特許第6722307号(P6722307)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6722307精製徐冷スラグを用いたアスファルト混合物の剥離防止剤、その製造方法、それを含むアスファルト混合物、及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722307
(24)【登録日】2020年6月23日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】精製徐冷スラグを用いたアスファルト混合物の剥離防止剤、その製造方法、それを含むアスファルト混合物、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 26/26 20060101AFI20200706BHJP
   C04B 18/14 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   C04B26/26 Z
   C04B18/14 A
【請求項の数】20
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-4994(P2019-4994)
(22)【出願日】2019年1月16日
(65)【公開番号】特開2020-11889(P2020-11889A)
(43)【公開日】2020年1月23日
【審査請求日】2019年1月24日
(31)【優先権主張番号】10-2018-0081551
(32)【優先日】2018年7月13日
(33)【優先権主張国】KR
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (その1) 開催日 2018年4月21日 集会名 The third International Conference on Applied Engineering, Materials and Mechanics (ICAEMM2018)(開催期間2018年4月20日〜22日) 開催場所 ネストホテル那覇(900−0036沖縄県那覇市西1−6−1) (その2) ウェブサイトの掲載日 2018年7月26日 ウェブサイトのアドレス https://www.scientific.net/KEM.773.271 (その3) 展示日 2018年5月30日〜5月31日 集会名 2018 International Conference for Road Engineers(ICRE 2018)(開催期間2018年5月29日〜6月1日) 開催場所 ブヨン ホテル アンド リゾート チェジュ(大韓民国済州特別自治道 ソギィポ ジョンムン カンカン ストリート 222) (その4) 発行日 2018年5月29日 刊行物 株式会社ネビエン社カタログ (その5) 展示日 2018年5月30日〜5月31日 集会名 2018 International Conference for Road Engineers(ICRE 2018)(開催期間2018年5月29日〜6月1日) 開催場所 ブヨン ホテル アンド リゾート チェジュ (その6) 発行日 2018年5月29日 刊行物 ICREプログラムブック
(73)【特許権者】
【識別番号】519016136
【氏名又は名称】韓国建設技術研究院
【氏名又は名称原語表記】KOREA INSTITUTE of CIVIL ENGINEERING and BUILDING TECHNOLOGY
(73)【特許権者】
【識別番号】519197321
【氏名又は名称】エスピーネイチャー株式会社
【氏名又は名称原語表記】SP Nature CO., LTD
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】クォン ス アン
(72)【発明者】
【氏名】イ ムン ソブ
(72)【発明者】
【氏名】イ ガン フン
(72)【発明者】
【氏名】ソン ジョン タン
(72)【発明者】
【氏名】ハン ヨン ナム
(72)【発明者】
【氏名】ハ ドン ホ
(72)【発明者】
【氏名】チャン ビョン イン
(72)【発明者】
【氏名】イ ジン ヒョン
【審査官】 西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−261038(JP,A)
【文献】 特開2017−007880(JP,A)
【文献】 特開2013−237605(JP,A)
【文献】 韓国登録特許第10−1386171(KR,B1)
【文献】 韓国公開特許第10−2012−0091781(KR,A)
【文献】 韓国公開特許第10−2017−0126711(KR,A)
【文献】 国際公開第2017/021854(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 2/00−32/02
C21C 5/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
精製徐冷スラグを含むアスファルト混合物用剥離防止剤であって、前記精製徐冷スラグは、CaO 55〜65質量%、SiO 5〜10質量%、Al 1〜5質量%、及びMgO 1〜5質量%を含むアスファルト混合物用剥離防止剤。
【請求項2】
前記精製徐冷スラグは、MnO、NaO、KO、P、及びTiOからなる群より選ばれる1種以上をさらに含む請求項1に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤。
【請求項3】
前記アスファルト混合物用剥離防止剤は、粉末形態である請求項1に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤。
【請求項4】
前記アスファルト混合物用剥離防止剤は、KS F 3501に規定された条件を満たす請求項1に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤。
【請求項5】
前記精製徐冷スラグは、アスファルト混合物の骨材表面にカルシウムイオンを沈殿させてアスファルトに含有された酸と結合し、不溶性塩を形成することにより、アスファルトと骨材との接着性能を向上させる請求項1に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤。
【請求項6】
精製徐冷スラグを含むアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法であって、
a)鉄鋼スラグを粒度分離して所定直径以下のスラグを収集するステップと、
b)前記a)ステップから収集されたスラグから鉄鋼材を選別した後、残留する非着物質を収集するステップと、
c)前記b)ステップから収集された非着物質に対してCaO、SiO、Al、及びMgOを含む非鉄材料の集塵回収率を高める工程を行うステップと、
d)前記c)ステップから得られた物質を乾燥するステップと、
を含み、
