特許第6722798号(P6722798)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6722798インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法及び印刷物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6722798
(24)【登録日】2020年6月24日
(45)【発行日】2020年7月15日
(54)【発明の名称】インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法及び印刷物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/30 20140101AFI20200706BHJP
   C14C 11/00 20060101ALI20200706BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20200706BHJP
【FI】
   C09D11/30
   C14C11/00
   B41M5/00 120
   B41M5/00 110
【請求項の数】5
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2019-69284(P2019-69284)
(22)【出願日】2019年3月29日
【審査請求日】2019年5月16日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183923
【氏名又は名称】株式会社DNPファインケミカル
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山崎 史絵
(72)【発明者】
【氏名】白石 直樹
(72)【発明者】
【氏名】大友 健太朗
(72)【発明者】
【氏名】藤岡 優子
【審査官】 山本 悦司
(56)【参考文献】
【文献】 特開2017−186505(JP,A)
【文献】 独国特許出願公開第102016207385(DE,A1)
【文献】 米国特許第7323500(US,B2)
【文献】 特開2016−102270(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/147192(WO,A1)
【文献】 特開2009−030014(JP,A)
【文献】 特開2019−077070(JP,A)
【文献】 ROHM AND HAAS PRIMAL SB-300 Emulsion,2000年,[online]http://www.dow.com/assets/attachments/business/architectural_and_functional_coatings/primal_sb-300/tds/primal_sb-300.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00−13/00
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、樹脂と、溶剤と、色材と、を含有し、
前記溶剤は、有機溶剤と、水と、を含有し、
前記樹脂の少なくとも一部を樹脂エマルジョンとして含有し、
前記樹脂はアクリル樹脂を含有し、
前記樹脂エマルジョンの酸価は50mgKOH/g以下であり、
前記有機溶剤は、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、及び2−ピロリドンからなる群より選択される少なくとも1以上を含み、
インクジェット方式にて皮革基材の表面に吐出するインク組成物(ただし、ワックスを含有するものを除く。)
【請求項2】
前記有機溶剤は、沸点120℃以上250℃以下の水溶性有機溶剤を前記有機溶剤100質量%中50質量%以上含有する
請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記皮革基材は合成皮革基材である
請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
請求項1からのいずれかに記載のインク組成物を、インクジェット方式にて皮革基材の表面に吐出するインクジェット記録方法。
【請求項5】
請求項1からのいずれかに記載のインク組成物を、インクジェット方式にて皮革基材の表面に吐出する工程を含む印刷物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク組成物、それを用いたインクジェット記録方法及び印刷物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インク組成物として、各種の水溶性染料を水、又は水と有機溶剤との混合液に溶解させた水性インク組成物や紫外線等の活性エネルギー線によって硬化する活性エネルギー線硬化型インク組成物が広く用いられている。
【0003】
天然皮革又は合成皮革などの皮革基材の表面化粧の手段としてこのインク組成物が用いられることがある。例えば、特許文献1には、下塗り層が形成された天然皮革表面に、模様状に部分的に被覆した樹脂部からなる立体模様が形成された天然皮革に関する技術が開示されている。特許文献1には、このような天然皮革は、小さな転や細い線など細やかな立体表現が可能で、経時による立体模様の消失がなく、天然皮革特有の持ち味が損なわれない旨記載されている。
【0004】
又、特許文献2には、マルテンス硬さの異なる2種類の紫外線硬化膜により形成されていることを特徴とする皮革に関する技術が開示されている。特許文献2には、このような皮革は、耐摩耗性に優れ、かつ硬化膜が割れることなく引張に対して追従することができる旨記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】WO2008/044515
【特許文献2】特開2008−280449
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
さて、皮革基材に表面化粧を施すために、皮革基材に下塗り層を形成すると、下塗り層を形成する工程を設けなければならないため作業効率が低下する。又、下塗り層により、皮革基材の風合いが変化し、意匠性が低下することがある。
【0007】
又、硬さの異なる2種類の紫外線硬化膜を形成すると、2種類の硬化膜を形成する工程を設けなければならないため作業効率が低下する。更に、紫外線硬化膜はある程度追従性を有していても本質的に屈曲性は低く、実際上使用が困難であった。
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、皮革基材に用いられるインク組成物であって、より耐擦性や屈曲性を有するインク膜を形成し、皮革基材により鮮明な像を形成することのできるインク組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意研究を重ねたところ、樹脂の少なくとも一部を樹脂エマルジョンとして含有するインク組成物であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的には、本発明では、以下のようなものを提供する。
【0010】
(1)少なくとも、樹脂と、溶剤と、色材と、を含有し、前記溶剤は、有機溶剤と、水と、を含有し、前記樹脂の少なくとも一部を樹脂エマルジョンとして含有する、皮革基材に用いられるインク組成物。
【0011】
(2)前記有機溶剤は、沸点120℃以上250℃以下の水溶性有機溶剤を前記有機溶剤100質量%中50質量%以上含有する(1)に記載のインク組成物。
【0012】
(3)前記皮革基材は合成皮革基材である(1)又は(2)に記載のインク組成物。
【0013】
(4)インクジェット方式にて皮革基材の表面に吐出する(1)から(3)のいずれかに記載のインク組成物。
【0014】
(5)(1)から(4)のいずれかに記載のインク組成物を、インクジェット方式にて皮革基材の表面に吐出するインクジェット記録方法。
【0015】
