特許第6722089号(P6722089)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 富士先端技術株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社ベイシティの特許一覧

特許6722089アルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を製造する方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722089
(24)【登録日】2020年6月23日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】アルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を製造する方法
(51)【国際特許分類】
   C22C 1/10 20060101AFI20200706BHJP
   C04B 41/88 20060101ALI20200706BHJP
   C04B 35/52 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   C22C1/10 G
   C22C1/10 E
   C04B41/88 V
   C04B35/52
【請求項の数】9
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2016-203560(P2016-203560)
(22)【出願日】2016年10月17日
(65)【公開番号】特開2018-65703(P2018-65703A)
(43)【公開日】2018年4月26日
【審査請求日】2019年1月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】516311478
【氏名又は名称】富士先端技術株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】500064845
【氏名又は名称】株式会社ベイシティ
(74)【代理人】
【識別番号】100108947
【弁理士】
【氏名又は名称】涌井 謙一
(74)【代理人】
【識別番号】100117086
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典弘
(74)【代理人】
【識別番号】100124383
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 一永
(74)【代理人】
【識別番号】100173392
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 貴宏
(74)【代理人】
【識別番号】100189290
【弁理士】
【氏名又は名称】三井 直人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 信幸
【審査官】 河口 展明
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−144281(JP,A)
【文献】 特開2000−203973(JP,A)
【文献】 特開平11−043729(JP,A)
【文献】 特開平10−195560(JP,A)
【文献】 特開平11−050179(JP,A)
【文献】 国際公開第2012/164581(WO,A2)
【文献】 特開昭49−126708(JP,A)
【文献】 特開平03−035864(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 41/02
B22D 11/10
B22D 41/54
C04B 35/66,41/88
C22C 29/00−29/18,32/00
C22C 1/08−1/10
C22C 47/00−49/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ークス粉末、又は、コークス粉末と黒鉛粉末との混合粉末と、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタル、炭化ニオブの中の一種以上の粉末とを混合する工程、
前記工程で得た混合粉にタール又はピッチを加えてペースト状の物質を作り、これを押出成形し、その後1,000〜1,500℃にて焼成する一次焼成で固形物を得る工程、
前記工程で得た固形物に対してタール又はピッチを含浸して1,000〜1,500℃で焼成する一次焼成により固形物を得る工程を複数回繰り返し、2,500〜3,000℃で焼成する最終焼成により押出成形体を得る工程、
前記最終焼成により得た押出成形体に対して熔湯鍛造法によりアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸させる工程
を経てアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を製造する方法
【請求項2】
前記炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタル、炭化ニオブの中の一種以上の粉末は、粒度が20μ以下の粒子である請求項1記載のアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を製造する方法。
【請求項3】
押出成形における押出方向の熱伝導度が300W/mK以上である請求項1又は2記載のアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を製造する方法
【請求項4】
ークス粉末、又は、コークス粉末と黒鉛粉末との混合粉末と、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化ニオブの中の一種以上の粉末とを混合する工程、
