特許第6722650号(P6722650)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722650
(24)【登録日】2020年6月24日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】チューインガム
(51)【国際特許分類】
   A23G 4/08 20060101AFI20200706BHJP
【FI】
   A23G4/08
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2017-501941(P2017-501941)
(86)(22)【出願日】2016年2月24日
(86)【国際出願番号】JP2016000979
(87)【国際公開番号】WO2016136250
(87)【国際公開日】20160901
【審査請求日】2019年2月21日
(31)【優先権主張番号】特願2015-38969(P2015-38969)
(32)【優先日】2015年2月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307013857
【氏名又は名称】株式会社ロッテ
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100096943
【弁理士】
【氏名又は名称】臼井 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100102808
【弁理士】
【氏名又は名称】高梨 憲通
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(74)【代理人】
【識別番号】100136799
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 亜希
(72)【発明者】
【氏名】住吉 光莉
(72)【発明者】
【氏名】尾▲崎▼ 史浩
(72)【発明者】
【氏名】小柳津 正典
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭60−186249(JP,A)
【文献】 特開昭58−016642(JP,A)
【文献】 特開昭57−198050(JP,A)
【文献】 特開昭62−236447(JP,A)
【文献】 米国特許第05800848(US,A)
【文献】 国際公開第00/025598(WO,A1)
【文献】 国際公開第97/000619(WO,A1)
【文献】 食品工業, 1988, Vol. 31, No. 2, pp. 57-67
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23G 4/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シュガーエステル、香料を含み、さらに、分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂を5.0wt%以上7.0wt%以下含み、シュガーエステルのHLB値が5以上9以下であり、ガムベースを27wt%以上27.4wt%以下含むことを特徴とするチューインガム。
【請求項2】
分子量45,000以上90,000以下の酢酸ビニル樹脂を5.0wt%以上7.0wt%以下含むことを特徴とする請求項1に記載のチューインガム。
【請求項3】
シュガーエステル、香料を含み、さらに、分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂を5.0wt%以上7.0wt%以下含み、シュガーエステルのHLB値が5以上9以下であり、ガムベースを27wt%以上27.4wt%以下含むことを特徴とする、香気拡散用チューインガム。
【請求項4】
分子量45,000以上90,000以下の酢酸ビニル樹脂を5.0wt%以上7.0wt%以下含むことを特徴とする請求項に記載の、香気拡散用チューインガム。
【請求項5】
シュガーエステル、香料を含み、さらに、分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂を5.0wt%以上7.0wt%以下含み、シュガーエステルのHLB値が5以上9以下であり、ガムベースを27wt%以上27.4wt%以下含むことを特徴とするチューインガムを咀嚼することを特徴とする、香気拡散方法。
【請求項6】
