特許第6722095号(P6722095)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722095
(24)【登録日】2020年6月23日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】磁性流体シール付き軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/82 20060101AFI20200706BHJP
   F16C 33/78 20060101ALI20200706BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20200706BHJP
   F16J 15/3204 20160101ALI20200706BHJP
   F16J 15/53 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   F16C33/82
   F16C33/78 Z
   F16C19/06
   F16J15/3204 201
   F16J15/53
【請求項の数】3
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-232719(P2016-232719)
(22)【出願日】2016年11月30日
(65)【公開番号】特開2018-91358(P2018-91358A)
(43)【公開日】2018年6月14日
【審査請求日】2019年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002495
【氏名又は名称】グローブライド株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】特許業務法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】小原 武恵
(72)【発明者】
【氏名】東本 隆
【審査官】 中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】 特開2015−089358(JP,A)
【文献】 実開昭59−123753(JP,U)
【文献】 実開昭60−097462(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 19/00−19/56
F16C 33/30−33/82
F16J 15/3204
F16J 15/53
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と外輪との間に複数の転動体を介装し、前記内輪と前記外輪との間に形成されるリング状の開口部にリング状の磁石を配設して磁性流体を保持し、前記開口部をシールする磁性流体シール付き軸受であって、
前記開口部に配置され、前記磁石を取着するリング状の保持部材を備え、
前記保持部材は、前記磁石の軸方向外側に配置される外側極板と、前記磁石の軸方向内側に配置される内側極板と、を有しており、
前記内側極板は、前記内輪と前記外輪とのうちいずれか一方に設けられた固定部に固定されるとともに、他方との間に形成された隙間に前記磁性流体を介して配置されており、
前記磁石の軸方向外側の領域には、前記開口部をシールするリング状の弾性シール部材が設けられており、
前記内輪と前記外輪とのうち他方側が、前記開口部の軸方向外側から前記弾性シール部材と前記磁性流体とによる二段階のシール構造でシールされており、
前記弾性シール部材は、前記外側極板に装着するための凹部と、前記固定部側に設けられる基端部と、前記内輪と前記外輪とのうち他方側の内面に対向配置されるシール部と、を備えることを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【請求項2】
内輪と外輪との間に複数の転動体を介装し、前記内輪と前記外輪との間に形成されるリング状の開口部にリング状の磁石を配設して磁性流体を保持し、前記開口部をシールする磁性流体シール付き軸受であって、
前記開口部に配置され、前記磁石を取着するリング状の保持部材を備え、
前記保持部材は、前記内輪と前記外輪とのうちいずれか一方に設けられた固定部に固定されるとともに、他方との間に形成された隙間に前記磁性流体を介して配置されており、
前記磁石の軸方向外側の領域には、前記開口部をシールするリング状の弾性シール部材が設けられており、
