(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6722673
(24)【登録日】2020年6月24日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】濃度勾配を示すリチウム二次電池用正極活物質前駆体及び正極活物質を製造する方法、及びこれによって製造された濃度勾配を示すリチウム二次電池用正極活物質前駆体及び正極活物質
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20200706BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20200706BHJP
C01G 53/00 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
C01G53/00 A
【請求項の数】10
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2017-533200(P2017-533200)
(86)(22)【出願日】2015年7月24日
(65)【公表番号】特表2018-506140(P2018-506140A)
(43)【公表日】2018年3月1日
(86)【国際出願番号】KR2015007718
(87)【国際公開番号】WO2016108375
(87)【国際公開日】20160707
【審査請求日】2018年7月13日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0195306
(32)【優先日】2014年12月31日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】517113750
【氏名又は名称】エコプロ ビーエム カンパニー リミテッド
【氏名又は名称原語表記】ECOPRO BM CO., LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(74)【代理人】
【識別番号】100100424
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 知公
(74)【代理人】
【識別番号】100179202
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100188411
【弁理士】
【氏名又は名称】阪下 典子
(72)【発明者】
【氏名】チョイ, モンホウ
(72)【発明者】
【氏名】キム, ジクスー
(72)【発明者】
【氏名】ユン, ジンキョン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン, スクヨン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン, ジェヨン
(72)【発明者】
【氏名】スン, ヨンチュル
【審査官】
結城 佐織
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2014/178628(WO,A1)
【文献】
特表2013−517599(JP,A)
【文献】
韓国公開特許第10−2013−0001703(KR,A)
【文献】
国際公開第2013/002457(WO,A1)
【文献】
国際公開第2014/178623(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00−4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キレーティング剤水溶液を反応器に投入する第1ステップと、
コア形成用水溶液、キレーティング剤水溶液、及び塩基性水溶液を反応器に同時に連続投入してコア層をなす球形の沈殿物を得る第2ステップと、
シェル形成用水溶液を準備し、キレーティング剤水溶液、塩基性水溶液及び前記コア形成用水溶液とシェル形成用水溶液を混合させながら反応器に同時に連続投入して濃度勾配層をなす沈殿物を得る第4ステップと、
シェル形成用水溶液、キレーティング剤水溶液、及び塩基性水溶液を混合させながら反応器に同時に連続投入してシェル層をなす球形の沈殿物を得る第4−2ステップと、
前記沈殿物を乾燥させる第5ステップと、
を含む濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法であって、
前記第2ステップと前記第4ステップとの間に、Ni及びMnを含む障壁層形成用水溶液、キレーティング剤水溶液、及び塩基性水溶液を反応器に同時に連続投入して障壁層をなす球形の沈殿物を得るステップを実施するか、または
前記第4ステップと前記第4−2ステップとの間に、Ni及びMnを含む障壁層形成用水溶液、キレーティング剤水溶液、及び塩基性水溶液を反応器に同時に連続投入して障壁層をなす球形の沈殿物を得るステップを実施する、
濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項2】
前記障壁層形成用水溶液はNiとMnを30:70乃至は70:30のモル比で含むことを特徴とする、請求項1に記載の濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項3】
前記障壁層形成用水溶液はNiとMnを50:50のモル比で含むことを特徴とする、請求項1に記載の濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項4】
