(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記電極が、前記被処理水の通水方向に対して前記アニオン塔の入口と出口の中間よりも下流側に配置されることを含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の純水製造装置。
【背景技術】
【0002】
医薬品の製造、半導体の製造、発電用ボイラー水、食品などに使用される純水もしくは超純水を製造するためのイオン交換方式純水製造装置が知られている。イオン交換方式純水製造装置は、原水をイオン交換樹脂等に接触させ、原水に含まれるアニオンおよびカチオン成分をイオン交換反応により除去し、純水を製造する装置である。イオン交換樹脂は、定期的に酸およびアルカリにより再生することで、繰り返し使用することができる。
【0003】
近年、半導体の高集積度化などにより、純水製造装置に求められる純水の純度が高くなるとともに、再生に用いられる薬品の使用量を抑え、ランニングコストを極限まで低減することが求められている。しかしながら、適正な再生頻度および再生薬品量の調整を行わないと、イオン交換樹脂の再生不良が起こり、純水の水質低下のリスクが高まる。
【0004】
再生頻度の決定方法として従来から行われる最もオーソドックスな方法は、原水のイオン濃度を一定とみなし、一定量の原水の通水量を超えた場合に、イオン交換樹脂の再生をする方式である。しかしながら、原水のイオン濃度が季節変動などにより上昇した場合、再生頻度が足りなくなるため、処理水の水質が低下する。季節変動を見越して薬品量や再生頻度を多く設定すると、無駄に薬品を消費するため、ランニングコストが上昇する。また、イオン交換樹脂は汚れなどにより経年劣化するため、季節変動がなくても設備の能力が低下し、処理水の水質が低下していく。設備能力の低下を考慮した薬品量や再生頻度を設定すると、ランニングコストが更に上昇する問題もある。
【0005】
更に進化した従来技術としては、例えば特開平3−181384号公報(特許文献1)に記載されるように、原水の導電率を測定してイオン負荷を演算し、原水のイオン負荷を考慮したうえでイオン負荷を求め、再生頻度を決定する方式がある。しかしながら、導電率によるイオン負荷の演算方法は、イオン種やpHによって誤差が生じるため、精度に限界がある。特に、イオンの中でもシリカは弱電解質であるため、導電率に表れにくく、原水の導電率からイオン負荷を推算すると誤差が生じる場合がある。他の分析器を設置することも可能であるが、イニシャルコストやランニングコストが上昇する。更に、上述の従来技術と同様に、イオン交換樹脂は汚れなどにより経年劣化するため、季節変動がなくても設備の能力が低下し、処理水の水質が低下していくが、これらの誤差を考慮すると、特許文献1の技術を用いた場合でも、再生頻度および再生剤量の低減は限定的である。
【0006】
更に別の従来技術としては、イオン交換樹脂の再生廃液のpHを測定し、測定値に基づいて再生剤の通薬量の監視を行うことにより再生に用いる薬品の使用量を抑える方法(特開平9−117679号公報(特許文献2))や、処理水中のシリカを分析計により測定する方法等がある。しかしながら、いずれの方法も、監視の精度に限界がある上、測定装置が高価で機器サイズも大きくなり、ランニングコスト及びメンテナンスコストが増大する。また、イオン交換樹脂を収容したイオン交換塔は目視により得られる情報が少なく、イオン交換塔の外部に接続された水質計などによっても、イオン交換塔の内部状況を把握することが困難であった。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態を説明する。以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の技術的思想は構成部品の構造、配置等を下記のものに特定するものではない。
【0023】
本発明の実施の形態に係る純水製造装置1は、
図1に示すように、イオン交換体3を内部に充填したイオン交換塔2を用いて純水を製造する純水製造装置1であり、イオン交換塔2の内部には少なくとも1対の電極41a、41b(
図2(a)参照)がイオン交換体3と接触するように配置され、電極41a、41bにより、イオン交換体3の導電率が連続的に測定される。
