特許第6722106号(P6722106)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニーの特許一覧

特許6722106グラフト化パラ−アラミド繊維および製造方法
<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722106
(24)【登録日】2020年6月23日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】グラフト化パラ−アラミド繊維および製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 14/16 20060101AFI20200706BHJP
   D06M 13/44 20060101ALI20200706BHJP
   D06M 15/356 20060101ALI20200706BHJP
   D06M 15/693 20060101ALI20200706BHJP
   D21H 13/26 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   D06M14/16
   D06M13/44
   D06M15/356
   D06M15/693
   D21H13/26
【請求項の数】4
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2016-546987(P2016-546987)
(86)(22)【出願日】2015年1月13日
(65)【公表番号】特表2017-503934(P2017-503934A)
(43)【公表日】2017年2月2日
(86)【国際出願番号】US2015011119
(87)【国際公開番号】WO2015108839
(87)【国際公開日】20150723
【審査請求日】2018年1月15日
(31)【優先権主張番号】14/155,456
(32)【優先日】2014年1月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】390023674
【氏名又は名称】イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
(74)【代理人】
【識別番号】100086771
【弁理士】
【氏名又は名称】西島 孝喜
(74)【代理人】
【識別番号】100088694
【弁理士】
【氏名又は名称】弟子丸 健
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100084663
【弁理士】
【氏名又は名称】箱田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100093300
【弁理士】
【氏名又は名称】浅井 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100137626
【弁理士】
【氏名又は名称】田代 玄
(72)【発明者】
【氏名】ティーズリー マーク エフ
【審査官】 小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】 特表2017−503935(JP,A)
【文献】 特表2002−527634(JP,A)
【文献】 米国特許第06045907(US,A)
【文献】 特表平07−501840(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00−15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維表面にモノマー基がグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)からなる繊維の製造方法であって、
(i)乾燥して吸着水分を除去したポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の繊維を準備するステップと、
(ii)前記繊維を溶解しない非極性溶媒中において、前記繊維を、ジメチルスルホキシド中で少なくとも21のpKaを示すホスファゼン塩基で処理して、前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面のアミド部位で陰イオンを生じさせるステップと、
(iii)前記陰イオン部位にモノマーをグラフトして前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面に反応性官能基を導入するステップと
を含む、方法。
【請求項2】
繊維表面にモノマー基がグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)からなる繊維の製造方法であって、
(i)乾燥して吸着水分を除去したポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の繊維を準備するステップと、
(ii)前記繊維を溶解しない非極性溶媒中において、前記繊維を、ジメチルスルホキシド中で少なくとも21のpKaを示すホスファゼン塩基で処理して、前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面のアミド部位で陰イオンを生じさせるステップと、
(iii)前記陰イオン部位にモノマーをグラフトして前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面に反応性官能基を導入するステップと、
(iv)ステップ(iii)の前記グラフトされた繊維をプロトン性溶媒で洗浄して、前記繊維の前記表面に結合していない残余の塩基化合物およびグラフト化剤を抽出するステップと
を含む、方法。
【請求項3】
繊維表面にモノマー基がグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)からなる繊維の製造方法であって、
(i)乾燥して吸着水分を除去したポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の繊維を準備するステップと、
(ii)前記繊維を溶解しない非極性溶媒中において、前記繊維を、ジメチルスルホキシド中で少なくとも21のpKaを示すホスファゼン塩基で処理して、前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の前記表面のアミド部位で陰イオンを生じさせるステップと、
(iii)前記塩基で活性化された繊維を非プロトン性溶媒で洗浄して、過剰の塩基化合物を排除するステップと、
(iv)前記陰イオン部位にモノマーをグラフトして前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の前記表面に反応性官能基を導入するステップと、
(v)ステップ(iv)の前記グラフトされた繊維をプロトン性溶媒で洗浄して、前記繊維の前記表面に結合していない残余の塩基化合物およびグラフト化剤を抽出するステップと
を含む、方法。
【請求項4】
繊維表面にモノマー基がグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)を含む繊維であって、前記モノマーが置換N−フェニルマレイミドである、繊維。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
1.発明の技術分野
本発明は、グラフト化芳香族ポリアミドまたはコポリアミド繊維の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
2.関連技術の説明
Rebouillatの米国特許第6,045,907号および第6,358,451号明細書は、ゴムに対する繊維の接着を高めるためにニトロベンジル、アリル、またはニトロスチルベン基をグラフトしたポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維を開示している。グラフト化のステップ用の塩基で活性化された繊維を調製するために、湿ったまたは決して乾燥しない紡糸したままのパラ−アラミド繊維を必要とするグラフト化繊維の製造方法もまた開示している。その中には、様々なポリマーマトリックスとの接着を向上させるためのグラフト化繊維の代替調製方法を開示した参考文献が引用されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ポリマーマトリックスの補強のための高い接着力を有するパラ−アラミド型繊維を提供する継続的なニーズが存在する。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明は、繊維表面にモノマー基がグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)からなる繊維の製造方法
に関し、この方法は、
