特許第6722131号(P6722131)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722131
(24)【登録日】2020年6月23日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】昇降機のメンテナンス支援システム
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/00 20060101AFI20200706BHJP
   B66B 3/00 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   B66B5/00 G
   B66B3/00 R
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-66888(P2017-66888)
(22)【出願日】2017年3月30日
(65)【公開番号】特開2018-167957(P2018-167957A)
(43)【公開日】2018年11月1日
【審査請求日】2019年1月24日
(73)【特許権者】
【識別番号】000232955
【氏名又は名称】株式会社日立ビルシステム
(74)【代理人】
【識別番号】110002365
【氏名又は名称】特許業務法人サンネクスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】西村 繁
(72)【発明者】
【氏名】野中 久典
(72)【発明者】
【氏名】厚沢 輝佳
【審査官】 加藤 三慶
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−041674(JP,A)
【文献】 特開平03−137518(JP,A)
【文献】 特開平09−237103(JP,A)
【文献】 特開2003−345424(JP,A)
【文献】 特開2011−100190(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/00
G01D 21/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
昇降機のメンテナンスを支援するためのシステムであって、
入出力インターフェースと、
支援プログラムを実行するコントローラと、
管理情報を記録するメモリと、
を備え、
前記コントローラは、
端末から前記入出力インターフェースを介して、昇降機の障害の情報を受信し、
前記障害の情報に基いて、前記メモリの管理情報を参照して、前記昇降機の障害に対する複数の原因を抽出し、
前記複数の原因を夫々評価し、
前記評価の結果と所定の条件とを比較し、
前記比較の結果に応じて、前記端末との対話を通じて、前記複数の原因の中から前記障害に有力な原因を選択し、
前記有力な原因に対応する対策を、前記メモリの管理情報を参照して抽出し、
前記有力な原因と前記対策とを、前記入出力インターフェースを介して、前記端末に送信するものであり、
前記コントローラが前記複数の原因を夫々評価することは、
前記メモリの管理情報を参照して、前記複数の原因に影響を与える要因を抽出すること、
前記要因に設定された係数に基いて、前記複数の原因の夫々を重み付けすること、そして、
前記重み付けによって、前記複数の原因夫々の優劣を決定する、
ことである、
昇降機のメンテナンス支援システム。
【請求項2】
前記管理情報には、前記昇降機の障害の原因、該原因に対応する対策、及び該対策の実施をする場所が対応付けて記録され、
前記コントローラは、
前記比較の結果、及び前記複数の原因の各々に対応する対策の実施をする場所に基いて、前記有力な原因を選択する
請求項1記載の昇降機のメンテナンス支援システム。
【請求項3】
前記コントローラは、
前記比較によって、前記評価の結果が前記所定の条件を満たさないことを判定すると、前記端末との対話を開始する、
請求項1記載の昇降機のメンテナンス支援システム。
【請求項4】
前記コントローラは、
前記比較によって、前記評価の結果が前記所定の条件を満たすことを判定すると、前記端末との対話を開始することなく、前記複数の原因の中から前記障害に有力な原因を選択する、
請求項1記載の昇降機のメンテナンス支援システム。
【請求項5】
前記対話は、
前記コントローラが、前記入出力インターフェースを介して、前記端末に質問を送信することと、
前記コントローラが、前記入出力インターフェースを介して、前記端末から前記質問に対する回答を受信すること、
を含み、
前記コントローラは、前記回答に基いて、前記複数の原因を夫々評価することにより、前記障害に有力な原因を選択する、
請求項1記載の昇降機のメンテナンス支援システム。