前記内輪と前記外輪とのうち他方側が、前記開口部の軸方向外側から前記弾性シール部材と前記磁性流体とによる二段階のシール構造でシールされており、
前記弾性シール部材は、前記磁石に装着するための凹部と、前記固定部側に設けられる基端部と、前記内輪と前記外輪とのうち他方側の内面に対向配置されるシール部と、を備えることを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【請求項3】
内輪と外輪との間に複数の転動体を介装し、前記内輪と前記外輪との間に形成されるリング状の開口部にリング状の磁石を配設して磁性流体を保持し、前記開口部をシールする磁性流体シール付き軸受であって、
前記開口部において前記磁石の軸方向外側に配置され、前記磁石を取着するリング状の保持部材を備え、
前記磁石は、前記内輪と前記外輪とのうちいずれか一方に設けられた固定部に固定されるとともに、他方との間に形成された隙間に前記磁性流体を介して配置されており、
前記磁石の軸方向外側の領域には、前記開口部をシールするリング状の弾性シール部材が設けられており、
前記内輪と前記外輪とのうち他方側が、前記開口部の軸方向外側から前記弾性シール部材と前記磁性流体とによる二段階のシール構造でシールされており、
前記弾性シール部材は、前記保持部材に装着するための凹部と、前記固定部側に設けられる基端部と、前記内輪と前記外輪とのうち他方側の内面に対向配置されるシール部と、を備えることを特徴とする磁性流体シール付き軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種の動力伝達機構に配設され、回転体を回転自在に支持する磁性流体シール付き軸受に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般的に、各種の動力伝達機構に配設される回転体は、軸受を介して回転自在に支持されている。このような軸受は、様々な駆動装置における動力伝達機構の回転体の支持手段として用いられるが、駆動装置によっては、軸受内部に埃、水分等の異物の侵入を防止したい。特に、屋外で動力伝達機構が使用される場合には、軸受内部に埃、水分等の異物が侵入し易いため、回転性能が劣化したり、異音が生じたりする等の問題が生じる。
【0003】
従来、軸受内部への埃、水分等の異物の侵入を防止するシール構造として、合成ゴム等の弾性部材で軸受の開口部をシールする構造が採用されてきた。しかし、このシール構造では、シール材の劣化や変形等によって僅かな隙間を生じることがあり、そのような隙間を生じると完全な密封状態にすることができず、シール性能が安定し難い。
【0004】
そこで、回転体の回転性能を低下させることなく、軸受部分に対する異物の侵入防止を図る構成として、特許文献1に示すような磁性流体によるシール構造を採用した磁性流体シール付き軸受の採用が広がっている。
【0005】
特許文献1に開示された磁性流体シール付き軸受では、内輪および外輪との間に形成される開口部に磁石と極板とからなる磁性体を配設し、磁性体の一端側を外輪に固定するとともに、磁性体の他端側と内輪との間に隙間を形成している。そして、磁性体の両端に形成した磁気回路に磁性流体をそれぞれ保持して軸受内部を密閉する磁気シールを行っている。
【0006】
この磁性流体シール付き軸受では、粘性の低い液体の転動体側への侵入を確実に防止できるので、軸受内部の耐食性が格別に向上している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第5797600号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記した従来の磁性流体シール付き軸受は、開口部に隙間を形成してこの隙間に磁性流体を保持する構成であることから、軸受の組付時等に指に磁性流体が付着したり、他物と接触したりして磁性流体が持ち出されることでシール性能が低下するおそれがあった。このため、このような磁性流体の持ち出しを防止すべく、作業環境や管理方法に注意が必要であり、慎重な取り扱いが要求されていた。
【0009】
