特許第6722282号(P6722282)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6722282ニッケル電極、自立ニッケル層、それを製造する方法およびその使用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722282
(24)【登録日】2020年6月23日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】ニッケル電極、自立ニッケル層、それを製造する方法およびその使用
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/03 20060101AFI20200706BHJP
   C25B 11/06 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   C25B11/03
   C25B11/06 A
【請求項の数】13
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2018-520196(P2018-520196)
(86)(22)【出願日】2016年11月17日
(65)【公表番号】特表2018-538432(P2018-538432A)
(43)【公表日】2018年12月27日
(86)【国際出願番号】EP2016077978
(87)【国際公開番号】WO2017085173
(87)【国際公開日】20170526
【審査請求日】2018年7月10日
(31)【優先権主張番号】102015120057.0
(32)【優先日】2015年11月19日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】506064072
【氏名又は名称】ツェントゥルム フューア ゾンネンエネルギー−ウント ヴァッサーシュトッフ−フォルシュング バーデン−ヴァルテムベルク ゲマインニュッツィヒ シュティフトゥング
(74)【代理人】
【識別番号】100116872
【弁理士】
【氏名又は名称】藤田 和子
(72)【発明者】
【氏名】イェリッセン ルートヴィヒ
(72)【発明者】
【氏名】アサンテ ジェリー バムホ
(72)【発明者】
【氏名】ベーゼ オラフ
【審査官】 ▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−166393(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/191140(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/00 − 15/08
H01M 4/00 − 4/98
B22F 3/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性ニッケルシートと、前記導電性ニッケルシートに堆積する、互いに接着する球状で多孔質のニッケル粒子からなるニッケル層とを含む、ニッケル電極であって、以下のステップ:
a)球状の水酸化ニッケル粒子を提供するステップと、
b)高温にて還元雰囲気中で前記球状の水酸化ニッケル粒子を部分的に還元して、部分的に還元した球状のNi/NiO粒子を得るステップと、
c)得られたNi/NiO粒子ならびに有機および/または無機結合剤ならびに必要に応じてさらなる賦形剤からペーストを調製するステップと、
d)層の前記ペーストを、前記導電性ニッケルシートの片側または両側に塗布するステップと、
e)高温にて還元雰囲気中で、コーティングした前記ニッケルシートを焼き戻し、それにより、互いに強固に接着する、球状で多孔質のニッケル粒子からなるニッケル層を得るためにNi/NiO粒子を完全に還元し、また使用される結合剤および任意の補助物質が完全に除去され、ならびに/または残留せずに蒸発することを確実にするステップと
を含む方法によって得られる、ニッケル電極。
【請求項2】
互いに接着する球状で多孔質のニッケル粒子からなる自立ニッケル層であって、以下のステップ:
a)球状の水酸化ニッケル粒子を提供するステップと、
b)高温にて還元雰囲気中で前記球状の水酸化ニッケル粒子を部分的に還元して、部分的に還元した球状のNi/NiO粒子を得るステップと、
c)得られたNi/NiO粒子ならびに有機および/または無機結合剤ならびに必要に応じてさらなる賦形剤からペーストを調製するステップと、
d)層の前記ペーストを担体に塗布するステップと、
e)高温にて還元雰囲気中で、コーティングした前記担体を焼き戻し、それにより、互いに強固に接着する、球状で多孔質のニッケル粒子からなるニッケル層を得るためにNi/NiO粒子を完全に還元し、また使用される結合剤および任意の補助物質が完全に除去され、ならびに/または残留せずに蒸発することを確実にするステップと、