さらにチューインガムが分子量45,000以上90,000以下の酢酸ビニル樹脂を5.0wt%以上7.0wt%以下含むことを特徴とする請求項に記載のチューインガムを咀嚼することを特徴とする、香気拡散方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
口腔外への香気拡散効果を有するチューインガムの製造に関する。
【背景技術】
【0002】
チューインガムは、ガムベースに、甘味料、酸味料、香料等によって味や香りを付与して作られる菓子である。チューインガムに付与された香りは、咀嚼する人に感じられるのはもちろん、周囲の人にも感じられることがある。そのため、咀嚼している時に拡散する香りは、チューインガムの嗜好に関わる重要な要素の一つであり、口腔外への香気拡散効果を有するチューインガムは好ましい。
【0003】
チューインガム咀嚼時に拡散する香りについては、その測定法としてSniff−Pipe法が考案され、その有効性の評価と香気成分の拡散速度について報告されている(非特許文献1)。
【0004】
チューインガムには、板ガム、糖衣ガム、風船ガムなどが含まれる。これらのうち、特に風船ガムは、口腔外で風船を形成することから、香気の拡散は、品質により深く関わる。
【0005】
一方、チューインガムで風船を形成した際に拡散する香気成分を分析した報告はない。
【0006】
本願発明者らは、風船ガムを咀嚼している時に、風船を形成する場合と形成しない場合のそれぞれで拡散する香気成分を分析し比較することで、風船の形成に起因する香気成分の拡散量の違いを調査した。さらに、ガムのシュガーエステルの割合と、ガムのガムベース中の酢酸ビニル樹脂の分子量に着眼し、口腔外への香気拡散効果を有するチューインガムを完成した。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】佐藤吉永,滝口俊男,鈴木義久 他:日食工誌,36(5),380(1989)
【非特許文献2】Kumazawa K.,Itobe T.,Nishimura O.et al.:Food Sci.Technol.Res.,14(3),269(2008)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
口腔外への香気拡散効果を有するガムの提供。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願発明者らは、ガムの咀嚼中に風船を形成すると、風船を形成しないときに比べて、拡散する香気成分の総量が約2倍に増加することを見出し、風船の形成が、香気の拡散性上昇に有効であることを見出した。さらに、鋭意研究の結果、シュガーエステル、香料を含み、さらに、分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂を3.0wt%以上8.0wt%以下含むことを特徴とするチューインガム、及び、シュガーエステル、香料、及び酢酸ビニル樹脂を含み、シュガーエステルのHLB値が3以上11以下であることを特徴とするチューインガムの発明に至った。
【発明の効果】
【0010】
口腔外への香気拡散効果を有するガムの提供に成功した。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ガムの香気の拡散と風船の形成に関する検討で用いられた香気の採取装置を示す。
図2】ガムの香気の拡散と風船の形成に関する検討における、捕集した香気成分の合計ピークエリア値を示すグラフである。
図3】ガムの香気の拡散と風船の形成に関する検討における、捕集した香気成分のピークエリア値の組成を示すグラフである。
図4】ガムの香気の拡散と風船の形成に関する検討における、風船ガム香気成分の保持指標(DB−Wax)と風船形成の効果の関係を示すグラフである。
図5】ガムの香気の拡散と風船の形成に関する検討における、香料とその香料が練り込まれた風船ガムのヘッドスペース香気によるピークエリア値の組成を示すグラフである。
図6】ガムの香気の拡散と風船の形成に関する検討における、風船ガム香気成分の沸点と拡散性の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、シュガーエステル、香料を含み、さらに、分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂を3.0wt%以上8.0wt%以下含むことを特徴とするチューインガムを提供する。シュガーエステルのHLB値が3以上11以下であることがさらに好ましく、最も好ましくは、シュガーエステルのHLB値は7である。
