特許第6722331号(P6722331)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社カネカの特許一覧 ▶ 独立行政法人国立病院機構の特許一覧

<>
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000003
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000004
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000005
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000006
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000007
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000008
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000009
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000010
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000011
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000012
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000013
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000014
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000015
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000016
  • 特許6722331-細胞培養培地及びそれを用いた培養方法 図000017
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722331
(24)【登録日】2020年6月23日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】細胞培養培地及びそれを用いた培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0735 20100101AFI20200706BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20200706BHJP
   C12M 3/00 20060101ALN20200706BHJP
【FI】
   C12N5/0735
   C12N5/10
   !C12M3/00 A
【請求項の数】15
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2019-98250(P2019-98250)
(22)【出願日】2019年5月27日
(62)【分割の表示】特願2015-550903(P2015-550903)の分割
【原出願日】2014年11月21日
(65)【公開番号】特開2019-154445(P2019-154445A)
(43)【公開日】2019年9月19日
【審査請求日】2019年5月27日
(31)【優先権主張番号】特願2013-244758(P2013-244758)
(32)【優先日】2013年11月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(73)【特許権者】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】100141139
【弁理士】
【氏名又は名称】及川 周
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100162868
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 英輔
(74)【代理人】
【識別番号】100178847
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 映美
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智久
(72)【発明者】
【氏名】金村 米博
(72)【発明者】
【氏名】正札 智子
(72)【発明者】
【氏名】福角 勇人
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 J. Biotechnol.,2007年 6月30日,Vol.130, No.3,p.320-328
【文献】 Int. J. Dev. Biol.,2010年,Vol.54, No.5,p.877-886
【文献】 Mol. Endocrinol.,2010年 1月,Vol.24, No.1,p.193-203
【文献】 Arthritis. Rheum.,1997年 8月,Vol.40, No.8,p.1455-1465
【文献】 Reproduction,2008年 1月,Vol.135, No.1,p.77-87
【文献】 Vitam. Horm.,2008年,Vol.78,p.185-209
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離した成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)を含有し、フィーダー細胞で馴化されていない多能性幹細胞培養培地。
【請求項2】
培地中に含まれる成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)の濃度が2ng/ml以上100ng/ml以下である、請求項1に記載の多能性幹細胞培養培地。
【請求項3】
さらに、デコリン(Decorin)、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(Matrix Metalloproteinase-3(MMP3))、オステオポンチン(Osteopontin(OPN))、アポトーシスのTNF関連弱誘導因子受容体(TNF-related Weak Inducer of Apoptosis Receptor(TWEAK R))、インスリン様成長因子結合タンパク質2(Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2))、ガレクチン1(galectin 1(LGALS1))、及びインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1(IGF-1))からなる群より少なくとも1つ以上を含有する、請求項1又は2に記載の多能性幹細胞培養培地。
【請求項4】
多能性幹細胞がiPS細胞(induced pluripotent stem cells)である、請求項1から3の何れか一項に記載の多能性幹細胞培養培地。
【請求項5】
血清を含まない、請求項1から4の何れか一項に記載の多能性幹細胞培養培地。
【請求項6】
単離した成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)と、フィーダー細胞で馴化されていない基本培地とを含有する多能性幹細胞用培地キット。
【請求項7】
さらに、デコリン(Decorin)、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(Matrix Metalloproteinase-3(MMP3))、オステオポンチン(Osteopontin(OPN))、アポトーシスのTNF関連弱誘導因子受容体(TNF-related Weak Inducer of Apoptosis Receptor(TWEAK R))、インスリン様成長因子結合タンパク質2(Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2))、ガレクチン1(galectin 1(LGALS1))、及びインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1(IGF-1))からなる群より少なくとも1つ以上を含有する、請求項6に記載の多能性幹細胞用培地キット。
【請求項8】
多能性幹細胞がiPS細胞である、請求項6又は7に記載の多能性幹細胞用培地キット。
【請求項9】
(a)請求項1から5の何れか一項に記載の多能性幹細胞培養培地又は請求項6から8の何れか一項に記載の多能性幹細胞用培地キットと、(b)細胞培養装置とを含む、多能性幹細胞培養システム。
【請求項10】
フィーダー細胞で馴化されていない培地に単離した成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)を添加し、多能性幹細胞培養培地を調製する工程、及び
前記多能性幹細胞培養培地を用いて多能性幹細胞を培養する工程を含む、
多能性幹細胞の製造方法。
【請求項11】
前記フィーダー細胞で馴化されていない培地に、デコリン(Decorin)、マトリックスメタロプロテアーゼ−3(Matrix Metalloproteinase-3(MMP3))、オステオポンチン(Osteopontin(OPN))、アポトーシスのTNF関連弱誘導因子受容体(TNF-related Weak Inducer of Apotosis Receptor(TWEAK R))、インスリン様成長因子結合タンパク質2(Insulin-like growth factor-binding protein 2 (IGFBP2))、ガレクチン1(galectin1(LGALS1))、及びインスリン様成長因子−1(insurin-like growth factor-1(IGF-1))からなる群より少なくとも1つ以上を添加する工程を含む、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記フィーダー細胞で馴化されていない培地に添加された成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)の濃度が、2ng/ml以上100ng/ml以下である、請求項10又は11に記載の製造方法。
【請求項13】
多能性幹細胞をフィーダー細胞の非存在下において培養する、請求項10から12の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項14】
細胞外マトリックスでコーティングされていない表面を有する培養基材上において多能性幹細胞を培養する請求項10から13の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項15】
