(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6721806
(24)【登録日】2020年6月22日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】電離真空計およびカートリッジ
(51)【国際特許分類】
G01L 21/34 20060101AFI20200706BHJP
【FI】
G01L21/34
【請求項の数】24
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2020-510133(P2020-510133)
(86)(22)【出願日】2019年9月13日
(86)【国際出願番号】JP2019036187
【審査請求日】2020年2月19日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000227294
【氏名又は名称】キヤノンアネルバ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100076428
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康徳
(74)【代理人】
【識別番号】100115071
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100112508
【弁理士】
【氏名又は名称】高柳 司郎
(74)【代理人】
【識別番号】100116894
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 秀二
(74)【代理人】
【識別番号】100134175
【弁理士】
【氏名又は名称】永川 行光
(72)【発明者】
【氏名】川崎 洋補
【審査官】
森 雅之
(56)【参考文献】
【文献】
特許第4905704(JP,B2)
【文献】
特許第5170768(JP,B2)
【文献】
特許第5579038(JP,B2)
【文献】
米国特許第9671302(US,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01L21/34
本件特許出願に対応する国際特許出願PCT/JP2019/036187の調査結果が利用された。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
棒形状を有する陽極と、前記陽極が通る貫通孔を有する陰極板を含む陰極とを備える電離真空計であって、
前記陽極の軸方向に沿った断面における前記貫通孔の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含む、
ことを特徴とする電離真空計。
【請求項2】
前記貫通孔は、前記軸方向に並んだ複数の溝を含み、前記複数の溝の1つは、前記凹部を構成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の電離真空計。
【請求項3】
前記貫通孔は、前記凹部を構成する螺旋状の溝を含む、
ことを特徴とする請求項1に記載の電離真空計。
【請求項4】
前記2つの凸部は、前記陽極に向かって細くなった凸部を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電離真空計。
【請求項5】
前記2つの凸部は、前記陽極までの距離が互いに異なる2つの凸部を含む、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の電離真空計。
【請求項6】
前記陰極板は、第1リング面と、前記第1リング面の反対側の第2リング面とを有し、前記凹部は、前記第1リング面を含む仮想面と前記第2リング面と含む仮想面との間に配置されている、
ことを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電離真空計。
【請求項7】
前記陽極は、前記貫通孔に面する部分に、2つの凸部によって挟まれた凹部を有する、
ことを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電離真空計。
【請求項8】
前記陰極は、前記陽極が通る貫通孔を有する他の陰極板を更に含み、
前記陽極の軸方向に沿った断面における前記他の陰極板の前記貫通孔の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含む、
ことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電離真空計。
【請求項9】
前記陽極は、前記他の陰極板の前記貫通孔に面する部分に、2つの凸部によって挟まれた凹部を有する、
ことを特徴とする請求項8に記載の電離真空計。
【請求項10】
棒形状を有する陽極と、前記陽極が通る貫通孔を有する陰極板を含む陰極とを備える電離真空計であって、
前記陽極は、前記陰極板に対面する部分に、前記陽極の軸方向に沿った断面において2つの凸部によって挟まれた凹部を含む、
ことを特徴とする電離真空計。
【請求項11】
前記部分は、前記軸方向に並んだ複数の溝を含み、前記複数の溝の1つは、前記凹部を構成する、
ことを特徴とする請求項10に記載の電離真空計。
【請求項12】
前記部分は、前記凹部を構成する螺旋状の溝を含む、
ことを特徴とする請求項10に記載の電離真空計。
【請求項13】
前記2つの凸部は、前記陰極に向かって細くなった凸部を含む、
ことを特徴とする請求項10乃至12のいずれか1項に記載の電離真空計。
【請求項14】
前記2つの凸部は、前記陰極までの距離が互いに異なる2つの凸部を含む、
ことを特徴とする請求項10又は11に記載の電離真空計。
【請求項15】
前記陰極板は、第1リング面と、前記第1リング面の反対側の第2リング面とを有し、前記凹部は、前記第1リング面を含む仮想面と前記第2リング面と含む仮想面との間に配置されている、
ことを特徴とする請求項10乃至14のいずれか1項に記載の電離真空計。
【請求項16】
棒形状を有する陽極と、陰極と、電磁波源とを備える電離真空計であって、
前記陰極は、前記陽極が通る貫通孔および前記電磁波源を収容する収容部を有する第1陰極板と、前記第1陰極板から離隔して配置された第2陰極板と、前記第1陰極板と前記第2陰極板との間に前記第1陰極板に接するように配置された第3陰極板と、前記第1陰極板、前記第2陰極板および前記第3陰極板を取り囲む部材とを含み、
前記第2陰極板、前記第3陰極板および前記部材によって取り囲まれる放電空間に対して、前記電磁波源が発生した電磁波が伝達されるように、前記部材と前記第3陰極板との間に間隙が構成され、
前記陽極の軸方向に沿った断面において、前記部材のうち前記間隙を構成する部分の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含む、
ことを特徴とする電離真空計。
【請求項17】
棒形状を有する陽極を備える電離真空計において使用されるカートリッジであって、
前記陽極が通る貫通孔を有する陰極板を備え、
前記陽極の軸方向に沿った断面における前記貫通孔の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含む、
ことを特徴とするカートリッジ。
【請求項18】
前記貫通孔は、前記軸方向に並んだ複数の溝を含み、前記複数の溝の1つは、前記凹部を構成する、
ことを特徴とする請求項17に記載のカートリッジ。
【請求項19】
前記貫通孔は、前記凹部を構成する螺旋状の溝を含む、
ことを特徴とする請求項17又は18に記載のカートリッジ。
【請求項20】
前記2つの凸部は、前記陽極に向かって細くなった凸部を含む、
ことを特徴とする請求項17乃至19のいずれか1項に記載のカートリッジ。
【請求項21】
前記2つの凸部は、前記陽極までの距離が互いに異なる2つの凸部を含む、
ことを特徴とする請求項17又は18に記載のカートリッジ。
【請求項22】
前記陰極板は、第1リング面と、前記第1リング面の反対側の第2リング面とを有し、前記凹部は、前記第1リング面を含む仮想面と前記第2リング面と含む仮想面との間に配置されている、
ことを特徴とする請求項17乃至21のいずれか1項に記載のカートリッジ。
【請求項23】
前記陽極が通る貫通孔を有する他の陰極板を更に備え、
前記陽極の軸方向に沿った断面における前記他の陰極板の前記貫通孔の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含む、
ことを特徴とする請求項17乃至22のいずれか1項に記載のカートリッジ。
【請求項24】
棒形状を有する陽極と、電磁波源とを備える電離真空計において使用されるカートリッジであって、
前記陽極が通る貫通孔および前記電磁波源を収容する収容部を有する第1陰極板と、
前記第1陰極板から離隔して配置された第2陰極板と、
前記第1陰極板と前記第2陰極板との間に前記第1陰極板に接するように配置された第3陰極板と、
前記第1陰極板、前記第2陰極板および前記第3陰極板を取り囲む部材と、を備え、