前記精製徐冷スラグは、CaO 55〜65質量%、SiO 5〜10質量%、Al 1〜5質量%、及びMgO 1〜5質量%を含むアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法。
【請求項7】
前記c)ステップは、前記b)ステップから収集された非着された物質に対して水分コーティング工程を行うことを含む請求項に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法。
【請求項8】
前記水分コーティング工程は、スプレーノズルにより水道水または精製水を分当り3〜5kgの割合で供給することにより行われる請求項に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法。
【請求項9】
前記a)ステップは、
鉄鋼スラグを粒度分離して第1の直径以下のスラグを収集する第1のステップと、
前記第1のステップで収集されたスラグを粒度分離して前記第1の直径より小さい第2の直径以下のスラグを収集し、第2の直径を超過するスラグから鉄鋼材を選別し、残留する非着物質を収集する第2のステップと、
前記第2のステップから収集された非着物質に対して破砕工程を行って前記第2の直径以下のスラグを収集する第3のステップと、
前記第2のステップから収集された第2の直径以下のスラグ及び前記第3のステップから収集された第2の直径以下のスラグを結合する第4のステップと、
を含む請求項に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法。
【請求項10】
前記第2のステップにおいて鉄鋼材の選別は、磁力選別により行われる請求項に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法。
【請求項11】
前記b)ステップにおいて鉄鋼材の選別は、磁力選別及び風力選別により行われる請求項に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法。
【請求項12】
前記d)ステップにおいて乾燥は、水分含量が2重量%以下になるように行われる請求項に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法。
【請求項13】
前記d)ステップ後に、
乾燥された物質を集塵設備により集塵するステップと、
集塵された物質に対して品質均一化工程を行うステップと、
をさらに含む請求項に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法。
【請求項14】
前記品質均一化工程は、エアースライドを用いて水分含量を1重量%以下になるようにし、水分分布を均一に調整することを含む請求項13に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法。
【請求項15】
請求項1〜のいずれか1項に記載のアスファルト混合物用剥離防止剤、骨材、及びアスファルトを含むアスファルト混合物。
【請求項16】
前記アスファルト混合物用剥離防止剤は、骨材重量を基準に0.5〜6.0重量%の含量で含まれる請求項15に記載のアスファルト混合物。
【請求項17】
前記アスファルトと前記骨材との重量割合は、3.5:96.5〜6.0:94.0の範囲である請求項15に記載のアスファルト混合物。
【請求項18】
請求項14のいずれか1項に記載の方法によりアスファルト混合物用剥離防止剤を製造するステップと、
加熱されたアスファルトに前記アスファルト混合物用剥離防止剤を投入して均一に混合するステップと、
混合物を加熱された骨材に投入して混合するステップと、
を含むアスファルト混合物の製造方法。
【請求項19】
前記アスファルト混合物用剥離防止剤は、骨材重量を基準に0.5〜6.0重量%の含量で含まれる請求項18に記載のアスファルト混合物の製造方法。
【請求項20】
前記アスファルトと前記骨材との重量割合は、3.5:96.5〜6.0:94.0の範囲である請求項18に記載のアスファルト混合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アスファルト混合物の剥離防止剤に関し、より詳細には、製鉄製鋼工程で発生されるスラグを特定方法で加工して得られた精製徐冷スラグを用いることにより、アスファルト混合物の水分抵抗性向上、アスファルト老化及び塑性変形低減、及び亀裂抵抗性向上の効果を得ることができ、かつ、副産物のリサイクルにより経済性及び工程効率を高めることができるアスファルト混合物用剥離防止剤、その製造方法、それを含むアスファルト混合物、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
韓国のアスファルト舗装において、1990年代以後、物動量の急増、車両荷重の重量化及び大型化、異常高温と集中豪雨など、大気環境の変化などにより、塑性変形、亀裂、ポットホールなど、様々な形態の道路破損が急激に増加している。これにより、交通事故誘発はもちろん、維持補修による莫大な費用を招いており、不適切な舗装材料の使用と品質管理体系不備などは、道路の早期破損をより一層加速化させて道路寿命を顕著に低下させている。
【0003】
このような実情に鑑みて、国土交通部では、韓国のアスファルト舗装において、ポットホールのような水分によるアスファルト道路舗装の破損を低減するために、アスファルト混合物の水分抵抗性向上のための品質基準を規定した。国土交通部のアスファルトコンクリート舗装施工指針によれば、アスファルト混合物で水分抵抗性評価のために、間接引張強度比基準と動的浸漬試験基準を追加し、もし、間接引張強度比及び動的浸漬試験結果が基準に満たされなかったとき、消石灰または液状型剥離防止剤を使用するように規定した。これにより、アスファルト舗装業界では、消石灰をアスファルト混合物重量に対して1〜1.5%を使用して、一般の加熱アスファルトコンクリート混合物の水分抵抗性向上を図っており、一部、液状型剥離防止剤を開発及び輸入して適用している。消石灰は、骨材表面にカルシウムイオンを沈殿させて、アスファルトバインダーの酸と結合して不溶性塩を形成するようになるが、形成された不溶性塩がアスファルトと骨材との接着性能を向上させる。
【0004】
しかし、アスファルト業界で使用されている消石灰や液状型剥離防止剤は、別の設備構築及び高い値段のため、その使用が制限的である場合があり、経済的な側面で道路舗装業界に汎用的に適用されることが難しく、実際の施工実績が微々たる実情である。これにより、アスファルト混合物が水分抵抗性を向上させることができながらも、経済的な側面でさらに効率的かつ広く適用され得る剥離防止剤の開発が依然として求められている。
【0005】
一方、鉄鋼工程は、原料、製銑、製鋼、圧延、及びステンレスなど、複雑な工程の連結生産体制を経ながら、その製造工程の特性上、様々な種類の副産物及び廃棄物を必然的に発生させている。その中で最も多い量を占める副産物が鉄を生産するために原料として使用された鉄鉱石、有煙炭、石灰石などが高温で溶融されて溶銑と分離された後に得られた鉄鋼スラグである。鉄鋼スラグは、鉄を生産するための高炉に投入された鉄鉱石、有煙炭、石灰石などが1500℃以上で溶解されて溶銑(銑鉄)とともに発生される高炉スラグ及び製鋼工程で発生する製鋼スラグに区分されることができる。高炉スラグは、冷却法によって水滓スラグと塊滓スラグとに区分され、製鋼スラグは、製鋼工程設備の形態によって転炉スラグと電気炉スラグとに区分されることができる。
