(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記第1および/または第2の結合ドメインが、軽鎖免疫グロブリン可変領域(VL1)および重鎖免疫グロブリン可変領域(VH1)を含み、該可変領域が、VH1-VL1またはVL1-VH1の配置で位置する、請求項1〜3のいずれか1項に記載のタンパク質。
4-1BB/TNFRSF9に結合しない結合ドメインが、配列番号2、配列番号4、配列番号6、配列番号107または配列番号109のアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のタンパク質。
4-1BB/TNFRSF9に結合しない結合ドメインが、腫瘍抗原、B細胞標的、TNF受容体スーパーファミリーメンバー、ヘッジホッグファミリーメンバー、受容体チロシンキナーゼ、プロテオグリカン関連分子、TGF-βスーパーファミリーメンバー、Wnt関連分子、受容体リガンド、T細胞標的、樹状細胞標的、NK細胞標的、単球/マクロファージ細胞標的および血管形成標的からなる群より選択される標的に結合する、請求項1〜4および7のいずれか1項に記載のタンパク質。
前記腫瘍抗原が、扁平細胞癌抗原1、扁平細胞癌抗原2、卵巣癌抗原CA125、ムチン1、CTCL腫瘍抗原se1-1、CTCL腫瘍抗原se14-3、CTCL腫瘍抗原se20-4、CTCL腫瘍抗原se20-9、CTCL腫瘍抗原se33-1、CTCL腫瘍抗原se37-2、CTCL腫瘍抗原se57-1、CTCL腫瘍抗原se89-1、前立腺特異的膜抗原、5T4癌胎児性栄養芽細胞糖タンパク質、Orf73カポジ肉腫関連ヘルペスウイルス、MAGE-C1、MAGE-B1抗原、MAGE-B2抗原、MAGE-2抗原、MAGE-4a抗原、MAGE-4b抗原、結腸癌抗原NY-CO-45、肺癌抗原NY-LU-12変異体A、癌関連表面抗原、腺癌抗原ART1、腫瘍随伴関連脳-精巣-癌抗原、神経腫瘍腹側抗原2、肝細胞癌抗原遺伝子520、腫瘍関連抗原CO-029、腫瘍関連抗原MAGE-X2、滑膜肉腫X切断点2、T細胞によって認識される扁平細胞癌抗原、血清学的に定義された結腸癌抗原1、血清学的に定義された乳癌抗原NY-BR-15、血清学的に定義された乳癌抗原NY-BR-16、クロモグラニンA;副甲状腺分泌性タンパク質1、DUPAN-2、CA19-9、CA72-4、CA195およびL6からなる群より選択される、請求項8に記載のタンパク質。
自己免疫疾患が、関節リウマチ、骨関節炎、乾癬性関節炎、乾癬、炎症性腸疾患、クローン病、潰瘍性大腸炎、喘息、全身性エリテマトーデス(SLE)、糖尿病、多発性硬化症、実質臓器移植片拒絶、および移植片対宿主病(GVHD)からなる群より選択される、請求項17に記載のタンパク質。
【背景技術】
【0002】
健康な哺乳動物では、免疫系が身体を外来物質および病原体からの損傷から保護する。しかし、一部の事例では、免疫系が失敗し、外傷傷害および/または疾患が生じる。例えば、B細胞は、外来タンパク質ではなく自己タンパク質を認識する抗体を産生することができ、これにより、エリテマトーデス、関節リウマチなどの自己免疫疾患に特徴的な自己抗体が産生される。他の事例では、臓器移植後など、外来物質と闘う免疫系の典型的には有益な効果が逆効果となる。哺乳動物の免疫系、特にヒト免疫系の力が認識されており、異常環境(例えば臓器移植)における免疫系の正常な機能または他の点では見かけ上正常な環境における免疫系の異常機能(例えば自己免疫疾患の進行)のどちらかから生じる、健康に対する有害な結果を回避または緩和するために系を制御する努力がなされている。さらに、抗体が抗原標的を特異的に認識し、特異性を持って結合する能力に依存する、免疫系を利用したいくつかの標的特異的な診断方法および治療方法を提供する努力がなされている。
【0003】
免疫系が身体を保護する1つの方法は、Bリンパ球またはB細胞と呼ばれる特殊化細胞の産生によるものである。B細胞は、外来物質または病原体と結合し、一部の事例ではその破壊を媒介する抗体を産生する。しかし、一部の事例では、ヒト免疫系、具体的にはヒト免疫系のBリンパ球が失敗し、疾患が生じる。B細胞の非制御増殖に関与する数々の癌が存在する。また、B細胞による、外来物質および病原体と結合する代わりに身体部分と結合する抗体の産生に関与する数々の自己免疫疾患も存在する。さらに、例えばT細胞に対する不適切なB細胞抗原提示によって、またはB細胞に関与する他の経路によって、B細胞の病理学に関与する数々の自己免疫疾患および炎症性疾患が存在する。例えば、B細胞を欠く自己免疫を起こしやすいマウスは、自己免疫性の腎臓病、血管炎または自己抗体を発生しない。(Shlomchik他、J Exp.Med.1994、180:1295-306)。興味深いことに、B細胞を保有するが免疫グロブリンの産生を欠くこれら同じ自己免疫を起こしやすいマウスは、実験的に誘発した際に自己免疫疾患を発生し(Chan他、J Exp.Med.1999、189:1639-48)、これは、B細胞が自己免疫疾患の発生において不可欠な役割を果たすことを示している。
【0004】
B細胞は、その細胞表面上の分子によって同定することができる。モノクローナル抗体によって同定された、最初のヒトB細胞系列特異的表面分子はCD20であった。これは、そのアミノおよびカルボキシ末端がどちらも細胞内に位置する、グリコシル化されていない疎水性の35kDaのB細胞膜貫通リンタンパク質である。Einfeld他、EMBO J.1988、7:711-17。CD20はすべての正常な成熟B細胞によって発現されるが、前駆B細胞または形質細胞によっては発現されない。CD20に対する天然リガンドは同定されておらず、B細胞生物学におけるCD20の機能の理解は依然として不完全である。
【0005】
別のB細胞系列特異的細胞表面分子はCD37である。CD37は、細胞表面抗原のテトラスパニン膜貫通ファミリーに属する、高度にグリコシル化された40〜52kDaのタンパク質である。これは細胞膜を4回横断して2つの細胞外ループを形成し、そのアミノおよびカルボキシ末端を細胞質に曝す。CD37は正常な抗体産生(sIg+)B細胞上で高度に発現されるが、前B細胞または形質細胞上では発現されない。静止および活性型T細胞、単球および顆粒球上でのCD37の発現は低く、NK細胞、血小板または赤血球上では検出可能なCD37の発現は存在しない。Belov他、Cancer Res.、61(11):4483-4489(2001);Schwartz-Albiez他、J.Immunol.、140(3):905-914(1988);およびLink他、J.Immunol.、137(9):3013-3018(1988)を参照されたい。正常なB細胞以外では、CLL、NHL、および有毛細胞白血病を含めたB細胞起源のほぼすべての悪性疾患がCD37の発現に対して陽性である(Moore他、1987;MersonおよびBrochier 1988;Faure他、1990)。CD37を欠くマウスは血清IgG1のレベルが低く、また、ウイルス抗原およびモデル抗原に対するその液性応答が損なわれていたことが見出されたので、CD37は、B細胞機能の調節に関与している。これは、非古典的な共刺激分子として、またはMHCクラスII分子との複合体形成を介して抗原提示に直接影響を与えることによって作用すると考えられる。Knobeloch他、Mol.Cell.Biol.、20(15):5363-5369(2000)を参照されたい。
【0006】
研究および薬剤開発は、CD37およびCD20などのB細胞系列特異的細胞表面分子自体が、その表面上にCD37およびCD20を有する癌および自己免疫疾患を引き起こすB細胞と結合し、その破壊を媒介する抗体の標的となることができるという概念に基づいて行われている。CD37またはCD20と結合する非ヒト動物内で作製された抗体(または作製された抗体に基づく抗体)を、癌または自己免疫疾患を引き起こすB細胞を枯渇させるために患者に与え、これを「免疫療法」と呼ぶ。
【0007】
モノクローナル抗体技術および遺伝子操作方法により、ヒト疾患を診断および治療するための免疫グロブリン分子の開発が促進されている。免疫グロブリンのドメイン構造は、抗原結合ドメインおよびエフェクター機能を与えるドメインを免疫グロブリンクラスとサブクラスとの間で交換し得るという点で操作しやすい。免疫グロブリンの構造および機能は、例えば、Harlow他編、Antibodies:A Laboratory Manual、第14章、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor(1988)に総説されている。組換え抗体技術のすべての側面に関する大規模な手引きおよび詳細な情報は、教科書、「Recombinant Antibodies」、(John Wiley & Sons、ニューヨーク、1999)中に見つけることができる。詳細な抗体操作の実験室プロトコルの包括的なコレクションは、R.KontermannおよびS.Dubel(編)、「The Antibody Engineering Lab Manual」、(Springer Verlag、Heidelberg/ニューヨーク、2000)中に見つけることができる。
【0008】
免疫グロブリン分子(Igと略す)とは、典型的には、鎖間ジスルフィド結合、すなわち、隣接するシステイン残基のスルフヒドリル基間の共有結合によって巨大分子複合体へと結合されている、2つの同一の軽鎖ポリペプチドおよび2つの同一の重鎖ポリペプチド(H
2L
2)からなる多量体タンパク質である。5つのヒト免疫グロブリンクラスがその重鎖の組成に基づいて定義されており、IgG、IgM、IgA、IgE、およびIgDと呼ばれる。IgGクラスおよびIgAクラスの抗体は、サブクラス、すなわち、それぞれIgG1、IgG2、IgG3、およびIgG4、ならびにIgA1およびIgA2へとさらに分類される。鎖内ジスルフィド結合は、同じポリペプチド鎖の異なる領域を結合し、これにより、隣接アミノ酸と共に免疫グロブリンドメインを構成するループが形成される。アミノ末端部分では、それぞれの軽鎖およびそれぞれの重鎖は、抗体毎に相当なアミノ酸組成の変動を示す、単一の可変領域を有する。軽鎖可変領域、V
Lは、単一の抗原結合ドメインを有し、重鎖の可変領域、V
H(やはり単一の抗原結合ドメインを含む)と会合して、免疫グロブリンの抗原結合部位、Fvを形成する。
【0009】
可変領域に加えて、完全長抗体鎖のそれぞれは、1つまたは複数のドメインを含む定常領域を有する。軽鎖は、単一のドメインを含む定常領域を有する。したがって、軽鎖は1つの可変ドメインおよび1つの定常ドメインを有する。重鎖は、いくつかのドメインを含む定常領域を有する。IgG、IgA、およびIgD抗体中の重鎖は3つのドメインを有し、これらはC
H1、C
H2、およびC
H3と呼ばれ;IgMおよびIgE抗体中の重鎖は4つのドメイン、C
H1、C
H2、C
H3およびC
H4を有する。したがって、重鎖は1つの可変ドメインおよび3つまたは4つの定常ドメインを有する。これらのドメインがすべての既知の種において不変の組成であり、1つまたは複数のドメインを含む定常領域が免疫グロブリン分子の軽鎖および重鎖の両方のC末端の場所またはその付近に位置し、可変ドメインが軽鎖および重鎖のN末端に向かって位置することは、注目すべきである。免疫グロブリンの構造および機能は、例えば、Harlow他編、Antibodies:A Laboratory Manual、第14章、Cold Spring Harbor Laboratory、Cold Spring Harbor(1988)に総説されている。
【0010】
また、免疫グロブリンの重鎖は、3つの機能的領域、すなわち、Fd領域(V
HおよびC
H1、すなわち重鎖の2つのN末端ドメインを含む断片)、ヒンジ領域、ならびにFc領域(「断片結晶化可能」領域)へと分類することができる。Fc領域は、細胞上の免疫グロブリン受容体および補体カスケードの初期要素と相互作用するドメインを含む。したがって、Fc領域または断片は一般に、免疫グロブリンのエフェクター機能、例えばADCC(抗体依存性細胞媒介性細胞傷害)、CDC(補体依存性細胞傷害)および補体結合、Fc受容体との結合、F
C領域を欠くポリペプチドと比較してより長いin vivo半減期、プロテインA結合、およびおそらくは胎盤通過をも司っていると考えられている。Capon他、Nature、337:525-531、(1989)。さらに、Fc領域を含むポリペプチドは、ポリペプチドの二量体化/多量体化を可能にする。これらの用語は、他の免疫グロブリンの類似領域にも用いる。
【0011】
すべてのヒト免疫グロブリンアイソタイプは認識可能な構造を共通して含むが、それぞれのアイソタイプは明確に異なるエフェクター機能のパターンを示す。IgGは、完全ではない例として、毒素およびウイルスを中和し、オプソニン化し、補体を固定し(CDC)、ADCCに関与する。対照的に、IgMは、血液由来の病原体を中和し、オプソニン化に関与する。IgAは、その分泌片を会合した際に分泌され、粘膜を介した微生物感染に対する一次防御をもたらす。また、これは毒素を中和し、オプソニン化を支援する。IgEは炎症反応を媒介し、完全応答を開始するために必要な他の細胞の収集に中心的に関与している。IgDは、B細胞の活性化を制御する免疫調節機能をもたらすことが知られている。アイソタイプのエフェクター機能のこれらの特徴づけは、ヒトのアイソタイプ間で見出される差異の包括的でない例示を提供する。
【0012】
IgG、IgA、IgD、およびIgEクラスの抗体中で見つかるヒンジ領域は柔軟なスペーサーとして働き、これにより、Fab部分が空間内で自由に動くことが可能となる。定常領域とは対照的に、ヒンジドメインは構造的に多様であり、免疫グロブリンクラスおよびサブクラス間で配列および長さがどちらも変動する。例えば、ヒンジ領域の長さおよび柔軟性はIgGサブクラス間で変動する。IgG1のヒンジ領域はアミノ酸216〜231を包含し、これは自由に柔軟であるので、Fab断片は、その対称軸の周りを回転し、2つの重鎖間ジスルフィド橋のうちの最初の橋を中心とする球内を動くことができる。IgG2はIgG1よりも短いヒンジを有し、12個のアミノ酸残基および4つのジスルフィド橋を有する。IgG2のヒンジ領域は、グリシン残基を欠き、比較的短く、余分な重鎖間ジスルフィド橋によって安定化された強固なポリプロリン二重らせんを含む。このような特性はIgG2分子の柔軟性を制限する。IgG3は、その独特な伸長したヒンジ領域(IgG1ヒンジと同じ長さまで約4倍)によって他のサブクラスとは異なり、62個のアミノ酸(21個のプロリンおよび11個のシステインを含む)を含んで柔軟性のないポリプロリン二重らせんを形成する。IgG3中では、Fab断片はFc断片から比較的遠くに位置し、これにより、分子により大きな柔軟性が与えられる。また、IgG3中の伸長したヒンジは、他のサブクラスと比較してより高いその分子量の原因ともなっている。IgG4のヒンジ領域はIgG1よりも短く、その柔軟性はIgG1およびIgG2の中間である。ヒンジ領域の柔軟性はIgG3>IgG1>IgG4>IgG2の順番で低下すると報告されている。また、4つのIgGサブクラスは、そのエフェクター機能に関しても互いに異なる。この差異は、可変領域、Fab断片、および定常Fc断片間の相互作用に関する差異を含めた構造の差異に関連する。
【0013】
結晶学的研究によれば、免疫グロブリンヒンジ領域は、3つの領域、すなわち、上部ヒンジ領域、コア領域、および下部ヒンジ領域へと、機能的にさらに細分類することができる。Shin他、1992 Immunological Reviews 130:87。上部ヒンジ領域には、C
H1のカルボキシル末端から、動きを制限するヒンジ中の最初の残基、一般には2本の重鎖間で鎖間ジスルフィド結合を形成する最初のシステイン残基までのアミノ酸が含まれる。上部ヒンジ領域の長さは、抗体の分節性の柔軟性と相関する。コアヒンジ領域は重鎖間ジスルフィド橋を含み、下部ヒンジ領域はC
H2ドメインのアミノ末端を結合し、これにはC
H2中の残基が含まれる。同上。ヒトIgG1のコアヒンジ領域は配列Cys-Pro-Pro-Cysを含み、これは、ジスルフィド結合の形成によって二量体化された際に、ピボットとして働くと考えられている環状オクタペプチドを生じ、したがって柔軟性が与えられる。また、ヒンジ領域は、いくつかの構造的に明確に異なる種類の炭水化物結合部位が含まれる、1つまたは複数のグリコシル化部位を含んでもよい。例えば、IgA1はヒンジ領域の17個のアミノ酸のセグメント内に5個のグリコシル化部位を含み、これにより、ヒンジ領域ポリペプチドに、分泌性免疫グロブリンの有利な特性とみなされている腸管プロテアーゼに対する耐性が与えられる。
【0014】
免疫グロブリンヒンジ領域のポリペプチド配列の構造および柔軟性によって許容されるコンホメーション変化も、抗体のFc部分のエフェクター機能に影響を与え得る。Fc領域と関連するエフェクター機能の3つの一般的な分類には、(1)古典的な補体カスケードの活性化、(2)エフェクター細胞との相互作用、および(3)免疫グロブリンの区画化が含まれる。異なるヒトIgGサブクラスでは、それらが補体を固定する、または補体カスケードのステップを活性化および増幅する相対効率が異なる。例えば、Kirschfink、2001 Immunol.Rev.180:177;Chakraborti他、2000 Cell Signal 12:607;Kohl他、1999 Mol.Immunol.36:893;Marsh他、1999 Curr.Opin.Nephrol.Hypertens.8:557;Speth他、1999 Wien Klin.Wochenschr.111:378を参照されたい。
【0015】
従来の抗体のH
2L
2構造の例外は、ラクダ科動物(camelid)(ラクダ(camel)、ヒトコブラクダ(dromedary)およびラマ(llama);Hamers-Casterman他、1993 Nature 363:446;Nguyen他、1998 J.Mol.Biol 275:413)、テンジクザメ(nurse shark)(Roux他、1998 Proc.Nat.Acad.Sci.USA 95:11804)、ならびにスポッテッドラットフィッシュ(spotted ratfish)(Nguyen他、2002 Immunogenetics 54(1):39-47)中に見つかる免疫グロブリンの一部のアイソタイプで起こる。これらの抗体は、重鎖可変領域のみを使用して抗原結合領域を見かけ上形成することができる、すなわち、これらの機能的抗体は重鎖のみのホモ二量体である(「重鎖抗体」または「HCAb」と呼ばれる)。疾患の診断および治療における抗体技術の利点にもかかわらず、全抗体技術の診断的および/または治療的試薬としての開発には一部不利な形態が存在する。全抗体は、IgGアイソタイプのヘテロ四量体構造によって例示される大きなタンパク質構造であり、2本の軽鎖および2本の重鎖を含む。そのような大分子は特定の応用においては立体的に障害となる。例えば、固形腫瘍の治療では、全抗体は腫瘍の内部に容易に貫通しない。さらに、全抗体の比較的大きなサイズは、そのような分子のin vivo投与が免疫応答を確実に誘発しないようにすることに対して課題を提示する。さらに、活性抗体分子の作製は、典型的には、新生抗体分子の適切な翻訳後プロセシングを提供することができる組換え真核細胞の培養を含み、そのような細胞は、培養が困難であり、また、活性抗体を商業用に有用な収率でもたらす様式で誘導することが困難である可能性がある。
【0016】
最近では、全免疫グロブリン方法に関連する問題に打ち勝つために、より小さな免疫グロブリン分子が構築されている。単鎖可変抗体断片(scFv)は、短いペプチドを介して抗体軽鎖可変ドメインと結合した抗体重鎖可変ドメインを含む(Huston他、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、1988、85:5879-83)。scFv分子の小さなサイズにより、これらは、全免疫グロブリンよりも有効な組織内への貫通を示す。抗腫瘍scFvは、対応するキメラ抗体と比較して、より迅速な腫瘍貫通および腫瘍塊にわたってより均一な分布を示した(Yokota他、Cancer Res.1992、52:3402-08)。
【0017】
scFv分子が血清療法にもたらす利点にもかかわらず、この治療手法にはいくつかの欠点が存在する。scFvは循環から迅速に排除され、これは正常細胞において毒性効果を軽減し得るが、このような迅速な排除は最小有効用量の標的組織への送達を妨害する。患者に投与するために十分な量のscFvの製造は、収率に悪影響を与えるscFvの発現および単離の困難が原因で、挑戦的となっている。発現中、scFv分子は安定性を欠き、異なる分子の可変領域の対合が原因でしばしば凝集する。さらに、哺乳動物発現系におけるscFv分子の産生レベルは低く、治療用のscFv分子の効率的な製造の潜在性が制限される(Davis他、J Biol.Chem.1990、265:10410-18);Traunecker他、EMBO J 1991、10:3655-59)。可変領域にグリコシル化部位を付加することを含めた、産生を改善する戦略が調査されている(Jost,C.R.、米国特許第5,888,773号、Jost他、J.Biol.Chem.1994、69:26267-73)。
【0018】
scFvを治療に使用する別の不利な点は、エフェクター機能の欠如である。免疫グロブリンの定常領域に関連する抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)および補体依存性細胞傷害(CDC)などの、細胞溶解機能を有さないscFvは、疾患の治療に無効であり得る。scFv技術の開発は12年以上前に開始されたが、現在、治療に認可されているscFv製品は存在しない。
【0019】
あるいは、scFvと毒素などの別の分子との融合は、特定の抗原結合活性およびscFvの小さなサイズの利点をとり、毒素を標的組織に送達できることが提案されている。Chaudary他、Nature 1989、339:394;Batra他、Mol.Cell.Biol.1991、11:2200。したがって、毒素とscFvとのコンジュゲーションまたは融合が強力かつ抗原に特異的な分子を提供する代替戦略として提供されるが、そのようなコンジュゲートまたはキメラと共に投薬することは、そのような調製物の毒素部分が原因で過剰および/または非特異的な毒性によって制限される可能性がある。毒性効果には、肝臓酵素の超生理的上昇および血液漏出症候群、ならびに他の望ましくない効果が含まれ得る。さらに、免疫毒素自体が宿主に投与した際に免疫原性が高く、免疫毒素に対して産生される宿主抗体が個体の繰り返し治療処置の潜在的な有用性を制限する。
【0020】
外部照射および化学療法などの非外科的癌治療は、これらの治療が癌細胞に対する特異性を欠くので、正常な組織および細胞に対する毒性効果が原因で制限された有効性を受ける可能性がある。この制限に打ち勝つために、それを必要としている細胞および組織に対する治療の特異性を増大するための標的化治療方法が開発されている。in vivo使用のためのそのような標的化方法の例は抗体コンジュゲートの投与であり、抗体は、治療を必要としている細胞または組織と関連しているマーカーを特異的に認識するように設計されており、抗体は、癌治療の場合は毒素などの治療剤とコンジュゲートしている。全身性薬剤としての抗体は、骨髄などの敏感かつ望ましくない身体区画まで循環する。急性照射傷害では、リンパ系および造血区画の破壊は、敗血症の発生および続く死における主要な要因である。さらに、抗体は、治療を必要としている組織の良好でない浸透を示す可能性がある大きな球状タンパク質である。
【0021】
様々な末期疾患プロセスを患っているヒト患者および非ヒト被験体は、しばしば臓器移植を必要とする。しかし、臓器移植は、レシピエントの厄介な免疫応答と争い、リンパ系および造血系の他の部分に影響を与える細胞傷害剤を用いて外来器官に対するレシピエントの細胞性免疫応答を低下させることによって、移植した器官の免疫拒絶に対して保護しなければならない。移植片の許容は、その多くが抗癌(抗増殖)剤に類似しているこれらの細胞毒性化学薬品に対するレシピエントの寛容によって制限される。同様に、細胞傷害性抗微生物剤、特に抗ウイルス薬を使用する場合、または自己免疫疾患の治療用の細胞傷害性薬物を使用する場合、例えば、全身性エリテマトーデスの治療においては、重大な制限は、身体の骨髄および造血細胞に対する治療剤の毒性効果である。
【0022】
標的抗体コンジュゲート治療などの標的化治療の使用は、可能な限り最大量の治療剤を所望の作用の部位に局在化させるように設計されており、そのような治療の成功は、治療剤の比較的高いシグナル対バックグラウンド比によって示される。標的抗体の例には、抗体または抗体断片、細胞または組織に特異的なペプチド、およびホルモンならびに他の受容体結合分子の、診断剤または治療剤のコンジュゲートが含まれる。例えば、病的細胞および正常細胞ならびに病原性微生物に関連する様々な決定要因に対する抗体が、広範な病的状態または病変の検出および治療に用いられている。これらの方法では、標的抗体は、例えば、Hansen他、米国特許第3,927,193号ならびにGoldenberg、米国特許第4,331,647号、同第4,348,376号、同第4,361,544号、同第4,468,457号、同第4,444,744号、同第4,460,459号、同第4,460,561号、同第4,624,846号および同第4,818,709号に記載されているように、適切な検出剤または治療剤と直接コンジュゲートしている。
【0023】
直接標的化方法、すなわち、診断剤または治療剤(「活性剤」)を標的部分に直接コンジュゲートさせる方法で遭遇する1つの問題は、コンジュゲートの比較的小さな画分が実際に標的部位と結合する一方で、コンジュゲートの大多数が循環中に留まり、何らかの方法で標的コンジュゲートの機能を損なうことである。活性剤の最大の局在化を確実に行うために、典型的には過剰の標的コンジュゲートを投与し、それによって、コンジュゲートの一部が未結合に保たれて活性剤のバックグラウンドレベルに寄与することが確実となる。診断的コンジュゲート、例えば、その標的と結合しない放射免疫シンチグラフィーまたは磁気共鳴画像法のコンジュゲートは循環中に留まることができ、したがって、バックグラウンドが増加し、診断技術の解像度が低下する。活性剤として、抗体などの長期循環標的部分と付着した毒素(例えば、放射性同位体、薬物または毒性化合物)を有する治療コンジュゲートの場合、循環コンジュゲートは髄毒性または全身性副作用などの許容されない毒性を宿主にもたらす場合がある。
【0024】
米国特許第4,782,840号は、手術中に上昇したバックグラウンド照射レベルの効果を軽減させる方法を開示している。この方法は、患者に新生物組織特異的抗体を注射することを含み、抗体は、ヨウ素-125などの適切に長い半減期を有する放射性同位体で標識する。放射標識した抗体を注射した後、未結合の放射標識した抗体をすべて低いバックグラウンドレベルまで排除させるために、手術を少なくとも7〜10日間、好ましくは14〜21日間遅らせる。
【0025】
米国特許第4,932,412号は、術中検出中の非特異的なバックグラウンド照射を低下または補正する方法を開示している。この方法には、放射標識した一次抗体を受けた患者に、造影剤、減剤(subtraction agent)または一次抗体と結合する二次抗体を投与することが含まれる。
【0026】
上述の抗体の産生は別として、免疫系には強力な生物学的効果を有する様々な細胞種が含まれる。造血中、骨髄由来の幹細胞は、免疫系の成熟細胞(「B」細胞)または、骨髄から遊走して出て行き、胸腺中で成熟する細胞の前駆体(「T」細胞)のどちらかに分化する。
【0027】
B細胞は免疫応答の液性構成要素に中心的である。B細胞は抗原の適切な提示によって活性化されて、抗体を分泌する形質細胞となる。また、抗原提示は活性B細胞のクローン増殖ももたらす。B細胞は、主に免疫応答の液性構成要素を司る。形質細胞は、典型的にはその表面上に約10
5個の抗体分子(IgDおよびIgM)を示す。
【0028】
Tリンパ球は2つの分類に分類することができる。細胞傷害性T細胞、Tcリンパ球、すなわちCTL(CD8+T細胞)は、クラスI MHCと会合した外来表面抗原を保有する細胞を死滅させ、また、感染した細胞がその表面上に微生物抗原を示している限りは、細胞内寄生生物(細菌またはウイルスのどちらか)を保有する細胞を死滅させることができる。Tc細胞は腫瘍細胞を死滅させ、移植細胞の拒絶の原因となっている。Tc細胞は、標的細胞上の抗原-クラスI MHC複合体を認識し、それらと接触し、顆粒の内容物を標的細胞膜内に直接放出し、これにより細胞が溶解される。
【0029】
T細胞の第2の分類は、ヘルパーT細胞、すなわちThリンパ球(CD4+T細胞)であり、これは、B細胞が抗体を分泌する形質細胞へと成熟することにおける「ヘルパー」因子であるリンホカインを産生する。また、Th細胞は、エフェクターTリンパ球の分化およびマクロファージの活性を刺激する特定のリンホカインも産生する。Th1細胞は、クラスII MHCと会合したマクロファージ上の抗原を認識し、(IL-1によって)活性化されて、マクロファージおよびNK細胞を活性化するIFN-γを含めたリンホカインを産生する。これらの細胞は、遅延型過敏症反応を含めた細胞媒介性免疫応答の様々な側面を媒介する。Th2細胞は、抗原提示細胞すなわちAPC(例えば、遊走性マクロファージおよび樹状細胞)上のクラスII MHCと会合した抗原を認識し、その後、特異的なB細胞およびT細胞の増殖および活性を刺激する、インターロイキンおよび他の物質を産生する。
【0030】
T細胞の相互作用、発達、および増殖を開始するAPCとして役割を果たす以外は、マクロファージは、細胞媒介性免疫応答で産生されるIFN-γによって活性化されるので、細胞媒介性免疫の発現に関与している。活性マクロファージは増大した食作用の潜在性を有し、炎症を引き起こして多くの細菌および他の細胞を破壊する可溶性物質を放出する。ナチュラルキラー細胞とは、新規抗原を保有する細胞を、そのMHC型にかかわらず溶解し、MHCタンパク質を保有しない一部の細胞さえも溶解させる、細胞傷害性細胞である。ナチュラルキラーT細胞、すなわちNK細胞は、外来抗原を示す細胞(例えば腫瘍細胞)を、MHC型にかかわらず、かつその抗原に対する以前の感作(曝露)にかかわらず死滅させるその能力によって定義される。NK細胞はIL-2およびIFN-γによって活性化されることができ、細胞傷害性Tリンパ球と同じ様式で細胞を溶解させる。一部のNK細胞はIgG抗体のFcドメインの受容体(例えば、CD16またはF
CγRIII)を有し、したがって、標的細胞の表面上のIgGのFc部分に結合して、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害によって標的細胞を死滅させる細胞溶解性成分を放出することができる。
【0031】
別の細胞群は、顆粒球すなわち多形核白血球(PMN)である。PMNの一種である好中球は、細菌侵入物を死滅させ、残留物を貪食する。好酸球は別の種類のPMNであり、外来細胞などの別の細胞に対して放出された際に細胞傷害性があることが示されている顆粒を含む。第3の種類のPMNである好塩基球は、ヒスタミン、セロトニン、プロスタグランジン、およびロイコトリエンなどの様々な生物活性化合物を放出することによってその効果を発揮する、強力な生理的応答(例えば炎症)の重要な媒介物質である。これらの細胞種すべてに共通するのは、生物内で、外来細胞などの有害組成物を、頻繁には死滅させることによって、場合によっては除去すること(scavenging)によって、生理的効果を発揮する能力である。
【0032】
免疫系の細胞を含めた様々な哺乳動物細胞が生理的効果(例えば、Tc、NK、一部のPMN、マクロファージなどによって典型的に表される細胞死滅)を直接発揮することができるが、他の細胞も生理的効果に間接的に寄与する。例えば、免疫系の未処理のT細胞への抗原の最初の提示は、細胞-細胞接触を命令するMHC提示を必要とする。さらに、多くの場合、特定の免疫原性応答を得るためには、活性T細胞と抗原特異的B細胞との間の接触が必要である。免疫応答でしばしば見られる細胞-細胞接触の第3の形態は、活性B細胞と濾胞性樹状細胞との間の接触である。これらの細胞-細胞接触の要件のそれぞれが、生物活性剤を所定の標的へと標的化することを複雑にする。
【0033】
補体依存性細胞傷害(CDC)は、腫瘍細胞などの特定の標的細胞の排除の顕著な機構であると考えられている。CDCとは、カスケード様式で互いによって活性化される酵素のコレクションからなる一連の事象である。補体は抗原の排除において重要な役割を持ち、これは、その4つの主要な機能、すなわち(1)局所的血管拡張、(2)免疫細胞、特に食細胞の誘引(化学走性)、(3)貪食(オプソニン化)のための外来生物のタグ付け、および(4)膜攻撃複合体による侵入生物の破壊(MAC攻撃)によって達成される。中心的な分子はC3タンパク質である。これは、古典的な経路または代替経路のどちらかの構成要素によって2つの断片へと分割される酵素である。古典的な経路は抗体、特にIgGおよびIgMによって誘発される一方で、代替経路はリポ多糖(LPS)などの細菌産物によって非特異的に刺激される。手短に述べると、C3の分割の産物には、食作用性免疫細胞に対して化学走性である小ペプチドC3aが含まれ、C5からのC5a断片の放出を引き起こすことによって局所血管拡張がもたらされる。C3の他の部分であるC3bは、外来生物の表面上の抗原をコーティングし、生物を破壊するためにオプソニン化するように作用する。また、C3bは補体系の他の構成要素とも反応して、C5b、C6、C7、C8およびC9からなるMACを形成する。
【0034】
どの抗原に対する免疫系の応答も、最も単純なものでも「ポリクローナル」であり、すなわち、系は、その結合領域およびそのエフェクター領域のどちらでも広い範囲の構造の抗体を産生するので、ヒト治療における抗体の使用に関連して問題が存在する。
【0035】
免疫原性抗体の問題を軽減する試みとして2つの手法が用いられている。第1の手法は、マウスモノクローナル抗体の抗原結合部分(可変領域)をヒト抗体のエフェクター部分(定常領域)と融合させる、キメラ抗体の産生である。第2の手法では、抗体を相補性決定領域(CDR)移植または「ヒト化」として知られる技術によって変更する。このプロセスはさらに改善されており、「再成形」(Verhoeyen他、1988 Science 239:1534-1536;Riechmann他、1988 Nature 332:323-337;Tempest他、Bio/Technol 1991 9:266-271)、「ハイパーキメラ化」(Queen他、1989 Proc Natl Acad Sci USA 86:10029-10033;Co他、1991 Proc Natl Acad Sci USA 88:2869-2873;Co他、1992 J Immunol 148:1149-1154)、および「張り合わせ」(veneering)(Mark他、Metcalf BW、Dalton BJ編、Cellular adhesion:molecular definition to therapeutic potential.、ニューヨーク:Plenum Press、1994:291-312)と呼ばれる変化が含まれる。
【0036】
モノクローナル抗体の発表の11年後の1986年から始まって、平均で1年に1つ未満の治療用抗体しか市場に導入されていない。1986年〜1995年の10年間の期間にわたって5つのマウスモノクローナル抗体がヒト医薬品に導入されており、これには、器官移植の急性拒絶用の「ムロモナブ-CD3」(OrthoClone OKT3(登録商標));結腸直腸癌用の「エドレコロマブ」(Panorex(登録商標));移植片拒絶用の「オデュリモマブ(odulimomab)」(Antilfa(登録商標));および非ホジキンリンパ腫用の「イブリツモマブ」(Zevalin(登録商標)ユーキセタン(yiuxetan))が含まれる。さらに、モノクローナルFab、「アブシキシマブ」(ReoPro(登録商標))が、冠状動脈再閉塞を予防するために市販されている。3つのキメラモノクローナル抗体、すなわちB細胞リンパ腫の治療用の「リツキシマブ」(Rituxan(登録商標));移植片拒絶用の「バシリキシマブ」(Simulect(登録商標));ならびに関節リウマチおよびクローン病の治療用の「インフリキシマブ」(Remicade(登録商標))も発売されている。さらに、キメラヒト-マウスモノクローナル抗体の47.6kDのFab断片である「アブシキシマブ」(ReoPro(登録商標))が、経皮的冠血管インターベンションを受けている患者において心虚血合併症を予防するために、経皮的冠血管インターベンションの補助剤として市販されている。最後に、7つの「ヒト化」モノクローナル抗体が発売されている。「ダクリツマブ」(Zenapax(登録商標))は移植した腎臓の急性拒絶を予防するために使用され;「パリビズマブ(palivizumab)」(Synagis(登録商標))はRSVに使用され;「トラスツズマブ」(Herceptin(登録商標))は乳癌細胞上に見つかる成長因子受容体であるHER-2と結合し;「ゲムツズマブ」(Mylotarg(登録商標))は急性骨髄性白血病(AML)に使用され;「アレムツズマブ」(MabCampath(登録商標))は慢性リンパ性白血病に使用され;「アダリムマブ」(Humira(登録商標)(D2E7))は関節リウマチの治療に使用され;「オマリズマブ」(Xolair(登録商標))は持続性喘息の治療に使用される。
【0037】
したがって、より有効な治療剤および対症方法を開発および市販する努力の中、様々な抗体技術が注目を受けている。残念ながら、問題がこれらの治療のそれぞれの展望を損ない続けている。例えば、リツキシマブで治療した癌患者の大多数が、一般に約6〜12カ月以内に再発し、リツキシマブ注入の24時間以内に致命的な注入反応(infusion reaction)が報告されている。透析を要する急性腎不全の致命的な結果の事例もリツキシマブを用いた治療で報告されており、重篤かつしばしば致命的な粘膜皮膚反応も報告されている。さらに、分子が約150kDaと大きく、多くの腫瘍細胞が存在し得るリンパ組織内への拡散が制限されるので、高用量のリツキシマブが静脈内注射に必要である。
【0038】
トラスツズマブ投与は、心室機能不全、鬱血性心不全、および重篤な過敏症反応(アナフィラキシーを含む)、注入反応、ならびに肺の事象の発生をもたらす場合がある。ダクリツマブ免疫抑制性治療は、リンパ球増殖性障害および日和見感染症を発生する危険性の増加をもたらす。重篤な肝毒性から生じる肝不全および静脈閉塞症(VOD)による死亡が、ゲムツズマブを投与された患者で報告されている。
【0039】
肝毒性がアレムツズマブを投与されている患者でも報告されている。重篤、かつ一部の事例では致命的な、汎血球減少症/骨髄形成不全、自己免疫特発性血小板減少症、および自己免疫性溶血性貧血が、アレムツズマブ治療を投与されている患者で起こった。アレムツズマブは、重篤な注入反応および日和見感染症をもたらす場合がある。アダリムマブを用いて治療した患者では、致死を含めた重篤な感染症および敗血症が報告されており、また、脱髄性疾患の臨床症状および/またはX線証拠の再燃も報告されており、臨床治験においてアダリムマブを用いて治療した患者は、一般集団で予測される率よりも高いリンパ腫発生率を有していた。オマリズマブは悪性疾患およびアナフィラキシーを誘発すると報告されている。
【0040】
癌には幅広い範囲の疾患が含まれ、世界中で約4人に1人の個体が罹患している。悪性細胞の迅速かつ非調節の増殖が、血液悪性疾患を含めた多くの種類の癌の特徴である。血液悪性状態に罹患している患者は過去20年間の癌治療の進歩から利益を受けており(Multani他、1998 J.Clin.Oncology 16:3691-3710)、寛解期間は増加しているが、ほとんどの患者は依然として再発し、その病に屈する。細胞毒性薬物を用いた治癒の障害には、例えば、多くの患者で最適投薬を妨げる、腫瘍細胞の耐性および化学療法の高い毒性が含まれる。
【0041】
キメラCD20モノクローナル抗体を用いた低悪性度または濾胞性のB細胞リンパ腫に罹患している患者の治療は、患者において部分的または完全応答を誘発することが報告されている。McLaughlin他、1996 Blood 88:90a(アブストラクト、補遺1);Maloney他、1997 Blood 90:2188-95。しかし、上述のように、腫瘍の再発が一般的に6カ月から1年間以内に起こる。例えば低悪性度B細胞リンパ腫においてより耐久性のある応答を誘発し、高悪性度のリンパ腫および他のB細胞疾患の治療における有効な治療を可能にするために、血清療法のさらなる改善が必要である。
【0042】
別の手法は、CD20に特異的なモノクローナル抗体を用いて、B細胞リンパ腫を放射性同位体の標的とすることであった。治療の有効性は増加したと報告されているが、放射性抗体の長いin vivo半減期からの関連する毒性が増加し、患者が幹細胞レスキューを受けることが時々必要となる。Press他、1993 N.Eng.J.Med.329:1219-1224;Kaminski他、1993 N.Eng.J.Med.329:459-65。また、放射性同位体を付着させる前に、CD20に対するモノクローナル抗体をプロテアーゼで切断してF(ab')
2またはFab断片を得る。これにより、放射性同位体コンジュゲートの腫瘍内への貫通が改善され、in vivo半減期が短縮され、したがって正常組織に対する毒性が軽減されると報告されている。しかし、これらの分子は、補体結合および/またはADCCを含めたエフェクター機能を欠く。
【0043】
自己免疫疾患には自己免疫甲状腺疾患が含まれ、これにはグレーブス病橋本甲状腺炎が含まれる。米国のみで、約2千万人が何らかの形の自己免疫甲状腺疾患に罹患している。自己免疫甲状腺疾患は、甲状腺を刺激して甲状腺機能亢進症(グレーブス病)を引き起こすか、または甲状腺を破壊して甲状腺機能低下症(橋本甲状腺炎)を引き起こす、自己抗体の産生から生じる。甲状腺の刺激は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体と結合してそれを活性化させる自己抗体によって引き起こされる。甲状腺の破壊は、他の甲状腺抗原と反応する自己抗体によって引き起こされる。グレーブス病の現在の治療には、手術、放射性ヨウ素、または抗甲状腺薬物療法が含まれる。抗甲状腺の医薬品は顕著な副作用を有し、疾患の再発率が高いので、放射性ヨウ素が幅広く使用されている。手術は、大きな甲状腺種を有する患者または甲状腺機能の非常に迅速な正常化の必要性がある場合以外には控えられる。TSH受容体の刺激を司る自己抗体の産生を標的とする治療は存在しない。橋本甲状腺炎の現在の治療はレボチロキシンナトリウムであり、寛解の可能性は低いので生涯治療が予測される。抑制治療は橋本甲状腺炎において甲状腺種を縮小させることが示されているが、疾患機構を標的とする、自己抗体の産生を減少させる治療は知られていない。
【0044】
関節リウマチ(RA)とは、腫脹、疼痛、および機能喪失をもたらす関節の炎症を特徴とする慢性疾患である。RAは米国で推定250万人に影響を与えている。RAは、最初の感染または傷害、異常免疫応答、および遺伝因子を含めた事象の組合せによって引き起こされる。RAでは自己反応性のT細胞およびB細胞が存在するが、リウマチ因子と呼ばれる関節内に集まる抗体の高レベルの検出をRAの診断に用いる。RAの現在の治療には、疼痛を管理し、疾患の進行を遅延させる多くの医薬品が含まれる。疾患を治癒できる治療は発見されていない。医薬品には、非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDS)、および疾患改変抗リウマチ薬(DMARDS)が含まれる。NSAIDSは良性疾患に有用であるが、重篤なRAでは関節の破壊および衰弱への進行を防ぐことができない。NSAIDSおよびDMARDSはどちらも顕著な副作用に関連している。10年以上の間に1つの新しいDMARDであるレフルノミドだけが認可されている。レフルノミドは、自己抗体の産生を遮断し、炎症を軽減し、RAの進行を遅延させる。しかし、この薬物は、嘔気、下痢、脱毛、発疹、および肝傷害を含めた重篤な副作用も引き起こす。
【0045】
全身性エリテマトーデス(SLE)とは、腎臓、皮膚、および関節を含めた複数の器官内の血管への再発性傷害によって引き起こされる自己免疫疾患である。SLEは、米国で500,000人以上に影響を与えていると推測されている。SLEに罹患している患者では、T細胞とB細胞との間の不完全な相互作用が、細胞核を攻撃する自己抗体の産生をもたらす。これらには、抗二本鎖DNAおよび抗Sm抗体が含まれる。また、リン脂質と結合する自己抗体がSLE患者の約半数中で見つかり、これが血管損傷および低い血算の原因となっている。免疫複合体はSLE患者の腎臓、血管、および関節内に蓄積し、これはここで炎症および組織損傷を引き起こす。SLEの治療は、どれもこの疾患を治癒することが見出されていない。疾患の重篤度に応じてNSAIDSおよびDMARDSを治療に用いる。自己抗体を除去するための血漿交換を伴った血漿瀉血により、SLE患者において一時的な改善を生じることができる。自己抗体がSLEの原因であるという一般的な合意が存在するので、B細胞系列を枯渇させ、新しいB細胞が前駆体から産生される際に免疫系をリセットすることを可能にする新しい治療が、SLE患者において長期持続的利益の希望をもたらす。
【0046】
シェーグレン症候群とは、身体の水分生成腺の破壊を特徴とする自己免疫疾患である。シェーグレン症候群は最も蔓延している自己免疫障害の1つであり、米国で推定4百万人までが襲われている。シェーグレン症候群に襲われている人々の約半数はRAなどの結合組織病にも罹患している一方で、残りの半数は原発性シェーグレン症候群に罹患しており、他の自己免疫疾患を併発していない。多くの場合、抗核抗体、リウマチ因子、抗フォドリン、および抗ムスカリン受容体を含めた自己抗体がシェーグレン症候群に罹患している患者内に存在する。従来の治療にはコルチコステロイドが含まれ、さらなるより有効な治療が有益であろう。
【0047】