【請求項6】
前記コントローラは、
前記回答の種類に応じた係数に基いて、前記複数の原因夫々を重み付けし、
前記重み付けの結果に基いて、前記有力な原因を選択する、
請求項記載の昇降機のメンテナンス支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇降機のメンテナンスを支援するシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
昇降機に故障が発生すると、メンテナンスエンジニアが現場に出向き、故障の原因を調査、究明し、次いで、故障に対する対策を実施して、昇降機を正常な稼働状態に復帰させていた。ところで、原因の究明、原因に合わせて対策を選定するのには、高度な経験、技術等が必要であり、その結果、昇降機が長時間に亘って稼動できないおそれもあった。
【0003】
この種の問題に対応するものとして、特開2005―41674号公報は、エレベータの運転を制御すると共に運転データを記憶部に記憶してなるエレベータ制御盤と、エレベータの機種及びバージョンに対応した故障対応のアプリケーションを複数記憶したメンテナンスソフトデータベースを有する管理センターと、前記管理センターから指定した機種及びバージョンに対応したアプリケーションを読み出し、読み出されたアプリケーションに基づいて前記エレベータ制御盤から故障時の運転データを読み出して解析し解析結果得られる故障処置を行うための故障状態と原因を表示部に表示する携帯端末とを備えることにより、エレベータの機種及びバージョンに対応した最新の故障対応のアプリケーションを常に利用することができ、エレベータの機種及びバージョンに応じた適切な故障修理を迅速に行うことができるエレベータの保守管理システムを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−41674号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昇降機の保守管理システムは、昇降機の故障に複数の原因があることを判定すると、複数の原因に合わせて、メンテナンスエンジニアに複数の対策を提示する。しかしながら、メンテナンスエンジニアが、効果的でない方の対策を先に講じてしまう等により、昇降機を故障状態から正常状態への復帰が遅延してしまうという課題があった。本発明は、昇降機を確実かつ迅速にメンテナンスをするための支援システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は、昇降機のメンテナンスを支援するためのシステムであって、入出力インターフェースと、支援プログラムを実行するコントローラと、管理情報を記録するメモリと、を備え、前記コントローラは、端末から前記インターフェースを介して、昇降機の障害の情報を受信し、前記障害の情報に基いて、前記メモリの管理情報を参照して、前記昇降機の障害に対する複数の原因を抽出し、前記複数の原因を夫々評価し、前記評価の結果と所定の条件とを比較し、前記比較の結果に応じて、前記端末との対話を通じて、前記複数の原因の中から前記障害に有力な原因を選択し、前記有力な原因に対応する対策を、前記メモリの管理情報を参照して抽出し、前記有力な原因と前記対策とを、前記インターフェースを介して、前記端末に送信する、というものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、昇降機を確実かつ迅速にメンテナンスをするための支援システムを提供できる、という効果を達成する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の一実施形態に係る、昇降機のメンテナンス支援システムのブロック図である。
図2図1の昇降機のメンテナンス支援システムの動作のフローチャートである。
図3図1の昇降機のメンテナンス支援システムの要因係数(要因係数データベース)の一例である。
図4図1の昇降機のメンテナンス支援システムの要因係数(要因係数データベース)の他の例である。
図5図1の昇降機のメンテナンス支援システムの動作の一例に係るシーケンス図である。
図6図1の昇降機のメンテナンス支援システムの動作の他の例に係るシーケンス図である。
図7図1の昇降機のメンテナンス支援システムの最適化処理の一例を示すためのテーブルである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、昇降機のメンテナンスを支援するシステムの実施形態を、図面を参照して説明する。図1は、メンテナンス支援システムのブロック図である。このメンテナンス支援システムは、昇降機の故障や不具合の原因究明、そして、故障、不具合に対する対策の実施等のメンテナンスについて、エンジニアを支援し、昇降機を正常な稼働状態に早期に復帰できるようにする。以後、不具合と故障とを総称して“障害”と称する。メンテナンスとは、昇降機を障害から、正常な稼働状態、或いは、通常の稼働状態に復帰、又は、復旧等させることをいう。
