特許第6722189号(P6722189)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722189
(24)【登録日】2020年6月23日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】単量体Fcドメイン
(51)【国際特許分類】
   C07K 19/00 20060101AFI20200706BHJP
   C07K 16/00 20060101ALI20200706BHJP
   C12N 15/13 20060101ALI20200706BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20200706BHJP
   A61P 31/00 20060101ALI20200706BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20200706BHJP
   A61P 37/06 20060101ALI20200706BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   C07K19/00
   C07K16/00ZNA
   C12N15/13
   A61P35/00
   A61P31/00
   A61P29/00
   A61P37/06
   A61K39/395 H
【請求項の数】21
【全頁数】44
(21)【出願番号】特願2017-535678(P2017-535678)
(86)(22)【出願日】2016年1月4日
(65)【公表番号】特表2018-505154(P2018-505154A)
(43)【公表日】2018年2月22日
(86)【国際出願番号】EP2016050032
(87)【国際公開番号】WO2016110468
(87)【国際公開日】20160714
【審査請求日】2018年11月8日
(31)【優先権主張番号】62/099,634
(32)【優先日】2015年1月5日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】506000184
【氏名又は名称】イナート・ファルマ・ソシエテ・アノニム
【氏名又は名称原語表記】INNATE PHARMA PHARMA S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(72)【発明者】
【氏名】ローラン・ゴーティエ
【審査官】 田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/045261(WO,A1)
【文献】 特表2009−544300(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/131242(WO,A1)
【文献】 BIOCHEMISTRY,米国,1998年 6月30日,VOL:37, NR:26,PAGE(S):9266 - 9273,URL,http://dx.doi.org/10.1021/bi980270i
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
A61K 39/395
A61P 29/00
A61P 31/00
A61P 35/00
A61P 37/06
C12N 15/00−15/90
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
可動性リンカーによって分離されている第1及び第2のCH3ドメインを含む、ヒト新生児Fc受容体(FcRn)との結合能を有するポリペプチド鎖であって、前記ポリペプチドが:
(ABD)−リンカー−CH2−CH3−リンカー−CH3、
(ABD)−リンカー−CH2−CH3−リンカー−CH3−リンカー−(ABD)、および
(ABD)−リンカー−CH1−CH2−CH3−リンカー−CH3−リンカー−(ABD)、
から選択されるドメイン配置、ここで、ABDは目的の抗原に特異的に結合する抗原結合ドメイン、ABDは目的の第1の抗原に特異的に結合する抗原結合ドメイン、ABDは目的の第2の抗原に特異的に結合する抗原結合ドメインである、
を有するものである、ポリペプチド鎖
【請求項2】
前記第1及び第2のCH3ドメインが、前記第1及び第2のCH3ドメインが非共有相互作用により互いの結合することを許容するのに十分な長さのリンカーによって分離されている、請求項1に記載のポリペプチド鎖。
【請求項3】
前記第1及び第2のCH3ドメインを分離するアミノ酸配列が10〜30残基を有するペプチドリンカーである、請求項1又は2に記載のポリペプチド鎖。
【請求項4】
前記第1及び第2のCH3ドメインを分離する前記アミノ酸配列が式(GS)(式中、xは、2、3、4、5又は6である)を有するペプチドリンカーである、請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリペプチド鎖。
【請求項5】
前記ポリペプチドが、CD16、CD32A、CD32B及びCD64からなる群から選択される1つ以上のヒトFcγ受容体とのそのFcドメインを介した結合を実質的に欠いている、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリペプチド鎖を含む組成物。
【請求項6】
前記CH2ドメインが、ヒトFcγ受容体との結合を低下させるアミノ酸置換を含む、請求項に記載の組成物。
【請求項7】
各ABDが抗体の超可変領域、任意選択により重鎖及び軽鎖CDRを含む、請求項5又は6に記載の組成物。
【請求項8】
ABDが免疫グロブリン重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインを含む、請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項9】
ABDがscFvである、請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項10】
前記ポリペプチドが二重特異的ポリペプチドである、請求項のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項11】
前記抗原結合ドメインのうちの一方が癌抗原に結合する、請求項10のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項12】
前記抗原結合ドメインのうちの一方がウイルス抗原又は細菌抗原に結合する、請求項11のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項13】
前記抗原結合ドメインのうちの一方が免疫エフェクター細胞上の細胞表面受容体に結合する、請求項12のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項14】
前記抗原結合ドメインのうちの一方が免疫エフェクター細胞上の細胞表面受容体に結合し、及び前記抗原結合ドメインのうちの他方が癌抗原、ウイルス抗原又は細菌抗原に結合する、請求項13のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項15】
免疫エフェクター細胞上の前記細胞表面受容体が免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーである、請求項13又は14に記載の組成物。
【請求項16】
免疫エフェクター細胞上の前記細胞表面受容体が、ナチュラル細胞傷害性受容体ファミリー又はNK細胞レクチン様受容体ファミリーのメンバーである、請求項13又は14に記載の組成物。
【請求項17】
免疫エフェクター細胞上の前記細胞表面受容体が、活性化KIR、NKG2D、NKp30、NKp44、NKp46、CD8及びCD3からなる群から選択される、請求項13又は14に記載の組成物。
【請求項18】
前記抗原結合ドメインがヒトフレームワーク領域由来のフレームワーク残基を含む、請求項17のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項19】
請求項1〜のいずれか一項に記載のポリペプチド又は請求項5〜18のいずれか一項に記載の組成物と薬学的に許容可能な担体とを含む医薬組成物。
【請求項20】
疾患の治療用医薬としての、請求項1〜のいずれか一項に記載のポリペプチド又は請求項5〜18のいずれか一項に記載の組成物を含む医薬組成物、又は請求項19に記載の医薬組成物
【請求項21】
前記疾患が癌、感染症又は炎症性若しくは自己免疫性疾患である、請求項20に記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、全ての図面を含め、参照にその全内容が本明細書に組み入れられる、2015年1月5日出願の米国仮特許出願第62/099,634号明細書の利益を主張するものである。
【0002】
配列表の参照
本出願は、電子形式の配列表と合わせて出願されている。この配列表は、2015年12月31日に作成された100KBサイズの「NTECH2 PCT_ST25 txt」という名称のファイルとして提供される。この配列表の電子形式の情報は、参照によりその全内容が本明細書に組み入れられる。
【0003】
単量体Fcドメイン、並びに単量体Fcドメインを含む多量体及び単鎖タンパク質が提供される。これらのタンパク質は疾患の治療に有用性がある。特に、多重特異的ポリペプチドが含まれる。
【背景技術】
【0004】
縮小したサイズの、且つ組織透過性の向上をもたらし得る、Fab、Fv、scFv、VH及びVHHなどの抗体断片、並びにさらに新規の抗体断片形態の開発が、例えば固形腫瘍の治療に向けて進められている。また、特異性を高め、効力の幅を広げ、且つ従来のモノクローナル抗体では実現できない新規作用機構を利用する機会を提供する、2つの異なるエピトープと結合する二重特異的抗体についても新規形態が開発されている。しかしながら、これらの形態の多くは、フルサイズのIgGと比較して半減期が極めて短い。
【0005】
Fcドメインは、新生児Fc受容体(FcRn)とのそのユニークなpH依存的結合を介してIgGの半減期を増加させる。インターナリゼーション後、エンドソームの酸性環境内でIgGのFcドメインはFcRnに結合することができ、それによりIgGは次に細胞表面上に循環され、再び循環中に放出される。この生体システムはIgGを分解から保護し、長い血清中半減期をもたらす。Fcドメインと治療用分子との融合物は長い半減期を有する。加えて、IgGのFc断片は密に充填されたホモ二量体からなるため、各分子に2つの治療用タンパク質が存在する。より小さい単量体Fc融合物を作製するための1つの手法は、CH3ドメインに突然変異を導入してCH3−CH3ホモ二量体化を妨げることを伴うものであった(例えば、(特許文献1)及び(特許文献2)を参照されたい)。しかしながら、突然変異の導入は、ヒトへの投与時に免疫原性のリスクを伴う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2013/138643号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2011/063348号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、単量体Fcドメインの使用を可能にする新規タンパク質形態を作製することが依然として必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、Fcドメインが単量体のままであり、且つ新生児Fc受容体(FcRn)と相互作用する機能性タンパク質を生じる、直列に配置された2つの免疫グロブリンCH3ドメインを含むFcポリペプチド構築物の発見によってもたらされる。この構築物は、限定されないが、単鎖及び多量体二重特異的結合タンパク質、例えば抗体を含めた多岐にわたる単鎖及び多重鎖(多量体)タンパク質の構築を可能にする。
【0009】
単一のポリペプチド鎖内の2つのCH3ドメイン(「直列型CH3ドメイン」と称される)は、任意のFcドメイン含有分子、例えば、直列型CH3ドメイン含有ポリペプチド鎖と多量体化する他のアミノ酸配列又はタンパク質ドメインを同じポリペプチド鎖上及び/又は追加的なポリペプチド鎖上に含む分子に組み込むことができる。Fcドメインは単量体のままであるが(例えば、CH3−CH3二量体化を起こす2つのFcドメインで形成されるFc二量体ではない)、直列型CH3ドメインを含有するタンパク質は単量体又は多量体(2つ以上のポリペプチド鎖を含有するもの、例えば、二量体、三量体、四量体、五量体)であってもよい。
【0010】
直列型CH3ドメイン含有ポリペプチド鎖は、典型的には、2つのCH3ドメインのうちの一方に連結したCH2ドメイン、及び任意選択によりさらに、目的のタンパク質ドメイン、例えば、重鎖可変領域(VH)及び/又は軽鎖可変領域(VL)などの免疫グロブリン可変領域、及び/又は概して任意の抗原結合ドメインを含み得る。このドメインは、例えば、CH2又はCH3ドメインに直接融合してもよく、又はペプチドリンカー、ヒンジ、CH1ドメイン又はCKドメインなどのアミノ酸残基の介在配列を介して融合してもよい。直列型CH3ドメイン内の2つのCH3ドメイン間に好適なリンカー(例えば任意のアミノ酸配列又は他の可動性分子)を提供すると、それらのCH3ドメインが非共有相互作用によって互いに結合することが可能になる。従って、2つのCH3ドメインは他のポリペプチド鎖とのCH3−CH3二量体化には利用できず、そのため、CH3ドメイン含有分子間でのホモ二量体化が回避される。一例において、直列型CH3ドメインは、CH2ドメインをさらに含むポリペプチドに組み込まれ、単量体のままであるFcドメインをもたらす。単量体Fcドメインを有する単一のポリペプチド鎖は、それ自体使用することもでき、又はさらなるポリペプチド鎖と組み合わせて、単量体Fcドメインを有する多量体ポリペプチドを生じさせることもできる。
【0011】
本明細書に開示されるこれらのFcドメイン含有分子には、天然CH3ドメインを受け入れることができるという利点がある。本分子はまた、容易に作製することができる。本分子は、さらには、2つ以上の機能性タンパク質ドメイン、例えば抗原結合ドメインを有することができ、幅広いFcドメイン含有分子の作製を可能にする。詳細には、新生児Fc(FcRn)受容体に結合する単量体Fcドメインを有する二重特異性抗体を作製することができる。
【0012】
一態様において、直列型CH3ドメインが提供される。一態様において、CH2ドメインと直列型CH3ドメインとを含むFcドメインが提供される。一態様において、直列型CH3ドメイン又はFcドメインを含むポリペプチド鎖が提供される。一態様において、かかる直列型CH3ドメインを含むポリペプチド鎖を含む多量体ポリペプチドが提供される。一実施形態において、直列型CH3ドメインの2つのCH3ドメインは可動性ペプチドリンカーによって分離されている。一実施形態において、直列型CH3ドメインの2つのCH3ドメインは非共有相互作用によって互いに結合している。一実施形態において、2つのCH3ドメインは、各CH3ドメインのCH3二量体化界面を介して互いに結合している。一実施形態において、直列型CH3ドメインは、(例えば別のポリペプチド鎖のCH3ドメインとの)さらなるCH3−CH3二量体化能を有しない。
【0013】
一実施形態において、第1及び第2のCH3ドメインを含むポリペプチド鎖が提供され、ここで、これらの2つのCH3ドメインは非共有相互作用によって互いに結合している。一実施形態において、2つのCH3ドメインは各CH3ドメインのCH3二量体化界面を介して互いに結合している。一実施形態において、ポリペプチド鎖は、Fcドメインを含む別のポリペプチド鎖と二量体化しない。
【0014】
一実施形態において、単量体Fcドメインを有する多量体(例えば二量体、三量体、四量体、五量体)タンパク質が提供され、このタンパク質は、CH2ドメインと直列型CH3ドメインとを含むFcドメインを含むポリペプチド鎖を含む。一実施形態において、Fcドメインの2つのCH3ドメインは非共有相互作用によって互いに結合している。
【0015】
本明細書における任意の態様の一実施形態において、第1のCH3ドメインはリンカーによって第2のCH3ドメインに接続されている。従って、直列型CH3ドメインは、以下のとおりのドメイン配置を有するように同じポリペプチド鎖上に配置することができる。
−CH3−リンカー−CH3−
【0016】
リンカーは可動性リンカー(例えばペプチドリンカー)であり得る。一実施形態において、リンカーは、CH3ドメインが非共有相互作用によって互いに結合することを可能にする。一実施形態において、リンカーは、10〜50アミノ酸残基を有するペプチドリンカーである。一実施形態において、リンカーは式(GS)を有する。任意選択により、xは、2、3、4、5又は6である。
【0017】
任意の実施形態において、各CH3ドメインは、独立に、ヒト完全長及び/又は天然CH3ドメイン、若しくは機能性CH3二量体化界面を維持する(例えば、別のCH3ドメインとのCH3−CH3二量体化を起こす能力を維持するその)断片若しくは改変CH3ドメインである。
【0018】
本明細書における任意の実施形態において、直列型CH3ドメイン又はFcドメインに使用される例示的CH3ドメインは、配列番号1のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも70%、80%、90%、95%若しくは98%同一の配列を含む。