f)前記担体を分離して、自立多孔質ニッケル層を得るステップと
を含む方法によって得られる、自立ニッケル層。
【請求項3】
ステップa)において提供される球状の水酸化ニッケル粒子が、0.3〜75μmの平均粒径を有する、請求項1または2に記載のニッケル電極または自立ニッケル層。
【請求項4】
ステップb)における部分的還元が、270〜330℃の温度にて実施される、請求項1〜3のいずれか一項に記載のニッケル電極または自立ニッケル層。
【請求項5】
ステップb)における部分的還元およびステップc)における焼き戻しが、10〜100%の水素および任意に不活性ガスを含有する還元雰囲気中で実施される、請求項1〜4のいずれか一項に記載のニッケル電極または自立ニッケル層。
【請求項6】
ステップc)において、有機結合剤として天然および/もしくは合成ポリマーまたはその誘導体が使用され、無機結合剤としてアンモニウム塩またはヒドラジン塩が使用される、請求項1〜5のいずれか一項に記載のニッケル電極または自立ニッケル層。
【請求項7】
前記ニッケル電極または前記自立ニッケル層の前記ニッケル層が、1〜1,000μmの範囲の厚さを有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載のニッケル電極または自立ニッケル層。
【請求項8】
前記球状で多孔質のニッケル粒子が、0.1〜25μmの平均粒径を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載のニッケル電極または自立ニッケル層。
【請求項9】
ステップd)における担体として、金属フォイル、金属フォーム、金属メッシュ、エキスパンドメタル、炭素フォイル、炭素フォーム、ポリマーフォイルまたはセラミック担体が使用される、請求項2〜8のいずれか一項に記載の自立ニッケル層。
【請求項10】
請求項1、3〜8のいずれか一項に記載のニッケル電極を製造する方法であって、以下のステップ:
a)球状の水酸化ニッケル粒子を提供するステップと、
b)高温にて還元雰囲気中で前記球状の水酸化ニッケル粒子を部分的に還元して、部分的に還元した球状のNi/NiO粒子を得るステップと、
c)得られたNi/NiO粒子ならびに有機および/または無機結合剤ならびに必要に応じてさらなる賦形剤からペーストを調製するステップと、
d)層の前記ペーストを、前記導電性ニッケルシートの片側または両側に塗布するステップと、
e)高温にて還元雰囲気中で、コーティングした前記ニッケルシートを焼き戻し、それにより、互いに強固に接着する、球状で多孔質のニッケル粒子からなるニッケル層を得るためにNi/NiO粒子を完全に還元し、また使用される結合剤および任意の補助物質が完全に除去され、ならびに/または残留せずに蒸発することを確実にするステップと
を含む、方法。
【請求項11】
請求項2〜9のいずれか一項に記載の自立ニッケル層を製造する方法であって、以下のステップ:
a)球状の水酸化ニッケル粒子を提供するステップと、
b)高温にて還元雰囲気中で前記球状の水酸化ニッケル粒子を部分的に還元して、部分的に還元した球状のNi/NiO粒子を得るステップと、
c)得られたNi/NiO粒子ならびに有機および/または無機結合剤ならびに必要に応じてさらなる賦形剤からペーストを調製するステップと、
d)層の前記ペーストを担体に塗布するステップと、
e)高温にて還元雰囲気中で、コーティングした前記担体を焼き戻し、それにより、互いに強固に接着する、球状で多孔質のニッケル粒子からなるニッケル層を得るためにNi/NiO粒子を完全に還元し、また使用される結合剤および任意の補助物質が完全に除去され、ならびに/または残留せずに蒸発することを確実にするステップと、
f)前記担体を分離して、自立多孔質ニッケル層を得るステップと
を含む、方法。
【請求項12】
バッテリー、充電式バッテリー、対称および非対称二重層コンデンサ、センサにおける作用電極として、触媒担体として、電気化学合成における電極として、光電デバイスおよび光触媒デバイスにおける電極として、またはアルカリ媒体における水電解のための電極としての請求項1、3〜8のいずれか一項に記載のニッケル電極の使用。
【請求項13】
水電解のための電極としての請求項2〜9のいずれか一項に記載の自立ニッケル層の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、球状で多孔質のニッケル粒子の大きい表面積を有するニッケル層を有するニッケル電極、球状で多孔質のニッケル粒子の大きい表面積を有する自立ニッケル層、ニッケル電極および自立ニッケル層を製造する方法、ならびに特に水電解のための電極としてのそれらの使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、高温で接触圧を加えずにニッケルシートに強固に接着するニッケル粒子の層を製造することは困難である。通常形成される層は、担体、ニッケルシートから再び非常に容易に分離する。焼結処理は高温で高い接触圧を必要とするので、複雑で高価な処理となる。焼結したニッケル電極は、1928年以来、ニッケル−カドミウム充電式バッテリーおよび他の用途のために使用されており、800〜1000℃の範囲の焼結温度を必要とする(非特許文献1)。