前記工程で得た混合粉にタール又はピッチを加えてペースト状の物質を作り、これを押出成形し、その後1,000〜1,500℃にて焼成する一次焼成で固形物を得る工程、
前記工程で得た固形物に対してタール又はピッチを含浸して1,000〜1,500℃で焼成する一次焼成により固形物を得る工程を複数回繰り返し、2,500〜3,000℃で焼成する最終焼成により押出成形体を得る工程、
前記最終焼成により得た押出成形体に対して熔湯鍛造法によりアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸させる工程
を経てアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を製造する方法
【請求項5】
前記酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化ニオブの中の一種以上の粉末は、粒度が20μ以下の粒子である請求項4記載のアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を製造する方法。
【請求項6】
押出成形における押出方向の熱伝導度が300W/mK以上である請求項3又は4記載のアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を製造する方法
【請求項7】
ークス粉末、又は、コークス粉末と黒鉛粉末との混合粉末と、金属チタン、金属ジルコニウム、金属ハフニウム、金属タンタル、金属ニオブの中の一種以上の粉末とを混合する工程、
前記工程で得た混合粉にタール又はピッチを加えてペースト状の物質を作り、これを押出成形し、その後1,000〜1,500℃にて焼成する一次焼成で固形物を得る工程、
前記工程で得た固形物に対してタール又はピッチを含浸して1,000〜1,500℃で焼成する一次焼成により固形物を得る工程を複数回繰り返し、2,500〜3,000℃で焼成する最終焼成により押出成形体を得る工程、
前記最終焼成により得た押出成形体に対して熔湯鍛造法によりアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸させる工程
を経てアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を製造する方法
【請求項8】
前記金属チタン、金属ジルコニウム、金属ハフニウム、金属タンタル、金属ニオブの中の一種以上の粉末は、粒度が20μ以下の粒子である請求項7記載のアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を製造する方法。
【請求項9】
押出成形における押出方向の熱伝導度が300W/mK以上である請求項7又は8記載のアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を製造する方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合体に関し、特に、脆弱性が改善されていて、なおかつ、好適な熱伝導度を有する複合体と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素材料を含む金属複合材料について、本発明は、既に、特開2000−203973号公報(特許3673436号)にて提案している(特許文献1)。この提案に係る金属複合材料は、炭素と金属以外の材料を使用していないため、炭素自体の脆弱性を有している。
【0003】
その後、この脆弱性を克服すべく、やはり、本発明は、特開2009−248164号公報(特許5061018号)にて、炭素とマトリックス金属であるアルミニウム又はアルミニウム合金以外に炭化ケイ素を加えることを提案している(特許文献2)。これにより脆弱性の欠点を克服できた。
【0004】
しかしながら、上記の提案では、本来保有している高い熱伝導度を犠牲にしてなされたものであった。又、炭素材の出発原料もコークスからではなく既に黒鉛化されたものであり、さらに炭化ケイ素を加えることから、従来の黒鉛の製造工程は利用することができなかった。炭化ケイ素は黒鉛の最終焼成温度2,500〜3,000℃で消失してしまう。
【0005】
押し出し工程を経て製造が行われる場合、炭素中の粒子は方向性を持ち、その方向に沿って高い熱伝導度を発現する。一方、押出工程を経過しないSiC添加の炭素−SiC複合材では高い熱伝導度を有する複合体を得ることは容易ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−203973号公報
【特許文献2】特開2009−248164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、前記問題に鑑み、複合体の脆弱性を改善し、且つ、好適な熱伝導度を有する複合体と、その製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は上記の目的を良好に達成し得る以下の要旨を有する本発明に到達した。
【0009】
次の工程を経て製造されるアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体である。
コークス粉末、又は、コークス粉末と黒鉛粉末との混合粉末と、炭化物粉末、酸化物粉末、金属粉粉末の何れかとを混合する工程、前記工程で得た混合粉にタール又はピッチを加えてペースト状の物質を作り、これを押出成形し、その後1,000〜1,500℃にて焼成する一次焼成で固形物を得る工程、前記工程で得た固形物に対してタール又はピッチを含浸して1,000〜1,500℃で焼成する一次焼成により固形物を得る工程を複数回繰り返し、2,500〜3,000℃で焼成する最終焼成により押出成形体を得る工程、前記最終焼成により得た押出成形体に対して熔湯鍛造法によりアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸させる工程。
