【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ヒト多能性幹細胞の無血清培地にGAS6を添加することにより、フィーダー細胞と共培養することなくヒト多能性幹細胞の増殖を促進できることを見出し、本発明を完成するに到った。即ち、本発明によれば、ヒト多能性幹細胞の増殖を促進する因子としてGAS6が同定された。
【0012】
本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)を含有し、血清を含まない細胞培養培地。
(2)培地中に含まれる成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)の濃度が2ng/ml以上100ng/ml以下である、(1)に記載の細胞培養培地。
(3)さらに、デコリン(Decorin)、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(Matrix Metalloproteinase-3(MMP3))、オステオポンチン(Osteopontin(OPN))、アポトーシスのTNF関連弱誘導因子受容体(TNF-related Weak Inducer of Apoptosis Receptor(TWEAK R))、インスリン様成長因子結合タンパク質2(Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2))、ガレクチン1(galectin 1(LGALS1))、及びインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1(IGF-1))からなる群より少なくとも1つ以上を含有する、(1)又は(2)に記載の細胞培養培地。
(4)アルブミンを含まない、(1)から(3)の何れか一に記載の細胞培養培地。
(5)細胞が、マウス由来の細胞またはヒト由来の細胞である、(1)から(4)の何れか一に記載の細胞培養培地。
(6)細胞が多能性幹細胞である、(1)から(5)の何れか一に記載の細胞培養培地。
(7)多能性幹細胞がiPS細胞(induced pluripotent stem cells)である、(6)に記載の細胞培養培地。
【0013】
(8)成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)と、基本培地とを含有する細胞用培地キット。
(9)基本培地が、Essential 8(登録商標)培地である、(8)に記載の細胞用培地キット。
(10)さらに、デコリン(Decorin)、マトリックスメタロプロテアーゼ-3(Matrix Metalloproteinase-3(MMP3))、オステオポンチン(Osteopontin(OPN))、アポトーシスのTNF関連弱誘導因子受容体(TNF-related Weak Inducer of Apoptosis Receptor(TWEAK R))、インスリン様成長因子結合タンパク質2(Insulin-like growth factor-binding protein 2(IGFBP2))、ガレクチン1(galectin 1(LGALS1))、及びインスリン様成長因子-1(insulin-like growth factor-1(IGF-1))からなる群より少なくとも1つ以上を含有する、(8)又は(9)に記載の細胞用培地キット。
【0014】
(11)細胞が、マウス由来の細胞またはヒト由来の細胞である、(8)から(10)の何れか一に記載の細胞用培地キット。
(12)細胞が多能性幹細胞である、(8)から(11)の何れか一に記載の細胞用培地キット。
(13)多能性幹細胞がiPS細胞又はES細胞である、(12)に記載の細胞用培地キット。
(14)(a)(1)から(7)の何れか一に記載の細胞培養培地又は(8)から(13)の何れか一に記載の細胞用培地キットと、(b)細胞培養装置とを含む、細胞培養システム。
(15)(1)から(7)の何れか一に記載の細胞培養培地、(8)から(13)の何れか一に記載の細胞用培地キット、又は(14)に記載の細胞培養システムのいずれかを用いて細胞を培養する工程を含む、細胞の培養方法。
【0015】
(16)細胞をフィーダー細胞の非存在下において培養する、(15)に記載の培養方法。
(17)細胞外マトリックスでコーティングされていない表面を有する培養基材上において細胞を培養する、(15)又は(16)に記載の培養方法。
(18)細胞外マトリックスでコーティングされている培養基材上において細胞を培養する(15)又は(16)に記載の培養方法。
(19)細胞外マトリックスが、ゼラチン、Engelbreth-Holm-Swarm(EHS)マウス肉腫から産生される単離した基底膜成分であるマトリゲル、胎盤マトリクス、メロシン、テネイシン、ヘパリン硫酸、コンドロイチン硫酸、デルマタン硫酸、アグレカン、ビグリカン、トロンボスポンジン、ラミニン(ラミニン-511、ラミニン-111、ラミニン-332)、フィブロネクチン、ビトロネクチン、コラーゲン、E-カドヘリン、デコリン、合成ペプチド、合成ポリマー、MEF又はヒト血清又は脱落膜間葉系細胞由来の細胞外マトリクスからなる群のいずれか一つ以上である、(17)又は(18)に記載の培養方法。
(20)細胞が、マウス由来の細胞またはヒト由来の細胞である、(15)から(19)の何れか一に記載の培養方法。
(21)細胞が多能性幹細胞である、(15)から(20)の何れか一に記載の培養方法。
(22)多能性幹細胞がiPS細胞(induced pluripotent stem cells)である、(21)に記載の培養方法。
【0016】
(23)成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を導入したフィーダー細胞の存在下において細胞を培養する工程を含む、細胞の培養方法。