【0019】
本明細書における任意の実施形態において、例示的直列型CH3ドメインは、配列番号2のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも70%、80%、90%、95%若しくは98%同一の配列を含む。
【0020】
一態様において、天然CH3ドメインを含む単量体Fcドメイン(即ち、機能性CH3二量体化界面を維持しているもの)を含むポリペプチドが提供される。一態様において、このポリペプチドは単量体ポリペプチドである。一態様において、このポリペプチドは、単量体Fcドメインを含む多量体ポリペプチドである。一実施形態において、直列型CH3ドメインは、さらなるCH3−CH3二量体化能(即ちポリペプチドの別のCH3ドメインとの二量体化能)を有しない。
【0021】
任意の実施形態の一態様において、直列型CH3ドメインを含む単離単鎖ポリペプチドが提供される。また、単量体Fcドメイン分子又は直列型CH3ドメインを含む融合タンパク質など、直列型CH3ドメインを含む単鎖Fcドメイン分子も提供される。一実施形態において、Fcドメイン分子は、Fcドメインに融合した可溶性ポリペプチドを含む。一実施形態において、Fcドメイン分子は、任意選択によりアミノ酸残基の介在配列(例えばリンカー、タンパク質ドメイン等)を介してFcドメインに融合した細胞表面受容体の細胞外ドメイン(ECD)を含む。Fc融合ポリペプチドの一例は、N末端(左)からC末端(右)に、ドメイン配置:
(ECD)−CH2−CH3−リンカー−CH3
を含むポリペプチドである。
【0022】
一実施形態において、融合タンパク質は単量体又は多量体抗体由来ポリペプチドである。これらの分子は、Fcドメイン又はCH3ドメインのN末端又はC末端に融合したさらなるポリペプチドを含む。一部の非限定的な例では、異種タンパク質は、目的のタンパク質(以下のドメイン配置において(P)として示される)、抗原結合ドメイン(ABD)、免疫グロブリン可変ドメイン、サイトカイン、又は受容体ポリペプチドである。タンパク質(P)は、アミノ酸残基、例えば1〜20、20〜50、10〜100、1〜200、1〜500、又は20〜500アミノ酸残基の任意の所望の配列であってよい。直列型CH3ドメインは、以下のドメイン配置の1つを有するポリペプチド鎖に含まれることができ、このポリペプチド鎖は単量体のままであってもよく、又はさらなるポリペプチド鎖と結合して、単量体Fcドメインを含む多量体ポリペプチドを形成してもよい:
(P)−CH2−CH3−リンカー−CH3、
(ABD)−CH2−CH3−リンカー−CH3、
又は
(scFv)−CH2−CH3−リンカー−CH3。
【0023】
必要に応じて、Fcドメイン又はCH3ドメインのN末端及びC末端の両方に異種ポリペプチドを融合させることができ、例えば直列型CH3ドメインは、第1及び第2の目的のタンパク質(以下のドメイン配置において(P及びP)として示される)と共に、例示的ドメイン配置:
(P)−CH2−CH3−リンカー−CH3−(P
に従いポリペプチド鎖に含まれることができる。
【0024】
単量体Fcドメインを含む多量体抗体由来ポリペプチドの例には、以下のドメイン配置を含むポリペプチドが含まれ、ここで、ポリペプチド鎖は、CH1−CKヘテロ二量体化(CH1とCKとの間に示される連結)により、それぞれの相補的なCH1及びCKドメイン間に鎖間非共有結合、及び任意選択によりさらなるジスルフィド結合)を形成して互いに結合し得る。
【0025】
一例は以下のとおり示される:
【化1】
ここで、一方の鎖の可変領域がVHであり、且つ他方の鎖の可変領域がVLであり、VHとVLとが、目的の抗原と結合する抗原結合ドメインを形成し、及び一方の鎖のCH1又はCK定常領域がCH1であり、且つ他方の鎖のCH1又はCK定常領域がCKであり、それぞれの鎖のCH1及びCKが非共有結合(及び任意選択によりさらなるジスルフィド結合)によって結合している。各ポリペプチド鎖は、任意選択により、そのN末端及び/又はC末端に1つ以上のドメインを含み得る。一実施形態において、CH1又はCKドメインとCH2ドメインとの間にヒンジドメインが置かれる。
【0026】
タンパク質ドメイン配置の例としては、以下が挙げられる。
【化2】
【0027】
各ポリペプチド鎖は、任意選択により、そのN末端及び/又はC末端に1つ以上のドメインを含み得る。一実施形態において、CH1又はCKドメインとCH2ドメインとの間にヒンジドメインが置かれる。本明細書における任意のポリペプチドの一実施形態において、VH若しくはVKドメイン、又はCH1若しくはCK(若しくはCλ)ドメインは、ヒンジ領域を介してFcドメイン(例えば又はそのCH2ドメイン)に融合されることになる。
【0028】
抗体はまた、特に、多重特異的(例えば二重特異的)結合タンパク質としての使用にも良く適している。例えば、二重特異的タンパク質は、除去しようとする標的細胞上の第1の抗原と、免疫エフェクター細胞(例えばNK細胞及び/又はT細胞)上の第2の抗原とに結合することができ、ここで、エフェクター細胞は標的細胞、例えば癌細胞に仕向けられる。多重特異的抗体はFcRn結合を維持しているが、FcγR結合は欠いており、そのため、この多重特異的抗体は魅力的なインビボ薬力学を有するが、目的とする特定のエフェクター細胞(即ち第2の抗原を発現する細胞)に対して選択的であり、従って抗体が結合する特定のエフェクター細胞表面抗原を発現するもの以外の免疫細胞によって媒介される毒性が低下する。多重特異的ポリペプチドは、例えば、目的の抗原を発現するエフェクター細胞が、標的抗原、例えば癌抗原、ウイルス抗原等を発現する標的細胞を溶解するように仕向ける能力を有する。多重特異的抗体は、エフェクター細胞表面タンパク質と第2の抗原(標的細胞が発現する抗原)との両方に一価の様式で結合するときに特に有効である。
【0029】
一実施形態において、目的の第1の抗原に特異的に結合する第1の抗原結合ドメイン(ABD)と、目的の第2の抗原に特異的に結合する第2の抗原結合ドメイン(ABD)と、可動性リンカーによって分離されている第1及び第2のヒトCH3ドメインとを含む、第1及び第2の抗原にそれぞれ一価の様式で結合する多重特異的(例えば二重特異的)ポリペプチドが提供される。一実施形態において、可動性リンカーによって分離されている第1及び第2のヒトCH3ドメインは、第1及び第2の抗原結合ドメイン間に配置されている。一実施形態において、ヒトCH2ドメインはABDとCH3ドメインとの間に置かれる。一実施形態において、第1及び第2の抗原結合ドメインは、それぞれ免疫グロブリン可変重鎖ドメイン及び可変軽鎖ドメインを含む。一実施形態において、第1及び第2の抗原結合ドメインは、それぞれscFvである。
【0030】
例としては、以下のドメイン配置を含むポリペプチドが挙げられ、ここで、ポリペプチド鎖は、CH1−CKヘテロ二量体化(CH1とCKとの間に示される連結)により、それぞれの相補的なCH1及びCKドメイン間に鎖間非共有結合、及び任意選択によりさらなるジスルフィド結合)を形成して互いに結合し得る。
【0031】
一例は以下のとおり示される:
【化3】
ここで、2つのscFvの各々は、目的の抗原(例えば2つの異なる抗原)と結合する抗原結合ドメインを形成し、及び一方の鎖のCH1又はCK定常領域がCH1であり、且つ他方の鎖のCH1又はCK定常領域がCKであって、それぞれの鎖のCH1及びCKが非共有結合(及び任意選択によりさらなるジスルフィド結合)によって結合している。各ポリペプチド鎖は、任意選択により、そのN末端及び/又はC末端に1つ以上のドメインを含み得る。一実施形態において、CH1又はCKドメインとCH2ドメインとの間にヒンジドメインが置かれる。
【0032】
任意の多重特異的ポリペプチドの一実施形態において、各CH3ドメイン(又はその断片)は天然ヒトCH3ドメイン(又はその断片)のアミノ酸を有する。任意選択により、多重特異的ポリペプチド(及び/又はそのFcドメイン)は、例えば完全長野生型ヒトIgG1抗体と比較して、ヒトFcγ受容体との結合が低下している。一実施形態において、第1及び第2の抗原結合ドメインは、N末端からC末端に、ヒトCH2ドメイン、第1のヒトCH3ドメイン、可動性アミノ酸リンカー、及び第2のヒトCH3ドメインを含むFcドメインによって分離されている。
【0033】
任意の多重特異的ポリペプチドの一実施形態において、2つのCH3ドメインは非共有相互作用によって互いに結合している。一実施形態において、2つのCH3ドメインは各CH3ドメインのCH3二量体化界面を介して互いに結合している。一実施形態において、直列型CH3ドメインは、さらなるCH3−CH3二量体化能(即ち別のCH3ドメイン又はそれを含むポリペプチドとの二量体化能)を有しない。
【0034】
一実施形態において、多重特異的ポリペプチド(及び/又はそのFcドメイン)は、ヒト新生児Fc受容体(FcRn)との結合能を有する。
【0035】
一実施形態において、多重特異的ポリペプチドは別のFc由来ポリペプチドと二量体を形成しない(例えば別の同一のポリペプチドとホモ二量体を形成しない)。
【0036】
二重特異的ポリペプチドの一例において、直列型CH3ドメインは、以下のドメイン配置を有するポリペプチド鎖に含まれることができ、このポリペプチド鎖は単量体のままであってもよく、又はさらなるポリペプチド鎖と結合して、単量体Fcドメインを含む多量体ポリペプチドを形成してもよい。
(ABD)−CH2−CH3−リンカー−CH3−(ABD
【0037】
任意選択により、ポリペプチドは、前述のドメイン間に連結アミノ酸をさらに含む。一実施形態では、ABDとCH2との間にCH1又はCKドメイン又はその断片、ヒンジ領域又はその断片、及び/又はリンカーペプチドを置くことができる。一実施形態では、CH3とABDとの間にCH1又はCKドメイン又はその断片、ヒンジ領域又はその断片、及び/又はリンカーペプチドを置くことができる。
【0038】
単量体Fcドメインを含む多量体抗体由来二重特異的ポリペプチドの例としては、以下のドメイン配置を含むポリペプチドが挙げられ、ここで、ポリペプチド鎖は、CH1−CKヘテロ二量体化(CH1とCKとの間に示される連結)により、それぞれのヒンジドメイン間及び/又は相補的なCH1及びCKドメイン間に鎖間ジスルフィド結合を形成して互いに結合し得る。
【化4】
【0039】
本明細書における任意の実施形態の一態様において、ABD及び/又はABDは、それぞれ独立に、scFv、アフィボディ、Vドメイン、Vドメイン、V−NARドメイン又はVHドメインなどのシングルドメイン抗体(ナノボディ)を含む。任意選択により、ABD及びABDは、それぞれscFv、アフィボディ、Vドメイン、Vドメイン、又はV−NARドメイン若しくはVHドメインなどのシングルドメイン抗体(ナノボディ)を含む。任意選択により、各ABD及びABDは、それぞれヒト又はヒト化scFv、アフィボディ、Vドメイン、Vドメイン、V−NARドメイン又はVHドメインなどのシングルドメイン抗体(ナノボディ)である。
【0040】
本明細書における任意の実施形態の一態様において、ポリペプチドは、C末端及び/又はN末端に追加のタンパク質ドメイン、例えばさらなるABD、可変ドメイン、scFv等をさらに含んでもよい(又は含まなくてもよい)。
【0041】
一実施形態において、ポリペプチド(及び/又はそのFcドメイン)は、例えば完全長野生型ヒトIgG1抗体と比較して、ヒトFcγ受容体(例えばCD16、CD32A、CD32B及び/又はCD64)との(即ちそのFcドメインを介した)結合が低下している。一実施形態において、ポリペプチドは、例えばヒトIgG1アイソタイプの野生型Fcドメインを有する同じポリペプチドと比較して、ポリペプチドの抗原結合ドメインが結合する目的の抗原を発現しない免疫エフェクター細胞によって媒介されるとき(即ち抗原結合ドメインが結合する目的の抗原を発現する細胞の非存在下で)、抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、FcR媒介細胞活性化(例えばFcR架橋結合によるサイトカイン放出)、及び/又はFcR媒介血小板活性化/枯渇が低下している(例えばそれが部分的又は完全に欠損している)。
【0042】
抗原結合ドメインは、存在する場合、抗体重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインを含んでもよく、任意選択により第1の抗原結合ドメインはscFvを含む。
【0043】
一実施形態において、第1又は第2の抗原結合ドメインは、存在する場合、それぞれ独立に抗体重鎖可変ドメイン及び軽鎖可変ドメインを含み、任意選択により第1の抗原結合ドメインはscFvを含む。
【0044】
一実施形態において、直列型CH3ドメインは、溶液中における別のFc由来ポリペプチドとのCH3−CH3二量体の形成能を実質的に有しない。例えば、直列型CH3ドメインは別の同一のポリペプチドと二量体を形成せず、又は野生型ヒトIgG重鎖と二量体を形成しない。
【0045】
一実施形態において、CH2ドメインは、野生型CH2ドメインと比較してヒトFcγ受容体との結合を低下させるアミノ酸改変を含む。一実施形態において、Fcポリペプチドは残基N297にN結合型グリコシル化を含む。一実施形態において、Fcポリペプチドは残基N297にN結合型グリコシル化を欠いているか、又は改変されたN結合型グリコシル化を有する。一実施形態において、FcポリペプチドはN297X突然変異(EU付番)を含み、ここで、Xはアスパラギン以外の任意のアミノ酸である。
【0046】
本明細書における実施形態のいずれかの一態様において、ポリペプチドは、癌抗原に結合する第1の抗原結合ドメインと、免疫エフェクター細胞によって発現される抗原に結合する第2の抗原結合ドメインとを含む二重特異的ポリペプチドであり、ここで、このタンパク質は癌抗原(又はウイルス抗原又は細菌抗原)に対し、免疫エフェクター細胞によって発現される抗原に対するよりも高い結合親和性(一価)を有する。かかるポリペプチドは有利な薬理学的特性をもたらし得る。このポリペプチドは、標的抗原に対するアビディティが高く且つFc受容体に対する親和性が低い天然抗体を(より良好な特異性を有するにも関わらず)より綿密に模倣し得る。本発明の実施形態のいずれかの一態様において、ポリペプチドは、免疫エフェクター細胞によって発現される抗原に対する結合(一価)について、10−6M未満、任意選択により10−7M未満、任意選択により10−8M未満、又は任意選択により10−9M未満のKdを有する。本発明の実施形態のいずれかの一態様において、ポリペプチドは、免疫エフェクター細胞によって発現される抗原に対する結合(一価)について、10−7M未満、任意選択により10−8M未満、任意選択により10−9M未満、又は任意選択により10−10M未満のKdを有する。一実施形態において、ポリペプチドは、癌抗原、ウイルス抗原又は細菌抗原に対する結合(一価)について、免疫エフェクター細胞によって発現される抗原に対する結合(一価)のKd未満のKdを有する(即ちそれより良好な結合親和性を有する)。例えば、ポリペプチドは、癌抗原、ウイルス抗原又は細菌抗原に対する結合(一価)について、免疫エフェクター細胞によって発現される抗原に対する結合(一価)のKdよりも少なくとも5倍低い、任意選択により少なくとも10倍低いKdを有する。
【0047】
本明細書におけるポリペプチドのいずれかの一実施形態において、多重特異的ポリペプチドは、第1又は第2の目的の抗原の一方を発現するエフェクター細胞(例えばT細胞、NK細胞)が前記第1又は第2の目的の抗原の他方を発現する標的細胞(例えば癌細胞)を溶解するように仕向ける能力を有する。
【0048】
本明細書における実施形態のいずれかの一態様において、本開示のタンパク質のいずれかのポリペプチド鎖をコードする組換え核酸が提供される。本明細書における実施形態のいずれかの一態様において、本開示のタンパク質のいずれかのポリペプチド鎖をコードする核酸を含む組換え宿主細胞が提供され、任意選択により、この宿主細胞は本開示のタンパク質を少なくとも1、2、3又は4mg/Lの収率(精製後の最終産生率)で産生する。また、本開示の第1のポリペプチド鎖をコードする組換え核酸、本開示の第2のポリペプチド鎖をコードする組換え核酸、及び任意選択により、本開示の第3、第4及び/又は第5のポリペプチド鎖をコードする組換え核酸を含む核酸のキット又はセットも提供される。また、本開示の単量体又は多量体タンパク質の作製方法も提供される。
【0049】
一実施形態において、本発明は、タンパク質(例えば任意のヘテロ二量体、三量体、四量体又は五量体タンパク質)の作製方法を提供し、この方法は、
a)本明細書に記載されるとおりの直列型CH3ドメインを含むポリペプチド鎖をコードする第1の核酸を用意するステップ、
b)任意選択により、本明細書に記載されるさらなるポリペプチド鎖(例えば非共有結合性及び/又は共有結合性の相互作用によって(a)の鎖と結合する鎖)をコードするさらなる核酸を用意するステップ、及び
c)前記第1の(及び任意選択によりさらなる)核酸を宿主細胞で発現させて、それぞれ前記第1の(及び任意選択によりさらなる)ポリペプチド鎖を含むタンパク質を産生し、且つ単量体(又は任意選択によりヘテロ二量体、ヘテロ三量体、ヘテロ四量体又は五量体)タンパク質を回収するステップ
