(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記水酸化物イオン伝導性材料が、前記電子伝導性材料及び前記水酸化物イオン伝導性材料の合計量に対して5〜95体積%の割合で前記空気極又は水電解アノードに含まれる、請求項1〜9のいずれか一項に記載の空気極又は水電解アノード。
前記水電解装置が、水酸化物イオン伝導性固体電解質及び/又は水酸化物イオン伝導性電解液を用いた水電解装置である、請求項1〜10のいずれか一項に記載の水電解アノード。
請求項1〜10のいずれか一項に記載の水電解アノードと、前記水電解アノードの一面側に設けられる水酸化物イオン伝導性固体電解質とを備えた、固体電解質付き水電解アノード。
請求項1〜12のいずれか一項に記載の水電解アノードと、カソードと、水酸化物イオン伝導性固体電解質及び/又は水酸化物イオン伝導性電解液とを備えた、水電解装置。
【背景技術】
【0002】
革新電池候補の一つとして金属空気電池が挙げられる。金属空気電池は、正極活物質である酸素が空気中から供給されるため、電池容器内のスペースを負極活物質の充填に最大限利用することができ、それにより原理的に高いエネルギー密度を実現することができる。例えば、亜鉛を負極活物質として用いる亜鉛空気電池においては、電解液として水酸化カリウム等のアルカリ水溶液が用いられ、正負極間の短絡を防止するためにセパレータ(隔壁)が用いられる。放電時には、以下の反応式に示されるように、空気極(正極)側でO
2が還元されてOH
−が生成する一方、負極で亜鉛が酸化されてZnOが生成する。そして、充電時には以下と逆の反応が起こる。
空気極(正極): O
2+2H
2O+4e
−→4OH
−
負極: 2Zn+4OH
−→2ZnO+2H
2O+4e
−【0003】
特許文献1(国際公開第2013/073292号)では、亜鉛空気二次電池において、亜鉛デンドライト成長を阻止するためのセパレータとして水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用い、かつ、無機固体電解質体を空気極の一面側に密着させて設けることが提案されている。また、そのような無機固体電解質体として、M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2Oなる一般式(式中、M
2+は2価の陽イオンであり、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオンである)で表わされる層状複水酸化物(LDH)の緻密な水熱固化体の使用が提案されている。そして、このような種類のセパレータである無機固体電解質体上に、白金等の触媒粒子及びカーボン等の導電粒子で構成される空気極が形成されている。
【0004】
特許文献2(国際公開第2013/161516号)には、リチウム空気二次電池において、陰イオン交換膜として水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体を用い、かつ、無機固体電解質体を空気極の一面側に密着させて設けることが開示されている。また、そのような無機固体電解質体として層状複水酸化物(LDH)の緻密な水熱固化体の使用が提案されている。そして、陰イオン交換膜である無機固体電解質体上には、白金等の触媒粒子及びカーボン等の導電粒子で構成される空気極が形成されている。この構成においては、空気極とアルカリ電解液との間に、水酸化物イオン伝導性無機固体電解質からなる陰イオン交換膜が介在することで、空気極で生成したOH
−のみをアルカリ電解液に通過させる一方、空気中に含まれる二酸化炭素等の望ましくない物質の混入を阻止することができる。また、陰イオン交換膜の介在により、アルカリ電解液中のLi
+が空気極まで移動するのを阻止して、LiOH析出物が空気極中の細孔内で生成して細孔を塞ぐという問題を回避することもできる。このように、水酸化物イオン伝導性の無機固体電解質体が介在することで、空気極と電解液との間ではLi
+ではなくOH
−が授受される。したがって、放電時には、以下の反応式に示されるように、空気極(正極)側でO
2が還元されてOH
−が生成する一方、負極でリチウムが溶解してLi
+が生成する。そして、充電時には以下と逆の反応が起こる。
空気極(正極): O
2+2H
2O+4e
−→4OH
−
負極: Li→Li
++e
−【0005】
このように、上述した亜鉛空気二次電池やリチウム空気二次電池において、空気極はOH
−を生成ないし利用するものであり、例えば、白金等の触媒粒子やカーボンブラック等の導電粒子を含む。
【0006】
OH
−を利用するこの種の電極の他の用途として水電解装置が挙げられる。水電解装置は、H
2OをH
2とO
2に電気分解することで水素を製造するための装置であり、電解質がアノードとカソードの2つの電極に挟まれた構造を有する。電解質にはプロトン伝導性(酸性)電解質と水酸化物イオン伝導性(アルカリ性)電解質を用いた2種類があり、その各々について電解質が固体電解質のタイプと電解液のタイプの2種類があり、計4種類に分類される。水酸化物イオン伝導性(アルカリ性)の電解液を用いた場合、電解時には、以下の反応式に示されるように、アノードでOH
−が酸化されてO
2が生成する一方、カソードでH
2Oが還元されてH
2が生成する。
アノード: 4OH
−→O
2+2H
2O+4e
−
カソード: 4H
2O+4e
−→2H
2+4OH
−【0007】
ところで、LaNi
1−x−yCu
xFe
yO
3−δ(式中、x>0、y>0、x+y<1、0≦δ≦0.4)で表される成分を含有する材料が知られている(例えば特許文献3(特許第4995327号公報)参照)。この材料は、高温かつ大気下で望ましい導電性と熱膨張率を示すことから、燃料電池、とりわけ固体酸化物型燃料電池(SOFC)用の集電層材料として好適であることが特許文献3に開示されている。なお、SOFCにおける空気極はO
2からO
2−を生成するものであり、上述した金属空気電池用の空気極や水電解装置用のアノード(水電解アノード)とは異なり、OH
−を生成ないし使用するものではない。
【発明を実施するための形態】
【0018】
空気極及び水電解アノード
本発明による空気極又は水電解アノードは、金属空気電池(特に金属空気二次電池)又は水電解装置に用いられるものである。これらの用途における空気極又は水電解アノードとしては、OH
−の生成反応及び/又は酸化反応を起こすものが典型的には想定される。
【0019】
本発明の空気極が用いられる金属空気電池は、空気極と、金属負極と、電解液とを備えてなるものであればよい。好ましくは、水酸化物イオン伝導性セパレータと、このセパレータの一面側に密着して設けられる正極としての空気極と、セパレータの他面側に設けられる金属負極と、空気極層と負極との間にセパレータを介して収容される電解液とを備えた構成が想定される。このような構成の金属空気電池の好ましい例としては、特許文献1及び2に開示されるような亜鉛空気二次電池やリチウム空気二次電池が挙げられる。
【0020】
一方、本発明の水電解アノードが用いられる水電解装置は、水酸化物イオン伝導性固体電解質及び/又は水酸化物イオン伝導性電解液を用いた水電解装置であればよい。このような水電解装置は、水電解アノードと、カソードと、水酸化物イオン伝導性固体電解質及び/又は水酸化物イオン伝導性電解液とを備えたものであるのが好ましい。水酸化物イオン伝導性固体電解質及び/又は水酸化物イオン伝導性電解液は少なくとも水電解アノード及びカソードの間に介在される。特に好ましい水電解装置は、水酸化物イオン伝導性固体電解質を用いた水電解装置である。水酸化物イオン伝導性固体電解質を用いた場合、水酸化物イオン伝導性電解液を用いた場合と比較して、以下の利点があるためである。すなわち、1)腐食性のあるアルカリ性水溶液ではなく純水を供給すればよいため、装置の保守が容易となる、2)固体電解質は緻密なため電極間の差圧制御を簡略化できる(電解質が液体の場合には、発生したH
2とO
