(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
航空機や人工衛星からの計測は、人工衛星においては地上の同じ場所を観測するまでに日単位の間隔を要しリアルタイムでの計測が困難であり、また、航空機も同様にリアルタイムでの計測が困難であるという問題があった。この点、地上に測量機器を設置すれば同じ場所の地盤変位を連続して計測可能である。地上設置型の測量機器として光波測距儀や地上設置型SARがある。光波測距儀は電波より波長が短い光を用いる点で高い精度での計測が可能であり、また対象点までの距離を計測できるという特長を有する一方、夜間など光波を照射する対象点の位置がわからない状況では計測が困難である。地上設置型SARは光波より波長が長い電波を用いることにより、対象点を視認できない状況でも計測が可能であるという特長を有する。また、位相差を用いることにより、光波測距儀をも超える高精度の計測を可能とする一方、波長に応じた範囲内での変位量しか検出できないので、距離は計測頻度を多くして変位量を累積して求める必要がある。また、光波測距儀及び地上設置型SARのいずれの測量機器の計測結果もそれらと対象点との間の大気の状態の影響による誤差を含み得る。具体的には、気温、気圧、湿度などの気象の影響による空気屈折率の空間分布により光波や電波の経路長が変化することが誤差の要因となる。特に、山の斜面などを山麓から観測する場合には気象の影響を受けやすい。
【0007】
本発明は上記問題点を解決するためになされたものであり、昼夜、天候を問わず高精度に距離を計測することを可能とする地盤変位観測システム、及びそれに用いる測標を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明に係る地盤変位観測システムは、地上に設置された観測装置と測点に設置された測標とにより前記測点における地盤変位を観測するシステムであって、前記観測装置は、光波を発射して前記測標との間の距離を測定する光波測距儀と、電波を送受信して前記光波測距儀による距離測定よりも高い頻度で前記測標の変位量を測定する合成開口レーダーと、観測開始に先立って前記光波測距儀による距離測定値と前記電波の前記測標からの反射波の強度とに対する前記観測装置と前記測標との間の大気の状態の影響を測定して予め取得された情報であって、前記反射波の強度に基づいて前記距離測定値を補正する気象補正情報を記憶した補正情報記憶部と、観測時に前記反射波の強度の測定値と前記気象補正情報とを用いて前記距離測定値を補正する補正処理部と、を有する。
【0009】
(2)上記(1)の地盤変位観測システムにおいて、前記気象補正情報は、予め定めた期間に複数回送受信される前記電波についての前記反射波の前記強度のばらつき度に対する前記大気の状態の影響を測定して取得され、前記補正処理部は、前記反射波の前記強度の前記ばらつき度の測定値と前記気象補正情報とを用いて前記距離測定値を補正する構成とすることができる。
【0010】
(3)他の本発明に係る地盤変位観測システムは、地上に設置された観測装置と測点に設置された測標とにより前記測点における地盤変位を観測するシステムであって、前記観測装置は、光波を発射して前記測標との間の距離を測定する光波測距儀と、前記光波測距儀による距離測定よりも高い頻度で前記測標の変位量を測定する合成開口レーダーと、観測開始に先立って前記光波測距儀による距離測定値と前記合成開口レーダーにより予め定めた期間に複数回測定される変位量測定値についてのばらつき度とに対する前記観測装置と前記測標との間の大気の状態の影響を測定して予め取得された情報であって、前記変位量測定値のばらつき度に基づいて前記距離測定値を補正する気象補正情報を記憶した補正情報記憶部と、観測時に前記変位量測定値の前記ばらつき度と前記気象補正情報とを用いて前記距離測定値を補正する補正処理部と、を有する。
【0011】