を含む。任意選択により、ステップ(c)は、産生されたタンパク質を、アフィニティー精製支持体、任意選択によりアフィニティー交換カラム、任意選択によりプロテインA支持体又はカラムにローディングし、且つヘテロ二量体タンパク質を収集するステップ;及び/又は産生されたタンパク質(例えば、アフィニティー交換又はプロテインAカラムにローディングした後に収集されたタンパク質)をイオン交換カラムにローディングし、且つ単量体(又は任意選択によりヘテロ二量体、ヘテロ三量体、ヘテロ四量体又は五量体)画分を収集するステップを含む。
【0050】
本明細書におけるタンパク質のいずれかの一実施形態において、本明細書に記載される直列型CH3ドメイン含有タンパク質を複数含む組成物が提供され、ここで、直列型CH3ドメイン含有タンパク質の少なくとも70%、80%、90%、95%又は98%は単量体Fcドメインを有する(第2のポリペプチドとの二量体化時に二量体Fcドメインを有しない)。一実施形態において、直列型CH3ドメイン含有タンパク質の少なくとも70%、80%、90%、95%又は98%は単量体(即ち単鎖ポリペプチド)である。一実施形態において、直列型CH3ドメイン含有タンパク質の少なくとも70%、80%、90%、95%又は98%は二量体である。一実施形態において、直列型CH3ドメイン含有タンパク質の少なくとも70%、80%、90%、95%又は98%は三量体である。一実施形態において、直列型CH3ドメイン含有タンパク質の少なくとも70%、80%、90%、95%又は98%は四量体である。
【0051】
これらの方法のいずれも、特に「発明の詳細な説明」にあるものを含めて本出願に記載される任意のステップを含むものとしてさらに特徴付けることができる。本発明はさらに、本方法のいずれかによって得ることのできる抗体に関する。本開示はさらに、本発明の抗体の医薬製剤又は診断用製剤に関する。本開示はさらに、治療又は診断方法における抗体の使用方法に関する。
【0052】
本発明の以上の及びさらなる有利な態様及び特徴が本明細書の他の部分にさらに記載され得る。
【図面の簡単な説明】
【0053】
図1A-1C】直列型CH3ドメインを含む単量体Fcドメインを含む単量体多重特異的ポリペプチドの例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0054】
定義
本明細書で使用される「1つの(a)」又は「1つの(an)」は1つ以上を意味し得る。請求項において「含む(comprising)」という語と共に使用される場合、「1つの(a)」又は「1つの(an)」という語は1つ又は2つ以上を意味し得る。
【0055】
「含む(comprising)」が使用される場合、これは、任意選択により「本質的に〜からなる(essentially consisting of)」で置き換えることができ、さらに任意選択により「〜からなる(consisting of)」に置き換えることができる。
【0056】
本明細書で使用される「抗原結合ドメイン」という語は、エピトープに免疫特異的に結合することができる3次元構造を含むドメインを指す。従って、一実施形態では、前記ドメインは、超可変領域、任意選択により抗体鎖のVH及び/又はVLドメイン、任意選択により少なくとも1つのVHドメインを含み得る。別の実施形態では、結合ドメインは、抗体鎖の少なくとも1つの相補性決定領域(CDR)を含み得る。別の実施形態では、結合ドメインは、非免疫グロブリン足場からのポリペプチドドメインを含み得る。
【0057】
本明細書の「抗体」という語は、広い意味で使用され、特に、完全長モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異的抗体(例えば、二重特異的抗体)、並びに抗体断片及び誘導体(但し、所望の生物学的活性を示すものに限られる)を含む。抗体の作製に適切な様々な技術が、例えば、Harlow,et al.,ANTIBODIES:A LABORATORY MANUAL,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,(1988)に示されている。「抗体断片」は、完全長抗体、例えば、その抗原結合領域又は可変領域の一部を含む。抗体断片の例としては、Fab、Fab’、F(ab)、F(ab’)、F(ab)、Fv(典型的には、抗体の単一アームのVL及びVHドメイン)、一本鎖Fv(scFv)、dsFv、Fd断片(典型的には、VH及びCH1ドメイン)、及びdAb(典型的には、VHドメイン)断片;VH、VL、VhH、及びV−NARドメイン;ミニボディ、ダイアボディ、トリアボディ、テトラボディ、及びカッパボディ(例えば、Ill et al.,Protein Eng 1997;10:949−57を参照されたい);ラクダIgG;IgNAR;並びに抗体断片から形成された多重特異的抗体断片、及び1つ以上の単離されたCDR又は機能的パラトープが挙げられ、単離されたCDR又は抗原結合残基若しくはポリペプチドは、機能的抗体断片を形成するように1つに結合又は連結され得る。様々なタイプの抗体断片が、例えば、Holliger and Hudson,Nat Biotechnol 2005;23,1126−1136;国際公開第2005040219号パンフレット、及び米国特許出願公開第20050238646号明細書及び同第20020161201号明細書に記載され、再考察されている。
【0058】
本明細書で使用される「抗体誘導体」という語は、完全長抗体、又は例えばその少なくとも抗原結合領域又は可変領域を含む抗体の断片を含み、1つ以上のアミノ酸が、例えば、アルキル化、PEG化、アシル化、エステル形成、又はアミド形成などによって化学修飾されている。これは、限定されるものではないが、PEG化抗体、システイン−PEG化抗体、及びこれらの変異体を含む。
【0059】
「超可変領域」という語は、本明細書で使用される場合、抗原結合に関与する抗体のアミノ酸残基を指す。超可変領域は、一般に、「相補性決定領域」又は「CDR」のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基24−34(L1)、50−56(L2)、及び89−97(L3)並びに重鎖可変ドメインの残基31−35(H1)、50−65(H2)、及び95−102(H3);Kabat et al.1991)、及び/又は「超可変ループ」のアミノ酸残基(例えば、軽鎖可変ドメインの残基26−32(L1)、50−52(L2)、及び91−96(L3)及び重鎖可変ドメインの残基26−32(H1)、53−55(H2)、及び96−101(H3);Chothia and Lesk,J.Mol.Biol 1987;196:901−917)を含む。典型的には、この領域のアミノ酸残基の付番は、前出のKabatらに記載の方法によって行われる。本明細書の「Kabat位置」、「Kabatと同様の可変ドメイン残基の付番」、及び「Kabatによる」などの句は、重鎖可変ドメイン又は軽鎖可変ドメインについてのこの付番方式を指す。Kabat付番方式を用いると、ペプチドの実際の線形アミノ酸配列は、可変ドメインのFR又はCDRの短縮又はFR又はCDRへの挿入に一致するより少ない又は追加のアミノ酸を含み得る。例えば、重鎖可変ドメインは、CDR H2の残基52の後の単一アミノ酸挿入(Kabatによる残基52a)及び重鎖FR残基82の後の挿入残基(例えば、Kabatによる残基82a、82b、及び82cなど)を含み得る。残基のKabat付番は、抗体の配列の相同領域と「基準」Kabat付番配列とのアラインメントによって所与の抗体について決定することができる。
【0060】
本明細書で使用される「フレームワーク」又は「FR」残基とは、CDRとして定義される部分を除く抗体可変ドメインの領域のことである。各抗体可変ドメインフレームワークは、CDRによって分離された連続した領域にさらに細分することができる(FR1、FR2、FR3、及びFR4)。
【0061】
本明細書で定義される「定常領域」とは、軽鎖又は重鎖免疫グロブリン定常領域遺伝子の1つによってコードされる抗体由来定常領域のことである。本明細書で使用される「定常軽鎖」又は「軽鎖定常領域」とは、κ(Cκ)又はλ(Cλ)軽鎖によってコードされる抗体の領域のことである。定常軽鎖は、典型的には、単一ドメインを含み、且つ本明細書で定義されるように、Cκの108〜214位、又はCλを指し、付番は、EUインデックスによる((Kabat et al.,1991,Sequences of Proteins of Immunological Interest,5th Ed.,United States Public Health Service,National Institutes of Health,Bethesda)。本明細書で使用される「定常重鎖」又は「重鎖定常領域」とは、μ、δ、γ、α、又はε遺伝子によってそれぞれコードされてIgM、IgD、IgG、IgA、又はIgEとして抗体のアイソタイプを確定する抗体の領域のことである。完全長IgG抗体では、本明細書で定義される定常重鎖は、CH1ドメインのN末端からCH3ドメインのC末端までを指し、従って118〜447位を含み、付番は、EUインデックスによる。
【0062】
本明細書で使用される「Fab」又は「Fab領域」とは、VH、CH1、VL、及びCL免疫グロブリンドメインを含むポリペプチドのことである。Fabは、分離されたこの領域、又はポリペプチド、多重特異的ポリペプチド、若しくはABD、又は本明細書で概説されたその他の実施形態との関連でのこの領域を指し得る。
【0063】
本明細書で使用される「一本鎖Fv」又は「scFv」とは、抗体のVH及びVLドメインを含む抗体断片のことであり、これらのドメインは、単一ポリペプチド鎖に存在する。一般に、Fvポリペプチドは、scFvが、抗原結合のための所望の構造を形成できるようにする、VHドメインとVLドメインとの間のポリペプチドリンカーをさらに含む。scFvを作製する方法は当技術分野で周知である。scFvを作製する方法の再考察については、Pluckthun in The Pharmacology of Monoclonal Antibodies,vol.113,Rosenburg and Moore eds.Springer−Verlag,New York,pp.269−315(1994)を参照されたい。
【0064】
本明細書で使用される「Fv」、又は「Fv断片」、又は「Fv領域」とは、単一抗体のVL及びVHドメインを含むポリペプチドのことである。
【0065】
本明細書で使用される「Fc」又は「Fc領域」とは、第1の定常領域免疫グロブリンドメインを除く、抗体の定常領域を含むポリペプチドのことである。従って、Fcは、IgA、IgD、及びIgGの最後の2つの定常領域免疫グロブリンドメイン、並びにIgE及びIgMの最後の3つの定常領域免疫グロブリンドメイン、並びに可撓性ヒンジN末端からこれらのドメインまでを指す。IgA及びIgMでは、FcはJ鎖を含み得る。IgGでは、Fcは、免疫グロブリンドメインCγ2(CH2)及びCγ3(CH3)、並びにCγ1とCγ2との間のヒンジを含む。Fc領域の境界は変動し得るが、ヒトIgG重鎖Fc領域は、通常、残基C226、P230、又はA231からそのカルボキシ末端までを含むように定義され、この付番はEUインデックスによる。Fcは、以下に記載される、分離されたこの領域、又はFcポリペプチドとの関連でのこの領域を指し得る。本明細書で使用される「Fcポリペプチド」又は「Fc由来ポリペプチド」とは、Fc領域の全て又は一部を含むポリペプチドのことである。Fcポリペプチドは、限定されるものではないが、抗体、Fc融合体、及びFc断片を含む。
【0066】
IgGの「ヒンジ」、「ヒンジ領域」又は「ヒンジドメイン」は、概して、Kabat方式によるヒトIgG1のGlu216を含み、且つPro230で終わるものとして定義されるが、機能的には、鎖の可動性部分は、Glu216〜Gly237など、上部及び下部ヒンジ領域と呼ばれる追加の残基を含むものと見なすことができ(Roux et al.,1998 J Immunol 161:4083)、下部ヒンジはFc領域の残基233〜239と称されている。本明細書で使用されるとき、「ヒンジ」は上部及び下部ヒンジ領域を包含する。他のIgGアイソタイプのヒンジ領域は、重鎖間S−S結合を形成する最初及び最後のシステイン残基を置くことにより、IgG1配列と整列させることができる。Kabat方式により付番したとき境界は少し変わり得るが、CH1ドメインはVHドメインに隣接して、免疫グロブリン重鎖分子のヒンジ領域よりアミノ末端側にあり、且つ例えばおよそEU位置118〜215からの、免疫グロブリン重鎖の第1の(最もアミノ末端側の)定常領域ドメインを含む。Fcドメインはアミノ酸231〜アミノ酸447に延在し;CH2ドメインはおよそAla231〜Lys340又はGly341にあり、及びCH3はおよそGly341又はGln342〜Lys447にある。CH1領域のIgG重鎖定常領域の残基はLysで終わる。当該技術分野では従来EU付番方式が用いられる(概して、Kabat et al,Sequences of Protein of Immunological Interest,NIH Publication No.91−3242,米国保健社会福祉省(US Department of Health and Human Services)(1991)を参照されたい)。
【0067】
本明細書で使用される「可変領域」とは、それぞれ軽鎖(κ及びλを含む)免疫グロブリン遺伝子座及び重鎖免疫グロブリン遺伝子座を構成するVL(Vκ及びVλを含む)遺伝子及び/又はVH遺伝子のいずれかによって実質的にコードされる1つ以上のIgドメインを含む抗体の領域のことである。軽鎖可変領域又は重鎖可変領域(VL及びVH)は、「相補性決定領域」又は「CDR」と呼ばれる3つの超可変領域によって中断された「フレームワーク」又は「FR」領域からなる。フレームワーク領域及びCDRとの関連では、例えば、Kabatと同様に(“Sequences of Proteins of Immunological Interest,” E.Kabat et al.,U.S.Department of Health and Human Services,(1983)を参照されたい)、及びChothiaと同様に正確に定義されている。抗体のフレームワーク領域、即ち、構成軽鎖及び構成重鎖の組み合わせフレームワーク領域は、CDRを配置して整列させる役割を果たし、CDRは抗原への結合に主に関与する。
【0068】
「特異的に結合する」という語は、抗体又はポリペプチドを、タンパク質の組換え形態、その中のエピトープ、又は単離された標的細胞の表面に存在するナイーブタンパク質のいずれかを用いて評価される、好ましくは競合的結合アッセイでの結合パートナー、例えば、NKp46に結合できることを意味する。競合的結合アッセイ及び特異的結合を決定する他の方法は、以下にさらに記載され、当技術分野で周知である。
【0069】
本明細書で使用される「親和性」という語は、抗体又はポリペプチドのエピトープへの結合の強さを指す。抗体の親和性は、[Ab]×[Ag]/[Ab−Ag]として定義される解離定数Kによって示され、[Ab−Ag]は抗体−抗原複合体のモル濃度であり、[Ab]は非結合抗体のモル濃度であり、及び[Ag]は非結合抗原のモル濃度である。親和定数Kは1/Kによって定義される。mAbの親和性の決定に好ましい方法は、参照によりその全内容が本明細書に組み入れられるHarlow,et al.,Antibodies:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,N.Y.,1988),Coligan et al.,eds.,Current Protocols in Immunology,Greene Publishing Assoc.and Wiley Interscience,N.Y.,(1992,1993)、及びMuller,Meth.Enzymol.92:589−601(1983)に記載されている。mAbの親和性を決定するための当技術分野で周知の1つの好ましい標準的な方法では、(例えば、BIAcore(商標)SPR分析装置での分析によって)表面プラズモン共鳴(SPR)スクリーニングを使用する。
【0070】
本明細書の「アミノ酸改変」とは、ポリペプチド配列におけるアミノ酸の置換、挿入、及び/又は欠失のことである。本明細書のアミノ酸改変の一例は置換である。本明細書の「アミノ酸改変」とは、ポリペプチド配列におけるアミノ酸の置換、挿入、及び/又は欠失のことである。本明細書の「アミノ酸置換」又は「置換」とは、タンパク質配列の所与の位置のアミノ酸の別のアミノ酸での置換のことである。例えば、置換Y50Wは、親ペプチドの変異体を指し、50位のチロシンがトリプトファンで置換されている。ポリペプチドの「変異体」は、基準ポリペプチド、典型的にはナイーブ又は「親」ポリペプチドと実質的に同一であるアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。ポリペプチド変異体は、ナイーブアミノ酸配列内の特定の位置に1つ以上のアミノ酸の置換、欠失、及び/又は挿入を有し得る。
【0071】
「保存的な」アミノ酸置換は、アミノ酸残基が、同様の物理化学的特性を有する側鎖を有するアミノ酸残基で置換されるアミノ酸置換である。同様の側鎖を有するアミノ酸残基のファミリーは、当技術分野で公知であり、塩基性側鎖(例えば、リジン、アルギニン、ヒスチジン)、酸性側鎖(例えば、アスパラギン酸、グルタミン酸)、無電荷極性側鎖(例えば、グリシン、アスパラギン、グルタミン、セリン、トレオニン、チロシン、システイン、トリプトファン)、非極性側鎖(例えば、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、プロリン、フェニルアラニン、メチオニン)、β分岐側鎖(例えば、トレオニン、バリン、イソロイシン)、及び芳香族側鎖(例えば、チロシン、フェニルアラニン、トリプトファン、ヒスチジン)を有するアミノ酸を含む。