【0010】
符号13は、メンテナンス支援システムの中核を成す、監視センターである。監視センター13は、メンテナンスエンジニア14が携行する携帯端末2と、昇降機の監視システム(遠隔監視装置3)と、通信によって接続し、情報交換を通して、メンテナンスエンジニア14のメンテナンスを支援する。
【0011】
昇降機1の障害が発報されると、現場に、メンテナンスエンジニア14(以下、ME、と云うこともある。)が出動し、昇降機の障害を確認する。ME14は、携帯端末2を介して、昇降機1の管理番号、及び、障害の状態を監視センター13に送信する。ME14は、昇降機制御回路1aが発するトラブルコード、そして、障害発生時における昇降機1の動作のシーケンスタイムチャート等の昇降機診断情報を確認すると、これを、携帯端末2を介して監視センター13に送信してもよい。なお、昇降機診断情報は、遠隔監視装置3から、監視センター13に送信されてもよい。携帯端末2は、昇降機制御回路1aに、有線接続、又は、無線接続(赤外線通信、ブルートュース等)よって接続される。
【0012】
監視センター13は、メンテナンス支援を実現する計算機システム4を備える。携帯端末2から監視センター13に向けて送信された情報は、計算機システム4の入出力インターフェース5を介して処理モジュール12に取り込まれる。処理モジュール12は、入力情報に基いて、メンテナンス支援のための情報処理を実行し、情報処理によって得られた支援情報を携帯端末2に、入出力インターフェース5を介して、出力する。なお、処理モジュール12は、コントローラ等の制御資源が、メモリに記録された支援プログラムを実行することによって実現される。
【0013】
計算機システム4は、メンテナンス支援のための管理情報を記録するデータベースを複数備える。データベースは、ストレージ(HDD等)に記録される。データベースは、監視センター13外に存在してもよい。処理モジュール12は、携帯端末2から入手した情報をデータベースに継続的に記録する。あるいは、計算機システム4の管理者は、データベースに所定の管理情報を記録する。処理モジュール12は、データべースの記録情報に基いて、メンテナンス支援のための管理情報を作成し、これを、データベースに記録する。処理モジュール12は、管理情報に基いて、メンテナンス支援情報を作成し、これを、ME14(携帯端末2)に提示することによって、昇降機1のメンテナンスを支援する。処理モジュール12は、データベースの記録情報に対して、定期的に所定の最適化処理を行い、管理情報の品質を向上させる。
【0014】
計算機システム4は、図1に示すように、データベース(DB)として、次のものを備える。機器管理データベース7は、昇降機の機種、設置環境、そして、設置場所等昇降機の仕様に係るデータを記録する。計算機システム4の管理者は、機器管理データベース7に、必要な情報を記録する。
【0015】
カテゴリデータベース8は、昇降機に生じた障害を記録する。障害は、ガイドシュー油切れ、ロープ固着のように、カテゴリ毎に記録される。処理モジュール12は、障害データベース6から、“障害”を抽出して、これを、カテゴリデータベース8に記録してもよい。或いは、計算機システム4の管理者が“障害”をカテゴリデータベース8に記録してもよい。処理モジュール12は、所謂、名寄せ等の概念処理を行う等によって、“障害”を体系的に分類、整理してカテゴリデータベース8に記録してよい。
【0016】
障害データベース6は、昇降機1に、過去発生した障害の事例、ME14が行った障害に対して調査した内容、障害の原因、そして、障害に対する対策等の諸情報を互いに対応付けて記録する。処理モジュール12は、これら諸情報を障害データベース6に、継続的に記録する。各障害に対する対策の諸情報には、対策を実施する場所(機械室、ピット、かご内、かご上、乗場等)や位置(制御盤、巻上機、ガイドレール等)に関する情報も含まれる。
【0017】
要因係数データベース9は、障害の原因の確からしさを評価するためのファクタ(要因係数)を記録する。カテゴリデータベース8に定める障害が、時間の違いや場所の違いにおいて、同じであっても、障害の原因の確からしさは、(1)昇降機が使用されている季節、天候、地域等の環境、(2)昇降機の機種、(3)昇降機の使用状況(使用年数、使用頻度等)等の諸要因によって変わってくる。要因係数は、要因の相違が、原因の確からしさに与える影響の度合に係る指標である。要因係数データベース9は、要因毎に要因係数を記録する。