【0013】
また、本発明は、シュガーエステル、香料、及び酢酸ビニル樹脂を含み、シュガーエステルのHLB値が3以上11以下であることを特徴とするチューインガムを提供する。また、上記のチューインガムは、さらに好ましくは、分子量45,000以上90,000以下の酢酸ビニル樹脂を3.0wt%以上8.0wt%以下含むことを特徴とする。
【0014】
風船ガムとは、チューインガムであって、適度な咀嚼の後、呼気で風船状に膨らますことが可能なものをいう。
【0015】
香気の拡散性が高いとは、香味の広がりがよく、香気成分がより多く、より遠くまで拡散していることを指す。香味の拡散性の高低の指標は特に限定されず、Sniff−Pipe法、実施例の1)「ガムの香気の拡散と風船の形成に関する検討」で用いられたように、装置を用いて香気を捕集し、分析する方法、あるいは、実施例の2)「口腔外への香気拡散効果を有するガムの検討」で行われたように、官能試験による方法などによって、評価することができる。
【0016】
酢酸ビニル樹脂とは、ポリ酢酸ビニルに同義であり、酢酸ビニルを重合することで得られる樹脂をいう。酢酸ビニル樹脂は、分子量分布を有する。本願発明で、分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂を3.0wt%以上8.0wt%以下含むとは、すなわち、分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂の分子を3.0wt%以上8.0wt%以下含むことをいい、分子量45,000未満の酢酸ビニル樹脂の分子が、その他に含まれても構わない。同様に、分子量45,000以上90,000以下の酢酸ビニル樹脂を3.0wt%以上8.0wt%以下含むという場合は、分子量45,000未満、90,000より大きい酢酸ビニル樹脂がその他に含まれても構わない。なお、本発明の効果は、分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂を3.0wt%以上8.0wt%以下含む場合、より好ましくは、分子量45,000以上90,000以下の酢酸ビニル樹脂を3.0wt%以上8.0wt%以下含む場合であれば得ることができる。
【0017】
シュガーエステルとは、ショ糖脂肪酸エステルと同義で、ショ糖の持つ水酸基にステアリン酸やオレイン酸などの脂肪酸をエステル型に結合させたもので非イオン性界面活性剤として用いられる。脂肪酸の種類やエステル化度に応じ、HLB値が1〜16程度のものまであり、用途により選択される。なお、本発明の効果は、シュガーエステルをガム総量中0.05wt%〜1.5wt%使用した場合であれば得ることができる。
【0018】
シュガーエステルの例としては、三菱化学フーズ株式会社で市販されるS−070、S−170、S−270、S−370、S−570、S−770、S−970、S−1170、S−1570、S−1670などのショ糖ステアリン酸エステル;P−170、P−1570、P−1670などのショ糖パルミチン酸エステル;M−1695などのショ糖ミリスチン酸エステル;O−170、O−1570などのショ糖オレイン酸エステル;L−195、L−595、L−1695などのショ糖ラウリン酸エステル;B−370などのショ糖ベヘニン酸エステル;ER−190、ER−290などのショ糖エルカ酸エステル、また、第一工業製薬株式会社で市販されるDKエステルSS、F−160、F−140、F−110、F−90、F−70、F−50、F−20W、F−10、F−A10E、あるいはこれらの混合物などを挙げることができる。
【0019】
香料はガムに香りや味を付与するために加えられ、天然物、天然由来抽出物、非天然物、合成物などを問わない。また、香料は複数の化合物を適宜、混合して用いられる。香料に限定はないが、ミックスフルーツ香料、オレンジ油、レモン油、グレープフルーツ油、ライム油、タンジェリン油、マンダリン油などの柑橘精油類、ペパーミント油、スペアミント油などのミント精油類、オールスパイス、アニスシード、バジル、ローレル、カルダモン、セロリー、クローブ、シンナモン、クミン、ディル、ガーリック、パセリ、メース、マスタード、オニオン、パプリカ、ローズマリー、ペッパーのような公知のスパイス精油類またはオレオレジン類、リモネン、リナロール、ネロール、シトロネロール、ゲラニオール、シトラール、L−メントール、オイゲノール、シンナミックアルデハイド、アネトール、ペリラアルデハイド、バニリン、γ−ウンデカラクトン、カプロン酸アリル、L−カルボン、マルトールなどのような公知の単離、または合成香料、及び、これら柑橘精油類、ミント精油類、スパイス精油類、合成香料を目的に沿った割合で混合したシトラスミックス、ミックスミント、各種フルーツなどを表現させた調合香料を挙げられる。
