特許第6722021号(P6722021)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6722021ガラス基板の製造方法、およびガラス熔解装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722021
(24)【登録日】2020年6月23日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】ガラス基板の製造方法、およびガラス熔解装置
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/03 20060101AFI20200706BHJP
【FI】
   C03B5/03
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2016-70850(P2016-70850)
(22)【出願日】2016年3月31日
(65)【公開番号】特開2017-178728(P2017-178728A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2019年3月6日
(73)【特許権者】
【識別番号】598055910
【氏名又は名称】AvanStrate株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000165
【氏名又は名称】グローバル・アイピー東京特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】樋渡 博一
【審査官】 若土 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−157756(JP,A)
【文献】 特開2012−250906(JP,A)
【文献】 特開2015−051896(JP,A)
【文献】 特開2015−155369(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 1/00−5/44
8/00−8/04
19/12−20/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基板の製造方法であって、
熔解槽でガラス原料を熔解し、熔融ガラスをつくる熔解工程と、
前記熔融ガラスを用いてシートガラスを成形する成形工程と、を備え、
前記熔解工程は、
前記熔解槽に貯留された熔融ガラスを、前記熔解槽の側壁を貫通するよう配置された電極体の対を用いて加熱するステップと、
前記側壁の外側から前記電極体に冷却ガスを吹き付けて前記電極体を冷却するステップと、を有し、
前記加熱するステップでは、前記電極体を前記側壁の内側に向けて押し込んだ状態で前記熔融ガラスを加熱し、
前記冷却するステップでは、前記電極体よりも前記側壁の外側に、前記電極体に向けて延びるよう配置された冷却管内に、前記冷却ガスを流して前記電極体に吹き付け、
前記冷却管は、前記電極体に接近して配置される前記冷却管の端が前記電極体に追随して移動するよう、前記側壁の外側と内側とを結ぶ方向に沿って伸縮すること特徴とするガラス基板の製造方法。
【請求項2】
前記冷却管は、前記冷却ガスが導入される第1の管と、前記第1の管に接続され、前記電極体に接近して配置される前記端を有する第2の管と、を有し、
前記第1の管と前記第2の管は互いに嵌め合わせられ、前記第2の管が前記第1の管に対し相対的に移動することで前記冷却管は伸縮する、請求項1に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項3】
前記電極体は、前記熔融ガラスと接するよう配置される第1の電極要素と、前記側壁の外側から前記第1の電極要素に当接するよう配置される第2の電極要素と、を有し、
前記加熱するステップでは、前記第2の電極要素を前記側壁の内側に向けて押し込むことで前記第1の電極要素が押し込まれ、前記電極体に接近して配置される前記冷却管の端が前記第2の電極要素に追随して移動するよう前記冷却管を伸縮させる、請求項1または2に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項4】