【0006】
鉄鋼産業では、原料価格とともに、エネルギー価格が生産原価に及ぼす影響が極めて大きいため、世界各国では、鉄鋼産業における合理的なエネルギー管理のために努力しており、そのような努力の1つとして、各種工程で排出されるエネルギーを回収するために、鉄鋼スラグをリサイクルする技術に関する研究が活発になされている。鉄鋼スラグは、高温で溶融生成されて、有用な環境親和的資材であって、天然資源を代替することができ、省エネルギー及び環境有害性低減の側面で高い効用性を有することができる。
【0007】
大韓民国登録特許第10−0795184号(特許文献1)には、SiO 19.0〜31.1wt%、Fe 29.6〜38.2wt%、Al 7.0〜13.9wt%、CaO 145〜38.0wt%、MgO 6.0〜8.1wt%、KO 0.14〜0.28wt%の含量を有する電気炉の酸化スラグを破砕及び粉砕し、この粉砕物から前記鉄成分(Fe)を除去した後、大きさ別に選別して得られることを特徴とする電気炉酸化スラグを用いたアスコン用骨材及びこれを用いたアスファルトコンクリートに関する技術が開示されている。上記特許文献1に開示された技術は、スラグのリサイクルに関するものではあるが、アスコン用骨材として用いられるものであり、アスファルト混合物の水分抵抗性を向上させるための剥離防止剤としては効果がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
特許文献1:大韓民国登録特許第10−0795184号(2008.01.16.)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、製鉄製鋼工程で発生されるスラグを特定方法で加工して得られた精製徐冷スラグを用いることにより、アスファルト混合物の水分抵抗性を向上させて、従来利用された剥離防止剤を代替することができ、かつ、副産物のリサイクルにより経済性及び工程効率を高めることができるアスファルト混合物用剥離防止剤、その製造方法、それを含むアスファルト混合物、及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するための本発明の一実施形態は、アスファルト混合物用剥離防止剤を提供し、前記アスファルト混合物用剥離防止剤は、精製徐冷スラグを含み、前記精製徐冷スラグは、CaO 55〜65質量%、SiO 5〜10質量%、Al 1〜5質量%、及びMgO 1〜5質量%を含むことができる。
【0011】
上記課題を解決するための本発明の他の一実施形態は、精製徐冷スラグを含むアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法を提供し、前記方法は、a)鉄鋼スラグを粒度分離して基準直径以下のスラグを収集するステップと、b)前記a)ステップから収集されたスラグから鉄鋼材を選別した後、残留する非着 (non−attached) 物質を収集するステップと、c)前記b)ステップから収集された非着物質に対してCaO、SiO、Al、及びMgOを含む非鉄材料の集塵回収率を高める工程を行うステップと、d)前記c)ステップから得られた物質を乾燥するステップとを含むことができ、前記精製徐冷スラグは、CaO 55〜65質量%、SiO 5〜10質量%、Al 1〜5質量%、及びMgO 1〜5質量%を含むことができる。
【0012】
上記課題を解決するための本発明のさらに他の一実施形態は、アスファルト混合物を提供し、前記アスファルト混合物は、前記実施形態に係るアスファルト混合物用剥離防止剤、骨材、及びアスファルトを含むことができる。
【0013】
上記課題を解決するための本発明のさらに他の一実施形態は、アスファルト混合物の製造方法を提供し、前記製造方法は、上記実施形態によってアスファルト混合物用剥離防止剤を製造するステップと、加熱されたアスファルトに前記アスファルト混合物用剥離防止剤を投入して均一に混合するステップと、混合物を加熱された骨材に投入して混合するステップとを含むことができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、鉄鋼工程で発生される副産物である鉄鋼スラグを特定方法で加工することにより、アスファルト混合物用剥離防止剤として用いられてアスファルト混合物の水分抵抗性を向上させることができる。
【0015】
本発明に係る剥離防止剤は、従来に用いられた消石灰や液状型剥離防止剤と同等であるか、それ以上の水分抵抗性効果を発揮でき、かつ、製造設備及び費用などの経済的な側面でも高い効率性を発揮できる。
【0016】
また、本発明に係る剥離防止剤は、アスファルトと骨材との剥離低減によりアスファルト混合物の水分敏感性を最小化するとともに、アスファルトバインダーの酸化減少により老化低減の効果があり、さらに、アスファルトの剛性を増加させて塑性変形を低減させ、亀裂抵抗性にも効果があり、微小亀裂の進展速度を減少させることができる。
【0017】
また、本発明によれば、鉄鋼産業において必然的に発生される副産物である鉄鋼スラグをリサイクルすることにより、省エネルギー、環境有害性低減、及び環境親和性向上の効果を同時に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1A及び図1Bは、各々実施形態に係る精製徐冷スラグを含む剥離防止剤のXRD分析パターン及び分析パターンリストを示し、図1C及び図1Dは、各々消石灰のXRD分析パターン及び分析パターンリストを示す。
【0019】
図2A図2Cは、比較例に係るアスファルト混合物の動的浸漬試験結果を示し、図2Dは、実施形態に係るアスファルト混合物の動的浸漬試験結果を示す。
【0020】
図3Aは、室内で製作された試験片の精製徐冷スラグ含量別の間接引張強度試験結果を示し、図3Bは、アスファルトプラント現場で製作された精製徐冷スラグ含量別の間接引張強度試験結果を示す。
【0021】
図4A及び図4Bは、各々室内で製作された試験片のハンブルグホイールトラッキング試験結果及びハンブルグホイールトラッキング試験後、供試体の表面姿を示し、図4C及び図4Dは、各々アスファルトプラント現場で製作された試験片のハンブルグホイールトラッキング試験結果及びハンブルグホイールトラッキング試験後供試体の表面形状を示す。
【0022】
図5A及び図5Bは、アスファルト混合物に対する低温領域及び高温領域における動弾性係数試験結果を示す。
【0023】