【0024】
本実施形態において「連続的に測定」とは、導電率を常時測定する場合の他、純水製造装置1の運転期間中において、一定期間毎(数時間毎、1月、1年毎)に定期的に導電率を測定する場合も含む態様も意味する。電極41a、41bを介してイオン交換体3の導電率が連続的に測定されるため、導電率の測定結果を通じて、イオン交換体3の状態(樹脂性能)がリアルタイムに把握できる。その結果、イオン交換体3の性能低下をより素早く判断できるため、イオン交換体3の再生時期や交換時期を精度良く判断することができる。
【0025】
イオン交換塔2は、内部にイオン交換体3を収容し、被処理水を塔内に通水してイオン交換体3と接触させることにより、被処理水中の無機性溶解不純物を除去することが可能な装置であれば、具体的構成は特に限定されない。イオン交換体3としては、カチオン交換樹脂、アニオン交換樹脂などからなる粒子状のイオン交換樹脂を充填したイオン交換樹脂層が用いられる。
【0026】
図1に示すように、イオン交換塔2の外側面下部には、1対の電極41a、41b(
図2(a)参照)を保持するための電極座4が配置されている。
図2(a)の例では、電極座4内に保持された電極41a、41bは、イオン交換塔2の高さ方向(通水方向)と交差する方向に差し込まれている。
【0027】
電極41a、41bは、ステンレス鋼等の耐食性を有する材料で形成されている。
図2(a)に示すように、電極41a、41bの周囲は、支持材(スリーブ)42で取り囲まれている。スリーブ42は絶縁材料で形成されており、電極41a、41bの先端部がイオン交換体3と接するように、電極座4内の所定の位置に電極41a、41bを支持するとともに、電極41a、41b同士の接触を防いでいる。電極座4はフランジ43を備えており、
図2(b)に示すように、複数のねじ44によって、電極41a、41bが所定の位置に収容されるように固定されている。
【0028】
図3に模式図として示すように、イオン交換体3として利用されるイオン交換樹脂の粒子31の粒径は、一般的には500μm程度が一般的であり、電極間に粒子31が4粒以上存在すると、イオン交換体3の導電率が安定して測定できる。そのため、イオン交換塔2内に挿入された電極41a、41bの電極間距離D(
図2(a)参照)は、2mm以上とすることが好ましい。電極間距離Dは、あまり離れすぎても導電率が安定して測定できない場合もあることから10mm以下、より好ましくは7mm以下、更に好ましくは5mm以下とすることが好ましい。
【0029】
イオン交換体3の導電率を精度良く測定するためには、イオン交換塔2の内側面から電極41a、41bの先端までの距離H(
図2(a)参照)が30mm以上が好ましい。距離Hの上限は特に限定されないが、イオン交換体3を構成する樹脂が流動することにより、電極41a、41bに力学的負荷が加わり、破損する場合もあることから、距離Hは、50mm以下とすることが好ましい。
【0030】
イオン交換体3の樹脂再生時には、イオン交換体3を構成するイオン交換樹脂が、粒子状となって流動する場合が多い。そのため、形状によっては、電極41a、41b付近の樹脂が滞留し、導電率が精度良く測定できない場合がある。電極41a、41bの形状を板状よりも円筒形(柱状)とすることにより、イオン交換樹脂の再生時においても電極41a、41bが粒子の動きを阻害することを抑制でき、より高精度に測定できる。以下に限定されるものではないが、イオン交換塔2内に挿入される電極の直径は5mm以上とすることが好ましく、具体的には10mm程度とすることができる。
【0031】
アニオン交換樹脂の固相導電率は、一般的には、約0.1〜10mS/cmである。そのため、イオン交換体3の固相導電率を測定するための電極41a、41bとしては、セル乗数が1〜10m
-1となるように、電極41a、41bがイオン交換塔の内部に配置されていることが好ましい。なお、「セル乗数」とは、電極面積と電極間距離との比で表されるものであり、測定条件はJIS K0130「電気伝導率測定法通則」に準じて算出される。
【0032】
イオン交換体3の状態をより精度良く把握するためには、イオン交換塔2の入口側のイオン交換体3よりも出口側のイオン交換体3の樹脂の状態を検知することが好ましい。このため、電極41a、41bは、