免疫血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板と結合してその破壊を引き起こす自己抗体によって引き起こされる。ITPの一部の症例は薬物によって引き起こされ、他の症例は感染症、妊娠、またはSLEなどの自己免疫疾患に関連している。全症例の約半数が特発性の起源であると分類されている。ITPの治療は症状の重篤度によって決定される。一部の症例では治療が必要ないが、ほとんどの場合、T細胞を枯渇させるためのコルチコステロイドまたは免疫グロブリンの静脈点滴を含めた免疫抑制薬を提供する。血小板数の増加が通常もたらされる別の治療は、抗体でコーティングされた血小板を破壊する器官である脾臓の除去である。シクロスポリン、シクロホスファミド、またはアザチオプリンを含めたより強力な免疫抑制薬を、重篤な症例を有する患者に用いる。患者の血漿をプロテインAカラムに通すことによる自己抗体の除去を、重篤な疾患に罹患している患者における第2系統治療として用いる。さらなるより有効な治療が必要である。
【0048】
多発性硬化症(MS)も自己免疫疾患である。これは、中枢神経系の炎症ならびに脳、脊髄、および身体内の神経細胞線維を遮蔽するミエリンの破壊を特徴とする。MSの原因は知られていないが、自己免疫T細胞がこの疾患の病因に対して主に貢献していると広く考えられている。しかし、高レベルの抗体が脳MSに罹患している患者の脊髄液中に存在し、一部の者は、抗体産生をもたらすB細胞応答が疾患の媒介に重要であると予測している。B細胞枯渇治療はMSに罹患している患者において研究されておらず、MSの治癒方法は存在しない。現在の治療はコルチコステロイドであり、これは攻撃の持続期間および重篤度を軽減することができるが、長期的なMSの経過に影響を与えない。MSの新しい生命工学的インターフェロン(IFN)治療が最近認可されたが、さらなるより有効な治療が必要である。
【0049】
重症筋無力症(MG)とは、随意筋群の衰弱を特徴とする慢性自己免疫神経筋障害である。MGは米国で約40,000人に影響を与えている。MGは、神経筋の接合部で発現されるアセチルコリン受容体と結合する自己抗体によって引き起こされる。自己抗体は、アセチルコリン受容体を減少または遮断し、神経から筋肉へのシグナル伝達を妨げる。MGの治癒方法は存在しない。一般的な治療には、コルチコステロイド、シクロスポリン、シクロホスファミド、またはアザチオプリンを用いた免疫抑制が含まれる。自己免疫応答を鈍らせるために胸腺の外科的除去がしばしば用いられる。血液中の自己抗体レベルを低下させるために用いる血漿瀉血はMGで有効であるが、自己抗体の産生は続くので短命である。血漿瀉血は通常、手術前の重篤な筋肉衰弱以外には控えられる。新しくかつ有効な治療が有益であろう。
【0050】
乾癬は約5百万人に影響を与え、皮膚の自己免疫炎症を特徴とする。また、乾癬は30%で関節炎にも関連している(乾癬性関節炎)。ステロイド、uv光レチノイド、ビタミンD誘導体、シクロスポリン、およびメトトレキサートを含めた多くの治療が使用されてきたが、乾癬も新しくかつ有効な治療から利益を得ることが明らかである。強皮症とは、全身性硬化症としても知られる、結合組織の慢性自己免疫疾患である。強皮症は皮膚の肥厚をもたらすコラーゲンの過剰産生を特徴とし、米国で約300,000人が強皮症に罹患しており、これも、新しくかつ有効な治療が有益であろう。
【発明を実施するための形態】
【0107】
本発明は、エフェクタードメインに対して末端に配置された、抗体などの免疫グロブリンの可変結合ドメインに由来する1つまたは複数の結合特異性をもたらし得る、少なくとも2つの結合領域またはドメインを有し、免疫グロブリン定常領域(すなわち、本明細書中に定義した定常部分領域が由来し得る供給源)の少なくとも一部を含む、比較的小さなペプチドの組成物を提供し、また、そのようなペプチドの組換え産生に関与する核酸、ベクターおよび宿主細胞、ならびに障害の治療やそのような障害の少なくとも1つの症状の寛解を含めた、様々な診断的および治療的応用においてペプチド組成物を使用する方法を提供する。ペプチド組成物では、第2の結合ドメインがエフェクタードメインのC末端側に有利に配置され、この配置は、予想外に、中心に配置されたエフェクタードメインのエフェクター機能または複数の機能を保持する一方で、ペプチドの少なくとも2つの結合ドメインによる立体的に妨害されないまたは妨害がより少ない結合を提供する。
【0108】
本発明による多価ペプチドの第1および第2の結合ドメインは、同じであるか(すなわち、同一または実質的に同一のアミノ酸配列を有し単一特異性である)、または異なる(多特異性である)ものであってよい。一次構造に関しては異なるが、第1および第2の結合ドメインは、同じ標的分子のエピトープを認識および結合し、したがって、単一特異性となり得る。しかし、多くの事例では、結合ドメインは構造的に異なり、異なる結合部位と結合し、多価の多特異的タンパク質がもたらされる。これらの異なる結合部位は、単一の標的分子上または異なる標的分子上に存在し得る。異なる標的分子を認識する2つの結合分子の場合、これらの標的分子は、例えば、同じ構造(例えば同じ細胞の表面)上もしくはその中に存在し得るか、またはこれらの標的分子は別々の構造もしくは場所上もしくはその中に存在し得る。例えば、本発明による多特異的結合タンパク質は、明確に異なる細胞種の表面上の標的分子と特異的に結合する結合ドメインを有し得る。あるいは、一方の結合ドメインが、細胞表面上の標的と特異的に結合してよく、他方の結合ドメインが、細胞外構造(マトリックス)タンパク質または遊離(例えば、可溶性もしくは間質)タンパク質などの、細胞と会合することが見出されていない標的と特異的に結合してよい。
【0109】
第1および第2の結合ドメインは、抗体分子などの同じまたは異なる免疫グロブリンタンパク質構造の1つまたは複数の領域に由来する。第1および/または第2の結合ドメインは、免疫グロブリンの領域の配列と同一の配列を示し得るか、または、例えば変更された結合特性もしくは変更された安定性をもたらす、そのような配列の改変であり得る。そのような改変は当該技術分野で知られており、変更された結合などの変更された特性に直接寄与する、例えばペプチドの変更された二次または高次構造をもたらす、アミノ酸配列の変更が含まれる。また、非天然従来型アミノ酸、非従来型アミノ酸およびイミノ酸などの非天然アミノ酸の取り込みから生じる改変アミノ酸配列も企図される。一部の実施形態では、変更された配列は、変更された翻訳後プロセシングをもたらす、例えば変更されたグリコシル化パターンをもたらす。
【0110】
免疫グロブリンまたは免疫グロブリン様ポリペプチド(例えば受容体)に由来する様々な結合ドメインのうちの任意のものが、スコーピオンでの使用に企図される。抗体に由来する結合ドメインは、V
LおよびV
HドメインのCDR領域を含み、これは、例えば、ヒト化抗体からの結合ドメインを使用する状況で見られる。抗体に由来する完全V
LおよびV
Hドメインを含む結合ドメインは、どちらの方向にも構成し得る。本発明によるスコーピオンは、本明細書中に記載した結合ドメインのうちの任意のものを有し得る。B細胞を認識する少なくとも1つの結合ドメインを有するスコーピオンでは、例示的なスコーピオンは、CD3、CD10、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD24、CD37、CD38、CD39、CD40、CD72、CD73、CD74、CDw75、CDw76、CD77、CD78、CD79a/b、CD80、CD81、CD82、CD83、CD84、CD85、CD86、CD89、CD98、CD126、CD127、CDw130、CD138またはCDw150に由来する少なくとも1つの結合ドメインを有する。一部の実施形態では、スコーピオンは、配列番号2、4、6、103、105、107および109からなる群より選択される配列を有する少なくとも1つの結合ドメインを含む多価結合タンパク質である。一部の実施形態では、スコーピオンは、配列番号332〜345のうちの任意のものからなる群より選択される配列を含む結合ドメインを含む。一部の実施形態では、スコーピオンは、免疫グロブリンV
LおよびV
Hドメインに由来する配列を含む結合ドメインを含み、配列は、配列番号355〜365のうちの任意のものからなる群より選択される。本発明は、配列番号355〜365のうちの任意のものから推定可能な配列を有する、逆方向のV
LおよびV
Hを有する結合で尾メインを含むスコーピオンも、さらに企図する。
【0111】
結合ドメインのどちらかまたは両方が免疫グロブリンの複数の領域(例えば、IgのV
L領域およびIgのV
H領域)に由来する実施形態では、複数の領域はリンカーペプチドによって結合されていてもよい。さらに、リンカーを用いて第1の結合ドメインを定常部分領域と結合させてもよい。定常部分領域と第2の結合ドメインとの結合(すなわち、結合ドメイン2をスコーピオンのC末端側に向かって配置する)は、スコーピオンリンカーによって達成する。これらのスコーピオンリンカーは、好ましくは約2〜45個のアミノ酸、または2〜38個のアミノ酸、または5〜45個のアミノ酸である。例えば、H1リンカーの長さは2個のアミノ酸であり、STD2リンカーの長さは38個のアミノ酸である。全般的な長さの考慮以外では、本発明によるスコーピオンでの使用に適したスコーピオンリンカー領域には、IgG、IgA、IgDおよびIgEのヒンジならびにその変異体からなる群より選択される抗体ヒンジ領域が含まれる。例えば、スコーピオンリンカーは、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3、およびヒトIgG4、ならびにその変異体からなる群より選択される抗体ヒンジ領域であり得る。一部の実施形態では、スコーピオンリンカー領域は、1つの鎖間ジスルフィド結合を形成するための1つのシステイン残基を有する。他の実施形態では、スコーピオンリンカーは、複数の鎖間ジスルフィド結合を形成するための2つのシステイン残基を有する。一部の実施形態では、スコーピオンリンカー領域は、免疫グロブリンヒンジ領域またはC-レクチンストーク領域に由来し、配列番号111、113、115、117、119、121、123、125、127、129、131、133、135、149、151、153、155、157、159、161、163、165、167、169、231、233、235、237、239、241、243、245、247、249、251、253、255、257、259、261、263、265、267、269、271、273、275、277、279、281、287、289、297、305、307、309、310、311、313、314、315、316,317、318、319、320、321、322、323、324、325、326、327、328、329、330、331、346、351、352、353、354、373、374、375、376および377からなる群より選択される配列を含む。より一般的には、ヒンジ領域に由来する配列を提供すると配列表中で同定したアミノ酸の任意の配列が、本発明によるスコーピオン分子中のスコーピオンリンカーとしての使用に企図される。さらに、Igヒンジに由来するスコーピオンリンカーは、鎖間ジスルフィド結合に参加することができる少なくとも1つの遊離システインを有するヒンジ様ペプチドドメインである。好ましくは、Igヒンジペプチドに由来するスコーピオンリンカーは、そのヒンジのN末端側に向かって配置されたヒンジシステインに対応するシステインを保持している。好ましくは、IgG1ヒンジに由来するスコーピオンリンカーは、1個のシステインまたはヒンジシステインに対応する2個のシステインを有する。さらに、スコーピオンリンカーは、II型C-レクチン分子のストーク領域である。一部の実施形態では、スコーピオンは、配列番号373〜377からなる群より選択される配列を有するスコーピオンリンカーを含む。
【0112】
中心に配置された定常部分領域は、免疫グロブリンタンパク質の定常領域に由来する。定常部分領域は、一般に、理論上は免疫グロブリンのC
H領域のC
H2部分に由来するが、C
H2〜C
H3部分に由来してもよい。任意選択で、定常部分領域は、免疫グロブリンのヒンジ-C
H2またはヒンジ-C
H2-C
H3部分に由来してもよく、Igヒンジ領域に対応するペプチドは定常部分領域に対してN末端側に位置し、定常部分領域と結合ドメイン1との間に配置する。また、定常部分領域の部分は異なる免疫グロブリンのC
H領域に由来してもよい。さらに、IgのCH3に対応するペプチドを切断してもよく、これにより、配列番号366〜371からなる群より選択されるC末端アミノ酸配列が残る。しかし、好ましい、スコーピオンヒンジが免疫グロブリンヒンジに由来するヒンジ様ペプチドである実施形態では、スコーピオンリンカーおよび定常部分領域が同じ種類の免疫グロブリンに由来することが好ましい。定常部分領域は、当業者に知られているように、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、補体依存性細胞傷害(CDC)、プロテインA結合、少なくとも1つのF
C受容体との結合、定常部分領域が存在しない場合を除いて本発明によるタンパク質と比較して再現可能に検出可能な安定性、および場合によっては本発明による分子の世代間移行が有利な場合は胎盤通過などの、免疫グロブリンのC
H領域に関連する少なくとも1つの活性を提供する。上述の結合ドメインと同様に、定常部分領域は少なくとも1つの免疫グロブリン分子に由来し、少なくとも1つの免疫グロブリンの領域または複数の領域に対して同一または実質的に同一のアミノ酸配列を示す。一部の実施形態では、定常部分領域は少なくとも1つの免疫グロブリンの配列または複数の配列から改変されており(1つまたは複数の非天然従来または非従来型、例えば合成のアミノ酸またはイミノ酸の置換による)、それに関連する特性が変更された、変更された二次もしくは高次構造をもたらし得る、またはグリコシル化などの翻訳後プロセシングの変更をもたらし得る一次構造が得られる。
【0113】
1つまたは複数の免疫グロブリンポリペプチドに対して同一または実質的に同一のアミノ酸配列を示す結合ドメインおよび定常部分領域では、本発明による分子の翻訳後修飾により、改変の基本として役割を果たす免疫グロブリン(または複数の免疫グロブリン)と比較して改変された分子がもたらされ得る。例えば、当該技術分野で知られている技術を用いて、宿主細胞、例えばCHO細胞を、未改変の(例えばCHO)宿主細胞中のそのポリペプチドと比較して変更されたポリペプチドグリコシル化パターンをもたらす様式で、改変し得る。
【0114】
そのような分子、およびそれらをin vivoで組換えによって産生させる方法を提供すると共に、標的化の診断学および治療学の新しい手段が開かれ、例えば、免疫系のエフェクター細胞(例えば、細胞傷害性Tリンパ球、ナチュラルキラー細胞など)を、癌細胞および感染性因子などの破壊または隔離する細胞、組織、薬剤および外来物体へと標的化収集することが可能となる。治療細胞を治療部位に局在化させることに加えて、ペプチドは、放射標識したタンパク質などの治療化合物の局在化に有用である。さらに、ペプチドは、例えば毒素などの有害組成物を、その毒素を破壊または排除することができる細胞(例えばマクロファージ)と会合させることによる、有害組成物の捕捉にも有用である。本発明の分子は、細胞表面受容体などの結合パートナー分子の活性の調節に有用である。これは、CD20および/またはCD37を介したアポトーシスシグナル伝達が本発明の分子によって顕著に増強している
図17によって示される。このシグナル伝達の効果は標的細胞の死である。定義した細胞集団の排除が有益である疾患および状態には、感染性および寄生性の疾患、炎症性および自己免疫の状態、悪性疾患、などが含まれるであろう。当業者は、アポトーシスシグナル伝達を増強させる手法には制限がないことを理解されよう。有糸分裂性のシグナル伝達および定義した細胞集団の分化、活性化、または失活をもたらすシグナル伝達を、結合パートナー分子の適切な選択により、本発明の分子によって誘発することができる。本発明の開示さらなる検討は、本明細書中で使用する以下の明確な定義を検討することによって容易となるであろう。
【0115】
「単鎖結合タンパク質」とは、共有結合したアミノ酸の単一の連続的な配置であり、鎖は、単鎖結合タンパク質によって検出可能に結合されるために十分な結合部位の決定要因を共有する1つまたは複数の結合パートナーと、特異的に結合することができる。例示的な結合パートナーには、タンパク質、炭水化物、脂質および小分子が含まれる。
【0116】
解説を容易にするために、本発明によるタンパク質、ポリペプチド、およびペプチドの「誘導体」および「変異体」は、本発明によるタンパク質および/またはポリペプチドおよび/またはペプチドからの差異に関して記載し、これは、本発明によるタンパク質/ポリペプチド/ペプチドである誘導体および変異体が、本発明の誘導体化していないまたは変異していないタンパク質、ポリペプチドまたはペプチドと、定義した様式で異なることを意味する。当業者は、誘導体および変異体自体が本発明によるタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドであることを理解されよう。
【0117】
「抗体」には、当該技術分野におけるその意味と矛盾しない最も幅広い定義を与え、タンパク質または非タンパク質抗原などの少なくとも1つの結合パートナーと結合することができるタンパク質、ポリペプチドおよびペプチドが含まれる。本明細書中で使用する「抗体」には、任意の種の、単鎖または多鎖組成物の、タンパク質の免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバー、ならびにそのような分子の変異体、類似体、誘導体および断片が含まれる。具体的には、「抗体」には、それだけには限定されないが、モノクローナルおよびポリクローナル抗体、キメラ抗体、CDR移植抗体、ヒト化抗体、単鎖可変断片、二重特異性抗体、ジアボディー、抗体融合体などを含めた、当該技術分野で知られている任意の形態の抗体が含まれる。
【0118】
「結合ドメイン」とは、1つまたは複数の特異的結合パートナーと特異的に結合する、免疫グロブリン(例えば抗体)に由来するポリペプチドの断片などのペプチド領域である。複数の結合パートナーが存在する場合は、これらのパートナーは、結合ドメインと検出可能に結合するために十分な結合決定基を共有する。好ましくは、結合ドメインは、連続的なアミノ酸の配列である。
【0119】
「エピトープ」には、抗体が、例えば結合によって特異的に相互作用する物質(例えばタンパク質)上の、単一の抗原部位、すなわち抗原決定基の、その通常の意味を本明細書において与える。「可変軽鎖領域」、可変重鎖領域」、「定常軽鎖領域」、定常重鎖領域」、「抗体ヒンジ領域」、「相補性決定領域」、「フレームワーク領域」、「抗体アイソタイプ」、「F
C領域」、「単鎖可変断片」または「scFv」、「ダイアボディー」、「キメラ」、「CDR移植抗体」、「ヒト化抗体」、「成形抗体」、「抗体融合体」などの、免疫グロブリン(例えば抗体)の分野においてよく確定した意味が与えられている他の用語には、本明細書中で明確に異なると記載しない限りは、それぞれ当該技術分野で知られているよく確定した意味が与えられている。
【0120】
抗体技術に関して当業者に理解されている用語には、それぞれ、本明細書中で明確に定義しない限りは、当該技術分野で与えられている意味を与える。そのような用語の例は、それぞれ抗体の軽鎖および重鎖に由来する可変結合領域をいう「V
L」および「V
H」;ならびに「免疫グロブリン定常領域」、すなわち、それぞれ抗体の軽鎖または重鎖に由来する定常領域をいうC
LおよびC
Hであり、後者の領域は、その領域が由来する抗体アイソタイプ(IgA、IgD、IgE、IgG、IgM)に応じて、C
H1、C
H2、C
H3およびC
H4定常領域ドメインへとさらに分類されると理解される。CDRとは「相補性決定領域」を意味する。「ヒンジ領域」とは、抗体の単鎖のC
H1とC
H2領域との間に介在してそれらを連結するアミノ酸配列に由来し、これは、全抗体に「ヒンジ」の形態で柔軟性を与えることが、当該技術分野で知られている。
【0121】
「定常部分領域」(constant sub-region)とは、抗体の1つまたは複数の定常領域ドメインに対応する、またはそれに由来する、ペプチド、ポリペプチド、またはタンパク質の配列をいう、本明細書中で定義する用語である。したがって、定常部分領域には、以下のドメイン、すなわち、C
H1ドメイン、ヒンジ領域、C
H2ドメイン、C
H3ドメイン(IgA、IgD、IgG、IgE、およびIgM)、ならびにC
H4ドメイン(IgE、IgM)のうちの任意のものまたはすべてが含まれ得る。したがって、本明細書中で定義する定常部分領域は、抗体の定常領域全体、またはその一部分に対応するポリペプチド領域をいうことができる。典型的には、本発明のポリペプチドの定常部分領域、またはコード核酸は、ヒンジ、C
H2ドメイン、およびC
H3ドメインを有する。
【0122】
「エフェクター機能」とは、抗体の定常領域に関連する、またはそれによってもたらされる機能である。例示的なエフェクター機能には、抗体依存性細胞媒介性細胞傷害(ADCC)、補体活性化および補体依存性細胞傷害(CDC)、F
C受容体結合、ならびに血漿半減期の増加、胎盤通過が含まれる。本発明による組成物のエフェクター機能は検出可能であり、好ましくは、その機能に関する本発明による組成物の特異的活性は、そのエフェクター機能に関する野生型抗体の特異的活性とほぼ同じである、すなわち、多価結合分子の定常部分領域が、野生型抗体と比較してどのエフェクター機能も失っていないことが好ましい。
【0123】
「リンカー」とは、他のペプチドまたはポリヌクレオチドを結合または連結させるペプチドまたはポリヌクレオチドである。典型的には、ペプチドリンカーは、約2〜50個のアミノ酸のオリゴペプチドであり、典型的なポリヌクレオチドリンカーはそのようなペプチドリンカーをコードしているので、長さは約6〜150個のヌクレオチドである。リンカーは、第1の結合ドメインと定常部分領域ドメインとを結合する。例示的なペプチドリンカーは(Gly
4Ser)
3である。スコーピオンリンカーを用いて定常部分領域のC末端と第2の結合ドメインとを結合させる。スコーピオンリンカーは、以下にさらに詳述するように、免疫グロブリンヒンジ領域またはII型C-レクチンのストーク領域に由来し得る。
【0124】
「標的」には複数の意味が与えられ、それぞれの場合において使用の状況によって明白な意味が定義される。その最も狭い意味では、「標的」とは、結合部位、すなわち、本発明によるペプチド組成物の結合パートナーの結合ドメインである。より幅広い意味では、「標的」または「分子標的」とは、必ず結合部位を提示している結合パートナー(例えばタンパク質)の全体をいう。「CD20」、「CD37」などの特異的標的には、それぞれこの用語が当該技術分野で与えられている通常の意味を与える。「標的細胞」とは、健康であろうと病的であろうと、本発明による標的分子と会合している任意の原核または真核細胞である。もちろん、任意の細胞と会合していない標的分子(すなわち細胞を含まない標的)またはウイルス(バクテリオファージを含む)、有機もしくは無機標的分子担体、および外来物体などの他の組成物と会合した標的分子も見つかる。
【0125】
標的分子が会合し得る物質の例には、自己細胞(例えば、癌細胞または他の患部細胞)、感染性因子(例えば、感染性細胞および感染性ウイルス)などが含まれる。標的分子は、意図する使用(例えば、医療用、悪意のないもしくは意図的でない供給の結果として、または生物テロリストの脅威を進めるため)にかかわらず、標的分子を送達、輸送または局在化させるために使用し得る、除核細胞、細胞膜、リポソーム、スポンジ、ゲル、カプセル、錠剤などと会合していてよい。「細胞を含まない」、「ウイルスを含まない」、「担体を含まない」、「物体を含まない」などとは、指定した組成物または物質を会合していない標的分子をいう。
【0126】
「結合親和性」とは、本発明のペプチド組成物とその結合パートナーとの非共有結合の強度をいう。好ましくは、結合親和性とは、結合ペアのメンバー間の誘引の定量的測度をいう。
【0127】
「アジュバント」とは、活性剤またはアジュバントを含む医薬組成物の形態のものなど、それが会合している化合物の機能的効果を増加または補助する物質である。「賦形剤」とは、医薬組成物の配合において希釈剤として用いる不活性物質である。「担体」とは、典型的には、医薬組成物を送達するためのビヒクルを提供するために用いる不活性物質である。
【0128】
「宿主細胞」とは、内部に本発明によるポリヌクレオチド、タンパク質またはペプチドが見つかる、任意の原核または真核細胞をいう。
【0129】
核酸またはポリヌクレオチドを宿主細胞内に「導入すること」とは、核酸またはポリヌクレオチドのその細胞内への侵入を、それだけには限定されないが、裸の核酸/ポリヌクレオチドまたはベクター媒介核酸/ポリヌクレオチドの、in vitro塩媒介沈降および他の形態の形質転換、ウイルス媒介感染ならびに任意選択で「ヘルパー」分子を用いたまたは用いない形質導入、弾道放射送達、コンジュゲーションなどを含めた、当該技術分野で知られている任意の手段によって提供することを意味する。
【0130】
宿主細胞を「インキュベートすること」とは、遺伝子発現などの所定の目的に適していると当該技術分野で知られている環境条件下でその細胞を維持することを意味する。温度、イオン強度、酸素圧、二酸化炭素濃度、栄養組成などを含めたそのような条件は、当該技術分野で周知である。
【0131】
本発明によるタンパク質またはペプチドなどの化合物を「単離すること」とは、その化合物を、単離する化合物を発現している宿主細胞中などの、自然でそれが会合していることが見出されている少なくとも1つの明確に異なる化合物から、例えば化合物を含む消費培地をその培地中で増殖させた宿主細胞から単離することによって、分離することを意味する。
【0132】
「必要としている生物」とは、本開示全体を調査することで明らかとなるように、それだけには限定されないが、様々な形態の癌のうちの任意のもの、いくつかの自己免疫疾患のうちの任意のもの、放射標識したタンパク質、ペプチドおよび同様の化合物による放射能中毒、摂取または内部産生された毒素などを含めた、本発明による組成物を用いた治療または寛解を受け入れられる任意の疾患、障害または状態の危険性のある、またはそれに罹患している、任意の生物をいう。好ましくは、必要としている生物はヒト患者である。
【0133】
疾患の症状を「改善すること」とは、当該技術分野で知られているように、疾患のその症状の重篤度を検出可能に軽減することを意味する。例示的な症状には、疼痛、熱、腫脹および関節硬直が含まれる。
【0134】
状況から明らかな場合以外は、用語「タンパク質」、「ペプチド」、および「ポリペプチド」は本明細書中で互換性があるように使用し、それぞれがアミノ酸の少なくとも1つの連続的な鎖をいう。同様に、状況から特定かつ互換性のない意味が意図されることが明らかな場合以外は、用語「ポリヌクレオチド」、「核酸」、および「核酸分子」は互換性があるように使用する。
【0135】
「製薬上許容される塩」とは、本発明の化合物と有機もしくは無機酸(酸付加塩)または有機もしくは無機塩基(塩基付加塩)との組合せに由来する、そのような化合物の塩をいう。
【0136】
上記定義した用語を使用して、本発明の様々な態様の概要を以下に提供する。概要に続いて、本明細書中に開示した本発明の実現可能性および有用性の補助的証拠を提供するために、実施例を提示する。
【0137】
タンパク質およびポリペプチド
本発明の特定の実施形態では、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質またはペプチドが2つ以上の結合ドメインポリペプチド配列を含む結合ドメイン-免疫グロブリン融合タンパク質を含めた、エフェクター機能を有する本明細書中に記載した多価結合タンパク質のうちの任意のものを提供する。結合ドメインポリペプチド配列のそれぞれが、抗原(または複数の抗原)などの標的(または複数の標的)と結合または特異的に結合することができ、標的または抗原は同じまたは異なっていてもよい。結合ドメインポリペプチド配列は、抗原可変領域に由来するか、または、免疫グロブリン様分子、例えば免疫グロブリン分子を模倣する様式で折り畳まれる受容体に由来し得る。結合ドメインが由来する抗体は、単一特異性ポリクローナルを含めたポリクローナル、モノクローナル(mAbs)、組換え、キメラ、ヒト化(CDR移植など)、ヒト、単鎖、触媒性の抗体、および当該技術分野で知られている任意の他の形態の抗体、ならびにその断片、変異体または誘導体であり得る。一部の実施形態では、本発明によるタンパク質の結合ドメインのそれぞれは、免疫グロブリンの完全な可変領域に由来する。好ましい実施形態では、結合ドメインは、それぞれヒトIg可変領域に基づく。他の実施形態では、タンパク質はIg可変領域の断片に由来する。そのような実施形態では、それぞれの結合ドメインポリペプチド配列が、所定のIg可変領域の相補性決定領域のそれぞれの配列に対応していることが好ましい。また、本発明内には、そのような結合ドメインが少なくとも1つの標的と特異的に結合する能力を保持している限りは、所定のIg可変領域のCDR全体よりも少ないものに対応する結合ドメインも企図される。
【0138】
また、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質は、免疫グロブリン定常領域、好ましくは抗体の重鎖定常領域に由来する、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質中の2つの結合ドメイン間に共有的に並列された定常部分領域の配列も有する。
【0139】
また、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質は、定常部分領域のC末端を結合ドメイン2のN末端と結合するスコーピオンリンカーも有する。スコーピオンリンカーはヘリックスペプチドではなく、抗体ヒンジ領域、免疫グロブリンの結合ドメインを結合している領域、またはII型C-レクチンのストーク領域に由来し得る。スコーピオンリンカーは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA、IgDまたはIgEのヒンジ領域などの免疫グロブリンの野生型ヒンジ領域に由来し得る。他の実施形態では、本発明は、変更されたヒンジを有する多価結合タンパク質を提供する。多価結合タンパク質に含めるために適した変更されたヒンジ領域の1つの分類は、変更された数のシステイン残基、特に野生型ヒンジを有する免疫グロブリン対応分子において鎖間ジスルフィド結合の形成に関与していることが当該技術分野で知られているCys残基を有する、ヒンジの分類である。したがって、タンパク質は、鎖間ジスルフィド結合の形成に参加することができる3つのCys残基のうちの1つが欠損している、IgG1ヒンジを有し得る。変更されたヒンジのシステイン部分構造を示すために、Cys部分配列をN末端からC末端で提示する。この同定系を用いて、変更されたIgGヒンジを有する多価結合タンパク質には、cxc、xxc、ccx、xxc、xcx、cxx、およびxxxとして特徴づけられたヒンジ構造が含まれる。Cys残基は、欠失しているか、または保存的置換もしくは非保存的置換をもたらすアミノ酸によって置換されていてよい。一部の実施形態では、システインはセリンによって置き換えられている。IgG1ヒンジを含むスコーピオンリンカーを有するタンパク質では、ヒンジシステインに対応するシステインの数は1または2まで減少しており、好ましくは、ヒンジシステインに対応するこれらのシステインのうちの1つがヒンジのN末端に一番近くに配置されている。
【0140】
IgG2ヒンジを含むスコーピオンリンカーを有するタンパク質では、0個、1個、2個、3個、または4個のCys残基が存在し得る。1個、2または3個のCys残基を含む変更されたIgG2ヒンジを含むスコーピオンリンカーでは、すべての可能なCys残基の部分組が企図される。したがって、1個のCysを有するそのようなリンカーでは、多価結合タンパク質は、以下のCysモチーフ、すなわち、cxxx、xcxx、xxcx、またはxxxcをヒンジ領域中に有し得る。2または3個のCys残基を有するIgG2ヒンジ変異体を含むスコーピオンリンカーでは、保持および置換された(または欠失した)Cys残基のすべての可能な組合せが企図される。変更されたIgG3または変更されたIgG4ヒンジ領域を含むスコーピオンリンカーを有する多価結合タンパク質では、損失が欠失または保存的もしくは非保存的アミノ酸(例えばセリン)による置換によるものかにかかわらず、ヒンジ領域中の、1個から完全な数のCys残基よりも1個少ない数までのCys残基の減少が企図される。同様に、野生型IgA、IgDまたはIgEのヒンジを含むスコーピオンリンカーを有する多価結合タンパク質が企図され、また、0個から対応する野生型ヒンジ中に見つかるCys残基の合計数よりも1個少ない数まで及ぶ、減少した数のCys残基を有する、対応する変更されたヒンジ領域も企図される。IgG1ヒンジを有する一部の実施形態では、ヒンジの最初の、またはN末端のCys残基が保持される。野生型または変更されたヒンジ領域のいずれかを有するタンパク質では、多価結合タンパク質が、例えばジスルフィド結合の形成によって、二量体などのホモ多量体を形成することができる単鎖分子であることが企図される。さらに、変更されたヒンジを有するタンパク質は、本明細書中に開示するように、ヒンジドメインなどの所定の領域またはドメインのN末端、C末端または両末端で、ヒンジ領域の末端で変更、例えば、1つまたは複数のアミノ酸残基の損失または置換を有し得る。
【0141】
別の例示的な実施形態では、定常部分領域は、天然のまたは操作したIgDヒンジ領域を含む定常領域に由来する。野生型ヒトIgDヒンジは、天然IgD構造中の軽鎖とジスルフィド結合を結合する1個のシステインを有する。一部の実施形態では、このIgDヒンジシステインは、例えば二重特異性分子の結合ドメイン間の結合領域として使用するための変更されたヒンジを作製するために、突然変異している(例えば欠失している)。望ましくないヒンジの硬直性をもたらさない、他のアミノ酸の変化もしくは欠失またはIgDヒンジ中の変更が、本発明の範囲内にある。他の生物種からの天然のまたは操作したIgDヒンジ領域も本発明の範囲内にあり、また、非ヒト生物種からのヒト化した天然のまたは操作したIgDヒンジ、および他のヒトまたは非ヒトの抗体アイソタイプ(ラマIgG2ヒンジなど)からの(他の非IgD)ヒンジ領域も同様である。
【0142】
本発明は、上述のようにIgG1ヒンジまたはIgDヒンジなどの既知のヒンジ領域に対応するヒンジに由来し得るスコーピオンリンカーと連結した定常部分領域をさらに包含する。定常部分領域は、鎖間ジスルフィド結合に関与することが知られている少なくとも1つのシステイン残基が、保存的置換(例えばSerでCysを置換)または非保存的置換で別のアミノ酸に置き換えられている、改変または変更された(野生型と比較して)ヒンジ領域を含み得る。定常部分領域には、免疫グロブリンC
H1ドメインに対応するペプチド領域またはドメインは含まれない。
【0143】
結合領域として使用することができる別のヒンジおよびリンカー配列は、免疫グロブリンV様または免疫グロブリンC様ドメインを結合する細胞表面受容体の一部分からのものである。細胞表面受容体が複数のIgのV様ドメインを直列で含むIgのV様ドメイン間の領域、および細胞表面受容体が複数の直列のIgのC様領域を含むIgのC様ドメイン間の領域も、結合領域として企図される。ヒンジおよびリンカー配列の長さは、典型的には5〜60個のアミノ酸であり、主に柔軟であり得るが、より強固な特徴も提供し得る。さらに、リンカーは多くの場合、結合ドメイン間の立体障害の最小化を促進する間隔を提供する。好ましくは、これらのヒンジおよびリンカーペプチドは、主にαヘリックスの構造であり、最小限のβシート構造を有する。好ましい配列は血漿および血清中で安定であり、タンパク質分解的切断に耐性を有する。好ましい配列は、二量体の形成を安定化させるジスルフィド結合を与える、天然に存在するまたはCPPCモチーフなどの付加したモチーフを含み得る。好ましい配列は、1つまたは複数のグリコシル化部位を含み得る。好ましいヒンジおよびリンカー配列の例には、それだけには限定されないが、CD2、CD4、CD22、CD33、CD48、CD58、CD66、CD80、CD86、CD150、CD166、およびCD244のIgのV様とIgのC様領域との間のドメイン間領域が含まれる。
【0144】
定常部分領域は、ラマまたはラクダのIgG2またはIgG3などの、ラクダ科動物の定常領域に由来し得る。
【0145】
任意のIgクラス、またはIgG1(例えばヒトIgG1)などの任意のIgGサブクラスからのC
H2-C
H3領域を有する定常部分領域が特に企図される。好ましい実施形態では、免疫グロブリンヒンジに由来する定常部分領域およびスコーピオンリンカーは、どちらも同じIgクラスに由来する。他の好ましい実施形態では、免疫グロブリンヒンジに由来する定常部分領域およびスコーピオンリンカーは、どちらも同じIgサブクラスに由来する。また、定常部分領域は、少なくとも1つの免疫グロブリンのエフェクター機能と関連している限りは、任意のIgクラスまたはIgG1(例えばヒトIgG1)などのサブクラスからのCH3ドメインであってもよい。
【0146】
定常部分領域は、IgGクラスの完全な免疫グロブリン定常領域(すなわちC
H1-ヒンジ-C
H2-C
H3)に対応しない。定常部分領域は、他のクラスの完全な免疫グロブリン定常領域に対応し得る。突然変異または欠損した尾部を有するIgA1ヒンジ、IgA2ヒンジ、IgAのC
H2およびIgAのC
H3ドメインなどのIgA定常ドメインも、定常部分領域として企図される。さらに、任意の軽鎖定常ドメイン、例えばC
Kまたは任意のC
Lが、定常部分領域として機能し得る。定常部分領域には、ヒンジを有するまたは有さないJHまたはJKも含まれ得る。また、定常部分領域は、例えば、当該技術分野で理解されるように、ループ移植片を、IgGフレームワークを用いて選択的アミノ酸置換を行って、天然F
CR以外の受容体(CD16、CD32、CD64、F
CεR1)の結合部位を作製することによって構築した、操作した抗体にも対応し得る。この種類の例示的な定常部分領域は、CD89結合部位を有するように改変されたIgGのC
H2-C
H3領域である。
【0147】
本発明のこの態様は、以下のものを含む、本質的にそれからなる、またはそれからなる、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質またはペプチドを提供する:(a)免疫グロブリンに由来する、N末端に配置した結合ドメインポリペプチド配列であり、これは(b)と融合または他の様式で結合している;(b)免疫グロブリン定常領域に由来し、好ましくはヒンジ領域の配列が含まれる定常部分領域ポリペプチド配列であり、ヒンジ領域ポリペプチドは、本明細書中に記載のものであってよく、例えば代替ヒンジ領域ポリペプチド配列を含む、本質的にそれからなる、またはそれからなっていてよく、これは立ち代って、(c)と融合または他の様式で結合している;(c)免疫グロブリンに由来する、C末端に配置された第2の天然のまたは操作した結合ドメインポリペプチド配列。
【0148】
免疫グロブリン定常領域に由来する中心に配置された定常部分領域ポリペプチド配列は、抗体依存性細胞性細胞傷害、CDC、補体結合、およびF
C受容体結合からなる群より選択される少なくとも1つの免疫活性が可能である、結合ドメインポリペプチドは、それぞれ、抗原などの標的と結合または特異的に結合することができ、標的は同じまたは異なっていてよく、事実上同じ生理的環境(例えば同じ細胞の表面)または異なる環境(例えば、異なる細胞表面、細胞表面と溶液中などの細胞を含まない位置)で見つかり得る。
【0149】
また、本発明のこの態様は、本明細書中に開示する特定の配列の、エフェクター機能を有する多価タンパク質に対して少なくとも80%、好ましくは85%、90%、95%または99%同一である、エフェクター機能を示す変異タンパク質またはポリペプチドも包含する。
【0150】
ポリヌクレオチド
本発明はまた、本発明によるタンパク質またはペプチドをコードしているポリヌクレオチド(単離もしくは精製したまたは純粋なポリヌクレオチド)、そのようなポリヌクレオチドを含むベクター(クローニングベクターおよび発現ベクターを含む)、ならびに本発明によるポリヌクレオチドまたはベクターで形質転換またはトランスフェクションした細胞(例えば宿主細胞)を提供する。本発明のタンパク質またはポリペプチドのコードに関して、ポリヌクレオチドは、すべて免疫グロブリン、好ましくはヒト免疫グロブリンに由来する、第1の結合ドメイン、第2の結合ドメインおよびF
Cドメインをコードしている。それぞれの結合ドメインは、それぞれのそのような結合ドメインが特異的に結合する能力を保持している限りは、完全長の可変領域の配列(重鎖および/もしくは軽鎖のどちらか)またはその部分配列に対応する配列を含み得る。F
Cドメインは、F
Cドメインが本明細書中で定義した少なくとも1つのエフェクター機能を示す限りは、完全長の免疫グロブリンF
Cドメイン配列またはその部分配列に対応する配列を有し得る。さらに、結合ドメインのそれぞれを、典型的には長さが少なくとも8個、好ましくは少なくとも13個のアミノ酸であるリンカーペプチドを介してF
Cドメインと結合し得る。好ましいリンカー配列は、(Gly
4Ser)
3など、Gly
4Serモチーフに基づいた配列である。
【0151】
エフェクター機能を有する多価結合タンパク質の変異体も本発明によって包含される。変異ポリヌクレオチドは、本明細書中に記載の定義した配列のポリヌクレオチドのうちの1つに対して少なくとも90%、好ましくは95%、99%、もしくは99.9%同一であるか、または、定義した配列のポリヌクレオチドのうちの1つと、0.015Mの塩化ナトリウム、0.0015Mのクエン酸ナトリウムで65〜68℃、もしくは0.015Mの塩化ナトリウム、0.0015Mのクエン酸ナトリウム、および50%のホルムアミドで42℃のストリンジェントなハイブリダイゼーション条件下でハイブリダイズするものである。ポリヌクレオチド変異体は、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質をコードする能力を保持している。
【0152】
用語「ストリンジェント」とは、当該技術分野でストリンジェントとして一般的に理解されている条件をいうために使用する。ハイブリダイゼーションのストリンジェンシーは、温度、イオン強度、およびホルムアミドなどの変性剤の濃度によって主に決定される。ハイブリダイゼーションおよび洗浄のストリンジェントな条件の例は、0.015Mの塩化ナトリウム、0.0015Mのクエン酸ナトリウムで65〜68℃または0.015Mの塩化ナトリウム、0.0015Mのクエン酸ナトリウム、および50%のホルムアミドで42℃である。Sambrook他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、(ニューヨーク州Cold Spring Harbor、1989)を参照されたい。
【0153】
よりストリンジェントな条件(より高い温度、低いイオン強度、高いホルムアミドまたは他の変性剤など)も使用し得るが、しかし、ハイブリダイゼーション率に影響が与えられる。デオキシオリゴヌクレオチドのハイブリダイゼーションが懸案事項である場合は、さらなる例示的なストリンジェントなハイブリダイゼーション条件には、6×SSC、0.05%のピロリン酸ナトリウム中、37℃(14塩基のオリゴヌクレオチドについて)、48℃(17塩基のオリゴヌクレオチドについて)、55℃(20塩基のオリゴヌクレオチドについて)、および60℃(23塩基のオリゴヌクレオチドについて)での洗浄が含まれる。
【0154】
本発明の関連する態様では、(a)本明細書中に記載または提供した宿主細胞を、構築物の発現を可能にする条件下で培養するステップと;(b)発現産物を、例えば、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質またはペプチドを宿主細胞または宿主細胞培養物から単離するステップとを含む、例えば、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質またはペプチドを含めた、本発明のポリペプチドもしくはタンパク質または他の構築物を産生する方法を提供する。
【0155】
構築物
本発明はまた、ベクター、およびそれぞれに本発明のポリヌクレオチドまたは核酸が含まれることが知られているベクターから調製した構築物、ならびに、特に、本明細書中に定義する、エフェクター機能を有する、多価の、例えば二重特異性を含めた多特異性の結合タンパク質およびポリペプチドをコードしている任意の核酸が含まれる遺伝子治療に有用な送達構築物を含めた、様々な既知の構築物のうちの任意のものを含めた、組換え発現構築物に関し;また、本発明のベクターおよび/または他の構築物を用いた遺伝子操作した宿主細胞、ならびに、エフェクター機能を有する、多価の、例えば二重特異性を含めた多特異性の結合タンパク質をコードしている核酸配列を含む発現もしくは他の構築物、またはその断片もしくはその変異体を、組換え技術によって投与する方法にも関する。
【0156】
エフェクター機能を有する、多価の、例えば多特異性の結合タンパク質を含めた本発明の様々な構築物は、遺伝子治療で使用する場合のin vivo宿主細胞を含めた事実上任意の宿主細胞中で、構築物の性質(例えば上述のようにプロモーターの種類)および所望の宿主細胞の性質(例えば、有糸分裂後の最終分化したまたは活性に分裂している;例えば、エピソームとしてまたは宿主細胞ゲノム中に組み込まれたものとしての発現可能な構築物の維持)に応じた適切なプロモーターの制御下で発現させることができる。
【0157】
