(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記目標操舵角のフィードバック制御は、前記目標経路と自車両との横位置偏差に対する比例制御及び積分制御、前記目標経路と自車両とのヨー角偏差に対する比例制御及び微分制御を含むことを特徴とする請求項1記載の車両の操舵制御装置。
前記ドライバによる操舵介入が検知されない場合、前記舵角追従トルクを、前記目標操舵角と実操舵角との偏差に対する比例積分微分制御で設定し、前記ドライバによる操舵介入が検知された場合、前記目標操舵角と実操舵角との偏差に対する前記比例積分微分制御の積分制御項をゼロにクリアして前記舵角追従トルクを設定することを特徴とする請求項1又は2記載の車両の操舵制御装置。
前記ドライバによる操舵介入が検知された場合、前記目標操舵角のフィードバック制御における前記積分制御の積分制御項をゼロにクリアするとともに、前記微分制御の微分制御項をゼロにクリアすることを特徴とする請求項2記載の車両の操舵制御装置。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1において、符号1は操舵角をドライバ入力と独立して設定自在な電動パワーステアリング装置を示し、この電動パワーステアリング装置1は、ステアリング軸2が、図示しない自動車等の車両の車体フレームにステアリングコラム3を介して回動自在に支持されており、その一端が運転席側へ延出され、他端がエンジンルーム側へ延出されている。ステアリング軸2の運転席側端部には、ステアリングホイール4が固設され、また、エンジンルーム側へ延出する端部には、ピニオン軸5が連設されている。
【0012】
エンジンルームには、車幅方向へ延出するステアリングギヤボックス6が配設されており、このステアリングギヤボックス6にラック軸7が往復移動自在に挿通支持されている。このラック軸7に形成されたラック(図示せず)に、ピニオン軸5に形成されたピニオンが噛合されて、ラックアンドピニオン式のステアリングギヤ機構が形成されている。
【0013】
また、ラック軸7の左右両端はステアリングギヤボックス6の端部から各々突出されており、その端部に、タイロッド8を介してフロントナックル9が連設されている。このフロントナックル9は、操舵輪としての左右輪10L,10Rを回動自在に支持すると共に、車体フレームに転舵自在に支持されている。従って、ステアリングホイール4を操作し、ステアリング軸2、ピニオン軸5を回転させると、このピニオン軸5の回転によりラック軸7が左右方向へ移動し、その移動によりフロントナックル9がキングピン軸(図示せず)を中心に回動して、左右輪10L,10Rが左右方向へ転舵される。
【0014】
また、ピニオン軸5にアシスト伝達機構11を介して、電動パワーステアリングモータ12が連設されている。電動パワーステアリングモータ12は、モータ駆動部20により駆動され、このモータ駆動部20は操舵制御装置30で設定された操舵トルクを電動パワーステアリングモータ12から出力されるように電流制御などによって調整し、操舵制御装置30は操舵トルクセンサ23によって検知されたステアリングホイール4に加えられたドライバによる操舵トルクの量に応じたアシスト操舵トルク、及び、設定された目標操舵角に追従させる追従操舵トルクを合算、または選択して操舵トルクに設定する。
【0015】
操舵制御装置30は、マイクロコンピュータを中心として構成される制御ユニットであり、車両の外部環境を認識して走行環境情報を取得する外部環境認識装置100をはじめとして、図示しないエンジン制御装置、変速機制御装置、ブレーキ制御装置等の他の制御ユニットと、車内ネットワークを形成する通信バス150を介して接続されている。また、操舵制御装置30には、車速を検出する車速センサ21やステアリングホイール4の操舵角(実舵角)を検出する操舵角センサ22、およびドライバのステアリング操作力を検出する操舵トルクセンサ23等のセンサ類が接続されている。