(24)フィーダー細胞が、MEF(mouse embryonic fibroblast)、STO細胞株(ATCC寄託番号 CRL−1503)、線維芽細胞、胎盤細胞、骨髄細胞、及び子宮内膜細胞の群より選ばれる、(23)に記載の培養方法。
(25)細胞が、マウス由来の細胞またはヒト由来の細胞である、(23)又は(24)に記載の培養方法。
(26)細胞が多能性幹細胞である、(23)から(25)の何れか一に記載の培養方法。
(27)多能性幹細胞がiPS細胞(induced pluripotent stem cells)である、(26)に記載の培養方法。
【0017】
(28)成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)のアミノ酸配列をコードする塩基配列を導入したフィーダー細胞。
(29)フィーダー細胞が、MEF(mouse embryonic fibroblast)、STO細胞株(ATCC寄託番号 CRL−1503)、線維芽細胞、胎盤細胞、骨髄細胞、及び子宮内膜細胞の群より選ばれる、(28)に記載のフィーダー細胞。
(30)培地中に含まれる成長停止特異的タンパク質6(Growth arrest-specific 6;GAS6)を検出又は定量することを含む、細胞を培養するための培地を評価する方法。
【0018】
(31)抗GAS6抗体又はGAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤を含む、多能性幹細胞の増殖抑制剤。
(32)GAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤が、
BMS777607[N-(4-((2-アミノ-3-クロロピリジン-4-イル)オキシ)-3-フルオロフェニル)-4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド]、
R428[1-(6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ [2,3]シクロヘプタ [2,4-d]ピリダジン-3-イル)-3-N-[(7S)-7-ピロリジン-1-イル-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ [7]アンヌレン-3-イル]-1,2,4-トリアゾール-3,5-ジアミン]、及び
UNC569[1-((トランス-4-アミノシクロヘキシル)メチル)-N-ブチル-3-(4-フルオロフェニル)-1H-ピラゾロ [3,4-d]ピリミジン-6-アミン]
から選ばれる1種以上である、(31)に記載の増殖抑制剤。
(33)多能性幹細胞が、iPS細胞(induced pluripotent stem cells)である、(31)又は(32)に記載の増殖抑制剤。
【0019】
(34)(31)から(33)の何れか一に記載の増殖抑制剤を含む、細胞培養培地。
(35)(31)から(33)の何れか一に記載の増殖抑制剤と、基本培地とを含有する細胞用培地キット。
(36)(a)(34)に記載の細胞培養培地又は(35)に記載の細胞用培地キットと、(b)細胞培養装置とを含む、細胞培養システム。
(37)(34)に記載の細胞培養培地、(35)に記載の細胞用培地キット、又は(36)に記載の細胞培養システムのいずれかを用いて細胞を培養する工程を含む、細胞の培養方法。
【0020】
(38)GAS6の作用を抑制する条件下で多能性幹細胞を培養する工程を含む、多能性幹細胞の培養方法。
(39)GAS6の作用を抑制する条件下で多能性幹細胞を培養する工程が、抗GAS6抗体及び/又はGAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤の存在下で多能性幹細胞を培養する工程である、(38)に記載の培養方法。
(40)GAS6受容体型チロシンキナーゼ阻害剤が、
BMS777607[N-(4-((2-アミノ-3-クロロピリジン-4-イル)オキシ)-3-フルオロフェニル)-4-エトキシ-1-(4-フルオロフェニル)-2-オキソ-1,2-ジヒドロピリジン-3-カルボキサミド]、
R428[1-(6,7-ジヒドロ-5H-ベンゾ [2,3]シクロヘプタ [2,4-d]ピリダジン-3-イル)-3-N-[(7S)-7-ピロリジン-1-イル-6,7,8,9-テトラヒドロ-5H-ベンゾ [7]アンヌレン-3-イル]-1,2,4-トリアゾール-3,5-ジアミン]、及び
UNC569[1-((トランス-4-アミノシクロヘキシル)メチル)-N-ブチル-3-(4-フルオロフェニル)-1H-ピラゾロ [3,4-d]ピリミジン-6-アミン]
から選ばれる1種以上である、(39)に記載の培養方法。
【0021】
(41)多能性幹細胞を培養する培地中に含まれる抗GAS6抗体の濃度が10ng/ml以上100ng/ml以下である、(39)に記載の培養方法。
(42)多能性幹細胞を培養する培地がBMS777607を含む場合、培地中に含まれるBMS777607の濃度が2ng/ml以上20ng/ml以下であり、多能性幹細胞を培養する培地がR428を含む場合、培地中に含まれるR428の濃度が8ng/ml以上80ng/ml以下であり、多能性幹細胞を培養する培地がUNC569を含む場合、培地中に含まれるUNC569の濃度が1ng/ml以上10ng/ml以下である、(40)に記載の培養方法。
(43)多能性幹細胞が、iPS細胞(induced pluripotent stem cells)である、(38)から(42)の何れか一に記載の培養方法。
(44)多能性幹細胞が、アルブミンを含まない培地で培養される、(38)から(43)の何れか一に記載の培養方法。
(45)多能性幹細胞が、血清を含まない培地で培養される、(38)から(44)の何れか一に記載の培養方法。
(46)多能性幹細胞が、GAS6を含む培地で培養される、(38)から(45)の何れか一に記載の培養方法。
(47)多能性幹細胞が、MEFで馴化した培地で培養される、(38)から(46)の何れか一に記載の培養方法。