2ガスが電解質を透過して混合することを避けるため、電極間の差圧を厳密に制御する必要がある)、3)電流密度を上げることができ、装置を高効率化できる(電解質が液体の場合には、電流密度を上げるとH
2とO
2ガスの気泡が電解液に残存し、電解液のイオン伝導度が下がり高抵抗化してしまう)。上記1)〜3)の利点は水酸化物イオン伝導性固体電解質を用いた場合のみならず、プロトン伝導性固体電解質を用いた場合にも当てはまるものであるが、水酸化物イオン伝導性固体電解質を用いた場合には、プロトン伝導性固体電解質を用いた場合と比べて、4)電極に非貴金属材料を用いることができ、コスト削減を図れるとの利点もある(プロトン伝導性固体電解質を用いた場合には電極に貴金属が用いられ材料コストが高くなる)。
【0021】
本発明による空気極又は水電解アノードは、LaNi
1−x−yCu
xFe
yO
3−δ(式中、x>0、y>0、x+y<1、0≦δ≦0.4)で表される電子伝導性材料(以下、LNFCuと略称する)を含む。かかる組成のLNFCuを電子伝導性材料として採用することで、カーボンブラックよりも高い触媒活性を呈し、且つ、酸化劣化の懸念の懸念が無い空気極又は水電解アノードを提供することができる。すなわち、従来、カーボンブラックが電子伝導体且つ触媒として一般的に用いられてきたが、その触媒活性は十分ではなく、また、空気中の酸素等に酸化されて劣化するとの問題があった。この点、カーボンブラックの代替材料としてLNFCuを空気極触媒又は水電解アノード触媒に用いることで、カーボンブラックよりも高い触媒活性が得られる。また、LNFCuは酸化物であるため酸化劣化の懸念も無くなる。このように、本発明において電子伝導性材料(LNFCu)は空気極触媒又は水電解アノード触媒としても機能する。したがって、本発明の空気極又は水電解アノード触媒は空気極触媒又は水電解アノード触媒として使用されうるPt等の高価な原料を必須成分として含まなくて済むため、安価な電極材料として提供可能である。
【0022】
本発明の空気極又は水電解アノードはLaNi
1−x−yCu
xFe
yO
3−δ(式中、x>0、y>0、x+y<1、0≦δ≦0.4)で表される電子伝導性材料(LNFCu)を含む。x≦0.5であるのが好ましく、より好ましくは0.01≦x≦0.5、さらに好ましくは0.05≦x≦0.30である。また、y≦0.3であるのが好ましく、より好ましくは0.01≦y≦0.3である。これらの範囲内であると導電性及び熱膨張率が高いのみならず、触媒活性が有意に高くなる。また、δ≦0.4であることで高い導電率が得られる。δ<0.0では、作製時の酸素分圧を高圧にする必要がありコストがかかるためδ≧0.0である。
【0023】
LNFCuはペロブスカイト型結晶相を有するのが好ましく、より好ましくはペロブスカイト単相で構成されることが好ましい。これによって、より高い導電率及び触媒活性が実現される。通常、LaNiO
3におけるNiは全て3価である。しかし、一部のNiが2価となる場合がある。2価のNiに由来する異相は、一般式La
n+1Ni
nO
3n+1(ただし、nは1、2又は3)で表される。例えばn=3であれば、異相はLa
4Ni
3O
10で表され、4個のLa
3++2個のNi
3++1個のNi
2+を含む。電極材料中に異相が存在しない、または存在比が小さい方が、高い導電率が得られる。異相は、XRD(X線回折)において、31.2°〜32.3°にピークを示す。よって、この位置のピークが見られないか、ピークが小さいことが、高い導電率及び触媒活性を実現するには好ましい。
【0024】
LNFCuの形状は、粒子形状であってもよいし、その他の形状であってもよいが、空気極又は水電解アノードにおいて厚さ方向に連続した相(即ち電子伝導相)をもたらす形態で用いられるのが好ましい。例えば、LNFCuは、多孔質材料であってもよい。空気極又は水電解アノードにおけるLNFCuの含有量は、LNFCu及び所望による水酸化物イオン伝導性材料の全体量を100体積%とした場合に、10〜100体積%であるのが好ましく、10〜80体積%であるのがより好ましく、さらに好ましくは15〜70体積%であり、特に好ましくは20〜60体積%である。
【0025】
LNFCuは、La、Ni、Cu及びFeを含み、La、Ni、Cu及びFeのモル比がLa:Ni:Cu:Fe=1:(1−x−y):x:y(ただし、x>0、y>0、x+y<1)である原料を1200℃以下の温度で焼成することにより製造することができる。この製造方法は、La、Ni、Cu,Feをこの比率で含有する原料を準備することを含んでいてもよい。なお、焼成工程に用いられる原料は、上述の金属の酸化物粉末及び/又は水酸化物粉末を混合することによって得てもよいし、金属アルコキシド若しくは金属硝酸塩を出発材料とする共沈法又は液相合成法によって得てもよい。x、y及びδの好適な範囲については上述したとおりである。Ni及びCuは大気中及び高温下で還元されやすい。そのため、本物質の製造においては、δを好適な範囲に調整するために、焼成工程は1200℃以下で行われることが好ましく、焼成工程は、酸素雰囲気中かつ1200℃以下で行われることがより好ましい。また、焼成工程は、1つの処理とみなされてもよいし、温度条件の異なる2つ以上の熱処理を含んでもよい。これらの処理のうちの少なくとも1つの処理において、上述の原料が1100℃以上の温度で熱処理されてもよい。焼成工程は、温度条件が1100℃未満に設定された熱処理を含んでいてもよい。なお、いずれの熱処理においても温度条件は1200℃以下に設定可能である。Feは反応性が比較的低いが、原料が1100℃以上で熱処理されることで、単相のペロブスカイト構造が得られやすい。また、焼成工程の前に、1100℃以上で原料を仮焼する仮焼工程が行われてもよい。仮焼処理が行われる場合に、焼成工程における温度は1100℃未満であってもよい。また、仮焼工程も1200℃以下で行われてもよい。ただし、原料の粒径及びその他の条件に応じて、焼成の温度条件、焼成にかかる時間等は、変更される。
【0026】
本発明の空気極又は水電解アノードにおいてはLNFCuが空気極触媒又は水電解アノード触媒としても機能するため、従来空気極又は水電解アノードにおいて使用されてきた他の空気極触媒又は水電解アノード触媒は不要である。したがって、典型的には、本発明の空気極又は水電解アノードはLNFCu以外の空気極触媒又は水電解アノード触媒を含まないものでありうる。もっとも、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内においてそのような他の空気極触媒又は水電解アノード触媒を含有していてもよい。そのような他の空気極触媒又は水電解アノード触媒の例としては、カーボンナノチューブ等の酸化還元触媒機能を有するカーボン系材料、白金、ニッケル等の酸化還元触媒機能を有する金属、ペロブスカイト型酸化物、二酸化マンガン、酸化ニッケル、酸化コバルト、スピネル酸化物等の酸化還元触媒機能を有する無機酸化物、その他酸化還元触媒機能を有する窒化物や炭化物が挙げられる。他の空気極触媒又は水電解アノード触媒の形状は特に限定されないが、粒子形状であるのが好ましい。
【0027】
本発明の空気極又は水電解アノードにおいてはLNFCuを電子伝導性材料として使用するため、従来から使用されてきたカーボンブラック等の他の電子伝導性材料は不要である。したがって、典型的には、本発明の空気極又は水電解アノードはLNFCu以外の電子伝導性材料を含まないものでありうる。もっとも、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内においてそのような他の電子伝導性材料を含有していてもよい。そのような他の電子伝導性材料の例としては、カーボンナノチューブ等のカーボン系材料、炭素繊維、金属繊維等の導電性繊維類、銅、銀、ニッケル、アルミニウム等の金属粉末類、ポリフェニレン誘導体等の有機電子伝導性材料、その他電子伝導性を有する酸化物、窒化物、炭化物、ケイ化物等のセラミックス材料、及びこれらの任意の混合物が挙げられる。
