(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
先端に噴孔を開口したオイル噴射パイプと、該オイル噴射パイプの基端を支持して上向きに延在せしめる本体部と、該本体部を貫通してシリンダ下部に固定せしめるボルトとを備え、該ボルトの軸心方向に延びる内部流路から供給されるオイルを前記オイル噴射パイプの前記噴孔からピストンの裏面に噴射し得るように構成したオイル噴射装置であって、
前記本体部の内周面と、前記ボルトの貫通部の外周面との間に、前記内部流路を取り巻くように環状流路を形成し、該環状流路と前記内部流路とを、前記貫通部に点対称に配置された偶数個の連通孔で連通させると共に、
前記環状流路の直径方向に相対するよう配した二箇所の流路端部にて前記環状流路と連通して該環状流路の径方向外側を半周取り巻き、且つ前記両流路端部から等距離の中間部において前記オイル噴射パイプに連通する調整流路を形成したことを特徴とするオイル噴射装置。
前記内部流路におけるオイルの圧力が所定の大きさに達した場合に前記内部流路と前記連通孔とを連通させる弁を前記ボルトに備えたことを特徴とする請求項1又は2に記載のオイル噴射装置。
【背景技術】
【0002】
図8(A)に示す如く、自動車等における一般的なエンジンでは、シリンダ1内に収容されたピストン2がピストンピン3を介しコンロッド4の小端部4aと連結され、該コンロッド4の大端部4bが図示しないクランクピンを介しクランクシャフトと連結されており、ピストン2の上下方向の往復運動がコンロッド4を介しクランクシャフトを回転する動力として作用するようになっている。
【0003】
こうしたピストン2には、
図8(B)に示す如く、その上側内部にクーリングギャラリー2aを環状に穿設したものがあり、この種のピストン2を冷却するに際しては、クーリングギャラリー2aの円周方向適宜位置に下向きに開口されているオイル入口孔2bに対し、シリンダ1下部に装備されたオイル噴射装置5からオイル6を上向きに噴射し、該オイル6を主にピストン2の下降時にクーリングギャラリー2a内へ注入して行き亘らせ、ピストン2の上下動による慣性力でシェーキングして効率良く熱交換させ、この熱交換によりピストン2から熱を奪って昇温したオイル6をクーリングギャラリー2aの円周方向適宜位置に下向きに開口されているオイル出口孔2cから流下させて回収するようにしている。
【0004】
図9に示す如く、前記オイル噴射装置5は、先端に噴孔7aを開口したオイル噴射パイプ7と、該オイル噴射パイプ7の基端を支持して上向きに延在せしめる本体部8と、該本体部8を貫通してシリンダ1下部に固定せしめるボルト9とを備え、その貫通箇所には、前記本体部8の内周面と、前記ボルト9の外周面との間に環状流路10が形成されるようになっており、この環状流路10に前記ボルト9の内部を通してオイル6が供給され、更には、前記環状流路10から前記オイル噴射パイプ7にオイル6が供給されて前記噴孔7aからピストン2の裏面に噴射されるようになっている。
【0005】
図10には前記ボルト9の構成を単体で示している。このボルト9の軸部9aは、先端側にシリンダ1の雌ねじ1aと対応する雄ねじ9bが形成されていると共に、基端側は前記本体部8を貫通する貫通部9cとして構成されている。内部には、先端側に開口して軸心方向に延びる内部流路11が形成されている。また、貫通部9cには、周方向複数箇所に、前記内部流路11から前記貫通部9cの外周面に向かって開口する連通孔12(図示する例では環状流路10の直径方向に相対するように配された二個の連通孔12a,12b)が設けられている。
【0006】
そして、
図11に示す如く、斯かる軸部9aの基端側の貫通部9cを本体部8に貫通せしめることで、該貫通部9cの外周面と、本体部8の内周面との間に前記環状流路10が形成され、内部流路11と環状流路10とが連通孔12により連通するようになっている。
【0007】
ここで、前記ボルト9が螺着されるシリンダ1下部のねじ孔は、オイル6を導く油通路13(
図9参照)を兼ねたものとなっている。この油通路13から導かれたオイル6が前記ボルト9の内部流路11を通って連通孔12a,12bから環状流路10に流出し、該環状流路10から前記オイル噴射パイプ7にオイル6が供給されるようになっている。