細胞外マトリックスでコーティングされている培養基材上において多能性幹細胞を培養する請求項10から14の何れか一項に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞培養培地、並びに細胞の培養方法に関する。さらに本発明は、上記培養方法において使用できるフィーダー細胞、並びに細胞を培養するための培地を評価する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の研究により、ヒトES細胞(hESC)又はヒトiPS細胞(hiPSC)等のヒト多能性幹細胞は、再生医療分野において実用化の可能性が高まっている。これらの多能性幹細胞は、無限に増殖できる能力と様々な細胞に分化する能力とを有しており、難治性疾患、生活習慣病等に対する治療手段として期待されている。ヒト多能性幹細胞は、神経細胞、心筋細胞、血液細胞又は網膜細胞などの多様な細胞に試験管内で分化誘導できることが示されている。
【0003】
フィーダー細胞は、ヒト多能性幹細胞を維持培養するための増殖因子を幹細胞に供給する働きをする。そのため、従来においては、hESCやhiPSC等のヒト多能性幹細胞の培養は、主にマウス由来フィーダー細胞(MEF:mouse embryonic fibroblast)層上で行われていた。ヒト多能性幹細胞の維持培養を可能とする活性は、種々のヒト細胞腫でも報告されている(非特許文献1〜4)。しかし、マウス由来のフィーダー細胞を用いる方法は、ヒト多能性幹細胞にフィーダー細胞が混入するため、生体に対する安全性に問題があった。またヒト由来のフィーダー細胞を使用する培養方法には、培養時にフィーダー細胞を調製するのに手間がかかるという問題があった。
【0004】
MEFなどのフィーダー細胞を使用することなくヒト多能性幹細胞を培養する方法としては、予め培地をMEFで馴化する方法(MEF-CM)やMEFを化学的に固定化する方法が知られている(非特許文献5)。また、異種細胞を用いることなく、線維芽細胞、胎盤細胞、骨髄細胞、子宮内膜細胞などの各種ヒト由来細胞を生フィーダー細胞として用いる方法も報告されている(非特許文献6)。さらに、ヒト多能性幹細胞を培養するために、牛血清やKNOCKOUTTM SR(Knockout Serum Replacement:血清の代わりとして用いることによりES/iPS細胞を培養することができる添加剤)などを含む培地が使用されている。しかし、これらはウシ血清から抽出されたタンパク質を添加したものが多く、牛海綿状脳症(BSE)などの感染症や、ウイルスによる細胞汚染が懸念されている。ヒト由来血清を使用する場合もあるが、使用する上での制約や有限なものであるため実用的ではない。また、これらの血清あるいは血清代替物を含むヒト多能性幹細胞用の培地をMEFで馴化した培地によれば、ヒト多能性幹細胞の無フィーダー培養が可能になることが知られている。しかし、大量の血清由来タンパク質が含まれている培地において、MEFにより分泌されるヒト多能性幹細胞の増殖に有益な因子を同定することは困難であった。このような因子の同定のため、MEF-CMで培養したヒトES細胞で特異的に変化するレセプター蛋白質を解析することも行われている(非特許文献7)。
【0005】
また、MEFを用いずに培養するためのケミカルデファインドな培地の開発も進められており、ウシ血清由来の成分の混入の問題も回避されつつある(非特許文献8及び9)。MEFの分泌物より機能性蛋白質の解析も取り組まれている(非特許文献10)。また。ビトロネクチン:IGF1キメラタンパク質の添加によりフィーダー細胞を使用せずに胚性幹細胞を培養できることが報告されている(非特許文献11)。IGFを含む市販の培地としては、STEM CELL Technologies社のmTeSR1(登録商標)や、Life Technologies社のSTEMPRO(登録商標)などが知られている。しかしながら、ヒト多能性幹細胞の培養において、安定して培養できないことや、増殖性が劣るといった課題があった。
【0006】
一方、特許文献1には、内因的に発現される少なくとも一のタンパク質混入物を、修飾がない場合の宿主細胞よりも実質的に少ない量で有する対象とするビタミンK依存性タンパク質を含有してなる組成物の生成方法であって、a) 本発明に記載の宿主細胞を生成する;及び、b) 成長培地中で該宿主細胞を生育させ、対象とするビタミンK依存性タンパク質を含んでなる該成長培地を回収するという工程を含んでなる方法が記載されており、ビタミンK依存性タンパク質の一例としてGAS-6が記載されている(段落番号0008及び0035)。特許文献2には、傷アッセイを行う際に、10%FCS及びGAS6を含有する培地で細胞を培養することが記載されている(段落番号0059)。また、特許文献3には、ニューロン増殖エンハンサーとしてgas6を培地に含有させることが記載されている(段落番号0235)。しかし、無血清培地にGAS6を添加することについての報告はない。
【0007】
また、GAS6は受容体型チロシンキナーゼのリガンドであることが明らかにされている(非特許文献12)。受容体型チロシンキナーゼには、EGFR、ERBB2,ERBB3、ERBB4、INSR、IGF―1R、IRR、PDGFRα、PDGFRβ、CSF―1R、KIT/SCFR、FLK2/FLT3、VEGRF1〜3、FGFR1〜4、CCK4、TRKA、TRKB、TRKC、MET、RON、EPHA1〜8、EPHB1〜6、AXL、MER、TYRO3、TIE、TEK、RYK、DDR1、DDR2、RET、ROS、LTK、ALK、ROR1、ROR2、MUSK、AATYK、AATYK2、AATYK3、RTK106などがある。GAS6は、TAM (TYRO3、AXL、MER)ファミリーの受容体型チロシンキナーゼのリガンドとして機能することが報告されている(非特許文献13)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2009−501014号公報
【特許文献2】特表2005−532805号公報
【特許文献3】特開2009−77716号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Hovatta O, Mikkola M, Gertow K et al. A culture system using human foreskin fibroblasts as feeder cells allows production of human embryonic stem cells. Hum Reprod 2003;18:1404-1409.
【非特許文献2】Richards M, Fong CY, Chan WK et al. Human feeders support prolonged undifferentiated growth of human inner cell masses and embryonic stem cells. Nat Biotechnol 2002;20:933-936.
【非特許文献3】Cheng L, Hammond H, Ye Z et al. Human adult marrow cells support prolonged expansion of human embryonic stem cells in culture. Stem Cells 2003;21:131-142.
【非特許文献4】Richards M, Tan S, Fong CY et al. Comparative evaluation of various human feeders for prolonged undifferentiated growth of human embryonic stem cells. Stem Cells 2003;21:546-556.
【非特許文献5】Yue X-S, Fujishiro M, Nishioka C, Arai T, Takahashi E, Gong J-S, Akaike T, Ito Y. Feeder cells support the culture of induced pluripotent stem cells even after chemical fixation. PLoS ONE 2012;7:e32707.
【非特許文献6】福角勇人、金村米博 ヒトES/iPS細胞の無フィーダー細胞培養技術の開発 医学のあゆみ 2011;239:1338-1344.
【非特許文献7】Wang L, Schulz TC, Sherrer ES, Dauphin DS, Shin S et al. Self-renewal of human embryonic stem cells requires insulin-like growth factor-1 receptor and ERBB2 receptor signaling. Blood 2007;110:4111-4119.
【非特許文献8】Veronika A, Peter WA, Stephen B, Nissim B, Jennifer B et al. Comparison of defined culture systems for feeder cell free propagation of human embryonic stem cells. In Vitro Cell Dev Biol Anim. 2010;46:247-58.
【非特許文献9】Chen G, Gulbranson DR, Hou Z, Bolin JM, Ruotti V, Probasco MD et al. Chemically defined conditions for human iPSC derivation and culture. Nat Methods. 2011;8:424-429.
【非特許文献10】Chin AC, Fong WJ, Goh LT, Philp R, Oh SK, Choo AB. Identification of proteins from feeder conditioned medium that support human embryonic stem cells. Journal of Biotechnology, 2007; 130:320-8.
【非特許文献11】Manton KJ, Richards S, Van Lonkhuyzen D, Cormack L, Leavesley D, Upton Z, A chimeric vitronectin: IGF-I protein supports feeder-cell-free and serum-free culture of human embryonic stem cells, Stem Cells Dev. 2010, 19(9):1297-1305
【非特許文献12】下田純一、濱本高義 Gas6の欠損マウス 血栓止血誌 2001;12(6):514-521.