図6は、精製徐冷スラグ含量による小型舗装加速試験結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者が本発明の技術的思想を容易に実施できる程度に詳細に説明するために、本発明の好ましい実施形態を説明する。下記の説明では、具体的な構成要素等のような多くの特定事項等が図示されているが、これは、本発明のより全般的な理解を助けるために提供されたものであり、このような特定事項等がなくても本発明が実施され得ることは、この技術分野における通常の知識を有する者には自明であるといえるであろう。そして、本発明を説明するにあって、関連した公知機能或いは構成についての具体的な説明が、本発明の要旨を不要に濁す恐れがあると判断される場合、その詳細な説明を省略する。
【0025】
本発明の一実施形態は、アスファルト混合物用剥離防止剤に関するものであって、前記アスファルト混合物用剥離防止剤は、精製徐冷スラグを含むことができる。
【0026】
本発明に用いられる精製徐冷スラグは、鉄鋼スラグを特定方法で加工処理することにより取得されるものである。原料として用いられる鉄鋼スラグは、製鋼スラグを含むことができる。本発明の精製徐冷スラグは、アスファルト混合物の物性、特に、水分抵抗性を向上させるために、特に、CaO、SiO、Al、及びMgOを含む非鉄材料の集塵回収率を増加させるように、鉄鋼スラグを加工することにより得られることができる。本発明に用いられる精製徐冷スラグは、このような加工処理により適合化されたCaO、SiO、Al、及びMgOを含む組成を含むことにより、アスファルトと骨材との剥離を低減させて、アスファルト混合物の水分抵抗性を向上させる特性を発揮できる。
【0027】
本発明に用いられる精製徐冷スラグは、CaO 55〜65質量%、SiO 5〜10質量%、Al 1〜5質量%、及びMgO 1〜5質量%を含むことができる。精製徐冷スラグに含まれる成分のうち、CaO、SiO、Al、及びMgOは、アスファルト混合物の水分抵抗性を向上させるのに主な役割をすることができ、本発明においては、その含量を適合化して剥離防止効果を最大化させることができる。
【0028】
一実施形態において、本発明のアスファルト混合物用剥離防止剤に含まれる精製徐冷スラグは、MnO、NaO、KO、P、及びTiOからなる群より選ばれる1種以上をさらに含むことができる。
【0029】
一実施形態において、本発明のアスファルト混合物用剥離防止剤に含まれる精製徐冷スラグは、0.01〜0.5質量%のMnOをさらに含むことができる。
【0030】
一実施形態において、本発明のアスファルト混合物用剥離防止剤に含まれる精製徐冷スラグは、0.001〜0.5質量%のNaOをさらに含むことができる。
【0031】
一実施形態において、本発明のアスファルト混合物用剥離防止剤に含まれる精製徐冷スラグは、0.001〜0.5質量%のKOをさらに含むことができる。
【0032】
一実施形態において、本発明のアスファルト混合物用剥離防止剤に含まれる精製徐冷スラグは、0.001〜0.5質量%のPをさらに含むことができる。
【0033】
一実施形態において、本発明のアスファルト混合物用剥離防止剤に含まれる精製徐冷スラグは、0.001〜0.5質量%のTiOをさらに含むことができる。
【0034】
前記成分を除いた精製徐冷スラグの残部は、微量成分及び水分などを含むことができる。
【0035】
本発明に用いられる精製徐冷スラグは、水分抵抗性を含むアスファルト混合物に求められる物性を発揮する特定組成を有するように形成されることができる。このような特定組成は、CaO、SiO、Al、及びMgOを含む非鉄材料の集塵回収率を増加させるように鉄鋼スラグを加工することを含む特定工程により得られることができる。このような特定工程については、後述するアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法に関する実施形態においてさらに詳細に説明する。
【0036】
このような特定の組成を有する本発明の精製徐冷スラグは、消石灰と類似したXRD分析パターンを表し、アスファルト混合物の骨材表面にカルシウムイオンを沈殿させてアスファルトに含有された酸と結合して不溶性塩を形成することにより、アスファルトと骨材との接着性能を向上させることができる。また、アスファルトバインダーの酸化減少により老化低減の効果があり、さらに、アスファルトの剛性を増加させて塑性変形を低減させ、亀裂抵抗性にも効果があり、微小亀裂の進展速度を減少させることができる。
【0037】
さらに、本発明に用いられる精製徐冷スラグは、別の設備構築及び高い値段のため、その使用が制限的であり、実際、施工実績が微々たる消石灰や液状型剥離防止剤とは異なり、鉄鋼工程において副産物として取得されるスラグをリサイクルして得られるものであるから、高い経済性及び環境親和性を表して、実際、産業分野で広く適用されることができる。
【0038】
本発明の一実施形態に係るアスファルト混合物用剥離防止剤は、粉末形態でありうる。
【0039】
本発明の一実施形態に係るアスファルト混合物用剥離防止剤は、アスファルト舗装用充填材に関するKS F 3501に規定された条件を満たすことができる。KS F 3501による詳細な規定は、下記の表2に表す。
【0040】
本発明の他の一実施形態は、精製徐冷スラグを含むアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法に関するものであって、前記製造方法は、a)鉄鋼スラグを粒度分離して基準直径以下のスラグを収集するステップと、b)前記a)ステップから収集されたスラグから鉄鋼材を選別した後、残留する非着物質を収集するステップと、c)前記b)ステップから収集された非着物質に対してCaO、SiO、Al、及びMgOを含む非鉄材料の集塵回収率を高める工程を行うステップと、d)前記c)ステップから得られた物質を乾燥するステップとを含むことができる。それぞれのステップについて下記に詳細に説明する。アスファルト混合物用剥離防止剤については、上記した実施形態で詳述したので、本実施形態においては、繰り返しを避けるために、その詳細な記載を省略する。
【0041】
まず、a)ステップで鉄鋼スラグを粒度分離して基準直径以下のスラグを収集できる。
【0042】
一実施形態において、a)ステップは、下記の第1のステップないし第4のステップを含むことができる:
・第1のステップ:鉄鋼スラグを粒度分離して第1の基準直径以下のスラグを収集するステップと、
・第2のステップ:前記第1のステップで収集されたスラグを粒度分離して前記第1の基準直径より小さい第2の基準直径以下のスラグを収集し、第2の基準直径を超過するスラグから鉄鋼材を選別し、残留する非着物質を収集するステップと、
・第3のステップ:前記第2のステップから収集された非着物質に対して破砕工程を行って前記第2の基準直径以下のスラグを収集するステップと、
・第4のステップ:前記第2のステップから収集された第2の基準直径以下のスラグ及び前記第3のステップから収集された第2の基準直径以下のスラグを結合するステップ。
【0043】
一実施形態において、第1の基準直径は、200〜500mmの範囲でありうるし、第2の基準直径は、20〜70mmの範囲でありうる。
【0044】
一実施形態において、前記第2のステップにおいて鉄鋼材の選別は、磁力選別により行われることができる。
【0045】
次に、b)ステップにおいて、a)ステップから収集されたスラグから鉄鋼材を選別した後、残留する非着物質を収集できる。