【0008】
尚、この種のオイル噴射装置に関連する先行技術文献情報としては下記の特許文献1等がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
こうしたオイル噴射装置においては、一定以上の冷却性能を確保するためにクーリングギャラリーにある程度の量のオイルを到達させる必要がある一方で、オイル噴射装置からのオイルの吐出量を最小限に抑えることも省燃費化の観点から重要である。このためには、オイル噴射装置から吐出されるオイルのうち、クーリングギャラリーに到達するオイルの割合、即ち捕捉率をなるべく高く一定に保つことが必要である。
【0011】
ここで、上述の如き従来のオイル噴射装置5においては、環状流路10に対し前記ボルト9の内部流路11を通して周方向二箇所の連通孔12a,12bからオイル6を供給するようにしているが、この連通孔12a,12bの環状流路10に対する向きを一定にすることは困難である。即ち、通常の管理工程において、シリンダ1における雌ねじ1aの位相や、ボルト9における雄ねじ9bの位相は管理されておらず、個々の部品によって異なる。このため、例えばボルト9をシリンダ1に対し一定の角度だけ締め付けるようにしても、連通孔12a,12bの向きは、シリンダ1やボルトの組み合わせ毎に異なってしまう。そして、連通孔12a,12bの向きによっては、オイル噴射パイプ7へ流れるオイル6の流れが偏ることでオイル噴射パイプ7内に旋回流が生じ、オイル噴射パイプ7の噴孔7aから噴射されるオイル6の噴流が拡散してしまう。これにより、クーリングギャラリー2aに到達するオイル6の量が減少し、捕捉率が低下する結果となる。このように、シリンダ1とボルト9の組み合わせによってはオイル6の捕捉率が低下する場合があり、捕捉率を一定に保つことが難しいという問題があった。
【0012】
こうした問題を解決する方策の一例として、例えば環状流路10におけるボルト9とオイル噴射パイプ7の間の位置にシムを挟み込むことで、組み付け時の連通孔12の位置を調整することが挙げられる。しかしながら、このためにはボルト9や本体部8の寸法毎に種々の板厚のシムを用意し、ボルト9の締め付けにあたって適切な板厚のものを選択する必要があり、組み付け工数が増大してしまう欠点がある。
【0013】
また、連通孔12が規定した向きになるよう、塑性域角度法によってボルト9を締め付けることも考えられるが、締め付け作業自体の工程と、その管理のための工程が発生し、やはり工数が増大してしまう問題がある。また、ボルト9内に弁等の装置を装備する場合には、ボルト9の塑性変形により装置の一部部品が締まり嵌め状態となり、噴射不能に陥ってしまう懸念もある。
【0014】
本発明は、斯かる実情に鑑み、簡単な構成でオイルの捕捉率のばらつきを低減し得るオイル噴射装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明は、先端に噴孔を開口したオイル噴射パイプと、該オイル噴射パイプの基端を支持して上向きに延在せしめる本体部と、該本体部を貫通してシリンダ下部に固定せしめるボルトとを備え、該ボルトの軸心方向に延びる内部流路から供給されるオイルを前記オイル噴射パイプの前記噴孔からピストンの裏面に噴射し得るように構成したオイル噴射装置であって、前記本体部の内周面と、前記ボルトの貫通部の外周面との間に、前記内部流路を取り巻くように環状流路を形成し、該環状流路と前記内部流路とを、前記貫通部に点対称に配置された偶数個の連通孔で連通させると共に、前記環状流路の直径方向に相対するよう配した二箇所の流路端部にて前記環状流路と連通して該環状流路の径方向外側を半周取り巻き、且つ前記両流路端部から等距離の中間部において前記オイル噴射パイプに連通する調整流路を形成したことを特徴とするオイル噴射装置にかかるものである。
【0016】
而して、このようにすれば、ボルトの貫通部に偶数個の連通孔を対称に備え、また、調整流路の両流路端部を環状流路の直径方向に相対するよう対称な位置に備えているので、各連通孔と両流路端部との位置関係が点対称となり、各連通孔から一方の流路端部までの流路の長さと、各連通孔から他方の流路端部までの流路の長さとがボルトの締め付け角度にかかわらず等しくなる。且つ、両流路端部からオイル噴射パイプまでの流路の長さも等しいので、一方の流路端部側からオイル噴射パイプへのオイルの流れと、他方の流路端部側からオイル噴射パイプへのオイルの流れの流量が略等しくなる。