【非特許文献13】Vyacheslav AK. Axl-dependent signaling: a clinical update. Clinical science 2012;122:361-368.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、フィーダー細胞を使用することなく細胞の増殖効率を高めることができる細胞培養培地であって、特に血清を含まない細胞培養培地を提供することを解決すべき課題とした。さらに本発明は、上記した細胞培養培地を用いて細胞を培養する方法を提供することを解決すべき課題とした。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ヒト多能性幹細胞の無血清培地にGAS6を添加することにより、フィーダー細胞と共培養することなくヒト多能性幹細胞の増殖を促進できることを見出し、本発明を完成するに到った。即ち、本発明によれば、ヒト多能性幹細胞の増殖を促進する因子としてGAS6が同定された。
【0012】
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)を含有し、血清を含まない細胞培養培地。
(2)培地中に含まれる成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)の濃度が2ng/ml以上100ng/ml以下である、(1)に記載の細胞培養培地。
(3)さらに、デコリン(Decorin)、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(Matrix Metalloproteinase-3(MMP3))、オステオポンチン(Osteopontin(OPN))、アポトーシスのTNF関連弱誘導因子受容体(TNF-related Weak Inducer of Apoptosis Receptor(TWEAK R))、インスリン様成長因子結合タンパク質2(Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2))、ガレクチン1(galectin 1(LGALS1))、及びインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1(IGF-1))からなる群より少なくとも1つ以上を含有する、(1)又は(2)に記載の細胞培養培地。
(4)アルブミンを含まない、(1)から(3)の何れか一に記載の細胞培養培地。
(5)細胞が、マウス由来の細胞またはヒト由来の細胞である、(1)から(4)の何れか一に記載の細胞培養培地。
(6)細胞が多能性幹細胞である、(1)から(5)の何れか一に記載の細胞培養培地。
(7)多能性幹細胞がiPS細胞(induced pluripotent stem cells)である、(6)に記載の細胞培養培地。
【0013】
(8)成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)と、基本培地とを含有する細胞用培地キット。
(9)基本培地が、Essential 8(登録商標)培地である、(8)に記載の細胞用培地キット。
(10)さらに、デコリン(Decorin)、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(Matrix Metalloproteinase-3(MMP3))、オステオポンチン(Osteopontin(OPN))、アポトーシスのTNF関連弱誘導因子受容体(TNF-related Weak Inducer of Apoptosis Receptor(TWEAK R))、インスリン様成長因子結合タンパク質2(Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2))、ガレクチン1(galectin 1(LGALS1))、及びインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1(IGF-1))からなる群より少なくとも1つ以上を含有する、(8)又は(9)に記載の細胞用培地キット。
【0014】
(11)細胞が、マウス由来の細胞またはヒト由来の細胞である、(8)から(10)の何れか一に記載の細胞用培地キット。
(12)細胞が多能性幹細胞である、(8)から(11)の何れか一に記載の細胞用培地キット。
(13)多能性幹細胞がiPS細胞又はES細胞である、(12)に記載の細胞用培地キット。
(14)(a)(1)から(7)の何れか一に記載の細胞培養培地又は(8)から(13)の何れか一に記載の細胞用培地キットと、(b)細胞培養装置とを含む、細胞培養システム。
(15)(1)から(7)の何れか一に記載の細胞培養培地、(8)から(13)の何れか一に記載の細胞用培地キット、又は(14)に記載の細胞培養システムのいずれかを用いて細胞を培養する工程を含む、細胞の培養方法。
【0015】
(16)細胞をフィーダー細胞の非存在下において培養する、(15)に記載の培養方法。
(17)細胞外マトリックスでコーティングされていない表面を有する培養基材上において細胞を培養する、(15)又は(16)に記載の培養方法。
(18)細胞外マトリックスでコーティングされている培養基材上において細胞を培養する(15)又は(16)に記載の培養方法。
(19)細胞外マトリックスが、ゼラチン、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から産生される単離した基底膜成分であるマトリゲル、胎盤マトリクス、メロシン、テネイシン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、アグレカン、ビグリカン、トロンボスポンジン、ラミニン(ラミニン-511、ラミニン-111、ラミニン-332)、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、E-カドヘリン、デコリン、合成ペプチド、合成ポリマー、MEF又はヒト血清又は脱落膜間葉系細胞由来の細胞外マトリクスからなる群のいずれか一つ以上である、(17)又は(18)に記載の培養方法。
(20)細胞が、マウス由来の細胞またはヒト由来の細胞である、(15)から(19)の何れか一に記載の培養方法。
(21)細胞が多能性幹細胞である、(15)から(20)の何れか一に記載の培養方法。
(22)多能性幹細胞がiPS細胞(induced pluripotent stem cells)である、(21)に記載の培養方法。
【0016】
(23)成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を導入したフィーダー細胞の存在下において細胞を培養する工程を含む、細胞の培養方法。
(24)フィーダー細胞が、MEF(mouse embryonic fibroblast)、STO細胞株(ATCC寄託番号 CRL−1503)、線維芽細胞、胎盤細胞、骨髄細胞、及び子宮内膜細胞の群より選ばれる、(23)に記載の培養方法。
(25)細胞が、マウス由来の細胞またはヒト由来の細胞である、(23)又は(24)に記載の培養方法。
(26)細胞が多能性幹細胞である、(23)から(25)の何れか一に記載の培養方法。
(27)多能性幹細胞がiPS細胞(induced pluripotent stem cells)である、(26)に記載の培養方法。
【0017】
(28)成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を導入したフィーダー細胞。
(29)フィーダー細胞が、MEF(mouse embryonic fibroblast)、STO細胞株(ATCC寄託番号 CRL−1503)、線維芽細胞、胎盤細胞、骨髄細胞、及び子宮内膜細胞の群より選ばれる、(28)に記載のフィーダー細胞。
(30)培地中に含まれる成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)を検出又は定量することを含む、細胞を培養するための培地を評価する方法。
【0018】
(31)抗GAS6抗体又はGAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤を含む、多能性幹細胞の増殖抑制剤。
(32)GAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤が、
BMS777607[N-(4-((2-アミノ-3-クロロピリジン-4-イル)オキシ)-3-フルオロフェニル)-4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド]、
R428[1-(6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ [2,3]シクロヘプタ [2,4-d]ピリダジン-3-イル)-3-N-[(7S)-7-ピロリジン-1-イル-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ [7]アンヌレン-3-イル]-1,2,4-トリアゾール-3,5-ジアミン]、及び
UNC569[1-((トランス-4-アミノシクロヘキシル)メチル)-N-ブチル-3-(4-フルオロフェニル)-1H-ピラゾロ [3,4-d]ピリミジン-6-アミン]
から選ばれる1種以上である、(31)に記載の増殖抑制剤。
(33)多能性幹細胞が、iPS細胞(induced pluripotent stem cells)である、(31)又は(32)に記載の増殖抑制剤。
【0019】
(34)(31)から(33)の何れか一に記載の増殖抑制剤を含む、細胞培養培地。
(35)(31)から(33)の何れか一に記載の増殖抑制剤と、基本培地とを含有する細胞用培地キット。
(36)(a)(34)に記載の細胞培養培地又は(35)に記載の細胞用培地キットと、(b)細胞培養装置とを含む、細胞培養システム。