【0046】
一実施形態において、前記b)ステップにおいて鉄鋼材の選別は、磁力選別及び風力選別により行われることができる。
【0047】
次に、c)ステップにおいて、b)ステップから収集された非着物質に対してCaO、SiO、Al、及びMgOを含む非鉄材料の集塵回収率を高める工程を行うことができる。
【0048】
CaO、SiO、Al、及びMgOなどの成分は、アスファルト混合物用剥離防止剤が求められる物性、特に、水分抵抗性を十分に発揮するのに主な役割をすることができるので、製造工程中にこれらの成分の回収率を高めて特定組成を有するようにすることができる。本発明のアスファルト混合物用剥離防止剤の製造方法において、このように、非鉄材料の集塵回収率を高める工程を行うことにより、CaO、SiO、Al、及びMgOなど、非鉄質類の有効成分が濃縮されるように鉄鋼スラグを精製することができ、これにより、最終的に製造された剥離防止剤が水分抵抗性を含むアスファルト混合物に求められる物性を発揮する特定組成を有するように調節することができる。
【0049】
一実施形態において、c)ステップは、b)ステップから収集された非着された物質に対して水分コーティング工程を行うことを含むことができる。このような水分コーティング工程は、スプレーノズルにより水道水または精製水を分当り3〜5kgの割合で供給することによって行われることができる。例えば、d)ステップの乾燥が行われるキルン投入前のステップであるホッパーにスプレーノズルを設けて水分コーティング工程を行うことができる。
【0050】
このように、乾燥ステップ前にb)ステップから収集された非着された物質に対して水分コーティング処理をすることにより、後続乾燥ステップにおいて、鉄質成分に比べて比重の低いCaO、SiO、Al、及びMgOなど、非鉄材料の揮発及び飛散が容易になり、集塵設備により集塵されるとき、これらの物質の回収率を最大化できる。
【0051】
次に、d)ステップにおいて、c)ステップから得られた物質を乾燥することができる。
【0052】
一実施形態において、乾燥は、水分含量が2重量%以下、好ましくは1重量%以下になるように行われることができる。
【0053】
一実施形態において、乾燥は、キルン内部にc)ステップから得られた物質を投入し、乾燥することによりなされることができ、乾燥温度は、350℃未満でありうる。
【0054】
次に、乾燥された物質を集塵設備により集塵することができる。前述したように、以前ステップで水分コーティング処理により乾燥するとき、CaO、SiO、Al、及びMgOなど非鉄材料の揮発及び飛散が容易となった状態で集塵設備に投入されるので、これらの非鉄材料の回収率が最大化されて集塵されることができる。
【0055】
次に、品質均一化工程を行うことができる。
【0056】
場合によって、d)ステップにおける乾燥工程にもかかわらず、水分含量が2重量%以下程度の水準であり、水分含量が不均一に形成される可能性があるので、品質均一化工程を介して水分含量が1重量%以下、好ましくは0.4〜0.6重量%の範囲になるようにし、全体的に水分分布が均一になるように制御することができる。
【0057】
一実施形態において、品質均一化工程は、エアースライドを用いて行われることができる。エアースライドは、粉粒体輸送、供給装置の一種であり、粉体層に空気を吹き込んで流動化させると、粒子はまるで流体のように、かなり流れやすくなる原理を利用する。構造は、キャンバスまたは多孔質板で上下を仕切った樋に沿って水平に対して傾斜をなすようにしてなされ、樋上部に供給された粉体は、多孔質板に沿って空気により流動化され、重力によって板状を流れ落ちるようになる。この過程で水分含量の均一化及び減少が行われて、最終的に収集された粉末形態のアスファルト混合物用剥離防止剤は、均一化された品質、すなわち、全体的に均一に分布された1重量%以下の水分含量を有することができる。
【0058】
本発明のさらに他の一実施形態は、アスファルト混合物に関するものであり、前記アスファルト混合物は、上記実施形態に係るアスファルト混合物用剥離防止剤、骨材、及びアスファルトを含むことができる。
【0059】
アスファルトでは、一般的に、道路舗装に用いられるいかなるアスファルトも利用可能である。アスファルトは、一般的に、ASTM D946による侵入度試験結果によって分類されることができる。現在、韓国で生産される代表的な道路舗装用アスファルトは、侵入度85〜100(AP−3)及び侵入度60〜70(AP−5)等級である。
【0060】
一実施形態において、前記アスファルト混合物用剥離防止剤は、骨材重量を基準に0.5〜6.0重量%、好ましくは1.0〜3.0重量%の含量で含まれることができる。アスファルト混合物用剥離防止剤の含量が0.5重量%未満である場合には、アスファルトと骨材との接着力が十分に確保されず、水分抵抗性が低下する恐れがあり、6.0重量%を超過する場合には、アスファルト混合物の他の物性が劣化する恐れがある。
【0061】
一実施形態において、前記アスファルトと前記骨材との重量割合は、3.5:96.5〜6.0:94.0の範囲でありうる。
【0062】
本発明に係るアスファルト混合物は、精製徐冷スラグを含む剥離防止剤を含むことにより、消石灰と類似するか、消石灰より向上した水分抵抗性を発揮でき、これと同時に、アスファルト混合物に対して求められる物性条件、例えば、塑性変形、引張強度、粘弾性挙動、及び長期共用性条件を満たすことができる。結果として、実際的に広範な適用が難しい消石灰や液状型剥離防止剤を代替した精製徐冷スラグを含む剥離防止剤を用いることにより、水分抵抗性だけでなく、他の物性の側面で優れた効果を発揮でき、経済的な効率性及び環境親和性の側面で実際的に広範に適用可能なアスファルト混合物を提供できる。
【0063】
本発明のさらに他の一実施形態は、アスファルト混合物の製造方法に関するものであり、前記製造方法は、上記実施形態によってアスファルト混合物用剥離防止剤を製造するステップと、加熱されたアスファルトに前記アスファルト混合物用剥離防止剤を投入して均一に混合するステップと、混合物を加熱された骨材に投入して混合するステップとを含むことができる。
【0064】
一実施形態において、前記アスファルト混合物用剥離防止剤は、骨材重量を基準に0.5〜6.0重量%、好ましくは1.0〜3.0重量%の含量で含まれることができる。アスファルト混合物用剥離防止剤の含量が0.5重量%未満である場合には、アスファルトと骨材との接着力が十分に確保されず、水分抵抗性が低下する恐れがあり、6.0重量%を超過する場合には、アスファルト混合物の他の物性が劣化する恐れがある。
【0065】
一実施形態において、前記アスファルトと前記骨材との重量割合は、3.5:96.5〜6.0:94.0の範囲でありうる。
【0066】
以下、本発明を実施例によってさらに詳細に説明する。しかし、下記の実施例は、本発明を例示するものであり、本発明の範囲が下記の実施例に限定されるものではない。
【0067】
[実施例]
1.精製徐冷スラグを含むアスファルト混合物用剥離防止剤の製造及び評価