前記コア形成用水溶液はNi:Co:Mn=a:b:1−(a+b)(0.7 ≦a ≦ 1.0、0 ≦b ≦0.2)のモル比で含むことを特徴とする、請求項1に記載の濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項5】
前記シェル形成用水溶液はNi:Co:Mn=a:b:1−(a+b)(0.3 ≦a ≦0.6、0 ≦b ≦0.4)のモル比で含むことを特徴とする、請求項1に記載の濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項6】
前記第4ステップでは、前記コア形成用水溶液とシェル形成用水溶液を別途の予備反応器で混合し、混合溶液を反応器に同時に連続投入することを特徴とする、請求項1に記載の濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法。
【請求項7】
濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体であって、前記正極活物質前駆体は、
ニッケルとコバルトを含む、濃度が一定のコア層と、
前記コア層とシェル層との間に、ニッケル、マンガン、コバルトの濃度が勾配してなる濃度勾配層と、
ニッケル、マンガン、コバルトを含む、濃度が一定のシェル層と、
前記コア層と濃度勾配層との間に、Ni及びMnを含む濃度が一定の障壁層か、または前記濃度勾配層と前記シェル層との間に、Ni及びMnを含む濃度が一定の障壁層と
を含む、濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
【請求項8】
前記濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体において、障壁層は厚さが0.01μm以上から2.0μm未満であるか、または粒子体積対比1%以上から20%未満であることを特徴とする、請求項7に記載の濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
【請求項9】
前記濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の1次粒子のサイズは障壁層を含まない同一組成の正極活物質前駆体の1次粒子のサイズより10〜40%減少することを特徴とする、請求項7に記載の濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体。
【請求項10】
請求項7による濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体をリチウム化合物と混合させるステップと、
750〜1000℃で空気や酸素の酸化性雰囲気で10〜25時間熱処理するステップと、
を含むことを特徴とする、濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は濃度勾配を示すリチウム二次電池用正極活物質前駆体及び正極活物質を製造する方法、及びこれによって製造された濃度勾配を示すリチウム二次電池用正極活物質前駆体及び正極活物質に関し、より詳しくは、以後の熱処理過程による熱拡散が起こっても濃度勾配層が維持できるように障壁層を含むことを特徴とする濃度勾配を示すリチウム二次電池用正極活物質前駆体及び正極活物質を製造する方法、及びこれによって製造された濃度勾配を示すリチウム二次電池用正極活物質前駆体及び正極活物質に関する。
【背景技術】
【0002】
現在適用されている二次電池のうち、1990年代初に開発されたリチウムイオン電池は、小型、軽量、大容量電池として1991年に登場した以来、携帯機器の電源として広く使われた。
【0003】
リチウム二次電池は、水系電解液を使用するNi−MH、Ni−Cd、硫酸−鉛電池などの在来式電池に比べて作動電圧が高く、エネルギー密度が格段に大きいという長所により脚光を浴びている。特に、最近には内燃機関とリチウム二次電池を混成化(hybrid)した電気自動車用動力源に関する研究が米国、日本、及びヨーロッパなどで活発に進行中である。
【0004】
しかしながら、エネルギー密度の観点から電気自動車用の大型電池にリチウムイオン電池の使用を考慮してはいるが、今までは安全性の観点からニッケル水素電池が使われている。電池自動車用に使われるためのリチウムイオン電池において、最大の当面課題は高い価格と安全性である。特に、現在商用化されて使われているLiCoO
2やLiNiO
2のような正極活物質は、過充電状態の電池を200〜270℃で加熱すれば、急激な構造変化が発生するようになり、そのような構造変化によって格子内の酸素が放出される反応が進行されて充電時の脱リチウムによる結晶構造の不安定により熱的特性が非常に劣る短所を有している。
【0005】
これを改善するためにニッケルの一部を遷移金属元素の置換して発熱開始温度を若干高温側に移動させるか、または急激な発熱を防止するなどが試みられている。ニッケルの一部をコバルトに置換したLiNi1−xCoxO
2(x=0.1−0.3)物質の場合、優れる充・放電特性と寿命特性を見せるが、熱的安全性の問題は解決できなかった。また、Ni個所に熱的安全性に優れるMnを一部置換したLi−Ni−Mn系複合酸化物またはMn及びCoに置換したLi−Ni−Mn−Co系複合酸化物の組成とその製造に関連した技術もたくさん知られており、最近、日本特許2000−227858号ではLiNiO
2やLiMnO
2に遷移金属を部分置換する概念でなく、MnとNi化合物を原子レベルで均一に分散させて固溶体を作る新たな概念の正極活物質を開示した。例えば、NiをMn及びCoに置換したLi−Ni−Mn−Co系複合酸化物の組成に対するヨーロッパ特許0918041や米国特許6040090によれば、LiNi1−xCoxMnyO