前記第2陰極板、前記第3陰極板および前記部材によって取り囲まれる放電空間に対して、前記電磁波源が発生した電磁波が伝達されるように、前記部材と前記第3陰極板との間に間隙が構成され、
前記陽極の軸方向に沿った断面において、前記部材のうち前記間隙を構成する部分の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含む、
ことを特徴とするカートリッジ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電離真空計およびカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
電離真空計では、陽極と陰極との間に電圧を印加し放電を起こさせることによって気体を電離させ、陰極と陽極との間を流れる電流を測定することによって圧力が検出される。電離真空計には、陽極と陰極との間における放電を促す誘発部が設けられうる。
【0003】
特許文献1には、放電空間を内部に区画する真空計本体と、放電空間に設置された電極と、点火補助具とを有する冷陰極電離真空計が記載されている。点火補助具は、真空計本体に支持されるベース部と、ベース部に形成され電極が貫通する貫通孔と、電極の軸方向に直交する断面において、貫通孔の内周面から電極に向かって突出する単数又は複数の突起部とを備えている。しかしながら、長期間の使用において、突起部の表面への物質の堆積によって放電が誘発されにくくなることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−304360号公報
【発明の概要】
【0005】
本発明は、電離真空計における放電の誘発性能の低下を抑えるために有利な技術を提供する。
【0006】
本発明の第1の側面は、棒形状を有する陽極と、前記陽極が通る貫通孔を有する陰極板を含む陰極とを備える電離真空計に係り、前記陽極の軸方向に沿った断面における前記貫通孔の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含む。
【0007】
本発明の第2の側面は、棒形状を有する陽極と、前記陽極が通る貫通孔を有する陰極板を含む陰極とを備える電離真空計に係り、前記陽極は、前記陰極板に対面する部分に、前記陽極の軸方向に沿った断面において2つの凸部によって挟まれた凹部を含む。
【0008】
本発明の第3の側面は、棒形状を有する陽極と、陰極と、電磁波源とを備える電離真空計に係り、前記陰極は、前記陽極が通る貫通孔および前記電磁波源を収容する収容部を有する第1陰極板と、前記第1陰極板から離隔して配置された第2陰極板と、前記第1陰極板と前記第2陰極板との間に前記第1陰極板に接するように配置された第3陰極板と、前記第1陰極板、前記第2陰極板および前記第3陰極板を取り囲む部材とを含み、前記第2陰極板、前記第3陰極板および前記部材によって取り囲まれる放電空間に対して、前記電磁波源が発生した電磁波が伝達されるように、前記部材と前記第3陰極板との間に間隙が構成され、前記陽極の軸方向に沿った断面において、前記部材のうち前記間隙を構成する部分の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含む。
【0009】
本発明の第4の側面は、棒形状を有する陽極を備える電離真空計において使用されるカートリッジに係り、前記カートリッジは、前記陽極が通る貫通孔を有する陰極板を備え、前記陽極の軸方向に沿った断面における前記貫通孔の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含む。
【0010】
本発明の第5の側面は、棒形状を有する陽極と、電磁波源とを備える電離真空計において使用されるカートリッジであって、前記カートリッジは、前記陽極が通る貫通孔および前記電磁波源を収容する収容部を有する第1陰極板と、前記第1陰極板から離隔して配置された第2陰極板と、前記第1陰極板と前記第2陰極板との間に前記第1陰極板に接するように配置された第3陰極板と、前記第1陰極板、前記第2陰極板および前記第3陰極板を取り囲む部材と、を備え、前記第2陰極板、前記第3陰極板および前記部材によって取り囲まれる放電空間に対して、前記電磁波源が発生した電磁波が伝達されるように、前記部材と前記第3陰極板との間に間隙が構成され、前記陽極の軸方向に沿った断面において、前記部材のうち前記間隙を構成する部分の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含む。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】一実施形態の真空処理装置およびそれに取り付けられた電離真空計を示す図。