【0020】
さらに、香料の例として3−methylbutyl acetate,isobutyl acetate,allyl hexanoate,ethyl acetate,ethyl butanoate,methyl 2−methylbutanoate,methyl butanoate,ethyl propanoate,ethyl hexanoate,limonene,propanoic acid,2−methylbutanoic acid,gamma−terpinene,hexanoic acid,benzyl alcohol,ethyl 2−methylbutanoate,methyl 3−(methylthio)propanoate,3−methylbutyl 2−methylbutanoate,phenethyl alcohol,benzaldehyde,alpha−citral,beta−citral,hexanol,hexyl acetate,gamma−hexalactone,citronellyl acetate,terpinolene,ethyl(E)−2−hexenoate,linalool,alpha−ionone,styrallyl acetate,citronellol,ethyl 3−hydroxyhexanoate,alpha−terpineol,beta−ionone,methyl octanoate,gamma−octalactone等を挙げることができる。なお、本発明の効果は、香料をガム総量中0.5wt%〜2.5wt%使用した場合であれば得ることができる。
【0021】
また、本願発明のガムは、シュガーエステル、香料、酢酸ビニル樹脂以外の物質を含むことができ、例として、ガムベースとして、ポリイソブチレン、エステルガム、マイクロワックス、モノグリセライド、タルク、チクル、ジェルトン、ソルバ、マスティック、ガタパーチャ、天然ゴム、天然ゴム分解物、パラフィンワックス、キャンデリラワックス、カルナバワックス、ジグリセライド、炭酸カルシウムなどを含むことができ、その他、軟化剤、酸味料、甘味料など、適宜加えることができる。これらに限定はないが、軟化剤の例としては、グリセリン、プロピレングリコール、ソルビトール液などの多価アルコール、ゼラチン液、デキストリン液などの糊料などを挙げることができる。酸味料の例としては、コハク酸、リンゴ酸、アスコルビン酸、フマル酸、酢酸、乳酸、グルコン酸、酒石酸、リン酸またはクエン酸を挙げることができる。甘味料の例として、アラビノース、ガラクトース、キシロース、グルコース、フコース、ソルボース、フルクトース、ラムノース、リボース、異性化液糖、N−アセチルグルコサミンなどの単糖類;イソトレハロース、スクロース、トレハルロース、トレハロース、ネオトレハロース、パラチノース、マルトース、メリビオース、ラクチュロース、ラクトースなどの二糖類;α−サイクロデキストリン、β−サイクロデキストリン、イソマルトオリゴ糖(イソマルトース、イソマルトトリオース、パノースなど)、オリゴ−N−アセチルグルコサミン、ガラクトシルスクロース、ガラクトシルラクトース、ガラクトピラノシル (β1−3) ガラクトピラノシル (β1−4) グルコピラノース、ガラクトピラノシル (β1−3) グルコピラノース、ガラクトピラノシル (β1−6) ガラクトピラノシル (β1−4) グルコピラノース、ガラクトピラノシル (β1−6) グルコピラノース、キシロオリゴ糖(キシロトリオース、キシロビオースなど)、ゲンチオオリゴ糖(ゲンチオビオース、ゲンチオトリオース、ゲンチオテトラオースなど)、スタキオース、テアンデオリゴ、ニゲロオリゴ糖(ニゲロースなど)、パラチノースオリゴ糖、パラチノースシロップ、フラクトオリゴ糖(ケストース、ニストースなど)、フラクトフラノシルニストース、ポリデキストロース、マルトシル−β−サイクロデキストリン、マルトオリゴ糖(マルトトリオース、テトラオース、ペンタオース、ヘキサオース、ヘプタオースなど)、ラフィノース、砂糖結合水飴(カップリングシュガー)、大豆オリゴ糖、転化糖、水飴などのオリゴ糖類;イソマルチトール、エリスリトール、キシリトール、グリセロール、ソルビトール、パラチニット、マルチトール、マルトテトライトール、マルトトリイトール、マンニトール、ラクチトール、還元イソマルトオリゴ糖、還元キシロオリゴ糖、還元ゲンチオオリゴ糖、還元麦芽糖水飴、還元水飴などの糖アルコール;α−グルコシルトランスフェラーゼ処理ステビア、アスパルテーム、アセスルファムカリウム、アリテーム、カンゾウ抽出物(グリチルリチン)、グリチルリチン酸三アンモニウム、グリチルリチン酸三カリウム、グリチルリチン酸三ナトリウム、グリチルリチン酸二アンモニウム、グリチルリチン酸二カリウム、グリチルリチン酸二ナトリウム、クルクリン、サッカリン、サッカリンナトリウム、シクラメート、スクラロース、ステビア抽出物、ステビア末、ズルチン、タウマチン(ソーマチン)、テンリョウチャ抽出物、ナイゼリアベリー抽出物、ネオテーム、ネオヘスペリジンジヒドロカルコン、フラクトシルトランスフェラーゼ処理ステビア、ブラジルカンゾウ抽出物、ミラクルフルーツ抽出物、ラカンカ抽出物、酵素処理カンゾウ、酵素分解カンゾウなどの高甘味度甘味料を挙げることができる。
また本発明のさらなる実施形態としてシュガーエステル、香料を含み、さらに、分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂を3.0wt%以上8.0wt%以下含むことを特徴とする、香気拡散用チューインガム、及び、シュガーエステル、香料、及び酢酸ビニル樹脂を含み、シュガーエステルのHLB値が3以上11以下であることを特徴とする、香気拡散用チューインガムをあげることができる。
これらの実施形態において、シュガーエステルのHLB値は好ましくは3以上11以下であり、また、分子量45,000以上90,000以下の酢酸ビニル樹脂を3.0wt%以上8.0wt%以下含むことが好ましい。
また本発明のさらなる実施形態として、 シュガーエステル、香料を含み、さらに、分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂を3.0wt%以上8.0wt%以下含むことを特徴とするチューインガムを咀嚼することを特徴とする、香気拡散方法、及び、シュガーエステル、香料、及び酢酸ビニル樹脂を含み、シュガーエステルのHLB値が3以上11以下であることを特徴とするチューインガムを咀嚼することを特徴とする、香気拡散方法をあげることができる。これらの実施形態において、シュガーエステルのHLB値は好ましくは3以上11以下であり、また、分子量45,000以上90,000以下の酢酸ビニル樹脂を3.0wt%以上8.0wt%以下含むことが好ましい。
【実施例】
【0022】
1)ガムの香気の拡散と風船の形成に関する検討
風船ガムが、風船を形成する場合と形成しない場合で、それぞれ拡散する香気成分を分析し、比較することで、風船の形成に起因する香気成分の拡散量の違いを調査した。
【0023】
1−1)方法
1−1−1)試料
風船ガムは、ガムベースを27.4%、マルチトールを42.0%、キシリトールを27.0%含むガム生地に、ミックスフルーツ香料を1.0%添加して調製した。ミックスフルーツ香料の組成を表1に示す。ここでは香気の拡散の検討のためのモデルガムとして、シュガーエステルは含まない風船ガムを用いた。
【0024】
【表1】
【0025】
1−1−2)装置
風船ガムの咀嚼時に拡散する香気を、図1に概略を示す装置によって採取した。装置はアクリル製の円筒(長さ1.5m,内径9.6cm,厚さ0.2cm)2本を連結し、さらにその両端に長さ10cmのポリプロピレン製の円筒を連結して作製した。香気成分の捕集は、固相マイクロ抽出(Solid Phase Micro Extraction,以下SPME)法によって行った。ファイバーアッセンブリーを挿入した位置を、被験者から近い順に拡散距離0m,同1.5m,同3mとした。ファイバーを露出させた際、その先端が円筒の径の中心に来るように固定した。実験には全部で12本のファイバー(DVB/CAR/PDMS, 膜厚50/30μm,SUPELCO)を使用し、被験者・風船形成の有無・拡散距離の3つの条件の組み合わせが重複しないようにした。
【0026】
1−1−3)風船ガム咀嚼時に拡散する香気の捕集