【0010】
また、次の工程を経て製造されるアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体である。
コークス粉末、又は、コークス粉末と黒鉛粉末との混合粉末と、炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタル、炭化ニオブの中の一種以上の粉末とを混合する工程、
前記工程で得た混合粉にタール又はピッチを加えてペースト状の物質を作り、これを押出成形し、その後1,000〜1,500℃にて焼成する一次焼成で固形物を得る工程、
前記工程で得た固形物に対してタール又はピッチを含浸して1,000〜1,500℃で焼成する一次焼成により固形物を得る工程を複数回繰り返し、2,500〜3,000℃で焼成する最終焼成により押出成形体を得る工程、
前記最終焼成により得た押出成形体に対して熔湯鍛造法によりアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸させる工程。
【0011】
前記において、炭化物粉末(炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタル、炭化ニオブの中の一種以上の粉末)は、粒度が20μ以下の粒子であることが望ましい。
【0012】
この実施形態の、押出成形体に対して熔湯鍛造法によりアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸させるアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体は、押出成形における押出方向の熱伝導度が300W/mK以上である。
【0013】
また、次の工程を経て製造されるアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体である。
コークス粉末、又は、コークス粉末と黒鉛粉末との混合粉末と、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化ニオブの中の一種以上の粉末とを混合する工程、
前記工程で得た混合粉にタール又はピッチを加えてペースト状の物質を作り、これを押出成形し、その後1,000〜1,500℃にて焼成する一次焼成で固形物を得る工程、
前記工程で得た固形物に対してタール又はピッチを含浸して1,000〜1,500℃で焼成する一次焼成により固形物を得る工程を複数回繰り返し、2,500〜3,000℃で焼成する最終焼成により押出成形体を得る工程、
前記最終焼成により得た押出成形体に対して熔湯鍛造法によりアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸させる工程。
【0014】
前記において、酸化物粉末(酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化ニオブの中の一種以上の粉末)は、粒度が20μ以下の粒子であることが望ましい。
【0015】
この実施形態の、押出成形体に対して熔湯鍛造法によりアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸させるアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体は、押出成形における押出方向の熱伝導度が300W/mK以上である。
【0016】
酸化チタン、等の酸化物は、コークス粉末、又は、コークス粉末と黒鉛粉末との混合粉末の炭素中で加熱されると、基本的に、MO+C→MC+CO という反応を生じる(ここでMは金属元素、Oは酸素 Cは炭素)。この結果、実質的に炭化物を加えたことと同じ効果になる。
【0017】
更に、次の工程を経て製造されるアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体である。
コークス粉末、又は、コークス粉末と黒鉛粉末との混合粉末と、金属チタン、金属ジルコニウム、金属ハフニウム、金属タンタル、金属ニオブの中の一種以上の粉末とを混合する工程、
前記工程で得た混合粉にタール又はピッチを加えてペースト状の物質を作り、これを押出成形し、その後1,000〜1,500℃にて焼成する一次焼成で固形物を得る工程、
前記工程で得た固形物に対してタール又はピッチを含浸して1,000〜1,500℃で焼成する一次焼成により固形物を得る工程を複数回繰り返し、2,500〜3,000℃で焼成する最終焼成により押出成形体を得る工程、
前記最終焼成により得た押出成形体に対して熔湯鍛造法によりアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸させる工程。
【0018】
前記において、金属粉末(金属チタン、金属ジルコニウム、金属ハフニウム、金属タンタル、金属ニオブの中の一種以上の粉末)は、粒度が20μ以下の粒子であることが望ましい。
【0019】
この実施形態の、押出成形体に対して熔湯鍛造法によりアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸させるアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体は、押出成形における押出方向の熱伝導度が300W/mK以上である。
【0020】
金属チタン、等の金属は、炭素中で加熱されると、コークス粉末、又は、コークス粉末と黒鉛粉末との混合粉末の炭素中で加熱されると、基本的に、M+C→MC という反応を生じる(ここでMは金属元素、Cは炭素)。この結果、実質的に炭化物を加えたことと同じ効果になる。
【0021】