(37)(34)に記載の細胞培養培地、(35)に記載の細胞用培地キット、又は(36)に記載の細胞培養システムのいずれかを用いて細胞を培養する工程を含む、細胞の培養方法。
【0020】
(38)GAS6の作用を抑制する条件下で多能性幹細胞を培養する工程を含む、多能性幹細胞の培養方法。
(39)GAS6の作用を抑制する条件下で多能性幹細胞を培養する工程が、抗GAS6抗体及び/又はGAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤の存在下で多能性幹細胞を培養する工程である、(38)に記載の培養方法。
(40)GAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤が、
BMS777607[N-(4-((2-アミノ-3-クロロピリジン-4-イル)オキシ)-3-フルオロフェニル)-4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド]、
R428[1-(6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ [2,3]シクロヘプタ [2,4-d]ピリダジン-3-イル)-3-N-[(7S)-7-ピロリジン-1-イル-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ [7]アンヌレン-3-イル]-1,2,4-トリアゾール-3,5-ジアミン]、及び
UNC569[1-((トランス-4-アミノシクロヘキシル)メチル)-N-ブチル-3-(4-フルオロフェニル)-1H-ピラゾロ [3,4-d]ピリミジン-6-アミン]
から選ばれる1種以上である、(39)に記載の培養方法。
【0021】
(41)多能性幹細胞を培養する培地中に含まれる抗GAS6抗体の濃度が10ng/ml以上100ng/ml以下である、(39)に記載の培養方法。
(42)多能性幹細胞を培養する培地がBMS777607を含む場合、培地中に含まれるBMS777607の濃度が2ng/ml以上20ng/ml以下であり、多能性幹細胞を培養する培地がR428を含む場合、培地中に含まれるR428の濃度が8ng/ml以上80ng/ml以下であり、多能性幹細胞を培養する培地がUNC569を含む場合、培地中に含まれるUNC569の濃度が1ng/ml以上10ng/ml以下である、(40)に記載の培養方法。
(43)多能性幹細胞が、iPS細胞(induced pluripotent stem cells)である、(38)から(42)の何れか一に記載の培養方法。
(44)多能性幹細胞が、アルブミンを含まない培地で培養される、(38)から(43)の何れか一に記載の培養方法。
(45)多能性幹細胞が、血清を含まない培地で培養される、(38)から(44)の何れか一に記載の培養方法。
(46)多能性幹細胞が、GAS6を含む培地で培養される、(38)から(45)の何れか一に記載の培養方法。
(47)多能性幹細胞が、MEFで馴化した培地で培養される、(38)から(46)の何れか一に記載の培養方法。
【発明の効果】
【0022】
本発明の細胞培養培地を用いて細胞を培養することにより、多能性幹細胞などの細胞を効率よく増殖させることが可能となる。本発明の細胞培養培地によれば、フィーダー細胞を使用することなく細胞を培養することができるので、細胞を安全に培養することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1図1は、無血清培地、MEFで馴化した無血清培地、又は各種タンパク質因子を添加した無血清培地におけるヒトiPS細胞の増殖効率をアルカリホスファターゼ染色で比較した結果を示す。
図2図2は、無血清培地、MEFで馴化した無血清培地、又は各種タンパク質因子を添加した無血清培地におけるヒトiPS細胞の増殖効率をアルカリホスファターゼ染色で比較した結果を示す。
図3図3は、無血清培地、MEFで馴化した無血清培地、又は各種タンパク質因子を添加した無血清培地におけるヒトiPS細胞の細胞数を計測して比較した結果を示す。
図4図4は、無血清培地、MEFで馴化した無血清培地、又は各種タンパク質因子を添加した無血清培地におけるヒトiPS細胞の増殖効率をアルカリホスファターゼ染色で比較した結果を示す。
図5図5は、無血清培地、MEFで馴化した無血清培地、又は各種タンパク質因子を添加した無血清培地におけるヒトiPS細胞の細胞数を計測して比較した結果を示す。
図6図6は、無血清培地、又はMEFで馴化した無血清培地においてマトリゲルなしで培養したヒトiPS細胞の増殖効率をアルカリホスファターゼ染色で比較した結果を示す。
図7図7は、無血清培地、MEFで馴化した無血清培地、又は抗GAS抗体を添加したMEFで馴化した培地におけるヒトiPS細胞の細胞数を計測して比較した結果を示す。
図8図8は、無血清培地、MEFで馴化した無血清培地、又は各種GAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤を添加したMEFで馴化した培地におけるヒトiPS細胞の細胞数を計測して比較した結果を示す。
図9図9は、培養装置の各構成手段の配置の概略を示す。
図10図10は、自動培養装置の観察装置のブロック構成図を示す。
図11図11は、自動培養装置の主要部のハードウエアの構成を示す。
図12図12は、細胞培養装置の細胞検出システムの構成を示す。
図13図13は、培養装置内の各構成要素の配置の概略を示す。
図14図14は、画像処理ユニットの詳細を示す。
図15図15は、画像処理ユニットの実行する細胞抽出処理の一例を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本発明の細胞培養培地は、成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)を含有し、血清を含まないことを特徴とする培地である。成長停止特異的タンパク質6(GAS6)を添加することにより、血清及びフィーダー細胞を用いることなくヒト多能性幹細胞の増殖を促進することができる。これにより、動物細胞、若しくは動物細胞により馴化された培養液のどちらにも暴露されていないヒト多能性幹細胞の培養が容易になる。
【0025】
培地中に含まれる成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)の濃度は細胞が増殖できる限り特に限定されないが、一般的には下限は、添加効果を考慮すると、0.0001ng/ml、好ましくは0.001ng/ml、より好ましくは0.01ng/ml、さらに好ましくは0.1ng/ml、特に好ましくは1ng/ml、もっとも好ましくは2ng/mlである。上限は、コスト面を考慮すると、10000ng/ml、好ましくは1000ng/ml、より好ましくは500ng/ml、さらに好ましくは400ng/ml、特に好ましくは300ng/ml、よりさらに好ましくは200ng/ml以下であり、より特に特に好ましくは100ng/ml以下である。濃度は一般的には1ng/ml以上200ng/ml以下であり、特に好ましくは2ng/ml以上100ng/ml以下である。
【0026】
本発明の細胞培養培地は、血清(即ち、血清由来成分)が含まれていない培地において細胞増殖を促進し、安定に細胞を培養できることが特徴である。本発明において使用できる培地としては、動物細胞の培地に用いられる培地を基礎培地として調製することができる。基礎培地としては、BME培地、BGJb培地、CMRL1066培地、Glasgow MEM培地、Improved MEM Zinc Option培地、IMDM培地、Medium 199培地、Eagle MEM培地、αMEM培地、DMEM培地、ハム培地、RPMI 1640培地、Fischer’s培地、及びこれらの混合培地等動物細胞の培養に用いることのできる培地であれば特に限定されない。例えば、インスリンおよびトランスフェリンを添加した血清由来成分不含培地である、CHO-S-SFM II(GIBCO BRL社製)、Hybridoma-SFM(GIBCO BRL社製)、eRDF Dry Powdered Media(GIBCO BRL社製)、UltraCULTURETM(BioWhittaker社製)、UltraDOMATM(BioWhittaker社製)、UltraCHOTM(BioWhittaker社製)、UltraMDCKTM(BioWhittaker社製)などが挙げられる。ヒト多能性幹細胞の培養用として開発されたEssential8(Life Technologies社製)、STEMPRO hESC SFM(Life Technologies社製)、mTeSR1(Veritas社製)、TeSR2(Veritas社製)、ReproXF(リプロセル社製)などが最適な培地である。特に好ましくは、ITS(インスリン、 トランスフェリン、セレン)、ヒトFGF2、TGF−β1、2−リン酸アスコルビン酸マグネシウム、及び炭酸水素ナトリウムを添加したDMEM/F12(1:1)培地、又はEssential8(Life Technologies社製)を使用することができる。
【0027】
本発明の細胞培養培地には、さらにMEF分泌成分を添加することができる。MEF分泌成分としては、具体的には、デコリン(Decorin)、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(Matrix Metalloproteinase-3(MMP3))、オステオポンチン(Osteopontin(OPN))、アポトーシスのTNF関連弱誘導因子受容体(TNF-related Weak Inducer of Apoptosis Receptor(TWEAK R))、インスリン様成長因子結合タンパク質2(Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2))、ガレクチン1(galectin 1(LGALS1))、及びインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1(IGF-1))からなる群より少なくとも1つ以上を添加することができる。