実験は室温24℃〜27℃、相対湿度47%〜71%の無風の環境下で、20代〜30代の男女各5名、計10名の被験者によって行った。試料の咀嚼を行う前に、香料を添加していないガム生地4gを約5分間咀嚼して、口腔内の状態を一定にした。その後、ガム生地を取り出し、試料4gを毎分80回の頻度で2分間咀嚼した。続いて図1に示すように円筒内に鼻と口を入れ、咀嚼と風船の形成を繰り返し、拡散する香気成分を5分間捕集した。風船の形成は1分間のうち積算で30秒間行い、5分間で合計2分30秒間風船が口外に露出された状態になるようにした。風船の調製作業時及び露出時以外は、毎分80回の頻度で咀嚼した。咀嚼時及び風船の露出時は口を開けずに鼻だけで呼吸した。以上を「風船形成あり」の咀嚼方法とした。風船を形成せずに毎分80回の頻度で5分間咀嚼する「風船形成なし」の咀嚼も行い、その時拡散する香気成分も捕集した。被験者は2つの咀嚼方法でそれぞれ3回ずつ実験を行った。
【0027】
1−1−4)機器分析
SPMEファイバーに捕集された香気成分は、ガスクロマトグラフ質量分析計を用いて分析した。スプリットレスモードに設定した注入口(250℃)にファイバーアッセンブリーを挿入後、速やかにファイバーを露出すると同時に分析を開始した。1分間ファイバーを露出して香気成分を脱着した後、ファイバーを収納しファイバーアッセンブリーを注入口から引き抜いた。その他の各種条件は以下の通りである。ガスクロマトグラフ:7890A(Agilent)。質量分析計:5975C(Agilent)。カラム:DB−Wax(60m×0.25mm i.d.,膜厚0.25μm,J&W Scientific)。キャリアガス:ヘリウム。キャリアガス流量:1.2ml/min。オーブン昇温プログラム:40℃(5min)−200℃/5min。イオン化電圧:70eV(EI)。イオン源温度:230℃。
【0028】
1−2)結果及び考察
1−2−1)実験の再現性及び被験者間の個人差
「風船形成あり」及び「風船形成なし」の二つの方法でそれぞれ3回ずつ実験を行った結果を表2に示す。同一の被験者における主要成分のピークエリア値は大きなばらつきがあった([相対標準偏差(%)]≧18)。
【0029】
本実施例では、いずれの咀嚼方法・拡散距離においても、同一被験者に対して使用するファイバーは全て異なっていたため、ばらつきの大きさはファイバーの個体差に起因すると考えられる。そこで、表1に示した成分の合計ピークエリア値に対する、個々の成分の割合を算出して比較した。結果を表2に示す。いずれの成分についてもばらつきは小さかった。この結果から、捕集された香気成分の組成に関しては再現性があることがわかった。
【0030】
【表2】
【0031】
続いて被験者間の個人差について検討した。結果を表3に示す。全10名の被験者が実験を行った結果、主要成分のピークエリア値のばらつきはやはり大きかったが、前述と同様に各成分の割合から見ると、いずれの成分についてもばらつきは小さかった。
【0032】
【表3】
【0033】
この結果から、前述したファイバーの個体差や、拡散する香気成分量の個人差によると考えられるピークエリア値のばらつきは認められるが、拡散する香気成分の組成は被験者間で類似していることがわかった。
【0034】
本実施例では、ファイバーが使用される条件をランダム化することによって、ファイバーの個体差による結果の偏りを避けた。それに加え、被験者間で拡散する香気成分の組成が類似していることがわかった。これらを踏まえ、平均値を用いて咀嚼方法や拡散距離の違いに起因する香気成分量の差を評価した。
【0035】
1−2−2)風船の形成による香気成分の拡散量の変化
被験者から拡散した香気成分の合計ピークエリア値を、「風船形成あり」と「風船形成なし」で比較した結果を図2に示す。結果では、前者の方が有意に大きな値を示しており、拡散距離0m、1.5m、3mにおいて、その差はそれぞれ2.1倍、1.8倍、1.9倍であった。この結果から、風船の形成によって、香気成分はより多く、より遠くまで拡散していることが示唆された。「風船形成なし」の場合では、唾液への溶解・嚥下や、上皮への吸着などが起こる口腔と鼻腔を通過しなければ、香気成分は外部に拡散できない。それに対して、「風船形成あり」の場合では、ガム生地が直接口腔外に露出しているために、拡散する香気成分量が多かったと考えられる。また、風船の形成により、表面積が大きな状態でガムを露出しているため、ガム中の水分が揮発しやすくなる。それにより香気成分が揮散しやすくなったことも、風船の形成によって拡散する香気成分量が増加した要因として考えられる。
【0036】
図3は捕集した香気成分によるピークエリア値の組成を示す。図3(a),(b)に示すように、二つの咀嚼方法では、拡散した香気成分の組成も異なっていた。これは、風船の形成による香気成分の揮散量の増加率が、成分毎に異なるためと思われる。この風船形成による揮散量の増加効果(以下、風船形成の効果)を、拡散距離0mにおける「風船形成なし」のピークエリア値に対する「風船形成あり」のピークエリア値の比で評価した結果を表4に示す。