【0028】
本発明の空気極又は水電解アノードは、水酸化物イオン伝導性材料をさらに含むのが好ましい。水酸化物イオン伝導性材料の含有により、空気極又は水電解アノードの反応抵抗を有意に低減することができ、空気極特性又は水電解アノード特性が向上する。水酸化物イオン伝導性材料は、水酸化物イオンを伝導ないし透過可能な材料であれば特に限定されず、無機材料及び有機材料を問わず、各種の材質及び形態の材料が使用可能である。水酸化物イオン伝導性材料は、粒子形態に限らず、LNFCu及び所望により添加される他の電子伝導性材料を部分的に又は概ね全体的に被覆するような塗布膜の形態であってもよい。もっとも、この塗布膜の形態においても、イオン伝導性材料は緻密質ではなく、開気孔を有しており、空気極又は水電解アノードの外側表面からその反対側の面(例えばセパレータや固体電解質との界面)に向かって、O
2やH
2Oが気孔中を拡散できるように構成されるのが望ましい。水酸化物イオン伝導性材料は、LNFCu及び水酸化物イオン伝導性材料の合計量に対して5〜95体積%の割合で空気極又は水電解アノードに含まれるのが好ましく、より好ましくは5〜85体積%であり、さらに好ましくは10〜80体積%である。
【0029】
本発明の好ましい態様によれば、水酸化物イオン伝導性材料は、一般式:M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は少なくとも1種以上の2価の陽イオンであり、M
3+は3価の少なくとも1種以上の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)の基本組成を有する層状複水酸化物を含むのが好ましい。上記一般式において、M
2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはNi
2+、Mg
2+、Ca
2+、Mn
2+、Fe
2+、Co
2+、Cu
2+、Zn
2+が挙げられ、より好ましくはNi
2+である。M
3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはFe
3+、Al
3+、Co
3+,Cr
3+、In
3+が挙げられ、より好ましくはFe
3+である。A
n−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはNO
3−、CO
32−、SO
42−、OH
−、Cl
−、I
−、Br
−、F
−が挙げられ、より好ましくはNO
3−及び/又はCO
32−である。したがって、上記一般式は、M
2+がNi
2+を含み、M
3+がFe
3+を含み、A
n−がNO
3−及び/又はCO
32−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1〜3である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数ないし整数である。本発明の別の好ましい態様によれば、水酸化物イオン伝導性材料は、NaCo
2O
4、LaFe
3Sr
3O
10、Bi
4Sr
14Fe
24O
56、NaLaTiO
4、RbLaNb
2O
7、及びKLaNb
2O
7のいずれかを水和させたもの、及びSr
4Co
1.6Ti
1.4O
8(OH)
2・xH
2Oからなる群から選択される少なくとも一種の基本組成を有するものであってもよい。これらの無機固体電解質は、焼結により上記基本組成の緻密質焼結体を作製後、還元・加水処理を行って水酸化物イオン伝導性を発現させることにより得ることができる。
【0030】
本発明の別の好ましい態様によれば、水酸化物イオン伝導性材料は、水酸化物イオン伝導性を有する高分子材料を含むものであってもよく、あるいはそのような高分子材料と上述した層状複水酸化物との混合物又は複合体であってもよい。水酸化物イオン伝導性を有する高分子材料は、水酸化物イオンを透過可能な陰イオン交換基を有する高分子材料を使用するのが好ましい。水酸化物イオン伝導性を有する高分子材料の好ましい例としては、四級アンモニウム基、ピリジニウム基、イミダゾリウム基、ホスホニウム基、スルホニウム基等の陰イオン交換基を有する炭化水素系樹脂(例えば、ポリスチレン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリフェニレン、ポリベンズイミダゾール、ポリイミド、ポリアリーレンエーテル等)、フッ素系樹脂等の高分子化合物が挙げられる。
【0031】
空気極又は水電解アノードの形成は、最終的にLNFCu及び所望により水酸化物イオン伝導性材料を含む所望の形態(典型的には層)を形成できる限り、あらゆる手法で行われてよく、特に限定されない。例えば、LNFCu及び所望により水酸化物イオン伝導性材料をエタノール等の溶媒を用いて湿式混合して乾燥及び解砕した後、バインダーと混合してフィブリル化し、得られたフィブリル状混合物を集電体に圧着して空気極層又は水電解アノード層を形成し、この空気極層/集電体又は水電解アノード層/集電体の積層シートの空気極層側又は水電解アノード側をセパレータ又は固体電解質に圧着してもよい。あるいは、LNFCu及び所望により水酸化物イオン伝導性材料をエタノール等の溶媒と共に湿式混合してスラリー化し、このスラリーをセパレータや固体電解質に塗布して乾燥させて空気極層又は水電解アノード層を形成してもよい。
【0032】
したがって、空気極又は水電解アノードはバインダーを含んでいてもよい。バインダーは、熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂であってよく特に限定されないが、好ましい例としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、スチレンブタジエンゴム、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロエチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−クロロトリフルオロエチレン共重合体、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE樹脂)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、フッ化ビニリデン−ペンタフルオロプロピレン共重合体、プロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−クロロトリフルオロエチレン共重合体(ECTFE)、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン−テトラフルオロエチレン共重合体、フッ化ビニリデン−パーフルオロメチルビニルエーテル−テトラフルオロエチレン共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロール(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ポリビニルアルコール(PVA)及びこれらの任意の混合物が挙げられる。
【0033】
本発明の好ましい態様によれば、空気極又は水電解アノードにおける水酸化物イオン伝導性材料の含有比率が、体積基準で、空気極又は水電解アノードの外側表面(外気と接触する側)からその反対側の面(例えばセパレータや固体電解質との界面)に向かって、段階的に又は徐々に高くなるようにしてもよい。こうすることで、空気極又は水電解アノードの外側においては、比較的少ない水酸化物イオン伝導性材料に起因して空気極触媒又は水電解アノード触媒と空気等との接触比率を高くして触媒反応を促進できる。一方、空気極又は水電解アノードの外側表面から内側表面に向かって水酸化物イオンの伝導経路を多く確保することで触媒反応により生成した水酸化物イオンを効率良くセパレータや水酸化物イオン伝導性固体電解質に伝導することができる。なお、イオン伝導性材料は粒子及び塗布膜のいずれの形態であってもよく、塗布膜の形態の場合、緻密質ではなく、開気孔を有しており、空気極又は水電解アノードの外側表面からその反対側の面に向かって或いはその逆に向かって、O