前記電極体は、前記熔解槽の側壁の厚さよりも長い長さを有している、請求項1から3のいずれか1項に記載のガラス基板の製造方法。
【請求項5】
ガラス原料を熔解し、熔融ガラスをつくるガラス熔解装置であって、
熔融ガラスを貯留する熔解槽であって、前記熔解槽の側壁を貫通するよう配置された、前記熔融ガラスを通電加熱する電極体の対を有する熔解槽と、
前記電極体を前記側壁の内側に向けて押し込む押込装置と、
前記側壁の外側から冷却ガスを前記電極体に吹き付けて前記電極体を冷却する冷却装置と、を備え、
前記冷却装置は、前記電極体よりも前記側壁の外側に前記電極体に向けて延びるよう配置された、前記冷却ガスが流れる冷却管を有し、
前記冷却管は、前記電極体に接近して配置される前記冷却管の端が前記電極体に追随して移動するよう、前記側壁の外側と内側とを結ぶ方向に沿って伸縮することを特徴とするガラス熔解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス基板の製造方法、およびガラス熔解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
フラットパネルディスプレイ(FPD)等に用いられるガラス基板は、一般に、熔解槽に投入されたガラス原料を熔解して熔融ガラスをつくり、脱泡等の清澄を行った後、シート状に成形し、切断することにより製造される。熔融ガラスをつくる熔解工程では、熔解槽に蓄えられた熔融ガラスは、熔解槽の側壁に設けられた1対の電極体を用いて通電されることで、ジュール熱を発生し、加熱される。電極体は、例えば、酸化錫、モリブデン等の耐熱性材料から構成されている。酸化錫、モリブデン等を用いた電極体は、熔融ガラスに侵食され、溶損するため、熔融ガラスに接する先端位置が経時的に熔解槽の外側に後退する。このため、従来、熔解槽の側壁を貫通するよう電極体を配置し、電極体の先端位置が所定位置に保持されるよう、側壁の外側から電極体を押し込むことが知られている(特許文献1)。
【0003】
ところで、電極体は、熔解工程の間、熔融ガラスに接しているため、高温になりすぎないよう、側壁の外側から冷却ガスを吹き付けることで冷却される場合がある。冷却ガスは、例えば、側壁の外側に配置されたパイプ内に供給され、電極体の近傍に配置されたパイプの先端から放出されることで、電極体に冷却ガスが吹き付けられる。このようなパイプには、例えば、ゴムホースのような可撓性を有する部材が用いられ、螺旋状に巻かれる等、予め撓ませた状態で側壁の外側に配置される。これにより、電極体の先端位置の後退に伴って押し込まれたときに、パイプの先端が電極体に追随して移動することができ、電極体とパイプとの間に適切な間隔が保持され、冷却性能を維持することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2015−155369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電極体の押し込み量が大きい場合、電極体に追随して移動するパイプの移動量も大きくなるため、予め撓ませたパイプの形態が崩れ、パイプが捻れたり、折れ曲がったりする場合がある。このため、パイプ内を流れる冷却ガスの配管抵抗が大きくなり、冷却性能が発揮され難くなる場合がある。電極体を十分に冷却できないと、電極体が熔融ガラスに侵食されやすく、電極体が早期に減耗してしまう。
【0006】
本発明は、熔解槽の側壁を貫通するよう配置され、側壁の外側から押し込まれた電極体を十分に冷却することのできるガラス基板の製造方法およびガラス熔解装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、下記(1)〜(5)を提供する。
(1)ガラス基板の製造方法であって、
熔解槽でガラス原料を熔解し、熔融ガラスをつくる熔解工程と、
前記熔融ガラスを用いてシートガラスを成形する成形工程と、を備え、
前記熔解工程は、
前記熔解槽に貯留された熔融ガラスを、前記熔解槽の側壁を貫通するよう配置された電極体の対を用いて加熱するステップと、
前記側壁の外側から前記電極体に冷却ガスを吹き付けて前記電極体を冷却するステップと、を有し、