2(0<y ≦0.3)は既存のNiとCoだけで構成された材料に比べて向上した熱的安全性を有するが、相変らずNi系の熱的安全性を解決できなかった。
【0006】
このような短所を解決するために電解質と接する正極活物質の表面組成を変化させる方法を適用するようになったし、このような方法のうちの一つが表面コーティング方法である。一般的に、コーティング量は正極活物質対比1〜2重量%以下の小さな量で、コーティング層は数ナノミリメートル位の極めて薄い薄膜層を形成して電解液との副反応を抑制することと知られているか、またはコーティング後の熱処理温度が高い場合、粉末粒子の表面に固溶体を形成して粒子の内部と異なる金属組成を有する場合がある。この場合、コーティング物質と結合した表面層が数十ナノミリメートル以下に知られており、コーティング層と粒子バルクとの急激な組成差があって数百サイクルの長期使用時、その効果が減るようになる。
【0007】
また、前記コーティング層が表面に均等に分布しない不完全なコーティングによってその効果が半減される。
このような短所を無くすために韓国特許出願番号第10−2005−7007548号に金属組成の濃度勾配を有するリチウム遷移金属酸化物に対する特許が提案されている。しかしながら、この方法は合成時、内部層と外部層の金属組成を異なるように合成することができるが、生成された正極活物質で金属組成が連続して漸進的に変わらない。熱処理過程を通じて金属組成の漸進的な勾配がなされることはできるが、850℃以上の高い熱処理温度では金属イオンの熱拡散によって濃度勾配差がほとんど生じない。また、この発明により合成された粉末はキレーティング剤であるアンモニアを使用しないため、粉末のタブ密度が低くて、リチウム二次電池用正極活物質に使用するには適合しない。また、この方法は内部物質にリチウム遷移金属酸化物を使用する場合、外部層のリチウム量の制御が困難であるので、再現性が落ちる。
【0008】
韓国特許出願番号第10−2004−0118280号には、コア−シェル構造を有する二重層構造を提案している。この特許ではCSTR反応器を使用して、コアには高い容量特性を有する正極組成を、外部シェルには熱的安全性に優れる正極組成物を組み合わせて高容量特性と熱的安全性に優れる材料を報告している。
【0009】
しかしながら、この特許による場合にも内部コアと外部シェルとが合う界面で金属元素の拡散によって2つ界面の間の連続的な濃度分布を有する構造を形成し難いという問題点があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、前記のような従来技術の問題点を解決するために、コアと外部シェルとが合う界面でも意図した連続的な濃度分布を示すことができる濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法、正極活物質の製造方法、及びこれによって製造された正極活物質前駆体、正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は前記のような課題を解決するために、
キレーティング剤水溶液を反応器に投入する第1ステップ;
コア形成用水溶液、キレーティング剤水溶液、及び塩基性水溶液を反応器に同時に連続投入してコア層をなす球形の沈殿物を得る第2ステップ;
障壁層形成用水溶液、キレーティング剤水溶液、及び塩基性水溶液を反応器に同時に連続投入して障壁層をなす球形の沈殿物を得る第3ステップ;
シェル形成用水溶液を準備し、キレーティング剤水溶液、塩基性水溶液及び前記コア形成用水溶液とシェル形成用水溶液を混合させながら反応器に同時に連続投入して前記障壁層の表面にニッケルマンガンコバルトの濃度が相対的に漸進的に変わる濃度勾配層をなす沈殿物を得る第4ステップ;及び
前記沈殿物を乾燥させる第5ステップ;
前記乾燥された沈殿物を熱処理する第6ステップ;を含む濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法を提供する。
【0012】
本発明による濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法において、前記障壁層形成用水溶液はNi及びMnを含むことを特徴とする。
【0013】
本発明による濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法において、前記障壁層形成用水溶液はNiとMnを30:70乃至は70:30のモル比で含むことを特徴とする。
【0014】
本発明による濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法において、前記障壁層形成用水溶液はNiとMnを50:50のモル比で含むことを特徴とする。
【0015】
本発明による濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法において、前記コア形成用水溶液はNi:Co:Mn=a:b:1−(a+b)(0.7 ≦a ≦0.9、0 ≦b ≦0.2)のモル比で含むことを特徴とする。
【0016】
本発明による濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法において、前記シェル形成用水溶液はNi:Co:Mn=a:b:1−(a+b)(0.3 ≦a ≦0.6、0 ≦b ≦0.4)のモル比で含むことを特徴とする。
【0017】