図1に示すように、被処理水の通水方向に対してイオン交換塔2の入口21(塔最上部)と出口22(塔最下部)の中間(50%)よりも下流側に配置されることが好ましい。より好ましくは、入口(0%)から出口(100%)に向かって70%以上下流側となる位置で、電極41a、41bの先端(導電率検出部分)がイオン交換体3と接触するように配置される。
【0033】
あるいは、
図1の電極座4の代わりに、
図4に示すようなイオン交換塔2の内部に配置される内装管45を電極41a、41bの支持材とすることもできる。内装管45そのものを電極41a、41bとして利用することもできる。内装管45を利用することにより、イオン交換体3の中心部の樹脂と電極41a、41bとを接触させることができるため、より正確な導電率を測定することができる。
【0034】
電極41a、41bは、イオン交換塔の高さ方向に2箇所以上配置することが好ましい。例えば、イオン交換塔2の通水方向からみて上流、中流、及び下流領域それぞれに1対の電極をそれぞれ配置して、イオン交換体3の上流側、中流側、下流側の導電率を測定することが好ましい。イオン交換塔2の内部のイオン交換体3は、通水方向に対して被処理水の性状が変わるため、イオン濃度の濃度勾配が生じ、イオン交換塔2の入口側と出口側で導電率が変わる場合があるが、1対の電極41a、41bを複数箇所に配置して、イオン交換体3の局所領域での導電率を複数箇所から測定することによって、イオン交換体3の樹脂性能をより詳しく把握することができる。
【0035】
なお、電極41a、41bによる導電率の検知精度を高めるために、イオン交換塔2の内面には、樹脂などの非導電性材料によるライニング層(図示省略)が配置されることが好ましい。或いは、イオン交換塔2自身が、非導電性材料で構成されていてもよい。
【0036】
電極41a、41b間には、交流電圧が印加されることが好ましい。これにより、電極41a、41b間に直流電圧が印加される場合に比べて、電極41a、41bの表面に分極が生じるのを防ぎ、長期間安定してイオン交換体3の導電率を測定することができる。
【0037】
図1に示すように、本実施形態に係る純水製造装置は、電極41a、41bの測定値を解析する解析手段10と、イオン交換塔2へ供給される被処理水の通水量、薬品量及び前記イオン交換体の再生頻度の少なくともいずれかを制御する制御手段11とを更に備える。
【0038】
解析手段10は、導電率の測定値に基づいて、イオン交換体3の状態をシミュレーションする。例えば、解析手段10は、導電率の測定値を利用して、イオン交換塔2内のイオン交換平衡計算(液相−固相)、固相内イオン濃度拡散計算、液相内イオン濃度拡散計算、或いは、被処理水の負荷変動、再生頻度、再生剤量をパラメータとした任意の通水時間におけるイオン交換塔内の固相のイオン濃度の推算、ネルンストプランクの方程式に基づくイオンの濃度拡散計算等を行うことにより、イオン交換塔2内におけるイオン交換体3を構成するイオン交換樹脂の樹脂性能(汚染物による汚染状態、樹脂再生不良状態、経年劣化など)をシミュレーションすることができる。具体的には、解析手段10は、イオン交換樹脂の初期状態(固相イオン濃度)を計算した後、導電率の測定値と、物性定数、拡散係数などの各条件を用いて、予め入力された被処理水の負荷変動、イオン交換体3の再生頻度、再生剤量をパラメータとして、ネルンストプランクの方程式及び物質収支に基づき逐次計算を行う。そして、任意の時間における計算結果と導電率測定結果に基づくイオン交換樹脂の状態(固相イオン濃度)とを比較し、計算を補正し、再計算を行い、測定結果と計算結果が近いことを確認し、設備の状態(固相及び液相イオン濃度の把握)や拡散係数の値から、樹脂の劣化度をシミュレーションすることができる。
【0039】
そのため、例えば、解析手段10は、
図5に示すように、少なくとも1対の電極41a、41b(
図2(a)参照)から出力された導電率の測定値を処理するための処理部100と、記憶装置110と、操作者からの入力を行うための入力装置120と、操作者に必要な情報を操作者に表示するための表示装置130を備える。
【0040】
処理部100は、電極41a、41bが測定した導電率の測定値を検出する導電率検出部101と、導電率検出部101による導電率の検出結果と記憶装置110に記憶された解析情報(イオン交換平衡計算情報(液相−固相)、固相内イオン濃度拡散計算情報、液相内イオン濃度拡散計算、被処理水の負荷変動、再生頻度、再生剤量をパラメータとし、任意の通水時間におけるイオン交換塔内の固相のイオン濃度の推算情報、ネルンストプランクの方程式に基づくイオンの濃度拡散情報など)とに基づいて、イオン交換塔2内に充填されたイオン交換体3の状態をシミュレーションするシミュレーション部102と、電極41a、41bが測定した導電率、或いはこの導電率からシミュレーションされたシミュレーション結果を、既存のシミュレーション結果と比較する比較部103と、比較部103による比較結果から、純水製造装置1の運転条件の変更が必要と判断された場合に、運転条件を変更するための補正情報を出力するための条件変更部104を備えることができる。
【0041】
制御手段11は、比較部103による比較の結果、或いは操作者からの運転条件の変更要求に基づいて、純水製造装置1の運転条件を変更する制御信号、具体的には、イオン交換塔2へ供給される被処理水の通水量、薬品量及び前記イオン交換体の再生頻度の少なくともいずれかを制御するための制御信号を出力する。
【0042】
本発明の実施の形態に係る純水製造装置1によれば、解析手段10により、電極41a、41bが測定した導電率の測定値を用いて、イオン交換塔2内の固相、液相の状態をリアルタイムでシミュレーションすることができるため、イオン交換塔2内の内部状態及びイオン交換塔2内に充填されたイオン交換体3の状態(樹脂性能)を精度良く把握することができる。さらに、連続的に測定されたイオン交換体3の導電率の測定結果から、導電率の経時的な変化を捉え、比較部103がシミュレーション結果と常時比較することにより、必要に応じて運転条件の補正を行うことができるため、設備全体の状態を精度よく把握することができる。これにより、設備の状態が精度よく可視化されるため、信頼性が向上する。
【0043】
これまでの純水製造装置の運転は、一定の薬品量及び通水量が基本であったが、本実施形態によれば、解析手段10により、あらゆる運転条件をシミュレーションに反映させることが可能となるため、運転条件に応じて、薬品量、通水量、再生頻度を自由に設定することができる。
【0044】
また、本実施形態に係る純水製造装置によれば、通水量、薬品量、再生頻度がパラメータ(変数)となるため、設備運用上の制約(生産スケジュール、操作者の出勤時間、薬品の納入日程)などの制約に応じて、より現場の運転管理条件に即した運転条件が設定可能となる。また、最適な運転条件をリアルタイムで反映させることにより、薬品の過剰供給や不必要な樹脂再生工程を削減することができるため、ランニングコストを低減させることが可能となる。
【0045】
図6のフローチャートを用いて本発明の実施の形態に係る純水製造装置の運転方法について以下に説明する。なお、下記の運転方法は単なる例示であり、本実施形態に係る純水製造装置を用いて、他にも種々の運転方法が存在することは勿論である。
【0046】
まず、入力装置120を介して必要な情報(初期条件、設備条件、運転条件など)が、記憶装置110に記憶される。初期条件としては、イオン交換塔2の初期の状態を規定するための固相イオン濃度(X
OS)、液相イオン濃度(X
OL)などが入力される。設備条件、運転条件としては、樹脂量V[m
3]、流量Q[m
3/h]、原水イオン負荷CO[eq/m
3]、再生条件(頻度[h/cycle]、薬液濃度[eq/m
3])、物性定数(各拡散係数D[m
2/sec]、イオン価数など)などが入力される。
【0047】
次に、ステップS1において、イオン交換塔2内に配置された少なくとも1対の電極41a、41間に交流電圧を印加し、導電率(電気伝導度)を測定する。
図5の導電率検出部101は、電極41a、41が測定した導電率の測定値を検出する。
【0048】