(6)(1)から(4)のいずれかに記載のインク組成物を、インクジェット方式にて皮革基材の表面に吐出する工程を含む印刷物の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明のインク組成物は、皮革基材に用いられるインク組成物であって、より耐擦性や屈曲性を有するインク膜を形成し、皮革基材により鮮明な像を形成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の具体的な実施形態について、詳細に説明するが、本発明は、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0018】
<インク組成物>
本発明の一実施形態のインク組成物は、色材と、樹脂と、有機溶剤と、水と、を含有するインク組成物である。そして、このインク組成物は、樹脂の少なくとも一部を樹脂エマルジョンとして含有することを特徴とする。樹脂エマルジョンとは、連続相が水溶性溶媒であり、分散粒子が樹脂微粒子である水性分散液を意味する。なお、「水を含有する」とは、水を意図的に含有させて製造されたインク組成物であることを意味し、例えば大気中等に含有される水蒸気等や添加剤に含有される水等に起因するような製造者が意図しないような原因により含有されてしまうような水は考慮しない。
【0019】
皮革基材は、表面に孔が形成されているか、又は樹脂繊維からなる基布である。そのため、皮革基材の表面にインク組成物を吐出すると、インク組成物が皮革基材に深く浸透してしまい、インク組成物が皮革基材の表面に残らなくなり、皮革基材に表面化粧を施すことが困難となる。
【0020】
本発明者らの見解によれば樹脂の少なくとも一部を樹脂エマルジョンとして含有するインク組成物であれば、樹脂エマルジョンの粒子が皮革基材の表面に留まることでインク組成物の浸透を抑制し、これによりインク組成物に含まれる色材が皮革基材の内部まで浸透することをも抑制して、色材が皮革基材の表面に定着することでより鮮明な像を形成することが可能となる。
【0021】
しかも、樹脂エマルジョンの粒子が皮革基材の表面に定着することにより色材の皮革基材への定着を促進させるとともに耐擦性や屈曲性を有するインク膜を形成することができる。
【0022】
以下、本実施形態のインク組成物に含有される樹脂と、溶剤と、色材、その他の添加剤についてそれぞれ説明する。
【0023】
[樹脂]
本実施形態のインク組成物には樹脂を含有する。インク組成物に樹脂を含有することで、インクにより印刷された印刷物の耐水性が向上する。又、本実施形態のインク組成物では、含有する樹脂の少なくとも一部は、樹脂エマルジョンとして含有する。樹脂エマルジョンを形成することによって、樹脂エマルジョンの粒子が皮革基材の表面に留まることでインク組成物の浸透を抑制し、これによりインク組成物に含まれる色材が皮革基材の内部まで浸透することをも抑制して、色材が皮革基材の表面に定着することでより鮮明な像を形成することが可能となる。又、樹脂エマルジョンが静電反発力によって樹脂微粒子としてインク組成物中に分散することができる。上記樹脂エマルジョンは、一般に連続相である水溶性溶媒が蒸発や浸透等により減少すると、増粘・凝集する性質を持ち、色材の皮革基材への定着を促進する効果を有する。
【0024】
本実施形態のインク組成物に含有される樹脂は、所望の耐水性を示すことができるものであれば特に限定されるものではないが、例えば、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリエステル樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、塩化ビニル酢酸ビニル共重合樹脂、ポリエチレン樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン(シリコン)樹脂、アクリルアミド樹脂、エポキシ樹脂、あるいはこれらの共重合樹脂や混合物を用いることができる。これらのものは耐水性に加えて耐溶剤性も向上させることができる点で好ましい。中でも、吐出安定性、耐水性及び耐溶剤性に優れたものとすることができることから、アクリル樹脂を含むものであることが好ましい。
【0025】
アクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸エステルモノマーを構成するモノマーの主成分として含むものであれば特に限定されるものではない。(メタ)アクリル酸エステルモノマーとしては、公知の化合物を使用することができ、単官能の(メタ)アクリル酸エステルを好ましく用いることができる。例えば、(メタ)アクリル酸アルキルエステル、(メタ)アクリル酸アラルキルエステル、(メタ)アクリル酸アルコキシアルキルエステル等を挙げることができる。具体的には、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸−n−プロピル、(メタ)アクリル酸−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸−n−ブチル、(メタ)アクリル酸−sec−ブチル、(メタ)アクリル酸−iso−ブチル、(メタ)アクリル酸−tert−ブチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ネオペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸−iso−オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸−iso−ノニル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸ステアリル、(メタ)アクリル酸シクロペンチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸−2−メチルシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンタニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロペンテニルオキシエチル、(メタ)アクリル酸ジシクロヘキシル、(メタ)アクリル酸イソボルニル、(メタ)アクリル酸アダマンチル、(メタ)アクリル酸アリル、(メタ)アクリル酸プロパギル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸ナフチル、(メタ)アクリル酸アントラセニル、(メタ)アクリル酸アントラニノニル、(メタ)アクリル酸ピペロニル、(メタ)アクリル酸サリチル、(メタ)アクリル酸フリル、(メタ)アクリル酸フルフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフリル、(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、(メタ)アクリル酸ピラニル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェネチル、(メタ)アクリル酸クレジル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、(メタ)アクリル酸−3,4−エポキシシクロヘキシルエチル、(メタ)アクリル酸−1,1,1−トリフルオロエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオルエチル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−n−プロピル、(メタ)アクリル酸パーフルオロ−iso−プロピル、(メタ)アクリル酸ヘプタデカフルオロデシル、(メタ)アクリル酸トリフェニルメチル、(メタ)アクリル酸クミル、(メタ)アクリル酸−3−(N,N−ジメチルアミノ)プロピル、(メタ)アクリル酸メトキシエチル、(メタ)アクリル酸エトキシエチル、(メタ)アクリル酸ブトキシエチル、(メタ)アクリル酸−2−シアノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸トリメトキシシリルプロピル、(メタ)アクリル酸トリエトキシシリルプロピル、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン等の(メタ)アクリル酸エステル類、等が挙げられる。なお、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の両者を意味するものである。これらのモノマーは、三菱レイヨン(株)、日本油脂(株)、三菱化学(株)、日立化成工業(株)等から入手することができる。