【0016】
外部環境認識装置100は、車載のカメラ、ミリ波レーダ、レーザレーダ等の各種デバイスによる自車両周囲の物体の検出情報、路車間通信や車車間通信等のインフラ通信によって取得した交通情報、GPS衛星等からの信号に基づく自車両位置の測位情報、道路の曲率、車線幅、路肩幅等の道路形状データや、道路方位角、車線区画線の種別、レーン数等の走行制御用データを含む高精細の地図情報等により、自車両周囲の外部環境を認識する。本実施の形態においては、外部環境認識装置100として、車載のカメラ及び画像認識装置による前方環境の認識を主として説明し、車載のカメラは、同一対象物を異なる視点から撮像する2台のカメラで構成されるステレオカメラとする。
【0017】
尚、ステレオカメラを構成する2台のカメラは、CCDやCMOS等の撮像素子を有するシャッタ同期のカメラであり、例えば、車室内上部のフロントウィンドウ内側のルームミラー近傍に所定の基線長で配置されている。
【0018】
外部環境認識装置100におけるステレオカメラからの画像データの処理は、例えば以下のように行われる。まず、カメラで撮像した自車両の進行方向の1組のステレオ画像対に対し、対応する位置のずれ量から距離情報を有する距離画像を生成する。
【0019】
白線等の車線区画線の認識では、車線区画線は道路面と比較して高輝度であるという知得に基づき、道路の幅方向の輝度変化を評価して、画像平面における左右の車線区画線の位置を画像平面上で特定する。この車線区画線の実空間上の位置(x,y,z)は、画像平面上の位置(i,j)とこの位置に関して算出された視差とに基づいて、すなわち、距離情報に基づいて、周知の座標変換式より算出される。
【0020】
自車両の位置を基準に設定された実空間の座標系は、本実施の形態では、例えば、
図3に示すように、カメラの中央真下の道路面を原点として、車幅方向をx軸、車高方向をy軸、車長方向(距離方向)をz軸とする。このとき、x−z平面(y=0)は、道路が平坦な場合、道路面と一致する。道路モデルは、道路上の自車両の走行レーンを距離方向に複数区間に分割し、各区間における左右の車線区画線を所定に近似して連結することによって表現される。
【0021】
尚、本実施の形態では、走行路の形状をステレオカメラからの画像を基に認識する例で説明するが、他に、単眼カメラ、カラーカメラからの画像情報を基に求めるものであっても良い。
【0022】
外部環境認識装置100による外部環境の認識結果は、操舵制御装置30や他の制御装置に送信される。操舵制御装置30は、自車両の自動運転やドライバの運転を支援する運転支援制御において、外部環境の認識結果から自車両が走行する目標経路を設定する。そして、この目標経路に沿って走行するよう、電動パワーステアリングモータ12を駆動するモータ駆動部20を介して追従操舵制御を実行すると共に、この追従操舵制御中に、ドライバのハンドル操作(ステアリング操作)による操舵介入が検知された場合、ドライバの操舵操作に対して違和感がなく、且つドライバが意図しない操舵を行った場合にも目標経路への確実な復帰を可能とする補助トルクを出力する。
【0023】
このような追従操舵制御に係る機能として、操舵制御装置30は、
図2に示すように、目標経路設定部40、目標操舵角設定部50、舵角追従トルク設定部60、ドライバ操舵検知部70、補助トルク設定部80、目標出力トルク設定部90を主要部として備えている。詳細には、目標操舵角設定部50は、フィードフォワード(FF)制御部51、フィードバック(FB)制御部52、フィードバック(FB)ゲイン設定部53、目標操舵角算出部54を備えて構成されている。また、舵角追従トルク設定部60は、実舵角検出部61、舵角偏差算出部62、比例制御部63、微分制御部64、積分制御部65、舵角追従トルク算出部66、リミット処理部67を備えて構成されている。
【0024】