ステップS2において、シミュレーション部102が、導電率検出部101が検知した導電率の測定値を用いて、イオン交換体3の状態、例えば、イオン交換塔2内の固相、液相のイオン濃度勾配を計算することにより、イオン交換体3の使用状態をシミュレーションする。例えば、検出された導電率と、記憶装置110に記憶された解析情報とに基づいて、イオン交換平衡計算(液相−固相間)、固相内イオン濃度拡散、液相内イオン濃度拡散の微分、積分計算などを行うことができる。具体的には、例えば、イオン交換塔2を高さ方向に100段程度に分割し、入口付近から順番に液相のイオン濃度を計算する。更には、ネルンストプランクの方程式及び拡散係数Dを解析情報として利用し、高さ方向に分割された各要素毎に、固相であるイオン交換体3とその周囲にある液相内でのイオンの濃度拡散(イオンの拡散濃度)についてシミュレーションを行う。イオン交換樹脂のイオン濃度は、例えば、イオン交換樹脂を約20分割し、各分割要素毎に微分計算することによりシミュレーションできる。シミュレーション結果は記憶装置110に記憶され、例えば、
図7に示すような情報が、必要に応じて表示装置130に表示されることにより、操作者はイオン交換塔2内部の状態を容易に確認できる。
【0049】
ステップS3において、導電率検出部101が再び電極41a、41が測定した導電率の測定値を検出する。ステップS4において、比較部103は、記憶装置110に記憶されたシミュレーション結果を読み出して、電極41a、41bが測定した導電率(或いはこの導電率から得られたシミュレーション結果)と比較し、イオン交換塔2の運転条件の補正が必要か否かを判断する。純水製造装置1の運転条件の変更が必要と判断された場合には、ステップS5において、条件変更部104が、運転条件を変更するための補正情報を出力し、ステップS6に進む。純水製造装置1の運転条件の変更が必要ではない場合にはそのままステップS6へ進む。
【0050】
ステップS6において、条件変更部104により純水製造装置1の解析を終了させるか否かが判定され、終了する場合には、終了となる。解析終了しない場合には、再度ステップS2〜S6を繰り返す。
【0051】
従来の純水製造装置では、イオン交換塔2の外部に計器を設置したとしてもイオン交換塔2の内部の状況までは詳しく把握することが難しかったため、処理水の水質が低下しないように、ある程度余裕をもって運転条件が設定されていた。本実施形態に係る純水製造方法によれば、少なくとも1対の電極41a、41bに基づいて、イオン交換体3の導電率を測定することができるため、導電率からイオン交換体3のイオン濃度などを領域毎にシミュレーションすることにより、イオン交換塔2の内部状態を詳細に把握することができる。イオン交換塔2の内部状況は、一般的には、水の流れ等のモデル化を完全に行うことが難しいパラメータがあるが、本実施形態では、連続的に検出される電極41a、41bによる導電率の検出結果を、過去のシミュレーション結果や試験結果と照らし合わせて補正することで、より精度の高い計算結果が得られる。例えば
図7は、計算結果の出力結果が示されており、画面左側には純水製造装置を構成する各塔の固相及び液相の高さ方向のイオン濃度分布が示され、画面右側にはイオン交換樹脂の高さに垂直な断面のイオン濃度分布が示されている。操作者は、例えば
図7に示すような画面を通じて純水製造装置を構成する各塔の内部状況をリアルタイムで把握することができる。
【0052】
(変形例)
なお、上述のような複雑なシミュレーションを実施せず、解析手段10が、導電率の経時的変化のみに着目して、イオン交換体3の樹脂性能を推定するようにしてもよい。例えば、(1)イオン交換塔2に被処理水を通水しながら、所定の期間毎にイオン交換体3の導電率を測定する場合に、導電率の低下が見られたところで、樹脂再生工程或いは樹脂の交換を実施する方法、(2)樹脂再生直後に導電率を測定し、その導電率の値を前回の樹脂再生直後の導電率と比較して、所定の値以上に導電率が低下する場合に樹脂再生不良とみなし、再度樹脂再生を行うか、樹脂の交換を促す方法、(3)導電率の測定結果の変化を経時的に記録し、長期間の使用に伴う導電率の低下具合により設備の劣化を評価する方法などがある。
【0053】
即ち、イオン交換塔2内部における水の電気伝導媒体はイオンである場合が多く、イオンの濃度が高まるにつれて水の電気伝導度が高くなる。一方純水は蒸留水から超純水と呼ばれるグレードまで純度により幅があるが、純度が高くなるにしたがって、イオンの濃度が低くなり電気伝導度が低くなる。純水の純度が高まると、水が解離して生成されるH
+とOH
-による電気伝導のみとなり、純水の理論導電率0.056μS/cm(0.0056mS/m)に近づく。
【0054】