【0072】
2つ以上のポリペプチドの配列間の関係で使用される「同一性」又は「同一の」という語は、2つ以上のアミノ酸残基のストリング間の一致の数によって決定される、ポリペプチド間の配列関連性の程度を指す。「同一性」は、特定の計算モデル又はコンピュータープログラム(即ち、「アルゴリズム」)によって行われる、(存在する場合)ギャップアライメントを用いた同様の2つ以上の配列間の完全な一致のパーセントを示す。関連ポリペプチド間の同一性は、公知の方法によって容易に計算することができる。このような方法としては、限定されるものではないが、Computational Molecular Biology,Lesk,A.M.,ed.,Oxford University Press,New York,1988;Biocomputing:Informatics and Genome Projects,Smith,D.W.,ed.,Academic Press,New York,1993;Computer Analysis of Sequence Data,Part 1,Griffin,A.M.,and Griffin,H.G.,eds.,Humana Press,New Jersey,1994;Sequence Analysis in Molecular Biology,von Heinje,G.,Academic Press,1987;Sequence Analysis Primer,Gribskov,M.and Devereux,J.,eds.,M.Stockton Press,New York,1991;and Carillo et al.,SIAM J.Applied Math.48,1073(1988)に記載の方法が挙げられる。
【0073】
同一性を決定するための好ましい方法は、試験される配列間の最大の一致を得るように設計されている。同一性を決定する方法は、公表されているコンピュータープログラムに記載されている。2つの配列間の同一性を決定するための好ましいコンピュータープログラム方法は、GAP(Devereux et al.,Nucl.Acid.Res.12,387(1984);Genetics Computer Group,University of Wisconsin,Madison,Wis.)、BLASTP、BLASTN、及びFASTA(Altschul et al.,J.Mol.Biol.215,403−410(1990))を含め、GCGプログラムパッケージを含む。BLASTXプログラムは、全米バイオテクノロジー情報センター(NCBI)及び他の情報源(BLAST Manual,Altschul et al.NCB/NLM/NIH Bethesda,Md.20894;Altschul et al.,前出)から公表されている。周知のSmith Watermanアルゴリズムも同一性の決定に使用することができる。
【0074】
「単離された」分子は、組成物中の主な種である分子であり、この組成物中では、この分子は、この分子が属する分子のクラスに対して見出される(即ち、単離された分子は、組成物中の分子のタイプの少なくとも約50%を構成し、典型的には、組成物中の分子、例えば、ペプチドの種の少なくとも約70%、少なくとも約80%、少なくとも約85%、少なくとも約90%、又は少なくとも約95%以上を構成する)。通常、ポリペプチドの組成は、組成物中に存在する全てのペプチド種との関連でのポリペプチドに対して、又は少なくとも提案される使用との関連での実質的に活性なペプチド種に対して98%、98%、又は99%の均一性を示す。
【0075】
本明細書に関連して、「処置」又は「処置する」は、反対の旨の記載がない限り、疾患又は障害の1つ以上の症状又は臨床的に関連する兆候を予防すること、緩和すること、管理すること、治癒すること、又は軽減することを指す。例えば、疾患又は障害の症状又は臨床的に関連する兆候が確認されていない患者の「処置」は、防止又は予防療法であり、疾患又は障害の症状又は臨床的に関連する兆候が確認された患者の「処置」は、一般に、防止又は予防療法とはならない。
【0076】
本明細書で使用される「NK細胞」は、従来にない免疫に関与するリンパ球の亜集団を指す。NK細胞は、特定の特徴及び生物学的特性、例えば、ヒトNK細胞のCD56及び/又はNKp46を含む特定の表面抗原の発現、細胞表面のα/β又はγ/δTCR複合体の非存在、特定の細胞溶解装置の活性化によって「自己」MHC/HLA抗原を発現することができない細胞に結合してその細胞を殺す能力、NK活性化受容体のリガンドを発現する腫瘍細胞又は他の異常細胞を殺す能力、及び免疫応答を刺激又は抑制するサイトカインと呼ばれるタンパク質分子を放出する能力によって特定することができる。これらの特徴及び活性のいずれかを用いて、当技術分野で周知の方法でNK細胞を特定することができる。NK細胞のいかなる亜集団もNK細胞という語に包含される。本明細書に関連して、「活性な」NK細胞は、標的細胞を溶解する又は他の細胞の免疫機能を促進する能力を有するNK細胞を含む生物学的に活性なNK細胞を指す。例えば、「活性」NK細胞は、活性化NK受容体に対するリガンドを発現する細胞及び/又はNK細胞上のKIRによって認識されるMHC/HLA抗原を発現できない細胞を死滅させることが可能であり得る。NK細胞は、当技術分野で公知の様々な技術、例えば、血液サンプルからの単離、細胞吸着除去療法、組織又は細胞の収集などによって得ることができる。NK細胞を伴うアッセイの有用なプロトコルは、Natural Killer Cells Protocols(edited by Campbell KS and Colonna M).Human Press.pp.219−238(2000)に記載されている。
【0077】
本明細書で使用されるとき、「T細胞」は、胸腺で成熟する、且つ数ある分子の中でも特にT細胞受容体をその表面上に提示する一部のリンパ球集団を指す。T細胞は、TCR、CD4又はCD8を含めた特定の表面抗原の発現、ある種のT細胞が腫瘍又は感染細胞を死滅させる能力、ある種のT細胞が免疫系の他の細胞を活性化させる能力、及び免疫応答を刺激又は阻害するサイトカインと呼ばれるタンパク質分子を放出する能力など、ある種の特徴及び生物学的特性のために同定することができる。当該技術分野において周知の方法を用いたT細胞の同定に、これらの特徴及び活性のいずれを用いることもできる。本明細書に関連して、「活性な」又は「活性化した」T細胞は、生物学的に活性なT細胞、より詳細には細胞溶解能又は例えばサイトカインの分泌による免疫応答の刺激能を有するT細胞を指す。活性細胞は、機能アッセイ及びTNF−αなどのサイトカインの発現など、発現ベースのアッセイを含めた幾つもの周知の方法の任意のもので検出することができる。
【0078】
ポリペプチド産生
本明細書の発明は、直列型CH3ドメイン及び直列型CH3ドメインを含むポリペプチドに関する。直列型CH3ドメインは単一のポリペプチド鎖内に構成することができ、従って2つのCH3ドメインはCH3−CH3二量体を形成することによって相互作用する。かかるCH3ドメインは、従って、他のCH3ドメイン含有ポリペプチド、特にFcドメイン含有ポリペプチドとのさらなる二量体化には利用できない。目的とする任意のアミノ酸配列、ポリペプチドドメイン又はポリペプチド、例えば「親」、「出発」又は「非変異」ポリペプチドを出発点として、又は当該技術分野でポリペプチドの作成に利用可能な技術を用いて直列型CH3ドメイン含有ポリペプチドに組み込むアミノ酸配列の供給源として使用することができる。直列型CH3ドメイン含有ポリペプチドは、例えば、CH3ドメインに連結したCH2ドメインを含むヒトFc領域を含むことができ、ここで、このCH3ドメインは直列型CH3ドメインのうちの一方である。
【0079】
親ポリペプチドは、Fc領域を含む任意のポリペプチド、例えばFcドメイン(例えば二量体Fcドメイン)を含むFc融合タンパク質であってもよい。本明細書の例は、Fcドメイン及び抗体由来の抗原結合ドメイン(例えば可変ドメイン)を含む。
【0080】
Fcドメインは、目的とする任意のタンパク質の半減期を延長させ、又はその他、Fcドメインによって付与される所望の機能性、例えば二次試薬による認識、精製用の固体支持体に対する結合等をもたらすのに有用であり得る。従って、Fcドメイン分子は任意の異種ポリペプチドを含み得る。融合パートナーは、酵素、検出可能分子、細胞表面受容体との相互作用時に活性化するリガンド、攻撃病原体に対するペプチド抗原(Ag)又はタンパク質マイクロアレイにおいてアセンブルされた結合パートナーを同定するための「ベイト」タンパク質など、目的とする任意の他のタンパク質性分子であり得る。
【0081】
タンパク質の例としては、標識、受容体、成長因子、リガンド、酵素、エリスロポエチン、ケモカイン、非免疫グロブリン足場由来の抗原結合ドメイン、治療用タンパク質及びホルモンが挙げられる。一部の非限定的な例では、異種タンパク質は、ヒトインターフェロン、エリスロポエチン(EPO)、可溶性腫瘍壊死因子受容体、CTLA−4、可溶性インターロイキン(IL)−4受容体、又は第IX因子である。単量体Fcドメインを含む単量体又は多量体タンパク質として使用し、且つ直列型CH3ドメインの組み込みによって改変することのできるFcドメイン含有分子の例としては、ヒトIgG1のFcに融合したCTLA−4(Nulojix(ベラタセプト)、臓器拒絶反応の治療用);ヒトIgG1のFcに融合したVEGFR1/VEGFR2(Eylea(アフリベルセプト)、加齢黄斑変性症の治療用);ヒトIgG1のFcに融合したIL−1R(Arcalyst(リロナセプト)、クリオピリン関連周期性症候群の治療用);ヒトIgG1のFcに融合したトロンボポエチン結合ペプチド(NPlate(ロミプロスチム)、慢性免疫性血小板減少性紫斑病患者における血小板減少症の治療用);ヒトIgG1のFcに融合した変異型CTLA−4(Orencia(アバタセプト)、関節リウマチの治療用);ヒトIgG1のFcに融合したLFA−3(Amevive(アレファセプト)、乾癬及び移植片拒絶反応の治療用);及びヒトIgG1のFcに融合したTNFR(Enbrel(エタネルセプト)、関節リウマチの治療用)が挙げられる。
【0082】
抗体であるFcポリペプチドを作成する例示的方法について、以下の節にさらに詳細に記載する。本明細書に記載されるポリペプチドに使用される抗原結合ドメインは、種々の免疫グロブリン又は非免疫グロブリン足場、例えばブドウ球菌プロテインAのZドメインをベースとしたアフィボディ、エンジニアリングされたKunitzドメイン、ヒトフィブロネクチンIIIの10番目の細胞外ドメインをベースとしたモノボディ又はアドネクチン、リポカリンに由来するアンチカリン、DARPin(設計されたアンキリンリピートドメイン、多量体化LDLR−Aモジュール、アビマー又はシステインリッチknottinペプチドから容易に得ることができる。例えば、Gebauer and Skerra(2009)Current Opinion in Chemical Biology 13:245−255(この開示は参照により本明細書に組み入れられる)を参照されたい。
【0083】
抗原結合ドメインは、通常、抗体(免疫グロブリン鎖)に由来し、例えば、2つのポリペプチド鎖に存在する結合したVL及びVHドメイン、又は一本鎖抗原結合ドメイン、例えば、scFv、Vドメイン、Vドメイン、dAb、V−NARドメイン、又はVHドメインの形態である。抗原結合ドメイン(例えば、ABD及びABD)はまた、Fabのような抗体から容易に得ることができる。
【0084】
典型的には、抗体は、最初は、抗体(例えば、ヒトポリペプチド)を得るのに望ましいポリペプチド、又は典型的には免疫原性断片であるその断片若しくは誘導体を含む免疫原を用いて、非ヒト動物、例えば、マウスの免疫によって得られる。非ヒト哺乳動物を抗原で免疫するステップは、マウスの抗体の産生を刺激するための当技術分野で周知の任意の方式で行うことができる(例えば、参照によりその全開示内容が本明細書に組み入れられるE.Harlow and D.Lane,Antibodies:A Laboratory Manual.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,Cold Spring Harbor,NY(1988)を参照されたい)。
【0085】
ヒト抗体は、ヒト抗体レパートリーを発現するようにエンジニアリングされたトランスジェニック動物(Jakobovitz et Nature 362(1993)255)を免疫に用いることによって、又はファージ提示法を用いる抗体レパートリーの選択によって産生することもできる。例えば、XenoMouse(Abgenix,Fremont,CA)を免疫に使用することができる。XenoMouseは、その免疫グロブリン遺伝子が機能的なヒト免疫グロブリン遺伝子によって置き換えられたマウス宿主である。従って、このマウスによって、又はこのマウスのB細胞から産生されたハイブリドーマで産生される抗体は既にヒト化されている。XenoMouseは、参照によりその内容が本明細書に組み入れられる米国特許第6,162,963号明細書に記載されている。
【0086】
抗体はまた、例えば、(参照によりその全開示内容が本明細書に組み入れられるWard et al.Nature,341(1989)p.544)に開示されているように、免疫グロブリンの組み合わせライブラリーの選択によって産生することもできる。ファージ提示法(McCafferty et al(1990)Nature 348:552−553)を用いて、非免疫ドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから抗体を産生することができる。例えば、Griffith et al(1993)EMBO J.12:725−734;米国特許第5565332号明細書;同第5573905号明細書;同第5567610号明細書;同第5229275号明細書)を参照されたい。組み合わせライブラリーが、ヒト起源の可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーを含む場合、組み合わせライブラリーからの選択により、ヒト抗体が得られる。
【0087】
加えて、広範囲の抗体が、DNA及び/又はアミノ酸配列を含む化学文献及び特許文献で、又は民間供給業者から入手可能である。抗体は、典型的には、所定の抗原に対するものである。抗体の例としては、除去されるべき標的細胞、例えば、増殖細胞又は病理の原因となる細胞によって発現される抗原を認識する抗体が挙げられる。例としては、腫瘍抗原、微生物(例えば、細菌)抗原、又はウイルス抗原を認識する抗体が挙げられる。
【0088】
目的の抗原に結合する抗原結合ドメイン(ABD)は、所望の細胞標的に基づいて選択することができ、例えば、癌抗原、細菌抗原、又はウイルス抗原などを含み得る。本明細書で使用される「細菌抗原」という語は、限定されるものではないが、無傷細菌、弱毒細菌、若しくは死菌、あらゆる構造的若しくは機能的細菌タンパク質若しくは炭水化物、又は抗原性であるべき十分な長さ(典型的には、約8アミノ酸以上)の細菌タンパク質の任意のペプチド部分を含む。例としては、グラム陽性細菌抗原及びグラム陰性細菌抗原が挙げられる。一部の実施形態では、細菌抗原は、ヘリコバクター(Helicobacter)種、特にヘリコバクターピロリス(Helicobacter pyloris);ボレリア(Borelia)種、特にボレリア・ブルグドルフェリ(Borelia burgdorferi);レジオネラ(Legionella)種、特にレジオネラ・ニューモフィリア(Legionella pneumophilia);マイコバクテリア属(Mycobacteria s)種、特に結核菌(M.tuberculosis)、アビウム菌(M.avium)、イントラセルラ菌(M.intracellulare)、M.カンサシイ(M.kansasii)、M.ゴルドナエ(M.gordonae);ブドウ球菌(Staphylococcus)種、特に黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus);ナイセリア(Neisseria)種、特に淋菌(N.gonorrhoeae)、髄膜炎菌(N.meningitidis);リステリア(Listeria)種、特にリステリア・モノサイトゲネス(Listeria monocytogenes);ストレプトコッカス(Streptococcus)種、特にS.ピオゲネス(S.pyogenes)、S.アガラクティエ(S.agalactiae)、S.ファエカリス(S.faecalis);S.ボビス(S.bovis)、肺炎連鎖球菌(S.pneumonias);嫌気性連鎖球菌(anaerobic Streptococcus)種;病原性カンピロバクター(pathogenic Campylobacter)種;エンテロコッカス(Enterococcus)種;ヘモフィルス(Haemophilus)種、特にヘモフィルスインフルエンザ(Haemophilus influenzue);バチルス(Bacillus)種、特に炭疽菌(Bacillus anthracis);コリネバクテリウム(Corynebacterium)種、特にコリネバクテリウム・ジフテリア(Corynebacterium diphtheriae);エリジペロスリックス(Erysipelothrix)種、特にブタ丹毒菌(Erysipelothrix rhusiopathiae);クロストリジウム(Clostridium)種、特にウェルシュ菌(C.perfringens)、破傷風菌(C.tetani);エンテロバクター(Enterobacter)種、特にエンテロバクター・アエロゲネス(Enterobacter aerogenes)、クレブシエラ(Klebsiella)種、特にクレブシエラ1Sニューモニエ(Klebsiella 1S pneumoniae)、パストレラ(Pasturella)種、特にパストレラ・マルトシダ(Pasturella multocida)、パスツレラ(Pasturella)種、特にパスツレラ・ムルトシダ(Pasturella multocida)、バクテロイデス(Bacteroides)種;フソバクテリウム(Fusobacterium)種、特にフソバクテリウム・ヌクレアタム(Fusobacterium nucleatum);ストレプトバチルス(Streptobacillus)種、特にストレプトバチルス・モリホルミス(Streptobacillus moniliformis);トレポネーマ(Treponema)種、特にトレポネーマ(Treponema pertenue);レプトスピラ(Leptospira);病原性エシェリキア種(pathogenic Escherichia);及びアクチノマイセス(Actinomyces)種、特にアクチノミセス・イスラエリ(Actinomyces israelli)からなる群から選択される細菌に由来する。