本発明は、前記課題を解決するためになされたものであり、外部からの異物侵入を防止しつつ、外部からの接触による磁性流体の付着、持ち出しを防止して磁性流体のシール性能の安定化を図ることができる磁性流体シール付き軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために本発明の磁性流体シール付き軸受は、内輪と外輪との間に複数の転動体を介装し、前記内輪と前記外輪との間に形成されるリング状の開口部にリング状の磁石を配設して磁性流体を保持し、前記開口部をシールする磁性流体シール付き軸受である。磁性流体シール付き軸受は、前記開口部に配置され、前記磁石を取着するリング状の保持部材を備えている。前記保持部材は、前記磁石の軸方向外側に配置される外側極板と、前記磁石の軸方向内側に配置される内側極板と、を有している。前記内側極板は、前記内輪と前記外輪とのうちいずれか一方に設けられた固定部に固定されるとともに、他方との間に形成された隙間に前記磁性流体を介して配置されている。前記磁石の軸方向外側の領域には、前記開口部をシールするリング状の弾性シール部材が設けられている。前記内輪と前記外輪とのうち他方側が、前記開口部の軸方向外側から前記弾性シール部材と前記磁性流体とによる二段階のシール構造でシールされている。前記弾性シール部材は、前記外側極板に装着するための凹部と、前記固定部側に設けられる基端部と、前記内輪と前記外輪とのうち他方側の内面に対向配置されるシール部と、を備える
【0011】
この磁性流体シール付き軸受では、隙間に保持される磁性流体、および磁石よりも軸方向外側の領域に設けられるリング状の弾性シール部材リング状の開口部がシールされている。つまり、リング状の開口部が、軸方向外側から弾性シール部材と磁性流体との二段階のシール構造でシールされている。これにより、外部からの比較的大きな異物の侵入を外側の弾性シール部材によるシールでブロックし、これを通過した比較的小さい異物を内側の磁性流体によるシールでブロックすることができる。したがって、外部からの異物の侵入を効果的に防止できる。また、磁性流体を採用するシール構造であることから慎重な取り扱いが求められるが、外部からの接触物による磁性流体の付着や持ち出しを弾性シール部材によって効果的に防止できるので、取り扱いが簡単になるとともに、磁性流体のシール性能の安定化を図ることができる。
また、前記弾性シール部材は、前記外側極板に支持されているので、弾性シール部材を支持する部材が別途必要とならないので、部品点数の増加を回避できるとともに、組み立てが容易になる。
また、内輪と外輪とのうち他方側が、開口部の軸方向外側から弾性シール部材と磁性流体とによる二段階のシール構造でシールされているので、磁性流体によるシール構造と弾性シール部材によるシール構造とを軸方向に容易に配置することができ、二段階のシール構造を容易に構築することができる。
【0012】
前記目的を達成するために本発明の磁性流体シール付き軸受は、内輪と外輪との間に複数の転動体を介装し、前記内輪と前記外輪との間に形成されるリング状の開口部にリング状の磁石を配設して磁性流体を保持し、前記開口部をシールする磁性流体シール付き軸受である。磁性流体シール付き軸受は、前記開口部に配置され、前記磁石を取着するリング状の保持部材を備えている。前記保持部材は、前記内輪と前記外輪とのうちいずれか一方に設けられた固定部に固定されるとともに、他方との間に形成された隙間に前記磁性流体を介して配置されている。前記磁石の軸方向外側の領域には、前記開口部をシールするリング状の弾性シール部材が設けられている。前記内輪と前記外輪とのうち他方側が、前記開口部の軸方向外側から前記弾性シール部材と前記磁性流体とによる二段階のシール構造でシールされている。前記弾性シール部材は、前記磁石に装着するための凹部と、前記固定部側に設けられる基端部と、前記内輪と前記外輪とのうち他方側の内面に対向配置されるシール部と、を備える。
【0013】
前記目的を達成するために本発明の磁性流体シール付き軸受は、内輪と外輪との間に複数の転動体を介装し、前記内輪と前記外輪との間に形成されるリング状の開口部にリング状の磁石を配設して磁性流体を保持し、前記開口部をシールする磁性流体シール付き軸受である。磁性流体シール付き軸受は、前記開口部において前記磁石の軸方向外側に配置され、前記磁石を取着するリング状の保持部材を備えている。前記磁石は、前記内輪と前記外輪とのうちいずれか一方に設けられた固定部に固定されるとともに、他方との間に形成された隙間に前記磁性流体を介して配置されている。前記磁石の軸方向外側の領域には、前記開口部をシールするリング状の弾性シール部材が設けられている。前記内輪と前記外輪とのうち他方側が、前記開口部の軸方向外側から前記弾性シール部材と前記磁性流体とによる二段階のシール構造でシールされている。