以上のように、実質的に炭化物を加える本発明は従来の黒鉛電極製造工程と同様の工程を経て作ることができる。特に押出工程を経て製造されるので、コークスの中で針状のものは押出方向に揃う。この結果、押出成形における押出方向の熱伝導度は極めて高いものとなる。
【0022】
すなわち、この発明のアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体は、高伝熱媒体である。
【0023】
上述したいずれの実施形態においても、コークス粉末、又は、コークス粉末と黒鉛粉末との混合粉末に対して、上述した炭化物粉末、酸化物粉末、金属粉末を混合する割合は、コークス粉末、又は、コークス粉末と黒鉛粉末との混合粉末100質量部に対して、10〜30質量部にすることができる。
【0024】
本発明の目的を達成する上で、また、得られたアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体の加工性の観点からこの範囲が望ましい。
【0025】
上述した特許文献2(特開2009−248164号公報=特許5061018号)の提案では、炭化ケイ素を利用し、押出工程を経ていない。そこで、熱伝導度は低いものしか得られない。
【0026】
本発明で利用する炭化物は3,000℃でも安定であるが炭化ケイ素は2,500℃以上ではケイ素が消失してしまう。そこで、本発明の製造工程では炭化ケイ素を利用することはできない。
【0027】
本発明による複合体は、炭化物を含む複合体、すなわち、アルミニウム−黒鉛−炭化物複合体である。
【0028】
このように炭化物を含む本発明の複合体は、上述した特許文献1(特開2000−203973号公報=特許3673436号)で提案されている金属複合材料と比較すると、その脆弱性を克服したものとなる。
【0029】
そこで、例えば、板状物の場合、その厚さは、特許文献1の金属複合材料製の板状物の1/4〜1/10にすることができる。これによって、コストを大きく削減できる。
【0030】
また、この発明の複合体は押出工程を経て製造されるので、押出工程を経た炭化物を含む黒鉛は、粒子が一方向に揃い、この結果、押出成形における押出方向の熱伝導度は極めて高いものとなる。
【0031】
そこで、この発明のアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体は、放熱板、冷却板などの放熱部品に最適な部材として有用である。
【0032】
例えば、基板上に配線された所にLED素子を配したLEDモジュール、高出力半導体であるIGBT(絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、Insulated Gate Bipolar Transistor)の基板、半導体の中央演算素子の放熱板、更に、ルーター、サーバーの素子の冷却板として好適なアルミニウム−黒鉛−炭化物の複合体を提供することができる。
【発明の効果】
【0033】
この発明によれば、複合体の脆弱性を改善し、且つ、好適な熱伝導度を有する複合体と、その製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0034】
コークス粉としては例えば、石油系のニードルコークスを用いることができる。
【0035】
ニードルコークスの粉末100部(質量)に対して、粉末の粒度が20μm以下の炭化チタン、炭化ジルコニウム、炭化ハフニウム、炭化タンタル、炭化ニオブから選択される一種以上の粉末を10〜30部(質量)加えた混合粉を得る。
【0036】
他の実施形態としては、コークス粉末100部(質量)に対して、粉末の粒度が20μm以下の酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化ハフニウム、酸化タンタル、酸化ニオブから選択される一種以上の粉末を10〜30部(質量)加えた混合粉を得る。
【0037】
更に、他の実施形態としては、コークス粉末100部(質量)に対して、粉末の粒度が20μm以下の金属チタン、金属ジルコニウム、金属ハフニウム、金属タンタル、金属ニオブから選択される一種以上の粉末を10〜30部(質量)加えた混合粉を得る。
【0038】
以上の3種の混合粉それぞれについて、ペーストとなる状態にすべくピッチ(例えば、石油から精製された50℃〜150℃のピッチ)を加え、混練機にてペースト状になるまで混練する。ピッチに替えてタール(例えば、石炭からコークスを生産する際に得た副産物のタール)を用いてもよいし、ピッチとタールの双方とを用いてもよい。
【0039】
上記のようにして得られた3種のペースト状物をそれぞれ押出成形する。先ず、ペーストを押出用コンテナに入れて、プランジャーにて押出すが、押出物の形状は丸形状でも角形状でもよい。この押出物のニードルコークスは一方向に揃えられている。
【0040】
上記のようにして得られる3種の押出物を1,000〜1,500℃で一次焼成して固形物を得る。
【0041】
この一次焼成は、非酸化性雰囲気で1,000〜1,500℃にて行うことができる。
【0042】
その後、前記各固形物に対してピッチ含浸あるいは、タール含浸を行い、1,000〜1,500℃で焼成する一次焼成工程を複数回(例えば、3〜6回)繰り返し行う。前記複数回の一次焼成工程は、固形分が体積で80%を超えた所で終了する。固形分が80%以下だと後の工程で、熔湯鍛造法によりアルミニウム又はアルミニウム合金を加圧含浸させた後の複合体の重要な物性値である押出方向と直交する方向の熱膨張が大きくなってしまい、好ましくない。
【0043】
特にLEDパッケージの場合、LEDの主成分であるガリウムの熱膨張係数である7ppmに近い熱膨張となるようにしなければならない。
【0044】
以上のようにして得られる一次焼成した3種の押出物はそれぞれ最終的に2,500〜3,000℃で焼成する。この雰囲気も非酸化性雰囲気で行うことができる。この最終焼成によって、シリコン、アルミニウム、鉄などの元素は消失排除されるが、チタン、ジルコニウム、ハフニウム、タンタル、ニオブの元素は炭化物として黒鉛中に残存する。