【0003】
特許文献1は、クロム成分ならびにニッケルおよびコバルトから選択される少なくとも1つの金属の酸化物からなるコーティングを有する導電性基板を含む、水素を生成するための電極を記載しており、そのコーティングは複雑なプラズマ溶射処理を使用した溶融溶射によって製造される。
【0004】
特許文献2は、導電性基板および金属酸化物コーティングを含む、水素を生成するための電極の耐用年数を延ばす方法を記載しており、例えばチタンまたはニオブの金属成分が、水素生成の間にアルカリ性電解物に加えられる。電極上の金属酸化物コーティングは、例えばプラズマ溶射またはフレーム溶射によって作製され得る。
【0005】
特許文献3は、多孔質ニッケル層を金属基材上に堆積させることによる産業技術の水電解のための電極を製造する方法を記載しており、多孔質ニッケル層は、アルカリ炭酸塩またはアルカリ炭酸水素塩の水溶液中で陽極酸化され、それによって形成された酸化生成物は次いで、微細に分布した金属ニッケルに還元される。多孔質ニッケル層は、粗い金属基材上に金属ニッケルをフレーム溶射またはアーク溶射することによって製造される。
【0006】
種々のニッケル電極が商業的に利用可能である。例えば、ロッド状のニッケル粒子を有するニッケル焼結電極(非特許文献2における図1を参照のこと)、ハニカム様構造を有するニッケルフォーム電極(図2を参照のこと)または円筒状のニッケル繊維を有するニッケル繊維電極が公知である(非特許文献3における図3を参照のこと)。
【0007】
上述の商業的に利用可能なニッケル電極は、バッテリー用の電極として使用され、活性物質の取り込みのために最適化される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,605,484号
【特許文献2】欧州特許第0226291A1号
【特許文献3】独国特許第2002298号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】AK Shukla,B Hariprakash in SECONDARY BATTERIES − NICKEL SYSTEMS,Electrodes:Nickel.Page 407,Elsevier,2009
【非特許文献2】Morioka Y.,Narukawa S.,Itou T.,Journal of Power Sources 100(2001):107−116
【非特許文献3】Ohms D.,Kohlhase M.,Benczur−Urmossy G.,Schadlich G.,Journal of Power Sources 105(2002):127−133
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の解決しようとする課題は、従来技術の不都合な点を回避しながらニッケル電極を提供することであり、その電極は、シートニッケルの導電性担体上に強固に接着するニッケル層を有し、高い機械的安定性を有する。ニッケル電極はまた、有益な電気化学的特性を示すべきであり、特に加水分解の間に多くの酸素および水素の生成を可能にする。
【0011】
水電解についての有益な特性、特に有益な電気化学特性を有する自立ニッケル層もまた、提供される。
【0012】
上述のニッケル電極および上述の自立ニッケル層を製造する簡単で安価な方法もまた、提供されるべきである。特にニッケル電極製造の場合、ニッケルシートに強固に接着するニッケル層を作製することが可能であるべきである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以前の文に記載される目的は、請求項1に記載のニッケル電極、請求項2に記載の自立ニッケル層、請求項10に記載のニッケル電極を製造する方法、請求項11に記載の自立ニッケル層を製造する方法、ならびに請求項12および13に記載のニッケル電極および自立ニッケル層の使用による本発明に従って解決される。
【0014】
本出願の主題の好ましいまたは特に実用的な実施形態は従属請求項に記載される。
【0015】
したがって、本発明の1つの目的は、導電性ニッケルシートと、前記導電性ニッケルシートに堆積する、互いに接着する球状で多孔質のニッケル粒子からなるニッケル層とを含む、ニッケル電極であって、以下のステップ:
a)球状の水酸化ニッケル粒子を提供するステップと、
b)高温にて還元雰囲気中で前記球状の水酸化ニッケル粒子を部分的に還元して、部分的に還元した球状のNi/NiO粒子を得るステップと、
c)得られたNi/NiO粒子ならびに有機および/または無機結合剤ならびに必要に応じてさらなる賦形剤からペーストを調製するステップと、