有機高分子系イオン交換樹脂は、例えばスチレンジビニルベンゼン共重合体を骨格とし、カチオン交換樹脂はスルホン酸基、アニオン交換樹脂は4級アンモニウム基など官能基をもった構造となっており、スルホン酸や4級アンモニウム基には、対イオンとしてH
+やOH
-を配した酸、アルカリ又は金属イオンや塩化物イオンなどを配した塩となっている。イオン交換体3中のイオン濃度は、官能基の濃度により異なるが1モル/L〜10モル/Lといった比較的高濃度の固体酸、固体アルカリ又は塩となっている。このように、イオン交換体3中ではイオン濃度が高く、運動性の高い高分子であることから、比較的イオンの運動性がよく、特に水分を含んだ状態においてはイオン交換体3の導電性が高く、純水中では純水よりも数倍から数百倍導電率が高くなる。
【0055】
イオン交換体3中ではイオンが電気伝導の媒体であるため、対イオンの運動性、拡散性によりイオン交換体の導電率が大きく変わる。特にイオン種、イオンの大きさ、イオンの吸着状態によりイオン交換体の導電性が大きく変わり、H
+とOH
-はサイズ、質量から運動性が高く、イオン交換体の対イオンがH
+とOH
-の場合、イオン交換体の導電率が高くなる。
【0056】
純水製造装置で用いるイオン交換樹脂は、酸やアルカリによる再生を行い、イオン交換除去した対イオンをH
+やOH
-に戻し、採水工程において原水に含まれるイオンをイオン交換することで純水を製造している。つまり、再生直後のイオン交換体は対イオンがH
+やOH
-で満たされており、イオン交換体の導電率は高く、採水を行い徐々に原水に含まれるイオンをイオン交換反応によりイオン交換体中に取り込むと導電率が低くなる傾向がある。
【0057】
特にシリカやホウ素は弱電解質であり、重合し大きな分子に成長する性質があるためシリカやホウ素を吸着したイオン交換体は特に個体の導電率が低くなる。2床3塔(2B3T)方式純水製造装置などではアニオン交換塔より最もリークしやすいアニオンはシリカやホウ素となるため、アニオン交換体の個体の導電率はシリカやホウ素の吸着状態を推定する指標となる。例えば2B3T方式純水製造装置では、被処理水が特に純水に近くイオン濃度が低いアニオン塔の出口に近い位置に電極を設置しアニオン交換体の導電率を測定することで精度よくシリカやホウ素の吸着状態を把握し、アニオン交換体の状態を把握することができる。
【0058】
イオン交換体は原水に含まれる高分子電解質やフミン質や有機物などにより汚染され性能が低下する。これらの汚染物質はある程度イオン化されている場合もあるが、分子量が大きく運動性が低いため、一度イオン交換によりイオン交換体中に取り込まれると再生されにくい傾向がある。さらに汚染物質はその質量が大きいことから汚染されたイオン交換体の個体の導電率は低い傾向を示す。従ってイオン交換体の導電率を測定することでイオン交換体の劣化の程度を測定することが可能となり、イオン交換体の交換時期を判断することができる。
【0059】
なお、上述の方法に加えて、定期的に樹脂塔の高さ方向に数カ所、樹脂及び液相をサンプリングし、樹脂の状態を直接測定し、液相のイオン濃度を直接測定することにより、その結果を、上記のシミュレーション結果に反映させることで、シミュレーションの精度をより高めることができる。
【0060】
(応用例)
上述のイオン交換塔2は、2B3T方式の多床塔の純水製造装置或いは混床式の純水製造装置などに好適に利用可能である。例えば、
図8に示すように、本実施形態に係る純水製造装置は、カチオン塔30、脱炭酸塔40及びアニオン塔50により成る2床3塔方式の純水製造装置を含み、図示を省略するが、電極41a、41bが少なくともアニオン塔50の内部に配置され、電極41a、41bを収容した電極座4がアニオン塔50に設けられていることを含む。不純物の多い原水を処理するカチオン塔30よりも被処理水の水質が高品質なアニオン塔50内の導電率を測定することにより、少ない装置点数で、内部に収容されるイオン交換体の状態の評価の精度を向上させることができる。電極41a、41bは、カチオン塔30、脱炭酸塔40内に挿入されてもよいことは勿論である。また、原水の導電率を測定するための導電率計61が更に配置されてもよいことは勿論である。
【0061】
或いは、