【0017】
本発明のオイル噴射装置を具体的に実施するにあたっては、二個の前記連通孔が前記ボルトの前記貫通部に直径方向に相対するように配されていることが好ましく、このようにすれば、オイル噴射パイプに流入するオイルの流れの対称性を保つにあたり、ボルトの構造を単純なものとすることができる。
【0018】
また、本発明のオイル噴射装置においては、前記内部流路におけるオイルの圧力が所定の大きさに達した場合に前記内部流路と前記連通孔とを連通させる弁を前記ボルトに備えることが好ましく、このようにすれば、エンジンの回転数が高い場合に限ってピストンにオイルを供給することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明のオイル噴射装置によれば、以下の如き種々の優れた効果を奏し得る。
【0020】
(I)本発明の請求項1に記載の発明によれば、調整流路の一方の流路端部側からオイル噴射パイプへのオイルの流れと、調整流路の他方の流路端部側からオイル噴射パイプへのオイルの流れの流量を略等しくし、オイル噴射パイプへ流入するオイルの流れの対称性を保つことができる。これにより、オイル噴射パイプ内での旋回流の発生が抑えられ、噴流の拡散を抑制することができる。したがって、簡単な構成でオイルの捕捉率のばらつきを低減し得る。
【0021】
(II)本発明の請求項2に記載の発明によれば、単純な構造でオイル噴射パイプに流入するオイルの流れの対称性を保つことができる。
【0022】
(III)本発明の請求項3に記載の発明によれば、ピストンの熱負荷が高い場合に限ってピストンにオイルが供給されるので、オイルの消費量を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照して説明する。
【0025】
図1は本発明を実施する形態の一例を示すもので、
図8〜
図11と同一の符号を付した部分は同一物を表しており、
図1中に符号の記載が無いものについては、先の
図8〜
図11を参照することとする。
【0026】
本実施例のオイル噴射装置18は、先の
図8〜
図11で説明した従来例と略同様に、先端に噴孔7a(
図9参照)を開口したオイル噴射パイプ7と、該オイル噴射パイプ7の基端を支持して上向きに延在せしめる本体部8と、該本体部8を貫通してシリンダ1下部に固定せしめるボルト9を備えており、該ボルト9の軸心方向に延びる内部流路11から供給されるオイル6をオイル噴射パイプ7の噴孔7aからピストン2の裏面、ないしクーリングギャラリー2aのオイル入口孔2bに噴射するよう構成されている(
図8参照)。
【0027】
本体部8の内周面と、前記ボルト9の貫通部9cの外周面との間には、内部流路11を取り巻くように環状流路10が形成され、該環状流路10は、ボルト9の貫通部9cに直径方向に相対するように配された二個の連通孔12(12a,12b)を介して前記内部流路11と連通するようになっている。
【0028】
また、本実施例の場合、
図1(B)に示す如く、前記ボルト9の内部流路11に、該内部流路11におけるオイル6の圧力に応じて流路を開閉する弁14が装備されている(先の
図1では説明の便宜から図示を省略している)。内部流路11の途中には弁座15が形成され、該弁座15の基端側は弁体17を嵌合する嵌合部11aとなっており、該嵌合部11aに備えたバネ16の弾発力により弁体17が弁座15に対して付勢されるようになっている。そして、バネ16が弁体17を弁座15に押圧することで流路を閉塞するようになっているが、内部流路11におけるオイル6の圧力が所定以上の大きさに達すると、前記バネ16が圧縮されて弁体17がボルト9の基端側へ移動し、内部流路11と連通孔12a,12bとが連通するようになっている。ここで、内部流路11における弁体17との嵌合部11aの内周面と、弁体17との外周面の間には、弁体17が円滑に動作するよう、適当なクリアランスを備えることが望ましい。尚、ここでいう「所定以上」の圧力については後に詳述するが、バネ16の仕様により適宜設定することができる。
【0029】