【0026】
アクリル樹脂を構成するモノマーとしては、酸基を有する酸基含有モノマーや水酸基を有する水酸基含有モノマー、及びアミノ基を有するアミノ基含有モノマーを含むものであってもよい。上記酸基を有する酸基含有モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、フマル酸、マレイン酸、クロトン酸、シトラコン酸、無水マレイン酸、マレイン酸モノメチルエステル、マレイン酸モノブチルエステル、イタコン酸モノメチルエステル、イタコン酸モノブチルエステル、ビニル安息香酸、シュウ酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、カルボキシル基末端カプロラクトン変性(メタ)アクリレート等のカルボキシル基含有脂肪族系単量体等のエチレン性不飽和二重結合及びカルボキシル基を有するカルボキシル基含有モノマーを挙げることができる。上記水酸基を含有する水酸基含有モノマーとしては、不飽和二重結合及び水酸基を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシ(メタ)アクリレート、メチルα−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、エチルα−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、n−ブチルα−(ヒドロキシメチル)(メタ)アクリレート、1,4−シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。上記アミノ基含有モノマーとしては、不飽和二重結合及びアミノ基を有するものであれば特に限定されるものではないが、例えば、(メタ)アクリルアミドN−モノメチル(メタ)アクリルアミド、N−モノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−n−プロピル(メタ)アクリルアミド、N−イソプロピル(メタ)アクリルアミド、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチルアミノプロピルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等のアクリルアミド化合物、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、モルホリンのエチレンオキサイド付加(メタ)アクリレート等の窒素原子含有(メタ)アクリレート化合物、N−ビニルピロリドン、N−ビニルピリジン、N−ビニルイミダゾール、N−ビニルピロール、N−ビニルオキサゾリドン、N−ビニルサクシンイミド、N−ビニルメチルカルバメート、N,N−メチルビニルアセトアミド、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−2−オキサゾリン、(メタ)アクリロニトリル等を挙げることができる。
【0027】
又、アクリル樹脂を構成するモノマーとしては、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマー等以外に、必要に応じてその他のモノマーを有するものであってもよい。このようなその他のモノマーとしては、上記(メタ)アクリル酸エステルモノマーと共重合が可能であり、所望の耐水性及び耐溶剤性を有するものとすることができるものであれば特に限定されるものではなく、エチレン性不飽和二重結合の数が1つである単官能モノマーであっても、2以上である多官能モノマーであってもよい。例えば、酢酸ビニル、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、N−ビニルピロリドン、ビニルピリジン、N−ビニルカルバゾール、ビニルイミダゾール、ビニルエーテル、ビニルケトン、ビニルピロリドン等のビニルモノマー;スチレン、スチレンのα−、o−、m−、p−アルキル、ニトロ、シアノ、アミド、エステル誘導体、ビニルトルエン、クロルスチレン等の芳香族ビニルモノマー;エチレン、プロピレン、イソプロピレン等のオレフィンモノマー;ブタジエン、クロロプレン等のジエンモノマー;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物モノマー等を用いることができる。又、ポリエテレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジアクリレート、1,3一ブチレングリコールジアクリレート等のジアクリレート化合物;トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、テトラメチロールメタントリアクリレート等のトリアクリレート化合物;エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート等のジメタクリレート化合物;トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート等のトリメタクリレート化合物;ジビニルベンゼン等を用いることができる。なお、アクリル樹脂は、これらのモノマーを用いて形成可能なものであるが、モノマーの共重合の形態については、特に限定されるものではなく、例えばブロックコポリマー、ランダムコポリマー、グラフトコポリマー等とすることができる。樹脂エマルジョンは、例えば、乳化重合反応させ、反応後に中和させて製造することができる。乳化剤としては、通常の高分子型界面活性剤を用いてもよく、不飽和結合を有する反応性界面活性剤を用いてもよい。合成方法については、特に限定されるものではないが、例えば、反応性界面活性剤、非反応性界面活性剤、ポリビニルアルコール、セルロース誘導体等の存在下で水と、モノマーと、乳化剤と、重合開始剤とを混合して乳化重合することができる。又、樹脂エマルジョンは、乳化重合反応させることなく、樹脂微粒子を、界面活性剤とともに、水と混合することによっても得ることができる。例えば、(メタ)アクリル酸エステル又はスチレンと(メタ)アクリル酸エステルからなる樹脂微粒子及び界面活性剤を水中に添加して混合することにより得ることができる。
【0028】
市販の樹脂エマルジョンとしては、例えば、アクリットWEM−031U、WEM−200U、WEM−321、WEM−3000、WEM−202U、WEM−3008、(大成ファインケミカル(株)製、アクリル−ウレタン樹脂エマルジョン)、アクリットUW−550CS、UW−223SX、AKW107、RKW−500(大成ファインケミカル(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、LUBRIJET N240(ルーブリゾール製、アクリル樹脂エマルジョン)、スーパーフレックス150、210、470、500M、620、650、E2000、E4800、R5002(第一工業製薬(株)製、ウレタン樹脂エマルジョン)、ビニブラン701FE35、701FE50、701FE65、700、701、711、737、747(日信化学(株)製、塩ビ−アクリル樹脂エマルジョン)、ビニブラン2706、2685(日信化学(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、モビニール743N、6600、7470、7720、(日本合成化学(株)製、アクリル樹脂エマルジョン)、等を例示することができるが、これらに限定されるものではない。
【0029】