尚、目標経路設定部40は、操舵制御装置30に備えることなく、外部環境認識装置100等の他の制御装置内に備えるようにしても良い。
【0025】
目標経路設定部40は、外部環境認識装置100による外部環境の認識結果に基づいて、自車両の追従走行の対象となる目標点の軌跡を算出し、この目標点の軌跡を目標経路として設定する。追従走行の対象となる目標点は、例えば、自車両の走行位置を車線中央に維持する制御(車線維持制御)では、車線区画線としての左右の白線の道路幅方向の中央位置、自車両前方の先行車両に追従走行する制御(先行車追従制御)では先行車両の車幅方向の中央位置に設定され、このような目標点の軌跡を算出して目標経路とする。
【0026】
本実施の形態においては、左右白線の道路幅方向の中央位置を目標点とする経路を2次の近似曲線で同定して目標経路とする例について説明する。先行車両の車幅方向の中央位置を目標点とする走行軌跡についても、基本的に同様の処理で近似曲線を同定することができる。
【0027】
白線情報に基づく目標経路を生成する場合、画像上で検出された白線の候補点は、それぞれ画像座標系に対して、実空間の座標系に写像される。この画像上の白線候補点は、例えば、手前側の約7〜8mから遠方側の100m位までの候補点であり、これらの全ての白線候補点が実空間に写像される。そして、画像上で検出できた白線候補点と、自車両の移動量に基づいて推定した過去の白線データとを合わせ、それらのデータ点群に対して、例えば最小二乗法を適用して2次曲線で表現した白線候補点の軌跡を求める。この白線候補点の軌跡は、左右の白線に対応して左右の曲線として求められ、以下の(1)式で示すように、左右の曲線から求められる中央位置の軌跡を目標経路とする。
X=A・Z
2+B・Z+C …(1)
【0028】
ここで、(1)式において、係数A,B,Cは目標経路を構成する経路成分を表している。係数Aは目標経路の曲率成分を表し、係数Bは自車両に対する目標経路のヨー角成分(自車両の前後方向軸と目標経路(接線)との間の角度成分)、係数Cは自車両に対する目標経路の横方向(x軸方向)の位置成分(横位置成分)を表している。
【0029】
目標操舵角設定部50は、自車両の車幅方向の中心位置を目標経路上の目標点に一致させる追従操舵制御の目標操舵角αrefを設定し、舵角追従トルク設定部60、補助トルク設定部80に出力する。後述するように、舵角追従トルク設定部60は、実操舵角を目標操舵角αrefに一致させるための操舵トルクを発生させる舵角追従トルクTfbを設定し、補助トルク設定部80は、ドライバの操舵操作に対する補助トルクTasを設定する。
【0030】
詳細には、目標経路への目標操舵角αrefは、フィードフォワード(FF)制御部51で算出される操舵角αffと、フィードバック(FB)制御部52で算出される操舵角αfbとを目標操舵角算出部54で合算して算出される。後述するように、FB制御部52におけるフィードバック制御の操舵角αfbは、ドライバのハンドル操作の有無に応じて可変設定される。
【0031】
FF制御部51は、目標経路の曲率κに対するフィードフォワード制御の操舵角αffを、例えば、以下の(2)式により算出する。(2)式における曲率κは、例えば、
図3に示すように、(1)式で示す2次式で目標経路を近似した場合、係数Aの値を適用して求めることができる。また、(2)式における係数Gffは、フィードフォワード制御におけるゲインであり、予め実験やシミュレーション等によって曲率κに応じた最適なゲインを求めてマップを作成しておき、このマップを参照して設定される。
αff=Gff・κ …(2)
【0032】
FB制御部52は、目標経路に対する自車両の横位置偏差、目標経路に対する自車両のヨー角偏差に対するフィードバック制御の操舵角αfbを算出する。このフィードバック制御の操舵角αfbは、以下の(3−1)〜(3−4)式に示すように、現在の操舵角で進行したときの所定距離ZLにおける自車両の目標経路に対する横位置偏差δ'(