【0037】
【表4】
【0038】
ethyl acetateやethyl propanoate、isobutyl acetateなど、低分子かつ低沸点のエステル類では、風船形成の効果は小さかった。これらの成分は、その揮発性の高さから”風船形成なし”でも十分に鼻腔の外に拡散していることが考えられる。一方で親水性の高いmethyl 3−(methylthio)propanoateやpropanoic acidなどの成分や、沸点の高いphenethyl alcoholなどの成分は風船形成の効果が大きかった。以上から、親水性や揮発性が風船形成の効果に関与していることが考えられる。
なお、表4の結果より、拡散性が高いと言える香気成分は、1.5mの位置における拡散性が0.76以上、3mの位置における拡散性が0.61以上の成分である。また、propanoic acidを除き、風船形成の効果が2.1以下、DB−Waxの保持指標が1120以下、常圧下での沸点が142℃以下の成分である。具体的な化合物名では、ethyl acetate,ethyl propanoate,methyl butanoate,methyl 2−methylbutanoate,isobutyl acetate,ethyl butanoate,ethyl 2−methylbutanoate,3−methylbutyl acetate,propanoic acidが該当する。
また、風船形成の効果が高いと言える香気成分は、風船形成の効果が2.1を超える、もしくは+判定となっている成分、またDB−Waxの保持指標が1196以上となっている成分である。また、propanoic acidを除き、1.5mの位置における拡散性が0.76未満もしくは−判定、3mの位置における拡散性が0.61未満もしくは−判定、常圧下での沸点が142℃を超える成分、もしくはN/Aとなっている成分である。沸点がN/Aとなっている成分は、熱に不安定なため、常圧では沸点に達する前に分解してしまう成分である。具体的な化合物名では、limonene,ethyl hexanoate,gamma−terpinene,hexyl acetate,3−methylbutyl 2−methylbutanoate,terpinolene,ethyl(E)−2−hexenoate,hexanol,allyl hexanoate,methyl octanoate,benzaldehyde,methyl 3−(methylthio)propanoate,propanoic acid,linalool,citronellyl acetate,2−methylbutanoic acid,beta−citral,ethyl 3−hydroxyhexanoate,gamma−hexalactone,alpha−terpineol,styrallyl acetate,alpha−citral,citronellol,hexanoic acid,alpha−ionone,benzyl alcohol,phenethyl alcohol,gamma−octalactone,beta−iononeが該当する。
【0039】
非特許文献2は、香気成分の極性と蒸気圧が溶出時間に影響するGCカラム(DB−Wax)における保持指標が、口腔におけるチューインガム香気成分の発現特性と相関することを示している。本実施例における風船形成の効果も、DB−Waxの保持指標との相関が期待される。そこで風船形成の効果とDB−Waxの保持指標について各香気成分をプロットした。結果を図4に示す。正の相関がある傾向は見られたが、高い決定係数は得られなかった。非特許文献2では、口腔内のチューインガムから鼻腔の外への香気成分の出やすさを検討しているが、本実施例では、口腔内のチューインガムから鼻腔の外に出る香気成分量と、口腔外に露出されたガムから出る香気成分量を比較している。DB−Waxの保持指標との相関が高くなかったのは、この実験条件の違いに起因しており、風船形成の効果には親水性や揮発性以外の要素も関わっているものと考えられる。その要素の一つとしては、香気成分のガム生地からの揮散しやすさが挙げられる。本実施例に使用したミックスフルーツ香料と、それが練り込まれた未咀嚼の試料のヘッドスペース香気を、それぞれSPME法により捕集して分析した結果を図5に示す。両者の香気成分組成は異なっていた。すなわち、ガム生地から気相への揮散のしやすさは香気成分によって異なり、これは水分量が少ない状態でガム生地が露出される「風船形成あり」の方の香気拡散に対して影響が大きいと考えられる。このように、風船形成の効果には、様々な要因が関わっているようである。