(4)本発明に係る測標は、上記(1)から(3)の地盤変位観測システムに用いるものであって、前記地盤から所定の高さに設置され前記合成開口レーダーから発射された前記電波を反射する第1のコーナーリフレクタと、前記第1のコーナーリフレクタの上方に設置され前記光波測距儀から発射された前記光波を反射する第2のコーナーリフレクタと、を有する。
【0012】
(5)上記(4)の測標において、前記第1のコーナーリフレクタは、第1乃至第3反射面が互いに直角に組み合わされたホロー型であり、前記第1反射面と前記第2反射面とは左右に並んで直角に接続され、前記第3反射面は前記第1及び第2反射面の上側に位置し前記第1及び第2反射面の間に横方向に架け渡され、前記第3反射面をなす平板は前記第1反射面と前記第2反射面とが接続される隅の近傍は覆わず、当該平板の縁と前記第1及び第2反射面とで囲まれる開口部を形成する構造とすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、地盤、特に斜面等において地すべりの予想される箇所などの変位の観測を昼夜、天候を問わず高精度に行うことが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施の形態(以下実施形態という)について、図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は実施形態に係る地盤変位観測システム1の概略の構成を示す模式図である。地盤変位観測システム1は光波測距儀2、地上設置型合成開口レーダー(Ground Based Synthetic Aperture Rader:GB−SAR)4、処理部6、測標8を含んで構成される。
【0017】
光波測距儀2は、発振した光波を測点に設置したコーナーリフレクタに向けて発射し、コーナーリフレクタで反射された光波を感知し、当該感知までに発振した回数から距離を得る。本実施形態の光波測距儀2は距離を自動計測し、測定データを処理部6へ出力する。なお、作業者が光波測距儀2で距離計測を行い、その結果を処理部6へ入力するシステム構成とすることもできる。例えば、火山などにおける地盤変位の観測において光波測距儀2は1時間ごとに距離を計測するように設定される。
【0018】
GB−SAR4は人工衛星や航空機に搭載するのではなく、地上に設置し使用する合成開口レーダー装置である。SARは電波を送受信するアンテナを軌道に沿って位置を変えて複数回の送受信を行ない、受信した電波を合成することによって、実際のアンテナよりも開口面が大きなアンテナを仮想的に実現し分解能を向上させる。
図2はGB−SAR4の模式図であり、電波を送受信するヘッド部20と、ヘッド部20の移動をガイドするレール部22とを備える。ヘッド部20は送信アンテナ24と受信アンテナ26とを備え、計測時にはレール部22に沿って移動し、レール上の各場所において電波を送受信し合成開口を実現する。GB−SAR4がヘッド部20を移動させて1回の走査を完了するには数分を要する。GB−SAR4は直接的には距離ではなく、その変化、つまり変位量を計測する。変位量の計測上限はレーダー波(電波)の波長に応じて定まる。GB−SAR4で取得されるデータに基づいて距離を求めるには、変位量が上限を超えない時間間隔で変位量を計測し、それを累積する。そのため、基本的にGB−SAR4は光波測距儀2の距離計測より高い頻度で変位量を計測するように設定され、例えば、上述の火山などにおける地盤変位の観測においてGB−SAR4は7分ごとに走査を行って変位量を計測するように設定される。
【0019】
SARに使用される電波は例えば、Lバンド、Cバンド、Xバンド、Kuバンドなどである。それぞれの周波数、波長はLバンドが1〜2GHz、15〜30cmであり、Cバンドが4〜8GHz、3.75〜7cmであり、Xバンドが8〜12GHz、2.4〜3.75cmであり、Kuバンドが12〜18GHz、1.7〜2.4cmである。
【0020】
本実施形態のGB−SAR4は例えば、17.1〜17.3GHzのKuバンドを使用し、約0.1mmの精度を有する。また本実施形態のGB−SAR4は約4kmの距離までを照射可能である。