そして、本実施例のオイル噴射装置18の場合、環状流路10の径方向外側の本体部8に、該環状流路10を半周する調整流路19を備えている。
【0030】
この調整流路19は、環状流路10の直径方向に相対するよう配した二箇所の流路端部19a,19bにて環状流路10と連通しており、両流路端部19a,19bから環状流路10の外側を回り込むように延びつつ互いに合流し、環状流路10の径方向外側を半周取り巻くように形成されている。更に、調整流路19は両流路端部19a,19bから等距離の中間部19cにおいてオイル噴射パイプ7と連通し、流路端部19a,19bから流入するオイル6をここでオイル噴射パイプ7に供給するようにしている。
【0031】
このように、本実施例のオイル噴射装置18においては、本体部8における環状流路10と調整流路19の間の部材が環状流路10とオイル噴射パイプ7の間を隔てる隔壁20をなしており、オイル6は環状流路10から直接オイル噴射パイプ7に流れ込むことはなく、必ず隔壁20の両端部を回り込んで調整流路19に流れ、該調整流路19の中間部19cからオイル噴射パイプ7へと流れ込むようになっている。
【0032】
次に、上記した本実施例の作動を説明する。
【0033】
図2〜
図4は本発明の実施例、及びその第一、第二参考例によるオイル噴射装置に関し、オイル6の流れを模式的に示した図である。尚、ここでは説明の都合上、連通孔12や環状流路10、調整流路19といった流路の太さを強調して図示している。
【0034】
図2(A)〜(D)は、上記した本実施例のオイル噴射装置18(
図1参照)におけるオイル6の流れを、ボルト9の締め付け角度を種々に変えて示している。本実施例の場合、ボルト9の貫通部9cに連通孔12a,12bを直径方向に相対する二箇所に備えているので、便宜上、この連通孔12a,12b同士を結ぶ仮想上の直線をL1とし、また、環状流路10の中心と、調整流路19とオイル噴射パイプ7との接続位置とを結ぶ仮想上の直線をL2と定義する。そして、直線L1と直線L2が互いになす角度をθ
1(0°≦θ
1≦90°)と定義し、この角度θ
1をもってボルト9の締め付け角度を表すものとする。
【0035】
図2(A)はθ
1=90°の場合を示している。この場合、環状流路10における二つの連通孔12a,12bの位置と、流路端部19a,19bの位置が互いに一致しているので、内部流路11から連通孔12a,12bを介して流れ出るオイル6は、各々ほぼ全量がそのまま流路端部19a,19bから調整流路19へと流れ込む。このとき、連通孔12aから流路端部19aを介して調整流路19に流れ、オイル噴射パイプ7へ至るオイル6の流れ6aと、連通孔12bから流路端部19bを介して調整流路19に流れ、オイル噴射パイプ7へ至るオイル6の流れ6bとは流路の長さが等しいため、流れ6aと流れ6bとは流量が略等しくなり、オイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れは対称となる。
【0036】
図2(B)はθ
1=0°の場合を示している。この場合、オイル6は連通孔12a,12bから流れ出た後、それぞれ二手に分かれて環状流路10を流れ、流路端部19a,19bから調整流路19に流れ込む。この際、連通孔12aから環状流路10を図中時計回りに流れて流路端部19aに流れ込むオイル6の流れ6cと、連通孔12aから環状流路10を図中反時計回りに流れて流路端部19bに流れ込むオイル6の流れ6dと、連通孔12bから環状流路10を図中時計回りに流れて流路端部19bに流れ込むオイル6の流れ6eと、連通孔12bから環状流路10を図中反時計回りに流れて流路端部19aに流れ込むオイル6の流れ6fとは、流路の長さが等しい。また、流路端部19a,19bからオイル噴射パイプ7へ至る流路の長さも互いに等しいので、流路端部19a側からオイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流量(流れ6cと流れ6fの合計)と、流路端部19b側からオイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流量(流れ6dと流れ6eの合計)が略等しくなり、やはりオイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れは対称となる。