図3参照)に対する比例制御項αp、自車両の目標経路に対する横位置偏差δ(
図3参照)の積分制御項αi、自車両の目標経路に対するヨー角偏差θy(
図3参照)に対する比例制御項αy、自車両の目標経路に対するヨー角偏差θyの微分制御項αrを含み、以下の(4)式に示すように、これらの制御項αp,αi,αy,αrを合算した操舵角である。
αp=Gp・δ' …(3−1)
αi=Gi・∫δdt …(3−2)
αy=Gy・θy …(3−3)
αr=Gr・dθy/dt …(3−4)
αfb=αp+αi+αy+αr
=Gp・δ'+Gi・∫δdt+Gy・θy+Gr・dθy/dt …(4)
但し、Gp:横位置偏差に対する比例ゲイン
Gi:横位置偏差に対する積分ゲイン
Gy:ヨー角偏差に対する比例ゲイン
Gr:ヨー角偏差に対する微分ゲイン
【0033】
(3−1)式に示す比例制御項αpは、目標経路と自車両との横位置の偏差に比例して、偏差を0にするための制御項である。この比例制御項αpは、横位置偏差δ'に比例ゲインGpを乗算して算出される。後述するように、比例ゲインGpは、FBゲイン設定部53においてドライバのハンドル操作の有無に応じて可変設定される。
【0034】
横位置偏差δ'は、現在の操舵角で進行したときの所定の距離における自車両の横位置を、車速、車両固有のスタビリティファクタ、ホイールベース、ステアリングギヤレシオ等から推定(或いはセンサによって検出した自車両のヨーレートから算出)し、この自車両の推定横位置と前方の目標経路の横位置との偏差として求めることができる。目標経路の横位置は、例えば、(1)式で示す2次式で目標経路を近似した場合、係数Cの値を適用して求めることができる。
【0035】
尚、比例制御項αpは、追従対象の種別や走行速度等の条件に応じて、現在の自車両の目標経路に対する横位置偏差δに比例する制御項としても良く、また、横位置偏差δに比例する制御量と横位置偏差δ'に比例する制御量との両方を含む制御項としても良い。
【0036】
(3−2)式に示す積分制御項αiは、比例制御の出力と目標値との間に定常的に発生する偏差や、横風或いは路面の横断勾配(カント)等の外乱によって目標値との間に発生する偏差を補償するものであり、自車両が目標経路に対してオフセットして走行することを防止する。この積分制御項αiは、横位置偏差δを積分した積分値に、FBゲイン設定部53においてドライバのハンドル操作の有無に応じて設定される積分ゲインGiを乗算して算出される。
【0037】
尚、積分制御項αiにおける積分値は、横位置偏差δに所定のゲインを乗算した値を調整用の加算幅として、この加算幅を積分した値としても良い。
【0038】
(3−3)式に示す比例制御項αyは、自車両のヨー角を目標経路に沿ったヨー角にフィードバック制御するための制御項であり、ヨー角偏差θyに比例ゲインGyを乗算して算出される。ヨー角偏差θyは、例えば、(1)式で示す2次式で目標経路を近似した場合、係数Bの値を適用して求めることができる。また、比例ゲインGyは、FBゲイン設定部53においてドライバのハンドル操作の有無に応じて可変設定される。
【0039】
(3−4)式に示す微分制御項αrは、自車両のヨー角を目標経路に沿ったヨー角に応答性良く収束させるための制御項であり、ヨー角偏差θyに微分ゲインGrを乗算して算出される。微分ゲインGrは、FBゲイン設定部53においてドライバのハンドル操作の有無に応じて可変設定される。
【0040】
以上のFB制御部52におけるフィードバック制御の各ゲインGp,Gi,Gy,Grは、FBゲイン設定部53にて設定される。FBゲイン設定部53は、ドライバ操舵検知部70から出力される検知フラグによるドライバのハンドル操作の有無に応じて、FB制御部52の各ゲインGp,Gi,Gy,Grを可変設定する。
【0041】