本発明による濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法において、前記第4ステップでは前記コア形成用水溶液とシェル形成用水溶液を別途の予備反応器で混合し、混合溶液を反応器に同時に連続投入することを特徴とする。
【0018】
本発明による濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法は、前記第4ステップと第5ステップとの間にシェル形成用水溶液、キレーティング剤水溶液、及び塩基性水溶液を混合させながら反応器に同時に連続投入してシェル層をなす球形の沈殿物を得る第4−2ステップをさらに含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明は、本発明による濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の製造方法により製造された濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体を提供する。
本発明による濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体で障壁層は厚さが0.01μm以上から2.0μm未満であるか、または粒子体積対比1%以上から20%未満であることを特徴とする。
【0020】
本発明による濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体の1次粒子のサイズは、障壁層を含まない同一組成の正極活物質前駆体の1次粒子のサイズより10〜40%減少することを特徴とする。
【0021】
また、本発明は、
本発明により製造された濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質前駆体をリチウム化合物と混合させるステップ;
750〜1000℃で空気や酸素の酸化性雰囲気で10〜25時間熱処理するステップ;を含むことを特徴とする、濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供する。
【0022】
また、本発明は、本発明により製造された濃度勾配層を有するリチウム二次電池用正極活物質を提供する。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、濃度勾配を示すリチウム二次電池用正極活物質前駆体及び正極活物質を製造する方法は、濃度が一定のコアと濃度勾配を示すシェル部の間に障壁層を含むことを特徴とし、このような本願発明により製造された正極活物質は、コアとシェルとの間の遷移金属の拡散が起こってもコアと外部シェルとが合う界面でも設計時に意図した連続的な濃度分布を示す効果を示す。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施例及び比較例で製造された活物質粒子のSEM写真を測定した結果を示す。
【
図2】本発明の一実施例及び比較例で製造された活物質粒子内での遷移金属の濃度を測定した結果を示す。
【
図3】本発明の一実施例及び比較例で製造された活物質粒子を含む電池の充放電特性を測定した結果を示す。
【
図4】本発明の一実施例及び比較例で製造された活物質粒子を含む電池の残留リチウムを測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を実施例に従ってより詳細に説明する。しかしながら、本発明が以下の実施例により限定されるものではない。
【0026】
<実施例−1>
回分式反応器(batch reactor)(容量90L)蒸溜水20リットルとアンモニア1kgを入れた後、コア形成用水溶液に硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンのモル比が90:10:0の割合で混合された2.5M濃度の水溶液を53g投入した。
【0027】
次に、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンのモル比が90:10:0の割合で混合された2.5M濃度のコア形成用水溶液を2.41L/時間で、28%濃度のアンモニア水溶液を0.29リットル/時間で反応器に連続投入した。また、pH調整のために25%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を供給してpHが11.2に維持されるようにした。インペラ速度は350rpmに調節した。作られたコア形成用水溶液とアンモニア、水酸化ナトリウム溶液を反応器内に連続して60.5L投入した。反応器の容量を勘案して決まった時間に上澄液を排出しながら反応を進行した。
【0028】
次に、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンのモル比が50:0:50の割合で混合された2.5モル濃度の障壁層形成用水溶液を作って、前記障壁層形成用水溶液を2.41L/時間で、28%濃度のアンモニア水溶液を0.29リットル/時間で反応器に連続投入した。この際、投入された前記障壁層形成用水溶液とアンモニア、水酸化ナトリウム3.7Lである。
【0029】
次に、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンのモル比65:15:20を合せるために、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンのモル比が19.4:24.3:56.3の割合で混合された2.5M濃度の濃度勾配層形成用水溶液を作って、前記回分式反応器(batch reactor)の他の別途の撹拌機で前記硫酸ニッケル、硫酸コバルトのモル比が90:10の割合で混合された2.5M濃度のコア形成用水溶液と混合した。28%濃度のアンモニア水溶液は0.29L/時間の速度で投入し、水酸化ナトリウム溶液はpHが11.2になるように維持した。この際、投入されたシェル形成用水溶液とアンモニア水酸化ナトリウムは9.91Lである。