2やH
2Oが気孔中を拡散できるように構成されるのが望ましい。好ましくは、空気極又は水電解アノードの内側面(例えばセパレータや固体電解質との界面)近傍における水酸化物イオン伝導性材料の含有比率は、体積基準で、空気極又は水電解アノードの外側表面近傍における水酸化物イオン伝導性材料の含有比率の1.2倍以上、1.5倍以上、2.0倍以上、2.5倍以上、又は3.0倍以上とすればよい。例えば、空気極又は水電解アノードは、水酸化物イオン伝導性材料の含有比率が相対的に高い第一層と、水酸化物イオン伝導性材料の含有比率が相対的に低い第二層とを含み、第一層がセパレータ又は水酸化物イオン伝導性固体電解質と接触可能とされ、かつ、第二層が外気に露出可能とされてなるのが好ましい。この場合、第一層における水酸化物イオン伝導性材料の含有比率は、体積基準で、第二層における水酸化物イオン伝導性材料の含有比率の1.2倍以上、1.5倍以上、2.0倍以上、2.5倍以上、又は3.0倍以上とすればよい。
【0034】
空気極又は水電解アノードは典型的には層状であり、層状の空気極又は水電解アノード(すなわち空気極層又は水電解アノード層)は5〜50μmの厚さを有するのが好ましく、より好ましくは5〜40μmであり、さらに好ましくは5〜35μm、特に好ましくは5〜30μmである。このような厚さであると、ガス拡散抵抗の増大を抑えながらイオン伝導相(例えばセパレータ)と、電子伝導相(LNFCu)と、気相(空気)とからなる三相界面の面積を比較的大きく確保することができ、空気極又は水電解アノードの反応抵抗の低減をより好ましく実現することができる。
【0035】
空気極又は水電解アノードは外側の面に正極集電体を備えたものであってもよい。この場合、正極集電体は空気極又は水電解アノードに空気が供給されるように又は酸素が放出されるように通気性を有するのが好ましい。正極集電体の好ましい例としては、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属板若しくは金属メッシュ、カーボンペーパー、カーボンクロス、及び電子伝導性酸化物等が挙げられ、耐食性及び通気性の点でステンレス金網が特に好ましい。
【0036】
空気極の一面側には水酸化物イオン伝導性セパレータがさらに設けられるのが好ましい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、空気極と、空気極の一面側に設けられる水酸化物イオン伝導性セパレータとを備えた、セパレータ付き空気極が提供される。セパレータは、水酸化物イオンを通過させ且つそれ以外の望ましくない物質をできるだけ通さない材料であれば多孔質材料(例えばセラミックス多孔体や高分子多孔膜)、固体電解質(例えばLDH等の水酸化物イオン伝導性無機固体電解質)、アニオン交換膜等のいかなる材料で構成されてもよく、有機材料及び無機材料を問わない。もっとも、水酸化物イオン伝導性セパレータは、水酸化物イオン伝導性無機固体電解質を含むのが好ましく、より好ましくはそのような無機固体電解質からなる。水酸化物イオン伝導性無機固体電解質は空気極で生成した水酸化物イオンを電解液に選択的に通過させることが可能な緻密質セラミックスであるのが好ましい。このようなセパレータは、金属空気電池の場合、空気中に含まれる二酸化炭素等の望ましくない物質の電池内への混入を阻止すると同時に、電解液中のアルカリ金属イオンが空気極まで移動するのを阻止する。したがって、セパレータは二酸化炭素を通さないものであることが望まれる。すなわち、緻密質セラミックスである水酸化物イオン伝導性無機固体電解質からなるセパレータを用いることで、その高い緻密性に起因して二酸化炭素の電解液への混入等を防止することができ、その結果、炭酸イオンの生成による電解液の劣化を防止して電池性能の低下を回避することができる。また、その緻密性及び硬さに起因して、亜鉛空気二次電池の充電時における亜鉛デンドライトによる正負極間の短絡を防止することもできる。その結果、特性劣化しにくく信頼性の高い金属空気電池(特に金属空気二次電池)を構成することが可能となる。このように、セパレータは緻密質セラミックスである水酸化物イオン伝導性無機固体電解質で構成されるのが好ましい。特に、セパレータは緻密で硬い無機固体電解質で構成されることで、金属デンドライト(例えば亜鉛デンドライト)による正負極間の短絡及び二酸化炭素の混入の両方を防止することができるのが好ましい。
【0037】
水電解アノードの一面側には水酸化物イオン伝導性固体電解質がさらに設けられてもよい。すなわち、本発明の好ましい態様によれば、水電解アノードと、水電解アノードの一面側に設けられる水酸化物イオン伝導性固体電解質とを備えた、固体電解質付き水電解アノードが提供される。固体電解質付き水電解アノードは既に固体電解質を備えているため、カソードを設けるだけで水電解装置の基本構成を供することができる点で有利である。また、水酸化物イオン固体電解質でアノードとカソードを隔離することで、水電解装置において、水電解アノードで発生する酸素がカソードで発生する水素に混入するのを阻止して水素の製造効率を向上することができる。すなわち、水酸化物イオン固体電解質にセパレータとしての機能を持たせることもでき、この場合、水酸化物イオン伝導性無機固体電解質はカソードで生成した水酸化物イオンを水電解アノードに選択的に通過させることが可能な緻密質セラミックスであるのが好ましい。
【0038】
このような水酸化物イオン伝導性固体電解質は、アルキメデス法で算出して、88%以上の相対密度を有するのが好ましく、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは94%以上である。もっとも、空気中に含まれる二酸化炭素等の望ましくない物質の電池内への混入や亜鉛デンドライトの貫通を阻止できるのであればこれに限定されない。水酸化物イオン伝導性無機固体電解質は一般式:M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は少なくとも1種以上の2価の陽イオンであり、M
3+は3価の少なくとも1種以上の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオンであり、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4である)の基本組成を有する層状複水酸化物(LDH)であるのが好ましく、より好ましくはM
2+がMg
2+を含み、M
3+がAl
3+を含み、A
n−がCO
32−を含む。このような層状複水酸化物は水熱法によって緻密化されるのが好ましい。したがって、水熱法を経ていない単なる圧粉体は、緻密でなく、溶液中で脆いことから本発明に用いるセパレータや固体電解質として好ましくない。また、層状複水酸化物を含む分散液を塗布して形成された塗膜も緻密性に劣ることから本発明に用いるセパレータや固体電解質として好ましくない。もっとも、水熱法によらなくても、緻密で硬い水酸化物イオン伝導性固体電解質体が得られるかぎりにおいて、あらゆる固化法が採用可能である。このように、セパレータは層状複水酸化物緻密体からなるものが好ましい。好ましい層状複水酸化物緻密体及びその製造方法については後述するものとする。
【0039】
本発明の別の好ましい態様によれば、水酸化物イオン伝導性無機固体電解質が、NaCo
2O
4、LaFe
3Sr
3O
10、Bi
4Sr
14Fe
24O
56、NaLaTiO
4、RbLaNb
2O
7、及びKLaNb
2O
7のいずれかを水和させたもの、及びSr
4Co
1.6Ti
1.4O
8(OH)
2・xH
2Oからなる群から選択される少なくとも一種の基本組成を有するものであってもよい。これらの無機固体電解質は、焼結により上記基本組成の緻密質焼結体を作製後、還元・加水処理を行って水酸化物イオン伝導性を発現させることにより得ることができる。