原核および真核宿主で使用する適切なクローニングおよび発現ベクターは、例えば、Sambrook他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor、ニューヨーク、(1989)に記載されている。例示的なクローニング/発現ベクターには、それだけには限定されないが、プラスミド、ファージミド、ファスミド、コスミド、ウイルス、人工染色体、または当該技術分野で知られている、それに含まれるポリヌクレオチドの増幅、移送、および/もしくは発現に適した任意の核酸ビヒクルに基づき得る、クローニングベクター、シャトルベクター、および発現構築物が含まれる。本明細書中に記載するように、本発明の好ましい実施形態では、組換え発現は、本発明による核酸を用いてトランスフェクション、形質転換または形質導入した哺乳動物細胞中で実施する。例えば、Machida,CA.、「Viral Vectors for Gene Therapy:Methods and Protocols」;Wolff,JA、「Gene Therapeutics:Methods and Applications of Direct Gene Transfer」(Birkhauser 1994);Stein,UおよびWalther,W(編、「Gene Therapy of Cancer:Methods and Protocols」(Humana Press 2000);Robbins,PD編、「Gene Therapy Protocols」(Humana Press 1997);Morgan,JR編、「Gene Therapy Protocols」(Humana Press 2002);Meager,A編、「Gene Therapy Technologies,Applications and Regulations:From Laboratory to Clinic」(John Wiley & Sons Inc.1999);MacHida,CAおよびConstant,JG、「Viral Vectors for Gene Therapy:Methods and Protocols」(Humana Press 2002);「New Methods Of Gene Therapy For Genetic Metabolic Diseases NIH Guide」、第22巻、第35号、1993年10月1日も参照されたい。米国特許第6,384,210号;同第6,384,203号;同第6,384,202号;同第6,384,018号;同第6,383,814号;同第6,383,811号;同第6,383,795号;同第6,383,794号;同第6,383,785号;同第6,383,753号;同第6,383,746号;同第6,383,743号;同第6,383,738号;同第6,383,737号;同第6,383,733号;同第6,383,522号;同第6,383,512号;同第6,383,481号;同第6,383,478号;同第6,383,138号;同第6,380,382号;同第6,380,371号;同第6,380,369号;同第6,380,362号;同第6,380,170号;同第6,380,169号;同第6,379,967号;および同第6,379,966号も参照されたい。
【0158】
典型的には、発現構築物はプラスミドベクターに由来する。1つの好ましい構築物は、アンピシリン耐性遺伝子、ポリアデニル化シグナルおよびT7プロモーター部位をコードしている核酸配列を有する、改変pNASSベクター(Clontech、カリフォルニア州Palo Alto)である。他の適切な哺乳動物発現ベクターも周知である(例えば、Ausubel他、1995;Sambrook他、上記、例えば、Invitrogen、カリフォルニア州San Diego;Novagen、ウィスコンシン州Madison;Pharmacia、ニュージャージー州Piscatawayのカタログも参照されたい参照)。現在、適切な調節制御下で、適切な選択剤(例えばメトトレキサート)の施用後の遺伝子増幅から生じる、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質の産生レベルの増強を促進するために、ジヒドロ葉酸還元酵素(DHFR)をコードしている配列を含めた、好ましい構築物を調製し得る。
【0159】
一般に、組換え発現ベクターには、上述のように、複製起点および宿主細胞の形質転換を可能にする選択マーカー、ならびに下流の構造的配列の転写を指示するための、高度に発現される遺伝子に由来するプロモーターが含まれる。本発明によるポリヌクレオチドと作動可能に連結したベクターにより、クローニングまたは発現構築物が得られる。例示的なクローニング/発現構築物は、本発明のポリヌクレオチドに作動可能に連結した、少なくとも1つの発現制御エレメント、例えばプロモーターを含む。エンハンサー、因子特異的結合部位、ターミネーター、およびリボソーム結合部位などのさらなる発現制御エレメントも、本発明によるベクターおよびクローニング/発現構築物中に企図される。本発明によるポリヌクレオチドの異種構造的配列は、翻訳開始および終止配列と適切な相で構築されている。したがって、例えば、本明細書中に提供する多価結合タンパク質をコードしている核酸を、そのようなタンパク質を宿主細胞中で発現させるための組換え発現構築物として、様々な発現ベクター構築物のうちの任意の1つに含め得る。特定の好ましい実施形態では、構築物は、in vivoで投与する製剤中に含まれる。そのようなベクターおよび構築物には、以下に記載する染色体、非染色体および合成DNA配列、例えばSV40の誘導体;細菌プラスミド;ファージDNA;酵母プラスミド;プラスミドおよびファージDNAの組合せに由来するベクター、ワクシニア、アデノウイルス、鶏痘ウイルス、および仮性狂犬病などのウイルスDNA、または複製欠損性レトロウイルスが含まれる。しかし、任意の他のベクターを組換え発現構築物の調製に使用してよく、好ましい実施形態では、そのようなベクターが宿主中で複製可能かつ生存可能である。
【0160】
適切なDNA配列(または複数のDNA配列)を、例えば様々な手順によってベクター内に挿入し得る。一般に、DNA配列を、適切な制限エンドヌクレアーゼ切断部位(または複数の切断部位)内に、当該技術分野で知られている手順によって挿入する。クローニング、DNAの単離、増幅および精製、DNAリガーゼ、DNAポリメラーゼ、制限エンドヌクレアーゼなどに関与する酵素反応、ならびに様々な分離技術の標準の技術が企図される。いくつかの標準の技術が、例えば、Ausubel他(1993、Current Protocols in Molecular Biology、Greene Publ.Assoc.Inc.& John Wiley & Sons,Inc.、マサチューセッツ州Boston);Sambrook他、(1989、Molecular Cloning、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク州Plainview);Maniatis他(1982、Molecular Cloning、Cold Spring Harbor Laboratory、ニューヨーク州Plainview);Glover編(1985、DNA Cloning、第I巻および第II巻、IRL Press、英国Oxford);HamesおよびHiggins編、(1985、Nucleic Acid Hybridization、IRL Press、英国Oxford);ならびに他の箇所に記載されている。
【0161】
発現ベクター中のDNA配列は、mRNAの合成を指示するために少なくとも1つの適切な発現制御配列(例えば、構成的プロモーターまたは調節プロモーター)と作動可能に連結している。そのような発現制御配列の代表的な例には、上述の真核細胞またはそのウイルスのプロモーターが含まれる。プロモーター領域は、CAT(クロラムフェニコールトランスフェラーゼ)ベクターまたは選択マーカーを有する他のベクターを用いて、任意の所望の遺伝子から選択することができる。真核プロモーターには、CMV前初期、HSVチミジンキナーゼ、初期および後期SV40、レトロウイルスからのLTR、およびマウスメタロチオネイン-Iが含まれる。適切なベクターおよびプロモーターの選択は、当該技術分野の通常の技能レベルの範囲内にあり、本発明によるタンパク質またはポリペプチドをコードしている核酸と作動可能に連結した少なくとも1つのプロモーターまたは調節プロモーターを含む、特定の特に好ましい組換え発現構築物の調製を、本明細書中に記載する。
【0162】
高等真核生物による本発明のタンパク質およびポリペプチドをコードしているDNAの転写は、エンハンサー配列をベクター内に挿入することによって増加し得る。例には、複製起点bp100から270の後期側のSV40エンハンサー、サイトメガロウイルス初期プロモーターエンハンサー、複製起点の後期側のポリオーマエンハンサー、およびアデノウイルスエンハンサーが含まれる。
【0163】
欠陥遺伝子を置き換えるまたは新しい遺伝子を細胞および/もしくは組織を遺伝子に付加する戦略を含む本発明の核酸を用いた遺伝子治療も企図されており、癌の治療、代謝障害の補正および免疫療法の分野における応用に関して開発されている。本発明の遺伝子治療には、本明細書中に記載した疾患、障害、および/または状態を治療するための、別の担体もしくは送達ビヒクルまたは構築物を用いたまたは用いない、本発明の様々な構築物の使用が含まれる。また、そのような構築物は、本明細書中に記載した疾患、障害、および/または状態を治療または予防するためのワクチンとしても使用し得る。例えば、DNAワクチンでは、免疫原性タンパク質および核酸決定要因をコードしているポリヌクレオチドを使用して、病原体または腫瘍細胞に対する免疫系を刺激する。そのような戦略は、獲得もしくは生得免疫を刺激するか、またはサイトカイン発現を介して免疫機能の変調に関与することができる。in vivo遺伝子治療は、典型的には疾患または疾患に関連する症状を治療、予防または改善するために、遺伝物質を患者または動物内に直接注射することを含む。ワクチンおよび免疫変調は全身療法である。癌の治療を目的とするものなどの組織に特異的なin vivo治療では、局所的な遺伝子送達および/または発現/標的化系が好ましい。特定の組織を標的とする多様な遺伝子治療ベクターが当該技術分野で知られており、例えばカテーテルに基づいた技術を用いた特定の組織を物理的に標的とする手順が開発されており、それらのすべてが本明細書中で企図される。
【0164】
遺伝子治療のex vivo手法も本明細書中で企図され、被験体、例えばヒト患者の自己細胞の取り出し、遺伝子改変、増殖および再投与を含む。例には、癌治療のための骨髄移植またはリンパ系前駆細胞の遺伝子改変が含まれる。ex vivo遺伝子治療は、好ましくは、容易に取得可能であり、遺伝子導入プロセス中の培養で生存できる細胞(血液細胞または皮膚細胞など)の治療に応用する。
【0165】
有用な遺伝子治療ベクターには、アデノウイルスベクター、レンチウイルスベクター、アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクター、単純ヘルペスウイルス(HSV)ベクター、およびレトロウイルスベクターが含まれる。また、遺伝子治療は、「裸のDNA」、リポソーム系送達、脂質系送達(正に帯電した脂質に付着したDNAを含む)、電気穿孔、弾道放射を用いて実施してもよい。
【0166】
それだけには限定されないが遺伝子治療の実施形態を含めた特定の実施形態では、ベクターは、例えばレトロウイルスベクターなどのウイルスベクターであり得る。Miller他、1989 BioTechniques 7:980;CoffinおよびVarmus、1996 Retroviruses、Cold Spring Harbor Laboratory Press、NY。例えば、レトロウイルスプラスミドベクターが由来し得るレトロウイルスには、それだけには限定されないが、モロニーマウス白血病ウイルス、脾臓壊死ウイルス、レトロウイルス、例えばラウス肉腫ウイルス、ハーベイ肉腫ウイルス、トリ白血症ウイルス、ギボン猿(ape)白血病ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、アデノウイルス、骨髄増殖性肉腫ウイルス、および乳癌ウイルスが含まれる。
【0167】
レトロウイルスとは、複製され、DNA中間体を介して宿主細胞のゲノム内に統合されることができるRNAウイルスである。このDNA中間体、またはプロウイルスは、宿主細胞のDNA内に安定して統合され得る。本発明の特定の実施形態によれば、発現構築物は、外来タンパク質をコードしている外来遺伝子が正常なレトロウイルスRNAの代わりに組み込まれているレトロウイルスを含み得る。レトロウイルスRNAが感染と同時に宿主細胞に侵入した際、外来遺伝子も細胞内に導入され、その後、レトロウイルスゲノムの一部と同じように宿主細胞のDNA内に統合され得る。宿主内でこの外来遺伝子が発現されることにより、外来タンパク質の発現がもたらされる。
【0168】
遺伝子治療用に開発されたほとんどのレトロウイルスベクター系は、マウスレトロウイルスに基づいている。そのようなレトロウイルスは、2つの形態、すなわち、ビリオンと呼ばれる遊離ウイルス粒子、または宿主細胞DNA内に統合されたプロウイルスとして存在する。ウイルスのビリオン形態は、レトロウイルスの構造タンパク質および酵素タンパク質(酵素逆転写酵素を含む)、2つのウイルスゲノムのRNAコピー、ならびにウイルス外被糖タンパク質を含む由来源の細胞形質膜の一部を含む。レトロウイルスゲノムは4つの主な領域、すなわち、転写の開始および停止に必要なシス作用性エレメントを含み、コード遺伝子の5'および3'の両方に位置する末端反復配列(LTR)、ならびにgag、pol、およびenvをコードしている3つの遺伝子で構成されている。これら3つの遺伝子、すなわちgag、pol、ならびにenvは、それぞれ、ウイルスに感染力および宿主範囲の特異性を与える内部ウイルス構造、酵素タンパク質(インテグラーゼなど)、ならびに外被糖タンパク質(gp70およびp15eと呼ぶ)、また、未確定の機能の「R」ペプチドをコードしている。
【0169】
発現構築物における使用を含めたレトロウイルスの使用に関する安全性の懸念により、別々のパッケージング細胞株およびベクター産生細胞株が開発されている。手短に述べると、この方法では、2つの構成要素、すなわちレトロウイルスベクターおよびパッケージング細胞株(PCL)の使用を用いる。レトロウイルスベクターは、末端反復配列(LTR)、移行する外来DNAおよびパッケージング配列(y)を含む。このレトロウイルスベクターは、構造タンパク質および外被タンパク質をコードしている遺伝子がベクターゲノムに含まれないので、それ自体だけでは複製されない。PCLはgag、pol、およびenvタンパク質をコードしている遺伝子を含むが、パッケージングシグナル「y」を含まない。したがって、PCLはそれ自体だけでは空のビリオン粒子しか形成することができない。この一般的な方法では、レトロウイルスベクターをPCL内に導入し、それによってベクター産生細胞株(VCL)を作製する。このVCLはレトロウイルスベクターの外来ゲノムのみを含むビリオン粒子を産生するので、これまでに、治療的に使用する安全なレトロウイルスベクターであるとみなされてきた。
【0170】
「レトロウイルスベクター構築物」とは、本発明の好ましい実施形態内にあり、多価結合タンパク質をコードしている核酸配列などの目的の配列(もしくは複数の配列)または遺伝子(もしくは複数の遺伝子)の発現を指示することができるアセンブリをいう。手短に述べると、レトロウイルスベクター構築物には、5'LTR、tRNA結合部位、パッケージングシグナル、第2鎖DNA合成の起点および3'LTRが含まれていなければならない。例えば、タンパク質(例えば、細胞傷害性タンパク質、疾患関連抗原、免疫アクセサリー分子、もしくは別の遺伝子)をコードしている配列、または分子自体として有用な配列(例えば、リボザイムもしくはアンチセンス配列として)を含めた、様々な異種配列がベクター構築物内に含まれ得る。
【0171】
本発明のレトロウイルスベクター構築物は、例えば、B、C、およびD型レトロウイルスならびにスプマウイルスおよびレンチウイルスを含めた様々なレトロウイルスから容易に構築し得る(例えば、RNA Tumor Viruses、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory、1985参照)。そのようなレトロウイルスは、アメリカンタイプカルチャーコレクション(American Type Culture Collection、「ATCC」;メリーランド州Rockville)などの寄託機関もしくはコレクションから容易に得るか、または一般的に利用可能な技術を用いて既知の由来源から単離し得る。本明細書中に提供する開示および標準の組換え技術(例えば、Sambrook他、Molecular Cloning:A Laboratory Manual、第2版、Cold Spring Harbor Laboratory Press、1989;Kunkle、1985 Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)82:488)を考慮して、上記レトロウイルスのうちの任意のものを、本発明のレトロウイルスベクター構築物、パッケージング細胞、または産生細胞をアセンブルまたは構築するために容易に利用し得る。
【0172】
ウイルスベクターで使用するための適切なプロモーターには、一般に、それだけには限定されないが、Miller他、1989 Biotechniques 7:980-990に記載のレトロウイルスLTR;SV40プロモーター;およびヒトサイトメガロウイルス(CMV)プロモーター、または任意の他のプロモーター(例えば、それだけには限定されないが、ヒストン、pol III、およびβ-アクチンプロモーターを含めた真核細胞プロモーターなどの細胞性プロモーター)が含まれ得る。用い得る他のウイルスプロモーターには、それだけには限定されないが、アデノウイルスプロモーター、チミジンキナーゼ(TK)プロモーター、およびB19パルボウイルスプロモーターが含まれる。適切なプロモーターの選択は、本明細書中に含まれる教示から当業者に明らかであり、調節プロモーターまたは上述のプロモーターからのものであり得る。
【0173】
レトロウイルスプラスミドベクターを用いて、パッケージング細胞株を形質導入して産生細胞株を形成する。トランスフェクションし得るパッケージング細胞の例には、それだけには限定されないが、Miller、Human Gene Therapy、1:5-14(1990)に記載のPE501、PA317、ψ-2、ψ-AM、PA12、T19-14X、VT-19-17-H2、ψCRE、ψCRIP、GP+E-86、GP+envAm12、およびDAN細胞株が含まれる。ベクターは、当該技術分野で知られている任意の手段によってパッケージング細胞を形質導入し得る。そのような手段には、それだけには限定されないが、電気穿孔、リポソームの使用、およびCaPO
4沈降が含まれる。一代替方法では、レトロウイルスプラスミドベクターをリポソーム内にカプセル封入するか、または脂質とカップリングさせ、その後、宿主に投与する。
【0174】
産生細胞株は、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質をコードしている核酸配列(または複数の核酸配列)が含まれる、感染性レトロウイルスベクター粒子を産生する。その後、そのようなレトロウイルスベクター粒子を用いて、真核細胞をin vitroまたはin vivoのどちらかで形質導入し得る。形質導入した真核細胞は、タンパク質またはポリペプチドをコードしている核酸配列(または複数の核酸配列)を発現する。形質導入し得る真核細胞には、それだけには限定されないが、胚性幹細胞、ならびに造血幹細胞、肝細胞、線維芽細胞、骨髄単球細胞、リンパ球、筋芽細胞、組織マクロファージ、樹状細胞、クッパー細胞、リンパ節および脾臓のリンパ系および細網内皮細胞を含めた循環末梢血単核細胞および多形核細胞、ケラチノサイト、内皮細胞、および気管支上皮細胞が含まれる。
【0175】
宿主細胞
本発明のさらなる態様は、本発明のポリヌクレオチドまたはクローニング/発現構築物のうちの任意のものを用いて形質転換もしくはトランスフェクションした、または他の様式でそれを含む宿主細胞を提供する。ポリヌクレオチドおよびクローニング/発現構築物は、形質転換、トランスフェクションおよび形質導入を含めた当該技術分野で知られている任意の方法を用いて、適切な細胞内に導入する。宿主細胞には、例えばex vivo遺伝子治療を含めた、ex vivo細胞治療を受けている対象の細胞が含まれる。本発明によるポリヌクレオチド、ベクター、またはタンパク質を保有している場合に本発明の一態様として企図される真核宿主細胞には、被験体の自己細胞(例えばヒト患者の自己細胞)に加えて、VERO細胞、HeLa細胞、チャイニーズハムスター(chinese hamster)卵巣(CHO)細胞株(発現された多価結合分子のグリコシル化パターンを改変させる能力を有する改変CHO細胞を含む、公開米国特許出願第2003/0115614A1号参照)、本明細書中に参照により組み込まれている、COS細胞(COS-7など)、W138、BHK、HepG2、3T3、RIN、MDCK、A549、PC12、K562、HEK293細胞、HepG2細胞、N細胞、3T3細胞、スポドプテラ・フルギペルダ細胞(例えばSf9細胞)、サッカロミセス・セレビジエ細胞、ならびに本発明によるタンパク質またはペプチドの発現および任意選択で単離に有用な、当該技術分野で知られている任意の他の真核細胞が含まれる。また、それだけには限定されないが、大腸菌、枯草菌、ネズミチフス菌、ストレプトマイセス菌、または、本発明によるタンパク質もしくはペプチドの発現および任意選択で単離に適していることが当該技術分野で知られている任意の原核細胞を含めた原核細胞が企図される。特に、原核細胞からタンパク質またはペプチドを単離するにあたって、タンパク質を封入体から抽出するための当該技術分野で知られている技術を使用し得ることが企図される。適切な宿主の選択は、本明細書中の教示から当業者の範囲内にある。
【0176】
操作した宿主細胞は、必要に応じてプロモーターの活性化、形質転換体の選択、または特定の遺伝子の増幅のために改変した従来の栄養素培地中で培養することができる。発現のために選択された特定の宿主細胞の培養条件は、当業者に容易に明らかであろう。様々な哺乳動物細胞培養系も、組換えタンパク質を発現させるために用いることができる。哺乳動物発現系の例には、Gluzman、1981、Cell、23:175に記載のサル腎臓線維芽細胞のCOS-7系、ならびに適合性のあるベクターを発現することができる他の細胞株、例えば、C127、3T3、CHO、HeLaおよびBHK細胞が含まれる。哺乳動発現ベクターは、複製起点、適切なプロモーター、および任意選択でエンハンサー、また、任意の必要なリボソーム結合部位、ポリアデニル化部位、スプライスドナーおよびアクセプター部位、転写終止配列、ならびに5'フランキング非転写配列、例えば多価結合タンパク質発現構築物の調製に関して本明細書中に記載のものを含む。SV40スプライスに由来するDNA配列およびポリアデニル化部位を用いて、必要な非転写遺伝要素を提供し得る。宿主細胞内への構築物の導入は、それだけには限定されないが、リン酸カルシウムトランスフェクション、DEAE-デキストラン媒介性トランスフェクション、または電気穿孔を含めた、当業者が精通した様々な方法によって達成することができる(Davis他、1986 Basic Methods in Molecular Biology)。
【0177】
一実施形態では、宿主細胞は、本発明によるタンパク質またはポリペプチドの発現を指示する組換えウイルス構築物によって形質導入する。形質導入した宿主細胞は、ウイルスの出芽中にウイルス粒子によって取り込まれた宿主細胞膜の一部分に由来する、発現されたタンパク質またはポリペプチドを含むウイルス粒子を産生する。
【0178】
医薬組成物
一部の実施形態では、多価結合タンパク質または本明細書中に記載のそのようなタンパク質をコードしているポリヌクレオチドを含む組成物などの本発明の組成物は、遺伝子治療などのために、宿主細胞中、in vivoまたはin vitroで、コードされたタンパク質の発現を可能する条件下かつ十分な時間投与することに適している。そのような組成物は、周知の方法に従って投与するための医薬組成物へと製剤化し得る。医薬組成物は、一般に、1つもしくは複数の組換え発現構築物、および/またはそのような構築物の発現産物を、製薬上許容される担体、賦形剤または希釈剤と組み合わせて含む。そのような担体は、用いる用量および濃度でレシピエントに対して無毒性である。核酸に基づいた製剤、または本発明による発現産物を含む製剤では、体重1kgあたり約0.01μg〜約100mgを、例えば、皮内、皮下、筋肉内もしくは静脈内経路、または所定の定められた状況下に適していると当該技術分野で知られている任意の経路によって投与する。好ましい用量は、例えば約1μg/kg〜約1mg/kgであり、約5μg/kg〜約200μg/kgが特に好ましい。
【0179】
投与の数および頻度が宿主の応答に依存することは、当業者には明らかであろう。治療的使用のための製薬上許容される担体は製薬分野で周知であり、例えば、Remingtons Pharmaceutical Sciences、Mack Publishing Co.(A.R.Gennaro編、1985)に記載のとおりである。例えば、生理的なpHの無菌の生理食塩水およびリン酸緩衝生理食塩水を用い得る。保存料、安定化剤、色素などを医薬組成物中に提供し得る。例えば、安息香酸ナトリウム、ソルビン酸およびp-ヒドロキシ安息香酸のエステルを保存料として加え得る。同上の1449。さらに、抗酸化剤および懸濁剤を使用し得る。同上。本発明の化合物は、遊離塩基または塩の形態のどちらかで使用してよく、どちらの形態の本発明の範囲内にあるとみなされる。
【0180】
本発明の1つもしくは複数の核酸構築物、またはそのような核酸構築物によってコードされている産物に対応するタンパク質を含む医薬組成物は、組成物を患者に投与することを可能にする任意の形態であり得る。例えば、組成物は、固体、液体または気体(エアロゾル)の形態であり得る。典型的な投与経路には、それだけには限定されないが、経口、局所的、非経口(例えば、舌下もしくは頬側)、舌下、直腸、経膣、および鼻腔内が含まれる。本明細書中で使用する用語、非経口には、皮下注射、静脈内、筋肉内、胸骨内、空洞内、くも膜下腔内、道内、尿道内注射または注入技術が含まれる。医薬組成物は、それに含まれる活性成分が、組成物を患者に投与した際に生体利用可能となるように、製剤化する。患者に投与する組成物は、例えば、錠剤が単一の単位用量であり得る、および、エアロゾル形態の本発明の1つまたは複数の化合物の容器が複数の単位用量を保持し得る、1つまたは複数の単位用量の形態をとる。
【0181】
経口投与には、賦形剤および/または結合剤が存在し得る。例は、スクロース、カオリン、グリセリン、デンプンデキストリン、アルギン酸ナトリウム、カルボキシメチルセルロースおよびエチルセルロースである。着色剤および/または香味料が存在し得る。コーティングシェルを用い得る。
【0182】
組成物は、液体、例えば、エリキシル、シロップ、液剤、乳剤または懸濁液の形態であり得る。液体は、2つの例として、経口投与用または注射による送達用であり得る。経口投与を意図する場合、好ましい組成物は、1つまたは複数の結合ドメイン-免疫グロブリン融合構築物または発現産物に加えて、甘味剤、保存料、色素/着色料およびフレーバー強化剤のうちの1つまたは複数を含む。注射による投与を意図する組成物の場合、界面活性剤、保存料、湿潤剤、分散剤、懸濁剤、緩衝液、安定化剤および等張化剤のうちの1つまたは複数が含まれ得る。
【0183】
本明細書中で使用する液体医薬組成物は、溶液、懸濁液または他の同様の形態のどれであろうと、以下の補助剤、すなわち、注射用水、生理食塩水などの無菌希釈剤、好ましくは生理食塩水、リンゲル液、等張塩化ナトリウム、溶媒または懸濁媒として役割を果たし得る合成モノもしくはジグリセリドなどの不揮発性油、ポリエチレングリコール、グリセリン、プロピレングリコールまたは他の溶媒;ベンジルアルコールまたはメチルパラベンなどの抗菌剤;アスコルビン酸または亜硫酸水素ナトリウムなどの抗酸化剤;エチレンジアミン四酢酸などのキレート化剤;酢酸、クエン酸またはリン酸などの緩衝液、および塩化ナトリウムまたはデキストロースなどの等張性調節剤のうちの、1つまたは複数を含み得る。非経口調製物は、アンプル、すなわちガラスまたプラスチックで作製された使い捨てのシリンジまたは複数用量バイアルに封入することができる。生理食塩水が好ましい補助剤である。注射用医薬組成物は、好ましくは無菌的である。
【0184】
また、それだけには限定されないが、アルミニウム塩、油中水型乳剤、生分解性油ビヒクル、水中油型乳剤、生分解性マイクロカプセル、およびリポソームを含めた送達ビヒクルなどの他の構成要素を調製物中に含めることが望ましい場合もある。免疫賦活物質(アジュバント)の例には、N-アセチルムラミル-L-アラニン-D-イソグルタミン(MDP)、リポ多糖(LPS)、グルカン、IL-12、GM-CSF、γインターフェロンおよびIL-15が含まれる。
【0185】
当業者に知られている任意の適切な担体を本発明の医薬組成物で用い得るが、担体の種類は、投与様式、および持続放出が所望されるかどうかに応じて異なる。皮下注射などの非経口投与には、担体は、好ましくは、水、生理食塩水、アルコール、脂肪、ワックスまたは緩衝液を含む。経口投与には、マンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、サッカリンナトリウム、タルカム、セルロース、グルコース、スクロース、および炭酸マグネシウムなどの、上記担体または固形担体のうちの任意のものを用い得る。また、生分解性ミクロスフェア(例えばポリ乳酸ガラクチド)も、本発明の医薬組成物の担体として用い得る。適切な生分解性ミクロスフェアは、例えば、米国特許第4,897,268号および同第5,075,109号に開示されている。この点においては、ミクロスフェアは約25ミクロンよりも大きいことが好ましい。
【0186】
また、医薬組成物は、緩衝液などの希釈剤、アスコルビン酸などの抗酸化剤、低分子量(約10個未満の残基)のポリペプチド、タンパク質、アミノ酸、炭水化物(例えば、グルコース、スクロースまたはデキストリン)、キレート化剤(例えばEDTA)、グルタチオンならびに他の安定化剤および賦形剤も含み得る。中性の緩衝生理食塩水または非特異的血清アルブミンと混合した生理食塩水が例示的な適切な希釈剤である。好ましくは、生成物は、適切な賦形剤溶液(例えばスクロース)を、希釈剤を用いて凍結乾燥物として製剤化する。
【0187】
また、本発明による医薬組成物には、本明細書中に参照により組み込まれている公開米国特許出願第2006/0008415A1号に開示されている技術を含めた、当該技術分野で知られている技術に従った安定化タンパク質および安定液体医薬製剤も含まれる。そのような技術には、N-アセチル-L-システイン、N-エチル-マレイミド、またはシステインとカップリングしたチオール基を含むタンパク質の誘導体化が含まれる。
【0188】
上述のように、本発明の目的には、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質をコードしている核酸分子を送達することができる組成物が含まれる。そのような組成物には、組換えウイルスベクター、例えば、レトロウイルス(国際公開公報WO90/07936号、国際公開公報WO91/02805号、国際公開公報WO93/25234号、国際公開公報WO93/25698号、および国際公開公報WO94/03622号参照)、アデノウイルス(Berkner、1988 Biotechniques 6:616-627;Li他、1993 Hum.Gene Ther.4:403-409;Vincent他、Nat.Genet.5:130-134;and Kolls他、1994 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:215-219参照)、ポックスウイルス(米国特許第 4,769,330号;米国特許第5,017,487号;および国際公開公報WO89/01973号参照))、ポリカチオン分子と複合体形成した組換え発現構築物核酸分子(国際公開公報WO93/03709号参照)、ならびにリポソームと会合した核酸(Wang他、1987 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7851参照)が含まれる。特定の実施形態では、DNAは、死滅または失活したアデノウイルスと連結していてよい(Curiel他、1992 Hum.Gene Ther.3:147-154;Cotton他、1992 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 89:6094参照)。他の適切な組成物には、DNA-リガンド(Wu他、1989 J.Biol.Chem.264:16985-16987参照)および脂質-DNAの組合せ(Felgner他、1989 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 84:7413-7417参照)が含まれる。
【0189】
直接in vivo手順に加えて、細胞を宿主(例えばヒト患者などの被験体)から取り出し、改変し、同じまたは別の宿主動物内に入れるex vivo手順も持ち得る。本発明の構築物、すなわちタンパク質/ポリペプチドまたはそれらをコードしている核酸のどちらかを、ex vivoの状況で組織細胞内に導入するために、上述の組成物のうちの任意のものを利用できることが明らかであろう。取り込みのウイルス、物理的および化学的方法のプロトコルは、当該技術分野で周知である。
【0190】
抗体の産生
抗原ポリペプチドに対するポリクローナル抗体は、一般に、動物(例えば、ウサギ(rabbit)、ハムスター(hamster)、ヤギ(goat)、ヒツジ(sheep)、ウマ(horse)、ブタ(pig)、ラット(rat)、スナネズミ(gerbil)、モルモット(guinea pig)、マウス(mouse)、または任意の他の適切な哺乳動物、および他の非哺乳動物種)中で、抗原ポリペプチドまたはその断片およびアジュバントを複数回皮下または腹腔内注射することによって、産生する。アジュバントには、それだけには限定されないが、完全または不完全フロイントアジュバント、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、ならびにリゾレシチン、プルロニックポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油乳剤、およびジニトロフェノールなどの界面活性物質が含まれる。BCG(カルメット-ゲラン桿菌)およびコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)も、潜在的に有用なアジュバントである。抗原ポリペプチドを、免疫化する動物種において免疫原性である担体タンパク質とコンジュゲートさせることが有用であり得る。典型的な担体には、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシサイログロブリン、またはダイズトリプシンインヒビターが含まれる。また、ミョウバンなどの凝血剤を用いて免疫応答を増強させる。免疫化後、動物から採血し、従来技術を用いて、血清を、抗抗原ポリペプチドの抗体価についてアッセイする。ポリクローナル抗体は、それらが検出された血清中で利用するか、または、例えば抗原アフィニティークロマトグラフィーを用いて血清から精製し得る。
【0191】
抗原ポリペプチドに対するモノクローナル抗体は、培養中の連続継代細胞株によって抗体分子の産生を提供する、任意の方法を用いて産生する。例えば、モノクローナル抗体は、Kohler他、Nature 256:495[1975];the human B-cell hybridoma technique(Kosbor他、Immunol Today 4:72、1983;Cote他、Proc Natl Acad Sci 80:2026-2030、1983)and the EBV-hybridoma technique(Cole他、Monoclonal Antibodies and Cancer Therapy、Alan R Liss Inc、New York N.Y.、pp77-96、(1985)に記載のように、ハイブリドーマ方法によって作製し得る。
【0192】
ハイブリドーマ技術を用いる場合は、骨髄腫細胞株を用い得る。ハイブリドーマ産生融合手順での使用に適した細胞株は、内在抗体を産生せず、高い融合効率を有し、所望の融合細胞(ハイブリドーマ)のみの増殖を支持する、特定の選択培地中で増殖できなくさせる酵素欠損を示すことが好ましい。例えば、免疫化した動物がマウスである場合、P3-X63/Ag8、P3-X63-Ag8.653、NS1/1.Ag41、Sp210-Ag14、FO、NSO/U、MPC-11、MPC11-X45-GTG1.7およびS194/5XX0 Bulを使用してよく;ラットには、R210.RCY3、Y3-Ag1.2.3、IR983Fおよび4B210してよく;U-266、GM1500-GRG2、LICR-LON-HMy2およびUC729-6はすべて、細胞融合に関連して有用である。
【0193】
別の実施形態では、ヒト抗体は、ファージディスプレイライブラリーから産生することができる(Hoogenboom他、J.Mol.Biol.227:381[1991];Marks他、J.Mol.Biol.222:581、米国特許第5,885,793号も参照されたい)。)。これらのプロセスは、糸状バクテリオファージの表面上の抗体レパートリーのディスプレイ、および続いて選択した抗原とのその結合によるファージの選択によって、免疫選択を模倣する。1つのそのような技術は、そのような技術を用いたMPL-およびmsk-受容体の高親和性かつ機能的な作用性抗体の単離を説明している、Adams他出願のPCT出願PCT/US98/17364号に記載されている。この手法では、以前に記載されているように、天然に再配列されたヒトV遺伝子を末梢血リンパ球からクローニングすることによって、ヒト抗体遺伝子の完全なレパートリーを作製できる(Mullinax他、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)87:8095-8099[1990])。
【0194】
あるいは、完全に合成のヒト重鎖レパートリーは、それぞれのヒトVHセグメントを、ランダムヌクレオチドのDセグメントと、ヒトJセグメントと共にアセンブリすることによって、再配列されていないV遺伝子セグメントから作製することができる(Hoogenboom他、J.Mol.Biol.227:381-388[1992])。同様に、それぞれのヒトVセグメントをJセグメントと合わせることによって、軽鎖レパートリーを構築することができる(Griffiths他、EMBO J.13:3245-3260[1994])。完全抗体(すなわち、重鎖および軽鎖の両方)をコードしているヌクレオチドは単鎖Fv断片として連結されており、このポリヌクレオチドは、線維状ファージマイナーコーティングタンパク質をコードしているヌクレオチドとライゲートしている。この融合タンパク質はファージの表面上に発現された際、特異的抗体をコードしているポリヌクレオチドは、固定抗原を用いた選択によって同定することができる。
【0195】
ポリクローナルおよびモノクローナル抗体を産生する従来の方法以外に、任意の既知の抗体形態を産生するための任意の方法が企図される。ポリクローナルおよびモノクローナルに加えて、抗体の形態には、キメラ化抗体、ヒト化抗体、CDR移植抗体、ならびに抗体断片および変異体が含まれる。
【0196】
特異的結合剤の変異体および誘導体
一例では、1つまたは複数のアミノ酸残基が特異的結合剤のアミノ酸配列に追加されている挿入変異体を提供する。挿入は、タンパク質の一方もしくは両方の末端に位置するか、または特異的結合剤のアミノ酸配列の内部領域内に配置されていてよい。また、本発明の変異体産物には、成熟特異的結合剤、すなわち、リーダーまたはシグナル配列が除去されており、その結果生じるタンパク質が追加のアミノ末端残基を有する特異的結合剤が含まれる。追加のアミノ末端残基は、別のタンパク質に由来するか、または特定のタンパク質に由来すると同定できない1つもしくは複数の残基を含み得る。位置-1で追加のメチオニン残基を有するポリペプチド(例えば、エフェクター機能を有するMet-1-多価結合ペプチド)が企図され、位置-2および-1で追加のメチオニンおよびリシン残基を有する本発明のポリペプチド(エフェクター機能を有するMet-2-Lys-1-多価結合タンパク質)も企図される。追加のMet、Met-Lys、もしくはLys残基(または一般に1つもしくは複数の塩基性残基)を有する本発明のポリペプチドの変異体が、細菌宿主細胞における増強された組換えタンパク質の産生に特に有用である。
【0197】
本発明はまた、特定の発現系を使用することで生じる追加のアミノ酸残基を有する本発明の特定のポリペプチドも包含する。例えば、所望のポリペプチドをグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)融合産物の一部として発現する市販のベクターを使用することで、所望のポリペプチドからGST成分を切断した後で位置-1に追加のグリシン残基を有する所望のポリペプチドが提供される。ヒスチジンタグがアミノ酸配列内の、一般に配列のカルボキシおよび/またはアミノ末端内に組み込まれているものを含めた、他のベクター系中での発現により生じる変異体も企図される。
【0198】
別の態様では、本発明は、本発明のポリペプチド中の1つまたは複数のアミノ酸残基が除去されている欠失変異体を提供する。欠失は、ポリペプチドの一方もしくは両方の末端で行うか、またはアミノ酸配列内の1つもしくは複数の残基の除去から達成することができる。欠失変異体には、本発明によるポリペプチドのすべての断片が必ず含まれていなければならない。
【0199】
抗体断片とは、免疫グロブリン可変領域の配列の少なくとも一部に対応する配列を有するポリペプチドをいう。断片は、例えば、完全長の抗体に対応するポリペプチドの酵素的または化学的切断によって作製し得る。他の結合断片には、合成技術または部分的抗体可変領域をコードしている核酸配列を含む組換えプラスミドの発現などの組換えDNA技術によって作製したものが含まれる。好ましいポリペプチド断片は、本明細書中に記載の標的に対して独特な、または特異的な免疫特性を示す。所望の免疫特性を有する本発明の断片は、当該技術分野において周知かつ日常的に実施されている方法のうちの任意のものによって調製することができる。
【0200】
さらに別の態様では、本発明は、エフェクター機能を有する多価結合ポリペプチドの置換変異体を提供する。置換変異体には、アミノ酸配列中の1つまたは複数のアミノ酸残基が除去されて、代替残基によって置き換えられているポリペプチドが含まれる。一部の実施形態では、置換は保存的性質であるが、本発明は、非保存的の置換も包含する。アミノ酸は、物理特性ならびに二次および三次タンパク質構造への寄与に従って分類することができる。保存的置換は、当該技術分野において、1つのアミノ酸を類似の特性を有する別のアミノ酸で置換することと認識されている。例示的な保存的置換をすぐ下の表Aに示す(国際公開公報WO97/09433、10ページ、1997年3月13日公開(PCT/GB96/02197号、9/6/96出願)参照。
【表1】
【0201】
あるいは、保存的アミノ酸は、すぐ下の表Bに示すように、Lehninger、[Biochemistry、第2版;Worth Publishers,Inc.ニューヨーク州NY(1975)、ページ71-77]に記載のように分類することができる。
【表2】
【表3】
【0202】
本発明はまた、特異的結合剤ポリペプチドの誘導体も提供する。誘導体には、アミノ酸残基の挿入、欠失、または置換以外の改変を保有する特異的結合剤ポリペプチドが含まれる。好ましくは、改変は共有的な性質のものであり、例えば、ポリマー、脂質、他の有機、および無機部分との化学結合が含まれる。本発明の誘導体は、特異的結合剤ポリペプチドの循環半減期を増加させるために調製するか、またはポリペプチドが所望の細胞、組織、または器官を標的化する能力を改善するために設計し得る。
【0203】
本発明はさらに、米国特許第4,640,835号、同第4,496,689号、同第4,301,144号、同第4,670,417号、同第4,791,192号および同第4,179,337号に記載されているように、ポリエチレングリコール、ポリオキシエチレングリコール、またはポリプロピレングリコールなどの1つまたは複数の水溶性ポリマー連結物が含まれるように共有的に改変または誘導体化された、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質を包含する。当該技術分野で知られているさらに他の有用なポリマーには、モノメトキシ-ポリエチレングリコール、デキストラン、セルロース、および他の炭水化物系ポリマー、ポリ-(N-ビニルピロリドン)-ポリエチレングリコール、プロピレングリコールホモポリマー、ポリプロピレンオキシド/酸化エチレンコポリマー、ポリオキシエチル化ポリオール(例えばグリセロール)、ポリビニルアルコール、ならびにこれらのポリマーの混合物が含まれる。ポリエチレングリコール(PEG)で誘導体化したタンパク質が特に好ましい。水溶性ポリマーは、特定の位置、例えば本発明によるタンパク質およびポリペプチドのアミノ末端で結合しているか、またはポリペプチドの1つもしくは複数の側鎖でランダムに連結していてよい。治療能力を改善させるためのPEGの使用は、Gonzales他の米国特許第6,133,426号に記載されている。
【0204】
免疫グロブリン突然変異誘発の標的部位
特定の戦略が、非免疫グロブリンに基づいた結合分子では利用可能でないが、抗原に特異的な免疫グロブリン(例えば抗体)の固有の特性の操作で利用可能である。これらの代替方法を超えて例えば抗体に基づいた分子を好む戦略のよい例は、親和性成熟による、その標的に対する抗体の親和性のin vivo調節であり、これは、免疫グロブリン遺伝子体性高頻度変異の利点をとって、免疫応答が進行するにつれて増加している親和性の抗体を与える。さらに、免疫グロブリンならびに免疫グロブリンの領域およびドメインの構造を変更させる組換え技術が開発されている。したがって、所定の抗原に対して変更された親和性を示す、抗体に由来するポリペプチドを産生してよく、また、これらのポリペプチドを同定かつ精製または単離するためのいくつかの精製プロトコルおよびモニタリングスクリーニングが当該技術分野で知られている。これらの既知の技術を用いて、抗原に対して低下または増加した親和性を示す、抗体由来の結合ドメインを含むポリペプチドを得ることができる。変更された親和性を示すポリペプチド変異体を作製する戦略には、タンパク質中に存在するアミノ酸を変化させるための、抗体をコードしているDNAの部位特異的またはランダム突然変異誘発の使用、続いて、所望の変化、例えば未改変の親または参照抗体と比較して増加または低下した親和性を示す抗体変異体を回収するために設計したスクリーニングステップが含まれる。