【0021】
光波測距儀2及びGB−SAR4は計測対象領域を直接見通せる場所であれば遠隔に設置できるので、設置場所は例えば、地すべりなどのおそれがある斜面やその近傍といった不安定な場所である必要はなく、平坦で安定した地盤上を選択できる。また、光波測距儀2とGB−SAR4とは同一の場所に設置してもよいし、別々の場所に設置してもよい。例えば、光波測距儀2を2箇所に設置し、測標8を異なる方向から観測することで、測標8の位置計測の精度を向上させることができる。
【0022】
処理部6は制御装置10、記憶装置12、入力装置14、出力装置16を含んで構成される。例えば、処理部6はPC(Personal Computer)などのコンピュータで構成される。
【0023】
制御装置10はCPU(Central Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)、MCU(Micro Control Unit)等の演算装置を用いて構成される。制御装置10は記憶装置12からプログラムを読み出して実行することで、補正処理手段30、変位算出手段32などとして機能する。
【0024】
補正処理手段30は、観測時にGB−SAR4が発射したレーダー波の測標8からの反射波の強度の測定値と後述する記憶装置12に記憶された気象補正情報40とを用いて光波測距儀2による距離測定値を補正する。
【0025】
変位算出手段32は補正処理手段30により補正された光波測距儀2の距離測定値、及びGB−SAR4により計測される変位量又は距離に基づいて測標8の距離、変位量を算出する。
【0026】
記憶装置12はハードディスク、ROM (Read Only Memory)、RAM (Random Access Memory)等の記憶装置である。記憶装置12は制御装置10にて実行される各種のプログラムや、本システムの処理に必要な各種データを記憶し、制御装置10との間でこれらの情報を入出力する。例えば、記憶装置12は、気象補正情報40を記憶する補正情報記憶部として機能する。
【0027】
気象補正情報40は、GB−SAR4のレーダー波の反射波の強度に基づいて光波測距儀2の距離測定値を補正するための情報である。気象補正情報40は観測開始に先立って光波測距儀2による距離測定値と測標8からのレーダー波の反射波の強度とに対する光波測距儀2やGB−SAR4と測標8との間の大気の状態の影響を測定して予め取得される。
【0028】
入力装置14は、キーボード、マウスなどであり、ユーザが本システムへの操作を行うために用いる。
【0029】
出力装置16は、ディスプレイ、プリンタなどであり、本システムにより計測された測標8の距離、変位を画面表示、印刷等によりユーザに示す等に用いられる。また、計測結果を他のシステムで利用できるよう、データとして出力してもよい。
【0030】
測標8は光波測距儀2が発射した光波を再帰反射すると共に、GB−SAR4が発射したレーダー波を再帰反射する。具体的には、測標8は、計測対象点(測点)における地盤から所定の高さに設置されGB−SAR4から発射されたレーダー波を反射するコーナーリフレクタと、当該コーナーリフレクタの上方に設置され光波測距儀2から発射された光波を反射するコーナーリフレクタとを有する。
【0031】
気象補正情報40についてさらに説明する。空気屈折率は気温、気圧、湿度などの気象の影響を受けて変化する。具体的には、1日の中での変化、季節変動、天候の違いが影響する。また、光波測距儀2、GB−SAR4の位置と測標8との位置関係(例えば、それぞれの標高)や観測が行われる場所の地形なども影響する。そこで、気象補正情報40は、光波測距儀2、GB−SAR4、測標8を観測地に設置して地盤変位観測システム1で予備的な観測を行って生成される。予備観測では、光波測距儀2により測標8の距離を測定すると共に、GB−SAR4の反射波の強度を測定する。さらに、気象の影響を受けない手段で測標8の距離(基準距離)を測定する。また、測定日時、日照の程度、光波測距儀2やGB−SAR4の設置場所での気温、気圧、湿度なども記録するのが好適である。なお、予備観測は様々な気象の影響が観測されるように行うことが好ましい。