【0028】
成長停止特異的タンパク質6(GAS6)に加えて添加することができるMEF分泌成分の中でも好ましくは、デコリン(Decorin)、ガレクチン1(galectin 1(LGALS1))、及びインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1(IGF-1))からなる群より少なくとも1つ以上を添加することができる。例えば、「GAS6とDecorin」、「GAS6とLGALS1」、「GAS6とIGF-1」、「GAS6とDecorinとLGALS1」、「GAS6とDecorinとIGF-1」、「GAS6とLGALS1とIGF-1」、又は「GAS6とDecorinとLGALS1とIGF-1」などの組み合わせで添加することができる。
【0029】
なお、デコリン(Decorin)、ガレクチン1(galectin 1(LGALS1))、及びインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1(IGF-1))については単独で添加した場合でも細胞の増殖を促進する効果があるので、細胞培養培地に、デコリン(Decorin)、ガレクチン1(galectin 1(LGALS1))、及びインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1(IGF-1))から選択される1以上の因子のみを添加することも可能である。
【0030】
上記したMEF分泌成分を添加する場合、培地中に含まれる各々の成分の濃度は細胞が増殖できる限り特に限定されないが、一般的には下限は、添加効果を考慮すると、0.0001ng/ml、好ましくは0.001ng/ml、より好ましくは0.01ng/ml、さらに好ましくは0.1ng/ml、特に好ましくは1ng/ml、もっとも好ましくは2ng/mlである。上限は、コスト面を考慮すると、10000ng/ml、好ましくは1000ng/ml、より好ましくは500ng/ml、さらに好ましくは400ng/ml、特に好ましくは300ng/ml、よりさらに好ましくは200ng/ml以下であり、より特に特に好ましくは100ng/ml以下である。濃度は一般的には1ng/ml以上200ng/ml以下であり、特に好ましくは2ng/ml以上100ng/ml以下である。
【0031】
本発明の細胞培養培地は、アルブミンを含まないことが好ましい。
本発明の細胞培養培地には、トランスフェリン、脂肪酸、インスリン、コラーゲン前駆体、微量元素、2-メルカプトエタノール、又は3-チオールグリセロール、あるいはこれらの均等物などを適宜含有するものであり得る。
本発明の培地は、また、脂肪酸又は脂質、アミノ酸(例えば、非必須アミノ酸)、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、無機塩類等を含有できる。例えば、2-メルカプトエタノールは、幹細胞の培養に適する濃度で使用される限り限定されないが、例えば約0.05〜1.0mM、好ましくは約0.1〜0.5mMの濃度で使用できる。
【0032】
上記の通り、GAS6を基本培地に添加することにより本発明の細胞培養培地を製造することができるが、GAS6と、基本培地とを含有する細胞用培地キットの形態で使用することもできる。即ち、GAS6と、基本培地とを別々に組み合わせてキットの形態で供給し、使用者が使用時にGAS6を基本培地に添加することにより、本発明の細胞培養培地を調製して使用することができる。
【0033】
さらに本発明によれば、(a)上記した細胞培養培地又は細胞用培地キットと、(b)細胞培養装置とを含む、細胞培養システムが提供される。
細胞培養装置としては、上記した細胞培養培地又は細胞用培地キットを用いて細胞を培養できる装置であれば限定されないが、例えば、特開2008−92811号公報、特開2008−92882号公報及び特開2010−148391号公報(上記公報に記載の内容は本明細書の開示の一部として本明細書中に援用されるものとする)に記載されている細胞培養装置を使用することができる。
【0034】
本発明の一例においては、特開2008−92811号公報に記載されているような、細胞を培養する培養容器と、前記培養容器の細胞を撮像する撮像装置と、前記細胞を撮像する時に前記細胞に光を照射する光源手段と、前記顕微鏡を移動する移動手段とを備える細胞培養装置において、前記光源手段は、複数の光源を有しており、前記顕微鏡の位置に対応する前記光源を点灯させることを特徴とする細胞培養装置を使用することができる。細胞培養装置の構成の一例を図9に示す。
【0035】
細胞培養装置1は、細胞を培養する培養容器4と、細胞を撮像するための顕微鏡5と、顕微鏡5を移動させるための顕微鏡駆動装置6と、顕微鏡駆動装置6を制御するドライバ10と、顕微鏡5の位置情報に基づいて光源基板に設けられた複数の光源3の特定光源に対する電源をオン状態にする切換え器7と、切り換え器7と光源3とを接続する光源配線9と、光源3を配列させた光源基板2と、これらを制御するコントローラ8とから構成される。また、培養装置は、コントローラ8に接続され、トラックボール又はキーボードからなる入力部20を備えている。顕微鏡駆動装置6は、モータとボールねじ機構を有する駆動機構が備えられており、ボールねじ機構を介して顕微鏡5を2次元的に移動させることができる。また、ボールねじ機構には、ボールねじの回転量を検出し、それを顕微鏡5の位置情報に変換して検出するロータリーエンコーダなどからなる位置センサを有している。位置センサはボールねじの回転量を検出することにより、顕微鏡5の位置を2次元的に特定することができる。この顕微鏡5の位置情報は、ドライバ10を介してコントローラ8に伝達される。ボールねじ機構は、らせん状の溝を有するボールねじと、その溝に沿って移動するスリーブとからなる。そのスリーブには顕微鏡5が設置されている。ボールねじを回転させることによりスリーブ及び顕微鏡5を直線的に移動させることができる。2つボールねじ機構をそれぞれ直角になるように備えることにより、スリーブ及び顕微鏡5を2次元的に移動させることができる。
【0036】
本発明の別の例においては、特開2008−92882号公報に記載されているような、細胞の培養器と、該培養器内の細胞を撮影するカメラと、該カメラの位置を前記培養器の撮影面に沿って前記培養器に対して相対的に移動する移動手段と、前記カメラで撮影された画像を記憶するメモリと、該メモリに記憶された画像を表示するディスプレイと、自動撮影モードとマニュアル撮影モードとを切り替え可能に形成された制御手段とを備え、前記自動撮影モードは、前記移動手段を制御して予め定められた前記カメラの視野に対応させて前記撮影面を分割した複数の小区画の位置に前記カメラを走査し、前記カメラを制御して前記小区画単位で前記撮影面を撮影して撮影画像を前記メモリに格納し、前記メモリ内に格納された画像を読み出して前記撮影面の全体画像を前記ディスプレイに表示させる機能を有し、(a)前記マニュアル撮影モードは、入力手段から入力される操作指令に基づいて前記移動手段を制御して前記カメラにより任意の位置の前記撮影面の局所画像を撮影するとともに、撮影された局所画像を前記ディスプレイに表示させる機能を有してなるか、(b)前記マニュアル撮影モードは、入力手段により前記ディスプレイ上で指定された位置に基づいて、前記移動手段を制御して前記カメラの位置を移動して指定された位置の局所画像を撮影し、撮影された局所画像を前記ディスプレイに表示させる機能を有してなることを特徴とする自動培養装置を使用することができる。自動培養装置の構成の一例を図10及び図11に示す。
【0037】
図11の斜視図に示すように、本自動培養装置は、インキュベータ1内に細胞の培養器である円形のシャーレ2を設置して構成され、インキュベータ1内は周知のとおり温度、COなどのガス濃度が調整されている。シャーレ2は、スタンド3に支持された台板4上に設置され、台板4にはシャーレ2の底面を下方から観察するのに支障がない程度の開口5が設けられている。台板4の開口5の下方にシャーレ2内の細胞を撮影するCCDカメラ6が設けられている。CCDカメラ6は、細胞を観察可能な高倍率の対物レンズを備えている。なお、CCDカメラ6に代えてCMOSカメラを用いることができる。CCDカメラ6は、図示矢印のY方向に移動させるY軸アクチュエータ7に搭載されている。Y軸アクチュエータ7は、図示矢印のX方向に移動させるX軸アクチュエータ8に搭載されている。また、シャーレ2を挟んでCCDカメラ6に対向する位置に光源54が配置され、光源54はCCDカメラ6に固定され支持アーム10の先端に取り付けられている。Y軸アクチュエータ7とX軸アクチュエータ8により、CCDカメラ6と光源54の位置を、シャーレ2の底面に沿って任意の位置に相対的に移動する移動手段が構成されている。CCDカメラ6、Y軸アクチュエータ7、X軸アクチュエータ8及び光源54は、パーソナルコンピュータ(PC)等のコンピュータ11により制御されるようになっており、これらによって本発明の特徴部に係る観察装置が構成されている。
【0038】
コンピュータ11は、コンピュータ本体12と、ディスプレイ13と、入力手段であるキーボード14及びマウス15等を接続して構成されている。コンピュータ本体12は、CPU、メモリ、I/O等を備えて構成され、汎用コンピュータに必要なI/Oを備えて構成されている。
【0039】
本装置は、図10に示すように、コンピュータ本体12により構成される制御部20を備え、制御部20はインキュベータ1、CCDカメラ6、Y軸アクチュエータ7、X軸アクチュエータ8、ディスプレイ13、キーボード14、マウス15に接続されている。キーボード14には、割り込みスイッチ14a、マニュアルスイッチ(X軸)14b、マニュアルスイッチ(Y軸)14cが設けられている。また、制御部20には、CCDカメラ6で撮影された画像を記憶する画像メモリ21と、撮影位置データメモリ22が接続されている。また、制御部20には、画像メモリ21に記憶された画像を読み出してディスプレイ13に表示する図示していない読出し手段と、CCDカメラ6による撮影を自動撮影モードとマニュアル撮影モードとに切り替えて制御する制御手段が備えられている。