【0037】
さらに、
図2(C)にθ
1=45°の場合を示す。この場合は、連通孔12aから環状流路10を時計回りに流れて流路端部19aに至るオイル6の流れ6cと、連通孔12bから環状流路10を時計回りに流れて流路端部19bに至るオイル6の流れ6eの流路の長さが等しく、また、連通孔12aから環状流路10を反時計回りに流れて流路端部19bに至るオイル6の流れ6dと、連通孔12bから環状流路10を反時計回りに流れて流路端部19aに至るオイル6の流れ6fの流路の長さが等しい。したがって、流路端部19a側からオイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流量(流れ6cと流れ6fの合計)と、流路端部19b側からオイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流量(流れ6dと流れ6eの合計)が略等しくなり、オイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れは対称となる。
【0038】
図2(D)にはθ
1=22.5°の場合を示しているが、このときも
図2(C)の場合と同様、流れ6cと流れ6e、流れ6dと流れ6fの流路の長さがそれぞれ互いに等しいので、流れ6cと流れ6e、流れ6dと流れ6fの流量が略等しく、オイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れは対称となる。
【0039】
このように、本実施例のオイル噴射装置18によれば、ボルト9の締め付け角度にかかわらず、オイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れの対称性を保つことができる。要するに、本実施例の場合、ボルト9に連通孔12を12a,12bの二箇所、互いに環状流路10の直径方向に相対するよう対称に備えたうえ、調整流路19の流路端部19a,19bも同様に対称に配置しているので、各連通孔12a,12bと両流路端部19a,19bとの位置関係が、ボルト9の締め付け角度によらず点対称になる。したがって、連通孔12aから流路端部19aまでの流路の長さと、連通孔12bから流路端部19bまでの流路の長さは必ず等しくなり、また、連通孔12aから流路端部19bまでの流路の長さと、連通孔12bから流路端部19aまでの流路の長さも必ず等しくなる。且つ、両流路端部19a,19bからオイル噴射パイプ7までの流路の長さも等しく設定されているため、流路端部19a側からオイル噴射パイプ7へのオイル6の流れと、流路端部19b側からオイル噴射パイプ7へのオイル6の流れの流量が略等しくなる。これにより、連通孔12a,12bの向きによらず、オイル噴射パイプ7へ流入するオイル6の流れの対称性を保つことができる。
【0040】
また、本実施例の場合、ボルト9内部に弁14を備えており、この弁14は、上述の如く内部流路11におけるオイル6の圧力が所定の大きさに達した場合にのみ内部流路11を連通孔12a,12bを介して環状流路10と連通させる。オイル6の圧力はオイルポンプの回転数によって変化し、該オイルポンプはエンジンによって駆動されるので、エンジンの回転数が高い場合、即ちピストン2(
図8参照)の熱負荷が高く、冷却の必要がある時に限り、ピストン2にオイル6が供給されることになる。エンジンの回転数が低く、ピストン2の熱負荷が低い間はオイル6の供給を停止するため、オイル6の消費量を低減することができる。
【0041】
ここで、流路が開通される圧力の閾値としての「所定の大きさ」は、上述の如くバネ16の仕様により設定することができるが、この設定に際しては、内部流路11におけるオイル6の圧力とエンジンないしオイルポンプの回転数との関係、及びエンジンの回転数とピストン2への熱負荷の関係といった種々の条件を考慮して適宜判断すれば良い。
【0042】
図3(A)〜(C)は、本発明の第一の参考例として、上記した従来例のオイル噴射装置5(
図11参照)におけるオイル6の流れを、ボルト9の締め付け角度を種々に変えて示している。本第一参考例では、連通孔12a,12b同士を結ぶ仮想上の直線をL1とし、環状流路10の中心と、該環状流路10とオイル噴射パイプ7との接続位置とを結ぶ仮想上の直線をL2と定義する。また、直線L1と直線L2が互いになす角度を、ボルト9の締め付け角度を表す角度θ