(i)乾燥して吸着水分を除去したポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の繊維を準備するステップと、
(ii)繊維を溶解しない非極性溶媒中において、その繊維を、ジメチルスルホキシド中で少なくとも21のpKaを示すホスファゼン塩基で処理して、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面のアミド部位で陰イオンを生じさせるステップと、
(iii)その陰イオン部位にモノマーをグラフトしてポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面に反応性官能基を導入するステップと
を含む。
方法の追加のステップを伴うさらなる実施形態についてもまた述べる。
【発明を実施するための形態】
【0005】
繊維
この繊維は、芳香族ポリアミドまたはコポリアミド繊維である。好ましい芳香族ポリアミドは、並外れた引張強さおよび弾性率を有するという理由でパラ−アラミドである。本明細書中で使用されるパラ−アラミドフィラメントという用語は、パラ−アラミドポリマーから作られたフィラメントを意味する。アラミドという用語は、アミド(−CONH−)結合の少なくとも85%が2個の芳香環に直接に付着しているポリアミドを意味する。好適なパラ−アラミド繊維およびそれらの特性は、Man−Made Fibres−Science and Technology(Interscience Publishers,1968)の中で、Fibre−Forming Aromatic Polyamidesという表題の節(Vol.2,p.297,W.Black等)において述べられている。アラミド繊維およびそれらの生産についてはまた、米国特許第3,767,756号、第4,172,938号、第3,869,429号、第3,869,430号、第3,819,587号、第3,673,143号、第3,354,127号、および第3,094,511号明細書中で開示されている。
【0006】
好ましいパラ−アラミドは、PPD−Tと呼ばれるポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)である。PPD−Tとは、p−フェニレンジアミンとテレフタロイルクロリドのモル対モル重合から得られるホモポリマー、ならびにそのp−フェニレンジアミンと共に少量の他のジアミンおよびそのテレフタロイルクロリドと共に少量の他の二酸塩化物を取り込むことにより得られるコポリマーを意味する。一般には他のジアミンおよび他の二酸塩化物は、そのp−フェニレンジアミンまたはそのテレフタロイルクロリドの約10モル%ほどまでの量で、またはそれら他のジアミンおよび他の二酸塩化物が重合反応を妨げる反応性基を有しないことのみを条件として恐らくこれよりもわずかに高い量で使用することができる。PPD−Tはまた、例えば2,6−ナフタロイルクロリド、あるいはクロロ−またはジクロロテレフタロイルクロリド、あるいは3,4’−ジアミノジフェニルエーテルなどの他の芳香族ジアミンおよび他の芳香族二酸塩化物を取り込むことにより得られるコポリマーを意味する。添加剤をアラミドと共に使用することができ、また10重量%以上ほどまでの他のポリマー材料をアラミドとブレンドすることができることが分かっている。そのアラミドのジアミンを10%以上ほどの他のジアミンで置き換えた、あるいはそのアラミドの二酸塩化物を10%以上ほどの他の二酸塩化物で置き換えたコポリマーを使用することができる。
【0007】
別の好適な繊維は、芳香族コポリアミドを基材とするものであり、例えばテレフタロイルクロリド(TPA)を50/50モル比のp−フェニレンジアミン(PPD)および3,4’−ジアミノジフェニルエーテル(DPE)と反応させることによって調製される。さらに別の好適な繊維は、p−フェニレンジアミンおよび5−アミノ−2−(p−アミノフェニル)ベンゾイミダゾールの2種類のジアミンを、テレフタル酸または酸無水物あるいはこれらのモノマーの酸塩化物誘導体と重縮合反応させることによって形成されるものである。
【0008】
幾つかの実施形態では繊維は連続フィラメントの形態である。本発明の目的の場合、用語「フィラメント」は、長さ対幅の高い比率を有し、その長さと直角をなすその断面積の至るところで比較的可撓性の肉眼的に均質な物体として定義される。このフィラメントの断面は任意の形状であることができるが、一般には円形または豆形である。ひとまとめにボビン上に紡糸されるマルチフィラメントヤーンは、複数本の連続したフィラメントを含有する。本開示の脈絡においてフィラメントおよび繊維という用語は、区別なく使用することができる。
【0009】
幾つかの他の実施形態では繊維はパルプの形態である。パルプは、切り刻んで短繊維にし、次いでその繊維を水中で機械的に摩削して部分的に粉砕することによってヤーンから製造されるフィブリル化した繊維製品である。一般には直径12μmである主繊維の表面に0.1μmほどの小さい直径を有するフィブリルが付着するので、これは表面積の大幅な増加につながる。このようなパルプを様々なマトリックス中で高度に分散可能にしたいならば、それらを湿気のある状態に保ってフィブリルの形態が崩壊しないようにしなければならない。このパルプは、エラストマー化合物においてそれらの引張特性を改変するために充填剤として使用される。最大の用途は、機械用ゴム製品のための天然ゴムにおける、例えばタイヤ補強材における用途である。この湿気のあるパルプを水中に分散し、エラストマーラテックスと混ぜ合わせ、次いで凝固して濃縮マスターバッチを生じさせる。マスターバッチの実例は、E.I.DuPont de Nemours and Company,Wilmington,DEから入手できるKevlar(登録商標)Engineered Elastomer(EE)として知られている。このEEマスターバッチはこのパルプを高度に分散した状態で含有し、これをバルクのエラストマー中に配合して所望レベルのパルプによる改質をもたらすことができる。
【0010】
繊維性材料の他の好適な形態は、短繊維紡績糸、不織布、フロック、またはチョップドヤーン撚り糸である。複数本のフィラメントまたはヤーンを合わせてコードを形成することができる。これらの用語は、紡織繊維業界ではよく知られている。
【0011】
繊維へのグラフト
上記のパラ−アラミド繊維は繊維表面に露出したアミド結合を有し、これをモノマーのグラフトのための反応部位として使用することができる。従来技術におけるこのようなグラフト反応は、そのアミド部位で陰イオンを生じさせるために双極性の非プロトン性溶媒、具体的にはジメチルスルホキシドと、カリウムtert−ブトキシドおよび水素化ナトリウムなどの強塩基の組合せを必要としていた。しかしながらこれらの条件はまた、得られた陰イオン性アラミドポリマーを溶解して繊維表面から剥がし、不必要に繊維特性を低下させかねない。本明細書中で開示する方法は、これらの問題を回避し、繊維表面に多種多様のモノマーをきれいにグラフトすることができる。それらモノマーは、グラフトされた繊維の様々なポリマーマトリックスとの接着を向上させ、それによってそれらの繊維強化物品の補強を向上させるように選択される。好適なモノマーは、ハロゲン化アリル、置換塩化ベンジル、置換N−フェニルマレイミド、または置換エポキシである。好ましくはこのようなモノマーは、少なくとも2個の反応性官能基を含有し、その第一の反応性官能基はグラフト反応を起こすことができ、また第二の反応性官能基はポリマーマトリックスと反応することができる。このベースモノマー基は一般にグラフト反応を受け、一方、置換基は、好ましくはポリマーマトリックスと反応することができるアリル、ビニル、またはエポキシ基などの官能基である。より具体的には置換塩化ベンジルは、4−ビニルベンジルクロリドまたは3−ビニルベンジルクロリドであり、置換N−フェニルマレイミドは、N−(4−ビニルフェニル)マレイミドであり、また置換エポキシは、4,4’−メチレン−ビス(N,N−ジグリシジルアニリン)、エピクロロヒドリン、またはエピブロモヒドリンである。
【0012】
これらのモノマーの大部分は、繊維表面のアミド部位上に単一モノマーの基としてグラフト結合し、重量パーセントとしてのグラフトされるモノマーの点でその達成可能なグラフトレベルを限定する。この傾向の例外は、置換N−フェニルマレイミドモノマーであり、これは繊維表面の陰イオン性アミド部位によって開始される複数マレイミド基のグラフト重合反応を受ける。N−置換マレイミドモノマーのアニオン重合の原理は、T.Hagiwara等による論文、Macromolecules,vol.24,p.6856〜6858(1991)中で考察されている。具体的には置換N−フェニルマレイミドモノマーが、それらの重合がポリマーの分子量および構造のより良好な制御のための「リビング」の特徴を示すという理由で好ましい。置換N−フェニルマレイミドモノマーのグラフト重合は、モノマーの基のグラフト化でなし得るよりも高い重量パーセントのグラフトレベルをもたらす。置換N−フェニルマレイミドモノマーがN−(4−ビニルフェニル)マレイミドである場合、グラフト重合は、2個以上のビニル基が繊維表面にグラフトされること、それによってグラフト化された繊維とポリマーマトリックスの間の高い接着力の可能性を増すことにつながる。