本装置を用いた動作の詳細は、特開2008−92882号公報の段落番号0029〜0053に記載の通りである。
【0040】
本発明のさらに別の例においては、特開2010−148391号公報に記載されているような、細胞を培養するための培養器手段と、前記培養器手段から前記細胞の画像を取得する画像取得手段と、前記画像取得手段及び前記培養器手段のいずれか一方を移動させて前記画像取得手段の焦点を調整する焦点位置調整手段と、前記画像取得手段の複数の焦点位置で画像を取得するように前記画像取得手段を制御する制御手段とを備えた細胞培養装置の細胞検出システムであって、前記複数の焦点位置で取得された複数の画像から、細胞の辺縁が明瞭な画像を選択する画像選択手段と、前記画像選択手段が選択した細胞の辺縁が明瞭な第1の画像と、当該第1の画像の焦点位置から焦点をずらした位置で取得された第2の画像とで差分処理を施す抽出手段とを備えたことを特徴とする細胞検出システムを使用することができる。細胞検出システムの構成の一例を図12図15に示す。
【0041】
図12に示すように細胞培養装置11はその内部が外部空間と遮断される箱型構造を有し、その内部に、細胞を培養する培養器12と、この培養器12内の細胞を撮影するためのCCDカメラ13と、このCCDカメラ13から得られる画像データを処理する画像処理ユニット14と、画像データを画像処理ユニット14に転送するためのコンバータ15と、CCDカメラ13又は培養器12を移動するためのカメラ・培養器駆動装置16と、カメラ・培養器駆動装置16を任意の位置に移動するためのモータコントローラ17と、CCDカメラ13の上部に設置した光源18から構成されている。培養器12は透明な材質で成型されており、CCDカメラ13は、光源18から照射され、培養器12を透過した透過光を撮影するように構成されている。なお、上記構成において、CCDカメラ13は40万画素程度のCCDデバイスを備えていることが望ましく、また光源18は特に限定する必要はないが、本実施例においてはLEDが望ましい。
【0042】
図13は、培養装置11内の各構成要素の配置の概略を示す図であり、図示する例では、培養装置11の中に培養器12が固定され、CCDカメラ13を移動する場合の配置を示している。図13に示すように、培養装置11内の上面部に光源18が取り付けられている。この光源18の下側に培養器12が配置され、さらにこの培養器12の中央付近下側に対物レンズ22を備えたCCDカメラ13が配置されている。CCDカメラ13は移動用ガイド21に上下動可能に取り付けられており、CPU32から出力される指令によって動作させられるカメラ・培養器駆動装置16の駆動制御によって、移動用ガイド21に沿って上下に移動し、焦点位置を上下方向に変更して培養器12内の細胞の画像を撮影する。なお、CCDカメラ13と対物レンズ22とを組み合わせた撮像装置は、培養器12の中心付近に位置する底面近傍の微小面積、例えば1.5mm(縦)×2.0mm(横)程度の微小領域を撮影可能なように構成することが望ましい。
【0043】
図14は、図12の画像処理ユニット14の詳細を示す図である。画像処理ユニット14は、データバス31を介して演算処理を行うCPU32と、このCPU32が一時的に記憶領域として使用する主メモリ33と、画像データや位置情報を格納する外部記憶装置34と、モータコントローラ17と通信するための通信ポート35と、細胞抽出後の画像を表示するモニタ36と、ユーザの入力を受け付けるキーボード37とから構成される。この画像処理ユニット14において、CCDカメラ13からの画像はコンバータ15を介して取り込み、種々の画像処理を行なう。
【0044】
図15は、画像処理ユニットにより実行される細胞抽出処理の一例を示すフローチャート図である。図15に記載された一連のステップは、予めインストールされたソフトウェアによって、細胞培養過程における所定時間間隔で、例えば1回/日の頻度で繰り返して、CPU32から出力される指令によって図12図14に記載されたユニットが順次駆動制御されて実行されるものである。なお、図15に記載された一連のステップを所定時間間隔で繰返し実行するための計時はCPU32に備えられたクロック発生器の出力を用いることができる。図15に示す細胞抽出処理の詳細は、特開2010−148391号公報の段落番号0016〜0028に記載の通りである。
【0045】
本発明によれば、上記した本発明の細胞培養培地、細胞用培地キット、又は細胞培養システムを用いて細胞を培養する工程を含む、細胞の培養方法が提供される。さらには、当該細胞培養培地、細胞用培地キット、又は細胞培養システムのいずれかを用いて細胞を培養することにより、安全な多能性幹細胞が提供される。
【0046】
本発明によれば、上記した本発明の細胞培養培地を用いて細胞を培養する工程を含む、細胞の培養方法が提供される。
本発明で培養される細胞の種類は特に限定されず、多分化能と自己複製能を併せ持つ幹細胞又は分化細胞の何れもでもよいが、好ましくは幹細胞であり、さらに好ましくは多能性幹細胞である。本発明において、「多能性幹細胞」とはインビトロにおいて培養することが可能で、かつ生体を構成するすべての細胞に分化しうる多分化能を有する細胞をいう。具体的には、胚性幹細胞(ES細胞)、胎児の始原生殖細胞由来の多能性幹細胞(EG細胞:Proc Natl Acad Sci USA. 1998, 95:13726-13731)、精巣由来の多能性幹細胞(GS細胞:Nature. 2008, 456:344-349)、体細胞由来人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cells;iPS細胞)等が挙げられる。また、培養する細胞の由来する動物種は特に限定されず、任意の哺乳類などに由来する細胞を使用することができ、例えば、マウス由来の細胞またはヒト由来の細胞などを使用することができる。なお、細胞の培養は、通常の細胞培養の条件下で行うことができる。
【0047】
本発明の好ましい態様においては、細胞をフィーダー細胞の非存在下において培養することができる。
多能性幹細胞などをフィーダー細胞を使用することなく培養する場合、細胞の足場となる培養基質でコートした培養容器を用いて培養を行うことができる。細胞の足場となる培養基質としては、細胞培養用であれば特に限定されないが、例えば、ゼラチン、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から産生される単離した基底膜成分であるマトリゲル、胎盤マトリクス、メロシン、テネイシン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、アグレカン、ビグリカン、トロンボスポンジン、ラミニン(ラミニン-511、ラミニン-111、ラミニン-332)、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、E-カドヘリン、デコリン、合成ペプチド、合成ポリマー、MEF又はヒト血清又は脱落膜間葉系細胞由来の細胞外マトリクスなどが挙げられる。
【0048】
また、別の態様によれば、上記したような細胞外マトリックスでコーティングされていない表面を有する培養基材上において、本発明の細胞培養培地を用いて細胞を培養することもできる。
【0049】
本発明の別の態様によれば、成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を導入したフィーダー細胞の存在下において細胞を培養する工程を含む、細胞の培養方法が提供される。さらに本発明によれば、成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を導入したフィーダー細胞が提供される。即ち、GAS6遺伝子発現ベクターを導入したフィーダー細胞は、ヒト多能性幹細胞のオンフィーダー培養に利用したり、培地を馴化するのに用いることも可能である。フィーダー細胞の種類は限定されることはないが、例えば、MEF(mouse embryonic fibroblast)や樹立されたSTO細胞株(ATCC寄託番号 CRL−1503)、またSTO細胞にネオマイシン抵抗性遺伝子発現ベクターとLIF発現ベクターを安定的に組み込んだSNL細胞などのマウス由来細胞や、線維芽細胞、胎盤細胞、骨髄細胞、子宮内膜細胞などのヒト由来細胞が挙げられる。
【0050】
さらに本発明によれば、培地中に含まれる成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)を検出又は定量することを含む、細胞を培養するための培地を評価する方法が提供される。GAS6タンパク質を検出および定量する方法としては、SDS-PAGEや二次元電気泳で分離した後にMS解析や抗GAS6抗体を用いてウエスタンブロット法により検出することができ、また酵素免疫測定法(Enzyme-Linked Immunosorbent Assay:ELISA)により定量することも可能である。
【0051】
以下の実施例に記載の通り、抗GAS6抗体又はGAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤の存在下においてiPS細胞を培養することにより、iPS細胞の増殖を抑制できることが判明した。従って、本発明によれば、抗GAS6抗体又はGAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤を含む、多能性幹細胞の増殖抑制剤が提供される。
【0052】
本発明によればさらに、多能性幹細胞の増殖を抑制するために使用するための抗GAS6抗体、並びに多能性幹細胞の増殖を抑制するために使用するためのGAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤が提供される。
本発明によればさらに、多能性幹細胞の増殖抑制剤の製造のための抗GAS6抗体の使用、並びに多能性幹細胞の増殖抑制剤の製造のためのGAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤の使用が提供される。