【0089】
本明細書で使用される「ウイルス抗原」という語は、限定されるものではないが、無傷全ウイルス、弱毒全ウイルス、若しくは死滅全ウイルス、任意の構造的若しくは機能的ウイルスタンパク質、又は抗原性であるべき十分な長さ(典型的には、約8アミノ酸以上)のウイルスタンパク質の任意のペプチド部分を含む。ウイルス抗原の供給源としては、限定されるものではないが、レトロウイルス科(例えば、ヒト免疫不全ウイルス、例えば、HIV−1(HTLV−III、LAV、又はHTLV−III/LAV、又はHIV−IIIとも呼ばれる;及び他の分離株、例えば、HIV−LP;ピコルナウイルス科(例えば、ポリオウイルス、A型肝炎ウイルス;エンテロウイルス;ヒトコクサッキーウイルス;ライノウイルス、エコーウイルス);カルシウイルス科(例えば、胃腸炎を引き起こす株);トガウイルス科(例えば、ウマ脳炎ウイルス、風疹ウイルス);フラビウイルス科(例えば、デングウイルス、脳炎ウイルス、黄熱病ウイルス);コロナウイルス科(例えば、コロナウイルス);ラブドウイルス科(例えば、水疱性口内炎ウイルス、狂犬病ウイルス);フィロウイルス科(例えば、エボラウイルス);パラミクソウイルス科(例えば、パラインフルエンザウイルス、流行性耳下腺炎、麻疹ウイルス、呼吸器合胞体ウイルス);オルトミクソウイルス科(例えば、インフルエンザウイルス);ブンヤウイルス科(例えば、ハンタウイルス、ブンヤウイルス、フレボウイルス、及びナイロウイルス);アレナウイルス科(出血熱ウイルス);レオウイルス科(例えば、レオウイルス、オルビウイルス、及びロタウイルス);ボルナビリダエ科;ヘパドナウイルス科(B型肝炎ウイルス);パルボウイルス科(パルボウイルス);パポバウイルス科(パピローマウイルス、ポリオーマウイルス);アデノウイルス(殆どのアデノウイルス);ヘルペスウイルス科(単純ヘルペスウイルス(HSV)1及び2、水痘帯状疱疹ウイルス、サイトメガロウイルス(CMV)、ヘルペスウイルス;ポックスウイルス科(バリオラウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス);及びイリダウイルス科(例えば、アフリカブタ熱ウイルス);及び未分類ウイルス(例えば、デルタ肝炎の作用物質(B型肝炎ウイルスの欠陥サテライト(defective satellite)と考えられる)、C型肝炎;ノーウォーク及び関連ウイルス、及びアストロウイルス)の科からのウイルスが挙げられる。別法では、ウイルス抗原は、組換えにより作製することができる。
【0090】
本明細書で使用されるとき、用語「癌抗原」及び「腫瘍抗原」は同義的に使用され、癌細胞が差次的に発現するか、又は腫瘍促進効果(例えば免疫抑制効果)を有する非腫瘍細胞(例えば免疫細胞)が発現する抗原であって、そのため、癌細胞の標的化に利用することのできる(NKp46又はCD16以外の)抗原を指す。癌抗原は、明らかに腫瘍特異的な免疫反応を潜在的に刺激し得る抗原である。これらの抗原の一部は、必ずしも発現するとは限らないが、正常細胞によってコードされ、又は正常細胞が低レベル若しくは低頻度で発現する。これらの抗原は、正常細胞で通常サイレントなもの(即ち、発現しない)、特定の分化段階でのみ発現するもの、及び胚抗原及び胎児性抗原など、一時的に発現するものとして特徴付けることができる。他の癌抗原は、癌遺伝子(例えば、活性化ras癌遺伝子)、サプレッサー遺伝子(例えば、突然変異p53)、内部欠失又は染色体転座から生じる融合タンパク質などの突然変異細胞遺伝子によってコードされる。さらに他の癌抗原は、RNA及びDNA腫瘍ウイルスに担持されるものなど、ウイルス遺伝子によってコードされ得る。さらに他の癌抗原は、腫瘍促進効果の媒介能を有する免疫細胞、例えば単球又はマクロファージ、任意選択によりサプレッサーT細胞、調節性T細胞、又は骨髄系由来サプレッサー細胞上に発現し得る。
【0091】
癌抗原は、通常は正常な細胞表面抗原が過剰発現するか若しくは異常な回数発現するものであるか、又は標的とする細胞集団によって発現される。理想的には、標的抗原は増殖細胞(例えば、腫瘍細胞)又は腫瘍促進細胞(例えば免疫抑制効果を有する免疫細胞)においてのみ発現するが、しかしながら、実際にはこれは稀にのみ観察される。結果として、標的抗原は、多くの場合、増殖/疾患組織と健常組織との間の発現差に基づき選択される。癌抗原の例としては、受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)、Cripto、CD4、CD20、CD30、CD19、CD38、CD47、糖タンパク質NMB、CanAg、Her2(ErbB2/Neu)、シグレックファミリーメンバー、例えばCD22(シグレック2)又はCD33(シグレック3)、CD79、CD138、CD171、PSCA、L1−CAM、PSMA(前立腺特異的膜抗原)、BCMA、CD52、CD56、CD80、CD70、E−セレクチン、EphB2、メラノトランスフェリン、Mud 6及びTMEFF2が挙げられる。癌抗原の例としてはまた、免疫グロブリンスーパーファミリー(IgSF)、例えば、サイトカイン受容体、キラーIg様受容体、CD28ファミリータンパク質、例えば、キラーIg様受容体3DL2(KIR3DL2)、B7−H3、B7−H4、B7−H6、PD−L1、IL−6受容体も挙げられる。例としてはまた、MAGE、MART−1/Melan−A、gp100、主要組織適合遺伝子複合体クラスI関連鎖A及びBポリペプチド(MICA及びMICB)、アデノシンデアミナーゼ結合タンパク質(ADAbp)、シクロフィリンb、結腸直腸関連抗原(CRC)−C017−1A/GA733、プロテインチロシンキナーゼ7(PTK7)、受容体プロテインチロシンキナーゼ3(TYRO−3)、ネクチン(例えばネクチン−4)、主要組織適合遺伝子複合体クラスI関連鎖A及びBポリペプチド(MICA及びMICB)、UL16結合タンパク質(ULBP)ファミリーのタンパク質、レチノイン酸初期トランスクリプト−1(RAET1)ファミリーのタンパク質、癌胎児性抗原(CEA)及びその免疫原性エピトープCAP−1及びCAP−2、etv6、aml1、前立腺特異抗原(PSA)、T細胞受容体/CD3−ζ鎖、MAGE腫瘍抗原ファミリー、GAGE腫瘍抗原ファミリー、抗ミュラー管ホルモンII型受容体、デルタ様リガンド4(DLL4)、DR5、ROR1(受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1又はNTRKR1(EC 2.7.10.1)としても知られる、BAGE、RAGE、LAGE−1、NAG、GnT−V、MUM−1、CDK4、MUCファミリー、VEGF、VEGF受容体、アンギオポエチン−2、PDGF、TGF−α、EGF、EGF受容体、ヒトEGF様受容体ファミリーのメンバー、例えば、HER−2/neu、HER−3、HER−4又は少なくとも1つのHERサブユニットで構成されるヘテロ二量体受容体、ガストリン放出ペプチド受容体抗原、Muc−1、CA125、インテグリン受容体、αvβ3インテグリン、α5β1インテグリン、αIIbβ3−インテグリン、PDGFβ受容体、SVE−カドヘリン、IL−8受容体、hCG、IL−6受容体、CSF1R(腫瘍関連単球及びマクロファージ)、α−フェトプロテイン、E−カドヘリン、α−カテニン、β−カテニン及びγ−カテニン、p120ctn、PRAME、NY−ESO−1、cdc27、大腸腺腫性ポリポーシスタンパク質(APC)、フォドリン、コネキシン37、Ig−イディオタイプ、p15、gp75、GM2及びGD2ガングリオシド、ヒトパピローマウイルスタンパク質などのウイルス産物、imp−1、P1A、EBVコード核抗原(EBNA)−1、脳グリコーゲンホスホリラーゼ、SSX−1、SSX−2(HOM−MEL−40)、SSX−1、SSX−4、SSX−5、SCP−1及びCT−7、及びc−erbB−2も挙げられ、しかし、これは網羅的であることを意図するものではない。一態様において、目的の抗原は、Fcγ受容体細胞の存在下又は非存在下のいずれかで、例えば従来のヒトIgG1抗体が結合したときに、細胞内インターナリゼーションを受けることが可能な抗原(例えば上記に列挙した抗原のいずれか1つ)である。
【0092】
一実施形態において、抗原標的は、腫瘍促進効果の媒介能を有する免疫細胞、例えば単球又はマクロファージ、任意選択によりサプレッサーT細胞、調節性T細胞、又は骨髄系由来サプレッサー細胞上に存在するポリペプチドである。
【0093】
ABDとABDとを含む多重特異的分子の例示的実施形態において、かかるABDのうちの一方は、除去しようとする標的細胞が発現する抗原(例えば、腫瘍抗原、微生物(例えば細菌)抗原、ウイルス抗原、又は炎症性若しくは自己免疫性疾患に寄与する免疫細胞上に発現する抗原と結合してもよく、ABD又はABDのうちの他方は、免疫細胞、例えば免疫エフェクター細胞、例えばT細胞又はNK細胞などのエフェクター細胞の細胞表面受容体上に発現する抗原に結合することになる。免疫細胞、任意選択により免疫エフェクター細胞上に発現する抗原の例としては、ヒトリンパ様細胞系列のメンバー、例えばヒトT細胞、ヒトB細胞又はヒトナチュラルキラー(NK)細胞、ヒト単球、ヒト好中性顆粒球又はヒト樹状細胞上に発現する抗原が挙げられる。有利には、かかる細胞は、除去しようとする標的細胞(例えば、腫瘍抗原、微生物抗原、ウイルス抗原、又は炎症性若しくは自己免疫性疾患に寄与する免疫細胞上に発現する抗原を発現するもの)に対して細胞傷害効果又はアポトーシス効果のいずれかを有し得る。特に有利には、ヒトリンパ系細胞は、活性化すると標的細胞に細胞傷害効果を及ぼす細胞傷害性T細胞又はNK細胞である。この実施形態によれば、従って、ヒトエフェクター細胞の細胞傷害活性が動員される。別の実施形態によれば、ヒトエフェクター細胞はヒト骨髄細胞系列のメンバーである。
【0094】
多重特異的ポリペプチドのABDは、NK細胞及び/又はT細胞受容体、例えば、除去しようとする意図した標的細胞にNK細胞又はT細胞を仕向ける役割を果たし得るそれぞれNK細胞又はT細胞の表面上の任意の分子など、免疫細胞上に発現する抗原に結合し得る。例としては、例えば、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバー、キラー細胞免疫グロブリン様受容体(KIR)ファミリー、白血球免疫グロブリン様受容体(LILR)ファミリー、又はレクチンファミリー若しくはNK細胞レクチン様受容体ファミリーのメンバーが挙げられる。活性は、例えば多重特異的ポリペプチドの存在下で標的細胞とエフェクター細胞とを接触させることによって計測し得る。
【0095】
任意選択により、免疫細胞受容体は活性化受容体、例えば活性化NK細胞又はT細胞受容体である。本明細書で使用されるとき、用語「活性化NK細胞受容体」及び「活性化T細胞受容体」は、刺激されると、サイトカイン(例えばIFN−γ又はTNF−α)産生、細胞内遊離カルシウムレベルの増加、例えば本明細書の他の部分に記載されるとおりのリダイレクトキリングアッセイにおいて標的細胞を溶解させる能力、又はそれぞれNK細胞若しくはT細胞増殖を刺激する能力など、当該技術分野においてそれぞれNK細胞又はT細胞活性に関連するものとして知られる任意の特性又は活性の計測可能な増加を生じる、それぞれNK細胞又はT細胞の表面上の任意の分子を指す。用語「活性化NK受容体」は、活性化又は共活性化受容体を含み、且つ限定されないが、各種形態のKIRタンパク質(例えばKIR2DS受容体、KIR2DS2、KIR2DS4)、NKG2受容体、NKp30、NKp46、IL−2R、IL−12R、IL−15R、IL−18R及びIL−21Rを含む。1つの重要な活性化受容体ファミリーは、NKp30、NKp44及びNKp46を含むナチュラル細胞傷害性受容体(NCR)である。
【0096】
細胞傷害性T細胞の活性化は、例えば、この実施形態の多重特異的(例えば二重特異的)ポリペプチドが細胞傷害性T細胞の表面上にあるエフェクター抗原としてのCD3抗原に結合することによって起こり得る。ヒトCD3抗原はヘルパーT細胞及び細胞傷害性T細胞の両方に存在する。ヒトCD3は、多分子T細胞複合体の一部としてT細胞上に発現する抗原であって、3つの異なる鎖、即ちCD3−ε、CD3−δ及びCD3−γを含む抗原を意味する。
【0097】
多重特異的ポリペプチドが結合する例示的リンパ系細胞関連エフェクター抗原は、ヒトCD8抗原、ヒトCD16抗原、ヒトNKG2D抗原、ヒトNKp46抗原、ヒトNKp30抗原、ヒトCD2抗原、ヒトCD28抗原又はヒトCD25抗原である。エフェクターT細胞上に発現するヒトCD8抗原を用いて、例えばCD4 T細胞(望ましくないサイトカイン産生及び関連毒性を伴い得る)又はTReg細胞に影響を及ぼすことなく、かかるT細胞を目的の標的細胞にリダイレクトすることができる。ヒトNKp30及び特にNKp46抗原は、主にNK細胞上に発現し、従ってNK細胞エフェクター活性を選択的に動員することが可能である。一実施形態において、免疫細胞又は免疫エフェクター細胞上に発現する抗原は、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32)、及びFcγRIII(CD16)ポリペプチドから選択される。
【0098】
Fcポリペプチドに組み込まれる1つ又は複数のABDは、ポリペプチドに含める前に任意の所望の活性に関して試験することができる。所望の特異性及び/又は活性を有する適切な抗原結合ドメインが同定された後、ABDの各々をコードするDNAを、CH2及びCH3ドメイン、リンカー及び適切な宿主へのトランスフェクション用の任意の他の任意選択のエレメント(例えばリンカー又はヒンジ領域をコードするDNA)など、任意のエレメントをコードするDNAと共に、適切な1つ又は複数の発現ベクターに好適な配置で置くことができる。次に宿主を用いてFcポリペプチドが組換え産生される。
【0099】
抗体に由来するABDは、概して、最小限でも、結合活性を付与するのに十分な超可変領域を含み得る。ABDは、必要に応じて、限定されないが、リンカーエレメント(例えばリンカーペプチド、CH1、Cκ又はCλドメイン、ヒンジ、又はこれらの断片(これらの各々はABDとCH2又はCH3ドメインとの間、又は必要に応じて他のドメイン間に置くことができる))を含めた他のアミノ酸又は機能ドメインを含んでもよく、又はそれに融合してもよいことが理解されるであろう。一例において、ABDは、scFv、Vドメイン及びVドメイン、又はV−NARドメイン若しくはVHドメインなどのシングルドメイン抗体(ナノボディ又はdAb)を含む。例示的抗体形態は本明細書にさらに記載され、ABDは所望の形態に基づき選択することができる。
【0100】
任意の実施形態では、抗原結合ドメインは、ヒト化抗体から得ることができ、このヒト化抗体では、ヒト抗体の相補性決定領域(CDR)からの残基が、元の抗体(親又はドナー抗体、例えば、マウス又はラット抗体)のCDRからの残基によって置換されているが、所望の特異性、親和性、及び元の抗体の能力を維持している。非ヒト生物を起源とする核酸によって一部又は全てがコードされた親抗体のCDRを、ヒト抗体可変領域のβシートフレームワークに全て又は一部を移植して、その特異性が移植されるCDRによって決まる抗体を作製する。このような抗体の作製は、例えば、国際公開第92/11018号パンフレット、Jones,1986,Nature 321:522−525,Verhoeyen et al.,1988,Science 239:1534−1536に記載されている。従って、抗原結合ドメインは、非ヒト超可変領域又はCDR及びヒトフレームワーク領域の配列(任意選択により逆突然変異を含む)を有し得る。
【0101】