すなわち、操舵制御装置30を中心とする操舵システムに対して、ドライバのハンドル操作による操舵介入の有無をドライバ操舵検知部70で検知し、ドライバの操舵介入の有無に応じて、各ゲインGp,Gi,Gy,Grの特性を適正に設定することで、操舵システムによる操舵制御とドライバによる操舵操作との干渉を防止する。
【0042】
ここで、ドライバ操舵検知部70におけるドライバによる操舵介入の検知は、例えば、操舵トルクセンサ23で検出されたドライバのハンドル操作による操舵トルクTdrvを、車速及び操舵角に応じて設定されるトルク閾値Thと比較する。そして、Tdrv≧Thの場合、ドライバのハンドル操作有り(ドライバの操舵介入有り)と判定してドライバの操舵介入を検知したことを示す検知フラグをONし、Tdrv<Thの場合、ドライバのハンドル操作無し(ドライバの操舵介入無し)と判定して検知フラグをOFFする。この例では操舵トルクTdrvのみで検知する方法を示したが、操舵トルクTdrvと操舵角センサ22で検出された操舵角、および操舵角を微分などして算出した操舵角速度を組み合わせて検知してもよい。
【0043】
ドライバのハンドル操作がない(ドライバの操舵介入が検知されない)場合、各ゲインGp,Gi,Gy,Grは、例えば
図4に示すような特性に設定される。一方、ドライバのハンドル操作があり、ドライバの操舵介入があった場合には、積分ゲインGi及び微分ゲインGrがゼロにクリアされ、同時に、比例ゲインGp,Gyがドライバのハンドル操作がない場合とは異なる特性に設定される。
【0044】
具体的には、横位置偏差δ'に対する比例ゲインGpは、横位置偏差δ'によって可変され、ドライバのハンドル操作の有無に応じて異なる特性に設定される。ドライバのハンドル操作がないときの比例ゲインGpは、横位置偏差δ'が大きくなると線形に増加し、所定の上限値で一定となる特性に設定されている。
【0045】
一方、ドライバのハンドル操作がある(ドライバの操舵介入が検知された)場合の比例ゲインGpは、横位置偏差δ'が小さい領域に不感帯Dpが設けられ、この不感帯Dp内では0(又は0に近い値)とされる。そして、不感帯Dpを超えて横位置偏差δ'が大きくなると、所定の上限値まで線形に増加する特性に設定されている。不感帯Dpは、横位置偏差δ'が小さいときには、ドライバのハンドル操作に対して後述の補助トルクを余計に出力させないためである。
【0046】
横位置偏差δの積分ゲインGiは、ドライバのハンドル操作がないとき、横位置偏差δが大きくなるにつれて積分ゲインGiが小さくなり、所定の偏差値以上で0になる特性に設定されており、過剰な横位置積分量の増加によるワインドアップを防止するようにしている。一方、ドライバのハンドル操作があったときには、積分ゲインGiはGi=0とされ、積分制御が停止される。
【0047】
ヨー角偏差θyに対する比例ゲインGyは、ヨー角偏差θyによって可変とされ、ドライバのハンドル操作の有無に応じて異なる特性に設定される。ドライバのハンドル操作がないときの比例ゲインGyは、ヨー角偏差θyが小さくなるにつれて線形に増加し、Qy点を境に増加の傾きが変化し、所定の上限値まで増加する。ヨー角偏差θyがQy点以下のゲインの増加の傾きは、Qy点以上のゲインの増加の傾きより大きくなる特性に設定されている。
【0048】
一方、ドライバのハンドル操作があるときのヨー角偏差θyに対する比例ゲインGyは、ヨー角偏差θyが小さい領域に不感帯Dyが設けられ、この不感帯Dy内では0(又は0に近い値)とされる。そして、不感帯Dyを超えてヨー角偏差θyが大きくなると、所定の上限値まで線形に増加する特性に設定されている。不感帯Dyは、ヨー角偏差θyが小さいときに、ドライバのハンドル操作に対して余計な補助トルクを出力させないためである。
【0049】
ヨー角偏差θyの微分ゲインGrは、ドライバのハンドル操作がないとき、ヨー角偏差θyが大きくなるにつれて微分ゲインGrが小さくなり、所定の偏差以上で一定となる特性に設定されており、過剰な応答速度による操舵制御系のオーバーシュートを防止するようにしている。一方、ドライバのハンドル操作があったときには、微分ゲインGrはGr=0とされ、操舵システムによる応答性の制御が停止される。