【0013】
幾つかの実施形態ではグラフト化された繊維は、N−(4−ビニルフェニル)マレイミド基が繊維表面にグラフトされたポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)を含む。好ましくはそのN−(4−ビニルフェニル)マレイミド基は、繊維の総重量の0.1〜10重量%を構成する。より好ましくはそのN−(4−ビニルフェニル)マレイミド基は、繊維の総重量の1〜10重量%を構成する。
【0014】
幾つかの実施形態では繊維表面のポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の0.25〜75モル%のアミド部位上の水素が、N−(4−ビニルフェニル)マレイミド基をグラフトすることによって置き換えられる。より好ましくは繊維表面の10〜50モル%のアミド部位上の水素が、N−(4−ビニルフェニル)マレイミド基をグラフトすることによって置き換えられる。
【0015】
グラフト化繊維の製造方法
モノマー基が繊維表面にグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)からなる繊維の製造方法において、この方法は、
(i)乾燥して吸着水分を除去したポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の繊維を準備するステップと、
(ii)繊維を溶解しない非極性溶媒中において、その繊維を、ジメチルスルホキシド中で少なくとも21のpKaを示すホスファゼン塩基で処理して、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面のアミド部位で陰イオンを生じさせるステップと、
(iii)その陰イオン部位にモノマーをグラフトしてポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面に反応性官能基を導入するステップと
を含む。
【0016】
そのグラフト化された繊維を洗浄および乾燥するなどのさらなる任意選択のステップを行うこともできる。陰イオン性アミド部位を生じさせるために非極性溶媒とホスファゼン塩基の組合せを使用するこの方法は、パラ−アラミド繊維の並外れた物理的性質を低下させることなしに繊維表面にモノマーをグラフトするのに効果的である。
【0017】
好ましい実施形態ではホスファゼン塩基は、少なくとも30のpKaをジメチルスルホキシド中で示す。好適な非極性溶媒は非プロトン性であり、これには線状または脂環式炭化水素、芳香族炭化水素、またはエーテルが挙げられる。好ましくは非極性溶媒は、トルエンまたはテトラヒドロフランである。好ましくはホスファゼン塩基は、イミノホスホラン、ホスファゾホスファゼン、アミノホスファゼン、グアニジノホスファゼン、またはホスファトランである。このようなホスファゼン塩基の例およびそれらの化学的性質は、Journal of the American Society,vol.127,p.17656〜17666(2005)中でKolomeitsev等によって記述されている。このようなホスファゼン塩基は、非極性溶媒中においてさえ高い塩基性度と、従来技術でパラ−アラミド繊維において使用される一般的な強塩基と比較して低い求核性とを示す。より好ましくはホスファゼン塩基は、tert−ブチル−P4−ホスファゼンである。好ましくはグラフト用の塩基溶液は、0.0005〜6モルのグラフト化剤濃度を有する。好適なモノマーは、ハロゲン化アリル、置換塩化ベンジル、置換N−フェニルマレイミド、または置換エポキシである。好ましくはこの場合、置換塩化ベンジルは、4−ビニルベンジルクロリドまたは3−ビニルベンジルクロリドであり、置換N−フェニルマレイミドは、N−(4−ビニルフェニル)マレイミドであり、また置換エポキシは、4,4’−メチレン−ビス(N,N−ジグリシジルアニリン)、エピクロロヒドリン、またはエピブロモヒドリンである。
【0018】
さらなる実施形態ではモノマー基が繊維表面にグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)からなる繊維の製造方法において、この方法は、
(i)乾燥して吸着水分を除去したポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の繊維を準備するステップと、
(ii)繊維を溶解しない非極性溶媒中において、その繊維を、ジメチルスルホキシド中で少なくとも21のpKaを示すホスファゼン塩基で処理して、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面のアミド部位で陰イオンを生じさせるステップと、
(iii)その陰イオン部位にモノマーをグラフトしてポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面に反応性官能基を導入するステップと、
(iv)ステップ(iii)のグラフト化された繊維をプロトン性溶媒で洗浄して、繊維の表面に結合していない残余の塩基化合物およびグラフト化剤を抽出するステップと
を含む。
【0019】
さらに別の実施形態ではモノマー基が繊維表面にグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)からなる繊維の製造方法において、この方法は、
(i)乾燥して吸着水分を除去したポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の繊維を準備するステップと、
(ii)繊維を溶解しない非極性溶媒中において、その繊維を、ジメチルスルホキシド中で少なくとも21のpKaを示すホスファゼン塩基で処理して、ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面のアミド部位で陰イオンを生じさせるステップと、
(iii)この塩基で活性化された繊維を非極性溶媒で洗浄して、過剰の塩基化合物を排除するステップと、
(iv)その陰イオン部位にモノマーをグラフトしてポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面に反応性官能基を導入するステップと、
(v)ステップ(iv)のグラフト化された繊維をプロトン性溶媒で洗浄して、繊維の表面に結合していない残余の塩基化合物およびグラフト化剤を抽出するステップと
を含む。
【0020】
グラフト化された繊維の洗浄用の好適なプロトン性溶媒には、アルコール、グリコール、カルボン酸、水、およびこれらの混合物が挙げられる。好ましくはプロトン性溶媒は、メタノールまたは水である。
【0021】
上記で述べたものと似た実施形態を、フィラメント、連続フィラメントヤーン、コード、短繊維紡績糸、不織布、フロック、パルプ、またはチョップドストランドの形態で繊維に適用することができる。パルプは通常は湿った状態に保たれるので、様々なポリマーマトリックスおよび濃縮マスターバッチ中で高度に分散可能な能力を維持するには上記で述べたグラフト化の方法ではそれらを慎重に乾燥しなければならない。湿ったあるいは高度に水和したパルプの乾燥のための好ましい方法は、2012年7月18日出願の米国特許出願公開第13/551,674号明細書中で開示されているようにそれらを凍結乾燥することである。
【0022】
複合材
繊維表面にN−(4−ビニルフェニル)マレイミド基などのモノマーがグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)を含む繊維をマトリックス樹脂と混ぜ合わせて繊維強化樹脂複合材を形成することができる。適切な繊維の形態には、連続フィラメントヤーン、短繊維紡績糸、不織布、パルプ、またはチョップドストランドが挙げられる。樹脂は、熱硬化性樹脂でも、また熱可塑性樹脂でもよい。一般にマトリックス樹脂は、複合材中で繊維プラス樹脂の重量の30〜50重量%を構成する。好適な熱硬化性樹脂には、エポキシ、フェノール、エポキシ−ノボラック、シアン酸エステル、不飽和エステル、メラミン、およびマレイミドが挙げられる。繊維は、上記方法のいずれかによって処理することができる。繊維をマトリックス樹脂と混ぜ合わせて繊維強化樹脂複合材を形成する前に、同じ方法でN−(4−ビニルフェニル)マレイミド以外のモノマーをポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面にグラフトすることができる。他の好適なモノマーには、ハロゲン化アリル、置換塩化ベンジル、置換N−フェニルマレイミド、または置換エポキシが挙げられ、これらは本明細書中で述べる方法を使用して繊維にグラフトされる。好ましくはこの場合、置換塩化ベンジルは、4−ビニルベンジルクロリドまたは3−ビニルベンジルクロリドであり、置換N−フェニルマレイミドは、N−(4−ビニルフェニル)マレイミドであり、また置換エポキシは、4,4’−メチレン−ビス(N,N−ジグリシジルアニリン)、エピクロロヒドリン、またはエピブロモヒドリンである。
【0023】
機械用ゴム製品