樹脂エマルジョンの平均粒子径は、インク組成物に含まれる色材が皮革基材に浸透することを防止してより鮮明な像を形成する観点から、30nm以上が好ましく、50nm以上がより好ましい。樹脂エマルジョンの平均粒子径は、インク組成物中の分散性の観点から、300nm以下が好ましく、250nm以下がより好ましい。なお、本実施形態において、樹脂エマルジョンの数平均粒子径は、測定温度25℃にて濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、型式:FPAR−1000)を用いて測定することができる。
【0030】
樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、インク組成物の安定性と、膜の耐水性の観点から、10000以上が好ましく、100000以上がより好ましい。樹脂エマルジョンの質量平均分子量は、インク組成物の安定性と、膜耐水性の観点から、1000000以下が好ましく、500000以下がより好ましい。なお、本実施形態において樹脂の分子量は、質量平均分子量Mwを示すものであり、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により測定された値であり、東ソー(株)製の「HLC−8120GPC」にて、校正曲線用ポリスチレンスタンダードを標準にして測定することができる。
【0031】
樹脂エマルジョンのガラス転移点(Tg)は、皮革基材に吐出した場合でも、耐水性、耐溶剤性及び耐擦過性を有する印刷物を形成可能であることから、又、印刷物を形成するために高い温度をかけることを回避でき、多くのエネルギーを不要とすることや、皮革基材が熱による損傷を受けにくいものとすることができることから、0℃以上100℃以下が好ましく、10℃以上90℃以下がより好ましく、20℃以上80℃以下がより好ましい。なお、ガラス転移温度(Tg)は、例えば島津製作所(株)製の示差走査熱量計「DSC−50」にて測定することができる。
【0032】
樹脂エマルジョンは、カチオン性、ノニオン性、アニオン性いずれかに限定されるものではないが、樹脂エマルジョンの酸価は、印刷物の耐水性、インク組成物の保存安定性等の観点から、50mgKOH/g以下であることが好ましく、25mgKOH/g以下であることがより好ましく、15mgKOH/g以下であることがより好ましい。又、樹脂エマルジョンのアミン価は50mgKOH/g以下であることが好ましく、25mgKOH/g以下であることが好ましく、15mgKOH/g以下であることがより好ましい。
【0033】
本実施形態のインク組成物において、インク組成物100質量%中に含まれる樹脂(樹脂エマルジョン)の含有量(質量%)は、所望の耐水性及び耐溶剤性を有する印刷物を形成可能であれば特に限定されるものではないが、例えば、インク組成物中に0.05質量%以上であることが好ましく、中でも、0.1質量%以上の範囲内であることが好ましく、更に0.5質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましい。例えば、インク組成物中に20質量%以下であることが好ましく、15質量%以下であることがより好ましい。
【0034】
[溶剤]
本実施形態のインク組成物は、水を主成分とするインク組成物である。本実施形態のインク組成物において、含有される水としては、種々のイオンを含有するものではなく、脱イオン水を使用することが好ましい。水の含有量としては、各成分を分散又は溶解可能な含有量であれば特に限定されるものではないが、インク組成物全量中に10質量%以上であることが好ましく、中でもインク組成物全量中に20質量%以上であることが好ましく、特にインク組成物全量中に30質量%以上であることが好ましい。インク組成物全量中に95質量%以下であることが好ましく、特にインク組成物全量中に90質量%以下であることが好ましい。
【0035】
本実施形態のインク組成物には、設計上の性能を損なわない範囲でその他の溶剤を含有することができる。その他の溶剤としては水と相溶する水溶性有機溶剤を挙げることができる。水溶性有機溶剤を含むことにより、皮革基材に対するアタック性を付与し、これにより、インク組成物が皮革基材の表面を侵食して、インク組成物に含まれる色材をより効果的に定着させることができる。
【0036】
なお、水溶性有機溶剤は、25℃の水100質量部中に、1気圧下で50質量部以上溶解することが好ましい。水溶性有機溶剤は、25℃の水100質量部中に、1気圧下で70質量部以上溶解する有機溶剤であることがより好ましく、25℃の水100質量部中に、1気圧下で90質量部以上溶解する有機溶剤であることが更に好ましい。
【0037】
このような水溶性有機溶剤としては、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、sec−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、イソブチルアルコール、n−ペンタノール等の炭素数1〜5のアルキルアルコール類;3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−メトキシ−1−プロパノール、1−メトキシ−2−プロパノール、3−メトキシ−n−ブタノール等の1価のアルコール類;1−ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、3−メトキシプロパンアミド、3−ブトキシプロパンアミド、N,N−ジメチル−3−メトキシプロパンアミド、N,N−ジブチル−3−メトキシプロパンアミド、N,N−ジブチル−3−ブトキシプロパンアミド、N,N−ジメチル−3−ブトキシプロパンアミド等のアミド類;アセトン、ジアセトンアルコール等のケトン又はケトアルコール類;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類;ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のオキシエチレン又はオキシプロピレン共重合体;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、イソブチレングリコール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,2−ヘキサンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール等のジオール類;グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、1,2,6−ヘキサントリオール等のトリオール類:メソエリスリトール、ペンタエリスリトール等の4価アルコール類;エチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、2−エチルヘキシル)エーテル、ジエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル、n−ヘキシル、2−エチルヘキシル)エーテル、トリエチレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル)エーテル、プロピレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル、イソブチル)エーテル、ジプロピレングリコールモノメチル(又はエチル、イソプロピル、n−ブチル,イソブチル)エーテル等のモノアルキルエーテル類;ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等の多価アルコールのジアルキルエーテル類;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N−メチルエタノールアミン、N−エチルエタノールアミン、N−ブチルエタノールアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−ブチルジエタノールアミン等のアルカノールアミン類;N−メチル−2−ピロリドン、2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン等の含窒素複素環化合物;γ−ブチロラクトン、スルホラン等の環状化合物等が挙げられる。