【0205】
親和性を変更するための突然変異原戦略において最も一般的に標的とされるアミノ酸残基は、抗体の軽鎖および重鎖可変領域の相補性決定領域(CDR)または高頻度可変領域中のものである。これらの領域は、抗原と物理化学的に相互作用する残基、およびこれらの残基の空間的配置に影響を与える他のアミノ酸を含む。しかし、CDR領域外の可変ドメインのフレームワーク領域中のアミノ酸も、抗体の抗原結合特性に相当寄与していることが示されており、そのような特性を操作するための標的とすることができる。Hudson,P.J.、Curr.Opin.Biotech.、9:395-402(1999)およびその中の参考文献を参照されたい。
【0206】
ランダムまたは部位特異的突然変異誘発を、体性親和性成熟プロセス中に「高頻度突然変異」を受けやすい領域に対応するCDR中の部位に限定することによって、より小さくより有効にスクリーニングした抗体変異体のライブラリを作製することができる。Chowdhury他、Nature Biotech.、17:568-572(1999)およびその中の参考文献を参照されたい。この様式で高頻度突然変異部位を定義することが知られているDNAエレメントの種類には、直列および逆方向反復、特定のコンセンサス配列、二次構造、および回文構造が含まれる。コンセンサスDNA配列には、四塩基配列プリン-G-ピリミジン-A/T(すなわち、AまたはG-G-CまたはT-AまたはT)およびセリンコドンAGY(YはCまたはTであることができる)が含まれる。
【0207】
したがって、本発明の別の態様は、抗体のその標的に対する親和性を改変するための一組の突然変異原戦略である。これらの戦略には、重鎖および/もしくは軽鎖の可変領域全体の突然変異誘発、CDR領域のみの突然変異誘発、CDR内のコンセンサス高頻度変異部位の突然変異誘発、フレームワーク領域の突然変異誘発、またはこれらの手法の任意の組合せが含まれる(本状況における「突然変異誘発」は、ランダムまたは部位特異的であることができる)。CDR領域の最終的な描写および抗体の結合部位を含む残基の同定は、懸案の抗体および抗体:リガンド複合体の構造を、X線結晶構造解析などの当業者に知られている技術によって解くことによって達成することができる。そのような抗体結晶構造の分析および特徴づけに基づいた様々な方法が当業者に知られており、CDR領域を近似するために用いることができる。そのような一般的に使用される方法の例には、カバット(Kabat)、コチア(Chothia)、AbMおよび接触定義が含まれる。
【0208】
カバット定義は、配列の可変性に基づいており、CDR領域の予測に最も一般的に使用される定義である。Johnson他、Nucleic Acids Research、28:214-8(2000)。コチア定義は、構造的ループ領域の位置に基づいている。(Chothia他、J.Mol.Biol.、196:901-17[1986];Chothia他、Nature、342:877-83[1989])。AbM定義は、カバットおよびコチア定義の折衷である。AbMは、Oxford Molecular Groupによって生成された抗体構造モデリングの総合プログラムスイートである(Martin他、Proc.Natl.Acad.Sci(USA)86:9268-9272[1989];Rees他、ABMTM、a computer program for modeling variable regions of antibodies、英国Oxford;Oxford Molecular,Ltd.)。AbMスイートモデルは、ナレッジデータベースおよび非経験的な方法の組合せを用いて、抗体の一次配列から三次構造をモデリングする。接触定義として知られるさらなる定義が最近導入された。MacCallum他、J.Mol.Biol.、5:732-45(1996)を参照されたい。この定義は、利用可能な複合体結晶構造の分析に基づいている。
【0209】
慣例により、重鎖中のCDRドメインを、典型的にはH1、H2およびH3と呼び、アミノ末端からカルボキシ末端に移動する順序の連番が付けられている。軽鎖中のCDR領域は、典型的にはL1、L2およびL3と呼ばれ、アミノ末端からカルボキシ末端に移動する順序の連番が付けられている。
【0210】
CDR-H1は、約10〜12個の残基の長さであり、コチアおよびAbM定義によれば典型的にはCysの4個の残基後、またはカバット定義によれば典型的には5個の残基後から開始される。H1には、典型的にはTrp、典型的にはTrp-Valが続くが、Trp-IleまたはTrp-Alaの場合もある。H1の長さは、AbM定義によれば約10〜12個の残基であるが、コチア定義では最後の4個の残基が除外される。
【0211】
CDR-H2は、カバットおよびAbM定義によれば、典型的にはH1の末端15個の残基後から開始される。H2の前の残基は、典型的にはLeu-Glu-Trp-Ile-Glyであるが、いくつかの変形が存在する。H2には、典型的にはアミノ酸配列Lys/Arg-Leu/Ile/Val/Phe/Thr/Ala-Thr/Ser/Ile/Alaが続く。カバット定義によれば、H2の長さは約16〜19個の残基であり、AbM定義では、長さが典型的には9〜12個の残基であると予測する。
【0212】
CDR-H3は、典型的にはH2の末端33個の残基後から開始され、その前には典型的にはアミノ酸配列Cys-Ala-Argが存在する。H3には、典型的にはアミノ酸Glyが続く。H3の長さの範囲は3〜25個の残基である。
【0213】
CDR-L1は、典型的には残基24辺りで開始され、典型的にはCysに続く。CDR-L1後の残基は必ずTrpであり、これが、典型的には以下の配列、すなわち、Trp-Tyr-Gln、Trp-Leu-Gln、Trp-Phe-Gln、またはTrp-Tyr-Leuのうちの1つを開始する。CDR-L1の長さは約10〜17個の残基である。
【0214】
CDR-L2は、L1の末端の約16個の残基後から開始される。これは、一般に、残基Ile-Tyr、Val-Tyr、Ile-LysまたはIle-Pheに続く。CDR-L2の長さは約7個の残基である。
【0215】
CDR-L3は、典型的にはL2の末端の33個の残基後から開始され、典型的にはCysに続く。L3には、典型的にはアミノ酸配列Phe-Gly-XXX-Glyが続く。L3の長さは約7〜11個の残基である。
【0216】
例えばヒト化免疫グロブリンの重鎖可変領域フレームワークの配列がドナー免疫グロブリンの重鎖可変領域フレームワークの配列と65%〜95%同一であるヒト化抗体を産生する方法を含めた、抗体を改変する様々な方法が当該技術分野で記載されている。それぞれのヒト化した免疫グロブリン鎖は、通常、CDRに加えて、例えば、ドナー免疫グロブリン中でCDRに直接隣接している1つもしくは複数のアミノ酸、または分子モデリングによって予測した場合に約3オングストローム以内のものなどの、結合親和性を達成するためにCDRと相互作用することができるドナー免疫グロブリンフレームワークからのアミノ酸を含む。重鎖および軽鎖は、それぞれ、様々な位置基準の任意の1つまたは複数を使用することによって設計し得る。無処置の抗体と合わせた場合、ヒト化した免疫グロブリンはヒトにおいて実質的に非免疫原性であり、エピトープを含むタンパク質または他の化合物などの抗原に対してドナー免疫グロブリンと実質的に同じ親和性を保持する。
【0217】
一例では、親抗体に類似の結合特異性を有するが増加したヒト特徴を有する抗体および抗体断片を産生する方法を記載する。ヒト化抗体は、例えば、ファージディスプレイ技術および目的の抗原に特異的な非ヒト抗体の重鎖または軽鎖可変領域を含むポリペプチドを用いた鎖シャフリングによって得て、その後、これをヒト相補的(軽鎖または重鎖)鎖可変領域のレパートリーと合わせる。目的の抗原に特異的なハイブリッド対合を同定し、選択された対合からのヒト鎖をヒト相補的可変ドメイン(重鎖または軽鎖)のレパートリーと合わせる。別の実施形態では、非ヒト抗体からのCDRの構成要素を、ヒト抗体からのCDRの構成要素部分のレパートリーと合わせる。生じる抗体ポリペプチド二量体のライブラリからハイブリッドを選択して、第2のヒト化シャフリングステップで使用してもよい。あるいは、ハイブリッドが治療的価値を有するために十分にヒトの特徴である場合は、この第2のステップを排除する。ヒト特徴を増加するための改変方法は、当該技術分野で知られている。
【0218】
別の例は、CDRアミノ酸配列を対応するヒトCDRアミノ酸配列で置換することおよび/またはFRアミノ酸配列を対応するヒトFRアミノ酸配列で置換することによってヒト化抗体を作製する方法である。
【0219】
さらに別の例は、抗原結合ドメインの天然の親和性を減少させない一方で異種の種に対するその免疫原性を軽減させるように改変し得る抗体可変ドメインのアミノ酸残基を同定する方法、および異種の種への投与が有用であるようにこれらの改変された抗体可変領域を調製する方法を提供する。
【0220】
当該技術分野で知られている方法のうちの任意のものによる、抗体などの免疫グロブリンの改変は、抗原に対する結合親和性の増加もしくは低下を達成する、および/またはレシピエントにおける抗体の免疫原性を軽減させる、および/またはエフェクター活性レベルを調節するように設計されている。一手法では、ヒト化抗体は、抗体のその同族抗原に対する親和性を増加するために、グリコシル化部位を排除するように改変することができる(Co他、Mol.Immunol.30:1361-1367[1993])。「再成形」、「ハイパーキメラ化」、および「張り合わせ/再表面再建」(vennering/resurfacing)などの技術により、より大きな治療潜在性を有するヒト化抗体が産生されている。Vaswami他、Annals of Allergy、Asthma、& Immunol 81:105(1998);Roguska他、Prot.Engineer.9:895-904(1996)]。抗体を再成形する方法を記載している米国特許第6,072,035号も参照されたい。これらの技術は外来残基の数を減らすことによって抗体の免疫原性を減少させるが、これらは抗体の繰り返し投与後の抗イディオタイプおよび抗アロタイプ応答を予防しない。免疫原性を減少させるための、これらの方法の代替方法は、Gilliland他、J.Immunol.62(6):3663-71(1999)に記載されている。
【0221】
多くの場合、抗体のヒト化により、抗原結合能力の損失がもたらされる。したがって、抗体の結合親和性を修復する試みとして、最初の(ほとんどの場合はげっ歯類の)抗体中に見つかるアミノ酸残基の1つまたは複数が含まれるようにヒト化抗体を「復帰突然変異」させることが好ましい。例えば、Saldanha他、Mol.Immunol.36:709-19(1999)を参照されたい。
【0222】
免疫グロブリンのグリコシル化は、エフェクター機能、構造的安定性、および抗体産生細胞からの分泌率に影響を与えることが示されている(本明細書中に参照により組み込まれているLeatherbarrow他、Mol.Immunol.22:407(1985)を参照)。これらの特性を司っている炭水化物基は、一般に、抗体の定常領域に連結している。例えば、C
H2ドメイン中のAsn297におけるIgGのグリコシル化は、補体依存性細胞溶解を活性化させるIgGの完全な能力を促進する(Tao他、J.Immunol.143:2595(1989))。例えば、C
H3ドメイン中のAsn402におけるIgMのグリコシル化は、抗体の適切なアセンブリおよび細胞溶解性活性を促進する(Muraoka他、J.Immunol.142:695(1989))。IgA抗体のC
H1およびC
H3ドメイン中の位置162および419におけるグリコシル化部位の除去により、細胞内分解および少なくとも90%の分泌の阻害がもたらされた(Taylor他、Wall、Mol.Cell.Biol.8:4197(1988))。したがって、本発明の分子には、エフェクター機能を変更するために、例えば定常部分領域中の特定の残基の突然変異によって変更されたグリコシル化パターンを示す、突然変異によって変更された免疫グロブリンが含まれる。それぞれが本明細書中に参照により組み込まれている、Co他、Mol.Immunol.30:1361-1367(1993)、Jacquemon他、J.Thromb.Haemost.4:1047-1055(2006)、Schuster他、Cancer Res.65:7934-7941(2005)、and Warnock他、Biotechnol Bioeng.92:831-842(2005)を参照されたい。
【0223】
また、発明には、既知の免疫グロブリン可変領域の配列と少なくとも80%、好ましくは90%もしくは95%または99%同一の配列である少なくとも1つの結合ドメインを有し、そのような免疫グロブリン可変領域とは異なる少なくとも1つの残基を有し、変化した残基により、免疫グロブリン可変領域と比較して、グリコシル化部位が付加されるか、1つもしくは複数のグリコシル化部位の位置が変化されるか、または好ましくはグリコシル化部位が除去される、多価結合分子が含まれる。一部の実施形態では、変化により、免疫グロブリン可変領域フレームワーク中のN結合グリコシル化部位が除去されるか、または、Co他、J.Immunol.148:1149、(1992)の番号付けの慣例を用いてアミノ酸残基約65〜アミノ酸残基約85にわたる領域中の免疫グロブリンの重鎖可変領域フレームワーク内に存在するN結合グリコシル化部位が除去される。
【0224】
免疫グロブリン参照配列と比較して変更されたグリコシル化パターンを示す多価結合分子を産生するために、当該技術分野で知られている任意の方法が企図される。例えば、様々な遺伝子技術のうちの任意のものを用いて、1つまたは複数の特定の残基を変更し得る。あるいは、産生に用いた宿主細胞を操作して、変更されたグリコシル化パターンを生じさせ得る。例えば、当該技術分野で知られている一方法は、ADCCを増加させる、二分したフコシル化されていない変異体の形態の、変更されたグリコシル化を提供する。変異体は、オリゴ糖改変酵素を含む宿主細胞内での発現から生じる。あるいは、本発明によるグリコシル化された分子のフコース含有率を低下させるために、BioWa/Kyowa HakkoのPotelligent技術が企図される。1つの既知の方法では、免疫グロブリンF
C領域のグリコシル化パターンをGDP-フコースの産生によって改変する、組換え免疫グロブリンを産生するためのCHO宿主細胞を提供する。この技術は、本発明による多価結合分子の定常部分領域のグリコシル化パターンを改変するために利用可能である。
【0225】
免疫グロブリンの結合ドメインなどの結合ドメインの結合特性を改変することに加えて、また、ヒト化などの改変に加えて、本発明は、定常部分領域のエフェクター機能などの、エフェクター機能に寄与する残基を変化または突然変異させることによるエフェクター機能の変調を包含する。これらの改変は、本明細書中に参照により組み込まれているPresta他、Biochem.Soc.Trans.30:487-490(2001)に開示されている手法などの当該技術分野で知られている任意の技術を用いて達成することができる。例示的な手法には、F
CγRI、FCγRII、FCγRIII、FCαR、およびFCεRに対応する1つまたは複数の定常部分領域における結合に影響を与えることが知られている特定の残基を改変するための、Presta他に開示されているプロトコルが含まれるであろう。
【0226】
別の手法では、Xencor XmAb技術が、細胞死滅エフェクター機能を増強するためにF
Cドメインに対応する定常部分領域を操作するために利用可能である。本明細書中に参照により組み込まれているLazar他、Proc.Natl.Acad.Sci.(USA)103(11):4005-4010(2006)を参照されたい。この手法を用いて、例えば、F
CγR特異性および結合に最適化された定常部分領域を作製し、したがって細胞死滅エフェクター機能を増強させることができる。
【0227】
エフェクター機能を有する多価結合タンパク質の産生
様々な発現ベクター/宿主系を、本発明の多価結合タンパク質(エフェクター機能を有する)を含むおよび発現するように利用し得る。これらの系には、それだけには限定されないが、微生物、例えば、組換えバクテリオファージ、プラスミド、コスミド、もしくは他の発現ベクターで形質転換させた細菌;酵母発現もしくはシャトルベクターで形質転換させた酵母;ウイルス発現ベクター(例えばバキュロウイルス)を感染させた昆虫細胞株;ウイルス発現ベクター(例えば、カリフラワーモザイクウイルス、CaMV;タバコモザイクウイルス、TMV)でトランスフェクションさせた、もしくは細菌発現ベクター(例えば、TiもしくはpBR322プラスミド)で形質転換させた植物細胞株;または動物細胞株が含まれる。組換え多価結合タンパク質の産生に有用な哺乳動物細胞には、それだけには限定されないが、VERO細胞、HeLa細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞株、COS細胞(COS-7など)、W138、BHK、HepG2、3T3、RIN、MDCK、A549、PC12、K562およびHEK293細胞が含まれる。多価結合タンパク質の組換え発現の例示的なプロトコルを、本明細書中以下に記載する。
【0228】
発現ベクターは、(1)遺伝子発現において調節性の役割を有する遺伝的エレメントまたは複数のエレメント、例えば、プロモーター、エンハンサー、または因子特異的結合部位、(2)mRNAへと転写され、タンパク質へと翻訳される結合剤をコードしている構造体または配列、ならびに(3)適切な転写開始および終止配列のアセンブリを含む転写単位を含むことができる。酵母または真核発現系で用いることを意図する構造単位には、好ましくは、宿主細胞による翻訳されたタンパク質の細胞外分泌を可能にするリーダー配列が含まれる。あるいは、組換え多価結合タンパク質がリーダーまたは輸送配列なしで発現される場合は、アミノ末端にメチオニン残基を含み得る。この残基は、続いて、発現された組換えタンパク質から切断されるかされずに、最終多価結合タンパク質を提供し得る。
【0229】
例えば、多価結合タンパク質は、市販の発現系、例えばピキア(Pichia)発現系(Invitrogen、カリフォルニア州San Diego)を用いて、製造者の指示に従って、酵母中で組換えによって発現させ得る。また、この系は、分泌を指示するためにプリプロα配列に依存するが、インサートの転写は、メタノールによる誘発の際にアルコールオキシダーゼ(AOX1)プロモーターによって駆動される。分泌された多価結合ペプチドは、例えばペプチドを細菌および哺乳動物細胞の上清から精製するために用いる方法によって、酵母増殖培地から精製し得る。
【0230】
あるいは、多価結合ペプチドをコードしているcDNAをバキュロウイルス発現ベクターpVL1393(PharMingen、カリフォルニア州San Diego)内にクローニングし得る。このベクターを製造者の指示(PharMingen)に従って用いて、SF9タンパク質を含まない培地中でスポドプテラ・フルギペルダ細胞に感染させ、組換えタンパク質を産生させることができる。多価結合タンパク質は、ヘパリン-セファロースカラム(Pharmacia、ニュージャージー州Piscataway)を用いて培地から精製および濃縮することができる。SF9系などのタンパク質発現用の昆虫系が当業者に周知である。このような系の1つであるオートグラファ・カリフォルニカ(Autographa californica)核多角体病ウイルス(AcNPV)を、スポドプテラ・フルギペルダ細胞またはトリコプルジア(Trichoplusia)の幼虫中で外来遺伝子を発現させるベクターとして用いることができる。多価結合ペプチドコード配列を多角体遺伝子などのウイルスの非必須領域内にクローニングし、ポリヘドリンプロモーターの制御下に置くことができる。多価結合ペプチドの挿入の成功は多角体遺伝子を失活させ、コーティングタンパク質を欠く組換えウイルスが産生される。組換えウイルスを用いて、ペプチドを発現させるS.フルギペルダ細胞またはトリコプルジアの幼虫を感染させることができる(Smith他、J Virol 46:584、1983;Engelhard他、Proc Nat Acad Sci(USA)91:3224-7、1994)。
【0231】
別の例では、多価結合ペプチドをコードしているDNA配列をPCRによって増幅し、適切なベクター、例えばpGEX-3X(Pharmacia、ニュージャージー州Piscataway)内にクローニングすることができる。pGEXベクターは、ベクターによってコードされているグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)と、ベクターのクローニング部位内に挿入されたDNA断片によってコードされている多価結合タンパク質とを含む融合タンパク質を産生するように設計されている。PCR用のプライマーは、例えば適切な切断部位が含まれるように作製することができる。多価結合タンパク質の融合部分を、発現を促進するためだけに使用する場合、または他の理由で目的のペプチドと連結することが望ましくない場合は、組換え多価結合タンパク質の融合体をこの時に融合タンパク質のGST部分から切断し得る。pGEX-3X/多価結合ペプチド構築物を大腸菌XL-1 Blue細胞(Stratagene、カリフォルニア州La Jolla)内に形質転換させ、個々の形質転換体を単離および増殖させる。個々の形質転換体からのプラスミドDNAを精製し、自動配列決定機を用いて部分的に配列決定して、適切な方向の所望の多価結合タンパク質をコードしている核酸インサートの存在を確認し得る。
【0232】
細菌中の不溶性の封入体として産生し得る融合した多価結合タンパク質は、以下のように精製することができる。宿主細胞を遠心分離によって収集し;0.15MのNaCl、10mMのトリス、pH8、1mMのEDTAで洗浄し;0.1mg/mlのリゾチーム(Sigma Chemical Co.)を用いて15分間、室温で処理することができる。溶解物を超音波処理によって清澄にすることができ、細胞細片を10分間、12,000×gで遠心分離することによってペレット化することができる。多価結合タンパク質融合体含有ペレットを50mMのトリス、pH8、および10mMのEDTAに再懸濁させ、層状の50%のグリセロールの上に層状に重ね、30分間、6000gで遠心分離することができる。ペレットを、Mg
++およびCa
++を含まない標準のリン酸緩衝生理食塩水(PBS)に再懸濁させることができる。多価結合タンパク質融合体は、再懸濁させたペレットを変性SDSポリアクリルアミドゲル中で分画することによって、さらに精製することができる(Sambrook他)。タンパク質を可視化するためにゲルを0.4MのKClに浸し、これを切除し、SDSを欠くゲルランニング緩衝液中で電気溶出させる。GST/多価結合ペプチド融合タンパク質が細菌中で可溶性タンパク質として産生される場合、これはGST精製モジュール(Pharmacia Biotech)を用いて精製することができる。
【0233】
多価結合タンパク質融合体は、好ましくは、GSTを本発明の多価結合ペプチドから切断するために消化に供する。消化反応(20〜40μgの融合タンパク質、20〜30単位のヒトトロンビン(0.5mlのPBS中に4000U/mg(Sigma))を、16〜48時間、室温でインキュベーションし、変性SDS-PAGEゲルに添加して、反応生成物を分画することができる。ゲルを0.4MのKClに浸してタンパク質のバンドを可視化することができる。多価結合ペプチドの予測される分子量に対応するタンパク質のバンドが何であるかは、自動配列決定機(Applied Biosystems、モデル473A、カリフォルニア州Foster City)を用いたアミノ酸配列分析によって確認することができる。あるいは、ペプチドのHPLCおよび/または質量分析を行うことによって、何であるかを確認することができる。
【0234】
あるいは、多価結合ペプチドをコードしているDNA配列を、所望のプロモーター、および任意選択でリーダー配列を含むプラスミド内にクローニングすることができる(例えば、Better他、Science、240:1041-43、1988参照)。この構築物の配列は、自動配列決定によって確認することができる。その後、プラスミドを、MC1061株などの適切な大腸菌株内に、細菌のCaCl
2インキュベーションおよび熱ショック処理を用いた標準の手順を使用して、形質転換させることができる(Sambrook他)。形質転換させた細菌は、カルベニシリンを添加したLB培地中または当該技術分野で知られている別の適切な選択した形態で増殖することができ、発現されたタンパク質の産生は、適切な培地中での増殖によって誘発することができる。存在する場合は、リーダー配列は、多価結合ペプチドの分泌をもたらし、分泌中に切断されることができる。分泌された組換えタンパク質は、本明細書中以下に記載する方法によって細菌培地から精製することができる。
【0235】
組換えタンパク質を発現させるための哺乳動物宿主系は当業者に周知であり、それらが好ましい系である。宿主細胞株は、タンパク質の活性を提供するために有用な、発現されたタンパク質をプロセシングする、または特定の翻訳後修飾を生じる特定の能力について、選択することができる。ポリペプチドのそのような修飾には、それだけには限定されないが、アセチル化、カルボキシル化、グリコシル化、リン酸化、脂質化およびアシル化が含まれる。CHO、HeLa、MDCK、293、WI38などの様々な宿主細胞が、そのような翻訳後活性の特定の細胞機構および特徴機構を有しており、外来タンパク質の正しい修飾およびプロセシングが確実に行われるように選択することができる。
【0236】
形質転換細胞を長期的な高効率のタンパク質産生に用いることが好ましいので、安定した発現が望ましい。1つのそのような細胞は、好ましくは少なくとも1つの選択マーカーを所望の発現カセットと共に含むベクターで形質転換させ、細胞を強化培地中で1〜2日間増殖させた後、選択培地に切り替える。選択マーカーは選択に対する耐性を与えるように設計されており、その存在により、外来タンパク質の発現が成功する細胞の増殖および回収が可能となる。安定に形質転換された細胞の耐性塊を、細胞に適切な組織培養技術を用いて増殖することができる。
【0237】
組換えタンパク質産生のために形質転換させた細胞を回収するために、いくつかの選択系を使用することができる。そのような選択系には、それだけには限定されないが、それぞれtk-、hgprt-またはaprt-細胞における、HSVチミジンキナーゼ、ヒポキサンチン-グアニンホスホリボシルトランスフェラーゼおよびアデニンホスホリボシルトランスフェラーゼ遺伝子が含まれる。また、代謝拮抗剤耐性を、メトトレキサートに対する耐性を与えるdhfr;ミコフェノール酸に対する耐性を与えるgpt;アミノグリコシドG418に耐性を与え、クロルスルフロンに対する耐性を与えるneo;およびハイグロマイシンに対する耐性を与えるhygroの選択の基礎として用いることができる。有用であり得るさらなる選択可能な遺伝子には、細胞がトリプトファンの代わりにインドールを利用することを可能にするtrpB、または、細胞がヒスチジンの代わりにヒスチノールを利用することを可能にするhisDが含まれる。形質転換体を同定するための視覚的指標を与えるマーカーには、アントシアニン、β-グルクロニダーゼおよびその基質、GUS、ならびにルシフェラーゼおよびその基質、ルシフェリンが含まれる。
【0238】
タンパク質の精製
タンパク質精製技術は当業者に周知である。これらの技術は、一定のレベルで、ポリペプチドおよび非ポリペプチド画分の粗分画を含む。多価結合ポリペプチドを少なくとも1つの他のタンパク質から分離した後、目的のポリペプチドを精製するが、部分的または完全な完全精製(もしくは均一になるまでの精製)を達成するためのクロマトグラフィーおよび電気泳動技術を用いたさらなる精製が、多くの場合所望される。純粋な多価結合ペプチドの調製に特に適した分析方法は、イオン交換クロマトグラフィー、排除クロマトグラフィー;ポリアクリルアミドゲル電気泳動;および等電点電気泳動である。ペプチドを精製する特に効率的な方法は高速タンパク質液体クロマトグラフィーおよびHPLCである。
【0239】
本発明の特定の態様は精製に関し、特定の実施形態では、コードされた多価結合タンパク質またはペプチドの実質的な精製に関する。本明細書中で使用する用語「精製した多価結合タンパク質またはペプチド」とは、他の成分から単離可能な組成物をいうことを意図し、多価結合タンパク質またはペプチドは、その天然に入手可能な状態と比較して任意の度合まで精製されている。したがって、精製した多価結合タンパク質またはペプチドとは、それが天然に存在し得る環境から遊離した多価結合タンパク質またはペプチドもいう。
【0240】
一般に、「精製した」とは、様々な他の成分を除去するために分画に供した多価結合タンパク質組成物をいい、組成物は、その発現された生物活性を実質的に保持している。用語「実質的に精製した」を使用した場合、この指定は、多価結合タンパク質またはペプチドが組成物の主要な成分を形成する、例えば組成物中のタンパク質の約50重量%、約60重量%、約70重量%、約80重量%、約90重量%、約95重量%、約99重量%またはそれ以上を構成する、多価結合タンパク質組成物をいう。
【0241】
多価結合タンパク質の精製の度合を定量する様々な方法は、本開示に鑑みて当業者に理解されるであろう。これらには、例えば、活性画分の特異的結合活性の決定、またはSDS/PAGE分析による画分内の多価結合ポリペプチドの量の評価が含まれる。多価結合タンパク質画分の純度を評価する好ましい方法は、画分の結合活性を計算すること、それを最初の抽出物の結合活性と比較すること、およびそれにより精製の度合を計算することであり、本明細書中で「〜倍精製数」によって評価する。結合活性の量を表すために使用する実際の単位は、もちろん、精製後に行う選択した特定のアッセイ技術および発現された多価結合タンパク質またはペプチドが検出可能な結合活性を示すかどうかに依存する。
【0242】
多価結合タンパク質の精製での使用に適した様々な技術が当業者に周知である。これらには、例えば、硫酸アンモニウム、PEG、抗体などを用いた、または熱変性による沈降、続いて遠心分離;イオン交換、ゲル濾過、逆相、ヒドロキシルアパタイトおよびアフィニティークロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーステップ;等電点電気泳動;ゲル電気泳動;ならびにこれらおよび他の技術の組合せが含まれる。一般に当該技術分野で知られているように、様々な精製ステップを実施する順序を変更するか、または特定のステップを省略してもよく、それでも実質的に精製した多価結合タンパク質を調製する適切な方法がもたらされると考えられている。
【0243】
多価結合タンパク質を常にその最も精製された状態で提供するという全般的な必要性は存在しない。実際、実質的により低い多価結合タンパク質が、特定の実施形態において有用性を有することが企図される。部分精製は、より少ない精製ステップを組み合わせて用いることによって、または異なる形態の同じ一般精製スキームを利用することによって達成し得る。例えば、HPLC装置を利用して行う陽イオン交換カラムクロマトグラフィーは、一般に、低圧クロマトグラフィー系を利用した同じ技術よりも高い精製をもたらすことを理解されよう。より低い度合の相対的精製を示す方法は、多価結合タンパク質産物の全回収、または発現された多価結合タンパク質の結合活性の維持において利点を有し得る。
【0244】
ポリペプチドの遊走は、SDS/PAGEの様々な条件で、場合によっては顕著に、変動する場合があることが知られている(Capaldi他、Biochem.Biophys.Res.Comm.、76:425、1977)。したがって、異なる電気泳動条件下では、精製したまたは部分精製した多価結合タンパク質発現産物の見かけ上の分子量が変動し得ることを理解されたい。
【0245】
エフェクター細胞
標的細胞に対して、例えば、ADCC、ADCP(抗体依存性細胞貪食)などを誘発させるエフェクター細胞には、ヒト白血球、マクロファージ、単球、活性好中球、活性ナチュラルキラー(NK)細胞、および好酸球が含まれる。エフェクター細胞は、F
CαR(CD89)、FcγRI、FcγRII、FcγRIII、および/またはF
CεR1を発現し、これには、例えば単球および活性好中球が含まれる。例えば、FcγRIの発現は、インターフェロンγ(IFN-γ)によってアップレギュレーションされることが見出されている。この増強された発現は、標的細胞に対する単球および好中球の細胞傷害活性を増加させる。したがって、細胞の表面上のFcγRIの存在を増加させるために、本発明の多価タンパク質と接触させる前に、エフェクター細胞を(IFN-γ)または他のサイトカイン(例えば、TNF-αもしくはβ、コロニー刺激因子、IL-2)で活性化させ得る。
【0246】
本発明の多価タンパク質は、標的細胞に対して用いるための、抗体依存性エフェクター細胞媒介性細胞傷害(ADCC)などの抗体エフェクター機能を提供する。エフェクター機能を有する多価タンパク質は、本明細書中に教示のように単独で、またはエフェクター細胞とカップリングさせて「活性エフェクター細胞」を形成した後に投与する。「活性エフェクター細胞」とは、エフェクター細胞に、投与の前に標的化機能が有効に提供されているように、本明細書中に定義したエフェクター機能を有する多価タンパク質と連結した、やはり本明細書中に定義したエフェクター細胞をいう。
【0247】
活性エフェクター細胞は、生理的に許容される溶液中の細胞の懸濁液としてin vivoで投与する。投与する細胞の数は、10
8〜10
9の桁数であるが、治療の目的に応じて変動する。一般に、この量が標的細胞でのエフェクター細胞の局在化を得るため、ならびにADCCおよび/または貪食による細胞死滅などの、その場所で所望のレベルのエフェクター細胞機能を提供するために十分である。本明細書中で使用する用語、生理的に許容される溶液には、例えば、生理食塩水および水性緩衝溶液、溶媒、抗菌剤および抗真菌剤、等張化剤など、in vivoで投与するために標的エフェクター細胞を安定化させる任意の担体溶液が含まれることを意図する。
【0248】
したがって、本発明の別の態様は、被験体に、多価タンパク質(もしくはコード核酸)または生理的に許容される培地中の活性エフェクター細胞を投与することを含む、被験体中の細胞に対してADCCなどの特異的抗体エフェクター機能を誘発する方法を提供する。投与経路は変えることができ、適切な投与経路は、当該技術分野で知られているように、事例に特異的な変数およびルーチン手順の考慮に基づいて、当業者によって決定される。
【0249】
細胞を含まない効果
細胞を含まない効果も、例えばCDC機能性を提供することによって、本発明の多価分子によって提供される。補体系は、病原体などの外来物質を生物から排除することを支援する免疫系の生化学的カスケードである。これは、標的細胞の形質膜を破壊することによって標的細胞の細胞溶解を誘発させるために一緒になって働く多数の小さな血漿タンパク質に由来する。補体系は、35個を超える可溶性および細胞結合タンパク質からなり、そのうちの12個は、補体経路に直接関与している。タンパク質は、補体系の活性化をもたらす3つの生化学的経路、すなわち、古典的な補体経路、代替補経路、およびマンノース結合レクチン経路中で活性である。抗体、特にIgG1クラスは、補体を「固定」することもできる。これらの経路の詳細な理解が当該技術分野で達成されており、ここでは繰り返さないが、補体依存性細胞傷害が結合分子と免疫系の細胞、例えばB細胞との相互作用に依存性でないことは、注記すべきである。また、補体系が補体調節タンパク質によって調節されることも、注記すべきである。これらのタンパク質は、血漿中に補体タンパク質よりも高い濃度で存在する。補体調節タンパク質は自己細胞の表面上に見つかり、自己細胞が補体タンパク質によって標的化されることを防ぐ機構を提供する。補体系は、バラケー-シモンズ症候群、アルツハイマー病、喘息、エリテマトーデス、様々な形態の関節炎、自己免疫心疾患、および多発性硬化症などの免疫構成要素を有するいくつかの疾患において役割を果たすことが予測される。最終経路中の欠陥は、個体を自己免疫疾患および感染症(特に髄膜炎)のどちらにも罹りやすくする。
【0250】
疾患、障害および状態
本発明は、1つまたは複数の結合パートナーと結合する、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質、ならびにその変異体および誘導体を提供し、これらの結合事象は、疾患、障害または病的状態、好ましくはヒトが罹患するものに関連する症状の治療、予防、または寛解に有用である。これらの方法の好ましい実施形態では、エフェクター機能を有する多価(および多特異性)結合タンパク質は、腫瘍に特異的な細胞表面マーカーなどの標的を保有する細胞を、細胞傷害活性を示す免疫系の細胞などのエフェクター細胞と会合させる。他の実施形態では、エフェクター機能を有する多特異性の多価結合タンパク質は、正しい標的が免疫系の細胞傷害性細胞などのエフェクター細胞と確実に会合するように、2つの異なる疾患、障害または状態に特異的な細胞表面マーカーと特異的に結合する。さらに、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質を用いて、抗原活性を誘発もしくは増加させるか、または抗原活性を阻害することができる。また、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質は、組合せ療法および対症レジメンにも適している。
【0251】
一態様では、本発明は、異常なレベルの細胞に関連する抗原活性を特徴とする疾患および状態の治療または予防に有用な、組成物および方法を提供する。これらの疾患には、癌および過形成などの他の過剰増殖性状態、乾癬、接触皮膚炎、免疫障害、ならびに不妊症が含まれる。固形腫瘍および白血病を含めた様々な癌が、本明細書中に開示した組成物および方法を受け入れられる。治療し得る癌の種類には、それだけには限定されないが、乳房、前立腺、および結腸の腺癌;肺の気管支原性癌のすべての形態;骨髄;黒色腫;肝細胞癌;神経芽細胞腫;乳頭腫;アプドーマ;分離腫;鰓腫;悪性カルチノイド症候群;カルチノイド心疾患;ならびに癌腫(例えば、ウォーカー、基底細胞、基底有棘細胞、ブラウン-ピアス、管、エールリッヒ腫瘍、クレブス2、メルケル細胞、粘液、非小細胞肺、燕麦細胞、乳頭性、硬性癌、細気管支、気管支原性、扁平細胞、および移行細胞)が含まれる。治療し得る癌のさらなる種類には、組織球障害;白血病;悪性組織球症;ホジキン病;免疫増殖性の小(immunoproliferative small);非ホジキンリンパ腫;形質細胞腫;細網内皮症;黒色腫;軟骨芽細胞腫;軟骨腫;軟骨肉腫;線維腫;線維肉腫;巨細胞腫;組織球腫;脂肪腫;脂肪肉腫;中皮腫;粘液腫;粘液肉腫;骨腫;骨肉腫;脊索腫;頭蓋咽頭腫;未分化胚細胞腫;過誤腫;間葉細胞腫;中腎腫;筋肉腫;エナメル上皮腫;セメント腫;歯牙腫;奇形腫;胸腺腫;栄養芽細胞腫が含まれる。さらに、以下の癌の種類も治療を受け入れられることが企図される:腺腫;胆管癌;胆脂腫;円柱腫;嚢胞腺癌;嚢胞線腫;顆粒細胞腫;男性胚細胞腫;肝細胞癌;汗腺腫;島細胞腫;レイディッヒ細胞腫;乳頭腫;セルトリ細胞腫;卵胞膜細胞腫;平滑筋腫;平滑筋肉腫;筋芽細胞腫;筋腫;筋肉腫;横紋筋腫;横紋筋肉腫;上衣腫;神経節神経腫;神経膠腫;髄芽腫;髄膜腫;神経鞘腫;神経芽細胞腫;神経上皮腫;神経線維腫;神経腫;傍神経節腫;非クロム親和性傍神経節腫。治療し得る癌の種類には、それだけには限定されないが、角化血管腫;好酸球増加随伴性血管リンパ様過形成;血管腫硬化性;血管腫症;グロムス血管腫;血管内皮腫;血管腫;血管外皮細胞腫;血管肉腫;リンパ管腫;リンパ管筋腫;リンパ管肉腫;松果体腫;癌肉腫;軟骨肉腫;葉状嚢肉腫;線維肉腫;血管肉腫;平滑筋肉腫;白血肉腫;脂肪肉腫;リンパ管肉腫;筋肉腫;粘液肉腫;卵巣癌;横紋筋肉腫;肉腫;新生物;神経線維腫症;および子宮頸部異形成も含まれる。本発明は、抗原の異常に高い発現により細胞が不死化または過剰増殖性となった他の状態の治療に有用な組成物および方法をさらに提供する。
【0252】
本発明の組成物および方法を受け入れられる過剰増殖性障害の多様性を例示するのは、B細胞リンパ腫(ホジキン病の様々な形態、非ホジキンリンパ腫(NHL)または中枢神経系リンパ腫など)、白血病(急性リンパ芽球性白血病(ALL)、慢性リンパ性白血病(CLL)、有毛細胞白血病および慢性筋芽細胞白血病など)ならびに骨髄腫(多発性骨髄腫など)を含めた、B細胞癌である。さらなるB細胞癌には、小リンパ球リンパ腫、B細胞前リンパ性白血病、リンパ形質細胞性リンパ腫、脾臓周辺帯リンパ腫、形質細胞骨髄腫、骨の孤立性形質細胞腫、骨外性形質細胞腫、粘膜関連(麦芽)リンパ組織の結節外周辺帯B細胞リンパ腫、結節周辺帯B細胞リンパ腫、濾胞性リンパ腫、マントル細胞リンパ腫、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、縦隔(胸腺)大B細胞リンパ腫、血管内大B細胞リンパ腫、原発性滲出性リンパ腫、バーキットリンパ腫/白血病、不確定な悪性の潜在性のB細胞増殖、リンパ腫様肉芽腫症、および移植後リンパ球増殖性障害が含まれる。
【0253】
自己抗体産生を特徴とする障害は、多くの場合、自己免疫疾患であるとみなされる。自己免疫疾患には、それだけには限定されないが、関節炎、関節リウマチ、若年性関節リウマチ、骨関節炎、多発性軟骨炎、乾癬性関節炎、乾癬、皮膚炎、多発性筋炎/皮膚筋炎、封入体筋炎、炎症性筋炎、中毒性表皮壊死症、全身性の強皮症および硬化症、CREST症候群、炎症性腸疾患に関連する応答、クローン病、潰瘍性大腸炎、呼吸窮迫症候群、成人呼吸窮迫症候群(ARDS)、髄膜炎、脳炎、ブドウ膜炎、大腸炎、糸球体腎炎、アレルギー状態、湿疹、喘息、T細胞の浸潤および慢性炎症反応に関与する状態、アテローム性動脈硬化症、自己免疫心筋炎、白血球接着不全症、全身性エリテマトーデス(SLE)、亜急性皮膚エリテマトーデス、円板状ループス、ループス脊髄炎、ループス脳炎、若年発症性糖尿病、多発性硬化症、アレルギー性脳脊髄炎、視神経脊髄炎、リウマチ熱、シデナム舞踏病、サイトカインおよびT-リンパ球によって媒介される急性および遅延性過敏症に関連する免疫応答、結核、サルコイドーシス、ウェゲナー肉芽腫症およびチャーグ-ストラウス病を含めた肉芽腫症、無顆粒球症、血管炎(過敏症血管炎/脈管炎、ANCAおよびリウマチ性血管炎を含む)、再生不良性貧血、ダイアモンドブラックファン貧血、自己免疫性溶血性貧血(AIHA)を含めた免疫性溶血性貧血、悪性貧血、赤芽球癆(PRCA)、VIII因子欠乏症、血友病A、自己免疫性好中球減少症、汎血球減少症、白血球減少症、白血球血管外漏出に関与する疾患、中枢神経系(CNS)炎症性障害、複数器官傷害症候群、重症筋無力症、抗原-抗体複合体に媒介される疾患、抗糸球体基底膜疾患、抗リン脂質抗体症候群、アレルギー性神経炎、ベーチェット病、キャッスルマン症候群、グッドパスチャー症候群、ランバート-イートン筋無力症症候群、レイノー症候群、シェーゲン(Sjorgen)症候群、スティーブンス-ジョンソン症候群、実質臓器移植片拒絶、移植片対宿主病(GVHD)、水疱性類天疱瘡、天疱瘡、自己免疫多腺性内分泌障害、血清陰性脊髄関節症、ライター病、全身硬直症候群、巨細胞動脈炎、免疫複合体腎炎、IgA腎症、IgM多発性神経障害またはIgM媒介性神経障害、特発性血小板減少性紫斑病(ITP)、血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)、ヘノッホ-シェーンライン紫斑病、自己免疫性血小板減少症、自己免疫性睾丸炎および卵巣炎を含めた精巣および卵巣の自己免疫疾患、原発性甲状腺機能低下症;自己免疫性甲状腺炎、慢性甲状腺炎(橋本甲状腺炎)、亜急性甲状腺炎、特発性甲状腺機能低下症、アジソン病、グレーブス病、自己免疫性多発性腺症候群(または多発性内分泌腺症候群)、インスリン依存性真性糖尿病(IDDM)とも呼ばれるI型糖尿病およびシーハン症候群を含めた自己免疫性内分泌疾患;自己免疫性肝炎、リンパ系間質性肺炎(HIV)、閉塞性細気管支炎(移植なし)対NSIP、ギラン-バレー症候群、大血管血管炎(リウマチ性多発性筋炎および巨細胞(高安)動脈炎を含む)、中血管血管炎(川崎病および結節性多発性動脈炎を含む)、結節性多発性動脈炎(PAN)強直性脊椎炎、ベルガー病(IgA腎症)、急速進行性糸球体腎炎、原発性胆汁性肝硬変、セリアック病(グルテン性腸症)、クリオグロブリン血症、肝炎に関連するクリオグロブリン血症、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、冠動脈疾患、家族性地中海熱、顕微鏡的多発性血管炎、コーガン症候群、ウィスコット-アルドリッチ症候群ならびに閉塞性血栓血管炎が含まれる。
【0254】
関節リウマチ(RA)とは、関節の炎症を特徴とし、腫脹、疼痛、および機能喪失をもたらす慢性疾患である。長期間RAに罹患している患者は、通常、進行性の関節の破壊、変形、能力障害、およびさらには時期尚早の死を示す。RA以外では、炎症性の疾患、障害および状態が、炎症のプロセスに関連する症状(例えば、熱、疼痛、腫脹、赤み)の治療、予防または寛解を一般に受け入れられ、本発明の組成物および方法は、RAを含めた異常(aberrant)または異常(abnormal)な炎症プロセスの治療、予防または寛解に有益である。
【0255】