【0018】
処理モジュール12は、障害の内容から複数の原因を特定すると、複数の原因夫々の確からしさを、要因係数を利用して評価する。そして、最も確からしさが高い原因を特定して、効果的な対策を提示する。処理モジュール12は、定期的に、障害データベース6を参照して学習し、要因毎に要因係数を更新し、これを要因係数データベース9に記録する。この“更新”は、既述の最適化処理の一例である。要因係数の初期値は、過去の事例に基いて、計算機システムの管理者によって要因毎に決定されてよい。
【0019】
質問データベース10は、ME14に提供する質問を障害に応じて体系的に網羅するデータを備える。後述のとおり、処理モジュール12が、カテゴリデータベース8からの情報だけでは、障害の原因を絞り切れない場合に、ME14との間での質問の提示とその回答の受領という対話型処理を通じて、確かな原因を特定できるようにしている。
【0020】
処理モジュール12は、定期的に、障害データベース6を参照して、原因と質問の回答のとの対応関係を決定して、これを、質問データベース10に登録する。計算機システムの管理者が、原因と質問の回答との対応関係を決定してもよい。
【0021】
質問に対して、ME14がどのように回答したかによって、原因の確からしさが変わってくるため、要因係数データベース9は、原因に対応する質問の回答の種類毎に要因係数を記録している。
【0022】
稼動情報データベース11は、昇降機制御部1aにつながる遠隔監視装置3が収集した昇降機1の走行時間、走行距離、起動回数等の稼働データを定期的に更新記録する。機器管理データベース7、障害データベース6、稼動情報データベース11は昇降機1の管理番号をキーとして、互いに、関連付けられている。
【0023】
次に、図2のフローチャートを用いて、メンテナンス支援処理の流れを説明する。ME14は、昇降機1の障害情報の発報を受けとると、現場に出向いて、昇降機1の状態を確認する。ME14は、昇降機1の管理番号、障害の内容を携帯端末2に入力すると、これらは、監視センター13の計算機システム4に送信される(S1)。
【0024】
計算機システム4の処理モジュール12は、受信した情報に基づき、機器管理データベース7から昇降機1の機種情報、昇降機の用途(乗用、荷物用等)、設置場所(住所等)、設置環境(ガス、日照等)、を抽出し、稼動情報データベース11から、月走行時間などの昇降機使用状況を抽出し、受信した障害情報から、カテゴリデータベース8に基づき、障害のカテゴリを抽出する。さらに、障害の発生日時を特定する(S2)。処理モジュール12は、受信日時(不具合等発生日時)は、予め定めた分類、例えば、3〜5月:春季、6〜8月:夏季、9〜11月:秋季、12〜2月:冬季のように、分類してもよい。
【0025】
処理モジュール12は、携帯端末2から受信した障害に相当する障害カテゴリを検索できない場合は、類似の障害カテゴリを抽出すればよい。処理モジュール12は、昇降機1が新機種である場合のように、機器管理データベース7に情報が無い際は、類似機種の情報を利用してよい。
【0026】
処理モジュール12は、障害に対応する、一つ又は複数の原因を、障害データベース6から抽出し、これをリストアップする(S3)。昇降機1の障害には複数の原因が関与することが多い。そして、複数の原因夫々が障害に及ぼす影響度の違いは、原因に影響を与える外的要因の態様によって異なる。例えば、季節、気温、湿度の違いといった気候要因、梅雨、乾燥、台風といった気象要因、海岸近辺か温泉地近辺等での空気中の塩分や硫黄分の量といった大気要因、月走行時間の大小といった昇降機の使用要因、展望用エレベータのように日照の影響を強く受けるか否かといった光劣化要因、昇降機の構成部品の相違といった機種要因等がある。
【0027】
そこで、計算機システム4は、障害について複数ある原因の夫々の確からしさを、“確信度”と便宜上称される指標によって評価して、複数の原因の中から有力な原因を決定する。確信度は、原因の初期評価(例えば、複数の原因夫々の存在比率)を、要因の相違に基づく指標(要因係数)での重み付等の補正をすることによって得られる。
【0028】
処理モジュール12は、確信度を算出する(S4)。確信度の算出例を示すと、次のとおりである。障害の原因が1からn種類あったとして、i番目の原因の初期評価をNiとする。そして、i番目の要因係数を、気候要因の係数:αi1、環境要因の係数:αi2、使用要因の係数:αi3、機種要因の係数:αi4のようにする。
【0029】
その結果、i番目の原因の確信度Ni’は、
Ni’=Ni×αi1×αi2×αi3×αi4のようになる。
【0030】