N−(4−ビニルフェニル)マレイミド基などのモノマーが繊維表面にグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)を含む繊維をエラストマーと混ぜ合わせて繊維強化ゴム物品を形成することができる。適切な繊維の形態には、連続フィラメントヤーン、短繊維紡績糸、不織布、パルプ、またはチョップドストランドが挙げられる。好適なエラストマーには、天然ゴム、合成天然ゴム、および合成ゴムが挙げられる。合成ゴム化合物は普通の有機溶媒によって溶解されるどれでもよく、とりわけポリクロロプレンおよびイオウ変性クロロプレン、炭化水素ゴム、ブタジエン−アクリロニトリルコポリマー、スチレンブタジエンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、フルオロエラストマー、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ブチルおよびハロブチルゴムなどを挙げることができる。天然ゴム、スチレンブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、およびポリブタジエンゴムが好ましい。ゴムの混合物もまた利用することができる。一実施形態ではゴム化合物に使用するのに適した浸漬コード(ディップドコード;dipped cord)は、N−(4−ビニルフェニル)マレイミド基などのモノマーが繊維表面にグラフトされ、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジンゴムラテックスで被覆されたポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)を含む繊維を含む。グラフト化されたコードを被覆するために使用されるそのスチレン−ブタジエン−ビニルピリジンゴムラテックス中に任意選択でカーボンブラックおよびシリカが存在してもよい。その繊維は上記方法のいずれかによって処理することができる。繊維をエラストマーと混ぜ合わせて繊維強化エラストマー化合物を形成する前に、同じ方法でN−(4−ビニルフェニル)マレイミド以外のモノマーをポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面にグラフトすることができる。他の好適なモノマーには、ハロゲン化アリル、置換塩化ベンジル、置換N−フェニルマレイミド、または置換エポキシが挙げられ、これらは本明細書中で述べる方法を使用して繊維にグラフトされる。好ましくはこの場合、置換塩化ベンジルは、4−ビニルベンジルクロリドまたは3−ビニルベンジルクロリドであり、置換N−フェニルマレイミドは、N−(4−ビニルフェニル)マレイミドであり、また置換エポキシは、4,4’−メチレン−ビス(N,N−ジグリシジルアニリン)、エピクロロヒドリン、またはエピブロモヒドリンである。
【実施例】
【0024】
試験方法
H−引抜接着力(H−pull adhesion)の測定は、歪み計を使用してASTM D4776−10に従って行った。Y.Iyengar,J.appl.Polym.Sci.,1878,22,801〜812による記述のような標準ゴムストックを使用してH−引抜試料を成型した。接着力の値は、少なくとも5個の試料の平均として重量ポンド(lbf)の単位で記録される。
【0025】
比表面積は、Micromeritics ASAP 2405多孔度計を使用して液体窒素温度(77.3K)における窒素吸着/脱着により測定した。試料は、別段の注記がない限り測定の前に150℃の温度で一晩ガス抜きされ、吸着した水分に起因する減量を求めた。0.05〜0.20の相対圧P/P0の範囲にわたって5点の窒素吸着等温線を収集し、BET法(S.Brunauer,P.H.Emmett and E.Teller、J.Am.Chem.Soc.1938,60,309)に従って分析した。Pは、試料上方の平衡ガス圧であり、P0は、一般には760トルを超える試料の飽和ガス圧である。
【0026】
引張応力−歪み測定は、歪み計を使用してASTM D412−06aの方法Aに従って行った。ダンベル引張試験片を、方法Aに記載のようにDie Cを使用して切り取った。引張試験の結果は、6個の試料の平均として記録される。
【0027】
実施例
実施例および表中で使用される省略形は、mL(ミリリットル)、mmole(ミリモル)、wt(重量)、THF(テトラヒドロフラン)、ECP(エピクロロヒドリン)、VBC(4−ビニルベンジルクロリド)、VPM(N−(4−ビニルフェニル)マレイミド)、MBDGA(4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン))、AS(4−アミノスチレン)、EMI−24(2−エチル−4−メチルイミダゾール)、TGA(熱重量分析)、ATR IR(減衰全反射赤外分光法)、VPL(ビニルピリジンラテックス)、RFL(レゾルシノール−ホルムアルデヒド−ビニルピリジンラテックス)、BET(ブルナウアー−エメット−テラー比表面積)、T(温度)、MD(縦方向)、XD(幅方向)、phr(ゴム重量100に対する配合剤重量)である。
【0028】
注記されない限り実施例は、Aldrich Chemical Company,Milwaukee,WIによって供給される材料を使用して調製された。これにはP1tBuホスファゼン、P1tBu[(CH243ホスファゼン、P2tBuホスファゼンのTHF溶液(2M)、P4tBuホスファゼンのヘキサン溶液(1M)、および4−ビニルベンジルクロリド(90%工業銘柄)、GenTac(登録商標)FSビニルピリジンラテックス(ビニルピリジン−ブタジエン−スチレンターポリマーエマルション、水中41%の全固形物)が含まれる。Omnova Solutions Inc.のAlcogum(登録商標)6940増粘剤(ポリアクリル酸ナトリウム塩、固形物11%)およびAlcogum(登録商標)SL 70分散剤(アクリラートコポリマー、固形物30%)、Akzo Nobel Surface Chemistry,Chattanooga,TNのAquamix(商標)125(Wingstay(登録商標)L、ヒンダード高分子フェノール系酸化防止剤、固形物50%)およびAquamix(商標)549(2−メルカプトトルイミダゾール亜鉛、固形物50%)分散液、PolyOne Corp.,Massillon,OHのAmax(登録商標)OBTS促進剤(N−オキシジエチレン−2−ベンゾチアゾール−スルフェンアミド)およびAgeRite(登録商標)Resin D酸化防止剤(重合1,2−ジヒドロ−2,2,4−トリメチルキノリン)、R.T.Vanderbilt Co.,Norwalk,CNのDPG促進剤(ジフェニルキニジン)、Akrochem Corp.,Akron,OHのSantoflex(登録商標)6PPDオゾン劣化防止剤(N−(1,3−ジメチルブチル)−N’−フェニル−パラ−フェニレンジアミン)、Solutia/Flexsys(登録商標)America,Akron,OHのN−(4−ビニルフェニル)マレイミドは、Acros Organicsによって供給されるか、またはT.Hagiwara等、Macromolecules,vol.24,p.6856〜6858(1991)に従って調製された。Kevlar(登録商標)29コード(仕上げ剤なし、1500デニールヤーンの2プライ)、RFL被覆Kevlar(登録商標)29コード、およびKevlar(登録商標)パルプ1F361(BET 7〜9m2/g)は、E.I.DuPont de Nemours and Company,Wilmington,DEから得た。反応は120℃で乾燥されたガラス器具を使用して窒素下で行われた。
【0029】
下記実施例は、本発明を例示するために示され、それを限定するものとは決して解釈されるべきではない。すべての部数および割合は、別段の指定がない限り重量を基準とする。本発明の方法または方法群によって調製される実施例は数値によって表示される。対照例または比較例は文字によって表示される。比較例および本発明の実施例に関係するデータおよび試験結果を表1〜6中に要約する。
【0030】
実施例1
Kevlar(登録商標)29コードを長さ1.5インチに切断し、それらを個々にガラス瓶に入れ、真空下で80℃で一晩乾燥した。瓶を窒素でパージされたグローブボックスに移した。コード試料を様々な無水溶媒(5mL)で覆い、可視変化を調べながら様々なホスファゼン塩基(10滴)で処理した。次いでコードを一晩そのまま放置した。表1は、観察された可視変化を、それらホスファゼン塩基について文献中で報じられているpK値と共に要約する。それらの結果は、P4tBuホスファゼンが、繊維表面をトルエンまたはTHFのような非極性溶媒中に溶解させることなく繊維表面で多価陰イオンを生じさせるのに十分に高いpK値を有することを示している。P2tBuホスファゼンは、多価陰イオンを生じさせるのに十分に高いpK値を有し、繊維表面をDMSO中で溶解させる。
【0031】
【表1】
【0032】
実施例2