【0040】
セパレータや固体電解質の形状は特に限定されず、緻密な板状及び膜状のいずれであってもよいが、空気極の場合、板状であるのが金属デンドライトの貫通、二酸化炭素の混入及びアルカリ金属イオンの空気極への移動をより一層効果的に阻止できる点で好ましい。もっとも、セパレータが、二酸化炭素の混入及びアルカリ金属イオンの空気極への移動を十分に阻止できる程の緻密性を有するのであれば膜状であるのも好ましい。板状の水酸化物イオン伝導性固体電解質体の好ましい厚さは、0.1〜1mmであり、より好ましくは0.1〜0.5mm、さらに好ましくは0.1〜0.2mmである。膜状の水酸化物イオン伝導性固体電解質体の好ましい厚さは、0.001〜0.05mmであり、より好ましくは0.001〜0.01mm、さらに好ましくは0.001〜0.005mmである。また、水酸化物イオン伝導性固体電解質の水酸化物イオン伝導度は高ければ高い方が望ましいが、典型的には1×10
−4〜1×10
−1S/m(1×10
−3〜1mS/cm)、より典型的には1.0×10
−4〜1.0×10
−2S/m(1.0×10
−3〜1.0×10
−1mS/cm)の伝導度を有する。
【0041】
空気極の場合、セパレータは、水酸化物イオン伝導性を有する無機固体電解質を含んで構成される粒子群と、これら粒子群の緻密化や硬化を助ける補助成分との複合体であってもよい。あるいは、セパレータは、基材としての開気孔性の多孔質体と、この多孔質体の孔を埋めるように孔中に析出及び成長させた無機固体電解質(例えば層状複水酸化物)との複合体であってもよい。この多孔質体を構成する物質の例としては、アルミナ、ジルコニア等のセラミックスが挙げられる。
【0042】
空気極の場合、セパレータ上により安定に水酸化物イオンを保持するために、セパレータの片面に多孔質基材を設けてもよい。この場合、多孔質基材を用意して、この多孔質基材に無機固体電解質を成膜する手法が考えられる。多孔質基材は層状複水酸化物からなるものであってもよいし、水酸化物イオン伝導性を有する高分子からなるものであってもよい。
【0043】
金属空気電池
本発明による空気極を用いて金属空気電池、特に金属空気二次電池を作製することができる。このような金属空気電池は、本発明の空気極(又はセパレータ付き空気極)と、金属負極と、電解液とを備えてなるものであればよい。電解液はセパレータを介して空気極と隔離されてなることが望ましい。好ましい金属空気電池は、水酸化物イオン伝導性セパレータと、このセパレータの一面側に密着して設けられる正極としての空気極と、セパレータの他面側に設けられる金属負極と、空気極層と負極との間にセパレータを介して収容される電解液とを備えてなる。したがって、セパレータ付き空気極を用いる場合には、セパレータが空気極と電解液とを隔離するように設けられるのが好ましい。金属負極は、亜鉛、リチウム、アルミニウム、マグネシウム等の公知の金属又はその合金であってよい。電解液は、使用する負極に適した公知の組成を適宜選択すればよく、例えば亜鉛空気電池の場合、水酸化カリウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液等のアルカリ金属水酸化物水溶液等であってよい。金属負極は電解液と直接接していてもよいし、陽イオン(例えばリチウムイオン)を選択的に通過させ、電解液及び水酸化物イオン等を通過させないセパレータを介して電解液と間接的に陽イオンを授受する構成としてもよい。このような金属空気二次電池の好ましい例としては、特許文献1及び2に開示されるような亜鉛空気二次電池やリチウム空気二次電池が挙げられる。
【0044】
水電解装置
本発明による水電解アノードを用いて水電解装置を作製することができる。水電解装置は、水酸化物イオン伝導性固体電解質及び/又は水酸化物イオン伝導性電解液を用いた水電解装置であるのが好ましい。このような水電解装置は、水電解アノードと、カソードと、水酸化物イオン伝導性固体電解質及び/又は水酸化物イオン伝導性電解液とを備えたものであるのが好ましい。特に好ましい水電解装置は、水酸化物イオン伝導性固体電解質を用いた水電解装置であり、その利点については前述したとおりである。水酸化物イオン伝導性固体電解質及び/又は水酸化物イオン伝導性電解液は少なくとも水電解アノード及びカソードの間に介在される。水電解アノードは酸素発生極に相当し、カソードは水素発生極に相当する。カソードは、ニッケルめっきした鉄やニッケル合金等の公知の材料で構成すればよい。水酸化物イオン伝導性電解液は水酸化カリウム水溶液等のアルカリ電解液であってよく、水酸化物イオン伝導性固体電解質は前述したような水酸化物イオン伝導性材料ないし水酸化物イオン伝導性固体電解質と同様又は類似の材料を使用すればよく、特に限定されない。本発明の水電解装置にあっては、電解時には、以下の反応式に示されるように、水電解アノードでOH
−が酸化されてO
2が生成する一方、カソードでH
2Oが還元されてH
2が生成する。
アノード: 4OH
−→O
2+2H
2O+4e
−
カソード: 4H
2O+4e
−→2H
2+4OH
−
【0045】
電解質に関しては、
図1に示されるように水酸化物イオン伝導性電解液16を単独で用いてもよいし、
図2に示されるように水酸化物イオン伝導性固体電解質28を単独で用いてもよいし、
図3及び4に示されるように水酸化物イオン伝導性電解液36,46及び水酸化物イオン伝導性固体電解質38,48の両方を併用してもよい。
図1に示される水電解装置10は、容器内に、水電解アノード12とカソード14の両方が水酸化物イオン伝導性電解液16に浸漬され、水電解アノード12とカソード14がセパレータ(例えばアスベストの織物)で隔離される。この場合、カソード14への水の供給は水酸化物イオン伝導性電解液16から行われる。
図2に示される水電解装置20は、容器内に、水電解アノード22とカソード24が対向して配置され、その間に水酸化物イオン伝導性固体電解質28が介在されてなる。この場合、水酸化物イオン伝導性固体電解質28が電解質としてのみならずセパレータとしても機能する一方、電解液を用いないため、水がカソード側流路25を介してカソード24に供給される。
図3に示される水電解装置30は、カソード34が水酸化物イオン伝導性電解液36で満たされる一方、水電解アノード32のカソード34に面した側に水酸化物イオン伝導性固体電解質38が設けられて水電解アノード32が水酸化物イオン伝導性電解液36と隔離される。この場合、水酸化物イオン伝導性固体電解質38が電解質としてのみならずセパレータとしても機能する一方、カソード34への水の供給は水酸化物イオン伝導性電解液36から行われる構成になる。
図4に示される水電解装置40は、水電解アノード42が水酸化物イオン伝導性電解液46で満たされる一方、カソード44の水電解アノード42に面した側に水酸化物イオン伝導性固体電解質48が設けられてカソード44が水酸化物イオン伝導性電解液46と隔離される。この場合、水酸化物イオン伝導性固体電解質48が電解質としてのみならずセパレータとしても機能する一方、カソード44には水酸化物イオン伝導性電解液36が接触しないため、水がカソード側流路45を介してカソード44に供給される。水電解装置10,20,30,40において、水電解アノード12,22,32,42は水電解によって発生した酸素ガスを排出可能なアノード側流路13,23,33,43に接続される一方、カソード14,24,34,44は水電解によって発生した水素ガスを排出可能なカソード側流路15,25,35,45に接続される。
【0046】
これらの様々な態様の水電解装置の中でも、水酸化物イオン伝導性固体電解質28,38,48を用いる
図2〜4に示されるような水電解装置20,30,40が好ましく、特に好ましくは