【0030】
次に、第5ステップとして、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンのモル比が40:20:40の割合で混合されたシェル形成用水溶液を回分式反応器(batch reactor)で2.41L/時間、28%濃度のアンモニア水溶液は0.29L/時間の速度で投入し、水酸化ナトリウム溶液はpHが11.2になるように投入し、反応が終結された後、回分式反応器(batch reactor)から球形のニッケルマンガンコバルト複合水酸化物沈殿物を得た。
【0031】
前記沈殿された複合金属水酸化物を濾過し、水洗浄した後、110℃の温風乾燥器で乾燥させて粉末を得ることができる。
次に、第7ステップとして、前記6ステップで得た複合金属水酸化物を水酸化リチウムと混合後、810℃で10〜20時間熱処理してリチウム二次電池用正極活物質を得た。
【0032】
<実施例−2>
コア層の形成後、濃度勾配層を先に形成し、障壁層を形成したことを除いては、前記実施例1と同一にしてリチウム二次電池用正極活物質を得た。
【0033】
<実施例−3>
コア層、濃度勾配層、シェル層を形成し、シェル層の最外郭に障壁層を形成したことを除いては、前記実施例1と同一にしてリチウム二次電池用正極活物質を得た。
【0034】
<実施例−4>
コア層の形成後、濃度勾配層を形成せず、障壁層及びシェル層を形成したことを除いては、前記実施例1と同一にしてリチウム二次電池用正極活物質を得た。
【0035】
<実施例−5>
粒子平均組成がNi:Co:Mnが64:19:17になるようにしたことを除いては、前記実施例1と同一にしてリチウム二次電池用正極活物質を得た。
【0036】
<実施例−6>
粒子平均組成がNi:Co:Mnが66:17:17になるように設計し、熱処理温度を920℃で実施したことを除いては、前記実施例1と同一にしてリチウム二次電池用正極活物質を得た。
【0037】
<比較例−1>
回分式反応器(batch reactor、容量90L)に蒸溜水20リットルとアンモニア1kgを入れた後、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンのモル比が90:10:0の割合で混合された2.5M濃度の水溶液を53g投入した。
反応器内の温度を46℃に維持しながら350rpmで撹拌した。
【0038】
次に、第2ステップとして、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンのモル比が90:10:0の割合で混合された2.5M濃度の第1前駆体水溶液を2.41L/時間で、28%濃度のアンモニア水溶液を0.29リットル/時間で反応器に連続投入した。また、pH調整のために、25%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を供給してpHが11.2に維持されるようにした。インペラ速度は350rpmに調節した。作られた第1前駆体水溶液とアンモニア、水酸化ナトリウム溶液を反応器内に連続して63.87L投入した。
【0039】
次に、第3ステップとして、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンのモル比65:15:20を合せるために、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンのモル比が19.4:24.3:56.3の割合で混合された2.5M濃度の濃度勾配層形成用水溶液を作って、前記回分式反応器(batch reactor)の他の別途の撹拌機で第2ステップの硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンのモル比が90:10:0の割合で混合された2.5M濃度の水溶液8.016kg計量後、第3ステップの濃度勾配層形成用水溶液を第2ステップ水溶液に投入した。28%濃度のアンモニア水溶液は0.29L/時間の速度で投入し、水酸化ナトリウム溶液はpHが11.2になるように維持した。この際、投入された前駆体水溶液とアンモニア及び水酸化ナトリウムは10.06Lである。
【0040】
次に、第4ステップとして、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、及び硫酸マンガンのモル比が40:20:40の割合で混合された第4前駆体水溶液を回分式反応器(batch reactor)で2.41L/時間、28%濃度のアンモニア水溶液は0.29L/時間の速度で投入し、水酸化ナトリウム溶液はpHが11.2になるように投入した。この際、投入された前駆体水溶液とアンモニア、水酸化ナトリウム量は11.07Lである。
比較例2、比較例3は、熱処理温度を各々810℃、790℃にしたことを除いては、前記比較例1と同一にして活物質粒子を製造した。
【0041】
<比較例−4>
回分式反応器(batch reactor、容量90L)に蒸溜水20リットルとアンモニア1kgを入れた後、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンのモル比が80:10:10の割合で混合された2.5M濃度の水溶液を80.6g投入した。
反応器内の温度を46℃を維持しながら400rpmで撹拌した。