【0040】
図3(b),(c),(d)では、咀嚼している被験者からの距離が長くなると、香気成分量の減少とともに若干の組成の変化もみられた。この点については、咀嚼の方法とは関係なく、空気中への揮散後における香気成分の拡散しやすさの違いによるものと考えられる。それにより、咀嚼している被験者から離れた位置では、拡散性の高い成分の割合が大きく、低い成分の割合が小さくなる。この拡散性を、0mにおけるピークエリア値に対する各拡散距離におけるピークエリア値の比で評価した表4によると、拡散性については、風船形成の効果が小さかった成分で大きく、風船形成の効果が大きかった成分では拡散性が小さいという、相反する傾向が見て取れた。また、拡散距離3mにおける拡散性の値と沸点について各成分を図6に示すようにプロットしたところ、高い相関関係があった(=0.86)。すなわち、拡散性については香気成分の沸点と関連が強いことが示唆された。
【0041】
1−2−3)ガムの香気拡散と風船の形成に関する検討のまとめ
風船ガムの咀嚼中に風船を形成した場合の香気拡散を調査した。風船を形成すると、拡散する香気成分の総量は風船を形成しない時に比べて約2倍に増加した。また、風船形成の有無で拡散する香気成分の組成も異なることがわかった。
【0042】
2)口腔外への香気拡散効果を有するガムの検討
口腔外への香気拡散効果を有するガムを作製するため、シュガーエステルと、ガムベース中の酢酸ビニル樹脂の割合について検討を行った。
【0043】
2−1)ガムの組成
以下の実施例においては、ガムは以下の表5、6の組成に基づいて作製された。
【表5】
表5中のガムベースの組成はさらに表6に示される。
【表6】
【0044】
2−2)官能試験
本実施例で行われた官能試験の評価方法は次の通りである。
試験は(株)ロッテ 中央研究所の専門パネル3名によって行われた。「感触」「香味」「風船」の3項目については、各パネルが、2.0gのガムを毎分80回の頻度で5分間咀嚼し、評価を行った。「香りの拡散」については、咀嚼者がガムを2.0g食べながら風船を膨らまし、残り2名の評価者が咀嚼者から2m離れた位置で5分間香りの評価を行った。風船の形成は5分間で合計2〜3分間風船が口外に露出された状態になるようにした。風船の調整作業時及び露出時以外は、毎分80回の頻度で咀嚼した。評価4項目について整数値1〜10の10段階で評価し、パネル3名の平均値を算出した。点数の指標は表7の通りである。
【0045】
【表7】
【0046】
2−3)酢酸ビニル樹脂の検討
酢酸ビニル樹脂の分子量分布が様々な樹脂を用いてガムベースを作製した。すなわち、分子量分布の異なる酢酸ビニル樹脂を混合して用い、最終的に分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂の割合がガム中に2.5wt%から8.5wt%となるようにガムを調製し、それらのガムについて、2−)の官能試験を行った。なお、本実験のガムでは、いずれもシュガーエステルはS−770(HLB値約7)を用いた。実験結果は表8の通りである。
【0047】
【表8】
【0048】
以上より、ガム総量中、分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂が占める割合が3.0〜8.0wt%の場合において香気の拡散性が高く、特に6.0wt%で最も良い結果が得られることが分かった(表8中(2)〜(7))。
【0049】
2−4)シュガーエステルの検討
1以下から約16までの、様々なHLB(親水親油バランスHydrophile−Lipophile Balance)値を有するシュガーエステル10種類を用いてガムを調製し、それらのガムについて、上記の官能試験を行った。なお、本実験のガムでは、いずれも分子量45,000以上の酢酸ビニル樹脂の割合はガム中6.0wt%であった。実験結果は表9の通りである。
【0050】
【表9】
【0051】
シュガーエステルの種類としてはS−370〜S−1170(HLB値約3〜約11)を用いた場合が香気の拡散性が高く、特にS−770(HLB値約7)で最も良い結果が得られた(表9中(4)〜(8))。
【0052】
この出願は2015年2月27日に出願された日本国特許出願第2015−038969号からの優先権を主張するものであり、その内容を引用してこの出願の一部とするものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6