Kevlar(登録商標)29コード(3m)をガラス撹拌棒上に巻取り、Teflon(登録商標)テープを使用して固定した。コードは、約1g(アミド基8.4ミリモル)の重量であった。このアッセンブリを真空下で120℃で乾燥した。グローブボックス内部において、Teflon(登録商標)撹拌棒、二股アダプター、気密性Teflon(登録商標)スターラーベアリング、およびガス注入口を備えた200mL管中で、無水トルエン(100mL)に溶かしたP4tBuホスファゼン(0.82mL、0.82ミリモル、9.8モル%)の溶液を調製した。コードをこのホスファゼン溶液に浸漬すると即時の色変化を生じ、これを30℃に加熱した。45分後、コードは赤みがかったオレンジ色になり、また溶液は無色であった。2時間後、本質的に何も変化はなく、したがってコードを、窒素に覆われた状態を保ちながら200mL管中のエピクロロヒドリン(0.66mL、8.4ミリモル、100モル%)の無水トルエン(100mL)溶液に移した。25℃で1時間の後、そのオレンジ色は多少薄れ、また一晩撹拌の後、その色は薄れてほとんど完全に黄色に戻った。新鮮なトルエンに数回浸漬することによってコードを洗浄した。分析のためにコードの試料を真空下で乾燥した。TGAは、グラフトされた基に起因する200〜400℃の間の1.6重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理コードと比べてC−H結合の2800〜3000cm-1において吸光度の増加を示した。H−引抜接着力は、未処理コードの5.2重量ポンドと比べて6.8重量ポンドであった。
【0033】
実施例3
グラフト反応のために、より少量のP4tBuホスファゼン(0.21mL、2.5モル%)および4−ビニルベンジルクロリド(0.14g、0.84ミリモル、10モル%)を使用して実施例2の手順を繰り返した。グラフト化の20分後、赤みがかったオレンジ色は薄くなって黄色になり、1時間後には淡黄色になった。一晩撹拌後、コードを前述と同様に後処理し、分析した。TGAは、グラフト化された4−ビニルベンジル基に起因する200〜400℃の間の0.7重量%の減量を示した。H−引抜接着力は9.6重量ポンドであった。
【0034】
実施例4
より多量のP4tBuホスファゼン(0.42mL、5モル%)および4−ビニルベンジルクロリド(1.1g、7ミリモル、83モル%)を使用して実施例3の手順を繰り返した。グラフト化の5分後、その色は薄くなって黄色がかったオレンジ色になり、2時間後には淡黄色になった。一晩撹拌後、コードをメタノールに浸漬することによって急冷し、メタノールおよびトルエンでそれぞれ2回洗浄した。TGAは、グラフト化された4−ビニルベンジル基に起因する200〜400℃の間の0.1重量%の減量を示した。H−引抜接着力は10.6重量ポンドであった。
【0035】
実施例5
より多量のP4tBuホスファゼン(0.84mL、10モル%)および溶媒として無水THFを使用して実施例4の手順を繰り返した。グラフト化の5分後、色は薄くなって黄色がかったオレンジ色になり、一晩後には淡黄色になった。TGAは、グラフト化された4−ビニルベンジル基に起因する150〜400℃の間の0.9重量%の減量を示した。H−引抜接着力は10.1重量ポンドであった。
【0036】
実施例6
グラフト反応のために4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)(3g、7ミリモル)を使用して実施例5の手順を繰り返した。グラフト化の30分後、その色はわずかに薄くなり、一晩後には黄色がかったオレンジ色になった。TGAは、グラフト化されたエポキシ基に起因する200〜400℃の間の1.8重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理コードと比べてヒドロキシル基の3500cm-1、C−H結合の2800〜3000cm-1、および芳香族基の1510cm-1において吸光度の増加を示した。H−引抜接着力は7.2重量ポンドであった。
【0037】
実施例7
Kevlar(登録商標)29コード(3m)をガラス撹拌棒上に巻取り、Teflon(登録商標)テープを使用して固定した。コードは、約1g(アミド基8.4ミリモル)の重量であった。このアッセンブリを真空下で120℃で乾燥し、次いでグローブボックスに移した。グローブボックス内部において、Teflon(登録商標)撹拌棒、二股アダプター、Teflon(登録商標)スターラーアダプター、およびガス注入口を備えた200mL管中で、P4tBuホスファゼン(1.7mL、1.7ミリモル、20モル%)の無水THF(100mL)溶液を調製した。コードをこのホスファゼン溶液に浸漬すると即時の色変化を生じた。室温で15分後、コードは赤みがかったオレンジ色になり、また溶液は透明になった。約2時間後、VBC(1.0mL、7ミリモル)を、ホスファゼン溶液中に浸漬されたコードを含有する管に直接に加えた。色は急速に薄れてオレンジ色になり、また一晩撹拌後、色は薄れて黄色になった。そのコードを、メタノールおよびTHF中にそれぞれ2回浸漬することによって急冷し、洗浄した。次いでトルエン中で貯蔵した。分析のためにコードの試料を真空下で乾燥した。TGAは、グラフトされた4−ビニルベンジル基に起因する270〜470℃の間の1.2重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理コードと比べてC−H結合の2800〜3000cm-1および芳香族基の1510cm-1において吸光度の増加を示した。H−引抜接着力は10.8重量ポンドであった。
【0038】
実施例8
65〜70℃および1トルで真空蒸留したVBCを使用して実施例7の手順を繰り返した。TGAは、グラフトされた4−ビニルベンジル基に起因する150〜400℃の間の2.2重量%の減量を示した。H−引抜接着力は11.7重量ポンドであった。
【0039】
実施例9
ホスファゼン処理されたコードを、THF(100mL)に溶かしたVBCの新鮮な溶液に移したことを除いて実施例8の手順を繰り返した。TGAは、グラフトされた4−ビニルベンジル基に起因する170〜400℃の間の0.5重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理コードと比べて芳香族基の1510cm-1において吸光度の増加を示した。H−引抜接着力は9.8重量ポンドであった。
【0040】
実施例10
より少量のP4tBuホスファゼン(0.8mL、10モル%)を使用して実施例8の手順を繰り返した。TGAは、グラフトされた4−ビニルベンジル基に起因する200〜400℃の間の0.3重量%の減量を示した。H−引抜接着力は10.7重量ポンドであった。
【0041】
実施例11
グラフト反応のために、より少量のP4tBuホスファゼン(0.8mL、10モル%)およびN−(4−ビニルフェニル)マレイミド(1g、5ミリモル、60モル%)を使用して実施例9の手順を繰り返した。一晩のグラフト反応の後、グラフトされたコードは、まだ赤みがかったオレンジ色であった。コードは、メタノール中で急冷し、洗浄した後に多少の色を保持した。TGAは、マレイミド基のグラフト重合に起因する200〜520℃の間の4.3重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理コードと比べてC−H結合の2800〜3200cm-1において吸光度の増加と、イミド基および芳香族基の1701、1512、1392、および1182cm-1において強い吸光度と、ビニル基の987および910cm-1において吸光度とを示した。H−引抜接着力は13.3重量ポンドであった。
【0042】
実施例12
より少量のP4tBuホスファゼン(0.4mL、5モル%)を使用して実施例11の手順を繰り返した。一晩のグラフト反応の後、グラフトされたコードはまだ濃いオレンジ色であり、したがって40℃で2時間、次いで60℃で2時間反応を続けた。コードは、メタノール中で急冷し、洗浄した後に多少の色を保持した。TGAは、マレイミド基のグラフト重合に起因する400〜530℃の間の6.3重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理コードと比べてC−H結合の2800〜3000cm-1において吸光度の増加と、イミド基および芳香族基の1701、1512、1390、および1182cm-1において強い吸光度と、ビニル基の985および910cm-1において吸光度とを示した。H−引抜接着力は12.9重量ポンドであった。
【0043】
実施例13
グラフト反応のために4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)を使用して実施例11の手順を繰り返した。TGAは、エポキシ基のグラフト重合に起因する200〜500℃の間の3.4重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理コードと比べてアミド基の3200cm-1において吸光度の減少と、C−H結合の2800〜3000cm-1および芳香族基の1512cm-1において吸光度の増加とを示した。H−引抜接着力は6.6重量ポンドであった。
【0044】
実施例14