【
図10】第8実施形態の電離真空計の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照して実施形態を詳しく説明する。尚、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。実施形態には複数の特徴が記載されているが、これらの複数の特徴の全てが発明に必須のものとは限らず、また、複数の特徴は任意に組み合わせられてもよい。さらに、添付図面においては、同一若しくは同様の構成に同一の参照番号を付し、重複した説明は省略する。
【0013】
図1には、一実施形態の真空処理装置Sおよびそれに取り付けられた電離真空計100が示されている。真空処理装置Sは、例えば、成膜装置でありうる。成膜装置としては、例えば、スパッタリング装置、PVD装置、CVD装置等を挙げることができる。真空処理装置Sは、アッシング装置、ドライエッチング装置等の表面処理装置であってもよい。
【0014】
電離真空計100は、測定子102と、測定子102に接続された制御部13とを備えうる。真空処理装置Sは、真空容器101を備え、真空容器101の中で基板等の処理対象物を処理しうる。測定子102は、真空容器101の壁に設けられた開口部分に気密を保持した状態で取り付けられる。一例において、測定子102は、真空容器101のフランジ8を介して接続されうる。制御部13と測定子102とは、互いに分離して構成されてもよいし、一体化して構成されてもよい。
【0015】
図2には、第1実施形態の電離真空計100の構成が示されている。電離真空計100は、例えば、逆マグネトロン型真空計として構成されうるが、これに限定されるものではない。測定子102は、陰極1を構成する容器103と、陽極2とを備えうる。陰極1を構成する容器103は、例えば、円筒形状等の筒形状を有する筒部TPを含みうる。陽極2は、棒形状を有しうる。陰極1は、棒形状の陽極2を取り囲むように配置されうる。陽極2と陰極1とによって放電空間4が画定されうる。容器103は、例えば、金属(例えば、ステンレススチール)等の導電体によって構成されうる。陽極2は、金属(例えば、モリブデン、タングステン、ニッケル、チタン)等の導電体によって構成されうる。測定子102は、磁場を形成する磁石3を更に備えうる。磁石3は、筒部TPを取り囲むように配置され、リング形状を有しうる。磁石3は、例えば、フェライト磁石等の永久磁石でありうる。容器103の筒部TPの一端(真空容器101の側)は開放され、筒部TPの他端は絶縁性の封止部材6によって封止されうる。一例において、陽極2は、封止部材6を貫通するように配置されうる。封止部材6は、例えば、アルミナセラミック等で構成されうる。
【0016】
容器103の中には、交換可能なカートリッジ106が配置されてもよい。カートリッジ106は、電離真空計100において使用されうる消耗部品でありうる。カートリッジ106は、例えば、陰極構造体でありうる。カートリッジ106は、ポールピース(陰極板)104、105と、内筒110とを含みうる。ポールピース104、105は、磁場を調整する機能、および、放電空間4を取り囲む機能を有しうる。内筒110は、容器103の内側面に接する外側面と、放電空間4を取り囲む内側面とを有し、ポールピース104、105を支持しうる。ポールピース104、105および内筒110は、金属等の導電体で構成されうる。ポールピース104、105を構成しうる導電体は、磁性体(例えば、磁性を有するステンレススチール)であってもよいし、非磁性体(例えば、磁性を有しないステンレススチール)であってもよい。
【0017】
カートリッジ106は、筒部TPと電気的に接続され、ポールピース104、105および内筒110は、陰極1の一部を構成しうる。カートリッジ106に対するイオン等の衝突によってカートリッジ106が劣化した場合、劣化したカートリッジ106を新しいカートリッジ106に交換することによって電離真空計100の機能を回復することができる。この例では、カートリッジ106が交換可能であるが、カートリッジ106は、分離不能に筒部TPに結合されてもよい。
【0018】
ポールピース(第1陰極板)105は、陽極2が通る貫通孔11を有しうる。貫通孔11は、ポールピース105と陽極2とが電気的に接続されないように、つまり、ポールピース105と陽極2との間に間隙が構成されるように設けられる。
【0019】