【0038】
沸点が280℃以上の水溶性有機溶剤としては、例えば、トリエチレングリコール(沸点:285℃)、テトラエチレングリコール(沸点:314℃)、グリセリン(沸点:290℃)、1,2,6−ヘキサントリオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等を挙げることができる。
【0039】
沸点が250℃以上280℃未満の水溶性有機溶剤としては、トリプロピレングリコール(沸点:268℃)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点:274℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:271℃)、ジエチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(沸点:272℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点:250℃)、3−メチル−1,5−ペンタンジオール(沸点:250℃)、等を挙げることができる。
【0040】
沸点が200℃以上250℃未満の水溶性有機溶剤としては、ジプロピレングリコール(沸点:232℃)、ジエチレングリコール(沸点:244℃)、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル(沸点:242℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点:231℃)、トリエチレングリコールモノメチルエーテル(沸点:249℃)、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル(沸点:207℃)、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル(沸点:229℃)、エチレングリコールモノヘキシルエーテル(沸点:208℃)、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点:212℃)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点:229℃)、ジプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点:209℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(沸点:247℃)、1,3−プロパンジオール(沸点:214℃)、1,3−ブタンジオール(沸点:208℃)、1,4−ブタンジオール(沸点:230℃)、1,2−ペンタンジオール(沸点:210℃)、1,2−ヘキサンジオール(沸点:223℃)、1,5−ペンタンジオール(沸点:242℃)、1,6−ヘキサンジオール(沸点:250℃)、2,2,4−トリメチル−1,3−ペンタンジオール(沸点:232℃)、3−メチル−1,3−ブタンジオール(沸点:203℃)、2−メチル−1,3−ペンタンジオール(沸点:214℃)、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール(沸点:244℃)、等を挙げることができる。
【0041】
沸点が180℃以上200℃未満の水溶性有機溶剤としては、エチレングリコール(沸点:197℃)、プロピレングリコール(沸点:187℃)、1,2−ブタンジオール(沸点:193℃)、2−メチル−2,4−ペンタンジオール(沸点:198℃)等を挙げることができる。
【0042】
本実施形態のインク組成物に含有される水溶性有機溶剤は、沸点が120℃以上であることが好ましい。皮革基材に塗布されると先に沸点が100℃である水が揮発して水に対して相対的に水溶性有機溶剤の揮発が遅くなり、インク組成物中の水溶性有機溶剤の濃度が一時的に上昇する。これにより、溶剤の蒸発中に皮革基材に対するアタック性をより効果的に付与することができる。又、インク組成物に含まれる溶剤の揮発速度を低下させることで、形成されるインク膜がレベリングされるようになる。又、インクジェット吐出する場合には、沸点が120℃以上である水溶性有機溶剤を含むことによって、連続吐出性や放置後吐出性が良好なインク組成物とすることができる。
【0043】
水溶性有機溶剤の沸点が高すぎる場合には、乾燥に多くのエネルギーが必要となり、又、乾燥に要する時間が長く必要になるという観点から、本実施形態のインク組成物に含有される水溶性有機溶剤は、沸点が250℃以下であることが好ましい。沸点が250℃以下であることにより、インク組成物の乾燥性が向上する。
【0044】
このような沸点が120℃以上250℃以下の水溶性有機溶剤は、インク組成物に含有される有機溶剤100質量%中50質量%以上含有することが好ましく、60質量%以上含有することがより好ましく、80質量%以上含有することが更に好ましい。このような、皮革基材に対するアタック性とインク組成物の乾燥性とがより効果的に向上する。
【0045】
[色材]
本実施形態のインク組成物に含有される色材は、特に限定されるものではなく、染料系であってもよいし、顔料系であってもよいが、印刷物の耐水性や耐光性等の耐性が良好であり、皮革基材の表面に鮮明な画像を形成するという観点から顔料系色材を使用することが好ましい。本実施形態のインク組成物において、用いることのできる顔料は特に限定されず、従来のインク組成物に使用されている有機顔料又は無機顔料等が挙げられる。これらは1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0046】
具体的な有機顔料としては、例えば、不溶性アゾ顔料、溶性アゾ顔料、染料からの誘導体、フタロシアニン系有機顔料、キナクリドン系有機顔料、ペリレン系有機顔料、ジオキサジン系有機顔料、ニッケルアゾ系顔料、イソインドリノン系有機顔料、ピランスロン系有機顔料、チオインジゴ系有機顔料、縮合アゾ系有機顔料、ベンズイミダゾロン系有機顔料、キノフタロン系有機顔料、イソインドリン系有機顔料、キナクリドン系固溶体顔料、ペリレン系固溶体顔料等の有機固溶体顔料、その他の顔料として、カーボンブラック等が挙げられる。
【0047】
有機顔料をカラーインデックス(C.I.)ナンバーで例示すると、C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、16、17、20、24、73、74、75、83、93、95、97、98、109、110、114、117、120、125、128、129、130、137、138、139、147、148、150、151、153、154、155、166、168、180、185、213、214、C.I.ピグメントレッド5、7、9、12、48、49、52、53、57、97、112、122、123、149、168、177、180、184、192、202、206、209、215、216、217、220、223、224、226、227、228、238、240、254、C.I.ピグメントオレンジ16、36、43、51、55、59、61、64、71、C.I.ピグメントバイオレット19、23、29、30、37、40、50、C.I.ピグメントブルー15、15:1、15:3、15:4、15:6、16、22、60、64、C.I.ピグメントグリーン7、36、58、C.I.ピグメントブラウン23、25、26、C.I.ピグメントブラック7等が挙げられる。
【0048】
本実施形態のインク組成物において、用いることのできる無機顔料の具体例としては、酸化チタン、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化亜鉛、炭酸バリウム、シリカ、タルク、クレー、合成マイカ、アルミナ、亜鉛華、硫酸鉛、黄色鉛、亜鉛黄、べんがら(赤色酸化鉄(III))、カドミウム赤、群青、紺青、酸化クロム緑、コバルト緑、アンバー、チタンブラック、合成鉄黒、無機固溶体顔料等を挙げることができる
【0049】