4tBuホスファゼン処理を一晩続けてから、グラフト反応のために4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)で処理したことを除いて実施例13の手順を繰り返した。TGAは、エポキシ基のグラフト重合に起因する200〜500℃の間の6.4重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理コードと比べてアミド基の3200cm-1において吸光度の減少と、ヒドロキシル基の3500cm-1、C−H結合の2800〜3000cm-1、および芳香族基の1512cm-1において吸光度の増加とを示した。H−引抜接着力は7.1重量ポンドであった。
【0045】
比較例A
Kevlar(登録商標)29コードの未処理試料のH−引抜接着力は5.2重量ポンドであった。
【0046】
比較例B
グラフト反応のためのいずれのモノマーも使用することなしに実施例14の手順を繰り返した。TGAは、150〜400℃の間の1.5重量%の減量を示した。H−引抜接着力は5.8重量ポンドであった。
【0047】
比較例C
4tBuホスファゼンの代わりにカリウムtert−ブトキシド(0.2g、1.8ミリモル、21モル%)を使用して実施例7の手順を繰り返した。コードを一晩処理してから、グラフト反応のためのVBCを加えた。TGAは、200〜450℃の間の0.4重量%の減量を示した。H−引抜接着力は6.3重量ポンドであった。
【0048】
比較例D
Kevlar(登録商標)29コード(4.5m)をガラス撹拌棒上に巻取り、Teflon(登録商標)テープを使用して固定した。コードは約1.5g(アミド基12.6ミリモル)の重量であった。このアッセンブリを真空下で80℃で乾燥した。Teflon(登録商標)撹拌棒、二股アダプター、気密性Teflon(登録商標)スターラーベアリング、およびガス注入口を備えた200mL管中で、メチルスルフィニル陰イオンのDMSO溶液(100mL)を、その管に水素化ナトリウム(0.15g、6.25ミリモル、50モル%)を加え、固形物が完全に溶解するまで窒素下で70℃に加熱し、室温に冷却することによって調製した。コードはこの溶液に浸漬すると即時にわずかな色変化を生じた。15分後、コードは淡い黄色がかったオレンジ色になった。1時間後、コードはミディアムオレンジ色になり、また溶液は黄白色になった。窒素で覆われた状態を保ちながらコードを200mL管中の、4−ビニルベンジルクロリド(1mL、7.1ミリモル、56モル%)の無水THF(100mL)溶液に移した。25℃において1時間後、色は変化しなかった。3時間後、そのオレンジ色のわずかな退色があるに過ぎなかった。一晩撹拌の後、色のさらなる退色はなかった。コードを新鮮なメタノールに数回浸漬することによって洗浄して、それをその元の色に戻し、トルエン中で貯蔵した。分析のためにコードの試料を真空下で乾燥した。TGAは、グラフトされた基に起因する300〜500℃の間の1.3重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理コードと比べてC−H結合の2800〜3200cm-1、芳香族基の1510cm-1、およびビニル基の980および910cm-1において吸光度の増加を示した。H−引抜接着力は9.0重量ポンドであった。
【0049】
本発明の実施例2〜14および比較例A〜Dを、それらの結果と共に表2に要約する。
【0050】
【表2】
【0051】
実施例15〜21、比較例E〜G
実施例8、10、11、12および比較例B、C、Dのグラフトされたコードを、様々な固形物%に希釈したビニルピリジンラテックス中で浸漬(ディップ)し、実験台に平行に吊り下げて空気乾燥することによって処理した。数個の試料は二度浸漬された。TGAの結果およびH−引抜接着力の値を表3に示す。
【0052】
比較例HおよびI
Y.Iyengar(J.appl.Polym.Sci.,1978,22,801〜812)が述べているような標準RFL配合物で被覆されたKevlar(登録商標)29コードは、一般に約30重量ポンドのH−引抜接着力の値を示す。RFL被覆コードおよび標準ゴムストックの数バッチを試験して、表3に示すようにこれらの値を確かめた。
【0053】
【表3】
【0054】
実施例22〜26
実施例13のMBDGAをグラフトしたコードの試料を、メタノールに溶かした0.3%の2−エチル−4−メチルイミダゾール、または0.3%の2−エチル−4−メチルイミダゾールを含有する2−ブタノンに溶かした6%の4−アミノスチレン、または2−ブタノンに溶かした20%の4−アミノスチレンのいずれかで処理した。次いで処理されたコードのうちの幾本かを、固形物25%まで希釈したビニルピリジンラテックス中で浸漬した。各処理の後、コードを実験台に平行に吊り下げて空気乾燥した。TGAの結果およびH−引抜接着力の値を表4に示す。
【0055】
【表4】
【0056】
実施例27〜33
実施例14のMBDGAをグラフトしたコードの試料を、10%のエタノールおよび0.5%の2−エチル−4−メチルイミダゾールを含有する4−アミノスチレンの10%水溶液、または20%のエタノールおよび1%の2−エチル−4−メチルイミダゾールを含有する4−アミノスチレンの20%水溶液のいずれかで処理した。処理されたコードをさらに、130℃で5分間熱処理し、かつ/または固形物25%まで希釈したビニルピリジンラテックス中で浸漬した。各処理の後、コードを実験台に平行に吊り下げて空気乾燥した。TGAの結果およびH−引抜接着力の値を表5に示す。
【0057】
【表5】
【0058】
実施例34
Kevlar(登録商標)パルプマージ1F361(90g、固形物56%)を、高せん断ミキサー(IKA Ultra−Turrax Model SD−45)を使用して、60℃に加熱された3.5Lの脱イオン水中に分散させて、滑らかなスラリー(固形物1.4%)を得た。約2200mLのスラリーを高せん断ミキサーで再び分散させ、真空濾過して湿潤パルプの塊を得た。次いでこれを脱イオン水で洗浄した。湿潤パルプは過剰の水分を除去するための圧縮も吸引もされなかった。この湿潤パルプを砕いて大きな塊にし、広口真空瓶に入れた。瓶をSo−Low超低温冷凍庫(−40℃)に入れて湿潤パルプを一晩凍結した。その瓶を、ドライアイスで冷却したトラップを有する連続凍結乾燥器に取り付け、高真空(30ミリトル)下に置いた。水分のトラップを取り除いている間のみ、その瓶を冷凍庫中に置いてパルプを凍結された状態に保った。水が凍結した塊から昇華し終わったらパルプを室温までゆっくり温めた。高真空下で一晩乾燥することによってパルプは完成し、32gを得た。比表面積は、1.8%の減量後、16.4m2/gであった。
【0059】
この凍結乾燥されたKevlar(登録商標)パルプ(1.5g、アミド基12.6ミリモル)の一部を、大型の撹拌棒を備えた200mL丸底フラスコ中に入れ、真空オーブン中で120℃で乾燥した。フラスコをグローブボックスに移し、無水THF(75mL)で処理した。このパルプをヘキサン(1.3mL、10モル%)に溶かしたP4tBuの1M溶液で処理して最初にそれに赤さび色を与え、それを約1時間かけてオレンジ色に退色させた。4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)(2.7g、6.4ミリモル)をTHF(25mL)中に溶解し、パルプスラリーに加えた。一晩撹拌後、スラリーをTHF(100mL)で希釈し、パルプを真空濾過によって回収した。そのオレンジ色のパルプを、フィルターケーキの圧密化を避けながらメタノールで二度、次いで脱イオン水で二度洗浄することによって急冷した。その湿潤パルプを250mL丸底フラスコに入れ、次いで超低温冷凍庫(−40℃)に入れて湿潤パルプを一晩凍結した。そのフラスコを、ドライアイスで冷却したトラップを有する連続凍結乾燥器に取り付け、高真空下に置いた。水が凍結した塊から昇華し終わったらパルプを室温までゆっくり温めた。高真空下で一晩乾燥することによってパルプは完成し、1.74gを得た。比表面積は4.6%の減量後、15.4m2/gであった。TGAは、グラフトされたエポキシ基に起因する200〜435℃の間の10.1重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理パルプと比べてアミドのNH基の3300cm-1において吸光度の減少、また脂肪族基の2800〜3000cm-1と芳香族基の1612および1512cm-1において吸光度の増加を示した。
【0060】
実施例35