クローン病および関連する疾患の潰瘍性大腸炎は、炎症性腸疾患(IBD)と呼ばれる病気群に属する2つの主な疾患分類である。クローン病とは、消化管または胃腸(GI)管の炎症を引き起こす慢性障害である。これは、口から肛門までのGI管の任意の領域に関与することができるが、最も一般的には小腸および/または結腸に影響を与える。潰瘍性大腸炎では、GIの関与は結腸に限定される。クローン病は、好中球抗原に対する抗体、すなわち「核周囲抗好中球抗体」(pANCA)、およびサッカロマイセス・セレビジエ(Saccharomyces cervisiae)に対する抗体、すなわち「抗出芽酵母抗体」(ASCA)を特徴とし得る。潰瘍性大腸炎に罹患している多くの患者はその血液中にpANCA抗体を有しているがASCA抗体を有さない一方で、多くのクローン病患者はASCA抗体を示すがpANCA抗体を示さない。クローン病を評価する一方法は、医師によって収集された18個の予測判断材料変数のスコアに基づいた、クローン病疾患活動性指標(CDAI)を使用することである。150以下のCDAI値は休止状態の疾患に関連しており、それを超える値は活性のある疾患を示し、450を超える値は非常に重篤な疾患で見られる[Best他、「Development of a Crohn's disease activity index.」、Gastroenterology 70:439-444(1976)]。しかし、最初の研究以来、一部の研究者は200〜250の主観的な値を健康なスコアとして用いている。
【0256】
全身性エリテマトーデス(SLE)とは、腎臓、皮膚、および関節を含めた複数の器官内の血管への再発性傷害によって引き起こされる自己免疫疾患である。SLEに罹患している患者では、T細胞とB細胞との間の不完全な相互作用が、細胞核を攻撃する自己抗体の産生をもたらす。自己抗体がSLEの原因であるという一般的な合意が存在するので、B細胞系列を枯渇させ、新しいB細胞が前駆体から産生される際に免疫系をリセットすることを可能にする新しい治療が、SLE患者において長期持続的利益の希望を提供するであろう。
【0257】
多発性硬化症(MS)も自己免疫疾患である。これは、中枢神経系の炎症ならびに脳、脊髄、および身体内の神経細胞線維を遮蔽するミエリンの破壊を特徴とする。MSの原因は知られていないが、自己免疫T細胞がこの疾患の病因に対して主に貢献していると広く考えられている。しかし、高レベルの抗体が脳MSに罹患している患者の脊髄液中に存在し、一部の仮説は、抗体産生をもたらすB細胞応答が疾患の媒介に重要であると予測している。
【0258】
自己免疫甲状腺疾患は、甲状腺を刺激して甲状腺機能亢進症(グレーブス病)を引き起こす、または甲状腺を破壊して甲状腺機能低下症(橋本甲状腺炎)を引き起こす、自己抗体の産生からもたらされる。甲状腺の刺激は、甲状腺刺激ホルモン(TSH)受容体と結合してそれを活性化させる自己抗体によって引き起こされる。甲状腺の破壊は、他の甲状腺抗原と反応する自己抗体によって引き起こされる。
【0259】
本発明の組成物および方法によって提供される利益を受け入れられるさらなる疾患、障害、および状態には、身体の水分生成腺の破壊を特徴とする自己免疫疾患であるシェーグレン症候群が含まれる。さらに、免疫血小板減少性紫斑病(ITP)は、血小板と結合してその破壊を引き起こす自己抗体によって引き起こされ、この状態は、本発明の材料および方法を適用するために適している。随意筋群の衰弱をもたらす、神経筋の接合部で発現されるアセチルコリン受容体と結合する自己抗体を特徴とする慢性自己免疫神経筋障害である重症筋無力症(MG)は、本発明の組成物および方法を用いて治療可能な症状を有する疾患であり、本発明がMGの治療および/または予防に有用であることが予測される。さらに、ラウス肉腫ウイルス感染症は、本発明の組成物および方法を用いた少なくとも1つの症状の治療または寛解を受け入れられると予測される。
【0260】
本発明の別の態様は、乾癬および接触皮膚炎または他の過剰増殖性疾患を含めた皮膚の任意の過剰増殖状態を予防および/または治療するために、本発明の材料および方法を使用することである。乾癬は、皮膚の自己免疫炎症を特徴とし、30%の症例で関節炎にも関連しており、また、強皮症、クローン病および潰瘍性大腸炎を含めた炎症性腸疾患にも関連している。乾癬および接触皮膚炎に罹患している患者は、これらの病変内の抗原活性が上昇していることが実証されている(Ogoshi他、J.Inv.Dermatol.、110:818-23[1998])。多特異性の多価結合タンパク質は、免疫系の細胞傷害性細胞を、例えば、高レベルの抗原を発現している病変内の細胞に直接送達することができる。多価の、例えば多特異性の結合タンパク質は、病変の近傍に皮下投与するか、または本明細書中に記載の様々な投与経路のうちの任意のものおよび当業者に周知である他の投与経路を用いて投与することができる。
【0261】
また、皮膚筋炎(DM)および多発性筋炎(PM)を含めた特発性炎症性筋疾患(IIM)の治療も企図される。炎症性筋疾患は、いくつかの分類スキームを用いて分類されている。ミラーの分類スキーム(Miller、Rheum Dis Clin North Am.20:811-826、1994)では、2つの特発性炎症性筋疾患(IIM)、すなわち多発性筋炎(PM)および皮膚筋(DM)を同定する。
【0262】
多発性筋炎および皮膚筋炎は、筋肉およびDMの場合は皮膚に関与する、慢性の衰弱させる炎症性疾患である。これらの障害は稀有であり、米国において毎年の発生率が約5〜10件/成人百万人および0.6〜3.2件/子供百万人/年であると報告されている(Targoff、Curr Probl Dermatol.1991、3:131-180)。特発性炎症性筋疾患は顕著な罹患率および死亡率に関連しており、罹患した成人の半数までが顕著な機能障害を患っていると記録されている(Gottdiener et al., Am J Cardiol. 1978, 41:1141-49)。Miller(Rheum Dis Clin North Am.1994、20:811-826 and Arthritis and Allied Conditions、第75章、KoopmanおよびMoreland編、Lippincott Williams and Wilkins、2005)は、IIMを診断するために、筋肉衰弱、変性の筋肉生検的証拠、筋肉関連酵素の血清レベルの上昇、筋疾患の電磁気三徴候、皮膚筋炎における発疹の証拠、を含めた5つの基準群、すなわち特発性炎症性筋疾患基準(IIMC)評価を定めており、また、二次基準として自己抗体の証拠も含まれる。
【0263】
筋肉関連酵素および自己抗体を含めたIIM関連因子には、それだけには限定されないが、クレアチンキナーゼ(CK)、乳酸デヒドロゲナーゼ、アルドラーゼ、C反応性タンパク質、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、および抗核自己抗体(ANA)、筋炎特異的抗体(MSA)、ならびに抽出可能な核抗原に対する抗体が含まれる。
【0264】
本発明の方法を受け入れられる好ましい自己免疫疾患には、ローン病、ギラン-バレー症候群(GBS;急性炎症性脱髄性多発神経障害、急性特発性多発性神経根炎、急性特発性多発性神経炎およびランドリー上行性麻痺としても知られる)、エリテマトーデス、多発性硬化症、重症筋無力症、視神経炎、乾癬、関節リウマチ、甲状腺機能亢進症(例えばグレーブス病)、甲状腺機能低下症(例えば橋本病)、オード(Ord)甲状腺炎(橋本病に類似の甲状腺炎)、真性糖尿病(1型)、再生不良性貧血、ライター症候群、自己免疫性肝炎、原発性胆汁性肝硬変、抗リン脂質抗体症候群(APS)、眼球クローヌス筋クローヌス症候群(OMS)、側頭動脈炎(「巨細胞動脈炎」としても知られる)、急性播種性脳脊髄炎(ADEM)、グッドパスチャー症候群、ウェゲナー肉芽腫症、腹腔疾患、天疱瘡、イヌ科動物(canine)多発性関節炎、温式自己免疫性溶血性貧血が含まれる。さらに、本発明には、以下の疾患、すなわち、子宮内膜症、間質性膀胱炎、神経性筋強直症、強皮症、白斑、外陰部痛、シャガス心疾患をもたらすシャガス病(巨心症)、サルコイドーシス、慢性疲労症候群、および自律神経障害を治療する、またはそれに関連する症状を改善する方法が企図される。
【0265】
補体系は、アルツハイマー病、喘息、エリテマトーデス、様々な形態の関節炎、自己免疫性心疾患および多発性硬化症などの免疫構成要素を有する多くの疾患で役割を果たすと考えられており、これらの疾患はすべて、本発明による方法を用いた治療または症状の寛解を受け入れられる疾患、障害または状態として企図される。
【0266】
多価単鎖結合分子によって示させる具体的なエフェクター機能または機能に応じて、特定の定常部分領域が好ましい。例えば、IgG(IgG1、2、または3)およびIgMが補体活性化に好ましく、任意のサブタイプのIgGがオプソニン化および毒素の中和に好ましく、IgAが病原体の結合に好ましく、IgEが寄生虫などの寄生生物との結合に好ましい。
【0267】
例として、IgG抗体の定常領域を認識するF
CRが、構造的および機能的特性、ならびにCDモノクローナル抗体によって検出される抗原構造によって識別可能な、3つの明確に異なる種類のFcγ受容体としてヒト白血球上に見つかっている。これらはFcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIとして知られており、白血球の(重複する)サブセット上で示差的に発現される。
【0268】
FcgRI(CD64)、すなわち単球、マクロファージ、好中球、骨髄前駆体および樹状細胞上に発現される高親和性受容体は、アイソフォームlaおよびlbを含む。FcgRIは、単量体のヒトIgG1およびIgG3に対して高い親和性を有する。IgG4に対するその親和性は約10倍低い一方で、IgG2とは結合しない。FcgRIは遺伝子多型性を示さない。
【0269】
FcγRII(CD32)は、アイソフォームlla、llb1、llb2、llb3およびllcからなり、最も幅広く分布したヒトFcγR型である、血液白血球のほとんどの種類、ならびにランゲルハンス細胞、樹状細胞および血小板上で発現される。FcγRIIは、凝集したIgGとのみ結合する低親和性の受容体である。これは、IgG2と結合できる唯一のFcγRクラスである。FcγRIIaは遺伝子多型性を示し、2つの明確に異なるアロタイプ、すなわちそれぞれFcγRlla-H131およびFcγRlla-R131をもたらす。この機能的多型性は、単一のアミノ酸差異、すなわちIgG結合に重要な位置131のヒスチジン(H)またはアルギニン(R)残基に起因する。FcγRllaはヒトIgGおよびIgG3と容易に結合し、IgG4と結合しないように見える。FcγRlla-H131は、FcγRlla-R131アロタイプと比較して、複合体形成したIgG2に対してはるかに高い親和性を有する。
【0270】
FcγRIII(CD16)は2つのアイソフォームまたは対立形質を有し、これらはどちらもIgG1およびIgG3と結合することができる。IgGに対して中間の親和性を有するFcγRIIIaは、マクロファージ、単球、ナチュラルキラー(NK)細胞およびT細胞のサブセット上で発現される。FcγRIIIbは、好中球上で選択的に発現される、IgGに対する低親和性受容体である。これは、他の膜受容体と効率的に協力する、移動性の高い受容体である。骨髄腫IgG二量体を用いた研究では、IgG1およびIgG3のみがFcγRIIIbと結合する(低い親和性)一方で、IgG2およびIgG4の結合は見出されなかったことが示された。FcγRIIIbは共優性の二アロタイプの多型性を有し、アロタイプはNA1(好中球抗原)およびNA2と呼ばれる。
【0271】
本発明のさらに別の態様は、様々な感染性因子のうちの任意のものから生じる感染症の効果と、治療、予防または軽減することによって闘うための、本発明の材料および方法の使用である。本発明の多価の多特異的結合分子は、外来生物、外来細胞、外来ウイルスまたは外来無生物物体から生じる感染症に抵抗するように、宿主生物の免疫系を効率的かつ有効に収集するように設計されている。例えば、多特異的結合分子は、感染性因子上の標的と特異的に結合する1つの結合ドメインおよびCD40、CD80、CD86、DC-SIGN、DEC-205、CD83など)などの抗原提示細胞上の標的と特異的に結合する別の結合ドメインを有し得る。あるいは、多価結合分子のそれぞれの結合ドメインが感染性因子と特異的に結合し、それによってより有効に因子を中和し得る。さらに、本発明は、感染性因子上の標的、および多特異的結合分子のエフェクター機能と併せて感染性因子から生じる感染症の治療または予防に有効であり得る非細胞関連結合パートナーと特異的に結合する多特異性の多価結合分子を企図する。
【0272】
本発明によって企図される感染性細胞には、それだけには限定されないが、様々な細菌のうちの任意のもの(例えば、病原性大腸菌、ネズミチフス菌、緑膿菌(P.aeruginosa)、炭疽菌(B.anthracis)、ボツリヌス菌(C.botulinum)、C.ディフィシル(C.difficile)、ウェルシュ菌(C.perfringens)、ピロリ菌(H.pylori)、コレラ菌(V.cholerae)など)、マイコバクテリア、マイコプラズマ、真菌(酵母およびカビを含む)、ならびに寄生生物(原生動物門(Protozoa)、吸虫綱(Trematoda)、条虫綱(Cestoda)および線虫綱(Nematoda)の任意の既知の寄生メンバーを含む)を含めた任意の既知の感染性細胞が含まれる。感染性ウイルスには、それだけには限定されないが、真核ウイルス(例えば、アデノウイルス(adenovirus)、ブンヤウイルス(bunyavirus)、ヘルペスウイルス(herpesvirus)、パポバウイルス(papovavirus)、パラミキソウイルス(paramyxovirus)、ピコルナウイルス(picornavirus)、ポックスウイルス(poxvirus)、レオウイルス(reovirus)、レトロウイルスなど)およびバクテリオファージが含まれる。外来物体には、侵入様式にかかわらず、かつ害を意図するかどうかにかかわらず、生物、好ましくはヒトに侵入する物体が含まれる。多剤耐性感染性因子(例えば細菌)の、特に院内感染の原因物質としての有病率の増加を考えると、本発明の材料および方法は、抗生物質耐性の増加によって課される困難を回避する治療の手法を提供する。
【0273】
感染性因子に関連しており、本明細書中に開示した材料および方法で治療(予防的または治療的)を受け入れられる疾患、状態または障害には、それだけには限定されないが、炭疽、アスペルギルス症、細菌性髄膜炎、細菌性肺炎(例えばクラミジア肺炎)、ブラストミセス症、ボツリヌス中毒、ブルセラ症、カンジダ症、コレラ、コクシジオイデス症、クリプトコッカス症、下痢原性、腸管出血性または腸内毒素原性大腸菌、ジフテリア、鼻疽、ヒストプラズマ症、レジオネラ症、ハンセン病、リステリア症、ノカルジア症、百日咳、サルモネラ症、猩紅熱、スポロトリクム症、連鎖球菌性咽頭炎、毒素ショック症候群、旅行者下痢、および腸チフスが含まれる。
【0274】
本発明のさらなる態様および詳細は、限定ではなく例示することを意図する以下の実施例から明らかとなるであろう。実施例1では、免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変領域の組換えクローニングを記載する。実施例2では、小モジュール免疫薬剤の構築を記載する。実施例3では、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質のプロトタイプカセットの構築を記載する。実施例4では、この最初のプロトタイプ分子を用いた結合および発現の研究を記載する。実施例5では、この最初のプロトタイプ分子に由来する、EFDとBD2との間のリンカー領域の配列の長さおよび配列がどちらも変化した別の構築物の構築を記載する。さらに、これは、結合ドメイン2中のV領域の方向も変更した別の形も記載する。実施例6では、引き続く、変異リンカー形を有するこれらの別の構築物の結合および機能の研究、これらの誘導体形のうちのいくつかのリンカー領域中の切断の同定、ならびにこの問題に取り組むために開発した新しい配列変異体を記載する。実施例7では、BD1およびBD2がどちらも同じ細胞種上の抗原(CD20およびCD37)と結合する多特異性の多価融合タンパク質、またはBD2の抗原結合特異性がCD28の代わりにヒトCD3に変更されている別の多特異性融合タンパク質の別の好ましい実施形態の構築を記載する。実施例8では、CD20-hIgG-CD37多特異性構築物で行った結合および機能の研究を記載する。実施例9では、CD20-hIgG-CD3多価融合タンパク質構築物を用いた結合および機能の研究を記載する。実施例10では、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーの細胞外ドメインの特定領域に基づいたリンカーを有する多価結合分子を開示する。実施例11では、そのような分子と関連していると同定されている少なくとも1つの有益効果(例えば疾患の治療)の達成に関して、多価結合分子において有効であると予測される結合ドメインを同定するアッセイを開示する。
【実施例1】
【0275】
免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変領域のクローニング
当該技術分野で知られている任意の方法を用いて、所定の抗原標的に対して抗体を誘発することができる。さらに、当該技術分野で知られている任意の方法を用いて、免疫グロブリンの軽鎖および/または重鎖可変領域、ならびに抗体または複数の抗体の定常部分領域をクローニングすることができる。以下の方法は、例示的なクローニング方法を提供する。
【0276】
A. 全RNAの単離
免疫グロブリンの重鎖および軽鎖可変領域、または定常部分領域をクローニングするために、全RNAを、適切な抗体を分泌しているハイブリドーマ細胞から単離する。ハイブリドーマ細胞株からの細胞(2×10
7個)を1×PBSで洗浄し、12×75mmの丸底ポリプロピレンチューブ(Falcon no.2059)中で遠心分離することによってペレット化する。TRIzol(商標)全RNA単離試薬(Gibco BRL、Life Technologies、カタログ番号15596-018)をそれぞれのチューブに加え(8ml)、繰り返しのピペット操作によって細胞を溶解する。溶解物を5分間、室温でインキュベーションした後、1.6ml(0.2×体積)のクロロホルムを加え、15秒間激しく振盪する。3分間室温で静置した後、水相および有機相を分離するために、溶解物を、事前に4℃に冷却したBeckman JA-17ローター内で、9,000rpmで15分間、遠心分離する。上の水相(約4.8ml)を新しいチューブに移し、4mlのイソプロパノールと穏やかに混合する。室温で10分間インキュベーションした後、9,000rpm、4℃で、JA-17ローター内で11分間、遠心分離することによってRNAを沈殿させる。RNAペレットを8mlの氷冷75%のエタノールで洗浄し、7,000×rpmで7分間、JA-17ローターで、4℃で遠心分離することによって再度ペレット化する。エタノール洗浄液をデカントし、RNAペレットを10分間空気乾燥させる。RNAペレットを、1μlのRNase阻害剤(カタログ番号799017;Boehringer Mannheim/Roche)/1mlのDEPC処理ddH
2Oを含む、150μlのジエチルピロカーボネート(DEPC)処理ddH
2Oに再懸濁させる。穏やかなピペット操作によってペレットを再懸濁させ、20分間、55℃でインキュベーションする。希釈したアリコートのOD
260nmを測定することによってRNA試料を定量する(1.0OD
260nm単位=40μg/mlのRNA)。
【0277】
B. cDNA末端の迅速増幅
重鎖および軽鎖可変領域、または定常部分領域の末端を増幅するために、5'RACEを実施する。cDNA末端迅速増幅5'RACEシステムのキットバージョン2.0(Life Technologies、カタログ番号18374-058)を、製造者の指示に従って用いる。変性5'RACEオリゴヌクレオチドプライマーは、オリゴヌクレオチ設計プログラムOligoバージョン5.1(Molecular Biology Insights、コロラド州Cascade)を用いて、例えば、マウス免疫グロブリンの重鎖の2つの共通クラス(IgG1およびIgG2b)の定常領域とマッチするように設計される。また、プライマーは、マウスIgGκ軽鎖の定常領域とマッチするように設計される。唯一の免疫グロブリンの軽鎖のクラスであるので、プライマーの設計に縮重は必要ない。プライマーの配列は以下のとおりである:
名称 配列 配列番号
重鎖GSP1
5'AGGTGCTGGAGGGGACAGTCACTGAGCTGC3' 7
入れ子型重鎖
5'GTCACWGTCACTGRCTCAGGGAARTAGC3' 8
(W=AまたはT;R=AまたはG)
軽鎖GSP1
5'GGGTGCTGCTCATGCTGTAGGTGCTGTCTTTGC3' 9
入れ子型軽鎖 5'CAAGAAGCACACGACTG
AGGCACCTCCAGATG3' 10
5'Race短縮アンカープライマー
5'GGCCACGCGTCGACTAGTACGG
GNNGGGNNGGGNNG3' 11。
【0278】
マウス免疫グロブリンの重鎖構成要素を増幅するために、逆転写酵素反応を、2.5pmoleの重鎖GSP1プライマー(配列番号7)、4μgの適切なハイブリドーマクローン(例えば、クローン4A5またはクローン4B5のどちらか)から単離した全RNA、および12μlのDEPC処理ddH2Oを含む、0.2mlの薄壁PCRチューブ内で実施する。同様に、マウス軽鎖構成要素には、逆転写酵素反応を、2.5pmoleの軽鎖GSP1プライマー(配列番号9)、4μgの適切なハイブリドーマクローン(例えば、クローン4A5またはクローン4B5のどちらか)から単離した全RNA、および12μlのDEPC処理ddH2Oを含む、0.2mlの薄壁PCRチューブ内で実施する。
【0279】
反応は、PTC-100プログラム可能サーマルサイクラー(MJ research Inc.、マサチューセッツ州Waltham)で実施する。RNAを変性させるために混合物を70℃で10分間インキュベーションし、その後、濡れた氷上で1分間冷却する。水分をチューブの蓋から回収するために、チューブを手短に遠心分離する。続いて、以下の構成要素を反応物に加える:2.5μlの10×PCR緩衝液(200mMのトリス-HCl、pH8.4、500mMのKCl)、2.5μlの25mMのMgCl
2、1μlの10mMのdNTP混合物、および2.5μlの0.1MのDTT。それぞれのチューブを穏やかなピペット操作によって混合した後、混合物を事前に温めるために、チューブを42℃で1分間、PTC-100サーマルサイクラーに入れる。続いて、1μl(200単位)のSuperScript(商標)II逆転写酵素(Gibco-BRL;カタログ番号18089-011)をそれぞれのチューブに加え、ピペット操作によって穏やかに混合し、45分間42℃でインキュベーションする。反応物に70℃で15分間のサイクルを行って反応を終止させ、その後、37℃までサイクルを行う。その後、RNase混合物(1μl)をそれぞれの反応チューブに加え、穏やかに混合し、37℃で30分間インキュベーションする。
【0280】
逆転写酵素反応によって作製された第1鎖のcDNAを、GlassMAX DNA単離スピンカートリッジ(Gibco-BRL)を用いて、製造者の指示に従って精製する。それぞれの第1鎖の反応に、120μlの6MのNaI結合溶液を加える。その後、cDNA/NaI溶液をGlassMAXスピンカートリッジに移し、20秒間13,000×gで遠心分離する。カートリッジインサートを注意深く取り外し、流液をチューブから廃棄する。その後、スピンカートリッジを空のチューブに戻し、0.4mlの冷(4℃)1×洗浄バッファーそれぞれのスピンカートリッジに加える。チューブを13,000×gで20秒間遠心分離し、流液を廃棄する。この洗浄ステップをさらに3回繰り返す。その後、GlassMAXカートリッジを0.4mlの冷(4℃)70%のエタノールで4回洗浄する。最後の70%のエタノールの洗浄からの流液を廃棄した後、カートリッジをチューブに戻し、カートリッジを完全に乾燥させるために13,000×gでさらに1分間遠心分離する。その後、スピンカートリッジインサートを新しい試料回収チューブに移し、ここで、50μlの65℃(事前に加熱)のDEPC処理ddH
2Oをそれぞれのスピンカートリッジに迅速に加える。カートリッジを13,000×gで30秒間遠心分離してcDNAを溶出させる。
【0281】
C. 末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)テイル付け
それぞれの第1鎖のcDNA試料について、以下の構成要素を0.2mlの薄壁PCRチューブに加える:6.5μlのDEPC処理ddH
2O、5.0μlの5×テイル付け緩衝液、2.5μlの2mMのdCTP、および10μlの適切なGlassMAXで精製したcDNA試料。DNAを変性させるためにそれぞれの24μlの反応物を94℃のサーマルサイクラーで2〜3分間インキュベーションし、濡れた氷上で1分間冷却する。チューブの内容物を手短な遠心分離によって回収する。続いて、1μlの末端デオキシヌクレオチジルトランスフェラーゼ(TdT)をそれぞれのチューブに加える。チューブを穏やかなピペット操作によって混合し、10分間、37℃で、PTC-100サーマルサイクラーでインキュベーションする。この10分間のインキュベーションに続いて、65℃で10分間のサイクルを行うことによってTdTを熱で失活させる。反応物を氷上で冷却し、TdT-テイル付けされた第1鎖のcDNAを-20℃で保存する。
【0282】
D. dC-テイル付けした第1鎖cDNAのPCR
2連のPCR増幅(それぞれのdC-テイル付けした第1鎖cDNA試料について2つの独立したPCR反応)を、200μMのdNTP、0.4μMの5'RACE短縮アンカープライマー(配列番号11)、および0.4μMの入れ子型重鎖GSP2(配列番号8)または入れ子型軽鎖GSP2(配列番号10)のどちらか、10mMのトリス-HCl(pH8.3)、1.5mMのMgCl
2、50mMのKCl、5μlのdC-テイル付けしたcDNA、および5単位のExpand(商標)Hi-Fi DNAポリメラーゼ(Roche/Boehringer Mannheim GmbH、ドイツ)を含む、50μlの体積で行う。PCR反応物は、PTC-100プログラム可能サーマルサイクラー(MJ Research Inc.)中、以下の条件を用いて、「タッチダウン/タッチアップ」アニーリング温度プロトコルを用いて増幅した:95℃で40秒間の最初の変性、94℃で20秒間、61℃-2℃/サイクルで20秒間、72℃で40秒間+1秒間/サイクルを5サイクル、続いて94℃で25秒間、53℃+1℃/サイクルで20秒間、72℃で46秒間+1秒間/サイクルを5サイクル、続いて94℃で25秒間、55℃で20秒間、72℃で51秒間+1秒間/サイクルを20サイクル、および72℃で5分間の最終インキュベーション。
【0283】
E. TOPO TA-クローニング
生じたPCR産物を、製造者の指示書に従って、QIAQuickゲル精製システム(QIAGEN Inc.、カリフォルニア州Chatsworth)を用いて1.0%のアガロースゲルからゲル精製し、TOPO TAクローニング(登録商標)キット(Invitrogen、カリフォルニア州San Diego、カタログ番号K4550-40)を用いてpCR2.1内にTA-クローニングし、大腸菌TOP10F'細胞(Invitrogen)内に形質転換させる。インサートを有するクローンを、製造者の指示に従って青/白スクリーニングによって同定し、ここでは、白色のクローンが陽性クローンとみなされる。50μg/mlのアンピシリンを含む3.5mlの液体ルリアブロス(LB)の培養物に白色コロニーを接種し、37℃で終夜(約16時間)、225rpmで振盪しながら増殖させる。
【0284】
QIAGENプラスミドMiniprepキット(QIAGEN Inc.、カタログ番号12125)を用いて、プラスミドDNAを培養物から製造者の指示に従って精製した。プラスミドDNAを34μlの1×TE緩衝液(pH8.0)に懸濁させ、その後、陽性クローンを、既に記載のように、ABI Big Dyeターミネーター3.1試薬を1:4〜1:8の希釈率で用いた蛍光ジデオキシヌクレオチド配列決定および自動検出によって配列決定し、ABI3100DNA配列決定機を用いて分析する。用いる配列決定プライマーには、T7(5'GTAATACGACTCACTATAGG3';配列番号12)およびM13リバース(5'CAGGAAACAGCTATGACC3';配列番号13)プライマーが含まれる。配列決定の結果により、クローンがマウスIgG配列に対応することが確認される。
【0285】
F. 重複オリゴヌクレオチド伸長PCRを用いたde novo遺伝子合成
この方法は、免疫グロブリンのV領域または他の遺伝子を合成するために、重複オリゴヌクレオチドプライマーおよびフィデリティーの高いDNAポリメラーゼまたはポリメラーゼ混合物のどちらかを用いたPCRの使用を含む。V領域の配列の中間から開始して、40〜50個の塩基のプライマーを、成長する鎖が両方向に20〜30個の塩基が伸長され、連続的プライマーの最低20個の塩基が重複するように設計する。それぞれのPCRステップは、成長する二本鎖PCR産物を作製するために、2つのプライマーを必要とする。すなわち、一方(フォワードまたはセンスプライマー)はアンチセンス鎖をプライムし、他方(リバースまたはアンチセンスプライマー)はセンス鎖をプライムする。プライマーの設計中、制限酵素部位を作製する、既存の制限酵素部位を破壊する、柔軟なリンカーを加える、アミノ酸配列を変更する塩基を変化、欠失または挿入させる、プライマー合成を増強するために全体的なDNA配列を最適化する、および合成遺伝子の発現において使用を企図する生物にコドン使用頻度規則を適合させるために、最終産物のヌクレオチド配列に変化を行うことができる。
【0286】
プライマーペアを合わせ、最初のペアが5μMであり、それぞれの続くペアが80μMまでの2倍高い濃度であるように希釈する。これらのプライマー混合物のそれぞれからの1μLを、Platinum PCR SuperMix-High Fidelity(Invitrogen、カリフォルニア州San Diego、カタログ番号12532-016)を用いて、50μLのPCR反応物中で増幅する。94℃で2分間の最初の変性の後、94℃で20秒間、60℃で10秒間;および68℃で15秒間のサイクリングプロフィールで30サイクルのPCRを行った。PCR産物を、Qiaquick PCR精製カラム(QIAGEN Inc.、カタログ番号28704)を用いて精製して、過剰のプライマーおよび酵素を除去する。その後、次の組の同様に希釈したプライマーペアを用いて、上述のものとまったく同じであるが、それぞれのサイクルで伸長を68℃で30秒間まで増加するPCR条件を使用して、このPCR産物を再度増幅させる。生じたPCR産物を上述のようにプライマーおよび酵素から再度精製し、上記セクションEに記載のものとまったく同じように、TOPO-TAでクローニングして配列決定する。
【実施例2】
【0287】
小モジュール免疫薬剤(SMIP)の構築
2H7(VL-リンカー-VH)と命名した、単鎖組換え(マウス/ヒト)scFvの形の結合ドメイン1を含む、エフェクター機能を有する多特異性の多価結合タンパク質を構築した。scFv 2H7は、CD20を特異的に認識する小モジュール免疫薬剤(SMIP)である。結合ドメインは、公的に利用可能なヒトCD20抗体配列GenBank登録番号、VHはM17953号、VLはM17954号に基づく。CD20に特異的なSMIPは、その全体が参照により本明細書中に組み込まれる共同所有の米国特許公開第2003/133939号、同第2003/0118592号および同第2005/0136049号に記載されている。VLおよびVHを分離するペプチドリンカーは、配列:Asp-Gly
3Ser-(Gly
4Ser)
2をコードしている15個のアミノ酸のリンカーであった。結合ドメイン1は多特異的結合タンパク質のN末端に位置し、そのドメインのC末端は、ヒンジ、C
H2およびC
H3ドメイン(アミノからカルボキシの方向)を含む定常部分領域のN末端と直接連結している。定常部分領域はIgG1抗体に由来し、これは、ヒトPBMCからのヒトIgG1のPCR増幅によって単離した。ヒンジ領域は、15個のアミノ酸配列:EPKS
CDKTHT
CPP
CP(配列番号14;Ser残基で置き換えられる3個のCys残基を下線で示す)によってコードされているヒトIgG1ヒンジドメインの野生型中に存在する3個のCys残基を、3個のSer残基で置換することによって改変した。別の実施形態では、ヒンジ領域は、SSSおよびCSC形のヒンジが生じるように1つまたは複数のシステインの位置で改変されている。さらに、最後のプロリンを、セリンおよびシステイン置換によって置換した場合もある。
【0288】
C
H3ドメインのC末端を、定常部分領域のC末端と結合ドメイン2のアミノ末端との間に並置された一連の替リンカードメインと共有結合させた。エフェクター機能を有する好ましい多価結合タンパク質は、定常部分領域を結合ドメイン2から間隔を空けるためにこれらのリンカーのうちの1つを有するが、リンカーは、BD2の折畳み特性次第では本発明による組成物の必須の構成要素ではない。一部の特定の多価分子ではリンカーがドメインの分離に重要な場合がある一方で、他のものでは重要性が低い場合がある。リンカーを、CD28を特異的に認識するscFv 2E12のN末端に連結した((V
H-リンカー-V
L)。多価結合分子のscFv 2E12部分のVHおよびVLドメインを分離するリンカーは、scFvのVドメイン間に通常挿入されている標準の(Gy
4Ser)
3リンカーではなく、20個のアミノ酸のリンカー(Gly
4Ser)
4であった。より長いリンカーは、2e12 scFvの結合特性をVH-VLの方向で改善することが観察された。
【0289】
構築した多特異性の多価結合分子は、配列番号171のアミノ酸1〜23からの2E12リーダーペプチド配列を含む結合ドメイン1;配列番号171中の位置24に反映される2H7マウス抗ヒトCD20軽鎖可変領域;配列番号171中の残基130から開始されるAsp-Gly
3-Ser-(Gly
4Ser)
2リンカー、VHの可変ドメイン中に残基11でロイシンからセリンへの(VHL11S)アミノ酸置換を有する2H7マウス抗ヒトCD20重鎖可変領域を含み、また、重鎖領域の末端で単一のセリン残基を有し(すなわち、通常の配列がVTVSSであるべきところがVTVS)(GenBank登録番号M17953)を有し、2つの結合ドメインBD1(2H7)およびBD2(2E12)との間には、「CSC」または「SSS」配列を含む改変ヒンジ領域を含めたヒトIgG1定常部分領域、ならびに野生型C
H2およびC
H3ドメインが介在している。エフェクター機能を有する多価結合タンパク質のヌクレオチドおよびアミノ酸配列は、CSC形はそれぞれ配列番号228および229に記載し、SSS形は配列番号170および171に記載する。
【0290】
安定に発現する細胞株は、切断なしまたは直鎖状にした組換え発現プラスミドのどちらかを電気穿孔によってチャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO DG44細胞)内にトランスフェクションし、続いてメトトレキサート含有培地中で選択することによって作製した。最も高いレベルの多価結合タンパク質を産生するバルク培養物およびマスターウェルを漸増レベルのメトトレキサート中で増幅し、続いて、適合した培養物を限界希釈によってクローニングした。多価結合タンパク質を産生するトランスフェクションされたCHO細胞を、4mMのグルタミン(Invitrogen、25030-081)、ピルビン酸ナトリウム(Invitrogen 11360-070、1×に希釈)、非必須アミノ酸(Invitrogen、11140-050、1×に最終希釈)、ペニシリン-ストレプトマイシン100IU/ml(Invitrogen、15140-122)、および1μg/mlのリコンブリン(recombulin)インスリン(Invitrogen、97-503311)を添加した、JRH Biosciencesから得た無血清培地(Excell302、カタログ番号14324-1000M)を用いて、バイオリアクターまたはウェーブバッグ(wave bag)内で培養した。CD-CHOなどの他の無血清CHO基本培地も産生に用い得る。
【0291】
融合タンパク質を消耗CHO培養上清からプロテインAアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。一連のクロマトグラフィーおよびウイルス減少フィルターを含めた濾過ステップを用いて多価結合タンパク質を精製した。細胞培養上清を濾過し、その後、GE Healthcare XK16/40カラム上のプロテインAセファロースアフィニティークロマトグラフィーに供した。タンパク質がカラムに結合した後、カラムをdPBSで洗浄し、その後、1.0MのNaCl、20mMのリン酸ナトリウムpH6.0で洗浄し、その後、25mMのNaCl、25mNのNaOAc、pH5.0で洗浄して、非特異的結合タンパク質を除去した。結合したタンパク質を100mMのグリシン(Sigma)、pH3.5中でカラムから溶出させ、0.5Mの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、pH6.0を用いてpH5.0にした。タンパク質試料をGPC精製の準備のために25mg/mlまで濃縮した。サイズ排除クロマトグラフィーを、GE healthcare XKカラムおよびSuperdex200調製グレード(GE healthcare)を用いて、GE Healthcare AKTA Explorer100Air装置で行った。
【0292】
その後、物質を濃縮し、20mMのリン酸ナトリウムおよび240mMのスクロースと共に製剤化した結果、pH6.0となった。組成物を濾過した後、回収された物質の量に応じて様々な濃度で無菌バイアルに満たした。
【実施例3】
【0293】
スコーピオン発現カセットの構築
実施例2に記載のように定常部分領域と連結した合成2H7 scFv(抗CD20;配列番号1)を含む核酸はTRU-015と命名した。TRU-015の核酸、ならびに小モジュール免疫薬剤をコードしている合成scFv 2E12(抗CD28VL-VH;配列番号3)および合成scFv 2E12(抗CD28 VH-VL;配列番号5)の核酸を、スコーピオンカセットの様々な構成要素のPCR増幅の鋳型として用いた。結合ドメイン1および定常部分領域の鋳型、または骨格は、TRU-015(定常部分領域と連結したscFv 2H7(抗CD20)をコードしている核酸)によって提供され、この鋳型を発現ベクターpD18中で構築した。二方向のどちらか(V
L-V
HおよびV
H-V
L)のscFv 2E12を含む上述の核酸は、結合ドメイン2のコード領域を提供する。
【0294】
BD2/リンカー挿入のためのTRU015 SSSヒンジCH2CH3
SSSヒンジを含む形の合成2H7 scFv IgG1を用いて、既存の終止コドンおよびXbaI部位を置き換えてEcoRI部位を付加するための鋳型として役割を果たすことによって、スコーピオンカセットを作製した。この分子を、プライマー9(配列番号23;表1参照)およびプライマー87(配列番号40;表1参照)ならびにPlatinum PCR High Fidelity混合物(Invitrogen)を用いたPCRによって増幅した。生じた1.5Kbpの断片を精製し、ベクターpCR2.1-TOPO(Invitrogen)内にクローニングし、大腸菌株TOP10(Invitrogen)内に形質転換させ、DNA配列を確認した。
【表4】
【0295】
n2H7 VKおよびヒトVK3リーダー配列の融合
オリゴヌクレオチド特異的PCR突然変異誘発を用いて、表1のプライマー3および5を使用して、TRU015 VKではAgeI(ACCGGT)制限部位をコード領域の5'末端に、(G4S)3リンカーではNhe I(GCTAGC)制限部位をコード領域の3'末端に導入した。プライマー3はヒトVK3リーダー(gb:X01668号)の最後の6個のアミノ酸もコードしているので、重複PCRを用いて、表1のプライマー1、2および5を使用して、コンセンサスKozakボックスおよびHinDIII(AAGCTT)制限部位を含めたリーダーのN末端配列を逐次的に付加した。
【0296】
n2H7 IgG1 SSSヒンジ-CH2CH3の構築
プライマー4および6(それぞれ配列番号18および20;表1)を用いて、TRU-015のV
Kと融合させるためにNheI部位の5'を有し、3'末端接合部でXho I(5'-CTCGAG-3')部位を有する、IgG1ヒンジ-C
H2C
H3ドメインを有するTRU-015 V
Hを再度増幅した。同様に、表1のプライマー8および9を用いてIgG1ヒンジ-C
H2-C
H3領域を増幅し、クローニングのために5'Xho I部位を導入し、既存の3'末端をEcoRI(5'-GAATTC-3')部位で置き換え、CH3ドメインの下流に連結した結合ドメイン2の翻訳を可能にするために終止コドンを破壊した。この形のスコーピオンカセットは、接頭辞「n」によって以前に記載したカセットと区別する。
【0297】
上述の多価結合タンパク質に加えて、本発明によるタンパク質は、免疫グロブリンの単一の可変領域に対応する、結合ドメイン1もしくは2のどちらかまたは両方である結合ドメインを有し得る。本発明のこの態様の例示的な実施形態は、ラクダ科動物の抗体のV
Hドメイン、または標的抗原と結合することができる単一の改変もしくは未改変の別の動物種の抗体のV領域に対応する結合ドメインを含むが、任意の単一の可変ドメインが本発明のタンパク質において有用であることが企図される。
【0298】
2E12 VL-VHおよびVH-VLの構築
カセットと適合性のある2E12 scFvを作製するために、表1の重複オリゴヌクレオチドプライマー17および18を用いて内部Xba I(5'-TCTAGA-3')部位を破壊する必要があった。これら2つのプライマーを、プライマーペア14/16(VL-VH)または13/15(VH-VL)と組み合わせて使用して、2つの逆方向の結合ドメインを、それらがどちらもそれぞれその5'および3'末端でEcoRIおよびXbaI部位を保有するように増幅した。また、プライマー13および16は、Xba I部位の直前に終止コドン(TAA)をコードしている。
【0299】
2H7 SSS IgG1 2e12 LH/HLの構築
エフェクタードメイン-結合ドメイン2リンカーの付加。(STDリンカー-STD1およびSTD2)
表1の相補的プライマー11および12を合わせ、70℃まで加熱し、2本の鎖のアニーリングを可能にするために室温までゆっくりと冷却した。製造者のプロトコルを用いて、1mMのATP(Roche)を含む1×ライゲーション緩衝液中のT4ポリヌクレオチドキナーゼ(Roche)を使用して、5'リン酸基を付加した。その後、生じた二本鎖リンカーを、T4DNAリガーゼ(Roche)を用いて、IgG1のC
H3末端のコード領域と結合ドメイン2の開始点との間のEcoRI部位内にライゲートした。生じたDNA構築物を、リンカー-BD2接合部でのEcoRI部位およびC
H3-リンカー接合部でのヌクレオチド配列GAATTAの存在についてスクリーニングした。その後、正しいSTD1リンカー構築物をEcoRIで再度消化し、リンカーライゲーションを繰り返して、Lx1配列の2つ(STD2)の同一の反復からなるリンカーを有する分子を生成した。DNA構築物を上記のように再度スクリーニングした。
【実施例4】
【0300】
発現の研究
発現の研究を、エフェクター機能を有する多価結合タンパク質をコードしている上述の核酸で行った。多価結合タンパク質をコードしている核酸をCOS細胞内に一過的にトランスフェクションし、トランスフェクションされた細胞を、これらの細胞中での異種遺伝子発現を可能にする周知の条件下で維持した。PEIまたはDEAE-デキストランを用いて、以前に記載されているように、DNAをCOS細胞内に一過的にトランスフェクションした(PEI=本明細書中に参照により組み込まれるBoussif O.他、PNAS 92:7297-7301、(1995);本明細書中に参照により組み込まれるPollard H.他、JBC 273:7507-7511、(1998))。新しい形態のそれぞれの平均発現レベルを決定するために、それぞれの新しい分子の複数の独立したトランスフェクションを行った。PEIによるトランスフェクションには、COS細胞を60mmの組織培養プレート上に、DMEM/10%FBS培地中でプレートし、トランスフェクションの日に約90%コンフルエントとなっているように終夜インキュベーションした。培地を、抗生物質を含まない無血清DMEMに変更し、4時間インキュベーションした。トランスフェクション培地(4ml/プレート)は、50μgのPEIおよび10〜20μgの目的のDNAプラスミドを含む無血清DMEMを含んでいた。トランスフェクション培地をボルテックスすることによって混合し、室温で15分間インキュベーションし、既存の培地を吸引した後にプレートに加えた。培養物を3〜7日間インキュベーションした後、上清を回収した。培養上清を、SDS-PAGE、ウェスタンブロッティングによってタンパク質発現についてアッセイし、フローサイトメトリーによって結合を確認し、機能をADCC、CDC、および共培養実験を含めた様々なアッセイを用いてアッセイした。
【0301】
SDS-PAGE分析およびウェスタンブロッティング分析
試料を粗培養上清(通常30μl/ウェル)または8μgのタンパク質/ウェルを含む精製タンパク質のアリコートのどちらかから調製し、2×トリス-グリシンSDS緩衝液(Invitrogen)を1×最終濃度まで加えた。分子量標準を提供するために10μlのSeeBlueマーカー(Invitrogen、カリフォルニア州Carlsbad)を流した。多価結合(融合)タンパク質変異体を、4〜20%のNovexトリス-グリシンゲル(Invitrogen、カリフォルニア州San Diego)上のSDS-PAGE分析に供した。試料を、95℃で3分間加熱した後、還元的または非還元的条件下でNovexトリス-グリシンSDSサンプルバッファー(2×)を用いてロードし、続いて175Vで60分間電気泳動した。電気泳動は、1×Novexトリス-グリシンSDSランニング緩衝液を用いて行った(Invitrogen)。
【0302】