本実施形態のインク組成物において、含有することのできる顔料の平均分散粒径は、所望の発色が可能なものであればよく、特に限定されない。用いる顔料の種類によっても異なるが、顔料の分散性及び分散安定性が良好で、色材が皮革基材に浸透することを防止してより鮮明な像を形成する観点から、数平均粒子径が5nm以上の範囲内であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることが更に好ましい。数平均粒子径が上記の上限値以下であれば、インク組成物中の溶剤が揮発してインク組成物の粘度が高くなることを抑制し、インク組成物の吐出安定性を向上させることができる。数平均粒子径が300nm以下の範囲内であることが好ましく、200nm以下であることがより好ましく、150nm以下であることが更に好ましい。数平均粒子径が上記の下限値以下の場合には耐光性が低下する場合がある。なお、本実施形態において、顔料の数平均粒子径は、測定温度25℃にて濃厚系粒径アナライザー(大塚電子(株)製、型式:FPAR−1000)を用いて測定したものである。
【0050】
本実施形態のインク組成物において、用いることのできる顔料の含有量としては、所望の画像を形成可能であれば特に限定されるものではなく、適宜調整されるものである。具体的には、顔料の種類によっても異なるが、インク組成物全量中0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。インク組成物全量中20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。顔料の含有量が0.05質量%以上、又は20質量%以下の範囲内であることにより、顔料の分散安定性と着色力のバランスに優れたものとすることができる。
【0051】
[顔料分散剤]
本実施形態のインク組成物には顔料分散剤が含有されていてもよい。ここで顔料分散剤とは、顔料表面の一部に付着することでインク内での顔料の分散性を向上させる機能を有する樹脂又は界面活性剤のことを意味する。
【0052】
本実施形態のインク組成物において、用いることのできる顔料分散剤は特に限定されない。例えば、カチオン系、アニオン系、ノニオン系、両性、シリコーン(シリコン)系、フッ素系等の界面活性剤を使用できる。界面活性剤の中でも、次に例示するような高分子界面活性剤(高分子分散剤)が好ましい。
【0053】
本実施形態のインク組成物において用いることのできる顔料分散剤としては、水溶性高分子分散剤を好ましく用いることができる。水溶性高分子分散剤としては、例えば、ポリエステル系、ポリアクリル系、ポリウレタン系、ポリアミン系、ポリカプトラクトン系の主鎖を有し、側鎖に、アミノ基、カルボキシ基、スルホ基、ヒドロキシ基等の極性基を有する分散剤等が挙げられる。例えば、ポリアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体類;スチレン、α−メチルスチレン等の芳香族ビニル化合物とアクリル酸エステル等の不飽和カルボン酸エステルの共重合体類;ポリアクリル酸等の不飽和カルボン酸の(共)重合体の(部分)アミン塩、(部分)アンモニウム塩や(部分)アルキルアミン塩類;水酸基含有ポリアクリル酸エステル等の水酸基含有不飽和カルボン酸エステルの(共)重合体やそれらの変性物;ポリウレタン類;不飽和ポリアミド類;ポリシロキサン類;長鎖ポリアミノアミドリン酸塩類;ポリエチレンイミン誘導体(ポリ(低級アルキレンイミン)と遊離カルボキシル基含有ポリエステルとの反応により得られるアミドやそれらの塩基);ポリアリルアミン誘導体(ポリアリルアミンと、遊離のカルボキシル基を有するポリエステル、ポリアミド又はエステルとアミドの共縮合物(ポリエステルアミド)の3種の化合物の中から選ばれる1種以上の化合物とを反応させて得られる反応生成物)等が挙げられる。中でも、(メタ)アクリル樹脂を含有する水溶性高分子分散剤が、インクの分散安定性と、印刷物の画像鮮明性の観点から好ましい。
【0054】
水溶性高分子分散剤の具体例としては、SARTOMER社製SMA1440、SMA2625、SMA17352、SMA3840、SMA1000、SMA2000、SMA3000、BASFジャパン社製JONCRYL67、JONCRYL678、JONCRYL586、JONCRYL611、JONCRYL680、JONCRYL682、JONCRYL690、JONCRYL819、JONCRYL−JDX5050、EFKA4550、EFKA4560、EFKA4585、EFKA5220、EFKA6230、ルーブリゾール社製SOLSPERSE20000、SOLSPERSE27000、SOLSPERSE41000、SOLSPERSE41090、SOLSPERSE43000、SOLSPERSE44000、SOLSPERSE46000、SOLSPERSE47000、SOLSPERSE54000、ビックケミー社製BYKJET−9150、BYKJET−9151、BYKJET−9170、DISPERBYK−168、DISPERBYK−190、DISPERBYK−198、DISPERBYK−2010、DISPERBYK−2012、DISPERBYK−2015、等が挙げられる。
【0055】
本実施形態のインク組成物において、用いることのできる顔料は、顔料を顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体、であっても、顔料の表面に直接に親水性基を修飾した自己分散型顔料とした顔料分散体であってもよい。本実施形態において、インク組成物に用いることのできる顔料は、複数の先述した有機顔料や無機顔料を併用してもよく、先述した顔料分散剤によって水溶性溶媒中に分散させた顔料分散体と後述する自己分散型顔料を併用したものであってもよい。
【0056】
[自己分散型顔料]
本実施形態のインク組成物において、用いることのできる自己分散型顔料としては、例えば、親水性基として、特開2012−51357号公報等に記載のカルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、スルホン酸基、及びリン含有基等で修飾されたものを挙げることができる。又、市販品としては、例えば、キャボット製の「CAB−O−JET 200、CAB−O−JET 250C、CAB−O−JET 260M、CAB−O−JET 270Y、CAB−O−JET 740Y、CAB−O−JET 300、CAB−O−JET 400、CAB−O−JET 450C、CAB−O−JET 465M、CAB−O−JET 470Y、CAB−O−JET 480V、CAB−O−JET 352K、CAB−O−JET 554B、CAB−O−JET 1027R」、オリエント化学工業(株)製の「Microjet blalack 162、Aqua−Black 001、BONJET BLACK CW−1、BONJET BLACK CW−2、BONJET BLACK CW−3」、東海カーボン(株)製の「Aqua−Black 162、Aqua−Black 001」、東洋インキ製造株式会社製のLIOJET WD BLACK 002C、山陽色素(株)製「SF Color」、冨士色素(株)製「Fuji SP Color」、クラリアント社製「Hostajet」等が挙げられる。
【0057】
[界面活性剤]
本実施形態のインク組成物において、その他の添加剤として界面活性剤が含有されていてもよい。本実施形態のインク組成物において用いることのできる界面活性剤は、特に限定されるものではないが、例えば、ポリシロキサン化合物、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤、アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤等を挙げることができる。
【0058】
本実施形態のインク組成物においては、中でも、アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤、及びポリシロキサン化合物のいずれかを、表面張力調整剤として含むことが、インクの記録媒体に対する濡れ広がり性をより優れたものとすることができるため、好ましい。