前記加熱するステップでは、前記電極体を前記側壁の内側に向けて押し込んだ状態で前記熔融ガラスを加熱し、
前記冷却するステップでは、前記電極体よりも前記側壁の外側に、前記電極体に向けて延びるよう配置された冷却管内に、前記冷却ガスを流して前記電極体に吹き付け、
前記冷却管は、前記電極体に接近して配置される前記冷却管の端が前記電極体に追随して移動するよう、前記側壁の外側と内側とを結ぶ方向に沿って伸縮することを特徴とするガラス基板の製造方法。
【0008】
(2)前記冷却管は、前記冷却ガスが導入される第1の管と、前記第1の管に接続され、前記電極体に接近して配置される前記端を有する第2の管と、を有し、
前記第1の管と前記第2の管は互いに嵌め合わせられ、前記第2の管が前記第1の管に対し相対的に移動することで前記冷却管は伸縮する、前記(1)に記載のガラス基板の製造方法。
【0009】
(3)前記電極体は、前記熔融ガラスと接するよう配置される第1の電極要素と、前記側壁の外側から前記第1の電極要素に当接するよう配置される第2の電極要素と、を有し、
前記加熱するステップでは、前記第2の電極要素を前記側壁の内側に向けて押し込むことで前記第1の電極要素が押し込まれ、前記電極体に接近して配置される前記冷却管の端が前記第2の電極要素に追随して移動するよう前記冷却管を伸縮させる、前記(1)または前記(2)に記載のガラス基板の製造方法。
【0010】
(4)前記電極体は、前記熔解槽の側壁の厚さよりも長い長さを有している、前記(1)から前記(3)のいずれか1つに記載のガラス基板の製造方法。
【0011】
(5)ガラス原料を熔解し、熔融ガラスをつくるガラス熔解装置であって、
熔融ガラスを貯留する熔解槽であって、前記熔解槽の側壁を貫通するよう配置された、前記熔融ガラスを通電加熱する電極体の対を有する熔解槽と、
前記電極体を前記側壁の内側に向けて押し込む押込装置と、
前記側壁の外側から冷却ガスを前記電極体に吹き付けて前記電極体を冷却する冷却装置と、を備え、
前記冷却装置は、前記電極体よりも前記側壁の外側に前記電極体に向けて延びるよう配置された、前記冷却ガスが流れる冷却管を有し、
前記冷却管は、前記電極体に接近して配置される前記冷却管の端が前記電極体に追随して移動するよう、前記側壁の外側と内側とを結ぶ方向に沿って伸縮することを特徴とするガラス熔解装置。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、熔解槽の側壁を貫通するよう配置され、側壁の外側から押し込まれた電極体を長期間にわたり冷却することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】ガラス基板の製造方法の工程の一例を示す図である。
図2図1に示す熔解工程から切断工程までを行う装置を模式的に示す図である。
図3】ガラス熔解装置の熔解槽を説明する図である。
図4】ガラス熔解装置を側方から見て示す図である。
図5】ガラス熔解装置を側壁の外側から見て示す図である。
図6】(a)は、ガラス熔解装置の冷却管の収縮した状態を示す図であり、(b)は、冷却管の伸長した状態を示す図である。
図7】(a)は、短小化した第1の電極要素を押し込んだ状態を説明する図であり、(b)は、第2の電極要素を追加して押し込んだ状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態のガラスの製造方法について説明する。図1は、本実施形態のガラス基板の製造方法の工程を説明する工程図である。
ガラス基板の製造方法は、熔解工程(ST1)と、清澄工程(ST2)と、均質化工程(ST3)と、供給工程(ST4)と、成形工程(ST5)と、徐冷工程(ST6)と、切断工程(ST7)と、を主に有する。この他に、研削工程、研磨工程、洗浄工程、検査工程、梱包工程等を有し、梱包工程で積層された複数のガラス板は、納入先の業者に搬送される。
【0015】
図2は、熔解工程(ST1)から切断工程(ST7)までを行う装置を模式的に示す図である。当該装置は、図2に示すように、主に熔解装置200と、成形装置300と、切断装置400と、を有する。熔解装置200は、熔解槽201と、清澄槽202と、攪拌槽203と、第1配管204と、第2配管205と、押込装置220と、冷却装置240とを主に有する。押込装置220および冷却装置240については、後で詳細に説明する。