d)層の前記ペーストを、前記導電性ニッケルシートの片側または両側に塗布するステップと、
e)高温にて還元雰囲気中で、コーティングした前記ニッケルシートを焼き戻すステップと
を含む方法によって得られる、ニッケル電極である。
【0016】
本発明のさらなる目的はまた、互いに接着する球状で多孔質のニッケル粒子からなる自立ニッケル層であって、以下のステップ:
a)球状の水酸化ニッケル粒子を提供するステップと、
b)高温にて還元雰囲気中で前記球状の水酸化ニッケル粒子を部分的に還元して、部分的に還元した球状のNi/NiO粒子を得るステップと、
c)得られたNi/NiO粒子ならびに有機および/または無機結合剤ならびに必要に応じてさらなる賦形剤からペーストを調製するステップと、
d)層の前記ペーストを担体に塗布するステップと、
e)高温にて還元雰囲気中で、コーティングした前記担体を焼き戻すステップと、
f)前記担体を分離して、自立多孔質ニッケル層を得るステップと
を含む方法によって得られる、自立ニッケル層である。
【0017】
本発明の別の目的はまた、本発明によるニッケル電極を製造する方法であって、以下のステップ:
a)球状の水酸化ニッケル粒子を提供するステップと、
b)高温にて還元雰囲気中で前記球状の水酸化ニッケル粒子を部分的に還元して、部分的に還元した球状のNi/NiO粒子を得るステップと、
c)得られたNi/NiO粒子ならびに有機および/または無機結合剤ならびに必要に応じてさらなる賦形剤からペーストを調製するステップと、
d)層の前記ペーストを、前記導電性ニッケルシートの片側または両側に塗布するステップと、
e)高温にて還元雰囲気中で、コーティングした前記ニッケルシートを焼き戻すステップと
を含む、方法である。
【0018】
本発明のさらなる目的は、本発明による自立ニッケル層を製造する方法であって、以下のステップ:
a)球状の水酸化ニッケル粒子を提供するステップと、
b)高温にて還元雰囲気中で前記球状の水酸化ニッケル粒子を部分的に還元して、部分的に還元した球状のNi/NiO粒子を得るステップと、
c)得られたNi/NiO粒子ならびに有機および/または無機結合剤ならびに必要に応じてさらなる賦形剤からペーストを調製するステップと、
d)層の前記ペーストを担体に塗布するステップと、
e)高温にて還元雰囲気中で、コーティングした前記担体を焼き戻すステップと、
f)前記担体を分離して、自立多孔質ニッケル層を得るステップと
を含む、方法である。
【0019】
本発明の目的はまた、最終的に、特にアルカリ媒体における水電解のための電極としてのニッケル電極または自立ニッケル層の使用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】1000倍に拡大された市販のニッケル焼結電極の表面のREM(走査電子顕微鏡)画像を示す(Morioka Y.,Narukawa S.,Itou T.,Journal of Power Sources 100(2001):107−116)。
図2】150倍に拡大されたハニカム構造を有する市販のニッケルフォーム電極の表面のREM画像を示す。
図3】500倍に拡大された市販のニッケル繊維電極の表面のREM画像を示す(Ohms D.,Kohlhase M.,Benczur−Urmossy G.,Schadlich G.,Journal of Power Sources 105(2002):127−133)。
図4】500倍に拡大された本発明によるニッケル電極の表面のREM画像を示す。
図5】10,000倍に拡大された本発明によるニッケル電極の表面のREM画像を示す。
図6a】室温にて5.5M KOH;2.5M NaOHおよび0.5M LiOHの電解質における本発明による水電解のための1cmニッケル電極に対する50μV s−1の走査速度での準定常サイクリックボルタモグラムを示す。電極の後部は電気絶縁用のエポキシ樹脂でコーティングされている。
図6b】室温にて5.5M KOH;2.5M NaOHおよび0.5M LiOHの電解質における本発明による水電解のための1cmニッケル電極に対する100μV s−1の走査速度での準定常サイクリックボルタモグラムを示す。電極の後部は電気絶縁用のエポキシ樹脂でコーティングされている。
図6c】室温にて5.5M KOH;2.5M NaOHおよび0.5M LiOHの電解質における水電解のための平面の未処理の1cmニッケル電極に対する50μV s−1の走査速度での準定常サイクリックボルタモグラムを示す。電極の後部は電気絶縁用のエポキシ樹脂でコーティングされている。