前記弾性シール部材は、前記保持部材に装着するための凹部と、前記固定部側に設けられる基端部と、前記内輪と前記外輪とのうち他方側の内面に対向配置されるシール部と、を備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、外部からの異物侵入を防止しつつ、外部からの接触による磁性流体の付着、持ち出しを防止して磁性流体のシール性能の安定化を図ることができる磁性流体シール付き軸受が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明に係る磁性流体シール付き軸受の一実施形態を示す図であり、軸方向に沿った断面図である。
図2図1に示す磁性流体シール付き軸受の要部拡大断面図である。
図3】第一変形例を示す要部拡大断面図である。
図4】第二変形例を示す要部拡大断面図である。
図5】第三変形例を示す要部拡大断面図である。
図6】第四変形例を示す要部拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る磁性流体シール付き軸受の実施形態について図面を参照して説明する。
【0017】
本実施形態に係る磁性流体シール付き軸受(以下、軸受とも称する)1は、図1に示すように、内輪2と、外輪3と、複数の転動体(転がり部材)4と、を備えている。内輪2は、円筒状を呈し、回転体としての回転軸100とともに回転可能に嵌合される。外輪3は、円筒状を呈し、内輪2を囲繞して駆動装置の筐体(内部フレーム等)110に配設される。複数の転動体4は、内外輪2,3間に介装して配設されている。転動体4は、保持器(図示せず)によって保持されており、これにより内輪2と外輪3とを相対的に回転可能としている。
【0018】
内輪2、外輪3および転動体4は、磁性体であり、例えばクロム系ステンレス(SUS440C)によって形成されている。保持器は、耐食性、耐熱性に優れた材料、例えばステンレス材(SUS304)によって形成されている。なお、転動体4については、必ずしも磁性体である必要はない。転動体4は、例えば、セラミックス系の材料で形成することにより、磁場の影響を受けない(転動体4と内外輪2,3が吸引されない)ように構成することができ、低トルク化することが可能である。
【0019】
また、本実施形態の外輪3は、その端面(露出端面)3aが内輪2の端面(露出端面)2aと同一平面上(略同一な平面であってもよい)に位置するように構成されている。同一平面とは、軸方向X(図1参照、以下同じ)に垂直なひとつの面をいう。なお、内輪2の端面2aと外輪3の端面3aのいずれか一方が他方よりも長く形成されていてもよい。
【0020】
内輪2と外輪3との間に形成されるリング状の開口部5には、以下に詳述する磁性流体シール(磁気シール機構)20が設置されている。なお、磁性流体シール20は、内輪2と外輪3との上下の開口部5で同じ構成であるため、以下の説明では、図1の上側に位置する開口部5の構成について説明する。磁性流体シール20は、本実施形態のように、軸受1の内部のシール性を高めるために、上下の開口部5のそれぞれに配設しておくことが好ましいが、一方の開口部5にだけ設置する構成であってもよい。
【0021】
磁性流体シール20は、リング状の磁石21と、磁石21の軸方向外側面に接して配置されるリング状の保持部材としての外側極板22と、磁石21の軸方向内側面に接して配置されるリング状の保持部材としての内側極板23と、を備えている。さらに、磁性流体シール20は、磁石21によって形成される磁気回路に保持される磁性流体24と、リング状に形成された弾性体としての弾性シール部材25と、を備えている。磁性流体シール20は、これらの部材によって、開口部5を通じて軸受1内に、埃、水分等の異物が侵入しないようにシールする機能を有している。
【0022】
磁石21は、図2に示すように、外側極板22と内側極板23との間に挟持されるように取着されて開口部5内に配置されている。磁石21は、磁力によって外側極板22および内側極板23に取着されているが、これらに対して接着剤等により接着されていてもよい。
磁石21は、外輪3側の外周面21bが外輪3の対向面(内面、固定部として機能する)3bに対して接触している。また、磁石21は、内輪2に対向する内周面21aが内側極板23の内周面23aよりも内輪2の対向面2bから離間している。これにより、磁石21の内周面21aの側方に磁性流体24が付着し難いスペースが形成されている。
【0023】