【0050】
目標操舵角算出部54は、以下の(5)式に示すように、FF制御部51で算出した操舵角αffとFB制御部52で算出した操舵角αfbとを合算し、目標操舵角αrefを算出する。この目標操舵角αrefは、舵角追従トルク設定部60に送られ、実舵角を目標操舵角αrefに収束させるための舵角追従トルクTfbが算出される。
αref=αff+αfb …(5)
【0051】
舵角追従トルク設定部60は、実舵角検出部61において操舵角センサ22からの信号に基づいて実舵角αrを検出し、以下の(6)式に示すように、実舵角αrと目標操舵角算出部54からの目標操舵角αrefとの舵角偏差Δαを、舵角偏差算出部62で算出する。
Δα=αref−αr …(6)
【0052】
舵角偏差算出部62で算出された舵角偏差Δαは、比例制御部63、微分制御部64、積分制御部65に入力され、それぞれ、以下の(7−1),(7−2),(7−3)式に示すように、比例制御操舵トルクTp、微分制御操舵トルクTd、積分制御操舵トルクTiが算出される。そして、これらの操舵トルクTp,Td,Tiが舵角追従トルク算出部66で合算され、(8)式に示す舵角追従トルクTfbが算出される。
Tp=Kp・Δα …(7−1)
Td=Kd・dΔα/dt …(7−2)
Ti=Ki・∫Δαdt …(7−3)
Tfb=Tp+Ti+Td
=Kp・Δα+Kd・dΔα/dt+Ki・∫Δαdt …(8)
【0053】
(8)式で示す舵角追従トルクTfbは、舵角偏差Δαに基づくフィードバック制御により、実操舵角αrを目標操舵角αrefに一致させるための操舵トルクである。この舵角追従トルクTfbは、ドライバ操舵検知部70でドライバのハンドル操作が検知されていない場合、予め実験やシミュレーション等によって最適に設定された比例ゲインKp、微分ゲインKd、及び積分ゲインKiによるPID制御で算出される。
【0054】
一方、ドライバのハンドル操作が検知された場合には、積分ゲインKiがKi=0とされて舵角偏差Δαに対する積分値がゼロにクリアされる。これは、目標操舵角αrefへのフィードバック制御における積分制御項αiのゼロクリアと併せて、ドライバの操舵介入がある状態からドライバの操舵介入がない状態に復帰したときに、余分な積分値によって不適切な操舵トルクが発生することを防止し、ドライバに違和感を与えることを未然に回避するためである。
【0055】
リミット処理部67は、舵角追従トルク算出部66で算出された舵角追従トルクTfbを、上下値及び下限値で制限するリミット処理を行う。この上下限のリミット処理は、ドライバの操舵介入が検知されたとき、例えば、ドライバのハンドル操作力が大きくなるほど、舵角追従トルクTfbに対する上限及び下限の制限値を小さく設定する処理であり、ドライバへの違和感を抑制することができる。
【0056】
以上の舵角追従トルク設定部60に対して、補助トルク設定部80は、目標操舵角算出部54からの目標操舵角αrefをトルク変換処理して補助トルクTasを設定する。ドライバの操舵介入時、目標操舵角αrefのフィードバック制御は、積分ゲインGi及び微分ゲインGrが共にゼロにクリアされて自車両の横位置偏差及びヨー角偏差に対する比例制御が支配的となり、この比例制御を主とする目標操舵角αrefから補助トルクTasが設定される。このときの補助トルクTasは、舵角追従トルクTfbとの差がドライバに違和感を与えない程度となるように制限されて設定される。
【0057】
以上の舵角追従トルクTfb及び補助トルクTasは、目標出力トルク設定部90に送られ、ドライバの操舵介入の有無に応じて所定の比率で合算され、操舵制御装置30による操舵制御の目標値となる目標出力トルクTrefとして設定される。この目標出力トルクTrefへの制御は、具体的には、ドライバのハンドル操作に応じた操舵トルクを合算した制御トルクを実現するための電動パワーステアリングモータ12の電流制御となる。