1(0°≦θ
1≦90°)と定義する。
【0043】
図3(A)はθ
1=90°の場合を示している。この場合、二つの連通孔12a,12bは、互いに環状流路10のオイル噴射パイプ7との接続部から等しい距離に位置している。このため、連通孔12aから環状流路10を通ってオイル噴射パイプ7へ至るオイル6の流れ6gと、連通孔12bから環状流路10を通ってオイル噴射パイプ7へ至るオイル6の流れ6hとは流路の長さが等しく、流量が略等しくなる。したがって、オイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れは対称となる。
【0044】
図3(B)はθ
1=0°の場合を示している。この場合、一方の連通孔12aの位置は環状流路10におけるオイル噴射パイプ7との接続部の位置と一致し、他方の連通孔12bはオイル噴射パイプ7との接続部とは正反対の位置にある。したがって、連通孔12aからのオイル6の流れ6iは大半がそのままオイル噴射パイプ7に流入する。一方、連通孔12bからのオイル6の流れは、図中時計回りに流れてオイル噴射パイプ7に至る流れ6jと、反時計回りに流れオイル噴射パイプ7に至る流れ6kとに分かれてオイル噴射パイプ7に流入するが、流れ6jと流れ6kとは流路の長さが互いに等しい。この場合も、オイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れは対称となる。
【0045】
さらに、
図3(C)はθ
1=45°の場合を示している。この場合、オイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れは対称とはならない。即ち、連通孔12aから時計回りに流れてオイル噴射パイプ7に至るオイル6の流れ6lの流路が最も短く、次に短いのが連通孔12bから反時計回りに流れてオイル噴射パイプ7に至るオイル6の流れ6mの流路である。したがって、多くのオイル6が流れ6lとして時計回りの方向からオイル噴射パイプ7に流入し、流れ6lより少ない量の流れ6mが反時計回りの方向からオイル噴射パイプ7に流入する。このため、オイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れが左右非対称となってしまう。
【0046】
このように、本第一参考例の如き流路構成では、角度θ
1が0°又は90°からずれていれば、オイル噴射パイプ7に流入するオイル6の流れが非対称になってしまう。
【0047】
図4(A)〜(C)には、本発明の別の参考例(第二参考例)として、ボルト9に連通孔12を一個だけ備えた構成のオイル噴射装置21におけるオイル6の流れを示している。本第二参考例では、環状流路10の中心から連通孔12へ向かう仮想上の半直線をL3とし、環状流路10の中心から、該環状流路10とオイル噴射パイプ7との接続位置へ向かう仮想上の半直線をL4と定義する。また、半直線L3が半直線L4に対してなす角度を、ボルト9の締め付け角度を表す角度θ
2(0°≦θ
2≦180°)と定義する。
【0048】
図4(A)はθ
2=0°の場合を示している。この場合、連通孔12の位置は環状流路10のオイル噴射パイプ7との接続部と一致しているので、連通孔12からのオイル6の流れは略全量がそのままオイル噴射パイプ7に流入し、オイル噴射パイプ7におけるオイル6の流れは対称となる。
【0049】
図4(B)はθ
2=180°の場合を示している。この場合、連通孔12からのオイル6の流れは、図中時計回りに流れる流れ6nと、反時計回りに流れる流れ6oとに分かれてオイル噴射パイプ7に流入するが、流れ6nと流れ6oとは流路の長さが等しいので、オイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れは対称となる。
【0050】
図4(C)はθ
2=90°の場合を示している。この場合、連通孔12から時計回りに流れてオイル噴射パイプ7に至るオイル6の流れ6pの流路が、連通孔12から反時計回りに流れてオイル噴射パイプ7に至るオイル6の流れ6qの流路より短いので、流れ6pの流量が流れ6qの流量より多くなり、オイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れは非対称となる。