電気泳動後、半乾燥電気ブロッティング装置(Ellard、ワシントン州Seattle)を1時間、100mAmpで使用することによって、タンパク質をPVDF膜にトランスファーした。ウェスタントランスファー緩衝液は、飽和Whatman濾紙上に存在させ、これには以下の3つの緩衝液が含まれていた:1枚目は36.34g/リットルのトリス、pH10.4、および20%のメタノールを含み;2枚目は3.02g/リットルのトリス、pH10.4、および20%のメタノールを含み;3枚目は3.03g/リットルのトリス、pH9.4、5.25g/リットルのε-アミノカプロン酸、および20%のメタノールを含んでいた。膜を、PBS中のBLOTTO=5%の無脂肪乳中で終夜攪拌しながらブロッキングした。膜を、BLOTTO中の5μg/mlのHRPコンジュゲートヤギ抗ヒトIgG(Fc特異的、Caltag)と共に1時間インキュベーションし、その後、PBS-0.5%Tween20で3回、それぞれ15分間洗浄した。濡れた膜をECL溶液と共に1分間インキュベーションし、続いてX-omatフィルムに20秒間曝露させた。
図2は、非還元的条件下で電気泳動した、COS細胞培養上清中で発現されたタンパク質(30μl/ウェル)のウェスタンブロットを示す。レーンはマーカー1〜9で示し、以下の試料を含む:レーン1(カットオフ=See Blueマーカー、kDaはブロットの横に示す。レーン2=2H7-sssIgG P238S/P331S-STD1-2e12 VLVH;レーン3=2H7-sssIgG P238S/P331S-STD1-2e12 VHVL、レーン4=2H7-sssIgG P238S/P331S-STD2-2e12 VLVH;レーン5=2H7-sssIgG P238S/P331S-STD2-2e12 VHVL;レーン6=2e12 VLVH SMIP;レーン7=2e12 VHVL SMIP;レーン8=2H7 SMIP。これらの構築物中の2H7は常にV
LV
Hの方向であり、sssIgGは、
図5に示すリンカー位置1に位置するヒンジ/リンカーが何であるかを示し、P238S/P331Sは、野生型(記載した1番目のアミノ酸)から突然変異体(記載した2番目のアミノ酸)への突然変異を有するヒトIgG1の形ならびに野生型ヒトIgG1のC
H2およびCH3ドメイン中でそれが存在するアミノ酸位置を示し、STD1は、
図5に示すリンカー位置2に位置する20個のアミノ酸(18+制限部位)のリンカーを示し、STD2は、
図6に示すリンカー位置2に位置する38個のアミノ酸(36+制限部位)のリンカーを示す。
【0303】
結合の研究
結合の研究を行ってCD20/CD28多特異性の多価結合ペプチドの二重特異的結合特性を評価する。最初に、WIL2-S細胞を96ウェルプレートに加え、細胞をペレット化するために遠心分離した。播種したプレートに、20μg/mlから0.16μg/mlまでの2倍力価をプレートにわたって使用して、CD20/CD28精製タンパク質を加えた。TRU-015(結合ドメイン1供給源)精製タンパク質の2倍希釈系列も播種したプレートのウェルに加え、TRU-015の濃度は20μg/mlから0.16μg/mlまでに及んだ。タンパク質を含まない1つのウェルがバックグラウンド対照として役割を果たした。
【0304】
タンパク質を含む播種したプレートを氷上で1時間インキュベーションした。続いて、ウェルをPBS中の200μlの1%のFBSで1回洗浄した。その後、1:100のFITC標識ヤギ抗ヒト抗体(Fc Sp)をそれぞれのウェルに加え、プレートを氷上で1時間再度インキュベーションした。その後、プレートをPBS中の200μlの1%のFBSで1回洗浄し、細胞を200μlの1%のFBSに再懸濁し、FACSによって分析した。
【0305】
抗CD28ペプチド2E12 V
HV
Lの結合特性を評価するために、CD28を発現しているCHO細胞を、培養プレートの個々のウェルに播種することによってプレートした。その後、20μg/mlから0.16μg/mlまでにおよぶ2倍希釈スキームを用いて、CD20/CD28精製タンパク質を個々のウェルに加えた。2E12IgG-VHVL SMIP精製タンパク質を、個々の播種したウェルに、ここでも2倍希釈スキーム、すなわち20μg/mlから0.16μg/mlまでを用いて加えた。バックグラウンド対照を提供するために、1つのウェルにはタンパク質を与えなかった。その後、プレートを氷上で1時間インキュベーションし、PBS中の200μlの1%のFBSで1回洗浄し、1:100のFITC標識ヤギ抗ヒト抗体(Fc Sp、CalTag、カリフォルニア州Burlingame)をそれぞれのウェルに加えた。プレートを氷上で1時間再度インキュベーションし、続いて、PBS中の200μlの1%のFBSで1回洗浄した。細胞を200μlの1%のFBSに再懸濁させた後、FACS分析を行った。結果により、N末端CD20結合ドメイン1を有する多価結合タンパク質はCD20に結合し、N-V
H-V
L-Cの方向のC末端CD28結合ドメイン2を有するタンパク質もCD28に結合したことが示された。
【0306】
発現されたタンパク質は、フローサイトメトリー(FACS)によって、WIL-2S細胞上に提示されたCD20(
図3参照)およびCHO細胞上に提示されたCD28(
図3参照)と結合することが示され、したがって、BD1またはBD2のどちらも、特異的標的抗原と結合するように機能できることが実証された。
図3のグラフ上のそれぞれのデータセットは、示した力価範囲にわたる様々な多価結合(融合)タンパク質の段階希釈液の結合を示す。これらの最初の構築物を用いて得られたデータは、VHVLの方向の2e12を用いた結合ドメイン2を有する多価結合(融合)タンパク質の形が、等濃度のVLVHの方向の形よりも良好に発現され、CD28とより良好に結合することを示す。
【0307】
図4は、これらのトランスフェクション/構築物のそれぞれからの精製タンパク質を用いて行った結合の研究の結果のグラフ表示を示す。この図は、CD20を発現するWIL-2S細胞に対するタンパク質の結合プロフィールを示し、多価分子が、同じ濃度の単一特異性SMIPと同様にCD20に結合することを実証している。
図5の上および下のパネルは、BD2のCD28 CHO細胞に対する特異性(2e12=CD28)の結合プロフィールを示す。結合ドメイン2のCD28に対する結合では、V領域の方向が2e12の結合に影響を与えた。VH-VL(HL)の方向の2e12を有する2H7-sss-hIgG-STD1-2e12多価結合タンパク質は単一特異性SMIPと等価なレベルの結合を示した一方で、2e12 LH分子は同じ濃度でより効率の低い結合を示した。
【実施例5】
【0308】
多価融合タンパク質の様々なリンカー形の構築
本実施例では、
図6の表に示した様々なリンカー形の構築を記載する。
【0309】
CH3-BD2リンカーH1〜H7の構築
スコーピオン分子の発現および結合に対するC
H3-BD2リンカーの長さおよび組成の効果を調査するために、既存の分子2H7sssIgG1-Lx1-2e12HLを異なるリンカーを有する大きなセットの類似の構築物と比較する実験を設計した。2H7sssIgG1-Lx1-2e12HLを鋳型として用いて、オリゴヌクレオチド表2に記載のプライマーを使用して一連のPCR反応を行い、これにより、長さが0〜16個のアミノ酸と変動するリンカーが作製された。これらのリンカーは、BsrGI部位から、EcoRI部位のリンカー-BD2の接合部をコードしている核酸の末端までのC
H3のコード領域にわたる核酸断片として構築した。
【表5】
【0310】
図6は、多価結合(融合)タンパク質の模式構造を示す図であり、それぞれの結合ドメインのV領域の方向、リンカー位置1に存在する配列(Cys残基のみを記載する)、ならびに分子のリンカー位置2に位置するリンカー(または複数のリンカー)の配列および識別子を示す。
【実施例6】
【0311】
2H7-IgG-2e12プロトタイプ多価融合タンパク質の変異リンカー形の結合および機能の研究
本実施例では、リンカー位置2に様々なリンカー(H1〜H7)が存在する「プロトタイプ」2H7-sssIgG-Hx-2e12 VHVL構築物の一連の発現および結合の研究の結果を示す。これらのタンパク質のそれぞれは、大規模のCOSの一過性トランスフェクションによって発現させ、以前の実施例に記載のようにプロテインAアフィニティークロマトグラフィーを用いて分子を精製した。その後、精製タンパク質をSDS-PAGE、ウェスタンブロッティング、フローサイトメトリーによって分析する結合の研究、および生物活性の機能的アッセイを含めた分析に供した。
【0312】
異なるBD2の方向を比較する結合の研究
プロテインAで精製した物質を用い、一定量、すなわち0.72μg/mlの結合(融合)タンパク質を研究したそれぞれの変異体で用いたこと以外は以前の実施例に記載のように、結合の研究を行った。
図7は、それぞれのリンカー変異体および2e12の方向変異体の、CD20およびCD28標的細胞の両方に対する結合特性を比較する柱状グラフを示す。H1〜H6とは、H1〜H6リンカーおよびVH-VLの方向の2e12を有する構築物をいう。L1〜L6とは、H1〜H6リンカーおよびVL-VHの方向の2e12を有する構築物をいう。データにより、2e12に対する結合ドメイン2の特異性は、LHの方向(試料L1〜L6)の場合よりもHLの方向(試料H1〜H6)で存在する場合ではるかにより効率的に結合することが実証された。リンカーの長さの効果は、次の図の組で示すように、より長いリンカーを有する分子は、カルボキシ末端でCD28結合特異性が欠損している一部の単一特異性の切断された分子を含むという発見によって、複雑になっている。選択したリンカーの結合に取り組む他の実験を行い、結果を
図10、12、および13に示す。
【0313】
精製したH1〜H7リンカー変異体のSDS-PAGE分析
試料を、8μgのタンパク質/ウェルを含む精製タンパク質アリコートから調製し、2×トリス-グリシンSDS緩衝液(Invitrogen)を1×最終濃度まで加えた。還元試料/ゲルには、10×還元緩衝液を1×まで試料+トリス-グリシンSDS緩衝液に加えた。分子量標準を提供するために10μlのSeeBlueマーカー(Invitrogen、カリフォルニア州Carlsbad)を流した。多価結合(融合)タンパク質変異体を、4〜20%のNovexトリス-グリシンゲル(Invitrogen、カリフォルニア州San Diego)上のSDS-PAGE分析に供した。試料を、95℃で3分間加熱した後、還元的または非還元的条件下でNovexトリス-グリシンSDSサンプルバッファー(2×)を用いてロードし、続いて175Vで60分間電気泳動した。電気泳動は、1×Novexトリス-グリシンSDSランニング緩衝液(Invitrogen)を用いて行った。ゲルを電気泳動した後にクマシーSDS PAGE R-250染色中で30分間攪拌しながら染色し、少なくとも1時間脱染色した。
図8は、[2H7-sss-hIgG P238S/P331S-Hx-2e12 VHVL]多価結合(融合)タンパク質変異体のクマシー染色した非還元および還元ゲル、ならびに対照試料としてTRU-015および2e12 HLSMIPを示す。リンカーの長さが増加するにつれて、だいたいSMIPの大きさ(または52kDa)で流れるタンパク質の量が増加する。このバンドにおけるタンパク質の量の増加は、約90kDaで流れる上部バンドにおけるタンパク質の量の低下に対応する。ゲルデータは、完全長の分子がリンカーの位置またはその付近で切断されて、BD2領域を欠く分子が生じることを示している。より小さなBD2断片は存在せず、これは、(1)リンカー配列中のヌクレオチド配列が、より小さな断片をスプライシングされたRNA転写産物から除去する潜在性のスプライス部位を生じている可能性があること、または(2)タンパク質が完全な大きさのポリペプチドの翻訳後にタンパク質分解によって切断されており、より小さなBD2断片が不安定である、すなわちタンパク質分解性のプロセシングを受けやすいことを示している。これらの分子の一部のウェスタンブロッティングにより、タンパク質はすべてCD20 B
D1配列を含むが、より小さなバンドはCD28 BD2反応性を欠いていることが示された。「裸」のscFvの大きさ(25〜27kDa)で遊走するより小さなバンドはどのゲルまたはブロットでも観察されず、これは、このより小さなペプチド断片が試料中に存在しないことを示している。
【0314】
2H7に特異的なFabまたはCD28mIgによるBD1およびBD2のウェスタンブロット結合
図9は、それぞれの単一特異性SMIPと比較した2H7-sss-hIgG-H6多価結合(融合)タンパク質のウェスタンブロッティングの結果を示す。
【0315】
電気泳動を非還元的条件下で、試料を添加する前にボイルせずに行った。電気泳動後、半乾燥電気ブロッティング装置(Ellard、ワシントン州Seattle)を1時間100mAmpで使用することによって、タンパク質をPVDF膜にトランスファーした。膜を、BLOTTO(PBS中の5%の無脂肪乳)中で終夜攪拌しながらブロッキングした。
図9A:膜を、BLOTTO中の5μg/mlの2H7抗体に対するFabであるAbyD02429.2と共に1時間インキュベーションし、その後、PBS-0.5%Tween20で3回、それぞれ5分間洗浄した。その後、膜を6×His-HRP中1時間、0.5μg/mlの濃度でインキュベーションした。ブロットをPBSTで3回、それぞれ15分間洗浄した。濡れた膜をECL溶液と共に1分間インキュベーションし、続いてX-omatフィルムに20秒間曝露させた。
【0316】
図9B:膜を、BLOTTO中の10μg/mlのCD28Ig(Ancell、ミネソタ州Bayport)と共にインキュベーションし、その後、PBS-0.5%Tween20で3回、それぞれ15分間洗浄した。その後、膜を、BLOTTO中の1:3000のヤギ抗マウスHRPコンジュゲート(CalTag、カリフォルニア州Burlingame)と共にインキュベーションした。膜を3回それぞれ15分間洗浄し、その後、ECL溶液中で1分間インキュベーションし、続いてX-omatフィルムに20秒間曝露させた。ウェスタンブロットからの結果により、CD28結合ドメインが、約90kDaで遊走する多価「単量体」画分中に、高次の形態で存在することが示された。単一のSMIPまたは裸のscFvの大きさの断片で予測される位置で検出可能なバンドは存在しなかった。CD20抗イディオタイプFabを用いた場合、SMIPの大きさの断片が検出され、これは、(2H7-sss-hIgG)を含み、融合タンパク質のCD28 scFv BD2部分を欠くペプチド断片の存在を示している。
【0317】
選択したリンカーの結合の研究
図10は、精製した2H7-sss-hIgG-Hx-2e12融合タンパク質で行った結合の研究の結果を示す。結合の研究を行ってCD20/CD28多特異的結合ペプチドの二重特異的結合特性を評価した。最初に、従来技術を用いてWIL2-S細胞をプレートした。播種したプレートに、20μg/mlから0.16μg/mlまでの2倍力価をプレートにわたって使用して、CD20/CD28精製タンパク質を加えた。TRU-015(結合ドメイン1の供給源)の精製タンパク質の2倍希釈系列も播種したプレートのウェルに加え、TRU-015の濃度は20μg/mlから0.16μg/mlまでに及んだ。タンパク質を含まない1つのウェルがバックグラウンド対照として役割を果たした。
【0318】
タンパク質を含む播種したプレートを氷上で1時間インキュベーションした。続いて、ウェルをPBS中の200μlの1%のFBSで1回洗浄した。その後、1:100のFITC標識ヤギ抗ヒト抗体(Fc Sp)をそれぞれのウェルに加え、プレートを氷上で1時間再度インキュベーションした。その後、プレートをPBS中の200μlの1%のFBSで1回洗浄し、細胞を200μlの1%のFBSに再懸濁し、FACSによって分析した。
【0319】
抗CD28ペプチド2E12 V
HV
Lの結合特性を評価するために、CD28を発現しているCHO細胞を、培養プレートの個々のウェルに播種することによってプレートした。その後、20μg/mlから0.16μg/mlまでにおよぶ2倍希釈スキームを用いて、CD20/CD28精製タンパク質を個々のウェルに加えた。2E12IgGvHvL SMIP精製タンパク質を、個々の播種したウェルに、ここでも2倍希釈スキーム、すなわち20μg/mlから0.16μg/mlまでを用いて加えた。バックグラウンド対照を提供するために、1つのウェルにはタンパク質を与えなかった。その後、プレートを氷上で1時間インキュベーションし、PBS中の200μlの1%のFBSで1回洗浄し、1:100のFITC標識ヤギ抗ヒト抗体(Fc Sp)をそれぞれのウェルに加えた。プレートを氷上で1時間再度インキュベーションし、続いて、PBS中の200μlの1%のFBSで1回洗浄した。細胞を200μlの1%のFBSに再懸濁した後、FACS分析を行った。発現されたタンパク質は、フローサイトメトリー(FACS)によって、WIL-2S細胞上に提示されたCD20(
図10A参照)およびCHO細胞上に提示されたCD28(
図10B参照)と結合することが示され、したがって、BD1またはBD2のどちらも、特異的標的抗原と結合するように機能できることが実証された。さらに、使用したリンカー(H1〜H6)は、標的抗原に対する結合力に顕著に影響を与えることが見出されなかった。
【0320】
多価結合(融合)タンパク質のSEC分画。結合(融合)タンパク質を細胞培養上清からGE Healthcare XK16/40カラム上のプロテインAセファロースアフィニティークロマトグラフィーによって精製した。タンパク質がカラムに結合した後、カラムをdPBSで洗浄し、その後、1.0MのNaCl、20mMのリン酸ナトリウムpH6.0で洗浄し、その後、25mMのNaCl、25mNのNaOAc、pH5.0で洗浄して、非特異的結合タンパク質を除去した。結合したタンパク質を100mMのグリシン(Sigma)、pH3.5中でカラムから溶出させ、0.5Mの2-(N-モルホリノ)エタンスルホン酸(MES)、pH6.0を用いてpH5.0にした。タンパク質試料をGPC精製の準備のために従来技術を用いて25mg/mlまで濃縮した。サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を、GE healthcare XKカラムおよびSuperdex200、調製グレード(GE healthcare)を用いて、GE Healthcare AKTA Explorer100Air装置で行った。
【0321】
図12は、様々な結合(融合)タンパク質のSEC分画の結果を要約する表を示す。リンカーの長さが増加するにつれて、溶液中の分子の複雑さも増加し、目的ピーク、すなわちPOIを高次形態からHPLCによって単離することが困難となる。H7リンカーは、この複雑さの大部分を溶液中のより均一な形態に解決すると考えられ、可溶形は大部分が約172kDaでの単一のPOIとして遊走する。
【0322】
さらなる結合の研究
多価結合(融合)タンパク質のより小さなサブセットを用いて第2の一連の実験を行い(
図12および13参照)、ここではリンカーH3、H6、およびH7を比較した。データは、結合レベルはCD28でCD20の結合よりも顕著に低下するが、どちらもリンカーの長さが増加するにつれてわずかに低下することを実証している。さらに、データは、H7リンカーがどちらの抗原に対しても最も高いレベルの結合を示したことを示している。これらのデータは、プロテインAで精製した多価結合(融合)タンパク質を用いて得たが、SECによってさらに精製していないので、複数の形の分子が溶液中に存在していた可能性がある。また、結果では、結合曲線は、リンカーH6について溶液中に存在する顕著な量の単一特異性形態を完全に反映していないように見えるので、切断された形態が真の多価ポリペプチドよりも安定性が低い可能性があることも示された。
【0323】
単一分子からの多特異的結合の実証
WIL-2S細胞の表面上のCD20との結合をCD28 BD2に特異的な試薬を用いて検出する別の結合アッセイを行い(
図13参照)、これにより、両方の標的抗原に対する同時結合が起こり、BD1およびBD2がどちらも同じ多特異的結合(融合)タンパク質上に結合され得ることが実証された(
図12を参照)。このアッセイは、タンパク質の多特異的結合特性を実証している。
【実施例7】
【0324】
BD2に代替特異性を有する多特異的結合(融合)タンパク質の構築
プロトタイプCD20-CD28多特異的結合分子に加えて、CD37およびCD3結合ドメインを含めた代替結合ドメイン2領域を用いて2つの他の形態を作製した。また、[2H7-sss-IgG-Hx/STDx-2e12 HL]多特異的結合(融合)タンパク質について記載したリンカードメインのいくつかを用いても、分子を作製した。これらのさらなる多特異的結合(融合)分子の構築を以下に記載する。
【0325】
抗CD37結合ドメインの構築
【表6】
【0326】
G28-1 scFv(配列番号102)を、上記表X中のプライマーを用いたPCRによってG28-1 LH SMIPに変換した。プライマー23および25を10ngのG28-1 scFvと合わせ、VKを、94℃、20秒間、58℃、15秒間、68℃、15秒間の30サイクルで、Platinum PCR Supermix Hi-Fidelity PCR混合物(Invitrogen、カリフォルニア州Carlsbad)を用いて、ABI9700サーマルサイクラー内で増幅した。このPCR産物は、VKの5'末端に制限部位PinAI(AgeI)を有し、scFv(G4S)3リンカーの末端にNheIを有していた。VHを同様に、プライマー24および26を10ngのG28-1 scFvと共に合わせ、上記VKと同一の条件下のPCRを実行することによって変更した。このPCR産物は、VHの5'末端に制限部位NheIを有し、3'末端にXhoIを有していた。顕著な配列同一性の重複がプライマー23および24内に設けられているので、VKおよびVHを5倍希釈し、その後、フランキングプライマー25および26を用いて1:1の比でPCRに加え、完全長のscFvを上記のように、68℃の伸長時間を15秒間から45秒間に延ばして、増幅した。このPCR産物は、G28-1 scFv全体をPinAI-XhoI断片として表し、過剰のプライマー、酵素および塩を除去するためにMinEluteカラム(Qiagen)精製によって精製した。溶出液を、1×H緩衝液(Roche)中のPinAI(Invitrogen)およびXhoI(Roche)を用いて、37℃で4時間、50μLの体積で、完全に消化した。その後、消化したPCR産物を1%のアガロースゲル中で電気泳動し、断片をゲルから取り出し、緩衝液QGを用いてMinEluteカラムで再度精製し、ゲル-緩衝液混合物を50℃で10分間、アガロースを溶かすために断続的に混合しながらインキュベートし、その後のカラムでの精製はPCR後のプライマー除去と同一であった。3μLのPinAI-XhoI消化G28-1 LHを、1μLのPinAI-XhoI消化pD18-n2H7sssIgG1 SMIPと、5μLの2×LigaFastライゲーション緩衝液(Promega、ウィスコンシン州Madison)および1μLのT4DNAリガーゼ(Roche)と共に、10μLの反応物中で合わせ、よく混合し、室温で10分間インキュベーションした。その後、3μLのこのライゲーションを、製造者のプロトコルを使用してコンピテントなTOP10(Invitrogen)内に形質転換させた。これらの形質転換体を100μg/mlのカルベニシリン(Teknova)を含むLB寒天プレート上にプレートし、終夜37℃でインキュベーションした。18時間の増殖後、コロニーを選択し、深ウェル96ウェルプレート中の100μg/mlのカルベニシリンを含む1mlのT-ブロス(Teknova)に接種し、終夜37℃で、振盪インキュベーター内で増殖させた。18〜24時間の増殖後、BioRobot8000(Qiagen)上のQIAprep96Turboキット(Qiagen)を用いて、DNAをそれぞれ終夜培養物から単離した。その後、それぞれのクローンから10μLを、15μLの反応体積中の1×B緩衝液中のHindIIIおよびXhoI制限酵素をどちらも用いて消化した。制限部位の分析のために消化したDNAを1%のアガロースE-ゲル(Invitrogen、カリフォルニア州)上で電気泳動した。正しい大きさのHindIII-XhoI断片を含んでいたクローンの配列を確認した。G28-1 HL SMIPは、上記表Xのプライマー29、30、31および32を使用してPinAI部位を5'末端に配置し、G28-1 VHのNhe I部位で終わる(G4S)4リンカーを配置することによって、同様の様式で構築した。VKは、NheI部位がVKの5'末端に導入され、XhoIが3'末端に導入されるように、表Xのプライマー33および34を用いて、PCRによって変更した。その後、これらのPCRを上記のように合わせ、フランキングプライマー29および34と共に増幅して、VH-VLの方向の完全なG28-1 scFv DNAが得られ、これを、G28-1 LH SMIPとまったく同様にしてPinAI-XhoI消化したpD18-(n2H7)sssIgG1 SMIP内にクローニングした。
【0327】
2H7sssIgG1-STD1-G28-1 LH/HLの構築
G28-1 LHおよびG28-1 HL SMIPを鋳型として用いて、LHおよびHL抗CD37結合ドメインを、そのフランキング制限部位がスコーピオンカセットと適合性のあるようにPCRによって変更した。プライマー27(LH)または36(HL)のどちらかを用いてEcoRI部位をそれぞれのscFvの5'末端に導入し、プライマー28(LH)または35(HL)のどちらかを用いて終止コドン/XbaI部位を3'末端に導入した。生じたDNAをEcoRI-XbaIで消化したpD18-2H7sssIgG-STD1内にクローニングした。
【0328】
2H7sssIgG1-Hx-G28-1 HLの構築
2H7sssIgG1-Hx-2e12 HL DNAをBsrGIおよびEcoRIで消化し、325bpの断片はIgG1のC末端およびリンカーからなる。これらを、BsrGI-EcoRIを用いてSTD1リンカーを除去し、2H7sssIgG1-Hx-2e12 HLクローンからの対応するリンカーで置き換えることによって、2H7sssIgG1-STD1-G19-4 HL中の対応する領域を置換した。
【0329】
抗CD3結合ドメインの構築
【表7】
【0330】
G19-4結合ドメインは、既に記載したように重複オリゴヌクレオチドプライマーの伸長によって合成した。軽鎖PCRは2つのステップで行い、プライマー43/44、42/45、41/46および40/47をそれぞれ5μM、10μM、20μMおよび40μMの濃度で、Platinum PCR SuperMix Hi-Fidelity中、94℃、20秒間、60℃、10秒間、68℃、15秒間の30サイクル合わせることで開始した。1μLの生じたPCR産物を、LHには39/48(10μM)、38/49(20μM)および37/50(40μM)、またはHLの方向には66/67(40μM)のプライマー混合物を用いて、68℃の伸長を25秒間に増加した以外は同じPCR条件を用いて、再度増幅した。LHの方向のVKは5'末端でPinAI、3'末端でNheIによって仕切られ、HLの方向は、5'末端でNheI、3'末端でXhoIを有していた。
【0331】
重鎖を合成するために、第1のPCRステップのプライマー56/57、55/58、54/59および53/60を合わせることによって、上記と同じ濃度を有するプライマー混合物を調製した。第2のPCRでは、プライマー52/61(20μM)および51/62(50μM)を、第1のPCRからの1μlと共に、軽鎖の第2のPCRと同じPCR条件を用いて増幅して、5'末端でNheIを有し、3'末端でXhoIを有するLHの方向を作製した。プライマー52/61(10μM)、63/64(20μM)、63(20μM)/65(40μM)および63(20μM)/5(80μM)を、以前のPCRからの1μLと共に、第2のPCR中で合わせて、5'末端でPinAIを有し、3'末端でNheIを有するHLの方向の重鎖を作製した。以前の構築物と同様、NheI部位を中心として十分な重複をプライマー内に設計したので、重鎖および軽鎖のPCRをLHの方向で合わせ、フランキングプライマー37および62と共に再増幅することによってG19-4 LHが合成され、HL PCRを合わせてプライマー63および67と共に再増幅することによってG19-4 HLが合成された。
【0332】
完全長のG19-4 LH/HL PCR産物をアガロースゲル電気泳動によって分離し、ゲルから切り出し、前述のようにQiagen MinEluteカラムで精製した。その後、これらのDNAをpCR2.1(Invitrogen)内にTOPOでクローニングし、TOP10内に形質転換させ、最初にEcoRIの断片の大きさ、次いでDNA配列決定によって、コロニーのスクリーニングを行った。その後、哺乳動物細胞中で発現させるために、G19-4 LH/HLをPinAI-XhoIをによってpD18-IgG1内にクローニングした。
【0333】
2H7sssIgG1-STD1-G19-4 LH/HLの構築
G19-4 LHおよびG19-4 HL SMIPを鋳型として用いて、LHおよびHL抗CD3結合ドメインを、そのフランキング制限部位がスコーピオンカセットと適合性のあるようにPCRによって変更した。プライマー27(LH)または36(HL)のどちらかを用いてEcoRI部位をそれぞれのscFvの5'末端に導入し、プライマー28(LH)または35(HL)のどちらかを用いて終止コドン/XbaI部位を3'末端に導入した。生じたDNAをEcoRI-XbaIで消化したpD18-2H7sssIgG-STD1内にクローニングした。
【0334】
2H7sssIgG1-Hx-G19-4 HLの構築
2H7sssIgG1-Hx-2e12 HL DNAをBsrGIおよびEcoRIで消化し、325bpの断片はIgG1のC末端およびリンカーからなる。これらを、BsrGI-EcoRIを用いてSTD1リンカーを除去し、2H7sssIgG1-Hx-2e12 HLクローンからの対応するリンカーで置き換えることによって、2H7sssIgG1-STD1-G19-4 HL中の対応する領域を置換した。
【0335】
本明細書中に開示されている様々な多価結合タンパク質の検討からは、本発明の分子の形成において組み合わせることを受け入れられる分子の特長が明らかである。これらの特長には、結合ドメイン1、定常部分領域(ヒンジまたはヒンジ様ドメインを含む)、リンカードメイン、および結合ドメイン2が含まれる。これらの新規結合タンパク質の設計における固有のモジュール性により、当業者が、DNA配列を、それがほぼどの位置でも挿入できるように任意の望ましいモジュールのN末端および/またはC末端で操作して、それが由来する親分子(または複数の親分子)と比較して変更または増強した機能性を示す新しい分子を作製することが簡単になる。例えば、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーに由来する任意の結合ドメインが、本発明による分子の結合ドメイン1または結合ドメイン2のどちらかとして企図される。派生した結合ドメインには、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーの配列、ならびに免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーと好ましくは80%、90%、95%、99%、または99.5%の配列同一性を共有する変異体および誘導体と、1対1の対応を有するアミノ酸配列を有するドメイン、さらにはそれをコードしているポリヌクレオチド配列が含まれる。これらの結合ドメイン(1および2)は、好ましくは、本明細書中他の箇所に記載した配列および長さが変化し得るリンカーによって、本発明による分子の他のモジュールと連結しており、ただし、リンカーは、分子が機能的な三次構造を達成するために必要な任意の間隔および柔軟性を提供するために十分でなければならない。多価結合タンパク質の別のモジュールはヒンジ領域であり、これは、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーのヒンジ領域に対応し得るが、本明細書中に記載の「CSC」または「SSS」ヒンジ領域などのその変異体であってもよい。また、定常部分領域は、ヒンジ-C
H2-C
H3定常部分領域の構造によって典型的に表されるように、免疫グロブリンスーパーファミリーメンバーの定常領域の部分領域に対応し得る本発明によるタンパク質のモジュールを含む。定常部分領域の変異体および誘導体、好ましくは免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーと80%、90%、95%、99%、または99.5%の配列同一性を共有するアミノ酸配列を有するものも企図される。
【0336】
そのような分子の特長の例示的な一次構造を表5に示し、これは、例示的な結合ドメイン1および2のポリヌクレオチドおよび同族アミノ酸配列、ならびにヒンジまたはヒンジ様ドメインを含めた定常部分領域の一次構造、および例えば多価結合タンパク質の定常部分領域のC末端と結合ドメイン2領域N末端との間に介在し得るリンカーを開示している。本発明による分子のさらなる例には、例えば、結合ドメイン1および2のどちらかまたは両方が、免疫グロブリンスーパーファミリーのメンバーのV
LまたはV
L様ドメインに由来するドメインおよび免疫グロブリンスーパーファミリーの同じもしくは異なるメンバーに由来するV
HまたはV
H様ドメインを含み、これらのドメインが、本明細書中に開示したリンカーのうちの任意のものによって例示されるリンカーによって分離されている、上述の特長が含まれる。これらのドメインの方向がBD1および/またはBD2についてV
L-V
HまたはV
H-V
Lである分子が企図される。本発明による多価結合分子の様々な特長の一次構造のより完全な表示は、本開示の最後に添付されている表中に見つかる。本発明は、そのような分子をコードしているポリヌクレオチドをさらに包含する。
【表8】
【実施例8】
【0337】
別の多特異性融合タンパク質を用いた結合および機能の研究
プロトタイプCD20-IgG-CD28多特異的結合(融合)分子について上述した実験に並行した実験を、上述のさらなる多価結合分子のそれぞれについて実施した。一般に、これらのさらなる分子について得られたデータは、プロトタイプ分子について観察された結果と並行している。これらの実験の顕著な結果の一部を以下に開示する。
図14は、BD1およびBD2がどちらも同じ細胞または細胞種上の標的抗原、この場合はCD20およびCD37と結合する、新しい分子の1つで行ったブロッキング研究の結果を示す。この多特異性の多価結合(融合)タンパク質は、結合ドメイン1がCD20と結合し(2H7;VLVHの方向)、結合ドメイン2がCD37と結合する(G28-1 VL-VH(LH)またはVH-VL(HL))ように設計した。実験は、タンパク質の多特異性特性を実証するために行った。
【0338】
ブロッキング研究:RamosまたはBJAB Bリンパ芽球腫細胞(2.5×10
5個)を、96ウェルのV字底プレート中、染色培地(2%のマウス血清を含むPBS)中のマウス抗CD20(25μg/ml)抗体、もしくはマウス抗CD37(10μg/ml)抗体と共に、両方を一緒に、または染色培地を単独で、45分間、氷上、暗所でプレインキュベーションした。ブロッキング抗体を、細胞と共に10分間、室温でプレインキュベーションした後、多特異的結合(融合)タンパク質を示した濃度範囲、通常は0.02μg/ml〜10μg/mlで加え、さらに45分間、氷上、暗所でインキュベーションした。細胞を染色培地で2回洗浄し、1時間、氷上で染色培地中のCaltag(カリフォルニア州Burlingame)FITCヤギ抗ヒトIgG(1:100)と共にインキュベーションして、多特異的結合(融合)タンパク質と細胞との結合を検出した。その後、細胞をPBSで2回洗浄し、1%のパラホルムアルデヒド(カタログ番号19943、USB、オハイオ州Cleveland)で固定した。細胞を、FACsCalibur装置およびCellQuestソフトウェア(BD Biosciences、カリフォルニア州San Jose)を用いてフローサイトメトリーによって分析した。それぞれの一連のデータは、CD20、CD37、またはCD20およびCD37両方のブロッキング抗体の存在下における、2H7-sss-hIgG-STD1-G28-1 HL融合タンパク質の結合をプロットしている。この実験では切断されたリンカーのうちの1つを使用したが、両方のブロッキング抗体が存在していた場合にのみ多特異的結合(融合)タンパク質による結合が完全に排除され、これは、大部分の分子がCD20およびCD37の両方に対する結合機能を保有したことを実証している。データは、パネルAおよびBのRamosおよびBJABで試験した2つの細胞株で類似であり、多特異的結合(融合)タンパク質によって観察された結合のレベルを低下させることに関してCD20ブロッキング抗体がCD37ブロッキング抗体よりも有効であった。
【0339】
ADCCアッセイ
図15は、CD20-CD37多特異的結合(融合)タンパク質で行ったADCCアッセイの結果を示す。ADCCアッセイは、BJABリンパ芽球腫B細胞を標的とし、ヒトPBMCをエフェクター細胞として用いて行った。BJAB細胞を、500μCi/mlの
51Crクロム酸ナトリウム(250μCi/μg)を用いて、2時間、37℃、IMDM/10%FBS中で標識した。標識した細胞をRPMI.10%のFBSで3回洗浄し、4×10
5個の細胞/mlでRPMIに再懸濁させた。ヘパリン化したヒト全血を匿名の院内ドナーから得て、PBMCを、リンパ球分離培地(LSM、ICN Biomedical)勾配での分画によって単離した。バフィーコートを収集し、RPMI/10%のFBSで2回洗浄した後、RPMI/10%のFBSに5×10
6個の細胞/mlの最終濃度で再懸濁させた。細胞を、赤血球計を用いたトリパンブルー排除によって計数した後、続くアッセイで用いた。試薬試料を最終濃度の4倍で10%のFBSを含むRPMI培地に加え、それぞれの試薬について3つの10倍段階希釈液を調製した。その後、これらの試薬を96ウェルのU字底プレートに50μl/ウェルで加えて示した最終濃度にした。
51Crで標識したBJAB細胞をプレートに50μl/ウェル(2×10
4個の細胞/ウェル)で加えた。その後、PBMCをプレートに100μl/ウェル(5×10
5個の細胞/ウェル)で加えて、25:1のエフェクター(PBMC):標的(BJAB)の最終比とした。エフェクターおよび標的を培地単独に加えてバックグラウンド死滅を測定した。
51Crで標識した細胞を培地単独に加えて
51Crの自発的放出を測定し、5%のNP40(カタログ番号28324、Pierce、イリノイ州Rockford)を含む培地に加えて
51Crの最大放出を測定した。反応は96ウェルプレートの3連のウェルで設定した。グラフに示すように、多特異的結合(融合)タンパク質をウェルに0.01μg/ml〜10μg/mlの範囲の最終濃度で加えた。それぞれの一連のデータは、記載した力価範囲の様々な多特異的結合(融合)タンパク質または対応する単一特異性SMIPをプロットしている。反応を6時間、37℃、5%のCO
2中で進行させた後、収集および計数した。その後、それぞれのウェルからの25μlの上清をLumaプレート96(カタログ番号6006633、Perkin Elmer、マサチューセッツ州Boston)に移し、終夜室温で乾燥させた。放出されたCPMをPackard TopCounNXTで測定した。%比死滅は、(試料のcpm{3連の試料の平均}-cpm自発的放出)/(cpm最大放出-cpm自発的放出)×100の減算によって計算した。データはタンパク質濃度に対する%比死滅としてプロットした。データにより、多特異的結合(融合)タンパク質が、CD20および/またはCD37に対する単一特異性SMIPと同様に、標的抗原(または複数の標的抗原)を発現する細胞に対するADCC活性を媒介することができることが実証されたが、このエフェクター機能のレベルの増大は示されなかった。
【0340】
共培養実験
図16は、この種類の多特異的結合(融合)タンパク質の他の特性を見るために設計した実験の結果を示し、同じ細胞または細胞種上に発現される標的に対する2つの結合ドメインを有することが結合した2つの表面受容体を介したシグナル伝達/結合によって相乗効果を生じ得る。共培養実験は、上記ADCCアッセイについて記載したように単離したPBMCを用いて行った。これらのPBMCを、500μl/ウェルの最終体積中に2×10
6個の細胞/mlで培地に再懸濁させ、単独で培養するか、または、CD20、CD37、CD20+CD37に対する単一特異性SMIP、もしくはH7リンカーを用いる多特異的結合(融合)タンパク質[2H7-sss-IgG-H7-G28-1 HL]と共にインキュベーションした。試験試薬のそれぞれを20μg/mlの最終濃度で加えた。24時間の培養後、培養物中のB細胞の%に実際の差異は見られなかった。しかし、細胞をフローサイトメトリーに供した際、多特異的結合(融合)タンパク質を含む培養物ではFWDX90染色パターンで細胞の凝集が見られ、これは、2つの標的抗原を発現しているB細胞がホモタイプ接着に関与していることを示している。72時間の培養後、多特異的結合(融合)タンパク質は存在するB細胞のほぼすべてに死をもたらした。また、2つの単一特異性SMIPの組合せは、B細胞の割合を劇的に低下させたが、多特異的結合分子で見られるレベルは低下させなかった。これらのデータは、CD20およびCD37の両方の結合ドメインを同じ多特異性分子上に設けることにより、B細胞間のホモタイプ接着がもたらされ、また、同じ細胞上のCD20およびCD37抗原両方の結合ももたらされ得ることを、示唆している。理論に束縛されることを望まないが、標的細胞の排除における相乗効果は、(1)同じ細胞種上の結合ドメイン1および2を介した結合、ならびに/または(2)死滅の遅延をもたらす、多価結合分子のエフェクター機能ドメイン(定常部分領域)とPBMC培養物中の単球もしくは他の細胞種との相互作用が原因であり得る。この死滅効果の動力学は迅速ではなく、達成するまでに24時間より長くかかり、このことは、これが、効果が観察される前にサイトカインまたは他の分子の産生を要する二次効果であり得ることを示している。
【0341】
アポトーシスアッセイ
図17は、[2H7-sss-hIgG-H7-G28-1 HL]多特異性の多価結合(融合)タンパク質または単一特異性CD20および/もしくはCD37 SMIPのどちらかを、単独でまたは互いに組み合わせて用いた、B細胞株の処理後のアポトーシスの誘導を調査するために設計した実験の結果を示す。Ramos細胞(パネルA;ATCC CRL-1596号)およびDaudi細胞(パネルB;ATCC CCL-213号)を、終夜(24時間)、37℃、5%のCO
2で、10%のFBSを含むイスコフ(Gibco)完全培地中で、3×10
5個の細胞/mlおよび5、10、または20μg/mlの融合タンパク質を用いてインキュベーションした。単一特異性SMIPとの組合せ実験では、使用したタンパク質は以下の濃度であった:TRU-015(CD20特異的SMIP)=10μg/mlおよび5μg/mlのG28-1 LH(CD37特異的SMIP)。あるいは、TRU-015=20μg/mlを10μg/mlのG28-1 LHと組み合わせた。その後、BD Pharmingenアポトーシス検出キットIカタログ番号556547)を用いて、細胞をアネキシンV-FITCおよびヨウ化プロピジウムで染色し、キットの指示書に従って処理した。細胞を穏やかにボルテックスし、暗所、室温で15分間インキュベーションし、400μlの結合緩衝液で希釈した後に分析した。試料は、Cell Questソフトウェア(Becton Dickinson)を用いてFACsCalibur(Becton Dickinson)装置上のフローサイトメトリーによって分析した。データは、アネキシンV/ヨウ化プロピジウム陽性細胞の割合を処理の種類に対してプロットする柱状グラフとして表す。明らかに、多特異的結合(融合)タンパク質は、どちらの細胞株においても、単一特異性の試薬を一緒に使用した場合でもそれより顕著に高いレベルのアポトーシス死を誘発することができる。この増加した機能活性は、標的細胞上のBD1およびBD2(CD20およびCD37に特異的)受容体の配位結合の相互作用を反映している。
【実施例9】
【0342】
2H7-hIgG-G19-4多特異的結合(融合)タンパク質の結合および機能の特性
本実施例は、2H7-hIgG-G19-4多特異性融合タンパク質の結合および機能の特性を記載する。これらの分子の構築は実施例7に記載してある。発現および精製は以前の実施例に記載したとおりである。
【0343】
結合実験は、CD3結合を測定するために使用した標的細胞がその表面上にCD3を発現するJurkat細胞であったこと以外は以前の分子で記載したように行った。20から0.05μg/mlまで段階希釈した精製タンパク質を用いてCD20-CD3多特異性分子とJurkat細胞との結合で得られた結合曲線を示す、
図18の上のグラフを参照されたい。G19-4特異性のHLの方向は、LHの方向よりもCD3抗原と良好に結合すると考えられる。下のパネルは、CD20を認識する結合ドメインであるBD1で得られた結合曲線を示す。すべての分子が良好に、かつCD20に対する単一特異性SMIPとほぼ同等のレベルで結合する。
【0344】
ADCCアッセイ
図19に表すデータには、以前の実施例に記載のようにADCCアッセイを行った。この場合、融合タンパク質は、すべて2H7-hIgG-G19-4変異体または単一特異性SMIP(2H7、CD20に特異的)もしくは抗体(G19-4、CD3に特異的)の組合せであった。さらに、
図19の下のパネルに表すデータには、MACS(Miltenyi Biotec、カリフォルニア州Auburn)カラム分離装置およびNK細胞に特異的なCD16磁気マイクロビーズ(カタログ番号:130-045-701)を用いた磁気ビーズ枯渇を用いることによって、使用前にNK細胞をPBMCから枯渇させた。2つのパネルに表したデータは、NK細胞が枯渇しているか、または全PBMCをアッセイで使用するかにかかわらず、すべてのCD20-hIgG-CD3多特異性分子がADCCを媒介することを実証している。TRU015またはG19-4およびTRU015の組合せでは、NK細胞を含む培養物のみがADCCを媒介することができた。G19-4は、CD3を発現しないBJAB標的に対するどちらのアッセイでもうまく働かなかったが、示した最初のアッセイで、G19-4がNK T細胞を発現するCD3と結合してこれらの細胞を活性化させた可能性もある。多特異的結合(融合)タンパク質について下のパネルで観察される死滅は、おそらく、CD20抗原を発現しているBJAB標的に対するCD3の結合による、T細胞集団における細胞傷害性の活性化により媒介されている。この死滅活性は、使用した濃度範囲にわたって分子の用量に比較的非感応性であると考えられ、0.01μg/mlの濃度でさえも、試験した他の分子とは顕著に異なっていた。