【0045】
炭化物原料を使用しないで、より安価な酸化物原料を使用する場合でも炭素中で1,300℃以上に加熱すると、炭素との親和力の強い元素は酸素を遊離して炭化物に変化する。
【0046】
Mを金属元素(Ti,Zr,Hf,Ta、Nb)とする時、MO+C→MC+CO となる。Oは酸素の反応が起こるので敢えて炭化物を出発原料とする必要は無い。又、金属そのものでも以上の工程の中で炭化物に容易に変化する。従って、金属粉の使用も許容されるし、炭化物、酸化物、金属の同時併用も許容される。
【0047】
炭化物、酸化物、金属の各粉体の粒度は上述したように平均粒径が20μm以下が好ましい。大きいと出来上がった複合体の中で硬度の大きい炭化物は難加工性であるので、工具の寿命を短くする等の弊害をもたらすので好ましくない。
【0048】
以上のようにして得られる炭素−炭化物の各成形体にアルミニウムあるいはアルミニウム合金を含浸させることによってこの実施形態のアルミニウム−黒鉛−炭化物複合体を得ることができる。
【0049】
予め200〜350℃に加熱された金型内に、650〜750℃に加熱した上記の各成形体を所定の位置に配置し、650〜800℃に保持したアルミニウム熔湯あるいはアルミニウム合金の熔湯を注ぎ、加圧力50〜100MPaにて熔湯鍛造する。
【0050】
この時に用いられるアルミの組成は、JIS展伸用アルミ合金の1,000系、2,000系、3,000系、4,000系、6,000系、7,000系が好ましく、又はJISアルミ鋳物合金のAC1、AC2、AC3、AC4、AC8、AC9、ADC1、ADC3、ADC10、ADC12、ADC14なども好適である。
【0051】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明は、上述した実施の形態及び、以下の実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲の記載から把握される技術的範囲において種々に変更可能である。
【実施例1】
【0052】
石油系ニードルコークスの1mmの篩下のもの100kgに、炭化チタン粉の平均粒径1.5μmで10μmが99%のものを20kg加えて130℃に保持されている混練機に入れてピッチを徐々に添加し、ペースト状の物を得た。
【0053】
得られたペースト状のものを130℃に保持されているコンテナに入れ、ダイスの形状が縦150mm、横200mmの角形で押出した。
【0054】
押出したものを、非酸化性雰囲気で1,300℃にて12時間かけて焼成した。焼成したものを200℃のピッチ槽に入れて、蓋をして密閉し0.5MPaの圧力をかけてピッチ含浸した。
【0055】
前述したピッチ含浸と引き続く1,300℃焼成をさらに3回繰り返した後、得られた炭素−炭化チタンの成形体のサンプルを切り出して空隙の割合を計測したところ、19.4%であった。
【0056】
前記で得られた炭素−炭化チタンの成形体をアルゴン雰囲気中で2,950℃にて焼成して黒鉛−炭化チタンからなる複合体の前駆体を得た。これの中から150mm×200mm×250mmサイズの黒鉛−炭化チタンからなるブロックを切り出した。
【0057】
前述した黒鉛−炭化チタンからなるブロックを700℃に加熱した後、250℃に保持された金型内に配置して、さらに750℃のAC4Cアルミニウム合金を注いで加圧力90MPaで熔湯鍛造を行った。冷却後、複合体を切り出して厚さ1mm、直径10mmの熱伝導試験片と厚さ2mm、縦100mm、横10mmの3点曲げ試験片を製作した。
【実施例2】
【0058】
実施例1の炭化チタンの代替に炭化タンタルを10kg、炭化ジルコニウムを10kg用いて同様に複合体から同じサイズの試験片を製作した。
【実施例3】
【0059】
実施例1の炭化チタンの代替に酸化チタンを25kg加えた以外は同様にして複合体を製作した。その中から小片を切り出し乳鉢にて細粉化して、X線回折で分析した所、黒鉛と炭化チタンのみが検出された。この複合体からも同じサイズの試験片を製作した。
【実施例4】
【0060】
実施例1の炭化チタンの代替に酸化ジルコニウム10kg、金属ニオブ5kgを用いた以外は同様にして複合体を得た。その中から実施例3と同じ方法でX線回折分析した所、黒鉛と炭化ジルコニウムと炭化ニオブのみが検出された。この複合体からも同じサイズの試験片を製作した。
【実施例5】
【0061】
実施例1において、炭化チタンの添加量100kgとした以外は同様に複合体を作成し、それより熱伝導試験片と曲げ試験片を作製した。非常に難加工性であった。
【0062】
(比較例1)
特許文献1(特開2000−203973号公報=特許3673436号)で提案されている金属複合材料の製造方法に依拠する方法として、ニードルコークスとピッチを使用してペースト化し、押出工程を経て1,300℃焼成−ピッチ含浸を繰り返し行い、空隙率18%の焼成体を得た。引き続き、2,900℃にて黒鉛化を行って実施例1と同様にアルミ含浸を行った。その複合体より熱伝導試験片と曲げ試験片を作製した。
【0063】
(比較例2)
特許文献2(特開2009−248164号公報=特許5061018号)の提案に依拠する方法、即、出発原料が人工黒鉛と炭化ケイ素粒子であり、押出工程を経ないで粉体の圧縮工程成形されたものに、AC4C熔湯を含浸させた。その複合体より熱伝導試験片と曲げ試験片を作製した。
【0064】
実施例1〜5、比較例1、2によって得られた結果を表1に記載する。
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のアルミニウム−黒鉛−炭化物からなる複合体は、適度な熱膨張率、高い熱伝導度を有し、且つ機械的強度に優れ、LEDパッケージ、IGBT基板、CPU、ルーター、サーバーの放熱板として広範な分野で有用である。