【0051】
このように、本第二参考例の如き流路構成の場合、角度θ
2が0°又は180°からずれていれば、オイル噴射パイプ7に流入するオイル6の流れが非対称になってしまう。
【0052】
図5(A)は、上述の実施例及び第一、第二参考例におけるボルト9の角度(角度θ
1、θ
2)と、オイル噴射パイプ7内における旋回流の発生の関係を解析した結果を示している。各例において、角度θ
1又はθ
2を種々に変更しつつ、オイル噴射パイプ7の噴孔7a付近における中心軸周りのオイル6の角運動量を測定した。第一参考例(
図11、
図3参照)では、角度θ
1が0°または90°からずれた場合に角運動量が大きく、第二参考例(
図4参照)では角度θ
2が0°または180°からずれた場合に角運動量が大きくなっており、オイル噴射パイプ7内で旋回流が発生していることが確認された。実施例(
図1、
図2参照)では、角度θ
1の値にかかわらず角運動量が小さく保たれていた。
【0053】
さらに、上述の各例において角度θ
1、θ
2とオイル捕捉率の関係を計測する実験を行った。
図5(B)は測定の方法を説明する模式図である。オイル噴射パイプ7先端の噴孔7aの直上に、クーリングギャラリー2a(
図8参照)のオイル入口孔2bを想定した油孔24を設置した。この油孔24の位置は平面視で噴孔7aの中心軸と一致しており、噴孔7aからの高さはピストン2が上死点にある時のオイル入口孔2bと等しく設定されている。そして、内部流路11(
図1、
図3、
図4参照)におけるオイル6の圧力が所定の値となるよう調整して噴孔7aからオイル6を噴射し、油孔24に流入した量を吐出量で除した値をオイル捕捉率として算出した。
【0054】
図5(C)はその結果を示すグラフである。縦軸は角度θ
1、θ
2が0°の時のオイル捕捉率を基準とした相対値を示す。第一参考例(
図11、
図3参照)では角度θ
1が0°または90°からずれた場合に捕捉率が低下し、第二参考例(
図4参照)では角度θ
2が0°または180°からずれた場合に捕捉率が低下することが観察されたが、上記実施例(
図1、
図2参照)では角度θ
1の値にかかわらず捕捉率が高く保たれていた。
【0055】
以上より、第一、第二参考例(
図3、
図4参照)では、ボルト9の締め付け角度によってオイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れが非対称となる結果、オイル噴射パイプ7内におけるオイル6の流れに旋回が生じて噴孔7aから噴射されるオイル6の噴流が拡散し、ピストン2のクーリングギャラリー2a(
図8参照)へ到達するオイルの量が減少し、捕捉率が低下することが確認された。そして、上記実施例(
図1参照)では、オイル噴射パイプ7へ流れ込むオイル6の流れをボルト9の締め付け角度によらず対称とすることで、オイル捕捉率を高く保つことができるのである。
【0056】
尚、上記第二参考例(
図4参照)の如く連通孔12を一個だけ備えたオイル噴射装置21の場合、仮にここに上記実施例(
図1参照)と同様の調整流路19を設けたとしても(第三参考例のオイル噴射装置22として
図6に示す)、オイル6の流れの偏りは是正されない。ボルト9の締め付け角度によって、連通孔12から一方の流路端部19aに至る流路と、連通孔12から他方の流路端部19bに至る流路の長さが異なってくるからである。
【0057】
また、上では連通孔12を二個備えたオイル噴射装置18について説明したが、連通孔12の数はこれに限定されるものではない。ボルト9の貫通部9cに連通孔12を偶数個備え、且つそれらの連通孔12が点対称に配置されていれば、理論上、調整流路19の設置により上記実施例のオイル噴射装置18と同様の作用でオイル6の流れを是正することができる。
【0058】