図2に示されるように水酸化物イオン伝導性固体電解質28を単独で用いる構成の水電解装置である。水酸化物イオン伝導性固体電解質を用いた場合、水酸化物イオン伝導性電解液を用いた場合と比較して、以下の利点があるためである。すなわち、1)腐食性のあるアルカリ性水溶液ではなく純水を供給すればよいため、装置の保守が容易となる、2)固体電解質は緻密なため電極間の差圧制御を簡略化できる(電解質が液体の場合には、発生したH
2とO
2ガスが電解質を透過して混合することを避けるため、電極間の差圧を厳密に制御する必要がある)、3)電流密度を上げることができ、装置を高効率化できる(電解質が液体の場合には、電流密度を上げるとH
2とO
2ガスの気泡が電解液に残存し、電解液のイオン伝導度が下がり高抵抗化してしまう)。上記1)〜3)の利点は水酸化物イオン伝導性固体電解質を用いた場合のみならず、プロトン伝導性固体電解質を用いた場合にも当てはまるものであるが、水酸化物イオン伝導性固体電解質を用いた場合には、プロトン伝導性固体電解質を用いた場合と比べて、4)電極に非貴金属材料を用いることができ、コスト削減を図れるとの利点もある(プロトン伝導性固体電解質を用いた場合には電極に貴金属が用いられ材料コストが高くなる)。
【0047】
層状複水酸化物緻密体及びその製造方法
前述のとおり、本発明の空気極用のセパレータ又は水電解アノード用の固体電解質として使用可能な水酸化物イオン伝導性固体電解質体として、層状複水酸化物緻密体を用いるのが好ましい。好ましい層状複水酸化物緻密体は、一般式:M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の少なくとも一種以上の陽イオン、M
3+は少なくとも一種以上の3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)で示される層状複水酸化物を主相として含むものであり、好ましくは上記層状複水酸化物から実質的になる(又はからなる)。
【0048】
上記一般式において、M
2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg
2+、Ca
2+及びZn
2+が挙げられ、より好ましくはMg
2+である。M
3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl
3+又はCr
3+が挙げられ、より好ましくはAl
3+である。A
n−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH
−及びCO
32−が挙げられる。したがって、上記一般式は、少なくともM
2+がMg
2+を、M
3+がAl
3+を含み、A
n−がOH
−及び/又はCO
32−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数ないし整数である。
【0049】
前述のとおり、層状複水酸化物緻密体は、好ましくは88%以上の相対密度を有し、より好ましくは90%以上、さらに好ましくは94%以上である。したがって、層状複水酸化物緻密体はクラックを実質的に含まないのが好ましく、より好ましくはクラックを全く含まない。
【0050】
層状複水酸化物緻密体は、層状複水酸化物主相が、示差熱分析において300℃以下に明確な吸熱ピークが観察されない層状複水酸化物粒子から構成されるのが好ましい。すなわち、示差熱分析において主に200℃近辺に観測される明確な吸熱ピークは層間水の脱離によるものと言われており、それに伴って急激に層間距離が変化するなどの大きな構造変化があるとされ、安定な温度領域が狭い可能性が推測されるからである。
【0051】
層状複水酸化物緻密体は、あらゆる方法によって作製されたものであってもよいが、以下に好ましい製造方法の一態様を説明する。この製造方法は、ハイドロタルサイトに代表される層状複水酸化物の原料粉末を成形及び焼成して酸化物焼成体とし、これを層状複水酸化物へ再生した後、余剰の水分を除去することにより行われる。この方法によれば、88%以上の相対密度を有する高品位な層状複水酸化物緻密体を簡便に且つ安定的に提供及び製造することができる。
【0052】
(1)原料粉末の用意
原料粉末として、一般式:M
2+1−xM
3+x(OH)
2A
n−x/n・mH
2O(式中、M
2+は2価の陽イオン、M
3+は3価の陽イオンであり、A
n−はn価の陰イオン、nは1以上の整数、xは0.1〜0.4であり、mは0以上である)で表される層状複水酸化物の粉末を用意する。上記一般式において、M
2+は任意の2価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはMg
2+、Ca
2+及びZn
2+が挙げられ、より好ましくはMg
2+である。M
3+は任意の3価の陽イオンでありうるが、好ましい例としてはAl
3+又はCr
3+が挙げられ、より好ましくはAl
3+である。A
n−は任意の陰イオンでありうるが、好ましい例としてはOH
−及びCO
32−が挙げられる。したがって、上記一般式は、少なくともM
2+がMg
2+を、M
3+がAl
3+を含み、A
n−がOH
−及び/又はCO
32−を含むのが好ましい。nは1以上の整数であるが、好ましくは1又は2である。xは0.1〜0.4であるが、好ましくは0.2〜0.35である。mは0以上、典型的には0を超える又は1以上の実数ないし整数である。このような原料粉末は市販の層状複水酸化物製品であってもよいし、硝酸塩や塩化物を用いた液相合成法等の公知の方法にて作製した原料であってもよい。原料粉末の粒径は、所望の層状複水酸化物緻密体が得られる限り限定されないが、体積基準D50平均粒径が0.1〜1.0μmであるのが好ましく、より好ましくは0.3〜0.8μmである。原料粉末の粒径が細かすぎると粉末が凝集しやすく、成形時に気孔が残留する可能性が高く、大きすぎると成形性が悪くなるためである。
【0053】
所望により、原料粉末を仮焼して酸化物粉末としてもよい。この際の仮焼温度は、構成するM
2+及びM
3+によって多少の差があるが、500℃以下が好ましく、より好ましくは380〜460℃とし、原料粒径が大きく変化しない領域で行う。
【0054】
(2)成形体の作製
原料粉末を成形して成形体を得る。この成形は、成形後且つ焼成前の成形体(以下、成形体という)が、43〜65%、より好ましくは45〜60%であり、さらに好ましくは47%〜58%の相対密度を有するように、例えば加圧成形により行われるのが好ましい。成形体の相対密度は、成形体の寸法及び重量から密度を算出し、理論密度で除して求められる。もっとも、成形体の重量は吸着水分の影響を受けるため、一義的な値を得るために、室温、相対湿度20%以下のデシケータ内で24時間以上保管した原料粉末を用いた成形体か、もしくは成形体を前記条件下で保管した後に相対密度を測定するのが好ましい。ただし、原料粉末を仮焼して酸化物粉末とした場合は、成形体の相対密度が26〜40%であるのが好ましく、より好ましくは29〜36%である。なお、酸化物粉末を用いる場合の相対密度は、層状複水酸化物を構成する各金属元素が仮焼により各々酸化物に変化したと仮定し、各酸化物の混合物として求めた換算密度を分母として求めた。一例に挙げた加圧成形は、金型一軸プレスにより行ってもよいし、冷間等方圧加圧(CIP)により行ってもよい。冷間等方圧加圧(CIP)を用いる場合は原料粉末をゴム製容器中に入れて真空封じするか、あるいは予備成形したものを用いるのが好ましい。その他、スリップキャストや押出成形など、公知の方法で成形してもよく、成形方法については特に限定されない。ただし、原料粉末を仮焼して酸化物粉末とした場合は、乾式成形法に限られる。これらの成形体の相対密度は、得られる緻密体の強度だけではなく、通常板状形状を有する層状複水酸化物の配向度への影響もあることから、その用途等を考慮して成形時の相対密度を上記の範囲で適宜設定するのが好ましい。
【0055】
(3)焼成工程