【0032】
基準距離は例えば、GPS(Global Positioning System)などを用いて取得することができる。この場合、山中の斜面などに設置される測標8の位置にGPS受信機やそのデータを山麓の観測基地などへ送る送信機などを設置する。なお、それら機器は測標8に比べて高価であり、また測標8と異なり電源を必要とするなどの点で、長期間に亘る地盤変位の観測にて常設することには難しさが存在するが、限られた期間であればバッテリ駆動で動作させることは可能である。
【0033】
光波測距儀2の距離測定値を基準距離と比較することで当該距離測定値に対する気象の影響が把握される。また、レーダー波はGB−SAR4と測標8との間を往復する際の経路での水蒸気等による吸収・散乱により減衰するので、湿度、霧・雲・雨の量などの気象の影響がレーダー波の反射波の強度に現れる。そこで、例えば、距離測定値と、当該距離測定値が得られた時の反射波の強度とを用い、距離測定値の基準距離に対する比の値で定義する補正率Rと、反射波の減衰率Aとを求め、予備観測期間にて得られた補正率Rと減衰率Aとを対応付けて気象補正情報40として記憶装置12に蓄積する。ここで例えば、RにAのみを対応付ける、つまりRをAのみに依存する関数として定義することもできるが、RにAを含む複数の条件を対応付けた気象補正情報40を定義することもできる。例えば、A以外の条件として、測定時刻や日照の程度、光波測距儀2やGB−SAR4の設置場所等での気温、気圧、湿度などの全部又は一部を含めることができる。一方、気温、気圧の空気屈折率に対する影響についてはエドレン(Edlen)の実験式等で評価することとして、当該評価に基づく影響をRから差し引いて気象補正情報40を定義することもできる。なお、エドレンの実験式等での評価に際しては、光波測距儀2、GB−SAR4と測標8との標高差に伴う気温、気圧の変化を考慮することが好適である。
【0034】
反射波の強度は、GB−SAR4の1回の走査における複数回の送信での平均値や、複数回の走査での平均値を用いることができる。
【0035】
次に、地盤変位観測システム1の動作を説明する。
図3は地盤変位観測システム1による変位観測処理の概略のフロー図である。光波測距儀2、GB−SAR4を用いて距離、変位量の測定が行われ、処理部6はそれら測定データを取得する(ステップS5)。
【0036】
制御装置10は補正処理手段30として動作する。補正処理手段30は、GB−SAR4のレーダー波の送信強度に対する反射波の強度を計算し反射波の強度減衰率Aを算出する(ステップS10)。そして、気象補正情報40から減衰率Aに対応する補正率Rを読み出して、GB−SAR4による距離測定値をRで除して補正する(ステップS15)。
【0037】
そして、制御装置10は変位算出手段32として動作し、ステップS15にて補正された距離測定値と、GB−SAR4による変位量とを統合して測標8の距離、変位を求める(ステップS20)。
【0038】
例えば、時刻t
nにて光波測距儀2による距離測定値D
Onが得られると、変位算出手段32は、時刻t
nの前後に得られたGB−SAR4による距離測定値D
Rを補間して時刻t
nにおける距離D
Rnを算出する。そして、D
OnとD
Rnとを測定精度に応じて加重平均して時刻t
nにおける測標8の距離D
nを定めることができる。
【0039】
また、変位算出手段32は例えば、光波測距儀2による次の距離測定値D
O(n+1)が得られる時刻t
n+1までは、その間に得られるGB−SAR4の距離測定値D
Rに対して例えば、D
n/D
Rnを乗じるなどの補正をした値D
R’を暫定的な補正距離として出力することができる。
【0040】
一方、時刻t
n+1で距離測定値D
O(n+1)が得られると、時刻t
nでの処理と同様にして距離D
R(n+1)を算出し距離D
n+1を求めると共に、t
nからt