【0042】
次に、第2ステップとして、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンのモル比が80:10:10の割合で混合された2.5M濃度の第1前駆体水溶液を2.41L/時間で、28%濃度のアンモニア水溶液を0.29リットル/時間で反応器に連続投入した。また、pH調整のために25%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を供給してpHが11.4〜11.5に維持されるようにした。インペラ速度は300〜400rpmに調節した。作られた第1前駆体水溶液とアンモニア、水酸化ナトリウム溶液を反応器内に連続して77.22L投入した。
【0043】
<比較例−5>
回分式反応器(batch reactor、容量90L)蒸溜水20リットルとアンモニア1kgを入れた後、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンのモル比が60:20:20の割合で混合された2.5M濃度の水溶液を80.6g投入した。
反応器内の温度を46℃を維持しながらモーターを400rpmで撹拌した。
【0044】
次に、第2ステップとして、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンのモル比が60:20:20の割合で混合された2.5M濃度の第1前駆体水溶液を2.41L/時間で、28%濃度のアンモニア水溶液を0.29リットル/時間で反応器に連続投入した。また、pH調整のために、25%濃度の水酸化ナトリウム水溶液を供給してpHが11.4〜11.5に維持されるようにした。インペラ速度は400〜450rpmに調節した。作られた第1前駆体水溶液とアンモニア、水酸化ナトリウム溶液を反応器内に連続して77.22L投入した。反応器の容量を勘案して決まった時間に上澄液を排出しながら反応を進行した。
【0045】
前記実施例及び比較例で製造された粒子組成は以下の<表1>の通りである。
【表1】
【0046】
<実験例>SEM観察
前記実施例1、実施例2、及び比較例2で製造された活物質粒子のSEM写真を測定し、その結果を
図1に示した。
【0047】
図1で、長手方向の1次粒子の幅平均値を測定した結果がない比較例の場合、約0.6〜0.7μmであることに反して、層表面にバリア層を適用した実施例1と濃度勾配層の表面にバリア層を適用した実施例2は、長手方向1次粒子の幅平均値を測定した結果、約0.4〜0.5μmにバリア層を適用するによって、1次粒子成長が抑制されることが分かる。
【0048】
<実験例>EDX観察
前記実施例2、実施例5、及び比較例2で製造された活物質の粒子内での遷移金属の濃度をEDXで測定し、実際デザインした濃度と比較し、その結果を
図2に示した。
【0049】
障壁層がない正極活物質である比較例2は、熱処理後、金属拡散が進行されて設計した濃度勾配(実線)と実際濃度勾配(点線)との間に明確な差が発見されたが、濃度勾配層の終了後、障壁層を適用した実施例2とコア層終了後の障壁層を適用した実施例5は、設計濃度勾配(実線)と実際濃度勾配(点線)との差が少なくて金属拡散が抑制されたことを確認した。
【0050】
<実験例>充放電特性評価
前記実施例及び比較例で製造された正極活物質を正極に使用し、リチウム金属を負極に使用して各々のコインセルを製造し、C/10充電及びC/10放電速度(1C=150mA/g)で3〜4.3Vの間で充放電実験を遂行した結果を
図3に示した。
【0051】
コア層の表面に障壁層を適用した実施例1は、障壁層を適用しない比較例1に比べて焼成温度が高いが、寿命は同等な水準である反面、障壁層を適用せず、実施例1と同一な温度で熱処理を実施した比較例2は、寿命が格段に低下した。実施例1は濃度勾配がないNCM811組成である比較例4に比べて寿命特性が優れた。
【0052】
<実験例>未反応リチウム測定
未反応リチウムの測定は、pH適正によりpH4になるまで使われた0.1M HClの量で測定する。まず、正極活物質5gをDIW100mlに入れて15分間撹拌した後、フィルタリングし、フィルタリングされた溶液50mlを取った後、ここに0.1M HClを加えてpH変化に従うHCl消耗量を測定してQ1、Q2を決定し、以下の計算式によって未反応LiOH及びLi
2CO
3を計算した。
M1 = 23.94 (LiOH Molecular weight)
M2 = 73.89 (Li
2CO
3 Molecular weight)
SPL Size = (Sample weight × Solution Weight) / Water Weight
LiOH(wt %) = [(Q1-Q2)×C×M1×100]/(SPL Size ×1000)
Li
2CO
3 (wt%)=[2×Q2×C×M2/2×100]/(SPL Size×1000)
このような方法を適用して前記実施例及び比較例で製造されたNCA系列リチウム複合酸化物において、未反応LiOH及びLi
2CO
3の濃度を測定した結果は、
図4の通りである。
【0053】
コア層の表面に障壁層を適用した実施例1は、防壁層を適用しない比較例1に比べて最適の熱処理温度が高いので、残留リチウムは低い。
【0054】
<産業上の利用可能性>
以上のように、本発明による濃度勾配を示すリチウム二次電池用正極活物質前駆体及び正極活物質は、濃度が一定のコアと濃度勾配を示すシェル部の間に障壁層を含み、製造された正極活物質はコアとシェルとの間の遷移金属の拡散が起こってもコアと外部シェルとが合う界面でも設計時の意図した連続的な濃度分布を示すという点で産業上利用が非常に有用であるということができる。