カーボンブラックが、425m/gの未満BET表面積を有する、付記17〜23のいずれか1つに記載のポリマー前駆体組成物。
(付記33)
前記カーボンブラックが、425mg/g未満のヨウ素価を有する、付記1〜15のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記34)
前記カーボンブラックが、425mg/g未満のヨウ素価を有する、付記17〜23のいずれか1つに記載のポリマー前駆体組成物。
(付記35)
第2のカーボンブラックをさらに含む、付記1〜15のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記36)
第2のカーボンブラックをさらに含む、付記17〜23のいずれか1つに記載のポリマー前駆体組成物。
(付記37)
前記部分結晶化カーボンブラックが、ベースカーボンブラックのラマン微結晶平面寸法(L)を5Å超増加させることで作られた、付記1〜15のいずれか1つに記載の複合ポリマー組成物。
(付記38)
前記部分結晶化カーボンブラックが、ベースカーボンブラックのラマン微結晶平面寸法(L)を5Å超増加させることで作られた、付記17〜23のいずれか1つに記載のポリマー前駆体組成物。
図1
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図8