【0016】
熔解工程(ST1)では、熔解槽201内に供給されたガラス原料を、バーナー206(図3参照)から発する火焔で加熱して熔解することで、熔融ガラスMGが作られる。この後、電極体208(図3参照)を用いて熔融ガラスMGが通電加熱される。
清澄工程(ST2)は、清澄槽202において行われる。清澄槽202内の熔融ガラスMGが加熱されることにより、熔融ガラスMG中に含まれるO等の気泡は、清澄剤の還元反応により生成される酸素を吸収して成長し、液面に浮上して放出される。あるいは、気泡中の酸素等のガス成分が、清澄剤の酸化反応のために熔融ガラス中に吸収されて、気泡が消滅する。
均質化工程(ST3)では、第1配管204を通って供給された攪拌槽203内の熔融ガラスMGがスターラを用いて攪拌されることにより、ガラス成分の均質化が行われる。
供給工程(ST4)では、第2配管205を通して熔融ガラスMGが成形装置300に供給される。
【0017】
成形装置300では、成形工程(ST5)及び徐冷工程(ST6)が行われる。
成形工程(ST5)では、熔融ガラスMGがシートガラスに成形され、シートガラスの流れが作られる。本実施形態では、オーバーフローダウンドロー法を用いる。徐冷工程(ST6)では、成形されて流れるシートガラスが所望の厚さになり、内部歪が生じないように、さらに、熱収縮率が大きくならないように、冷却される。
切断工程(ST7)では、切断装置400において、成形装置300から供給されたシートガラスを所定の長さに切断することで、ガラス基板が得られる。切断されたガラス基板は、さらに所定のサイズに切断され、目標サイズのガラス基板が作られる。この後、ガラス基板は、端面の研削および研磨がされた後、洗浄が行われ、さらに気泡や脈理等の異常欠陥の有無が検査され、検査合格品のガラス基板が最終製品として梱包される。なお、切断工程(ST7)は、ガラス基板の製造方法において、必須の工程ではなく、この場合、シートガラスは、本実施形態で製造されるガラス基板とされる。そのようなガラス基板として、例えば、ロール状に巻き取られた長尺状のシートガラスが挙げられる。
【0018】
図3は、熔解工程を行う熔解槽201を説明する図である。
熔解槽201は、耐火レンガである耐火物部材により構成された壁210を有する。熔解槽201は、壁210で囲まれた内部空間を有する。熔解槽201の内部空間は、ガラス原料が熔解してできた熔融ガラスMGを加熱しながら貯留する液槽Bと、熔融ガラスMGの上方に形成され、ガラス原料が投入される、気相である上部空間Aとを有する。
上部空間Aの壁210には、燃料と酸素等を混合した燃焼ガスが燃焼して火炎を発するバーナー206が設けられる。バーナー206は火炎によって上部空間Aの耐火物部材を加熱して壁210を高温にする。ガラス原料は、高温になった壁210の輻射熱により、また、高温となった気相の雰囲気により加熱されて熔解する。
【0019】
熔解槽201の液槽Bの向かい合う壁210,210には、それぞれ3つの貫通孔210aが設けられている。貫通孔210aには、酸化錫あるいはモリブデン等の耐熱性を有する導電性材料で構成された3対の電極体208が配置されている。本実施形態においては、電極体208は酸化錫により構成されている。3対の電極体208はいずれも、貫通孔210aを通して熔解槽201の側壁210の外側から液槽Bの内壁面に向かって延びている。図示される例では、電極体208の寿命を延ばすために、熔解槽201の側壁210の厚さよりも長い電極体208が配置されている。
【0020】
3対の電極体208のそれぞれの対のうち、図中奥側の電極体は図示されていない。3対の電極体208の各対は、熔融ガラスMGを通してお互いに対向するように、貫通孔210aに配置されている。各対の電極体208は、正電極、負電極となってこの電極間の熔融ガラスMGに電流を流す。この通電により熔融ガラスMGにジュール熱が発生し、熔融ガラスMGは自ら発するジュール熱により加熱される。熔解槽201では、熔融ガラスMGは例えば1500℃以上に加熱される。加熱された熔融ガラスMGは、ガラス供給管を通して清澄槽202へ送られる。