【0059】
アルキレンオキサイド非変性アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、2,5−ジメチル−3−ヘキシン−2,5−ジオール、3,6−ジメチル−4−オクチン−3,6−ジオール、2,4,7,9−テトラメチル−5−デシン−4,7−ジオール、3,5−ジメチル−1−ヘキシン−3−オール、3−メチル−1−ブチン−3−オール、3−メチル−1−ペンチン−3−オール、3−ヘキシン−2,5−ジオール、2−ブチン−1,4−ジオール等が挙げられる。又、市販品としては、サーフィノール61、82、104(いずれも、エアープロダクツ社製)等を用いることができる。
【0060】
アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤としては、具体的には、サーフィノール420、440、465、485、TG、2502、ダイノール604、607(いずれも、エアープロダクツ社製)、サーフィノールSE、MD−20、オルフィンE1004、E1010、PD−004、EXP4300、PD−501、PD−502、SPC(いずれも、日信化学工業(株)製)、アセチレノールEH、E40、E60、E81、E100、E200(いずれも、川研ファインケミカル(株)製)等が挙げられる。
【0061】
ポリシロキサン化合物は、市販品としては、例えば、FZ−2122、FZ−2110、FZ−7006、FZ−2166、FZ−2164、FZ−7001、FZ−2120、SH 8400、FZ−7002、FZ−2104、8029 ADDITIVE、8032 ADDITIVE、57 ADDITIVE、67 ADDITIVE、8616 ADDITIVE(いずれも、東レ・ダウコーニング社製)、KF−6012、KF−6015、KF−6004、KF−6013、KF−6011、KF−6043、KP−104、110、112、323、341、(いずれも、信越化学(株)製)、BYK−300/302、BYK−301、BYK−306、BYK−307、BYK−320、BYK−325、BYK−330、BYK−331、BYK−333、BYK−337、BYK−341、BYK−342、BYK−344、BYK−345/346、BYK−347、BYK−348、BYK−349、BYK−375、BYK−377、BYK−378、BYK−UV3500、BYK−UV3510、BYK−310、BYK−315、BYK−370、BYK−UV3570、BYK−322、BYK−323、BYK−3455、BYK−Silclean3700(いずれも、ビックケミー社製)、シルフェイスSAG503A、シルフェイスSJM−002、シルフェイスSJM−003(いずれも、日信化学工業(株)製)、TEGO Twin 4000、TEGO Twin 4100、TEGO Wet 240、TEGO Wet 250、TEGO Wet 240、(いずれも、エボニック社製)等を挙げることができる。
【0062】
又、アニオン系界面活性剤、非イオン性界面活性剤、フッ素系界面活性剤、アルキレンオキサイド変性アセチレングリコール系界面活性剤についての具体例としては、エマール、ラテムル、ネオペレックス、デモール(いずれも、アニオン系界面活性剤;花王株式会社製)、サンノール、リポラン、ライポン、リパール(いずれも、アニオン系界面活性剤;ライオン株式会社製)、ノイゲン、エパン、ソルゲン(いずれも非イオン性界面活性剤;第一工業製薬株式会社製)エマルゲン、アミート、エマゾール(いずれも非イオン性界面活性剤;花王株式会社製)、ナロアクティー、エマルミン、サンノニック(いずれも非イオン性界面活性剤;三洋化成工業株式会社製)、メガファック(フッ素系界面活性剤;DIC株式会社製)、サーフロン(フッ素系界面活性剤;AGCセイミケミカル社製)、日本サイテック・インダストリーズ(株)製 AEROSOL TR−70、TR−70HG、OT−75、OT−N、MA−80、IB−45、EF−800、A−102、花王(株)製 ペレックスOT−P、ペレックスCS、ペレックスTR、ペレックスTA、日本乳化剤(株)製 ニューコール290−A、ニューコール290−KS、ニューコール291−M、ニューコール291−PG、ニューコール291−GL、ニューコール292−PG、ニューコール293、ニューコール297(いずれも、アニオン系界面活性剤)、花王株式会社製エマルゲン320P、エマルゲン350、エマルゲン430、エマルゲン130K、エマルゲン150第一工業製薬株式会社製ノイゲンTDS−120、ノイゲンTDS−200D、ノイゲンTDS−500F、青木油脂工業株式会社製ブラウノンSR−715、ブラウノンSR−720、ブラウノンSR−730、ブラウノンSR−750、ブラウノンEN−1520A、ブラウノンEN−1530、ブラウノンEN−1540、日本乳化剤株式会社製ニューコール2310、ニューコール2320、ニューコール2327、ニューコール1545、ニューコール1820、日光ケミカルズ株式会社製NIKKOL BPS20、NIKKOL BPS30(いずれも、非イオン性界面活性剤)等が挙げられる。これらの界面活性剤の含有量は、溶剤、樹脂、顔料や他の界面活性剤の含有量に応じて適宜調整される。又、これらの界面活性剤は、単独で用いても2種以上を併用してもよい。界面活性剤の含有量は、インク混和性や洗浄性、流路内壁への濡れ性、吐出性に合わせて適宜調整され、インク組成物全量中、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上含有される。インク組成物全量中、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは3.0質量%以下含有される。尚、これらの界面活性剤は、インク組成物において好適に用いることができる。
【0063】
<皮革基材>
皮革基材とは、天然皮革又は合成皮革などの基材である。天然皮革としては、牛、馬、豚、山羊、羊、鹿、カンガルーなどの哺乳類動物の皮革、ダチョウなどの鳥類動物の皮革、亀、トカゲ、蛇、鰐などの爬虫類動物の皮革、サメ、エイなどの魚類動物の皮革等の従来公知の皮革を挙げることができる。又、これらの皮革の腐敗や劣化を防ぐために従来公知の鞣処理を施してもよい。
【0064】
合成皮革(人工皮革)としては、従来公知のナイロン、ポリエステル、レーヨンなどの樹脂繊維によって、ニット、織物、不織布などの基布を作り、これに塩化ビニル、ナイロン、ポリウレタンなどの溶液を塗布又は含浸させ、エンボス加工やもみ加工をして、皮革に似せて仕上げた皮革を挙げることができる。
【0065】
[インク組成物を用いた記録方法]
上記の実施形態のインク組成物を用いた記録方法(以下、単にインク組成物を用いた記録方法と表記することがある。)は、特に限定されるものではない。例えば、スプレー方式、コーター方式、インクジェット方式、グラビア方式、フレキソ方式等を挙げることができる。中でもインクジェット方式により皮革基材の表面に吐出又は塗布されることが好ましい。インクジェット方式であれば、皮革基材の任意の場所へ塗布することも、皮革基材の表面全面に塗布することも容易である。
【0066】
インクジェット方式にて皮革基材の表面に吐出するインクジェット記録方法は、好ましくは、インクジェットヘッドのクリーニングシステムを備えたインクジェット記録装置を用いて皮革基材に記録を行う、インクジェット記録方法である。本実施形態のインク組成物を用いることにより、インクジェットヘッド及びインクジェット記録装置の部材適性が良好でメンテナンス性に優れたインクジェット記録方法を実現することができる。又、本実施形態のインク組成物は、吐出安定性、印刷物の乾燥性、耐ブロッキング性、屈曲性が良好であるため、インクジェット記録方法を用いた印刷物の生産性を良好にすることができる。
【0067】
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、従来公知のインクジェットヘッドのクリーニングシステムを備えたインクジェット記録装置のいずれにも適用可能である。中でもインクジェットヘッドのノズル内に残留あるいは目詰まり等しているインク組成物を吸引する構成を少なくとも有するクリーニングシステムを備えたインクジェット記録装置に好ましく適用することができる。又、送液ポンプ接続等にエラストマー製等可撓性送液チューブが用いられているクリーニングシステムを備えたインクジェット記録装置に好ましく用いられる。