図6d】室温にて5.5M KOH;2.5M NaOHおよび0.5M LiOHの電解質における水電解のための平面の未処理の1cmニッケル電極に対する100μV s−1の走査速度での準定常サイクリックボルタモグラムを示す。電極の後部は電気絶縁用のエポキシ樹脂でコーティングされている。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明によるニッケル電極および本発明による自立ニッケル層は、互いに接着し、フォーム、焼結または繊維電極などの、以前に商業的に利用可能であったバッテリー用のニッケル電極より大きな内部表面積を有する、球状で多孔質のニッケル粒子からなるニッケル層を特徴とする。
【0022】
球状で多孔質のニッケル粒子からなるニッケル層を有するニッケル電極は産業的実施においてまだ知られていない。驚くべきことに、本発明によるニッケル電極および本発明による自立ニッケル層は、アルカリ媒体における水電解のために特に有益に使用され得ることが見出され、このプロセスにおいて、酸素生成の間および特に水素生成の間、かなり多くの気体生成が可能となる。多くの気体発生のこの驚くべき効果はニッケル層の大きな内部表面積に明確に起因する。大きな内部表面積に起因して、電極と周囲媒体との間の境界抵抗は非常に低く、その結果、例えば、加水分解において達成可能な電流密度は、コーティングされていないニッケルシートで達成可能なものより大きくなる。
【0023】
本発明による方法によれば、室温での常圧コーティングおよびコーティングされたニッケルシートのその後の焼き戻しなどの簡単なプロセスステップでニッケルシートに強固に接着するニッケル粒子から層を作製することが可能となる。このように製造されたニッケル電極は機械的に非常に安定であり、球状ニッケル粒子から構成される層も、ニッケルシートの機械的変形の間および後も接着し続ける。剥離試験において、最大で350Nまでの保持力を実証することができ、それはプロセスパラメーターを変化させることによってさらに向上させることができた。
【0024】
さらに、使用される結合剤はニッケル層の表面上に望ましくない炭素堆積物を残さない。なぜならそれらは残留せずに蒸発し得るからである。
【0025】
本発明に従って使用される球状の水酸化ニッケル粒子はバッテリー材料として商業的に利用可能であり(例えば、Umicore、Belgium and Tanaka、日本)、好ましくは0.3〜75μm、より好ましくは3〜30μm、特に好ましくは9〜12μmの平均粒径を有する。約10μmの平均粒径を有する粒子が最も好ましい。
【0026】
本発明による方法のステップb)における部分的還元は、好ましくは270〜330℃、より好ましくは290〜310℃の温度で実施される。
【0027】
部分的還元は、上述の条件下で3〜5時間にわたって行われることが有益である。
【0028】
本発明による方法のステップb)における部分的還元およびステップe)における焼き戻しの両方は、例えば10〜100%の水素および還元雰囲気が100%の水素からならない場合、任意に窒素などの不活性ガスを含有する還元雰囲気において実施される。
【0029】
天然および/もしくは合成ポリマーまたはその誘導体が、部分的還元によって得られるNi/NiO粒子を有するペーストを製造するための有機結合剤としての使用に特に適している。適切な物質の例は、アルキド樹脂、セルロースおよびその誘導体、エポキシ樹脂、ポリメチルメタクリレート(PMMA)およびポリアクリル酸(PAA)などのポリアクリレート、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリイミド(PI)およびその誘導体、ポリウレタン(PU)およびその誘導体、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリトリフルオロエチレン(PTrFE)、ポリビニルアルコール(PVA)、二フッ化ポリビニリデン(PVDF)、シリコーン、デンプンおよびその誘導体、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)ならびにそれらの材料の混合物である。特に好ましい有機結合剤はポリビニルアルコールである。
【0030】
有機または無機溶媒、分散剤または界面活性剤などのさらなる一般的な補助物質が、ペーストを作製するために必要に応じて加えられてもよい。
【0031】
水性媒体におけるアンモニウム塩またはヒドラジン塩が無機結合剤としての使用に特に適している。
【0032】
コーティングされたニッケルシートまたはコーティングされた担体の最終焼き戻しは、好ましくは、500〜800℃、より好ましくは600〜700℃の範囲の温度にて実施される。最終焼き戻しは典型的に3〜5時間にわたって行われる。最終焼き戻しは、互いに強固に接着する、球状で多孔質のニッケル粒子からなるニッケル層を得るためにNi/NiO粒子を完全に還元するのに役立つ。それはまた、使用される結合剤および任意の補助物質が完全に除去され、ならびに/または残留せずに蒸発することを確実にするように設計される。
【0033】