磁石21としては、磁束密度が高く、磁力が強い永久磁石、例えば、焼結製法によって作成されるネオジム磁石を用いることができる。磁石21は、図2に示すように、予め軸方向Xに磁極(S極、N極)が向くように着磁されている。磁石21の軸方向外側面には、外側極板22が接するように配設され、磁石21の軸方向内側面には、内側極板23が接するように配設されている。外側極板22および内側極板23は、磁性体であり、例えば磁性を有するステンレス(SUS420)によって形成されている。
【0024】
外側極板22は、磁石21よりも径方向Yに短く形成されており、弾性シール部材25を支持する支持部材としての機能を併せ備えている。外側極板22は、内輪2に対向する内周面22aが磁石21の内周面21aよりも内輪2の対向面2bからさらに離間している。これにより、外側極板22の径方向Yの内側には、弾性シール部材25の内周部側が配置されるスペースS5が形成されている。
また、外側極板22は、外輪3に対向する外周面22bが外輪3の対向面3bから離間している。これにより、外側極板22の径方向外側には、弾性シール部材25の外周部側が配置されるスペースS6が形成されている。弾性シール部材25の詳細については後記する。
【0025】
内側極板23は、内輪2と外輪3との両対向面2b,3bのうち、外輪3の対向面(内面)3bに圧入されて固定されるとともに、内輪2の対向面(外面)2bとの間に隙間S1を形成して配置されている。内側極板23の外周面23bは、外輪3の対向面3bに対して僅かに大きく形成されており、圧入により外輪3の対向面3bに密着している。なお、内側極板23の組み付け構造は、これとは逆側となる内輪2の対向面(外面)2bに対して内側極板23を固定し、外輪3の対向面(内面)3bとの間に隙間S1を形成するものであってもよい。内側極板23の軸受1に対する組み付けは、圧入以外にも隙間嵌め、磁力固定であってもよい。
【0026】
磁性流体24は、内輪2側に形成される隙間S1に保持されている。磁性流体24は、例えば、Feのような磁性微粒子を、ベースオイルに分散(界面活性剤を利用してベースオイル内に分散させている)させて構成されたものであり、粘性があって磁石を近づけると反応する特性を備えている。このため、磁性流体24は、磁石21と、磁性材料で構成される内輪2および内側極板23との間で形成される磁気回路によって、隙間S1における所定の位置に安定して保持される。
なお、前記のように磁石21の内周面21aの側方には、磁性流体24が付着し難いスペースが形成されているので、隙間S1における所定の位置により一層安定して磁性流体24が保持されるようになる。
【0027】
弾性シール部材25は、隙間S1の軸方向Xの外側から開口部5をシールする部材である。弾性シール部材25は、外側極板22に支持され、隙間S1の軸方向Xの外側領域に配置される。つまり、弾性シール部材25は、磁性流体24でシールされる側となる内輪2側と同じ側において開口部5をシールしている。弾性シール部材25の素材としては、弾性変形する素材であればよく、例えば、天然ゴムや合成ゴムなどのゴムや、エラストマー、ポリエチレンなどの樹脂等、いかなるものであっても構わない。
【0028】
弾性シール部材25は、外側極板22に支持された状態で、内輪2の端面2a、外輪3の端面3aよりも軸方向Xの内側に所定量だけ窪むように位置付けられている。弾性シール部材25は、外側極板22に装着するための凹部25cと、内輪2の対向面2bに接触するシール部25aと、外輪3に装着される外周基端部25bと、を備えている。
【0029】
凹部25cは、断面扁平四角形状を呈しており、外側極板22の全体を覆う大きさを備えている。凹部25cの径方向Yの内側となる内周部は、外側極板22の径方向内側に形成されるスペースS5を覆っている。スペースS5において、弾性シール部材25の内周部は、磁石21の軸方向Xの外側面に当接している。
また、凹部25cの径方向Yの外側となる外周部は、外側極板22の径方向外側に形成されるスペースS6を覆っている。スペースS6において、弾性シール部材25の外周部は、磁石21の軸方向Xの外側面に当接している。
これらの当接によって、弾性シール部材25は、磁石21の径方向Yに亘る比較的広い範囲で支持されるようになっている。なお、前記したスペースS5,S6において、接着剤等を用いて弾性シール部材25の各部を固定してもよい。
【0030】