図7には、本発明の実施例において連通孔12の数を二個から変更した場合を例示している。ここに示したオイル噴射装置23では、貫通部9cに連通孔12を12a〜12dの四個備えており、これら四つの連通孔12a,12b,12c,12dのうち、連通孔12aと連通孔12b、連通孔12cと連通孔12dがそれぞれ環状流路10の直径方向に相対するように位置している。このように各連通孔12を配置すれば、ボルト9の締め付け角度によらず、連通孔12a,12cの流路端部19a,19bに対する位置関係と、連通孔12b,12dの流路端部19a、19bに対する位置関係が対称になり、オイル噴射パイプ7に流入するオイル6の流れを対称にすることができる。尚、ここでは連通孔12a,12bを結ぶ仮想線と連通孔12c,12dを結ぶ仮想線が直角に交わる配置とした場合を例示しているが、この角度は直角である必要はなく、両仮想線が斜めに交わるような配置としても良い。連通孔12a〜12dの配置が点対称となっていれば、同様にオイル6の流れを対称にする作用効果を発揮することができる。
【0059】
また、連通孔12の数は偶数であれば何個でも良く、六個以上備えることも可能である。ただし、連通孔12の数は最少の二個とするのがボルト9に連通孔12を形成する上で最も単純であり、連通孔12や内部流路11、環状流路10からなる流路構成の精度を確保してオイル噴射パイプ7に流入するオイル6の流れの対称性を保つのに特に適していると考えられる。
【0060】
以上のように、上記本実施例においては、先端に噴孔7aを開口したオイル噴射パイプ7と、該オイル噴射パイプ7の基端を支持して上向きに延在せしめる本体部8と、該本体部8を貫通してシリンダ1下部に固定せしめるボルト9とを備え、該ボルト9の軸心方向に延びる内部流路11から供給されるオイル6をオイル噴射パイプ7の噴孔7aからピストン2の裏面に噴射し得るように構成したオイル噴射装置18及びオイル噴射装置23に関し、本体部8の内周面と、ボルト9の貫通部9cの外周面との間に、内部流路11を取り巻くように環状流路10を形成し、該環状流路10と内部流路11とを、貫通部9cに点対称に配置された偶数個の連通孔12(12a,12bないし12c,12d)で連通させると共に、環状流路10の直径方向に相対するよう配した二箇所の流路端部19a,19bにて環状流路10と連通して該環状流路10の径方向外側を半周取り巻き、且つ両流路端部19a,19bから等距離の中間部19cにおいてオイル噴射パイプ7に連通する調整流路19を形成している。このようにすれば、ボルト9の貫通部9cに偶数個の連通孔12(12a,12bないし12c,12d)を対称に備え、また、調整流路19の両流路端部19a,19bを環状流路10の直径方向に相対するよう対称な位置に備えているので、各連通孔12(12a,12b,12c,12d)と両流路端部19a,19bとの位置関係が点対称となり、各連通孔12(12a,12b,12c,12d)から一方の流路端部19aまでの流路の長さと、各連通孔12(12a,12b,12c,12d)から他方の流路端部19bまでの流路の長さとがボルト9の締め付け角度にかかわらず等しくなる。且つ、両流路端部19a,19bからオイル噴射パイプ7までの流路の長さも等しいので、一方の流路端部19a側からオイル噴射パイプ7へのオイル6の流れと、他方の流路端部19b側からオイル噴射パイプ7へのオイル6の流れの流量が略等しくなる。これにより、オイル噴射パイプ7へ流入するオイル6の流れの対称性を保つことができる。こうして、オイル噴射パイプ7内での旋回流の発生が抑えられ、噴流の拡散を抑制することができる。
【0061】
この際、二個の前記連通孔12(12a,12b)をボルト9の貫通部9cに直径方向に相対するように配すると、オイル噴射パイプ7に流入するオイル6の流れの対称性を保つにあたり、ボルト9の構造を単純なものとすることができる。
【0062】
また、上記本実施例においては、内部流路11におけるオイル6の圧力が所定の大きさに達した場合に内部流路11と連通孔12(12a,12b,12c,12d)とを連通させる弁14をボルト9に備えているので、エンジンの回転数が高く、ピストン2の熱負荷が高い場合に限ってピストン2にオイル6を供給することができ、オイル6の消費量を低減することができる。
【0063】
したがって、上記本実施例によれば、簡単な構成でオイルの捕捉率のばらつきを低減し得る。
【0064】
尚、本発明のオイル噴射装置は、上述の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。