n+1までの時刻(t
n+α)に得られた距離測定値D
Rに対して例えば、D
n及びD
n+1の時刻(t
n+α)における補間値D
nαと、D
Rn及びD
R(n+1)の時刻(t
n+α)における補間値D
Rnαとを用い、D
nα/D
Rnαを乗じるなどして補正し直した値D
R”を確定補正距離として出力することができる。
【0041】
夜間や悪天候により光波測距儀2から測標8を視準できない場合や光波測距儀2と測標8との間で光波の送受信ができない場合には、光波測距儀2の距離測定値D
Oが比較的長い期間は得られないことが起こり得る。当該期間においても変位算出手段32による上述の統合処理により、暫定的な補正距離D
R’に基づいて好適な精度で地盤変位を監視することが可能である。また、光波測距儀2の距離測定値D
Oの取得が再開すると、精度や連続性の点でより好適に補正された距離D
R”が算出されるので、例えばこれを観測データとして記録する。
【0042】
上述のように地盤変位観測システム1は光波測距儀2及びGB−SAR4の測定結果を統合することで、昼夜、天候を問わず高精度に距離を計測できる。
【0043】
なお、変位算出手段32は統合に際して、光波測距儀2の位置とGB−SAR4の位置との違い、及び測標8における光波測距儀2用のコーナーリフレクタの位置とGB−SAR4用のコーナーリフレクタの位置との違いを考慮する。
【0044】
測標8の構造についてさらに説明する。
図4は計測対象点に設置された測標8の模式図であり、
図4(a)は正面図であり、
図4(b)は側面図である。上述したように、測標8は光波測距儀2用及びGB−SAR4用にそれぞれコーナーリフレクタを有する。ちなみに、コーナーリフレクタにはホロー型とプリズム型がある。測標8はGB−SAR4用としてホロー型のコーナーリフレクタ50を備え、光波測距儀2用のコーナーリフレクタとしてプリズム型である反射プリズム52を備える。
【0045】
コーナーリフレクタ50及び反射プリズム52の位置を計測することにより地盤の変位を観測するので、コーナーリフレクタ50及び反射プリズム52の地盤に対する位置関係は正確に定められ、また風雪等で揺らいだり位置がずれたりして地盤に対する位置関係が変化しないように設置される。例えば、コーナーリフレクタ50及び反射プリズム52は共通の支柱54に取り付けられる。
【0046】
支柱54は風雪等で揺らいだり曲がったりしないように例えば、下部を地中に埋設されたりテトラポッドのようなコンクリートブロックなどの土台に固定されたりした鋼管などで構成され、コーナーリフレクタ50、反射プリズム52は当該支柱54に金具や溶接などの手段により固定される。
【0047】
本実施形態では測標8を山中の斜面などに設置し、光波測距儀2やGB−SAR4を山麓など測標8より低い場所に設置して観測を行う。つまり、光波測距儀2からの光波やGB−SAR4からのレーダー波は斜め下方からコーナーリフレクタ50に入射する。これに対応してコーナーリフレクタ50、反射プリズム52はその開口が斜め下方を向くように設置される。
【0048】
コーナーリフレクタ50の設置高は、山中の斜面などに設置された測標8と山麓など測標8より低い場所に設置されたGB−SAR4との間に存在し得るレーダー波の送受信に対する障害物を回避するように定められ、例えば、測標8の設置位置での環境にて想定される植生高より高く設定される。
【0049】
反射プリズム52はコーナーリフレクタ50の上方に設置される。その際、光波測距儀2から見て反射プリズム52がコーナーリフレクタ50に隠れないように設置される。ここで、光波測距儀2による測標8の距離計測は、測標8から見て複数の方位から行い得、それら複数位置の光波測距儀2からの距離計測に基づいて、一箇所からの計測よりも高精度に位置・距離を求めることができる。反射プリズム52をコーナーリフレクタ50の上方に配置する上述の構成は、反射プリズム52をコーナーリフレクタ50の側方に配置する構成と比べて、水平方向に異なる方向からの計測に際してコーナーリフレクタ50が障害物とならないようにすることが容易である。また、コーナーリフレクタ50と反射プリズム52とを共通の支柱54に取り付けるのでコーナーリフレクタ50及び反射プリズム52を地盤上に設置する構造が簡素となる。また、一般にコーナーリフレクタ50は反射プリズム52より重く、かつ大きくなるので、コーナーリフレクタ50を下に配置した方が風雪の影響を受けにくく測標8が安定する。