本発明によるニッケル電極のニッケル層または本発明による自立ニッケル層は好ましくは、1〜1,000μm、より好ましくは10〜900μm、特に好ましくは20〜200μmの範囲の厚さを有する。
【0034】
球状で多孔質のニッケル粒子は、好ましくは、0.1〜25μm、より好ましくは1〜10μm、さらにより好ましくは2〜6μm、特に好ましくは3〜4μmの平均粒径を有する。
【0035】
自立ニッケル層の製造の間、金属フォイル、金属フォーム、金属メッシュ、エキスパンドメタル、炭素フォイル、炭素フォーム、ポリマーフォイルまたはセラミック担体は、それら自体で担体としての使用に十分に役立つ。
【0036】
担体を選択する場合、そのような担体は自立ニッケル層から再び分離され得ることが確実にされるべきである。アルミニウムフォイルなどの金属担体は、例えば、多孔質ニッケル層を自立したままにするように、酸またはアルカリで処理することによって後で溶解されてもよい。例えばポリマーフォイルの場合、例えば焼き戻しステップの後、酸化的にフォイルを除去することが可能である。
【0037】
本発明によれば、多孔質ニッケル粒子のニッケル層はまた、ドープされてもよい。粒子は、焼き戻しの前、間または後に外来イオンでドープされてもよい。
【0038】
本発明によるニッケル電極は、特にアルカリ媒体における水電解のための、バッテリー、充電式バッテリー、対称および非対称二重層コンデンサ、センサにおける作用電極として、触媒担体として、電気化学的合成プロセスにおける、または光電デバイスおよび光触媒デバイスにおける電極として使用するのにそれ自体で特に十分に役立つ。
【0039】
塩素−アルカリ電解などの電解、触媒、光起電コーティングおよび光起電水素発生における用途が特に含まれる。
【0040】
原則として、本発明による自立ニッケル層が自立電極として使用されてもよい。しかしながら、水の電気分解のための電極としてのその使用が特に好ましく、現在、完全に多孔質である電極を使用することも可能である。
【実施例】
【0041】
本発明によるニッケル電極の製造
50gの球状β−Ni(OH)粒子を、焼きなまし炉において窒素中の50vol%水素の雰囲気中で300℃の温度にて4時間部分的に還元し、約10μmの平均粒径を保存した。それらは部分的に還元すると、球状Ni/NiO粒子は既に内部多孔質構造を有する。5gの部分的に還元した球状Ni/NiO粒子を、3mlの7.5wt%ポリビニルアルコール水溶液でペーストに変換し、次いでそのペーストを125μm厚のニッケルシートの片側に塗布する。
【0042】
窒素中の50vol%水素の還元雰囲気中で620℃の温度での焼きなまし炉における最終焼き戻し段階の後、形成した電極は使用できる状態である。ニッケルシートに塗布された球状ニッケル粒子は3.4μmの平均直径および内部多孔質構造を有する。
【0043】
以下の表1は、使用される水酸化ニッケル粒子、部分的に還元されたNi/NiO粒子およびニッケル層の球状で多孔質のニッケル粒子の平均粒径をまとめている。
【0044】
【表1】
【0045】
酸素発生
その大きな内部表面積のために、本発明による電極と周囲媒体との間の境界抵抗は非常に低く、このことは、例えば、加水分解の間に達成され得る電流密度は、コーティングされていないニッケルシートによって提供されるものより大きいことを意味する。コーティングされていないニッケルシートにおいて、Hg/HgO参照電極に対して0.819Vの電圧で144mA/cmの範囲の電流密度、ならびに5.5M KOH、2.5M NaOHおよび0.5M LiOHからなる電解質において50〜100μVの範囲の電圧変化が得られる。低電圧変化は準静的測定とみなされ得る。Hg/HgO参照に対する0.819Vの選択された電位は酸素発生のみに起因する。本発明による方法により製造された大きな表面積を有するニッケル電極により、218〜232mA/cmの電流密度が同じ条件下で見出される。これは約1.5倍の電流密度の平均増加に対応する(表2を参照のこと)。対応するサイクリックボルタモグラムを図6a〜dに示す。
【0046】
【表2】
【0047】
水素発生
本発明による大きな表面積を有するニッケル電極に起因した顕著に多い気体生成増幅効果が水素発生について観察され得る。コーティングされていないニッケルシートにおいて、Hg/HgO参照電極に対して−1.231Vの電圧で5mA/cmの範囲の電流密度ならびに5.5M KOH、2.5M NaOHおよび0.5M LiOHの電解質において50〜100μV/sの電圧変化を得た。低電圧変化は準静的測定とみなされ得る。Hg/HgO参照に対して−1.231Vの選択した電位は水素発生のみに起因する。本発明による方法により製造された大きな表面積を有するニッケル電極により、86〜91mA/cmの電流密度が同じ条件下で見出される。これは約17倍の電流密度の平均増加に対応する(表3を参照のこと)。対応するサイクリックボルタモグラムを図6a〜dに示す。
【0048】
【表3】
図1
図2
図3
図4
図5
図6a
図6b
図6c
図6d