上記工程で得られた成形体を焼成して酸化物焼成体を得る。この焼成は、酸化物焼成体が、成形体の重量の57〜65%の重量となり、且つ/又は、成形体の体積の70〜76%以下の体積となるように行われるのが好ましい。成形体の重量の57%以上であると、後工程の層状複水酸化物への再生時に再生できない異相が生成しにくくなり、65%以下であると焼成が十分に行われて後工程で十分に緻密化する。また、成形体の体積の70%以上であると、後工程の層状複水酸化物への再生時に異相が生成しにくくなるとともに、クラックも生じにくくなり、76%以下であると、焼成が十分に行われて後工程で十分に緻密化する。原料粉末を仮焼して酸化物粉末とした場合は、成形体の重量の85〜95%、及び/又は成形体の体積の90%以上の酸化物焼成体を得るのが好ましい。原料粉末が仮焼されるか否かに関わらず、焼成は、酸化物焼成体が、酸化物換算で20〜40%の相対密度を有するように行われるのが好ましく、より好ましくは20〜35%であり、さらに好ましくは20〜30%である。ここで、酸化物換算での相対密度とは、層状複水酸化物を構成する各金属元素が焼成により各々酸化物に変化したと仮定し、各酸化物の混合物として求めた換算密度を分母として求めた相対密度である。酸化物焼成体を得るための好ましい焼成温度は400〜850℃であり、より好ましくは700〜800℃である。この範囲内の焼成温度で1時間以上保持されるのが好ましく、より好ましい保持時間は3〜10時間である。また、急激な昇温により水分や二酸化炭素が放出されて成形体が割れるのを防ぐため、上記焼成温度に到達させるための昇温は100℃/h以下の速度で行われるのが好ましく、より好ましくは5〜75℃/hであり、さらに好ましくは10〜50℃/hである。したがって、昇温から降温(100℃以下)に至るまでの全焼成時間は20時間以上確保するのが好ましく、より好ましくは30〜70時間、さらに好ましくは35〜65時間である。
【0056】
(4)層状複水酸化物への再生工程
上記工程で得られた酸化物焼成体を上述したn価の陰イオン(A
n−)を含む水溶液中又はその直上に保持して層状複水酸化物へと再生し、それにより水分に富む層状複水酸化物固化体を得る。すなわち、この製法により得られる層状複水酸化物固化体は必然的に余分な水分を含んでいる。なお、水溶液中に含まれる陰イオンは原料粉末中に含まれる陰イオンと同種の陰イオンとしてよいし、異なる種類の陰イオンとしてもよい。酸化物焼成体の水溶液中又は水溶液直上での保持は密閉容器内で水熱合成の手法により行われるのが好ましく、そのような密閉容器の例としてはテフロン(登録商標)製の密閉容器が挙げられ、より好ましくはその外側にステンレス製等のジャケットを備えた密閉容器である。層状複水酸化物化は、酸化物焼成体を20℃以上200℃未満で、少なくとも酸化物焼成体の一面が水溶液に接する状態に保持することにより行われるのが好ましく、より好ましい温度は50〜180℃であり、さらに好ましい温度は100〜150℃である。このような層状複水酸化物化温度で酸化物焼結体が1時間以上保持されるのが好ましく、より好ましくは2〜50時間であり、さらに好ましくは5〜20時間である。このような保持時間であると十分に層状複水酸化物への再生を進行させて異相が残るのを回避又は低減できる。なお、この保持時間は、長すぎても特に問題はないが、効率性を重視して適時設定すればよい。
【0057】
層状複水酸化物への再生に使用するn価の陰イオンを含む水溶液の陰イオン種として空気中の二酸化炭素(炭酸イオン)を想定する場合は、イオン交換水を用いることが可能である。なお、密閉容器内の水熱処理の際には、酸化物焼成体を水溶液中に水没させてもよいし、治具を用いて少なくとも一面が水溶液に接する状態で処理を行ってもよい。少なくとも一面が水溶液に接する状態で処理した場合、完全水没と比較して余分な水分量が少ないので、その後の工程が短時間で済むことがある。ただし、水溶液が少なすぎるとクラックが発生しやすくなるため、焼成体重量と同等以上の水分を用いるのが好ましい。
【0058】
(5)脱水工程
上記工程で得られた水分に富む層状複水酸化物固化体から余剰の水分を除去する。こうして本発明の層状複水酸化物緻密体が得られる。この余剰の水分を除去する工程は、300℃以下、除去工程の最高温度での推定相対湿度25%以上の環境下で行われるのが好ましい。層状複水酸化物固化体からの急激な水分の蒸発を防ぐため、室温より高い温度で脱水する場合は層状複水酸化物への再生工程で使用した密閉容器中に再び封入して行うことが好ましい。その場合の好ましい温度は50〜250℃であり、さらに好ましくは100〜200℃である。また、脱水時のより好ましい相対湿度は25〜70%であり、さらに好ましくは40〜60%である。脱水を室温で行ってもよく、その場合の相対湿度は通常の室内環境における40〜70%の範囲内であれば問題はない。
【実施例】
【0059】
本発明を以下の例によってさらに具体的に説明する。
【0060】
例1〜8
表1に示される諸条件に従い、8種類のセパレータ付き空気極の作製及び評価を以下のようにして行った。
【0061】
(1)電子伝導性材料(LNFCu)の作製
電子伝導性材料(LNFCu)を次のようにして作製した。まず、水酸化ランタン粉末、酸化ニッケル粉末、酸化銅粉末、及び酸化鉄粉末を110℃で12時間乾燥させた。乾燥した各粉末を、表1に示されるようにLaNi
1−x−yCu
xFe
yO
3−δの一般式においてx=0.01、y=0.01となるモル比で秤量した。これらの粉末を水媒体にて、湿式混合した後、乾燥させた。その後、篩を通すことにより混合粉体を作製した。次いで、混合粉体を蓋つきのアルミナ坩堝に入れた後、酸素雰囲気中かつ仮焼温度1100℃で12時間熱処理することにより、固相反応を行い、ペロブスカイト相の仮焼粉末を得た。仮焼粉末をXRDにより分析したところぺロブスカイト単相であることが確認された。仮焼粉末を粉砕し、一軸プレスを行った後、CIP(Cold Isostatic Press)によって、成型体を得た。得られた成型体を蓋つきのアルミナ鞘中に静置した後、酸素雰囲気中、焼成温度1100℃で12時間熱処理することにより、焼結体を得た。得られた焼結体をポットミルで湿式粉砕してLNFCuの粉末を得た。
【0062】
(2)水酸化物イオン伝導性材料の作製(例5〜8のみ)
例5〜8においては、水酸化物イオン伝導性材料としての層状複水酸化物粒子(以下、LDH粒子という)を次のようにして作製した。まず、Ni(NO
3)
2・6H
2O及びFe(NO
3)
3・9H
2Oを脱イオン水にNi:Fe=3:1のモル比になるように溶かして混合した。得られた混合液を70℃で0.3MのNa
2CO
3溶液に撹拌しながら滴下した。この際、2MのNaOH溶液を加えながら混合液のpHを10に調整して、70℃で24時間保持した。混合液中に生成した沈殿物をろ過し、蒸留水で洗浄後、80℃で乾燥してLDHの粉末を得た。
【0063】
(3)空気極層の作製
例1〜4では先に得られたLNFCu粉末を所定量秤量した。一方、例5〜8では先に得られたLNFCu粉末及びLDH粒子をそれぞれ50vol%の配合比となるように秤量し、エタノール溶媒の共存下で湿式混合した後、得られた混合物を70℃で乾燥した後、解砕した。こうして例1〜8について用意されたLNFCu含有粉末をバインダー(PTFE)及び水と混合してフィブリル化した。得られたフィブリル状混合物を厚さ100μmとなるように集電体(カーボンクロス(エレクトロケム社製、品番EC−CC1−060T))にシート状に圧着して空気極層/集電体の積層シートを得た。
【0064】
(4)セパレータの用意
表1に示されるように、例1〜8の各例において様々なセパレータを用意した。用意したセパレータの詳細は以下のとおりである。
【0065】
(LDHセパレータ‐例1及び5)
例1及び5ではセパレータとして、LDHセパレータを用いた。LDHセパレータは次のようにして作製した。まず、原料粉末として、市販の層状複水酸化物であるハイドロタルサイト粉末(DHT−6、協和化学工業株式会社製)粉末を用意した。この原料粉末の組成はMg
2+0.75Al
3+0.25(OH)
2CO
32−0.25/n・mH
2Oであった。原料粉末を直径16mmの金型に充填して500kgf/cm