原料である製鋼スラグ(Steel slag、Dangjin Integrated Steelworks社)を直径500mmを基準に1次粒度分離し、次いで、直径20mmを基準に2次粒度分離した。2次粒度分離工程により分離された直径20mmを超過するスラグに対して磁力選別工程を行い、鉄鋼材を選別し、残留する非着物質を直径20mm以下に破砕した。破砕された非着物質は、2次粒度分離工程により分離された直径20mm以下のスラグと結合して磁力選別及び風力選別工程を行い、鉄鋼材を選別し、残留する非着物質に対してキルン投入ホッパーに装着されたスプレーノズルを用いて分当り3〜5kgの割合で水道水または精製水を供給して水分コーティングした。これをキルン内部に投入して約350℃の温度で乾燥工程を行い、集塵設備により集塵した後、エアースライドを用いた品質均一化工程を行うことにより、粉末形態の精製徐冷スラグを含む14種のアスファルト混合物用剥離防止剤を製造した。これらは、表1及び2に記載された実施例1〜14で表される。
【0068】
製造された剥離防止剤に対してXRF分析で測定した組成を下記の表1に表す。下記の表1に表示された組成において、それぞれの剥離防止剤は、100質量%を基準に残部の水分及び微量元素を含み、これは表示しない。また、下記の表1において比較例1は、市販の消石灰(CHOONGMOO CHEMICAL Co.,Ltd.)、比較例2〜4は、市販の石灰石粉末(CHOONGMOO CHEMICAL Co.,Ltd.)、比較例5及び6は、回収ダストを表す。回収ダストは、当該技術分野に広く公知されており、アスファルト混合物の充填材として通常用いられる。比較例5及び6に用いられた回収ダストは、各々一般のAP−5のみを含有するアスファルト混合物(比較例5)、及び一般のAP−5及び1.5重量%石灰石粉末を含有するアスファルト混合物(比較例6)(これらのアスファルト混合物等は、動的浸漬試験と関連して下記に記述されたものである)の製造において、骨材を加熱するときに発生する粉塵を集塵することにより得られた。
【0069】
【表1】
【0070】
また、製造された剥離防止剤に対してXRD分析を行い、微細構造を分析した。分析結果を図1A図1Dに示す。図1A及び図1Bは、各々実施例1による精製徐冷スラグを含む剥離防止剤のXRD分析パターン及び分析パターンリストを示し、図1C及び図1Dは、各々消石灰のXRD分析パターン及び分析パターンリストを示す。
【0071】
図1A図1Dに示したように、本発明に係る精製徐冷スラグを含む剥離防止剤は、消石灰と類似したXRD分析パターンを見せ、結果として、消石灰と類似してアスファルト混合物の骨材表面にカルシウムイオンを沈殿させてアスファルトに含有された酸と結合し、不溶性塩を形成することにより、アスファルトと骨材との接着性能を向上させ得ることが確認できる。
【0072】
また、本発明に係る精製徐冷スラグを含む剥離防止剤に対してアスファルト舗装用充填材に関するKS F 3501による試験を行い、試験結果、規定された条件を全て満たした。結果を下記の表2に表す。
【0073】
【表2】
【0074】
以上の試験結果から明確に確認され得るように、本発明に係る精製徐冷スラグを含むアスファルト混合物用剥離防止剤は、アスファルト舗装用充填材に対して求められる物性条件を満たしており、特に、水分抵抗性の側面で消石灰と類似するか、さらに優れた効果を表すことができるので、実際、適用可能性が非常に制限的である消石灰や液状型剥離防止剤を代替して経済的及び効率的に産業分野で実際的に広く適用されることができる。
【0075】
2.アスファルト混合物の製造及び評価
精製徐冷スラグを用いる剥離防止剤を含むアスファルト混合物の製造及び性能評価は、室内で配合設計により製作したアスファルト混合物と、実際、アスファルトプラント現場で生産したアスファルト混合物とに対して同時に行われた。試験項目は、下記の表3に記載されたように、水分に対する剥離抵抗性、塑性変形抵抗性、線形粘弾性挙動特性、疲労亀裂抵抗性などであり、試験方法、関連した力学的特性及び条件は、下記の表3に表される。
【0076】
【表3】
【0077】
試験に使用された室内製作アスファルト混合物試験片は、国土交通部指針で提示している表層用アスファルト混合物であるWC−3(20)を基準に製作し、国土交通部のアスファルトコンクリート舗装施工指針に提示されている室内配合設計手順に基づいて配合設計を行った。配合設計は、韓国のアスファルトプラントの現場与件を反映してマーシャル配合設計を行い、空隙率4%を有するアスファルト含量を最適アスファルト含量として決定した。アスファルトプラント現場で生産されたアスファルト混合物の配合設計は、当該アスファルトプラントで使用している骨材とアスファルトバインダーとを用いて生産及び試料を製作し、当該プラントで行った配合設計結果に基づいて試験片を製作した。
【0078】
(1)動的浸漬試験(Dynamic Immersion Test)
精製徐冷スラグが含有されたアスファルト混合物の水分抵抗性評価のために、本研究では、締固めを伴わない混合物に対する水分敏感度評価として韓国の「アスファルトコンクリート舗装施工指針」(国土交通部、2017)に収録されており、ヨーロッパのBS EN126911に規定されている、比較的実験方法が簡単な動的浸漬試験を行った。
【0079】
動的浸漬試験は、アスファルトバインダーがコーティングされた骨材を対象としてアスファルト混合物が浸漬状態で骨材とアスファルトバインダーとの間の親密性を評価する試験方法であって、11.2mmを通過し、8mmより小さい骨材を使用する。具体的な試験方法では、規格に合う骨材を水で綺麗に洗って骨材に残っている微粉を除去し、105±5℃オーブンに重量の変化がなくなるまで加熱した後、冷やす。その後、510±2gの骨材をアスファルトバインダー16gと混合温度で混合して完全にコーティングさせる。そして、16時間以上常温で養生後、20〜25℃の環境で60rpmで規格に合う蒸溜水が入った実験容器に入れて24時間ローリング後、アスファルトバインダーが骨材に被覆されている状態を目視で評価する方法である。動的浸漬試験は、正確な定量的評価が難しいが、目視でアスファルトが骨材をコーティングした部分の剥離程度を評価でき、国土交通部指針では、目視剥離程度が50%以上の場合、消石灰または液状型剥離防止剤を使用するように規定している。
【0080】
本研究において行われた動的浸漬試験は、国土交通部のアスファルトコンクリート舗装施工指針に、消石灰使用量を骨材重量に対して最大1.5%に規定しており、精製徐冷スラグ及び消石灰を使用骨材510gに対して1.5%を投入し、精製徐冷スラグと消石灰を投入したとき、骨材とアスファルトバインダーとの間の付着性能を比較した。また、比較群として他の材料を添加しなかったときと微粉末の影響を比較するために、石灰石粉末1.5%を投入して動的浸漬試験を行った。このときに使用されたアスファルトバインダーは、韓国で一般的に使用されるPG 64−22のAP−5を使用した。動的浸漬試験後の結果を図2A図2Dに示す。
【0081】