【0068】
[インク組成物に用いた印刷物の製造方法]
上記インクジェット記録方法を用いて印刷物を製造することもできる。この印刷物の製造方法は、本実施形態の油性インクジェット記録用インク組成物を用いることにより、より耐擦性や屈曲性を有するインク膜を形成し、皮革基材により鮮明な像を形成することができる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの記載に何ら制限を受けるものではない。
【0070】
色材(顔料分散体)、樹脂、溶剤、水(イオン交換水)を用いて下記のように実施例、比較例のインク組成物を作製した。顔料分散体、樹脂、の作製方法を下記に示す。
【0071】
1.顔料分散体の作製
下記方法により、顔料分散剤を作製した。
【0072】
100℃に保たれたトルエン200g中にメタクリル酸メチル63g、アクリル酸ブチル27g、メタクリル酸ブチル30g、アクリル酸15g、メタクリル酸15g、とtert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート3.6gとの混合物を1.5時間かけて滴下した。滴下終了後、100℃で2時間反応させた後冷却して、樹脂溶液を得た。樹脂溶液から樹脂をヘキサンにて精製して、分子量20000、酸価143mgKOH/gの顔料分散樹脂を得た。
【0073】
水(イオン交換水)80gに、上記で得られた顔料分散樹脂2.5gと、N,N−ジメチルアミノエタノール0.6gを溶解させ、C.I.ピグメントレッド122を15gと消泡剤(エアープロダクツ社製「サーフィノール104PG」)を0.05g加え、ジルコニアビーズを用いてペイントシェーカーにて分散し、顔料分散体を得た。
【0074】
2.(1)樹脂エマルジョンAの作製
機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD−104)0.75g、過硫酸カリウム0.04g、メタクリル酸1.5gと水(イオン交換水)150gを仕込み、25℃にて攪拌し混合した。これに、メタクリル酸メチル115.5g、アクリル酸2−エチルヘキシル18g、アクリル酸ブチル15gの混合物を滴下してプレエマルジョンを調製した。又、機械式攪拌機、温度計、窒素ガス導入管、還流管及び滴下ロートを備えたフラスコ内を十分に窒素ガスで置換した後、反応性界面活性剤(花王(株)製、商品名:ラテムルPD−104)3g、過硫酸カリウム0.01gと水(イオン交換水)200gを70℃にて攪拌し混合した。その後、調製した前記プレエマルジョンを3時間かけてフラスコ内に滴下した。70℃で更に3時間加熱熟成した後冷却し、N,N−ジメチルエタノールアミンでpHを8となるよう調整し、#150メッシュ(日本織物製)にて濾過し、固形分30質量%、500gの樹脂エマルジョンA(ガラス転移温度64℃、酸価7mgKOH/g、平均粒子径90nm)を得た。
【0075】
(2)樹脂エマルジョンBの作製
樹脂エマルジョンAと同様な合成方法で、モノマー組成を調節して、合成を行った。メタクリル酸0.5g、メタクリル酸メチル112g、アクリル酸2−エチルヘキシル22.5g、アクリル酸ブチル15gを使用して、樹脂エマルジョンB(ガラス転移温度36℃、酸価2mgKOH/g、平均粒子径100nm)を得た。
【0076】
(3)水溶性樹脂の作製
顔料分散剤1と同様にして、アクリル酸ブチル57g、アクリル酸20g、メタクリル酸20gを反応させて樹脂を得た後、水(イオン交換水)80gに、この樹脂を10gと、N,N−ジメチルアミノエタノール1.5gを溶解させ、水溶性樹脂を得た。
【0077】
3.インク組成物の作製
表1の組成比(質量部)になるようにインク組成物を作製した。なお、表中の添加剤AとしてBYK3455(ビックケミー社製、ポリエーテル変性ポリシロキサン系)を用いた。
【0078】
【表1】
【0079】
[比較例3]
SR489(トリデシルアクリレート;サートマー社)15.0質量%、SR506(イソボルニルアクリレート;サートマー社)40.0質量%、DPHA(ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート;サートマー社)30.0質量%、CN981(脂肪族ウレタンアクリレートオリゴマー;サートマー社)7.0質量%、イルガキュア184(開始剤;BASF社)量%、C.I.ピグメントレッド122 3.0質量%、フローレンDOPA−33(分散剤;共栄社化学(株))1.0質量%を用いて、比較例3のインク組成物(いわゆる紫外線硬化型のインク組成物)を得た。
【0080】
<評価>
上記の実施例及び比較例のインク組成物を皮革基材(帝人コードレ社製 コードレ及びクラレ社製 クラリーノ)の表面にインクジェットにて印刷を行い、インク組成物を乾燥させて、インク膜が形成された印刷物を作製し、各評価を行った。
【0081】
[密着性試験]
印刷物におけるインク膜の表面にニチバン製粘着テープを張り付けて剥がすことにより、インク膜の剥離を確認した。
【0082】
(評価基準)
○ :インク膜が基材から剥がれなかった。
× :インク膜が基材からほぼ全体的に剥がれた。
【0083】
[屈曲性試験]
印刷物についてJIS K6545に従い屈曲性試験を行い、インク膜の亀裂の発生の有無を確認した。
【0084】
(評価基準)
○ :インク膜に目視で確認できる亀裂が生じていなかった。
× :インク膜の一部分が切断された、又はインク膜に生じた亀裂が多くて使用に耐えないものであった。
【0085】
[臭気試験]
印刷した直後の印刷物について、被験者5人に臭いを嗅いでもらい、下記基準によって官能評価した。過半数の評価が○の場合は○とし、過半数の評価が×の場合は×とした(表中、「臭気」と表記)。
【0086】
(評価基準)
○ :不快な臭気がしない。
× :不快な臭気がある。
【0087】
[滲み試験]
印刷物のインク膜の滲みを目視で確認した。
【0088】
(評価基準)
○ :滲みがない。
× :明らかに滲みがある。
【0089】
[耐水性試験]
印刷物のインク膜を水(イオン交換水)で拭き、目視で印刷後のインク膜の耐水性を確認した。
【0090】
(評価基準)
○ :印刷物に変化は見られなかった。
× :印刷物の色が明らかに薄くなっていた。
【0091】
[耐擦過性試験]
印刷物を試験用布片にて荷重200g、50往復で擦り、目視で耐擦過性を評価した。
【0092】
(評価基準)
○ :インク膜が剥がれなかった。
× :インク膜が剥がれて皮革基材が露出した。
【0093】
【表2】
【0094】
表2より、実施例のインク組成物は、皮革基材に対して密着性を有し、更に滲みもなく、耐水性が優れていることが確認された。印刷物の屈曲性を有しており、屈曲性を有するインク膜を形成することができることが分かる。
【0095】
一方、樹脂を含有していない比較例1のインク組成物や、樹脂として水溶性樹脂を含有する比較例2のインク組成物は、皮革基材に対して密着性が低く、滲み、耐水性、耐擦性が劣っており、本発明の目的を達成することができていないことが分かる。
【0096】
更に、いわゆる紫外線硬化型のインク組成物である比較例3のインク組成物は、皮革基材に対して密着性を有し、更に滲みもなく、耐水性、耐擦性が優れているものの、屈曲性が劣り、更に不快な臭気があり、本発明の目的を達成することができていないことが分かる。
【要約】
【課題】皮革基材に用いられるインク組成物であって、より耐擦性や屈曲性を有するインク膜を形成し、皮革基材により鮮明な像を形成することのできるインク組成物を提供する。
【解決手段】少なくとも、樹脂と、溶剤と、色材と、を含有し、前記溶剤は、有機溶剤と、水と、を含有し、前記樹脂の少なくとも一部を樹脂エマルジョンとして含有する、皮革基材に用いられるインク組成物である。有機溶剤は、沸点120℃以上250℃以下の水溶性有機溶剤を前記有機溶剤100質量%中50質量%以上含有することが好ましい。
【選択図】なし