2の成形圧で一軸プレス成形して、相対密度55%、厚さ2mmの成形体を得た。なお、この相対密度の測定は、室温、相対湿度20%以下で24時間保管した成形体について行った。得られた成形体をアルミナ鞘中で焼成した。この焼成は、急激な昇温により水分や二酸化炭素が放出されて成形体が割れるのを防ぐため、100℃/h以下の速度で昇温を行い、750℃の最高温度に達した時点で5時間保持した後、冷却することにより行った。この昇温から降温(100℃以下)に至るまでの全焼成時間は62時間とした。こうして得られた焼成体を、外側にステンレス製ジャケットを備えたテフロン(登録商標)製の密閉容器に大気中でイオン交換水と共に封入し、100℃で水熱処理を5時間施して、試料を得た。室温まで冷めた試料は余分な水分を含んでいるため、ろ紙等で軽く表面の水分を拭き取った。こうして得られた試料を25℃、相対湿度が50%程度の室内で自然脱水(乾燥)した後に研磨して、厚さ0.5mmの板状のセパレータ試料を得た。
【0066】
緻密度を調べるため、得られたセパレータ試料の寸法及び重量から密度を算出し、この密度を理論密度で除することにより相対密度を決定した。なお、理論密度の算出にあたり、Mg/Al=3のハイドロタルサイト理論密度としてJCPDSカードNo.22−0700に記載の2.06g/cm
3を用いた。その結果、セパレータの相対密度は95%であった。また、X線回折装置(D8 ADVANCE、Bulker AXS社製)により、電圧:40kV、電流値:40mA、測定範囲:5〜70°の測定条件で、セパレータ試料の結晶相を測定し、JCPDSカードNO.35−0965に記載されるハイドロタルサイトの回折ピークを用いて同定した。その結果、ハイドロタルサイトに起因するピークのみが観察された。
【0067】
(アニオン交換膜‐例2及び6)
例2及び6ではセパレータとして、市販のアニオン交換膜(製品名:ネオセプタ(品番AHA)、アストム社製)を用意した。
【0068】
(セラミックス多孔体‐例3及び7)
例3及び7ではセパレータとして、セラミックス多孔体を用いた。セラミックス多孔体は次のようにして作製した。まず、ベーマイト(サソール社製、DISPAL 18N4−80)、メチルセルロース、及びイオン交換水を、(ベーマイト):(メチルセルロース):(イオン交換水)の質量比が10:1:5となるように秤量した後、混練した。得られた混練物を、ハンドプレスを用いた押出成形に付し、板状に成形した。得られた成形体を80℃で12時間乾燥した後、1150℃で3時間焼成して、アルミナ製セラミックス多孔体を得た。得られたセラミックス多孔体について、画像処理を用いた手法により、多孔質基材表面の気孔率を測定したところ、24.6%であった。この気孔率の測定は、1)表面微構造を走査型電子顕微鏡(SEM、JSM−6610LV、JEOL社製)を用いて10〜20kVの加速電圧で観察して多孔質基材表面の電子顕微鏡(SEM)画像(倍率10000倍以上)を取得し、2)Photoshop(Adobe社製)等の画像解析ソフトを用いてグレースケールのSEM画像を読み込み、3)[イメージ]→[色調補正]→[2階調化]の手順で白黒の2値画像を作成し、4)黒い部分が占めるピクセル数を画像の全ピクセル数で割った値を気孔率(%)とすることにより行った。この気孔率の測定はセラミックス多孔体表面の6μm×6μmの領域について行われた。また、セラミックス多孔体の平均気孔径を測定したところ約0.1μmであった。本発明において、平均気孔径の測定は多孔質基材の表面の電子顕微鏡(SEM)画像をもとに気孔の最長距離を測長することにより行った。この測定に用いた電子顕微鏡(SEM)画像の倍率は20000倍であり、得られた全ての気孔径をサイズ順に並べて、その平均値から上位15点及び下位15点、合わせて1視野あたり30点で2視野分の平均値を算出して、平均気孔径を得た。測長には、SEMのソフトウェアの測長機能を用いた。
【0069】
(高分子多孔膜‐例4及び8)
例4及び8ではセパレータとして、市販の高分子多孔膜(製品名:セルガード2400、ポリポア製)を用意した。
【0070】
(5)空気極の作製及び評価
上記のとおり用意したセパレータに、先に作製した空気極層/集電体の積層シートを、空気極層側がセパレータ試料と接着するように圧着して、空気極付きセパレータ試料を得た。得られた空気極付きセパレータを空気電池に適用した場合の電位降下特性を調べるために、
図5に示されるような電位降下測定用の電気化学測定系を作製した。まず、空気極付きセパレータ120(すなわちセパレータ121及び空気極層122の積層体)の上下に多孔質ニッケル集電板123a,123bを圧着した。一方、容器124内に電解液125として1MのKOH溶液を充填し、対極としてのPt黒電極126(インターケミ社製)と、参照極としての可逆水素電極(RHE)127(インターケミ社製)とを配設した。容器124に上から集電板123a/空気極付きセパレータ120/集電板123bの積層体を嵌め込み、電解液125が集電板123aを経てセパレータ121に接触するようにした。そして、Pt黒電極126から上側の集電板123bに向けて100mA/cm
2の電流密度で電流を流し、ポテンショガルバノスタット(solartron社製、型番1287)を用いて可逆水素電極(RHE)127と上側集電板123bの間の電位降下を測定した。セパレータ121とKOHの抵抗を別途測定し、これらによる電位降下を差し引くことで、空気極層122による電位降下(金属空気電池の放電反応時の電位降下)を算出した。次に、電流の向きを逆にし、充電反応時の空気極による電位降下についても同様にして測定した。得られた電位降下を以下の基準に基づいて4段階で評価した。
<100mA/cm
2での空気極層による電位降下の評価>
A:電位降下が1.0V未満
B:電位降下が1.0V以上1.5V未満
C:電位降下が1.5V以上2.0V未満
D:電位降下が2.0V以上
【0071】
例9〜16
表1に示されるように、水酸化ランタン、酸化ニッケル、酸化銅、及び酸化鉄粉末の秤量をLaNi
1−x−yCu
xFe
yO
3−δの一般式においてx=0.20、y=0.05となるモル比を与えるように行ったこと以外は、例1〜8と同様にして、空気極及びセパレータの作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0072】
例17〜24
表1に示されるように、水酸化ランタン、酸化ニッケル、酸化銅、及び酸化鉄粉末の秤量をLaNi
1−x−yCu
xFe
yO
3−δの一般式においてx=0.25、y=0.25となるモル比を与えるように行ったこと以外は、例1〜8と同様にして、空気極及びセパレータの作製及び評価を行った。結果は表1に示されるとおりであった。
【0073】
【表1】
【0074】
例25〜32(比較)
表2に示されるように、電子伝導材料としてLaNi
1−x−yCu
xFe
yO
3−δの代わりにLaNiO
3を用いたこと以外は、例1〜8と同様にして、空気極及びセパレータの作製及び評価を行った。結果は表2に示されるとおりであった。
【0075】
例33〜40(比較)
表2に示されるように、電子伝導材料としてLaNi
1−x−yCu
xFe
yO
3−δの代わりにカーボンブラック(電気化学工業製、品番デンカブラック(粉状))を用いたこと以外は、例1〜8と同様にして、空気極及びセパレータの作製及び評価を行った。結果は表2に示されるとおりであった。
【0076】
【表2】
【0077】
なお、例1〜40における評価結果から明らかなように、本発明のLNFCuを用いた空気極は充放電反応時における電位降下が有意に低く、カーボンブラックよりも高い触媒活性を呈することが分かる。そして、このように空気極において高い触媒活性を呈するLNFCuは同様の反応式を経て水の電気分解を行う水電解装置においても、水電解アノードとして、同様に高い触媒活性を呈することができる。すなわち、例1〜40に関する知見は、金属空気電池用の空気極のみならず、水電解装置用のアノードにも同様に当てはまるものである。