【0021】
本実施形態では、熔解槽201には3対の電極体208が設けられるが、1対、2対あるいは4対以上の電極体が設けられてもよい。すなわち、本実施形態では、少なくとも一対の貫通孔210a,210aの各々に電極体208を設けた熔解槽201を用い、熔解槽201に収容したガラス原料を熔解する。
【0022】
以下、鉛直方向をz軸とし、xy平面が水平面であるxyz直交座標系を用いて説明する。図3に示すように、熔解槽201の液槽Bの向かい合う壁210,210は、yz平面と平行に設けられている。
図4は、熔解槽201の電極体208及び貫通孔210a近傍のxz平面に平行な断面図である。図5は、電極体208及び貫通孔210a近傍をx方向から見た正面拡大図である。図4および図5では、電極体208に設けられるコネクタ等の図示は省略されている。
【0023】
電極体208は、複数の長尺状の電極棒208aを一方向に延びるように束ねた複合体であり、電極棒208aの各々が熔融ガラスMGに通電する。図4から図5では、縦方向に4段、横方向に4列、合計16本の電極棒208aで構成されている。電極棒208aからなる複合体としての電極体208は、本実施形態のように、縦方向に4段、横方向に4列、合計16本の電極棒208aで構成されることに限定されず、合計本数、縦方向の段数、横方向の列数は特に制限されない。例えば、電極体208は、1つの電極棒208aで構成されてもよい。
【0024】
図4に示すように、熔解槽201の壁210は、耐火レンガである耐火物部材が積層されて構成されている。壁210に設けられた貫通孔210aは、図示される例において、x軸方向に、その中心軸線が延びるよう形成されている。この貫通孔210aに電極体208が挿入されて設置されている。
【0025】
電極体208は、設置時に、先端面208fの位置が液槽Bの内壁面(壁210の内表面)の位置P0に合せられている。すなわち、電極体208の先端面208fと熔解槽201の内壁面とは段差なく隣接しており、先端面208fは、液槽Bの内壁面と同一の平面上に配置されている。なお、電極体208の先端面208fは、ある程度、貫通孔210aから液槽Bの内側に突出するように配置しても良いが、先端面208fの位置を液槽Bの内壁面の位置P0に合せることで、電極体208の浸食および熔解槽201の壁210を構成する耐火物部材の浸食を低減することができる。
【0026】
電極体208は、熔融ガラスMGを通電加熱することで、熔融ガラスMGに接する先端部が熔融ガラスMGによって浸食されて減耗し、図4に示すように、先端面208fの位置が液槽Bの内壁面の位置P0よりも熔解槽201の側壁210の外側へ後退していく。このように、電極体208の先端面208fが液槽Bの内壁面から貫通孔210aの内側に窪んだ状態になると、対向する電極体208,208間の電圧が上昇するだけでなく、電極体208の近傍の壁210が浸食されやすくなる。そのため、側壁210の外側には、電極体208を熔解槽201の内側に押し込むための押込装置220が設けられている。
【0027】
押込装置220は、電極体208の後端面208bに配置された水平治具221および垂直治具222と、垂直治具222に押圧力を作用させるウォームジャッキ223と、を備えている。
図5に示すように、水平治具221は、水平方向に隣接するすべての電極棒208aに掛け渡され、電極棒208aの最も上の段から最も下の段までの各段にそれぞれ設けられている。垂直治具222は、上下方向に隣接する水平治具221の各々に掛け渡されている。また、最も上の段の水平治具221、および最も下の段の水平治具221のそれぞれの両端の計4箇所には、後述する冷却管の先端が取り付けられる先端ホルダ244(図6参照)が設けられている。先端ホルダ244が設けられる水平治具221の部分には、図5に示されるように、後述する冷却ガスを電極体208に吹き付けるための孔221aが形成されている。
【0028】