図2Aは、他の添加剤が含まれず、一般のAP−5のみ添加された混合物、図2Bは、石灰石粉末1.5%が添加された混合物、図2Cは、消石灰1.5%が添加された混合物、図2Dは、実施例1による精製徐冷スラグを用いた剥離防止剤が添加された混合物を示す。
【0082】
図2Dに示したように、精製徐冷スラグを用いた剥離防止剤が添加されたアスファルト混合物の場合、骨材にアスファルトバインダーがほとんど残っていることを目視で確認することができる。このような結果は、図2Cに示した消石灰を1.5%添加したときと類似した水準であって、約80%以上のバインダーが骨材によくコーティングされていることと判断される。これに対し、図2Aに示した一般のAP−5のみ添加されたアスファルト混合物の場合、バインダー被覆率が20%以下であって、ほとんどのアスファルトバインダーが骨材からはがれたことを目視で確認することができる。また、図2Bに示した石灰石粉末1.5%が含有されたアスファルト混合物の場合、実験後、被覆率が約20%程度水準であり、石灰石粉末がアスファルトを一部吸収して骨材に付着されている形態に表れたことと判断される。
【0083】
動的浸漬試験結果、本発明に係る精製徐冷スラグは、アスファルト混合物に使用されて、消石灰と類似した水準で水分抵抗性を向上させ得ることを確認した。
【0084】
(2)間接引張強度比(Indirect tensile strength ratio)試験
間接引張強度比試験は、室内で製作された試験片とプラント現場で製作された試験片とを対象として国際的に幅広く使用されているAASHTO T 283規定によって行われた。室内で製作された試験片は、充填材として使用される石灰石粉末を代替して実施例5の精製徐冷スラグ1%、1.5%、2%、3%の割合で添加して製作し、プラントで製作された試験片は、回収ダスト及び石灰石粉末を代替して実施例5による精製徐冷スラグを0%、1%、2%、3%の割合で添加した。室内で製作された試験片は、室内配合設計結果に基づいて決定された合成粒度と最適アスファルト含量を適用し、アスファルトプラント現場で製作された試験片は、アスファルトプラント現場で使用している配合設計結果に基づいて製作した。間接引張強度比試験のためのアスファルト混合物に対して、韓国のアスファルトプラント状況を考慮して旋回の締固め機を使用せずにマーシャルの締固め機を使用して、空隙率7±0.5%が得られるように締固めを施行して締固めの供試体を製作した。試験片の種類別に、3個の供試体は、乾燥状態、残りの3個は、各々真空処理及び水分処理した後、間接引張強度試験を行った。乾燥試験用供試体は、試験前まで常温に養生し、ホイル(foil)などで密封してプラスチック試料箱に入れ、25℃の恒温水槽に最大2時間の間養生した後、間接引張強度試験を行った。残りの3個の供試体は、真空処理後、60±1℃の温度で恒温水槽に24±1時間の間養生後、試料を取り出して25±1℃の水槽に2±0.5時間の間置いた後、間接引張強度試験を行った。
【0085】
引張強度比(TSR、Tensile Strength Ratio)は、乾燥状態と湿潤状態で測定した引張強度値を用いて、次のような式により計算する。
【0086】
【数1】
【0087】
ここで、
【0088】
【数2】
【0089】
アスファルト混合物の水分損傷に対する抵抗性は、TSR値が大きいほど優れているといえる。
【0090】
室内で製作された試験片の精製徐冷スラグ含量別の間接引張強度試験結果を図3Aに示し、アスファルトプラント現場で製作された精製徐冷スラグ含量別の間接引張強度試験結果を図3Bに示す。図3A及び図3Bにおいて、「S」は、本発明の実施形態に係る精製徐冷スラグ、「L」は、石灰石粉末、「H」は、消石灰、図3Bの「D」は、回収ダストを示し、これらの文字とともに記載された数字は、各成分の含量(重量%)を示すものであり、例えば、「S1.0_L2.0」は、精製徐冷スラグ1.0重量%及び石灰石粉末2.0重量%が含まれたことを示す。
【0091】
図3Aに示したように、室内で製作された試験片の間接引張強度試験結果、実施形態に係る精製徐冷スラグ(S)の含量が増加するにつれて間接引張強度比が増加する傾向があることと分析された。これは、徐冷スラグがアスファルト混合物に使用された石灰石粉末(L)を代替することにより、消石灰(H)のような化学的反応を介して不溶性塩の沈殿が多く発生し、骨材とアスファルトバインダーとの間の接着性能を向上させて表れた結果であることと判断される。一方、消石灰及び徐冷スラグが含有された全ての供試体において、国土交通部のアスファルトコンクリート舗装施工指針に提示されている間接引張強度比品質基準を全て満たすものと表れた。
【0092】
また、図3Bに示したように、アスファルトプラント現場で製作された試験片の間接引張強度試験結果、実施形態に係る精製徐冷スラグ(S)の含量が増加するにつれて間接引張強度比が増加する傾向があることと分析された。これにより、実施形態に係る精製徐冷スラグ(S)が室内及び現場の両方で水分抵抗性向上に寄与することが確認できる。精製徐冷スラグ(S)が含有された供試体は、3つ共に国土交通部の品質基準を満たしたが、精製徐冷スラグ(S)が含有されておらず、回収ダスト(D)と石灰石粉末(L)とが30:70の割合で使用骨材重量に対して3%のみが充填材として含まれた供試体(図3BにおいてS0.0_D&L3.0に表示された供試体)は、国土交通部の品質基準を満たしていないことと分析された。
【0093】
(3)ハンブルグホイールトラッキング試験(Hamburg WheelTracking Test)
ハンブルグホイールトラッキング試験は、塑性変形と水分敏感度とを同時に測定できる試験であって、AASHTO T 324に規定されており、50℃の高温の水に締固められた供試体を浸水させて705±4.5Nの車輪荷重を繰り返して載荷して、毎回沈下量を測定する試験法である。一般的に、米国運輸省では、20,000回の車輪荷重を載荷し、剥離が発生する地点が最小10,000回以後発生し、20,000回での沈下量が20mmを超過しないアスファルト混合物を使用するように規定している。水分敏感度の場合、ハンブルグホイールトラッキング試験の際、沈下量傾きが急変する地点を剥離発生点(Stripping Point)と規定し、剥離が発生する地点が遅く発生するほど、水分敏感度に優れたアスファルト混合物と評価する。試験に用いられたアスファルト混合物は、実施例12による精製徐冷スラグを用いて製造された。
【0094】
室内で製作された試験片の場合、アスファルト混合物の重量に対して充填材の配合割合が3%、2%である2つの場合に対して試験を行った。充填材配合比が3%である場合、精製徐冷スラグ(S)1%、2%、3%を充填材である石灰石粉末(L)を代替して供試体を製作し、比較群として国土交通部で提示している消石灰(H)の最大含量1.5%の供試体を製作して試験を行った。また、充填材配合比が2%である場合、精製徐冷スラグ(S)と消石灰(H)とが各々1%である供試体を製作して試験を行った。
【0095】