ポールピース(第2陰極板)104は、ポールピース105から離隔して配置され、ポールピース105とポールピース104との間に放電空間4が画定されうる。ポールピース105は、ポールピース104と封止部材6との間に配置されうる。ポールピース105は、内筒110の一端(封止部材6の側の端部)に配置されうる。ポールピース104は、内筒110の他端(筒部TPの開放端の側の端部)に配置されうる。ポールピース104は、1又は複数の貫通孔10を有し、該1又は複数の貫通孔10を通して真空容器101と放電空間4とが連通する。内筒110は、ポールピース105、104と同様の材料で構成されうる。
【0020】
陽極2は、制御部13に電気的に接続される。制御部13は、陽極2に電圧を印加する電源18と、陽極2と陰極1との間を流れる放電電流を測定する電流検出部19とを含みうる。電流検出部19によって検出される放電電流は、放電空間4の圧力に対して相関を有し、この相関に基づいて不図示のプロセッサによって圧力が計算されうる。これによって、真空容器101の圧力を検出することができる。
【0021】
図3は、陽極2の軸方向AXに沿った陽極2およびポールピース105の断面図である。
図3には、第1実施形態におけるポールピース105の貫通孔11の構造が示されている。陽極2の軸方向AXに沿った断面におけるポールピース105の貫通孔11の形状は、2つの凸部31によって挟まれた凹部32を含みうる。このような構造を凹凸構造と呼ぶ。陽極2の軸方向AXに沿った断面において、貫通孔11の形状は、複数の凹部32を有する形状であってもよい。
【0022】
一例において、貫通孔11は、軸方向AXに並んだ複数の溝を含み、複数の溝の1つは、1つの凹部32を構成しうる。他の例において、貫通孔11は、凹部32を構成する螺旋状の溝を含みうる。ポールピース105は、第1リング面RF1と、第1リング面RF1の反対側の第2リング面RF2とを有し、凹部32は、第1リング面RF1を含む仮想面と第2リング面RF2と含む仮想面との間に配置されうる。
図3に例示されるように、陽極2も凹凸構造を有してもよい。即ち、陽極2は、陽極2の軸方向AXに沿った断面において、ポールピース105に対面する部分に、2つの凸部41によって挟まれた凹部42を有してもよい。
【0023】
放電空間4に面した陰極1(主にカートリッジ106)がスパッタリングされることによって発生した粒子は、陰極1および陽極2の表面に堆積して膜を形成しうる。上記のように陰極1と陽極2とが対面する部分に2つの凸部によって挟まれた凹部を設けることによって、膜の形成による放電の誘発性能の低下を抑えることができる。その理由の1つ目として、陰極1と陽極2とが対面する部分に2つの凸部によって挟まれた凹部を設けることによって、当該部分の表面積が増加することを挙げることができる。また、その理由の2つ目として、陽極2の軸方向AXに沿った断面において陰極1と陽極2とが対面する部分に2つの凸部によって挟まれた凹部を設けることによって、凹部への粒子の堆積が抑えられることを挙げることができる。
【0024】
図3に例示された第1実施形態では、軸方向AXに沿った断面において、ポールピース105の貫通孔11が2つの凸部31によって挟まれた凹部32を有し、かつ、陽極2が2つの凸部41によって挟まれた凹部42を有する。しかしながら、ポールピース105の貫通孔11および陽極2の少なくとも一方が、軸方向AXに沿った断面において、2つの凸部によって挟まれた凹部を有していればよい。
【0025】
ポールピース105の貫通孔11および/または陽極2におけるポールピース105に対面する部分に加えて、または、これに代えて、ポールピース104と陽極2とが対面する部分に凹凸構造が設けられてもよい。
図2に例示されるように、陽極2の軸方向AXに沿った断面におけるポールピース104の貫通孔12の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含みうる。陽極2の軸方向AXに沿った断面において、貫通孔12の形状は、複数の凹部を有する形状であってもよい。これに加えて、または、これに代えて、陽極2は、陽極2の軸方向AXに沿った断面において、ポールピース104に対面する部分に、2つの凸部によって挟まれた凹部を有してもよい。
【0026】
図4は、陽極2の軸方向AXに沿った陽極2およびポールピース105の断面図である。