図4に示すように、ウォームジャッキ223は、フランジ部223aと、押圧軸223bと、駆動部223cとを備えている。フランジ部223aは、側壁210の外側に設けられた不図示のフレーム状の構造体の任意の位置に固定できるように設けられている。押圧軸223bは、フランジ部223aに対して垂直に設けられ、外周面に台形ネジが形成されている。駆動部223cは、歯車を有するウォームギアを備えている。歯車は、内周部に台形ネジが形成されて押圧軸223bの台形ネジに螺合されている。駆動部223cに不図示のハンドルを取り付けて回転させるとウォームギアの歯車が回転し、押圧軸223bが台形ネジの作用によりフランジ部223aと垂直な方向に前進及び後退する。ウォームジャッキ223は、押圧軸223bの先端を垂直治具222に当接させた状態で、押圧軸223bをx軸負方向に前進させることで、垂直治具222及び水平治具221を介して電極体208の後端面208bに押圧力を作用させる。本実施形態では、ウォームジャッキ223が1つ設置されているが、ウォームジャッキ223の設置数は2つ以上であっても良い。
【0029】
図4に示すように、電極体208は、先端部が熔解槽201の液槽Bの壁210に設けられた貫通孔210aに挿入され、後端部が貫通孔210aから側壁210の外側に突出した状態で配置される。電極体208の後端部の下方には、側壁210の外側に突出した電極体208の少なくとも一部を下方からz方向に支持する不図示の電極支持台が設けられている。図4に、電極支持台を構成する部分のうち、代表して支持部235を示す。支持部235は耐火レンガからなる。電極支持台は、支持部235を適切な高さに調節でき、電極体208の中心軸(電極棒208aが延びる方向)が水平になるように支持している。
【0030】
電極体208は、熔解工程(ST1)において、先端面208fが熔融ガラスMGに接しているため、高温になりやすい。電極体208の温度が高くなりすぎると、熔融ガラスMGによる侵食が促進され、電極体208が早期に減耗してしまう。そのため、熔解槽201の側壁210の外側には、電極体208を冷却するための冷却装置240が設けられている。
【0031】
冷却装置240は、側壁210の外側から冷却ガスを電極体208に吹き付けて電極体208を冷却する装置である。冷却装置240は、主に、冷却管241(図6参照)を有している。冷却管241は、電極体208に向けて冷却ガスを流すための管であり、電極体208よりも外側(x軸方向)に、電極体208に向けて延びるよう配置されている。図6は、冷却管241を説明する図であり、xz平面と平行な断面図を示す。図6(a)は、冷却管241の後述する収縮した状態を示す図であり、図6(b)は、冷却管241の後述する伸長した状態を示す図である。図6(a)および図6(b)では、電極体208を構成する電極棒208aのうち、冷却ガスが直接吹き付けられる電極棒208aに注目して示す。
【0032】
冷却装置240が備える冷却管241の数は、電極体208を均等に冷却できるよう定めることができ、1本であってもよく、複数本であってもよい。本実施形態では、図5に示される水平治具221の孔221aのそれぞれと対応して、4本設けられている。冷却管241の数が複数である場合の冷却管241の配置位置は、電極体208を均等に冷却するために、yz平面において押込装置220を中心として互いに点対称となる位置あるいは正多角形の頂点をなす位置に、配置されることが好ましい。冷却管241の配置位置は、本実施形態では、電極体208の後端面208bの4つの頂角に位置する電極棒208aと同じyz平面上の位置である。なお、冷却管241の数は、4本に限定されず、例えば、2本、3本、5本以上であってもよい。
【0033】
冷却管241は、水平治具221に設けられた先端ホルダ244に、先端241aが接続されることで、先端241aが電極体208に接近して配置されており、押込装置220によって押し込まれる電極体208に追随して移動することができる。冷却管241の先端241aは、電極体208との間には隙間をあけて配置され、冷却管241内を流れる冷却ガスは、先端241aから電極体208に吹き付けられた後、水平治具221の孔221aと先端ホルダ244との間の隙間から外気中に放出される。冷却管241の後端241bは、後端ホルダ245に接続されている。後端ホルダ245は、熔解槽201の側壁210の外側に設けられた不図示のフレーム状の構造体に固定された部材である。具体的には、後端241bは、構造体に設けられた後端ホルダに取り付けられることで支持されている。