室内で製作された試験片のハンブルグホイールトラッキング試験結果及びハンブルグホイールトラッキング試験後の供試体の表面形状を各々図4A及び図4Bに示し、アスファルトプラント現場で製作された試験片のハンブルグホイールトラッキング試験結果及びハンブルグホイールトラッキング試験後の供試体の表面形状を各々図4C及び図4Dに示す。図4A図4Dにおいて、「S」は、本発明の実施形態に係る精製徐冷スラグ、「L」は、石灰石粉末、「H」は、消石灰を示し、図4Cにおいて、「D」は、回収ダストを示し、図4A及び図4Cにおいてこれらの文字とともに記載された数字は、各成分の含量(重量%)を示すものであって、例えば、「S1.0_L2.0」は、精製徐冷スラグ1.0重量%及び石灰石粉末2.0重量%が含まれたことを示す。図4Aに示したように、室内で製作された試験片のハンブルグホイールトラッキング試験結果、車輪荷重が20,000回通過したときの沈下量は、5〜10mm範囲であって、米国において規定している20mm基準を全て満たした。比較群として分析した消石灰1.5%の供試体は、5.87mmの変形が発生し、これは、徐冷スラグ1%とほとんど類似した結果を見せた。充填材配合比2%である場合、精製徐冷スラグ(S)が1%含有された供試体は、車輪荷重20,000回通過時、5.70mm、消石灰(H)1%の場合、9.45mmであり、精製徐冷スラグ(S)が1%含有された供試体が消石灰(H)より多少塑性変形抵抗性に優れたことと表れた。
【0096】
また、図4Bに示したハンブルグホイールトラッキング試験後の供試体の表面形状によれば、供試体表面の剥離現象が目視でほとんど見えず、これは、精製徐冷スラグ(S)及び消石灰(H)の両方がアスファルト混合物に適用されたとき、剥離に対する抵抗性を増進させることを表す。
【0097】
一方、アスファルトプラント現場で製作された試験片の場合、回収ダスト(D)及び精製徐冷スラグ(S)を使用してハンブルグホイールトラッキング試験を行った。図4Cに示したように、アスファルトプラント現場で製作された試験片のハンブルグホイールトラッキング試験結果、車輪荷重が20,000回通過したときの沈下量は、5〜10mm範囲であって、米国において規定している20mm基準を全て満たし、精製徐冷スラグ(S)が含まれていない供試体(図4CにおいてD&F 3.0で記載されたもの)の場合、最も多い変形が発生したことを確認することができる。
【0098】
また、図4Dに示したハンブルグホイールトラッキング試験後の供試体の表面形状によれば、精製徐冷スラグ(S)が含有されていない供試体(図4Dにおいて0%で記載されたもの)では、試験後、表面に一部剥離現象が発生したことが観察されたのに比べて、精製徐冷スラグ(S)が含有された供試体では、剥離現象が発生されていないことを観察できる。これは、精製徐冷スラグ(S)がアスファルト混合物内で骨材とアスファルトバインダーとの間の付着性能を向上させたことを目視でも確認できる結果といえる。
【0099】
(4)線形粘弾性挙動特性評価
実施例7による精製徐冷スラグを用いて製造されたアスファルト混合物の線形粘弾性挙動特性を評価するために、動弾性係数実験を行い、実験は、20、10、5、1、0.5、0.1Hzの荷重周期と5、20、40、54℃の温度で行われ、AASHTO TP 62基準手順にしたがって行われた。荷重レベルは、総変形率が50〜75μsを有するように調節した。
【0100】
低温領域及び高温領域における動弾性係数試験結果を各々図5A及び図5Bに示す。図5A及び図5Bは、基準温度5℃における徐冷スラグ含量別の低温及び高温での動弾性係数マスターカーブを見せる。一般的に、高い荷重周期(または、低温)で低い剛性(stiffness)を表し、低い荷重周期(または、高温)では、高い剛性を有する混合物が塑性変形及び亀裂抵抗性に優れた混合物と評価される。図5A及び図5Bに示したように、荷重周期の大きさと関係なく、精製徐冷スラグ0%であるアスファルト混合物(Slag−0)と精製徐冷スラグ1%、2%(Slag−1、Slag−2)であるアスファルト混合物との温度に応じる動弾性係数の変化は大きい差を見せなかった。これは、精製徐冷スラグがアスファルト混合物に投入されるとしても、アスファルト混合物の粘弾性挙動特性は変化しないということを意味し、アスファルトコンクリート舗装の力学的挙動特性に変化を与えないので、アスファルトコンクリート用として使用可能であることを意味する。
【0101】
(5)小型舗装加速試験(Model Mobile Load Simulator)
MMLS3は、現場及び室内でも使用可能な装備であって、full scale asphalt pavement testを1/3に縮小した装備であり、一方向に車両荷重を摸写できるように設計された装備である。小型舗装加速試験は、温度調節が可能な環境チャンバ内にMMLS3を設けた後、交通荷重を付加することにより、様々な温度での舗装性能を評価できる。MMLS3を活用したアスファルト舗装の共用性試験は規格化されてはいないが、世界的に多くの研究がMMLS3装備を活用して推進されている。MMLS3を活用することにより、疲労亀裂、塑性変形、表面摩耗抵抗性、繊維補強オーバーレイ舗装性能、現場舗装共用性などの道路舗装の性能を評価できるためである。
【0102】
本試験でも、実施例8による精製徐冷スラグを用いて、精製徐冷スラグ含量別にアスファルト混合物スラブを30×30×10cmのサイズで製作して実験を行い、実験の際、供試体内に水を注入し続けて手中での供試体の剥離程度を評価した。評価結果を図6に示す。
【0103】
図6に示したように、精製徐冷スラグが含有されていない一般のアスファルト(図6に0%で表示されたもの)の場合、MMLS3荷重を80,000回通過の際、アスファルト舗装面の剥離程度が目視でも確認できる程度に剥離が起こったことを確認することができ、精製徐冷スラグの含有量が増加するほど、剥離があまり起こっていないことが確認できた。
【0104】
以上の評価結果から、本発明に係る精製徐冷スラグを含むアスファルト混合物用剥離防止剤は、特定工程により水分抵抗性を発揮するように調節された組成を含むことにより、アスファルト混合物に適用される場合、消石灰と類似して水分抵抗性を発揮でき、これと同時に、塑性変形抵抗性、引張強度、道路舗装としての共用性のようなアスファルト混合物としての他の物性を満たし得ることが確認できる。したがって、精製徐冷スラグを含むアスファルト混合物用剥離防止剤は、アスファルト混合物の高温及び低温での共用性低下を発生させずに、アスファルト混合物に適用されることができ、水分抵抗性を含む優れた物性を発揮するとともに、経済的効率性及び環境親和性を高めることができる。
【0105】
本発明は前述した実施形態及び添付された図面により限定されるものではなく、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で様々な置換、変形、及び変更が可能であるということが本発明の属する技術分野における通常の知識を有する者に明白であろう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図2D
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図4D
図5A
図5B
図6