図4には、第2実施形態におけるポールピース105の貫通孔11の構造が示されている。第2実施形態として言及しない事項は、第1実施形態に従いうる。第2実施形態では、ポールピース105は、陽極2の軸方向AXに沿った断面において、少なくとも1つの凸部31が陽極2に向かって細くなったテーパー形状を有する凹凸構造を有しうる。これに加えて、または、これに代えて、第2実施形態では、陽極2は、陽極2の軸方向AXに沿った断面において、少なくとも1つの凸部41がポールピース105に向かって細くなったテーパー形状を有する凹凸構造を有しうる。このような凸部31、41は、その先端に電界が集中しやすいので、電子の発生量を増大させるために有利である。
【0027】
ポールピース105および/またはそれに対面する部分の陽極2の凹凸構造に加えて、または、これに代えて、ポールピース104と陽極2とが対面する部分に、第2実施形態に係る凹凸構造が設けられてもよい。例えば、陽極2の軸方向AXに沿った断面におけるポールピース104の貫通孔12の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含み、該2つの凸部の少なくとも1つが、陽極2に向かって細くなったテーパー形状を有しうる。また、陽極2は、陽極2の軸方向AXに沿った断面において、ポールピース104に対面する部分に、2つの凸部によって挟まれた凹部を含み、該2つの凸部の少なくとも1つが、ポールピース104に向かって細くなったテーパー形状を有してもよい。
【0028】
図5は、陽極2の軸方向AXに沿った陽極2およびポールピース105の断面図である。
図5には、第3実施形態におけるポールピース105の貫通孔11の構造が示されている。第3実施形態として言及しない事項は、第1又は第2実施形態に従いうる。第3実施形態では、陽極2の軸方向AXに沿った断面におけるポールピース105の貫通孔11の形状は、2つの凸部31a、31bによって挟まれた凹部32を含みうる。また、隣り合う凸部31a、31bは、陽極2までの距離が互いに異なり、凸部31aと陽極2との距離は、凸部31bと陽極2との距離よりも小さい。陽極2までの距離が互いに異なる凸部31a、31bは、軸方向AXに沿って交互に配置されうる。貫通孔11の少なくとも1つの凸部31aは、貫通孔11の少なくとも1つの凸部31bよりも、放電空間4に近い位置に配置されることが好ましい。また、貫通孔11の少なくとも1つの凸部31aは、貫通孔11の全ての凸部31bよりも、放電空間4に近い位置に配置されることが更に好ましい。
【0029】
陽極2までの距離が遠い凸部31bには、陽極2までの距離が近い凸部31aよりも粒子の堆積による膜の形成が起こりにくい。したがって、第3実施形態は、陽極2までの距離が遠い凸部31bを設けることにより、膜が形成されにくい凸部の表面積を増大させ、これによって、寿命を延長し、および/または、放電の誘発性能を向上させるために有利である。
【0030】
図6は、陽極2の軸方向AXに沿った陽極2およびポールピース105の断面図である。
図6には、第4実施形態におけるポールピース105の貫通孔11の構造が示されている。第4実施形態として言及しない事項は、第1乃至第3実施形態に従いうる。第4実施形態では、陽極2の軸方向AXに沿った断面における陽極2の形状は、2つの凸部41a、41bによって挟まれた凹部42を含みうる。また、隣り合う凸部41a、41bは、ポールピース105までの距離が互いに異なり、凸部41aとポールピース105との距離は、凸部41bとポールピース105との距離よりも小さい。ポールピース105までの距離が互いに異なる凸部41a、41bは、軸方向AXに沿って交互に配置されうる。少なくとも1つの凸部41aは、少なくとも1つの凸部41bよりも、放電空間4に近い位置に配置されることが好ましい。また、少なくとも1つの凸部41aは、全ての凸部41bよりも、放電空間4に近い位置に配置されることが更に好ましい。ポールピース105までの距離が遠い凸部41bには、ポールピース105までの距離が近い凸部41aよりも粒子の堆積による膜の形成が起こりにくい。したがって、第4実施形態は、ポールピース105までの距離が遠い凸部41bを設けることにより、膜が形成されにくい凸部の表面積を増大させ、これによって、寿命を延長し、および/または、放電の誘発性能を向上させるために有利である。第4実施形態は、第3実施形態と組み合わせて実施されてもよい。
【0031】
図7は、陽極2の軸方向AXに沿った陽極2およびポールピース105の断面図である。