次に、処理モジュール12は、複数の原因夫々の確信度を値の高い順に並び替える(S5)。そして、処理モジュール12は、所定の終了条件を満たすかを判定する(S6)。所定の終了条件は、例えば、複数の原因候補の中の最大の確信度が所定の値を超え、かつ、これと次の大きさの確信度との差が所定以上ある場合である。処理モジュール12が所定の終了条件を判定すると、携帯端末2に確信度が高い順に、原因候補の序列を提示する(S7)。
【0031】
処理モジュール12は、終了条件を否定判定すると、確信度に重み付けを行うなどの補正処理を適用して確信度の評価を継続する(S8)。例えば、処理モジュール12は、質問データベース10から抽出した質問をME14に送り、その回答に基づいて、確信度に対して重み付けを行い、再度、確信度が所定の終了条件を満たすかを判定する(S6)。処理モジュール12は、ME14との対話を繰り返すことによって、障害の原因となった最有力な原因候補を絞り込むことができる(S7)。
【0032】
処理モジュール12が最有力な原因候補を決定すると、携帯端末2に、これを伝達する。ME14が提示された原因候補を確認すると、処理モジュール12は、原因に対応する対策を、障害データベース6から抽出して、携帯端末2に提示する(S9)。ME14は提示された対策を実施して、昇降機1を確実かつ早期に障害から復帰、或いは、復旧させることができる。処理モジュール12は、携帯端末2に、確信度が高い順に、複数の有力候補を提示することを妨げない。ME14がその中からひとつを選択すると、処理モジュール12は、選択した原因候補に対応する対策を提示する。ME14は、対策を順番に試みていけばよい。
【0033】
処理モジュール12は、有力候補を提示する際に、確信度が高い候補のうち、その対策を実施する場所が近い、もしくは、同一のものを優先的に提示してもよい。これにより、作業の効率化を図ることができる。例えば、確信度が1、3番目に高い候補に対応する対策実施場所が機械室で、2番目に高い候補の対策実施場所がピットである場合、ME14が確信度順に対策を実施していくと、機械室とピットを往復することになる。よってこの場合に、確信度が3番目に高い候補についても、1番目の候補と併せて対策実施を促すことで、ME14の移動を効率化できる。
【0034】
既述のS4における、原因候補の重み付けについて、図3、及び、図4を用いて説明する。処理モジュール12は、障害データベース6から複数の原因を抽出し(図3:ガイドシュー油切れ、ロープ固着、図4:シル異物挟まり、ドア吊り不良、ドアシュー摩耗)、原因の存在比率を算出した後、原因に影響を与え得る要因の種別を、機器管理データベース7を参照し、昇降機の機器情報に基いて選定する。図3は、要因の種別が“気候”であり、図4は、要因の種別が“昇降機の使用”である。
【0035】
処理モジュール12は、要因係数データベース9に基いて、選択した要因のテーブルを参照する。このテーブルは、原因、気候、機種、そして、使用情報の組み合わせと、要因係数を対応させたものである。処理モジュール12は、原因と要因とを対応させて要因係数を選定する。要因が原因に及ぼす影響が大きいほど係数の値は大きくなる。使用情報については、昇降機の使用状況に応じて、係数が変更される。例えば、図4に示すように、2階の入居率が半減すると、2階のドアの開閉頻度が低下するために、2階の係数の値が他界よりも小さく設定される。
【0036】
次に、メンテナンス支援のための具体的なシーケンスを、図5に基いて説明する。処理モジュール12は、遠隔監視装置3から、昇降機1の障害の情報を受信すると、発報プログラムを実行し、昇降機の管理を担当するME14に対して、メンテナンス要求メッセージを出力する。ME14は、昇降機1が設定されている現場に出向いてメンテナンスに当たる。なお、処理モジュール12は、複数の地域において、同時刻に、昇降機の障害が発生している場合には、障害の程度、そして、現場とME14との距離の大小に応じて、優先度を付けて対応要求メッセージを出力してもよい。
【0037】
ME14が現場に到着すると、ME14は、携帯端末2と計算機システム4との通信を開始させ、昇降機1の管理番号と、障害の内容(異常音)を管理端末2に入力する(P1)と、携帯端末2は、入力情報を計算機システム4に送信する(P2)。処理モジュール12は、機器管理番号に基いて、機器管理データベース7を参照し、昇降機の機種が“B89”であることを特定する。処理モジュール12は、さらに、入力された障害の情報に基いて、カテゴリデータベース8を参照して、障害カテゴリを“異常音”に特定する。なお、処理モジュール12は、昇降機制御回路1aが検出したコードに基いて、障害カテゴリを決定してもよい。
【0038】
処理モジュール12は、ワークメモリの所定領域に、昇降機の機種が“B89”であること、障害カテゴリが“異常音”であること、さらに、携帯端末2からの情報を受信した日時に基いて、季節分類として、“冬季”を記録する(P3)。“冬季”は、要因係数を設定するためのキー情報である。