【0050】
図5はコーナーリフレクタ50の基本構造50aを示す模式的な等角投影図である。ホロー型であるコーナーリフレクタ50の基本構造50aはレーダー波を反射する反射面56a,56b,56cが互いに直角に組み合わされた構造である。例えば、コーナーリフレクタ50はレーダー波を反射する材料からなる3枚の平板58a,58b,58cを互いに直角に組み合わせて作られる。
【0051】
本実施形態では、反射面56a(平板58a)と反射面56b(平板58b)とは左右に並んで直角に接続され、反射面56c(平板58c)は反射面56a(平板58a)及び反射面56b(平板58b)の上側に位置し反射面56a(平板58a)及び反射面56b(平板58b)の間に横方向に架け渡されている。
【0052】
また、平板58cは反射面56a(平板58a)と反射面56b(平板58b)とが接続される隅の近傍は覆わず、平板58cの縁62と反射面56a(平板58a)と反射面56b(平板58b)とで囲まれる開口部60を形成する。開口部60は風抜き孔として機能し強風の下での測標8の揺らぎや破損を抑制する。
【0053】
図4に示すコーナーリフレクタ50は基本構造50aを縦に2つ連接した構造である。連接する基本構造50aの数は2つより多くても良い。
【0054】
上述の実施形態では、湿度、霧・雲・雨の量などの気象の影響がレーダー波の反射波の強度に現れることに着目して、気象補正情報40は補正率Rをレーダー波の反射波の減衰率Aと対応付けた情報としたが、これに限られない。例えば、霧・雲・雨などが発生している場合、レーダー波の経路上での霧・雲・雨の密度の変化に起因して、反射強度のばらつきが比較的大きくなり得、一方、霧・雲・雨などが発生していない好天の状態ではそのばらつきは比較的小さい。そこで、予め定めた期間にGB−SAR4が複数回送受信するレーダー波についての反射波の強度のばらつき度S
Iに対する大気の状態の影響と、補正率Rに対する大気の状態の影響とを測定して、補正率Rをレーダー波の反射波の強度のばらつき度S
Iと対応付けて気象補正情報40を定義することもできる。
【0055】
また、霧・雲・雨の密度の変化は、反射強度のばらつきに違いが生じると共に、GB−SAR4の変位量測定値のばらつきにも違いを生じる。そこで、予め定めた期間にGB−SAR4が複数回測定する変位量測定値についてのばらつき度S
Dに対する大気の状態の影響と、補正率Rに対する大気の状態の影響とを測定して、補正率Rをレーダー波の変位量測定値のばらつき度S
Dと対応付けて気象補正情報40を定義することもできる。
【0056】
また、気象補正情報40をA,S
I,S
Dの任意の組み合わせに補正率Rを対応付けた情報として定義することもできる。
【0057】
本実施形態では光波測距儀2による計測は1時間ごとに行い、GB−SAR4による計測は7分ごとであり光波測距儀2よる計測より高頻度に行われる。よって、例えば、ばらつき度S
I,S
Dは光波測距儀2の計測周期に対応する期間におけるGB−SAR4の複数回の計測に基づいて求めることができる。例えば、ばらつき度として、当該複数回の計測における反射強度や変位量の測定値の分散を用いることができる。
【0058】
また、光波測距儀2の距離計測値についての補正率Rと同様にして、GB−SAR4の変位量や距離計測値についての補正率R
Rを予備観測で求め、これを予備観測で求めた反射強度の減衰率Aと対応付けた気象補正情報40を生成してもよい。そして、補正処理手段30は当該気象補正情報40を用いて、GB−SAR4の測定値を補正し、変位算出手段32はその補正値を用いて地盤の変位量を算出することができる。