図7には、第5実施形態におけるポールピース105の貫通孔11の構造が示されている。第5実施形態として言及しない事項は、第1乃至第4実施形態に従いうる。貫通孔11の表面に対するイオンの衝突は、ポールピース105の第1リング面RF1に対するイオンの衝突よりも少ない。したがって、貫通孔11の表面への粒子の堆積による膜の形成は、ポールピース105の第1リング面RF1への粒子の堆積による膜の形成よりも容易に起こりうる。そこで、第5実施形態では、貫通孔11の表面を構成する部品120が交換可能にポールピース105に取り付けられる。部品120は、例えば、雄ネジを有し、ポールピース105は、部品120を受け入れる開口と、該開口に設けられた雌ネジとを有しうる。部品120は、貫通孔11を有し、貫通孔11には、第1乃至第4実施形態のいずれかに従う凹凸構造が設けられうる。このような交換可能な部品120は、ポールピース104に対して提供されてもよい。
【0032】
図8は、陽極2の軸方向AXに沿った陽極2およびポールピース105の断面図である。
図8には、第6実施形態におけるポールピース105の貫通孔11の構造が示されている。第6実施形態として言及しない事項は、第1乃至第5実施形態に従いうる。第6実施形態では、陽極2におけるポールピース105に対面する部分の表面を構成する部品121が交換可能に陽極2に取り付けられる。部品121は、例えば、雌ネジを有し、陽極2は、雄ネジを有しうる。部品121は、第1乃至第4実施形態のいずれかに従う凹凸構造が設けられうる。このような交換可能な部品121は、陽極2におけるポールピース104に対面する部分に対して提供されてもよい。
【0033】
図9には、第7実施形態の電離真空計100の構成が示されている。第7実施形態として言及しない事項は、第1乃至第6実施形態に従いうる。ポールピース(第1陰極板)105は、陽極2が通る貫通孔11の他、電磁波源15を収容する収容部22を有しうる。電磁波源15は、例えば、光源でありうる。ポールピース105には、電磁波源15を覆うカバーが設けられもよい。
【0034】
ポールピース(第2陰極板)104は、ポールピース105から離隔して配置され、ポールピース105とポールピース104との間に放電空間4が画定されうる。ポールピース105は、ポールピース104と封止部材6との間に配置されうる。ポールピース105は、内筒110の一端(封止部材6の側の端部)に配置されうる。ポールピース104は、内筒110の他端(筒部TPの開放端の側)に配置されうる。ポールピース104は、1又は複数の貫通孔10を有し、該1又は複数の貫通孔10を通して真空容器101と放電空間4とが連通する。
【0035】
カートリッジ106あるいは陰極1は、ポールピース105(第1陰極板)とポールピース104(第2陰極板)との間に陰極板(第3陰極板)20を更に含みうる。陰極板20は、ポールピース105に接触するように配置されうる。陰極板20は、陽極2を通す貫通孔を有する。陰極板20は、ポールピース104、陰極板20および内筒110(筒部TP)によって取り囲まれた放電空間4に対して、電磁波源15が発生した電磁波が伝達されるように構成されうる。例えば、陰極板20は、陰極板20と内筒110との間に間隙21を形成し、電磁波源15が発生した電磁波が間隙21を通して放電空間4に伝達されるように構成されうる。内筒110のうち電磁波源15が発生した電磁波が入射する部分は、光電効果によって電子を発生させうる。このような電子の放出は、放電の誘発性能を向上させうる。電磁波源15が発生する電磁波の他、内筒110のうち陰極板20とポールピース105との間の部分への電磁波の照射によって発生する電子も、間隙21を通して放電空間4に供給されうる。
【0036】
間隙21には、膜を形成しうる粒子が飛来しうる一方で、そのような膜の形成を阻害するイオンが衝突しにくいので、内筒110(部材)のうち間隙21を構成する部分に膜が形成されうる。そこで、内筒110のうち間隙21を構成する部分には、第1乃至第4実施形態のいずれかに従う凹凸構造ST1が設けられうる。凹凸構造ST1の表面には膜が形成されにくい。これにより、光電効果による電子の放射機能が長期間にわたって維持されうる。
【0037】
図10には、第8実施形態の電離真空計100の構成が示されている。第8実施形態は、第7実施形態の変形例または改良例である。第8実施形態では、電磁波源15を収容する収容部22の表面の全部または一部にも、第1乃至第4実施形態のいずれかに従う凹凸構造ST2が設けられる。凹凸構造ST2によっても、光電効果による電子の放射機能が長期間にわたって維持されうる。
【0038】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。
【要約】
電離真空計は、棒形状を有する陽極と、前記陽極が通る貫通孔を有する陰極板を含む陰極とを備える。前記陽極の軸方向に沿った断面における前記貫通孔の形状は、2つの凸部によって挟まれた凹部を含む。