【0039】
処理モジュール12は、“異常音”という障害カテゴリに基いて、“異常音”に対応する原因を障害データベース6から抽出し、過去に発生した、異常音の複数の原因について、その存在比率を集計して比率表6aを作成する(P4)。
【0040】
処理モジュール12は、ワークメモリへの設定情報(P3)に基いて、要因係数に関連する情報“冬季”を検出すると、要因係数データベース9を参照し、“機種”、“原因”、“季節”、そして、“要因係数”との関連情報9aを抽出する(P5)。“要因係数”が高いほど、障害の原因としての確からしさが高いことになる。ガイドシュー油切れ、そして、ロープ固着とも、冬季において、異常音発生の原因となる確率が高いことが判る。そして、昇降機(B89)が、昇降機(HVF)より、“ガイドシュー油切れ”を“異常音発生”の原因にし易いことが、そして、昇降機(B89)より、昇降機(HVF)が、“ロープ固着”を“異常音発生”の原因にし易いことが、夫々判る。
【0041】
処理モジュール12は、“原因”の確からしさである“確信度”を、原因比率(6a:初期値)に季節の要因係数(9a)を乗じる(P6)ことによって算出する。なお、“確信度”は、確実度、適合度、或いは、妥当性等と、適宜、言い換えられてもよい。
【0042】
原因“ガイドシュー油切れ”の比率(10%)に、機種“B89”の冬季の要因係数(2.0)を乗じると確信度は20%になり、一方、原因“ロープ固着”の比率(10%)に、機種“B89”の冬季の要因係数(1.2)を乗じると確信度は12%になる(P7)。
【0043】
次いで、処理モジュール12は、確信度を、所定の評価基準と比較して、評価する(P8)。例えば、次のとおりである。処理モジュール12は、確信度を大きい順にソートする。次いで、処理モジュール12は、原因の第一候補(確信度が最も高い原因)の確信度が所定値(例えば、60%)以上であれば、第一候補を有力障害原因として決定し、これに対する対策を、障害データベース6から読み出して、携帯端末2に、有力原因に合わせて送る。
【0044】
一方、処理モジュール12は、原因の第一候補の確信度が所定値未満であることを判定すると、携帯端末2に質問を送信し(P9)、質問の回答に基いて、複数の原因の確信度を重み付けし、重み付け後の確信度に基いて、複数の原因候補の中から、より確からしい原因をさらに絞り込む。
【0045】
質問は、例えば、質問のカテゴリ毎に、質問データベース10に分類して記録されている。第1の質問100aは、音のカテゴリに属するものであり、第2の質問100bは、場所のカテゴリに属する。
【0046】
処理モジュール12は、質問データベース10を参照して、障害カテゴリ(異常音)、及び/又は、原因(6a)に対応する質問を選択する。処理モジュール12は、障害データベース6を定期的に参照して、障害カテゴリ、原因に対する質問の構成、カテゴリ等質問の態様を作成、決定、或いは、更新する。計算機システム4の管理者が、質問の態様を定めてもよい。
【0047】
音の種類は?、という問いかけ文と、(1.キューキュー、2.カタカタ、3.ザーザー)からなる回答としての選択肢(100a)と、によって、質問が構成される。さらに、処理モジュール12は、障害データベース6を定期的に参照して、原因と質問の選択肢とに対応させて要因係数を設定し、これを要因係数データベース9に登録する。計算機システム4の管理者が、要因係数を定めてもよい。10aは、質問1の要因係数であり、10bは質問2の要因係数である。処理モジュール12は、質問データベース10に、候補となる質問が複数ある場合には、優先度に応じて、或いは、ランダムに、質問を選択してよい。質問データベース10は、質問に優先度、或いは、順番等を設定してもよい。
【0048】
問い掛け文や選択肢は、既述のとおり、音や場所等、ME14が五感で直接感受できるものであれば、ME14の負担を軽減しながら、ME14の想像や経験等個人ごとの相違が入り込まず有益である。
【0049】
処理モジュール12は、原因の第一候補の確信度が所定値以下(P7:20%)であるため、質問データベース10を参照して、質問1(100a)を選択し、併せて、要因係数データベース9を参照して、質問1の要因係数(10a)を抽出する。
【0050】
処理モジュール12は質問1を携帯端末2に送信する(P9)。ME14は、選択肢を決定して、携帯端末2に入力すると(P10)、携帯端末2は、選択肢の情報を回答として処理モジュール12に送信する(P11)。処理モジュール12は、回答がどの選択肢であったかに応じて、要因係数(10a)を決定し、この要因係数を確信度(P7:20%)に乗じて確信度を補正する。