タンパク質ドメイン、例えばABD又はECDは、互いに作動可能に連結された所望のドメインを有するFcポリペプチドが産生されるように発現ベクターに配置されることになる。次に、適切な宿主細胞で、又は任意の好適な合成方法によって、Fcポリペプチドを産生することができる。宿主細胞は哺乳類起源のものであってもよく、又はCOS−1、COS−7、HEK293、BHK21、CHO、BSC−1、Hep G2、653、SP2/0、293、HeLa、骨髄腫、リンパ腫、酵母、昆虫又は植物細胞、又はこれらの任意の誘導体、不死化若しくは形質転換細胞から選択されてもよい。或いは、宿主細胞は、抗体に哺乳類グリコシル化を生じさせることができない種又は生物、例えば天然の又はエンジニアリングされた大腸菌種(E.coli spp.)、クレブシエラ属種(Klebsiella spp.)、又はシュードモナス属種(Pseudomonas spp.)などの原核細胞又は生物から選択されてもよい。
【0102】
(a)目的のタンパク質ドメイン(例えば、細胞表面受容体のECD、VH及び/又はVL、目的の第1の抗原に結合する抗原結合ドメイン(ABD))、(b)CH2ドメイン(又はその断片)と、第1のCH3ドメイン及び第1のCH3ドメインとアミノ酸残基の介在配列(例えば可動性ペプチドリンカー)によって分離されている第2のCH3ドメインを含む直列型CH3ドメインとを含むFcドメイン、を含むFc由来ポリペプチド鎖を構築することができる。任意選択により、CH2ドメインと目的のドメインとは、リンカー、CH1又はCKドメイン、及び/又はヒンジ領域によって分離されている。任意選択により、Fcドメインは、(i)別のFc由来ポリペプチドとのCH3−CH3二量体化を起こさず、(ii)ヒトFcRnとの結合能を有し、及び/又は(iii)野生型ヒトIgG1 Fcドメインと比較してヒトFcγ受容体との結合が低下している。例としては、以下のうちの1つのドメイン配置を有するポリペプチドが挙げられる:
(ECD)−CH2−CH3−リンカー−CH3、
(ECD)−CH1−CH2−CH3−リンカー−CH3、
(VH又はVL)−CH2−CH3−リンカー−CH3、
(VH又はVL)−CH1−CH2−CH3−リンカー−CH3、
(ABD)−CH1−CH2−CH3−リンカー−CH3、
又は
(ABD)−CH2−CH3−リンカー−CH3。
【0103】
(a)目的の第1のタンパク質ドメイン(例えば、細胞表面受容体のECD、VH及び/又はVL、目的の第1の抗原に結合する抗原結合ドメイン(ABD));(b)CH2ドメイン(又はその断片)と、第1のCH3ドメイン及び第1のCH3ドメインと介在アミノ酸配列(例えば可動性ペプチドリンカー)によって分離されている第2のCH3ドメインを含む直列型CH3ドメインとを含むFcドメイン、及び(c)目的の第2のタンパク質ドメイン(例えば、細胞表面受容体のECD、VH及び/又はVL、目的の第2の抗原に結合する抗原結合ドメイン(ABD))を含む多重特異的、例えば二重特異的Fc由来ポリペプチド鎖を構築することができる。目的の第1及び第2のタンパク質ドメインの各々は、独立に、任意の所望のアミノ酸配列、例えば抗原結合ドメイン、機能性ペプチド、例えば、検出可能タグ、酵素認識タグ又は精製タグ、受容体ポリペプチド、酵素、サイトカイン等であってもよい。ドメイン配置を有するポリペプチドの例は以下のとおりである:
(目的のドメイン)−CH2−CH3−リンカー−CH3−(目的のドメイン)、
(目的のドメイン)−CH1−CH2−CH3−リンカー−CH3−(目的のドメイン)、
(ABD)−CH2−CH3−リンカー−CH3−(ABD)、
(ABD)−CH1−CH2−CH3−リンカー−CH3−(ABD)、
(ECD)−CH2−CH3−リンカー−CH3−(ABD)、
(ECD)−CH1−CH2−CH3−リンカー−CH3−(ABD)、
(ABD)−CH2−CH3−リンカー−CH3−(ECD)、
又は
(ABD)−CH1−CH2−CH3−リンカー−CH3−(ECD)。
【0104】
任意選択により、目的のタンパク質ドメインはリンカーペプチド、CH1又はCKドメイン、及び/又はヒンジ領域を介して隣接CH2ドメインに融合している。任意選択により、CH3ドメインはリンカーペプチドを介して隣接CH3ドメインに融合している。任意選択により、Fcドメインは、(i)別のFc由来ポリペプチドとのCH3−CH3二量体化能を有さず、(ii)ヒトFcRnとの結合能を有し、及び/又は(iii)野生型ヒトIgG1 Fcドメインと比較してヒトFcγ受容体との結合が低下している。
【0105】
上記の例の直列型CH3ドメイン含有部分は、例えば以下のとおりのドメイン配置を含み得る(N末端からC末端に):CH2−CH3−ペプチドリンカー−CH3−。
【0106】
従って、Fcドメイン又はFcポリペプチドは、任意選択により、CH2ドメインとCH3ドメインとを含む天然ヒトFcドメインであるか、又はそれを含むものとして記載することができ、ここで、CH3ドメインはその遊離末端でペプチドリンカーに融合しており、次にはペプチドリンカーがその遊離末端で第2のCH3ドメインに融合している。
【0107】
様々なドメイン配置を想定することができる。例えば直列型CH3ドメイン含有Fc部分は、直列型ABD又はscFvのC末端に融合することができる。非限定的な例としては、以下のドメイン配置のいずれかを有するポリペプチドが挙げられる(N末端からC末端に):
(ABD)−(ABD)−CH2−CH3−リンカー−CH3、
(ABD)−(ABD)−CH1−CH2−CH3−リンカー−CH3、
又は
(scFv)−(scFv)−CH2−CH3−リンカー−CH3。
【0108】
scFvを用いる他の例としては、以下のドメイン配置を有するタンパク質が挙げられる(N末端からC末端に):
(scFv)−CH2−CH3−リンカー−CH3−(scFv
又は
(scFv)−CH1−CH2−CH3−リンカー−CH3−(scFv)。
【0109】
多重特異的タンパク質のさらなる例としては、国際公開第2015/197593号パンフレット(この開示は参照により組み入れられる)に示される単量体Fcドメインを有するタンパク質及びドメイン配置を含めた多量体タンパク質が挙げられる。例えば、ヘテロ二量体は、例えば以下のとおりの構成を有し得る(図1Cに示す形態11及び12として示されるかかるタンパク質の実施例も参照されたい):
【化5】
ここで、第1のポリペプチド鎖のVa−1及び第2のポリペプチド鎖のVb−1のうちの一方が軽鎖可変ドメインであり、且つ他方が重鎖可変ドメインであり、及びVa−2及びVb−2のうちの一方が軽鎖可変ドメインであり、且つ他方が重鎖可変ドメインである。
【0110】
得られるヘテロ二量体は、別の例において、以下のとおりの構成を有し得る(図1Bに示す形態10として示されるかかるタンパク質の実施例も参照されたい):
【化6】
ここで、第1のポリペプチド鎖のVa−1及び第2のポリペプチド鎖のVb−1のうちの一方が軽鎖可変ドメインであり、且つ他方が重鎖可変ドメインであり、及びVa−2及びVb−2のうちの一方が軽鎖可変ドメインであり、且つ他方が重鎖可変ドメインである。
【0111】
さらなる例としては、三量体が挙げられる。例示的三量体は以下のとおりの構成を有し得る(図1Cに形態17として示されるものも参照されたい)。
【化7】
【0112】
任意のFcポリペプチドにおいて、目的のタンパク質又はドメイン、例えば、ABD、ECDとCH2ドメインとの間にCH1又はCK(又はCλ)ドメインが存在してもよく、又は目的のドメインとCH2ドメインとの間にCH1又はCK(又はCλ)ドメインは存在しなくてもよい。一実施形態において、目的のタンパク質又はドメインとCH2ドメインとの間にはペプチドリンカーが存在する。一実施形態において、CH1とCH2ドメインとの間にヒンジ領域又はその断片、例えば天然抗体重鎖において鎖間架橋に関与するシステインの一方又は両方を欠いている改変されたヒンジが存在する。第1及び第2のABDは、ABDの結合が意図されるそれぞれの抗原との結合を許容するようにABDの折り畳みを可能にするのに十分な長さのリンカーによって共に連結することができる。ABDをABDに連結するのに用いられる、又はABDをCH2若しくはCH3に連結するのに用いられる好適なペプチドリンカーは当該技術分野において公知であり、例えば国際公開第2007/073499号パンフレット(この開示は参照により本明細書に組み入れられる)を参照されたい。リンカー配列の例としては、(GS)(式中、xは整数(例えば、1、2、3、4、又はそれを超える)である)が挙げられる。従って、Fcポリペプチドは、例えば構造(ABD−ペプチドリンカー−ABD−ペプチドリンカー−CH2−CH3−ペプチドリンカー−CH3)を有し得る。例えば、ポリペプチドは、融合産物として、構造(scFv−ペプチドリンカー−scFv−ペプチドリンカー−CH2−CH3)を含むことができ、ここで、各エレメントは続くエレメントに融合している。Fcポリペプチドの別の例は、構造:(ABD−ペプチドリンカー−CH2−CH3−ペプチドリンカー−CH3−ペプチドリンカー−ABD)を有する。
【0113】
説明上、配置はN末端(左)からC末端に示す。ドメインは、互いに融合していると称することができる(例えばドメインはその左側のドメインのC末端に融合していると言うことができ、及び/又はドメインはその右側のドメインのN末端に融合していると言うことができる)。ドメインは、直接、又は介在アミノ酸配列を介して互いに融合することができる。
【0114】
特定の例に示されるとおり、2つの抗原結合ドメインがFcドメインの両末端に位置している多重特異的抗体を調製することができる。このタンパク質は、種々の細胞上の標的抗原とのより良好な結合を提供し得るコンホメーションをもたらし得る。この構成はまた、より幅広い抗体可変領域の使用も可能にする。直列型scFv形態では機能性が保たれない一部の抗体結合ドメインが、シングルscFv形態では機能性のままとなり得る。従って、一態様においてポリペプチドは以下を含み得る:(a)目的の第1の抗原に結合する第1の抗原結合ドメイン(ABD)、(b)第1のCH3ドメイン、及び第1のCH3ドメインと介在アミノ酸配列によって分離されている第2のCH3ドメインを含むヒトFcドメインの少なくとも一部分を含む直列型CH3ドメイン含有部分、ここで、直列型CH3ドメイン含有部分は(任意選択によりアミノ酸残基の介在配列を介して)第1の抗原結合ドメインのC末端に融合しており、及び(c)目的の第2の抗原に結合する第2の抗原結合ドメイン(ABD)は(任意選択により介在アミノ酸配列を介して)直列型CH3ドメイン含有部分のC末端に融合している。
【0115】
任意の実施形態の一態様において、第1の抗原結合ドメイン及び/又は第2の抗原結合ドメインはscFvを含み、任意選択によりscFvはヒトフレームワークアミノ酸配列を含む。
【0116】
直列型CH3ドメイン内に使用される例示的CH3ドメインは、配列番号1のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも70%、80%、90%、95%若しくは98%同一の配列を含み得る。
【化8】
【0117】
可動性ペプチドリンカー(下線)を含む例示的直列型CH3を以下に示す。従って、例示的直列型CH3ドメインは、配列番号2のアミノ酸配列、又はそれと少なくとも70%、80%、90%、95%若しくは98%同一の配列を含み得る。
【化9】
【0118】
一実施形態において、ABD(例えばscFv、VH又はVLドメイン)をCH2又はCH3に連結するために使用されるペプチドリンカーは、CH1ドメイン又はCH1ドメインの断片を含む。例えば、CH1ドメイン、又はCH1ドメインのN末端アミノ酸配列をABD(例えばscFv、VH又はVLドメイン等)に融合することにより、抗体の天然構造を可能な限り綿密に模倣することができる。一実施形態において、リンカーは、2〜4残基、2〜4残基、2〜6残基、2〜8残基、2〜10残基、2〜12残基、2〜14残基、2〜16残基、2〜18残基、2〜20残基、2〜22残基、2〜24残基、2〜26残基、2〜28残基、2〜30残基、10〜20残基、10〜22残基、10〜24残基、2〜26残基、10〜28残基、12〜20残基、15〜30残基、15〜20残基又は10〜30残基のN末端CH1アミノ酸配列を含む。一実施形態において、リンカーはアミノ酸配列RTVAを含むか、又はそれからなる。
【0119】
ABDがscFvである場合、scFvを形成するVHドメイン及びVLドメイン(VL又はVHドメイン、又は結合特異性を維持したその断片)は、ABDが結合する予定の抗原への結合を可能にするようにABDを折り畳むことができる十分な長さのリンカーによって互いに連結される。リンカーの例としては、例えば、グリシン及びセリン残基、例えば、アミノ酸配列GEGTSTGS(GS)GGADを含むリンカーが挙げられる。特定の一実施形態では、scFvのVHドメイン及びVLドメインは、アミノ酸配列(GS)によって互いに連結される。
【0120】
2つのCH3ドメインを互いに連結するために使用されるペプチドリンカーは、非共有相互作用によるそれらの結合を許容するように2つのCH3ドメインが折り畳まれること、特にCH3−CH3二量体化が起こることを可能にするのに十分な長さの任意のアミノ酸配列であってもよい。リンカーの例としては、例えば、グリシン及びセリン残基を含むリンカー、例えば、アミノ酸配列(GS)(式中、xは1〜10、任意選択により2〜6である)、例えば(GS)が挙げられる。
【0121】
2つのCH3ドメインを互いに連結するために使用されるペプチドリンカーはいずれも少なくとも5残基、任意選択により少なくとも10残基、少なくとも15残基、少なくとも20残基、少なくとも25残基、少なくとも30残基又はそれを超える長さを含み得る。他の実施形態において、リンカーは、5〜10残基、4〜12残基、5〜14残基、5〜16残基、5〜18残基、5〜20残基、5〜22残基、5〜24残基、5〜26残基、5〜28残基、5〜30残基、10〜20残基、10〜22残基、10〜24残基、2〜26残基、10〜28残基、12〜20残基、15〜30残基、15〜20残基又は10〜30残基の長さを含む。
【0122】
一実施形態では、ヒンジ領域は、ヒンジ領域の断片(例えば、システイン残基を含まない切断ヒンジ領域)であるか、又はシステイン残基、任意選択によりヒンジ領域中の両方のシステイン残基を(例えば、別のアミノ酸による置換、又は欠失により)除去するために1つ以上のアミノ酸改変を含み得る。システインの除去は、単量体ポリペプチドのジスルフィド架橋の形成を防止するのに有用であり得る。
【0123】
定常領域ドメインは、任意の適切な抗体から得ることができる。特に興味深いのは、定常重(CH)ドメイン及びヒンジドメインを含む重鎖ドメインである。IgG抗体との関連では、IgGアイソタイプは、それぞれ3つのCH領域を有する。従って、IgGとの関連での「CH」ドメインは、次のとおりである:「CH1」は、Kabatと同様のEUインデックスによると118〜220位を指す。「CH2」は、Kabatと同様のEUインデックスによると237〜340位を指す。「CH3」は、Kabatと同様のEUインデックスによると341〜447位を指す。「ヒンジ」、「ヒンジ領域」、又は「抗体ヒンジ領域」とは、抗体における第1及び第2の定常ドメイン間のアミノ酸を含む可撓性ポリペプチドのことである。構造的に、IgG Ch1ドメインは、EU220位で終端し、IgG CH2ドメインは、EU237位の残基で始まる。従って、IgGでは、ヒンジは、本明細書では、221位(IgG1のD221)〜236位(IgG1のG236)を含むように定義され、付番は、Kabatと同様のEUインデックスに従った。ポリペプチド内に見られる定常領域ドメイン内のアミノ酸残基について言及する場合、特段の記載がない限り、又は文脈から他の旨である場合を除き、IgG抗体との関連で、Kabatに準拠するものとする。
【0124】
本抗体に役立ち得るCH3ドメインは、任意の適切な抗体から得ることができる。このようなCH3ドメインは、改変CH3ドメインの基準として役立ち得る。任意選択により、CH3ドメインはヒト起源である。本明細書における特定の実施形態において、CH3ドメインは天然ヒトCH3ドメインであってもよく、一方、他の実施形態において、CHドメインは1つ以上のアミノ酸改変(例えばアミノ酸置換)を含んでもよい。これらの改変は、概してCH3二量体化界面の破壊を回避し、そのため、直列型CH3ドメインは互いに結合する能力を維持し得る。任意選択により、CH3ドメイン改変はさらに、Fc由来ポリペプチドが新生児Fc受容体(FcRn)、例えばヒトFcRnに結合する能力を妨げない。
【0125】
CH2ドメインは、任意の適切な抗体から容易に得ることができる。任意選択により、CH2ドメインはヒト起源である。CH2は、ヒンジ又はリンカーアミノ酸配列に(例えば、そのN末端で)連結されてもよく、又は連結されなくてもよい。一実施形態では、CH2ドメインは、天然に存在するIgG1、2、3、4、又は4サブタイプのヒトCH2ドメインである。一実施形態では、CH2ドメインは、CH2ドメインの断片(例えば、少なくとも10、20、30、40、又は50のアミノ酸)である。
【0126】
一実施形態では、CH2ドメインは、本明細書に記載のポリペプチドに存在する場合、新生児Fc受容体(FcRn)、特にヒトFcRnに対する結合性を維持する。
【0127】
一実施形態において、本明細書に記載されるポリペプチドに存在するときのCH2ドメイン、及び本明細書に記載されるポリペプチドは、Fcγ受容体、特にFcγRIIIA(CD16)に対する結合の低下又は欠如を付与し得る。CD16に結合しないCH2ドメインを含むポリペプチドは、目的のエフェクター細胞抗原(例えばNKp46、CD3等)を発現しない細胞(例えばNK細胞、T細胞)によるADCCを活性化又は媒介する能力を有しない。