弾性シール部材25のシール部25aは、内輪2の対向面2bに向けて窄まる断面リップ状を呈している。シール部25aは、内輪2の対向面2bに接触して対向面2bとの間をシールしている。このようなシール部25aは、異物が軸受1の内部に侵入するのを防止する役割をなす。なお、シール部25aは、内輪2と外輪3との相対的な回転に影響を及ぼさない程度に対向面2bに対して接触している。
【0031】
外周基端部25bは、断面略半円形状を呈している。外周基端部25bは、外輪3の対向面3bに凹設された略半円形状の凹状部3eに弾性をもって係合し、密着している。これにより、外周基端部25bは、外側極板22と外輪3との間をシールしている。なお、外周基端部25bは、接着剤等により凹状部3eに固定してもよい。また、外周基端部25bは、必ずしも外側極板22と外輪3との間をシールしていなくてもよい。
【0032】
以上のような弾性シール部材25は、シール部25aの対向する側が、磁性流体24によりシールされる側と同じ側となる内輪2側であるものを示したが、これに限られることはなく、径方向Yの向きを逆向きに配置して、外輪3側にシール部25aが対向して外輪3の対向面3bとの間をシールするように構成してもよい。
【0033】
なお、磁性流体シール20は、各部材を予め組み付けてユニット化することが可能であり、磁性流体シール20の構造を簡略化することが可能である。この場合、磁性流体24は、開口部5にユニット化したものを組み付けた後に、例えば、弾性シール部材25のシール部25aの一部をめくってストロー状のノズル等を内部に挿入することで、隙間S1に正確に充填することが可能である。もちろん、磁性流体シール20は、ユニット化することなく各部材を順に開口部5内に組み付けることも可能である。
【0034】
本実施形態で説明した磁性流体シール付き軸受1は、各種の駆動装置の回転体(回転軸100、駆動軸)を支持する部分に配設可能である。上記したように、リング状の磁石21、外側極板22および内側極板23によって、内輪2側に形成される隙間S1が磁性流体24でシールされ、その軸方向Xの外側の領域が弾性シール部材25でシールされている。このため、内輪2の外側表面を伝わり易い埃や水分等の異物の内部への侵入が確実に防止される。これにより、軸受1の回転性能を維持して回転軸100の滑らかな回転を長期に亘って維持することが可能となる。
【0035】
以上説明した磁性流体シール付き軸受では、リング状の開口部5が隙間S1に保持される磁性流体24、および隙間S1よりも軸方向Xの外側の領域に設けられるリング状の弾性シール部材25でシールされている。つまり、リング状の開口部5が、軸方向Xの外側から弾性シール部材25と磁性流体24との二段階のシール構造でシールされている。これにより、外部からの比較的大きな異物の侵入を外側の弾性シール部材25によるシールでブロックし、これを通過した比較的小さい異物を内側の磁性流体24によるシールでブロックすることができる。したがって、外部からの異物の侵入を効果的に防止できる。また、磁性流体24を採用するシール構造であることから慎重な取り扱いが求められるが、外部からの接触物による磁性流体24の付着や持ち出しを弾性シール部材25によって効果的に防止できるので、取り扱いが簡単になるとともに、磁性流体24のシール性能の安定化を図ることができる。
【0036】
また、弾性シール部材25は、外側極板22に支持され、支持部材が別途必要とならないので、部品点数の増加を回避できるとともに、組み立てが容易になる。
【0037】
また、隙間S1を形成する側および弾性シール部材25が対向する側は、同じ側となる内輪2側であるので、磁性流体24によるシール構造と弾性シール部材25によるシール構造とを軸方向Xに容易に配置することができ、二段階のシール構造を容易に構築することができる。
【0038】
図3から図6に本実施形態の磁性流体シール付き軸受の変形例を示す。
図3に示した第一変形例の磁性流体シール付き軸受1は、弾性シール部材25のシール部25aを内輪2の対向面2bに対して若干の間隙をもって対向配置した磁性流体シール20Aを備えている。このようにシール部25aを内輪2の対向面2bに対して非接触状態に配置することによって、弾性シール部材25による接触抵抗を排除でき、内輪2および外輪3のより滑らかな相対回転を実現することができる。この場合も、外部からの比較的大きな異物の侵入を外側の弾性シール部材25によるシールでブロックし、これを通過した比較的小さい異物を内側の磁性流体24によるシールでブロックすることができ、前記実施形態と同様の作用効果が得られる。
【0039】