【0034】
冷却管241は、熔解槽201の側壁210の外側と内側とを結ぶ方向に沿って伸縮するよう構成されている。冷却管241は、直線状に延びる形状を有し、金属、プラスチック、セラミックス等の硬質な材料で構成されていることが好ましい。側壁210の外側と内側とを結ぶ方向は、本実施形態ではx軸方向であるが、x軸に対して傾斜した方向であってもよい。例えば、冷却管241と押込装置220との間隔を十分に確保するために、冷却管241の後端241bが、yz平面において、電極体208の後端面208bよりも外側に位置するよう、冷却管241の延びる向きがx軸に対して傾斜していてもよい。
冷却管241は、具体的に、冷却ガスが導入される第1の管242と、第1の管242に接続され、先端241aを有する第2の管243とを有している。第1の管242および第2の管243は、図6に示される例において、互いに径が異なっていて、嵌め合わせられるようになっている。このため、第2の管243は第1の管241に対し相対的に移動することができ、冷却管241は伸縮することができる。冷却管241を構成する管の数は、2本に限定されず、3本以上であってもよい。これらの管は、隣接する管同士が、第1の管242および第2の管243と同様に、互いに嵌め合わせられるよう構成される。なお、冷却管241が伸縮するための構造は、上記説明したものに限定されない。例えば、冷却管241が延びる領域の少なくとも一部が、蛇腹状の形態を有し、冷却管241が延びる方向に伸縮するものであっても良い。
【0035】
冷却ガスは、後端241bから冷却管241内に導入される。冷却ガスは、例えば、冷却ガスが充填されたタンクから供給されてもよく、図示されない熱交換器にガスを通過させることで供給されてもよい。冷却ガスの温度は、熔解工程(ST1)における電極体208の温度より低いものであれば制限されず、例えば、常温、あるいは、常温より低い低温である。低温の冷却ガスが用いられる場合、冷却管241は、冷却管241の外周を被覆するよう巻きつけられた断熱部材を有していてもよい。冷却ガスには、例えば、空気、窒素、希ガス等が用いられる。
【0036】
本実施形態では、熔解工程(ST1)において、熔解槽201の液槽Bの壁210の貫通孔210aに電極体208を配置した後、熔解槽201内にガラス原料が供給される。ガラス原料は、バーナー206が発する火焔によって加熱されて熔解し、熔融ガラスMGが液槽Bに蓄えられる。その後、電極体208を用いて熔融ガラスMGが通電加熱される。熔解工程(ST1)では、電極体208が高温になりすぎないよう、冷却装置240を用いて電極体208の冷却が行われる。具体的には、冷却管241内に冷却ガスを流し、電極体208に吹き付けることで冷却を行う。これにより、電極体208の温度が高くなりすぎるのを抑え、熔融ガラスMGによる侵食が促進されることで生じる電極体208の早期の減耗を抑制することができる。
【0037】
他方、熔融ガラスMGの通電加熱を継続することで、電極体208は熔融ガラスMGによって浸食され、電極体208の先端面208fの位置は初期の位置P0から、経時的に、貫通孔210aの内側へ後退する。このため、短小化した電極体208は、押込装置220を用いて熔解槽201の内側に押し込まれる。具体的には、水平治具221及び垂直治具222を介して、ウォームジャッキ223の押圧軸223bにより、電極体208の後端面208bを押圧する。これによって、電極体208の先端面208fを液槽Bの内壁面の位置P0に合わせることができ、電極体208の浸食および熔解槽201の壁210を構成する耐火物部材の浸食を低減することができる。また、押し込まれる電極体208に追随して冷却管241の先端241aが移動し、冷却管241は、熔解槽201の側壁210の内側と外側とを結ぶ方向に沿って伸長される。このため、冷却管241内を流れる冷却ガスの配管抵抗を増加させることなく、冷却管241と電極体208との間の隙間が適切に保たれる。これにより、冷却装置240による電極体208に対する冷却性能を維持することができる。また、冷却管241の先端241aを電極体208に密着させ続けられるので、冷却ガスを拡散させずに電極体208に届けることができる。