【0128】
一実施形態では、本明細書に記載のポリペプチド並びにそのFcドメイン及び/又はそのCH2ドメインは、低下した抗体依存性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、抗体依存性細胞食作用(ADCP)、FcR媒介細胞活性化(例えば、FcR架橋によるサイトカインの放出)、及び/又はNKp46陰性免疫細胞によって媒介されるFcR媒介血小板活性化/減少を有するか、又はそれらを実質的に欠いている。
【0129】
一実施形態では、ポリペプチド内のCH2ドメインは、活性化Fcγ受容体、例えば、FcγRIIIA(CD16)、FcγRIIA(CD32A)、若しくはCD64に対する結合性、又は抑制性Fc受容体、例えば、FcγRIIB(CD32B)に対する結合性が実質的に消失する。一実施形態では、ポリペプチドのCH2ドメインはさらに、補体(C1q)の第1の成分に対する結合性が実質的に消失する。
【0130】
任意選択により、CH2ドメインはヒトIgG1又はIgG2残基への置換をさらに含み、Fcγ受容体との結合をさらに低減する。233〜236位(EU付番)での置換及び327、330及び331位(EU付番)におけるIgG4残基が、Fcγ受容体との結合、従ってADCC及びCDCを大幅に低減することが示されたことが示されている。さらに、Idusogie et al.(2000)J Immunol.164(8):4178−84は、K322を含めた種々の位置のアラニン置換が補体活性化を大幅に低減することを実証した。一実施形態において、ヒトFcRnとの結合を維持しているが、Fcγ受容体との結合は低下しているCH2ドメインは、例えば残基N297(Kabat EU)が欠けているか、又はそこに改変されたN結合型グリコシル化を有する。一実施形態において、Fcγ受容体との結合を失っているCH2ドメインは、Fc領域のCH2ドメインに少なくとも1つのアミノ酸改変を含み得る(例えば、1、2、3、4、5、6、7、8、9個、又はそれを超えるアミノ酸改変を有する)。
【0131】
一実施形態において、単量体ポリペプチドは1:1の比でFcRnに結合し得る(各単量体ポリペプチドにつき1個のFcRn)。
【0132】
単量体Fcドメイン含有ポリペプチドは、(例えば、野生型完全長ヒトIgG1抗体と比較して)部分的なFcRn結合を維持していてもよい。任意選択により、単量体ポリペプチドは、中間の親和性でのヒトFcRnとの結合能を有し、例えばFcRnとの結合を維持しているが、完全長野生型ヒトIgG1抗体と比較するとヒトFcRn受容体との結合が低下している。Fc部分は、例えばCH2ドメインに、1つ以上のFcγ受容体との結合を調節する1つ以上のアミノ酸改変をさらに含み得る。
【0133】
本明細書におけるポリペプチドのいずれかの一実施形態において、直列型CH3ドメイン含有ポリペプチドは、実質的に単量体形態で(即ち単一のポリペプチド鎖として)存在する。これは、直列型CH3ドメイン含有ポリペプチドが最終産物である場合にも、又はポリペプチドが多量体(例えば二量体)ポリペプチドである場合に直列型CH3ドメイン含有ポリペプチドが産物中間体であるときも該当し得る。
【0134】
化合物の使用
一態様では、それを必要としている哺乳動物の処置又は診断用の医薬製剤の製造における本明細書で定義される任意の化合物の使用が提供される。また、薬剤として、又は薬剤中の活性成分若しくは活性物質として上記定義された任意の化合物の使用も提供される。さらなる態様では、経口投与、局所投与、又は注射用の固体又は液体製剤を提供するために、上記定義された化合物を含む医薬組成物を調製する方法が提供される。このような方法又はプロセスは、少なくとも化合物を薬学的に許容され得る担体と混合するステップを含む。
【0135】
一態様において、本明細書における化合物、又は本明細書に開示される化合物を含む(医薬)組成物を用いてある種の効果を発揮することによるか、又はある種の状態を検出することにより、所定の状態を治療し、予防し、又はより一般的にはそれに影響を及ぼす方法が提供される。
【0136】
本明細書に記載のポリペプチドを使用して、抗体で処置することができる障害、例えば、癌、固形及び非固形腫瘍、血液悪性腫瘍、感染、例えば、ウイルス感染、及び免疫又は自己免疫疾患を予防又は処置することができる。
【0137】
一実施形態において、目的の抗原は、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、結腸癌、腎癌、肝癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、膵癌、胃癌、頸癌、甲状腺癌及び扁平上皮癌を含む皮膚癌を含めた癌腫;白血病、急性リンパ性白血病、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ヘアリー細胞リンパ腫及びバーキットリンパ腫を含めたリンパ系造血器腫瘍;急性及び慢性骨髄性白血病及び前骨髄球性白血病を含めた骨髄細胞系造血器腫瘍;線維肉腫及び横紋筋肉腫を含めた間葉由来腫瘍;神経芽細胞腫及び神経膠腫を含めた他の腫瘍;星状細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、及びシュワン腫を含めた中枢及び末梢神経系腫瘍;線維肉腫、横紋筋肉腫、及び骨肉腫を含めた間葉由来腫瘍;及び黒色腫、色素性乾皮症、ケラトアカントーマ、セミノーマ、甲状腺濾胞癌及びテラトカルシノーマ、リンパ系造血器腫瘍、例えばT細胞及びB細胞腫瘍を含めた他の腫瘍からなる群から選択されるタイプの癌の悪性細胞の表面上に発現する。
【0138】
一実施形態において、本明細書に記載されるポリペプチドは、膀胱癌、頭頸部癌、乳癌、結腸癌、腎癌、肝癌、肺癌、卵巣癌、前立腺癌、膵癌、胃癌、頸癌、甲状腺癌及び扁平上皮癌を含む皮膚癌を含めた癌腫;白血病、急性リンパ性白血病、急性リンパ芽球性白血病、B細胞リンパ腫、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ヘアリー細胞リンパ腫及びバーキットリンパ腫を含めたリンパ系造血器腫瘍;急性及び慢性骨髄性白血病及び前骨髄球性白血病を含めた骨髄細胞系造血器腫瘍;線維肉腫及び横紋筋肉腫を含めた間葉由来腫瘍;神経芽細胞腫及び神経膠腫を含めた他の腫瘍;星状細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫、及びシュワン腫を含めた中枢及び末梢神経系腫瘍;線維肉腫、横紋筋肉腫、及び骨肉腫を含めた間葉由来腫瘍;及び黒色腫、色素性乾皮症、ケラトアカントーマ、セミノーマ、甲状腺濾胞癌及びテラトカルシノーマを含めた他の腫瘍からなる群から選択される癌の予防又は治療に使用することができる。本発明により治療し得る他の例示的障害には、リンパ系造血器腫瘍、例えばT細胞及びB細胞腫瘍が含まれる。
【0139】
一態様では、処置の方法は、治療有効量の多重特異的ポリペプチドを個人に投与するステップを含む。治療有効量は、疾患又は障害を有する患者に治療効果を有する(又は疾患若しくは障害を有する患者及び患者と実質的に同様の特徴を有する患者の少なくとも相当数でこのような効果を促進する、高める、及び/又は誘導する)任意の量であり得る。
【0140】
多重特異的ポリペプチドは、キットに含めることができる。このキットは、任意選択により、任意の数のポリペプチド及び/又は他の化合物、例えば、1つ、2つ、3つ、4つ、又はその他の数の多重特異的ポリペプチド及び/又は他の化合物をさらに含み得る。キットの内容についてのこの記載は、全く限定ではないことを理解されたい。例えば、キットは、他のタイプの治療化合物を含み得る。任意選択により、キットは、ポリペプチドの使用についての取扱説明書、例えば、本明細書に記載の方法の詳細も含む。
【0141】
また、上記定義された化合物を含む医薬組成物も提供される。化合物は、医薬組成物として医薬担体と共に精製された形態で投与することができる。形態は、意図する投与方式及び治療又は診断用途によって決まる。医薬担体は、化合物を患者に送達するのに適した任意の適合性の非毒性物質とすることができる。薬学的に許容され得る担体は、当技術分野で公知であり、例えば、水溶液、例えば、(滅菌)水若しくは生理緩衝食塩水、又は他の溶媒若しくはビヒクル、例えば、グリコール、グリセロール、油、例えば、オリーブ油、又は注射可能な有機エステル、アルコール、脂肪、ワックス、及び不活性固体を含む。薬学的に許容され得る担体は、例えば化合物の吸収を安定させる又は高めるように作用する、生理的に許容され得る化合物をさらに含み得る。このような生理的に許容され得る化合物は、例えば、炭水化物、例えば、グルコース、スクロース、又はデキストラン、抗酸化物、例えば、アスコルビン酸又はグルタチオン、キレート剤、低分子量タンパク質、又は他の安定剤若しくは賦形剤を含む。当業者であれば、生理的に許容され得る化合物を含む薬学的に許容され得る担体の選択が、例えば、組成物の投与経路によって決まることを理解されよう。薬学的に許容され得るアジュバント、緩衝剤、及び分散剤なども医薬組成物に含まれ得る。
【0142】
化合物は、非経口投与することができる。非経口投与用の化合物の調製は、滅菌でなければならない。滅菌は、任意選択により凍結乾燥及び再生の前又は後での、滅菌濾過膜に通す濾過によって容易に達成される。化合物の投与の非経口経路は、公知の方法、例えば、静脈内経路、腹腔内経路、筋肉内経路、動脈内経路、若しくは病巣内経路による注射又は注入に従う。化合物は、注入又はボーラス注射によって連続的に投与することができる。静脈注射用の典型的な組成物は、特定のタイプの化合物及びその必要な投与計画に合わせて、任意選択により20%アルブミン溶液が添加された100〜500mlの滅菌0.9%NaCl又は5%グルコース及び1mg〜10gの化合物を含むように構成することができる。非経口投与可能な組成物を調製する方法は、当技術分野で公知である。
【実施例】
【0143】
実施例1:二重特異的単量体直列型CH3 Fcポリペプチドの構築
材料及び方法
ヒト腫瘍抗原CD19に特異的なscFv(抗CD19 scFv)及びNK細胞上のヒト活性化受容体NKp46に特異的なscFV(抗NKp46 scFv)をベースとする二重特異的Fcポリペプチドの調製に使用する種々の構築物を作製した。
【0144】
以下の表1には、このタンパク質の抗CD19成分の軽鎖及び重鎖可変領域アミノ酸配列を示す。
【0145】
【表1】
【0146】
以下の表2には、このタンパク質の抗NKp46成分の軽鎖及び重鎖可変領域及びscFvアミノ酸配列を示す。
【0147】
【表2】
【0148】
組換えタンパク質のクローニング及び産生
コード配列を、直接合成及び/又はPCRによって構築した。PCRは、PrimeSTAR MAX DNAポリメラーゼ(Takara,#R045A)を用いて行い、PCR産物を、NucleoSpinゲル及びPCR clean−upキット(Macherey−Nagel,#740609.250)を用いて1%アガロースゲルから精製した。精製した後、PCR産物を定量してから、製造者のプロトコル(ClonTech,#ST0345)に記載されているようにIn−Fusion連結反応を行った。プラスミドは、Nucleospin 96プラスミドキット(Macherey−Nagel,#740625.4)を用いてEVO200(Tecan)で行われたミニプレップ調製後に得た。次いで、CHO細胞株のトランスフェクションの前に、プラスミドを配列の確認のために配列決定した。
【0149】
CHO細胞を、フェノールレッド及び6mM GlutaMaxが添加されたCD−CHO培地(Invitrogen)で増殖した。トランスフェクションの前日に、細胞をカウントし、175,000細胞/mlで播種した。トランスフェクションのために、細胞(200,000細胞/トランスフェクション)を、AMAXA SF細胞株キット(AMAXA,#V4XC−2032)に記載されているように調製し、Nucleofector 4D装置でDS137プロトコルを用いてヌクレオフェクトした。全てのトランスフェクションは、300ngの検証済みプラスミドを用いて行った。トランスフェクション後、細胞を、24ウェルプレートの予熱された培養培地に播種する。24時間後、ハイグロマイシンBを、培養培地に添加した(200μg/ml)。タンパク質の発現を、1週間後に培地で監視する。次いで、タンパク質を発現している細胞をサブクローニングして最高の産生株を得る。96平底ウェルプレートを用いて、200μg/mlのハイグロマイシンBが添加された200μlの培養培地に1細胞/ウェルで細胞を播種して、サブクローニングを行った。クローンの生産性を試験する前に、細胞を3週間放置した。
【0150】
IgG1−Fc断片を含む組換えタンパク質を、プロテインAビーズ(−rProteinA Sepharose fast flow,GE Healthcare,ref.:17−1279−03)を用いて精製する。簡単に述べると、細胞培養上清を濃縮し、遠心分離によって清澄化し、プロテインAカラムに注入し、組換えFc含有タンパク質を捕捉した。タンパク質を酸性pH(クエン酸0.1M pH3)で溶出し、TRIS−HCL pH8.5を用いて即座に中和し、1×PBSで透析した。「six his」タグを含む組換えscFvを、コバルト樹脂を用いてアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。他の組換えscFvを、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって精製した。
【0151】
形態3(F3):CD19−F3−NKp46−3
F3ポリペプチドのドメイン構造が図1Aに示されている。Fc部分のDNA及びアミノ酸配列は、同じポリペプチド鎖上の2つのCH3ドメインが互いに結合し、それにより、異なる二重特異的タンパク質間の二量体化が防止される直列型CH3ドメインを含んでいた。
【0152】
一本鎖ポリペプチドは、以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する。
(VK−VH)抗CD19−CH2−CH3−CH3−(VH−VK)抗NKp46
【0153】
(VK−VH)単位は、VHドメイン、リンカー、及びVK単位(scFv)から構成されていた。タンパク質を上記と同様にクローニングし、産生し、且つ精製した。二重特異的タンパク質を、prot−Aビーズを用いるアフィニティークロマトグラフィーによって細胞培養上清から精製し、分析し、且つSECによって精製した。このタンパク質は、3.4mg/Lの高い産生収率を示し、単純なSECプロフィール有していた。F3タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号10に示されている。
【0154】
形態4(F4):CD19−F4−NKp46−3
図1Aに「形態4」として示すドメイン配置scFvCD19−CH2(N297S)−CH3−CH3−scFvNkp46−3を有するタンパク質を構築した。Fc部分のDNA及びアミノ酸配列は、形態F3と同じく直列型CH3ドメインを含んだが、それに加え、N結合型グリコシル化を防止し且つFcγR結合を無効にするためにN297S突然変異を含んだ。上記のとおりタンパク質をクローニングし、産生し、精製した。細胞培養上清からprot−Aビーズを使用したアフィニティークロマトグラフィーによって二重特異的タンパク質を精製し、SECによって分析及び精製した。タンパク質は1mg/Lの良好な産生収率を示し、単純なSECプロフィールを有した。NKp46−3可変ドメインを含むF4タンパク質のアミノ酸配列は、配列番号11に示す。
【0155】
形態9(F9):CD19−F9−NKp46−3
F9ポリペプチドは、中心ポリペプチド鎖、及びそれぞれCH1−CKの二量体化によって中心鎖に結合された2つのポリペプチド鎖を有する三量体ポリペプチドである。三量体F9タンパク質のドメイン構造が図1Bに示されており、CH1とCKドメインとの間の結合は、鎖間ジスルフィド結合である。2つの抗原結合ドメインは、抗体がscFv形態で機能を支持するか否かにかかわらず、この抗体の使用を可能にするF(ab)構造を有する。Fc部分のDNA及びアミノ酸配列は、形態F4と同様の直列型CH3ドメイン及びN297S置換を含むCH2ドメインを含んでいた。F9タンパク質の3つの変異体を作製した:(a)ヒンジ領域のシステイン残基が完全なままである(野生型、F9Aと呼ばれる)、(b)ヒンジ領域のシステイン残基がセリン残基によって置換されている(F9B)、及び(c)リンカー配列GGGSSがヒンジの残基DKTHTCPPCPを置換している(F9C)。変異型F9B及びF9Cは、中心鎖のホモ二量体の形成を防止することによって作製に利点を提供した。このヘテロ三量体は、以下から構成される。
(1)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第1(中心)のポリペプチド鎖:
VH抗CD19−CH1−CH2−CH3−CH3−VH抗NKp46−CK、及び
(2)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第2のポリペプチド鎖:
VK抗NKp46−CH1、及び
(3)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第3のポリペプチド鎖:
VK抗CD19−CK