18.4m2/gの比表面積を有する凍結乾燥されたKevlar(登録商標)パルプ(1.5g、アミド基12.6ミリモル)を、大型の撹拌棒を備えた200mL丸底フラスコ中に入れ、窒素でパージされたグローブボックスに移した。そのパルプを無水THF(100mL)で処理し、一晩撹拌した。溶媒をデカントして取り除き、そのパルプを新鮮なTHFで再処理した。溶媒を再びデカントして取り除き、次いでパルプを約100mLのスラリーを得るのに十分なTHFで処理した。そのパルプを、ヘキサン(1.9mL、15モル%)に溶かしたP4tBuの1M溶液の段階的添加によって処理して、最初にそれに赤さび色を与え、それを約1時間かけて濃いオレンジ色に退色させた。溶媒をデカントして取り除き、その濃いオレンジ色のパルプを新鮮なTHF(100mL)で処理した。4−ビニルベンジルクロリド(0.9mL,6.4ミリモル)をピペットで1滴ずつ加えた。約2時間の撹拌後、パルプの色は退色してより淡いオレンジ色になった。一晩撹拌した後、色は退色して黄色になった。パルプを真空濾過によって回収し、THF、メタノール、次いでTHFで洗浄した。パルプを真空下で乾燥して1.54gを得た。比表面積は3.9%の減量後、3.3m2/gであった。TGAは、グラフトされたビニルベンジル基に起因する200〜400℃の間の4.0重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理パルプと比べてアミドのNH基の3300cm-1における吸光度の減少と、脂肪族基の2800〜3000cm-1および芳香族基の1512cm-1における吸光度の増加とを示した。
【0061】
実施例36
17.3m2/gの比表面積を有する凍結乾燥されたKevlar(登録商標)パルプ(16g、アミド基130ミリモル)を3L三つ口モートンフラスコに入れ、真空オーブン中で120℃で乾燥した。フラスコは、ステンレス鋼の撹拌棒、気密性Teflon(登録商標)スターラーベアリング、隔膜、および窒素でパージする間のガス注入口を有する還流冷却器を備える。カニューレによって無水THF(1L)をフラスコに移し、撹拌してパルプを部分的に分散させた。グローブボックス内部で、ヘキサン(13mL、10モル%)に溶かしたP4tBuの1M溶液を無水THF(1L)に加え、次にそれをカニューレによってモートンフラスコに加えてパルプを淡いオレンジ色に変えた。その混合物を軽度に還流するまで加熱すると、その間に色はより濃いオレンジ色に強まった。約1時間の撹拌後、オレンジ色のパルプは溶液中に細かく分散し、その混合物を室温まで冷却した。グローブボックス内部で、4−ビニルベンジルクロリド(9mL、64ミリモル)を無水THF(100mL)に加え、次いでそれをカニューレによってそのモートンフラスコに加えた。パルプは、一晩続けた撹拌により黄色に戻った。真空濾過フラスコに連結されたガラスフリットチューブを使用して溶媒をフラスコから除去した。パルプをメタノール(1200mL)で3回、次いで脱イオン水(1200mL)で3回洗浄した。その湿潤パルプの一部を高真空下で乾燥することにより、25.8%の固形物の割合が決定した。TGAは、グラフトされたビニルベンジル基に起因する200〜400℃の間の2.6重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理パルプと比べてアミドのNH基の3300cm-1における吸光度の減少を示した。
【0062】
実施例37
14.3m2/gの比表面積を有する凍結乾燥されたKevlar(登録商標)パルプ(16.2g、アミド基130ミリモル)を3L三つ口モートンフラスコに入れ、真空オーブン中で120℃で乾燥した。フラスコは、ステンレス鋼の撹拌棒、気密性Teflon(登録商標)スターラーベアリング、隔膜、および窒素でパージする間のガス注入口を有する還流冷却器を備える。カニューレによって無水THF(1L)をフラスコに移し、撹拌してパルプを部分的に分散させた。グローブボックス内部で、ヘキサン(13mL、10モル%)に溶かしたP4tBuの1M溶液を無水THF(1L)に加え、次にそれをカニューレによってモートンフラスコに加えた。パルプは、加えた溶液のすぐ近くが赤さび色になったが、その色は撹拌と共に薄くなって淡いオレンジ色になった。その混合物を軽度に還流するまで加熱すると、その間に色はより濃いオレンジ色に強まった。約3時間の撹拌後、オレンジ色のパルプは溶液中に細かく分散し、その混合物を室温まで冷却した。グローブボックス内部で、4−ビニルベンジルクロリド(9mL、64ミリモル)を無水THF(100mL)に加え、次いでそれをカニューレによってそのモートンフラスコに加えた。パルプは一晩撹拌すると黄色に戻った。混合物をメタノール(100mL)で急冷した。次いで、真空濾過フラスコに連結されたガラスフリットチューブを使用して溶媒をフラスコから除去した。パルプをメタノール(1200mL)で3回、次いで脱イオン水(1200mL)で3回洗浄した。その湿潤パルプの一部を高真空下で乾燥することにより、27.0%の固形物の割合が決定した。TGAは、グラフトされたビニルベンジル基に起因する200〜400℃の間の2.4重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理パルプと比べてアミドのNH基の3300cm-1における吸光度の減少を示した。
【0063】
実施例38
14.0m2/gの比表面積を有する凍結乾燥されたKevlar(登録商標)パルプ(16g、アミド基130ミリモル)を3L三つ口モートンフラスコに入れ、真空オーブン中で120℃で乾燥した。フラスコは、ステンレス鋼の撹拌棒、気密性Teflon(登録商標)スターラーベアリング、隔膜、および窒素でパージする間のガス注入口を有する還流冷却器を備える。カニューレによって無水THF(1L)をフラスコに移し、撹拌してパルプを部分的に分散させた。グローブボックス内部で、ヘキサン(13mL、10モル%)に溶かしたP4tBuの1M溶液を無水THF(1L)に加え、次にそれをカニューレによってモートンフラスコに加えてパルプをオレンジ色に変えた。その混合物を軽度に還流するまで加熱すると、その間に色はより濃いオレンジ色に強まった。約2時間の撹拌後、オレンジ色のパルプは溶液中に細かく分散し、その混合物を室温まで冷却した。グローブボックス内部で、4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)(11g、26ミリモル)を無水THF(100mL)中に溶解し、次いでそれをカニューレによってそのモートンフラスコに加えた。オレンジ色のパルプは、一晩撹拌するとあまり濃くない色になった。混合物をメタノール(100mL)で急冷し、次いで真空濾過して黄色のパルプを回収した。パルプをメタノール(1200mL)で3回、次いで脱イオン水(1200mL)で3回洗浄した。その湿潤パルプの一部を高真空下で乾燥することにより、24.6%の固形物の割合が決定した。TGAは、グラフトされたエポキシ基に起因する200〜500℃の間の4.0重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理パルプと比べてアミドのNH基の3300cm-1における吸光度の減少を示した。
【0064】
実施例39
14.0m2/gの比表面積を有する凍結乾燥されたKevlar(登録商標)パルプ(16g、アミド基130ミリモル)を3L三つ口モートンフラスコに入れ、真空オーブン中で120℃で乾燥した。フラスコは、ステンレス鋼の撹拌棒、気密性Teflon(登録商標)スターラーベアリング、隔膜、および窒素でパージする間のガス注入口を有する還流冷却器を備える。カニューレによって無水THF(1L)をフラスコに移し、撹拌してパルプを部分的に分散させた。グローブボックス内部で、ヘキサン(13mL、10モル%)に溶かしたP4tBuの1M溶液を無水THF(1L)に加え、次にそれをカニューレによってモートンフラスコに加えて、オレンジ色を与えた。その混合物を軽度に還流するまで加熱すると、その間に色はより濃いオレンジ色に強まった。約4時間の撹拌後、オレンジ色のパルプは溶液中に細かく分散し、その混合物を室温まで冷却した。グローブボックス内部で、4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)(11g、26ミリモル)を無水THF(100mL)中に溶解し、次いでそれをカニューレによってそのモートンフラスコに加えた。パルプは、一晩撹拌すると黄色がかったオレンジ色になった。混合物をメタノール(200mL)で急冷し、次いで真空濾過して黄色のパルプを回収した。パルプをメタノール(1400mL)で3回、次いで脱イオン水(1400mL)で3回洗浄した。その湿潤パルプの一部を高真空下で乾燥することにより、24.1%の固形物の割合が決定した。TGAは、グラフトされたエポキシ基に起因する200〜500℃の間の4.1重量%の減量を示した。ATR IRは、未処理パルプと比べてアミドのNH基の3300cm-1における吸光度の減少を示した。
【0065】
実施例40