【0038】
以上、本発明のガラス基板の製造方法およびガラス熔解装置について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良や変更をしてもよいのはもちろんである。
【0039】
例えば、電極体は、複数の電極要素から構成されていてもよい。上記実施形態では、電極体208を1つの部材として説明したが、複数の電極要素から構成される電極体として、上記実施形態の電極体208(第1の電極要素)と、電極体208に側壁210の外側から当接するよう配置される別の電極体(第2の電極要素)209(図7参照)と、から構成される電極体を用いることができる。図7は、図6の変形例を示す図であり、xz平面と平行な断面図を示す。図7(a)は、短小化した電極体208を押し込んだ状態を説明する図であり、図7(b)は、電極体209を電極体208に当接する配置して押し込んだ状態を示す図である。図7(a)及び図7(b)では、電極体209を構成する電極棒209aのうち、冷却ガスが直接吹き付けられる電極棒209aに注目して示す。電極体209は、電極体208が減耗した後も継続して通電加熱を行うために、電極体208に継ぎ足して用いられる。電極体209は、例えば、電極体209と同様に構成される。電極体209を配置する際は、電極体208から水平治具221および垂直治具222を取り外して、電極体209に付け替えられる。このとき、図7(b)に示されるように、冷却管241の第2の管243が第1の管242に対してx方向に移動することで、冷却管241は熔解槽201の側壁210の外側と内側とを結ぶ方向に収縮した状態となる。
【0040】
また、上述の実施形態では、押込装置220は、水平治具221及び垂直治具222を介して電極体208の後端面208bを押圧する構成としたが、例えば格子状の治具や板状の一体的に形成された治具を用いて電極体208の後端面208bを押圧しても良い。
【0041】
本実施形態で製造されるガラス基板には、歪点や徐冷点が高く良好な寸法安定性を有する無アルカリのボロアルミノシリケートガラスあるいはアルカリ微量含有ガラスが用いられる。
【0042】
本実施形態が適用されるガラス基板は、例えば以下の組成を含む無アルカリガラスからなる。
SiO:56−65質量%
Al:15−19質量%
:8−13質量%
MgO:1−3質量%
CaO:4−7質量%
SrO:1−4質量%
BaO:0−2質量%
NaO:0−1質量%
O:0−1質量%
As:0−1質量%
Sb:0−1質量%
SnO:0−1質量%
Fe:0−1質量%
ZrO:0−1質量%
【0043】
本実施形態で製造されるガラス基板は、フラットパネルディスプレイ用ガラス基板を含むディスプレイ用ガラス基板に好適である。IGZO(インジウム、ガリウム、亜鉛、酸素)等の酸化物半導体を使用した酸化物半導体ディスプレイ用ガラス基板及びLTPS(低温度ポリシリコン)半導体を使用したLTPSディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、本実施形態で製造されるガラス基板は、アルカリ金属酸化物の含有量が極めて少ないことが求められる液晶ディスプレイ用ガラス基板に好適である。また、有機ELディスプレイ用ガラス基板にも好適である。言い換えると、本実施形態のガラス基板の製造方法およびガラス熔解装置は、ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適であり、特に、液晶ディスプレイ用ガラス基板の製造に好適である。
また、本実施形態で製造されるガラス基板は、カバーガラス、磁気ディスク用ガラス、太陽電池用ガラス基板などにも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0044】
201 熔解槽
208 電極体(第1の電極要素)
209 電極体(第2の電極要素)
220 押込装置
240 冷却装置
241 冷却管
241a 先端
242 第1の管
243 第2の管
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7