【0051】
質問1の選択肢1が回答であった場合、“ガイドシュー油切れ”の要因係数(2.0)を確信度20%に乗じると、補正後の確信度は40%になり、“ロープ固着”の要因係数(1.0)を確信度12%に乗じると、補正後(重み付け後)の確信度は12%になる。
【0052】
処理モジュール12は、補正後の確信度を所定の評価基準(例えば、60%)と比較して、補正後の確信度を評価する(P12)。処理モジュール12は、補正後の確信度を高い順にソートし、原因の第一候補(補正後確信度が最も高い原因)の確信度が所定値以上であれば、第一候補を有力障害原因として決定し、これに対する対策を、障害データベース6から読み出して、携帯端末2に、原因と合わせて提示する。
【0053】
一方、処理モジュール12は、第一候補の補正後確信度が所定値未満であることを判定すると、第2の質問を携帯端末2に送信する(P13)。図5では、補正後の確信度が、“ガイドシュー油切れ”では40%であり、“ロープ固着”では12%であり、これらは、基準値未満であるため、処理モジュール12は、第2の質問を携帯端末2に送信する。
【0054】
処理モジュール12は、質問データベース10を参照して、質問2(100b)を選択し、併せて、要因係数データベース9を参照して、質問2の要因係数(10b)を抽出する。ME14は、選択肢を決定して、携帯端末2に入力すると(P14)、携帯端末2は、選択肢の情報を回答として処理モジュール12に送信する(P15)。処理モジュール12は、回答がどの選択肢であったかに応じて、要因係数(10b)を決定し、この要因係数を、第1の質問によって重み付けられた確信度(P12)に乗じて、確信度をさらに補正する。
【0055】
質問2の選択肢1が回答であった場合、“ガイドシュー油切れ”の要因係数(1.5)を、質問1によって重み付けられた確信度40%に乗じると、確信度は60%になり、同様にして、“ロープ固着”の要因係数(1.0)を、確信度12%に乗じると確信度は12%になる。
【0056】
処理モジュール12は、質問2に基いて補正された確信度を所定の評価基準(例えば、60%)と比較することによって確信度を評価する(P16)。処理モジュール12は、確信度を高い順にソートし、第一候補の確信度が所定値以上であれば、第一候補を有力障害原因として決定し、これに対する対策を、障害データベース6から読み出して、携帯端末2に、障害原因と共に送信する。
【0057】
処理モジュール12は、第一候補の確信度が、基準値以上の60%になったために、これを障害の最有力原因(ガイドシュー油切れ)としたリストP18(障害の原因として可能性がある複数の原因の序列)を、携帯端末2に送信する(P17)。処理モジュール12は、併せて、提示する原因(P18)に対応する対策(P20:ガイドシュー油切れに対する“ガイドレール給油”、“フェルト交換”)を障害データベース6から読み出して、これを携帯端末2に送信する(P19)。
【0058】
処理モジュール12は、確信度が最も高い原因に関連する質問1と質問2とを、順番に提示することによって、有力な原因を順次絞り込むことができる。
【0059】
以上のようにして、ME14は、メンテナンスを実行しようとしている昇降機1の“異常音”に対する最有力原因が“ガイドシュー油切れ”であり、有効対策が“ガイドレール給油”、“フェルト交換”であることが分かる。
【0060】
次に、複数の有力原因が、最終的に、同程度の確信度であり、夫々に優劣を付け難い場合のシーケンスを図6に基いて説明する。「1階でドア開かず」という障害が発生し、ME14が昇降機1の状態を確認し、昇降機1の管理番号、不具合状態“1階でドア開かず”を携帯端末2を入力し(P1)、これを監視センター13に送信する(P2)。処理モジュール12は、機器管理データベース7から、ドアマシンは“両開き”、基準階は“1階”、そして、環境は“屋内”要因であることを抽出し、さらに、不具合カテゴリデータベース8を参照して、“特定階でドア開かず”という不具合カテゴリを特定する(P3)。
【0061】
次に、処理モジュール12は、障害データベース6から、過去に発生した「特定階ドア開かず」の複数原因とその比率6aとを算出し、比率6aに、要因係数データベース9から抽出した、原因と階床との組み合わせに対応する要因係数(11a)を乗じて(P5)、確信度を算出する(P7)。階床ごとのドア開閉回数は入居状態によって異なり、不具合等が発生した昇降機の1階のドア開閉回数は、稼動情報データベース11によれば、総ドア開閉回数の4割を占め、他の階は格別回数が多い階はない。処理モジュール12は、稼働情報データベース11を参照して、1階が他階より、要因係数が大きくなるにしている(11a)。
【0062】