【0053】
本発明の増殖抑制剤を含む細胞培養培地、本発明の増殖抑制剤と基本培地とを含有する細胞用培地キット、並びに本発明の細胞培養培地又は細胞用培地キットと細胞培養装置とを含む細胞培養システムも本発明の範囲内である。さらに、本発明の細胞培養培地、細胞用培地キット、又は細胞培養システムのいずれかを用いて細胞を培養する工程を含む、細胞の培養方法も本発明の範囲内である。増殖抑制剤以外の構成要素及び好ましい範囲は、本明細書中上記した通りである。
【0054】
更に本発明によれば、GAS6の作用を抑制する条件下で多能性幹細胞を培養する工程を含む、多能性幹細胞の培養方法が提供される。本発明の多能性幹細胞の培養方法はインビトロで行うことができる。GAS6の作用を抑制する条件下で多能性幹細胞を培養することによって、多能性幹細胞の増殖を抑制した状態で多能性幹細胞の培養を行うことができる。即ち、上記した本発明による多能性幹細胞の培養方法は、GAS6の作用を抑制する条件下で多能性幹細胞を培養する工程を含む、多能性幹細胞の増殖を抑制した状態で多能性幹細胞の培養を行う方法である。多能性幹細胞の具体例は、本明細書中上記の通りであり、好ましくは、iPS細胞である。
【0055】
本発明で使用する抗GAS6抗体の種類は、特に限定されず、モノクローナル抗体でもポリクローナル抗体でもよい。抗GAS6抗体としては、市販の抗体でもよく、例えば、R&D Systems社、Santa Cruz Biotechnology社などから入手可能である。多能性幹細胞を培養する培地中に含まれる抗GAS6抗体の濃度は、特に限定されないが、好ましくは1ng/ml以上100ng/ml以下であり、より好ましくは10ng/ml以上100ng/ml以下である。
【0056】
本発明で使用するGAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤の種類は、特に限定されないが、TAMファミリーの受容体型チロシンキナーゼ(TYRO3、AXL、MER)の阻害剤であることが好ましい。具体的には、BMS777607[N-(4-((2-アミノ-3-クロロピリジン-4-イル)オキシ)-3-フルオロフェニル)-4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド]、R428[1-(6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ [2,3]シクロヘプタ [2,4-d]ピリダジン-3-イル)-3-N-[(7S)-7-ピロリジン-1-イル-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ [7]アンヌレン-3-イル]-1,2,4-トリアゾール-3,5-ジアミン]、及びUNC569[1-((トランス-4-アミノシクロヘキシル)メチル)-N-ブチル-3-(4-フルオロフェニル)-1H-ピラゾロ [3,4-d]ピリミジン-6-アミン]などを挙げることができる。
【0057】
BMS777607を使用する場合における培地中に含まれるBMS777607の濃度は、一般的には1ng/ml以上100ng/ml以下であり、好ましくは2ng/ml以上20ng/ml以下である。
R428を使用する場合における培地中に含まれるR428の濃度は、一般的には1ng/ml以上500ng/ml以下であり、好ましくは8ng/ml以上80ng/ml以下である。UNC569を使用する場合における培地中に含まれるUNC569の濃度は、一般的には0.5ng/ml以上100ng/ml以下であり、好ましくは1ng/ml以上10ng/ml以下である。
【0058】
GAS6の作用を抑制する条件下で多能性幹細胞を培養する工程としては、抗GAS6抗体及び/又はGAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤の存在下で多能性幹細胞を培養する工程であることが好ましい。
GAS6の作用を抑制する条件下で多能性幹細胞を培養する場合、多能性幹細胞は、アルブミンを含まない培地で培養する態様、血清を含まない培地で培養する態様、GAS6を含む培地で培養する態様、MEFで馴化した培地で培養する態様が好ましく、これらの態様を組み合わせてもよい。
【0059】
以下の実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【実施例】
【0060】
(1)馴化した無血清培地におけるタンパク質の検出
馴化培地(CM)は、マイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を用いて無血清培地から調製した。マイトマイシン処理により不活性化したマウス胎児線維芽細胞(MEF細胞)を、MEF用培地(10%FBSを添加したDMEM培地)中に約500,000 細胞/直径60mmディッシュの細胞密度で播種した。細胞を少なくとも16時間培養した後、PBS(−)、次いで、Essential8培地(インビトロジェン)(以下、この無血清培地をE8培地とも称する)で洗浄し、培地を同じ無血清培地に置換した。
【0061】
培地を置換した後、24時間CO2インキュベーター内でインキュベート(37℃、5%CO2濃度)した後、培地を回収し、馴化培地を得た。
【0062】
馴化していない無血清培地と馴化した無血清培地を抗サイトカイン抗体アレイにより比較解析した。RayBio(R) Mouse Cytokine Antibody array G-Series 2000(RayBiotech社)のアレイ上に100μL Blocking Buffer(キット付属)をアプライし、25℃、30分間インキュベーションした。アレイ上に150μLの各培地(希釈倍率:1.5、タンパク質換算155μg程度)をアプライし、10℃、16時間インキュベートした。その後、Wash Buffer I(キット付属、25℃で2分間×3回、25℃で10分間×2回)、Wash Buffer II(キット付属、25℃で10分間×2回)で洗浄した。洗浄後、アレイ上に70μL Biotin-Conjugated Antibodyをアプライし、25℃で2時間インキュベートした。アレイをWash Buffer I(25℃で2分間)、Wash Buffer II(25℃で2分間×2回)洗浄した後、アレイ上に70μL Fluorescent Dye-conjugated Strepyavidinをアプライし、25℃、1.5時間インキュベートした。アレイをWash Buffer I(25℃で2分間)、Wash Buffer II(25℃で2分間×2回)、Wash BufferI(25℃で10分間×2回)、超純水(25℃で1分間)洗浄した後、アレイを1000rpm、25℃、3分間遠心し、20分間遮光下にて乾燥させた。アレイ用スキャナーGenePix(R)4400A(Molecular Devices, LLC)を用いてスキャニングを行い、解析ソフトウェアArray-Pro Analyzer Ver. 4.5(Media Cybernetics, Inc)を用いて、得られたイメージ画像から各スポットにおける蛍光強度値の定量化を行った。
【0063】
その結果、馴化した無血清培地において特異的に、Decorin、Matrix Metalloproteinase-3(MMP3)、Osteopontin(OPN)、TWEAK R、Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2)、galectin 1(LGALS1)、insulin-like growth factor-1(IGF-1)、GAS6タンパク質が検出された。
【0064】
(2)サイトカインの添加試験1
(2−1)馴化していない無血清培地又は馴化した無血清培地の場合
実験に供したヒトiPS細胞(201B7)は、iPSアカデミアジャパンより入手した。ヒトiPS細胞の調製は、フィーダー細胞としてマイトマイシン処理で不活性化したマウス胎児線維芽細胞を播いたプラスチック培養ディッシュの上で維持培養した。培地は、D-MEM/F12(Sigma D6421)に終濃度20%のKNOCKOUTTM SR、0.1 mM NEAA(non-essential amino acids)、2 mM L-グルタミン、5 ng/ml ヒト basic FGF及び0.1 mM 2-メルカプトエタノールを添加したものを用い、37℃にてCO2インキュベーター内で培養した。継代は6〜7日毎に行い、解離液(コラゲナーゼ溶液)を用いて、ヒトiPS細胞のコロニーをフィーダー層から解離し、ピペット操作で20〜50個程度の小塊にした後、新しいフィーダー細胞層の上に播いた。フィーダー細胞上で維持培養したヒトiPS細胞を、解離液で解離し、ピペット操作で20から50個程度の小塊にし、300rpmで5分間遠心処理によりiPS細胞を回収した後、ゼラチンでコートした培養ディッシュ上で30分インキュベートすることによりMEF除去した後、マトリゲル(登録商標)(BD社)でコーティングされた培養ディッシュに、4分の1に分割して播種した。培地は、MEFで馴化していない無血清培地(E8培地)と、その培地をMEFで馴化した培地を用いて比較した。
【0065】
増殖性を比較した結果を表1に示す。また、各因子を添加し、2日間培養後、アルカリフォスファターゼで染色して観察した結果を図1に示す。馴化した培地では、馴化していない培地に比べ、ヒトiPS細胞の増殖効率の向上が認められた。
【0066】
(2−2)
Decorin、Matrix Metalloproteinase-3(MMP3)、Osteopontin(OPN)、TWEAK R、Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2)、galectin 1(LGALS1)、又はinsulin-like growth factor-1(IGF-1)を2ng/ml又は100ng/mlの濃度で、無血清培地(E8培地)に添加し、上記(2−1)と同様にヒトiPS細胞の増殖への影響を調べた。