【実施例10】
【0345】
多価結合分子
他の実施形態には、免疫グロブリンに由来するリンカードメインが含まれる。より具体的には、これらのリンカーの配列の供給源は、免疫グロブリンスーパーファミリーの他のメンバーのV様ドメイン間またはVおよびC様ドメインの間に存在する領域を比較することによって得られた配列である。これらの配列は通常、細胞表面受容体の細胞外ドメインの一部として発現されるので、これらは、タンパク質分解的切断に対してより安定であると予測され、また、免疫原性でないはずである。多価結合(融合)タンパク質のリンカーの役割において有用であると予測されない1つの配列の種類は、-Igスーパーファミリーの表面発現メンバー上に発現されるが、C様ドメインと膜貫通ドメインとの間の介在領域に存在する種類の配列である。これらの分子の多くは可溶形で観察され、これらの介在領域の細胞膜近くで切断されており、これは、この配列が分子の残りの部分よりも切断されやすいことを示している。
【0346】
上述のリンカーを、本明細書中に記載のように、単一特異性SMIP内、結合ドメインとエフェクター機能ドメインとの間、または多価結合(融合)タンパク質中の2つの可能なリンカー位置のうちの1つのいずれかに挿入する。
【0347】
本出願中に開示されている配列の完全なリストを添付し、これはその全体が本明細書中に参照により組み込まれている。特定のポリヌクレオチドおよびポリペプチドの様々な領域またはドメインの配列を示す色分けは、本明細書中に開示する任意の分子の配列中の対応する領域またはドメインの同定に有用である。
【実施例11】
【0348】
B細胞を標的とするスコーピオン候補のスクリーニングマトリックス
導入
標的集団に対する有用かつ強力な多価結合分子またはスコーピオンを与える可能性が最も高い、対のモノクローナル抗体結合ドメインの組合せを同定する手段として、B細胞抗原に対する一連のモノクローナル抗体を、様々な非ホジキンリンパ腫を代表するB細胞株に対する組合せマトリックス中で試験した。対象となる細胞と結合することが知られているまたは予測されるすべての考えられる抗体ペアの比較について確実にアッセイするために、抗体の二次元マトリックスを用いて、所定の細胞種を用いた研究の設計を指導し得る。そのクラスター指定(CD)によって知られる数々のB細胞抗原に対するモノクローナル抗体を左列に記録する。これらの抗体の一部(それが特異的に結合する抗原(または複数の抗原)によって指定する)、すなわち、CD19、CD20、CD21、CD22、CD23、CD30、CD37、CD40、CD70、CD72、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD86、およびCL II(MHCクラスII)を、単独でまたはこのモノクローナル抗体セットの他のメンバーと組み合わせて、抗原陽性標的細胞と共にインキュベーションした。これらの抗体の可変ドメインは、多価結合分子の例示的な実施形態における結合ドメインとして企図される。当該技術分野の知識およびルーチン手順を用いて、当業者は適切な抗体配列(核酸コード配列およびアミノ酸配列)を、例えば公的に利用可能なデータベース中で同定して、適切な抗体またはその断片を作製し(例えば、ハイブリダイゼーションに基づいたクローニング、PCR、ペプチド合成など)、そのような化合物を用いて多価結合分子を構築することができる。本明細書中に記載のように結合ドメインが得られる例示的な抗体の供給源を表6に提供する。典型的には、抗体鎖のCDR領域を実現するクローニングまたは合成戦略を用いるが、任意の抗体、標的抗原と特異的に結合する能力を保持するその断片またはその誘導体が企図される。
【0349】
より詳細に記載すると、ハイブリドーマから抗体の重鎖および/または軽鎖可変領域をクローニングすることは、当該技術分野で標準的である。従来のクローニング技術を用いて目的の可変領域を得るために、その可変領域の配列が知られている必要はない。例えばGilliland他、Tissue Antigens 47(1):1-20(1996)を参照されたい。マウスまたはヒト白血球抗原を認識する可変領域を含む単鎖ポリペプチドを調製するために、RNAをハイブリドーマ細胞から単離して2〜3週間以内に機能的タンパク質を与える、迅速クローニングおよび発現の方法が発明された。可変領域を、第1鎖のcDNAのポリGテイル付け、続いて定常領域の配列に特異的なフォワードポリCアンカープライマーおよびリバースプライマーを用いたアンカーPCTによってクローニングした。どちらのプライマーも、pUC19内に挿入するためのフランキング制限エンドヌクレアーゼ部位を含む。マウス、ハムスターおよびラットのV
LおよびV
H遺伝子を単離するためのPCRプライマーのセットを作製した。特定のV
LおよびV
Hペアのコンセンサス配列の決定に続いて、V
LおよびV
H遺伝子を、介在ペプチドリンカーをコードしている(典型的には(Gly
4Ser)
3をコードしている)DNAによって連結させ、V
L-リンカー-V
H遺伝子カセットをpCDM8哺乳動物発現ベクター内に移行した。構築物をCOS細胞内にトランスフェクションし、sFvを馴化培養培地の上清から回収した。この方法を、ヒトCD2、CD3、CD4、CD8、CD28、CD40、CD45ならびにマウスCD3およびgp39に対する機能的sFvを、マウス、ラット、またはハムスター抗体を産生するハイブリドーマから産生するために使用し、成功した。最初に、ヤギ抗ヒトIgG試薬またはプロテインAを用いた迅速な特徴づけおよび精製を容易にするために、sFvを、ヒトIgG1のヒンジ-C
H2-C
H3ドメインを有する融合タンパク質として発現させた。活性sFvは、小ペプチド、例えばタグを有する形態、またはテイルなしの形態で発現させることもできる。CD3(G19-4)sFvテイルなしの形態の発現により、細胞シグナル伝達活性の増加が実証され、sFvが受容体を活性化する潜在性を有することが明らかとなった。
【0350】
あるいは、モノクローナル抗体の可変ドメインの一次アミノ酸配列の同定は、直接、例えば、抗体の制限タンパク質分解、続いて例えばエドマン分解方法を用いたN末端ペプチド配列決定によって、または断片化質量分析によって達成することができる。N末端配列決定方法は当該技術分野で周知である。一次アミノ酸配列の決定に続いて、可変ドメイン、この配列をコードしているcDNAを合成核酸合成方法(例えばPCR)によってアセンブルし、続いてscFvの作製を行う。必要なまたは好ましい核酸操作方法は当該技術分野で標準的である。
【0351】
上述の抗体の断片、誘導体および類似体も、適切な結合ドメインとして企図される。さらに、上述のヒンジ領域のうちの任意のものを含む定常部分領域を含めた、上述の定常部分領域のうちの任意のものが企図される。さらに、本実施例に記載した多価単鎖結合分子には、本明細書中に記載したリンカーのうちの任意のものまたはそのすべてが含まれ得る。
【0352】
モノクローナル抗体を最初に細胞に曝露し、その後、ヤギ抗マウスの第2ステップの抗体を用いて架橋結合させた(第2ステップ)。任意選択で、例えば抗体を溶液中で架橋結合させることによって、細胞を抗体と接触させる前に抗体を架橋結合させることができる。別の代替方法として、モノクローナル抗体を、プラスチックに吸着させたヤギ抗マウス抗体によって組織培養ウェルのプラスチック底上に吸着させるまたはこのプラスチック上に「捕捉」させることで、固相中に架橋結合させ、続いて、プレートに基づいたアッセイで、例えば増殖停止または細胞生存度を評価することができる。
【0353】
細胞膜のサイトゾル側からその形質膜の外部細胞表面へのホスファチジルセリンの逆転は、アポトーシス促進事象の認められている指標である。アポトーシスの進行は細胞膜の完全性の損失をもたらし、これは、細胞不浸透性のインターカレーター色素、例えばヨウ化プロピジウム(PI)の侵入によって検出することができる。単独でまたは組み合わせたモノクローナル抗体への細胞の曝露に続いて、二重のアポトーシス促進アッセイを行い、処理した細胞集団を、細胞表面陽性アネキシンV(ANN)および/またはPIの封入についてスコア付けした。
【0354】
アネキシンV結合/ヨウ化プロピジウム内部移行分析
細胞および細胞培養条件。実験は、発現された標的に対する2つの異なるモノクローナル抗体の架橋結合の、4つのヒトB細胞株に対する効果を検査するために行った。細胞株に対する効果は、曝露後にANNおよび/またはPI染色のレベルを決定することによって測定した。ヒトB細胞株、BJAB、Ramos(ATCC#CRL-1596)、Daudi(ATCC#CCL-213)、およびDHL-4(DSMZ#ACC495)を、24時間、37℃、5%のCO
2、10%のFBSを含むイスコフ(Gibco)完全培地中でインキュベーションした。細胞を2〜8×10
5個の細胞/mlの密度で維持し、研究前の生存度は典型的には>95%であった。
【0355】
実験は、2×10
5個の細胞/mlの細胞密度、およびB細胞抗原に対するマトリックスからの2μg/mlのそれぞれの比較モノクローナル抗体で実施した。それぞれの比較モノクローナル抗体は、単独で2μg/ml、またはそれぞれのマトリックスモノクローナル抗体と組み合わせた場合は個々にやはり2μg/mlを加えた。表6に、これらの実験で使用したカタログ番号およびモノクローナル抗体の供給源を記載する。これらのモノクローナル抗体を溶液中で架橋結合させるために、ヤギ抗マウスIgG(Jackson Labs カタログ番号115-001-008)を、2:1(ヤギ抗マウス:それぞれのモノクローナル抗体)の濃度比でそれぞれのウェルに加えた。例えば、1つだけのモノクローナル抗体を2μg/mlで有するウェルでは、ヤギ抗マウスを4μg/mlの最終濃度まで加え、比較モノクローナル抗体(2μg/ml)およびマトリックスからのモノクローナル抗体(2μg/ml)をどちらも含むウェルでは、8μg/mlのヤギ抗マウス抗体をウェルに加えた。
【0356】
37℃、5%のCO
2中で24時間インキュベーションした後、BD PharmingenアネキシンV-FITCアポトーシス検出キットI(#556547)を用いて、細胞をアネキシンV-FITCおよびヨウ化プロピジウムで染色した。手短に述べると、細胞を冷PBSで2回洗浄し、「結合緩衝液」に1×10
6個の細胞/mlで再懸濁させた。その後、結合緩衝液中の100μlの細胞を5μlのアネキシンV-FITCおよび5μlのヨウ化プロピジウムで染色した。細胞を穏やかに混合し、暗所、室温で15分間インキュベーションした。その後、400μlの結合緩衝液をそれぞれの試料に加えた。その後、試料をFACsCalibur(Becton Dickinson)で読み取り、Cell Questソフトウェア(Becton Dickinson)で分析した。
【表9】
【0357】
架橋結合抗体(例えばヤギ抗マウス抗体)をモノクローナル抗体A単独に加えることにより細胞感受性の増加がもたらされ、同じ抗原を認識する2つの結合ドメインを用いて構築した多価結合分子またはスコーピオンが、細胞感受性の増加に有効であろうことが示唆された。理論に束縛されることを望まないが、この増加した感受性は、抗原クラスタリングおよび変更されたシグナル伝達が原因である可能性がある。例えば、TNF受容体ファミリーメンバーは、シグナル伝達にホモ多量体化を必要とし、分子のそれぞれの末端上に等しい結合ドメインを有するスコーピオンは、この相互作用を促進することができる。CD40によるクラスタリングおよび続くシグナル伝達が、B細胞株におけるこの現象の例である。
【0358】
図20、21および22に示すように、様々な抗原に対するモノクローナル抗体Aおよびモノクローナル抗体Bを加えることは、処理した細胞で相加的または相加的よりも高い何らかの組合せ(すなわち相乗的)アポトーシス促進効果を生じる。例えば、
図20では、抗CD20と他のB細胞抗原に対するモノクローナル抗体との組合せのすべてにおいて、様々な度合の増加した細胞感受性がもたらされた。しかし、抗CD20と組み合わせた抗CD19または抗CD20と組み合わせた抗CD21などの一部の組合せでは、相加的なアポトーシス促進効果よりも高い効果が生じ、これらの結合ドメインからなる多価結合分子またはスコーピオンが形質転換させたB細胞の排除に特に有効であるはずであることが示された。
図20を参照して、抗CD20抗体単独に曝露した場合のアポトーシス促進活性を示す細胞の割合は約33%であり(「20」に対応する縦縞のバー、すなわち抗CD20抗体)、抗CD19抗体に曝露した際のアポトーシス促進細胞の割合は約12%であり、(
図20の「19」に対応する縦縞のバー、すなわち抗CD19抗体)、抗CD20および抗CD19抗体の両方に曝露した際のアポトーシス促進細胞の割合は約73%であった(
図20の「19」に対応する横縞のバー)。両方の抗体に曝露した後のアポトーシス促進細胞の73%は、それぞれの個々の抗体に起因する効果の和の45%(33%+12%)よりも顕著に高く、抗CD19および抗CD20抗体のペアに起因する相乗効果が示される。有用な多価結合分子には、2つの結合ドメインがB細胞の挙動に対する相加効果をもたらす分子、および2つの結合ドメインがB細胞の挙動に対する相乗効果をもたらす多価結合分子が含まれる。一部の実施形態では、1つの結合ドメインは、細胞の挙動の測定したパラメータに対して検出可能な効果を有さず、ペアにした結合ドメインのそれぞれが、多特異性の多価結合分子などの多価結合分子の活性の明確に異なる側面に寄与する(例えば、結合ドメインAが標的細胞に結合してアポトーシスを促進する一方で、結合ドメインBが細胞毒素などの可溶性の治療剤と結合する)。多価結合分子の設計次第では、標的細胞に対する2つの結合ドメインの合わせた効果の種類(相加的、相乗的、または阻害性)の問題は、結合ドメインの1つが非細胞性(例えば可溶性)結合パートナーに特異的であるか、または異なる細胞種上の細胞関連結合パートナーに特異的であるために無関係であり得る。
【0359】
図20〜23に示す相加的、相乗的または阻害効果を生じる例示的な結合ドメインのペアは、表7および8から明らかである。表7は、ANNおよび/またはPIについて陽性に染色された細胞の割合に関して、
図20〜23のそれぞれから抽出した定量的データを提供する。表8は、やはりANNおよび/またはPIについて陽性に染色された細胞の割合によって評価した、抗体の所定のペアの相互作用が相加的、相乗的、または阻害効果をもたらしたかどうかを決定するための基礎を提供する、表7のデータを用いた計算値を提供する。
【表10】
【表11】
【0360】
一部の実施形態では、2つの結合ドメインは、B細胞などの標的細胞の感作(または脱感作)において、阻害性、相加的または相乗的な様式で相互作用する。
図23は、抗CD22抗体を抗CD79b抗体または抗MHCクラスII(すなわち、抗CL II)抗体などのアポトーシス促進性の強いモノクローナル抗体と組み合わせたことから生じた保護的、または阻害性効果を示す。例えば、
図23および表7は、抗CD22抗体が単独で約10%以下の細胞にアポトーシス促進挙動を示すことを誘発し(
図23の「22」に対応する中実のバー)、抗CD79bが約26%のアポトーシス促進細胞を誘発する(
図23の「CD79b」に対応する中実のバー)ことを示す。しかし、合わせると、抗CD22および抗CD79bは約16%のアポトーシス促進細胞しか誘発しない(
図23の「79b」に対応する斜縞のバー)。したがって、合わせた抗体は16%のアポトーシス促進細胞を誘発し、これは、抗CD22(12%)および抗CD79b(26%)に起因する個々の効果の合計38%よりも低い。この手法を用いて、
図23および/または表7〜8の検査により、抗CD22抗体、および拡張して抗CD22結合ドメインを含む多特異性の多価結合分子は、以下の抗体(または対応する結合ドメイン)、すなわち、抗CD19、抗CD20、抗CD21、抗CD23、抗CD30、抗CD37、抗CD40、抗CD70、抗CD72、抗CD79a、抗CD79b、抗CD80、抗CD81、抗CD86および抗MHCクラスII抗体/結合ドメインのそれぞれとの別々の組合せで用いた場合、阻害された全体的な効果を生じることが明らかとなった。
【0361】
理論に束縛されることを望まないが、データを、抗CD22抗体、または抗CD22結合ドメインを含む多特異性の多価結合分子が、すぐ上に記載した抗体のうちの任意のものに対して保護する、またはその効果を軽減させることを示すと解釈できる。より一般的には、抗CD22結合ドメインを含む多特異性の多価結合分子は、CD19、CD20、CD21、CD23、CD30、CD37、CD40、CD70、CD72、CD79a、CD79b、CD80、CD81、CD86、およびMHCクラスII分子のうちの任意のものとの相互作用により生じる効果を阻害する。
図23および表8から、抗CD22抗体、および拡張して抗CD22結合ドメインを含む結合ドメインが、CD抗原などのB細胞表面マーカーを認識する任意の抗体/結合ドメインの活性の阻害剤もしくは軽減剤として機能すると見られる。多特異性の多価結合分子を含めた多価結合分子は、結合ドメインの活性を弱毒化または制御する必要がある様々な疾患の治療レジメンの洗練に有用であることが予測される。
【0362】
標的細胞と、典型的には細胞表面リガンドの結合によって相互作用する2つの結合ドメインの、阻害性、相加的または相乗的な組み合わせ効果に加えて、本明細書中に開示する実験結果は、所定の結合ドメインのペアが2つの結合ドメインの相対濃度に応じて異なる種類の組み合わせ効果をもたらし、それにより本発明の万能性が増加し得ることを確立している。例えば、表8は、より高い試験濃度の抗CD79bでは、抗CD21および抗CD79bは阻害性の様式で相互作用するが、これらの2つの抗体は、より低い試験濃度の抗CD79bでは相乗的な様式で相互作用することを開示している。一部の実施形態では、例えば単一のCD21結合ドメインおよび単一のCD79b結合ドメインを含む、単一の種類の多価結合分子、すなわち単一特異性の多価結合分子を使用するが、本発明は、阻害性、相加的または相乗的な効果などの所望の効果を達成するために相対結合ドメイン濃度の調節を可能にする多価結合分子の混合物を包含する。さらに、本発明の方法は、結合ドメインの相対濃度を調節または最適化するための、従来の抗体分子などの別の結合分子と組み合わせた単一の多価結合分子の使用を包含する。当業者は、標準の技術を用いて結合ドメインの有用な相対濃度を決定できるであろう(例えば、2つの希釈系列、すなわちそれぞれの結合ドメインに1つずつの実験マトリックスを設計することによる)。
【0363】
理論に束縛されることを望まないが、1つのリガンドの結合が、同じ細胞種上の第2のリガンドの表面出現を誘発もしくは変調するか、または、抗体などの特異的結合分子もしくは多価結合分子による結合に対するその感受性を変更するために、第2のリガンドの表面の状況を変更し得ることを、理解されたい。
【0364】
B細胞株および抗原を用いて本明細書中に例示したが、最適に有効な多価結合分子(すなわちスコーピオン)を決定するためのこれらの方法は、他の疾患の設定および他の正常細胞を含めた標的細胞集団、慢性刺激造血細胞、癌腫細胞および感染細胞を含めたその異常な細胞対応物に適用可能である。
【0365】
Ca
2+流動;チロシンリン酸調節;カスパーゼ活性化;NF-κB活性化;サイトカイン、成長因子もしくはケモカインの生成;または遺伝子発現(例えばレポーター系中で)などの他のシグナル伝達表現型も、モノクローナル抗体の組合せの直接効果をスクリーニングする方法における使用に受け入れられる。
【0366】
一次抗体を架橋結合させる二次抗体を使用し、多価結合分子またはスコーピオン構造を模倣する代替方法として、可溶性Fc受容体、プロテインA、C1qを含めた補体成分、マンノース結合レクチン、反応性剤もしくは架橋結合剤を含むビーズまたはマトリックス、二官能性化学架橋結合剤、およびプラスチックへの吸着を含めた、抗体のFc部分と結合する他の分子を、複数のモノクローナル抗体を同じまたは異なる抗原に対して架橋結合させるために使用できる。
【実施例12】
【0367】
エフェクター機能を有する多価結合タンパク質、またはスコーピオン、構造
スコーピオンポリペプチドの全体的な模式構造は、H2N-結合ドメイン1-スコーピオンリンカー-定常部分領域-結合ドメイン2である。また、スコーピオンは、結合ドメイン1のN末端側に配置されたヒンジ様領域、典型的には抗体ヒンジに由来するペプチド領域も有し得る。一部のスコーピオンの実施形態では、結合ドメイン1および結合ドメイン2は、それぞれ免疫グロブリン結合ドメインに由来する、例えばV
LおよびV
Hに由来する。V
LおよびV
Hは、典型的にはリンカーによって結合される。スコーピオンポリペプチドが、Ig結合ドメインの供給源と比較して典型的には5%未満、好ましくは1%未満の配列多様性をもたらすアミノ酸配列の差異によって、スコーピオン結合ドメインが由来するIg結合ドメインを含めた免疫グロブリン結合ドメインとは異なる結合ドメインを有し得ることを実証するために実験を実施した。
【0368】
しばしば、配列の差異は置換などの単一のアミノ酸変化をもたらす。そのようなアミノ酸変化の好ましい位置は、スコーピオン結合ドメインが由来するIg結合ドメインのIg相補性決定領域(CDR)に対して少なくとも80%、好ましくは85%または90%の配列同一性を示す、またはそれに対応する、スコーピオン結合ドメインの1つまたは複数の領域中である。CD20などの同じ標的と結合するペプチドのモデルを比較することによって、さらなる手引きが提供される。CD20に関して、エピトープマッピングにより、CD20と結合する2H7抗体がCD20のAla-Asn-Pro-Ser(ANPS)モチーフを認識することが明らかとなり、CD20結合スコーピオンもこのモチーフを認識することが予測される。ANPSモチーフがIgのCDRに対応するスコーピオン結合ドメイン領域から形成されるポケットに深く埋没することをもたらすアミノ酸配列の変化は、CD20の機能的結合剤であることが予測される。また、モデリング研究により、CDR3(V
L)、CDR1-3(V
H)に対応するスコーピオン領域がCD20と接触することが明らかとなり、これらの接触を維持または促進する変化は、CD20と結合するスコーピオンを与えることが予測される。
【0369】
スコーピオンとその標的との相互作用を促進することに加えて、IgのV
LおよびV
Hドメインに対応するスコーピオン結合ドメイン領域間の相互作用を促進する、スコーピオン結合ドメインの配列の変化(同族Ig結合ドメイン配列に対して)が企図される。例えば、V
Lに対応するCD20結合スコーピオン領域では、配列SYIVを、Val(V33)をHisなどのアミノ酸で置換することによって変更してよく、配列SYIHが生じる。この変化は、V
LおよびV
Hドメインに対応するスコーピオン領域間の相互作用を改善することが予測される。さらに、V
H-CDR3に対応するスコーピオン領域のN末端に残基を付加することで、そのスコーピオン領域の方向が変更され、これは、V
H-CDR3のN末端SerがCD20と接触するので、その結合特性に影響を与える可能性が高いことが予測される。ルーチンアッセイにより、結合特性に望ましい変化を生じる方向が明らかとなる。また、V
H-CDR2および/またはV
H-CDR3に対応するスコーピオン領域中の突然変異により、CD20などの標的との潜在的な新しい接触が生じることも企図される。例えば、モデリング研究に基づいて、V
H-CDR3に対応する領域中のY105およびW106(配列NSYW中に見つかる)のどちらかの置換により、スコーピオンの結合特性が、改変された結合特性を有するスコーピオンを同定するためのルーチンアッセイに受け入れられる様式で変更されることが予測される。さらなる例として、配列CQQW中のTrp(W)などの、IgのVL-CDR3に対応するスコーピオン結合ドメインの配列中の変更が、結合に影響を与えることが予測される。典型的には、IgのCDRに対応するスコーピオン領域中の変更を、標的に対して増加した親和性示すスコーピオンについてスクリーニングする。
【0370】
ヒト化CD20 scFv結合ドメイン20-4のモデル構造、CD20細胞外ループ構造に関する公開情報(Du他、J Biol.Chem.282(20):15073-80(2007))、およびマウス2H7抗体によって認識されるCD20結合エピトープ(これはヒト化20-4 scFv結合ドメインのCDRの供給源であった)に基づいて、2Lm20-4×2Lm20-4スコーピオンのCDR領域中に、CD20に対するその結合の親和性を改善することを目的として、突然変異を導入した。第1に、20-4 CDRのコンホメーションに影響を与え、CD20細胞外ループに対するより効率的な結合を促進するために、突然変異を設計した。第2に、2Lm20-4×2Lm20-4スコーピオンとその標的との間で新しい分子間相互作用を提供するために、導入される変化を設計した。これらの突然変異には、VL CDR1 V33H(すなわち、VL領域中のCDR1の位置33でValからHisへの置換)、VL CDR3 W90Y、VH CDR2 D57E、VH CDR3の残基S99後のVの挿入、VH CDR3 Y101K、VH CDR3 N103G、VH CDR3 N104G、およびVH CDR3 Y105Dが含まれる。これらの突然変異の一部を組み合わせることで予測される相乗効果により、表9に示すように異なる突然変異を組み合わせて11個の突然変異体を設計した(突然変異によって導入した残基は太字および下線で示す)。
【表12】
【0371】
CD20×CD20スコーピオン(2Lm20-4×2Lm20-4)の結合ドメイン内に、PCR突然変異誘発によって、変更された配列領域をコードしているプライマーを用いて、突然変異を導入した。配列の確認後、対応する突然変異を有する2Lm20-4 scFv断片をコードしているDNA断片を、スコーピオンの定常部分領域のコード領域を含む従来の発現ベクター内にクローニングし、その結果、新しい型の2Lm20-4×2Lm20-4スコーピオンの完全DNA配列を含むポリヌクレオチドがもたらされた。CDR突然変異を有する2Lm20-4×2Lm20-4スコーピオンの変異体は、一過性COS細胞株中での発現によって産生し、プロテインAおよびサイズ排除(SEC)クロマトグラフィーによって精製した。2Lm20-4×2Lm20-4スコーピオン変異体の結合特性は、初代B細胞およびWIL2-S B-リンパ腫細胞株を用いたFACS分析によって評価した。
【0372】
また、CD20結合ドメインを最適化する類似の手法を用いて他の突然変異体も作製されている。TRU015と呼ばれるCD20 SMIPが突然変異体を作製するための基質として役割を果たし、そうでないと注記しない限りは、すべてのドメインはヒトドメインであった。以下の突然変異体が、有用かつ機能的なCD20結合ドメインを含むことが見出された。018008分子は、VLのCDR1の位置27でS(1文字のアミノ酸コード)からQへの置換、VHのCDR1の位置28でTからSへの置換およびVHのCDR3の位置102でVからLへの置換を含んでいた。IgG1ヒンジのCCCP配列に対応する以下の部分的スコーピオンリンカー配列を、突然変異したVLおよびVHと個別に合わせた:CSCS、SCCSおよびSCCP、スコーピオンのモジュール設計と矛盾しない。018009分子は、VLのCDR1の位置27でSからQへの置換、VHのCDR1の位置28でTからSへの置換、ならびにすべてVHのCDR3の位置96でVからSへの置換、位置102でVからLへの置換および位置95でVの欠失を含んでいた。018008で使用するスコーピオンリンカー中に見つかると上述した同じスコーピオンリンカー部分配列を、018009で使用した。018010分子は、すべてVLのCDR1の位置27でSからQへの置換、位置33でMからIへの置換および位置34でHからVへの置換、ならびにVHのCDR1の位置28でTからSへの置換およびVHのCDR3の位置102でVからLへの置換を含んでいた。CSCSおよびSCCS部分配列によって定義されるスコーピオンリンカーを018010で用いた。018011は、VLのCDR1およびVHのCDR1中に018010について記載したものと同じ突然変異、ならびにすべてVHのCDR3の位置95でVの欠失、位置96でVからSへの置換および位置102でVからLへの置換を含んでいた。CSCS、SCCSおよびSCCP部分配列によって定義されるスコーピオンリンカーを018011分子で用いた。018014 VLは、CDR1の28でTからSへの変化およびCDR3の102でVからLへの変化を含むヒトVHを有する突然変異していないマウスVLであった。また、018015も、CDR1の28でTからSへの変化ならびにCDR3の95でVの欠失、96でVからSへの置換、および102でVからLへの置換を含むヒトVHと共に突然変異していないマウスVLを含んでいた。2Lm5分子は、VLのCDR1の27でSからQ、VHのCDR1の27でYからFおよび30でTからS、ならびにすべてVHのCDR3の95でVの欠失、96でVからSおよび102でVからLを有していた。CSCS、SCCSおよびSCCPによって定義されるスコーピオンリンカーは、018014および018015のそれぞれで別々に使用した。2Lm5-1は、2Lm5-1はVHのCDR1に突然変異を有さず、CSSS部分配列によって定義されるスコーピオンリンカーのみを使用した以外は、2Lm5と同じであった。2Lm6-1は、2Lm5の突然変異ならびにVLのCDR3の92でSからTへの置換および93でFからSへの置換を有し、CSSS部分配列によって定義されるスコーピオンリンカーのみを使用した。2Lm16の突然変異は、2Lm5-1について上に記載したVHのCDR3の突然変異だけであった。部分配列CSCS、SCCS、およびSCCPによって定義されるスコーピオンリンカーを、2Lm16で別々に使用した。2Lm16-1では、VLのCDR1の27でSからQへ置換し、VLのCDR3の92でSからTへ置換および93でFからSへ置換し、VHのCDR3の95でVが欠失し、96でVからSへ置換、102でVからLへ置換し、CSSS部分配列によって定義されるスコーピオンリンカーのみを使用した。2Lm19-3では、すべてVLのCDR1の27でSからQへ置換、33でMからIへ置換、34でHからVへ置換し、また、2Lm16-1に記載したVHのCDR3の突然変異があった。部分配列CSCS、SCCS、およびSCCPによって定義されるスコーピオンリンカーを2Lm19-3で別々に使用した。2Lm20-4分子は、VLのCDR1の33でMからIおよび34でHからVと共に、2Lm16-1に記載したVHのCDR3の突然変異を含んでいた。2Lm5-1、2Lm6-1、2Lm16、2Lm16-1、2Lm19-3、および2Lm20-4では、VHのフレームワーク領域の位置11でLからSへの置換もあった。CSCS、SCCSおよびSCCP部分配列によって定義されるスコーピオンリンカーを2Lm20-4で別々に使用した。最後に、位置331でPからSへの置換が以下の突然変異体に存在していた:CSCSによって定義されるスコーピオンリンカーを有する018008、CSCSおよびSCCPによって定義されるスコーピオンリンカーのそれぞれを有する018009、CSCSによって定義されるスコーピオンリンカーを有する018010、SCCPによって定義されるスコーピオンリンカーを有する018011、CSCSによって定義されるスコーピオンリンカーを有する018014、CSCSによって定義されるスコーピオンリンカーを有する018015、CSCS、SCCS、およびSCCPのうちの任意のものによって定義されるスコーピオンリンカーを有する2Lm16、CSCSまたはSCCPによって定義されるスコーピオンリンカーを有する2Lm19-3、およびCSCSまたはSCCPによって定義されるスコーピオンリンカーを有する2Lm20-4。
【0373】
さらに、IgのV
LおよびV
Hに対応するスコーピオン結合ドメインの領域などの、結合ドメインの2つの領域を結合するリンカーの長さの変化が企図される。例えば、それが見つかるドメイン間リンカー中のC末端Aspの除去は、スコーピオンの結合特性に影響を与えると予測され、AspからGlyへの置換も同様である。
【0374】
また、Igのヒンジ領域と比較して長くなっており、アミノ酸残基がIgヒンジシステインに対応するスコーピオン中の任意のシステインのC末端側に付加され、スコーピオンシステインが鎖間ジスルフィド結合を形成することができるスコーピオンリンカー(定常部分領域のC末端側および結合ドメイン2のN末端側に介在)を有するスコーピオンも企図される。これらの特長を含むスコーピオンを構築し、以下に特徴づける。
【0375】
定常部分領域およびC末端側に配置した結合ドメイン2を共有結合させるスコーピオンリンカーの最適化によって、スコーピオンの発現、安定性および治療の効力を改善する努力がなされている。最適化研究に用いたプロトタイプスコーピオンは、IgG1のC
H2およびC
H3に由来する定常部分領域のN末端側に融合した抗CD20 scFV(結合ドメイン1)、ならびにその定常部分領域のC末端側に融合した第2の抗CD20 scFvを含んでいた。このスコーピオンは、免疫グロブリン分子同様、定常領域(または部分領域)を介して会合して、ジスルフィド結合によって連結されたペプチド鎖とホモ二量体複合体を形成すると予測される。そのCD20標的に対して高い親和性を有する安定した四価分子の高い発現レベルを得るために、定常部分領域と第2の結合ドメインとの間のスコーピオンリンカーは、以下の検討事項に適合していなければならない。第1に、2つのscFv断片(2つのスコーピオン単量体のそれぞれの上に1つのscFv断片)によって保有される相同結合ドメイン間の立体障害は、それぞれの結合ドメインの天然のコンホメーションの維持を容易にするために最小限にすべきである。第2に、結合ドメインの立体配置および方向は、ドメインの生産的な会合およびそれぞれの結合ドメインとその標的との高親和性結合を可能にするものであるべきである。第3に、スコーピオンリンカー自体が、比較的プロテアーゼ耐性を有し、非免疫原性であるべきである。
【0376】
例示的なCD20×CD20スコーピオン構築物S0129では、C
H3のC末端と第2の抗CD20 scFVドメインは、IgG1の天然ヒトヒンジ配列の断片に由来し、かつそれに対応するペプチドである2H7スコーピオンリンカーによって連結されていた。2H7スコーピオンリンカーは、スコーピオンの発現の改善および発現された分子の結合特性の改善を目的とした、コンピュータ支援モデリングを用いた設計の努力の基礎として役割を果たした。
【0377】
2H7スコーピオンリンカーを分析するために、二量体形のヒトIgG1ヒンジの三次元構造を、Insight IIソフトウェアを用いてモデリングした。V
H-V
Lの方向の抗CD20 scFVの結晶構造を、20-4結合ドメインの参照構造として選択した(RCSBタンパク質データバンク入力コード:1A14)。完全なIgG1では、ヒンジがC
H1ドメインのC末端とC
H2ドメインのN末端とを結合し、それぞれのドメインの立体配置は、ヒンジシステイン残基が対合してホモ二量体を形成できるようなものである。例示的なスコーピオン分子では、ヒンジに由来する2H7リンカーがIgG1のC
H3ドメインに由来するスコーピオンドメインのC末端とIgG1 V
H2ドメインに由来するスコーピオン結合ドメイン2のその部分のN末端とを結合している。V
H-V
L scFVの3Dモデリングした構造を用いて、2H7リンカーのC末端間の最適距離の予測は、3つの検討事項によって影響を受けた。第1に、ヒンジの安定性を維持しなければならず、安定性は二量体化、例えばホモ二量体化によって補助され、これは、ヒンジシステインが、2つの折り畳まれた結合ドメインの存在下で対合できなければならないことを意味する。第2に、2つの結合ドメイン、例えばscFVは、適切なタンパク質の折畳みを可能にするために、立体妨害なしに2H7リンカーのC末端を収容しなければならない。第3に、プロトタイプスコーピオンのそれぞれの結合ドメインは同じ細胞表面上の隣接受容体(CD20)に結合することができるので、それぞれの結合ドメインのCDRは、天然の抗体と同様に同じ方向を向くことができなければならない。これらの検討事項を考慮して、scFvの2つのN末端間の距離は約28Åであると予測される。二量体スコーピオン形態の理論上設計した2H7リンカーのC末端間の距離は、約16Åであると予測される。スコーピオンの性能を最適化するために必要であると予測される距離に適合するために、2H7リンカーのC末端で少なくとも3個のアミノ酸を伸長した。そのような伸長は、2H7リンカーシステイン残基間のジスルフィド結合の形成を可能にし、C末端の結合ドメイン2の適切な折畳みを可能にし、CDRの正しい方向を容易にすると予測される。さらに、完全なIgG1では、ヒンジと結合ドメインとの間にC
H1およびV
L1ドメインが存在することにより、2つの鎖によって保有される結合ドメイン間の距離はさらに増大し、同じ細胞表面上の隣接受容体の架橋結合にさらに有利に働くと予測される。上述の検討事項に鑑みて、様々な長さを有する一組のリンカーを設計した(表10)。免疫原性を最小限にするために、C
H2ドメインのN末端に存在する天然残基(Ala-Pro-Glu-LeuまたはAPEL)を用いて、スコーピオンリンカーのC末端への配列付加によって2H7スコーピオンリンカーを長くした。より長い構築物は、プロテアーゼ耐性かつ柔軟であることが知られている1つまたは複数の(Gly4Ser)リンカー単位を含んでいた。
【0378】
定常部分領域のC
H3ドメインとC末端scFv結合ドメインとの間に伸長したスコーピオンリンカーを含むCD20×CD20スコーピオン構築物を、PCR突然変異誘発を用いて構築し、従来の哺乳動物発現ベクター内にサブクローニングした。CD20×CD20スコーピオンの発現に対するリンカーの長さの効果は、COSもしくはHEK293細胞を用いた一過性発現実験における分泌されたタンパク質の収率を比較することによって、またはウェスタンブロット分析もしくは[35]Sで標識したメチオニン/システインを用いたパルス追跡研究による細胞中のタンパク質の合成および蓄積の分析によって、分析することができる。
【表13】
【0379】
グリコシル化したスコーピオンも企図され、これに関して、スコーピオンを発現する宿主細胞を炭水化物モディファイヤーの存在下で培養し得ることが企図され、これは、本明細書中で、タンパク質のN結合炭水化物成熟中に起こるものなど、ポリペプチドに連結した炭水化物の一部である糖の付加、除去、または修飾に関与する酵素の活性を阻害する、小さな有機化合物、好ましくは1000ダルトン未満の分子量のものと定義される。グリコシル化とは、小胞体(「コアグリコシル化」)およびゴルジ体(「末端グリコシル化」)中で起こる複雑なプロセスである。様々なグリコシダーゼおよび/またはマンノシダーゼ阻害剤が、ADCC活性の増加、Fc受容体結合の増加、およびグリコシル化パターンの変更の所望の効果のうちの1つまたは複数を提供する。例示的な阻害剤には、それだけには限定されないが、カスタノスペルミンおよびキフネンシンが含まれる。少なくとも1つのそのような阻害剤の存在下でスコーピオンを発現させる効果を以下の実施例に開示する。
【実施例13】
【0380】
スコーピオンのタンパク質発現レベルおよび特徴づけ
設計したタンパク質が実用的な利点を有する生成物をもたらすことを実証するために、スコーピオンのタンパク質発現レベルを決定し、発現されたタンパク質を特徴づけた。従来技術を用いて、単一特異性CD20×CD20スコーピオンおよび二重特異性CD20×CD37スコーピオンを培養中のCHO DG44細胞で発現させた。
【0381】
図34に示すように、様々なフィード添加物の存在下で培養したCHO DG44細胞におけるCD20×CD20スコーピオンS0129(2lm20-4×2lm20-4)のベースラインレベルの安定した発現が観察された。すべての培養培地は、スコーピオンをコードしているポリヌクレオチドのコピー数を維持する濃度である50nMのメトトレキサートを含んでいた。ポリヌクレオチドは、CHO DG44細胞中で発現させるための、コドン最適化していないスコーピオンタンパク質のコード領域を含んでいた。ポリヌクレオチドは、pD18ベクターを用いて細胞内に導入した。
図34から明らかなように、約7〜46μg/mlの発現レベルが得られた。
【0382】
二重特異性CD20×CD37スコーピオンをコードしているポリヌクレオチドの増幅後の発現レベルも決定した。pD18ベクターを用いてCD20×CD37スコーピオンのコード領域をクローニングし、プラスミドをCHO DG44細胞内に導入した。コードしているポリヌクレオチドの増幅は当該技術分野で知られているdhfr-メトトレキサート技術を用いて達成し、ここでは、MTXの漸増濃度を用いてジヒドロ葉酸還元酵素遺伝子(dhfr)の増加したコピー数を選択し、これにより密に連結した目的のポリヌクレオチドの同時増幅がもたらされる。
図35は、二重特異性CD20×CD37スコーピオンの約22〜118μg/mlの安定した発現レベルが典型的に観察されたことを示す。収率の可変性が増幅に用いたメトトレキサート濃度を含めた様々な条件下で見られたが、これらの変数は当業者による最適化を受け入れられる。本明細書中に記載の様々な他のスコーピオン分子もCHOおよび/またはCOS細胞における発現分析に供し、結果を以下の表11に提供する。これらの結果は、増幅技術の従来技術およびルーチン最適化を用いて顕著な収率のスコーピオンタンパク質を得ることができることを実証している。
【0383】
また、均一性の度合および発現されたタンパク質の完全性を評価するため、ならびに単量体ペプチドの分子量を確認するために、発現されたタンパク質をSDS-PAGE分析によっても特徴づけた。変性ポリアクリルアミドゲル(4〜20%のトリスグリシン)を還元および非還元的条件下で泳動した。
図36に表す結果は、還元的条件下で、予測された単量体の分子量の、2Lm20-4 SCC SMIPおよびS1000(CD20(2lm20-4)×CD20(2lm20-4)単一特異性スコーピオン。S0126)のそれぞれの単一のタンパク質バンドを表す。これらのデータは、SMIPおよびスコーピオンが完全な形態で精製を受け入れられることを確立している。非還元的条件下では、予測された大きさの単量体SMIPと矛盾しない微量のペプチドが見られ、大部分のタンパク質は二量体構造と矛盾しない単一の明確に定義されたバンド中に現れた。これらの非還元的条件下では、単一特異性スコーピオンタンパク質は、二量体構造と矛盾しない分子量の単一の明確に定義されたバンドを示した。SMIPおよびスコーピオンのどちらの二量体構造もその単量体構造と矛盾せず、そのそれぞれが、ジスルフィド結合の形成に参加することができる少なくとも1つのシステインを含むヒンジ様スコーピオンリンカーを含む。
【0384】
スコーピオンの発現および完全性に対するスコーピオンリンカーの効果も評価し、結果を表12に示す。この表は、単一特異性CD20×CD20(2Lm20-4×2Lm20-4)S0129スコーピオンおよびCD20×CD28 S0033スコーピオン(2H7sccpIgG1-H7-2e12)のスコーピオンリンカー変異体、単鎖分子としてのその完全性、ならびに親スコーピオンS0129またはS0033と比較したCOS細胞におけるその一過性発現レベルを、必要に応じてH7リンカー(100%と設定)を用いて記載する。表13は、CD20×CD20スコーピオン内に取り込まれたスコーピオンリンカー変異体の評価から生じるデータを、CD20×CD28スコーピオンの類似のデータと共に提供する。表13は、ジスルフィド結合の形成が可能な少なくとも1つのシステインを含むヒンジ様リンカーではないスコーピオンリンカーを含むS0129変異体の評価から生じるデータを提供し、これらの分子中のスコーピオンリンカーはII型C-レクチンストークに由来する。表13に提示するデータから、ヒンジ様スコーピオンリンカーは、一過性発現アッセイにおいて未改変の親スコーピオンリンカーよりも高いまたは低いレベルで発現されたスコーピオンと会合している場合があることが明らかである。さらに、リンカー変異体の一部は、未改変の親リンカーよりも高い、タンパク質分解的切断に対する耐性を示し、これは、発現されたタンパク質のすべてまたはほぼすべてにおける懸念である。表13のデータは、II型C-レクチンのストーク領域に由来するリンカーなどの非ヒンジ様リンカーが、ヒンジ様スコーピオンリンカーを含むスコーピオンからわずかに異なる結合特性を示すスコーピオン中に見つかることを示す。さらに、非ヒンジ様スコーピオンリンカーを含むスコーピオンは、ヒンジ様スコーピオンリンカーを有するスコーピオンに関連するADCCと等しいまたはそれを超えるエフェクター機能(ADCC)を示す。
【表14】
【表15】
【表16】
【0385】
前述の実施例で言及したように、炭水化物モディファイヤーを含む培養中のスコーピオンの発現による産生が企図される。例示的な実施形態では、カスタノスペルミン(分子量189.21)を、約200μM(約37.8μg/mLに対応)の最終濃度、または約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、もしくは150μMを超え、約300、275、250、225、200、175、150、125、100、75、60、もしくは50μg/mLまでの濃度範囲で培地に加える。例えば、10〜50、または50〜200、または50〜300、または100〜300、または150〜250μMの範囲が企図される。他の例示的な実施形態では、DMJ、例えばDMJ-HCl(分子量199.6)を、約200μM(約32.6μgのDMJ/mLに対応)の最終濃度、または約10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、もしくは150μMを超え、約300、275、250、225、200、175、150、125、100、75、60、もしくは50μg/mLまでの濃度範囲で培地に加える。例えば、10〜50、または50〜200、または50〜300、または100〜300、または150〜250μMの範囲が企図される。他の例示的な実施形態では、キフネンシン(分子量232.2)を、約10μM(約2.3μg/mLに対応)の最終濃度、または約0.5、1、2、3、4、5、6、7、8、9もしくは10μMを超え、約50、45、40、35、30、25、20、19、18、17、16、15、14、13、12、もしくは11μMまでの濃度範囲で培地に加える。例えば、1〜10、または1〜25、または1〜50、または5〜10、または5〜25、または5〜15μMの範囲が企図される。