【0058】
本実施の形態においては、ドライバの操舵介入がない場合、補助トルクTasがゼロとされて舵角追従トルクTfbが目標出力トルクTrefとして出力される。一方、ドライバの操舵介入があった場合には、
図5に2点鎖線で示すように、舵角追従トルクTfbが制限されて略ゼロに低下し、破線で示す補助トルクTasが目標出力トルクTrefとして出力される。すなわち、ドライバの操舵介入があった場合、目標出力トルクTrefが舵角追従トルクTfbから補助トルクTasに切り換えられる。
【0059】
このとき、ドライバの操舵介入時の目標出力トルクTrefとなる補助トルクTasは、目標操舵角αrefの横位置偏差の積分量がゼロにクリアされて設定される。これにより、ドライバの操舵操作に対して、横位置偏差の積分量の残留分によるドライバへの違和感を低減することができる。
【0060】
すなわち、一般に、積分制御は外乱変化に対して位相が遅れるため、例えば、路面カントが切り替わった場合等には、溜まった積分量によって逆方向に操舵されたり、オーバーシュートが発生する可能性がある。これに対して、本実施の形態においては、目標経路への追従操舵制御中にドライバによる操舵介入があった場合、目標操舵角αrefへのフィードバック制御の横位置偏差に対する積分制御項をゼロにクリアして補助トルクTasを発生させる。
【0061】
これにより、目標経路に対するオフセットの増加やオーバーシュートの発生を防止することができる。また、カーブ等の走行中に、積分量が制限値に達して逆方向に偏差を打ち消すように作用し、ドライバのハンドル操作とは逆方向のトルクを発生するといったことがなく、ドライバに違和感を与えることを防止することができる。
【0062】
また、ドライバの操舵介入があるとき、補助トルクTasは、横位置偏差の積分量をゼロにクリアして横位置偏差及びヨー角偏差に比例するような値として設定される目標操舵角αrefから設定される。このため、ドライバの操舵介入がないときの舵角追従トルクTfbとドライバの操舵介入があるときの補助トルクTasとの差が不自然に大きくなることを防止することができ、例えば、ドライバのハンドル操作方向が目標出力トルクTrefによるハンドルの変化方向と同じである場合に、当初はハンドル操作が軽く、操作を続けると舵感が重くなるといった違和感が残ることがない。
【0063】
更には、万一、ドライバが意図せずに目標経路から外れそうになる操舵操作を行っても、目標経路との偏差に比例するような略一定の補助トルクTasが操舵システム側から出力されているため、ドライバのハンドル操作に対して反力を発生させ、目標経路に確実に復帰させることが可能となる。しかも、目標経路と自車両との横位置偏差が小さいときには、横位置偏差の積分量をゼロとしているので、目標操舵角が積分によって増減することがなく、よって補助トルクTasは積分による増減がなくなり、ドライバのハンドル操作を妨げることもない。
【0064】
このように本実施の形態においては、ドライバによる操舵介入が検知されない場合には、積分制御を含むフィードバック制御を用いて目標操舵角を設定し、設定した目標操舵角と実操舵角との偏差に基づいて設定した舵角追従トルクを目標出力トルクとして設定し、ドライバによる操舵介入が検知された場合、積分制御の積分制御項をゼロにクリアして目標操舵角を設定すると共に、積分制御の積分制御項をゼロにクリアして設定した目標操舵角に基づいて補助トルクを設定し、設定した補助トルクを主として目標出力トルクを設定する。これにより、目標経路に対する追従操舵制御中の操舵出力からドライバの操舵介入時の操舵出力に、ドライバに違和感を与えることなく移行させることができ、また、ドライバの意図しない操舵操作に対しても目標経路への復帰が可能となる。