図4に示した第二変形例の磁性流体シール付き軸受1は、外輪3の対向面3bに固定部として機能する段差部3cを設け、この段差部3cに、磁性流体シール20Bの磁石21の外周面21b、内側極板23の外周面23b、および弾性シール部材25の外周基端部25bを組み付けたものである。
【0040】
段差部3cは、軸方向Xに対して垂直となる垂直面3c1と、この垂直面3c1に連続し、軸方向Xに対して平行となる平行面3c2と、を備えている。内側極板23の外周面23bは、段差部3cの平行面3c2に対して僅かに大きく形成されており、これに取着された磁石21とともに、垂直面3c1(垂直面3c1と平行面3c2との角部)に当て付けられて位置決めされている。なお、内側極板23の段差部3cに対する組み付けは、圧入以外にも隙間嵌め、磁力固定であってもよい。
【0041】
この磁性流体シール付き軸受1においても、前記実施形態と同様の作用効果が得られる。また、段差部3cを利用して磁性流体シール20Bを外輪3側に容易に位置決めすることができるので、組付作業性に優れる。
なお、この第二変形例においても、段差部3cの平行面3c2に対して弾性シール部材25の外周基端部25bを弾性をもって密着させることにより、外側極板22と外輪3との間を弾性シール部材25でシールしてもよい。
【0042】
図5に示した第三変形例の磁性流体シール付き軸受1は、外側極板22(図2参照)を排除して磁石21に弾性シール部材25を直接支持した磁性流体シール20Cを備えている。弾性シール部材25は、磁石21に装着するための凹部25cを備えている。磁石21の内周面21aおよび外周面21bは、弾性シール部材25で覆われている。
なお、シール部25aは、軸方向Xにおいて隙間S1から離間した位置に配置したが、隙間S1に保持される磁性流体24に近接しない位置であれば適宜の位置に配置することが可能である。
【0043】
この磁性流体シール付き軸受1においても、前記実施形態と同様の作用効果が得られる。また、外側極板22を用いない構造であるので、部品点数を低減でき、組み立てが容易になるとともにコストを低減できる。
【0044】
図6に示した第四変形例の磁性流体シール付き軸受1は、内側極板23(図2参照)を排除して、磁石21の内周面21aと内輪2の対向面2bとの間に隙間S1を形成した磁性流体シール20Dを備えている。なお、外側極板22は、外輪3の対向面3bに対して当て付けて固定するように構成してもよい。
【0045】
この磁性流体シール付き軸受1においても、前記実施形態と同様の作用効果が得られる。また、内側極板23を用いない構造であるので、部品点数を低減でき、組み立てが容易になるとともにコストを低減できる。
【0046】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されることはなく、種々変形して実施することが可能である。
例えば、弾性シール部材25を支持する部材として磁性体からなる外側極板22を用いたが、これに限られることはなく、非磁性体からなる部材を用いてもよい。この場合、非磁性体からなる部材は、例えば、真鍮、アルミ合金、樹脂、あるいは金属補強された弾性材等からなるものを挙げることができる。
【0047】
弾性シール部材25は、開口部5の径方向Yに亘る大きさを備えたものを用いたが、これに限られることはなく、隙間S1の軸方向Xの外側の領域をシールできるものであれば、大きさを問わず、種々の形態のものを採用することができる。
【0048】
また、磁石21や外側極板22,内側極板23は、内輪2および外輪3の一方に非磁性体であるスペーサを介在して取着されるように構成してもよい。非磁性体であるスペーサを介在して内輪2または外輪3に取着されることにより、これに近接する内輪2または外輪3との間の狭い領域で磁気回路が形成されることを好適に回避することができる。
【0049】
また、上記した磁気シール機構の構成については一例を示したに過ぎず、磁石21や外側極板22等の構成や配置態様については適宜変形することが可能である。例えば、内輪2や外輪3の軸方向Xの位置決め方法、さらには、内輪2や外輪3に対するシール方法等、適宜変形することが可能である。
【符号の説明】
【0050】
1 磁性流体シール付き軸受
2 内輪
2b 対向面
3 外輪
3b 対向面
4 転動体
5 開口部
21 磁石
22 外側極板(保持部材)
23 内側極板
24 磁性流体
25 弾性シール部材(弾性体)
S1 隙間
X 軸方向
図1
図2
図3
図4
図5
図6