【0386】
1つの実験では、単一特異性CD20×CD20スコーピオン(S0129)を、200μMのカスタノスペルミン(S0129 CS200)または10μM(過剰)のキフネンシン(S0129 KF10)中で培養した細胞で発現させ、発現されたスコーピオンによるWIL2S細胞の結合または染色を、
図42に示すように測定した。さらに、比較結合研究では、グリコシル化したS0129スコーピオンは、CD16(FCγRIII)と、グリコシル化していないS0129スコーピオンよりも約3倍良好に結合した。
【0387】
別の研究では、ヒト化CD20×CD20スコーピオン(S0129)によるBJAB B細胞のADCC媒介性の死滅を調査した。
図43に示す結果は、スコーピオンが、カスタノスペルミンまたはキフネンシンのどちらかの存在下で培養中の細胞中で発現させた場合、所定の濃度のスコーピオン曝露について、顕著により強力なADCC媒介性のBJAB B細胞の死をもたらしたことを確立している。
【実施例14】
【0388】
スコーピオンの結合
a. ドメインの間隔
二重特異性スコーピオンは、分子のN末端およびC末端の結合ドメインのペアを利用して、少なくとも2つの標的と同時に結合することができる。その際、細胞表面標的では、組成物が架橋結合を形成するか、または標的の物理的な同時接近を引き起こすことができる。当業者には、そのような架橋結合の際に多くの受容体系が活性化され、細胞の表現型の変化を引き起こすシグナル誘導がもたらされることが理解されよう。本明細書中に開示した組成物の設計は、部分的に、そのようなシグナル伝達を最大化し、生じた表現型を制御することを意図する。
【0389】
スコーピオン組成物のドメインのおおよその寸法、およびドメイン間角度の範囲に関するドメイン間柔軟性の予測は知られており、スコーピオンの構造を設計する際に考慮した。本明細書中に記載の結合ドメイン1および2(BD1およびBD2)にscFv結合ドメイン、IgG1 N末端ヒンジ(H1)、ならびにH7 PIMSリンカーを用いたスコーピオンでは、N末端の結合ドメインおよびC末端の結合ドメインは、最大で約150〜180Å離れており、最小で約20〜30Å離れていると考えられる。N末端の結合ドメイン同士は、最大で約90〜100Å離れており、最小で約10〜20Å離れていると考えられる(Deisenhofer他、1976、Hoppe-Seyler's Z.Physiol.Chem.Bd.357、S.435-445;Gregory他、1987、Mol.Immunol.24(8):821-9.;Poljak他、1973、Proc.Natl.Acad.Sci.、1973、70:3305-3310;Bongini他、2004、Proc.Natl.Acad.Sci.101:6466-6471;Kienberger他、2004、EMBO Reports、5:579-583、それぞれ本明細書中に参照により組み込まれる)。これらの寸法の選択は、部分的に、スコーピオンによって結合された受容体複合体において約50Å未満の受容体-受容体距離を可能にするために行い、これは、これより短い距離が、特定の受容体オリゴマーの最大シグナル伝達に最適であり得る一方で(Paar他、2002、J.Immunol.、169:856-864、本明細書中に参照により組み込まれる)、エフェクター機能に必要なF
C構造の組み込みを可能にするからである。
【0390】
スコーピオンのN末端およびC末端の結合ドメインは、標的結合を容易にし、結合した標的の一定範囲の幾何形状を許容するために、柔軟な構造であるように設計されている。また、当業者には、N末端またはC末端の結合ドメイン(それぞれBD1およびBD2)間ならびに分子の結合ドメインおよびF
Cドメイン間の柔軟性、ならびにBD1および/またはBD2によって結合される受容体間の最大および最小の距離を、例えばN末端ヒンジドメイン(H1)の選択によって、および構造的な類似性から、よりC末端側に位置するスコーピオンリンカードメイン(H2)によって、改変できることも理解されよう。例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgE、IgA2のヒンジドメイン、合成ヒンジおよびIgMのヒンジ様C
H2ドメインは、異なる度合の柔軟性、ならびに異なる長さを示す。当業者は、H1およびスコーピオンリンカー(H2)の最適な選択が、スコーピオンが相互作用するように設計されている受容体系(または複数の系)およびスコーピオン結合によって誘発される所望のシグナル伝達の表現型に依存することを理解するであろう。
【0391】
一部の実施形態では、スコーピオンは、IgG1ヒンジなどのIgヒンジに対応するヒンジ様リンカーであるスコーピオンリンカー(H2)を有する。これらの実施形態には、例えばH7配列または野生型IgG1ヒンジ配列と比較して、N末端が伸長した配列であるスコーピオンヒンジのアミノ酸配列を有するスコーピオンが含まれる。この種類の例示的なスコーピオンリンカーは、N末端がH
2N-APEL(x)
y-CO
2Hによって伸長されたH7ヒンジの配列を有し、xはGly
4Serリンカーの単位であり、yは0〜3の数字である。スコーピオンの安定性に対するスコーピオンリンカーの影響の例は、2つのスコーピオン、すなわち二重特異性CD20×CD28スコーピオンおよび単一特異性CD20×CD20スコーピオンを用いて行った研究である。これら2つのスコーピオンの設計のそれぞれにおいて、様々なスコーピオンリンカーを挿入した。特に、スコーピオンリンカーH16およびH17(主な差は、H17は、H7の配列がC末端に付加したH16の配列を有する)、ならびにスコーピオンリンカーH18および19(同様に、H7の配列をH18のC末端に付加してH19を作製した)。2つのスコーピオン主鎖(20×28および20×20)のそれぞれについて、4つの上述のスコーピオンリンカーのそれぞれを適切な位置に挿入した。これらの構築物の一過性発現がCOS細胞で得られ、培養上清中に見つかるスコーピオンタンパク質を、プロテインA/Gでコーティングしたウェル(Pierce SEIZE IPキット)で精製した。精製タンパク質をSDS-PAGEゲルで分画し、銀染色によって可視化した。
図44の検査により、スコーピオンリンカー中の追加のH7配列が、それぞれの種類のスコーピオンリンカーおよびそれぞれの種類のスコーピオンタンパク質に安定性を加えることが明らかとなった。言い換えれば、H16またはH18のどちらかのC末端にH7を付加することにより、スコーピオン分子の安定性が増し、この観察は、スコーピオンがCD20×CD28またはCD20×CD20であるかにかかわらず保たれた。
図45に示すように、標的結合に関して、CD20×CD20の構造を有するスコーピオンタンパク質は、親の単一特異性ヒト化CD20×CD20スコーピオンS0129と類似の結合特性を示した。
【0392】
しかし、前述の実施形態以外では、最大以下のシグナルを意図的に生じさせるために、結合した受容体が互いに約50Å以内に接近することを防ぐことが好ましい場合がある(Paar他、J.Immunol.、169:856-864)。そのような場合、上述のものよりも短く柔軟性の低いH1およびスコーピオンリンカー(H2)の選択が、適切であると予測される。
【0393】
間隔についての同じ検討が、ヒンジ様でないスコーピオンリンカーにも適用される。これらのスコーピオンリンカーは、C-レクチンのストーク領域のアミノ酸配列を有するペプチドクラスによって例示される。C-レクチンストーク領域を含む例示的なスコーピオンヒンジは、CD72ストーク領域、CD94ストーク領域、およびNKG2Aストーク領域に由来するスコーピオンヒンジである。そのようなスコーピオンヒンジを含むスコーピオンを構築し、発現、切断に対する感受性、および精製の受け易さに関して特徴づけた。データを表14に表す。
【表17】
【0394】
b. N末端およびC末端の結合ドメインの結合
N末端およびC末端ドメインはどちらも標的細胞の結合に関与する
CD20 SMIP(TRU015)、CD37 SMIP(SMIP016)、CD20とCD37 SMIPとの組合せ(TRU015+SMIP016)、およびCD20×CD37二重特異性スコーピオン(015×016)の標的細胞結合能力を、これらの分子のそれぞれが、対応する標的、すなわちCD37またはCD20のどちらかとの結合に特異的に競合する抗体の結合をブロックする能力を測定することによって、評価した。競合抗体は、必要に応じて、FITCで標識したモノクローナル抗CD37抗体またはPEで標識したモノクローナル抗CD20抗体であった。Ramos B細胞が標的を提供した。
【0395】
5%のマウス血清(#100-113、Gemini Bio-Products、カリフォルニア州West Sacramento)を含むPBS(染色培地)中に1.2×10
7個/mlのRamos B細胞を、96ウェルのV字底プレートに加えた(25μl/ウェル)。様々なSMIPおよびスコーピオンを染色培地で75μg/mlまで希釈し、
図38に示す濃度まで4倍希釈を行った。希釈した化合物をプレートした細胞および培地単独の対照ウェルに加えた。細胞を化合物と共に10分間インキュベーションし、その後、5μg/mlのFITC抗CD37抗体(#186-040、Ancell、ミネソタ州Bayport)および3μg/ml(ニート)のPE抗CD20抗体(#555623、BD Pharmingen、カリフォルニア州San Jose)を、25μlの染色培地中でウェルに一緒に加えた。細胞を氷上、暗所で45分間インキュベーションし、その後、PBSで2.5回洗浄した。細胞を1%のパラホルムアルデヒド(#19943 1LT、USB Corp、オハイオ州Cleveland)で固定し、その後、FACs Calibur(BD Biosciences、カリフォルニア州San Jose)にかけた。データをCell Questソフトウェア(BD Biosciences、カリフォルニア州San Jose)で分析した。
図38に示す結果は、SMIP、SMIPの組合せおよびCD20結合部位を含むスコーピオンがすべて、Ramos B細胞との結合に関してPE標識抗CD20抗体との競合に成功し(上のパネル)、SMIP、SMIPの組合せおよびCD37結合部位を含むスコーピオンがすべて、Ramos B細胞との結合に関してFITC標識抗CD37抗体との競合に成功した(下のパネル)ことを確立している。したがって、二重特異性CD20×CD37スコーピオンは、B細胞上の標的に対して作動可能なN末端およびC末端の結合部位を有することが示された。
【0396】
c. 細胞表面残留
B細胞の表面上の結合したSMIPおよびスコーピオン(単一特異性および二重特異性)の細胞表面残留の調査により、スコーピオンがSMIPよりも高い細胞表面残留を示したことが明らかとなった。染色培地(PBS中に2.5%のヤギ血清、2.5%のマウス血清)中の6×10
6個/ml(3×10
5個/ウェル)のRamos B細胞を96ウェルのV字底プレートに加えた。試験試薬は、500nMの最初のストックの5倍段階希釈液を作製することによって染色培地中に最終濃度の2倍で調製し、その後、1:1でRamos B細胞に加えた。さらに、培地対照もプレートした。細胞を暗所、氷上で45分間インキュベーションした。その後、プレートを冷PBSで3.5回洗浄した。その後、二次試薬のFITCヤギ抗ヒトIgG(#H10501、Caltag/Invitrogen、カリフォルニア州Carlsbad)を染色培地中に1:100の希釈率で加えた。細胞を30分間、暗所、氷上でインキュベーションした。その後、細胞を、冷PBSを用いて遠心分離することによって2.5回洗浄し、1%のパラホルムアルデヒド溶液(#19943 1LT、USB Corp、オハイオ州Cleveland)で固定し、その後、FACs Calibur(BD Biosciences、カリフォルニア州San Jose)にかけた。データをCellQuestソフトウェア(BD Biosciences、カリフォルニア州San Jose)で分析した。データ分析の結果を
図37に表し、これは、いくつかのSMIP、単一特異性CD20×CD20スコーピオンおよび二重特異性CD20×CD37スコーピオンと、Ramos B細胞上のその標的との結合を示す。
【0397】
2本のチューブのRamos B細胞(7×10
5個/ml)を、それぞれ10%のFBSを含むイスコフ培地中に25μg/mlの、調査する2つの化合物のそれぞれ、すなわち、ヒト化CD20(2Lm20-4)SMIPおよびヒト化CD20×CD20(2Lm20-4×2Lm20-4)スコーピオンと共に、30分間氷上でインキュベーションした。インキュベーション期間の終わりに、両チューブを遠心分離によって3回洗浄した。その後、1本のチューブの細胞を、96ウェルの平底プレートに、150μlのイスコフ培地中に2×10
5個の細胞/ウェルでプレートし、その後一方のプレートを37℃のインキュベーターに入れ、他方のプレートを氷上でインキュベーションした。それぞれのセットの2本目のチューブは、2%のマウス血清および1%のアジ化ナトリウムを含むを含む冷PBS(染色培地)に再懸濁させ、二次抗体、すなわちFITCヤギ抗ヒトIgG(#H10501、Caltag/Invitrogen、カリフォルニア州Carlsbad)ですぐに染色するために96ウェルのV字底プレートに2×10
5個の細胞/ウェルでプレートした。二次抗体を染色培地中に1:100の最終希釈率で加え、細胞を氷上、暗所で30分間染色した。その後、細胞を冷PBSで2.5回洗浄し、1%のパラホルムアルデヒド(#19943 1LT、USB Corp、オハイオ州Cleveland)で固定した。
【0398】
図39に指定した時点で、試料を96ウェルの平底プレートから収集し、37℃または氷上のどちらかでインキュベーションし、96ウェルのV字底プレートに入れた(2×10
5個の細胞/ウェル)。細胞を冷染色培地で1回洗浄し、再懸濁させ、二次抗体を染色培地中に1:100の最終希釈率で加えた。これらの細胞を、氷上、暗所で30分間インキュベーションした。その後、細胞を冷PBS中の遠心分離によって2.5回洗浄し、続いて1%のパラホルムアルデヒドで固定した。試料をFACS Calibur(BD Biosciences、カリフォルニア州San Jose)にかけ、データをCellQuestソフトウェア(BD Biosciences、カリフォルニア州San Jose)で分析した。
図39に表す結果は、B細胞の表面に対するSMIPおよびスコーピオンの結合が少なくとも6時間持続し、単一特異性hu CD20×CD20(2Lm20-4×2Lm20-4)スコーピオンはhu CD20(2Lm20-4)SMIPよりも高い度合で持続したことを実証している。
【実施例15】
【0399】
単一特異性および二重特異性スコーピオンによる直接細胞死滅
単一特異性および二重特異性スコーピオン分子の、リンパ腫細胞を直接死滅させる、すなわち、これらの細胞をADCCまたはCDCを関与せずに死滅させる能力を評価するために、実験を実施した。具体的には、Su-DHL-6およびDoHH2リンパ腫細胞株を、別々に、単一特異性スコーピオン、すなわち、CD20×CD20スコーピオンもしくはCD37×CD37スコーピオン、または二重特異性CD20×CD37スコーピオンに供した。
【0400】
従来技術を用いてSu-DHL-6、DoHH2、Rec-1、およびWSU-NHLリンパ腫細胞の培養物を確立し、その後、これらの培養物の一部を、個々に、単一特異性CD20 SMIP、単一特異性スコーピオン(CD20×CD20もしくはCD37×CD37)、または二重特異性スコーピオン(CD20×CD37もしくはCD19×CD37)に曝露した。SMIPまたはスコーピオンへの細胞の曝露は、架橋結合をもたらさなかった条件下で実施した。細胞は96時間分子と接触したままであり、その後、当該技術分野で知られているようにATPを検出することによって増殖を測定した。CD20 SMIPおよびCD20×CD20単一特異性スコーピオンに起因する細胞死滅は、
図24および表15で明らかである。CD37×CD37単一特異性スコーピオンの細胞死滅能力は
図25および表15から明らかであり、CD20×CD37二重特異性スコーピオンのリンパ腫細胞を死滅させる能力は
図26および表15から明らかであり、CD19×CD37二重特異性スコーピオンのリンパ腫細胞を死滅させる能力は
図27および表15から明らかである。データを3つの独立した実験からプールし、点数は平均±SEMを表す。表15のIC
50値は、
図24、25、および26の曲線から決定し、表15の説明で言及したように、未処理の培養物と比較して50%の阻害をもたらす濃度として定義される。図および表中のデータは、スコーピオンは、これらの細胞株を死滅させることにおいて、同じ結合ドメインを用いた遊離SMIPよりも10倍を超えて強力であることを実証している。
【表18】
【0401】
ヒト化CD20×CD20スコーピオンS0129を用いたさらなる実験をSu-DHL-4、Su-DHL-6、DoHH2、Rec-1、およびWSU-NHL細胞で実施した。結果を
図46および
図47に表す。これらの図中に提供するデータは、スコーピオンが様々な細胞株を直接死滅させる能力を有することを示すことで上述の知見を拡張する。
【0402】
上記の知見は他の単一特異性および二重特異性スコーピオンに拡張され、それぞれのスコーピオンがB細胞を直接死滅させる能力を実証した。DoHH2 B細胞をin vitroで単一特異性CD20×CD20スコーピオン、単一特異性CD37×CD37スコーピオン、または二重特異性CD20×CD37スコーピオンに曝露した。
図48に表す結果により、二重特異性スコーピオンが単一特異性スコーピオンとは異なる死滅曲線を有することが実証された。
【0403】
Su-DHL-6細胞を70nMのCD20×CD20スコーピオン(S0129)、CD20×CD37スコーピオン、またはCD37×CD37スコーピオンの存在下で培養することによっても、in vitro環境で直接B細胞死滅がもたらされた(
図49)。矛盾しないことに、二重特異性CD19×CD37スコーピオンまたはリツキサン(Rituxan)(登録商標)のどちらかに曝露したSu-DHL-6細胞で直接細胞死滅がもたらされ、
図50で明らかになったように、二重特異性スコーピオンはより低い用量で致死性を示した。
【0404】
直接細胞死滅の別の実証は、DHL-4細胞を、CD20を認識する4つの独立した単一特異性スコーピオンに曝露することによって提供された。CD20×CD20スコーピオンの2つの型を、2つの20-4結合ドメイン(20-4×20-4およびS0129)を取り込むように設計し、次の2つを、011および20-4結合ドメインのハイブリッドを取り込むように設計した。独立して構築および精製した形の2つのCD20×CD20スコーピオン設計(20-4×20-4およびS0129)ならびにハイブリッド(011×20-4および011×20-4ΔAsp)の4種すべてが、直接的な様式でDHL-4細胞を効率的に死滅させた。この研究では、DHL-4細胞をin vitroで、1μg/mlの示したタンパク質で24時間処理した。その後、細胞をそれぞれ細胞死の初期および後期マーカーであるアネキシンVおよびヨウ化プロピジウムで染色し、細胞集団をFACSによって定量した。
図51に表す結果は、黒いバーで示す染色の増加によって明らかなように、CD20×CD20構築物のそれぞれの直接死滅能力を確立している。さらに、結果は、ハイブリッド011×20-4タンパク質が、これらのスコーピオンのそれぞれが単一特異的にCD20を認識したにもかかわらず、20-4×20-4に基づいたスコーピオンと比較して直接細胞死滅のわずかな増加を示したことを実証している。別のセットの実験で、4つの独立したスコーピオン構築物の用量応答を、アネキシンVおよびヨウ化プロピジウムで染色した細胞集団のFACS分析によって決定した。
図52に示す結果は、独立したスコーピオン構築物のそれぞれを用いたDHL-4細胞の処理から生じる細胞死の用量応答性の増加を実証している。
【実施例16】
【0405】
スコーピオンによって媒介される付属機能(ADCCおよびCDC)
a. スコーピオン依存性細胞性細胞傷害
スコーピオンがBJAB Bリンパ腫細胞の死滅を媒介するかどうかを決定するための実験を実施した。BJAB Bリンパ腫細胞は、CD20および/またはCD37スコーピオンで死滅されることが観察された。
【0406】
最初に、1×10
7/mlのBJAB B細胞を、500μCi/mlの
51Crクロム酸ナトリウム(#CJS1、Amersham Biosciences、ニュージャージー州Piscataway)で2時間、37℃、10%のFBSを含むイスコフ培地中で標識した。その後、
51Crを添加したBJAB B細胞を10%のFBSを含むRPMI培地で3回洗浄し、4×10
5個/mlでRPMIに再懸濁させた。院内ドナーからの末梢血単核細胞(PBMC)をヘパリン化した全血から、リンパ球分離培地(#50494、MP Biomedicals、オハイオ州Aurora)上の遠心分離によって単離し、RPMI培地で2回洗浄し、5×10
6個/mlで10%のFBSを含むRPMIに再懸濁させた。試薬試料を最終濃度の4倍で10%のFBSを含むRPMI培地に加え、それぞれの試薬について3つの10倍段階希釈液を調製した。その後、これらの試薬を96ウェルのU字底プレートに50μl/ウェルで加えて最終濃度にした。その後、
51Crで標識したBJABをプレートに50μl/ウェル(2×10
4個/ウェル)で加えた。その後、PBMCをプレートに100μl/ウェル(5×10
5個/ウェル)で加えて、25:1のエフェクター(PBMC):標的(BJAB)の最終比とした。エフェクターおよび標的を培地単独に加えてバックグラウンド死滅を測定した。
51Crで標識したBJABを培地単独に加えて
51Crの自発的放出を測定し、5%のNP40(#28324、Pierce、イリノイ州Rockford)を含む培地に加えて
51Crの最大放出を測定した。プレートを6時間、37℃、5%CO
2中でインキュベーションした。その後、それぞれのウェルから50μl(25μlも適切である)の上清をLumaPlate-96(#6006633、Perkin Elmer、マサチューセッツ州Boston)に移し、終夜室温で乾燥させた。
【0407】
乾燥後、放射性放出をPackard TopCount-NXTでcpmとして定量した。試料の値は3連の試料の平均であった。以下の方程式を用いて%比死滅を計算した:%死滅=((試料-自発的放出)/(最大放出-自発的放出))×100。
図30のプロットは、BJAB B細胞が単一特異性スコーピオンCD20×CD20およびCD37×CD37によって死滅されたことを示している。CD20 SMIPおよびCD37 SMIPの組合せもBJAB B細胞を死滅させた。これらの結果は、スコーピオンがスコーピオン依存性細胞性細胞傷害を示すことを実証し、この機能は、スコーピオンの定常部分領域によって提供されてADCC活性を提供することが予測される。
【0408】
b. 補体依存性細胞傷害におけるスコーピオンの役割
実験はまた、スコーピオンが補体依存性細胞傷害(CDC)活性も有することを実証した。この実験は、以下に記載し
図31に示すように、Ramos B細胞をCD19および/またはCD37のSMIPおよびスコーピオンに曝露することを含んだ。
【0409】
実験は、5〜2.5×10
5個のRamos B細胞を96ウェルのV字底プレートのウェルに、50μlのイスコフ培地(FBSなし)に加えることで開始した。イスコフ中の試験化合物(またはイスコフ単独)を、示した最終濃度の2倍で、50μlでウェルに加えた。細胞および試薬を45分間、37℃でインキュベーションした。細胞を、FBSを含まないイスコフで2.5回洗浄し、96ウェルプレート中、示した濃度でヒト血清(#A113、Quidel、カリフォルニア州San Diego)を含むイスコフに再懸濁させた。その後、細胞を90分間、37℃でインキュベーションした。細胞を遠心分離によって洗浄し、125μlの冷PBSに再懸濁させた。その後、細胞をFACsクラスターチューブ(#4410、CoStar、ニューヨーク州Corning)に移し、5μg/mlのヨウ化プロピジウム(#P-16063、Molecular Probes、オレゴン州Eugene)を含む125μlのPBSを加えた。細胞をヨウ化プロピジウムと共に15分間、室温、暗所でインキュベーションし、その後、氷上に置き、定量し、CellQuestソフトウェア(Becton Dickinson)を用いてFACsCaliburで分析した。
図31に表す結果により、CD19 SMIPはCDC活性を示すがCD37 SMIPは示さず、2つのSMIPの組合せは、CD19 SMIP単独とほぼ同じレベルのCDC活性を示すことが確立された。しかし、CD19×CD37スコーピオンは、単独または組み合わせたSMIPのどちらよりも顕著に高いCDC活性を示し、これは、このスコーピオンの構造が他の分子設計よりも高いレベルの補体依存性細胞傷害を提供することを確立している。
【0410】
c. CD20×CD20単一特異性スコーピオンのADCC/CDC活性
3つの異なるCD20×CD20単一特異性スコーピオンを、適切な対照と共に、ADCCおよびCDC機能性について調査した。ADCCは従来技術を用いてアッセイし、結果を
図53に表す。図から、試験したCD20×CD20単一特異性スコーピオンのそれぞれに関連する、同一ではないが相当のADCC活性が明らかである。
【0411】
CDCを評価するために、Ramos B細胞試料(4×10
5個)を、CD20×CD20スコーピオンのそれぞれ(0、0.5、5、50および500nM)ならびに血清(10%)と共に3.5時間、37℃インキュベーションした。細胞死を7-AAD染色およびFACS分析によって評価した。結果を
図54に表し、これは、スコーピオンがある程度のCDC活性を示すことを明らかにしている。同様の実験で、Ramos B細胞試料(4×10
5個)を、CD20×CD20スコーピオンタンパク質(5、50、100nM)および血清(10%)と共に2時間、37℃インキュベーションした。細胞を2×洗浄し、抗ヒトC1q FITC抗体と共にインキュベーションした。結合したC1qをFACS分析によって評価し、結果を
図55に表す。これらの結果は、CD20×CD20単一特異性スコーピオンのそれぞれがある程度のCDC活性に関連しているが、CD20 SMIPと関連しているよりも活性が低いという、
図54に表した結果と矛盾しない。
【0412】
d. スコーピオンとFCγRIIIとの相互作用
ELISA研究により、スコーピオンは、標的細胞が存在しない場合に、増加したレベルでFcγRIII(CD16)低(低親和性アイソフォームまたは対立形質)と結合したことが示された。従来技術を用いて、ELISAプレートを最初に低親和性または高親和性CD16mIgGのどちらかでコーティングした。この固定化融合タンパク質がCD20 SMIPまたはCD20×CD20単一特異性スコーピオンのどちらかを捕捉する能力を評価した。結合したSMIPおよびスコーピオンをヤギ抗ヒトIgG(HRP)二次抗体で検出し、平均蛍光強度(MFI)を決定した。PBS単独(陰性対照)を単点として示す。結果を
図32A(CD16高親和性アイソフォーム融合体によって捕捉)および32B(CD16低親和性アイソフォーム融合体によって捕捉)に表した。
図32Aおよび32Bの検討から、CD20 SMIPおよびCD20×CD20単一特異性スコーピオンがどちらも、高親和性および低親和性CD16アイソフォーム融合体のどちらとの結合にも増加を示すことが明らかであり、CD20×CD20スコーピオンは、タンパク質濃度の増加に伴って低親和性アイソフォーム融合体との結合の劇的な増加を示した。
【0413】
標的細胞の存在下におけるスコーピオンとFcγRIIIアイソフォームとの結合も評価した。データは、標的細胞の存在下におけるスコーピオンとFcγRIII(CD16)低および高親和性アイソフォームまたは対立形質との結合が、タンパク質濃度の増加に伴って増加することを示している。
【0414】
実験の実施にあたって、CD20陽性標的細胞を、CD20 SMIPまたはCD20×CD20単一特異性スコーピオンに、SMIPまたはスコーピオンとCD20陽性標的細胞との結合を可能にする条件下で曝露した。続いて、SMIPまたはスコーピオンを保有する標的細胞を、マウスIgFcでタグ付けしたCD16高または低親和性アイソフォームのどちらかに曝露した。その後、マウスIgFcでタグ付けした固定化CD16を標識するために、標識したヤギ抗マウスFcを二次抗体として加えた。その後、細胞を、FACs Calibur(BD Biosciences、カリフォルニア州San Jose)上のフローサイトメトリーを用いて検出し、Cell Questソフトウェア(BD Biosciences、カリフォルニア州San Jose)で分析した。
図33に示すように、CD20 SMIPおよびCD20×CD20単一特異性スコーピオンのそれぞれの濃度の増加が、標的細胞の存在下でCD16アイソフォームとの結合の増加をもたらし、CD20×CD20スコーピオンの結合の増加は、CD20 SMIPで見られた結合の増加よりも顕著であった。
【実施例17】
【0415】
標的リンパ腫細胞に対するスコーピオンの細胞周期効果
スコーピオンの細胞周期効果は、リンパ腫細胞をSMIP、単一特異性スコーピオンおよび二重特異性スコーピオンに曝露することによって評価した。より具体的には、DoHH2リンパ腫細胞(0.5×10
6個)を、0.4nMのリツキシマブ、CD20×CD37スコーピオン、TRU-015(CD20 SMIP)+SMIP-016の組合せ(それぞれ0.2nM)、100nMのSMIP-016または100nMのCD37×CD37スコーピオンで24時間処理した。これらの濃度は、96時間の増殖阻害アッセイにおけるスコーピオンのIC50値よりも約10倍高い濃度を表す(
図24〜27参照)。培養物を20分間、37℃で、10μMのBrdU(ブロモデオキシウリジン)を用いて標識した。固定に続いて、細胞を抗BrdU-FITC抗体で染色し、ヨウ化プロピジウムで対比染色した。
図28の値は、2〜3回の独立した実験からの4つの複製培養物の平均+/-SDである。すべての試料データを同時に分析し、BrdUおよびPI取り込みドットプロットをどちらも用いて提示するためにプールした。プロットは、スコーピオン処理の主要な効果が、S期の細胞の枯渇、ならびにG
0/G
1区画の増加であることを実証している。
【実施例18】
【0416】
スコーピオンの生理的効果
a. ミトコンドリア電位
JC-1アッセイで明らかとなったように、CD20×CD20スコーピオンは、DHL4 B細胞においてミトコンドリア膜電位の損失を誘発した。JC-1とは、ミトコンドリアにおいて電位依存性蓄積を示す陽イオン性カルボシアニン色素である(Mitoprobe(登録商標)フローサイトメトリー用JC-1アッセイキット、Molecular Probes)。JC-1は形質膜よりもミトコンドリア膜に対して特異的であり、ミトコンドリア膜電位の変化を測定するために用いる。ミトコンドリア中の蓄積は、緑色(529nm)から赤色(590nm)への蛍光シフトによって示される。
【0417】
実験の実施にあたって、DHL-4 B細胞(5×10
5個の細胞/ml)を最初に24ウェルプレート中で培養し、24時間、1μg/mlのCD20×CD20スコーピオン、リツキシマブ、IgG対照抗体、または5μMのスタウロスポリンを用いて37℃、5%CO
2、標準の組織培養インキュベーター内で処理した。JC-1色素(10μl/ml、2μMの最終濃度)を加え、細胞をさらに30分間、37℃でインキュベーションした。細胞を遠心分離(5分間、1200rpm)によって収集し、1mlのPBSで洗浄、500μlのPBSに再懸濁させた。488nMの励起ならびに530nMおよび585nMの蛍光フィルターを用いて、フローサイトメトリー(FACSCalibur、BD)によって細胞を分析した。
図56に示す代表的な散布図では、赤色蛍光をY軸で測定し、緑色蛍光をX軸で測定した。ミトコンドリア膜の脱分極は、既知のミトコンドリア膜電位攪乱因子である陽性対照CCCP(カルボニルシアニド3-クロロフェニルヒドラゾン)で見られるように、赤色蛍光の減少として測定された。JC-1が膜電位の変化に応答性であったことを確認するために、DHL-4 B細胞を、2つの濃度のCCCP(50μMおよび250μM)で5分間、37℃、5%CO
2中で処理した。さらなる陽性対照は、アポトーシスを誘発するために広スペクトルキナーゼ阻害剤スタウロスポリンで処理した細胞であった。
図56に示す結果は10,000計数のドットプロットグラフであり、赤色蛍光をY軸にプロットし、緑色蛍光をX軸にプロットした。攪乱したミトコンドリア膜電位を有する細胞の割合の概要ヒストグラム(攪乱したMMP:黒いバー)を
図56に示す。これらの結果は、20-4×20-4スコーピオンまたは011×20-4スコーピオンのどちらかを用いた処理により、細胞死に関連するミトコンドリア膜電位の低下が生じたことを実証している。
【0418】
b. カルシウム流
スコーピオン分子を、細胞シグナル伝達経路に対する影響について、細胞シグナル伝達の一般的な特長であるCa
++流動をその指標として用いて分析した。SU-DHL-6リンパ腫細胞をカルシウム4色素で標識し、以下に示す試験分子で処理した。バックグラウンド蛍光を決定するために細胞を20秒間読み取り、その後、SMIP/スコーピオンを加え(
図28の最初の破線)、蛍光を600秒まで測定した。600秒で、8倍過剰の架橋結合したヤギ抗ヒトF(ab)'2を加え、蛍光をさらに300秒間測定した。
図28のパネル(A)は、未刺激の細胞(青線)と比較した、CD20 SMIPおよびCD37 SMIPの組合せで得られた結果(赤線)、またはCD20×CD37二重特異性スコーピオンで得られた結果(黒線)を示す。
図28のパネルBでは、細胞をCD20 SMIP単独で処理した結果(赤線)によりCa
++流動が生じ、これは、単一特異性CD20×CD20スコーピオン(黒線)によって生じたシグナルほど頑強でなかった。
図28のCa
++流動プロットは、等モル量のスコーピオンおよびSMIP/SMIPの組合せで処理した3連のウェルからの蛍光を表す。
【0419】
c. カスパーゼ3、7および9
アネキシンVおよびヨウ化プロピジウム染色の増加ならびにミトコンドリア膜電位の損失によって示されるCD20結合スコーピオンがB細胞を直接死滅させる能力は、B細胞におけるCD20結合スコーピオンのさらなるアポトーシス関連効果のさらなる調査を導いた。採用した手法は、CD20×CD20スコーピオンまたは適切な対照に曝露したDHL-4 B細胞でApo1アッセイを行うことであった。Apo1アッセイはカスパーゼ3および7の合成ペプチド基質に基づく。アッセイ構成要素はPromega(Apo-ONE(登録商標)均一カスパーゼ-3/7アッセイ)から入手可能である。標識したペプチドZ-DEVD-ローダミン110のカスパーゼ媒介性切断により、蛍光ローダミン110標識が放出され、これを485nmの励起および530nmの検出で測定する。
【0420】
実験では、100μlのDHL-4 B細胞(1×10
6個の細胞/ml)を黒色の96ウェルの平底組織培養プレートにプレートし、24または48時間、1μg/mlのCD20×CD20スコーピオン、リツキシマブ、IgG対照抗体、または5μMのスタウロスポリンで、37℃、5%CO
2中、標準の組織培養インキュベーター内で処理した。(スタウロスポリンは、様々な細胞種において古典的なアポトーシスの強力な誘導因子として当該技術分野で知られている、小分子の広スペクトルプロテインキナーゼ阻害剤である)。24または48時間後、100μlの100倍希釈基質をそれぞれのウェルに加え、1分間プレート振盪器で穏やかに混合し(300rpm)、室温で2時間インキュベーションした。蛍光は、485nMの励起および527nMの蛍光フィルターを用いて測定した(Fluroskan Ascent FL、Thermo Labsystems)。24時間および48時間(24時間はスタウロスポリンのみ)後の、3連の処理+/-標準偏差の平均蛍光強度を示すグラフを、
図57に表す。これらの結果は、CD20結合スコーピオンが、カスパーゼ3/7の活性化を含むアポトーシス経路によってB細胞を直接死滅させるのではないことを確立している。
【0421】
Apo-1アッセイで得られた結果は、活性カスパーゼを生じるプロカスパーゼ切断を検出する、または活性カスパーゼ3によって切断されることが知られているタンパク質であるPARP(ポリ(ADP-リボース)ポリメラーゼ)の切断を検出するように設計された、ウェスタンブロット分析によって確認された。DHL-4 B細胞をCD20結合スコーピオンまたは対照に4、24、または48時間曝露させ、細胞溶解液をSDS-PAGEで分画し、従来技術を用いてウェスタン分析でブロットした。
図58は、ウェスタンブロットのコレクションの形の結果を表す。下3つのウェスタンでは、タンパク質分解性の活性化を反映するカスパーゼ酵素の分子量のシフトを検出するために、抗カスパーゼ抗体を利用した。カスパーゼ3、7、および9では、CD20結合分子のうちのいずれによるカスパーゼ活性化の証拠も存在しなかった。スタウロスポリンがアッセイの陽性対照として役割を果たし、カスパーゼ3、7および9のそれぞれについて、プロカスパーゼ切断を誘発して活性カスパーゼとした。
図58に示す4つ目のウェスタンブロットは、活性型カスパーゼ3の既知の基質であるPARPが切断されなかったことを明らかにしており、これは、CD20結合スコーピオンがカスパーゼ3の活性化に失敗したことに矛盾しない。これらの実験のすべての結果は、カスパーゼ3の活性化が、CD20結合スコーピオンによって誘発されるDHL-4 B細胞の直接細胞死滅の顕著な特長でないことを示すことに関して、矛盾しない。
【0422】
さらに、CD20×CD20スコーピオンを含めたCD20結合タンパク質のカスパーゼ3に対する効果を決定するために、時系列研究を実施した。DoHH2またはSu-DHL-6 B細胞を、10nMのCD20結合タンパク質(S0129スコーピオン、2Lm20-4 SMIP、もしくはリツキサン(Rituxan)(登録商標))+/-可溶性CD16 Ig(40nM)、可溶性CD16 Ig単独、または培地と共にインキュベーションした。細胞は10%のFBSを含む完全RPMI中、3×10
5個/ウェル/300μlで培養し、4時間、24時間または72時間で収集した。72時間の時点の試料を500μlの試験薬剤中にプレートした。細胞をPBSで洗浄し、その後、BD Pharmingenのカスパーゼ3、活性型、mABアポトーシスキット:FITC(カタログ番号55048、BD Pharmingen、カリフォルニア州San Jose)を用いて、細胞内活性カスパーゼ-3について染色した。手短に述べると、冷PBSでさらに2回洗浄した後、細胞を冷cytofix/cytoperm溶液に懸濁させ、氷上で20分間インキュベーションした。その後、細胞を遠心分離によって洗浄し、吸引し、Perm/Washバッファーで2回、室温で洗浄した。その後、試料を100μlのPerm-Washバッファー中の20μlのFITC-抗カスパーゼ3で、室温、暗所で30分間染色した。その後、試料をPerm-Washバッファー2回洗浄し、500μlのPerm-Washバッファーに再懸濁させた。その後、洗浄した細胞をFACsチューブに移し、FACs Calibur(BD Biosciences、カリフォルニア州San Jose)にかけ、Cell Questソフトウェア(BD Biosciences、カリフォルニア州San Jose)で分析した。結果を表16に示す。
【表19】
【0423】
これらの実験のすべての結果は、CD16が存在しない場合にカスパーゼ3の活性化が限定されることを示すことに関して矛盾せず、これは、カスパーゼ3活性化をCD20結合スコーピオンによって誘発される直接細胞死滅の顕著な特長として示唆しない。
【0424】
d. DNA断片化
古典的なアポトーシスシグナル伝達経路の誘発は、最終的には染色体DNAの凝縮および断片化分解をもたらす。CD20結合スコーピオンが古典的なアポトーシス機構によってB細胞を直接死滅させたかどうかを決定するために、B細胞染色体DNAの状態を、細胞をCD20結合スコーピオンまたは対照に曝露した後に検査した。最初に、DHL-4 B細胞を、in vitroで4、24または48時間、CD20-結合分子、すなわち、単一特異性CD20×CD20(2Lm20-4×2Lm20-4)スコーピオン、CD20×CD20(011×2Lm20-4)スコーピオン、もしくはリツキシマブ、または対照で処理した。続いて、細胞を溶解し、従来技術を用いて染色体DNAを精製した。その後、染色体DNAをゲル電気泳動によってサイズ分画した。
図59に示すゲル電気泳動像は、CD20結合スコーピオンによって生じた細胞死が古典的なアポトーシス経路によって媒介されていないことを実証する、DNA断片化の欠如を明らかにした。これらのアッセイでは、スタウロスポリンで処理した細胞を陽性対照として使用した。
【0425】
e. SYKリン酸化
SYKとは、転写リプレッサーとして機能する、いくつかのリン酸化部位を有するリン酸化調節されるタンパク質である。SYKは細胞核に局在しているが、活性化の際に、膜に迅速に再局在化することができる。活性化には、SYKはその核移行配列を保持しなければならない。活性型SYKは乳癌腫瘍の抑制の役割を有し、SYKは電離放射線、BCRライゲーションおよびMHCクラスII架橋結合などのアポトーシス促進シグナルによって活性化される。さらに、SYKは、PLC-γおよびCa
++経路に影響を与えることが示されている。これらの観察を考慮して、SYKに影響を与えるCD20結合スコーピオンの能力を調査した。
【0426】
DHL-6 B細胞を二重特異性CD20×CD37スコーピオンに0、5、7または15時間曝露し、細胞を溶解した。抗ホスホチロシン抗体または抗SYK抗体のどちらかを用いて溶解物を免疫沈降させた。免疫沈降物をゲル電気泳動によって分画し、結果を
図60に示す。
図60の検査から、二重特異性CD20×CD37スコーピオンが、SYKのリン酸化を誘導してそれを活性化することに失敗したことが明らかである。カスパーゼ活性化および染色体DNA断片化の上述の研究と矛盾しないことに、CD20結合スコーピオンは、カスパーゼ依存性経路などの古典的なアポトーシス経路を用いてB細胞を直接死滅させないように見える。理論に束縛されることを望まないが、CD20結合スコーピオンは、染色体DNA断片化を少なくともカスパーゼ依存性アポトーシス中に断片化が起こる時間フレームと同じ時間フレームでは顕著な特長としない、カスパーゼおよびSYKに依存しない経路によってB細胞を直接死滅させると予測される。
【実施例19】
【0427】
スコーピオンの応用
a. スコーピオンのin vivo活性
スコーピオンの活性をマウスモデルを用いても評価した。in vivoのスコーピオン活性の測定は、10〜300μgのスコーピオンの投与、続いてスコーピオンの血清濃度の時系列の決定を含んだ。マウスにおける3週間の薬物動態学研究からの2つの二重特異性スコーピオン(すなわち、S0033、CD20×CD27スコーピオンおよびCD20×CD37スコーピオン)のそれぞれの血清濃度曲線として提示するこれらの研究の結果を、
図40に表す。
図40のデータは、2つの二重特異性スコーピオンのそれぞれの血清レベルがベースラインレベルまで下がるまでに、投与後少なくとも500時間かかったことを示している。したがって、スコーピオンは、血清安定性であり、再現性のある持続したin vivo循環半減期を示す。
【0428】
スコーピオンのin vivo有効性も評価した。攻撃的Ramos異種移植モデルを、SMIPと従来の免疫グロブリン対照を用いた並行実験で用いた。
図41に提供する生存曲線は、10μgの二重特異性スコーピオンの投与は生存に対して無視できる影響しか有さないが、100〜300μgの投与はRamos異種移植を保有するマウスの生存に対して顕著な陽性効果を有することを明らかにした。
【0429】
b. 組合せ療法
スコーピオンは、人間、他の哺乳動物および他の生物に影響を与える様々な状態の症状の予防、治療または寛解において用途が見つかることが企図される。例えば、CD20結合スコーピオンは、過剰または異常なB細胞に関連する様々な疾患の治療または予防に有用であると予測される。実際、B細胞の枯渇を含む治療を受け入れられる任意の疾患が、CD20結合スコーピオンを用いた治療を受け入れられるであろう。さらに、スコーピオン、例えばCD20結合スコーピオンを、他の治療薬との組合せ療法で用い得る。様々な組合せ療法の容易さを例示するために、単一特異性CD20×CD20スコーピオン(S0129)を、ドキソルビシン、ビンクリスチンまたはラパマイシンと組み合わせてSu-DHL-6 B細胞に投与した。ドキソルビシンとは、DNA生化学を妨害し、抗癌治療に企図される薬物のクラスに属するトポイソメラーゼII毒である。ラパマイシン(シロリムス)とは、再狭窄を阻害または予防するために臓器移植においてかつ冠血管ステントと共に用いる抗増殖薬として用途が見つかる、タンパク質合成の開始を阻害し、免疫系を抑制するマクロライド抗生物質である。ビンクリスチンとは、細管の形成を阻害し、癌の治療に用いられているビンカアルカロイドである。
【0430】
図61に示す実験結果は、効果レベルの範囲にわたるそれぞれの組合せの組合せ指標の値として表す。単一特異性CD20×CD20スコーピオンS0129の相互作用はそれぞれの薬物クラスについて異なる一方で、リツキサン(Rituxan)(登録商標)(RTXN)ではプロットの形態は類似している。高濃度のドキソルビシンで見られる効果は、一価の結合に向かうシフトを反映し得る。データにより、CD20結合スコーピオンを様々な他の治療薬と組み合わせて使用し得ることが確立され、そのような組合せは、本開示に鑑みて当業者に明らかであろう。
【0431】
エフェクター機能を有する多価結合分子、またはスコーピオンの構造テーマの変形は、本開示を再検討することによって当業者に明らかであり、そのような変形構造は本発明の範囲内にある。