図9(a)及び(b)に示すように、本実施形態に係る純水製造装置として、アニオン塔の下流側に更にポリッシャ70を配置し、このポリッシャ70の内部に電極41a、41bが更に配置されていてもよい。ポリッシャ70は、
図9(a)に示すような混床式のものでも、
図9(b)に示すようなカチオンポリッシャ71とアニオンポリッシャ72とを別々に設ける形態のものでもいずれでも構わない。
【0062】
このように、本発明は上記の開示から妥当な特許請求の範囲の発明特定事項によって表されるものであり、実施段階においては、その要旨を逸脱しない範囲において変形し具体化し得るものである。
【実施例】
【0063】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0064】
(実施例1)
向流再生方式の2床3塔方式の純水製造装置において、アニオン塔内に導電率計を設置しアニオン交換樹脂の導電率を測定した。カチオン交換樹脂としては、ダウ・ケミカル製 カチオン交換樹脂650C×3000Lを使用した。アニオン交換樹脂としては、ダウ・ケミカル製 アニオン交換樹脂550A×3000L(再生後の樹脂層高2300mm)を使用した。カチオン塔の直径は1200mm、アニオン塔の直径は1300mmとした。原水として、井水処理水(電気導電率23mS/m、シリカ濃度60mg/L as SiO
2)とし、処理水(純水)の水質は0.2mS/m以下、シリカ濃度100μg/L as SiO
2となるように、通水流量50m
3/hで行った。
【0065】
アニオン樹脂測定用の電極として、
図2(a)に示す電極座4内に2本の円筒状の直径10mmのステンレス製電極を対向させ、電極間の抵抗を測定することにより、アニオン交換樹脂の導電率を測定した。通水方向に対して2000mmの位置に電極の先端(測定端)がくるようにし、電極間距離Dを6mm、電極の挿入深さ(イオン交換塔2の内側面から電極41a、41bの先端までの距離H)を40mmとした。導電率の測定に当たっては、東亜DKK(株)製変換器 WBM−100を使用し、通水時間3時間毎に導電率を測定した。結果を表1に示す。
【0066】
表1に示すように、21時間通水するとアニオン塔の樹脂導電率が下表のように変化した。15時間運転したところで導電率の低下が測定されたことから、イオン交換バンド(イオン交換が進み塩型となったイオン交換樹脂の層)が通水方向に移動していると判断し、導電率が低下したタイミングで再生を行うこととした。
【0067】
【表1】
【0068】
本方法により再生を行うことで、原水の負荷などが変動した場合でも好適な再生開始タイミングを検知することができ、変動を見越した再生を行う必要がなくなり、再生頻度を低減することが可能となり、従来の純水製造装置より再生薬剤使用量より約30%少なく運転することができた。
【0069】
(実施例2)
実施例1と同様の純水製造装置を用いて、イオン交換樹脂の再生/通水/再生を繰り返す過程において、樹脂体の再生完了後、通水直後に導電率を測定した。結果を表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
RUN NO.4のみ、再生完了後通水直後の導電率が低く、再生が不良であったことが判明した。実施例2によれば、再生後通水直後の導電率を管理することで、再生の健全性を確認することができ、再生不良による水質の低下を未然に防ぐことが可能となり装置の安定運転が可能となった。
【0072】
(実施例3)
実施例1と同様の純水製造装置を用いて、6カ月毎に導電率の測定を行った。結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
樹脂の導電率が年単位で低下することが確認され、再生を行っても導電率が十分回復せず、樹脂の性能の経年劣化が確認された。36カ月後に導電率の低下が確認されたため、再生薬剤量を増やし再生操作を行い、その後導電率が回復し樹脂性能がある程度回復したことを確認した。しかし、運転を続けると60カ月後に導電率が初期の約半分となり、樹脂の性能が大幅に低下したことが確認されたため、樹脂の交換を行った。このように本実施形態によれば、樹脂の経年的な性能低下をリアルタイムに把握することができ、適正な樹脂の再生操作や樹脂の定期交換を行うことができ、従来の純水製造装置と比較しランニングコストを30%〜40%低減することができた。