16.8m2/gの比表面積を有する凍結乾燥されたKevlar(登録商標)パルプ(16g、アミド基130ミリモル)を3L三つ口モートンフラスコに入れ、真空オーブン中で120℃で乾燥した。フラスコは、ステンレス鋼の撹拌棒、気密性Teflon(登録商標)スターラーベアリング、隔膜、および窒素でパージする間のガス注入口を有する還流冷却器を備える。カニューレによって無水THF(1L)をフラスコに移し、撹拌してパルプを部分的に分散させた。グローブボックス内部で、ヘキサン(6.5mL、5モル%)に溶かしたP4tBuの1M溶液を無水THF(1L)に加え、次にそれをカニューレによってモートンフラスコに加えてオレンジ色のパルプを得た。その混合物を軽度に還流するまで加熱した。約4時間の撹拌後、オレンジ色のパルプは溶液中に細かく分散し、その混合物を室温まで冷却した。グローブボックス内部で、N−(4−ビニルフェニル)マレイミド(2.6g、13ミリモル)を無水THF(100mL)中に溶解し、次いでそれをカニューレによってそのモートンフラスコに加えた。パルプは、一晩撹拌すると黄色がかったオレンジ色になった。混合物をメタノール(200mL)で急冷し、次いで真空濾過して黄色のパルプを回収した。パルプをメタノール(1400mL)で3回、次いで脱イオン水(1400mL)で3回洗浄した。その湿潤パルプの一部を高真空下で乾燥することにより、26.4%の固形物の割合が決定した。TGAは、マレイミド基のグラフト化重合に起因する200〜475℃の間の2.7重量%の減量を示した。ATR IRは、グラフトされたイミドカルボニル基の1707cm-1における吸光度を示した。
【0066】
比較例J
実験室ブレンダーを使用してKevlar(登録商標)パルプ1F361(40g、固形物50%)を水(1000g)中に分散させて、均質なスラリーを得た。Alcogum(登録商標)6940(10g、固形物11%)、Alcogum(登録商標)SL 70(2.2g、固形物15%)、Aquamix(登録商標)549(4.1g、固形物15%)、およびAquamix(登録商標)125(4.3g、固形物14.5%)をブレンダーに加え、分散させてスラリーにした。天然ゴムラテックス(108g、固形物62%)をブレンダーに加え、分散させてスラリーにした。このスラリーを蓋のない容器に注ぎ、ブレンダージャーを水で洗い流してすべてのスラリーを回収した。このラテックスを、pHが5.8〜5.2の間になるまで穏やかに撹拌しながら塩化カルシウム(26重量%)および酢酸(5.2重量%)を含有する水溶液を加えることによって凝固させた。凝固した塊を回収し、押圧してできるだけ多くの水性相を除去した。次いでこの塊を窒素パージ下の真空オーブン中で一晩乾燥して、23%のパルプを含有する天然ゴムマスターバッチを得た。
【0067】
下記材料、すなわち天然ゴム(192.5g)、マスターバッチ(50.25g)、ステアリン酸(6.94g、3phr)、酸化亜鉛(6.94g、3phr)、ゴム用イオウ(3.70g、1.6phr)、Amax(登録商標)OBTS(1.85g、0.8phr)、DPG(0.92g、0.4phr)、Santoflex(登録商標)6PPD(4.62g、2phr)、およびAgeRite(登録商標)Resin D(2.31g、1phr)を、カムミキシングブレードを備えたC.W.Brabender Prep−Mixer(登録商標)に加えることによって5phrのパルプを含有するゴム化合物を調製した。この化合物を75〜100rpmで80〜95℃で25〜30分間混合し、次いで混合チャンバーおよびブレードから取り出した。この化合物をさらに、6インチ×幅12インチのロールを有するEEMCO 2本ロール実験室ミルを使用して混合し、均質化した。この最終化合物を厚さ2.0〜2.2mmのシートにした。ミルにかけたシートから2枚の4インチ×6インチのプラーク(plaque)を縦方向に切り取り、また別の2枚のプラークを幅方向に切り取った。これらプラークを160℃で圧縮成型して天然ゴムを加硫した。
【0068】
この加硫されたプラークからダンベル引張試験片を切り取った。その引張特性を表6に示す。
【0069】
実施例41
比較例Jの手順を一部変更して、実施例22のMBDGAをグラフトしたパルプを22%(15g)およびビニルピリジンターポリマーを37%含有する天然ゴムマスターバッチを、その他の材料の必要な量を調整し、かつその他の添加剤および天然ゴムラテックスの前にGenTac(登録商標)FSビニルピリジンラテックス(61g、固形物41%)を加えることによって調製した。次いで比較例Jで述べたと同様にこのゴム配合物を作製し、試験した。その引張特性を表6に示す。
【0070】
【表6】

次に、本発明の態様を示す。
1. 繊維表面にモノマー基がグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)からなる繊維の製造方法であって、
(i)乾燥して吸着水分を除去したポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の繊維を準備するステップと、
(ii)前記繊維を溶解しない非極性溶媒中において、前記繊維を、ジメチルスルホキシド中で少なくとも21のpKaを示すホスファゼン塩基で処理して、前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面のアミド部位で陰イオンを生じさせるステップと、
(iii)前記陰イオン部位にモノマーをグラフトして前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面に反応性官能基を導入するステップと
を含む、方法。
2. 前記ホスファゼン塩基が、ジメチルスルホキシド中で少なくとも30のpKaを示す、上記1に記載の方法。
3. 前記溶媒が、トルエンまたはテトラヒドロフランである、上記1に記載の方法。
4. 前記ホスファゼン塩基が、イミノホスホラン、ホスファゾホスファゼン、アミノホスファゼン、グアニジノホスファゼン、またはホスファトランである、上記1に記載の方法。
5. 前記ホスファゼン塩基が、tert−ブチル−P4−ホスファゼンある、上記1に記載の方法。
6. 前記モノマーが、ハロゲン化アリル、置換塩化ベンジル、置換N−フェニルマレイミド、または置換エポキシである、上記1に記載の方法。
7. 前記置換塩化ベンジルが、4−ビニルベンジルクロリドまたは3−ビニルベンジルクロリドであり、前記置換N−フェニルマレイミドが、N−(4−ビニルフェニル)マレイミドであり、また前記置換エポキシが、4,4’−メチレンビス(N,N−ジグリシジルアニリン)、エピクロロヒドリン、またはエピブロモヒドリンである、上記6に記載の方法。
8. 繊維表面にモノマー基がグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)からなる繊維の製造方法であって、
(i)乾燥して吸着水分を除去したポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の繊維を準備するステップと、
(ii)前記繊維を溶解しない非極性溶媒中において、前記繊維を、ジメチルスルホキシド中で少なくとも21のpKaを示すホスファゼン塩基で処理して、前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面のアミド部位で陰イオンを生じさせるステップと、
(iii)前記陰イオン部位にモノマーをグラフトして前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の表面に反応性官能基を導入するステップと、
(iv)ステップ(iii)の前記グラフトされた繊維をプロトン性溶媒で洗浄して、前記繊維の前記表面に結合していない残余の塩基化合物およびグラフト化剤を抽出するステップと
を含む、方法。
9. 繊維表面にモノマー基がグラフトされているポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)からなる繊維の製造方法であって、
(i)乾燥して吸着水分を除去したポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)の繊維を準備するステップと、
(ii)前記繊維を溶解しない非極性溶媒中において、前記繊維を、ジメチルスルホキシド中で少なくとも21のpKaを示すホスファゼン塩基で処理して、前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の前記表面のアミド部位で陰イオンを生じさせるステップと、
(iii)前記塩基で活性化された繊維を非プロトン性溶媒で洗浄して、過剰の塩基化合物を排除するステップと、
(iv)前記陰イオン部位にモノマーをグラフトして前記ポリ(p−フェニレンテレフタルアミド)繊維の前記表面に反応性官能基を導入するステップと、
(v)ステップ(iv)の前記グラフトされた繊維をプロトン性溶媒で洗浄して、前記繊維の前記表面に結合していない残余の塩基化合物およびグラフト化剤を抽出するステップと
を含む、方法。
10. 上記1、8、または9に記載の方法によって処理された繊維を含む連続フィラメントヤーン、コード、短繊維紡績糸、不織布、フロック、パルプ、またはチョップドストランド。
11. 上記1、8、または9に記載の方法によって処理された繊維を含む繊維強化複合材。
12. 上記1、8、または9に記載の方法によって処理された繊維を含む繊維強化ゴム物品。
13. 上記1、8、または9に記載の方法によって処理され、スチレン−ブタジエン−ビニルピリジンゴムラテックスで被覆された繊維を含む、ゴム化合物に使用するのに適した浸漬コード。
14. 上記1、8、または9に記載の方法によって処理された繊維を含む繊維状パルプ。