処理モジュール12は、原因毎の確信度を大きい順にソートする(P7)。要因係数(11a)によれば、1階の要因係数は、摺動部品であるドアシューの摩耗において、最も大きく、可動部の摩耗によって変化するドア吊りの不良において、次に大きく、一方、異物挟まりはドア開閉回数に関係ないので、要因係数を1.0になっている。
【0063】
処理モジュール12は、所定値(60%)を越える原因候補はないことを判定(P8)すると、既述のように、質問によって、原因候補を絞り込む。ドア吊り不良、そして、ドアシュー摩耗も進行すると、ドアが風圧によって固渋するおそれがあるので、処理モジュール12は、質問データベース10から、ドラフト有無を内容とする質問1(100c)を抽出して携帯端末2に提示する(P9)。
【0064】
処理モジュール12は、質問1に対応した要因係数を要因係数データベース9から抽出して、ME14が“1.あり”、を回答すると、確信度(P7)を要因係数11bによって重み付けする(P10)。この結果、確信度はドアシュー摩耗で50%、ドア吊り不良で45%となるが、両者の差が僅かであって、処理モジュール12は、少なくとも、一方の確信度を60%に絞り込むことは、質問をさらに重ねても困難であると判断して、“ドアシュー摩耗”と“ドア吊り不良”の両方を有力原因の候補とし、これらを合わせて、95%の確信度が得られるとして、両候補を携帯端末に伝達する(P13)。さらに、処理モジュール12は、これら両原因夫々の有効対策として、“ドアシュー交換”と、“ドア吊り調整”を、携帯端末2に提示する。ME14は確信度が高い方の対策(ドアシュー交換)から先に実施すればよい。
【0065】
次に、データベースの最適化処理(学習処理)の実施形態を、図7を利用して説明する。処理モジュール12は、障害データベース6を定期的に参照し、記録情報の差分を認識する。図7において、(1)は1階ドア故障の原因の存在比率を示す。ME14がメンテナンスを行うと、存在比率が(2)のように変化する。(3)は、原因毎の差分(比率)である。(1)-(3)によれば、ドアシュー摩耗の原因が3%増加したことが判る。
【0066】
処理モジュール12は、要因係数データベース9に於ける、差分が影響する情報、例えば、原因−階層別の要因係数を、差分に基いて、最適化、即ち、要因係数を更新する。(4)は、差分が発生する前での、原因別、そして、階層別の要因係数のテーブルである。処理モジュール12は、1階-ドアシュー摩耗の要因係数(2.0)に、差分に相当する要因件数を適用(加算)した値を新たな要因係数(4.0+4.0×0.03=4.12)にして、テーブルを(5)の様に更新する。なお、処理モジュール12は、差分がマイナスであっても、差分を調整した後の要因係数の下限を1にしてもよい。
【0067】
処理モジュール12は、さらに、要因係数データベース9に於ける、質問の回答別の要因係数を更新してもよい。(6)は変更前のテーブルであり、(7)は変更後のテーブルである。
【0068】
以上のように、昇降機のメンテナンスの数が増えるにしたがって、処理モジュール12は、累積データを学習し、データベースの管理データを最適化することによって、ME14に提示される原因と対策の精度を向上させることができる。
【0069】
処理モジュール12は、データベースの記録情報を、定期的に、最適化してもよい。例えば、処理モジュール12は、データマイニングの手法等によって、同じ意義の用語が複数の表現に散乱している場合に、複数の表現を一つの意義に対応付ける。これによって、データベース間での情報の対応関係が整理され、処理モジュール12は、さらに、ME14に提示される原因と対策の精度を向上させることができる。
【0070】
“確信度”を評価のための閾値、或いは、基準を、既述のとおり、60%であるとして説明したが、これを、エレベータの機種、原因の違い、障害の違い、質問の数、そして、質問の内容等の一つ又は複数に基く等所定条件、状態によって変更してもよい。
【0071】
さらに、既述の実施形態では、メンテナンスの対象を昇降機としたが、ME14が出向いて保守すべき対象(エスカレーター、車両昇降設備、ビルの空調設備、ビルの上下水処理設備、ビルの電気設備)であれば、特に、限定されるものではない。
【符号の説明】
【0072】
1…昇降機
1a…昇降機制御回路
2…携帯端末
3…遠隔監視装置
4…計算機システム
5…入出力インターフェース
6…障害データベース
7…機器管理データベース
8…カテゴリデータベース
9…要因係数データベース
10…質問データベース
10a、10b…質問係数
12…処理モジュール
13…監視センター
14…メンテナンスエンジニア
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7