【0067】
増殖性を比較した結果を表1に示し、アルカリフォスファターゼで染色して観察した結果を図1及び図2に示す。Decorin、galectin 1(LGALS1)、insulin-like growth factor-1(IGF-1)にヒトiPS細胞の増殖促進効果が認められた。Decorinはヒト多能性幹細胞の培養において培養基材のコーティング基質として使用できることが報告されており(WO9920741)、galectin 1はマウスES細胞の増殖を促進することが報告されており(KR2010130677A)、IGF-1についてはSTEMPRO hESC SFM(Life Technologies社製)等で培地に添加されているものである。
【0068】
(2−3)
GAS6を2ng/ml又は100ng/mlの濃度で、無血清培地(E8培地)に添加し、上記(2−1)と同様にヒトiPS細胞の増殖への影響を調べた。増殖性を比較した結果を表1に示し、アルカリフォスファターゼで染色して観察した結果を図2に示す。その結果、GAS6のヒトiPS細胞の増殖促進効果が確認できた。
【0069】
(2−4)
GAS6、Decorin、Matrix Metalloproteinase-3(MMP3)、Osteopontin(OPN)、TWEAK R、Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2)、galectin 1(LGALS1)、insulin-like growth factor-1(IGF-1)の全部を各々2ng/ml又は100ng/mlの濃度で、無血清培地(E8培地)に添加し、上記(2−1)と同様にヒトiPS細胞の増殖への影響を調べた。GAS6のみを添加した培地に対して増殖性を比較した結果を表1に示し、アルカリフォスファターゼで染色して観察した結果を図2に示す。GAS6のみを添加した培地と比較してさらにヒトiPS細胞の増殖促進効果が認められた。
【0070】
(3)サイトカインの添加試験2
培地として、以下の培地を使用し、上記(2−1)と同様にヒトiPS細胞の増殖への影響を調べた。
【0071】
MEFで馴化していない無血清培地(E8培地);
上記E8培地をMEFで馴化した培地(E8CM);
Decorin(100ng/ml)、Matrix Metalloproteinase-3(MMP3)(2ng/ml)、GAS6(2ng/ml)、Osteopontin(OPN)(100ng/ml)、TWEAK R(2ng/ml)、Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2)(2ng/ml)、galectin 1(LGALS1)(2ng/ml)、insulin-like growth factor-1(IGF-1)(100ng/ml)又はBSA(100ng/ml) の何れか1種を添加したE8培地;
Decorin(100ng/ml)、Matrix Metalloproteinase-3(MMP3)(2ng/ml)、GAS6(2ng/ml)、Osteopontin(OPN)(100ng/ml)、TWEAK R(2ng/ml)、Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2)(2ng/ml)、galectin 1(LGALS1)(2ng/ml)、及びinsulin-like growth factor-1(IGF-1)(100ng/ml)の全てを添加したE8培地(E8+8);
E8培地をMEFで馴化した培地に、Decorin(100ng/ml)、Matrix Metalloproteinase-3(MMP3)(2ng/ml)、GAS6(2ng/ml)、Osteopontin(OPN)(100ng/ml)、TWEAK R(2ng/ml)、Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2)(2ng/ml)、galectin 1(LGALS1)(2ng/ml)、及びinsulin-like growth factor-1(IGF-1)(100ng/ml)の全てを添加した培地(E8CM+8);
Decorin(100ng/ml)、GAS6(2ng/ml)、Osteopontin(OPN)(100ng/ml)、TWEAK R(2ng/ml)、Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2)(2ng/ml)、galectin 1(LGALS1)(2ng/ml)、及びinsulin-like growth factor-1(IGF-1)(100ng/ml)を添加したE8培地(E8+8−MMP3);
Decorin(100ng/ml)、Matrix Metalloproteinase-3(MMP3)(2ng/ml)、GAS6(2ng/ml)、TWEAK R(2ng/ml)、Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2)(2ng/ml)、galectin 1(LGALS1)(2ng/ml)、及びinsulin-like growth factor-1(IGF-1)(100ng/ml)を添加したE8培地(E8+8−OPN);
【0072】
細胞の増殖性を比較した結果を表1に示す。また、上記(2−1)に記載の通り、細胞をアルカリフォスファターゼで染色し、細胞数を計測した。E8培地を用いた場合の細胞数を1として、他の培地を用いた場合の細胞数の比率を求めた結果を図3に示す。
【0073】
(4)サイトカインの添加試験3
培地として、以下の培地を使用し、上記(2−1)と同様にヒトiPS細胞の増殖への影響を調べた。
【0074】
MEFで馴化していない無血清培地(E8培地);
上記E8培地をMEFで馴化した培地(E8CM);
Decorin(100ng/ml)、GAS6(100ng/ml)、Osteopontin(OPN)(100ng/ml)、galectin 1(LGALS1)(100ng/ml)、insulin-like growth factor-1(IGF-1)(100ng/ml)又はBSA(100ng/ml) の何れかを添加したE8培地;
Decorin(100ng/ml)、Matrix Metalloproteinase-3(MMP3)(100ng/ml)、GAS6(100ng/ml)、Osteopontin(OPN)(100ng/ml)、TWEAK R(100ng/ml)、Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2)(100ng/ml)、galectin 1(LGALS1)(100ng/ml)、及びinsulin-like growth factor-1(IGF-1)(100ng/ml)の全てを添加したE8培地;
【0075】
細胞の増殖性を比較した結果を表1に示し、アルカリフォスファターゼで染色して観察した結果を図4に示す。GAS6を添加した培地では、ヒトiPS細胞の増殖効率の向上が認められた。また、細胞をアルカリフォスファターゼで染色し、細胞数を計測した。E8培地を用いた場合の細胞数を100として、他の培地を用いた場合の細胞数の比率を求めた結果を図5に示す。
【0076】
【表1】
【0077】
(5)マトリゲルについて
マトリゲル(登録商標)(BD社)でコーティングされた培養ディッシュの代わりに、マトリゲル(登録商標)(BD社)でコーティングされていない培養ディッシュを用いて、上記(2−1)と同様に、馴化していない無血清培地又は馴化した無血清培地を用いて、ヒトiPS細胞の増殖性を比較した。細胞をアルカリフォスファターゼで染色して観察した結果を図6に示す。馴化した培地では、マトリゲルでコーティングされていない培養ディッシュを用いた場合でも、細胞は増殖できた。
【0078】
(6)抗GAS6抗体について
マトリゲル(登録商標)(BD社)でコーティングされた培養ディッシュを用いて、MEFで馴化した無血清培地(E8培地)に100ng/mlの抗GAS6抗体(R&D Systems社)を添加し、上記(2−1)と同様にヒトiPS細胞の増殖への影響を調べた。細胞をアルカリフォスファターゼで染色し、細胞数を計測した。MEFで馴化した培地を用いた場合の細胞数を100として、他の培地を用いた場合の細胞数の比率を求めた結果を図7に示す。抗GAS6抗体を添加することにより、MEFで馴化した培地での細胞の増殖性は低下した。
【0079】
(7)抗GAS6抗体及びGAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤について
マトリゲル(登録商標)(BD社)でコーティングされた培養ディッシュを用いて、MEFで馴化した無血清培地(E8培地)に、10ng/ml又は100ng/mlの抗GAS6抗体(R&D Systems社)、あるいは各種GAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤、BMS777607(Santa Cruz Biotechnology社)(2ng/ml又は20ng/ml)、R428(Synkinase社)(8ng/ml又は80ng/ml)、UNC569(Calbiochem社)(1ng/ml又は10ng/ml)を添加し、上記(2−1)と同様にヒトiPS細胞の増殖への影響を調べた。いずれも、DMSOに溶解した後、0.22μmのフィルターによりフィルター滅菌処理を行い培地量に対し1/1000量添加した。細胞をアルカリフォスファターゼで染色し、細胞数を計測した。MEFで馴化した培地を用いた場合の細胞数を100として、他の培地を用いた場合の細胞数の比率を求めた結果を図8に示す。抗GAS6抗体又は各種GAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤を添加することにより、MEFで馴化した培地での細胞の増殖性は低下した。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15