タンパク質を上記と同様にクローニングし、産生し、且つ精製した。二重特異的タンパク質を、prot−Aビーズを用いるアフィニティークロマトグラフィーによって細胞培養上清から精製し、分析し、且つSECによって精製した。このタンパク質は、8.7mg/L(F9A)及び3.0mg/L(F9B)の高い産生収率を示し、単純なSECプロフィールを有していた。
【0156】
F9タンパク質変異型F9Aの3つの鎖のアミノ酸配列は、配列番号12、13、及び14に示されている。F9タンパク質変異型F9Bの3つの鎖のアミノ酸配列は、配列番号12、15、及び14に示されている。F9タンパク質変異型F9Cの3つの鎖のアミノ酸配列は、配列番号12、16、及び14に示されている。
【0157】
形態10(F10):CD19−F9−NKp46−3
F10ポリペプチドは、中心ポリペプチド鎖、及びCH1−CKの二量体化によって中心鎖に結合された第2のポリペプチド鎖を有する二量体タンパク質である。二量体F10タンパク質のドメイン構造が図1Bに示され、CH1とCKドメインとの間の結合は、鎖間ジスルフィド結合である。2つの抗原結合ドメインの一方はFab構造を有し、且つ他方はscFvである。Fc部分のDNA及びアミノ酸配列は、形態F4と同様の直列型CH3ドメイン及びN297S置換を有するCH2ドメインを含んでいた。加えて、F10タンパク質の3つの変異体を作製した:(a)ヒンジ領域のシステイン残基が完全なままである(野生型、F10Aと呼ばれる)、(b)ヒンジ領域のシステイン残基がセリン残基によって置換されている(F10B、及び(c)リンカー配列GGGSS(配列番号28)がヒンジの残基DKTHTCPPCP(配列番号29)を置換している(F10C)。変異型F10B及びF10Cは、中心鎖のホモ二量体の形成を防止することによって作製に利点を提供した。(VK−VH)単位は、VHドメイン、リンカー、及びVK単位(scFv)から構成されていた。ヘテロ二量体は、以下から構成される。
(1)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第1(中心)のポリペプチド鎖:
VH抗CD19−CH1−CH2−CH3−CH3−(VH−VK)抗NKp46、及び
(2)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第2のポリペプチド鎖:
VK抗CD19−CK。
【0158】
タンパク質を上記と同様にクローニングし、産生し、且つ精製した。二重特異的タンパク質を、prot−Aビーズを用いるアフィニティークロマトグラフィーによって細胞培養上清から精製し、分析し、且つSECによって精製した。このタンパク質は、2mg/L(F10A)の良好な産生収率を示し、単純なSECプロフィールを有していた。F10Aタンパク質変異体の2つの鎖のアミノ酸配列は、配列番号17(第2鎖)及び配列番号18(第1鎖)に示されている。F10Bタンパク質変異体の2つの鎖のアミノ酸配列は、配列番号17(第2鎖)及び配列番号19(第1鎖)に示されている。F10Cタンパク質変異体の2つの鎖のアミノ酸配列は、配列番号17(第2鎖)及び配列番号20(第1鎖)に示されている。
【0159】
形態11(F11):CD19−F11−NKp46−3
F11ポリペプチドのドメイン構造が図1Cに示されている。このヘテロ二量体タンパク質は、F10に類似しているが、抗原結合ドメインの構造が逆である。2つの抗原結合ドメインの一方はFab様構造を有し、且つ他方はscFvである。このヘテロ二量体は、以下から構成される。
(1)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第1(中心)のポリペプチド鎖:
(VK−VH)抗CD19−CH2−CH3−CH3−VH抗NKp46−CK、及び
(2)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第2のポリペプチド鎖:
VK抗NKp46−CH1。
【0160】
タンパク質を上記と同様にクローニングし、産生し、且つ精製した。二重特異的タンパク質を、prot−Aビーズを用いるアフィニティークロマトグラフィーによって細胞培養上清から精製し、分析し、且つSECによって精製した。このタンパク質は、2mg/Lの良好な産生収率を示し、単純なSECプロフィールを有していた。F11タンパク質の2つの鎖のアミノ酸配列は、配列番号21(第1鎖)及び配列番号22(第2鎖)に示されている。
【0161】
形態12(F12):CD19−F12−NKp46−3
二量体F12ポリペプチドのドメイン構造が図1Cに示されており、CH1とCKドメインとの間の結合は、ジスルフィド結合である。このヘテロ二量体タンパク質は、F11に類似しているが、F(ab)構造内のCH1とCKドメインが逆である。このヘテロ二量体は、以下から構成される。
(1)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第1(中心)のポリペプチド鎖:
(VK−VH)抗CD19−CH2−CH3−CH3−VH抗NKp46−CH1、及び
(2)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第2のポリペプチド鎖:
VK抗NKp46−CK。
【0162】
タンパク質を上記と同様にクローニングし、産生し、且つ精製した。二重特異的タンパク質を、prot−Aビーズを用いるアフィニティークロマトグラフィーによって細胞培養上清から精製し、分析し、且つSECによって精製した。このタンパク質は、2.8mg/Lの良好な産生収率を示し、単純なSECプロフィールを有していた。F12タンパク質のDNA及びアミノ酸配列が、以下に示されている。F12タンパク質の2つの鎖のアミノ酸配列は、配列番号23(第1鎖)及び配列番号24(第2鎖)に示されている。
【0163】
形態17(F17):CD19−F17−NKp46−3
三量体F17ポリペプチドのドメイン構造が図1Cに示されており、CHとCKドメインとの間の結合はジスルフィド結合である。ヘテロ二量体タンパク質は、F9と同様であるが、VH及びVKドメイン、並びにC末端F(ab)構造内のCH1及びCKドメインは、それぞれ、それらのパートナーと逆である。このヘテロ二量体は、以下から構成される。
(1)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第1(中心)のポリペプチド鎖:
VH抗CD19−CH1−CH2−CH3−CH3−VK抗NKp46−CH1、及び
(2)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第2のポリペプチド鎖:
VH抗NKp46−CK、及び
(3)以下のように(N末端からC末端に)配置されたドメインを有する第3のポリペプチド鎖:
VK抗CD19−CK
加えて、F17タンパク質の3つの変異体を作製した:(a)ヒンジ領域のシステイン残基が完全なままである(野生型、F17Aと呼ばれる)、(b)ヒンジ領域のシステイン残基がセリン残基によって置換されえいる(F10B、及び(c)リンカー配列GGGSS(配列番号28)がヒンジの残基DKTHTCPPCP(配列番号29)を置換している(F17C)。タンパク質を上記と同様にクローニングし、産生し、且つ精製した。F17Bタンパク質の3つの鎖のアミノ酸配列は、配列番号25、26、及び27に示されている。
【0164】
実施例2:
表面プラズモン共鳴(SPR)による、二重特異的タンパク質によるNKp46結合親和性
Bacore T100の一般的な手順及び試薬
SPR測定を、Biacore T100装置(Biacore GE Healthcare)で、25℃で行った。全てのBiacore実験では、HBS−EP+(Biacore GE Healthcare)及びNaOH 10mMは、それぞれ泳動用緩衝液及び再生緩衝液としての役割を果たした。センサーグラムを、Biacore T100 Evaluationソフトウェアで分析した。プロテインAを(GE Healthcare)から購入した。ヒトNKp46組換えタンパク質を、クローニングし、産生し、且つInnate Pharmaで精製した。
【0165】
プロテインAの固定化
プロテインAタンパク質を、Sensor Chip CM5上のデキストラン層のカルボキシル基に共有結合により固定した。チップ表面を、EDC/NHS(N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩及びN−ヒドロキシスクシンイミド(Biacore GE Healthcare))で活性化した。プロテインAを、結合緩衝液(10mM酢酸、pH5.6)で10μg/mlに希釈し、適切な固定化レベル(即ち、2500RU)に達するまで注入した。残りの活性化基の不活性化を、100mMエタノールアミン pH8(Biacore GE Healthcare)を用いて行った。
【0166】
結合試験
NKp46−3抗体由来の抗NKp46可変領域を有する種々の形態F3、F4、F9、F10、F11としての二重特異的タンパク質を試験し、完全長ヒトIgG1としてのNKp46−3抗体と比較した。
【0167】
1μg/mLの二重特異的タンパク質をプロテインAチップ上に捕捉し、捕捉された二重特異的抗体上に5μg/mLの組換えヒトNKp46タンパク質を注入した。ブランク差し引きのため、NKp46タンパク質をランニング緩衝液に置き換えて再度サイクルを実施した。
【0168】
親和性試験
一価親和性試験を、製造者(Biacore GE Healthcare kinetic wizard)が推奨する正規のCapture−Kineticプロトコルに従って行った。62.5〜400nMの範囲のヒトNKp46組換えタンパク質の7段階希釈物を、捕捉した二重特異的抗体に連続的に注入し、再生の10分前に解離させた。全てのセンサーグラムのセットを、1:1動態結合モデルを用いてフィッティングした。
【0169】
結果
SPRから、形態F3、F4、F9、F10及びF11の全ての二重特異的ポリペプチドがNKp46との結合を維持したことが示された。一価親和性及び動力学的結合及び解離速度定数を以下の表3に示す。
【0170】
【表3】
【0171】
実施例3:
NKp46作用機序
CD16−/NKp46+ NK細胞株がCD19陽性腫瘍標的細胞を溶解するように仕向ける機能的能力に関して、実施例1に記載するF3形態に従う配置を有するNKp46×CD19二重特異的タンパク質をリツキシマブ(抗CD20 ADCC誘導抗体)及びヒトIgG1アイソタイプ対照抗体と比較した。
【0172】
簡単に述べると、CD16−/NKp46+ヒトNK細胞株KHYG−1の細胞溶解活性を、U底96ウェルプレートで、典型的な4時間の51Cr放出アッセイで評価した。Daudi細胞又はB221細胞を51Cr(50μCi(1.85MBq)/1×10細胞)で標識し、次いで、1/5希釈(n=8の濃度)で10−7mol/mLから始まる希釈範囲の試験抗体の存在下、50:1に等しいエフェクター/標的比でKHYG−1と混合した。
【0173】
短時間の遠心分離及び37℃で4時間のインキュベーション後、50μLの上清を取り出して、LumaPlate(Perkin Elmer Life Sciences,Boston,MA)に移し、51Crの放出をTopCount NXTベータ検出器(PerkinElmer Life Sciences,Boston,MA)で測定した。全ての実験条件を3連で分析し、特異的溶解のパーセンテージを以下のように決定した:100×(平均cpm実験放出−平均cpm自然放出)/(平均cpm総放出−平均cpm自然放出)。総放出のパーセンテージは、2% Triton X100(Sigma)での標的細胞の溶解によって得られ、自然放出は、培地(エフェクターもAbsも含まない)中の標的細胞に一致する。
【0174】
結果
KHYG−1 hNKp46 NK実験モデルにおいて、各NKp46×CD19二重特異的タンパク質は、ヒトKHYG−1 hNKp46 NK細胞株によるDaudi又はB221細胞の特異的溶解を誘導し、一方、リツキシマブ及びヒトIgG1アイソタイプ対照(IC)抗体はそれを誘導しなかった。
【0175】
実施例4:
様々な二重特異的形態のFcRnに対する結合性
様々な抗体形態のヒトFcRnに対する親和性について、表面プラズモン共鳴(SPR)により、組換えFcRnタンパク質をセンサーチップCM5上のデキストラン層のカルボキシル基に共有結合的に固定化することによって調べた。ヒトIgG1定常領域を有するキメラ完全長抗CD19抗体、及び実施例1に記載するF3、F4、F9、F10、又はF11形態に係る配置を有するNKp46×CD19二重特異的タンパク質を試験した。各分析物について、定常状態又は1:1 SCK結合モデルを用いてセンサーグラム全体をフィッティングした。
【0176】
Biacore T100の概略手順及び試薬
SPR測定をBiacore T100装置(Biacore GE Healthcare)において25℃で実施した。全てのBiacore実験において、酢酸塩緩衝液(50mM酢酸塩 pH5.6、150mM NaCl、0.1%界面活性剤p20)及びHBS−EP+(Biacore GE Healthcare)をそれぞれランニング緩衝液及び再生緩衝液として用いた。センサーグラムはBiacore T100 Evaluationソフトウェアで分析した。組換えマウスFcRnはR&D Systemsから購入した。
【0177】
FcRnの固定化
組換えFcRnタンパク質をセンサーチップCM5上のデキストラン層のカルボキシル基に共有結合的に固定化した。チップ表面をEDC/NHS(N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩及びN−ヒドロキシスクシンイミド(Biacore GE Healthcare))で活性化した。FcRnタンパク質をカップリング緩衝液(10mM酢酸塩、pH5.6)中10μg/mlに希釈し、適切な固定化レベル(即ち2500RU)に達するまで注入した。100mMエタノールアミンpH8(Biacore GE Healthcare)を使用して、残りの活性化基の不活性化を実施した。
【0178】
親和性試験
シングルサイクルキネティクス(SCK)プロトコルに従い一価親和性試験を行った。41.5〜660nMの範囲の可溶性分析物(抗体及び二重特異的分子)の5段階希釈物をFcRn上に注入し(再生なし)、10分間解離させた後、再生した。各分析物について、1:1 SCK結合モデルを用いてセンサーグラム全体をフィッティングした。
【0179】
結果
結果を以下の表4に示す。単量体Fcドメインを含む二重特異的タンパク質(F3、F4、F9、F10、F11)はFcRnとの結合性を示した。二量体Fcドメインを有するヒトIgG1/K抗CD19抗体は7.8のKD(nM)を示した。
【0180】
【表4】
【0181】
表題及び副題は、本明細書では便宜のためにのみ使用され、本発明を限定すると決して一切解釈するべきではない。上述の要素の全ての可能なバリエーションでのあらゆる組み合わせが、本明細書に特段の記載がない限り、又は文脈から他の旨である場合を除き、本発明に包含される。本明細書で述べられた値の範囲は、本明細書に特段の記載がない限り、範囲内に含まれるそれぞれの別個の値について個々に述べられる省略方法の役割を単に果たすものであり、それぞれの別個の値は、本明細書で個々に述べられたかのように本明細書に包含される。特段の記載がない限り、本明細書に記載される全ての正確な値は、対応するおおよその値を代表する(例えば、特定の因子又は測定値に関して記載される全ての正確な例示的な値は、適切な場合には「約」によって変更される、対応するおおよその測定値を示すものと見なすことができる)。
【0182】
本明細書に記載の全ての方法は、本明細書に特段の記載がない限り、又は文脈から他の旨である場合を除き、任意の適切な順序で行うことができる。
【0183】
本明細書に記載されるあらゆる例又は例示的な語(例えば、「〜など」)の使用は、単に本発明をより明確にするためのものであり、特段の記載がない限り、本発明の範囲を限定するものではない。明確な記載がない限り、いずれの要素も本発明の実施に不可欠であることを示すと解釈される語は本明細書には存在しない。
【0184】
語、例えば、1つ又は複数の要素を指す語を用いた、本発明の任意の態様又は実施形態の本明細書の説明は、特段の記載がない限り、又は文脈から明確に他の旨である場合を除き、その1つ又は複数の特定の要素「からなる」、「から実質的になる」、又は「を実質的に含む」本発明の同様の態様又は実施形態を支援するためである(例えば、特定の要素を含むとして本明細書に記載される組成物は、特段の記載がない限り、又は文脈から明確に他の旨である場合を除き、その要素からなる組成物の記載でもあることを理解されたい)。
【0185】
本発明は、適用される法律によって許容される最大程度まで、本明細書に記載される態様又は請求項で述べられる主題の全ての変更形態及び均等物を含む。
【0186】
本明細書で述べられる全ての刊行物及び特許出願は、それぞれの個々の刊行物又は特許出願が、参照により含められると具体的且つ個別に示されたかのように、参照によりそれらの全内容が本明細書に組み入れられる。
【0187】
前述の本発明は、理解を明確にするために例示及び例によってある程度詳細に説明されたが、当業者であれば、添付の特許請求の趣旨又は範囲から逸脱することなく、特定の変形形態及び変更形態をなし得ることが本発明の教示から明白であろう。
図1A
図1B
図1C
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]